特許第6572977号(P6572977)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6572977新規タキサジエン酸化酵素およびその利用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6572977
(24)【登録日】2019年8月23日
(45)【発行日】2019年9月11日
(54)【発明の名称】新規タキサジエン酸化酵素およびその利用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/53 20060101AFI20190902BHJP
   C12N 9/02 20060101ALI20190902BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20190902BHJP
   C12P 7/02 20060101ALI20190902BHJP
   C07K 16/40 20060101ALI20190902BHJP
   C07C 35/37 20060101ALI20190902BHJP
【FI】
   C12N15/53ZNA
   C12N9/02
   C12N1/21
   C12P7/02
   C07K16/40
   C07C35/37CSP
【請求項の数】9
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2017-563792(P2017-563792)
(86)(22)【出願日】2017年1月12日
(86)【国際出願番号】JP2017000797
(87)【国際公開番号】WO2017130716
(87)【国際公開日】20170803
【審査請求日】2018年5月18日
(31)【優先権主張番号】特願2016-14779(P2016-14779)
(32)【優先日】2016年1月28日
(33)【優先権主張国】JP
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、実施許諾の用意がある。
(73)【特許権者】
【識別番号】598041795
【氏名又は名称】神戸天然物化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 宗典
(72)【発明者】
【氏名】小森 彩
(72)【発明者】
【氏名】竹村 秀史
【審査官】 川合 理恵
(56)【参考文献】
【文献】 "10-beta-hydroxylase [Taxus x media] [19-MAR-2012] Retrieved from Genbank [online] Accession no. AFD32419 [retrieved on 09 Feb 2017] URL:[https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/380039809/]
【文献】 PNAS, 2001, Vol. 98, No. 4, pp. 1501-1506
【文献】 PNAS, 2001, Vol. 98, No. 24, pp. 13595-13600
【文献】 Arch. Biochem. Biophys., 2004, Vol. 427, pp. 48-57
【文献】 Chem. Biol., 2004, Vol. 11, pp. 663-672
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(G1)〜(G5)からなる群より選択されるいずれかの遺伝子:
(G1)配列番号1〜3のいずれかに記載されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子;
(G2)配列番号1〜3のいずれかに記載されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、タキサジエンの10位を酸化する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子;
(G3)配列番号1〜3のいずれかに記載されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、タキサジエンの10位を酸化する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子;
(G4)配列番号4〜7のいずれかに記載される塩基配列からなる遺伝子
【請求項2】
以下の(P1)〜(P4)からなる群より選択されるいずれかのタンパク質:
(P1)配列番号1〜3のいずれかに記載されるアミノ酸配列からなるタンパク質;
(P2)配列番号1〜3のいずれかに記載されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、タキサジエンの10位を酸化する活性を有するタンパク質;
(P3)配列番号1〜3のいずれかに記載されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、タキサジエンの10位を酸化する活性を有するタンパク質;
(P4)請求項1に記載の遺伝子にコードされるタンパク質。
【請求項3】
請求項1に記載の遺伝子を含むことを特徴とする組換えベクター。
【請求項4】
請求項1に記載の遺伝子または請求項3に記載の組換えベクターを含むことを特徴とする形質転換体。
【請求項5】
さらに、以下の(g1)〜(g7)の遺伝子を導入し、発現させたことを特徴とする請求項4に記載の形質転換体:
(g1)メバロン酸またはメバロノラクトンからイソペンテニル二リン酸までの合成を行うメバロン酸経路遺伝子群、
(g2)1型のイソペンテニル二リン酸イソメラーゼ遺伝子、
(g3)2型のイソペンテニル二リン酸イソメラーゼ遺伝子、
(g4)アセト酢酸−コエンザイムAリガーゼ遺伝子、
(g5)ゲラニルゲラニル二リン酸合成酵素遺伝子、
(g6)タキサジエン合成酵素遺伝子、
(g7)NADPH−シトクロムP450還元酵素遺伝子。
【請求項6】
組換え大腸菌であることを特徴とする請求項4または5に記載の形質転換体。
【請求項7】
請求項4〜6のいずれか1項に記載の形質転換体を培養し、酸化タキサジエンを取得する工程を含むことを特徴とする酸化タキサジエンの製造方法。
【請求項8】
下記式(I):
【化1】
で示される化合物。
【請求項9】
請求項2に記載のタンパク質に特異的に結合する抗体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規タキサジエン酸化酵素遺伝子、当該遺伝子がコードするタンパク質、およびそれらの利用に関する。
【背景技術】
【0002】
パクリタキセルは、臨床で使用される重要な抗がん剤の一つであり、卵巣がん、非小細胞肺がん、乳がん、胃がん、子宮体がん等の治療において、長年にわたって使用されてきている。
【0003】
パクリタキセルは、タイヘイヨウイチイ(Taxus brevifolia)の樹皮より、1971年に初めて単離された。パクリタキセルは、ジテルペン(C20)が高度に酸化し、アミノ酸側鎖が結合した構造を有しており、細胞分裂時の微小管脱重合活性を阻害することにより、抗がん剤として機能している。
【0004】
パクリタキセルの単離以後、工業的に効率よく製造すること等を目的として、パクリタキセル生合成経路の研究が盛んに行われてきた。その結果、現在に至るまで、パクリタキセル生合成経路に関与する多くの酵素が発見されてきた。パクリタキセル生合成経路に関与する酵素として、例えば、タキサジエンの5位を酸化する酵素(非特許文献1)、5−ヒドロキシタキサジエンの13位を酸化する酵素(非特許文献2)、5−アセトキシタキサジエンの10位を酸化する酵素(非特許文献3)、5、9、10、13−テトラアセトキシタキサジエン、および7−ヒドロキシ−5、9、10、13−テトラアセトキシタキサジエンの2位を酸化する酵素(非特許文献4)、5、9、10、13−テトラアセトキシタキサジエン、および2−ヒドロキシ−5、9、10、13−テトラアセトキシタキサジエンの7位を酸化する酵素(非特許文献5)等が報告されてきている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Jennewein S et. al. (2004) "Cytochrome p450 taxadiene 5alpha-hydroxylase, a mechanistically unusual monooxygenase catalyzing the first oxygenation step of taxol biosynthesis", Chemistry & Biology, Vol.11 (Issue 3), pp.379-387
【非特許文献2】Jennewein S et. al. (2001) "Taxol biosynthesis: taxane 13 alpha-hydroxylase is a cytochrome P450-dependent monooxygenase", Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, Vol.98 (No.24), pp.13595-13600
【非特許文献3】Schoendorf A et. al. (2001) "Molecular cloning of a cytochrome P450 taxane 10 beta-hydroxylase cDNA from Taxus and functional expression in yeast", Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, Vol.98 (No.4), pp.1501-1506
【非特許文献4】Chau M et. al. (2004) "Molecular cloning and characterization of a cytochrome P450 taxoid 2alpha-hydroxylase involved in Taxol biosynthesis", Archives of Biochemistry and Biophysics, Vol.427 (issue 1), pp.48-57
【非特許文献5】Chau M et. al. (2004) "Taxol biosynthesis: Molecular cloning and characterization of a cytochrome P450 taxoid 7 beta-hydroxylase", Chemistry & Biology, Vol.11 (Issue 5), pp.663-672
【非特許文献6】Edgar S et. al. (2016) "Mechanistic Insights into Taxadiene Epoxidation by Taxadiene-5α-Hydroxylase", ACS Chemal Biology, Vol.11 (Issue 2), pp.460-469
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、パクリタキセル生合成関連遺伝子は、そのすべてが同定されているわけではなく、パクリタキセル生合成経路はなお十分に解明されていない。
【0007】
また、最近では、タキサジエン酸化の第一段階である5位の酸化反応において副生成物が多く生成するところ、宿主および培養条件等の変更では副生成物の比率は変化しないことが報告されており(非特許文献6)、タキサジエン酸化酵素自体を大幅に改良する必要が生じている。したがって、工業的に効率よくパクリタキセルを生合成するためには、さらなる研究および開発の進展が望まれている。
【0008】
上記の事情に鑑み、本発明の一態様は、パクリタキセル生合成経路の第一段階の酸化に関与する新規遺伝子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決するべく鋭意検討を重ねた結果、パクリタキセル生合成経路の中間体であるタキサジエンを基質として、酸化タキサジエンを合成する新規遺伝子を同定し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は、下記の発明を包含する。
【0010】
以下の(G1)〜(G5)からなる群より選択されるいずれかの遺伝子:
(G1)配列番号1〜3のいずれかに記載されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子;
(G2)配列番号1〜3のいずれかに記載されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、タキサジエンの10位を酸化する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子;
(G3)配列番号1〜3のいずれかに記載されるアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、タキサジエンの10位を酸化する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子;
(G4)配列番号4〜7のいずれかに記載される塩基配列からなる遺伝子;
(G5)上記(G1)〜(G4)のいずれかの遺伝子と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ、タキサジエンの10位を酸化する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、新規の酸化タキサジエンを生産することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】従来のパクリタキセル生合成経路の一部、および新規なパクリタキセル生合成経路の一部を模式的に示した図である。
図2】本発明の一実施形態に係る形質転換体により産生された物質のGC/MS解析の結果を示す図である。
図3】(a)は、本明細書の実施例で得られた新規化合物の構造式である。(b)は、上記化合物をNMR解析した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施の一形態について、以下に詳細に説明する。なお、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A〜B」は、「A以上(Aを含みかつAより大きい)B以下(Bを含みかつBより小さい)」を意味する。
【0014】
本明細書中で使用される場合、用語「遺伝子」は、「ポリヌクレオチド」、「核酸」または「核酸分子」と交換可能に使用され、ヌクレオチドの重合体が意図される。ここで、遺伝子は、DNAの形態(例えば、cDNAもしくはゲノムDNA)、またはRNA(例えば、mRNA)の形態にて存在し得る。DNAまたはRNAは、二本鎖であっても、一本鎖であってもよい。一本鎖DNAまたはRNAは、コード鎖(センス鎖)であっても、非コード鎖(アンチセンス鎖)であってもよい。遺伝子は化学的に合成してもよい。また、遺伝子がコードするタンパク質の発現が向上するように、コドンユーセージ(Codon usage)を変更してもよい。同じアミノ酸をコードするコドン同士であれば置換することも可能である。
【0015】
また、用語「タンパク質」は、「ペプチド」または「ポリペプチド」と交換可能に使用される。本明細書において使用される場合、塩基およびアミノ酸の表記は、適宜IUPACおよびIUBの定める1文字表記または3文字表記を使用する。
【0016】
さらに、用語「酸化」および用語「水酸化」をタキサジエンについて使用する場合、両用語は交換可能に使用される。すなわち、「酸化タキサジエン」および「水酸化タキサジエン」は、いずれも「水酸基を付与されることにより酸化されたタキサジエン」を意味することが意図される。
【0017】
<1.遺伝子・タンパク質>
本発明の一態様に係る遺伝子は、以下の(G1)〜(G5)からなる群より選択されるいずれかのポリヌクレオチドである:
(G1)配列番号1〜3のいずれかに記載されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子;
(G2)配列番号1〜3のいずれかに記載されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、タキサジエンの10位を酸化する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子;
(G3)配列番号1〜3のいずれかに記載されるアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、タキサジエンの10位を酸化する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子;
(G4)配列番号4〜7のいずれかに記載される塩基配列からなる遺伝子;
(G5)上記(G1)〜(G4)のいずれかの遺伝子と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ、タキサジエンの10位を酸化する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子。
【0018】
また、本発明の一態様に係るタンパク質は、以下の(P1)〜(P4)からなる群より選択されるいずれかのタンパク質である:
(P1)配列番号1〜3のいずれかに記載されるアミノ酸配列からなるタンパク質;
(P2)配列番号1〜3のいずれかに記載されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、タキサジエンの10位を酸化する活性を有するタンパク質;
(P3)配列番号1〜3のいずれかに記載されるアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、タキサジエンの10位を酸化する活性を有するタンパク質;
(P4)上記(G1)〜(G5)のいずれかに記載の遺伝子にコードされるタンパク質。
【0019】
上記(G1)〜(G5)の遺伝子は、タキサジエンの10位を酸化する機能を有するタンパク質をコードするものである。このため、植物や微生物において上記遺伝子を発現させることにより、新規な酸化タキサジエンを生産できる。
【0020】
上記(G1)の遺伝子について具体的に説明する。配列番号1は、イチイ樹木(ニホンイチイ:Taxus cuspidata)由来のパクリタキセル生合成経路関連酵素の一種であり、図1の上部に示すように、タキサジエンの10位を酸化する活性(以下、「酸化タキサジエン合成活性」と称する場合もある。)を有する、全長483アミノ酸残基から構成されるタンパク質である(本明細書において、「N11(native)」と称する場合もある)。ここで、「タキサジエンの10位を酸化する活性」とは、タキサジエンの10位に水酸基を導入する活性とも換言できる。また、タキサジエンの10位水酸化体を生産する活性ともいえる。
【0021】
配列番号2は、配列番号1で示されるアミノ酸配列のN末端側から30残基(膜貫通部位に相当するアミノ酸配列)を欠失し、かつ、N末端にMet残基を付加したタンパク質であり、酸化タキサジエン合成活性を有し、全長454アミノ酸残基から構成される(本明細書において、「△30aa N11」もしくは単に「△30aa」と称する場合もある)。
【0022】
配列番号3は、配列番号1で示されるアミノ酸配列のN末端側から14残基を欠失し、かつ、N末端側に8残基(MALLLAVF)を新たに結合させることにより、親水性を付与されたタンパク質であり(Ajikumar PK et. al. (2010) "Isoprenoid pathway optimization for Taxol precursor overproduction in Escherichia coli", Science, Vol.330 (Issue 6000), pp.70-74を参照)、酸化タキサジエン合成活性を有し、全長477アミノ酸残基から構成される(本明細書において、「17α−△14aa N11」もしくは単に「17α−△14aa」と称する場合もある)。
【0023】
上記(G2)の遺伝子は、配列番号1〜3のいずれかに示すアミノ酸配列を有するタンパク質の、機能的に同等の変異体、誘導体、バリアント、アレル、ホモログ、オルソログ、部分ペプチド、または他のタンパク質もしくはペプチドとの融合タンパク質等であって、酸化タキサジエン合成活性を有するタンパク質をコードする限り、その具体的な配列については限定されない。ここで、欠失、置換または付加されてもよいアミノ酸の数は、上記機能を失わせない限り、限定されてないが、部位特異的突然変異誘発法等の公知の導入法によって欠失、置換または付加できる程度の数をいい、通常は、30アミノ酸以内であり、好ましくは20アミノ酸以内であり、さらに好ましくは10アミノ酸以内であり、より好ましくは7アミノ酸以内、さらに好ましくは5アミノ酸以内(例えば、5、4、3、2または1アミノ酸)である。また、本明細書中において「変異」とは、部位特異的突然変異誘発法等によって人為的に導入された変異を主に意味するが、天然に存在する同様の変異であってもよい。
【0024】
置換されるアミノ酸残基は、共通したアミノ酸側鎖の性質を有する別のアミノ酸残基に置換されていることが好ましい。例えば、アミノ酸側鎖の性質としては、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、脂肪族側鎖を有するアミノ酸(G、A、V、L、I、P)、水酸基含有側鎖を有するアミノ酸(S、T、Y)、硫黄原子含有側鎖を有するアミノ酸(C、M)、カルボン酸およびアミド含有側鎖を有するアミノ酸(D、N、E、Q)、塩基含有側鎖を有するアミノ酸(R、K、H)、芳香族含有側鎖を有するアミノ酸(H、F、Y、W)が挙げられる(括弧内はいずれもアミノ酸の一文字表記を表す)。あるアミノ酸配列に対する1または複数個のアミノ酸残基の欠失、付加および/または他のアミノ酸による置換により修飾されたアミノ酸配列を有するポリペプチドが、その生物学的活性を維持することはすでに知られている。さらに、置換の標的となるアミノ酸残基は、共通した性質をできるだけ多く有するアミノ酸残基に置換させることがより好ましい。
【0025】
本明細書において「機能的に同等」とは、対象となるタンパク質が、配列番号1〜3のいずれかに記載されるアミノ酸配列からなるタンパク質と同等(同一および/または類似)の生物学的機能または生化学的機能を有することを意図する。本明細書において、配列番号1〜3のいずれかに記載されるアミノ酸配列からなるタンパク質の生物学的機能または生化学的機能としては、例えば、タキサジエンの10位を酸化する機能を挙げることができる。生物学的機能には、タンパク質が発現する部位の特異性や、タンパク質の発現量等も含まれ得る。変異を導入したタンパク質が宿主に所望の形質を付与するかどうかは、そのタンパク質をコードする遺伝子を導入および発現させた形質転換体を取得し、この形質転換体がタキサジエンを基質として当該タキサジエンの10位を酸化し得るかどうか(10位が酸化された酸化タキサジエンを生産し得るかどうか)を調べることにより判断できる。
【0026】
また、後述する実施例に示すように、配列番号1で示されるアミノ酸配列のN末端側から30残基は、膜貫通部位に相当するアミノ酸配列であり、当該配列を欠失させた場合でも、酸化タキサジエン合成活性を有することが確認されている。加えて、配列番号1で示されるアミノ酸配列のN末端側から14残基を欠失させたうえで親水性を付与するための配列(8アミノ酸残基:MALLLAVF)を付加した場合、酸化タキサジエン合成活性が向上することを、本発明者らは確認している。これらの結果より、好適には、配列番号1〜3に示すアミノ酸配列において、特にN末端側の配列につき、欠失、置換または付加し得る。この場合、膜貫通部位を欠失させる観点、および/または、タンパク質の親水性を向上させる観点、での欠失、置換または付加を行うことが好ましい。
【0027】
上記(G3)の遺伝子も、配列番号1〜3のいずれかに示すアミノ酸配列を有するタンパク質の、機能的に同等の変異体、誘導体、バリアント、アレル、ホモログ、オルソログ、部分ペプチド、または他のタンパク質・ペプチドとの融合タンパク質等を意図しており、酸化タキサジエン合成活性を有するタンパク質をコードする限り、その具体的な配列については限定されない。
【0028】
アミノ酸配列の相同性とは、アミノ酸配列全体(または機能発現に必要な領域)で、少なくとも80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上(例えば、95%、96%、97%、98%、99%以上)の配列の同一性を有することを意味する。アミノ酸配列の相同性は、BLASTN(核酸レベル)またはBLASTX(アミノ酸レベル)のプログラム(Altschul SF (1990) "Basic local alignment search tool", Journal of Molecular Biology, Vol.215 (Issue 3), pp.403-410を参照)を利用して決定することができる。該プログラムは、KarlinおよびAltschulによるアルゴリズムBLAST(Karlin S and Altschul SF (1990) "Methods for assessing the statistical significance of molecular sequence features by using general scoring schemes", Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, Vol.87 (No.6), pp.2264-2268およびKarlin S and Altschul SF (1993) "Applications and statistics for multiple high-scoring segments in molecular sequences", Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, Vol.90 (No.12), pp.5873-5877を参照)に基づいている。BLASTNによって塩基配列を解析する場合には、パラメーターは例えばscore=100、wordlength=12とする。また、BLASTXによってアミノ酸配列を解析する場合には、パラメーターは例えばscore=50、wordlength=3とする。また、Gapped BLASTプログラムを用いて、アミノ酸配列を解析する場合は、Altschul SF et. al. (1997) "Gapped BLAST and PSI-BLAST: a new generation of protein database search programs", Nucleic Acids Research, Vol.25 (Issue 17), pp.3389-3402に記載されているように行うことができる。BLASTおよびGapped BLASTプログラムを用いる場合には、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。これらの解析方法の具体的な手法は公知である。比較対象の塩基配列またはアミノ酸配列を最適な状態にアラインメントするために、付加または欠失(例えば、ギャップ等)を許容してもよい。
【0029】
本明細書において「相同性」とは、性質が類似のアミノ酸残基数の割合(homology、positive等)を意図しているが、より好ましくは、同一のアミノ酸残基数の割合、すなわち同一性(identity)である。なお、アミノ酸の性質については上述したとおりである。
【0030】
上記(G4)の遺伝子について、配列番号4および5は、いずれも配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子の塩基配列(Open Reading Frame:ORF)を示す。配列番号4で示される塩基配列は、イチイ樹木(Taxus cuspidata)由来の配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする、天然の遺伝子の塩基配列である。一方、配列番号5で示される塩基配列は、配列番号4で示される塩基配列を、大腸菌での発現にコドン最適化した配列である。コドン最適化は、当該技術分野における通常の知識に基づいて行うことができる。配列番号6は、配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子の塩基配列を示す。配列番号7は、配列番号3で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子の塩基配列を示す。
【0031】
上記(G5)の遺伝子は、上記(G1)〜(G4)のいずれかの遺伝子と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズする遺伝子を意図する。ここで、ストリンジェントな条件とは、いわゆる塩基配列に特異的な2本鎖のポリヌクレオチドが形成され、非特異的な2本鎖のポリヌクレオチドが形成されない条件をいう。換言すれば、相同性が高い核酸同士、例えば完全にマッチしたハイブリッドの融解温度(Tm値)から15℃、好ましくは10℃、さらに好ましくは5℃低い温度までの範囲の温度でハイブリダイズする条件ともいえる。一例を示すと、0.25M NaHPO、7%SDS、1mM EDTA、1×デンハルト溶液からなる緩衝液(pH7.2)中において、温度が60〜68℃、好ましくは65℃、さらに好ましくは68℃の条件下で16〜24時間ハイブリダイズさせ、その後さらに20mM NaHPO、1% SDS、1mM EDTAからなる緩衝液(pH7.2)中において、温度が60〜68℃、好ましくは65℃、さらに好ましくは68℃の条件下で15分間の洗浄を2回行う条件を挙げることができる。他の例としては、(1)25%ホルムアミド(より厳しい条件では50%ホルムアミド)、4×SSC(塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム)、50mM Hepes(pH7.0)、10×デンハルト溶液、20μg/mL変性サケ精子DNAを含むハイブリダイゼーション溶液中、42℃で一晩プレハイブリダイゼーションを行った後、標識したプローブを添加し、42℃で一晩保温することによりハイブリダイゼーションを行い、(2)その後、(i)通常は1×SSC、0.1% SDS、37℃程度、(ii)より厳しい条件としては0.5×SSC、0.1% SDS、42℃程度、(iii)さらに厳しい条件としては0.2×SSC、0.1% SDS、65℃程度の、洗浄液および温度にて洗浄する条件を挙げることができる。このようにハイブリダイゼーションの洗浄の条件が厳しくなるほど、特異性の高いハイブリダイズとなる。ただし、上記SSC、SDSおよび温度の条件の組み合わせは例示であり、当業者であれば、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーを決定する上記若しくは他の要素(例えば、プローブ濃度、プローブの長さ、ハイブリダイゼーション反応時間等)を適宜組み合わせることにより、上記と同様のストリンジェンシーを実現することが可能である。このことは、例えば、Joseph Sambrook and David W. Russell, "Molecular cloning: a laboratory manual 3rd Ed.", Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2001等に記載されている。
【0032】
また、上記(G5)の遺伝子には、配列番号4〜7に記載の塩基配列からなるDNAにおいて、1〜50個の塩基配列が置換、欠損、挿入および/または付加しているDNAからなる遺伝子、および配列番号4〜7に記載の塩基配列からなるDNAと90%以上の相同性を有するDNAからなる遺伝子も含まれる。
【0033】
上記遺伝子・タンパク質を得る方法としては、通常行われるポリヌクレオチド改変方法を用いてもよい。すなわち、タンパク質の遺伝情報を有するポリヌクレオチドの特定の塩基を置換、欠失、挿入および/または付加することで、所望の組換えタンパク質の遺伝情報を有するポリヌクレオチドを作製することができる。ポリヌクレオチドの塩基を変換する具体的な方法としては、例えば市販のキット(KOD-Plus Site-Directed Mutagenesis Kit;東洋紡製、Transformer Site-Directed Mutagenesis Kit; Clontech製、QuickChange Site Directed Mutagenesis Kit; Stratagene製等)の使用、またはポリメラーゼ連鎖反応法(polymerase chain reaction:PCR)の利用が挙げられる。これらの方法は当業者に公知である。
【0034】
また、上記遺伝子は、上記タンパク質をコードするポリヌクレオチドのみからなるものであってもよいが、その他の塩基配列が付加されていてもよい。付加される塩基配列としては、特に限定されないが、標識(例えば、ヒスチジンタグ、MycタグまたはFLAGタグなど)、融合タンパク質(例えば、ストレプトアビジン、シトクロム、GST、GFPまたはMBPなど)、プロモーター配列、およびシグナル配列(例えば、小胞体移行シグナル配列、および分泌配列など)をコードする塩基配列などが挙げられる。これらの塩基配列が付加される部位は特に限定されるものではなく、例えば、翻訳されるタンパク質のN末端であっても、C末端でもあってもよい。
【0035】
<2.組換えベクター、形質転換体>
本発明の一態様は、上記遺伝子を含むベクターを提供する。本ベクターとしては、形質転換体を作製するために宿主細胞内で上記遺伝子を発現させるための発現ベクターのほか、組換えタンパク質の生産に用いるものも含まれる。形質転換の対象は特に限定されず、細菌、酵母(例えば、出芽酵母、油性酵母等)、昆虫、動物および植物を例示することができる。
【0036】
上記ベクターの母体となる基材ベクターとしては、一般的に使用される種々のベクターを用いることができる。例えば、プラスミド、ファージまたはコスミド等を用いることができ、導入される細胞または導入方法に応じて適宜選択できる。つまり、ベクターの具体的な種類は特に限定されるものではなく、宿主細胞中で発現可能なベクターを適宜選択すればよい。
【0037】
また、確実に上記遺伝子を発現させるために、宿主細胞の種類に応じて適宜プロモーター配列を選択し、当該プロモーター配列および上記遺伝子を各種基材ベクターに組み込んだものを発現ベクターとして用いればよい。かかる発現ベクターは、例えば、ファージベクター、プラスミドベクター、ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、染色体ベクター、エピソームベクターおよびウイルス由来ベクター(例えば、細菌プラスミド、バクテリオファージ、酵母エピソーム)、酵母染色体エレメントおよびウイルス(例えば、バキュロウイルス、パポバウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、トリポックスウイルス、仮性狂犬病ウイルス、ヘルペスウイルス、レンチウイルスおよびレトロウイルス))ならびにそれらの組合せに由来するベクター(例えば、コスミドおよびファージミド)を利用可能である。
【0038】
一般的に、プラスミドベクターは、リン酸カルシウム沈殿物のような沈殿物中か、または荷電された脂質との複合体中で導入される。ベクターがウイルスである場合、ベクターは、適切なパッケージング細胞株を用いてin vitroでパッケージングされ得、次いで宿主細胞に形質導入され得る。また、レトロウイルスベクターは、複製可能かまたは複製欠損であり得る。後者の場合、ウイルスの増殖は、一般的に、ヘルパー細胞においてのみ生じる。
【0039】
また、上記ベクターは、目的の遺伝子に対するシス作用性制御領域を含むベクターが好ましい。適切なトランス作用性因子は、宿主によって供給され得るか、相補ベクターによって供給され得るか、または宿主への導入の際にベクター自体によって供給され得る。この点に関する好ましい実施態様としては、上記ベクターが、誘導性および/または細胞型特異的であり得る特異的な発現を提供するものであることである。このようなベクターの中で特に好ましいベクターは、温度および栄養添加物等の操作することが容易である環境因子によって誘導されうるベクターである。
【0040】
細菌における使用に好ましいベクターの中には、例えば、pQE−70、pQE−60およびpQE−9(Qiagen社から入手可能);pBSベクター、Phagescriptベクター、Bluescriptベクター、pNH8A、pNH16A、pNH18AおよびpNH46A(Stratagene社から入手可能);ptrc99a、pKK223−3、pKK233−3、pDR540およびpRIT5(Addgene社から入手可能);pRSF(MERCK社から入手可能);ならびにpAC((株)ニッポンジーン社から入手可能)が含まれる。また、好ましい真核生物における使用に好ましいベクターの中には、pWLNE0、pSV2CAT、pOG44、pXT1およびpSG(Stratagene社から入手可能);ならびにpSVK3、pBPV、pMSGおよびpSVL(Addgene社から入手可能)が含まれる。
【0041】
上記遺伝子が宿主細胞に導入されたか否か、さらには宿主細胞中で確実に発現しているか否かを確認するために、各種マーカーを用いてもよい。すなわち、上記ベクターは、少なくとも1つの選択マーカーを含むことが好ましい。このような選択マーカーとしては、例えば、真核生物細胞培養についてはジヒドロ葉酸レダクターゼ遺伝子またはネオマイシン耐性遺伝子が挙げられ、E.coliおよび他の細菌における培養についてはテトラサイクリン耐性遺伝子またはアンピシリン耐性遺伝子等の薬剤耐性遺伝子が挙げられる。また、その他にも宿主細胞中で欠失している遺伝子をマーカー遺伝子として用いてもよい。マーカー遺伝子と本発明の一実施形態に係る遺伝子とを含むプラスミド等を発現ベクターとして宿主細胞に導入することにより、マーカー遺伝子の発現から上記遺伝子の導入を確認することができる。また、上記遺伝子は、宿主細胞における増殖のための選択マーカーを含むベクターに結合されてもよい。
【0042】
また、上記遺伝子のインサートは、適切なプロモーターに作動可能に連結されることが好ましい。適切なプロモーターとしては、当業者に知られたものを利用可能であり、特に限定されないが、例えば、ファージλPLプロモーター;E.coli lacIプロモーター、lacZプロモーター、T3プロモーターおよびT7プロモーター;trpプロモーターおよびtacプロモーター;SV40初期プロモーターおよび後期プロモーター;ならびにレトロウイルスLTRのプロモーターが挙げられる。
【0043】
形質転換における宿主として大腸菌を用いる場合には、大腸菌内複製させるための「ori」および形質転換された大腸菌を選抜するための遺伝子(例えば、薬剤(アンピシリン、テトラサイクリン、カナマイシンおよびクロラムフェニコール等)耐性遺伝子)をベクター上に有することが好ましい。このようなベクターとしては、例えば、M13系ベクター、pUC系ベクター、pBR322、pBluescript、pCR−Script、pGEM−T、pDIRECT、pGEX(GEヘルスケア社製)、pET(Promega社製)、pTrc(Invitrogen社製)、pT7、pRSF(MERCK社から入手可能)、pAC((株)ニッポンジーン社から入手可能)等が挙げられる。
【0044】
上記ベクターは、さらに、転写開始および転写終結のための部位を含み、かつ、転写領域中に翻訳のためのリボゾーム結合部位を含むことが好ましい。ベクター構築物によって発現される成熟転写物のコード部分は、翻訳されるべきポリペプチドの始めに転写開始コドンAUGを含み、そして終わりに適切に位置される終止コドンを含むことになる。
【0045】
形質転換における宿主として高等真核生物を用いる場合には、ベクター中にエンハンサー配列を挿入することによって、DNAの転写を増大させ得る。エンハンサーは、所定の宿主細胞型におけるプロモーターの転写活性を増大させるように働く、通常約10〜300bpのDNAのシス作用性エレメントである。エンハンサーとしては、例えば、SV40エンハンサー(これは、複製起点の下流の100〜270bpに配置される)、サイトメガロウイルスの初期プロモーターエンハンサー、複製起点の下流に配置されるポリオーマエンハンサーおよびアデノウイルスエンハンサーが挙げられる。
【0046】
ベクターが導入される宿主としては、特に限定されないが、各種細胞を好適に用いることができる。適切な宿主の代表的な例としては、菌体(例えば、E.coli細胞、Streptomyces細胞およびSalmonella typhimurium細胞)、真菌細胞(例えば、酵母細胞)、昆虫細胞(例えば、Drosophila S2細胞およびSpodoptera Sf9細胞)、動物細胞(例えば、CHO細胞、COS細胞およびBowes黒色腫細胞)ならびに植物細胞が挙げられる。より具体的には、ヒトまたはマウス等の哺乳類の細胞だけでなく、例えば、カイコガ由来の細胞をはじめとして、キイロショウジョウバエ等の昆虫、大腸菌(Escherichia coli)等の細菌、酵母(出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)、分裂酵母(Schizosaccharomyces pombe)および油性酵母(Yarrowia lipolytica、Rhodosporidium toruloides、Xanthophyllomyces dendrorhous、Rhodotorula glutinis、Rhodotorula acheniorumおよびLipomyces starkeyi))、線虫(Caenorhabditis elegans)、アフリカツメガエル(Xenopus laevis)の卵母細胞等を挙げることができるが、特に限定されるものではない。上記の宿主細胞のための適切な培養培地および条件は当分野で公知ものを利用可能である。
【0047】
上記ベクターを宿主細胞に導入する方法、すなわち形質転換方法も特に限定されるものではなく、電気穿孔法、リン酸カルシウム法、リポソーム法、DEAEデキストラン法、マイクロインジェクション法、カチオン性脂質媒介トランスフェクション、エレクトロポレーション、形質導入または感染等の従来公知の方法を好適に用いることができる。このような方法は、Leonard G. Davis et. al., "Basic methods in molecular biology", Elsevier, 1986のような多くの標準的研究室マニュアルに記載されている。
【0048】
なお、本発明の一態様には、上記タンパク質の部分断片(フラグメント)を組換え的に生成するための、上記タンパク質の部分断片をコードするポリヌクレオチドを含む組換え発現ベクターおよび組換え発現ベクターで遺伝子操作された形質転換体(宿主細胞)を含む。
【0049】
さらに、本発明の一態様には、上述の組換え技術によって得られるタンパク質の変異体またはそのフラグメントの産生に関する発明も含まれ得る。すなわち、本発明の一態様には、組換え技術を利用して、タンパク質の変異体またはそのフラグメントを生産する方法も含まれ得る。
【0050】
かかる技術によって生産されたタンパク質の変異体は、宿主細胞または細胞外(培地等)から単離し、実質的に純粋で均一なタンパク質として精製することができる。タンパク質の分離および精製は、通常のタンパク質の分離および精製で使用されている分離方法および精製方法を使用すればよい。例えば、クロマトグラフィー、濾過、限外濾過、塩析、溶媒沈殿、溶媒抽出、蒸留、免疫沈降、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動、硫安沈殿またはエタノール沈殿、酸抽出、透析および再結晶等を適宜選択または組み合せることにより、タンパク質を分離および精製することができる。さらに、これらの方法を複数組み合わせることもできる。
【0051】
クロマトグラフィーの具体的な方法としては、アフィニティークロマトグラフィー、陰イオンまたは陽イオンのイオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、レクチンクロマトグラフィー、ゲル濾過、逆相クロマトグラフィーおよび吸着クロマトグラフィー等が挙げられる。
【0052】
また、タンパク質の変異体をGSTとの融合タンパク質または6×Hisを付加させた組換えタンパク質として宿主細胞(大腸菌等)内で発現させた場合は、発現させた組換えタンパク質を、グルタチオンカラムまたはニッケルカラムを用いて精製することができる。融合タンパク質の精製後、必要に応じて、融合タンパク質のうち目的のタンパク質以外の領域を、トロンビンまたはファクターXa等により切断し、除去することも可能である。
【0053】
本発明の一態様には、上記遺伝子または上記ベクターを含む形質転換体も含まれる。ここで、「遺伝子またはベクターを含む」とは、公知の遺伝子工学的手法(遺伝子操作技術)により、対象細胞(宿主細胞)内に発現可能に導入されていることを意味する。また、上記「形質転換体」とは、細胞・組織・器官のみならず、生物個体を含むことが意図される。
【0054】
本形質転換体の作製方法(生産方法)としては、上述したベクターを形質転換する方法が挙げられる。また、形質転換の対象となる生物も特に限定されるものではなく、上記宿主細胞として例示した各種微生物を挙げることができる。また、プロモーターおよび/またはベクターを適宜選択すれば、植物または動物も形質転換の対象とすることが可能である。
【0055】
本発明の一実施形態において使用される宿主細胞としては、特に、大腸菌が好ましく例示できる。後述する実施例では、大腸菌B株のBL21(DE3)を用いた。しかし、大腸菌には、大腸菌K12株のJM109(DE3)など種々の株が存在するので、大腸菌の株としてBL21(DE3)に限定されるものでない。また、実施例では、組換え大腸菌の培養培地として、LB培地およびTB培地を利用したが、大腸菌の培養培地としては、2×YT培地やM9培地等多くの培地が存在するので、LB培地およびTB培地に限定されるものでない。また、遺伝子組換え実験方法としては、実施例で示したメーカーによる実施マニュアル以外に、多くの手引書が存在している。例えば、Joseph Sambrook and David W. Russell, "Molecular cloning: a laboratory manual 3rd Ed.", Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2001が例示できる。本手引書は包括的であり、通常の遺伝子組換え実験方法以外に、大腸菌株の種類、ベクターの種類、培養法等が示されているので、参考にして実験を行うことができる。
【0056】
本発明の一態様に係る形質転換体は、さらに、以下の(g1)〜(g4)の遺伝子を導入し、発現させたものであることが好ましい:
(g1)メバロン酸またはメバロノラクトンからイソペンテニル二リン酸までの合成を行うメバロン酸経路遺伝子群、
(g2)1型のイソペンテニル二リン酸イソメラーゼ遺伝子、
(g3)2型のイソペンテニル二リン酸イソメラーゼ遺伝子、
(g4)アセト酢酸−コエンザイムAリガーゼ遺伝子。
【0057】
本発明の一態様に係る形質転換体は、上記の(g1)〜(g4)の遺伝子に加えて、さらに、以下の(g5)〜(g6)の遺伝子を導入し、発現させたものであることがより好ましい:
(g5)ゲラニルゲラニル二リン酸合成酵素遺伝子、
(g6)タキサジエン合成酵素遺伝子。
【0058】
本発明の一態様に係る形質転換体は、上記の(g1)〜(g6)の遺伝子に加えて、さらに、以下の(g7)の遺伝子を導入し、発現させたものであることがさらに好ましい:
(g7)NADPH−シトクロムP450還元酵素遺伝子。
【0059】
<3.酸化タキサジエンの製造方法>
本発明の一態様に係る酸化タキサジエンの製造方法は、上述した形質転換体を培養し、酸化タキサジエンを取得する工程を含むものであればよく、その他の具体的な条件、材料、および使用設備等は特に限定されない。
【0060】
以下、各種の宿主のなかで、材料および情報が最も充実しており、本発明の一実施形態の製造方法において最も好ましい態様である大腸菌を例に挙げて説明する。なお、本発明はこれに限定されるものではなく、宿主については、上述の<2>欄で述べた各種材料を用いることができる。
【0061】
組換え大腸菌を用いて酸化タキサジエンを生産する場合の概要について説明する。
【0062】
1.大腸菌はメバロン酸経路を持っておらず、非メバロン酸経路[2−C−メチル−D−エリストール4−リン酸(以後、MEPと記載)を経由するのでMEP経路とも呼ばれる]により最初のイソプレノイド基質であるイソペンテニル二リン酸(イソペンテニルピロリン酸とも呼ばれる;以後、IPPと記載)が作られる。
【0063】
2.IPPはIPPイソメラーゼ(以後、Idiと称する場合もある)によりジメチルアリル二リン酸(以後、DMAPPと記載)に変換される。
【0064】
3.DMAPPはファルネシル二リン酸(farnesyl diphosphate;以後、FPPと記載)合成酵素(シンターゼ)によりIPPと順次縮合することにより、炭素数10のゲラニル二リン酸(以後GPPと記載)、炭素数15のFPPに順次変換される。
【0065】
4.FPPはゲラニルゲラニル二リン酸(以後、GGPPと記載)合成酵素によりIPPとさらに縮合して炭素数20のGGPPが合成される。
【0066】
5.GGPPから、タキサジエン合成酵素により、タキサジエン(「Taxa−4,11−diene」と記載する場合もある。)が合成される。
【0067】
野生種の大腸菌は、上記4および5の合成を行わないので、これらのイソプレノイドを大腸菌に合成させるためには、メバロン酸、メバロノラクトン等からFPPまでの合成を担う生合成酵素遺伝子(群)、FPPからGGPPまでの合成を担う生合成酵素遺伝子(群)、GGPPからタキサジエンまでの合成を担う生合成酵素遺伝子(群)等を大腸菌に導入し、発現させることが好ましい。以下、これらの遺伝子について詳説する。
【0068】
(3−1.メバロン酸経路遺伝子群)
メバロン酸またはメバロノラクトンからイソペンテニル二リン酸までの合成を行うメバロン酸経路遺伝子群としては、例えば、HMG−CoA合成酵素(HMG−CoA synthase)遺伝子、HMG−CoAレダクターゼ(HMG−CoA reductase)遺伝子、メバロン酸キナーゼ(mevalonate kinase;MVA kinase)遺伝子、ホスホメバロン酸キナーゼ(phosphomevalonate kinase;PMVA kinase)遺伝子、および、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ(diphosphomevalonate kinase;DPMVA kinase)遺伝子を挙げることができる。
【0069】
これらのメバロン酸経路遺伝子群としては、ストレプトミセス属CL190株由来のメバロン酸経路遺伝子群(Yu F et. al (2008)"Isolation and functional characterization of a beta-eudesmol synthase, a new sesquiterpene synthase from Zingiber zerumbet Smith", FEBS Letters, Vol.582 (Issue 5), pp.565-572を参照。INSDによるアクセッション番号:AB037666)を用いることができるが、これ以外にも出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)由来のメバロン酸経路遺伝子群(Martin VJ et. al. (2003) "Engineering a mevalonate pathway in Escherichia coli for production of terpenoids", Nature Biotechnology, Vol.21 (No.7), pp.796-802を参照)、細菌ストレプトコッカス・プノイモニエ(Streptococcus pneumoniae)由来のメバロン酸経路遺伝子群(Yoon SH et. al. (2006) "Enhanced lycopene production in Escherichia coli engineered to synthesize isopentenyl diphosphate and dimethylallyl diphosphate from mevalonate", Biotechnology and Bioengineering, Vol.94 (Issue 6), pp.1025-1032を参照)なども用いることができる。
【0070】
(3−2.1型/2型イソペンテニル二リン酸イソメラーゼ遺伝子)
さらに、FPPの供給量を上げるために、IPPイソメラーゼ(Idi;IPP isomerase)遺伝子(idi)を用いることが好ましい。idi遺伝子としては、ストレプトミセス属CL190株由来のイソペンテニル二リン酸イソメラーゼ遺伝子(非特許文献4Accession no AB037666)を用いることができるが、これ以外にも大腸菌由来のイソペンテニル二リン酸イソメラーゼ遺伝子(Martin VJ et. al. (2003) "Engineering a mevalonate pathway in Escherichia coli for production of terpenoids", Nature Biotechnology, Vol.21 (No.7), pp.796-802を参照)、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)由来のイソペンテニル二リン酸イソメラーゼ遺伝子(Kajiwara S et. al. (1997) "Expression of an exogenous isopentenyl diphosphate isomerase gene enhances isoprenoid biosynthesis in Escherichia coli", Biochemical Journal, Vol.324 (Issue 2), pp.421-426を参照)、緑藻ヘマトコッカス・プルビアリス(Haematococcus pluvialis)由来のイソペンテニル二リン酸イソメラーゼ遺伝子(Martin VJ et. al., op. cit.およびKajiwara S et. al., op. cit.を参照)なども用いることができる。
【0071】
また、Idiには互いに構造が異なる、1型(type 1)と2型(type 2)のものが存在する。本発明の一実施形態においてはいずれのIdiを用いてもよいが、本発明者らは下記実施例では両方のIdiを用いた。
【0072】
(3−3.アセト酢酸−コエンザイムAリガーゼ遺伝子)
上述したメバロン酸経路遺伝子群およびIdi遺伝子を導入した組換え大腸菌によれば、培地中にメバロン酸またはメバロノラクトン(D−メバロノラクトン(D-mevalonate lactone))を基質として配合することにより、FPPを大量に生産することができる。
【0073】
一方、基質として、メバロノラクトンより安価なアセト酢酸塩(例えばlithium acetoacetate;LAA)を基質として利用することもできる。培地中に添加されたLAAを利用するためには、LAAを基質とするアセト酢酸−コエンザイムA(CoA)リガーゼ(acetoacetate-CoA ligase)遺伝子を、さらに導入することが好ましい。
【0074】
アセト酢酸−CoAリガーゼは、アセト酢酸とCoAとを基質とし、ATPを用いてアセトアセチル−CoAへの変換を触媒する酵素である(Stern JR (1971) "A role of acetoacetyl-CoA synthetase in acetoacetate utilization by rat liver cell fractions", Biochemical and Biophysical Research Communications, Vol.44 (Issue 4), pp.1001-1007およびBergstrom JD et. al. (1984) "The regulation of acetoacetyl-CoA synthetase activity by modulators of cholesterol synthesis in vivo and the utilization of acetoacetate for cholesterogenesis", The Journal of Biolgical Chemistry, Vol.259 (No.23), pp.14548-14553を参照)。アセト酢酸−CoAリガーゼ遺伝子としては、ラット(Rattus norvegicus)やヒトなどの哺乳類、ある種のバクテリア、菌類等に由来する遺伝子が知られており、本発明の一実施形態においても、これらの遺伝子を使用することができる。また、ラット由来のアセト酢酸−CoAリガーゼをコードする遺伝子全長(INSDによるアクセッション番号:BC061803)を含むプラスミドは、Mammalian Gene Collection cDNAクローンとして、Invitrogen社より取得できる(クローンID: 5598532)。
【0075】
すなわち、本発明の一態様には、上記<1>欄で説明した遺伝子に加えて、(g1)メバロン酸またはメバロノラクトンからイソペンテニル二リン酸までの合成を行うメバロン酸経路遺伝子群、(g2)1型のイソペンテニル二リン酸イソメラーゼ遺伝子、(g3)2型のイソペンテニル二リン酸イソメラーゼ遺伝子、および(g4)アセト酢酸−コエンザイムAリガーゼ遺伝子を導入した形質転換体を、アセト酢酸塩を含む培地にて培養し、酸化タキサジエンを取得する工程を含む酸化タキサジエンの製造方法も含まれる。
【0076】
(3−4.ゲラニルゲラニル二リン酸合成酵素遺伝子)
さらに、FPPからGGPPの合成を行うために、ゲラニルゲラニル二リン酸合成酵素遺伝子を導入することが好ましい。ゲラニルゲラニル二リン酸合成酵素遺伝子は、当該遺伝子から発現するタンパク質がFPPをGGPPへ変換する活性を有している限り特段限定されず、当該遺伝子の配列中に変異が入っていてもよい。
【0077】
変異は、ゲラニルゲラニル二リン酸合成酵素の活性を高める変異であることが好ましく、例えば、コドン最適化が挙げられるがこれに限定されない。コドン最適化は、当該技術分野における通常の知識に基づいて行うことができる(例えば、Burgess-Brown NA et. al. (2008) "Codon optimization can improve expression of human genes in Escherichia coli: A multi-gene study", Protein Expression and Purification, Vol.59 (Issue 1), pp.94-102を参照)。また、コドン最適化は、市販の人工遺伝子合成サービスを用いて行うこともできる(例えば、GenScriptの人工遺伝子合成のサービス(http://www.genscript.jp/codon_opt.html))。コドンが最適化されているか否かは、例えば、コドン最適化処理の前後のゲラニルゲラニル二リン酸合成酵素の発現量を比較することにより、判定することができる。コドン最適化処理後の配列により発現するゲラニルゲラニル二リン酸合成酵素が、コドン最適化処理前の配列により発現するゲラニルゲラニル二リン酸合成酵素と比較して多く発現した場合は、コドン最適化が成功したと判定することができる。コドン最適化の指標としては、タンパク質の発現量に限られず、目的に合わせて適宜設定することができる。
【0078】
ゲラニルゲラニル二リン酸合成酵素遺伝子の由来は、特段限定されることなく、任意の生物種由来の遺伝子を用いることができる。また、ゲラニルゲラニル二リン酸合成酵素遺伝子は、導入される宿主細胞との関係を考慮して適宜設定することができる。例えば、本明細書の実施例では、宿主として大腸菌が、導入される遺伝子として土壌細菌(Pantoea ananatis)由来のゲラニルゲラニル二リン酸合成酵素遺伝子(crtE)が用いられている。
【0079】
本発明の好ましい態様として、ゲラニルゲラニル二リン酸合成酵素遺伝子は、実施例で示されているように、INSDによるアクセッション番号:D90087として公開された遺伝子のコード領域(CDS)に対応する配列番号8で示される塩基配列からなる遺伝子が使用され得る。
【0080】
(3−5.タキサジエン合成酵素遺伝子)
さらに、GGPPからタキサジエンの合成を行うために、タキサジエン合成酵素遺伝子を導入することが好ましい。タキサジエン合成酵素遺伝子は、そこから発現するタンパク質がGGPPをタキサジエンへ変換する活性を有している限り特段限定されず、当該遺伝子の配列中に変異が入っていてもよい。
【0081】
変異は、タキサジエン合成酵素の活性を高める変異であることが好ましく、例えば、コドン最適化が挙げられるがこれに限定されない。コドン最適化の詳細に関しては、上記3−4.と同様である。コドンが最適化されているか否かは、例えば、コドン最適化処理の前後のタキサジエン合成酵素の発現量を比較することにより、判定することができる。コドン最適化処理後の配列により発現するタキサジエン合成酵素が、コドン最適化処理前の配列により発現するタキサジエン合成酵素と比較して多く発現した場合は、コドン最適化が成功したと判定することができる。コドン最適化の指標としては、タンパク質の発現量に限られず、目的に合わせて適宜設定することができる。
【0082】
タキサジエン合成酵素遺伝子の由来は、特段限定されることなく、任意の生物種由来の遺伝子を用いることができる。また、タキサジエン合成酵素遺伝子は、導入される宿主細胞との関係を考慮して適宜設定することができる。例えば、本明細書の実施例では、宿主として大腸菌が、導入される遺伝子としてタイヘイヨウイチイ(Taxus brevifolia)由来のタキサジエン合成酵素遺伝子(TXS)が用いられている。
【0083】
本発明の好ましい態様として、タキサジエン合成酵素遺伝子は、実施例で示されているように、INSDによるアクセッション番号:U48796として公開された遺伝子のコード領域(CDS)を、大腸菌用にコドン最適化し、かつ、N末端側の60残基を除去し、さらにN末端側にMetおよびGly残基を付加するように設計された配列番号9で示される塩基配列からなる遺伝子が使用され得る。
【0084】
すなわち、本発明の一態様には、上記<1>欄で説明した遺伝子および上記の(g1)〜(g4)の遺伝子に加えて、(g5)ゲラニルゲラニル二リン酸合成酵素遺伝子、および(g6)タキサジエン合成酵素遺伝子を導入した形質転換体を、アセト酢酸塩を含む培地にて培養し、酸化タキサジエンを取得する工程を含む酸化タキサジエンの製造方法も含まれる。
【0085】
(3−6.NADPH−シトクロムP450還元酵素遺伝子)
本発明の一態様に係るタキサジエン酸化酵素は、シトクロムP450の一種である。したがって、P450による酸化反応を担保するために、NADPH−シトクロムP450還元酵素遺伝子を導入することが好ましい。NADPH−シトクロムP450還元酵素遺伝子は、P450が酸化反応を行う際に必要な電子を供給するフラビン酵素であり、自らの補酵素であるFADおよびFMNが結合するドメイン(各々、FAD結合ドメインおよびFMN結合ドメインと記載する場合がある)をその内部に包含している。一実施形態において、宿主が自身のNADPH−シトクロムP450還元酵素遺伝子を有していない場合に、当該遺伝子を導入する態様は当然に好ましい。他の実施形態において、宿主が自身のNADPH−シトクロムP450還元酵素遺伝子を有している場合においても、当該遺伝子を導入する態様は好ましくあり得る。宿主が大腸菌である場合において、大腸菌自体はNADPH−シトクロムP450還元酵素遺伝子を有していないので、当該遺伝子を導入する態様が好ましくあり得る。
【0086】
NADPH−シトクロムP450還元酵素遺伝子の由来は、特段限定されることなく、任意の生物種由来の遺伝子を用いることができる。また、NADPH−シトクロムP450還元酵素遺伝子は、同時に発現させるP450および導入される宿主細胞との関係を考慮して適宜設定することができる。例えば、本明細書の実施例では、宿主として大腸菌が、導入される遺伝子としてニホンイチイ(Taxus cuspidata)由来のP450およびNADPH−シトクロムP450還元酵素遺伝子(TCPR)が用いられている。
【0087】
本発明の好ましい態様として、NADPH−シトクロムP450還元酵素遺伝子は、実施例で示されているように、INSDによるアクセッション番号:AY571340.1として公開された遺伝子のコード領域(CDS)を、大腸菌用にコドン最適化し、かつ、N末端側の膜貫通ドメイン74残基を除去するように設計された配列番号10で示される塩基配列からなる遺伝子が使用され得る。
【0088】
すなわち、本発明の一態様には、上記<1>欄で説明した遺伝子および上記の(g1)〜(g6)の遺伝子に加えて、(g7)NADPH−シトクロムP450還元酵素遺伝子を導入した形質転換体を、アセト酢酸塩を含む培地にて培養し、酸化タキサジエンを取得する工程を含む酸化タキサジエンの製造方法も含まれる。
【0089】
(3−7.その他)
本発明の一実施形態に係る遺伝子および上記(g1)〜(g7)の遺伝子は、適宜組み合わせてベクターに搭載し、宿主に導入することができる。ベクターに搭載する遺伝子の組み合わせは、当該遺伝子が導入された形質転換体が所望のタンパク質(例えば、酸化タキサジエン)を産生する限り特段限定されない。
【0090】
本発明の一実施形態に係る遺伝子および上記(g1)〜(g7)の遺伝子を導入するためのベクターの数は、特段限定されず、例えば、1個、2個、3個、4個、5個等であり得る。
【0091】
1個のベクターに搭載される遺伝子の数も特段限定されず、例えば、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個等であり得る。
【0092】
本発明の一実施形態においては、例えば、酸化タキサジエン合成の初期段階に関わる遺伝子が第一のベクターに搭載され、酸化タキサジエン合成の後期段階に関わる遺伝子が第二のベクターに搭載され得る。本発明の一実施形態において、好ましくは、LAAからFPPまでの経路に関与する遺伝子(すなわち、上記(g1)〜(g4)の遺伝子)が第一のベクターに搭載され、FPPから酸化タキサジエンまでの経路に関与する遺伝子(すなわち、上記(g5)〜(g7)の遺伝子および本発明の一実施形態に係る遺伝子)が第二のベクターに搭載され得る。
【0093】
同一ベクター内における遺伝子の配置順序も、特段限定されない。例えば、上記(g1)〜(g4)の遺伝子が同一ベクター上に搭載される場合、N末端からC末端側へ、
Harada H et. al. (2008) "Efficient synthesis of functional isoprenoids from acetoacetate through metabolic pathway-engineered Escherichia coli", Applied Microbiology and Biotechnology, Vol.81 (Issue 5), p.915-925に記載された順序で配置され得る。具体的には、N末端からC末端側へ、メバロン酸キナーゼ遺伝子(遺伝子(g1))−ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ遺伝子(遺伝子(g1))−ホスホメバロン酸キナーゼ遺伝子(遺伝子(g1))−2型IPPイソメラーゼ遺伝子(遺伝子(g3))−HMG−CoAレダクターゼ遺伝子(遺伝子(g1))−HMG−CoA合成酵素遺伝子(遺伝子(g1))−1型IPPイソメラーゼ遺伝子(遺伝子(g2))−アセト酢酸−コエンザイムAリガーゼ遺伝子(遺伝子(g4))の順で配置され得る(Harada H et. al., op. cit.に記載されたベクター「pAC−Mev/Scidi/Aacl」に対応)。また、例えば、上記(g5)〜(g7)の遺伝子および本発明の一実施形態に係る遺伝子が同一ベクター上に搭載される場合、N末端からC末端側へ、本発明の一実施形態に係る遺伝子−遺伝子(g7)−遺伝子(g5)−遺伝子(g6)の順で配置され得る。
【0094】
本発明の好ましい態様においては、上記(g1)〜(g4)の遺伝子がHarada H et. al., op. cit.に記載された順序で配置された第一のベクター(pAC−Mev/Scidi/Aacl)と、上記(g5)〜(g7)の遺伝子および本発明における遺伝子が、N末端からC末端側へ、本発明の一実施形態に係る遺伝子−遺伝子(g7)−遺伝子(g5)−遺伝子(g6)の順で配置された第二のベクターとが、宿主としての大腸菌に導入され得る。
【0095】
以上のように、本発明の一態様は、新規の酸化タキサジエンを合成するタンパク質、該タンパク質をコードする遺伝子、ならびに該遺伝子を用いる酸化タキサジエンの製造方法に関する。さらに具体的には、本発明の一態様は、パクリタキセル生合成経路の中間体であると推定される新規の酸化タキサジエン(とりわけ、タキサジエンの10位が酸化された酸化タキサジエン)を、タキサジエンから合成するタンパク質、該タンパク質をコードする遺伝子、ならびに該遺伝子を利用した酸化タキサジエンの製造方法に関する。
【0096】
本発明の一態様により、組換え大腸菌等を用いて新規の酸化タキサジエンを効率的に生産することができる。本発明の一態様により製造可能な新規の酸化タキサジエンは、パクリタキセル生合成における中間体としての役割だけでなく、種々の分野においてその利用が期待できる。
【0097】
<4.新規化合物>
<3>欄の製造方法によって得られた物質は、当分野において既知である任意の技術を用いて、その構造を決定することができる。構造を決定するための技術としては、例えば、X線回折、NMR(核磁気共鳴法)、赤外分光法(IR)、MS(質量分析)がなど挙げられるが、これらに限定されない。
【0098】
また、本発明の一態様には、上述した<3>欄の製造方法にて得られた化合物も包含され得る。例えば、後述する実施例で示した化合物が含まれ得る。本化合物の機能については確定されていないが、上述のとおり、パクリタキセルの新規生合成経路に関与すると推定される化合物である。このため、本化合物は、パクリタキセル生合成の中間体として有用であると推測される。また、医薬品以外にも、機能性食品、香料、農園芸、生活消費財、ポリマー樹脂原料、触媒原料、化成品原料、建材、燃料、クロマトグラフィー用担体、濾過担体、キレート剤、洗浄剤、潤滑剤、農薬原料等にも利用可能である。
【0099】
<5.抗体>
本発明の一態様は、本発明の一実施形態に係るタンパク質に、特異的に結合する抗体を含む。本抗体は、上記<1>欄で説明したタンパク質またはその部分ペプチドを抗原として、公知の方法により得られる抗体であればよい。本抗体の形態は、特に制限されない。
【0100】
公知の方法としては、例えば、Ed. Harlow, "Antibodies: a laboratory manual", Cold Spring Harbor Laboratory, 1988;岩崎辰夫 他『単クローン抗体: ハイブリドーマとELISA』、講談社、1991年に記載の方法が挙げられる。このようにして得られる抗体は、タンパク質の検出・測定等に利用できる。例えば、上記タンパク質を感作抗原として使用し、取得することができる。感作抗原として使用されるタンパク質は、完全なタンパク質であってもよく、タンパク質の部分ペプチドであってもよい。また、タンパク質を発現する細胞もしくはその溶解物、または化学的に合成したタンパク質を感作抗原として使用してもよい。短いペプチドは、キーホールリンペットヘモシアニン、ウシ血清アルブニンおよび卵白アルブニン等のキャリアタンパク質と適宜結合させて抗原とすることができる。
【0101】
感作抗原で免疫される哺乳動物としては、特に限定されないが、モノクローナル抗体の作製においては細胞融合に使用する親細胞との適合性を考慮して選択することが好ましく、一般的には、マウス等のげっ歯目、ウサギ等のウサギ目またはアカゲザル等の霊長目の動物が使用される。
【0102】
また、本発明の一態様には、上記タンパク質における免疫原性エピトープ部分のアミノ酸配列を有するポリペプチドが含まれる。上記タンパク質のエピトープ保有部分のアミノ酸配列を有するポリペプチドは、少なくとも上記<1>欄で説明した変異部位を含み、かつ、6個、7個、8個、9個または10個のアミノ酸を有するポリペプチドの部分を含んでいればよい。
【0103】
上記タンパク質において、抗体応答を惹起する免疫原性エピトープ部分は、当該分野で公知の方法により同定することができる。例えば、Geysen HM et. al. (1984) "Use of peptide synthesis to probe viral antigens for epitopes to a resolution of a single amino acid", Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, Vol.81 (No.13), pp.3998-4002には、酵素−結合免疫吸着アッセイにおける反応に利用可能な程度に、数百アミノ酸の十分に純粋なペプチドを、固体支持体上で迅速に同時合成する手順が開示されている。合成ペプチドの抗体との相互作用は、合成ペプチドを支持体から除去することなく容易に検出可能である。この方法によって、所望のタンパク質の免疫原性エピトープを保有するペプチドは、当業者により日常的に同定され得る。例えば、口蹄疫ウイルスのコートタンパク質における免疫学的に重要な免疫原性エピトープは、上記タンパク質の213のアミノ酸配列全体を覆う全ての208の可能なヘキサペプチドの重複セットを合成することによる、7アミノ酸配列の解析によりGeysenらによって位置付けされた。さらに、エピトープ内の各位置を、全20種類のアミノ酸によりそれぞれ置換したペプチドが合成され、抗体との反応のための特異性を与える特定のアミノ酸が決定された。このようにして、本発明の一実施形態に係るエピトープ保有ペプチドのペプチドアナログは、この方法により日常的に作製され得る。Geysen (1987)の米国特許第4,708,871号には、所望のタンパク質の免疫原性エピトープを保有するペプチドを同定するこの方法がさらに詳細に記載されている。
【0104】
「免疫原性エピトープ」は、タンパク質全体が免疫原である場合、抗体応答を誘発するタンパク質の一部として定義される。これらの免疫原性エピトープは、分子上の2、3の部位に制限されると考えられている。一方では、抗体が結合し得るタンパク質分子の領域は、「抗原性エピトープ」と定義され得る。タンパク質の免疫原性エピトープの数は、一般には、抗原性エピトープの数よりも少ない。このことは、例えば、Geysen HM et. al., op. cit.に記載されている。
【0105】
上記タンパク質の抗原性エピトープを保有するペプチドは、本発明の一実施形態に係る抗体、特にモノクローナル抗体を惹起するのに有用である。抗原性エピトープ保有ペプチドで免疫化されたドナーの脾臓細胞を融合することにより得られるハイブリドーマの大部分は、一般に天然のタンパク質と反応性がある抗体を分泌する。抗原性エピトープ保有ペプチドにより惹起された抗体は、模倣タンパク質を検出するのに有用である。異なるペプチドに対する抗体が、翻訳後プロセシングを受けるタンパク質前駆体の種々の領域の末路を追跡するために使用され得る。免疫沈降アッセイにおいては、短いペプチド(例えば、約9アミノ酸)でさえ、より長いペプチドに結合することによって置換し得ることが示されているため、ペプチドおよび抗ペプチド抗体は、模倣タンパク質についての種々の定性的または定量的アッセイ、例えば、競合的アッセイにおいて使用され得る。このことは、例えば、Wilson IA (1984) "The structure of an antigenic determinant in a protein", Cell, Vol.37 (Issue 3), pp.767-778に記載されている。本発明の一実施形態に含まれるタンパク質に特異的な抗体もまた、模倣タンパク質の精製(例えば、当該分野で周知の方法を使用して、吸着クロマトグラフィーにより)に有用である。
【0106】
上記のガイドラインにしたがって設計された、上記タンパク質に由来する抗原性エピトープ保有ペプチドは、好ましくは上記タンパク質の変異部位を含むアミノ酸配列内に含まれる少なくとも7、より好ましくは少なくとも9、さらに好ましくは15〜30アミノ酸の配列を含む。さらに、上記抗原性エピトープ保有ペプチドは、上記タンパク質の変異部位を含む30〜50アミノ酸、全長未満の任意長さのアミノ酸配列、または全長アミノ酸配列を含んでいてもよい。また、抗原性エピトープ保有ペプチドのアミノ酸配列は、水性溶媒中で実質的に溶解するように選択され(すなわち、上記配列は、親水性残基を含む傾向にあり、疎水性の高い配列は好ましくは回避される)、プロリン残基を含む配列であることが特に好ましい。なお、上記タンパク質の抗原性エピトープ保有ペプチドは、公知の組換えタンパク質の生産技術等により容易に取得し得る。
【0107】
上記抗原性エピトープ保有ペプチドは、当該分野に周知の方法によって抗体を誘導するために使用できる。このことは、例えば、Chow M et. al. (1985) "Synthetic peptides from four separate regions of the poliovirus type 1 capsid protein VP1 induce neutralizing antibodies", Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, Vol.82 (No.3), pp.10-914;およびFrancis MJ et. al. (1985) "Immunological priming with synthetic peptides of foot-and-mouth disease virus", Journal of General Virology, Vol.66 (Issue 11), pp.2347-2354に記載されている。一般には、動物は、遊離ペプチドで免疫化され得る。しかし、抗タンパク質抗体力価は、ペプチドを高分子キャリア(例えば、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)または破傷風トキソイド)にカップリングすることにより追加免疫され得る。例えば、システインを含有するペプチドは、m−マレイミドベンゾイル−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(MBS)のようなリンカーを使用してキャリアにカップリングされ得る。他のペプチドは、グルタルアルデヒドのような、より一般的な連結剤を使用してキャリアにカップリングされ得る。一例として、ウサギ、ラット、およびマウスなどの動物に対し、約100μgの遊離ペプチドまたはキャリア−カップリングペプチドと、Freundのアジュバントとを含むエマルジョンを、腹腔内および/または皮内に注射することにより免疫化できる。例えば、固体表面に吸着された遊離ペプチドを使用してELISAアッセイにより検出され得る有用な力価の抗タンパク質抗体を提供するために、1回以上の追加免疫注射を行ってもよい。上記追加免疫注射は例えば、約2週間の間隔で行われる。免疫化動物から得られた血清における抗タンパク質抗体の力価は、抗タンパク質抗体の精製により増加し得る。上記精製には、例えば、当該分野で周知の方法による、固体支持体上のペプチドへの抗体の吸着、および上記抗体の溶出によることができる。
【0108】
また、本明細書中で使用される場合、用語「抗体」は、免疫グロブリン(IgA、IgD、IgE、IgG、IgM、ならびにこれらのFabフラグメント、F(ab’)フラグメントおよびFcフラグメント)を含む。一例として、全てのクラスのポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、単鎖抗体、抗イディオタイプ抗体、ヒト化抗体および遺伝子組換えによるヒト型化抗体等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0109】
また、本抗体は、上記タンパク質に結合する限り、抗体断片または抗体修飾物であってもよい。つまり、本抗体は、上述のタンパク質に特異的に結合し得る完全な分子および抗体フラグメント(例えば、FabおよびF(ab’)フラグメント)を含む。FabおよびF(ab’)フラグメントは、完全抗体には含まれるFc部分を欠いており(Fc部分は迅速に除去することができる)、完全抗体に見られる非特異的組織結合をほとんど有し得ない(Wahl RL et. al. (1983) "Improved radioimaging and tumor localization with monoclonal F(ab')2", The Journal of Nuclear Medcine, Vol.24 (No.4), pp.316-325を参照)。したがって、FabおよびF(ab’)フラグメントが好ましい。
【0110】
また、本抗体は、抗イディオタイプ抗体を使用することによる、二工程手順で産生され得る。このような方法は、抗体それ自体が抗原となり得る事実を使用しており、二次抗体に結合する抗体を得ることが可能である。この方法に従うと、本抗体によって、動物(好ましくは、マウス)を免疫する。次いで、上記動物の脾細胞を、ハイブリドーマ細胞を産生するために使用する。そして上記ハイブリドーマ細胞は、本抗体に結合する能力を有しており、当該結合能力が上記タンパク質抗原によって阻害される抗体を産生するクローンを同定するために、スクリーニングされる。上記抗体には、本抗体に対する抗イディオタイプ抗体が含まれ、本抗体のさらなる形成を誘導するために、動物を免疫し得る。
【0111】
FabおよびF(ab’)ならびに本抗体の他のフラグメントは、本明細書中で開示される方法も含め、公知の方法に従って使用され得る。上記フラグメントは、典型的には、パパイン(Fabフラグメントを生じる)またはペプシン(F(ab’)フラグメントを生じる)のようなタンパク質分解酵素による抗体の切断によって産生される。あるいは、本発明の一実施形態に係るタンパク質結合フラグメントは、組換えDNA技術の適用または化学合成によって産生され得る。
【0112】
その他、上記<1>〜<5>の各項目で記載した内容は、他の項目においても適宜援用できることを付言する。また、本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0113】
〔本発明の構成〕
本発明は、以下のように構成されうる。
【0114】
(1)以下の(G1)〜(G5)からなる群より選択されるいずれかの遺伝子:
(G1)配列番号1〜3のいずれかに記載されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子;
(G2)配列番号1〜3のいずれかに記載されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、タキサジエンの10位を酸化する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子;
(G3)配列番号1〜3のいずれかに記載されるアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、タキサジエンの10位を酸化する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子;
(G4)配列番号4〜7のいずれかに記載される塩基配列からなる遺伝子;
(G5)上記(G1)〜(G4)のいずれかの遺伝子と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ、タキサジエンの10位を酸化する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子。
【0115】
(2)以下の(P1)〜(P4)からなる群より選択されるいずれかのタンパク質:
(P1)配列番号1〜3のいずれかに記載されるアミノ酸配列からなるタンパク質;
(P2)配列番号1〜3のいずれかに記載されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、タキサジエンの10位を酸化する活性を有するタンパク質;
(P3)配列番号1〜3のいずれかに記載されるアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、タキサジエンの10位を酸化する活性を有するタンパク質;
(P4)上記(G1)〜(G5)のいずれかに記載の遺伝子にコードされるタンパク質。
【0116】
(3)上記(1)に記載の遺伝子を含むことを特徴とする組換えベクター。
【0117】
(4)上記(1)に記載の遺伝子または上記(3)に記載の組換えベクターを含むことを特徴とする形質転換体。
【0118】
(5)さらに、以下の(g1)〜(g7)の遺伝子を導入し、発現させたことを特徴とする(4)に記載の形質転換体:
(g1)メバロン酸またはメバロノラクトンからイソペンテニル二リン酸までの合成を行うメバロン酸経路遺伝子群、
(g2)1型のイソペンテニル二リン酸イソメラーゼ遺伝子、
(g3)2型のイソペンテニル二リン酸イソメラーゼ遺伝子、
(g4)アセト酢酸−コエンザイムAリガーゼ遺伝子、
(g5)ゲラニルゲラニル二リン酸合成酵素遺伝子、
(g6)タキサジエン合成酵素遺伝子、
(g7)NADPH−シトクロムP450還元酵素遺伝子。
【0119】
(6)組換え大腸菌であることを特徴とする(4)または(5)に記載の形質転換体。
【0120】
(7)上記(4)〜(6)のいずれかに記載の形質転換体を培養し、酸化タキサジエンを取得する工程を含むことを特徴とする酸化タキサジエンの製造方法。
【0121】
(8)下記式(I):
【0122】
【化1】
【0123】
で示される化合物。
【0124】
(9)上記(2)に記載のタンパク質に特異的に結合する抗体。
【実施例】
【0125】
〔1.N11遺伝子〕
人工合成およびPCR法により作製した異なるN末端配列を有する3種類のN11遺伝子を準備した。3種類のN11遺伝子は、それぞれ以下の配列番号で示される塩基配列からなる遺伝子である。
・N11:配列番号5で示される塩基配列からなる遺伝子。
・△30aa N11:配列番号6で示される塩基配列からなる遺伝子。
・17α−△14aa N11:配列番号7で示される塩基配列からなる遺伝子。
【0126】
なお、上記3種類のN11遺伝子は、本発明者らが、ニホンイチイから単離したN11(native)遺伝子を基に、大腸菌での発現能を高めるためにコドン最適化したものである。
【0127】
〔2.発現ベクターの構築〕
上記3種類のN11遺伝子(N11、△30aa N11、および17α−△14aa N11)のそれぞれと、ニホンイチイ(Taxus cuspidata)由来のNADPH−シトクロムP450還元酵素遺伝子(TCPR)、タイヘイヨウイチイ(Taxus brevifolia)由来のタキサジエン合成酵素遺伝子(TXS)および土壌細菌(Pantoea ananatis)由来のゲラニルゲラニル二リン酸合成酵素遺伝子(crtE)とを、pRSFDuet−1ベクター(MERCK)に導入し、大腸菌発現プラスミドを作製した。
【0128】
上記TCPRとしては、INSDによるアクセッション番号:AY571340.1として公開された遺伝子のコード領域(CDS)を、大腸菌用にコドン最適化し、かつ、N末端側の膜貫通ドメイン74残基を除去するように設計された、配列番号10で示される塩基配列からなる遺伝子を用いた。また、上記TXSとしては、INSDによるアクセッション番号:U48796として公開された遺伝子のコード領域(CDS)を、大腸菌用にコドン最適化し、かつ、N末端側の60残基を除去し、さらにN末端側にMetおよびGly残基を付加するように設計された、配列番号9で示される塩基配列からなる遺伝子を用いた。上記crtEとしては、INSDによるアクセッション番号:D90087として公開された遺伝子のコード領域(CDS)に対応する、配列番号8で示される塩基配列からなる遺伝子を用いた。
【0129】
〔3.酸化タキサジエンの製造〕
上記2.で得られた発現ベクター、およびアセト酢酸リチウム(LAA)からファルネシル二リン酸(FPP)を生産するメバロン酸経路遺伝子群を導入したベクターを、大腸菌株BL21(DE3)へ導入した。アセト酢酸リチウム(LAA)からファルネシル二リン酸(FPP)を生産するメバロン酸経路遺伝子群を導入したベクターとしては、以前に報告されているpAC−Mev/Scidi/Aaclを用いた(Harada H et. al. (2008) "Efficient synthesis of functional isoprenoids from acetoacetate through metabolic pathway-engineered Escherichia coli", Applied Microbiology and Biotechnology, Vol.81 (Issue 5), p.915-925を参照)。
【0130】
また、大腸菌の形質転換および組換え大腸菌の培養、培養した大腸菌からの産生物の抽出、ならびに産生物の同定は、以下のとおり行った。
【0131】
まず、上記2種類のベクターを導入した組換え大腸菌を、KmおよびCmを含む3mLのLB培地(12g/L Bacto Tryptone、24g/L Bacto Yeast extract、90mM KHPO(15.7g/L)、10mM KHPO(1.4g/L)、1%(v/v) glycerol)に加え、28℃、180rpmで16時間培養し、前培養とした。続いて、1%(v/v)の前培養液を、Km、Cm、5−ALA(LAA)およびFeを含む20mLのTB培地(Joseph Sambrook and David W. Russell, "Molecular cloning: a laboratory manual 3rd Ed.", Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2001を参照)に移し、37℃、180rpmで3〜5時間培養した。この時のOD600値は、0.9であった。その後、1mg/mL LAA、50mM IPTG、および5mM CuClを添加して、20℃、180rpmで48時間、本培養を行った。
【0132】
本培養終了後、大腸菌を回収して酢酸エチルで抽出した後、抽出液を、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC/MS)を用いて解析した。
【0133】
GC/MSの解析条件は、以下のとおりである。装置は、GCMS−QP2010(島津製作所)を使用した。ガスクロマトグラフには、キャピラリーカラムHP−5MS(30m×0.25mm、膜厚0.25μm: Agilent J&W)を用いた。カラムオーブンの昇温条件は、180℃で2分間保持、280℃まで4℃/分で昇温、280℃で10分間保持とした。インジェクター温度は250℃、GCインターフェイス温度は280℃とした。キャリアガスにはヘリウムを用い、流速は0.63mL/分、サンプル注入量は1μL、スプリット比1:10とした。質量分析計は電子イオン化法(EI)を用い、イオン化エネルギーは70eV、イオン源温度は250℃とした。m/z:40−600について1回0.25秒でスキャンした。
【0134】
その結果、N11遺伝子(N11、△30aa N11、および17α−△14aa N11)を導入した形質転換体が新規の酸化物を産生することが見出された(図2の6つのピーク参照)。また、17α−△14aa N11を導入した形質転換体が新規の酸化物を最も大量に産生することが見出された(同上)。これらの結果は、形質転換体内でN11遺伝子(N11、△30aa N11、および17α−△14aa N11)がタキサジエンを酸化して、新規の酸化物質を合成したことを示している。
【0135】
さらに、図2の5番目のピークに対応する酸化物をNMRにより解析したところ、Taxa−4,11−diene−10β−olであることが判明した。Taxa−4,11−diene−10β−olの構造式を図3の(a)に、NMRによる解析結果を図3の(b)に示す。この結果は、N11遺伝子(N11、△30aa N11、および17α−△14aa N11)がタキサジエンの10位を直接酸化する活性を有することを示している。
【産業上の利用可能性】
【0136】
本発明の一実施形態に係る遺伝子は、新規の酸化タキサジエンの製造およびパクリタキセルの製造において有用であり得る。また、本発明の一実施形態に係る遺伝子により産生される新規の酸化タキサジエンは、パクリタキセル生合成経路の新たな中間体であると推定されるため、パクリタキセルの効率的な生産に適用し得る。
図1
図2
図3
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]