(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6573300
(24)【登録日】2019年8月23日
(45)【発行日】2019年9月11日
(54)【発明の名称】加工工具
(51)【国際特許分類】
B23G 1/46 20060101AFI20190902BHJP
B23B 31/02 20060101ALI20190902BHJP
【FI】
B23G1/46 H
B23B31/02 601D
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2019-65276(P2019-65276)
(22)【出願日】2019年3月29日
【審査請求日】2019年4月11日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390027764
【氏名又は名称】カトウ工機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】特許業務法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】グィエン ディン ディン
【審査官】
村上 哲
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭62−195416(JP,U)
【文献】
特開2011−189446(JP,A)
【文献】
特開平07−060544(JP,A)
【文献】
特開昭58−155137(JP,A)
【文献】
特開2012−091251(JP,A)
【文献】
欧州特許出願公開第1837107(EP,A2)
【文献】
米国特許第6454277(US,B1)
【文献】
中国実用新案第203409285(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23G 1/46
B23B 31/02
B23B 31/20
WPI
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
連結部(1a)が上位装置に連結され、筒部(1b)を有する上部体(1)と、
上部体(1)の筒部(1b)に装着され、筒状の外壁が切り込まれて片持ち板ばね(11)が形成されたホルダー本体(2)と、
筒部(1b)に形成された窪み(12)に保持され、一側がホルダー本体(2)の片持ち板ばね(11)に形成された溝(14)に係合する鋼球(3)と、
ホルダー本体(2)の下端に設けられ、工具(20)を交換可能に把持するタップ把持具(15)と、
筒部(1b)にネジ着され、外側から筒部(1b)と鋼球(3)を覆うように設けられるカバー(13)と、
が備えられ、
工具(20)からの押し返し力(25)又は工具(20)の引張り力(26)によって、片持ち板ばね(11)が撓み、ホルダー本体(2)が軸方向に微小変位することを特徴とする加工工具。
【請求項2】
ホルダー本体(2)の内部に、
上部体(1)の軸孔に上部が装着され、軸方向と直交する方向に吐出するクーラント流路(10)が形成された芯棒(7)と、
前記芯棒(7)の下部が挿入され、クーラント流路(10)がコ字形のクーラントダンパ(6)を有する円筒状のボディ部(2a)と、
がさらに備えられることを特徴とする請求項1に記載の加工工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工工具に係り、より詳しくは、片持ち板ばねによるホルダー本体の微小伸縮が可能な加工工具に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、軸方向に微小伸縮が可能な加工工具(タッパー)が示される。この加工工具は、上部体とホルダー本体からなり、上部体を工作機械の主軸に装着し、ホルダー本体の下端のコレットチャックに工具(タップ)を取り付ける。ホルダー本体は、環状の第1弾性体と第2弾性体で支持され、工具(タップ)で工作物にネジ穴をあける際、タップの押し返し力や引張り力で、微小伸縮する。具体的には、第1弾性体がタップの押し返し力で縮み、第2弾性体がタップの引張り力で縮む。しかしながら、第1及び第2弾性体は、耐油性のゴムからなるので、弾性係数にばらつきがあり正確な荷重計算が難しい。
【0003】
特許文献2には、軸方向に微小伸縮が可能なタップホルダーが示される。このタップホルダーは、シャンクとホルダー本体からなり、シャンクを工作機械の主軸に装着し、ホルダー本体の下端に設けられたタップコレットに工具(タップ)を取り付ける。微小伸縮は、鋼球と、ワッシャーと、巻きばねと、ナットと、ボルトとで行なう。しかしながら、簡単な構造の微小伸縮機構が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−11474号公報
【特許文献2】特開2011−189446号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、正確で安定したホルダー本体の微小伸縮が可能な加工工具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による加工工具は、連結部(1a)が上位装置に連結され、筒部(1b)を有する上部体(1)と、上部体(1)の筒部(1b)に装着され、筒状の外壁が切り込まれて片持ち板ばね(11)が形成されたホルダー本体(2)と、筒部(1b)に形成された窪み(12)に保持され、一側がホルダー本体(2)の片持ち板ばね(11)に形成された溝(14)に係合する鋼球(3)と、上端がホルダー本体(2)の下端に設けられ、工具(20)を交換可能に把持するタップ把持具(15)と、筒部(1b)にネジ着され、外側から筒部(1b)と鋼球(3)を覆うように設けられるカバー(13)と、が備えられ、工具(20)からの押し返し力(25)又は工具(20)の引張り力(26)によって、片持ち板ばね(11)が撓み、ホルダー本体(2)が軸方向に微小変位することを特徴とする。
【0007】
ホルダー本体(2)の内部に、上部体(1)の軸孔に上部が装着され、軸方向と直交する方向に吐出するクーラント流路(10)が形成された芯棒(7)と、前記芯棒(7)の下部が挿入され、クーラント流路(10)がコ字形のクーラントダンパ(6)を有する円筒状のボディ部(2a)と、がさらに備えられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明による加工工具によれば、(1)片持ち板ばねと鋼球とによってホルダー本体の微小伸縮を可能としたので、ゴムのような劣化がなく、耐久性のある微小伸縮機構を得ることができる。(2)また、片持ち板ばねの撓みを利用するので、ばらつきがなく、正確で安定した微小伸縮が実現できる。(3)工具(タップ)からの押し返し力では、鋼球の作用点がやや支点寄りなので、強い押し返し力で撓むようにできる。工具(タップ)の引張り力では、片持ち板ばねの作用点が支点からやや遠いので、弱い引張り力でも撓むようにできる。
【0009】
ホルダー本体の内部に、上部体の軸孔に装着される芯棒と、芯棒の下部が挿入されるボディ部と、を設け、芯棒に軸方向と直交する方向(水平方向)に吐出するクーラント流路を形成し、ボディ部にコ字形のクーラント流路でクーラントダンパを形成したので、上位装置から送り込んだクーラント(冷却液)による工具(タップ)の冷却ができる。なお、ボディ部にコ字形のクーラントダンパを形成したので、芯棒からボディ部への流路が軸方向と直交する方向、つまり水平にできるので、芯棒の上下方向2箇所にオーリングのシールを行なうことで、芯棒周辺からのクーラント(冷却液)の漏れを効果的に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明による加工工具の構造図(実施例1)である。
【
図2】本発明による加工工具の構造図(実施例2)である。
【
図3】本発明による加工工具の構造図(実施例3)である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明による加工工具を説明する。
【実施例】
【0012】
図1は、本発明による加工工具100の構造図(実施例1)である。実施例1はクーラント流路がないタイプである。加工工具100は、上部体1と、ホルダー本体2と、鋼球3と、タップコレット15aと、から構成される。上部体1は、連結部1aと下部の筒部1bからなる。連結部1aは、工作機械やロボットの上位装置に着脱自在に連結される部分である。
図1では、連結部1aは工作機械の主軸に連結されるシャンクを図示した。ホルダー本体2は、上部体1の筒部1bに装着され、筒状の外壁が切り込まれて片持ち板ばね11が形成される。鋼球3は、上部体1の筒部1bに形成された窪み12に保持される。ホルダー本体2を筒部1bに挿入した後、鋼球3を窪みに入れて、カバー13をねじ込んで被せ、鋼球3の脱落を防ぐ。この時、鋼球3は、一側がホルダー本体2の片持ち板ばね11に形成された円弧状の溝14に係合させる。タップアダプタ4は、上端がホルダー本体2の下部に嵌め込まれ、止めねじ5で固定される。タップアダプタ4の下側には、タップ把持具15であるタップコレット15aが設けられるので、工具20を把持すると共に、工具20の交換を容易に行なえる。
【0013】
図1に示すように、上部体1の筒部1bの外周に形成された複数の窪み12に保持された鋼球3が、片持ち板ばね11の円弧状の溝14に係合した状態では、ホルダー本体2が鋼球3で吊り下げられたような状態となる。
【0014】
図2は、本発明による加工工具100の構造図(実施例2)である。実施例2は、工具20を冷却できるクーラント流路があるタイプである。加工工具100は、上部体1と、ホルダー本体2と、鋼球3と、タップコレット15aと、から構成される。これらは
図1と同じなので説明を省略する。ホルダー本体2の片持ち板ばね11も
図1と同様に有しているが、これも図示は省略する。ホルダー本体2の内部には、上から下に向かって芯棒7と、ボディ部2aとが設けられる。芯棒7は上部が上部体1の軸孔にネジ着され、下部がボディ部2aの凹部に挿入される。芯棒7には、上から下に向かってクーラント流路10が設けられ、途中で図面の右方向(軸方向と直交する方向)に曲がり、ボディ部2aのクーラント流路10に繋がる。ボディ部2aは、円柱状で、内部にはクーラント流路10がコ字形のクーラントダンパ6が設けられ、流路は下端の中央から下方向に抜ける。なお、工具20には、軸中心に流路が設けられており、クーラントは工具20の先端から吐出される。クーラントの漏れを防止するため、芯棒7の流路の出口付近の上下にオーリング8、8が設けられる。流路が軸方向と直交する方向に曲げられているので、良好なシールができる。ボディ部2aの下部にもオーリング9が設けられる。
【0015】
図3は、本発明による加工工具100の構造図(実施例3)である。実施例3は、実施例2と同様に、工具20を冷却できるクーラント流路を有するタイプである。加工工具100は、上部体1と、ホルダー本体2と、鋼球3と、コレットチャック15bと、から構成される。ホルダー本体2の片持ち板ばね11も、
図1と同様にあるが図示は省略している。ホルダー本体2の内部には、上から下に向かって芯棒7と、ボディ部2aとが設けられる。芯棒7は上側が上部体1の軸孔にネジ着され、下側がボディ部2aの凹部に挿入される。芯棒7には、上から下に向かってクーラント流路10が設けられ、途中で図面の右方向に曲がり、ボディ部2aのクーラント流路10に繋がる。ボディ部2aはクーラント流路10をコ字形に形成したクーラントダンパ6が形成され、流路は、下端中央から下方向に抜ける。ホルダー本体2の下端には、タップ把持具15であるコレットチャック15bが設けられるので、工具20を把持すると共に、工具20の交換を容易に行なえる。
【0016】
図4は、
図1、2の片持ち板ばね11の説明図である。(A)は通常状態で、工具20には負荷がかかっていないとする。鋼球3は、窪み12から内側に飛び出ないように保持されており、鋼球3の一部が、片持ち板ばね11の円弧状の溝14に係合している。(B)は、工具20が、押し返し力25で示す方向に押し返した場合を示す。この場合、ホルダー本体2が図面左方向に押し返し量Δcだけ押し返されるとする。その場合、溝14の右側の傾斜面が鋼球3で押され、片持ち板ばね11が軸の中心方向に撓む。押し返し力25は、ネジ切り開始時、工具20を回転しながら部材に押し付ける場合などにかかる。(C)は、工具20が、引張り力26で示す方向に引っ張った場合を示す。この場合、ホルダー本体2が図面右方向に引張り量Δtだけ引っ張られるとする。その場合、溝14の左側の傾斜面が鋼球3で押され、片持ち板ばね11の先端が軸の中心方向に撓む。引張り力26は、ネジ切りが終了し、工具20を回転しながら引き抜く場合などにかかる。(B)、(C)に示すように、押し返し力25又は引張り力26によって、ホルダー本体2を軸方向に微小変位させることができる。
【0017】
図5は、片持ち板ばね11と鋼球3の関係を示す図である。(A)に示すように、鋼球3は、片持ち板ばね11に形成された溝14に係合させている。(B)に示すように、片持ち板ばね11が図面の左右方向にわずかに動くと、どちらに動いても、溝14の傾斜面が鋼球3にあたって、片持ち板ばね11の先端が撓む。また、片持ち板ばね11は、上部体(1)からホルダー本体(2)へのトルク伝達力でも溝14の傾斜面が鋼球3にあたって、片持ち板ばね11の先端が撓む。
【0018】
図6は、片持ち板ばね11の動作説明図である。(A)に示すように、荷重Fのかかる作用点が支点から近い場合、大きな荷重で片持ち板ばね11が撓む。(B)に示すように、荷重Fのかかる作用点が支点から遠い場合、小さな荷重でも片持ち板ばね11が撓む。なお、作用点が同じでも、
図5において、鋼球3の左側と右側では、支点からの距離が異なるので、鋼球3の右側が作用点となる場合を押し返し力25にするのがよい。一般に、押し返し力25と引張り力26では、押し返し力25の方が、荷重が大きいことによる。(C)に示すように、片持ち板ばね11を荷重に対し、どの程度撓ませるかは、支点の箇所の板厚を薄くするか厚くするかで調節できる。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明は、微小伸縮が可能な加工工具として好適である。
【符号の説明】
【0020】
1 上部体
1a 連結部
1b 筒部
2 ホルダー本体
2a ボディ部
3 鋼球
4 タップアダプタ
5 止めねじ
6 クーラントダンパ
7 芯棒
8、9 オーリング
10 クーラント流路
11 片持ち板ばね
12 窪み
13 カバー
14 溝
15 タップ把持具
15a タップコレット
15b コレットチャック
20 工具(タップ)
25 押し返し力
26 引張り力
32 第1弾性体
33 第2弾性体
100 加工工具
【要約】
【課題】正確で安定した微小伸縮が可能な加工工具を提供する。
【解決手段】連結部(1a)が上位装置に連結され、筒部(1b)を有する上部体(1)と、上部体(1)の筒部(1b)に装着され、筒状の外壁が切り込まれて片持ち板ばね(11)が形成されたホルダー本体(2)と、筒部(1b)に形成された窪み(12)に保持され、一側がホルダー本体(2)の片持ち板ばね(11)に形成された溝(14)に係合する鋼球(3)と、ホルダー本体(2)の下端に設けられ、工具(20)を交換可能に把持するタップ把持具(15)と、筒部(1b)にネジ着され、外側から筒部(1b)と鋼球(3)を覆うように設けられるカバー(13)と、を備え、工具からの押し返し力(25)又は工具の引張り力(26)によって、片持ち板ばね(11)が撓み、ホルダー本体(2)を軸方向に微小変位させる。
【選択図】
図1