特許第6573119号(P6573119)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6573119新規酵素を用いた希少脂肪酸の製造法ならびに新規希少脂肪酸
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6573119
(24)【登録日】2019年8月23日
(45)【発行日】2019年9月11日
(54)【発明の名称】新規酵素を用いた希少脂肪酸の製造法ならびに新規希少脂肪酸
(51)【国際特許分類】
   C12P 7/64 20060101AFI20190902BHJP
   C07C 59/42 20060101ALI20190902BHJP
   C07C 59/76 20060101ALI20190902BHJP
   C07C 51/373 20060101ALN20190902BHJP
   C12N 9/88 20060101ALN20190902BHJP
   C12N 15/52 20060101ALN20190902BHJP
【FI】
   C12P7/64
   C07C59/42CSP
   C07C59/76
   !C07C51/373
   !C12N9/88
   !C12N15/52 ZZNA
【請求項の数】28
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2015-559127(P2015-559127)
(86)(22)【出願日】2015年1月23日
(86)【国際出願番号】JP2015051842
(87)【国際公開番号】WO2015111699
(87)【国際公開日】20150730
【審査請求日】2017年8月15日
(31)【優先権主張番号】特願2014-11855(P2014-11855)
(32)【優先日】2014年1月24日
(33)【優先権主張国】JP
【微生物の受託番号】NPMD  NITE BP-01788
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(73)【特許権者】
【識別番号】392008541
【氏名又は名称】日東薬品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100163658
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 順造
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(72)【発明者】
【氏名】小川 順
(72)【発明者】
【氏名】岸野 重信
(72)【発明者】
【氏名】河田 照雄
(72)【発明者】
【氏名】高橋 信之
(72)【発明者】
【氏名】後藤 剛
(72)【発明者】
【氏名】米島 靖記
【審査官】 坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2006−525805(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/168310(WO,A1)
【文献】 国際公開第2001/004339(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0315849(US,A1)
【文献】 Acta Crystallographica Section D, Biological Crystallography,2013年,Vol.69, No.4,p.648-657
【文献】 Lipids,2003年,Vol.38, No.12,p.1269-1274
【文献】 Biochimie,2012年,Vol.94,p.907-915
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 7/64
C07C 59/42
C07C 59/76
C07C 51/373
C12N 15/52
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/WPIDS/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
12位にシス型二重結合を有する炭素数18の不飽和脂肪酸から、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる酵素タンパク質を用いた水和反応により、13位に水酸基を有する炭素数18の水酸化脂肪酸を製造する方法。
【請求項2】
12位にシス型二重結合を有する炭素数18の不飽和脂肪酸から、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる酵素タンパク質を用いた水和反応により、13位に水酸基を有する炭素数18の水酸化脂肪酸を誘導し、該水酸化脂肪酸から、脱水素反応又は化学的酸化により、13位にカルボニル基を有する炭素数18のオキソ脂肪酸を製造する方法。
【請求項3】
9位にシス型二重結合を有する炭素数16の不飽和脂肪酸から、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる酵素タンパク質を用いた水和反応により、10位に水酸基を有する炭素数16の水酸化脂肪酸を製造する方法。
【請求項4】
9位にシス型二重結合を有する炭素数16の不飽和脂肪酸から、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる酵素タンパク質を用いた水和反応により、10位に水酸基を有する炭素数16の水酸化脂肪酸を誘導し、該水酸化脂肪酸から、脱水素反応又は化学的酸化により、10位にカルボニル基を有する炭素数16のオキソ脂肪酸を製造する方法。
【請求項5】
14位にシス型二重結合を有する炭素数20の不飽和脂肪酸から、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる酵素タンパク質を用いた水和反応により、15位に水酸基を有する炭素数20の水酸化脂肪酸を製造する方法。
【請求項6】
14位にシス型二重結合を有する炭素数20の不飽和脂肪酸から、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる酵素タンパク質を用いた水和反応により、15位に水酸基を有する炭素数20の水酸化脂肪酸を誘導し、該水酸化脂肪酸から、脱水素反応又は化学的酸化により、15位にカルボニル基を有する炭素数20のオキソ脂肪酸を製造する方法。
【請求項7】
11位にシス型二重結合を有する炭素数18又は20の不飽和脂肪酸から、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる酵素タンパク質を用いた水和反応により、12位に水酸基を有する炭素数18又は20の水酸化脂肪酸を製造する方法。
【請求項8】
11位にシス型二重結合を有する炭素数18又は20の不飽和脂肪酸から、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる酵素タンパク質を用いた水和反応により、12位に水酸基を有する炭素数18又は20の水酸化脂肪酸を誘導し、該水酸化脂肪酸から、脱水素反応又は化学的酸化により、12位にカルボニル基を有する炭素数18又は20のオキソ脂肪酸を製造する方法。
【請求項9】
12位にシス型二重結合を有する炭素数18の不飽和脂肪酸が、リノール酸、γ-リノレン酸、α-リノレン酸、ステアリドン酸、10-ヒドロキシ-シス-12-オクタデセン酸、10-ヒドロキシ-シス-6,シス-12-オクタデカジエン酸、10-ヒドロキシ-シス-12,シス-15-オクタデカジエン酸、10-ヒドロキシ-シス-6,シス-12,シス-15-オクタデカトリエン酸、10-オキソ-シス-12-オクタデセン酸、10-オキソ-シス-6,シス-12-オクタデカジエン酸、10-オキソ-シス-12,シス-15-オクタデカジエン酸、10-オキソ-シス-6,シス-12,シス-15-オクタデカトリエン酸、ピノレン酸又はコルンビン酸である請求項またはに記載の方法。
【請求項10】
9位にシス型二重結合を有する炭素数16の不飽和脂肪酸が、パルミトレイン酸である請求項またはに記載の方法。
【請求項11】
14位にシス型二重結合を有する炭素数20の不飽和脂肪酸が、シス-11,シス-14-エイコサジエン酸、シス-11,シス-14,シス-17-エイコサトリエン酸、ジホモ-γ-リノレン酸、シス-8,シス-11,シス-14,シス-17-エイコサテトラエン酸、アラキドン酸、シアドン酸又はジュニペロン酸である請求項またはに記載の方法。
【請求項12】
11位にシス型二重結合を有する炭素数18又は20の不飽和脂肪酸が、シス-バクセン酸、シス-11-シス-14-エイコサジエン酸、シス-11,シス-14,シス-17-エイコサトリエン酸、ジホモ-γ-リノレン酸、ミード酸、シス-8,シス-11,シス-14,シス-17-エイコサテトラエン酸又はアラキドン酸である請求項またはに記載の方法。
【請求項13】
シス-4,シス-7,シス-10,シス-13,シス-16,シス-19-ドコサヘキサエン酸から、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる酵素タンパク質を用いた水和反応により、14-ヒドロキシ-シス-4,シス-7,シス-10,シス-16,シス-19-ドコサペンタエン酸を製造する方法。
【請求項14】
シス-4,シス-7,シス-10,シス-13,シス-16,シス-19-ドコサヘキサエン酸から、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる酵素タンパク質を用いた水和反応により、14-ヒドロキシ-シス-4,シス-7,シス-10,シス-16,シス-19-ドコサペンタエン酸を誘導し、該水酸化脂肪酸から、脱水素反応又は化学的酸化により、14-オキソ-シス-4,シス-7,シス-10,シス-16,シス-19-ドコサペンタエン酸を製造する方法。
【請求項15】
シス-9-テトラデセン酸(ミリストレイン酸)から、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる酵素タンパク質を用いた水和反応により、10-ヒドロキシ-テトラデカン酸を製造する方法。
【請求項16】
シス-9-テトラデセン酸(ミリストレイン酸)から、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる酵素タンパク質を用いた水和反応により、10-ヒドロキシ-テトラデカン酸を誘導し、該水酸化脂肪酸から、脱水素反応又は化学的酸化により、10-オキソ-テトラデカン酸を製造する方法。
【請求項17】
脱水素反応のための脱水素酵素が乳酸菌由来である請求項1214または16に記載の方法。
【請求項18】
乳酸菌がラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)FERM BP-10549菌株である請求項17に記載の方法。
【請求項19】
請求項の方法によって製造される、13-ヒドロキシ-シス-9,シス-15-オクタデカジエン酸、13-ヒドロキシ-シス-6,シス-9,シス-15-オクタデカトリエン酸、10,13-ジヒドロキシ-シス-6,シス-15-オクタデカジエン酸、10-オキソ-13-ヒドロキシ-シス-6-オクタデセン酸、10-オキソ-13-ヒドロキシ-シス-15-オクタデセン酸、10-オキソ-13-ヒドロキシ-シス-6,シス-15-オクタデカジエン酸、13-ヒドロキシ-シス-5,シス-9-オクタデカジエン酸または13-ヒドロキシ-トランス-5,シス-9-オクタデカジエン酸。
【請求項20】
請求項の方法によって製造される、15-ヒドロキシ-シス-11,シス-17-エイコサジエン酸、15-ヒドロキシ-シス-8,シス-11-エイコサジエン酸、15-ヒドロキシ-シス-8,シス-11,シス-17-エイコサトリエン酸、15-ヒドロキシ-シス-5,シス-11-エイコサジエン酸または15-ヒドロキシ-シス-5,シス-11,シス-17-エイコサトリエン酸。
【請求項21】
請求項の方法によって製造される、12-ヒドロキシ-シス-14-エイコセン酸、12-ヒドロキシ-シス-14,シス-17-エイコサジエン酸または12-ヒドロキシ-シス-8,シス-14,シス-17-エイコサトリエン酸。
【請求項22】
請求項の方法によって製造される、13-オキソ-シス-6,シス-9-オクタデカジエン酸、13-オキソ-シス-6,シス-9,シス-15-オクタデカトリエン酸、10,13-ジオキソ-シス-6-オクタデセン酸、10,13-ジオキソ-シス-15-オクタデセン酸、10,13-ジオキソ-シス-6,シス-15-オクタデカジエン酸、13-オキソ-シス-5,シス-9-オクタデカジエン酸または13-オキソ-トランス-5,シス-9-オクタデカジエン酸。
【請求項23】
請求項の方法によって製造される、15-オキソ-シス-11,シス-17-エイコサジエン酸、15-オキソ-シス-8,シス-11-エイコサジエン酸、15-オキソ-シス-8,シス-11,シス-17-エイコサトリエン酸、15-オキソ-シス-5,シス-11-エイコサジエン酸または15-オキソ-シス-5,シス-11,シス-17-エイコサトリエン酸。
【請求項24】
請求項の方法によって製造される、12-オキソ-シス-14-エイコセン酸、12-オキソ-シス-14,シス-17-エイコサジエン酸、12-オキソ-シス-8,シス-14-エイコサジエン酸、12-オキソ-シス-5,シス-8-エイコサジエン酸または12-オキソ-シス-8,シス-14,シス-17-エイコサトリエン酸。
【請求項25】
請求項13の方法によって製造される、14-ヒドロキシ-シス-4,シス-7,シス-10,シス-16,シス-19-ドコサペンタエン酸。
【請求項26】
請求項14の方法によって製造される、14-オキソ-シス-4,シス-7,シス-10,シス-16,シス-19-ドコサペンタエン酸。
【請求項27】
請求項1926のいずれか1項に記載の水酸化脂肪酸またはオキソ脂肪酸を含む脂肪酸含有物。
【請求項28】
請求項1926のいずれか1項に記載の水酸化脂肪酸またはオキソ脂肪酸を生産するための、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる酵素タンパク質を含む、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)菌体または菌体破砕物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪酸の製造法に関する。詳細には、不飽和脂肪酸を原料とした、新規酵素による水和反応を特徴とした水酸化脂肪酸の製造、さらに水酸化脂肪酸からの、酵素反応又は化学的酸化反応によるオキソ脂肪酸の製造に関する。また、これら製造法により得られる新規の希少脂肪酸に関する。
【背景技術】
【0002】
共役リノール酸(conjugated linoleic acid, CLA)に代表される共役脂肪酸は、脂質代謝改善作用、抗動脈硬化作用、体脂肪減少作用等、様々な生理活性を有することが報告されており(非特許文献1−3)、医薬・機能性食品等を始めとして様々な分野への利用に注目されている機能性脂質である(特許文献1、2)。CLAは、反芻動物の胃に存在する微生物により生成されるため乳製品や肉製品に含まれることや植物油にわずかに存在することが知られているが、その生成の詳細なメカニズムについては知られていない。
【0003】
本発明者らは、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)の菌体内に存在する酵素(CLA-HY,CLA-DC,CLA-DH)が、リノール酸を共役リノール酸へ変換する反応に必須であることを報告した(特許文献1)。これらの酵素反応における具体的な一連の反応メカニズムや中間体等の存在を報告した(特許文献4)。これらの酵素反応はリノール酸等の炭素数18の不飽和脂肪酸の10位に水酸基、カルボニル基を有する希少脂肪酸の製造に有効であったが、13位に水酸基、カルボニル基を有する希少脂肪酸の製造方法は明らかになっていなかった。
【0004】
加えて、近年トマトに含有される9−オキソ−オクタデカジエン酸や13−オキソ−オクタデカジエン酸等のオキソ脂肪酸に、脂質代謝改善等の生活習慣病を改善する活性が報告されている(特許文献3、非特許文献4、5)。さらに、10位に水酸基やオキソ基を有する水酸化脂肪酸やオキソ脂肪酸に、代謝改善、脂質代謝改善等の生活習慣病を改善する活性や、腸管バリア機能を改善させる活性が報告されており(特許文献5、6)、水酸化脂肪酸、オキソ脂肪酸に対する関心が高まっている。しかし、水酸化脂肪酸やオキソ脂肪酸は、不飽和脂肪酸の分子内に複数存在する二重結合を識別し、特定の位置に水酸基、カルボニル基を導入する必要があるため、不飽和脂肪酸から機能性水酸化脂肪酸、機能性オキソ脂肪酸を合成することは困難となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-259712号公報
【特許文献2】特開2007-252333号公報
【特許文献3】特開2011-184411号公報
【特許文献4】WO2013/168310
【特許文献5】WO2014/069227
【特許文献6】WO2014/129384
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Ha YL, (1987), Carcinogenesis, vol.8, no.12, p.1881-1887
【非特許文献2】Clement Ip, (1991), Cancer Res., vol.51, p.6118-6124
【非特許文献3】Kisun NL, (1994), Atherosclerosis, vol.108, p.19-25
【非特許文献4】Kim Y-I,(2011), Mol. Nutr. Food Res., vol.55, p.585-593
【非特許文献5】Kim Y-I,(2012),PLoS ONE, vol.7, no.2, e31317
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、不飽和脂肪酸を原料とし、新規酵素を用いて、水酸化脂肪酸、オキソ脂肪酸を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)が炭素数18の不飽和脂肪酸の13位を水酸化する反応を明らかにし、これらの生成に関与する新規酵素(FA-HY)を同定した。
【0009】
本発明者らは、新規酵素(FA-HY)を用い炭素数16、18、20の不飽和脂肪酸、シス-4,シス-7,シス-10,シス-13,シス-16,シス-19-ドコサヘキサエン酸(DHA)ならびにシス-9-テトラデセン酸(ミリストレイン酸)を水酸化脂肪酸とする方法を見出し、さらに生成した物質の水酸基を酵素反応又は化学反応によりオキソ化する方法を見出した。
【0010】
本発明者らは、新規酵素(FA-HY)を用いた新たな希少脂肪酸の製造方法により、これまで発見されていない構造の水酸化脂肪酸及びオキソ脂肪酸を生成し、それらに核内受容体PPARαおよびPPARγのアゴニストとしての活性があることを見出した。
【0011】
具体的には、本発明者らは、新規酵素(FA-HY)を用いて、リノール酸から13-ヒドロキシ-シス-9-オクタデセン酸が生成されることを見出し、さらに、13-ヒドロキシ-シス-9-オクタデセン酸を酵素反応又はクロム酸を用いる化学的酸化法を導入して13-オキソ-シス-9-オクタデセン酸が生成されることを見出した。
【0012】
さらに検討した結果、本発明者らは、新規酵素(FA-HY)を用いて、12位にシス型二重結合を有する炭素数18の不飽和脂肪酸(リノール酸、γ-リノレン酸、α-リノレン酸、ステアリドン酸等)、9位にシス型二重結合を有する炭素数16の不飽和脂肪酸(パルミトレイン酸等)、14位にシス型二重結合を有する炭素数20の不飽和脂肪酸(ジホモ-γ-リノレン酸又はアラキドン酸等)、11位にシス型二重結合を有する炭素数18又は20の不飽和脂肪酸(シス-バクセン酸、ジホモ-γ-リノレン酸、ミード酸等)を基質とし、それぞれ、13位、10位、15位、12位を水酸化した脂肪酸が生成されることを見出した。さらに、DHAを基質として、14-ヒドロキシ-シス-4,シス-7,シス-10,シス-16,シス-19-ドコサペンタエン酸が、ミリストレイン酸を基質として、10-ヒドロキシ-テトラデカン酸が生成されることを見出した。また、得られた生成物の水酸化脂肪酸の中にはこれまでに見出されていない構造をもつ脂肪酸があり、新規の物質であることを見出した。新規脂肪酸を含むこれら水酸化脂肪酸には核内受容体PPARαおよびPPARγのアゴニストとしての活性があることを発見し、代謝改善剤等に利用できる物質であることを見出した。
【0013】
また、本発明により得られる水酸化脂肪酸を原料とし、酵素反応又はクロム酸を用いる化学的酸化法を導入してオキソ脂肪酸とすることができることを見出した。これら生成物のオキソ脂肪酸の中にもこれまでに知られていない構造を持つ新規の物質を見出した。新規脂肪酸を含むこれらオキソ脂肪酸には核内受容体PPARαおよびPPARγのアゴニストとしての活性があることを発見し、代謝改善剤等に利用できる物質であることを見出した。以上の知見に基づき、本発明が完成された。
【0014】
即ち、本発明は下記のとおりである:
[1]以下の(a)〜(c)のいずれかの酵素タンパク質。
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる酵素タンパク質、
(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失及び/又は置換及び/又は挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列を含み、かつ水和反応を触媒する酵素活性を有するタンパク質、
(c)配列番号1に示される塩基配列の相補鎖配列からなる核酸と、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列によってコードされ、かつ水和反応を触媒する酵素活性を有するタンパク質;
[2][1]に記載の酵素タンパク質を含む、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)菌体または菌体破砕物;
[3][1]に記載の酵素タンパク質をコードする核酸;
[4][3]に記載の核酸を含むベクター;
[5][4]に記載のベクターで形質転換された宿主細胞;
[6][5]に記載の宿主細胞を培養し、該培養物から[1]に記載の酵素タンパク質を回収することを含む、該酵素の製造方法;
[7]12位にシス型二重結合を有する炭素数18の不飽和脂肪酸から、[1]に記載の酵素タンパク質を用いた水和反応により、13位に水酸基を有する炭素数18の水酸化脂肪酸を製造する方法;
[8]12位にシス型二重結合を有する炭素数18の不飽和脂肪酸から、[1]に記載の酵素タンパク質を用いた水和反応により、13位に水酸基を有する炭素数18の水酸化脂肪酸を誘導し、該水酸化脂肪酸から、脱水素反応又は化学的酸化により、13位にカルボニル基を有する炭素数18のオキソ脂肪酸を製造する方法;
[9]9位にシス型二重結合を有する炭素数16の不飽和脂肪酸から、[1]に記載の酵素タンパク質を用いた水和反応により、10位に水酸基を有する炭素数16の水酸化脂肪酸を製造する方法;
[10]9位にシス型二重結合を有する炭素数16の不飽和脂肪酸から、[1]に記載の酵素タンパク質を用いた水和反応により、10位に水酸基を有する炭素数16の水酸化脂肪酸を誘導し、該水酸化脂肪酸から、脱水素反応又は化学的酸化により、10位にカルボニル基を有する炭素数16のオキソ脂肪酸を製造する方法;
[11]14位にシス型二重結合を有する炭素数20の不飽和脂肪酸から、[1]に記載の酵素タンパク質を用いた水和反応により、15位に水酸基を有する炭素数20の水酸化脂肪酸を製造する方法;
[12]14位にシス型二重結合を有する炭素数20の不飽和脂肪酸から、[1]に記載の酵素タンパク質を用いた水和反応により、15位に水酸基を有する炭素数20の水酸化脂肪酸を誘導し、該水酸化脂肪酸から、脱水素反応又は化学的酸化により、15位にカルボニル基を有する炭素数20のオキソ脂肪酸を製造する方法;
[13]11位にシス型二重結合を有する炭素数18又は20の不飽和脂肪酸から、[1]に記載の酵素タンパク質を用いた水和反応により、12位に水酸基を有する炭素数18又は20の水酸化脂肪酸を製造する方法;
[14]11位にシス型二重結合を有する炭素数18又は20の不飽和脂肪酸から、[1]に記載の酵素タンパク質を用いた水和反応により、12位に水酸基を有する炭素数18又は20の水酸化脂肪酸を誘導し、該水酸化脂肪酸から、脱水素反応又は化学的酸化により、12位にカルボニル基を有する炭素数18又は20のオキソ脂肪酸を製造する方法;
[15]12位にシス型二重結合を有する炭素数18の不飽和脂肪酸が、リノール酸、γ-リノレン酸、α-リノレン酸、ステアリドン酸、10-ヒドロキシ-シス-12-オクタデセン酸、10-ヒドロキシ-シス-6,シス-12-オクタデカジエン酸、10-ヒドロキシ-シス-12,シス-15-オクタデカジエン酸、10-ヒドロキシ-シス-6,シス-12,シス-15-オクタデカトリエン酸、10-オキソ-シス-12-オクタデセン酸、10-オキソ-シス-6,シス-12-オクタデカジエン酸、10-オキソ-シス-12,シス-15-オクタデカジエン酸、10-オキソ-シス-6,シス-12,シス-15-オクタデカトリエン酸、ピノレン酸又はコルンビン酸である[7]または[8]に記載の方法;
[16]9位にシス型二重結合を有する炭素数16の不飽和脂肪酸が、パルミトレイン酸である[9]または[10]に記載の方法;
[17]14位にシス型二重結合を有する炭素数20の不飽和脂肪酸が、シス-11,シス-14-エイコサジエン酸、シス-11,シス-14,シス-17-エイコサトリエン酸、ジホモ-γ-リノレン酸、シス-8,シス-11,シス-14,シス-17-エイコサテトラエン酸、アラキドン酸、シアドン酸又はジュニペロン酸である[11]または[12]に記載の方法;
[18]11位にシス型二重結合を有する炭素数18又は20の不飽和脂肪酸が、シス-バクセン酸、シス-11-シス-14-エイコサジエン酸、シス-11,シス-14,シス-17-エイコサトリエン酸、ジホモ-γ-リノレン酸、ミード酸、シス-8,シス-11,シス-14,シス-17-エイコサテトラエン酸又はアラキドン酸である[13]または[14]に記載の方法;
[19]シス-4,シス-7,シス-10,シス-13,シス-16,シス-19-ドコサヘキサエン酸から、[1]に記載の酵素タンパク質を用いた水和反応により、14-ヒドロキシ-シス-4,シス-7,シス-10,シス-16,シス-19-ドコサペンタエン酸を製造する方法;
[20]シス-4,シス-7,シス-10,シス-13,シス-16,シス-19-ドコサヘキサエン酸から、[1]に記載の酵素タンパク質を用いた水和反応により、14-ヒドロキシ-シス-4,シス-7,シス-10,シス-16,シス-19-ドコサペンタエン酸を誘導し、該水酸化脂肪酸から、脱水素反応又は化学的酸化により、14-オキソ-シス-4,シス-7,シス-10,シス-16,シス-19-ドコサペンタエン酸を製造する方法;
[21]シス-9-テトラデセン酸(ミリストレイン酸)から、[1]に記載の酵素タンパク質を用いた水和反応により、10-ヒドロキシ-テトラデカン酸を製造する方法;
[22]シス-9-テトラデセン酸(ミリストレイン酸)から、[1]に記載の酵素タンパク質を用いた水和反応により、10-ヒドロキシ-テトラデカン酸を誘導し、該水酸化脂肪酸から、脱水素反応又は化学的酸化により、10-オキソ-テトラデカン酸を製造する方法;
[23]脱水素反応のための脱水素酵素が乳酸菌由来である[8]、[10]、[12]、[14]〜[18]、[20]または[22]に記載の方法。
[24]乳酸菌がラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)FERM BP-10549菌株である[23]に記載の方法;
[25][7]の方法によって製造される、13-ヒドロキシ-シス-9,シス-15-オクタデカジエン酸、13-ヒドロキシ-シス-6,シス-9,シス-15-オクタデカトリエン酸、10,13-ジヒドロキシ-シス-6-オクタデセン酸、10,13-ジヒドロキシ-シス-15-オクタデセン酸、10,13-ジヒドロキシ-シス-6,シス-15-オクタデカジエン酸、10-オキソ-13-ヒドロキシ-シス-6-オクタデセン酸、10-オキソ-13-ヒドロキシ-シス-15-オクタデセン酸、10-オキソ-13-ヒドロキシ-シス-6,シス-15-オクタデカジエン酸、13-ヒドロキシ-シス-5,シス-9-オクタデカジエン酸または13-ヒドロキシ-トランス-5,シス-9-オクタデカジエン酸;
[26][11]の方法によって製造される、15-ヒドロキシ-シス-11,シス-17-エイコサジエン酸、15-ヒドロキシ-シス-8,シス-11-エイコサジエン酸、15-ヒドロキシ-シス-8,シス-11,シス-17-エイコサトリエン酸、15-ヒドロキシ-シス-5,シス-11-エイコサジエン酸または15-ヒドロキシ-シス-5,シス-11,シス-17-エイコサトリエン酸;
[27][13]の方法によって製造される、12-ヒドロキシ-シス-14-エイコセン酸、12-ヒドロキシ-シス-14,シス-17-エイコサジエン酸または12-ヒドロキシ-シス-8,シス-14,シス-17-エイコサトリエン酸;
[28][8]の方法によって製造される、13-オキソ-シス-6,シス-9-オクタデカジエン酸、13-オキソ-シス-6,シス-9,シス-15-オクタデカトリエン酸、10,13-ジオキソ-シス-6-オクタデセン酸、10,13-ジオキソ-シス-15-オクタデセン酸、10,13-ジオキソ-シス-6,シス-15-オクタデカジエン酸、13-オキソ-シス-5,シス-9-オクタデカジエン酸または13-オキソ-トランス-5,シス-9-オクタデカジエン酸;
[29][12]の方法によって製造される、15-オキソ-シス-11,シス-17-エイコサジエン酸、15-オキソ-シス-8,シス-11-エイコサジエン酸、15-オキソ-シス-8,シス-11,シス-17-エイコサトリエン酸、15-オキソ-シス-5,シス-11-エイコサジエン酸または15-オキソ-シス-5,シス-11,シス-17-エイコサトリエン酸;
[30][14]の方法によって製造される、12-オキソ-シス-14-エイコセン酸、12-オキソ-シス-14,シス-17-エイコサジエン酸、12-オキソ-シス-8,シス-14-エイコサジエン酸、12-オキソ-シス-5,シス-8-エイコサジエン酸または12-オキソ-シス-8,シス-14,シス-17-エイコサトリエン酸;
[31][19]の方法によって製造される、14-ヒドロキシ-シス-4,シス-7,シス-10,シス-16,シス-19-ドコサペンタエン酸;
[32][20]の方法によって製造される、14-オキソ-シス-4,シス-7,シス-10,シス-16,シス-19-ドコサペンタエン酸;
[33][25]〜[32]のいずれか1つに記載の水酸化脂肪酸またはオキソ脂肪酸を含む脂肪酸含有物;
[34][25]〜[32]のいずれか1つに記載の水酸化脂肪酸またはオキソ脂肪酸を生産するための、[1]に記載の酵素タンパク質を含む、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)菌体または菌体破砕物の使用。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、従来知られていなかった脂肪酸水和酵素(FA-HY)を見出し、炭素数16、18、20の不飽和脂肪酸、DHAまたはミリストレイン酸を水酸化脂肪酸とする方法を見出し、さらに生成した物質の水酸基を酵素反応又は化学反応によりオキソ化する方法を見出した。製造される希少脂肪酸等は、医薬・食品・化粧品等の様々な分野で使用される点でも、極めて有用である。また、新規酵素による製造により新たな新規希少脂肪酸が製造できるようになり、新規希少脂肪酸も核内受容体PPARαおよびPPARγのアゴニストとしての活性があることから、医薬・食品・化粧品等の様々な分野で有用な物質となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】リノール酸由来、α-リノレン酸由来、γ-リノレン酸由来、アラキドン酸由来の希少脂肪酸のPPARαアゴニスト活性の結果を示す。EtOHは陰性対照(エタノール添加)、GW7647は陽性対照(PPARαアゴニスト添加)を示す。縦軸は、相対的なルシフェラーゼ活性を示す。
図2】リノール酸由来、α-リノレン酸由来、γ-リノレン酸由来、アラキドン酸由来の希少脂肪酸のPPARγアゴニスト活性の結果を示す。EtOHは陰性対照(エタノール添加)、Troは陽性対照(PPARγアゴニスト添加)を示す。縦軸は、相対的なルシフェラーゼ活性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の詳細を説明する。
【0018】
本発明は、新規脂肪酸水和酵素「FA-HY」を提供する。
具体的には、本発明の新規酵素「FA-HY」は、
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる酵素タンパク質、
(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失及び/又は置換及び/又は挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列を含み、かつ配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる酵素タンパク質が有する酵素活性を有するタンパク質、あるいは
(c)配列番号1に示される塩基配列の相補鎖配列からなる核酸と、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列によってコードされ、かつ配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる酵素タンパク質が有する酵素活性を有するタンパク質である。
【0019】
上記(b)に関し、より具体的には、(i)配列番号2に示されるアミノ酸配列中の1〜20個、好ましくは1〜10個、より好ましくは1〜数(5、4、3もしくは2)個のアミノ酸が欠失したアミノ酸配列、(ii)配列番号2に示されるアミノ酸配列に1〜20個、好ましくは1〜10個、より好ましくは1〜数(5、4、3もしくは2)個のアミノ酸が付加したアミノ酸配列、(iii)配列番号2に示されるアミノ酸配列に1〜20個、好ましくは1〜10個、より好ましくは1〜数(5、4、3もしくは2)個のアミノ酸が挿入されたアミノ酸配列、(iv)配列番号2に示されるアミノ酸配列中の1〜20個、好ましくは1〜10個、より好ましくは1〜数(5、4、3もしくは2)個のアミノ酸が他のアミノ酸で置換されたアミノ酸配列、又は(v)それらを組み合わせたアミノ酸配列を含むタンパク質が挙げられる。性質の似たアミノ酸(例えば、グリシンとアラニン、バリンとロイシンとイソロイシン、セリンとトレオニン、アスパラギン酸とグルタミン酸、アスパラギンとグルタミン、リシンとアルギニン、システインとメチオニン、フェニルアラニンとチロシン等)同士の置換等であれば、さらに多くの個数の置換等がありうる。
上記のようにアミノ酸が欠失、置換又は挿入されている場合、その欠失、置換、挿入の位置は、上記酵素活性が保持される限り、特に限定されない。
【0020】
上記(c)において「ストリンジェントな条件」とは、同一性が高いヌクレオチド配列同士、例えば70、80、90、95又は99%以上の同一性を有するヌクレオチド配列同士がハイブリダイズし、それより同一性が低いヌクレオチド配列同士がハイブリダイズしない条件、具体的には通常のサザンハイブリダイゼーションの洗浄条件である60℃、1xSSC、0.1%SDS、好ましくは、0.1xSSC、0.1%SDS、さらに好ましくは、68℃、0.1xSSC、0.1%SDSに相当する塩濃度及び温度で、1回、より好ましくは2〜3回洗浄する条件等が挙げられる。
【0021】
【化1】
【0022】
上記(b)または(c)に関し、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる酵素タンパク質が有する酵素活性としては、(1)12位にシス型二重結合を有する炭素数18の不飽和脂肪酸(以下、「cis-12不飽和脂肪酸」と略記する場合がある)を基質として利用し、13位に水酸基を有する炭素数18の水酸化脂肪酸(以下、「13-hydroxy脂肪酸」と略記する場合がある)に変換し得る酵素活性(反応1)、(2)9位にシス型二重結合を有する炭素数16の不飽和脂肪酸(以下、「cis-9不飽和脂肪酸」と略記する場合がある)を基質として利用し、10位に水酸基を有する炭素数16の水酸化脂肪酸(以下、「10-hydroxy脂肪酸」と略記する場合がある)に変換し得る酵素活性(反応2)、(3)14位にシス型二重結合を有する炭素数20の不飽和脂肪酸(以下、「cis-14不飽和脂肪酸」と略記する場合がある)を基質として利用し、15位に水酸基を有する炭素数20の水酸化脂肪酸(以下、「15-hydroxy脂肪酸」と略記する場合がある)に変換し得る酵素活性(反応3)、(4)11位にシス型二重結合を有する炭素数18又は20の不飽和脂肪酸(以下、「cis-11不飽和脂肪酸」と略記する場合がある)を基質として利用し、12位に水酸基を有する炭素数18又は20の水酸化脂肪酸(以下、「12-hydroxy脂肪酸」と略記する場合がある)に変換し得る酵素活性(反応4)、シス-4,シス-7,シス-10,シス-13,シス-16,シス-19-ドコサヘキサエン酸(DHA)を14-ヒドロキシ-シス-4,シス-7,シス-10,シス-16,シス-19-ドコサペンタエン酸に変換しうる酵素活性(反応A)、およびシス-9-テトラデセン酸(ミリストレイン酸)を10-ヒドロキシ-テトラデカン酸に変換しうる酵素活性(反応I)の少なくとも1つ、好ましくは全てを有していれば特に制限はない。
上記の「cis-12不飽和脂肪酸」、「cis-9不飽和脂肪酸」、「cis-14不飽和脂肪酸」、「cis-11不飽和脂肪酸」としては、それぞれ、12位にシス型二重結合を有する炭素数18の不飽和脂肪酸、9位にシス型二重結合を有する炭素数16の不飽和脂肪酸、14位にシス型二重結合を有する炭素数20の不飽和脂肪酸、11位にシス型二重結合を有する炭素数18又は20の不飽和脂肪酸であれば特に制限されず、例えば一価不飽和脂肪酸、二価不飽和脂肪酸、三価不飽和脂肪酸、四価不飽和脂肪酸、五価不飽和脂肪酸などが挙げられる。尚、本明細書において「脂肪酸」という場合、遊離の酸のみならず、エステル体、塩基性化合物との塩等をも包含する。「DHA」および「ミリストレイン酸」についても、遊離の酸のみならず、エステル体、塩基性化合物との塩等をも包含する。
【0023】
本発明のFA-HYは、例えば、ラクトバチルス・アシドフィルスの菌体や培養液から、自体公知のタンパク質分離精製技術により単離することができる。または、FA-HYは、FA-HYを含むラクトバチルス・アシドフィルスの菌体自体またはその菌体破砕物として用いてもよい。FA-HYを含むラクトバチルス・アシドフィルスの菌体としては、本発明のFA-HYを含む限り特に制限はないが、例えば、NITE BP-01788などが挙げられる。あるいは、実施例2に記載された方法に従ってFA-HYをコードする遺伝子を単離し、適当なベクターにサブクローニングし、大腸菌などの適当な宿主に導入して培養し、組換えタンパク質として製造することもできる。FA-HYは精製されたものであっても、粗精製されたものであってもよい。あるいは、大腸菌等の菌体に発現させ、その菌体自体を用いても、培養液を用いてもよい。さらには、該酵素は遊離型のものでもよく、各種担体によって固定化されたものでもよい。
【0024】
本発明のFA-HYをコードする核酸を含むベクターは、目的(例えば、タンパク質の発現)に応じて、ベクターを導入する宿主細胞に適したものを適宜選択し、使用することができる。発現ベクターである場合、適切なプロモーターに機能可能に連結された本発明の核酸を含み、好ましくは本発明の核酸の下流に転写終結シグナル、すなわちターミネーター領域を含む。さらに、形質転換体を選択するための選択マーカー遺伝子(薬剤耐性遺伝子、栄養要求性変異を相補する遺伝子等)も含むこともできる。また、発現したタンパク質の分離・精製に有用なタグ配列をコードする配列等を含んでもよい。また、ベクターは、対象宿主細胞のゲノムに組み込まれるものであってもよい。そして、本発明のベクターは、コンピテント細胞法、プロトプラスト法、リン酸カルシウム共沈法等、自体公知の形質転換法で、対象宿主細胞内に導入することができる。
【0025】
本発明において「宿主細胞」は、本発明のFA-HYをコードする核酸を含むベクターを発現できれば任意の細胞でよく、細菌、酵母、真菌及び高等真核細胞等が挙げられる。細菌の例としては、バチルス又はストレプトマイセス等のグラム陽性菌又は大腸菌等のグラム陰性菌が挙げられる。FA-HYをコードする核酸を含むベクターが導入された組換え細胞は、宿主細胞に適した自体公知の方法により培養することができる。
【0026】
本発明のFA-HYの「精製」は、自体公知の方法、例えば、遠心分離等で集菌した菌体を、超音波又はガラスビーズ等で摩砕した後、遠心分離等により細胞片等の固形物を除き、粗酵素液を調製し、さらに、硫安、硫酸ナトリウム等による塩析法、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、アフィニテイクロマトグラフィー等のクロマトグラフ法、ゲル電気泳動法等を用いることができる。
【0027】
本発明のFA-HYは、上記の通り、cis-12不飽和脂肪酸、cis-9不飽和脂肪酸、cis-14不飽和脂肪酸、cis-11不飽和脂肪酸、DHA、ミリストレイン酸を基質として利用し、13-hydroxy脂肪酸、10-hydroxy脂肪酸、15-hydroxy脂肪酸、12-hydroxy脂肪酸、14-ヒドロキシ-シス-4,シス-7,シス-10,シス-16,シス-19-ドコサペンタエン酸、10-ヒドロキシ-テトラデカン酸にぞれぞれ変換し得る酵素活性を有する。従って、本発明はまた、[1]cis-12不飽和脂肪酸から、本発明のFA-HYを用いた水和反応により、13-hydroxy脂肪酸を製造する方法(製法1)、[2]cis-9不飽和脂肪酸から、本発明のFA-HYを用いた水和反応により、10-hydroxy脂肪酸を製造する方法(製法2)、[3]cis-14不飽和脂肪酸から、本発明のFA-HYを用いた水和反応により、15-hydroxy脂肪酸を製造する方法(製法3)、[4]cis-11不飽和脂肪酸から、本発明のFA-HYを用いた水和反応により、12-hydroxy脂肪酸を製造する方法(製法4)、[A]DHAから、本発明のFA-HYを用いた水和反応により、14-ヒドロキシ-シス-4,シス-7,シス-10,シス-16,シス-19-ドコサペンタエン酸を製造する方法(製法A)、[I]ミリストレイン酸から、本発明のFA-HYを用いた水和反応により、10-ヒドロキシ-テトラデカン酸を製造する方法(製法I)をそれぞれ提供する。
本発明の製法1の「cis-12不飽和脂肪酸」としては、例えば、シス-9,シス-12-オクタデカジエン酸(リノール酸)、シス-6,シス-9,シス-12-オクタデカトリエン酸(γ-リノレン酸)、シス-9,シス-12,シス-15-オクタデカトリエン酸(α-リノレン酸)、シス-6,シス-9,シス-12,シス-15-オクタデカテトラエン酸(ステアリドン酸)の他、WO2013/168310で製造可能となった10-ヒドロキシ-シス-12-オクタデセン酸、10-ヒドロキシ-シス-6,シス-12-オクタデカジエン酸、10-ヒドロキシ-シス-12,シス-15-オクタデカジエン酸、10-ヒドロキシ-シス-6,シス-12,シス-15-オクタデカトリエン酸、10-オキソ-シス-12-オクタデセン酸、10-オキソ-シス-6,シス-12-オクタデカジエン酸、10-オキソ-シス-12,シス-15-オクタデカジエン酸、10-オキソ-シス-6,シス-12,シス-15-オクタデカトリエン酸、シス-5,シス-9,シス-12-オクタデカトリエン酸(ピノレン酸)、トランス-5,シス-9,シス-12-オクタデカトリエン酸(コルンビン酸)等が挙げられる。もちろん、当該基質はWO2013/168310以外の方法により得られたものであってもよい。
本発明の製法1によって製造される「13-hydroxy脂肪酸」としては、例えば、シス-9,シス-12-オクタデカジエン酸(リノール酸)から誘導される13-ヒドロキシ-シス-9-オクタデセン酸、シス-6,シス-9,シス-12-オクタデカトリエン酸(γ-リノレン酸)から誘導される13-ヒドロキシ-シス-6,シス-9-オクタデカジエン酸、シス-9,シス-12,シス-15-オクタデカトリエン酸(α-リノレン酸)から誘導される13-ヒドロキシ-シス-9,シス-15-オクタデカジエン酸、シス-6,シス-9,シス-12,シス-15-オクタデカテトラエン酸(ステアリドン酸)から誘導される13-ヒドロキシ-シス-6,シス-9,シス-15-オクタデカトリエン酸、10-ヒドロキシ-シス-12-オクタデセン酸から誘導される10,13-ジヒドロキシ-オクタデカン酸、10-ヒドロキシ-シス-6,シス-12-オクタデカジエン酸から誘導される10,13-ジヒドロキシ-シス-6-オクタデセン酸、10-ヒドロキシ-シス-12,シス-15-オクタデカジエン酸から誘導される10,13-ジヒドロキシ-シス-15-オクタデセン酸、10-ヒドロキシ-シス-6,シス-12,シス-15-オクタデカトリエン酸から誘導される10,13-ジヒドロキシ-シス-6,シス-15-オクタデカジエン酸、10-オキソ-シス-12-オクタデセン酸から誘導される10-オキソ-13-ヒドロキシ-オクタデカン酸、10-オキソ-シス-6,シス-12-オクタデカジエン酸から誘導される10-オキソ-13-ヒドロキシ-シス-6-オクタデセン酸、10-オキソ-シス-12,シス-15-オクタデカジエン酸から誘導される10-オキソ-13-ヒドロキシ-シス-15-オクタデセン酸、10-オキソ-シス-6,シス-12,シス-15-オクタデカトリエン酸から誘導される10-オキソ-13-ヒドロキシ-シス-6,シス-15-オクタデカジエン酸、シス-5,シス-9,シス-12-オクタデカトリエン酸(ピノレン酸)から誘導される13-ヒドロキシ-シス-5,シス-9-オクタデカジエン酸、トランス-5,シス-9,シス-12-オクタデカトリエン酸(コルンビン酸)から誘導される13-ヒドロキシ-トランス-5,シス-9-オクタデカジエン酸等が挙げられる。
本発明の製法2の「cis-9不飽和脂肪酸」としては、例えば、シス-9-ヘキサデセン酸(パルミトレイン酸)等が挙げられる。
本発明の製法2によって製造される「10-hydroxy脂肪酸」としては、例えば、シス-9-ヘキサデセン酸(パルミトレイン酸)から誘導される10-ヒドロキシ-ヘキサデカン酸等が挙げられる。
本発明の製法3の「cis-14不飽和脂肪酸」としては、例えば、シス-11,シス-14-エイコサジエン酸、シス-11,シス-14,シス-17-エイコサトリエン酸、シス-8,シス-11,シス-14-エイコサトリエン酸(ジホモ-γ-リノレン酸)、シス-8,シス-11,シス-14,シス-17-エイコサテトラエン酸、シス-5,シス-8,シス-11,シス-14-エイコサテトラエン酸(アラキドン酸)、シス-5,シス-11,シス-14-エイコサトリエン酸(シアドン酸)、シス-5,シス-11,シス-14,シス-17-エイコサテトラエン酸(ジュニペロン酸)等が挙げられる。
本発明の製法3によって製造される「15-hydroxy脂肪酸」としては、例えば、シス-11,シス-14-エイコサジエン酸から誘導される15-ヒドロキシ-シス-11-エイコセン酸、シス-11,シス-14,シス-17-エイコサトリエン酸から誘導される15-ヒドロキシ-シス-11,シス-17-エイコサジエン酸、シス-8,シス-11,シス-14-エイコサトリエン酸(ジホモ-γ-リノレン酸)から誘導される15-ヒドロキシ-シス-8,シス-11-エイコサジエン酸、シス-8,シス-11,シス-14,シス-17-エイコサテトラエン酸から誘導される15-ヒドロキシ-シス-8,シス-11,シス-17-エイコサトリエン酸、シス-5,シス-8,シス-11,シス-14-エイコサテトラエン酸(アラキドン酸)から誘導される15-ヒドロキシ-シス-5,シス-8,シス-11-エイコサトリエン酸、シス-5,シス-11,シス-14-エイコサトリエン酸(シアドン酸)から誘導される15-ヒドロキシ-シス-5,シス-11-エイコサジエン酸、シス-5,シス-11,シス-14,シス-17-エイコサテトラエン酸(ジュニペロン酸)から誘導される15-ヒドロキシ-シス-5,シス-11,シス-17-エイコサトリエン酸等が挙げられる。
本発明の製法4の「cis-11不飽和脂肪酸」としては、例えば、シス-11-オクタデセン酸(シス-バクセン酸)、シス-11,シス-14-エイコサジエン酸、シス-11,シス-14,シス-17-エイコサトリエン酸、シス-8,シス-11,シス-14-エイコサトリエン酸(ジホモ-γ-リノレン酸)、シス-5,シス-8,シス-11-エイコサトリエン酸(ミード酸)、シス-8,シス-11,シス-14,シス-17-エイコサテトラエン酸、シス-5,シス-8,シス-11,シス-14-エイコサテトラエン酸(アラキドン酸)等が挙げられる。
本発明の製法4によって製造される「12-hydroxy脂肪酸」としては、例えば、シス-11-オクタデセン酸(シス-バクセン酸)から誘導される12-ヒドロキシ-オクタデカン酸、シス-11,シス-14-エイコサジエン酸から誘導される12-ヒドロキシ-シス-14-エイコセン酸、シス-11,シス-14,シス-17-エイコサトリエン酸から誘導される12-ヒドロキシ-シス-14,シス-17-エイコサジエン酸、シス-8,シス-11,シス-14-エイコサトリエン酸(ジホモ-γ-リノレン酸)から誘導される12-ヒドロキシ-シス-8,シス-14-エイコサジエン酸、シス-5,シス-8,シス-11-エイコサトリエン酸(ミード酸)から誘導される12-ヒドロキシ-シス-5,シス-8-エイコサジエン酸、シス-8,シス-11,シス-14,シス-17-エイコサテトラエン酸から誘導される12-ヒドロキシ-シス-8,シス-14,シス-17-エイコサトリエン酸、シス-5,シス-8,シス-11,シス-14-エイコサテトラエン酸(アラキドン酸)から誘導される12-ヒドロキシ-シス-5,シス-8,シス-14-エイコサトリエン酸等が挙げられる。
【0028】
水和反応は、適当な緩衝液(例えば、リン酸緩衝液、トリス緩衝液、ホウ酸緩衝液等)中で、基質である不飽和脂肪酸と本発明のFA-HYとを適当な濃度で混合し、インキュベートすることにより行われ得る。基質濃度は、例えば1〜1000g/L、好ましくは10〜500g/L、より好ましくは20〜250g/Lである。前記のFA-HYの添加量は、例えば、0.001〜10mg/mL、好ましくは0.1〜5mg/mL、より好ましくは0.2〜2mg/mLである。
【0029】
水和反応(反応1〜4、反応Aまたは反応I)には「補因子」を用いてよく、例えば、FAD等を用いることができる。その添加濃度は水和反応が効率良く進む濃度であればよい。好ましくは0.001〜20mM、より好ましくは0.01〜10mMである。
さらに、水和反応に「活性化剤」を用いてよく、例えば、NADH、NADPHからなる群から選ばれる1又は2の化合物が挙げられる。その添加濃度は水和反応が効率良く進む濃度であればよい。好ましくは0.1〜20mM、より好ましくは1〜10mMである。
【0030】
水和反応は、本発明のFA-HYの好適温度、好適pHの範囲内で行うことが望ましい。例えば、反応温度は5〜50℃、好ましくは20〜45℃である。また、反応液のpHとしては、例えば、pH4〜10、好ましくはpH5〜9である。反応時間も特に制限はないが、例えば10分〜72時間、好ましくは30分〜36時間である。
【0031】
本発明の好ましい一実施態様においては、本発明のFA-HYは、それをコードする核酸を含む発現ベクターが導入された組換え細胞(例えば、大腸菌、枯草菌、酵母、昆虫細胞、動物細胞等)の形態で反応系に提供される。この場合、当該細胞の培養に適した液体培地に、基質及び必要に応じて補因子や活性化剤を添加して、当該細胞を培養することにより、水和反応を行うこともできる。
【0032】
【化2】
【0033】
更に、脱水素反応もしくはクロム酸を用いた化学的酸化により、本発明の製法1〜4、製法A、製法Iで得られた13-hydroxy脂肪酸から13位にカルボニル基を有する炭素数18のオキソ脂肪酸(以下、「13-oxo脂肪酸」と略記する場合がある)(反応5)、10-hydroxy脂肪酸から10位にカルボニル基を有する炭素数16のオキソ脂肪酸(以下「10-oxo脂肪酸」と略記する場合がある)(反応6)、15-hydroxy脂肪酸から15位にカルボニル基を有する炭素数20のオキソ脂肪酸(以下、「15-oxo脂肪酸」と略記する場合がある)(反応7)、12-hydroxy脂肪酸から12位にカルボニル基を有する炭素数18又は20のオキソ脂肪酸(以下、「12-oxo脂肪酸」と略記する場合がある)(反応8)、14-ヒドロキシ-シス-4,シス-7,シス-10,シス-16,シス-19-ドコサペンタエン酸から14-オキソ-シス-4,シス-7,シス-10,シス-16,シス-19-ドコサペンタエン酸(反応B)、10-ヒドロキシ-テトラデカン酸から10-オキソ-テトラデカン酸(反応II)がそれぞれ生成される。
【0034】
従って、本発明はまた、[5]cis-12不飽和脂肪酸から、本発明のFA-HYを用いた水和反応により、13-hydroxy脂肪酸を誘導し、該13-hydroxy脂肪酸から、脱水素反応又は化学的酸化により、13-oxo脂肪酸を製造する方法(製法5)、[6]cis-9不飽和脂肪酸から、本発明のFA-HYを用いた水和反応により、10-hydroxy脂肪酸を誘導し、該10-hydroxy脂肪酸から、脱水素反応又は化学的酸化により、10-oxo脂肪酸を製造する方法(製法6)、[7]cis-14不飽和脂肪酸から、本発明のFA-HYを用いた水和反応により、15-hydroxy脂肪酸を誘導し、該15-hydroxy脂肪酸から、脱水素反応又は化学的酸化により、15-oxo脂肪酸を製造する方法(製法7)、[8]cis-11不飽和脂肪酸から、本発明のFA-HYを用いた水和反応により、12-hydroxy脂肪酸を誘導し、該12-hydroxy脂肪酸から、脱水素反応又は化学的酸化により、12-oxo脂肪酸を製造する方法(製法8)、[B]DHAから、本発明のFA-HYを用いた水和反応により、14-ヒドロキシ-シス-4,シス-7,シス-10,シス-16,シス-19-ドコサペンタエン酸を誘導し、該14-ヒドロキシ-シス-4,シス-7,シス-10,シス-16,シス-19-ドコサペンタエン酸から、脱水素反応又は化学的酸化により、14-オキソ-シス-4,シス-7,シス-10,シス-16,シス-19-ドコサペンタエン酸を製造する方法(製法B)、[II]ミリストレイン酸から、本発明のFA-HYを用いた水和反応により、10-ヒドロキシ-テトラデカン酸を誘導し、該10-ヒドロキシ-テトラデカン酸から、脱水素反応又は化学的酸化により、10-オキソ-テトラデカン酸を製造する方法(製法II)を提供する。
本発明の製法5〜8の「cis-12不飽和脂肪酸」、「cis-9不飽和脂肪酸」、「cis-14不飽和脂肪酸」、「cis-11不飽和脂肪酸」としては、上記の製法1〜4に記載の基質と同様である。
本発明の製法5によって製造される「13-oxo脂肪酸」としては、例えば、シス-9,シス-12-オクタデカジエン酸(リノール酸)から誘導される13-オキソ-シス-9-オクタデセン酸、シス-6,シス-9,シス-12-オクタデカトリエン酸(γ-リノレン酸)から誘導される13-オキソ-シス-6,シス-9-オクタデカジエン酸、シス-9,シス-12,シス-15-オクタデカトリエン酸(α-リノレン酸)から誘導される13-オキソ-シス-9,シス-15-オクタデカジエン酸、シス-6,シス-9,シス-12,シス-15-オクタデカテトラエン酸(ステアリドン酸)から誘導される13-オキソ-シス-6,シス-9,シス-15-オクタデカトリエン酸、10-ヒドロキシ-シス-12-オクタデセン酸あるいは10-オキソ-シス-12-オクタデセン酸から誘導される10,13-ジオキソ-オクタデカン酸、10-ヒドロキシ-シス-6,シス-12-オクタデカジエン酸あるいは10-オキソ-シス-6,シス-12-オクタデカジエン酸から誘導される10,13-ジオキソ-シス-6-オクタデセン酸、10-ヒドロキシ-シス-12,シス-15-オクタデカジエン酸あるいは10-オキソ-シス-12,シス-15-オクタデカジエン酸から誘導される10,13-ジオキソ-シス-15-オクタデセン酸、10-ヒドロキシ-シス-6,シス-12,シス-15-オクタデカトリエン酸あるいは10-オキソ-シス-6,シス-12,シス-15-オクタデカトリエン酸から誘導される10,13-ジオキソ-シス-6,シス-15-オクタデカジエン酸、シス-5,シス-9,シス-12-オクタデカトリエン酸(ピノレン酸)から誘導される13-オキソ-シス-5,シス-9-オクタデカジエン酸、トランス-5,シス-9,シス-12-オクタデカトリエン酸(コルンビン酸)から誘導される13-オキソ-トランス-5,シス-9-オクタデカジエン酸等が挙げられる。
本発明の製法6によって製造される「10-oxo脂肪酸」としては、例えば、シス-9-ヘキサデセン酸(パルミトレイン酸)から誘導される10-オキソ-ヘキサデカン酸等が挙げられる。
本発明の製法7によって製造される「15-oxo脂肪酸」としては、例えば、シス-11,シス-14-エイコサジエン酸から誘導される15-オキソ-シス-11-エイコセン酸、シス-11,シス-14,シス-17-エイコサトリエン酸から誘導される15-オキソ-シス-11,シス-17-エイコサジエン酸、シス-8,シス-11,シス-14-エイコサトリエン酸(ジホモ-γ-リノレン酸)から誘導される15-オキソ-シス-8,シス-11-エイコサジエン酸、シス-8,シス-11,シス-14,シス-17-エイコサテトラエン酸から誘導される15-オキソ-シス-8,シス-11,シス-17-エイコサトリエン酸、シス-5,シス-8,シス-11,シス-14-エイコサテトラエン酸(アラキドン酸)から誘導される15-オキソ-シス-5,シス-8,シス-11-エイコサトリエン酸、シス-5,シス-11,シス-14-エイコサトリエン酸(シアドン酸)から誘導される15-オキソ-シス-5,シス-11-エイコサジエン酸、シス-5,シス-11,シス-14,シス-17-エイコサテトラエン酸(ジュニペロン酸)から誘導される15-オキソ-シス-5,シス-11,シス-17-エイコサトリエン酸等が挙げられる。
本発明の製法8によって製造される「12-oxo脂肪酸」としては、例えば、シス-11-オクタデセン酸(シス-バクセン酸)から誘導される12-オキソ-オクタデカン酸、シス-11,シス-14-エイコサジエン酸から誘導される12-オキソ-シス-14-エイコセン酸、シス-11,シス-14,シス-17-エイコサトリエン酸から誘導される12-オキソ-シス-14,シス-17-エイコサジエン酸、シス-8,シス-11,シス-14-エイコサトリエン酸(ジホモ-γ-リノレン酸)から誘導される12-オキソ-シス-8,シス-14-エイコサジエン酸、シス-5,シス-8,シス-11-エイコサトリエン酸(ミード酸)から誘導される12-オキソ-シス-5,シス-8-エイコサジエン酸、シス-8,シス-11,シス-14,シス-17-エイコサテトラエン酸から誘導される12-オキソ-シス-8,シス-14,シス-17-エイコサトリエン酸、シス-5,シス-8,シス-11,シス-14-エイコサテトラエン酸(アラキドン酸)から誘導される12-オキソ-シス-5,シス-8,シス-14-エイコサトリエン酸等が挙げられる。
【0035】
本発明の製法5〜8、製法Bまたは製法IIで用いられる脱水素酵素としては、13-hydroxy脂肪酸、10-hydroxy脂肪酸、15-hydroxy脂肪酸、12-hydroxy脂肪酸、14-ヒドロキシ-シス-4,シス-7,シス-10,シス-16,シス-19-ドコサペンタエン酸、10-ヒドロキシ-テトラデカン酸を基質として利用し、13-oxo脂肪酸、10-oxo脂肪酸、15-oxo脂肪酸、12-oxo脂肪酸、14-オキソ-シス-4,シス-7,シス-10,シス-16,シス-19-ドコサペンタエン酸、10-オキソ-テトラデカン酸にそれぞれ変換し得る酵素であれば特に制限はないが、例えば、乳酸菌由来の水酸化脂肪酸デヒドロゲナーゼ(CLA-DH)が好ましい。より好ましくは、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)由来のCLA-DHであり、特に好ましくは、L.プランタルムFERM BP-10549菌株由来のCLA-DHである。CLA-DHは、特開2007-259712号公報に記載される方法や、WO2013/168310に記載される方法により取得することができる。脱水素酵素は精製されたものであっても、粗精製されたものであってもよい。あるいは、大腸菌等の菌体に発現させ、その菌体自体を用いても、培養液を用いてもよい。さらには、該酵素は遊離型のものでもよく、各種担体によって固定化されたものでもよい。
【0036】
脱水素反応は、適当な緩衝液(例えば、リン酸緩衝液、トリス緩衝液、ホウ酸緩衝液等)中で、基質である13-hydroxy脂肪酸、10-hydroxy脂肪酸、15-hydroxy脂肪酸、12-hydroxy脂肪酸、14-ヒドロキシ-シス-4,シス-7,シス-10,シス-16,シス-19-ドコサペンタエン酸、10-ヒドロキシ-テトラデカン酸と脱水素酵素とを適当な濃度で混合し、インキュベートすることにより行われ得る。基質濃度は、例えば0.01〜100g/L、好ましくは0.05〜50g/L、より好ましくは0.1〜5g/Lである。脱水素酵素の添加量は、例えば、0.001〜10mg/mL、好ましくは0.005〜1mg/mL、より好ましくは0.05〜0.2mg/mLである。
【0037】
脱水素反応には「補因子」を用いてよく、例えば、NADやNADP等を用いることができる。その添加濃度は酸化反応が効率良く進む濃度であればよい。好ましくは0.001〜20mM、より好ましくは0.01〜10mMである。
【0038】
脱水素反応は、脱水素酵素の好適温度、好適pHの範囲内で行うことが望ましい。例えば、反応温度は5〜50℃、好ましくは20〜45℃である。また、反応液のpHとしては、例えば、pH4〜10、好ましくはpH5〜9である。反応時間も特に制限はないが、例えば10分〜72時間、好ましくは30分〜36時間である。
【0039】
本発明の一実施態様においては、脱水素酵素は、それをコードする核酸を含む発現ベクターが導入された組換え細胞(例えば、大腸菌、枯草菌、酵母、昆虫細胞、動物細胞等)の形態で反応系に提供される。この場合、当該細胞の培養に適した液体培地に、基質及び必要に応じて補因子や活性化剤を添加して、当該細胞を培養することにより、酸化反応を行うこともできる。
【0040】
また脱水素反応を、クロム酸を用いた化学的酸化に置き換えることにより、化学的に酵素反応と同様のオキソ脂肪酸を得られることができる。
【0041】
化学的酸化としては、自体公知の方法、例えばクロム酸酸化、好ましくはジョーンズ酸化等が挙げられる。クロム酸としては、無水クロム酸CrO3、クロム酸H2CrO4、二クロム酸H2Cr2O7といった化合物の塩や錯体を使用することができる。
具体的には、無水クロム酸2.67 gに硫酸 2.3 ml、水7.7 mlを加えた物を、アセトンを90 ml加えてクロム酸溶液を作成する。三角フラスコに、2 gの水酸化脂肪酸と、40 mlのアセトンを加え、氷上にてスターラーで撹拌しながら上記のクロム酸溶液を1滴ずつ加える。溶液が青色から抹茶色になったらクロム酸溶液の滴下をやめ、イソプロピルアルコールを用いて反応を停止する。析出した沈殿をろ紙を用いて濾過し、分液ロートに入れさらにジエチルエーテルを150 ml及びミリQ水300 mlを加えてよく振り、ジエチルエーテル層を数回ミリQ水で洗浄する。洗浄後のジエチルエーテル層に硫酸ナトリウム(無水)を適量加えて撹拌し残存水分を除去する。添加した無水硫酸ナトリウムをろ紙を用いてろ過し、得られたジエチルエーテル層をロータリーエバポレーターにて濃縮し、反応産物(オキソ脂肪酸)及び未反応の基質を抽出する。
【0042】
無水クロム酸による酸化反応により得られた抽出物(基質と生成物(オキソ脂肪酸)を含む混合物) を中圧クロマトグラフィーに供し、カラムから出てきた溶液をフラクションに分けて回収する。回収した各フラクションをLC/MS及びガスクロマトグラフィーにより分析し、オキソ脂肪酸のみが含まれたフラクションを集めてロータリーエバポレーターにて濃縮する。得られた最終生成物の一部を用いてメチルエステル化した後に、ガスクロマトグラフィーにてオキソ脂肪酸の純度を評価し、純度98%以上のオキソ脂肪酸を得ることができる。
【0043】
本発明の製法1〜8、製法A、Bにより得られる以下の水酸化脂肪酸およびオキソ脂肪酸はこれまでに知られていない構造をもつ新規の脂肪酸である。
<水酸化脂肪酸>
13-ヒドロキシ-シス-9,シス-15-オクタデカジエン酸
13-ヒドロキシ-シス-6,シス-9,シス-15-オクタデカトリエン酸
13-ヒドロキシ-シス-5,シス-9-オクタデカジエン酸
13-ヒドロキシ-トランス-5,シス-9-オクタデカジエン酸
12-ヒドロキシ-シス-14-エイコセン酸
12-ヒドロキシ-シス-14,シス-17-エイコサジエン酸
15-ヒドロキシ-シス-11,シス-17-エイコサジエン酸
15-ヒドロキシ-シス-8,シス-11-エイコサジエン酸
12-ヒドロキシ-シス-8,シス-14,シス-17-エイコサトリエン酸
15-ヒドロキシ-シス-8,シス-11,シス-17-エイコサトリエン酸
15-ヒドロキシ-シス-5,シス-11-エイコサジエン酸
15-ヒドロキシ-シス-5,シス-11,シス-17-エイコサトリエン酸
10,13-ジヒドロキシ-シス-6-オクタデセン酸
10,13-ジヒドロキシ-シス-15-オクタデセン酸
10,13-ジヒドロキシ-シス-6,シス-15-オクタデカジエン酸
10-オキソ-13-ヒドロキシ-シス-6-オクタデセン酸
10-オキソ-13-ヒドロキシ-シス-15-オクタデセン酸
10-オキソ-13-ヒドロキシ-シス-6,シス-15-オクタデカジエン酸
14-ヒドロキシ-シス-4,シス-7,シス-10,シス-16,シス-19-ドコサペンタエン酸
<オキソ脂肪酸>
13-オキソ-シス-6,シス-9-オクタデカジエン酸
13-オキソ-シス-6,シス-9,シス-15-オクタデカトリエン酸
13-オキソ-シス-5,シス-9-オクタデカジエン酸
13-オキソ-トランス-5,シス-9-オクタデカジエン酸
12-オキソ-シス-14-エイコセン酸
12-オキソ-シス-14,シス-17-エイコサジエン酸
15-オキソ-シス-11,シス-17-エイコサジエン酸
15-オキソ-シス-8,シス-11-エイコサジエン酸
12-オキソ-シス-8,シス-14-エイコサジエン酸
12-オキソ-シス-5,シス-8-エイコサジエン酸
12-オキソ-シス-8,シス-14,シス-17-エイコサトリエン酸
15-オキソ-シス-8,シス-11,シス-17-エイコサトリエン酸
15-オキソ-シス-5,シス-11-エイコサジエン酸
15-オキソ-シス-5,シス-11,シス-17-エイコサトリエン酸
10,13-ジオキソ-シス-6-オクタデセン酸
10,13-ジオキソ-シス-15-オクタデセン酸
10,13-ジオキソ-シス-6,シス-15-オクタデカジエン酸
14-オキソ-シス-4,シス-7,シス-10,シス-16,シス-19-ドコサペンタエン酸
【0044】
本発明により得られる水酸化脂肪酸、オキソ脂肪酸は核内受容体PPARαおよびPPARγのアゴニストとしての活性があることから、代謝改善剤等に利用できる。したがって、新規の水酸化脂肪酸及びオキソ脂肪酸についても代謝改善剤等に利用できる新規の物質である。
【0045】
本発明で得られる水酸化脂肪酸、オキソ脂肪酸は、従来公知の生理活性に基づいて、例えば、医薬、食品、化粧料に配合して使用され得る。
水酸化脂肪酸、オキソ脂肪酸を含有する医薬の剤型としては、散剤、顆粒剤、丸剤、ソフトカプセル、ハードカプセル、錠剤、チュアブル錠、速崩錠、シロップ、液剤、懸濁剤、座剤、軟膏、クリーム剤、ゲル剤、粘付剤、吸入剤、注射剤等が挙げられる。これらの製剤は常法に従って調製されるが、オキソ脂肪酸等は水に難溶性であるため、植物性油、動物性油等の非親水性有機溶媒に溶解するか又は、乳化剤、分散剤もしくは界面活性剤等とともに、ホモジナイザー(高圧ホモジナイザー)を用いて水溶液中に分散、乳化させて用いる。
【0046】
製剤化のために用いることができる添加剤には、例えば大豆油、サフラー油、オリーブ油、胚芽油、ひまわり油、牛脂、いわし油等の動植物性油、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ソルビトール等の多価アルコール、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル等の界面活性剤、精製水、乳糖、デンプン、結晶セルロース、D−マンニトール、レシチン、アラビアガム、ソルビトール液、糖液等の賦形剤、甘味料、着色料、pH調整剤、香料等を挙げることができる。なお、液体製剤は、服用時に水又は他の適当な媒体に溶解又は懸濁する形であってもよい。また、錠剤、顆粒剤は周知の方法でコーティングしても良い。
【0047】
注射剤の形で投与する場合には、静脈内、腹腔内、筋肉内、皮下、経皮、関節内、滑液嚢内、胞膜内、骨膜内、舌下、口腔内等に投与することが好ましく、特に静脈内投与又は腹腔内投与が好ましい。静脈内投与は、点滴投与、ボーラス投与のいずれであってもよい。
【0048】
本発明で得られる水酸化脂肪酸、オキソ脂肪酸等を含有する「食品」の形態としては、例えば、サプリメント(散剤、顆粒剤、ソフトカプセル、ハードカプセル、錠剤、チュアブル錠、速崩錠、シロップ、液剤等)、飲料(お茶、炭酸飲料、乳酸飲料、スポーツ飲料等)、菓子(グミ、ゼリー、ガム、チョコレート、クッキー、キャンデー等)、油、油脂食品(マヨネーズ、ドレッシング、バター、クリーム、マーガリン等)等が挙げられる。
【0049】
上記食品には、必要に応じて各種栄養素、各種ビタミン類(ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK等)、各種ミネラル類(マグネシウム、亜鉛、鉄、ナトリウム、カリウム、セレン等)、食物繊維、分散剤、乳化剤等の安定剤、甘味料、呈味成分(クエン酸、リンゴ酸等)、フレーバー、ローヤルゼリー、プロポリス、アガリクス等を配合することができる。
【0050】
本発明で得られる水酸化脂肪酸、オキソ脂肪酸等を含有する「化粧料」としては、クリーム、乳液、ローション、マイクロエマルジョンエッセンス、入浴剤などが挙げられ、香料等を混合してもよい。
【0051】
以下の実施例により本発明をより具体的に説明するが、実施例は本発明の単なる例示にすぎず、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【実施例1】
【0052】
ラクトバチルス・アシドフィルスの培養方法
4℃にて保管している2%寒天を含むMRS高層培地よりラクトバチルス・アシドフィルスを15 ml のMRS液体培地(Difco製; pH 6.5)に植菌し、37℃で20時間培養を行った。培養後、3,000 rpm、4℃にて10分間遠心分離することにより集菌し、ラクトバチルス・アシドフィルスの菌体を得た。
尚、前記ラクトバチルス・アシドフィルスは、独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(NPMD)に2014年1月17日に受託番号NITE BP-01788として寄託されている。
【実施例2】
【0053】
配列番号2で表されるアミノ酸配列を有する酵素(FA-HY:脂肪酸水和酵素)の遺伝子のクローニング
(1) ゲノムDNAの取得
前記ラクトバチルス・アシドフィルスを10 mlのMRS液体培地(Difco製)に植菌し、37℃で一晩静置培養後、遠心分離により集菌した。得られた菌体を1mlの滅菌水を用い2度洗浄した後、0.1 mlの滅菌水、0.125mlの溶菌バッファー(80 mM EDTA含有200 mM Tris-HCl buffer (pH8.0))、0.25 mlのTE飽和フェノールを加え、1分間vortexした後、遠心により上清を回収した。得られた上清0.2 mlに対し0.2 mlのPCI溶液(ナカライテスク製)を加え、ハンドシェイクした後15,000 rpm、4℃、5分の遠心により上清を0.125 ml回収し、0.0125 mlの5 M NaCl、0.31 mlのエタノールを加え、室温で10分間静置した後、15,000 rpm、4℃、5分で遠心した。上清を捨て、ペレットを0.2 mlの70%エタノールで洗浄した後ペレットを0.1 mlの滅菌水を加え、65℃10分インキュベートしてゲノムDNAを取得した。
(2) PCRによるFA-HY遺伝子の取得
公表されているラクトバチルス・アシドフィルス株の全ゲノム遺伝子配列においてWO/2013/168310のCLA-HYの遺伝子配列と相同性のある(約32%)open-reading-frame (ORF)をターゲットにした。ORFの開始コドンの5'側の配列をもとに、センスプライマー(配列番号3)を、また、終止コドンの3'側の配列を基にアンチセンスプライマー(配列番号4)を設計した。これらのプライマーを用い、ラクトバチルス・アシドフィルスのゲノムDNAを鋳型とし、PCRを行った。PCRの結果増幅された遺伝子断片約1.8 kbpの塩基配列の解読を行った結果、本遺伝子断片には開始コドンATGから始まり終止コドンTAGで終わる1,773 bpの一つのopen-reading-frame (ORF)(配列番号1)が含まれていることが判明し、本遺伝子をFA-HY遺伝子とした。本FA-HY遺伝子は配列番号2に示す590残基のアミノ酸からなるタンパク質をコードしていた。
【実施例3】
【0054】
(FA-HY)の大腸菌での発現
大腸菌発現用ベクターpET21b (Novagen)とロゼッタ2(DE3)株からなる宿主ベクター系を用いた。ラクトバチルス・アシドフィルスのゲノムDNAを鋳型にPCRにて増幅したFA-HY遺伝子断片をpET21bに挿入し、発現ベクター(pFA-HY)を構築した。pFA-HYをロゼッタ2(DE3)株に形質転換し、形質転換株ロゼッタ/pFA-HY株を得た。得られたロゼッタ/pFA-HY株を0.5 mgアンピシリン、0.3 mgクロラムフェニコールを含む10 ml LB培地(1%バクトトリプトン(Difco)、0.5%酵母エキス、1%塩化ナトリウムを含む培地(pH 7.0))にて37℃、300 rpmで好気的に培養し、OD600 nmが0.5になった時点で1 M IPTGを1 μl添加し、さらに16℃にて18時間培養した。培養後3,000 rpmにて10分間遠心分離し、ロゼッタ/pFA-HY株の湿菌体を得た。
【実施例4】
【0055】
脂肪酸水和酵素を発現させた形質転換大腸菌を用いた不飽和脂肪酸から水酸化脂肪酸の生成
脂肪酸水和酵素誘導形質転換大腸菌を用い各種不飽和脂肪酸から水酸化脂肪酸の生成試験を行った。反応液は、脂肪酸水和酵素誘導形質転換大腸菌(湿菌体重量 0.3 g/ml)、NADH (5 mM)、FAD (0.1 mM)、不飽和脂肪酸 (100 mg)、BSA(10 mg)を含む100 mM リン酸カリウムバッファー(pH 6.5)で全量を1 mlとした。反応は、37℃にて、酸素吸着剤アネロパック(三菱化学)存在下で嫌気的に16〜60時間、120 rpmで振とうしながら行った。反応後、反応液(1 ml)に対して、2 mlのクロロホルム、2 mlのメタノール、1 mlの0.5%KClを加え撹拌し、クロロホルム層を回収した。回収したクロロホルム層を遠心エバポレーターにて濃縮し、反応産物及び未反応の基質を抽出した。抽出物の一部を用いてメチルエステル化した後にガスクロマトグラフィーにて反応産物を評価した。
【実施例5】
【0056】
実施例4より得られた抽出物(基質と生成物(水酸化脂肪酸)を含む混合物)から生成物の精製
実施例4より得られた抽出物(基質と生成物(水酸化脂肪酸)を含む混合物)を中圧クロマトグラフィーに供し、カラムから出てきた溶液をフラクションに分けて回収した。回収した各フラクションをLC/MS及びガスクロマトグラフィーにより分析し、生成物(水酸化脂肪酸)のみが含まれたフラクションを集めてロータリーエバポレーターにて濃縮した。得られた最終生成物(水酸化脂肪酸)の一部を用いてメチルエステル化した後に、ガスクロマトグラフィーにて生成物の純度を評価した。その結果、各基質からそれぞれ純度98%以上の生成物を得た。生成物は、NMRや二次元NMR、GC-MS分析などを用いて化学構造を決定した。その結果、シス-9-ヘキサデセン酸(パルミトレイン酸)からは純度98%以上で10-ヒドロキシ-ヘキサデカン酸を得ることができた。シス-11-オクタデセン酸(シス-バクセン酸)からは純度98%以上で12-ヒドロキシ-オクタデカン酸を得ることができた。シス-9,シス-12-オクタデカジエン酸(リノール酸)からは純度98%以上で13-ヒドロキシ-シス-9-オクタデセン酸を得ることができた。シス-6,シス-9,シス-12-オクタデカトリエン酸(γ-リノレン酸)からは純度98%以上で13-ヒドロキシ-シス-6,シス-9-オクタデカジエン酸を得ることができた。シス-9,シス-12,シス-15-オクタデカトリエン酸(α-リノレン酸)からは純度98%以上で13-ヒドロキシ-シス-9,シス-15-オクタデカジエン酸を得ることができた。シス-6,シス-9,シス-12,シス-15-オクタデカテトラエン酸(ステアリドン酸)からは純度98%以上で13-ヒドロキシ-シス-6,シス-9,シス-15-オクタデカトリエン酸を得ることができた。シス-11,シス-14-エイコサジエン酸からは純度98%以上で12-ヒドロキシ-シス-14-エイコセン酸と15-ヒドロキシ-シス-11-エイコセン酸を得ることができた。シス-11,シス-14,シス-17-エイコサトリエン酸からは純度98%以上で12-ヒドロキシ-シス-14,シス-17-エイコサジエン酸と15-ヒドロキシ-シス-11,シス-17-エイコサジエン酸を得ることができた。シス-8,シス-11,シス-14-エイコサトリエン酸(ジホモ-γ-リノレン酸)からは純度98%以上で15-ヒドロキシ-シス-8,シス-11-エイコサジエン酸と12-ヒドロキシ-シス-8,シス-14-エイコサジエン酸を得ることができた。シス-5,シス-8,シス-11-エイコサトリエン酸(ミード酸)からは純度98%以上で12-ヒドロキシ-シス-5,シス-8-エイコサジエン酸を得ることができた。シス-8,シス-11,シス-14,シス-17-エイコサテトラエン酸からは純度98%以上で12-ヒドロキシ-シス-8,シス-14,シス-17-エイコサトリエン酸と15-ヒドロキシ-シス-8,シス-11,シス-17-エイコサトリエン酸を得ることができた。シス-5,シス-8,シス-11,シス-14-エイコサテトラエン酸(アラキドン酸)からは純度98%以上で15-ヒドロキシ-シス-5,シス-8,シス-11-エイコサトリエン酸と12-ヒドロキシ-シス-5,シス-8,シス-14-エイコサトリエン酸を得ることができた。10-ヒドロキシ-シス-12-オクタデセン酸からは純度98%以上で10,13-ジヒドロキシ-オクタデカン酸を得ることができた。10-ヒドロキシ-シス-6,シス-12-オクタデカジエン酸からは純度98%以上で10,13-ジヒドロキシ-シス-6-オクタデセン酸を得ることができた。10-ヒドロキシ-シス-12,シス-15-オクタデカジエン酸からは純度98%以上で10,13-ジヒドロキシ-シス-15-オクタデセン酸を得ることができた。10-ヒドロキシ-シス-6,シス-12,シス-15-オクタデカトリエン酸からは純度98%以上で10,13-ジヒドロキシ-シス-6,シス-15-オクタデカジエン酸を得ることができた。10-オキソ-シス-12-オクタデセン酸からは純度98%以上で10-オキソ-13-ヒドロキシ-オクタデカン酸を得ることができた。10-オキソ-シス-6,シス-12-オクタデカジエン酸からは純度98%以上で10-オキソ-13-ヒドロキシ-シス-6-オクタデセン酸を得ることができた。10-オキソ-シス-12,シス-15-オクタデカジエン酸からは純度98%以上で10-オキソ-13-ヒドロキシ-シス-15-オクタデセン酸を得ることができた。10-オキソ-シス-6,シス-12,シス-15-オクタデカトリエン酸からは純度98%以上で10-オキソ-13-ヒドロキシ-シス-6,シス-15-オクタデカジエン酸を得ることができた。シス-5,シス-9,シス-12-オクタデカトリエン酸(ピノレン酸)からは純度98%以上で13-ヒドロキシ-シス-5,シス-9-オクタデカジエン酸を得ることができた。トランス-5,シス-9,シス-12-オクタデカトリエン酸(コルンビン酸)からは純度98%以上で13-ヒドロキシ-トランス-5,シス-9-オクタデカジエン酸を得ることができた。シス-5,シス-11,シス-14-エイコサトリエン酸(シアドン酸)からは純度98%以上で15-ヒドロキシ-シス-5,シス-11-エイコサジエン酸を得ることができた。シス-5,シス-11,シス-14,シス-17-エイコサテトラエン酸(ジュニペロン酸)からは純度98%以上で15-ヒドロキシ-シス-5,シス-11,シス-17-エイコサトリエン酸を得ることができた。シス-4,シス-7,シス-10,シス-13,シス-16,シス-19-ドコサヘキサエン酸(DHA)からは純度98%以上で14-ヒドロキシ-シス-4,シス-7,シス-10,シス-16,シス-19-ドコサペンタエン酸を得ることができた。シス-9-テトラデセン酸(ミリストレイン酸)からは純度98%以上で10-ヒドロキシ-テトラデカン酸を得ることができた。
【実施例6】
【0057】
大腸菌で発現させた脱水素酵素(CLA-DH)を用いた水酸化脂肪酸からオキソ脂肪酸の生成
特開2007-259712号公報に記載される方法や、WO/2013/168310に記載される方法により得られたL.プランタルムFERM BP-10549菌株由来の精製脱水素酵素(CLA-DH)を用い水酸化脂肪酸からオキソ脂肪酸の生成試験を行った。反応液は、精製脱水素酵素 (酵素量83μg)、0.5 mM NAD+、0.5mg水酸化脂肪酸を含む50 mM リン酸カリウムバッファー(pH 8.0)で全量を1 mlとした。反応は、37℃にて、酸素吸着剤アネロパック(三菱化学)存在下で嫌気的に24時間、120 rpmで振とうしながら行った。反応後、反応液よりブライダイヤー法にて脂質を抽出した。抽出物をメチルエステル化した後ガスクロマトグラフィーにてオキソ脂肪酸の生成を評価した結果、水酸化脂肪酸13-ヒドロキシ-シス-9-オクタデセン酸を基質とした場合はオキソ脂肪酸13-オキソ-シス-9-オクタデセン酸(0.01 mg)の生成を確認した。13-ヒドロキシ-シス-9,シス-15-オクタデカジエン酸を基質とした場合は13-オキソ-シス-9,シス-15-オクタデカジエン酸(0.02 mg)の生成を、13-ヒドロキシ-シス-6,シス-9-オクタデカジエン酸を基質とした場合は13-オキソ-シス-6,シス-9-オクタデカジエン酸(0.06 mg)の生成を確認した。
同様の手法を用いることにより、各水酸化脂肪酸を基質にすることにより、生成物であるオキソ脂肪酸を得ることができる。
【実施例7】
【0058】
無水クロム酸(CrO3)を用いた水酸化脂肪酸からオキソ脂肪酸の生成
無水クロム酸2.67 gに硫酸 2.3 ml、水 7.7 mlを加えた物を、アセトンを90 ml加えてクロム酸溶液を作製した。三角フラスコに、2 gの水酸化脂肪酸と、40 mlのアセトンを加え、氷上にてスターラーで撹拌しながら上記のクロム酸溶液を1滴ずつ加えた。溶液が青色から抹茶色になったらクロム酸溶液の滴下をやめ、イソプロピルアルコールを用いて反応を停止した。析出した沈殿をろ紙を用いて濾過し、分液ロートに入れさらにジエチルエーテルを150 ml及びミリQ水300 mlを加えてよく振り、ジエチルエーテル層を数回ミリQ水で洗浄した。洗浄後のジエチルエーテル層に硫酸ナトリウム(無水)を適量加えて撹拌し残存水分を除去した。添加した無水硫酸ナトリウムをろ紙を用いてろ過し、得られたジエチルエーテル層をロータリーエバポレーターにて濃縮し、反応産物(オキソ脂肪酸)及び未反応の基質を抽出した。
【実施例8】
【0059】
実施例6、7より得られた抽出物(基質と生成物(オキソ脂肪酸)を含む混合物)から生成物の精製
実施例6、7より得られた抽出物(基質と生成物(オキソ脂肪酸)を含む混合物) を中圧クロマトグラフィーに供し、カラムから出てきた溶液をフラクションに分けて回収した。回収した各フラクションをLC/MS及びガスクロマトグラフィーにより分析し、オキソ脂肪酸のみが含まれたフラクションを集めてロータリーエバポレーターにて濃縮した。得られた最終生成物の一部を用いてメチルエステル化した後に、ガスクロマトグラフィーにてオキソ脂肪酸の純度を評価した。その結果、各基質から純度98%以上のオキソ脂肪酸を得ることができる。生成物は、NMRや二次元NMR、GC-MS分析などを用いて化学構造を決定した。その結果、13-ヒドロキシ-シス-9-オクタデセン酸からは純度98%以上で13-オキソ-シス-9-オクタデセン酸を得ることができた。13-ヒドロキシ-シス-6,シス-9-オクタデカジエン酸からは純度98%以上で13-オキソ-シス-6,シス-9-オクタデカジエン酸を得ることができた。13-ヒドロキシ-シス-9,シス-15-オクタデカジエン酸からは純度98%以上で13-オキソ-シス-9,シス-15-オクタデカジエン酸を得ることができた。
同様の手法を用いることにより、10-ヒドロキシ-ヘキサデカン酸からは純度98%以上で10-オキソ-ヘキサデカン酸を得ることができる。12-ヒドロキシ-オクタデカン酸からは純度98%以上で12-オキソ-オクタデカン酸を得ることができる。13-ヒドロキシ-シス-6,シス-9,シス-15-オクタデカトリエン酸からは純度98%以上で13-オキソ-シス-6,シス-9,シス-15-オクタデカトリエン酸を得ることができる。15-ヒドロキシ-シス-11-エイコセン酸からは純度98%以上で15-オキソ-シス-11-エイコセン酸を得ることができる。12-ヒドロキシ-シス-14-エイコセン酸からは純度98%以上で12-オキソ-シス-14-エイコセン酸を得ることができる。12-ヒドロキシ-シス-14,シス-17-エイコサジエン酸からは純度98%以上で12-オキソ-シス-14,シス-17-エイコサジエン酸を得ることができる。15-ヒドロキシ-シス-11,シス-17-エイコサジエン酸からは純度98%以上で15-オキソ-シス-11,シス-17-エイコサジエン酸を得ることができる。15-ヒドロキシ-シス-8,シス-11-エイコサジエン酸からは純度98%以上で15-オキソ-シス-8,シス-11-エイコサジエン酸を得ることができる。12-ヒドロキシ-シス-8,シス-14-エイコサジエン酸からは純度98%以上で12-オキソ-シス-8,シス-14-エイコサジエン酸を得ることができる。12-ヒドロキシ-シス-5,シス-8-エイコサジエン酸からは純度98%以上で12-オキソ-シス-5,シス-8-エイコサジエン酸を得ることができる。12-ヒドロキシ-シス-8,シス-14,シス-17-エイコサトリエン酸からは純度98%以上で12-オキソ-シス-8,シス-14,シス-17-エイコサトリエン酸を得ることができる。15-ヒドロキシ-シス-8,シス-11,シス-17-エイコサトリエン酸からは純度98%以上で15-オキソ-シス-8,シス-11,シス-17-エイコサトリエン酸を得ることができる。15-ヒドロキシ-シス-5,シス-8,シス-11-エイコサトリエン酸からは純度98%以上で15-オキソ-シス-5,シス-8,シス-11-エイコサトリエン酸を得ることができる。12-ヒドロキシ-シス-5,シス-8,シス-14-エイコサトリエン酸からは純度98%以上で12-オキソ-シス-5,シス-8,シス-14-エイコサトリエン酸を得ることができる。10,13-ジヒドロキシ-オクタデカン酸あるいは10-オキソ-13-ヒドロキシ-オクタデカン酸からは純度98%以上で10,13-ジオキソ-オクタデカン酸を得ることができる。10,13-ジヒドロキシ-シス-6-オクタデセン酸あるいは10-オキソ-13-ヒドロキシ-シス-6-オクタデセン酸からは純度98%以上で10,13-ジオキソ-シス-6-オクタデセン酸を得ることができる。10,13-ジヒドロキシ-シス-15-オクタデセン酸あるいは10-オキソ-13-ヒドロキシ-シス-15-オクタデセン酸からは純度98%以上で10,13-ジオキソ-シス-15-オクタデセン酸を得ることができる。10,13-ジヒドロキシ-シス-6,シス-15-オクタデカジエン酸あるいは10-オキソ-13-ヒドロキシ-シス-6,シス-15-オクタデカジエン酸からは純度98%以上で10,13-ジオキソ-シス-6,シス-15-オクタデカジエン酸を得ることができる。13-ヒドロキシ-シス-5,シス-9-オクタデカジエン酸からは純度98%以上で13-オキソ-シス-5,シス-9-オクタデカジエン酸を得ることができる。13-ヒドロキシ-トランス-5,シス-9-オクタデカジエン酸からは純度98%以上で13-オキソ-トランス-5,シス-9-オクタデカジエン酸を得ることができる。15-ヒドロキシ-シス-5,シス-11-エイコサジエン酸からは純度98%以上で15-オキシ-シス-5,シス-11-エイコサジエン酸を得ることができる。15-ヒドロキシ-シス-5,シス-11,シス-17-エイコサトリエン酸からは純度98%以上で15-オキソ-シス-5,シス-11,シス-17-エイコサトリエン酸を得ることができる。14-ヒドロキシ-シス-4,シス-7,シス-10,シス-16,シス-19-ドコサペンタエン酸からは純度98%以上で14-オキソ-シス-4,シス-7,シス-10,シス-16,シス-19-ドコサペンタエン酸を得ることができる。10-ヒドロキシ-テトラデカン酸からは純度98%以上で10-オキソ-テトラデカン酸を得ることができる。
【実施例9】
【0060】
核内受容体PPARαおよびPPARγのアゴニストとしての活性の測定
本発明のPPARリガンド剤のPPARα,γの活性化能の測定は、Nobuyuki Takahashiら、FEBS Letters 514 (2002) p315-322、「Dual action of isoprenols from herbal medicines on both PPARgamma and PPARalpha in 3T3-L1 adipocytes and HepG2 hepatocytes.」のMaterial and methods Reporter plasmids and luciferase assaysの欄を参照して行った。詳細には、PPARα,γリガンド活性は、PPARリガンド結合領域とGAL4 DNA結合領域との融合タンパクに対する結合および標的遺伝子活性化をルシフェラーゼの発現で評価するレポーター・アッセイにより測定した。具体的には、CV-1細胞に、PPARα,γリガンド結合領域とGAL4 DNA結合領域の融合タンパク質をコードするDNAを含むプラスミドと、GAL4結合DNA配列にルシフェラーゼをつないだレポータープラスミドを導入し、この細胞に、以下に記載のリガンドを添加して、インキュベートした後にルシフェラーゼ活性の検出を行った。
サンプルはエタノールを用いて濃度調整を行った。陰性コントロールにはエタノール、陽性対照にはPPARα,γリガンド剤 GW7647(10nM)、troglitazone(5μM)をそれぞれ用いた。
水酸化脂肪酸、オキソ脂肪酸の代表として、(1)13-ヒドロキシ-シス-9-オクタデセン酸(「13-OH LA」と示す)、(2)13-オキソ-シス-9-オクタデセン酸(「13-OXO LA」と示す)、(3)10,13-ジヒドロキシ-オクタデカン酸(「10,13-OH LA」と示す)、(4)13-ヒドロキシ-シス-9,シス-15-オクタデカジエン酸(「13-OH ALA」と示す)、(5)13-オキソ-シス-9,シス-15-オクタデカジエン酸(「13-OXO ALA」と示す)、(6)10,13-ジヒドロキシ-シス-15-オクタデセン酸(「10,13-OH ALA」と示す)(7)13-ヒドロキシ-シス-6,シス-9-オクタデカジエン酸(「13-OH GLA」と示す)、(8)13-オキソ-シス-6,シス-9-オクタデカジエン酸(「13-OXO GLA」と示す)、(9)10,13-ジヒドロキシ-シス-6-オクタデセン酸(「10,13-OH GLA」と示す)、(10)15-ヒドロキシ-シス-5,シス-8,シス-11-エイコサトリエン酸(「15-OH AA」と示す)のPPARα、γリガンド活性のデータを図1及び図2に示す。このうち、(4)、(6)、(8)及び(9)の希少脂肪酸は新規脂肪酸である。
【0061】
本発明を好ましい態様を強調して説明してきたが、好ましい態様が変更され得ることは当業者にとって自明である。
ここで述べられた特許及び特許出願明細書を含む全ての刊行物に記載された内容は、ここに引用されたことによって、その全てが明示されたと同程度に本明細書に組み込まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の方法によれば、様々な水酸化脂肪酸、オキソ脂肪酸を製造することができるため、当該水酸化脂肪酸、オキソ脂肪酸の医薬・食品等様々な分野への適用が可能となる。また、本発明の方法によれば、新規の希少脂肪酸の製造が可能となる点でも極めて有用である。
本出願は、日本で出願された特願2014−011855(出願日:平成26年1月24日)を基礎としており、その内容はすべて本明細書に包含されるものとする。
図1
図2
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]