特許第6573214号(P6573214)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6573214
(24)【登録日】2019年8月23日
(45)【発行日】2019年9月11日
(54)【発明の名称】マスターバッチの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/22 20060101AFI20190902BHJP
   C08L 7/00 20060101ALI20190902BHJP
   C08L 9/00 20060101ALI20190902BHJP
【FI】
   C08J3/22CEQ
   C08L7/00
   C08L9/00
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-242975(P2015-242975)
(22)【出願日】2015年12月14日
(65)【公開番号】特開2017-110037(P2017-110037A)
(43)【公開日】2017年6月22日
【審査請求日】2018年10月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078813
【弁理士】
【氏名又は名称】上代 哲司
(74)【代理人】
【識別番号】100094477
【弁理士】
【氏名又は名称】神野 直美
(72)【発明者】
【氏名】高木 智浩
【審査官】 大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−302087(JP,A)
【文献】 特開平10−237190(JP,A)
【文献】 特開昭59−109339(JP,A)
【文献】 特開2008−138043(JP,A)
【文献】 特開平06−192487(JP,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2009−0068487(KR,A)
【文献】 特開2016−210834(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/00−3/28;99/00
C08K 3/00−13/08
C08L 1/00−101/14
B60C 1/00−19/12
B29B 7/00−11/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダーゴムと加硫用ゴム薬品とを混練りすることによりマスターバッチを製造するマスターバッチの製造方法であって、
イソプレンゴムと天然ゴムとを、前記バインダーゴムの総量に対して前記天然ゴムの配合量が20〜40wt%になるように混練機に投入し、
その後、投入された前記イソプレンゴムと前記天然ゴムとを、前記イソプレンゴムおよび前記天然ゴムをラッピングしていたラッピングフィルムの融点よりも高い温度で素練りすることにより、前記バインダーゴムを作製し、
前記素練りにより作製された前記バインダーゴムに、前記加硫用ゴム薬品を添加して混練りすることにより、前記マスターバッチを製造することを特徴とするマスターバッチの製造方法。
【請求項2】
前記マスターバッチにおける前記加硫用ゴム薬品と前記バインダーゴムの重量比が、60:40〜85:15であることを特徴とする請求項1に記載のマスターバッチの製造方法。
【請求項3】
前記イソプレンゴムと前記天然ゴムとの素練りに用いられる混練機が、バンバリーミキサーであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のマスターバッチの製造方法。
【請求項4】
前記イソプレンゴムと前記天然ゴムとの素練りにおける素練り温度が、130〜160℃であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のマスターバッチの製造方法。
【請求項5】
前記イソプレンゴムと前記天然ゴムとの素練りの時間が、100〜180秒であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のマスターバッチの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ用ゴム材料などの製造において用いられるマスターバッチを製造するマスターバッチの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤ用ゴム材料などのゴム組成物の製造においては、予め、イオウ(加硫剤)や加硫促進剤等の加硫用ゴム薬品(以下、単に「ゴム薬品」ともいう)とゴム(バインダーゴム)とを混練りすることによりマスターバッチ化し、このマスターバッチを他の配合成分と混合することにより所望するゴム組成物を製造することが広く行われている(例えば特許文献1)。
【0003】
このようにマスターバッチ化することにより、ゴム組成物の製造時、ゴム薬品の飛散等の問題が解消されると共に、ハンドリング性が向上して自動計量が可能となるため、他の配合成分との混合時間が短縮できると共に、ゴム薬品を均一性良く分散させることができる。
【0004】
このようなマスターバッチの一例に、イオウや加硫促進剤等の加硫用ゴム薬品が添加されたマスターバッチがあり、イソプレンゴム(IR)をバインダーゴムとしてゴム薬品を混合することにより製造されている。
【0005】
そして、このようなマスターバッチを製造するにあたっては、通常、ベール状に成形されて表面にラッピングフィルムが貼り付けられたゴムが使用されている。このラッピングフィルムの融点は120℃程度と混練り時の温度に比べて高いため、混練機への投入前にラッピングフィルムを剥がしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−1230号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ベール状のゴムからラッピングフィルムを完璧に取り除くことは容易ではなく、ラッピングフィルムの剥がし残りがマスターバッチに異物として混入して、混練りされたマスターバッチをシート出しする際にシート切れが発生する恐れがあった。
【0008】
このようなラッピングフィルムの混入を防ぐためには、混練りの温度をラッピングフィルムの融点である120℃以上に上昇させて融解させればよいが、加硫用ゴム薬品を添加してマスターバッチを製造する場合、加硫用ゴム薬品の融点はいずれも100℃程度であるため、このような高い温度まで混練り温度を上昇させてしまうと、ゴム薬品が先に融解して、マスターバッチが製造できなくなる恐れがある。
【0009】
このため、加硫用ゴム薬品を添加してマスターバッチを製造する際、ラッピングフィルムの剥がし残りがあったとしても、マスターバッチにラッピングフィルムが異物として混入されることがなく、シート切れの発生を防止することができるマスターバッチの製造方法が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、鋭意検討を行い、以下に記載する発明により上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
請求項1に記載の発明は、
バインダーゴムと加硫用ゴム薬品とを混練りすることによりマスターバッチを製造するマスターバッチの製造方法であって、
イソプレンゴムと天然ゴムとを、前記バインダーゴムの総量に対して前記天然ゴムの配合量が20〜40wt%になるように混練機に投入し、
その後、投入された前記イソプレンゴムと前記天然ゴムとを、前記イソプレンゴムおよび前記天然ゴムをラッピングしていたラッピングフィルムの融点よりも高い温度で素練りすることにより、前記バインダーゴムを作製し、
前記素練りにより作製された前記バインダーゴムに、前記加硫用ゴム薬品を添加して混練りすることにより、前記マスターバッチを製造することを特徴とするマスターバッチの製造方法である。
【0012】
請求項2に記載の発明は、
前記マスターバッチにおける前記加硫用ゴム薬品と前記バインダーゴムの重量比が、60:40〜85:15であることを特徴とする請求項1に記載のマスターバッチの製造方法である。
【0013】
請求項3に記載の発明は、
前記イソプレンゴムと前記天然ゴムとの素練りに用いられる混練機が、バンバリーミキサーであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のマスターバッチの製造方法である。
【0014】
請求項4に記載の発明は、
前記イソプレンゴムと前記天然ゴムとの素練りにおける素練り温度が、130〜160℃であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のマスターバッチの製造方法である。
【0015】
請求項5に記載の発明は、
前記イソプレンゴムと前記天然ゴムとの素練りの時間が、100〜180秒であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のマスターバッチの製造方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、加硫用ゴム薬品を添加してマスターバッチを製造する際、ラッピングフィルムの剥がし残りがあったとしても、マスターバッチにラッピングフィルムが異物として混入されることがなく、シート切れの発生を防止することができるマスターバッチの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明者は、上記した課題について種々の検討を行った結果、バインダーゴムとして用いるゴムを、従来のイソプレンゴムから、イソプレンゴムと天然ゴムとの混合物に変更し、この混合物をラッピングフィルムの融点以上の温度で予め素練りすることにより、剥がし残りのラッピングフィルムを溶融させてシート切れの発生を防止できることを見出した。
【0018】
しかし、上記のようなイソプレンゴムと天然ゴムとの混合物をバインダーゴムとして用いる場合、天然ゴムの配合割合が大きすぎると、シート出しにおいて、マスターバッチの押出吐出量が従来よりも少なくなって生産性の低下を招くという新たな問題が発生した。
【0019】
そこで、本発明者は、更なる検討を行った結果、バインダーゴムの総量に対する天然ゴムの配合量を20〜40wt%に設定することにより、製造後のマスターバッチのシート出しに際して押出吐出量を十分に確保することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0020】
即ち、本発明のマスターバッチの製造方法は、イソプレンゴムと天然ゴムとを、バインダーゴムの総量に対して天然ゴムの配合割合が20〜40wt%になるように混練機に投入し、その後、投入されたイソプレンゴムと天然ゴムとを、イソプレンゴムおよび天然ゴムをラッピングしていたラッピングフィルムの融点よりも高い温度で素練りすることによりバインダーゴムを作製する点において従来と異なっている。
【0021】
このように、イソプレンゴムと天然ゴムとをラッピングフィルムの融点以上の温度で素練りすることにより、ラッピングフィルムの剥がし残りがあった場合でも、素練り中にラッピングフィルムが溶融されて練り込まれるため、製造後のマスターバッチに異物が混入してシート切れが発生することを防止することができる。そして、この素練りに際して加硫剤や加硫促進剤などのゴム薬品が添加されていないため、ゴム薬品が溶融してしまうこともない。
【0022】
また、本発明のマスターバッチの製造方法においては、天然ゴムの配合割合が20〜40wt%に設定されているため、上記のように、製造後のマスターバッチの押出吐出量を十分に確保することができる。
【0023】
以下、本発明を実施の形態に基づいて説明する。
【0024】
本実施の形態に係るマスターバッチの製造方法においては、先ず、ラッピングフィルムを剥がしたベール状の天然ゴムとイソプレンゴムを所定量秤量した後、混練機に投入して素練りを行う。そして、素練り後のバインダーゴムをシート状に押出成形した後、シート状のバインダーゴムをクーリングラインにおいて冷却しながら搬送して、マスターバッチの混練り工程に送る。
【0025】
この素練りにおける天然ゴムの配合量は、バインダーゴムの総量に対して20〜40wt%である。これにより、異物混入によるシート切れの発生を防止することができると共に、製造後のマスターバッチの押出吐出量を十分に確保することができる。
【0026】
天然ゴムの配合量が20wt%未満の場合には、シート状に成形されたバインダーゴムにラッピングフィルムが残ってクーリングラインにおいてシート切れが発生する恐れがあり、40wt%を超えた場合には素練り後のバインダーゴムの押出吐出量が少なくなって生産性の低下を招く恐れがある。
【0027】
そして、素練り温度は、以下の理由により、130〜160℃に設定されていることが好ましい。
【0028】
即ち、ラッピングフィルムの融点は、一般に120℃程度であるため、ラッピングフィルムの融点よりも高い130℃以上の温度で素練りすることにより、ラッピングフィルムの剥がし残りがあった場合でも、ラッピングフィルムを十分に溶融させてバインダーゴムと一体化させることができるため、溶け残ったラッピングフィルムが異物としてマスターバッチに混入される恐れがない。
【0029】
一方、素練り温度が160℃を超えてしまうと、バインダーゴムが練られすぎて柔らかくなり、素練り後のバインダーゴムをシート化することが困難になる恐れがある。
【0030】
また、素練り時間は100〜180秒に設定されていることが好ましい。100秒未満の場合にはバインダーゴムの潰れ不良が発生する恐れがあり、180秒を超える場合にはバインダーゴムが練られすぎて柔らかくなり、バインダーゴムをシート化することが困難になる恐れがある。
【0031】
また、バインダーゴムを素練りする混練機としては、バンバリーミキサーやニーダーなど、一般的な混練機を用いることができるが、効率的にバインダーゴムを素練りするために、イソプレンゴムと天然ゴムとを加圧しながら素練りすることができるバンバリーミキサーがより好ましい。
【0032】
上記のように素練り後にシート状に成形されたバインダーゴムは、クーリングラインを経てニーダーなどの混練機に投入され、加硫剤(イオウ)や加硫促進剤などのゴム薬品が添加される。そして、混練機においてゴム薬品の融点以下の温度で所定時間混練りを行い、マスターバッチが製造される。
【0033】
このとき、投入するゴム薬品とバインダーゴムとの重量比は、60:40〜85:15であることが好ましい。これにより、ゴム薬品が適切に分散、混入されたマスターバッチを得ることができる。
【0034】
本実施の形態においては、上記したように、所定の割合で配合されたイソプレンゴムと天然ゴムとの混合物をバインダーゴムとして用い、ラッピングフィルムの融点以上の温度で予め素練りしているため、剥がし残りのラッピングフィルムを適切に溶融させてシート切れの発生を防止することができると共に、製造後のマスターバッチを適切な押出吐出量で吐出させることができる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。
【0036】
1.試験体の作製
(1)試験例1〜6
先ず、試験例1〜6として、それぞれ表1に示す配合のゴムをバインダーゴムとして用い、ローターの回転数が65rpmに設定されたバンバリーミキサーを用いて素練りしてバインダーゴムを作製した。このとき、ラッピングフィルムの溶け残りを調べるために、少量のラッピングフィルムをバンバリーミキサーに投入し、素練り温度をラッピングフィルムの融点よりも高い温度に設定した。
【0037】
次に、素練り後のバインダーゴムを、押出回転数が15rpmに設定された押出機を用いてシート状に成形した後、シート状のバインダーゴムをクーリングラインにて冷却しながらニーダーに向けて搬送した。
【0038】
そして、シート状のバインダーゴムと表1に示す量のステアリン酸をニーダーに投入し、さらに、表1に示す量の5%オイル処理イオウを3回に分けて投入して、80℃で12分間の混練りを行い、6種類のマスターバッチ(B〜G)を得た。
【0039】
(2)従来例
バインダーゴムとして、天然ゴムを添加せず、素練りを行なわないイソプレンゴムを用いたこと以外は、上記と同様にして、従来例のマスターバッチ(A)を得た。
【0040】
2.評価
(1)シート切れの発生有無
シート状に成形されたバインダーゴムにおいて、ラッピングフィルムが混入していないかを、クーリングラインにおけるシート切れの発生の有無を目視観察することにより確認した。結果を表1に示す。
【0041】
(2)押出吐出量
素練り後のバインダーゴムをシート状に押出加工する際の押出機からの押出吐出量を1時間毎に測定してその平均値を算出した。結果を表1に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
表1より、天然ゴムとイソプレンゴムとを適切な割合で配合して素練りした試験例1、2、4、5、6では、素練りにおいてラッピングフィルムが適切に溶融され、クーリングラインでのバインダーゴムのシート切れが発生していないことが分かった。このことから、天然ゴムの配合量を20wt%以上にすることにより、クーリングラインでのシート切れを防止できることが確認できた。
【0044】
さらに、試験例3〜試験例6においては、335kg/h以上という従来に比べて遜色ない高い押出吐出量でマスターバッチの押出成形ができることが分かった。なお、試験例1、2については、クーリングラインでのシート切れは発生していなかったが、マスターバッチ製造時の押出吐出量が従来例に比べて、それぞれ、80kg/h、60kg/h低下した。このことから、天然ゴムの配合量を40wt%以下にすることにより、押出吐出量を高い状態に維持して製造効率を向上できることが確認できた。
【0045】
そして、天然ゴムの配合量を20wt%に設定した場合(試験例6)には、シート切れの発生を適切に防止した上で、従来例と同じ押出吐出量で最も好ましくマスターバッチを製造できることが確認できた。
【0046】
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、上記の実施の形態に対して種々の変更を加えることが可能である。