(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6573213
(24)【登録日】2019年8月23日
(45)【発行日】2019年9月11日
(54)【発明の名称】永久磁石形同期電動機の制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 21/24 20160101AFI20190902BHJP
H02P 21/18 20160101ALI20190902BHJP
H02P 21/22 20160101ALI20190902BHJP
H02P 6/182 20160101ALI20190902BHJP
H02P 6/28 20160101ALI20190902BHJP
【FI】
H02P21/24
H02P21/18
H02P21/22
H02P6/182
H02P6/28
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-226419(P2015-226419)
(22)【出願日】2015年11月19日
(65)【公開番号】特開2017-99070(P2017-99070A)
(43)【公開日】2017年6月1日
【審査請求日】2018年10月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091281
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 雄一
(72)【発明者】
【氏名】野村 尚史
【審査官】
田村 惠里加
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−284694(JP,A)
【文献】
特開2009−44908(JP,A)
【文献】
国際公開第2014/157628(WO,A1)
【文献】
特開2001−190093(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 4/00,6/00−6/34,
21/00−25/03,25/04,
25/08−31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁極位置検出器を用いずに演算により永久磁石形同期電動機の回転子の速度及び磁極位置を推定し、これらの推定値に基づいて前記電動機の電機子電流を制御することにより前記電動機のトルク及び速度を制御する制御装置において、
前記電動機の電流、端子電圧をベクトルとしてとらえ、
前記電動機の磁極位置推定誤差を演算する位置推定誤差演算手段と、前記磁極位置推定誤差から前記電動機の速度を推定する速度推定手段と、速度推定値を積分して前記磁極位置を推定する積分手段と、を有し、
前記位置推定誤差演算手段は、
前記電動機の電流、端子電圧相当値、及び速度推定値を用いて第1の拡張誘起電圧を演算する拡張誘起電圧演算手段と、前記回転子の磁極と平行方向の電流であるd軸電流、前記速度推定値、及び前記第1の拡張誘起電圧を用いて第2の拡張誘起電圧を演算する拡張誘起電圧補償手段と、前記第2の拡張誘起電圧を用いて前記磁極位置推定誤差を演算する角度差演算手段と、を備え、
前記拡張誘起電圧補償手段は、
前記d軸電流が第1の閾値以下のときに、前記第1の拡張誘起電圧演算値に等しくなるように前記第2の拡張誘起電圧値を演算し、前記d軸電流が前記第1の閾値より大きい第2の閾値以上のときに、前記電動機の誘起電圧に等しくなるように前記第2の拡張誘起電圧を演算することを特徴とする、永久磁石形同期電動機の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載した永久磁石形同期電動機の制御装置において、
前記位置推定誤差演算手段は、
前記d軸電流が前記第1の閾値以下のときに零となり、前記d軸電流が第2の閾値以上のときに1となる重み係数を演算する手段を備えると共に、前記重み係数、前記速度推定値、前記d軸電流、及び前記第1の拡張誘起電圧演算値を用いて、前記第2の拡張誘起電圧演算値を演算することを特徴とする、永久磁石形同期電動機の制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載した永久磁石形同期電動機の制御装置において、
前記速度推定手段は比例調節器を備え、前記比例調節器における比例ゲインの上限値を前記重み係数の関数としたことを特徴とする、永久磁石形同期電動機の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁極位置検出器を持たない永久磁石形同期電動機の制御装置に関し、詳しくは制御の安定性を向上させる技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
永久磁石形同期電動機の制御装置をコストダウンするため、回転子の磁極位置を検出するための磁極位置検出器を使用しないで運転する、いわゆるセンサレスベクトル制御が実用化されている。センサレスベクトル制御は、電動機の端子電圧や電流の情報から回転子の磁極位置と速度とを演算し、これらに基づいて電流制御を行ってトルク制御や速度制御を実現するものである。
【0003】
例えば、非特許文献1には、埋込磁石構造の同期電動機の位置センサレスベクトル制御において、回転子の磁極方向に対して直交方向に発生する拡張誘起電圧を演算し、拡張誘起電圧演算値から磁極位置の推定誤差を検出すると共に、この磁極位置推定誤差を利用して磁極位置及び速度を演算することが記載されている。
しかしながら、非特許文献1に記載されているセンサレスベクトル制御では、低速時の安定性に問題がある。このため、低速域においては、例えば特開2001−190093号公報に記載されているように、電流の振幅を一定として電流の角速度を速度指令値に制御し、永久磁石形同期電動機の回転子を電流に引き込んで運転する技術が適用されることがある。このような運転方式を、以下では「電流引込制御」という。
【0004】
上記のように、電動機の速度に応じて制御方式を使い分ければ安定した制御が可能になるが、制御方式の切替時にショックが発生すると円滑な加減速運転が困難になるため、制御方式をショックレスにて切り替えることが望ましい。
このような観点から、例えば特許第5277724号公報に記載された制御装置では、電流引込制御からセンサレスベクトル制御への切り替え時に、電動機の電流、端子電圧、電流指令値の角速度から拡張誘起電圧を演算し、拡張誘起電圧の角度から磁極位置推定誤差を演算して磁極位置推定値を初期化すると共に、電流指令値の角速度を用いて速度推定値を初期化し、前記磁極位置推定誤差を用いて、電動機の端子電圧や電流が急変しないようにこれらの指令値を初期化し、電動機の電流、拡張誘起電圧及び電流指令値の角速度から演算したトルクを用いてトルク指令値を初期化することにより、ショックレスの切り替えを可能にしている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】田中康司,三木一郎,「拡張誘起電圧を用いた埋込磁石同期電動機の位置センサレス制御」,電気学会論文誌D,Vol.125,No.9,p.833−p.838,2005年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
さて、電流引込制御において電動機の最大トルクを大きくするためには、原理的に、回転子の磁極方向と平行方向の電流であるd軸電流を大きくするように制御する必要がある。
一方、非特許文献1によるセンサレスベクトル制御を安定的に行うためには、この文献に(5)式として記載された下記の拡張誘起電圧E
exが十分大きい必要がある。
E
ex=(L
d−L
q)(ωi
d−pi
q)+ωK
E
この演算式において、L
dはd軸インダクタンス、L
qはq軸インダクタンス、ωは回転子角速度、i
dはd軸電流、i
qはq軸電流、pは微分演算子、K
Eは誘起電圧定数である。
埋込磁石構造の同期電動機では、d軸インダクタンスL
dよりもq軸インダクタンスL
qの方が大きいため、上記の式によれば、d軸電流i
dが正方向に大きい場合には拡張誘起電圧E
exが小さくなり、結果としてセンサレスベクトル制御の安定性が低下する。
【0007】
従って、非特許文献1に記載された技術では、電流引込制御からセンサレスベクトル制御に切り替えた直後の安定性に問題があり、これを解決することが求められている。
そこで、本発明の解決課題は、d軸電流が大きい場合であってもセンサレスベクトル制御を安定的に実現可能とした永久磁石形同期電動機の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、磁極位置検出器を用いずに演算により永久磁石形同期電動機の回転子の速度及び磁極位置を推定し、これらの推定値に基づいて前記電動機の電機子電流を制御することにより前記電動機のトルク及び速度を制御する制御装置において、
前記電動機の電流、端子電圧をベクトルとしてとらえ、
前記電動機の磁極位置推定誤差を演算する位置推定誤差演算手段と、前記磁極位置推定誤差から前記電動機の速度を推定する速度推定手段と、速度推定値を積分して前記磁極位置を推定する積分手段と、を有し、
前記位置推定誤差演算手段は、
前記電動機の電流、端子電圧相当値、及び速度推定値を用いて第1の拡張誘起電圧を演算する拡張誘起電圧演算手段と、前記回転子の磁極と平行方向の電流であるd軸電流、前記速度推定値、及び前記第1の拡張誘起電圧を用いて第2の拡張誘起電圧を演算する拡張誘起電圧補償手段と、前記第2の拡張誘起電圧を用いて前記磁極位置推定誤差を演算する角度差演算手段と、を備え、
前記拡張誘起電圧補償手段は、
前記d軸電流が第1の閾値以下のときに、前記第1の拡張誘起電圧演算値に等しくなるように前記第2の拡張誘起電圧値を演算し、前記d軸電流が前記第1の閾値より大きい第2の閾値以上のときに、前記電動機の誘起電圧に等しくなるように前記第2の拡張誘起電圧を演算するものである。
これにより、d軸電流が大きい場合にも、センサレスベクトル制御を安定的に実現することができる。
【0009】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載した永久磁石形同期電動機の制御装置において、前記位置推定誤差演算手段は、前記d軸電流が前記第1の閾値以下のときに零となり、前記d軸電流が第2の閾値以上のときに1となる重み係数を演算する手段を備えると共に、前記重み係数、前記速度推定値、前記d軸電流、及び前記第1の拡張誘起電圧演算値を用いて、前記第2の拡張誘起電圧演算値を演算するものである。
【0010】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載した永久磁石形同期電動機の制御装置において、前記速度推定手段は比例調節器を備え、前記比例調節器における比例ゲインの上限値を前記重み係数の関数とした前記速度推定手段は比例調節器を備え、前記比例調節器における比例ゲインの上限値を前記重み係数の関数としたものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、電流引込制御からセンサレスベクトル制御への切り替え時のように、大きなd軸電流が流れている状態でセンサレスベクトル制御移行する場合の安定性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態を示す制御ブロック図である。
【
図2】d,q軸及びγ,δ軸の定義を示すベクトル図である。
【
図3】本発明の実施形態における重み係数を演算するための補償関数の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図に沿って本発明の実施形態を説明する。
図1は、本発明の実施形態を示す制御ブロック図である。
永久磁石形同期電動機(以下、PMSMともいう)は、回転子に同期した直交回転座標を構成するd,q軸上で制御を行うことで、高性能なトルク制御や速度制御を実現することができる。ここで、d,q軸については、回転子のN極に平行な方向をd軸と定義し、このd軸から90°進み方向をq軸と定義する。しかしながら、磁極位置検出器を用いないでPMSMを運転するセンサレス制御の場合、d,q軸の位置を直接検出することができないので、制御装置はd,q軸の推定軸であるγ,δ軸を内部に仮想し、電流,電圧の制御演算をγ,δ軸上で行っている。
【0014】
前後するが、
図2はd,q軸及びγ,δ軸の定義を示すベクトル図である。
図2に示すように、d,q軸の角速度をω
r(回転子速度)と定義し、γ,δ軸の角速度(速度推定値)をω
1と定義する。
また、PMSMのu相巻線を基準としたγ軸の角度(磁極位置推定値)θ
1とu相巻線を基準としたd軸の角度(磁極位置)θ
rとの角度差(位置推定誤差)θ
errを、数式1により定義する。
【数1】
【0015】
次に、
図1の制御ブロック図に基づいて、制御装置の構成及び動作について説明する。
まず、PMSM80の速度制御、電流制御、及び電圧制御に関する部分について説明する。
図1において、減算器16は速度指令値ω
r*と速度推定値ω
1との偏差を求め、速度調節器17は、上記偏差がゼロになるようにトルク指令値τ
*を演算する。電流指令演算器18は、トルク指令値τ
*に基づいて所望のトルクを発生するd軸電流指令値i
d*及びq軸電流指令値i
q*を演算し、これらの指令値はそれぞれγ軸電流指令値i
γ*,δ軸電流指令値i
δ*として制御に用いられる。
【0016】
一方、u相電流検出器11u,w相電流検出器11wによりそれぞれ検出したu相電流検出値i
u,w相電流検出値i
wは座標変換器14に入力され、磁極位置推定値θ
1を用いてγ軸電流検出値i
γ,δ軸電流検出値i
δに座標変換される。
減算器19aによりγ軸電流指令値i
γ*とγ軸電流検出値i
γとの偏差を求め、この偏差がゼロになるようにγ軸電流調節器20aがγ軸電圧指令値v
γ*を生成する。また、減算器19bによりδ軸電流指令値i
δ*とδ軸電流検出値i
δとの偏差を求め、この偏差がゼロになるようにδ軸電流調節器20bがδ軸電圧指令値v
δ*を生成する。
【0017】
座標変換器15は、磁極位置推定値θ
1を用いて、γ軸電圧指令値v
γ*,δ軸電圧指令値v
δ*を相電圧指令値v
u*,v
v*,v
w*に座標変換する。PWM回路13は、相電圧指令値v
u*,v
v*,v
w*に基づいて、インバータ等の電力変換器70の半導体スイッチング素子に与えるゲート信号を生成する。
【0018】
整流回路60は、三相交流電源50の三相交流電圧を整流して直流電圧に変換し、電力変換器70に供給する。
電力変換器70は、PWM回路13から出力されたゲート信号に基づいて半導体スイッチング素子を制御し、PMSM80の端子電圧を相電圧指令値v
u*,v
v*,v
w*に制御する。
以上の制御により、PMSM80の速度を速度指令値ω
r*に制御することができる。
【0019】
次に、PMSM80の速度及び磁極位置の推定技術について説明する。
まず、拡張誘起電圧演算器31は、数式2により、第1のγ軸,δ軸拡張誘起電圧e
exγest,e
exδestを演算する。
【数2】
【0020】
数式2において、PMSM80の端子電圧相当値であるγ軸電圧v
γ,δ軸電圧v
δには、それぞれγ軸電圧指令値v
γ*,δ軸電圧指令値v
δ*が用いられる。
ここで、数式2は、図示されていない電圧検出回路を用いてPMSM80の相電圧または線間電圧を測定し、これらの測定値と、磁極位置推定値θ
1から演算したγ軸電圧v
γ,δ軸電圧v
δとを使用して演算しても良い。また、γ軸電流i
γ,δ軸電流i
δの代わりにγ軸電流指令値i
γ*,δ軸電流指令値i
δ*を用いても良いし、速度推定値ω
1の代わりに速度指令値ω
r*を用いても良い。
【0021】
重み係数演算器41は、
図3に示す補償関数に従って重み係数K
EexEmfを演算する。この重み係数K
EexEmfは、d軸電流指令値i
d*が0〜第1の閾値i
dthEexの範囲にあるときには零、i
d*が第2の閾値i
dthEmfより大きい範囲にあるときは1とし、i
d*がi
dthEex〜i
dthEmfの範囲にあるときにはi
d*に比例して増加する関数である。
なお、重み係数K
EexEmfの演算は、d軸電流指令値i
d*の代わりにγ軸電流i
γを用いて行っても良い。
【0022】
図1の拡張誘起電圧補償器42は、数式3により、第2のγ軸,δ軸拡張誘起電圧e
exω1γ,e
exω1δを演算する。
【数3】
【0023】
第2の拡張誘起電圧演算値e
exω1γ,e
exω1δは、重み係数K
EexEmfが零のときに拡張誘起電圧演算値e
exγest,e
exδestにそれぞれ等しくなり、重み係数K
EexEmfが1のときに誘起電圧演算値e
mfγest,e
mfδestにそれぞれ等しくなる(重み係数K
EexEmfが1のときにe
mfγest,e
mfδestに等しくなる理由については、後述する)。
なお、数式3の演算は、γ軸電流i
γの代わりにd軸電流指令値i
d*を用いて行っても良い。
【0024】
次に、第2の拡張誘起電圧演算値e
exω1γ,e
exω1δを用いて速度及び磁極位置を演算する方法につき説明する。
角度差演算器32は、第2の拡張誘起電圧演算値e
exω1γ,e
exω1δから、数式4により位置推定誤差演算値θ
errestを求める。
【数4】
【0025】
更に、速度推定器33を構成する比例・積分調節器は、数式5により、位置推定誤差演算値θ
errestを比例・積分演算して速度推定値ω
1を求める。
【数5】
【0026】
積分器34は、速度推定値ω
1を積分して磁極位置推定値θ
1を演算する。
これらの演算により、位置推定誤差θ
errが零になるように速度推定値ω
1及び磁極位置推定値θ
1が演算され、これらの値を真値に収束させることができる。
なお、上記構成において、拡張誘起電圧演算器31、重み係数演算器41、拡張誘起電圧補償器42、及び角度差演算器32は、請求項における位置推定誤差演算手段を構成している。
【0027】
ここで、数式5による速度推定値ω
1の演算では、速度・位置推定系の安定性から、速度推定器の比例調節器における比例ゲインK
Pω1の上限値、及び、速度推定器の積分調節器における積分時定数T
Iω1の逆数の上限値を、数式6により制限する。
【数6】
【0028】
先に述べたように、第2の拡張誘起電圧演算値e
exω1γ,e
exω1δは、i
d*が小さく、重み係数K
EexEmfが零であるときに拡張誘起電圧演算値e
exγest,e
exδestにそれぞれ等しくなり、i
d*が大きく、重み係数K
EexEmfが1のときに誘起電圧演算値e
mfγest,e
mfδestにそれぞれ等しくなる。
このため、位置推定誤差演算値θ
errestは、重み係数K
EexEmfが零であるときに拡張誘起電圧演算値e
exγest,e
exδestの角度に等しくなり、重み係数K
EexEmfが1であるときに誘起電圧演算値e
mfγest,e
mfδestの角度に等しくなる。この結果、重み係数K
EexEmfの値により、速度・位置推定系の応答性が異なったものとなる。
【0029】
そこで、数式6に示したように、係数ω
dθerrKPを重み係数K
EexEmfの関数とすることで、重み係数K
EexEmfに応じて速度推定器比例ゲインK
Pω1の上限を演算し、系を安定化させる。
なお、数式6の演算は、d,q軸電流指令値i
d*,i
q*の代わりにγ,δ軸電流i
δ,i
γを用いて行っても良い。
【0030】
次に、重み係数K
EexEmfを1とすることで、前述の数式3により第2の拡張誘起電圧演算値e
exω1γ,e
exω1δを誘起電圧演算値e
mfγest,e
mfδestに等しくできる原理を説明する。
PMSM80のγ,δ軸における電圧方程式は、位置推定誤差θ
errが小さい場合、誘起電圧E
mfを用いて数式7のように近似することができる。
【数7】
【0031】
これにより、γ,δ軸誘起電圧演算値e
mfγest,e
mfδestを数式8のように求めることができる。
【数8】
【0032】
数式2,数式8より、電流微分項を零に近似すると、γ,δ軸誘起電圧演算値
emfγest,e
mfδestは、第1のγ,δ軸拡張誘起電圧演算値e
exγest,e
exδestを用いて数式9により求めることができる。
【数9】
ここで、数式9の右辺の演算は、数式3において重み係数K
EexEmfを1としたときの演算と同じである。
【0033】
以上のことから、重み係数演算器41により、d軸電流指令値i
d*の大きさに応じて重み係数K
EexEmfを零から1に制御することで、数式3により、第2のγ,δ軸拡張誘起電圧演算値e
exω1γ,e
exω1δを第1のγ,δ軸拡張誘起電圧演算値e
exγest,e
exδestからγ,δ軸誘起電圧演算値e
mfγest,e
mfδestにスムースに移行できることが明らかである。
【0034】
次に、d軸電流i
dが大きい場合にも、γ,δ軸誘起電圧演算値e
mfγest,e
mfδestから位置推定誤差θ
errを演算でき、センサレスベクトル制御を安定的に実現できることを説明する。
数式7,数式8より、γ,δ軸誘起電圧演算値e
mfγest,e
mfδestと位置推定誤差θ
errとの間には、数式10の関係がある。
【数10】
【0035】
数式10より、γ,δ軸誘起電圧演算値e
mfγest,e
mfδestの角度から位置推定誤差θ
errを演算することができる。また、数式7より、誘起電圧E
mfは、d軸電流i
dに依存しない。このため、d軸電流i
dが大きい場合にも、γ,δ軸誘起電圧演算値e
mfγest,e
mfδestから位置推定誤差θ
errを演算可能であり、センサレスベクトル制御を安定的に実現することができる。
【0036】
以上のように、本実施形態によれば、d軸電流が小さいときは拡張誘起電圧の角度を用いて速度推定値及び位置推定値を演算すると共に、d軸電流が大きいときは誘起電圧の角度を用いて速度推定値及び位置推定値を演算することにより、センサレスベクトル制御を安定的に実現することができる。
【符号の説明】
【0037】
11u:u相電流検出器
11w:w相電流検出器
13:PWM回路
14,15:座標変換器
16,19a,19b:減算器
17:速度調節器
18:電流指令演算器
20a:γ軸電流調節器
20b:δ軸電流調節器
31:拡張誘起電圧演算器
32:角度差演算器
33:速度推定器
34:積分器
41:重み係数演算器
42:拡張誘起電圧補償器
50:三相交流電源
60:整流回路
70:電力変換器
80:永久磁石形同期電動機(PMSM)