(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1及び2に開示された消臭剤は、触媒作用による加工性や耐熱性に関して課題があり、樹脂への練り込み成形が難しいうえ、酢酸の吸着容量も十分ではない。ここで、前記触媒作用とは、消臭剤を構成する酸化亜鉛等が、樹脂への練り込み成形時にポリエステル樹脂や塩化ビニル樹脂などを分解し、樹脂の溶融粘度を低下させて成形自体ができなかったり、仮に成形品ができたとしても加熱などで劣化が進行したりすることをいう。
また、特許文献3〜4に記載された消臭剤も、酢酸の化学吸着性能は不十分であるという問題がある。
そこで、本発明の課題は、酢酸臭等の悪臭の化学吸着性能が高く、加工性に優れる消臭剤及び消臭剤組成物を提供することである。また、本発明の他の課題は、紙、不織布、繊維等に、当該消臭剤が展着され、優れた消臭性能を発揮する消臭繊維シート、樹脂成形品等の消臭性加工品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、特定の結晶構造を有する遷移アルミナ、即ち、ベーマイト結晶相に由来するγ−AlOOHを僅かに含む遷移アルミナが酢酸臭に対する化学吸着効果が高く、白色で安定性にも優れる消臭剤であることを見出した。また、この消臭剤を含有する、紙、不織布、繊維、樹脂成形品等の消臭性加工品は、着色や変色等の外観上の不具合が少なく、高い消臭性能を発現することも見出した。
即ち、本発明は以下の通りである。
1.粉末X線回折パターンにおいて、γ−AlOOHの回折ピークを有する遷移アルミナからなることを特徴とする消臭剤。
2.2θ=14.3°〜14.6°における回折ピークの強度が、50cps以下である上記項1に記載の消臭剤。
3.上記遷移アルミナがγ−アルミナである上記項1又は2に記載の消臭剤。
4.上記遷移アルミナが、下記式(1)で示される化合物である上記項1乃至3のいずれか一項に記載の消臭剤。
xNa
2O・Al
2O
3・nH
2O (1)
(式中、xは0.002〜0.02の数であり、nは0.03〜0.3の数である。)
5.上記項1乃至4のいずれか一項に記載の消臭剤を含有することを特徴とする消臭剤組成物。
6.上記項1乃至5のいずれか一項に記載の消臭剤を含有することを特徴とする消臭性加工品。
【発明の効果】
【0008】
本発明消臭剤は、化学吸着により悪臭成分を消臭し、特に酢酸臭に対して優れた消臭効果を発現する。また、本発明の消臭剤の色調は白色であるため、広い用途に適用することができる。また、本発明の消臭剤は、紙、繊維又は樹脂成形品等に塗布、練り込み等の加工が可能であり、消臭性加工品の生産性に優れている。本発明の消臭剤を用いることにより、優れた消臭性能を発揮する紙、不織布、繊維、及び樹脂成形品等の消臭性加工品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態について説明すると以下の通りであるが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、特に断りのない%は質量%であり、部は質量部を示す。
【0011】
1.消臭剤
本発明の消臭剤は、粉末X線回折パターンにおいて、γ−AlOOHの回折ピークを有する遷移アルミナからなる。遷移アルミナとは、アルミナ水和物を加熱することにより得られるもので、高安定相であるα型のアルミナ以外の結晶質アルミナである。例えば、κ型、χ型、η型、γ型、δ型及びθ型等がある。遷移アルミナは、加熱前のアルミナ水和物の組成と加熱条件で得られる結晶構造が異なるものの、結晶性の低いアルミナである。特に、ベーマイト結晶相のアルミナ水和物から得られたγ型、δ型及びθ型は、比表面積が大きいことから好ましい。また、低い加熱温度で得られたγ型遷移アルミナは、消臭性能にも優れることからより好ましい。
遷移アルミナの結晶相は、粉末X線回折パターンの回折ピークの位置で特定することが可能である。粉末X線回折パターンにおけるγ−AlOOHは、2θが14.3°〜14.6°、28.1°〜28.4°及び38.1°〜38.4°に特徴的な回折ピークが存在する。これらγ−AlOOHの回折ピークの強度は、酢酸臭の吸着性能から遷移アルミナ結晶と同程度であることが好ましい。γ−AlOOHの回折ピークのうち、最も強度が高いものは、2θ=14.3°〜14.6°の回折ピークである。この回折ピークの強度は、遷移アルミナの結晶性の程度を示しており、酢酸臭に対する消臭性の観点から、好ましくは50cps以下、より好ましくは40cps以下、更に好ましくは30cps以下である。
【0012】
本発明の消臭剤は、下記式(1)で示されるγ型遷移アルミナであることが好ましい。
xNa
2O・Al
2O
3・nH
2O (1)
式中において、xは0.002〜0.02の正数であり、nは0.03〜0.3の正数である。
xは、酢酸臭に対する消臭性の観点から、0.002〜0.02であり、好ましくは、0.003〜0.18である。また、xが上記範囲にあると、消臭剤を含有する樹脂成形品とした場合でも、樹脂への悪影響がなく、樹脂が劣化することもない。
nは、酢酸臭に対する消臭性の観点から、0.03〜0.3であり、好ましくは、0.04〜0.25である。また、nが上記範囲にある消臭剤を用いて樹脂成形品を製造すると、発泡等の不具合が生じることはなく、良好な成形品が得られる。
本発明における特定の遷移アルミナのアルミナ純度は、99.0〜99.9%であることが好ましい。ナトリウムや水素を一定量結晶構造内に含有することで、特定の結晶性を有する遷移アルミナが得られる。そして、この特定の結晶性を有する遷移アルミナが酢酸臭を多く吸着することができることから、消臭性能に優れていると考えられる。
【0013】
本発明の消臭剤の性状は、好ましくは粉末である。消臭剤のBET比表面積は、酢酸臭の化学吸着性の点から、好ましくは50m
2/g以上、より好ましくは80〜300m
2/g、更に好ましくは100〜250m
2/gである。また、粉末粒度の制御が容易であることから、350m
2/g以下であることが好ましい。
【0014】
本発明の消臭剤のメジアン径は、好ましくは0.3〜10μm、より好ましくは1〜5μmである。メジアン径が0.3〜10μmの範囲内であれば、消臭性加工品を効率的に生産することができ、例えば、細い繊維や薄いフィルムに使用する場合でも加工性に優れている。また、液状加工品の場合には、消臭剤が沈降することなく、保存安定性に優れる。
また、消臭剤の最大粒径は、好ましくは15μm以下、より好ましくは10μm以下である。最大粒径が15μm以下であれば、消臭剤を用いた加工品の外観が良好である。
【0015】
本発明に係る消臭剤の化学吸着容量は、消臭剤1gあたりの酢酸の吸着量で、好ましくは10mL以上、より好ましくは15mL/g以上、更に好ましくは20mL/g以上である。吸着容量とは、消臭剤が消臭、吸収又は吸着できる特定のガス成分の最大量のことである。一般に、吸着容量は、物理吸着と化学吸着の両吸着機構で吸着した吸着容量が示されている場合が多い。消臭剤の化学吸着容量を物理吸着容量と区別する容易な方法は、吸着試験温度を高温にして吸着容量を測定することである。物理吸着は高温では吸着しなくなるためであり、吸着試験温度を40℃以上とすることで化学吸着容量のみを区別して測定が可能である。具体的な化学吸着容量の測定方法は以下の通りである。
臭気ガスが吸着し難く、かつ、空気を通さない材質であるビニルアルコール系ポリマー又はポリエステル等の試験袋に、消臭剤を入れて密封し、この密封された試験袋に臭気ガスを注入後、40℃以上の恒温器で保存する。臭気ガス注入直後及び一定時間経過後に、試験袋中の残存する臭気ガス濃度を測定する。このとき、一定時間経過後の残存ガス濃度が初期のガス濃度の1/10以下となった時点を吸着性能が破過した点とし、このときの残存ガス濃度と初期のガス濃度の差を、消臭剤が消臭、吸収した臭気ガス量とする。吸着容量が10mL未満の消臭剤は、消臭性能が低いため、満足できる消臭効果が得られない。
【0016】
本発明の消臭剤は白色であり、粉末色彩をLab色空間表示で示すことができる。本発明の消臭剤の粉末色彩は、好ましくは、L値が90〜99、a値が−2〜5、b値が−2〜5である。Lab色空間表示が上記範囲内であれば、幅広い用途に消臭剤を用いることができる。上記Lab色空間表示は、消臭剤をガラス瓶に充填した底面から色彩色差計で測定することができる。
【0017】
本発明の消臭剤は、従来の技術を応用することで製造可能であり、原料、製法や設備等に制約はない。製造方法を例示すると以下の通りである。
ボーキサイトを水酸化ナトリウム水溶液に溶解させ、残渣を除去した水酸化アルミニウム(Al(OH)
3)を仮焼し、その後、130℃〜180℃で水と接触させることで再水和アルミナを得る。水との接触は、例えば、上記水酸化アルミニウムを、水蒸気雰囲気下に、好ましくは10分〜1週間程度、より好ましくは1時間〜10時間程度載置する方法とすることができる。次に、ナトリウム成分を含む再水和性アルミナを350℃以上900℃未満で焼成することで付着水分や結晶水を除去する。γ−AlOOHを僅かに含む遷移アルミナを得るためには、焼成温度は、好ましくは400℃〜800℃、より好ましくは450〜700℃である。焼成時の昇温速度は、200℃/時間以上であることが好ましい。焼成は、燃焼ガス、電気ヒーターによる間接加熱、赤外線加熱等の加熱方式で行われる。焼成雰囲気は、特に限定されず、空気でも、窒素でも、水素でもよい。
【0018】
2.消臭剤組成物
本発明の消臭剤組成物は、上記遷移アルミナからなる消臭剤と、他の成分とを含有する組成物である。他の成分は、他の消臭剤であってよいし、配合剤であってもよい。酢酸臭を含む数種の悪臭源が混合している複合型悪臭を効率的に除去するために、本発明の消臭剤と他の消臭剤とを併用して消臭剤組成物として使用することも可能である。他の消臭剤としては、活性炭、ゼオライト、シリカゲル、銅含有シリカゲル、含水酸化ジルコニウム、リン酸ジルコニウム、リン酸チタン、酸化亜鉛、及びセピオライト等が挙げられる。この場合、遷移アルミナからなる消臭剤と、他の消臭剤との質量比は、通常、両者の合計を100質量%とした場合に、それぞれ、20〜90質量%及び10〜80質量%である。
【0019】
3.消臭性加工品
本発明において、特定の遷移アルミナからなる消臭剤は、特に酢酸臭に対する消臭効果を有するので、例えば、粉末又は顆粒の形態でカートリッジ等の容器に収容された消臭性加工品(消臭製品)を与える。この消臭性加工品を、室内や室外の悪臭発生源の近傍等に静置しておくことで、不快臭又は悪臭の成分の濃度を低減することができる。以下、遷移アルミナからなる消臭剤が他の材料と組み合わされてなる消臭性加工品について、説明する。
【0020】
(1)消臭繊維
本発明において、特定の遷移アルミナからなる消臭剤を用いた有用な消臭加工品の1つは消臭繊維である。この場合、消臭剤が、原料繊維の表面に付着又は接着されている消臭繊維(a)、又は、消臭剤が、原料繊維の表面に表出するように埋設されている消臭繊維(b)とすることができる。原料繊維としては、天然繊維及び合成繊維のいずれでよく、また、短繊維、長繊維及び芯鞘構造をもった複合繊維等いずれでもよい。消臭繊維(a)は、原料繊維の表面に、消臭剤を含有した水系あるいは有機溶剤系懸濁液からなる消臭剤含有液体組成物を、塗布やディッピング等の方法で付着させ、溶剤等の媒体を除去することにより得ることができる。また、この組成物には、原料繊維表面への消臭剤の付着力を向上させるための接着剤を配合しておいてもよい。消臭剤を含有する水系の懸濁液のpHは、特に制限はないが、消臭剤の性能を十分に発揮させるために、好ましくはpHが6〜8付近である。
【0021】
また、消臭繊維(b)は、液状繊維用樹脂の溶融物又は溶解した繊維用樹脂溶液に、本発明の消臭剤を配合し、得られた消臭剤含有樹脂組成物を繊維化することにより得ることができる。この方法で用いることができる繊維用樹脂は、特に限定されず、公知の化学繊維を使用することができる。好ましい樹脂は、ポリエステル、ポリアミド、アクリル、ポリエチレン、ポリビニル、ポリビニリデン、ポリウレタン及びポリスチレン等である。これらの樹脂は、単独重合体であっても共重合体であってもよい。共重合体の場合、単量体の重合割合は、特に限定されない。
【0022】
消臭剤含有樹脂組成物に含まれる消臭剤の割合は、特に限定されない。一般に、消臭剤の含有量を増やせば、消臭性を強力に発揮させ、長期間持続させることができるが、ある程度以上に含有させても、消臭効果に大きな差が生じないこと、あるいは消臭繊維の強度が低下することがあるので、繊維用樹脂100質量部に対して、好ましくは0.1〜20質量部であり、より好ましくは0.5〜10質量部である。
【0023】
本発明の消臭剤を含む消臭繊維は、例えば、肌着、靴下、エプロン等の衣類、介護用衣類、布団、座布団、毛布、じゅうたん、ソファ、エアーフィルター、布団カバー、カーテン、カーシート等の、後述する消臭シートを加工した製品等の繊維製品に使用することができる。
【0024】
(2)消臭剤含有塗料組成物
本発明の消臭剤の主要な他の用途は、消臭剤含有塗料組成物である。消臭剤含有塗料組成物を製造するに際し、使用される塗料ビヒクルの主成分となる油脂又は樹脂は、特に限定されず、天然植物油、天然樹脂、半合成樹脂及び合成樹脂のいずれであってもよい。使用できる油脂及び樹脂としては、例えば、あまに油、しなきり油、大豆油等の乾性油又は半乾性油、ロジン、ニトロセルロース、エチルセルロース、酢酸酪酸セルロース、ベンジルセルロース、ノボラック型又はレゾール型のフェノール樹脂、アルキド樹脂、アミノアルキド樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、飽和ポリエステル樹脂、メラミン樹脂及びポリ塩化ビニリデン樹脂等が挙げられる。尚、消臭剤含有塗料組成物は、熱可塑性及び硬化性のいずれでもよい。
【0025】
消臭剤含有塗料組成物に含まれる本発明の消臭剤の割合は、特に限定されない。一般に、消臭剤の含有量を増やせば、消臭性を強力に発揮させ、長期間持続させることができるが、ある程度以上に含有させても、消臭効果に大きな差が生じないこと、あるいは、塗装面の光沢がなくなったり、割れが生じたりする。従って、消臭剤の含有割合は、組成物100質量%に対して、好ましくは0.1〜20質量%であり、より好ましくは0.5〜10質量%である。
【0026】
本発明の消臭剤は、液体塗料、粉体塗料のいずれにも使用可能である。また、上記消臭剤含有塗料組成物は、いかなる機構により皮膜化するタイプでもよく、塗膜を硬化させる場合には、酸化重合型、湿気重合型、加熱硬化型、触媒硬化型、紫外線硬化型、及びポリオール硬化型とすることができる。また、組成物に配合される顔料、分散剤その他の添加剤は、本発明の消臭剤と化学的反応を起す可能性のあるものを除けば、特に制限はない。上記消臭剤含有塗料組成物は、容易に調製することができ、具体的には、原料成分を、例えば、ボールミル、ロールミル、デイスパーやミキサー等の一般的な混合装置を用いて、十分に分散、混合すればよい。
【0027】
本発明の消臭剤を含有する消剤含有塗料組成物は、例えば、建物、車両、鉄道等の内壁及び外壁、ゴミ焼却場の施設、生ゴミ容器等に対して好適に使用することができる。
【0028】
(3)消臭シート
本発明の消臭剤の更に他の用途は、消臭シート(消臭フィルムを含む)である。加工前の原料シートは、特に限定されず、その材質、微細構造等も、用途等に応じたものとすることができる。原料シートの好ましい材質は、樹脂、紙等の有機材料、無機材料、あるいはこれらの複合物である。原料シートは、1面側から他面側に通気性を有するものが好ましい。原料シートの他の好ましい具体例としては、和紙、合成紙、不織布、樹脂フィルム等が挙げられ、特に好ましい原料シートは、天然パルプ及び/又は合成パルプからなる紙である。天然パルプを使用すると、微細に枝分かれした繊維間に消臭剤粒子が挟まれやすく、特に結合剤を使用しなくても実用的な担持体になり得る。一方、合成パルプは、耐薬品性に優れるという長所がある。合成パルプを使用する場合には、繊維間に粉末を挟み込むことにより消臭剤粒子を担持することが困難となることがあるので、それを抑制するために、抄紙後の乾燥工程において繊維の一部を溶融し、粉末と繊維との間の付着力を増加させたり、繊維の一部に別の熱硬化性樹脂繊維を混在させてもよい。天然パルプと合成パルプとを適当な割合で混合して使用すると、種々の特性を調整した紙を得ることができるが、一般に合成パルプの割合を多くすると、強度、耐水性、耐薬品性及び耐油性等に優れた紙を得ることができ、一方、天然パルプの割合を多くすると、吸水性、ガス透過性、親水性、成形加工性及び風合い等に優れた紙を得ることができる。
上記消臭シートとしては、消臭剤が、原料シートの1面側から他面側への全体に渡って含まれるものであってよいし、1面側又は他面側の表面層に配されたものであってもよいし、表面層を除く内部に配されたものであってもよい。
【0029】
上記消臭シートに含まれる本発明の消臭剤の担持量は、特に限定されない。一般に、消臭剤の担持量を増やせば、消臭性を強力に発揮させ、長期間持続させることができるが、ある程度以上に担持させても、消臭効果に大きな差が生じない。従って、消臭剤の担持量は、原料シート100質量部あたり、好ましくは0.1〜10質量部である。
【0030】
上記消臭シートを製造する方法は、特に限定されない。本発明の消臭剤の担持は、原料シートの製造と同時又は原料シートの製造後のいずれでもよい。例えば、紙に担持する場合、抄紙工程のいずれかの工程において消臭剤を導入する方法や、接着剤を含む消臭剤含有液体組成物を、予め製造した紙に塗布、浸漬又は吹き付ける方法等を適用することができる。消臭剤含有液体組成物を用いる場合、消臭剤の担持量が、0.05〜10g/m
2程度となるように塗工することが好ましい。
【0031】
以下、本発明の消臭剤が紙に担持された消臭シートを製造する方法の一例として、抄紙工程時に消臭剤を導入する方法について説明する。抄紙工程自体は、公知の方法に従って行えばよく、まず、所定の割合で消臭剤とパルプとを含むスラリーに、カチオン性及びアニオン性の凝集剤を、それぞれ、全スラリーに対して5質量%以下で添加して、凝集体を生成させる。次いで、この凝集体を、公知の方法によって抄紙化し、その後、これを温度100℃〜190℃で乾燥させることにより、紙に消臭剤を担持した消臭シートを得ることができる。
【0032】
本発明の消臭剤を含む消臭シートは、例えば、医療用包装紙、食品用包装紙、電気機器用梱包紙、介護用紙製品、鮮度保持紙、紙製衣料、空気清浄フィルター、壁紙、ティッシュペーパー、トイレットペーパー等として用いることができる。
【0033】
(4)樹脂成形品
本発明において、特定の遷移アルミナからなる消臭剤は、樹脂成形品又は発泡成形品に適用することができる。樹脂成形品を製造する場合には、成形材料としての消臭剤含有樹脂組成物が用いられる。この消臭剤含有樹脂組成物は、熱可塑性樹脂と消臭剤とからなる混合物であってよいし、溶融混練物であってもよい。樹脂成形品は、消臭剤含有樹脂組成物を成形機に投入することにより製造することができる。尚、消臭剤を高濃度含有したペレット状樹脂を予め調製し、これを主樹脂と混合後、成形機により成型することも可能である。また、消臭剤含有樹脂組成物には、物性を改善するために、必要に応じて、顔料、染料、酸化防止剤、耐光安定剤、帯電防止剤、発泡剤、耐衝撃強化剤、ガラス繊維、防湿剤及び増量剤等の添加剤を配合することもできる。上記の樹脂成形品又は発泡成形品を製造するための成型方法としては、射出成型、押出成型、インフレーション成型、真空成型、発泡成型等、一般の樹脂成型方法を適用することができる。
【0034】
本発明の消臭剤を含有する樹脂成形品又は発泡成形品は、例えば、空気清浄器、冷蔵庫等の家電製品や、ゴミ箱、水切り等の一般家庭用品、ポータブルトイレ等の介護用品として用いることができる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を更に具体的に説明するが、これに限定されるものではない。なお、「%」は質量%である。
【0036】
1.評価方法
(1)消臭剤の粉末X線回折
粉末X線回折の測定を、リガク社製X線回折装置「RINT2400V」(型式名)を用いて、Cu Kα線により行い、X線回折像を得た。測定条件は、管電圧40kV及び電流150mAとした。得られた回折ピークの位置から結晶相を同定し、また、2θ=14.3°〜14.6°における回折ピークの強度を求めた。
【0037】
(2)消臭剤のメジアン粒径(d50)
消臭剤を、マルバーン社製レーザー回折式粒度分布測定装置「MS2000」(型式名)で測定し、結果を体積基準で解析した。尚、粒度分布の含有率%は、この解析方法から全粒子中の体積%であるが、測定粉末の密度が一定であるので、質量%と同じ意味を持つ。
【0038】
(3)消臭剤の元素組成
リガク製蛍光X線分析装置「ZSX100e」(型式名)を用いて元素分析を行い、定量結果を物質量基準で解析して、Na/Alの元素組成比(モル)を算出した。更に、熱分析による重量減少からH
2Oの含有量を算出した。
【0039】
(4)BET比表面積
(4)消臭剤のBET比表面積
JIS Z8830「気体吸着による粉体(固体)の比表面積測定方法」(2001年版)により、堀場製作所製連続流動式表面積計「SA−6200」(型式名)を用いて測定した。
【0040】
(5)消臭剤の吸着容量
105℃で乾燥した消臭剤粉末0.01gをビニルアルコール系ポリマーフィルム製の5L試験袋に入れ、ここに気化させた酢酸(初期濃度100ppm)3Lを注入し、5℃又は50℃で1時間後の試験袋中の残存ガス濃度をガス検知管で測定した。5℃で保存後の酢酸ガス吸着量を物理吸着及び化学吸着による吸着容量とし、50℃で保存後の酢酸ガス吸着量を化学吸着のみによる吸着容量とした。吸着容量は、試料1g当たりの吸着したガス容量で示した。
【0041】
(6)消臭繊維シートの消臭性能
消臭繊維シート100cm
2をビニルアルコール系ポリマーフィルム製の5L試験袋に入れ、ここに気化させた酢酸(初期濃度30ppm)を3L注入し、50℃で2時間後の試験袋中の残存ガス濃度をガス検知管で測定した。
【0042】
2.消臭剤の製造及び評価
実施例1
Na
2O含有量が0.22%の再水和アルミナ粉末を、電気炉に入れ450℃で2時間焼成し、遷移アルミナを得た。得られた遷移アルミナの粉末を消臭剤(d−1)として、上記の評価(1)〜(5)を行った。その結果を表1に記載した。
図1に、得られた消臭剤(d−1)の粉末X線回折パターンを示した。また、2θ=14.3°〜14.6°における回折ピークの強度は、10cpsであった。
【0043】
実施例2
Na
2O含有量が0.08%の再水和アルミナ粉末を用いた以外は、実施例1と同様の操作で遷移アルミナを得た。得られた粉末を消臭剤(d−2)とし、各種評価を行い、その結果を表1に示した。
【0044】
実施例3
Na
2O含有量が0.12%の再水和アルミナ粉末を用いた以外は、実施例1と同様の操作で遷移アルミナを得た。得られた粉末を消臭剤(d−3)とし、各種評価を行い、その結果を表1に示した。
【0045】
実施例4
Na
2O含有量が0.08%の再水和アルミナ粉末を、約500℃で30時間焼成し、遷移アルミナを得た。得られた粉末を消臭剤(d−4)とし、各種評価を行い、その結果を表1に示した。
【0046】
実施例5
Na
2O含有量が0.08%の再水和アルミナ粉末を、450℃で2時間焼成し、遷移アルミナを得た。得られた粉末を消臭剤(d−5)とし、各種評価を行い、その結果を表1に示した。
【0047】
比較例1
Na
2O含有量が0.22%の再水和アルミナ粉末を、900℃で4時間焼成し、遷移アルミナを得た。得られた粉末を消臭剤(d−6)とし、各種評価を行い、その結果を表1に示した。
【0048】
比較例2
Na
2O含有量が0.22%の再水和アルミナ粉末を、1100℃で4時間焼成し、アルミナを得た。得られた粉末を消臭剤(d−7)とし、各種評価を行い、その結果を表1に示した。
【0049】
比較例3
Na
2O含有量が0.25%の再水和アルミナ粉末を、300℃で2時間焼成し、AlOOHを得た。得られた粉末を消臭剤(d−8)とし、各種評価を行い、その結果を表1に示した。
【0050】
比較例4
Na
2O含有量が0.02%の再水和アルミナ粉末を、1100℃で4時間焼成し、アルミナを得た。得られた粉末を消臭剤(d−9)とし、各種評価を行い、その結果を表1に示した。
【0051】
比較例5
堺化学工業社製酸化亜鉛「2種」を、消臭剤(d−10)として、各種評価を行った。その結果を表1に示した。
【0052】
比較例6
フタムラ化学社製活性炭「太閤CW350A」(商品名)を、消臭剤(d−11)として、各種評価を行った。その結果を表1に示した。
【0053】
【表1】
【0054】
表1から明らかなように、実施例1〜5の消臭剤は、50℃における酢酸の吸着容量が大きく、化学吸着により消臭効果が発現していることが分かった。一方、比較例1〜6の消臭剤は、50℃の酢酸の吸着容量が低く、化学吸着性に劣っていた。
【0055】
3.消臭性加工品の製造及び評価
実施例6
まず、実施例1で製造した消臭剤d1を5g、固形分40%のアクリルエマルション系バインダー100g、及び水500gを混合して、消臭剤含有液体組成物を作製した。この液体組成物をポリエステル繊維からなる生地に消臭剤の展着量が1g/m
2となるように展着加工(塗布及び乾燥)して、消臭繊維シートを製造した。得られた消臭繊維シート100cm
2を用いて消臭性能を評価した。その結果を表2に示した。
【0056】
実施例7〜10及び比較例7〜11
消臭剤(d−1)に代えて、表2に示す消臭剤(d−2)〜(d−10)を用いた以外は、実施例6と同様にして消臭繊維シートを製造して、評価した。その結果を表2に示した。
【0057】
【表2】
【0058】
表2から明らかなように、実施例6〜10の消臭繊維シートは、酢酸臭に対する消臭率が90%以上であるのに対し、比較例7〜11の消臭率は40%以下であり、実施例の消臭繊維シートの消臭性が優れている。