特許第6573156号(P6573156)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ カシオ計算機株式会社の特許一覧

特許6573156データ解析装置及びデータ解析方法、データ解析プログラム
<>
  • 特許6573156-データ解析装置及びデータ解析方法、データ解析プログラム 図000002
  • 特許6573156-データ解析装置及びデータ解析方法、データ解析プログラム 図000003
  • 特許6573156-データ解析装置及びデータ解析方法、データ解析プログラム 図000004
  • 特許6573156-データ解析装置及びデータ解析方法、データ解析プログラム 図000005
  • 特許6573156-データ解析装置及びデータ解析方法、データ解析プログラム 図000006
  • 特許6573156-データ解析装置及びデータ解析方法、データ解析プログラム 図000007
  • 特許6573156-データ解析装置及びデータ解析方法、データ解析プログラム 図000008
  • 特許6573156-データ解析装置及びデータ解析方法、データ解析プログラム 図000009
  • 特許6573156-データ解析装置及びデータ解析方法、データ解析プログラム 図000010
  • 特許6573156-データ解析装置及びデータ解析方法、データ解析プログラム 図000011
  • 特許6573156-データ解析装置及びデータ解析方法、データ解析プログラム 図000012
  • 特許6573156-データ解析装置及びデータ解析方法、データ解析プログラム 図000013
  • 特許6573156-データ解析装置及びデータ解析方法、データ解析プログラム 図000014
  • 特許6573156-データ解析装置及びデータ解析方法、データ解析プログラム 図000015
  • 特許6573156-データ解析装置及びデータ解析方法、データ解析プログラム 図000016
  • 特許6573156-データ解析装置及びデータ解析方法、データ解析プログラム 図000017
  • 特許6573156-データ解析装置及びデータ解析方法、データ解析プログラム 図000018
  • 特許6573156-データ解析装置及びデータ解析方法、データ解析プログラム 図000019
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6573156
(24)【登録日】2019年8月23日
(45)【発行日】2019年9月11日
(54)【発明の名称】データ解析装置及びデータ解析方法、データ解析プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01S 19/45 20100101AFI20190902BHJP
   A63B 69/00 20060101ALI20190902BHJP
   G01C 21/28 20060101ALI20190902BHJP
   G01S 19/19 20100101ALI20190902BHJP
【FI】
   G01S19/45
   A63B69/00 C
   A63B69/00 A
   G01C21/28
   G01S19/19
【請求項の数】7
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2015-122845(P2015-122845)
(22)【出願日】2015年6月18日
(65)【公開番号】特開2017-9341(P2017-9341A)
(43)【公開日】2017年1月12日
【審査請求日】2018年5月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001443
【氏名又は名称】カシオ計算機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096699
【弁理士】
【氏名又は名称】鹿嶋 英實
(72)【発明者】
【氏名】長坂 知明
【審査官】 蔵田 真彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−098137(JP,A)
【文献】 特表2008−524589(JP,A)
【文献】 特開2011−220844(JP,A)
【文献】 特開2011−017599(JP,A)
【文献】 特開平08−233584(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0288822(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 5/00−5/14、19/00−19/55
G01C 21/00−21/36、23/00−25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
利用者の身体に装着されて、移動動作中の前記利用者の地理的な位置情報を含む測位データを間欠的に取得して出力するGPS計測部と、
記移動動作中の前記利用者の身体の動作状態に関する動作データを間欠的に測定して出力するモーションセンサ部と、
所定時刻毎に前記GPS計測部により得た緯度・経度をメートル空間である平面直角座標に変換して第1の移動軌跡を作成する第1の移動軌跡作成手段と、
所定時刻毎に前記モーションセンサ部による相対速度と相対角度から各時刻の位置を算出し、各時刻の位置を直線で結んで第2の移動軌跡を作成する第2の移動軌跡作成手段と、
前記平面直角座標上の前記第1の移動軌跡の重心位置に、前記第2の移動軌跡の重心を合わせる重心合わせ手段と、
前記重心合わせ手段により前記第1の移動軌跡の重心に重心が合わせられた前記第2の移動軌跡を、前記重心位置中心に所定角度ずつ回転処理を施し、各角度において、同一時刻における、前記第1の移動軌跡上の位置と前記第2の移動軌跡上の位置間の直線距離を求め、各時刻において求めた各距離の総和を計算する第1の総和計算手段と、
前記第1の総和計算手段により算出された前記各角度における総和のうち、最小の値を取った角度の前記第2の移動軌跡に対して、所定倍率ずつ、当該第2の移動軌跡との相似性を保ったまま、拡大縮小処理を施し、各大きさにおいて、同一時刻における、前記第1の移動軌跡上の位置と前記第2の移動軌跡上の位置間の直線距離を求め、各時刻において求めた各距離の総和を計算する第2の総和計算手段と、
前記第2の総和計算手段により算出された前記各大きさにおける総和のうち、最小の値を取った大きさの前記第2の移動軌跡により、前記各時刻間の前記利用者の移動距離を算出する移動情報算出手段と、
を有することを特徴とするデータ解析装置。
【請求項2】
記移動情報算出手段は、前記第2の総和計算手段により算出された前記各大きさにおける総和のうち、最小の値を取った大きさの前記第2の移動軌跡上の、互いに離間した2地点間の距離と前記2地点間の移動に要した時間とから、前記各2地点間の移動速度を算出することを特徴とする請求項1に記載のデータ解析装置。
【請求項3】
前記算出された前記移動速度を、前記利用者の動作状態を示す運動指標として所定の表示形態で提供する運動データ提供部を、さらに備えることを特徴とする請求項に記載のデータ解析装置。
【請求項4】
利用者の身体に装着されて、移動動作中の前記利用者の地理的な位置情報を含む測位データを間欠的に取得して出力するGPS計測部と、前記移動動作中の前記利用者の身体の動作状態に関する動作データを間欠的に測定して出力するモーションセンサ部と、を有するデータ解析装置のデータ解析方法であって、
所定時刻毎に前記GPS計測部により得た緯度・経度をメートル空間である平面直角座標に変換して第1の移動軌跡を作成する第1の移動軌跡作成ステップと、
所定時刻毎に前記モーションセンサ部による相対速度と相対角度から各時刻の位置を算出し、各時刻の位置を直線で結んで第2の移動軌跡を作成する第2の移動軌跡作成ステップと、
前記平面直角座標上の前記第1の移動軌跡の重心位置に、前記第2の移動軌跡の重心を合わせる重心合わせステップと、
前記重心合わせステップにより前記第1の移動軌跡の重心に重心が合わせられた前記第2の移動軌跡を、前記重心位置中心に所定角度ずつ回転処理を施し、各角度において、同一時刻における、前記第1の移動軌跡上の位置と前記第2の移動軌跡上の位置間の直線距離を求め、各時刻において求めた各距離の総和を計算する第1の総和計算ステップと、
前記第1の総和計算ステップにより算出された前記各角度における総和のうち、最小の値を取った角度の前記第2の移動軌跡に対して、所定倍率ずつ、当該第2の移動軌跡との相似性を保ったまま、拡大縮小処理を施し、各大きさにおいて、同一時刻における、前記第1の移動軌跡上の位置と前記第2の移動軌跡上の位置間の直線距離を求め、各時刻において求めた各距離の総和を計算する第2の総和計算ステップと、
前記第2の総和計算ステップにより算出された前記各大きさにおける総和のうち、最小の値を取った大きさの前記第2の移動軌跡により、前記各時刻間の前記利用者の移動距離を算出する移動情報算出ステップと
を含むことを特徴とするデータ解析方法。
【請求項5】
記移動情報算出ステップは、前記第2の総和計算ステップにより算出された前記各大きさにおける総和のうち、最小の値を取った大きさの前記第2の移動軌跡上の、互いに離間した2地点間の距離と前記2地点間の移動に要した時間とから、前記各2地点間の前記移動速度を算出する動作を含むことを特徴とする請求項に記載のデータ解析方法。
【請求項6】
利用者の身体に装着されて、移動動作中の前記利用者の地理的な位置情報を含む測位データを間欠的に取得して出力するGPS計測部と、前記移動動作中の前記利用者の身体の動作状態に関する動作データを間欠的に測定して出力するモーションセンサ部と、を有するデータ解析装置のコンピュータに、
所定時刻毎に前記GPS計測部により得た緯度・経度をメートル空間である平面直角座標に変換して第1の移動軌跡を作成する第1の移動軌跡作成手段、
所定時刻毎に前記モーションセンサ部による相対速度と相対角度から各時刻の位置を算出し、各時刻の位置を直線で結んで第2の移動軌跡を作成する第2の移動軌跡作成手段、
前記平面直角座標上の前記第1の移動軌跡の重心位置に、前記第2の移動軌跡の重心を合わせる重心合わせ手段、
前記重心合わせ手段により前記第1の移動軌跡の重心に重心が合わせられた前記第2の移動軌跡を、前記重心位置中心に所定角度ずつ回転処理を施し、各角度において、同一時刻における、前記第1の移動軌跡上の位置と前記第2の移動軌跡上の位置間の直線距離を求め、各時刻において求めた各距離の総和を計算する第1の総和計算手段、
前記第1の総和計算手段により算出された前記各角度における総和のうち、最小の値を取った角度の前記第2の移動軌跡に対して、所定倍率ずつ、当該第2の移動軌跡との相似性を保ったまま、拡大縮小処理を施し、各大きさにおいて、同一時刻における、前記第1の移動軌跡上の位置と前記第2の移動軌跡上の位置間の直線距離を求め、各時刻において求めた各距離の総和を計算する第2の総和計算手段、
前記第2の総和計算手段により算出された前記各大きさにおける総和のうち、最小の値を取った大きさの前記第2の移動軌跡により、前記各時刻間の前記利用者の移動距離を算する移動情報算出手段
として機能させることを特徴とするデータ解析プログラム。
【請求項7】
記移動情報算出手段は、前記第2の総和計算手段により算出された前記各大きさにおける総和のうち、最小の値を取った大きさの前記第2の移動軌跡上の、互いに離間した2地点間の距離と前記2地点間の移動に要した時間とから、前記各2地点間の前記移動速度を算出させる動作を含むことを特徴とする請求項に記載のデータ解析プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体の運動時の動作状態(運動状態)を把握するためのデータ解析装置及びデータ解析方法、データ解析プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、健康志向の高まりなどを背景に、日常的にランニングやウォーキング、サイクリング等の運動を行い、健康状態を維持、増進する人々が増えている。また、日常の運動を通して、マラソン大会等の競技大会への参加を目指す人も増加している。このような人々は、自らの健康状態や運動状態を把握するため、種々の生体情報や運動情報を数値やデータで測定したり記録したりすることに対して、意識や関心が非常に高い。また、競技大会等への参加を目指す人々は、当該競技での好成績を目標としているため、効率的かつ効果的なトレーニング方法に対する意識や関心も非常に高い。
【0003】
自らの健康状態や運動状態を的確に把握するためには、運動中に測定された数値やデータに基づいて指標となる特定の情報を生成し、可視的に提示することが有効である。例えばランニングの状況やフォームを定量的に評価する場合には、走行速度に関する情報を重要かつ基礎的な指標として用いることができる。ここで、ランニング中やマラソン中の走行速度を測定する方法としては、例えばGPS(全地球測位システム;Global Positioning System)による測位データを利用して、2点間の距離とその所要時間から速度を算出する手法が知られている。例えば特許文献1には、人体に装着されたGPS受信装置により受信したGPS信号により取得されるユーザのタイム・スタンプ付き位置点に関するデータに基づいて、ユーザの移動距離や移動速度を算出し、地図上に表示した経路に関連付けて提供することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2008−524589号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したようなGPSによる測位データを用いた人体の移動距離や移動速度の算出方法においては、測位データの正確性や精度が確保されている必要がある。しかしながら、GPSによる測位は、周囲の環境による影響を大きく受けるため、例えばビルの谷間や屋内などのようにGPS信号の受信が困難な場所では正確な測位ができず、測位データの誤差が大きくなる場合がある。また、現在、民生用に開放されているGPSの技術仕様においては、理想的な環境で測位を行った場合でも、数m〜10m程度の誤差を含んでいる場合がある。特に、ランニングやマラソン等の運動においては、車両などに比較して移動速度が遅いにもかかわらず、走行中の運動状態等を詳細に評価するために、速度変化を細かく把握したいといった要望がある。そのため、単にGPSによる測位データのみを利用する算出方法では、人体の移動距離やそれによる移動速度を精度よく算出することができない場合があり、運動状態を正確に把握して、その判断や改善に役立てることが十分にできないことがある。
【0006】
そこで、本発明においては上記の問題点に鑑みて、運動中の人体の移動距離を精度よく算出して、運動状態の正確な把握やその判断、改善に役立てることができるデータ解析装置及びデータ解析方法、データ解析プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るデータ解析装置は、
利用者の身体に装着されて、移動動作中の前記利用者の地理的な位置情報を含む測位データを間欠的に取得して出力するGPS計測部と、
記移動動作中の前記利用者の身体の動作状態に関する動作データを間欠的に測定して出力するモーションセンサ部と、
所定時刻毎に前記GPS計測部により得た緯度・経度をメートル空間である平面直角座標に変換して第1の移動軌跡を作成する第1の移動軌跡作成手段と、
所定時刻毎に前記モーションセンサ部による相対速度と相対角度から各時刻の位置を算出し、各時刻の位置を直線で結んで第2の移動軌跡を作成する第2の移動軌跡作成手段と、
前記平面直角座標上の前記第1の移動軌跡の重心位置に、前記第2の移動軌跡の重心を合わせる重心合わせ手段と、
前記重心合わせ手段により前記第1の移動軌跡の重心に重心が合わせられた前記第2の移動軌跡を、前記重心位置中心に所定角度ずつ回転処理を施し、各角度において、同一時刻における、前記第1の移動軌跡上の位置と前記第2の移動軌跡上の位置間の直線距離を求め、各時刻において求めた各距離の総和を計算する第1の総和計算手段と、
前記第1の総和計算手段により算出された前記各角度における総和のうち、最小の値を取った角度の前記第2の移動軌跡に対して、所定倍率ずつ、当該第2の移動軌跡との相似性を保ったまま、拡大縮小処理を施し、各大きさにおいて、同一時刻における、前記第1の移動軌跡上の位置と前記第2の移動軌跡上の位置間の直線距離を求め、各時刻において求めた各距離の総和を計算する第2の総和計算手段と、
前記第2の総和計算手段により算出された前記各大きさにおける総和のうち、最小の値を取った大きさの前記第2の移動軌跡により、前記各時刻間の前記利用者の移動距離を算出する移動情報算出手段と、
を有することを特徴とする。
【0008】
本発明に係るデータ解析方法は、
利用者の身体に装着されて、移動動作中の前記利用者の地理的な位置情報を含む測位データを間欠的に取得して出力するGPS計測部と、前記移動動作中の前記利用者の身体の動作状態に関する動作データを間欠的に測定して出力するモーションセンサ部と、を有するデータ解析装置のデータ解析方法であって、
所定時刻毎に前記GPS計測部により得た緯度・経度をメートル空間である平面直角座標に変換して第1の移動軌跡を作成する第1の移動軌跡作成ステップと、
所定時刻毎に前記モーションセンサ部による相対速度と相対角度から各時刻の位置を算出し、各時刻の位置を直線で結んで第2の移動軌跡を作成する第2の移動軌跡作成ステップと、
前記平面直角座標上の前記第1の移動軌跡の重心位置に、前記第2の移動軌跡の重心を合わせる重心合わせステップと、
前記重心合わせステップにより前記第1の移動軌跡の重心に重心が合わせられた前記第2の移動軌跡を、前記重心位置中心に所定角度ずつ回転処理を施し、各角度において、同一時刻における、前記第1の移動軌跡上の位置と前記第2の移動軌跡上の位置間の直線距離を求め、各時刻において求めた各距離の総和を計算する第1の総和計算ステップと、
前記第1の総和計算ステップにより算出された前記各角度における総和のうち、最小の値を取った角度の前記第2の移動軌跡に対して、所定倍率ずつ、当該第2の移動軌跡との相似性を保ったまま、拡大縮小処理を施し、各大きさにおいて、同一時刻における、前記第1の移動軌跡上の位置と前記第2の移動軌跡上の位置間の直線距離を求め、各時刻において求めた各距離の総和を計算する第2の総和計算ステップと、
前記第2の総和計算ステップにより算出された前記各大きさにおける総和のうち、最小の値を取った大きさの前記第2の移動軌跡により、前記各時刻間の前記利用者の移動距離を算出する移動情報算出ステップと
を含むことを特徴とする。
【0009】
本発明に係るデータ解析プログラムは、
利用者の身体に装着されて、移動動作中の前記利用者の地理的な位置情報を含む測位データを間欠的に取得して出力するGPS計測部と、前記移動動作中の前記利用者の身体の動作状態に関する動作データを間欠的に測定して出力するモーションセンサ部と、を有するデータ解析装置のコンピュータに、
所定時刻毎に前記GPS計測部により得た緯度・経度をメートル空間である平面直角座標に変換して第1の移動軌跡を作成する第1の移動軌跡作成手段、
所定時刻毎に前記モーションセンサ部による相対速度と相対角度から各時刻の位置を算出し、各時刻の位置を直線で結んで第2の移動軌跡を作成する第2の移動軌跡作成手段、
前記平面直角座標上の前記第1の移動軌跡の重心位置に、前記第2の移動軌跡の重心を合わせる重心合わせ手段、
前記重心合わせ手段により前記第1の移動軌跡の重心に重心が合わせられた前記第2の移動軌跡を、前記重心位置中心に所定角度ずつ回転処理を施し、各角度において、同一時刻における、前記第1の移動軌跡上の位置と前記第2の移動軌跡上の位置間の直線距離を求め、各時刻において求めた各距離の総和を計算する第1の総和計算手段、
前記第1の総和計算手段により算出された前記各角度における総和のうち、最小の値を取った角度の前記第2の移動軌跡に対して、所定倍率ずつ、当該第2の移動軌跡との相似性を保ったまま、拡大縮小処理を施し、各大きさにおいて、同一時刻における、前記第1の移動軌跡上の位置と前記第2の移動軌跡上の位置間の直線距離を求め、各時刻において求めた各距離の総和を計算する第2の総和計算手段、
前記第2の総和計算手段により算出された前記各大きさにおける総和のうち、最小の値を取った大きさの前記第2の移動軌跡により、前記各時刻間の前記利用者の移動距離を算する移動情報算出手段
として機能させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、運動中の人体の移動距離を精度よく算出して、運動状態の正確な把握やその判断、改善に役立てることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係るデータ解析装置を適用した運動支援装置の一実施形態を示す概略構成図である。
図2】一実施形態に係る運動支援装置に適用されるセンサ機器、リスト機器及びデータ解析装置の各構成を示す概略ブロック図である。
図3】一実施形態に係る運動支援装置の制御方法(データ解析方法)におけるセンサデータの転送手順の一例を示す表示例である。
図4】一実施形態に係る運動支援装置の制御方法の一例を示すフローチャートである。
図5】一実施形態に係るデータ解析方法における一周期の定義を説明するための概略図である。
図6】一実施形態に係るデータ解析方法における積分値算出処理を説明するための概略図である。
図7】一実施形態に係るデータ解析方法におけるセンサデータの補間処理を説明するための概略図である。
図8】一実施形態に係るデータ解析方法における擬似速度の算出方法を説明するための概略図である。
図9】一実施形態に係るデータ解析方法におけるGPS軌跡とセンサ軌跡の例を示す模式図である。
図10】一実施形態に係るデータ解析方法におけるGPS軌跡とセンサ軌跡の重心位置を合わせた状態を示す模式図である。
図11】一実施形態に係るデータ解析方法におけるセンサ軌跡の回転処理の一例を示すフローチャートである。
図12】一実施形態に係るデータ解析方法におけるセンサ軌跡の回転処理の例を示す模式図である。
図13】一実施形態に係るデータ解析方法におけるセンサ軌跡の拡大縮小処理の一例を示すフローチャートである。
図14】一実施形態に係るデータ解析方法におけるセンサ軌跡の拡大縮小処理の例を示す模式図である。
図15】一実施形態に係るデータ解析方法における推定されたセンサ軌跡の例を示す模式図である。
図16】一実施形態に係るデータ解析方法における作用効果を説明するための概略図である。
図17】一実施形態に係る運動支援装置の制御方法の他の例(変形例1)の要部を示すフローチャートである。
図18】一実施形態に係る運動支援装置の他の例(変形例2)を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明に係るデータ解析装置及びデータ解析方法、データ解析プログラムについて、実施形態を示して詳しく説明する。なお、以下の実施形態においては、本発明に係るデータ解析装置を運動支援装置に適用し、ユーザ(利用者)が所定のランニングコースやマラソンコース等を走った際に収集される各種のデータ(センサデータ)に基づいて、走行中の速度を推定してユーザに提供する場合について説明する。
【0013】
<運動支援装置>
図1は、本発明に係るデータ解析装置を適用した運動支援装置の一実施形態を示す概略構成図である。図2は、本実施形態に係る運動支援装置に適用されるセンサ機器、リスト機器及びデータ解析装置の各構成を示す概略ブロック図である。図2(a)はセンサ機器の構成を示す概略ブロック図であり、図2(b)はリスト機器の構成を示す概略ブロック図であり、図2(c)はデータ解析装置の構成を示す概略ブロック図である。
【0014】
本発明の実施形態に係る運動支援装置は、例えば図1に示すように、ユーザUSの背中側の腰部に装着されるセンサ機器(センサ部)100と、ユーザUSの手首等に装着されるコントロール機器(以下、「リスト機器」と記す)200と、センサ機器100により出力されたセンサデータを解析して、走行中の運動状態に関わる指標を所定の表示形態でユーザUSに提供するデータ処理部300と、を有している。
【0015】
センサ機器100は、ランニングやマラソン等の移動を伴う運動(走行)中の人体の動作状態に関する各種の動作データを測定するモーションセンサを有し、モーションセンサにより動作データを所定の経過時間毎に間欠的に測定して出力する機能を有している。ここで、図1においては、センサ機器100としてユーザUSの腰部に装着する構成を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。センサ機器100は、人体の中心を通る体軸上又はその近傍に装着するものであれば他の位置、例えば胸部や頸部、腹部等に装着されるものであってもよい。また、センサ機器100の人体への装着方法についても、特に限定するものではなく、例えばトレーニングウェアにクリップで挟み込む形態やテープ部材等で貼り付ける形態、ベルト等により体に巻き付ける形態等、種々の装着方法を適宜適用するものであってもよい。
【0016】
センサ機器100は、具体的には、例えば図2(a)に示すように、加速度計測部110と、角速度計測部120と、GPS計測部130と、制御部140と、記憶部150と、無線通信用インターフェース部(以下、「無線通信I/F」と記す)160と、有線通信用インターフェース部(以下、「有線通信I/F」と記す)170と、を備えている。
【0017】
加速度計測部(加速度センサ)110は、ユーザUSの走行中の動作速度の変化の割合(加速度)を計測する。加速度計測部110は、3軸加速度センサを有し、互いに直交する3軸方向の各々に沿った加速度成分(加速度信号)を検出して加速度データとして出力する。また、角速度計測部(角速度センサ)120は、ユーザUSの走行中の動作方向の変化(角速度)を計測する。角速度計測部120は、3軸角速度センサを有し、上記加速度データを規定する、互いに直交する3軸について、各軸に沿った回転運動の回転方向に生じる角速度成分(角速度信号)を検出して角速度データとして出力する。GPS計測部(測位センサ)130は、複数のGPS衛星からの電波を、GPSアンテナ(図示を省略)を介して受信することにより、緯度、経度情報に基づく地理的な位置情報を含む測位データを所定の経過時間毎に間欠的に取得して出力する。なお、センサ機器100は、上記の加速度計測部110、角速度計測部120、GPS計測部130に加え、地磁気センサ等の方位を計測する手段を備えているものであってもよい。ここで、以下においては、動作データと測位データとを含めてセンサデータと記す。
【0018】
制御部140は、計時機能を備えたCPU(中央演算処理装置)やMPU(マイクロプロセッサ)等の演算処理装置である。制御部140は、所定の制御プログラムを実行することにより、加速度計測部110や角速度計測部120、GPS計測部130におけるセンシング動作や、後述する記憶部150へのデータの保存、読出し動作、無線通信I/F160や有線通信I/F170における外部機器との通信動作等の、各種の動作を制御する。
【0019】
記憶部150は、加速度計測部110、角速度計測部120及びGPS計測部130により出力されたセンサデータ(加速度データ、角速度データ、測位データ)を、時間データに関連付けて所定の記憶領域に保存する。なお、記憶部150は、その一部又は全部が、例えばメモリカード等のリムーバブル記憶媒体としての形態を有し、センサ機器100に対して着脱可能に形成されているものであってもよい。
【0020】
無線通信I/F160は、少なくとも、後述するリスト機器200と通信を行うことにより、加速度計測部110や角速度計測部120、GPS計測部130より出力されるセンサデータのログ開始又はログ終了を指示する命令信号を受信する。これにより、当該ログ動作の期間中に取得されたセンサデータが、記憶部150の所定の記憶領域に時系列的に保存される。ここで、無線通信I/F160において、センサ機器100とリスト機器200との間で、各種の信号を送受信する手法としては、例えばブルートゥース(Bluetooth(登録商標))やワイファイ(WiFi;wireless fidelity(登録商標))等の各種の無線通信方式を適用することができる。
【0021】
有線通信I/F170は、少なくとも、記憶部150に保存されたセンサデータを、後述するデータ処理部300に転送する機能を有している。これにより、データ処理部300において、ユーザUSの移動軌跡や移動速度を推定する指標推定処理を含む所定のデータ解析処理が実行される。ここで、有線通信I/F170において、センサ機器100からデータ処理部300にセンサデータを転送する手法としては、例えばUSB(Universal Serial Bus)規格の通信ケーブル(USBケーブル)等を介した各種の有線通信方式を適用することができる。なお、センサ機器100からデータ処理部300にセンサデータを転送する手法としては、上述した無線通信I/F160を利用するものであってもよい。この場合、上述したブルートゥース通信やワイファイ通信の他、近距離無線通信(NFC;Near Field Communication)技術を用いた非接触型の通信方式を適用するものであってもよい。また、センサ機器100からデータ処理部300にセンサデータを転送するためのさらに他の手法としては、メモリカード等のリムーバブル記憶媒体を、センサ機器100とデータ処理部300との間で差し替える方式を適用するものであってもよい。
【0022】
リスト機器200は、人体のユーザUSが視認しやすい位置にある部位(例えば手首)に装着され、センサ機器100に対して、所定の無線通信方式を用いて接続される。リスト機器200は、センサ機器100におけるセンサデータのログ開始又はログ終了を制御する機能や、各種の情報をユーザUSに視認可能な形態で表示する機能を有している。ここで、図1においては、コントロール機器としてユーザUSの手首に装着する腕時計型(又はリストバンド型)の形態を有する場合を示したが、本発明はこれに限定されるものでない。コントロール機器は、例えばポケットに収納されたり、上腕部に装着されたりしたスマートフォン等の携帯情報端末や専用端末であってもよいし、センサ機器100とは別個の機器を用いることなく、センサ機器100本体にログ開始又はログ終了を指示する操作スイッチを設けたものであってもよい。
【0023】
リスト機器200は、具体的には、例えば図2(b)に示すように、入力操作部210と、表示部220と、制御部240と、記憶部250と、無線通信I/F260と、を備えている。
【0024】
入力操作部210は、リスト機器200の筐体に設けられたボタンスイッチや後述する表示部220の前面に設けられたタッチパネル等の入力手段である。入力操作部210は、例えば、センサ機器100におけるセンサデータのログ開始又はログ終了を指示する際や、表示部220に所望の情報等を表示させたり各種の設定を行ったりする際の入力操作に用いられる。表示部220は、少なくとも入力操作部210を用いて入力操作を行う際に関連する情報を表示する。なお、表示部220は、センサ機器100において取得されたセンサデータや、センサ機器100の動作状態、時刻情報等を表示(又は報知)する機能を有しているものであってもよい。
【0025】
制御部240は、所定の制御プログラムを実行することにより、表示部220における表示動作や、記憶部250へのデータの保存、読出し動作、無線通信I/F260における通信動作等の、各種の動作を制御する。記憶部250は、少なくとも表示部220に表示するための情報や、無線通信I/F260を介してセンサ機器100と送受信を行う各種の情報やデータを所定の記憶領域に保存する。
【0026】
無線通信I/F260は、上述した所定の無線通信方式を適用してセンサ機器100と通信を行うことにより、入力操作部210を操作して設定されるセンサ機器100におけるセンサデータのログ開始又はログ終了を指示する命令信号等をセンサ機器100に送信する。
【0027】
データ処理部300は、ユーザUSの走行中にセンサ機器100により測定され蓄積された各種のセンサデータが運動終了後に転送され、当該センサデータに基づいて、人体の運動状態に関わる指標(運動指標)として、移動軌跡及び移動速度(走行速度)を推定し、ユーザUSに提供する機能を有している。ここで、データ処理部300は、表示手段を備え、後述するデータ解析プログラムを実行できる機能を有するものであれば、ノート型やデスクトップ型のパーソナルコンピュータであってもよいし、スマートフォン(高機能携帯電話機)やタブレット端末のような携帯情報端末であってもよい。また、データ処理部300は、後述する変形例に示すように、データ解析プログラムをネットワーク上のクラウドシステムを利用して実行する場合には、当該クラウドシステムに接続された通信端末であってもよい。
【0028】
データ処理部300は、具体的には、例えば図2(c)に示すように、入力操作部310と、表示部320と、制御部340と、記憶部350と、有線通信I/F370と、を備えている。
【0029】
入力操作部310は、データ処理部300に付設されるキーボードやマウス、タッチパッド、タッチパネル等の入力手段である。ここで、入力操作部310は、これらの各種の入力手段のうち、いずれか1つを備えているものであってもよいし、複数の入力手段を備えているものであってもよい。入力操作部310は、ユーザUSが表示部320に表示される任意の項目やアイコンを選択したり、画面表示中の任意の位置を指示したりすることにより、当該項目やアイコン、位置に対応する機能が実行される。特に、本実施形態においては、入力操作部310は、センサ機器100から転送されたセンサデータを記憶部350の所定の記憶領域に保存する際や、記憶部350に保存されたセンサデータから解析処理を行うトレーニングや試技を選択する際の入力操作等に用いられる。
【0030】
表示部(運動データ提供部)320は、例えばカラー表示が可能な液晶方式や、有機EL素子等の発光素子方式の表示パネルを有し、少なくとも入力操作部310を用いた入力操作の際に関連する情報や、制御部340により推定される移動軌跡や移動速度等の指標を、数値やグラフ、表、地図等の所定の形態で表示する。
【0031】
制御部(移動軌跡算出部、移動軌跡変形処理部、移動距離算出部)340は、CPUやMPU等の演算処理装置であって、所定の制御プログラムを実行することにより、表示部320における表示動作や、後述する記憶部350へのデータの保存、読出し動作、有線通信I/F370における通信動作等の、各種の動作を制御する。また、制御部340は、所定のアルゴリズムプログラムを実行することにより、ユーザUSが所望するトレーニングや試技に対応するセンサデータに基づいて、移動軌跡やそれによる移動速度等の指標を推定して、数値やグラフ、表、地図等の形態で表示する処理を行う。ここで、制御部340において実行される制御プログラムやアルゴリズムプログラムは、制御部340の内部に予め組み込まれているものであってもよいし、記憶部350に保存されているものであってもよい。なお、本実施形態に係るデータ解析方法については、詳しく後述する。
【0032】
記憶部350は、有線通信I/F370を介してセンサ機器100から転送されたセンサデータを所定の記憶領域に保存する。ここで、記憶部350に蓄積されるセンサデータは、例えば走行方法(トレーニングメニュー等)やコース条件(コースの種類や走行距離、コーナー角度等)に関連付けて時系列的に保存される。また、記憶部350に蓄積されるセンサデータは、特定の一ユーザのものであってもよいし、複数のユーザのものであってもよい。また、記憶部350は、制御部340において、所定のアルゴリズムプログラムを実行して推定される移動軌跡や移動速度等の指標や、それらを表示部320に所定の形態で表示する際に使用するデータ等を保存する。なお、記憶部350は、その一部又は全部が、例えばメモリカード等のリムーバブル記憶媒体としての形態を有し、データ処理部300に対して着脱可能に構成されているものであってもよい。
【0033】
有線通信I/F370は、上述した所定の有線通信方式を適用してセンサ機器100と通信を行うことにより、センサ機器100から送信されるセンサデータを受信して記憶部350に転送する機能を有している。
【0034】
なお、データ処理部300は、無線通信I/Fを更に備えて、あるいは、有線通信I/F370の代わりに備えて、センサ機器100との間で無線通信方式の通信を行うことを可能として、センサ機器100からのセンサデータを無線通信方式の通信により受信するものであってもよい。
【0035】
<運動支援装置の制御方法>
次に、本実施形態に係る運動支援装置における制御方法(データ解析方法)について、図面を参照して説明する。
【0036】
図3は、本実施形態に係る運動支援装置の制御方法(データ解析方法)におけるセンサデータの転送手順の一例を示す表示例である。図4は、本実施形態に係る運動支援装置の制御方法の一例を示すフローチャートである。図5は、本実施形態に係るデータ解析方法における一周期の定義を説明するための概略図である。図6は、本実施形態に係るデータ解析方法における積分値算出処理を説明するための概略図である。図7は、本実施形態に係るデータ解析方法におけるセンサデータの補間処理を説明するための概略図である。図8は、本実施形態に係るデータ解析方法における擬似速度の算出方法を説明するための概略図である。図9は、本実施形態に係るデータ解析方法におけるGPS軌跡とセンサ軌跡の例を示す模式図である。図10は、本実施形態に係るデータ解析方法におけるGPS軌跡とセンサ軌跡の重心位置を合わせた状態を示す模式図である。図11は、本実施形態に係るデータ解析方法におけるセンサ軌跡の回転処理の一例を示すフローチャートである。図12は、本実施形態に係るデータ解析方法におけるセンサ軌跡の回転処理の例を示す模式図である。図13は、本実施形態に係るデータ解析方法におけるセンサ軌跡の拡大縮小処理の一例を示すフローチャートである。図14は、本実施形態に係るデータ解析方法におけるセンサ軌跡の拡大縮小処理の例を示す模式図である。図15は、本実施形態に係るデータ解析方法における推定されたセンサ軌跡の例を示す模式図である。図16は、本実施形態に係るデータ解析方法における作用効果を説明するための概略図である。
【0037】
本実施形態に係る運動支援装置における制御方法(データ解析方法)は、大別して、ランニング時の運動状態に関する各種のセンサデータを取得して蓄積する手順(センサデータ収集手順)と、蓄積したセンサデータに基づいて運動状態に関わる指標(移動軌跡、移動速度)を推定して表示する手順(指標推定手順)と、を有している。ここで、指標推定手順における処理動作は、データ処理部300の制御部340において所定のアルゴリズムプログラムを実行することにより実現される。
【0038】
センサデータ収集手順においては、まず、図1に示したように、ユーザUSがセンサ機器100を腰部に装着した状態で、所定のランニングコース等を走行する。ここで、ランニングを開始する際に、ユーザUSが手首等に装着したリスト機器200を操作することにより、リスト機器200からセンサ機器100にログ開始を指示する命令信号が送信される。これにより、センサ機器100の制御部140は、加速度計測部110及び角速度計測部120、GPS計測部130におけるセンサデータ(加速度データ、角速度データ、測位データ)の計測を開始し、時間データに関連付けて記憶部150の所定の記憶領域に順次保存する。そして、ランニングを終了する際に、ユーザUSがリスト機器200を操作することにより、センサ機器100にログ終了を指示する命令信号が送信されて、加速度計測部110及び角速度計測部120、GPS計測部130におけるセンサデータの計測が終了する。これにより、ランニング中の動作状態を示すセンサデータが、時間データに関連付けた状態で記憶部150の所定の記憶領域に蓄積される。
【0039】
次いで、センサ機器100とデータ処理部300とをUSBケーブル等で接続して通信を行うことにより、ランニング中に蓄積されたセンサデータがセンサ機器100からデータ処理部300に転送され、記憶部350に保存される。ここで、ユーザUSは、センサ機器100からデータ処理部300にセンサデータを転送する際(又は、センサデータを転送して記憶部350に保存した後)に、当該センサデータを表示部320に表示させて参照しつつ、センサデータを取得した際のランニングに関する諸情報を、入力操作部310を用いて入力する。具体的には、図3に示すように、表示部320に表示された入力画面において、ランニング時の走行方法(トレーニングメニュー等)やコース条件(コースの種類や走行距離、試技回数、コメント等)、ユーザ名等の項目情報が入力される。これにより、センサ機器100から転送されたセンサデータが、試技ごとに関連付けされて記憶部350に保存される。
【0040】
次いで、データ処理部300の制御部340は、記憶部350に保存されたセンサデータのうちの動作データにおける加速度データに対して軸補正処理を実行する。一般に、人体の体幹に装着したセンサ機器100は、ランニング等の走行中の上体の揺れや傾きの影響を受けるため、重力方向の軸と、センサ機器100により検出される人体の上下方向の加速度の軸との間に差異が生じている。そのため、センサ機器100により取得された角速度データの値に基づいて、時刻ごとに異なる上記軸方向の差異成分を相殺する補正を行う必要がある。
【0041】
軸補正処理においては、制御部340は、まず、センサ機器100により取得された角速度データに基づいて、各時刻の重力方向を推定する。そして、制御部340は、推定した重力方向と加速度データの上下方向が一致するように、加速度データの各軸を回転させることにより、加速度データの値を補正する。そして、制御部340は、補正後の加速度データと角速度データを、補正後センサデータとして記憶部350の所定の記憶領域に保存する。
【0042】
次いで、指標推定手順においては、制御部340は、上記の補正後センサデータを解析して、ランニング時の運動状態に関わる指標として、移動軌跡及び移動速度(走行速度)を算出する処理を実行する。ここで、本実施形態においては、ユーザUSが特別な入力操作を行うことなく、一連の移動軌跡及び移動速度の算出処理(推定処理)が、自動的に実行される。
【0043】
具体的には、まず、ユーザUSがデータ処理部300の入力操作部310を操作して、指標推定処理の開始を指示することにより、制御部340は、所定のアルゴリズムプログラム(データ解析プログラム)を実行して、記憶部350に保存された複数の試技データを、例えば図3に示したようなリスト形式や表形式で表示部320に表示する。表示部320に表示された各試技データには、センサ機器100から転送されたセンサデータ(上述した補正後センサデータを含む)が関連付けられている。
【0044】
次いで、ユーザUSが入力操作部310を操作して、表示部320に表示された複数の試技データの中から、指標推定処理を実行する任意の試技データを選択する。これにより、図4のフローチャートに示すように、選択された試技データに関連付けられたセンサデータが記憶部350から読み出される。具体的には、制御部340は、選択された試技データに関連付けられたセンサデータのうち、加速度データの推進方向の加速度成分(以下、「推進方向加速度」と記す)と、角速度データの鉛直軸周りの角速度成分(以下、「鉛直軸周り角速度」と記す)と、GPSによる測位データとを取得する(ステップS102)。ここで、鉛直軸とは、地表に垂直な重力方向を示す軸である。
【0045】
次いで、制御部340は、取得した推進方向加速度の一周期ごとの積分値(相対速度)と、鉛直軸回り角速度の一周期ごとの積分値(相対角度)とを算出する(ステップS104)。ここで、本実施形態において一周期とは、図5に示すように、ユーザUSがランニング等の移動を伴う運動を行う際に、周期的な変化を繰り返す上下方向の加速度データから検出される左右の足の着地タイミングのうち、片側の足が着地したタイミングを起点として、二歩進んだ後、再び起点と同じ側の足が着地するタイミングまでの、2歩分の期間と規定する。
【0046】
このような積分値算出処理を、所定期間の推進方向加速度に対して実行した場合の例を図6に示す。ここでは、10秒間分の推進方向加速度の値を破線で示し、それを一周期ごとに積分した値を実線で示す。このように、周期ごとに積分を行うことにより、推進方向加速度、及び、鉛直軸回り角速度のいずれにおいても、各周期内でのデータの周期的な変動をキャンセルすることができ、各周期間での相対速度や相対角度を得ることができる。
【0047】
次いで、制御部340は、図7に示すように、GPSによる測位データの取得時刻(図中、「GPS観測周期」と表記)と一致するタイミングで、一周期ごとに算出した相対速度、相対角度の値と上記時刻とに基づいて補間センサデータを生成して、線形補間処理を実行する(ステップS106)。ここで、図7においては、相対速度と相対角度とをまとめて、便宜的にセンサデータ、又は、補間センサデータと表記している。なお、本実施形態においては、線形補間処理の手法として、GPSによる測位データの取得時刻に合わせて、センサデータを補間する手法を示したが、センサデータの取得時刻(図中、「走行周期」と表記)に合わせてGPSによる測位データを補間するものであってもよい。
【0048】
次いで、制御部340は、選択された試技データについて取得された全てのセンサデータについて、指定した時間のデータを対象として以下の一連の処理動作(ステップS110〜S130)を実行したか否かを判定する(ステップS108)。制御部340は、全てのセンサデータについて処理が完了していない場合(ステップS108のNo)には、以下の一連の処理動作(ステップS110〜S130)を繰り返し実行し、一方、全てのセンサデータについて一連の処理動作が完了した場合(ステップS108のYes)には指標推定処理を終了する。
【0049】
具体的には、制御部340は、まず、前回の処理開始時刻から所定時間進めた時刻を起点とする所定時間幅のセンサデータを取得する(ステップS110)。ここで、所定時間は、GPSにおける測位(観測)の精度に依存して設定されるものであり、例えば、GPS信号を受信可能なGPS衛星の数が少ない場合や、その信号強度が弱い場合等は観測精度が悪化し易いため、その時間幅を長目に設定することが好ましい。本実施形態においては、例えば10個から30個程度の地点の測位データを取得することができる時間幅に設定される。なお、前回の処理開始時刻から時刻を進めるための所定時間と、センサデータを取得する所定時間幅は異なる時間に設定されているものであってもよい。
【0050】
次いで、制御部340は、GPSによる測位データの各地点の緯度、経度(絶対位置)を、メートル空間である平面直角座標に変換して、GPSによるユーザUSの絶対位置の時間経過による変化を示す移動軌跡(以下、「GPS軌跡」と記す;第1の移動軌跡)を算出する(ステップS112)。ここで、緯度、経度から平面直角座標への変換方法としては、例えば日本国国土地理院が提供している平面直角座標への換算方法を適用することができる。また、他の方法としては、座標変換後の移動軌跡において、ある程度の誤差を許容できるのであれば、地球を球体とみなし、二点間の緯度(又は、経度)の差の正接(タンジェント)と赤道半径との積からY方向(又は、X方向)の位置を算出するものであってもよい。
【0051】
次いで、制御部340は、前回の一連の処理動作(ステップS110〜S130)において、推定した移動速度があるか否かを判定する(ステップS114)。前回推定した移動速度がある場合(ステップS114のYes)には、制御部340は、その移動速度の平均値(平均速度)を取得する(ステップS116)。一方、前回推定した移動速度がない場合(ステップS114のNo)には、制御部340は、上記の算出されたGPS軌跡における各地点間の距離とその所要時間から平均速度を算出する(ステップS118)。
【0052】
次いで、制御部340は、図8に示すように、上記で取得した平均速度をベース速度として、このベース速度に一周期ごとに算出した相対速度を加算して擬似速度を算出する(ステップS120)。ここで、仮にベース速度(平均速度)が今回の指標推定処理(移動速度の推定処理)の対象データの平均速度と同じである場合には、算出された擬似速度を今回の一連の処理動作(ステップS110〜S130)における推定速度として決定することができる。しかしながら、ベース速度が対象データの平均速度と同じであるとは限らない。そこで、ベース速度は、今回の一連の処理動作において推定される移動速度(推定速度)とは同じではないが、比較的近似する値であると推定して、擬似速度と表記する。
【0053】
次いで、制御部340は、一周期ごとに算出した相対角度と上記の擬似速度から、ユーザUSの位置の時間経過による相対的変化を示す移動軌跡(以下、「センサ軌跡」と記す;第2の移動軌跡)を算出する(ステップS122)。具体的には、制御部340は、二点間の相対角度に基づいて、ある地点から次の地点へ進む方向を決定し、また、上記の擬似速度と所要時間からその距離を算出することにより、センサ軌跡を算出する。上述したような算出方法により算出されたGPS軌跡とセンサ軌跡の例(模式図)を図9に示す。ここで、図9(a)は、GPS軌跡の例を示し、図9(b)は、センサ軌跡の例を示している。これらの軌跡において、地点Gstと地点Sst、地点Gと地点S、地点Gと地点S、・・・地点Gと地点Sは、それぞれ同時刻の地点である。
【0054】
次いで、制御部340は、図10に示すように、同一の平面直角座標上で、算出されたGPS軌跡とセンサ軌跡の重心位置を合わせる(ステップS124)。ここで、GPS軌跡とセンサ軌跡との近似性を示すパラメータとして「コスト(距離コスト)」という概念を導入し、以下に示すセンサ軌跡をGPS軌跡に近似させる処理動作(ステップS124〜S128)において、このコストを計算してGPS軌跡とセンサ軌跡との近似性を検証する。このコスト(距離コスト)は、具体的には、GPS軌跡とセンサ軌跡の同時刻の地点間(地点Gst−Sst間、地点G−S間、地点G−S間、・・・地点G−S間)の距離の総和で表される。図10においては、同時刻の地点間を結ぶ破線の長さの総和に相当する。
【0055】
次いで、制御部340は、センサ軌跡をGPS軌跡に近似させるために、センサ軌跡を、重心位置を中心として回転させる回転処理を行う(ステップS126)。回転処理においては、図11のフローチャートに示すように、制御部340は、まず、予め設定された範囲内の全ての回転角度でセンサ軌跡を回転させる処理を行ったか否かを判定する(ステップS202)。ここで、回転処理に使用する回転角度の範囲は、前回実行した回転処理の結果(最小のコストになるセンサ軌跡の回転角度)が得られる場合には、その近傍(例えば、前回の回転角度±10°の範囲)のみを回転範囲として設定し、前回の回転処理の結果が得られない場合には、例えば全周(0°〜360°)を回転範囲として設定するものであってもよい。また、センサ機器100が地磁気センサを備え、地磁気の値が得られて大体の方位が判明している場合には、当該方位を基準にして特定の方位の近傍のみを回転範囲として設定するものであってもよい。
【0056】
設定された範囲内の全ての回転角度で回転処理が完了していない場合(ステップS202のNo)には、制御部340は、例えば図12中に破線矢印で示すように、センサ軌跡を所定の角度だけ回転させる(ステップS204)。ここで、センサ軌跡を回転させる所定の角度は、回転処理した場合に得られるコストに基づく近似性の精度や、制御部340における計算処理の負荷の程度等にも依存するものであるが、例えば1°〜5°程度ずつ回転角度を変化させることが好ましい。
【0057】
そして、制御部340は、GPS軌跡と回転させたセンサ軌跡とにおけるコストを計算し(ステップS206)、当該計算されたコストと回転させたセンサ軌跡とを関連付けて記憶部350の所定の記憶領域に保存する(ステップS208)。その後、ステップS202に戻って、制御部340は、設定された範囲内の全ての回転角度で回転処理が完了するまで、上述した一連の処理動作(ステップS204〜S208)を繰り返し実行する。そして、全ての回転角度で回転処理が完了した場合(ステップS202のYes)には、制御部340は、センサ軌跡の回転角度ごとに計算され、記憶部350に保存されたコストのうち、最小のコストを抽出し、例えば図12に示すように、当該コストに対応づけて保存されたセンサ軌跡を回転処理の結果として出力する(ステップS210)。
【0058】
なお、本実施形態においては、回転処理を用いてセンサ軌跡をGPS軌跡に近似させる手法として、予め設定された範囲内の全ての回転角度で回転処理を実行して、最小のコストになる回転角度のセンサ軌跡を探索する手法を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、特定の関数(ここでは、コストの変化を示す関数)の傾き(一階微分)に基づいて最小値を求める、周知の最急降下法等の最適化手法を適用して、最小のコストになる回転角度を探索するものであってもよい。
【0059】
次いで、制御部340は、センサ軌跡をGPS軌跡にさらに近似させるために、センサ軌跡を拡大、又は、縮小させる拡大縮小処理を行う(ステップS128)。拡大縮小処理においては、図13のフローチャートに示すように、制御部340は、まず、予め設定された範囲内の全ての倍率でセンサ軌跡を拡大又は縮小させる処理を行ったか否かを判定する(ステップS222)。ここで、拡大縮小処理に使用する拡大、縮小倍率の範囲は、前回実行した拡大縮小処理の結果(最小のコストになるセンサ軌跡の拡大、縮小倍率)が得られる場合には、その近傍(例えば、前回の拡大、縮小倍率±0.5倍の範囲)のみを倍率範囲として設定し、前回の拡大縮小処理の結果が得られない場合には、ランニングやマラソンのように速度変化が小さい運動を対象にしている場合であれば、例えば0.5倍(縮小)〜2倍(拡大)程度を倍率範囲として設定することが好ましい。また、速度変化が大きい運動を対象にしている場合には、上記の範囲を超える倍率範囲を設定するものであってもよい。
【0060】
設定された範囲内の全ての倍率で拡大縮小処理が完了していない場合(ステップS222のNo)には、制御部340は、例えば図14中に破線矢印で示すように、センサ軌跡を所定の倍率で拡大又は縮小させる(ステップS224)。ここで、センサ軌跡を拡大又は縮小させる所定の倍率は、拡大縮小処理した場合に得られるコストに基づく近似性の精度や、制御部340における計算処理の負荷の程度等にも依存するものであるが、例えば0.1倍程度ずつ倍率を変化させることが好ましい。
【0061】
そして、制御部340は、GPS軌跡と拡大又は縮小させたセンサ軌跡とにおけるコストを計算し(ステップS226)、当該計算されたコストと拡大又は縮小させたセンサ軌跡とを関連付けて記憶部350の所定の記憶領域に保存する(ステップS228)。その後、ステップS222に戻って、制御部340は、設定された範囲内の全ての倍率で拡大縮小処理が完了するまで、上述した一連の処理動作(ステップS224〜S228)を繰り返し実行する。そして、全ての倍率で拡大縮小処理が完了した場合(ステップS222のYes)には、制御部340は、センサ軌跡の拡大、縮小倍率ごとに計算され、記憶部350に保存されたコストのうち、最小のコストを抽出し、例えば図14に示すように、当該コストに対応づけて保存されたセンサ軌跡を拡大縮小処理の結果として出力する(ステップS230)。
【0062】
なお、本実施形態においては、拡大縮小処理を用いてセンサ軌跡をGPS軌跡に近似させる手法として、予め設定された範囲内の全ての倍率で拡大縮小処理を実行して、最小のコストになる倍率のセンサ軌跡を探索する手法を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、上述した回転処理と同様に、周知の最急降下法等の最適化手法を適用して、最小のコストになる拡大、縮小倍率を探索するものであってもよい。
【0063】
次いで、制御部340は、上述した回転処理及び拡大縮小処理の結果として出力されたセンサ軌跡について、各2地点間の距離とその各2地点間の移動に要した所要時間から、各2地点間の移動速度を算出する(ステップS130)。具体的には、回転処理及び拡大縮小処理によりGPS軌跡に近似するように推定されたセンサ軌跡について、例えば図15に示すように、隣接する各2地点間(地点Sst−S間、地点S−S間、・・・地点S−S間)の距離とその移動に要した時間に基づいて、各2地点間の移動速度(速度A、B、・・・F)が算出される。そして、算出された移動速度は、推定された移動軌跡に関連付けられて記憶部350の所定の記憶領域に保存される。
【0064】
ここで、ユーザが実際にハーフマラソンのコースを走った際に得られるGPS軌跡と、上述した指標推定処理を用いて推定されるセンサ軌跡とにおける精度の良否について、実測データを用いて検証する。ハーフマラソンにおいて、ユーザが実際に走行する全移動距離(すなわち、正解の距離)は21.0975kmである。これに対して、図16に示すように、コースを走行中に取得したGPSによる測位データに基づくGPS軌跡(図では特定の2点間の移動軌跡の例を示す)において、各2点間の距離を累積して計算した全移動距離は21.5541kmであり、実際の全移動距離(正解)との差分は456.6mであった。一方、上述した指標推定処理を用いて、センサ機器100により取得されたセンサデータ(加速度データ及び角速度データ)に基づいて推定されたセンサ軌跡において、各2点間の距離を累積して計算した全移動距離は21.0258kmであり、実際の全移動距離(正解)との差分は71.7mであった。すなわち、本実施形態に係る指標推定処理を用いて、ユーザの走行中に取得したセンサデータに基づいて推定されたセンサ軌跡においては、GPS軌跡に比較して、実際の移動距離により近似した結果が得られることが判明した。
【0065】
次いで、制御部340は、上述した指標推定処理を用いて推定されたセンサ軌跡に基づいて算出された移動速度や、例えば、推定されたセンサ軌跡に基づく2点間の距離と加速度の変化により得られる着地タイミングとに基づいて算出されるピッチやストライド等の、運動状態を把握するための指標を、表示部320に数値やグラフ、表等の任意の形態で表示する。また、これらの指標を、例えば地図上に表示されたセンサ軌跡に関連付けて表示するものであってもよい。
【0066】
以上のように、本実施形態においては、ユーザUSが装着したセンサ機器100により、走行中に取得した加速度データ及び角速度データに基づくセンサ軌跡を、GPSによる測位データに基づくGPS軌跡に近似させる処理を行い、その処理結果に基づいて走行中の2点間の距離や速度が算出される。ここで、センサ軌跡をGPS軌跡に近似させる手法としては、例えばセンサ軌跡を回転や拡大縮小することにより、GPS軌跡とセンサ軌跡のそれぞれ同時刻の地点間の距離の総和(コスト)を最小にする方法を適用する。このように、GPS軌跡に近似するように推定されたセンサ軌跡を用いることにより、GPSによる測位データのみを用いる場合に比較して、走行中の2点間の距離や速度を精度よく算出することができる。したがって、ユーザは表示部320を通して所定の表示形態で提供される上記の移動軌跡や移動速度等の指標を見ることにより、走行中の運動状態を的確に把握することができ、その判断や改善に役立てることができる。
【0067】
<変形例1>
次に、上述した実施形態における変形例について説明する。
図17は、本実施形態に係る運動支援装置の制御方法の他の例(変形例1)の要部を示すフローチャートである。ここで、上述した実施形態(図4参照)と同等の処理動作については、その説明を省略する。
【0068】
上述した実施形態においては、指標推定処理の一連の処理動作において、回転処理(ステップS126)と拡大縮小処理(ステップS128)とを1回ずつ実行する例(図4参照)について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、GPS軌跡とセンサ軌跡との近似性をある程度確保することができるのであれば、上述した回転処理と拡大縮小処理とのいずれか一方のみを実行するものであってもよい。また、上述した実施形態に示したように、回転処理と拡大縮小処理とを1回ずつ実行した場合には、ユーザの移動軌跡や移動速度を精度よく推定することができるとともに、制御部340における処理負担を極力抑制して迅速に処理を実行することができる。ここで、GPS軌跡とセンサ軌跡との近似性が低く、ユーザの移動軌跡や移動速度の推定精度が十分ではない場合や、移動軌跡や移動速度をさらに精度よく推定する場合には、以下に示すように、回転処理と拡大縮小処理とを繰り返し複数回実行する制御方法を適用することができる。
【0069】
具体的には、制御部340は、上述した実施形態(図4参照)と同様に、GPSによる測位データに基づくGPS軌跡、及び、加速度データ及び角速度データに基づくセンサ軌跡を算出し、これらの軌跡の重心位置を重ね合わせた(ステップS124)後、例えば図17のフローチャートに示すように、回転処理(ステップS126)及び拡大縮小処理(ステップS128)を実行する。そして、制御部340は、前回の回転処理及び拡大縮小処理の結果に対して、今回の回転処理及び拡大縮小処理の結果に変化があるか否かを判定する(ステップS129)。ここで、回転処理及び拡大縮小処理の結果に変化があるか否かの判断は、例えば、コストが最小の時のセンサ軌跡、又は、そのときの回転角度及び拡大、縮小倍率について、前回と今回との間に差異があるか否か、あるいは、その差分が予め設定した閾値以下であるか(収束したか)否かに基づいて判断する。処理結果に変化があると判断した場合(ステップS129のYes)や、前回の回転処理及び拡大縮小処理の結果が得られない場合には、制御部340は、ステップS126に戻って、センサ軌跡の回転処理及び拡大縮小処理を繰り返し実行する。そして、当該処理結果に変化がない、又は、処理結果が収束したと判断した場合(ステップS129のNo)には、制御部340は、直近の回転処理及び拡大縮小処理の結果として出力されたセンサ軌跡について、隣接する各2地点間の距離とその各2地点間の移動に要した所要時間から、各2地点間の移動速度を算出する(ステップS130)。
【0070】
<変形例2>
図18は、本実施形態に係る運動支援装置の他の例(変形例2)を示す概略構成図である。ここで、上述した実施形態(図1参照)と同等の構成については、その説明を省略する。
【0071】
上述した実施形態においては、センサ機器100により走行中のセンサデータを測定して蓄積し、運動終了後にデータ処理部300において移動軌跡や移動速度等の指標を推定し、所定の表示形態でユーザに提供する例について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、例えば図18に示すように、運動支援装置がネットワークに接続されたサーバ機器500やクラウドシステムを備えているものであってもよい。
【0072】
具体的には、走行中にセンサ機器100により取得されたセンサデータを、データ処理部300やネットワーク中継機器400を介してサーバ機器500に転送して、サーバ機器500において、上述した指標推定処理を実行する。そして、ユーザUSは、データ処理部300を操作してネットワークやサーバ機器500に接続し、指標推定処理の結果に基づく情報を表示部320に所定の形態で表示させることにより、走行中の運動状態を的確に把握することができる。この場合、データ処理部300は、ネットワークやサーバ機器500に接続して、指標推定処理の結果に基づく情報を表示することができる機能を有する簡易な構成の通信端末を適用することができる。すなわち、本変形例においては、データ処理部300及びネットワーク、サーバ機器500を含めた構成により、上述した第1の実施形態に示したデータ処理部と同等の機能が実現される。
【0073】
なお、上述した実施形態や変形例においては、センサ軌跡をGPS軌跡に近似させる手法として、回転処理と拡大縮小処理を実行する場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、一度計算した結果を再利用して効率的に計算を行い、2つのパターンの要素間の対応付けを行いながら類似性を計算することができる動的計画法を用いたDP(Dynamic Programming)マッチング等の他の手法を適用するものであってもよい。
【0074】
また、上述した実施形態や変形例においては、ユーザUSの運動後に、走行中にセンサ機器100により取得したセンサデータをデータ処理部300転送して、移動軌跡及び移動速度を算出(推定)する、オフライン処理を想定した制御方法を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、センサ機器100において所定時間分のセンサデータを取得した段階で、当該センサデータをセンサ機器100からデータ処理部300に無線通信を利用して転送して、移動軌跡及び移動速度を算出するオンライン処理として実行するものであってもよい。この場合、算出された移動軌跡及び移動速度等の指標を、ユーザUSの走行中にデータ処理部300の表示部320やリスト機器200の表示部220に略リアルタイムで表示して提供することができる。
【0075】
以上、本発明のいくつかの実施形態について説明したが、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲を含むものである。
以下に、本願出願の当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
【0076】
(付記)
[1]
利用者の身体に装着されて、移動動作中の前記利用者の地理的な位置情報を含む測位データを間欠的に取得して出力するとともに、前記移動動作中の前記利用者の身体の動作状態に関する動作データを間欠的に測定して出力するセンサ部と、
前記測位データに基づく、互いに異なる二つの時刻の間の、前記利用者の位置の変化を示す第1の移動軌跡と、前記動作データに基づく、前記二つの時刻の間の、前記利用者の位置の相対的変化を示す第2の移動軌跡と、を算出する移動軌跡算出部と、
前記二つの時刻の間の少なくとも一つの特定の時刻での、前記第1の移動軌跡と前記第2の移動軌跡のそれぞれにおける位置の比較に基づいて、前記第2の移動軌跡に対して、変形処理として、回転処理、拡大処理及び縮小処理の少なくとも何れかを行う移動軌跡変形処理部と、
前記第2の移動軌跡を前記変形処理した後の軌跡より、前記二つの時刻の間の前記利用者の移動距離を算出する移動情報算出部と、
を有することを特徴とするデータ解析装置。
【0077】
[2]
前記センサ部は、全地球測位システムを利用して、前記測位データにおける前記位置情報として緯度、経度の値を取得する測位センサを有し、
前記第1の移動軌跡は、前記測位データの緯度、経度の値に基づいて算出されることを特徴とする[1]に記載のデータ解析装置。
【0078】
[3]
前記センサ部は、加速度センサ及び角速度センサを有し、
前記動作データは、前記加速度センサにより取得される加速度データ、及び、前記角速度センサにより取得される角速度データを含み、
前記第2の移動軌跡は、前記加速度データを積分した相対速度、及び、前記角速度データを積分した相対角度に基づいて算出されることを特徴とする[1]又は[2]に記載のデータ解析装置。
【0079】
[4]
前記移動軌跡変形処理部は、前記二つの時刻の間の互いに異なる複数の時刻の各々における、前記第1の移動軌跡での複数の第1の位置、及び、前記第2の移動軌跡での複数の第2の位置について、互いに同じ同時刻での前記第1の位置と前記第2の位置との間の距離の、前記複数の時刻についての総和が最小になるように前記変形処理を行い、
前記移動情報算出部は、前記第2の移動軌跡を前記変形処理した後の軌跡上の、互いに離間した2地点間の距離と前記2地点間の移動に要した時間とから、前記各2地点間の移動速度を算出することを特徴とする[1]乃至[3]のいずれかに記載のデータ解析装置。
【0080】
[5]
前記移動軌跡変形処理部は、前記変形処理において、前記第1の移動軌跡と前記第2の移動軌跡との重心位置を合わせ、前記距離の総和が最小になるように、前記第1の移動軌跡に対して前記第2の移動軌跡を回転させる前記回転処理を行い、前記回転処理を行った後に、前記距離の総和が最小になるように、前記第2の移動軌跡に対して前記拡大処理または前記縮小処理を実行することを特徴とする[4]に記載のデータ解析装置。
【0081】
[6]
前記算出された前記移動速度を、前記利用者の動作状態を示す運動指標として所定の表示形態で提供する運動データ提供部を、さらに備えることを特徴とする[4]又は[5]に記載のデータ解析装置。
【0082】
[7]
利用者の身体に装着されたセンサ部により、移動動作中の前記利用者の地理的な位置情報を含む測位データを間欠的に取得するとともに、前記移動動作中の前記利用者の身体の動作状態に関する動作データを間欠的に測定し、
前記測位データに基づく、互いに異なる二つの時刻の間の、前記利用者の位置の変化を示す第1の移動軌跡と、前記動作データに基づく、前記二つの時刻の間の、前記利用者の位置の相対的変化を示す第2の移動軌跡と、を算出し、
前記二つの時刻の間の少なくとも一つの特定の時刻での、前記第1の移動軌跡と前記第2の移動軌跡のそれぞれにおける位置の比較に基づいて、前記第2の移動軌跡に対して、回転処理、拡大処理及び縮小処理の少なくとも何れかの変形処理を行い、
前記第2の移動軌跡を前記変形処理した後の軌跡より、前記二つの時刻の間の前記利用者の移動距離を移動情報として算出する、
ことを特徴とするデータ解析方法。
【0083】
[8]
前記変形処理を行う動作は、前記二つの時刻の間の互いに異なる複数の時刻の各々における、前記第1の移動軌跡での複数の第1の位置、及び、前記第2の移動軌跡での複数の第2の位置について、互いに同じ同時刻での前記第1の位置と前記第2の位置との間の距離の、前記複数の時刻についての総和が最小になるように、前記変形処理を行う動作を含み、
前記移動情報を算出する動作は、前記第2の移動軌跡を前記変形処理した後の軌跡上の、互いに離間した2地点間の距離と前記2地点間の移動に要した時間とから、前記各2地点間の前記移動速度を算出する動作を含むことを特徴とする[7]に記載のデータ解析方法。
【0084】
[9]
コンピュータに、
利用者の身体に装着されたセンサ部により、移動動作中の前記利用者の地理的な位置情報を含む測位データを間欠的に取得させるとともに、前記移動動作中の前記利用者の身体の動作状態に関する動作データを間欠的に測定させ、
前記測位データに基づく、互いに異なる二つの時刻の間の、前記利用者の位置の変化を示す第1の移動軌跡と、前記動作データに基づく、前記二つの時刻の間の、前記利用者の位置の相対的変化を示す第2の移動軌跡と、を算出させ、
前記二つの時刻の間の少なくとも一つの特定の時刻での、前記第1の移動軌跡と前記第2の移動軌跡のそれぞれにおける位置の比較に基づいて、前記第2の移動軌跡に対して、回転処理、拡大処理及び縮小処理の少なくとも何れかの変形処理を行わせ、
前記第2の移動軌跡を前記変形処理した後の軌跡より、前記二つの時刻の間の前記利用者の移動距離を移動情報として算出させる、
ことを特徴とするデータ解析プログラム。
【0085】
[10]
前記変形処理を行わせる動作は、前記二つの時刻の間の互いに異なる複数の時刻の各々における、前記第1の移動軌跡での複数の第1の位置、及び、前記第2の移動軌跡での複数の第2の位置について、互いに同じ同時刻での前記第1の位置と前記第2の位置との間の距離の、前記複数の時刻についての総和が最小になるように、前記変形処理を行わせる動作を含み、
前記移動情報を算出させる動作は、前記第2の移動軌跡を前記変形処理した後の軌跡上の、互いに離間した2地点間の距離と前記2地点間の移動に要した時間とから、前記各2地点間の前記移動速度を算出させる動作を含むことを特徴とする[9]に記載のデータ解析プログラム。
【符号の説明】
【0086】
100 センサ機器
110 加速度計測部
120 角速度計測部
130 GPS計測部
140 制御部
150 記憶部
160 無線通信I/F
170 有線通信I/F
200 リスト機器
210 入力操作部
220 表示部
240 制御部
250 記憶部
260 無線通信I/F
300 データ処理部
310 入力操作部
320 表示部
340 制御部
350 記憶部
370 有線通信I/F
US ユーザ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18