(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記2つの無機バリア層が、プラスチック基材上に形成された第1の無機バリア層と、該第1の無機バリア層上に位置する水分トラップ層の上に有機層を介して形成された第2の無機バリア層とである請求項5に記載の水分バリア性積層体。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の水分バリア性積層体の層構造を示す
図1を参照して、全体として10で示すこの積層体は、所定の吸湿特性を有する水分トラップ層1を有しており、この水分トラップ層1が一対の無機バリア層3a,3bによりサンドイッチされた構造を有している。
また、このような無機バリア層3a,3bにおいて、一方の無機バリア層3a(以下、第1の無機バリア層と呼ぶことがある)は、所定のプラスチック基材5上に成膜されており、かかる第1の無機バリア層3a上に水分トラップ層1が形成され、他方の無機バリア層3b(以下、第2の無機バリア層と呼ぶことがある)は、有機層7を介して水分トラップ層1上に成膜されている。
【0019】
<水分トラップ層1>
本発明において、かかる水分トラップ層1は、ポリマーにより形成されたマトリックス中に吸湿剤が分散された構造を有するものであるが、かかる吸湿剤は、高湿条件下で高い吸湿性を示す。具体的には、この吸湿剤は、相対湿度80%での吸湿量Axと相対湿度30%での吸湿量Ayとの比(Ax/Ay)が3以上となる吸湿特性を有しており、このような吸湿剤を含む水分トラップ層1が、一対の無機バリア層3a,3bでサンドイッチされているため、この吸湿剤の優れた吸湿性が最大限に発揮され、この積層体10は、極めて高い水分バリア性を長期間にわたって示すこととなる。
即ち、本発明では、無機バリア層3a,3bにより水分トラップ層1がサンドイッチされているため、水分トラップ層1に吸水された水分(吸湿剤に吸湿された水分)の放出が有効に抑制されており、この結果、水分トラップ層1中の吸湿剤に水分が吸収されるにしたがい、吸湿剤の周囲の湿度は増大する。しかるに、ここで使用されている吸湿剤は、上記の吸湿量比(Ax/Ay)から明らかなように、高湿度条件下での吸湿量が多く、この結果、吸湿水分量が飽和水分量に達するまでの時間が長く、従って、長期間にわたって、優れた吸湿性能が発揮され、優れた水分バリア性が発揮されることとなる。例えば、吸湿量比(Ax/Ay)が、上記範囲よりも小さい吸湿剤を用いた場合には、高湿度条件下での吸湿量が少ないため、短時間で吸湿水分量が飽和に達してしまい、長期間にわたって優れた水分バリア性を発揮することが困難となってしまう。
【0020】
本発明において、上記のような吸湿量比(Ax/Ay)を示す吸湿剤としては、特に有機系ポリマーの吸湿剤を挙げることができる。例えば、ゼオライト等の無機系の吸湿剤では、吸湿性が粒子内に形成された細孔による物理的な水分捕捉によって発生し、吸湿性の湿度依存性が小さく、上記のような吸湿量比(Ax/Ay)を満足させることができない。一方、有機系ポリマーにおいては、水分に対する化学的吸着性が吸湿性の要因となるため、吸湿性の湿度依存性が大きく、本発明では、有機系ポリマーの中から、上記のような吸湿量比(Ax/Ay)を示すことものを選択し、吸湿剤として使用することとなる。
【0021】
本発明では、上記のような吸湿量比(Ax/Ay)を示す吸湿剤(有機系ポリマー)としては、アニオン系ポリマー若しくはその部分中和物の架橋物を挙げることができる。このアニオン系ポリマーとしては、カルボン酸系単量体((メタ)アクリル酸や無水マレイン酸など)、スルホン酸系単量体(ハロゲン化ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸など)、ホスホン酸系単量体(ビニルリン酸など)及びこれら単量体の塩類等に代表されるアニオン性単量体の少なくとも1種を、重合或いは他の単量体と共重合させて得られるものを挙げることができる。
このような有機系ポリマーは、前述した吸湿量比(Ax/Ay)を満足するばかりか、水分トラップ層1を形成するマトリックス(吸湿剤の分散媒)よりも到達湿度が低く、例えば、湿度80%RH及び温度30℃の環境条件での到達湿度が6%以下であり、極めて高い吸湿性能を有する。
【0022】
また、本発明においては、上記のような有機系ポリマーの中でも、ポリ(メタ)アクリル酸の1価金属塩(例えば、Na塩或いはK塩)の架橋物粒子が好適である。即ち、このような架橋物粒子は、架橋構造を有しているため、水分による膨潤をほとんど生じることがなく且つ水分の放出も極めて少ない。このため、水分トラップ層1のマトリックスを透過した水分は、直ちに吸湿剤(架橋粒子)に捕捉され、吸収された水分の水分トラップ層1中への閉じ込めが効果的に行われることとなる。この結果、水分トラップ層1に捕捉された水分の放出が有効に抑制され、より優れた吸湿性を示すばかりか、水分の吸収による水分トラップ層1の膨潤(寸法変化)もより効果的に抑制される。
【0023】
さらに、上記のポリ(メタ)アクリル酸の1価金属塩の架橋粒子は、3官能以上の多官能(メタ)アクリル酸塩を含む(メタ)アクリル系モノマーを懸濁重合、乳化重合等により重合硬化して得られる微細な球状粒子であり、例えば、レーザ回折散乱法で測定した体積換算での平均一次粒子径D
50が100nm以下、特に80nm以下の範囲にある。かかる架橋粒子は、マトリックスを形成するポリマー中に均一に微細分散することができ、水分トラップ層1の透明性も維持する上で有利である。さらに、大きな比表面積を有しており、このため、その吸湿能は極めて高く、前述したような優れた吸湿性を示す。
【0024】
上記のようなポリ(メタ)アクリル酸の1価金属塩の架橋粒子において、金属塩としては、Na塩やK塩が一般的である。例えば架橋ポリアクリル酸Na微粒子(平均粒子径約70nm)がコロイド分散液(pH=10.4)の形で東洋紡株式会社よりタフチックHU−820Eの商品名で市販されている。
【0025】
また他の好適な有機系吸湿剤としては、カルボキシル基の80%以上がカリウム塩で中和されているカリウム塩型カルボキシル基を有する架橋重合体から成る微粒子を挙げることができる。このカリウム塩型の吸湿剤は、高温時においても吸収した水分を放出しないことから、高温時における吸湿性に優れている。
このようなカリウム塩型カルボキシル基を有する架橋重合体は、次の(A)〜(D)の方法により調製することができる。
(A)(メタ)アクリル酸、マレイン酸等のカルボキシル基含有ビニル系単量体のカルボキシル基をカリウム塩型に変え、この単量体の単独重合、或いはこれらの2種以上の共重合、或いはこれらの単量体と共重合可能な他の単量体の共重合、により調製する。
(B)カルボキシル基含有ビニル系単量体の重合により重合体を得、この重合体が有するカルボキシル基をカリウム塩型に変えることにより調製する。
(C)加水分解処理などの化学変性により重合体中にカルボキシル基を導入し、この重合体のカルボキシル基をカリウム塩型に変えることにより調製する。
(D)上記(A)〜(C)の方法を実施する際の重合に、グラフト重合を用いる。
本発明では特に、上記(C)の方法が好適である。
【0026】
上記(C)の方法を実施するに際し、加水分解処理によりカルボキシル基が生成する反応性基を含む重合体の調製に使用される単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアノ基含有単量体や、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、ビニルプロピオン酸などのカルボン酸の誘導体(例えばエステル)を挙げることができる。
また上記単量体に他の単量体を共重合することもでき、このような他の単量体としては特に限定はないが、グリシジルメタクリレート、N−メチロールアクリルアミド、ヒドロキシエチルメタクリレート、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、メチレンビスアクリルアミド等の架橋性ビニル化合物を挙げることができる。
【0027】
また、本発明において、吸湿剤として好適なカリウム塩型カルボキシル基を有する架橋重合体は、カリウム塩型カルボキシル基以外の極性基として、スルホン酸基及び/又は塩型スルホン酸基が導入されていることが好ましく、このようなスルホン酸(或いはその塩)基の導入に使用される単量体としては、ビニルスルホン酸(塩)、(メタ)アリルスルホン酸(塩)、スチレンスルホン酸(塩)、4−スルホブチル(メタ)アクリレートおよびその塩、メタリルオキシベンゼンスルホン酸(塩)、アリルオキシベンゼンスルホン酸(塩)、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(塩)、2−スルホエチル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。このようなスルホン酸(塩)基含有単量体を前述した単量体と共重合する以外にも、開始剤或いは連鎖移動剤によりポリマー末端にスルホン酸(塩)基を導入することができる。
【0028】
さらに、加水分解によりカルボキシル基が生成する反応性基を有する構成単位とジビニルベンゼンに由来する構成単位とを含む架橋共重合体を、水酸化カリウムを用いて加水分解することにより、カリウム塩型カルボキシル基を有する架橋重合体を得ることもできる。また、加水分解により上記反応性基をカルボン酸基に変換した後、水酸化カリウム水溶液、塩化カリウム水溶液等のカリウムイオンを大量に含む溶液或いはイオン交換樹脂を作用させてイオン交換することにより、カリウム塩型カルボキシル基を有する架橋重合体を得ることもでき、このような架橋重合体は、本発明において、吸湿剤として好適に用いることができる。
【0029】
本発明において、上記の吸湿剤は、水分トラップ層1のマトリックスを形成するポリマー100質量部当り、50〜1300質量部の量で配合されていることが好ましい。即ち、このような量で上記の吸湿剤を使用することにより、この吸湿剤の優れた吸湿特性を十分に発揮できる。
【0030】
また、本発明において、水分トラップ層1のマトリックスは、膜形成能を有する限り、任意のポリマーで形成されていてよいが、特に高い水分バリア性を確保するという点で、吸水性を示すイオン性ポリマーによりマトリックスが形成されていることが好ましい。
このようなイオン性ポリマーには、カチオン性ポリマー(a1)及びアニオン性ポリマー(a2)がある。
【0031】
このようなイオン性ポリマーをマトリックスとする水分トラップ層1の吸湿能を説明するための
図2において、無機バリア層にサンドイッチされた水分トラップ層のマトリックスがカチオン性ポリマー(イオン性基がNH
2基)或いはアニオン性ポリマー(イオン性基がCOONa基及びCOOH基)により形成され、このマトリックス中に前述した吸湿剤が分散されている(
図2(A)参照)。
【0032】
即ち、上記の水分トラップ層では、所定の無機バリア層を通過した水分は、マトリックスが親水性のカチオン性基或いはアニオン性基を含んでいるため、マトリックスに吸湿されることとなる(
図2(B)参照)。即ち、マトリックス自体が高い吸湿性を示す。
【0033】
ところで、単に水分がマトリックスに吸収されたに過ぎない場合には、温度上昇などの環境変化により、吸収された水分は容易に放出されてしまうこととなる。また、水分の侵入により、マトリックスを形成するポリマー分子の間隔を広げ、この結果、水分トラップ層は膨潤してしまうことにもなり、このような膨潤は、水分トラップ層の寸法安定性を損ねる。
しかるに、本発明においては、このようなイオン性マトリックス中に分散されている吸湿剤(例えば、ポリ(メタ)アクリル酸の1価金属塩の架橋物粒子)は、このマトリックスを形成しているカチオン性ポリマー或いはアニオン性ポリマーよりも吸湿性が大きい(即ち、到達湿度が低い)。このため、マトリックス中に吸湿された水分は、この吸湿剤によってさらに捕捉されることとなる(
図2(C)参照)。従って、吸収された水分子による膨潤が有効に抑制されるばかりか、この水分子は、水分トラップ層(マトリックス)中に閉じ込められ、水分トラップ層からの水分の放出も有効に防止されることとなる。このように、イオン性ポリマーをマトリックスとし、このイオン性ポリマー中に前述した吸湿剤が分散されている水分トラップ層は、高い吸湿能力による水分の捕捉と閉じ込めとの2重の機能を有しているため、吸湿剤の優れた吸湿能及び耐膨潤性がより高められ、極めて優れた吸湿性及び耐膨潤性(寸法安定性)を示すこととなる。
また、
図2からも理解されるように、上記マトリックスに架橋構造が導入されているときには、水分の侵入によるイオン性ポリマーの分子間の拡大が抑制されるため、水分の吸収による膨潤も一層有効に抑制することが可能となる。
【0034】
カチオン性ポリマー(a1);
本発明において、水分トラップ層1のマトリックスとして好適なカチオン性ポリマー(a1)は、水中で正の電荷となり得るカチオン性基、例えば、1〜3級アミノ基、4級アンモニウム基、ピリジル基、イミダゾール基、4級ピリジニウム基などを分子中に有しているポリマーである。このようなカチオン性ポリマーは、カチオン性基が、求核作用が強く、かつ水素結合により水を補足するため、吸湿性マトリックスを形成することができる。
カチオン性ポリマー(a1)中のカチオン性基量は、一般に、形成される吸湿性マトリックスの吸水率(JIS K−7209−1984)が湿度80%RH及び30℃雰囲気下において20%以上、特に30%〜45%となるような量であればよい。
【0035】
また、カチオン性ポリマー(a1)としては、アリルアミン、エチレンイミン、ビニルベンジルトリメチルアミン、[4−(4−ビニルフェニル)−メチル]−トリメチルアミン、ビニルベンジルトリエチルアミン等のアミン系単量体;ビニルピリジン、ビニルイミダゾール等の含窒素複素環系単量体;及び、それらの塩類;に代表されるカチオン性単量体の少なくとも1種を、適宜、共重合可能な他の単量体と共に、重合乃至共重合し、さらに必要により、酸処理により部分中和させて得られるものが使用される。
尚、共重合可能な他の単量体としては、これに限定されるものではないが、スチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン、α−メチルスチレン、ビニルナフタレン、α−ハロゲン化スチレン類、アクリロニトリル、アクロレイン、メチルビニルケトン、ビニルビフェニル等を挙げることができる。
【0036】
また、上記のカチオン性単量体を使用する代わりに、カチオン性官能基を導入し得る官能基を有する単量体、例えば、スチレン、ブロモブチルスチレン、ビニルトルエン、クロロメチルスチレン、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール、α−メチルスチレン、ビニルナフタレン等を使用し、重合後に、アミノ化、アルキル化(第4級アンモニウム塩化)などの処理を行ってカチオン性ポリマー(a1)を得ることもできる。
【0037】
本発明においては、上記のカチオン性ポリマー(a1)の中でも、特にポリアリルアミンが成膜性等の観点から好適である。
【0038】
なお、本発明においては、上述したカチオン性ポリマー(a1)をマトリックス成分として使用することにより、ある種の架橋剤の使用により、格別の密着剤を使用することなく、マトリックス中に架橋構造を導入し、このコーティング組成物が塗布される各種基材に対する密着性を向上させることができるという利点がある。
【0039】
上述したカチオン性ポリマー(a1)を形成するための重合は、一般には、重合開始剤を用いての加熱によるラジカル重合により実施される。
重合開始剤としては、特に制限されず、オクタノイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ベンゾイルパ−オキシド、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、ジ−t−ブチルパーオキシド等の有機過酸化物が代表的であり、一般に、前述したカチオン性単量体(或いはカチオン性基を導入し得る単量体)100質量部に対して、0.1〜20質量部、特に0.5〜10質量部程度の量で使用される。
【0040】
上記のようにして重合を行うことによりカチオン性ポリマー(a1)が得られるが、カチオン性の官能基を導入可能な単量体が使用されている場合には、重合後に、アミノ化、アルキル化処理などのカチオン性基導入処理を行えばよい。
【0041】
アニオン性ポリマー(a2);
本発明においては、水分トラップ層1のマトリックスとして好適なアニオン性ポリマー(a2)は、水中で負の電荷となり得るアニオン性の官能基、例えば、カルボン酸基、スルホン酸基、ホスホン酸基や、これらの基が部分的に中和された酸性塩基を分子中に有しているポリマーである。このような官能基を有するアニオン性ポリマーは、上記官能基が水素結合により水を補足するため、吸湿性マトリックスを形成することができる。
アニオン性ポリマー(a2)中のアニオン性官能基量は、官能基の種類によっても異なるが、一般に、形成される吸湿性マトリックスの吸水率(JIS K−7209−1984)が湿度80%RH及び30℃雰囲気下において20%以上、特に30%〜45%となるような量であればよい。
【0042】
上記のような官能基を有するアニオン性ポリマー(a2)としては、例えば、メタクリル酸、アクリル酸、無水マレイン酸等のカルボン酸系単量体;α−ハロゲン化ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸等のスルホン酸系単量体;ビニルリン酸等のホスホン酸系単量体;及びこれら単量体の塩類;などに代表されるアニオン性単量体の少なくとも1種を、適宜、共重合可能な他の単量体と共に重合乃至共重合させ、さらに必要により、アルカリ処理により部分中和させて得られるものが使用される。
尚、共重合可能な他の単量体としては、これに限定されるものではないが、スチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン、α−メチルスチレン、ビニルナフタレン、α−ハロゲン化スチレン類、アクリロニトリル、アクロレイン、メチルビニルケトン、ビニルビフェニル等を挙げることができる。
【0043】
また、上記のアニオン性単量体を使用する代わりに、上記のアニオン性単量体のエステルや、アニオン性官能基を導入し得る官能基を有する単量体、例えば、スチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン、α−メチルスチレン、ビニルナフタレン、α−ハロゲン化スチレン類等を使用し、重合後に、加水分解、スルホン化、クロルスルホン化、ホスホニウム化などの処理を行ってアニオン性ポリマー(a2)を得ることもできる。
【0044】
本発明において、好適なアニオン性ポリマー(a2)は、ポリ(メタ)アクリル酸及びその部分中和物(例えば一部がNa塩であるもの)である。
【0045】
尚、上述したアニオン性ポリマー(a2)を形成するための重合は、一般には、重合開始剤を用いての加熱によるラジカル重合により実施される。
重合開始剤としては、特に制限されず、オクタノイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ベンゾイルパ−オキシド、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、ジ−t−ブチルパーオキシド等の有機過酸化物が代表的であり、一般に、前述したアニオン性単量体(或いはアニオン性基を導入し得る単量体)100質量部に対して、0.1〜20質量部、特に0.5〜10質量部程度の量で使用される。
【0046】
上記のようにして重合を行うことによりアニオン性ポリマー(a2)が得られるが、アニオン性官能基を導入可能な単量体が使用されている場合には、重合後に加水分解、スルホン化、クロルスルホン化、ホスホニウム化などのアニオン性基導入処理を行えばよい。
【0047】
水分トラップ層1の形成;
上述した水分トラップ層1は、マトリックス形成用のポリマー、例えばカチオン性ポリマー(a1)或いはアニオン性ポリマー(a2)と共に、前述した吸湿剤、さらには架橋剤が適宜、溶媒に溶解もしくは分散されたコーティング組成物を使用し、該組成物を塗布し、乾燥して溶媒を除去することにより形成される。
このコーティング組成物の組成は、カチオン性ポリマー(a1)をマトリックス形成用ポリマーとして使用する場合と、アニオン性ポリマー(a2)をマトリックス形成用ポリマーとして使用する場合とで多少異なる。
【0048】
カチオン性ポリマー(a1)を用いる場合;
かかるコーティング組成物において、吸湿剤は、前述した量、即ち、マトリックスを形成するポリマー(カチオン性ポリマー(a1))100質量部当り、50〜1300質量部の量で使用されるが、この場合は、特に、カチオン性ポリマー(a1)100重量部当り100〜800質量部の量で使用されることが好適である。
【0049】
また、このようなコーティング組成物中には、前述したカチオン性ポリマー(a1)の吸湿性マトリックスに架橋構造を導入するための架橋剤が適宜配合される。
この場合の架橋剤としては、カチオン性基と反応し得る架橋性官能基(例えば、エポキシ基)と、加水分解と脱水縮合を経て架橋構造中にシロキサン構造を形成し得る官能基(例えば、アルコシシリル基)を有している化合物を使用することができ、特に、下記式(1):
X−SiR
1n(OR
2)
3−n (1)
式中、Xは、末端にエポキシ基を有する有機基であり、
R
1及びR
2は、それぞれ、メチル基、エチル基、もしくはイソプロ
ピル基であり、
nは、0、1、もしくは2である、
で表されるシラン化合物が好適に使用される。
【0050】
式(1)のシラン化合物は、官能基としてエポキシ基とアルコキシシリル基とを有しており、エポキシ基がカチオン性ポリマーの官能基(例えばNH
2)と付加反応する。一方アルコキシシリル基は、加水分解によりシラノール基(SiOH基)を生成し、縮合反応を経てシロキサン構造を形成して成長することにより、最終的にカチオン性ポリマー鎖間に架橋構造を形成する。これにより、カチオン性ポリマー(a1)のマトリックスには、シロキサン構造を有する架橋構造が導入されることとなる。一方、アルコキシシリル基の加水分解により生成するシラノール基は、後述する第1の無機バリア層3aの表面に存在するMOH基(M:金属元素)、例えばSiOH基(シラノール基)と脱水縮合して強固に結合する。
しかも、このコーティング組成物は、カチオン性ポリマー(a1)を含んでいるため、アルカリ性であり、この結果、カチオン性基とエポキシ基の付加反応やシラノール基間或いは第1の無機バリア層3aの表面のMOH基との脱水縮合も速やかに促進されることとなる。
従って、上記のような式(1)の化合物を架橋剤として使用することにより、マトリックス中に架橋構造を導入すると同時に、格別の密着剤を用いることなく、水分トラップ層1と第1の無機バリア層3aとの密着性を高めることが可能となる。
上記の説明から理解されるように、上記の架橋構造にシロキサン構造が導入されるときには、同時に、第1の無機バリア層3aとの密着性も高められる。
【0051】
本発明において、上記式(1)中のエポキシ基を有する有機基Xとしては、γ−グリシドキシアルキル基が代表的であり、例えばγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランやγ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシランが架橋剤として好適に使用される。
また、上記式(1)中のエポキシ基が、エポキシシクロヘキシル基のような脂環式エポキシ基であるものも架橋剤として好適である。例えば、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランのような脂環式エポキシ基を有する化合物を架橋剤として使用した場合には、マトリックスの架橋構造中に、シロキサン構造と共に、脂環構造が導入される。このような脂環構造の導入は、吸湿に適した空間の網目構造を形成するというマトリックスの機能を更に効果的に発揮させることができる。
【0052】
さらに、架橋構造中に脂環構造を導入するために、複数のエポキシ基と脂環基とを有している化合物、例えば、下記式(2):
G−O(C=O)−A−(C=O)O−G (2)
式中、Gは、グリシジル基であり、
Aは、脂肪族環を有する2価の炭化水素基、例えばシクロアル
キレン基である、
で表されるジグリシジルエステルを、架橋剤として使用することができる。このようなジグリシジルエステルの代表的なものは、下記の式(2−1)で表される。
【化1】
【0053】
即ち、式(2)のジグリシジルエステルは、アルコキシシリル基を有していないため、第1の無機バリア層3との密着性を高める機能は乏しいが、架橋構造中に脂環構造を導入するため、マトリックス中に吸湿に適した空間の網目構造を形成するという点では効果的である。
【0054】
このようなカチオン性ポリマー(a1)をマトリックス形成用ポリマーとして用いた場合でのコーティング組成物では、上述した架橋剤は、カチオン性ポリマー(a1)100重量部当り、5乃至60重量部、特に15乃至50重量部の量で使用することが望ましく、このような架橋剤の少なくとも70重量%以上、好ましくは80重量%以上が、前述した式(1)のシラン化合物であることが望ましい。
架橋剤の使用量が多すぎると、機械強度的に脆くなりハンドリング性が損なわれたり、塗料にした際に増粘が速く有効なポットライフが確保できなくなるおそれがあり、また、少なすぎると、これに伴い、厳しい環境下(例えば高湿度下)に曝された場合の耐性(例えば機械的強度)が確保できなくなるおそれがある。さらに前述した式(1)のシラン化合物の使用割合が少ないと、第1の無機バリア層3aとの密着性が低下する傾向がある。
【0055】
上述した各種成分を含むコーティング組成物に使用される溶媒としては、比較的低温での加熱により揮散除去し得るものであれば特に制限されず、例えば、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、ブタノール等のアルコール性溶媒、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン溶媒、或いはこれら溶媒と水との混合溶媒、或いは水、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒などを使用することができるが、特にコーティング組成物中の架橋剤中のアルコキシシリル基を有するシラン化合物の加水分解を促進させるために、水或いは水を含む混合溶媒を使用することが望ましい。
【0056】
尚、上述した溶媒は、コーティング組成物がコーティングに適した粘度となるような量で使用されるが、コーティング組成物の粘度調整のため、或いは形成される吸湿性マトリックスの吸水率を適宜の範囲に調整するため、非イオン性重合体を適宜の量で配合することもできる。
このような非イオン性重合体としては、ポリビニルアルコール、エチレン−プロピレン共重合体、ポリブチレン等の飽和脂肪族炭化水素系ポリマー、スチレンーブタジエン共重合体等のスチレン系ポリマー、ポリ塩化ビニル、或いは、これらに、各種のコモノマー(例えばビニルトルエン、ビニルキシレン、クロロスチレン、クロロメチルスチレン、α−メチルスチレン、α−ハロゲン化スチレン、α,β,β´−トリハロゲン化スチレン等のスチレン系モノマーや、エチレン、ブチレン等のモノオレフィンや、ブタジエン、イソプレン等の共役ジオレフィンなど)を、共重合させたものなどを挙げることができる。
【0057】
アニオン性ポリマー(a2)を用いた場合;
この場合の水分トラップ層1を形成するためのコーティング組成物において、吸湿剤の使用量は、基本的には、カチオン性ポリマー(a1)を用いた場合と同じでよいが、特に好ましくは、アニオン性ポリマー(a2)100質量部当り100〜800質量部の範囲が好適である。
【0058】
また、このコーティング組成物においても、前述したカチオン性ポリマー(a1)を用いた場合と同様、適宜、架橋剤が配合される。
この架橋剤としては、アニオン性ポリマー(a2)が有しているイオン性基と反応し得る架橋性官能基(例えばエポキシ基)を2個以上有している化合物を使用することができ、カチオン性ポリマー(a1)を用いた場合のコーティング組成物でも挙げられた式(2):
G−O(C=O)−A−(C=O)O−G (2)
式中、Gは、グリシジル基であり、
Aは、脂肪族環を有する2価の炭化水素基、例えばシクロアルキレ
ン基である、
で表されるジグリシジルエステルが好適に使用される。
【0059】
即ち、上記式(2)のジグリシジルエステルにおいては、エポキシ基がアニオン性基と反応し、2価の基Aによる脂環構造を含む架橋構造が水分トラップ層1のマトリックス中に形成される。このような脂環構造を含む架橋構造によりされ、膨潤の抑制がもたらされる。
特に、上記のジグリシジルエステルの中でも好適なものは、先にも挙げられており、特に、吸湿に適した空間の網目構造を形成できるという観点から、先の式(2−1)で表されるジグリシジルエステルが最も好適である。
【化2】
【0060】
このようなアニオン性マトリックス用のコーティング組成物において、上記の架橋剤は、アニオン性ポリマー(a2)100重量部当り、1乃至50重量部、特に10乃至40重量部の量で使用することが望ましい。架橋剤の使用量が多すぎると、機械強度的に脆くなりハンドリング性が損なわれたり、塗料にした際に増粘が速く有効なポットライフが確保できなくなるおそれがあり、また、少なすぎるとこれに伴い、厳しい環境下(例えば高湿度下)に曝された場合の耐性(例えば機械的強度)が確保できなくなるおそれがある。
【0061】
また、このコーティング組成物には、水分トラップ層5と第1の無機バリア層3aとの密着性を向上させるための密着剤を配合することもできる。
かかる密着剤は、第1の無機バリア層3aの表面とアニオン性ポリマー(2a)のマトリックスに対して反応性を示す官能基を有するものであり、例えば、エポキシ基とアルコキシシリル基を有するものであり、前述したカチオンマトリックス用のコーティング組成物では、架橋剤として使用されるシラン化合物が密着剤として機能する。
このシラン化合物は、前述した式(1):
X−SiR
1n(OR
2)
3−n (1)
式中、Xは、エポキシ基を有する有機基であり、
R
1及びR
2は、それぞれ、メチル基、エチル基、もしくはイソプロ
ピル基であり、
nは、0、1、もしくは2である、
で表される。
【0062】
即ち、先にも説明したが、アルコキシシリル基が加水分解して生じるシラノール基(SiOH基)が、第1の無機バリア層3aの表面に分布しているMOH(Mは、無機バリア層を形成する金属元素であり、例えばSi)と脱水縮合するため、マトリックスにはシロキサン構造が導入され、このシロキサン結合により、この密着剤(シラン化合物)は第1の無機バリア層3aの表面に密着結合する。また、エポキシ基は、アニオン性ポリマー(a2)が有する酸性基(例えばCOOH)やその塩(例えばCOONa)と反応(エステル化)して結合する。従って、この密着剤は、水分トラップ層1のマトリックスとも結合する。かくして、このような密着剤は、第1の無機バリア層3aと水分トラップ層1との密着性を高め、その接合強度を向上させ、この結果、水分トラップ層1の剥離等が有効に防止され、長期にわたって、高度の水分バリア性が維持されることとなる。
特に、第1の無機バリア層3aが、後述するように、有機ケイ素化合物のプラズマCVDにより形成された蒸着膜である時は、その表面にSiOH基が分布しており、水分トラップ層1(マトリックス)と無機バリア層3aとの間にシロキサン結合を形成し易く、その密着性向上効果は極めて大きい。
【0063】
上記式(1)のシラン化合物の中では、アルコキシシリル基を複数有するもの(式(1)中のnが0または1であるもの)、例えばγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランやγ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシランが好ましい。また、エポキシ基がエポキシシクロヘキシル基のような脂環式エポキシ基であるもの、例えば、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等が密着剤として最も好適である。
【0064】
本発明において、上記のような密着剤は、前述した水分バリア性を損なうことなく、その特性を十分に発揮させるため、水分トラップ層1のマトリックスを形成するアニオン性ポリマー(a2)100重量部当り、0.1乃至10重量部、特に1乃至8重量部の量で使用することが好ましい。
【0065】
上述した各種成分を含むコーティング組成物に使用される溶媒としては、比較的低温での加熱により揮散除去し得るものであれば特に制限されず、カチオン性ポリマー(a1)を用いるコーティング組成物でも挙げられたものと同種のものを使用することができる。特に、前述した式(1)の化合物のように、アルコキシシリル基を有するシラン化合物を密着剤として使用する場合には、少なくとも水を含む溶媒を使用することが好ましい。アルコキシシリル基の加水分解を促進せしめ、架橋剤或いは密着剤としての機能を高めるためである。
【0066】
さらに、上述したアニオン性ポリマー(a2)をマトリックス形成材として用いるコーティング組成物には、pH調整のために、アルカリ(例えば水酸化ナトリウムなど)を添加することもできる。このようなアルカリの添加は、密着剤として使用する上記のシラン化合物から生じるシラノール基と無機バリア層3の表面のMOH基との脱水縮合を促進させる上で効果的であり、例えば、pHが8乃至12程度となるようにアルカリを添加するのがよい。
【0067】
上述した溶媒は、カチオンマトリックス用のコーティング組成物と同様、コーティング組成物がコーティングに適した粘度となるような量で使用され、且つコーティング組成物の粘度調整のため、或いは形成される吸湿性マトリックスの吸水率を適宜の範囲に調整するため、先にも例示した非イオン性重合体を適宜の量で配合することができる。
【0068】
上述したコーティング組成物を用いての水分トラップ層1の形成は、このコーティング組成物を、第1の無機バリア層3aの表面に塗布し、80〜160℃程度の温度に加熱することにより行われる。加熱時間は、例えば加熱オーブン等の加熱装置の能力にも依るが、一般に、数秒から数分間である。この加熱により、溶媒が除去され、さらに、架橋剤がマトリックスを形成するイオン性ポリマーや第1の無機バリア層3aの表面のMOHと反応し、架橋構造がマトリックス中に導入され且つ第1の無機バリア層3aとの密着性に優れた水分トラップ層1を形成することができる。
【0069】
このようにして形成される水分トラップ層1の厚みは特に制限されるものではなく、その用途や要求される水分バリアの程度に応じて適宜の厚みに設定することができる。例えば、水蒸気透過度が10
−5g/m
2/day以下となるような超バリア性を長期間にわたって発揮させるには、少なくとも1μm以上、特に2乃至20μm程度の厚みを有しているのがよい。
上記のようにして水分トラップ層1が形成される本発明では、高湿条件下で高い吸湿性能を示す吸湿剤が分散された水分トラップ層1が、無機バリア層3a,3bによりサンドイッチされた構造を有するために、長期間にわたって優れた水分バリア性が発揮され、しかも、イオン性ポリマー(カチオン性ポリマー(a1)或いはアニオン性ポリマー(a2))により水分トラップ層1のマトリックスが形成されている場合には、水分の吸収と閉じ込めとの2重の機能を有しているため、水分に対して上記のような超バリア性を長期間にわたって発揮することが可能となる。
【0070】
<無機バリア層3a,3b>
本発明において、上述した水分トラップ層1をサンドイッチするように設けられている無機バリア層3a,3bは、この積層体10の透明性を保持するため、基本的には、スパッタリング、真空蒸着、イオンプレーティングなどに代表される物理蒸着や、プラズマCVD及び、ALD法(原子層堆積法)に代表される化学蒸着などによって形成される無機質の蒸着膜、またはゾルゲル法などのコーティングによる成膜、例えば各種金属乃至金属酸化物により形成されるが、特に、凹凸を有する面にも均一に成膜され且つ下地の層(プラスチック基材5や有機層7との間に高い密着性を確保し、優れたバリア性を発揮させるという点で、プラズマCVDにより形成される蒸着膜であることが好ましい。
【0071】
プラズマCVDによる蒸着膜は、所定の真空度に保持されたプラズマ処理室内に第1の無機バリア層3aの下地となるプラスチック基材5或いは第2の無機バリア層3bの下地となる有機層7を配置し、膜形成する金属若しくは該金属を含む化合物のガス(反応ガス)及び酸化性ガス(通常酸素やNOxのガス)を、適宜、アルゴン、ヘリウム等のキャリアガスと共に、ガス供給管を用いて、金属壁でシールドされ且つ所定の真空度に減圧されているプラズマ処理室に供給し、この状態でマイクロ波電界や高周波電界などによってグロー放電を発生させ、その電気エネルギーによりプラズマを発生させ、上記化合物の分解反応物を下地のプラスチック基材5或いは有機層7の表面に堆積させて成膜することにより得られる。
尚、マイクロ波電界による場合は、導波管等を用いてマイクロ波をプラズマ処理室内に照射することにより成膜が行われ、高周波電界による場合は、プラズマ処理室内のプラスチック基材1を一対の電極の間に位置するように配置し、この電極に高周波電界を印加して成膜が行われる。
【0072】
上記の反応ガスとしては、一般に、プラスチック表面に炭素成分を含む柔軟な領域を有し且つその上に酸化度の高いバリア性に優れた領域を有する膜を形成できるという観点から有機金属化合物、例えばトリアルキルアルミニウムなどの有機アルミニウム化合物や、有機チタン化合物、有機ジルコニウム化合物、有機ケイ素化合物等のガスを用いることが好ましく、特に、酸素に対するバリア性の高い無機バリア層3a,3bを比較的容易に効率良く形成できるという点で、有機ケイ素化合物が最も好ましい。
【0073】
このような有機ケイ素化合物の例としては、ヘキサメチルジシラン、ビニルトリメチルシラン、メチルシラン、ジメチルシラン、トリメチルシラン、ジエチルシラン、プロピルシラン、フェニルシラン、メチルトリエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン等の有機シラン化合物、オクタメチルシクロテトラシロキサン、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、ヘキサメチルジシロキサン等の有機シロキサン化合物等が使用される。また、これら以外にも、アミノシラン、シラザンなどを用いることもできる。
【0074】
尚、上述した有機金属化合物は、単独でも或いは2種以上の組合せでも用いることができる。
【0075】
本発明において、上記のような有機金属化合物の反応ガス及び酸化性ガスを用いてのプラズマCVDによる成膜に際しては、グロー放電出力(例えばマイクロ波或いは高周波出力)を低くし、低出力で成膜を開始した後、高出力でプラズマ反応による成膜を行うことが好適である。
【0076】
即ち、有機金属化合物の分子中に含まれる有機基(CH
3やCH
2など)は、通常、CO
2となって揮散するが、低出力では、その一部はCO
2まで分解せず、下地のプラスチック基材5或いは有機層7(以下、これらを下地材と呼ぶことがある)の表面に堆積して膜中に含まれることとなる。一方、出力が高められるほど、有機基はCO
2まで分解していくこととなる。従って、出力を高めることにより、膜中のC含量を少なくし、有機金属化合物中に含まれる金属の酸化度の高い膜を形成することが可能となる。しかるに、金属の酸化度の高い膜は、酸素等のガスに対するバリア性は極めて高いが、可撓性が乏しく、下地材との密着性が十分でないのに対して、金属の酸化度が低く、有機成分含量の多い膜は、ガスに対するバリア性は十分ではないが、可撓性に富み、下地材に対して高い密着性を示すこととなる。
【0077】
上記の説明から理解されるように、本発明では、反応ガスとして有機金属化合物を使用し且つプラズマCVDによる成膜初期に低出力で成膜を行った後に出力を増大させて成膜を行うことにより、下地材の表面に接する部分に有機成分(炭素)を多く含む密着性の高い領域が形成され、その上に、金属の酸化度が高く、ガスバリア性の高い領域が形成されることとなる。
【0078】
従って、本発明の水分バリア性積層体10における第1の無機バリア層3a及び第2の無機バリア層3bは、優れたガスバリア性を確保するために、金属(M)の酸化度をx(x=O/Mの原子比)としたとき、この酸化度xが1.5乃至2.0の高酸化度領域を含んでいることが好ましい。また、この高酸化度領域の下側(下地材の表面と接する側)には、金属(M)、酸素(O)及び炭素(C)の3元素基準で、炭素(C)濃度が20元素%以上の有機領域が形成されていることが好ましい。さらに、この金属(M)としては、ケイ素(Si)が最も好ましい。
【0079】
無機バリア層3a,3bにおける上記高酸化度領域は、無機バリア層3a或いは3bの全体厚みの60%以上の割合で存在していることが好ましく、上記有機領域は、無機バリア層3a或いは3bの全体厚みの5乃至40%程度の厚みで下地材の表面と接触側に形成されていることが好ましい。
【0080】
上述した有機領域や高酸化度領域を有する第1の無機バリア層3a或いは第2の無機バリア層3bをプラズマCVDにより成膜する際のグロー放電出力は、マイクロ波による場合と高周波による場合とで多少異なっている。例えばマイクロ波の場合は、30乃至100W程度の低出力で有機領域の形成が行われ、高酸化度領域では、90W以上の高出力で成膜が行われる。また、高周波の場合は、20乃至80W程度の低出力で有機領域の形成が行われ、高酸化度領域では、100W以上の高出力で成膜が行われる。
成膜時間は、各領域の厚みが、前述した範囲内となるように設定すればよい。
【0081】
また、上述した第1の無機バリア層3aや第2の無機バリア層3bの全体厚みは、前述した水分トラップ層1をサンドイッチすることによる吸湿水分の放出性を抑制し得るように設けられていればよく、一般的には、それぞれ、1乃至1200nm、特に4乃至1000nm程度の厚みを有していればよい。
【0082】
<プラスチック基材5>
本発明において、第1の無機バリア層3aの下地となるプラスチック基材5のプラスチックは、それ自体公知の熱可塑性或いは熱硬化性の樹脂から形成されたものであってよい。
【0083】
このような樹脂の例としては、これに限定されるものではないが、例えば低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ1−ブテン、ポリ4−メチル−1−ペンテンあるいはエチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン等のα−オレフィン同志のランダムあるいはブロック共重合体等のポリオレフィン、環状オレフィン共重合体など、そしてエチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体、エチレン・塩化ビニル共重合体等のエチレン・ビニル化合物共重合体、ポリスチレン、アクリロニトリル・スチレン共重合体、ABS、α−メチルスチレン・スチレン共重合体等のスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩化ビニル・塩化ビニリデン共重合体、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル等のポリビニル化合物、ナイロン6、ナイロン6−6、ナイロン6−10、ナイロン11、ナイロン12等のポリアミド、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート(PEN)等の熱可塑性ポリエステル、ポリカーボネート、ポリフエニレンオキサイドや、その他、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、フッ素樹脂、アリル樹脂、ポリウレタン樹脂、セルロース樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ケトン樹脂、アミノ樹脂、或いはポリ乳酸などの生分解性樹脂等を例示することができ、さらに、これらのブレンド物や、これら樹脂が適宜共重合により変性されたものであってもよいし、多層構造を有していてもよい。
特に、透明性が要求される用途においては、上記の中でもPETやPENなどのポリエステル樹脂が好適であり、更に耐熱性も要求される用途においては、ポリカーボネートやポリイミド樹脂が好適である。
勿論、上述した各種の樹脂には、それ自体公知の樹脂配合剤、例えば酸化防止剤、滑剤等が配合されていてもよい。
【0084】
また、プラスチック基材5の形態は、水分に対するバリア性が十分に発揮されるようなものであれば特に制限されず、用途に応じた適宜の形態を有していればよいが、板状或いはフィルム乃至シートの形態を有している場合が最も一般的である。
さらに、その厚み等は、用途に応じた特性(例えば可撓性、柔軟性、強度等)、適宜の範囲に設定される。
【0085】
このようなプラスチック基材5は、その形態やプラスチックの種類に応じて、射出乃至共射出成形、押出乃至共押出成形、フィルム乃至シート成形、圧縮成形性、注型重合等の公知の成形手段により成形することができる。
【0086】
<有機層7>
本発明において、第2の無機バリア層3bの下地となる有機層7は、前述した水分トラップ層1上に設けられる。
即ち、水分トラップ層1は、吸湿により微妙な体積変化を生じる。従って、水分トラップ層7上に、CVD法等により直接第2の無機バリア層3bを成膜することは可能であるが、その場合には、第2の無機バリア層3bと水分トラップ層1との間の密着性が低くなり、デラミネーション等を生じ易くなるおそれがある。このような密着性の低下を回避するために、水分トラップ層1上に第2の無機バリア層3bの下地となる有機層7を設けることが望ましい。
【0087】
また第2の無機バリア層3bには、ピンホールやクラック等の不可避的な欠陥が生成しており、この欠陥を通して、水分トラップ層1に局部的に集中して水分が流れ込むため、水分トラップ層1の水分バリア性が局部的に劣化してしまうという不都合があるが、本発明では、第2の無機バリア層3bと水分トラップ層1との間に有機層7が介在しているため、この有機層7により、第2の無機バリア層3bの欠陥を通った微量の水分は、有機層7の層内を拡散しながら透過し、この結果、水分トラップ層1の面方向全体にわたって均等に水分が流入し、水分トラップ層1の全体が水分トラップ性を示し、局部的に水分バリア性が劣化するという不都合を有効に回避することができる。
【0088】
このような有機層7は、表面平滑性を有しており且つ非吸湿性(例えば、前述した吸水率(80%RH、30℃)が1.0%以下)の膜を形成することができ、水分トラップ層1との間に高い密着力(例えば1.0N/15mm以上)を確保し得るものであれば、任意の樹脂で形成されていてよい。ただ、一般的には、第2の無機バリア層3bを成膜する際の熱変形を防止し且つコーティングにより容易に形成し得るという観点から、ガラス転移点(Tg)が60℃以上の樹脂で形成されていることが好ましい。
【0089】
上記のような観点から、有機層7を形成する樹脂としては、ポリエステル樹脂、シクロオレフィン樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ハロゲン系樹脂が好適であり、これらの中から、上記のような高ガラス転移点(Tg)のものが選択されて使用される。
【0090】
ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等が代表的であり、何れもコポリマー単位を含んでいてよい。
かかるコポリマー単位における二塩基酸成分としては、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸;コハク酸、アジピン酸、セバチン酸、ドデカンジオン酸等の脂肪族ジカルボン酸;等が代表的である。また、ジオール成分としては、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、1,6−ヘキシレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物等が代表的である。の1種又は2種以上が挙げられる。
【0091】
また、シクロオレフィン系樹脂としては、シクロヘキセンから誘導されるポリシクロヘキセンが代表的であるが、シクロヘキサン環の内部に橋絡基(例えばメチレン基やエチレン基など)を有しているビシクロ環や、ビシクロ環にさらに脂肪族環が結合した多環構造を有するオレフィン(多環オレフィン)から誘導されるものも好適である。
このような多環オレフィンとしては、例えば、下記式(3):
【化3】
(3)
式中、Zは、メチレン基またはエチレン基である、
で表されるビシクロ環構造を含むものが挙げられる。
【0092】
上記多環オレフィンの具体例としては、これに限定されるものではないが、以下のものを例示することができる。
【0093】
【化4】
ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン
【0094】
【化5】
トリシクロ[4.4.0.1
2.5]−3−ウンデセン
【0095】
【化6】
テトラシクロ[4.4.0.1
2.5.1
7.10]−3−ドデセン
【0096】
【化7】
ペンタシクロ[8.4.0.1
2.5.1.
9.12.0
8.13]−3−ヘキ
サデセン
【0097】
【化8】
ペンタシクロ[6.6.1.1
3.6.0.
2.7.0
9.14]−4−ヘ
キサデセン
【0098】
また、(メタ)アクリル樹脂としては、例えば以下のモノ(メタ)アクリレート系単量体及び多官能(メタ)アクリレート系単量体を、1種単独或いは2種以上の組み合わせで重合することにより得られたものを挙げることができる。
1.モノ(メタ)アクリレート系単量体;
メチル(メタ)アクリレート
エチル(メタ)アクリレート
グリシジル(メタ)アクリレート
2−シアノメチル(メタ)アクリレート
ベンジル(メタ)アクリレート
ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート
アリル(メタ)アクリレート
2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート
グリシジル(メタ)アクリレート
3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート
グリセリルモノ(メタ)アクリレート
2−(メタ)アクリルオキシエチルアセチルアセテート
2.多官能(メタ)アクリレート系単量体;
エチレングリコールジ(メタ)アクリレート
ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート
トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート
ノナエチレングリコールジ(メタ)アクリレート
プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート
ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート
2,2’−ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル
]プパン
2,2’−ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシエトキシ
フェニル]プロパン
2,2’−ビス{4−[3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒド
ロキシプロポキシ]フェニル}プロパン
1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート
1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート
トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート
ウレタン(メタ)アクリレート
エポキシ(メタ)アクリレート
【0099】
尚、上記以外にも、例えば、(メタ)アクリル酸の長鎖アルキルエステル(例えば炭素数が3以上)を重合して得られるポリマーもあるが、この種のポリマーはガラス転移点(Tg)がかなり低いため、通常、多官能の(メタ)アクリレートとの共重合体の形で使用される。
【0100】
ハロゲン系樹脂としては、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、塩素化塩化ビニル樹脂、四フッ化樹脂(ポリテトラフルオロエチレン)、フッ化ビニリデン樹脂、クロロトリフルオロエチレン樹脂(PCTFE)、フッ化ビニル樹脂(PVF)、パーフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)、エチレン・四フッ化エチレン共重合体樹脂(ETFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体樹脂(ECTFE)などが挙げられる。
【0101】
本発明において、このような有機層7は、上述した各種の樹脂を揮発性有機溶剤に溶解し、この塗工液を水分トラップ層1上に塗布し乾燥することにより形成される。また、有機層7に相当するフィルム乃至シートを別途形成しておき、これを適当な接着剤を用いて、ドライラミネーションにより水分トラップ層1上に貼り付けることにより、有機層7を形成することもできる。この場合、有機層7を形成するフィルム乃至シートに予め第2の無機バリア層3bを形成しておいてもよいことは勿論である。
何れの方法により有機層7を形成するにしろ、水分トラップ層1を第1の無機バリア層3a上に形成した後、引き続いて連続的に有機層7が形成されるようにするのがよい。水分トラップ層1が雰囲気中に露出している時間が長くなるほど、吸湿により失活していくからである。
また有機層7は透過してきた水分を拡散することができ、たとえば、有機ELの封止層に利用する際、第2の無機バリア層をデバイスの外側に位置するように設置した場合、第2の無機バリア層を透過した水分が、有機層7を介して均一に拡散した状態で、水分トラップ層1へ水分が透過するので、吸湿剤の能力を最大限発揮することができる。
【0102】
上述した有機層7の厚みは、水分トラップ層1の吸湿による微妙な体積変化が有機層7の表面に反映されない程度の厚みを有していればよく、また、必要以上に厚みを大きくしても経済的に不利となるだけである。このような点を勘案して、有機層7の厚みは、通常、1乃至200μm、特に2乃至100μm程度に設定される。
【0103】
<その他の層>
本発明において、上述した第2の無機バリア層3bの上には格別の層を設ける必要はないが、本発明の利点が損なわれない範囲で、この種の水分バリア性積層体に形成され得る公知の層を設けることも可能である。
例えば、水分トラップ層1からの水分の放出をより確実に防止し、水分放出による電気絶縁性の低下などを回避するために、撥水性の層、例えばオレフィン系樹脂の層を設けることができる。さらに、このような撥水性の層を、水分トラップ層1上に設けることも可能である。
また、酸素に対するバリア性をさらに向上させるために、エチレンビニルアルコール共重合体や芳香族ポリアミドなどからなる酸素バリア層を設けることもできるし、鉄、コバルト等の遷移金属を含む酸素吸収性層を設けることも可能である。
上述した各層は、公知の手段、例えば共押出、コーティング等により容易に形成することができる。
【0104】
<用途>
本発明の水分バリア性積層体10は、水分トラップ層1が極めて優れた水分トラップ能力を示し、長期間にわたってその水分バリア性が維持でき、さらには、水分トラップ層5の吸湿による寸法変化も防止され、寸法変化による密着性の低下(バリア性の低下をもたらす)も有効に回避することができる。
従って、この水分バリア性積層体10は、各種の電子デバイス、例えば有機EL素子、太陽電池、電子ペーパーなどの電子回路を封止するためのフィルムとして好適に使用することができ、さらには、プラスチックフィルム基材5としてPET、PEN、ポリカーボネート、ポリイミド樹脂等の透明性に優れたものが使用されている場合には、この上に、透明電極を形成し、その上に発光層などを有する有機ELの発光素子や太陽電池の光発電素子を形成することもできる。
【実施例】
【0105】
本発明の水分バリア性積層体の優れた性能を、以下の実験例により説明する。
【0106】
<到達湿度の評価>
140℃で1時間乾燥させた後、30℃、80%RH雰囲気下で、内容積85cm
3の水分不透過性のスチール箔積層カップに、測定物0.5gとワイヤレス式温湿度計(ハイグロクロン:KNラボラトリーズ製)を入れ、アルミ箔積層フィルム蓋で容器口部をヒートシールした。その後、30℃で経時し、1日後の容器内部の相対湿度を到達湿度とした。
【0107】
<水蒸気透過度(g/m
2/day)の測定>
特開2010―286285号公報に記載の方法に基づき、以下のような方法で測定している。
試料の水分バリア性積層体の無機バリア層面に、真空蒸着装置(日本電子株式会社製、JEE−400)を用いて、真空蒸着により300nmの厚みのCa薄膜(水腐食性金属の薄膜)を形成し、さらに、Ca薄膜を覆うように540nmの厚みのAl蒸着膜(水不透過性金属薄層)を成膜して試料片を作製した。
尚、Ca薄膜は、金属カルシウムを蒸着源として使用し、所定のマスクを介しての真空蒸着により、1mmφの円形部分6箇所に形成した。また、Al蒸着膜は、上記のマスクを真空状態のまま取り去り、装置内のAl蒸着源から引き続き真空蒸着を行うことにより成膜した。
上記のようにして形成された試料を、吸湿剤としてシリカゲル(吸湿能力300mg/g)を充填したガス不透過性カップに装着し、固定リングで固定して評価用ユニットとした。
このようにして作製された評価用ユニットを、40℃90%に雰囲気調整された恒温恒湿槽に520〜720時間保持した後、レーザー顕微鏡(Carl Zeiss社製、レーザスキャン顕微鏡)により試料のCa薄膜の腐食状態を観察し、金属カルシウムの腐食量から水蒸気透過度を算出し、以下の基準で評価した。
◎:水蒸気透過度が、10
−5g/m
2/day以下である。
〇:水蒸気透過度が、10
−5g/m
2/dayを超え10
−3g/m
2
/day未満である。
×:水蒸気透過度が、10
−3g/m
2/day以上である。
【0108】
<含水量増加率の測定>
下記の手順に従って、水分バリア性積層体の水分トラップ層の含水量増加率を求めた。
試料の水分バリア性積層体を作製し、22℃60%RH雰囲気下で、3ヶ月放置した後に、微量水分測定装置(三菱化学社製、CA−06型)を用いて含水量W1を測定した。
同様に、第2の無機バリア層3bを形成していない積層体(
図6参照)と、水分トラップ層1を除いた積層体(
図8参照)を作製し、22℃60%RH雰囲気下で、3ヶ月放置した後に、含水量W2、及びW3を測定した。
W1−W3より、水分トラップ層1の含水量Waを算出した。
W2−W3より、水分トラップ層1の含水量Wbを算出した。
Wa/Wbより、水分トラップ層1の含水量増加率を算出した。
上記測定値に基づき、以下の基準で含水量を評価した。
〇:Wa/Wbが1.1以上である。
×:Wa/Wbが1.1未満である。
【0109】
<吸湿量比の測定>
下記の手順に従って、水分バリア性積層体の水分トラップ層の吸湿量比を求めた。
吸湿剤をアルミシャーレに入れ、140℃1時間乾燥後の吸湿剤の重量をZとし、30℃80%RH雰囲気下で2時間放置した吸湿剤の重量をXとし、(X−Z)/Zより30℃80%RHの吸湿量Axを算出した。
30℃30%RH雰囲気下で2時間放置した吸湿剤の重量をYとし、(Y−Z)/Zより30℃30%RHの吸湿量Ayを算出した。
以下の算出値から吸湿量比Ax/Ayを算出し、以下の基準で評価した。
〇:吸湿量比Ax/Ayが3以上である。
×:吸湿量比Ax/Ayが3未満である。
【0110】
<第1の無機バリア層3a被覆ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの作製>
厚み100μmの2軸延伸PETフィルム1の片面に、プラズマCVD装置を用いて、酸化ケイ素の無機バリア層3aを形成した。以下に、製膜条件を示す。
周波数27.12MHz、最大出力2kWの高周波出力電源、マッチングボックス、直径300mm、高さ450mmの金属型円筒形プラズマ処理室、処理室を真空にする油回転真空式ポンプを有するCVD装置を用いた。処理室内の並行平板にプラスチック基材を設置し、ヘキサメチルジシロキサンを3sccm、酸素を45sccm導入後、高周波発振器により50Wの出力で高周波を発振させ、2秒間の製膜を行い、密着層を形成した。
次に、高周波発振器により200Wの出力で高周波を発振させ、100秒間の製膜を行い、バリア層を形成した。得られた無機バリア層被覆PETフィルムは、40℃90%RH雰囲気下で測定した水蒸気透過率が、1〜3×10
−3g/m
2/dayである。
【0111】
<第2の無機バリア層3bの作製>
有機層7上に、プラズマCVD装置を用いて、酸化ケイ素の無機バリア層3bを形成した。以下に、製膜条件を示す。
周波数27.12MHz、最大出力2kWの高周波出力電源、マッチングボックス、直径300mm、高さ450mmの金属型円筒形プラズマ処理室、処理室を真空にする油回転真空式ポンプを有するCVD装置を用いた。処理室内の並行平板にプラスチック基材を設置し、ヘキサメチルジシロキサンを3sccm、酸素を45sccm導入後、高周波発振器により50Wの出力で高周波を発振させ、2秒間の製膜を行い、密着層を形成した。次に、高周波発振器により100Wの出力で高周波を発振させ、50秒間の製膜を行い、40℃90%RH雰囲気下で測定した水蒸気透過率が、1〜2×10
−1g/m
2/dayである無機バリア層3bを形成した。
【0112】
<実施例1>
イオン性ポリマー及び吸湿剤として、下記のポリアリルアミン(カチオン性ポリマー)及び吸湿剤を用意した。
ポリアリルアミン;
ニットーボーメディカル製PAA−15C(水溶液品)
固形分:15重量%
吸湿剤;
ポリアクリル酸Naの架橋物
東洋紡製タフチックHU−820E(水分散品)
固形分:13重量%
【0113】
イオン性ポリマーとして上記のポリアリルアミンを、固形分5重量%になるように水で希釈し、ポリマー溶液を得た。
一方、架橋剤として、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランを用い、5重量%になるように水に溶かして架橋剤溶液を調製した。
次いで、ポリアリルアミン100重量部に対してγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランが15重量部になるように、ポリマー溶液と架橋剤溶液とを混合し、さらに、この混合溶液に、上記の吸湿剤(ポリアクリル酸Naの架橋物)を、ポリアリルアミンに対して400重量部になるように加え、更に固形分が5重量%になるよう水で調整した上で良く撹拌し、水分トラップ層用のコーティング液Aを調製した。
【0114】
上記で得られたコーティング液Aを、バーコーターにより、先に作成された無機バリア層3a被覆PETフィルムの蒸着面上に塗布した。塗布後の上記フィルムをボックス型の電気オーブンにより、ピーク温度120℃、ピーク温度保持時間10秒の条件で熱処理し、厚み4μmの水分トラップ層1を形成し、コーティングフィルムAを得た。
【0115】
ポリエステル樹脂(東洋紡社製、バイロンGK880)を、2―ブタノンに固形分が10重量%になるように溶解して、有機層用のコーティング液Bを調整した。
上記コーティング液Bを、前記で得られたコーティングフィルムAの水分トラップ層1上に、水分トラップ層形成後速やかに、バーコーターにより塗布した。塗布後の上記フィルムをボックス型の電気オーブンにより、ピーク温度120℃、ピーク温度保持時間10秒の条件で熱処理し、厚み4μmの有機層7を形成し、コーティングフィルムBを得た。
【0116】
次いで、前記コーティングフィルムBの有機層7上に、プラズマCVD装置を用いて、無機バリア層3bを速やかに形成し、
図1に示すような層構造の水分バリア性積層体10を得た。
【0117】
<実施例2>
イオン交換樹脂(オルガノ製、アンバーライト200CT)を用いて、上記ポリアクリル酸Naの架橋物(HU−820E)のNa塩型カルボキシル基をH型カルボキシル基に変換した後、水酸化カリウムの1N水溶液を用いて、カリウム塩型カルボキシル基を有するポリアクリル酸Kの架橋物(水分散品、固形分10%、平均粒径:68nm、中和率80%)を得た。
吸湿剤として、上記のポリアクリル酸Kの架橋物を用いた以外は、実施例1と同様の方法で水分バリア性積層体10を得た。
【0118】
<実施例3>
イオン交換樹脂(オルガノ製、アンバーライト200CT)を用いて、上記ポリアクリル酸Naの架橋物(HU−820E)のNa塩型カルボキシル基をH型カルボキシル基に変換した後、水酸化リチウムの1N水溶液を用いて、リチウム塩型カルボキシル基を有するポリアクリル酸Liの架橋物(水分散品、固形分10%、平均粒径:65nm、中和率80%)を得た。
吸湿剤として、上記のポリアクリル酸Liの架橋物を用いた以外は、実施例1と同様の方法で水分バリア性積層体10を得た。
【0119】
<実施例4>
イオン交換樹脂(オルガノ製、アンバーライト200CT)を用いて、上記ポリアクリル酸Naの架橋物(HU−820E)のNa塩型カルボキシル基をH型カルボキシル基に変換した後、水酸化セシウムの1N水溶液を用いて、セシウム塩型カルボキシル基を有するポリアクリル酸Csの架橋物(水分散品、固形分10%、平均粒径:80nm、中和率80%)を得た。
吸湿剤として、上記のポリアクリル酸Csの架橋物を用いた以外は、実施例1と同様の方法で水分バリア性積層体10を得た。
【0120】
<実施例5>
実施例1と同様の方法でコーティングフィルムAを形成し、速やかに窒素濃度99.95%以上に調整したグローブボックス内に移行した。有機層7に相当する厚さ12μmのPETフィルムの片面に無機バリア層3bを形成したものを、厚さ4μmのウレタン系接着剤の層6を介して、前記コーティングフィルムAの水分トラップ層1上に、無機バリア層3bが外側になるようにドライラミネートした。吸湿しないように接着樹脂層を硬化するため、50℃×3日間真空下にてエージングを行い、
図4に示すような層構造の水分バリア性積層体11を得た。
【0121】
<実施例6>
実施例1と同様の方法でコーティングフィルムAを形成し、速やかに窒素濃度99.95%以上に調整したグローブボックス内に移行した。厚さ12μmのPETフィルムの片面に無機バリア層3bを形成したものを、厚さ4μmのウレタン系接着剤の層6を介して、前記コーティングフィルムAの水分トラップ層1上に、無機バリア層3bがウレタン系接着剤の層6に接するようにドライラミネートした。吸湿しないように接着樹脂層を硬化するため、50℃×3日間真空下にてエージングを行い、
図5に示すような層構造の水分バリア性積層体12を得た。
【0122】
<実施例7>
実施例5において、片面に無機バリア層3bを形成した厚さ12μmのPETフィルムの替わりに、市販のバリアPETフィルム(凸版印刷社製、GXフィルム)を用いた以外は、実施例5と同様の方法で水分バリア性積層体11を得た。
【0123】
<実施例8>
実施例6において、片面に無機バリア層3bを形成した厚さ12μmのPETフィルムの替わりに、市販のバリアPETフィルム(凸版印刷社製、GXフィルム)を用いた以外は、実施例6と同様の方法で水分バリア性積層体12を得た。
【0124】
<実施例9>
実施例1において、吸湿剤をポリアリルアミンに対して50重量部になるように配合する以外は、実施例1と同様の方法で水分バリア性積層体10を得た。
【0125】
<実施例10>
実施例1において、吸湿剤をポリアリルアミンに対して1300重量部になるように配合する以外は、実施例1と同様の方法で水分バリア性積層体10を得た。
【0126】
<実施例11>
イオン性ポリマー(アニオン性ポリマー)として、ポリアクリル酸(日本純薬製、AC−10LP)を、水酸化ナトリウムを用いて80%部分中和したものを用意した。
また、架橋剤として、1,2―シクロヘキサンジカルボン酸ジグリシジルを用意した。
さらに、密着剤として、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランを用意した。
上記のポリアクリル酸の中和物をイオン性ポリマーとして使用し、溶媒として水/アセトン混合溶媒(重量比で80/20)を用い、上記の架橋剤がポリアクリル酸部分中和物に対して15重量部、上記の密着剤がポリアクリル酸部分中和物に対して3重量部、さらに、吸湿剤がポリアクリル酸部分中和物に対して420重量部になるように配合する以外は、実施例1と同様の方法で水分バリア性積層体10を得た。
【0127】
<実施例12>
実施例11において、吸湿剤がポリアクリル酸部分中和物に対して50重量部になるように配合する以外は、実施例11と同様の方法で水分バリア性積層体10を得た。
【0128】
<実施例13>
実施例11において、吸湿剤がポリアクリル酸部分中和物に対して1300重量部になるように配合する以外は、実施例11と同様の方法で水分バリア性積層体10を得た。
【0129】
<実施例14>
下記の吸湿剤を用意した。
ポリアクリル酸Naの架橋物;
東洋紡製タフチックHU−700E(水分散品)
平均粒径:900nm
固形分:13重量%
上記の吸湿剤を用いた以外は、実施例1と同様の方法で水分バリア性積層体10を得た。
【0130】
<実施例15>
実施例1記載のコーティング液Aを、バーコーターにより、厚み50μmPETフィルム(東洋紡社製、コスモシャインA4300)に塗布した。塗布後の上記フィルムをボックス型の電気オーブンにより、ピーク温度120℃、ピーク温度保持時間10秒の条件で熱処理し、厚み4μmの水分トラップ層1を形成し、コーティングフィルムCを得た。
【0131】
次いで、前記コーティングフィルムCの両側に、厚さ4μmのエポキシ系接着剤の層8を介して、市販のバリアPETフィルム(凸版印刷社製、GXフィルム)をドライラミネートした。吸湿しないように接着樹脂層を硬化するため、50℃×3日間真空下にてエージングを行い、
図9に示すような水分バリア性積層体16を得た。
【0132】
<比較例1>
吸湿剤として、ゼオライト3A(水沢化学製、水分散品、平均粒径800nm、固形分22重量%)を用意した。
上記の吸湿剤を用いた以外は、実施例1と同様の方法で水分バリア性積層体10を得た。
【0133】
<比較例2>
吸湿剤として、シリカゲル(日産化学工業株式会社製、ライトスターLA−S263、平均粒径300nm、固形分26重量%)を用意した。
上記の吸湿剤を用いた以外は、実施例1と同様の方法で水分バリア性積層体10を得た。
【0134】
<比較例3>
実施例1において、第2の無機バリア層3bを形成しない以外は、実施例1と同様の方法で、
図6に示すような層構造の積層体13を得た。
【0135】
<比較例4>
吸湿剤として、ポリアクリル酸Naの架橋物(東洋紡製、タフチックHU−720SF、平均粒径:4μm)を用意した。
上記の吸湿剤を、低密度ポリエチレン(東ソー製、LUMITAC08L55A)に対して43重量部となるようにドライブレンドし、2軸混練押出機により150℃で混練して押し出した。押し出されたシートを、ラミネターを使用して、厚さ12μmのPETフィルム2枚の間に挟んで巻き取り、厚みが20μmの水分トラップ層1の両面がPETフィルムで保護された積層体を作製した。
窒素濃度99.95%以上に調整したグローブボックス内にて、上記の積層体からPETフィルムを剥離し、次いで、PETフィルムが剥離された水分トラップ層1の一方の面に、厚さ4μmのウレタン系接着剤の層6を介して、実施例1で用いた無機バリア層3a被覆PETフィルムを蒸着面が内側になるようにドライラミネートした。
次いで、PETフィルムが剥離された水分トラップ層1の他方の面に、片面に無機バリア層3bが形成されているPETフィルム(PETフィルムの厚み12μm)を、蒸着面が内側になるように、厚さ4μmのウレタン系接着剤を用いてドライラミネートした。
さらに、吸湿しないようにウレタン系接着剤層(
図7の層6に相当)を硬化するため、50℃×3日間エージングを行い、
図7に示すような層構造の積層体14を得た。
【0136】
<評価試験>
上記で作製された試料の水分バリア性積層体について、前述した方法で各種特性を測定した。水分トラップ層1の組成及び水分トラップ層の形成に用いた吸着剤の特性を表1及び表2に示し、水分バリア性積層体について、有機層の材質及び第2の無機層の有無と共に、各種特性の評価結果を、表3及び4に示した。
また、以下の表では、以下の略号を使用している。
γ−GLY−シラン:
γ−グリシドキシプロピルトリメチルシラン
β−EPO−シラン:
β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン
1,2−DCA−ジグリシジル:
1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジグリシジル
【0137】
【表1】
【0138】
【表2】
【0139】
【表3】
【0140】
【表4】