特許第6572907号(P6572907)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6572907熱収縮性ポリエステル系フィルム、およびその製造方法、包装体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6572907
(24)【登録日】2019年8月23日
(45)【発行日】2019年9月11日
(54)【発明の名称】熱収縮性ポリエステル系フィルム、およびその製造方法、包装体
(51)【国際特許分類】
   B29C 61/06 20060101AFI20190902BHJP
   B29C 55/14 20060101ALI20190902BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20190902BHJP
   B65D 25/20 20060101ALI20190902BHJP
   B65D 25/36 20060101ALI20190902BHJP
   B29K 67/00 20060101ALN20190902BHJP
   B29K 105/02 20060101ALN20190902BHJP
   B29L 7/00 20060101ALN20190902BHJP
【FI】
   B29C61/06
   B29C55/14
   C08J5/18CFD
   B65D25/20 Q
   B65D25/36
   B29K67:00
   B29K105:02
   B29L7:00
【請求項の数】7
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2016-559661(P2016-559661)
(86)(22)【出願日】2016年7月22日
(86)【国際出願番号】JP2016071558
(87)【国際公開番号】WO2017018345
(87)【国際公開日】20170202
【審査請求日】2018年2月13日
(31)【優先権主張番号】特願2015-146588(P2015-146588)
(32)【優先日】2015年7月24日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2015-155881(P2015-155881)
(32)【優先日】2015年8月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】春田 雅幸
(72)【発明者】
【氏名】石丸 慎太郎
【審査官】 ▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−184690(JP,A)
【文献】 特開2011−102392(JP,A)
【文献】 特許第5240387(JP,B1)
【文献】 特開2007−016120(JP,A)
【文献】 特開2007−056156(JP,A)
【文献】 特開2014−055236(JP,A)
【文献】 特開平03−142224(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 55/00 − 55/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレンテレフタレートを主たる構成成分とし、全ポリエステル樹脂成分中において非晶質成分となりうるモノマー成分を13モル%以上含有するとともに、以下の要件(1)〜(4)を満足することを特徴とする熱収縮性ポリエステル系フィルム。
(1)98℃の温水にフィルムを10秒間浸漬したときの温湯熱収縮率が、フィルム主収縮方向で40%以上85%以下
(2)98℃の温水にフィルムを10秒間浸漬したときの温湯熱収縮率が、フィルム主収縮方向に直交する方向で−5%以上15%以下
(3)90℃の熱風下で測定したフィルム主収縮方向の最大収縮応力が2MPa以上7MPa以下であり、かつ、収縮応力測定開始時から30秒後の収縮応力が最大収縮応力の60%以上100%以下
(4)全ポリエステル樹脂成分100mol%中ジエチレングリコール由来の構成ユニットが6mol%以上
【請求項2】
主収縮方向がフィルム幅方向であることを特徴とする請求項1記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
【請求項3】
主収縮方向がフィルム長手方向であることを特徴とする請求項1記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
【請求項4】
フィルム主収縮方向に直交する方向の引張破壊強さが、60MPa以上180MPa以下であることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
【請求項5】
80℃の温水中で主収縮方向に10%収縮させた後の主収縮方向に直交する方向の単位厚み当たりの直角引裂強度が、180N/mm以上350N/mm以下であることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
【請求項6】
ヘイズが2%以上18%以下である事を特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
【請求項7】
請求項1〜のいずれかに記載の熱収縮性ポリエステル系フィルムから得られたラベルで、包装対象物の少なくとも外周の一部を被覆して熱収縮させて形成されることを特徴とする包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱収縮性ラベル用途に好適な熱収縮性ポリエステル系フィルム、およびその製造方法、ラベルを用いた包装体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ガラス瓶またはプラスチックボトル等の保護と商品の表示を兼ねたラベル包装、キャップシール、集積包装等の用途に、耐熱性が高く、焼却が容易であり、耐溶剤性に優れたポリエステル系の熱収縮性フィルムが、収縮ラベルとして広範に利用されるようになってきており、PET(ポリエチレンテレフタレート)ボトル容器等の増大に伴って、使用量が増加している傾向にある。
【0003】
これまで、熱収縮性ポリエステル系フィルムとしては、幅方向に大きく収縮させるものが広く利用されている。また、収縮仕上がり性を良好にするため、非収縮方向である長手方向の収縮率をマイナス(いわゆる、加熱により伸びる)も知られている(特許文献1)。
【0004】
幅方向が主収縮方向である熱収縮性ポリエステル系フィルムは、幅方向への収縮特性を発現させるため幅方向に高倍率の延伸が施されているが、主収縮方向と直交する長手方向に関しては、低倍率の延伸が施されているだけであることが多く、延伸されていないものもある。このような長手方向に低倍率の延伸を施したフィルムや、幅方向のみしか延伸されていないフィルムは、長手方向の機械的強度が劣るという欠点がある。また、長手方向の機械的強度を改善するために長手方向に延伸すると、長手方向の機械的強度は高くなるが、長手方向の収縮率も高くなって収縮仕上がり性が悪くなってしまう。これらの短所を改良したのが特許文献2、文献3に記されている長手方向と幅方向の二軸に延伸しながら幅方向のみ熱収縮する熱収縮性フィルムが有る。これらは二軸に延伸する事により収縮応力の減衰が小さく、良好な収縮仕上り性を得る事ができる。
【0005】
しかし、特許文献2は請求項で収縮応力が3MPaから20MPaとなっているが、実施例では8.2〜18MPaと高い。また特許文献3は請求項で収縮応力が7MPaから14MPaとなっているが、実施例でも8.1〜13.3MPaである。これは二軸延伸する事により幅方向への延伸応力が高くなった為と推定される。
【0006】
しかし主収縮方向を幅方向とする特許文献1〜3のフィルムは飲料用PETボトルの容器では問題無かったが、容器の厚みが薄い包装物、例えばコンビニエンスストアやスーパーマーケットで販売されている弁当や惣菜の容器は近年ゴミの軽量化を目的に厚みが薄い容器が使用されている物も有る。厚みが薄い容器では収縮応力が高い熱収縮フィルムを用いると収縮時にフィルムの収縮応力により容器が変形する等のトラブルが生じる。
【0007】
また、熱収縮性フィルムからボトル飲料用のラベルを作製する場合、チューブ状にしてボトルに装着した後にボトル周方向に熱収縮させる必要がある。このため、幅方向に熱収縮する熱収縮性フィルムをラベルにする場合、フィルム幅方向が周方向となるようにチューブ状体を形成した上で、このチューブ状体を所定の長さに切断してラベルとしてから、ボトルに装着しなければならない。従って、幅方向に熱収縮する熱収縮性フィルムからなるラベルをボトルに装着するには、速度的に制限があって、改善が要望されていた。
【0008】
このため、最近では、フィルムロールから直接ボトルの周囲に巻き付けてラベルとする(所謂、ラップ・ラウンド)ことが可能な、長手方向に熱収縮するフィルムが求められている。さらに近年では、お弁当等の合成樹脂製容器の周囲を帯状のフィルムで覆うことによって容器を閉じた状態で保持するラッピング方法が開発されており、長手方向に収縮するフィルムは、このような包装用途にも適している。従って、長手方向に収縮するフィルムは、今後、需要が飛躍的に増大するものと見込まれている。
【0009】
しかし長手方向に収縮するフィルム(特許文献4〜5)において、特許文献4は請求項で収縮応力が6MPa以上となっており、実施例では7MPa以上と高い。また比較例1では収縮応力が3.9MPaと低いフィルムも有るが、これは収縮率が26%と低い為であると考えられる。特許文献5も特許文献4と同様で、収縮応力が6MPa以上となっており、実施例では7MPa以上と高い。また比較例5では収縮応力が4.7MPaと低いフィルムも有るが、これは収縮率が33%と低い為であると考えられる。従って、高い収縮率を要し、かつ収縮応力が低いフィルムを得られていなかった。これは二軸延伸する事により長手方向への延伸応力が高くなった為と推定される。しかし、これらは飲料用PETボトルの容器では問題無かったが、容器の厚みが薄い包装物、例えばコンビニエンスストアやスーパーマーケットで販売されている弁当や惣菜の容器は近年ゴミの軽量化を目的に厚みが薄い容器が使用されている物も有る。厚みが薄い容器では収縮応力が高い熱収縮フィルムを用いると収縮時にフィルムの収縮応力により容器が変形する等のトラブルが生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特公平5-33895号公報
【特許文献2】特許第5067473号公報
【特許文献3】特許第5240387号公報
【特許文献4】特許第4752360号公報
【特許文献5】特許第5151015号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、主収縮方向に高い熱収縮率を有し、主収縮方向に直交する方向は小さい熱収縮率を有し、主収縮方向に直交する方向の機械的強度が大きく、ミシン目開封性も良好で、収縮仕上がり性も優れたものとなる熱収縮性ポリエステルフィルムを提供することを課題としている。
本願第一の発明は、幅方向を主収縮方向とし、長手方向を主収縮方向に直交する方向とする前記の熱収縮性ポリエステルフィルムを提供することを課題とするものである。
本願第二の発明は、長手方向を主収縮方向とし、幅方向を主収縮方向に直交する方向とする前記の熱収縮性ポリエステルフィルムを提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
以下、主収縮方向を幅方向とする熱収縮性ポリエステルフィルムを本願第一の発明、主収縮方向を長手方向とする熱収縮性ポリエステルフィルムを本願第二の発明とそれぞれ称する。特に断りのない場合は、両発明に共通する本発明の事項である。
上記課題を解決した本発明は、以下の要件(1)〜(4)を満足することを特徴とする熱収縮性ポリエステル系フィルムである。
(1)98℃の温水にフィルムを10秒間浸漬したときの温湯熱収縮率が、フィルム主収縮方向で40%以上85%以下
(2)98℃の温水にフィルムを10秒間浸漬したときの温湯熱収縮率が、フィルム主収縮方向に直交する方向で−5%以上15%以下
(3)90℃の熱風下で測定したフィルム主収縮方向の最大収縮応力が2MPa以上7MPa以下であり、かつ、収縮応力測定開始時から30秒後の収縮応力が最大収縮応力の60%以上100%以下
(4)全ポリエステル樹脂成分100mol%中ジエチレングリコール由来の構成ユニットが6mol%以上
【0013】
上記の要件(4)におけるジエチレングリコール(DEG)の量をポリエステル樹脂の構成ユニットに含ませることにより、本発明者等は延伸時の幅方向の延伸応力が低下するが、フィルム幅方向の熱収縮率は低下せずに、幅方向の収縮応力のみ低下する事を見出した。また、この現象が二軸延伸でも同様な効果が有る事を見出し、本発明を完成させた。
【0014】
本発明の熱収縮ポリエステル系フィルムにおいては、エチレンテレフタレートを主たる構成成分とし、全ポリエステル樹脂成分中において非晶質成分となりうるモノマー成分を13モル%以上含有していることが好ましい。
【0015】
本発明の熱収縮ポリエステル系フィルムにおいては、主収縮方向がフィルム幅方向であることが好ましい様態の1つである。
【0016】
本発明の熱収縮ポリエステル系フィルムにおいては、主収縮方向がフィルム長手方向であることが好ましい様態の1つである。
【0017】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムにおいては、フィルム主収縮方向に直交する方向の引張破壊強さが、60MPa以上180MPa以下であることが好ましい。
【0018】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムにおいては、80℃の温水中で主収縮方向に10%収縮させた後の主収縮方向に直交する方向の単位厚み当たりの直角引裂強度が、180N/mm以上350N/mm以下であることが好ましい。
【0019】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムにおいては、ヘイズが2%以上18%以下である事が好ましい。
【0020】
本発明には、上記熱収縮性ポリエステル系フィルムから得られたラベルで、包装対象物の少なくとも外周の一部を被覆して熱収縮させて形成された包装体も含まれる。
【0021】
本発明には、上記熱収縮性ポリエステル系フィルムを製造する方法であって主収縮方向に延伸する工程と、主収縮方向に対して直交する方向に延伸する工程を含む熱収縮性ポリエステル系フィルムの製造方法も含まれる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、高い収縮率を有するだけで無く、収縮応力が低い。その為、薄肉化された容器にも適しており、従来よりも広い対象物を包装する事が可能な熱収縮性フィルムを提供することができた。
【0023】
また、縦−横又は横−縦の二軸延伸を行っているため、幅方向(主収縮方向)と直交する長手方向又は長手方向(主収縮方向)と直交する幅方向における機械的強度も高いので、PETボトル等のラベルとして使用した際には、ボトル等の容器に短時間の内に非常に効率良く装着することができ、熱収縮させたときにシワや収縮不足の極めて少ない良好な仕上りを発現させることができる。また、フィルム強度が大きいため、印刷加工やチュービング加工をする際の加工特性が良好である。
【0024】
さらに、収縮応力の減衰率が小さく、収縮開始から30秒後の収縮応力も高いので、ラベル装着工程の加熱時に容器が熱膨張しても追従性が良く、ラベルの弛みが生じ難く良好な外観が得られる。加えて、ラベルとしてのミシン目開封性が良好であり、ラベルを開封する際には引き裂き始めから引き裂き完了に至るまで、ミシン目に沿って綺麗にカットすることができる。
【0025】
また、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、縦−横又は横−縦の二軸に延伸されて製造されるものであるので、非常に効率よく生産することができる。また、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、溶剤によって表裏(あるいは同面同士)を接着させた際の接着力がきわめて高く、PETボトル等のラベルを始めとする各種被覆ラベル等に好適に用いることができる。
【0026】
また、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、熱収縮性ポリエステルフィルム単体だけで無く、熱収縮性ポリエステルフィルムの層が有る、異なる樹脂と積層した熱収縮性フィルムも該当する。
【0027】
そして、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムから得られたラベルで包装された包装体は、美麗な外観を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】直角引裂強度を測定するための試験片の形状を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムについて詳しく説明する。尚、熱収縮性ポリエステル系フィルムの製造方法は、後に詳述するが、フィルムは通常、ロール等を用いて搬送し、延伸することにより得られる。このとき、フィルムの搬送方向を長手方向と称し、前記長手方向に直交する方向をフィルム幅方向と称する。従って、以下で示す熱収縮性ポリエステル系フィルムの幅方向とは、ロール巻き出し方向に対し垂直な方向であり、フィルム長手方向とは、ロールの巻き出し方向に平行な方向をいう。本願第一の発明の実施例および比較例で得られた熱収縮性ポリエステル系フィルムにおける主収縮方向は幅方向であり、本願第二の発明の実施例および比較例で得られた熱収縮性ポリエステル系フィルムにおける主収縮方向は長手方向である。
【0030】
本発明者等は、本願第一の発明においては特許文献2や特許文献3に記載したように、長手方向の機械的強度が高く、ミシン目開封性に優れた熱収縮性ポリエステル系フィルムを得るには、“長手方向に配向しつつ収縮力に寄与しない分子”をフィルム中に存在させることが必要であるとの知見を得て、その結果、フィルム縦方向(長手方向)に延伸した後に幅方向に延伸する、いわゆる縦−横延伸法を採用している。この縦−横延伸法では、縦方向の延伸の後に、縦方向の収縮力を緩和させるため、幅方向の延伸の前に中間熱処理を行っている。また、本願第二の発明においては特許文献4や特許文献5に記載したように、幅方向の機械的強度が高く、ミシン目開封性に優れた熱収縮性ポリエステル系フィルムを得るには、“幅方向に配向しつつ収縮力に寄与しない分子”をフィルム中に存在させることが必要であるとの知見を得て、その結果、フィルム横方向(幅方向)に延伸した後に長手方向に延伸する、いわゆる横−縦延伸法を採用している。この横−縦延伸法では、横方向の延伸の後に、横方向の収縮力を緩和させるため、長手方向の延伸の前に中間熱処理を行っている。
【0031】
より高収縮なフィルムを得るための手法の一つに、フィルム中で非晶となりうるユニットを構成するモノマー成分(以下、単に非晶成分)量を増やすという手段がある。従来の横一軸延伸法で得られるフィルムでは、非晶成分量を増やすことで、それに見合った収縮率の増加が認められていた。しかし、本発明者等が見出した上記の縦−横延伸法で得られるフィルム及び上記の横−縦延伸法で得られるフィルムは、非晶成分量を増やしても、増量分に見合った収縮率の増大が見られないということが判明した。非晶成分量をさらに増やすと、厚みムラが大きくなって生産性が悪くなってしまう。そこで本発明者らはジエチレングリコール(以下、単に「DEG」とも表す。)に着目した。
【0032】
ジエチレングルコールが多くなると、耐熱性が悪くなり、溶融押出しで異物の吐出が増える為これまで積極的に使用されていなかった。しかし本発明者らは、ポリエステル樹脂の構成ユニットとしてジエチレングリコールを使用するとフィルム延伸時の延伸応力が低下し、更に収縮率は低下させずに収縮応力のみ減少させることが可能であることが分かった。
【0033】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムに用いるポリエステルは、エチレンテレフタレートユニットを主たる構成成分とするものである。エチレンテレフタレートユニットは、ポリエステルの構成ユニット100モル%中、50モル%以上が好ましく、60モル%以上がより好ましく、70モル%以上がさらに好ましい。
【0034】
本発明のポリエステルを構成する他のジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、オルトフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸、および1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸等を挙げることができる。
【0035】
ここで、上記の「非晶質成分となり得る」の用語の解釈について詳細に説明する。
【0036】
本発明において、「非晶性ポリマー」とは、具体的にはDSC示差走査熱量分析装置における測定で融解による吸熱ピークを有さない場合を指す。非晶性ポリマーは実質的に結晶化が進行しておらず、結晶状態をとりえないか、結晶化しても結晶化度が極めて低いものである。
【0037】
また、本発明において「結晶性ポリマー」とは上記の「非晶性ポリマー」ではないもの、即ち、DSC示差走査熱量分析装置における測定で融解による吸熱ピークを有する場合を指す。結晶性ポリマーは、ポリマーが昇温すると結晶化されうる、結晶化可能な性質を有する、あるいは既に結晶化しているものである。
【0038】
一般的には、モノマーユニットが多数結合した状態であるポリマーについて、ポリマーの立体規則性が低い、ポリマーの対象性が悪い、ポリマーの側鎖が大きい、ポリマーの枝分かれが多い、ポリマー同士の分子間凝集力が小さい、などの諸条件を有する場合、非晶性ポリマーとなる。しかし存在状態によっては、結晶化が十分に進行し、結晶性ポリマーとなる場合がある。例えば、側鎖が大きいポリマーであっても、ポリマーが単一のモノマーユニットから構成される場合、結晶化が十分に進行し、結晶性となり得る。そのため、同一のモノマーユニットであっても、ポリマーが結晶性になる場合もあれば、非晶性になる場合もあるため、本発明では「非晶質成分となり得るモノマー由来のユニット」という表現を用いた。
【0039】
ここで、本発明においてモノマーユニットとは、1つの多価アルコール分子および1つの多価カルボン酸分子から誘導されるポリマーを構成する繰り返し単位のことである。
【0040】
テレフタル酸とエチレングリコールからなるモノマーユニットがポリマーを構成する主たるモノマーユニットである場合、イソフタル酸とエチレングリコールからなるモノマーユニット、テレフタル酸とネオペンチルグリコールからなるモノマーユニット、テレフタル酸と1.4−シクロヘキサンジメタノールからなるモノマーユニット、イソフタル酸とブタンジオールからなるモノマーユニット等が、上記の非晶質成分となり得るモノマー由来のユニットとして挙げられる。
【0041】
また、3価以上の多価カルボン酸(例えば、トリメリット酸、ピロメリット酸およびこれらの無水物等)をポリエステルに含有させないことが好ましい。これらの多価カルボン酸を含有するポリエステルを使用して得た熱収縮性ポリエステル系フィルムでは、必要な高収縮率を達成しにくくなる。
【0042】
ポリエステルを構成するジオール成分としては、エチレングリコールの他、1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2−n−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2,2−イソプロピル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジ−n−ブチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール等の脂肪族ジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等の脂環式ジオール、ビスフェノールA等の芳香族系ジオール等を挙げることができる。
【0043】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムに用いるポリエステルは、ジエチレングリコール由来の構成ユニットを含む必要がある。ジエチレングリコール由来の構成ユニットは、ポリエステルの構成ユニット100モル%中、6モル%以上が好ましく、7モル%以上がより好ましく、8モル%以上がさらに好ましい。ジエチレングリコール由来の構成ユニットの上限は30モル%以下であることが好ましく、28モル%以下がより好ましく、26モル%以下であることがさらに好ましい。ジエチレングリコール由来の構成ユニットを6モル%以上含有する場合、収縮応力の低減のような本発明の効果が向上するため好ましい。一方、ジエチレングリコール成分が30モル%より多く含有する場合、フィルム中の劣化物や欠点が増えてしまうため好ましく無い。
【0044】
また、ポリエステルは、全ポリエステル樹脂中における多価アルコール成分100モル%中および多価カルボン酸成分100モル%中(すなわち、合計200モル%中)の非晶成分の合計が13モル%以上、好ましくは15モル%以上、より好ましくは17モル%以上、特に好ましくは19モル%以上、最も好ましくは20モル%以上である。また非晶成分の合計の上限は特に限定されないが、30モル%以下とすることが好ましく、28モル%以下がより好ましく、26モル%以下であることが特に好ましい。非晶成分量を上記範囲にすることにより、ガラス転移点(Tg)を60〜80℃に調整したポリエステルが得られる。
【0045】
なお、ポリエステルには、炭素数8個以上のジオール(例えば、オクタンジオール等)、または3価以上の多価アルコール(例えば、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、グリセリン、ジグリセリン等)を含有させないことが好ましい。これらのジオール、または多価アルコールを含有するポリエステルを使用して得た熱収縮性ポリエステル系フィルムでは、必要な高収縮率を達成しにくくなる。また、ポリエステルには、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコールをできるだけ含有させないことも好ましい。
【0046】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムを形成する樹脂の中には、必要に応じて各種の添加剤、例えば、ワックス類、酸化防止剤、帯電防止剤、結晶核剤、減粘剤、熱安定剤、着色用顔料、着色防止剤、紫外線吸収剤等を添加することができる。
【0047】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムを形成する樹脂の中には、フィルムの作業性(滑り性)を良好にする滑剤としての微粒子を添加することが好ましい。微粒子としては、任意のものを選択することができるが、例えば、無機系微粒子としては、シリカ、アルミナ、二酸化チタン、炭酸カルシウム、カオリン、硫酸バリウム等、有機系微粒子としては、例えば、アクリル系樹脂粒子、メラミン樹脂粒子、シリコーン樹脂粒子、架橋ポリスチレン粒子等を挙げることができる。微粒子の平均粒径は、0.05〜3.0μmの範囲内(コールターカウンタにて測定した場合)で、必要に応じて適宜選択することができる。
【0048】
熱収縮性ポリエステル系フィルムを形成する樹脂の中に上記粒子を配合する方法としては、例えば、ポリエステル系樹脂を製造する任意の段階において添加することができるが、エステル化の段階、もしくはエステル交換反応終了後、重縮合反応開始前の段階でエチレングリコール等に分散させたスラリーとして添加し、重縮合反応を進めるのが好ましい。また、ベント付き混練押出し機を用いてエチレングリコールまたは水等に分散させた粒子のスラリーとポリエステル系樹脂原料とをブレンドする方法、または混練押出し機を用いて、乾燥させた粒子とポリエステル系樹脂原料とをブレンドする方法等によって行うのも好ましい。
【0049】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムには、フィルム表面の接着性を良好にするためにコロナ処理、コーティング処理や火炎処理等を施したりすることも可能である。
【0050】
次に、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムの特性を説明する。本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、98℃の温湯中に、無荷重状態で10秒間浸漬し、フィルムを直ちに25℃±0.5℃の水中に10秒間浸漬させた後、収縮前後の長さから、下式1により算出したフィルムの幅方向(主収縮方向)の熱収縮率(すなわち、98℃の温湯熱収縮率)が、40%以上85%以下である。
熱収縮率={(収縮前の長さ−収縮後の長さ)/収縮前の長さ}×100(%) 式1
【0051】
98℃における主収縮方向の温湯熱収縮率が40%未満であると、容器全体を覆う(いわゆるフルラベル)高収縮のフィルムに対する要求に対応できない上に、収縮量が小さいため、ラベルとして用いた場合に、熱収縮後のラベルに歪み、収縮不足、シワ、弛み等が生じてしまう。98℃の温湯熱収縮率は45%以上が好ましく、50%以上がより好ましく、55%以上が特に好ましく、60%以上が最も好ましい。なお、98℃における主収縮の温湯熱収縮率が85%を超えるようなフィルムに対する要求度は低いため、温湯熱収縮率の上限を85%とした。
【0052】
また、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、上記と同様にして測定されたフィルム主収縮方向と直交する方向(長手方向)の98℃の温湯熱収縮率が、−5%以上15%以下である。98℃における主収縮方向と直交する方向の温湯熱収縮率が−5%よりも小さいと、加熱によりフィルムの伸長する量が多過ぎて、容器のラベルとして使用する際に良好な収縮外観を得ることができないので好ましくなく、反対に、98℃における主収縮方向と直交する方向の温湯熱収縮率が15%を超えると、熱収縮後のラベルが短くなり(ラベル高さが減少)、ラベル面積が小さくなるので、フルラベルとしては好ましくなく、また、熱収縮後のラベルに歪みが生じ易くなるので好ましくない。98℃における主収縮方向と直交する方向の温湯熱収縮率の上限に関しては、12%以下が好ましく、10%以下がより好ましく、9%以下が特に好ましく、8%以下が最も好ましい。
【0053】
なお、98℃における主収縮方向と直交する方向の温湯熱収縮率が−5%より低いと、収縮後にラベルの高さが高くなり、その結果、余剰分がダブツキ、シワとなるので下限を−5%とした。
【0054】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、90℃の熱風下で測定したフィルム主収縮方向の最大収縮応力が2MPa以上7MPa以下であり、かつ、収縮応力測定開始時から30秒後の収縮応力が最大収縮応力の60%以上100%以下であることが好ましい。なお、収縮応力の測定は実施例に記載の方法で行うものとする。
【0055】
フィルム主収縮の90℃での最大収縮応力が7MPaを上回ると、ペットボトルの容器等では問題無いが、薄肉化した容器では収縮時に収縮応力により潰れが生じて好ましくない。90℃の最大収縮応力は、6MPa以下がより好ましく、5MPa以下がさらに好ましい。また90℃のフィルム主収縮方向の最大収縮応力は、2MPaを下回ると、容器のラベルとして使用する際に、ラベルが弛んで容器に密着しないことがあるため、好ましくない。90℃の最大収縮応力は、2.5MPa以上がより好ましく、3MPa以上がさらに好ましい。
【0056】
90℃の熱風中の測定開始から30秒後のフィルム主収縮方向の収縮応力は、上記最大収縮応力に対して60%以上100%以下であることが好ましい。すなわち、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、熱収縮し始めてから30秒後も最大熱収縮応力と同程度の収縮応力を示すという特異な熱収縮特性を示す。30秒後の収縮応力/最大収縮応力(以下、応力比)が60%未満であると、容器へラベルを被せて加熱収縮させる際に、容器が加熱により膨張した時のラベルの追従性が悪くなり、収縮後に容器の温度が下がって熱膨張が無くなると、ラベルが弛んでしまい、好ましくない。上記応力比は、75%以上がより好ましく、80%以上がさらに好ましく、90%以上が特に好ましい。応力比は大きい方が、追従性が良好となるため好ましいが、30秒後の収縮応力が最大収縮応力を上回ることはあり得ないので、上限は100%である。
【0057】
本願第一の発明の熱収縮ポリエステル系フィルムにおいては、主収縮方向がフィルム幅方向であることが好ましい。尚、上述の通り、熱収縮性ポリエステル系フィルムの長手方向とは、熱収縮性フィルムの製膜方向(ライン方向)であり、熱収縮性ポリエステル系フィルムの幅方向とは、上記の長手方向に対して直交する方向をさす。本願第一の発明の実施例および比較例で得られた熱収縮性ポリエステル系フィルムにおける主収縮方向は幅方向である。
【0058】
本願第二の発明の熱収縮ポリエステル系フィルムにおいては、主収縮方向がフィルム長手方向であることが好ましい。本願第二の発明の実施例および比較例で得られた熱収縮性ポリエステル系フィルムにおける主収縮方向は長手方向である。
【0059】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、主収縮方向と直交する方向の引張破壊強さが60MPa以上150MPa以下であることが好ましい。引張破壊強さの測定方法は実施例で説明する。上記引張破壊強さが60MPaを下回ると、ラベルとして容器に装着する際の“腰”(スティフネス)が弱くなるので好ましくない。また、本発明の延伸方法では、引張破壊強さが150MPaを上回るのは困難である。引張破壊強さは、80MPa以上がより好ましく、100MPa以上がさらに好ましい。なお、主収縮方向と直交する方向の引張破壊強さは、本願第一の発明においては縦延伸工程を、本願第二の発明においては横延伸工程を、それぞれ行わなければ上記範囲にはなり得ない。
【0060】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、80℃の温水中で主収縮方向に10%収縮させた後に、フィルム主収縮方向と直交する方向の単位厚み当たりの直角引裂強度を求めたときに、その主収縮方向と直交する方向の直角引裂強度が180N/mm以上350N/mm以下であることが好ましい。なお、直角引裂強度の測定方法は実施例で説明する。
【0061】
上記直角引裂強度が180N/mmより小さいと、ラベルとして使用した場合に、運搬中の落下等の衝撃によって簡単に破れてしまう事態が生ずる可能性があるので好ましくなく、反対に、直角引裂強度が350N/mmより大きいと、ラベルを引き裂く際のカット性(引き裂き易さ)が不良となるため好ましくない。直角引裂強度は、250N/mm以上であるとより好ましく、280N/mm以上であるとさらに好ましく、330N/mm以下がより好ましい。
【0062】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、ヘイズが2%以上18%以下であることが好ましい。ヘイズが18%を超えると、透明性が不良となり、ラベル作製の際に見栄えが悪くなる可能性があるので好ましくない。なお、ヘイズ値は、15%以下であるとより好ましく、13%以下がさらに好ましく、12%以下であると特に好ましく、9%以下であると最も好ましい。また、ヘイズ値は小さいほど好ましいが、実用上必要な滑り性を付与する目的でフィルムに所定量の滑剤を添加せざるを得ないこと等を考慮すると、2%程度が下限になる。
【0063】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、特に限定されないが、厚みが6μm以上70μm以下であることが好ましい。厚みのより好ましい下限は10μmである。
【0064】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、上記したポリエステル原料を押出機により溶融押し出しして未延伸フィルムを形成し、その未延伸フィルムを以下に示す所定の方法により、二軸延伸して熱処理することによって得ることができる。なお、ポリエステルは、前記した好適なジカルボン酸成分とジオール成分とを公知の方法で重縮合させることで得ることができる。また、通常は、チップ状のポリエステルを2種以上混合してフィルムの原料として使用する。
【0065】
原料樹脂を溶融押し出しする際には、ポリエステル原料をホッパードライヤー、パドルドライヤー等の乾燥機、または真空乾燥機を用いて乾燥するのが好ましい。そのようにポリエステル原料を乾燥させた後に、押出機を利用して、200〜300℃の温度で溶融しフィルム状に押し出す。押し出しに際しては、Tダイ法、チューブラー法等、既存の任意の方法を採用することができる。
【0066】
そして、押し出し後のシート状の溶融樹脂を急冷することによって未延伸フィルムを得ることができる。なお、溶融樹脂を急冷する方法としては、溶融樹脂を口金から回転ドラム上にキャストして急冷固化することにより実質的に未配向の樹脂シートを得る方法を好適に採用することができる。
【0067】
さらに、本願第一の発明においては得られた未延伸フィルムを、後述するように、所定の条件で長手方向に延伸し、その縦延伸後のフィルムをアニール処理した後に急冷し、次いで、熱処理し、その熱処理後のフィルムを所定の条件で冷却した後に、所定の条件で幅方向に延伸し、再度、熱処理することによって、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムが得ることが可能となる。以下、本願第一の発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムを得るための好ましい製膜方法について、説明する。
【0068】
[本願第一の発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムの製膜方法]
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、下記手順で成膜される。
(1)縦延伸条件の制御
(2)縦延伸後における中間熱処理
(3)中間熱処理と横延伸との間における自然冷却(加熱の遮断)
(4)自然冷却後のフィルムの強制冷却
(5)横延伸条件の制御
(6)横延伸後の熱処理
(7)上記の製造工程中、2回以上長手方向にリラックスする工程を設ける
【0069】
以下、上記した各手段について順次説明する。
(1)縦延伸条件の制御
本発明の縦−横延伸法によるフィルムの製造においては、延伸温度をTg以上Tg+30℃以下とし、3.3倍以上4.6倍以下となるように縦延伸する必要がある。縦延伸は一段延伸でも二段以上の多段延伸でも、どちらも用いることができる。
【0070】
縦方向に延伸する際に、延伸温度が高すぎたり、トータルの縦延伸倍率が大きくなると、非晶分子が伸ばされることで、長手方向の熱収縮率が大きくなる傾向にある。また、あまりに縦延伸倍率が大きすぎると、縦延伸後フィルムの配向結晶化が進み、横延伸工程で破断が生じ易くなり、横延伸後の横方向の収縮率も低下するので好ましくない。このため、縦延伸倍率の上限は4.6倍とする。縦延伸倍率は、4.5倍以下がより好ましく、4.4倍以下がさらに好ましい。一方、縦延伸倍率が小さすぎると、長手方向の収縮率は小さくなるが、長手方向の分子配向度合いも小さくなって、長手方向の直角引裂き強度が大きくなり、引張破壊強さが小さくなるため好ましくない。縦延伸倍率は3.3倍以上が好ましく、3.4倍以上がより好ましく、3.5倍以上がさらに好ましい。
【0071】
(2)縦延伸後における中間熱処理
長手方向に配向した分子を熱緩和させるため、縦延伸後に熱処理を行う。このとき、未延伸フィルムを縦延伸した後に、テンター内で幅方向の両端際をクリップによって把持した状態で、Tg+40℃以上Tg+60℃以下の温度で6.0秒以上12.0秒以下の時間にわたって熱処理(以下、中間熱処理という)することが必要である。
【0072】
なお、中間熱処理の温度はTg+41℃以上がより好ましく、Tg+42℃以上がさらに好ましく、Tg+58℃以下がより好ましく、Tg+56℃以下がさらに好ましい。中間熱処理の温度が高すぎると、縦延伸によって配向した分子鎖が結晶へと変化し、横延伸後に高熱収縮率を得ることができなくなる。一方、中間熱処理の時間は、6.0秒以上12.0秒以下の範囲内で原料組成に応じて適宜調整する必要がある。中間熱処理はフィルムへ与える熱量が重要であり、中間熱処理の温度が低いと長時間の中間熱処理が必要となる。しかし中間熱処理時間があまりに長いと設備も巨大化するので、温度と時間で適宜調整するのが好ましい。
【0073】
中間熱処理の温度をTg+40℃以上に保つことにより、長手方向の分子配向度合いを大きくすることが可能となり、直角引裂強度を小さく保ちつつ、長手方向の引張破壊強さを大きく保つことが可能となる。一方、中間熱処理の温度をTg+60℃以下にコントロールすることによって、フィルムの結晶化を抑える。このため、中間熱処理の温度をTg+60℃以下にすることにより、結晶化を抑え、幅方向への収縮率を高くすることが可能となる。また、中間熱処理の温度をTg+60℃以下に抑えることにより、フィルムの表層の結晶化を抑えて溶剤接着強度を大きく保つことができ、さらに、長手方向の厚み斑を小さくすることも可能となる。
【0074】
(3)中間熱処理と横延伸との間における自然冷却(加熱の遮断)
本発明の縦−横延伸法によるフィルムの製造においては、縦延伸後に中間熱処理を施す必要があるが、その縦延伸と中間熱処理の後において、0.5秒以上3.0秒以下の時間にわたって、フィルムを積極的な加熱操作を実行しない中間ゾーンを通過させる必要がある。すなわち、横延伸用のテンターの横延伸ゾーンの前方に中間ゾーンを設けておき、縦延伸後の中間熱処理後のフィルムをテンターに導き、所定時間をかけてこの中間ゾーンを通過させた後に、横延伸を実施するのが好ましい。加えて、その中間ゾーンにおいては、フィルムを通過させていない状態で短冊状の紙片を垂らしたときに、その紙片がほぼ完全に鉛直方向に垂れ下がるように、フィルムの走行に伴う随伴流および冷却ゾーンからの熱風を遮断するのが好ましい。なお、中間ゾーンを通過させる時間が0.5秒を下回ると、横延伸が高温延伸となり、横方向の収縮率を充分に高くすることができなくなるので好ましくない。反対に中間ゾーンを通過させる時間は3.0秒もあれば充分であり、それ以上の長さに設定しても、設備の無駄となるので好ましくない。なお、中間ゾーンを通過させる時間は、0.7秒以上がより好ましく、0.9秒以上がさらに好ましく、2.8秒以下がより好ましく、2.6秒以下がさらに好ましい。
【0075】
(4)自然冷却後のフィルムの強制冷却
本発明の縦−横延伸法によるフィルムの製造においては、自然冷却したフィルムをそのまま横延伸するのではなく、フィルムの温度がTg以上Tg+40℃以下となるように積極的に強制冷却することが必要である。かかる強制冷却処理を施すことによって、ラベルとした際のミシン目開封性が良好なフィルムを得ることが可能となる。なお、強制冷却後のフィルムの温度は、Tg+2℃以上がより好ましく、Tg+4℃以上がさらに好ましく、Tg+35℃以下がより好ましく、Tg+30℃以下がさらに好ましい。
【0076】
フィルムを強制冷却する際に、強制冷却後のフィルムの温度がTg+40℃を上回ったままであると、フィルムの幅方向の収縮率が低くなってしまい、ラベルとした際の収縮性が不充分となってしまうが、強制冷却後のフィルムの温度がTg+40℃以下となるようにコントロールすることによって、フィルムの幅方向の収縮率を大きく保持することが可能となる。また、強制冷却後のフィルムの温度がTg+40℃を上回ったままであると、冷却後に行う横延伸の応力が小さくなり、幅方向の厚み斑が大きくなり易い傾向にあるが、冷却後のフィルムの温度がTg+40℃以下となるような強制冷却を施すことによって、冷却後に行う横延伸の応力を高めて、幅方向の厚み斑を小さくすることが可能となる。
【0077】
(5)横延伸条件の制御
横延伸は、テンター内で幅方向の両端際をクリップによって把持した状態で、Tg+10℃以上Tg+40℃以下の温度で3倍以上7倍以下の倍率となるように行う必要がある。かかる所定条件での横延伸を施すことによって、幅方向へ分子を配向させて幅方向の高い収縮力を発現させることが可能となり、ラベルとした際のミシン目開封性が良好なフィルムを得ることが可能となる。なお、横延伸の温度は、Tg+13℃以上がより好ましく、Tg+16℃以上がさらに好ましく、Tg+37℃以下がより好ましく、Tg+34℃以下がさらに好ましい。一方、横延伸の倍率は、3.5倍以上がより好ましく、4倍以上がさらに好ましく、6.5倍以下がより好ましく、6倍以下がさらに好ましい。
【0078】
横方向に延伸する際に、延伸温度がTg+40℃を上回ると、幅方向の収縮率が小さくなってしまうが、延伸温度をTg+40℃以下にコントロールすることによって、幅方向の収縮率を大きくすることが可能となる。また、フィルムの温度がTg+40℃を上回ると、横延伸の延伸応力が小さくなり、幅方向の厚み斑が大きくなり易い傾向にある。横延伸温度がTg+40℃以下にコントロールを施すことによって、横延伸の応力を高めて、幅方向の厚み斑を小さくすることが可能となる。
【0079】
一方、延伸温度がTg+10℃を下回ると、幅方向への分子配向の度合いが大きくなりすぎて、横延伸時に破断し易くなり、またフィルムの内部のボイドが増加することによって、フィルムのヘイズが大きくなるため好ましくない。
【0080】
(6)横延伸後の熱処理(最終熱処理)
横延伸後のフィルムは、テンター内で幅方向の両端際をクリップで把持した状態で、Tg以上Tg+50℃以下の温度で1秒以上9秒以下の時間にわたって最終的に熱処理されることが必要である。熱処理温度がTg+50℃より高いと、幅方向の収縮率が低下し、98℃の熱収縮率が50%より小さくなって好ましくない。また、熱処理温度がTgより低いと、幅方向へ充分に弛緩できず、最終的な製品を常温下で保管した時に、経時で幅方向の収縮(いわゆる自然収縮率)が大きくなり好ましくない。また、熱処理時間は長いほど好ましいが、あまりに長いと設備が巨大化するので、9秒以下とすることが好ましい。
【0081】
(7)長手方向への弛緩(リラックス)工程
長手方向の収縮率を小さくするには、縦延伸によって長手方向に配向した分子を、熱緩和(リラックス)させることが好ましい。縦延伸後のフィルムの長手方向の残留収縮応力が大きいと、横延伸後のフィルム長手方向の温湯熱収縮率が大きくなり、収縮仕上り性が悪くなる欠点がある。横延伸工程で熱処理を行うことが、フィルム長手方向の温湯熱収縮率を下げるのに有効であるが、熱による緩和だけではフィルム中の結晶が多くなり、幅方向の収縮率を高くするのに不向きである。
【0082】
そこで本発明者等は検討した結果、幅方向の収縮率を高く、かつ、長手方向の収縮率を低くするには、長手方向に延伸した後、長手方向に弛緩することが有効な手段の一つである。そして、以下に示す手段でフィルムを長手方向に弛緩(リラックス)させることでコントロールできることを見出した。なお、次の(i)〜(iii)のうち、いずれか2工程を行うか、3工程全てを行うことが望ましい。
(i)縦延伸後のフィルムをTg以上Tg+60℃以下の温度で加熱し、速度差のあるロ
ールを用いて、0.05秒以上5秒以下の時間で長手方向に10%以上50%以下のリラックスを実施する工程。加熱手段は、温調ロール、近赤外線、遠赤外線、熱風ヒータ等のいずれも用いることができる。
(ii)中間熱処理工程において、対向するテンター内の把持用クリップ間の距離を縮めることにより、0.1秒以上12秒以下の時間で長手方向に21%以上40%以下リラックスを実施する工程。
(iii)最終熱処理工程において、対向するテンター内の把持用クリップ間の距離を縮め
ることにより、0.1秒以上9秒以下の時間で長手方向に21%以上40%以下リラックスを実施する工程。
【0083】
以下、各工程を説明する。
(i)縦延伸後のリラックス
縦延伸後のフィルムをTg以上Tg+60℃以下の温度で加熱し、速度差のあるロールを用いて、0.05秒以上5.0秒以下の時間で長手方向に10%以上50%以下のリラックスを実施することが望ましい。温度がTgより低いと縦延伸後のフィルムが収縮せずリラックスを実施できないため、好ましくない。一方、Tg+60℃より高いと、フィルムが結晶化し、透明性等が悪くなるため、好ましくない。リラックス時のフィルム温度は、Tg+10℃以上Tg+55℃以下がより好ましく、Tg+20℃以上Tg+50℃以下がさらに好ましい。
【0084】
また縦延伸後のフィルムの長手方向のリラックスを行う時間は0.05秒以上5秒以下が好ましい。0.05秒未満であるとリラックスが短時間になってしまい、温度をTg+60℃より高くしないとリラックスムラが生じるので好ましくない。またリラックスの時間が5秒より長くなると低い温度でリラックスができフィルムとしては問題無いが、設備が巨大化するので、温度と時間で適宜調整するのが好ましい。リラックス時間は、より好ましくは0.1秒以上4.5秒以下であり、さらに好ましくは0.5秒以上4秒以下である。
【0085】
また縦延伸後フィルムの長手方向のリラックス率が10%未満であると、長手方向の分子配向の緩和が充分に行えず、好ましくない。また縦延伸後フィルムの長手方向のリラックス率が50%より大きいと、長手方向の直角引裂強度が大きくなり、引張破壊強さが小さくなるので好ましくない。縦延伸後フィルムのリラックス率は15%以上45%以下がより好ましく、20%以上40%以下がさらに好ましい。
【0086】
縦延伸後のフィルムをリラックスさせる手段としては、縦延伸後のフィルムをロール間に配設した加熱装置(加熱炉)で加熱し、ロール間の速度差で実施する方法や、縦延伸後のフィルムをロールと横延伸機間に配設した加熱装置(加熱炉)で加熱し、横延伸機の速度をロールより遅くする方法等で、実施できる。加熱装置(加熱炉)としては、温調ロール、近赤外線ヒータ、遠赤外線ヒータ、熱風ヒータ等のいずれも用いることができる。
【0087】
(ii)中間熱処理工程でのリラックス
中間熱処理工程においては、対向するテンター内の把持用クリップ間の距離を縮めることにより、0.1秒以上12秒以下の時間で長手方向に21%以上40%以下のリラックスを実施することが望ましい。リラックス率が21%未満であると、長手方向の分子配向の緩和が充分に行えず、好ましくない。またリラックス率が40%より大きいと、長手方向の直角引裂強度が大きくなり、引張破壊強さが小さくなるので好ましくない。リラックス率は22%以上がより好ましく、38%以下がより好ましく、36%以下がさらに好ましい。
【0088】
また中間熱処理工程で長手方向のリラックスを行う時間は0.1秒以上12秒以下が好ましい。0.1秒未満であるとリラックスが短時間になってしまい、温度をTg+60℃より高くしないとリラックスムラが生じるので好ましくない。またリラックス時間が12秒より長くなるとフィルムとしては問題無いが、設備が巨大化するので、温度と時間で適宜調整するのが好ましい。リラックス時間は、より好ましくは0.3秒以上11秒以下であり、さらに好ましくは0.5秒以上10秒以下である。
【0089】
(iii)最終熱処理工程でのリラックス
最終熱処理工程においては、対向するテンター内の把持用クリップ間の距離を縮めることにより、0.1秒以上9秒以下の時間で長手方向に21%以上40%以下のリラックスを実施することが望ましい。リラックス率が21%未満であると、長手方向の分子配向の緩和が充分に行えず、好ましくない。またリラックス率が40%より大きいと、長手方向の直角引裂強度が大きくなり、引張破壊強さが小さくなるので好ましくない。リラックス率は22%以上がより好ましく、38%以下がより好ましく、36%以下がさらに好ましい。
【0090】
また最終熱処理工程で長手方向のリラックスを行う時間は0.1秒以上9秒以下が好ましい。0.1秒未満であるとリラックスが短時間になってしまい、温度をTg+50℃より高くしないとリラックスムラが生じるので好ましくない。またリラックス時間が9秒より長くなるとフィルムとしては問題無いが、設備が巨大化するので、温度と時間で適宜調整するのが好ましい。リラックス時間は、より好ましくは0.3秒以上8秒以下であり、さらに好ましくは0.5秒以上7秒以下である。
【0091】
本願第二の発明においては、前述の方法で得られた未延伸フィルムを、後述するように、所定の条件で幅方向に延伸し、その横延伸後のフィルムを熱処理した後に急冷し、次いで、所定の条件で長手方向に延伸し、再度、熱処理することによって、本願第二の発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムを得ることが可能となる。以下、本願第二の発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムを得るための好ましい製膜方法について、従来の熱収縮性ポリエステル系フィルムの製膜方法との差異を考慮しつつ詳細に説明する。
【0092】
[本願第二の発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムの製膜方法]
上述したように、熱収縮性ポリエステル系フィルムは、通常、未延伸フィルムを収縮させたい方向(すなわち主収縮方向、本願第二の発明では長手方向)のみに延伸することによって製造される。本発明者等が従来の製造方法について検討した結果、従来の熱収縮性ポリエステル系フィルムの製造においては、以下のような問題点があることが判明した。
・単純に長手方向に延伸するだけであると、上述の如く、幅方向の機械的強度が小さくなり、ラベルとした場合のミシン目開封性が悪くなる。その上、製膜装置の製品採取幅を広げることが困難で、生産性が悪い。
・また単純に長手方向に延伸するだけであると、上述の如く、長手方向の収縮応力と収縮速度が相反する事になり、ボトル飲料等のラベルとして収縮させる際の仕上り性と、収縮させた後のボトルとラベルの弛み(追従性)が不充分である。
・長手方向に延伸した後に幅方向に延伸する方法を採用すると、どのような延伸条件を採用しても、長手方向の収縮力を充分に発現させることができない。さらに、幅方向の収縮力が同時に発現してしまい、ラベルとした際に収縮装着後の仕上りが悪くなる。
・幅方向に延伸した後に長手方向に延伸する方法を採用すると、長手方向の収縮力は発現させることができるものの、幅方向の収縮力が同時に発現してしまい、ラベルとした際に収縮装着後の仕上りが悪くなる。
【0093】
さらに、上記従来の熱収縮性ポリエステル系フィルムの製造における問題点に基づいて、本発明者等が、ミシン目開封性が良好で生産性の高い本願第二の発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムを得ることについてさらなる考察を進めた結果、次のような知見を得るに至った。
・ラベルとした際のミシン目開封性を良好なものとするためには、幅方向へ配向した分子をある程度残しておく必要があると考えられる。
・ラベルとした際の収縮装着後の仕上りを良好なものとするためには、幅方向への収縮力を発現させないことが不可欠であり、そのためには幅方向へ配向した分子の緊張状態を解消する必要があると考えられる。
・幅方向に配向した分子を残すことにより、長手方向に収縮する際の長手方向の分子配向の変化が遅くなり、収縮速度を遅くできると考えられる。
・幅方向に配向した分子を残すことにより、長手方向に収縮する際に発生する収縮応力の時間による減少を抑制し、追従性を改善できると考える。
【0094】
本発明者等は上記知見から、良好な収縮仕上り性と追従性の両立、さらにはミシン目開封性を同時に満たすためには、“幅方向に配向しつつ収縮力に寄与しない分子”をフィルム中に存在させ、かつ適切な分子配向にする必要がある、と考えるに至った。そして、どのような延伸を施せば“幅方向に配向しつつ収縮力に寄与しない分子”をフィルム中に存在させることができるか、また、それをコントロールできるかに注目して試行錯誤した。その結果、幅方向に延伸した後に長手方向に延伸する、いわゆる横−縦延伸法によるフィルム製造の際に、以下の手段を講じることにより、“幅方向に配向しつつ収縮力に寄与しない分子”をフィルム中に存在させてコントロールすることを実現し、良好な収縮仕上り性、追従性とミシン目開封性を同時に満たす熱収縮性ポリエステル系フィルムを得ることが可能となり、本願第二の発明を完成するに至った。
(8)横延伸条件の制御
(9)横延伸後における中間熱処理
(10)原料による縦延伸条件の制御
(11)縦延伸後の熱処理
【0095】
以下、上記した各手段について順次説明する。
(8)横延伸条件の制御
まず、横方向の延伸(横延伸)を行う。横延伸は、テンター(第1テンター)内でフィルム幅方向の両端際をクリップによって把持した状態で、Tg以上Tg+20℃で、3.5〜5倍程度、行うことが好ましい。延伸倍率が3.5倍より低いと、厚みムラが起こりやすくなる上に、生産性が悪くなり好ましくない。延伸倍率が5倍より高いと、横延伸後のフィルムの配向結晶化が進み、縦延伸工程で破断が生じ易くなり、好ましくない。なお、横延伸の前には、予備加熱を行っておくことが好ましく、予備加熱はフィルム表面がTg以上Tg+30℃になるまで行うとよい。
【0096】
横延伸の後は、フィルムを積極的な加熱操作を実行しない中間ゾーンを通過させることが好ましい。第1テンターの横延伸ゾーンと中間熱処理ゾーンで温度差がある場合、中間熱処理ゾーンの熱(熱風そのものや輻射熱)が横延伸ゾーンに流れ込み、横延伸ゾーンの温度が安定しないためにフィルム品質が安定しなくなることがあるので、横延伸後で中間熱処理前のフィルムを、所定時間をかけて中間ゾーンを通過させた後に、中間熱処理を実施するのが好ましい。この中間ゾーンにおいては、フィルムを通過させていない状態で短冊状の紙片を垂らしたときに、その紙片がほぼ完全に鉛直方向に垂れ下がるように、フィルムの走行に伴う随伴流、横延伸ゾーンや中間熱処理ゾーンからの熱風を遮断すると、安定した品質のフィルムが得られやすい。中間ゾーンの通過時間は、1〜5秒程度で充分である。1秒を下回ると、中間ゾーンの長さが不充分となって、熱の遮断効果が不足する。また、中間ゾーンの通過時間は長い方が好ましいが、あまりに長いと設備が大きくなってしまうので、5秒程度で充分である。
【0097】
(9)横延伸後における中間熱処理
“幅方向に配向しつつ収縮力に寄与しない分子”をフィルム内に存在させるためには、幅方向に配向した分子を熱緩和させることが好ましいが、従来、フィルムの二軸延伸において、一軸目の延伸と二軸目の延伸との間において、高温の熱処理をフィルムに施すと、熱処理後のフィルムが結晶化してしまうため、それ以上延伸することができない、というのが業界での技術常識であった。しかしながら、本発明者等が試行錯誤した結果、横−縦延伸法において、ある一定の条件で横延伸を行い、その横延伸後のフィルムの状態に合わせて中間熱処理を所定の条件で行い、さらに、その中間熱処理後のフィルムの状態に合わせて所定の条件で縦延伸を施すことによって、縦延伸時に破断を起こさせることなく、“幅方向に配向しつつ収縮力に寄与しない分子”をフィルム内に存在させ得る、という驚くべき事実が判明した。
【0098】
なお、中間熱処理の温度はTg+43℃以上がより好ましく、Tg+46℃以上がさらに好ましく、Tg+67℃以下がより好ましく、Tg+64℃以下がさらに好ましい。一方、中間熱処理の時間は、5秒以上15秒以下の範囲内で原料組成に応じて適宜調整する必要がある。中間熱処理はフィルムへ与える熱量が重要であり、中間熱処理の温度が低いと長時間の中間熱処理が必要となる。しかし中間熱処理時間があまりに長いと設備も巨大化するので、温度と時間で適宜調整するのが好ましい。
【0099】
中間熱処理の温度をTg+40℃以上に保つことにより、幅方向の分子配向度合いを大きくすることが可能となり、直角引裂強度を小さく保ちつつ、幅方向の引張破壊強さを大きく保つことが可能となる。一方、中間熱処理の温度をTg+70℃以下にコントロールすることによって、フィルムの結晶化を抑えて幅方向への延伸性を保ち、破断によるトラブルを抑えることが可能となる。また、フィルムの表層の結晶化を抑えて溶剤接着強度を大きく保つことができ、さらに、幅方向の厚み斑を小さくすることも可能となる。これにより、横一軸延伸ポリエステルフィルムが得られる。
【0100】
中間熱処理の際に、弛緩(リラックス)をしても構わないが、リラックス率が40%より高いと、分子配向度合いが低下し、幅方向の引張破壊強さが低下するので、リラックス率は40%以下とすることが好ましい。
【0101】
(10)原料による縦延伸条件の制御
縦収縮率を発現させるには、縦延伸が用いられてきた。一般的には縦収縮率を高くすると、縦方向の収縮応力も高くなる。縦方向の収縮応力を低下させるには、縦延伸時の延伸応力を低下させる必要がある。そして、縦延伸応力を低下させる方策の一つとして、縦延伸倍率を下げるという方法があるが、縦延伸倍率を下げると、物質収支の関係により、発現する収縮率も低下してしまうため、好ましくない。
【0102】
そこで本発明者等は、縦延伸倍率は高くして、縦収縮率を高く維持したまま、縦延伸応力のみを低下させる方法として、上記したようにジエチレングリコールに着目した。ジエチレングリコールを所定の量入れる事により、縦延伸で延伸倍率を高くしても延伸応力の増加が少なく、長手方向の収縮応力を低くする事ができた。
【0103】
具体的な縦延伸条件としては、中間熱処理後のフィルムを、複数のロール群を連続的に配置した縦延伸機へ導き、予熱ロール上でフィルム温度がTg以上Tg+20℃になるまで予備加熱した後、赤外線ヒータ等でフィルム温度がTg+10℃以上Tg+60℃となるように加熱し、延伸倍率が2.5〜5倍となるように縦延伸することが好ましい。縦延伸ロールとして加熱ロールを用いてもよい。
【0104】
縦延伸の温度がTg+15℃より低いと、縦延伸する際の延伸応力が高くなり、長手方向の収縮応力が高くなるので好ましくない。縦延伸温度はTg+20℃以上が好ましく、Tg+25℃以上がさらに好ましい。縦延伸温度は、フィルムのロールへの粘着等を防止するには、Tg+60℃が上限と考えられる。また縦延伸倍率は2.7倍以上4.8倍以下が好ましく、2.8倍以上4.6倍以下がさらに好ましい。
【0105】
(11)縦延伸後の熱処理
縦延伸後のフィルムは、テンター(第2テンター)内でフィルム幅方向の両端際をクリップで把持した状態で、Tg℃以上Tg+40℃以下の温度で、5秒以上10秒以下の時間にわたって最終的に熱処理されることが必要である。幅方向へのリラックス(弛緩)はこの熱処理と同時に任意で実施してもよい。リラックスを行う場合は、0%以上30%以下が好ましい。幅方向へのリラックス率が30%を超えると、フィルム幅方向の分子配向が低下し、幅方向の直角引裂強度や引張破壊強さが低下してしまうため好ましくない。幅方向へのリラックス率は27%以下がより好ましく、24%以下がさらに好ましい。
【0106】
熱処理温度がTg+40℃より高いと、長手方向の収縮率が低下し、98℃の長手方向の熱収縮率が40%より小さくなるため好ましくない。また、熱処理温度がTgより低いと、長手方向の分子配向の熱緩和が充分に行えず、最終的な製品を常温下で保管した時に、経時で長手方向の収縮(いわゆる自然収縮率)が大きくなり好ましくない。また、熱処理時間は長いほど好ましいが、あまりに長いと設備が巨大化するので、10秒以下とすることが好ましい。
【0107】
本発明の包装体は、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムから得られたミシン目またはノッチを有するラベルが、包装対象物の少なくとも外周の一部に被覆して熱収縮させて形成されるものである。包装対象物としては、飲料用のPETボトルを始め、各種の瓶、缶、菓子や弁当等のプラスチック容器、紙製の箱等を挙げることができる。なお、通常、それらの包装対象物に、熱収縮性ポリエステル系フィルムから得られるラベルを熱収縮させて被覆させる場合には、当該ラベルを約5〜70%程度熱収縮させて包装体に密着させる。なお、包装対象物に被覆されるラベルには、印刷が施されていても良いし、印刷が施されていなくても良い。
【0108】
ラベルを作製する方法としては、長方形状のフィルムの片面の端部から少し内側に有機溶剤を塗布し、直ちにフィルムを丸めて端部を重ね合わせて接着してラベル状にするか、あるいは、ロール状に巻き取ったフィルムの片面の端部から少し内側に有機溶剤を塗布し、直ちにフィルムを丸めて端部を重ね合わせて接着して、チューブ状体としたものをカットしてラベル状とする。接着用の有機溶剤としては、1,3−ジオキソランあるいはテトラヒドロフラン等の環状エーテル類が好ましい。この他、ベンゼン、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン等の芳香族炭化水素、塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素やフェノール等のフェノール類あるいはこれらの混合物が使用できる。
【実施例】
【0109】
次に、実施例および比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例の態様に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。なお、フィルムの評価方法を以下に示す。
【0110】
[熱収縮率(温湯熱収縮率)]
フィルムを10cm×10cmの正方形に裁断し、98℃±0.5℃の温水中に無荷重状態で10秒間浸漬して熱収縮させた後、25℃±0.5℃の水中に10秒間浸漬し、水中から引き出してフィルムの縦および横方向の寸法を測定し、下記式(1)にしたがって、それぞれ熱収縮率を求めた。熱収縮率の大きい方向を主収縮方向とした。
熱収縮率={(収縮前の長さ−収縮後の長さ)/収縮前の長さ}×100(%) 式(1)
【0111】
[収縮応力および収縮応力比]
熱収縮性フィルムから主収縮方向の長さが200mm、幅20mmの短冊状フィルムサンプルを切り出し、東洋ボールドウィン社製(現社名オリエンテック)の加熱炉付き強伸度測定機テシロン万能試験機 PTM−250(オリエンテック社の登録商標)を用いて収縮応力を測定した。強伸度測定機の加熱炉は予め炉内を90℃に加熱しておき、フィルムサンプルを把持するためのチャック間距離は100mmとした。サンプルを強伸度測定機のチャックに取り付ける際には、加熱炉の送風を一旦止めて加熱炉の扉を開け、長さ方向150mmのサンプルの両端25mmずつをチャック間に挟み、チャック間距離は100mmとして、チャック間とサンプルの長さ方向とが一致し且つサンプルが水平となるように緩みなく固定した。サンプルをチャックに取り付けた後、速やかに加熱炉の扉を閉めて、送風を再開した。加熱炉の扉を閉め送風を再開した時点を収縮応力の測定開始時点とし、30秒後の収縮応力(MPa)を求めた。また、収縮応力の測定開始時点から、測定開始後30秒までの間における収縮応力測定値の最大値を収縮応力の最大値(最大収縮応力(MPa))とした。尚、収縮応力の測定時にはチャック間距離を100mmに固定し、測定開始から測定開始後30秒までの収縮応力の推移を測定した。そして、収縮応力の最大値に対する測定開始時点から30秒後の収縮応力の値の比率を収縮応力比とした(下式で表す)
収縮応力比(%)=(30秒後の収縮応力の値)÷(収縮応力の最大値)×100
【0112】
[引張破壊強さ]
測定方向(フィルム長手方向又は幅方向)が140mm、測定方向と直交する方向(フィルム幅方向又は長手方向)が20mmの短冊状の試験片を作製した。万能引張試験機「DSS−100」(島津製作所製)を用いて、試験片の両端をチャックで片側20mmずつ把持(チャック間距離100mm)して、雰囲気温度23℃、引張速度200mm/minの条件にて引張試験を行い、引張破壊時の強度(応力)を引張破壊強さとした。
【0113】
[直角引裂強度]
所定の長さを有する矩形状の枠にフィルムを予め弛ませた状態で装着する(すなわち、フィルムの両端を枠によって把持させる)。そして、弛んだフィルムが枠内で緊張状態となるまで(弛みがなくなるまで)、約5秒間にわたって80℃の温水に浸漬させることによって、フィルムを主収縮方向(幅方向又は長手方向)に10%収縮させた。この10%収縮後のフィルムから、JIS−K−7128−3に準じて、図1に示す形状の試験片を切り出した。また、図1中、長さの単位はmmであり、Rは半径を表す。なお、試験片を切り出す際は、フィルムの主収縮方向と直交する方向(長手方向又は幅方向)が引き裂き方向になるようにした。次に、万能引張試験機(島津製作所製「オートグラフ」)で試験片の両端(幅方向)を掴み、引張速度200mm/分の条件にて引張試験を行い、フィルムが主収縮方向と直交する方向(長手方向又は幅方向)に完全に引き裂かれたときの最大荷重を測定した。この最大荷重をフィルムの厚みで除して、単位厚み当たりの直角引裂強度を算出した。
【0114】
[ヘイズ]
ヘイズはJIS K7136に準じて、ヘイズメーター(日本精密機械社製)を用いて測定した。
【0115】
[Tg(ガラス転移点)]
セイコー電子工業社製の示差走査熱量計(型式:DSC220)を用いて、未延伸フィルム5mgを、−40℃から120℃まで、昇温速度10℃/分で昇温し、得られた吸熱曲線より求めた。ガラス転移温度以下のベースラインの延長線と遷移部における最大傾斜を示す接線との交点の温度をガラス転移温度(Tg)とした。
【0116】
[ラベルの収縮歪み]
熱収縮性フィルムに、予め東洋インキ製造(株)の草・金・白色のインキで3色印刷を施した。そして、印刷した熱収縮性フィルムの両端部をジオキソランで接着することにより、円筒状のラベル(熱収縮性フィルムの主収縮方向を周方向としたラベル)を作製し、それを裁断した。ラベルの収縮方向の直径は35cm、非収縮方向(容器に高さ方向)は4cmであった。1辺が20cm四方、高さ方向が6cmの厚みが薄いポリエチレン性の容器にラベルを被せ、ゾーン温度90℃のFuji Astec Inc製スチームトンネル(型式;SH−1500−L)内を、3秒で通過させることにより、ラベルを熱収縮させてボトルに装着した。収縮後の仕上り性の評価として、装着されたラベル上部の360度方向の歪みをゲージを使用して測定し、歪みの最大値を求めた。以下の基準に従って評価した。
(表3の評価基準)
◎:最大歪み 3.0mm未満
○:最大歪み 3.0mm以上4.0mm未満
×:最大歪み 4.0mm以上
(表5の評価基準)
○:最大歪み 3.0mm未満
×:最大歪み 3.0mm以上
【0117】
[ラベル高さ]
上記したラベルの高さを測定し、以下の基準に従って評価した。
(表3の評価基準)
◎:ラベル高さが38mm以上
○:ラベル高さが36mm以上38mm未満
×:ラベル高さが36mm未満
(表5の評価基準)
○:ラベル高さが38mm以上
×:ラベル高さが38mm未満
【0118】
[ラベル収縮不足]
上記したラベル収縮状態を以下の基準に従って評価した。
○:装着したラベルと容器との間に弛みが無く収縮している。
×:ラベルと容器の間に収縮不足による弛みがある。
【0119】
[ラベルのシワ]
上記したラベルの収縮歪みの条件と同一の条件で、シワの発生状態を、以下の基準に従って評価した。
◎:大きさ2mm以上のシワの数が零。
○:大きさ2mm以上のシワの数が1個以上2個以下。
×:大きさ2mm以上のシワの数が3個以上。
【0120】
[容器の変形]
上記したラベルの収縮歪みの条件と同一の条件で、容器変形の発生状態を、以下の基準に従って評価した。
○:容器の変形2mm未満
×:容器の変形2mm以上
【0121】
[ミシン目開封性]
予め主収縮方向と直交する方向にミシン目を入れておいたラベルを、上記したラベルの収縮歪みの条件と同一の条件で容器に装着した。ただし、ミシン目は、長さ1mmの孔を1mm間隔で入れることによって形成し、ラベルの縦方向(高さ方向)に幅22mm、長さ40mmにわたって2本設けた。ラベルのミシン目を指先で引裂き、縦方向にミシン目に沿って綺麗に裂けなかったり、ラベルをボトルから外すことができなかった本数を数え、全サンプル50本に対するミシン目開封不良率(%)を算出した。ミシン目開封不良率が20%以下であれば、実用上、合格である。
【0122】
<ポリエステル原料の調製>
撹拌機、温度計および部分環流式冷却器を備えたステンレススチール製オートクレーブに、二塩基酸成分としてジメチルテレフタレート(DMT)100モル%と、グリコール成分としてエチレングリコール(EG)100モル%とを、エチレングリコールがモル比でジメチルテレフタレートの2.2倍になるように仕込み、エステル交換触媒として酢酸亜鉛を0.05モル%(酸成分に対して)用いて、生成するメタノールを系外へ留去しながらエステル交換反応を行った。その後、重縮合触媒として三酸化アンチモン0.025モル%(酸成分に対して)を添加し、280℃で26.6Pa(0.2トール)の減圧条件下、重縮合反応を行い、固有粘度0.70dl/gのポリエステル(A)を得た。このポリエステルはポリエチレンテレフタレートである。なお、上記ポリエステル(A)の製造の際には、滑剤としてSiO2(富士シリシア社製サイリシア266)をポリエステルに対して8,000ppmの割合で添加した。また、上記と同様な方法により、表1に示すポリエステル(A,B,C,D,E,F)を合成した。なお、表中、IPAはイソフタル酸、DEGはジエチレングルコール、NPGはネオペンチルグリコール、CHDMは1,4−シクロヘキサンジメタノールである。ポリエステルA,B,C,D,E、Fの固有粘度は、それぞれ、0.68dl/g,0.68dl/g,0.72dl/g,0.72dl/g,0.70dl/g,0.72dl/gであった。なお、各ポリエステルは、適宜チップ状にした。
【0123】
実施例、比較例で使用したポリエステル原料の組成、実施例、比較例におけるフィルムの樹脂組成と製造条件を、それぞれ表1、表2に示す。
【0124】
【表1】
【0125】
【表2】
【0126】
(本願第一の発明の実施例及び比較例)
実施例1
上記したポリエステルA、ポリエステルB、ポリエステルCを質量比5:25:70で混合して押出機に投入した。この混合樹脂を260℃で溶融させてTダイから押出し、表面温度30℃に冷却された回転する金属ロールに巻き付けて急冷することにより、厚さ228μmの未延伸フィルムを得た。このときの未延伸フィルムの引取速度(金属ロールの回転速度)は、約20m/minであった。未延伸フィルムのTgは65℃であった。
得られた未延伸フィルムを、複数のロール群を連続的に配置した縦延伸機へ導き、ロールの回転速度差を利用して、75℃で縦方向に4倍延伸した。
【0127】
縦延伸直後のフィルムを、加熱炉へ通した。加熱炉内は熱風ヒータで加熱されており、設定温度は95℃であった。加熱炉の入口と出口のロール間の速度差を利用して、長手方向に30%リラックス処理を行った。リラックス処理時間は0.6秒であった。
【0128】
リラックス処理後のフィルムを横延伸機(テンター)に導き、中間熱処理ゾーン、中間ゾーン(自然冷却ゾーン)、冷却ゾーン(強制冷却ゾーン)、横延伸ゾーン、最終熱処理ゾーンを連続的に通過させた。なお、テンターの中間ゾーンにおいては、フィルムを通過させていない状態で短冊状の紙片を垂らしたときに、その紙片がほぼ完全に鉛直方向に垂れ下がるように、中間熱処理ゾーンからの熱風、冷却ゾーンからの冷却風を遮断した。フィルムの走行時には、フィルムの走行に伴う随伴流の大部分が、中間熱処理ゾーンと中間ゾーンとの間に設けられた遮蔽板によって遮断されるように、フィルムと遮蔽板との距離を調整した。加えて、フィルムの走行時には、中間ゾーンと冷却ゾーンとの境界において、フィルムの走行に伴う随伴流の大部分が遮蔽板によって遮断されるようにフィルムと遮蔽板との距離を調整した。
【0129】
テンターに導かれた縦延伸後のリラックスが施されたフィルムを、中間熱処理ゾーンにおいて、123℃で8秒間にわたって熱処理した。このとき、長手方向のリラックス率は28.6%とした。次に、その中間熱処理後のフィルムを中間ゾーンに導き、中間ゾーンを通過させることによって(通過時間=約1秒)自然冷却した。続いて、自然冷却後のフィルムを冷却ゾーンに導き、フィルムの表面温度が95℃になるまで、低温の風を吹き付けることによって積極的に強制冷却し、その後90℃で幅方向(横方向)に5倍延伸した。
【0130】
その横延伸後のフィルムを最終熱処理ゾーンに導き、最終熱処理ゾーンにおいて、91℃で5秒間にわたって熱処理した。その後、冷却し、両縁部を裁断除去して幅500mmでロール状に巻き取ることによって、厚さ20μmの二軸延伸フィルムを所定の長さにわたって連続的に製造した。得られたフィルムの特性を上記した方法によって評価した。
【0131】
実施例2
ポリエステルCをポリエステルDに変更した以外は実施例1と同様の方法で厚さ20μmのフィルムを製造した。評価結果を表3に示す。
【0132】
実施例3
ポリエステルA、ポリエステルB、ポリエステルCを質量比5:35:60で混合に変更した以外は実施例1と同様の方法で厚さ20μmのフィルムを製造した。未延伸フィルムのTgは65℃であった。評価結果を表3に示す。
【0133】
実施例4
ポリエステルA、ポリエステルB、ポリエステルFを質量比5:25:70で混合に変更した以外は実施例1と同様の方法で厚さ20μmのフィルムを製造した。未延伸フィルムのTgは63℃であった。評価結果を表3に示す。
【0134】
実施例5
ポリエステルA、ポリエステルB、ポリエステルC、ポリエステルEを質量比5:12:70:13で混合に変更した以外は実施例1と同様の方法で厚さ20μmのフィルムを製造した。未延伸フィルムのTgは67℃であった。評価結果を表3に示す。
【0135】
実施例6
長手方向のリラックスを、中間熱処理工程から最終熱処理工程に変更した以外は実施例1と同様の方法で厚さ20μmのフィルムを製造した。評価結果を表3に示す。
【0136】
実施例7
ポリエステルA、ポリエステルB、ポリエステルC、ポリエステルEを質量比5:25:60:10で混合に変更した以外は実施例1と同様の方法で厚さ20μmのフィルムを製造した。未延伸フィルムのTgは66℃であった。評価結果を表3に示す。
【0137】
比較例1
未延伸フィルムの厚みを100μmとし、縦延伸と長手方向へのリラックスを行わず、中間熱処理ゾーンの温度を100℃、横延伸温度を70℃、最終熱処理温度を80℃に変更した以外は、実施例1と同様の方法で厚さ20μmのフィルムを製造した。評価結果を表3に示す。応力比が小さく、最大収縮応力と30秒後の収縮応力の差が大きいフィルムであった。
【0138】
比較例2
ポリエステルA、ポリエステルC、ポリエステルEを質量比5:70:25で混合に変更した。縦延伸の温度を72度、中間熱処理工程の温度を130℃、冷却工程の温度を100℃、横延伸温度を95℃、最終熱処理温度を96℃とした以外は実施例1と同様の方法で厚さ20μmのフィルムを製造した。未延伸フィルムのTgは72℃であった。評価結果を表3に示す。幅方向の収縮応力が高く、容器の変形が生じた。
【0139】
【表3】
【0140】
【表4】
【0141】
(本願第二の発明の実施例及び比較例)
実施例8
上記したポリエステルA、ポリエステルB、ポリエステルCを質量比5:25:70で混合して押出機に投入した。この混合樹脂を260℃で溶融させてTダイから押出し、表面温度30℃に冷却された回転する金属ロールに巻き付けて急冷することにより、厚さ209μmの未延伸フィルムを得た。このときの未延伸フィルムの引取速度(金属ロールの回転速度)は、約20m/minであった。未延伸フィルムのTgは65℃であった。
【0142】
得られた未延伸フィルムを、横延伸ゾーン、中間ゾーン、中間熱処理ゾーンを連続的に設けたテンター(第1テンター)に導いた。なお、中間ゾーンにおいては、フィルムを通過させていない状態で短冊状の紙片を垂らしたときに、その紙片がほぼ完全に鉛直方向に垂れ下がるように、延伸ゾーンからの熱風および熱処理ゾーンからの熱風が遮断されていた。
【0143】
そして、テンターに導かれた未延伸フィルムを、フィルム温度がTg+15℃になるまで予備加熱した後、横延伸ゾーンで横方向にTg+10℃で4倍に延伸し、中間ゾーンを通過させた後に(通過時間=約1.2秒)、中間熱処理ゾーンへ導き、Tg+58℃で8秒間に亘って熱処理した。また同時に横方向にも10%リラックス(弛緩)することによって厚み58μmの横一軸延伸フィルムを得た。
【0144】
さらに、その横延伸したフィルムを、複数のロール群を連続的に配置した縦延伸機へ導き、予熱ロール上でフィルム温度がTg+15℃になるまで予備加熱した後に、赤外線ヒータでフィルム温度がTg+23℃になるまで昇温し3.5倍延伸した後、表面温度25℃に設定された冷却ロールによって強制的に冷却した。
【0145】
冷却後のフィルムをテンター(第2テンター)へ導き、第2テンター内でTg+13℃の雰囲気下で10秒間に亘って熱処理した。同時に、幅方向に8%のリラックスを施した。その後、冷却し、両縁部を裁断除去して幅500mmでロール状に巻き取ることによって、厚さ18μmの二軸延伸フィルムを所定の長さにわたって連続的に製造した。得られたフィルムの特性を上記した方法によって評価した。評価結果を表5に示す。カット性、収縮仕上り性が良好なフィルムであった。
【0146】
実施例9
ポリエステルCをポリエステルDに変更した以外は実施例8と同様の方法で厚さ18μmのフィルムを製造した。評価結果を表5に示す。
【0147】
実施例10
ポリエステルA、ポリエステルB、ポリエステルCを質量比5:45:50で混合に変更した以外は実施例8と同様の方法で厚さ18μmのフィルムを製造した。未延伸フィルムのTgは62℃であった。評価結果を表5に示す。
【0148】
実施例11
ポリエステルA、ポリエステルB、ポリエステルFを質量比5:25:70で混合に変更した以外は実施例8と同様の方法で厚さ18μmのフィルムを製造した。未延伸フィルムのTgは63℃であった。評価結果を表5に示す。
【0149】
実施例12
ポリエステルA、ポリエステルB、ポリエステルC、ポリエステルEを質量比5:5:70:20で混合に変更した以外は実施例8と同様の方法で厚さ18μmのフィルムを製造した。未延伸フィルムのTgは68℃であった。評価結果を表5に示す。
【0150】
実施例13
ポリエステルA、ポリエステルB、ポリエステルCを質量比5:15:80で混合し、未延伸フィルムの厚みを243μmとした。また、横延伸後の横リラックス率を15.5%、縦延伸倍率を4倍、最終熱処理工程での横リラックス率を0%に変更した。それらの条件以外は実施例8と同様の方法で厚さ18μmのフィルムを製造した。未延伸フィルムのTgは68℃であった。評価結果を表5に示す。
【0151】
実施例14
最終熱処理工程の温度をTg+33℃に変更した以外は実施例8と同様の方法で厚さ18μmのフィルムを製造した。評価結果を表5に示す。
【0152】
比較例3
未延伸フィルムの厚みを63μmとし、横延伸と最終熱処理を行わずに実施例8と同様の方法で厚さ18μmのフィルムを製造した。評価結果を表5に示す。応力比が小さく、最大収縮応力と30秒後の収縮応力の差が大きいフィルムであった。また幅方向の引張破壊強さが低く、直角引裂き強度が高かった。得られたフィルムを用いたラベルは 実施例と比較し、収縮仕上り性やミシン目開封率が劣るラベルであった。
【0153】
比較例4
ポリエステルA、ポリエステルC、ポリエステルEを質量比5:73:22で混合に変更した以外は実施例8と同様の方法で厚さ18μmのフィルムを製造した。Tgは72℃であった。評価結果を表5に示す。収縮応力が高く、得られたフィルムを用いたラベルは、実施例と比較し、容器変形が起こるラベルであった。
【0154】
【表5】
【産業上の利用可能性】
【0155】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、高い熱収縮率を有しているにも関わらず、収縮応力が低く、かつ応力の減衰も小さいので、薄肉化された容器等のラベル用途に好適に用いることができる。本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムがラベルとして用いられて得られた容器等の包装体は美麗な外観を有するものである。
図1