【課題を解決するための手段】
【0031】
本願の発明者は傾斜の程度を測定し情報として発信できるセンサーネットワークの利用を検討した。ネットワークの要素となる各センサー部にはそれが取り付けられている棹の番号と棹の傾きの測定結果のデータが記録されている。各センサー部はコントローラーに情報を送信し、コントローラーは各センサー部から送られてくる情報を分析し、同一の棹に取り付けられた複数のセンサー部間で、傾斜状態を示す値がほぼ同じになっているか確認する。
【0032】
上記複数の傾斜センサー部の示す値が別途設定する時間幅内においてほぼ同じであれば遮断棹の前記複数のセンサー部間ではその間にある遮断棹に折損は無いと判定するか若しくは2個のセンサー部で観測された加速度ベクトル間の角度を計算し、それが別途設定する閾値以下であって0度に近ければ折損は無いと判定する。
【0033】
屈折式遮断棹の場合はその根元部分の棹と、先端部分の棹の2本の棹があるとみなし、各棹の根元部分と先端部分に上記のセンサー部を取り付ける。
【0034】
傾斜センサー部には2軸または3軸の加速度センサーを用い、それぞれ、X軸、Y軸またはX軸、Y軸、Z軸における重力加速度データを測定し、そのデータをもとにセンサーの傾きを計算で求める。
【0035】
2個のセンサー部から得られる加速度ベクトルを(A
1,A
2,A
3)および(B
1,B
2,B
3)とし、上記加速度ベクトル間のなす角度をΔθとすると、Δθは2個のベクトルのなす角度として(1)式によって求められる。
Δθ=Cos
−1[ (A
1・B
1+A
2・B
2+A
3・B
3)/√{(A
12+A
22+A
32)・(B
12+B
22+B
32)}]
(1)
【0036】
各センサーには重力加速度が掛かっており静止状態ではどの方向を向いていても同じ大きさの(重力加速度を含む)加速度を受けるのであるから測定系の誤差をε
1とすると以下の(2)式が成立する。
|(A
12+A
22+A
32)−(B
12+B
22+B
32)|<ε
1 (2)
【0037】
遮断棹が静止している場合、折れていると否とにかかわらず(2)式の条件は成立するので、(2)式は棹が静止しているかまたは折損していないことを示す条件であると言える。しかしながら、棹が折れて先端のセンサーが分離している場合はそもそもセンサーからの信号が受信できないのであるから(2)式の条件を考慮する必要がない。
【0038】
(2)式が成立する場合、Δθの値は(1)式の計算において√計算を省略した下記の(3)式で近似できる。
Δθ≒Cos
−1[ (A
1・B
1+A
2・B
2+A
3・B
3)/ (A
12+A
22+A
32)] (3)
【0039】
遮断棹が正常な場合は(3)式のΔθが別途に設定する十分小さな値ε
2に対して(4式)が成立する。
Δθ<ε
2 (4)
【0040】
棹が静止している場合、センサー部が受ける加速度は重力加速度G[m/s
2]のみであるから、(5)式のように置くことができる。
A
12+A
22+A
32=G
2 (5)
【0041】
棹が曲がっていないと判定するΔθの判定限界値におけるcos(Δθ)の値をα(0<α<1)と置くと、棹が曲がっていると判定できる状態では(6)式が成り立つので、
A
1・B
1+A
2・B
2+A
3・B
3<α・G
2 (6)
(6)式の条件のみ確認して、これが一定時間T[sec]以上持続した場合に発報すれば良い。
【0042】
遮断棹が水平の状態の場合、遮断棹の先端が水平面内を移動しても先端に取り付けられたセンサーに対する重力の向きは変化しないので、車等によって水平方向に押されて先端が曲げられても、その時点では検出できないが、遮断機が上昇中もしくは上がりきった時点では検出可能である。
【0043】
また、通常遮断棹は水平方向に押し曲げられると上に上がるように設計されているので、水平方向に押されて折れ曲がった場合、棹全体が水平面内にとどまることはなく、重力の向きの変化は検出可能である。
それゆえ、加速度センサーは正常な遮断棹が運動する平面内の加速度を検出できれば良いので、2軸のものでも良い。
2軸の加速度センサーの場合(6)式は(7)式となる。
A
1・B
1+A
2・B
2<α・G
2 (7)
【0044】
また、より簡単な方法として、折れ曲がった場合にそれを判別する折れ曲がり角度の指定はできないが、変化が有ったことの検出のみ行う方法として、(7)式や(8)式によらず各センサーの軸毎の加速度の差を元にセンサーが検出する重力加速度の値の変化の有無を検出しても良い。
【0045】
すなはち、以下の(8)式を計算し、S
1、S
2、S
3のいずれかの値が一定時間(または一定サンプル回数分)に渡って、(9)式のように別途設定する閾値βを用いてβ・Gを超えた場合、異常有りと判定する。
S
1=|A
1−B
1|、S
2=|A
2−B
2|、S
3=|A
3−B
3| (8)
S
1>β・G、S
2>β・G、または、S
3>β・G (9)
上記のこの方法は発報するときの棹の折れ曲がり角を指定することはできないが、棹のセンサー間の傾きの差が許容値を超えたことを簡単な演算で検出できるので、容易に実現可能である。
【0046】
なお、これらの判定方法において、一定の時間T[sec]間同じ状態が継続していることを確認しなければならないのは遮断棹が動作中や風に揺れている場合の誤判定を除外するためである。
【0047】
以上の点から、本願の遮断棹折損検出装置は踏切の遮断棹の傾きを検出する複数のセンサー部と、前記センサー部からのデータを受信して前記遮断棹の折損の有無を判断する検出部と、前記検出部から検出結果の情報を受信して警報信号を出力する発報部および各部に電源を供給する電源部とからなることを特徴とし、傾きを検出する複数のセンサー部には2軸または3軸の加速度センサーを用いており、複数のセンサー部で検出された各軸の加速度のデータから重力の加わる向きの変化を検出して上記遮断棹の折損の有無を判定し、その結果を警報として出力することを特徴とする。
【0048】
また、本願の遮断棹折損有無の判定フローは以下のとおりである。
1.棹の根元側、先端側双方のセンサー部からのデータが受信できることを確認する。
一定時間受信できない場合は異常と判定する。
2.(2)式の条件が成立することを確認し、同じ棹に取り付けられた二個のセンサー間で観測された加速度がほぼ同じであることを確認する。
一定時間経過しても(2)式の条件が成立しない場合はセンサー異常かまたは折れた棹の先が風の影響などで揺れていると考えられる。
4.3軸センサーの場合は(3)式の値を計算し、その結果を用いて(6)式の条件を確認する。2軸センサーの場合は(7)式の条件を確認する。ただし、簡易には(8)式を算出し、その結果を用いて(9)式が成立することを確認しても良い。
5.上記4.において条件成立しない場合は遮断棹が折れ曲がっていると判定し、発報部から警報出力する。
6.次のデータ受信を待って上記1.に戻る。
【0049】
一方、センサー部には電源部から二本の電源用配線が接続されているが、センサー部から発報部(電源部と同一ケース内に有り)に送られる情報は上記電源用配線に乗せて送っている。
【0050】
より具体的には、通常の電源電流十数[mA]に対して、それを超える電流(例えば20[mA])を電源電流とは別に常時流しておき、検出部にて折損有と判断した場合はその電流をカットすることによって供給電流のトータル値を正常時の半分程度に低減させそれを発報部で検出して、警報接点を出力する。
【0051】
上記のこのような手法はセンサー部への配線量を減らし、現場での取り付け作業を簡略化する効果がある。
【0052】
また、必然的にセンサー部同志も2本の上記電源用配線によって接続されていることになるが、本願ではこれに調歩同期による1200bpsのシリアル通信信号を重畳させて先端側のセンサー部から根元側のセンサー部へ加速度の計測データを送っている。
【0053】
検出部は実際にはハードウェアではなく、遮断棹の根元部分に取り付けられたセンサー部内部のマイコンのソフトウェアの形で存在する。
【0054】
上記検出部は上記のように遮断棹の根元部分に取り付けられたセンサー部内部のマイコンのソフトウェアの形で実現しても良いが専用のハードウェアを持たせて発報部に付属させても良い。
【0055】
上記センサー部への電源用配線が切断された場合は、センサー部から発報部に送られる上記情報は途絶するが、その場合は上記フローの「1.」項のように異常と判断する。