(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記設定時間計算部は、前記元波形の出力レベルが最小値を超える低出力レベルと、前記元波形の出力レベルが最大値未満でありかつ前記低出力レベルより大きい高出力レベルと、を設定する出力レベル設定部と、
前記元波形の出力レベルが前記低出力レベルと一致する第1時点と、前記元波形の出力レベルが前記高出力レベルと一致する第2時点との中間に前記設定時間を設定する設定時間設定部と、を有する、請求項2に記載の非接触翼振動計測装置。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好ましい実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0016】
図1は、本発明の非接触翼振動計測装置10の全体構成図である。
この図において、本発明は、軸心1を中心に回転し周方向に等間隔に配置された複数の回転翼2と、回転翼2の半径方向外方端から間隔を隔てて回転翼2を囲むケーシング3とを有するターボ機械4の非接触翼振動計測装置10である。
なお、ターボ機械4はこの図において、右上の4分の1のみを示している。回転翼2は、この例では1/4回転分で5枚、1回転分で20枚であるが、この数は周方向に等間隔に配置される限りで任意である。
【0017】
ここでいう等間隔とは、回転体が軸対称で構成され、設計上、ぶれずに回転する構成となっている物体(翼)が、回転時に同一場所を通過する場合に、定期的な周期で通過を計測できるものであり、個々の物体(翼)の形状により、通過するときの計測波形は同形となるものである。また、必ずしもすべてが同一の形状の物体(翼)である必要はないが、周期的に同一形状が並んで配置されているものを含む。
【0018】
図1において、本発明の非接触翼振動計測装置10は、非接触センサ12、CFD回路14、及び制御装置20を備える。
【0019】
非接触センサ12は、ケーシング3に取り付けられ回転翼2の半径方向外方端の通過を非接触で検出して時間経過t(
図3参照)と共に出力レベルP(
図3参照)が変化する波形の検出データである元波形Aを出力する。
非接触センサ12は、回転翼2の半径方向外方端までの距離を非接触で検出可能なセンサであり、例えば、光又はマイクロ波の反射(又は透過)、静電容量、渦電流、又は磁気変化を利用する周知のセンサを用いることができる。
言い換えれば、非接触センサ12は、回転翼2の半径方向外方端の変位を非接触で計測して変位計測信号(元波形A)を出力する非接触型変位計であればよい。
この例で、2つの非接触センサ12が、ケーシング3に取り付けられているが、非接触センサ12は1つでも3以上であってもよい。
【0020】
またこの例で、回転軸5の回転を検出する回転検出センサ11が、回転軸5の外面近傍に設けられ、回転軸5の外面に設けられたマーク(図示せず)を検出して、回転軸5の回転基準位置と回転速度を検出できるようになっている。
回転検出センサ11は、非接触センサ12と同じセンサであっても、異なるセンサであってもよい。
【0021】
CFD回路14は、元波形Aから回転翼2の通過時点TOAを検出する。CFD回路14は、非接触センサ12のアナログ出力信号からデジタル信号(矩形波)を生成する回路であり、アナログ信号の波高変動に伴う出力タイミングのばらつきを低減する。
【0022】
制御装置20は、通過時点TOAが元波形Aの立ち上がり部又は立ち下がり部のピーク傾き部の中央部分であるように、CFD回路14の減衰率rと遅延時間Dtを調整する。
制御装置20は、例えばロジック回路で構成することができる。制御装置20の詳細は後述する。
【0023】
立ち上り部とは、波形の出力レベルが、最小値から最大値まで上昇する波形範囲を意味する。また、立ち下り部とは、波形の出力レベルが、最大値から最小値まで下降する波形範囲を意味する。
【0024】
ピーク傾き部の中央部分とは、元波形Aの立ち上がり部又は立ち下がり部の傾きが最大部又は最小部の近傍部分を意味する。
【0025】
減衰率r(又は減衰比という)は、波形の減衰後と減衰前の出力レベルの比であり、減衰率r=(減衰後の出力レベル)/(減衰前の出力レベル)であり、0〜1の数字又は0%〜100%で表すことができる。
遅延時間Dtは、波形を遅らせる時間幅である。
【0026】
図2は、本発明による翼振動計測原理の模式図であり、(A)は回転翼2が振動していない場合、(B)は回転翼2が振動している場合を示している。
【0027】
図2(A)に示すように、回転翼2が振動していない場合には、非接触センサ12により検出される回転翼2の時間間隔T(通過時点TOAの時間間隔)は一定となる。
これに対し、
図2(B)に示すように、回転翼2が振動している場合には、回転翼2の時間間隔Tが変動する。この変動幅は回転翼2の半径方向外方端(先端)の振幅に比例する。
従って、回転翼2の時間間隔Tを高精度に計測することにより、これから回転翼2の振動振幅及び周波数を算出することができる。
【0028】
図3は、一般的な波形の飽和時の問題点を示す模式図である。
元波形Aの立ち上り部を検出する場合、一般的なCFD回路は、
図1の非接触センサ12で検出した元波形Aを減衰させた減衰波形A1(アッテネーション信号)と、元波形Aを遅延させた遅延波形B1(ディレイ信号)との交点Cでパルス信号を出力する。
この場合、遅延波形B1の遅延時間Dtは、回転翼2の回転速度に適合する一定値に固定されている。
【0029】
このようなCFD回路を翼振動計測システムに適用した場合、CFD回路のパラメータ(減衰率rと遅延時間Dt)は元波形Aの波形や回転翼2の回転速度に依存するため、最適な調整が困難であった。
また、減衰波形A1と遅延波形B1が最適位置(立ち上り部)で正しく交差していることは、オシロスコープ等で波形を確認する必要があり、調整に時間がかかっていた。
【0030】
図3において、(A)は元波形Aが明確なピークのある非飽和波形である場合、(B)は元波形Aが飽和波形である場合をそれぞれ示している。
【0031】
図3(A)の場合には、減衰波形A1の立ち上り部と遅延波形B1の立ち上り部とが交差する。この場合、減衰波形A1及び遅延波形B1の立ち上り部は一般的に急峻なので、交点Cの検出時点(通過時点TOA)のばらつきは小さく、高い精度を維持することができる。
【0032】
図3(B)の場合には、減衰波形A1が飽和波形であるので、減衰波形A1の飽和部分(フラット部)と遅延波形B1の立ち上り部が交差するため、交点Cの検出精度が低下する。
【0033】
図4は、本発明による非接触翼振動計測装置10の第1実施形態図である。
第1実施形態では、CFD回路14により元波形A(すなわち入力波形)の立ち上り部を検出する。
【0034】
この図において、非接触センサ12とCFD回路14の間に飽和回路13を有する。
飽和回路13は、非接触センサ12の検出信号を所定の出力レベルに増幅する。以下、飽和回路13の出力信号を元波形Aとする。
【0035】
図4において、CFD回路14は、元波形Aの立ち上り部を検出する回路であり、減衰回路15、遅延回路16、及びコンパレータ18を有する。
減衰回路15は、元波形Aを減衰させた減衰波形A1を出力する。遅延回路16は、元波形Aを遅延させた遅延波形B1を出力する。コンパレータ18は、減衰波形A1と遅延波形B1の交点時点Tnを立ち上がり部の通過時点TOAとして出力する。
【0036】
図4において、減衰回路15は、減衰率rが異なる複数(この例で4つ)の減衰素子15aと、第1切替回路15bとを有する。異なる減衰率rは、例えば、90,80,70,60%である。
第1切替回路15bは、制御装置20の制御信号CSにより、その出力端子17aを減衰素子15aの1つに排他的に切り替えて接続し、減衰波形A1をコンパレータ18の一方の入力端子18aに入力する。
【0037】
また、遅延回路16は、遅延時間Dtが異なる複数(この例で4つ)の遅延素子16aと、第2切替回路16bとを有する。異なる遅延時間Dtは、例えば元波形Aの時間幅に応じて、適宜設定する。
第2切替回路16bは、制御装置20の制御信号CSにより、その出力端子17bを遅延素子16aの1つに排他的に切り替えて接続し、遅延波形B1をコンパレータ18の他方の入力端子18bに入力する。
【0038】
図4において、制御装置20は、波形取込部22、設定時間計算部24、選択部26、出力部28、及び時間計測部29を有する。
【0039】
波形取込部22は、ADC(アナログデジタルコンバータ)22aを有し、波形の検出データである元波形AをA/D変換して取り込み、図示しない記憶装置に記憶する。
設定時間計算部24は、元波形Aから通過時点TOAの設定時間Ttを計算する。
【0040】
図5は、第1,2実施形態における設定時間計算部24の説明図であり、(A)は元波形A、(B)は減衰波形A1と遅延波形B1を示す。
第1,2実施形態は、元波形Aの立ち上がり部を検出する例である。
【0041】
図4において、設定時間計算部24は、出力レベル設定部24aと設定時間設定部24bとを有する。
出力レベル設定部24aは、
図5(A)の低出力レベルP1と高出力レベルP2を設定する。
【0042】
図5(A)において、元波形Aの出力レベルの最大値と最小値の差、すなわち最小値を0Vとした場合の元波形Aの最大値(最大出力)は、例えば8〜10Vである。
低出力レベルP1は、元波形Aの最小値を超える出力レベルである。低出力レベルP1は、例えば元波形Aの最大出力(すなわち最大値と最小値の差)の100分の1から100分の2の値を最小値に加算するのがよい。すなわち、低出力レベルP1は、最小値(0V)近傍のノイズの影響を回避するため、最大出力の1〜2%に設定するのがよい。
【0043】
また、高出力レベルP2は、元波形Aの最大値未満でありかつ低出力レベルP1より大きい出力レベルである。高出力レベルP2は、例えば元波形Aの最大出力(すなわち最大値と最小値の差)の100分の1から100分の2の値を最大値から減算するのがよい。すなわち、高出力レベルP2は、最大値近傍のノイズの影響を回避するため、最大出力の98〜99%に設定するのがよい。
【0044】
なお、上述した低出力レベルP1と高出力レベルP2は一例であり、元波形Aの形状や変動に応じて、最大値と最小値の間で他の値に設定してもよい。
【0045】
図4の設定時間設定部24bは、
図5(A)の元波形Aの立ち上り部が低出力レベルP1と一致する第1時点T1と、立ち上り部が高出力レベルP2と一致する第2時点T2との中間に設定時間Ttを設定する。
【0046】
設定時間Ttは、例えばTt=(T1+T2)/2で求めるのがよい。
設定時間Ttを第1時点T1と第2時点T2の平均値(中間時点)に設定することにより、波形変化や波形の振動がある場合でも、後述する交点時点Tnが元波形Aの立ち上り部から外れ検出精度が低下する可能性を低減することができる。
【0047】
なお、本発明は上述した設定時間計算部24に限定されず、設定時間Ttを元波形Aの最小値と最大値の中間時点、すなわち元波形Aの立ち上り部のピーク傾き部の中央部分に設ければよい。例えば、設定時間Ttを、元波形Aの最大出力の30〜70%、好ましくは50%の中間時点としてもよい。
【0048】
図5(B)は、元波形Aの立ち上り部における減衰波形A1と遅延波形B1との交点時点Tnを示している。
【0049】
図4において、選択部26は、設定時間Ttから減衰率rと遅延時間Dtを選択する。
選択部26は、
図5(B)の交点時点Tnと設定時間Ttとの時間差Δtの絶対値Z(以下、単に「絶対値Z」という)が最小となる減衰率rと遅延時間Dtを選択する。
【0050】
図4において、出力部28は、減衰率rと遅延時間Dtに対応する制御信号CSを減衰回路15と遅延回路16に出力する。この制御信号CSにより、減衰回路15の減衰率rと遅延回路16の遅延時間Dtがそれぞれ設定される。
【0051】
時間計測部29は、交点時点Tn(すなわち回転翼2の通過時点TOA)に基づき回転翼2の時間間隔Tを算出する。
この時間間隔Tを高精度に計測することにより、これから回転翼2の振動振幅及び周波数を算出することができる。
【0052】
図6は、本発明による非接触翼振動計測方法を示す全体フロー図である。
本発明の非接触翼振動計測方法では、上述した設定時間Ttに対して実際にCFD回路14から出力された交点時点Tnがどうずれているかを比較し、遅延時間Dtと減衰率rを変化させてフィードバックし、最適な交点時点Tnを検出する。
【0053】
図6において、本発明の非接触翼振動計測方法は、S1〜S5の各ステップ(工程)からなる。
【0054】
ステップS1では、非接触センサ12により、回転翼2の通過を非接触で検出して時間経過tと共に出力レベルPが変化する元波形Aを出力し、制御装置20の波形取込部22に取り込む。
ステップS1は、回転翼2の回転が安定した後に、対象とする元波形Aを選択して実行するのがよい。
【0055】
ステップS2とS3では、設定時間計算部24により、元波形Aの出力レベルの最小値と最大値の中間時点を設定時間Ttに設定する。
【0056】
ステップS4では、CFD回路14により、元波形Aから回転翼2の通過時点TOA(すなわち交点時点Tn)を検出し、通過時点TOAが元波形Aの立ち上がり部又は立ち下がり部のピーク傾き部の中央部分であるように、CFD回路14の減衰率rと遅延時間Dtを調整する。
【0057】
ステップS5では、減衰率rと遅延時間Dtにそれぞれ対応する制御信号CSを設定値として出力する。
【0058】
ステップS5の後、CFD回路14の減衰率rと遅延時間Dtをそれぞれ設定値に設定する。次いで、CFD回路14から出力される交点時点Tnに基づき、回転翼2の時間間隔Tを高精度に計測することにより、これから回転翼2の振動振幅及び周波数を算出することができる。
【0059】
図7は、非接触翼振動計測装置10の第1実施形態図に対応するステップS4の詳細フロー図である。
この図において、ステップS4は、ST1〜ST10の各ステップ(工程)からなる。
【0060】
ステップST1において、減衰率rを複数(この例で4つ)のうちの最小値r(Min)に設定する。また同時に、交点時点Tnと設定時間Ttとの時間差Δtの絶対値Z(=|Tn−Tt|)の初期値を最小値Z(Min)として設定する。最小値Z(Min)の初期値は、元波形Aの立ち上り時間(立ち上り部の時間幅)より短く設定するのがよい。
【0061】
次いで、ステップST2において、遅延時間Dtを複数(この例で4つ)のうちの最大値Dt(Max)に設定する。
【0062】
ステップST3でCFD回路14から交点時点Tnを取得し、ステップST4で絶対値Zを算出する。設定時間Ttは、ステップS3で設定済である。
【0063】
ステップST5−1で絶対値Zとその最小値Z(Min)(初めは初期値)と比較する。ステップST5−1で絶対値Zがその最小値以下(YES)の場合、ST10で最小値Z(Min)を絶対値Zに置き換え、ステップST6に戻る。ステップST5−1で絶対値Zがその最小値以下でない(NO)の場合、そのままステップST6に移る。
【0064】
ステップST6で、遅延時間Dtをその最小値Dt(Min)と比較する。ステップST6で遅延時間Dtがその最小値Dt(Min)でない(NO)の場合、ステップST7−1で遅延時間Dtを1段小さくして、ステップST3に戻る。ステップST6で遅延時間Dtがその最小値Dt(Min)である(YES)の場合、そのままステップST8に移る。
【0065】
なお、ステップST5−1で絶対値Zがその最小値以下でない(NO)の場合であって、1段大きい遅延時間Dtの場合より絶対値Zが増加している場合には、ステップST6を省略して、ステップST8に移ってもよい。遅延時間Dtを更に小さくしても、絶対値Zが増加するためである。これにより、余分な計算を省略し、計算時間を短縮することができる。
【0066】
上述したST3〜ST7−1のステップにより、減衰率rを一定値に保持した場合における、複数の遅延時間Dtから、絶対値Zの最小値Z(Min)とその場合(絶対値Zが最小となる場合)の遅延時間Dtを選択することができる。
【0067】
ステップST8では、減衰率rをその最大値r(Max)と比較する。ステップST8でNO(減衰率rがその最大値でない)の場合、ステップST9−1で減衰率rを1段大きくして、ステップST2に戻る。ステップST8でYES(減衰率rがその最大値である)の場合、そのままステップS5に移る。ステップS4は終了する。
【0068】
上述したST8〜S5のステップにより、減衰率rを1段ずつ大きくした場合における、複数の遅延時間Dtから、絶対値Zの最小値Z(Min)とその場合の遅延時間Dtを選択することができる。
従って、ST1〜ST10のステップにより、絶対値Z(=|Tn−Tt|)が最小となる減衰率rと遅延時間Dtを選択することができる。
【0069】
図8は、本発明による非接触翼振動計測装置10の第2実施形態図である。
第2実施形態では、第1実施形態と同様に、CFD回路14により元波形Aの立ち上り部を検出する。
【0070】
図8において、減衰回路15は、制御装置20の制御信号CSにより、減衰率rを連続的に変更可能なプログラマブル減衰回路15cを有する。
また、遅延回路16は、制御装置20の制御信号CSにより、遅延時間Dtを連続的に変更可能なプログラマブル遅延回路16cを有する。
また、選択部26は、交点時点Tnと設定時間Ttとの時間差Δtの絶対値Z(=|Tn−Tt|)が閾値ε以下となる減衰率rと遅延時間Dtを選択する。
絶対値Zの閾値εは、元波形Aの立ち上り時間の10分の1から10分の2に予め設定するのがよい。
その他の構成は、第1実施形態と同様である。
【0071】
図9は、非接触翼振動計測装置10の第2実施形態図に対応するステップS4の詳細フロー図である。
この図において、ステップS4は、ST1〜ST11の各ステップ(工程)からなる。
【0072】
ステップST1において、連続的に変更可能な減衰率rを最小値r(Min)に設定する。
次いで、ステップST2において、連続的に変更可能な遅延時間Dtを最大値Dt(Max)に設定する。
【0073】
ステップST3で交点時点Tnを取得し、ステップST4で絶対値Z(=|Tn−Tt|)を算出する。
ステップST5−2で絶対値Zをその閾値εと比較する。ステップST5−2で絶対値Zが閾値以下(YES)の場合、そのままステップS5に移り、ステップS4は終了する。
【0074】
ステップST5−2でNO(絶対値Zが閾値εを超える)の場合、そのままステップST6に移る。
ステップST6で、遅延時間Dtをその最小値Dt(Min)と比較する。ステップST6で遅延時間Dtがその最小値以下でない(NO)の場合、ステップST7−2で遅延時間Dtを微小遅延時間ΔDtだけ小さくして、ステップST3に戻る。微小遅延時間ΔDtは、閾値εより小さく、その1/10〜5/10であるのがよい。
ステップST6でYES(遅延時間Dtがその最小値以下である)の場合、そのままステップST8に移る。
【0075】
上述したST3〜ST7−2のステップにより、減衰率rを一定値に保持した場合における、絶対値Zが閾値ε以下となる遅延時間Dtを選択することができる。
【0076】
ステップST8では、減衰率rをその最大値r(Max)と比較する。ステップST8でNO(減衰率rがその最大値以上でない)の場合、ステップST9−2で減衰率rを微小減衰率Δrだけ大きくして、ステップST2に戻る。微小減衰率Δrは、例えば元波形Aの最大出力の5〜10%であるのがよい。
ステップST8でYES(減衰率rがその最大値以上である)の場合、ステップST11に移り、エラーを出力する。
【0077】
上述したST8〜ST11のステップにより、減衰率rを微小減衰率Δrずつ大きくした場合における、絶対値Zが閾値ε以下となる遅延時間Dtを選択することができる。
従って、ST1〜ST11のステップにより、絶対値Z(=|Tn−Tt|)が閾値ε以下となる減衰率rと遅延時間Dtを選択することができる。
【0078】
図8において、出力部28は、減衰率rと遅延時間Dtにそれぞれ対応する制御信号CSを減衰回路15と遅延回路16に出力する。この制御信号CSにより、減衰回路15の減衰率rと遅延回路16の遅延時間Dtがそれぞれ設定される。
【0079】
時間計測部29は、交点時点Tnに基づき回転翼2の時間間隔Tを算出する。
この時間間隔Tを高精度に計測することにより、これから回転翼2の振動振幅及び周波数を算出することができる。
【0080】
図10は、本発明による非接触翼振動計測装置10の第3実施形態図である。
第3実施形態では、CFD回路14により元波形Aの立ち下り部を検出する。
この図において、CFD回路14は、元波形Aの立ち下り部を検出する回路であり、減衰回路15、遅延回路16、及びコンパレータ18を有する。
【0081】
減衰回路15と遅延回路16は、元波形Aを減衰かつ遅延させた減衰遅延波形B2を出力する。
【0082】
この例で、減衰回路15は、減衰率rが異なる複数(この例で4つ)の減衰素子15aと、その出力端子17aを減衰素子15aの1つに排他的に切り替えて接続し、減衰波形A1を出力する第1切替回路15bと、を有する。減衰回路15の構成は、第1実施形態と同様である。
減衰回路15の出力(減衰波形A1)は遅延回路16に入力される。
すなわち、減衰回路15の出力が、遅延回路16の入力となる。
【0083】
図10において、遅延回路16は、遅延時間Dtが異なる複数(この例で4つ)の遅延素子16aと、その出力端子17bを遅延素子16aの1つに排他的に切り替えて接続し、減衰遅延波形B2を出力する第2切替回路16bと、を有する。
【0084】
この例において、コンパレータ18の一方の入力端子18aには、元波形Aが入力され、他方の入力端子18bには遅延回路16の出力(減衰遅延波形B2)が入力される。
なお、減衰回路15と遅延回路16の位置は逆であってもよい。すなわち、減衰遅延波形B2は、元波形Aを遅延させかつ減衰させた波形であってもよい。
【0085】
図10において、選択部26は、絶対値Z(=|Tn−Tt|)が最小となる減衰率rと遅延時間Dtをそれぞれ選択する。
【0086】
第3実施形態の非接触翼振動計測方法は、元波形Aの立ち下り部を検出する点を除き、第1実施形態と同様である。
【0087】
図11は、本発明による非接触翼振動計測装置10の第4実施形態図である。
第4実施形態では、第3実施形態と同様に、CFD回路14により元波形Aの立ち下り部を検出する。
この図において、CFD回路14は、元波形Aの立ち下り部を検出する回路であり、減衰回路15、遅延回路16、及びコンパレータ18を有する。
【0088】
この図において、減衰回路15の出力が、遅延回路16の入力となる。また、コンパレータ18の一方の入力端子18aには、元波形Aが入力され、他方の入力端子18bには遅延回路16の出力が入力される。
なお、減衰回路15と遅延回路16の位置は逆であってもよい。
その他の構成は、第2実施形態と同様である。
【0089】
第4実施形態の非接触翼振動計測方法は、元波形Aの立ち下り部を検出する点を除き、第2実施形態と同様である。
【0090】
図12は、第3,4実施形態における設定時間計算部24の説明図であり、(A)は元波形A、(B)は元波形Aと減衰遅延波形B2を示す。
図12(A)において、出力レベル設定部24aは、低出力レベルP1と高出力レベルP2を設定する。
設定時間設定部24bは、元波形Aの立ち下り部が低出力レベルP1と一致する第1時点T1と、立ち下り部が高出力レベルP2と一致する第2時点T2との中間に設定時間Ttを設定する。
【0091】
図12(B)は、元波形Aの立ち下り部における元波形Aと減衰遅延波形B2との交点時点Tnを示している。
元波形Aの立ち下り部を検出する点を除き、その他の構成は、第1,2実施形態と同様である。
【0092】
上述した本発明によれば、制御装置20を備え、この制御装置20により、CFD回路14が検出する通過時点TOAが元波形A(すなわち入力波形)の立ち上がり部又は立ち下がり部のピーク傾き部の中央部分であるように、CFD回路14の減衰率rと遅延時間Dtを調整する。
【0093】
従って、元波形A(入力波形)が飽和波形である場合でも、CFD回路14のパラメータを最適化して、通過時点TOAの検出精度を高く維持できる。
【0094】
言い換えれば、本発明により、波形変化や波形の振動によっても、回転翼2の通過時点TOA(すなわち交点時点Tn)が元波形Aの立ち下り部又は立下り部となり、波形変化(波高値変化)に対する耐性を高めることができる。
【0095】
本発明は、車両用過給機、ジェットエンジン等の翼振動計測、およびジェットエンジン動翼のヘルスモニタリング装置に適用することができる。
また、元波形Aが非飽和波形である場合に対しても同様の処理が可能である。この場合、低出力レベルP1は飽和波形の場合と同じ位置であり、高出力レベルP2は元波形Aのピークに対して位置を設定することで調整が可能となる。
また、元波形AをADコンバータでデジタルに変換し、高速処理のCPUやDSP、FPGA等で同様の処理を行ってもよい。
【0096】
なお、本発明は上述した実施の形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0097】
A 元波形(入力波形)、A1 減衰波形、B1 遅延波形、
B2 減衰遅延波形、C 交点、CS 制御信号、Dt 遅延時間、
ΔDt 微小遅延時間、P 出力レベル、P1 低出力レベル、
P2 高出力レベル、r 減衰率、Δr 微小減衰率、
TOA 通過時点、T 時間間隔、Tn 交点時点、Tt 設定時間、
T1 第1時点、T2 第2時点、t 時間経過、Δt 時間差、
Z 絶対値、ε 閾値、1 軸心、2 回転翼、3 ケーシング、
4 ターボ機械、5 回転軸、10 非接触翼振動計測装置、
11 回転検出センサ、12 非接触センサ、13 飽和回路、
14 CFD回路、15 減衰回路、15a 減衰素子、
15b 第1切替回路、15c プログラマブル減衰回路、
16 遅延回路、16a 遅延素子、16b 第2切替回路、
16c プログラマブル遅延回路、17a,17b 出力端子、
18 コンパレータ、18a,18b 入力端子、20 制御装置、
22 波形取込部、22a ADC(アナログデジタルコンバータ)、
24 設定時間計算部、24a 出力レベル設定部、
24b 設定時間設定部、26 選択部、28 出力部、
29 時間計測部