特許第6572812号(P6572812)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6572812
(24)【登録日】2019年8月23日
(45)【発行日】2019年9月11日
(54)【発明の名称】音響透過性部材
(51)【国際特許分類】
   B32B 7/02 20190101AFI20190902BHJP
   G01S 7/521 20060101ALI20190902BHJP
   B63B 49/00 20060101ALN20190902BHJP
【FI】
   B32B7/02
   G01S7/521 Z
   !B63B49/00 B
【請求項の数】9
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-57857(P2016-57857)
(22)【出願日】2016年3月23日
(65)【公開番号】特開2017-170713(P2017-170713A)
(43)【公開日】2017年9月28日
【審査請求日】2018年7月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089875
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 茂
(72)【発明者】
【氏名】田所 眞人
(72)【発明者】
【氏名】田中 友輔
【審査官】 松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第4997705(US,A)
【文献】 特開2015−98086(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0369907(US,A1)
【文献】 米国特許第6831876(US,B1)
【文献】 特開平4−50683(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 7/00−7/02
G01S 7/52
G01S 7/521
B63B 49/00
H04R 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の音響周波数帯を透過周波数帯とする面状の音響透過性部材であって、
2層のスキン層の間にコア層が積層されており、
前記スキン層は前記コア層よりも弾性率が高い素材で形成され、
前記スキン層の厚さdsは、前記透過周波数帯の中心周波数f、前記音響透過性部材を外囲する媒質内の音速cw、前記媒質内における前記中心周波数に対応する波長λ、前記スキン層内の縦波音速cdsおよび任意の自然数nに対して、下記式(1)を満たす、
ことを特徴とする音響透過性部材。
【数1】
【請求項2】
前記スキン層は、前記弾性率が100MPa以上350GPa以下の素材で形成されている、
ことを特徴とする請求項1記載の音響透過性部材。
【請求項3】
前記スキン層は、繊維強化プラスチック、プラスチック、金属のいずれかを含んで形成されている、
ことを特徴とする請求項1または2記載の音響透過性部材。
【請求項4】
前記コア層は、粘弾性体またはプラスチックで形成されている、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の音響透過性部材。
【請求項5】
前記コア層は、前記粘弾性体または前記プラスチック内にガラスマイクロバルーンが注入され、密度および弾性率が所定の値に形成されている、
ことを特徴とする請求項4記載の音響透過性部材。
【請求項6】
前記コア層を形成する素材の音響インピーダンスは、前記媒質の音響インピーダンスの±50%の範囲内である、
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項記載の音響透過性部材。
【請求項7】
前記媒質は液体であり、
前記コア層を形成する素材は、その音響インピーダンスが前記液体の音響インピーダンスの±50%の範囲内の液体である、
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項記載の音響透過性部材。
【請求項8】
前記コア層の厚さdcは、前記波長λに対して、0.0675≦dc/λ≦5.4を満たす、
ことを特徴とする請求項1から7のいずれか1項記載の音響透過性部材。
【請求項9】
前記スキン層の表面に保護層が設けられている、
ことを特徴とする請求項1から8のいずれか1項記載の音響透過性部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響透過性を有する音響透過性部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、船舶用ソーナー装置等の音響透過領域として、音響透過性を有する音響透過性部材が用いられている。従来の音響透過性部材としては、鋼製が代表的であるが、これを改良した構造として、いわゆるラバードームまたはラバーウィンドウと呼ばれるゴム製の音響透過性部材が知られている。これら従来の音響透過性部材は、基本的に単層構造であり、数kHz以下の低周波領域では良好な音響透過特性を得られるが、20kHz以上の高周波帯には適用が困難である。
【0003】
また、下記特許文献1では、コア層の両面をスキン層で覆ったサンドイッチ構造を用いた音響透過性部材が提案されている。
図15は、特許文献1にかかる音響透過性部材の構造を示す説明図である。図15に示す音響透過性部材130は、コア層1302に厚さ5mmの天然ゴム、スキン層1304に厚さ2mmのCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)を用いている。
この構造によれば、従来の音響透過性部材において音響透過性を得られる低周波領域に加えて、下記式(2)および(3)を満足する周波数fを中心周波数とする所定の周波数帯を透過する音響透過性部材を形成することができる。下記式(2)および(3)において、dcはコア層1302の厚さ、Cはコア層1302における音速、C0は外囲媒質における音速である。
【0004】
【数1】
【0005】
また、下記特許文献2では、2層のスキン層の間に、N+1層のコア層と、N層の中間層とを交互に積層した音響透過性部材が提案されている。
図17は、特許文献2にかかる音響透過性部材の構造を示す説明図である。図17に示す音響透過性部材A,B,Cは、それぞれ上記N=1,2,3の場合を示し、それぞれのコア層は天然ゴム、スキン層および中間層はCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)を用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許4997705号公報
【特許文献2】特開2015−098086号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図15に示す特許文献1にかかる音響透過性部材130のコア層には、ゴムやウレタンなどの粘弾性体が用いられる。このような粘弾性体は温度特性を有しており、温度の変化によって粘弾性体中の音速(上記式(2)におけるC)も変化する。また、外囲媒質の音速(上記式(2)におけるC0)も温度によって変化する。このため、温度によって上記式(3)に示す周波数fにずれが生じ、システム性能に大きな影響を与えることになる。
【0008】
図16は、図15に示す音響透過性部材の透過特性を示すグラフである。
図16において、縦軸は透過損失ILであり、横軸は周波数を示す。グラフ中、符号1402は図15に示す音響透過性部材の水温20℃の水中における音響透過特性を実測した実測値である。また、符号1404は符号1402に示す実測値から水温20℃の水中における音響透過特性をモデル化した計算値、符号1406は符号1404に示す計算値に基づいて水温16℃の水中における音響透過特性を計算した計算値である。
【0009】
20℃から16℃への4℃の温度変化で、音速は15%変動することが予測され、この結果、符号1404および符号1406に示すように、高周波領域の窓領域が15%ずれることが予測される。たとえば、図16中の矢印で示す周波数150kHzでの透過損失は、水温20℃では0.6dB(1dB以下)であったのに対して、水温16℃では3.5dBに増大している。このような性能の変化は、システム性能に大きな影響を与えることとなる。
このように、上記特許文献1の技術によれば、音響透過性部材における透過帯域幅の拡大は可能であるものの、高周波帯域において実用的に十分な(上記温度変化による特性変化に対応できる)帯域幅が得られないという課題がある。
【0010】
図18は、図17に示す音響透過性部材(特許文献2)の透過特性を示すグラフである。
図18において、縦軸は透過損失ILであり、横軸は周波数を示す。
図18に示すように、特許文献2にかかる音響透過性部材A,B,Cは、単純なサンドイッチ構造(Aサンドイッチ構造)C1等と比較して高周波帯域まで優れた音響透過特性を有する。
しかしながら、特許文献2にかかる音響透過性部材A,B,Cは、薄膜構造であるため、必要な強度剛性を確保することが容易ではないという課題がある。多層化により強度剛性を増すことも考えられるが、製造の難度が上昇するとともに、コストも高くなってしまう。
また、使用する周波数帯まで一様に良好な音響透過特性を示すため、使用する周波数帯よりも低い周波数帯で外来雑音を透過してしまう。そのため、システムとしてのノイズ耐性は劣化するという課題がある。
【0011】
本発明は、上述した従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、高周波領域に適切な広さの音響透過帯域を得るとともに、一定の強度を確保した音響透過性部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した問題を解決し、目的を達成するため、請求項1の発明にかかる音響透過性部材は、所定の音響周波数帯を透過周波数帯とする面状の音響透過性部材であって、2層のスキン層の間にコア層が積層されており、前記スキン層は前記コア層よりも弾性率が高い素材で形成され、前記スキン層の厚さdsは、前記透過周波数帯の中心周波数f、前記音響透過性部材を外囲する媒質内の音速cw、前記媒質内における前記中心周波数に対応する波長λ、前記スキン層内の縦波音速cdsおよび任意の自然数nに対して、下記式(1)を満たす、ことを特徴とする。
【0013】
【数2】
【0014】
請求項2の発明にかかる音響透過性部材は、前記スキン層は、前記弾性率が100MPa以上350GPa以下の素材で形成されている、ことを特徴とする。
請求項3の発明にかかる音響透過性部材は、前記スキン層は、繊維強化プラスチック、プラスチック、金属のいずれかを含んで形成されている、ことを特徴とする。
請求項4の発明にかかる音響透過性部材は、前記コア層は、粘弾性体またはプラスチックで形成されている、ことを特徴とする。
請求項5の発明にかかる音響透過性部材は、前記コア層は、前記粘弾性体または前記プラスチック内にガラスマイクロバルーンが注入され、密度および弾性率が所定の値に形成されている、ことを特徴とする。
請求項6の発明にかかる音響透過性部材は、前記コア層を形成する素材の音響インピーダンスは、前記媒質の音響インピーダンスの±50%の範囲内である、ことを特徴とする。
請求項7の発明にかかる音響透過性部材は、前記媒質は液体であり、前記コア層を形成する素材は、その音響インピーダンスが前記液体の音響インピーダンスの±50%の範囲内の液体である、ことを特徴とする。
請求項8の発明にかかる音響透過性部材は、前記コア層の厚さdcは、前記波長λに対して、0.0675≦dc/λ≦5.4を満たす、ことを特徴とする。
請求項9の発明にかかる音響透過性部材は、前記スキン層の表面に保護層が設けられている、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明によれば、スキン層を半波長構造とすることによりコア層の厚さに関わらず中心周波数における透過特性が良好な音響透過性部材を作成することができ、音響透過性部材の設計の自由度を向上させる上で有利となる。また、中心周波数に一定の広さの透過帯域を確保できるので、温度変化による外囲媒体中の温度変化に対応する上で有利となる。また、中心周波数から離れた領域では音波を遮蔽する性能を有するので、音響透過性部材のノイズ耐性を向上させる上で有利となる。
請求項2の発明によれば、スキン層を様々な素材で形成することができる。
請求項3の発明によれば、音響透過性部材の強度を確保しつつ、優れた音響透過特性を得ることができる。
請求項4の発明によれば、音響透過性部材の強度を確保しつつ、優れた音響透過特性を得ることができる。
請求項5の発明によれば、コア層を任意の密度および弾性率で形成することができる。
請求項6の発明によれば、境界面での反射を低減し、音響透過特性を向上させることができる。
請求項7の発明によれば、音響透過性部材を外囲する流体と同種の流体をコア層として用いることができ、外囲流体とコア層の音響インピーダンスを近づける上で有利となる。
請求項8の発明によれば、より確実に中心周波数における良好な透過特性を有する音響透過性部材を作成する上で有利となる。
請求項9の発明によれば、保護層により外囲媒質からの圧力や海洋生物の影響を低減させ、音響透過性部材の強度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施の形態にかかる音響透過性部材10の構成を示す説明図である。
図2】スキン層102A,102Bおよびコア層104を形成する素材の材料定数を示す表である。
図3】CFRP内の縦波音速の周波数特性を示すグラフである。
図4】50kHzの音波に対するCFRP単層板の透過損失特性を示すグラフである。
図5】スキン層厚18mmの音響透過性部材10の透過損失特性を示すグラフである。
図6】500kHzの音波に対するCFRP単層板の透過損失特性を示すグラフである。
図7】スキン層厚3mmの音響透過性部材10の透過損失特性を示すグラフである。
図8】スキン層厚2.5mmの音響透過性部材10の透過損失特性を示すグラフである。
図9】スキン層厚2mmの音響透過性部材10の透過損失特性を示すグラフである。
図10】スキン層厚1.5mmの音響透過性部材10の透過損失特性を示すグラフである。
図11】スキン層厚1mmの音響透過性部材10の透過損失特性を示すグラフである。
図12】スキン層厚2.5mmおよび3.0mmの音響透過性部材10の500kHzにおける透過損失を示す表である。
図13図12から抽出した500kHzで良好な透過特性を有する音響透過性部材10の透過特性を示すグラフである。
図14】音響透過性部材を搭載した船舶用のソーナー装置20の構成を示す説明図である。
図15】従来技術1にかかる音響透過性部材の構造を示す説明図である。
図16図15に示す音響透過性部材の透過特性を示すグラフである。
図17】従来技術2にかかる音響透過性部材の構造を示す説明図である。
図18図17に示す音響透過性部材の透過特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に添付図面を参照して、本発明にかかる音響透過性部材の好適な実施の形態を詳細に説明する。
図14は、音響透過性部材を搭載した船舶用のソーナー装置20の構成を示す説明図である。本発明にかかる音響透過性部材は、たとえばソーナー装置20の音響透過領域αを形成するために用いられる。
ソーナー装置20は、船舶の船体に設けられたソーナー装置支持台(図示なし)の前端に配置され、常時水中に位置している。
ソーナー装置20は、送受波器24と音響窓26とを含んで構成されている。
送受波器24は、音響窓26の内部に支持されたFRP(Fiber Reinforced Plastics)製のフレーム28に搭載され、船舶の前方に向けて配置されている。
【0018】
音響窓26は、送受波器24を保護するものであり、送受波器24を覆うように設けられ、音響窓26の内部には水が充填されている。
音響窓26は、円筒部26Aと、円筒部26Aの先部に前方に凸状の曲面で形成された曲面部26Bとを有している。
送受波器24が搭載されたフレーム28は、円筒部26Aの内部で支持されている。
【0019】
音響窓26は、音響の透過を可能とした音響透過領域αと、音響を遮音する遮音領域βとを有している。
音響透過領域αを構成する音響窓26の曲面部26Bは、本発明にかかる音響透過性部材で構成されている。
また、遮音領域βを構成する音響窓26の円筒部26Aは、音響を遮音する(振動雑音の低減を含む)遮音材で構成されている。このような遮音材として、気泡(ビニル系マイクロバルーン)を混在させたゴムやポリウレタンなどの粘弾性体(気泡分散型遮音材)や、あるいは、小孔が多数貫設された薄肉のゴム板の両面を薄肉のゴム板で挟んだもの(気孔型遮音材)など、従来公知の様々な材料が使用可能である。
本実施の形態では、音響透過領域αは、円筒部26A寄りの端部を除いた曲面部26Bの全域となっており、図14に示す範囲θが、クジラや流木などのような前方の障害物を送受波器24により探索する範囲となっている。
【0020】
つぎに、音響透過領域αを構成する音響透過性部材について説明する。
図1は、実施の形態にかかる音響透過性部材10の構成を示す説明図である。
以下の説明では、説明の便宜上、音響透過性部材10を平面状に図示しているが、音響透過性部材10は、用途に応じて成形可能である。
音響透過性部材10は、音響透過性を有する面状の音響透過性部材である。音響透過性部材10は、所定の音響周波数帯を透過周波数帯としており、透過周波数帯の中心周波数をfとする。
音響透過性部材10は、2層のスキン層102A,102Bの間に、コア層104が積層されている。より詳細には、図1の上部側から順に、スキン層102A、コア層104、スキン層102Bが積層されている。
【0021】
なお、スキン層102A,102Bの表面、すなわち2層のスキン層102A,102Bのコア層104に接合される側と反対側の表面に、さらに保護層が設けられていてもよい。この保護層は、たとえば外部からの荷重からソーナー装置20を保護したり、海洋生物忌避のために設けられる。
また、保護層は、スキン層102A,102Bのいずれか一方の表面にのみ設けられていてもよい。
【0022】
つぎに、各層の素材について説明する。
スキン層102A,102Bは、コア層104よりも弾性率が高い素材で形成されている。
スキン層102A,102Bは、たとえば弾性率が100MPa以上350GPa以下の素材で形成されている。これは、弾性率が100MPa未満の素材では構造体として維持するのが困難となり、弾性率350GPaを超える素材では音響インピーダンスが高くなりすぎるためである。
スキン層102A,102Bは、具体的には、たとえば繊維強化プラスチック(FRP(Fiber Reinforced Plastics)、GFRP(Glass Fiber Reinforced Plastics)、CFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)など)、プラスチック、金属(銅、チタンなど)のいずかを用いて形成することができる。
【0023】
コア層104は、たとえばゴムやポリウレタンなどの粘弾性体またはプラスチックで形成されている。
また、コア層104の上記粘弾性体またはプラスチック内にガラスマイクロバルーンを注入し、密度および弾性率を所望の値(所定の値)に形成するようにしてもよい。
【0024】
また、コア層を形成する素材の音響インピーダンスは、音響透過性部材10を外囲する媒質(本実施の形態では真水または海水)の音響インピーダンスの±50%の範囲内とすることが望ましい。
より詳細には、音響インピーダンスは、物質の密度ρと縦波音速cの積ρcで与えられる。すなわち、コア層104を形成する素材の音響インピーダンスは、コア層104を形成する素材の密度ρ1と、コア層104を形成する素材中の縦波音速c1との積ρ1c1とで与えられる。また、音響透過性部材10を外囲する媒質の音響インピーダンスは、音響透過性部材10を外囲する媒質の密度ρ2と、同媒質中の縦波音速c2の積ρ2c2とで与えられる。
そして、コア層104を形成する素材の音響インピーダンスρ1c1が、音響透過性部材10を外囲する媒質の音響インピーダンスρ2c2の±50%以内の範囲に入るように、コア層104の密度および弾性率を調整することが望ましい。
これは、コア層104を形成する素材の音響インピーダンスρ1c1と、音響透過性部材10を外囲する媒質の音響インピーダンスρ2c2との差が大きいと、境界面での反射が大きくなり、音響透過性が低下するためである。
【0025】
本実施の形態では、音響透過性部材10を外囲する媒質は、真水や海水などの液体である。このため、コア層104を形成する素材を、その音響インピーダンスが外囲流体の音響インピーダンスの±50%の範囲内の液体、特に外囲流体と同種の液体としてもよい。
すなわち、スキン層102A,102B間に、外囲流体である真水や海水などを封入してコア層104としてもよい。なお、外囲流体が海水である場合には、腐食等の可能性を低減させるために真水を使用するのが好ましい。
【0026】
つぎに、各層の厚さについて説明する。
各スキン層102A,102Bの厚さdsは、音響透過性部材10の透過周波数帯の中心周波数f、音響透過性部材10を外囲する媒質内の音速cw、媒質内における中心周波数fに対応する波長λ、スキン層内の縦波音速cdsおよび任意の自然数nに対して、下記式(1)を満たすように形成されている。
【0027】
【数3】
【0028】
上記式(1)を満たすスキン層102A,102Bは、中心周波数に対する半波長構造を取り、音響透過損失が極小となっている。このような厚さを選択することで、コア層104の厚さに関わらず、透過周波数帯に対して良好な透過特性を有する音響透過性部材10を形成することができる。
【0029】
コア層104の厚さdcは、媒質内における中心周波数fに対応する波長λに対して、0.05<dc/λ<5.4を満たすようにすることが好ましい。
これは、後述するように本発明者らがコア層104の厚さdcを変更しながら算出した音響透過特性において、上記の範囲内で良好な音響透過特性を得られることが確認されたためである。
【0030】
(実施例)
以下、本発明を適用した音響透過性部材の特性について具体的に説明する。
以下の実施例では、スキン層102A,102BとしてCFRP(プリプレグC3WPW/F−6986)、コア層104として天然ゴムF−9099を使用した。各材料の材料定数を図2に示す。
また、スキン層102A,102BであるCFRP内の縦波音速を図3に示す。縦軸はCFRP内の縦波音速、横軸は周波数(kHz)である。CFRP内の音速は周波数特性を有することを仮定している。具体的には、例えば50kHzでは1830m/s、500kHzでは2900m/sとなる。
【0031】
まず、50kHzを中心周波数とする音響透過性部材10について検討する。
図4は、50kHzの音波に対するCFRP(スキン層102A,102B)単層板の透過損失(IL)特性を示すグラフである。
図4のグラフにおいて、縦軸は透過損失(dB)であり、横軸はCFRP板の厚さ(mm)である。
図4に示すように、CFRP板には周期的に透過損失が小さくなる厚さがある。この極小値を取る厚さが、上記式(1)から算出されるスキン層厚である。例えば、上記式(1)のn=1の場合はCFRP板厚18mm付近の極小値に、n=2の場合はCFRP板厚36mm付近の極小値に対応する。
【0032】
図5は、スキン層厚を固定してコア層厚さを変更した場合の音響透過性部材10の透過損失(IL)特性を示すグラフである。
図5は、スキン層102A,102Bの厚さをn=1に対応する18mmにし、コア層104の厚さを2mm〜20mmまで2mm刻みで変更して、それぞれの透過損失(IL)特性を算出したものである。
図5のグラフにおいて、縦軸は透過損失(dB)であり、横軸は周波数(kHz)である。すなわち、それぞれの音響透過性部材10は、透過損失が小さい周波数帯の音響を透過させ、透過損失が大きい周波数帯の音響を遮断する性質を有する。
【0033】
図5に示すように、スキン層102A,102Bの厚さを18mmにした音響透過性部材10では、コア層104の厚さに関わらず50kHz付近で良好な透過特性を得られることがわかる。
一方で、各特性カーブは、中心周波数である50kHzより低周波側および高周波側では、それぞれ透過損失が高くなっており、中心周波数から離れた帯域の音波を遮蔽する効果が得られていることもわかる。
【0034】
つぎに、500kHzを中心周波数とする音響透過性部材10について検討する。
図6は、500kHzの音波に対するCFRP(スキン層102A,102B)単層板の透過損失(IL)特性を示すグラフである。
図6のグラフにおいて、縦軸は透過損失(dB)であり、横軸はCFRP板の厚さ(mm)である。
500kHzの場合には、透過損失が極小値を取るCFRP板の厚さは、2.9mm(n=1)、5.8mm(n=2)・・となっている。この値は、上述した式(1)に沿った値である。
【0035】
図7は、スキン層を3mmに固定してコア層厚さを変更した場合の音響透過性部材10の透過損失特性を示すグラフ、また図8は、スキン層を2.5mmに固定してコア層厚さを変更した場合の音響透過性部材10の透過損失特性を示すグラフである。
なお、図7および図8では、コア層104の厚さを0.5mm〜10mmまでおおよそ1mm刻みで変更している。
【0036】
上述したように、500kHzの音波が透過損失の極小値を取るCFRP板の厚さは約2.9mmであるため、図7(3mm)および図8(2.5mm)のいずれも極小値の谷は500kHzからずれているが、CFRP板の厚さが薄くなるほど極小値の谷が高周波よりに移動しており、上記式(1)が正しいことがわかる。特に、図7(3mm)では、500kHzにごく近い箇所が極小値の谷となっている。
CFRP板における縦波音速を500kHzにおける音速2900m/sで近似して上記式(1)を適用すれば、図7のCFRP板厚3mmにおける中心周波数は483kHz、図8のCFRP板厚2.5mmにおける中心周波数は580kHzとなり、グラフにおける極小値の谷とほぼ一致する。
CFRP板厚を2.9mm程度とすれば、狙い通り500kHzを中心周波数とする音響透過性部材が得られると考えられる。
【0037】
なお、例えば音響透過性部材10の要求寸法や材料板の仕様などにより、CFRP板厚を上記式(1)に沿った値と一致できない場合であっても、コア層104の厚さを調整することによって中心周波数で十分な透過性能を得られる場合がある。
例えば、上記図7に示す3mm厚や2.5mm厚のCFRP板を用いて500kHzを中心周波数とする音響透過性部材10を形成することができる。
【0038】
図12は、2.5mm厚および3.0mm厚のCFRP板を用いて形成した音響透過性部材10の500kHzにおける透過損失を示す表(単位はdB)である。
図12から透過損失が2dB以下のものを抽出すると、(スキン層厚/コア層厚)として、(2.5mm/1.0mm)、(3.0mm/0.5mm)、(3.0mm/1.0mm)、(3.0mm/2.0mm)、(3.0mm/3.0mm)、(3.0mm/4.0mm)の6通りとなる。
【0039】
図13は、図12から抽出した500kHzで良好な透過特性を有する音響透過性部材10の透過特性を示すグラフである。
これらの中では、特にスキン層厚3.0mm/コア層厚0.5mmの組み合わせが最良である。この組み合わせでは450kHz〜540kHzで透過損失が2dB以下となっており、透過損失2dB以下の高透過帯域幅は18%となっている。
このように、スキン層厚を上記式(1)で算出した値そのものでなく、周辺の値を用いてもコア層厚を調整することによって十分高い透過性能を有する音響透過性部材10を作成することができる。
【0040】
さらに、図9はスキン層を2mmに、図10はスキン層を1.5mmに、図11はスキン層を1mmに、それぞれ固定してコア層厚さを変更した場合の音響透過性部材10の透過損失特性を示すグラフである。
いずれの図でも、コア層104の厚さを0.5mm〜10mmまでおおよそ1mm刻みで変更している。
図9では800kHz付近に極小値の谷があるが、図10および図11では、極小値の谷(透過窓)を形成する周波数が1000kHz以下となるため、図中に極小値の谷は見られない。
【0041】
(コア層厚さについての検討)
図5ではスキン層厚を18mmに固定し、コア層104の厚さdcを2mm〜20mmの範囲で変更している。また、外囲媒質(本実施の形態では水)内における音速を1481m/sとすると、中心周波数50kHzに対応する波長λは29.6mmとなる。
このため、図5におけるdc/λの範囲は、0.0675(2mmの場合)〜0.675(20mmの場合)となる。
【0042】
また、図9ではスキン層厚を2mmに固定し、コア層104の厚さdcを0.5mm〜10mmの範囲で変更している。また、外囲媒質(本実施の形態では水)内における音速を1481m/sとすると、中心周波数800kHzに対応する波長λは1.85mmとなる。
このため、図10におけるdc/λの範囲は、それぞれ0.27(0.5mmの場合)〜5.4(10mmの場合)となる。
【0043】
このことから、実施の形態にかかる音響透過性部材10において、コア層104の厚さdcは、中心周波数fに対応する波長λに対して、0.0675≦dc/λ≦5.4を満たすようにすれば、中心周波数fにおける良好な透過性能を有する音響透過性部材10を形成できることがわかる。
【0044】
(各層厚の設計方法)
このように、音響透過性部材10はスキン層102A,102Bの厚さを調整することによって任意の周波数を中心周波数とする透過周波数帯を形成することができる。よって、スキン層102A,102Bの厚さは、音響透過性部材10に要求される透過周波数帯に合わせて決定すればよい。
【0045】
また、コア層104の厚さは、例えば以下のように決定すればよい。
<1>音響透過性部材10の要求強度剛性に合わせてコア層104の厚さを決定する。
上述のように、コア層104の厚さは任意の厚さとすることができる。よって、音響透過性部材10の要求強度剛性に合わせてコア層104の厚さを任意に決定することができる。
例えば、要求される強度剛性が相対的に大きい場合には、コア層104を相対的に厚くすることで要求される強度剛性を確保することができる。また、要求される強度剛性が相対的に小さい場合には、コア層104を相対的に薄くすることで軽量化やコストダウンを図ることができる。
【0046】
<2>遮断周波数帯に合わせてコア層104の厚さを決定する。
図5等に示すように、本実施の形態の音響透過性部材10は、一様に中心周波数周辺では透過損失が小さくなるが、中心周波数から離れた周波数帯では、コア層104の厚さによって透過損失性能が異なる。すなわち、透過損失の極大値がコア層104の厚さごとに異なる。
このことから、遮断したい周波数帯の近傍に透過損失の極大値が位置するコア層厚を選択することにより、遮断性能を含めた所望の透過性能を有する音響透過性部材10を形成することができる。
【0047】
以上説明したように、実施の形態に係る音響透過性部材10は、スキン層102A,102Bを半波長構造とすることによりコア層104の厚さに関わらず中心周波数における透過特性が良好な音響透過性部材10を作成することができ、音響透過性部材10の設計の自由度を向上させる上で有利となる。
また、音響透過性部材10は、中心周波数に一定の広さの透過帯域を確保できるので、温度変化による外囲媒体中の温度変化に対応する上で有利となる。
また、音響透過性部材10は、中心周波数から離れた領域では音波を遮蔽する性能を有するので、ノイズ耐性を向上させる上で有利となる。
【符号の説明】
【0048】
10……音響透過性部材、102A,102B……スキン層、104……コア層。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図9
図10
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