特許第6573301号(P6573301)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6573301
(24)【登録日】2019年8月23日
(45)【発行日】2019年9月11日
(54)【発明の名称】張力制御装置及び防護柵
(51)【国際特許分類】
   E01F 7/04 20060101AFI20190902BHJP
【FI】
   E01F7/04
【請求項の数】14
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2019-97778(P2019-97778)
(22)【出願日】2019年5月24日
【審査請求日】2019年5月27日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】397034327
【氏名又は名称】有限会社吉田構造デザイン
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 朔生
(74)【代理人】
【識別番号】100167601
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 信之
(74)【代理人】
【識別番号】100201329
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 真二郎
(72)【発明者】
【氏名】吉田 博
【審査官】 神尾 寧
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−222816(JP,A)
【文献】 特開2017−128895(JP,A)
【文献】 特開2014−34788(JP,A)
【文献】 実開昭50−130021(JP,U)
【文献】 米国特許第4730810(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01F 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
防護柵を構成する支柱の上部に取り付けられ、少なくとも支柱の上部と支柱の両側に位置する防護ネットの上辺間に掛け渡したロープ要素を摺動可能に係留する張力制御装置であって、
支柱の上部に設置し、内面に湾曲した制動面を有する固定式の周壁と、
前記周壁の内側に配設した従動拘束機構とからなり、
前記従動拘束機構が、下端部を揺動自在に枢支してV字形に配置した一対の揺動リンクと、
前記一対の揺動リンクの下端枢支部に軸支した中央索輪と、
各揺動リンクの上端部に軸支した揺動索輪とを有し、
前記中央索輪が一対の揺動索輪の中間で、揺動索輪よりも低い位置に位置し、
前記複数の揺動索輪と中央索輪の間にM字形に配索したロープ要素の一部を揺動索輪と周壁の制動面との周面間で挟み込んで拘束し、
前記一対の揺動リンクが下端枢支部を中心に揺動することで、ロープ要素の発生引張力の大きさに応じて前記揺動索輪と周壁の制動面との間でロープ要素の拘束力を制御可能に構成したことを特徴とする、
張力制御装置。
【請求項2】
前記一対の揺動リンクの開角方向に沿った揺動に伴い前記揺動索輪と周壁の制動面との対向距離が漸減するように、前記周壁の制動面が湾曲していることを特徴とする、請求項1に記載の張力制御装置。
【請求項3】
前記周壁の制動面が円弧面であり、前記一対の揺動リンクの下端枢支部の中心が周壁の制動面の中心より下方に位置するように、前記従動拘束機構を構成する一対の各揺動リンクの全長と周壁の半径とが関係付けられていることを特徴とする、請求項1または2に記載の張力制御装置。
【請求項4】
前記一対の揺動リンクの開角方向に沿って前記周壁の制動面の曲率半径が徐々に減少していることを特徴とする、請求項1または2に記載の張力制御装置。
【請求項5】
前記一対の揺動リンクの下端枢支部が昇降可能であり、中央索輪の上下動に連動して一対の揺動リンクが下端枢支部を中心に揺動することを特徴とする、請求項1乃至4の何れか一項に記載の張力制御装置。
【請求項6】
前記従動拘束機構が中央索輪の運動方向を上下方向のみに規制するガイド手段を具備することを特徴とする、請求項5に記載の張力制御装置。
【請求項7】
前記従動拘束機構が一対の揺動リンクの下端枢支部の最上位置を規制するストッパを具備することを特徴とする、請求項5または6に記載の張力制御装置。
【請求項8】
前記従動拘束機構が一対の揺動リンクの下端枢支部を真下へ向けて常時付勢するバネを具備することを特徴とする、請求項5乃至7の何れか一項に記載の張力制御装置。
【請求項9】
前記従動拘束機構が一対の揺動リンクの下端枢支部の高さ位置を調整可能なボルトを具備することを特徴とする、請求項5または6に記載の張力制御装置。
【請求項10】
一対の揺動リンクの下端枢支部が定位置で上下動不能に枢支してあることを特徴とする、請求項1,2,4の何れか一項に記載の張力制御装置。
【請求項11】
山裾に所定の間隔を隔てて立設した複数の支柱と、これらの支柱間に横架した防護ネットと、各支柱の上部に設置した張力制御装置と、各張力制御装置と各支柱の両側に位置する防護ネットの上辺との間に跨って配索したロープ要素とを具備した防護柵であって、
前記請求項1乃至10の何れか一項に記載の張力制御装置を使用し、
前記張力制御装置の外部に延出したロープ要素の両端を前記各支柱の両側に位置する防護ネットの上辺にスパン単位で連結し、
受撃時にロープ要素に生じる引張力を前記張力制御装置で減衰しつつ、ロープ要素を通じて受撃スパンから隣接するスパンへ連鎖的に引張力を減衰しながら伝達するように構成したことを特徴とする、
防護柵。
【請求項12】
受撃時にロープ要素に生じる引張力を端末支柱の側方に設けた側方アンカーへ伝達できるように、防護ネットの上辺に配索したロープ要素の端部が前記側方アンカーに連結してあることを特徴とする、請求項11に記載の防護柵。
【請求項13】
各支柱の上部で防護ネットの上辺より高い延出部に引張力制御装置を設置し、張力制御装置に係留したロープ要素の両端を各支柱の両側に位置する防護ネットの上辺に斜めに配索して連結したことを特徴とする、請求項11または12に記載の防護柵
【請求項14】
張力制御装置に係留したロープ要素を水平に横架したことを特徴とする、請求項11または12に記載の防護柵。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は落石、崩落土砂、雪崩等を受け止める衝撃吸収技術に関し、特に受撃スパンから支柱を介して徐々に衝撃力を減衰させ、支柱の荷重負担を軽減できる張力制御装置及び防護柵に関する。
【背景技術】
【0002】
所定の間隔を隔てて立設した複数の支柱間に防護ネットを取り付けて構成する防護柵には、スパン単位の防護ネットを隣り合う両側の支柱に取り付けるタイプ(特許文献1)と、複数スパンに横架可能な全長を有する防護ネットの両端を端末支柱に取り付けるタイプ(特許文献2,3)に大別される。
前者の防護柵は防護ネットに作用した衝撃荷重が受撃スパンの両側に位置する支柱に伝達する構造であり、後者の防護柵は防護ネットの一部に作用した衝撃荷重が最終的に端末支柱に伝達する構造になっている。
防護ネットを構成する水平のロープ要素の一部に緩衝装置を介挿して防護柵の衝撃吸収性能高めることも知られている(特許文献3,4)。
また各支柱の上下部にそれぞれ複数の斜張ロープをスライド移動可能に係留し、各斜張ロープの端部を防護ネットの上半部と下半部に連結して、防護ネットの柵高変化を抑制するようにした防護柵も知られている(特許文献5)。
【0003】
防護柵に付設する緩衝装置としては、ロープ要素の周面摩擦抵抗を利用して減衰する摩擦摺動式の緩衝装置(特許文献6)が広く知られている。
この種の緩衝装置はロープ要素の一部の外周面を複数の締付ボルトを通じて強く締め付けることで生じる周面摩擦抵抗を利用してロープ要素の引張力を減衰するため、緩衝装置の緩衝性能はロープ要素の締付力に大きな影響を受ける。
一般に緩衝装置の緩衝性能はロープ要素が摺動を開始するときの引張力で示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−32032号公報
【特許文献2】特開2017−95893号公報
【特許文献3】特開2009−24378号公報
【特許文献4】特開2009−144472号公報
【特許文献5】特許第5793633号公報
【特許文献6】特開2005−282105号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の防護柵はつぎの問題点を有している。
<1>特許文献1に代表される防護柵は、受撃スパンの両側の支柱に衝撃荷重の大半が伝達する構造である。
そのため、どのスパンに受撃しても対応できるようにすべての支柱を高強度に製作しなければならず、防護柵全体として不経済な設計を強いられる。
<2>特許文献2,3に代表される防護柵は、衝撃荷重を最終的に端末支柱で支持する構造であるため、端末支柱を中間支柱と比べて高強度に製作しなければならない。
さらに端末支柱の傾倒を防止するために側方控えロープと大型アンカーを追加設置すると、防護柵の設置コストがさらに増す。
<3>特許文献3のように水平ロープ要素の両端部近くに緩衝装置を介挿した防護柵では、防護柵全体としての衝撃吸収性能が低く、大規模防護柵に適用することが難しい。
<4>特許文献4のようにスパン単位で緩衝装置を介挿した防護柵では、受撃スパンにおける水平ロープ要素の荷重負担を軽減できるものの、受撃スパン外の支柱や水平ロープ要素へ伝達される荷重が極めて小さく、防護柵全体としての荷重分散性能が低い。
<5>支柱の上下部に斜張ロープをスライド移動可能に係留した特許文献5に記載の防護柵では、受撃スパンに位置する斜長ロープの引張力が、隣接スパンの斜長ロープと支柱を経由して端末支柱へ伝播する。防護ネットに作用した衝撃力も隣接スパンの防護ネットを経由して端末支柱へ伝播する。
このように特許文献5の防護柵は、斜張ロープおよび防護ネットに生じる各引張力が端末支柱に集中して作用するため、上記した<2>と同様の問題が生じる。
【0006】
従来の摩擦摺動式の緩衝装置はつぎの問題点を有している。
<1>従来の緩衝装置は一台の緩衝装置で以てロープ要素にはたらく引張力の大きさに応じて緩衝性能を変化させることができない。
そのため、緩衝性能の大きさに応じて緩衝装置を個別に製作しなければならない。
<2>従来の緩衝装置はロープ要素の素線が破断する限界近くまで締め付けないと、緩衝装置としての緩衝効果を期待できず、締付力が不足すると所期の緩衝性能が得られない。
<3>従来の緩衝装置は、ロープ要素が摺動開始時に引張力が最大値を示し、その直後に引張力が減少し、しばらく引張力が上下しながら減少していく。
そのため、ロープ要素の摺動量に応じて引張力の減少効果を期待できるものの、摺動した範囲のロープ要素は多数の素線が激しい損傷を受けて強度が低下する。
<4>従来の緩衝装置は、ロープ要素の摺動距離に応じて滑り張力が減少するが、特にロープ要素の摺動距離が大きい場合には、滑り張力が極端に減少する。
<5>ロープ要素を内挿した緩衝装置に複数の締付ボルトを螺着しているが、複数の緩衝装置とロープ要素の摩擦抵抗が均一になるように均一の締付力で締め付けないと、各緩衝装置の緩衝性能に大きなバラツキを生じる。
そのため、締付ボルトのトルク管理を行う必要があるが、多数の締付ボルトのトルク管理が面倒である。
<6>支柱間に横架するロープ要素の全長がロープ要素の摺動長を見込んだ余長部分だけ長くなる。そのため、ロープ要素の資材コストが増すうえに、防護柵の両側端部からロープ要素の余長部がはみ出して垂れ下がるため景観性も悪くなる。
【0007】
本発明は以上の点に鑑みて成されたもので、その目的とするところは少なくともつぎのひとつの張力制御装置及び防護柵を提供することにある。
<1>ロープ要素にはたらく引張力の大きさに応じて減衰性能を制御できること。
<2>受撃スパンのみに引張力を集中させずに、ロープ要素を通じて引張力が隣接する支柱を介して連鎖的に伝達する過程において徐々に引張力を減衰できること。
<3>要求される支柱の断面性能を小さくできて、防護柵のコストを低減できること。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、防護柵を構成する支柱の上部に取り付けられ、少なくとも支柱の上部と支柱の両側に位置する防護ネットの上辺間に掛け渡したロープ要素を摺動可能に係留する張力制御装置であり、張力制御装置は支柱の上部に設置し、内面に湾曲した制動面を有する固定式の周壁と、前記周壁の内側に配設した従動拘束機構とからなり、前記従動拘束機構が、下端部を揺動自在に枢支してV字形に配置した一対の揺動リンクと、前記一対の揺動リンクの下端枢支部に軸支した中央索輪と、各揺動リンクの上端部に軸支した揺動索輪とを有する。
前記張力制御装置は中央索輪が一対の揺動索輪の中間で、揺動索輪よりも低い位置に位置し、前記複数の揺動索輪と中央索輪の間にM字形に配索したロープ要素の一部を揺動索輪と周壁の制動面との周面間で挟み込んで拘束し、前記一対の揺動リンクが下端枢支部を中心に揺動することで、ロープ要素の発生引張力の大きさに応じて前記揺動索輪と周壁の制動面との間でロープ要素の拘束力を制御可能に構成した。
本発明の他の形態において、前記一対の揺動リンクの開角方向に沿った揺動に伴い前記揺動索輪と周壁の制動面との対向距離が漸減するように、前記周壁の制動面が湾曲している。
本発明の他の形態において、前記周壁の制動面が円弧面であり、前記一対の揺動リンクの下端枢支部の中心が周壁の制動面の中心より下方に位置するように、前記従動拘束機構を構成する一対の各揺動リンクの全長と周壁の半径とが関係付けられている。
本発明の他の形態において、前記一対の揺動リンクの開角方向に沿って前記周壁の制動面の曲率半径が徐々に減少している。
本発明の他の形態において、前記一対の揺動リンクの下端枢支部が昇降可能であり、中央索輪の上下動に連動して一対の揺動リンクが下端枢支部を中心に揺動する。
本発明の他の形態において、前記従動拘束機構が中央索輪の運動方向を上下方向のみに規制するガイド手段を具備している。
本発明の他の形態において、前記従動拘束機構が一対の揺動リンクの下端枢支部の最上位置を規制するストッパを具備している。
本発明の他の形態において、前記従動拘束機構が一対の揺動リンクの下端枢支部を真下へ向けて常時付勢するバネを具備している。
本発明の他の形態において、前記従動拘束機構が一対の揺動リンクの下端枢支部の高さ位置を調整可能なボルトを具備している。
本発明の他の形態において、一対の揺動リンクの下端枢支部を定位置で上下動不能に枢支してもよい。
さらに本発明は、山裾に所定の間隔を隔てて立設した複数の支柱と、これらの支柱間に横架した防護ネットと、各支柱の上部に設置した張力制御装置と、各張力制御装置と各支柱の両側に位置する防護ネットの上辺との間に跨って配索したロープ要素とを具備した防護柵であって、前記何れかひとつの張力制御装置を使用する。
前記張力制御装置の外部に延出したロープ要素の両端を前記各支柱の両側に位置する防護ネットの上辺にスパン単位で連結し、受撃時にロープ要素に生じる引張力を前記張力制御装置で減衰しつつ、ロープ要素を通じて受撃スパンから隣接するスパンへ連鎖的に引張力を減衰しながら伝達するように構成した。
本発明の他の形態において、受撃時にロープ要素に生じる引張力を端末支柱の側方に設けた側方アンカーへ伝達できるように、防護ネットの上辺に配索したロープ要素の端部が前記側方アンカーに連結してもよい。
本発明の他の形態において、各支柱の上部で防護ネットの上辺より高い延出部に引張力制御装置を設置し、張力制御装置に係留したロープ要素の両端を各支柱の両側に位置する防護ネットの上辺に斜めに配索して連結してもよい。
本発明の他の形態において、張力制御装置に係留したロープ要素を水平に横架してもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明は少なくともつぎのひとつの効果を奏する。
<1>張力制御装置はロープ要素の発生引張力の大きさに応じてロープ要素の拘束力を増大できる。
したがって、張力制御装置を改造したり、一部の構成部材を交換したりすることなく、ロープ要素にはたらく引張力の大きさに応じて減衰性能を制御することができる。
<2>受撃スパンの両側の支柱に設けた張力制御装置が受撃スパンのロープ要素に生じた引張力を効果的に減衰するので、受撃スパンに位置する支柱の荷重負担を大幅に軽減できる。
特に、ロープ要素に小さな張力差を生じた時点から張力制御装置が減衰機能を発揮するので、支柱に伝わる衝撃荷重を格段に軽減できる。
<3>受撃スパンのロープ要素に生じた引張力を、受撃スパンのみに集中させずに、支柱を介して隣り合うスパンへ連鎖的に伝達し、この伝達過程に位置する複数の張力制御装置によりロープ要素に生じる引張力を徐々に減衰することができる。
<4>各支柱に張力制御装置を設けることで、受撃時における各支柱(中間支柱、端末支柱)の荷重負担を大幅に軽減できて、要求される支柱の断面性能を小さくできる。
側方アンカーを設けた場合には、要求される側方アンカーのアンカー耐力も小さくできる。
したがって、防護柵のコストを大幅に低減できる。
<5>ロープ要素の摺動時において、揺動索輪が回転するために揺動索輪とロープ要素との周面間で摺動が生じない。
そのため、ロープ要素の断面形状が大きく変わるほど押し潰されてもロープ要素の素線が破断し難く、しかもロープ要素が摺動不能に陥ることもない。
<6>張力制御装置の従動拘束機構が一対の揺動リンクの下端枢支部の最上位置をストッパで規制することでロープ要素の過剰締め付けを防止できて、摺動時におけるロープ要素の損傷を軽減できる。
<7>張力制御装置の従動拘束機構が一対の揺動リンクの下端枢支部を真下に付勢するバネや、一対の揺動リンクの下端枢支部の高さ位置を調整可能なボルトを具備することで、張力制御装置を改造したり、一部の構成部材を交換したりすることなく、ロープ要素の摺動開始張力や最大摺動力を調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明に係る防護柵を山側から見た正面図
図2】防護ネットの一例の説明図
図3】実施例1に係る張力制御装置の説明図
図4図4におけるIV−IVの断面図
図5】張力制御装置の作動説明図で、(A)は受撃前の作動モデル説明図、(B)は受撃時の作動モデル説明図
図6】実施例3に係る張力制御装置の説明図
図7】実施例4に係る張力制御装置の説明図
図8】実施例6に係る張力制御装置の説明図
【発明を実施するための形態】
【0011】
図面を参照しながら本発明について説明する。
【実施例1】
【0012】
<1>防護柵の概要
図1を参照して説明すると、防護柵は落石、崩落土砂等に適用可能な防護柵であり、斜面または山裾に所定の間隔を隔てて立設した複数の支柱10(端末支柱10A、中間支柱10B)と、これらの支柱10間に横架した防護ネット20と、各支柱10の上部で防護ネット20の上辺より高い延出部11に設置した張力制御装置30と、各張力制御装置30と各支柱10の両側に位置する防護ネット20の上辺との間に跨って配索したロープ要素であるステーロープ40とからなる。
【0013】
<2>支柱
本例では各支柱10A,10Bの上部に防護ネット20の有効高さより高い延出部11を形成し、この延出部11に張力制御装置30を設けた形態について説明する。
延出部11の全長は支柱10のスパンに応じて適宜選択する。
【0014】
各支柱10は、例えば、鋼管、コンクリート充填鋼管、コンクリート柱、H鋼等の公知の支柱を適用できる。
各支柱10の立設手段は、地山への建込み式、基礎コンクリートへの埋設式、支柱下端に設けた支圧板を介して接地する非建込み式の何れでもよい。
更に、支柱10はヒンジ機構等を介して傾倒可能に構成してもよい。
また各支柱10の上部と山側アンカーとの間に支柱控えロープを張設してもよい。
【0015】
<3>防護ネット
防護ネット20は3本以上の支柱10間に亘って横架したネット状物である。
防護ネット20は、例えば特開2015−20086号公報に記載のネットを使用できる。
図2を参照して説明すると、この防護ネット20は、ロープ材21で構成する複数の連続輪要素22と、複数の連続輪要素22を形成するための複数の閉鎖用緩衝具23と、上下に隣り合う連続輪要素22の間を連結するための複数の連結用緩衝具24とを具備している。
各緩衝具23,24は2本のロープ材21を把持可能な摩擦摺動式のものであればよく、受撃時に各緩衝具23,24がロープ材21の摺動を許容して各単体輪が拡縮することでロープ材21の引張力を減衰する。
【0016】
防護ネット20は図示した形態に限定されず、例えば複数のロープ材を縦横方向、斜め方向に配置したロープ製ネット(ロープ材の交点に緩衝装置を取り付けたネットを含む)、複数のリング単体を内接させて連鎖させたリングネット、菱形金網、高強度金網、繊維製ネット、繊維製ネット等の一種、又はこれらの複数種を組み合せたものを適用できる。
【0017】
また本例ではスパン単位で防護ネット20を設ける形態について説明するが、防護ネット20は複数スパンに亘る全長を有するものでもよい。
【0018】
<4>張力制御装置
図3,4に例示した張力制御装置30について説明する。
張力制御装置30は、基板31と、基板31の周縁に内側に向けて湾曲した固定式の周壁32と、周壁32の内側に可動可能に配設した従動拘束機構50からなり、従動拘束機構50に配索したステーロープ40に生じる引張力を制御しながら受撃スパンから隣接スパンへ向けて連鎖的に伝達する。
図4では基板31と対向して基板31と同形の蓋材35を配置した形態について示すが、蓋材35は省略してもよい。
【0019】
<4.1>基板
基板31は周壁32を支えるための平板である。
基板31と蓋材35の中央部付近には、中央索輪51の運動方向を縦方向のみに規制するガイド手段であるガイド孔34が縦向きに形成してある。
取付ボルト等を介して基板31が各支柱10(端末支柱10Aおよび中間支柱10B)の延出部11に取り付けてある。
【0020】
<4.2>周壁
周壁32は基板31の周縁に起立して設けてあり、その内側に湾曲した制動面32aを形成している。
周壁32の制動面32aは少なくとも基板31の上半に形成してあればよい。
本例では制動面32aを円弧(曲率半径が一定の湾曲面)に形成した形態について説明するが、制動面32aは円弧に限定されず、要は一対の揺動リンク55a,55bの開角方向に沿って制動面32aの曲率半径が徐々に減少するように湾曲して形成してあればよい。
【0021】
なお、周壁32の左右両側には開口33を有していて、開口33を通じて張力制御装置30の内部の従動拘束機構50へステーロープ40を配索できるようになっている。
【0022】
<5>ステーロープの従動拘束機構
従動拘束機構50はステーロープ40にはたらく引張力を利用してステーロープ40を摺動可能に拘束するためのリンク機構である。
【0023】
本例で例示した従動拘束機構50について説明すると、従動拘束機構50は、V字形に配置し、下端部を揺動自在に枢支した左右一対の揺動リンク55a,55bと、各揺動リンク55a,55bの下端枢支部に軸支した中央索輪51と、各揺動リンク55a,55bの上端部に軸支した揺動索輪53a,53bを有している。
これら複数の索輪51,53a,53bには空転式のシーブを適用できる。
中央索輪51は左右の揺動索輪53a,53bの中間位置で、揺動索輪53a,53bよりも低い位置に位置する。
【0024】
<5.1>揺動リンク
一対の揺動リンク55a,55bは中央索輪51の押上力を揺動索輪53a,53bへ伝達するための同一長のリンク部材であり、その下端部を水平の支軸52が枢支している。
支軸52の端部がガイド孔34に係合していて、支軸52の上下運動に連動して揺動リンク55a,55bが支軸52を中心に左右方向に揺動する。
【0025】
<5.2>中央索輪
揺動リンク55a,55bの下端部の支軸52には中央索輪51が軸支してある。
本例では中央索輪51が左右方向への移動を規制し、上下方向へ向けた移動のみを許容する形態について説明する。
【0026】
<5.3>揺動索輪
各揺動リンク55a,55bの上端部には支軸54を介して揺動索輪53a,53bが軸支してある。各揺動索輪53a,53bは周壁32の制動面32aとの間にステーロープ40を挟み込んで摺動可能に拘束することが可能である。
ステーロープ40の引張力が増大すると、一対の揺動リンク55a,55bが開角方向へ向けて揺動するように構成してある。
【0027】
<5.4>索輪の周溝とロープ径の関係
揺動索輪53a,53bの周溝の深さはステーロープ40のロープ径より小さい。
これは各揺動索輪53a,53bの周溝に巻き掛けたステーロープ40を周壁32の制動面32aに押し付けたときに、揺動索輪53a,53bの外周面が制動面32aに当たらないようにするためである。
【0028】
<5.5>揺動リンクの揺動半径と制動面の半径との寸法関係
図3を参照して揺動リンク55a,55bの揺動半径と周壁32の制動面32aの半径の寸法関係を説明する。
揺動リンク55a,55bの下端枢支部の中心、すなわち中央索輪51の中心Pが制動面32aの中心Pより下方に位置するように、各揺動リンク55a,55bの全長と円弧状を呈する制動面32aの半径とが関係付けられている。
換言すると、揺動リンク55a,55bの下端枢支部である中央索輪51の中心Pから揺動索輪53a(53b)までの距離(揺動リンク55a,55bの揺動半径)は、制動面32aの中心Pから制動面32aまでの距離(制動面32aの半径)より大きい寸法関係になっている。
これは、張力制御装置30により従動拘束機構50に係留したステーロープ40の張力を制御するためである。
両中心P,Pの鉛直方向の差を適宜選択することで、張力制御装置30によるステーロープ40の引張力の制御効果を調整できる。
【0029】
したがって、揺動リンク55a,55bが開角方向に揺動するときに、その開角角度に応じて、制動面32aと各揺動索輪53a,53bとの周面間に位置するステーロープ40の拘束力(締付力)が増大する。
ステーロープ40の拘束力は、従動拘束機構50に係留したステーロープ40の発生張力の大きさに応じて変化し、揺動リンク55a,55bの開角角度(揺動距離)に比例して増大する。
【0030】
<6>ステーロープ
ロープ要素であるステーロープ40は、受撃時に防護柵の全長に亘って荷重を伝達するためのロープ材である。
【0031】
<6.1>防護柵におけるステーロープの配索構造
図1に示すように、ステーロープ40は各支柱10の延出部11に設けた張力制御装置30と、各支柱10の両側に位置する防護ネット20の上辺間と、端末支柱10Aと側方アンカー45との間に亘って連続して配索したロープ材である。
本例では、ステーロープ40が、各張力制御装置30と防護ネット20の上辺との間に斜めに配索した吊部41と、防護ネット20の上辺と平行に配索した水平部42と、端末支柱10Aと側方アンカー45との間に配設した控えロープ部43とを有する形態について説明する。
水平部42は防護ネット20の上辺ロープで代用することも可能である。
ステーロープ40は1本ものの連続ロープに限定されるものではなく、複数本のロープ材で構成してもよい。
要はステーロープ40が受撃スパンに作用した衝撃力を順次端末支柱10Aへ向けて連鎖的に伝達できるように配索してあればよい。
【0032】
<6.2>従動拘束機構におけるステーロープの配索構造
図3を参照して従動拘束機構50に対するステーロープ40の配索構造について説明する。
ステーロープ40は高低差のある一方の揺動索輪53a、中央索輪51、他方の揺動索輪53bの順に掛け渡してM字形に配索してある。
張力制御装置30の外部の斜下方向に延出したステーロープ40の両端は、支柱10A(10B)の両側の防護ネット20の上辺に連結している。
【0033】
[防護柵の受撃特性]
つぎに防護柵の受撃特性について説明する。
【0034】
<1>受撃前における張力制御装置
図5(A)は受撃前における張力制御装置30のモデル図を示している。
従動拘束機構50を構成する3つの索輪53a,51,53bにM字形に配索したステーロープ40の左右の吊部41,41は、張力制御装置30から外部へ延出していて、隣り合うスパンの防護ネットの上辺にそれぞれ連結してある。
受撃前において、左右の吊部41,41には、支柱の両側に位置する防護ネット20の自重(死荷重)に見合った均等な引張力T,Tが作用している。
従動拘束機構50に係留したステーロープ40に互いに逆向きの引張力T,Tが作用することで、従動拘束機構50に係留したステーロープ40が揺動索輪53a,53bと制動面32aとの周面で拘束されている。
受撃前においては、ステーロープ40に発生する引張力T,Tと従動拘束機構50によるステーロープ40の拘束力との均衡が保たれるため、張力制御装置30は減衰機能を発揮しない。
【0035】
<2>受撃時における張力制御装置
図5(B)を参照して受撃時における張力制御装置30の作動について説明する。
図5(B)は受撃スパンの両側の中間支柱10B(または端末支柱10A)のうち、斜面上方から見て左側の中間支柱10Bに設けた張力制御装置30を示している。
【0036】
受撃スパンに連結したステーロープ40の右方の吊部41の引張力Tが増加すると、隣接スパンに連結した左方の吊部41の引張力Tとの間に張力差(T>T)を生じる。
左右の吊部41,41の引張力T,Tに張力差が生じることで、以下に詳述するように張力制御装置30が減衰機能を発揮し、右方の吊部41の引張力T,が減衰されて左方の吊部41へ伝達される。
【0037】
<2.1>ロープの拘束
張力制御装置30では、右方の吊部41に作用した引張力がそのまま左方の吊部41へ伝達するのではなく減衰して伝達する。
引張力の減衰作用について詳しく説明する。
右方の吊部41の引張力Tが、従動拘束機構50に係留したステーロープ40へ伝達すると、中央索輪51が真上に持ち上がり、これに伴い一対の揺動リンク55a,55bが開角方向に揺動する。
一対の揺動リンク55a,55bが開角方向に揺動することで、揺動索輪53a,53bと制動面32aとの周面間に位置するステーロープ40の拘束力(締付力)が徐々増大し、制動面32aとステーロープ40間の抵抗摩擦も増大する。
【0038】
特に、ステーロープ40の拘束力は、湾曲した制動面32aに対して半径方向に位置する揺動リンク55a,55bを通じて作用するので、各揺動リンク55a,55bの軸力を最大限に活かして、ステーロープ40を拘束できる。
なお、ステーロープ40の拘束中、揺動リンク55a,55bには曲げ力が生じない。
【0039】
<2.2>ステーロープの摺動
一対の揺動リンク55a,55bが揺動する際、ステーロープ40の外周面と制動面32aとの間で摺動摩擦を生じ、この摺動抵抗によりステーロープ40の引張力(衝撃力)を減衰する。
【0040】
ステーロープ40が摺動する際に、揺動索輪53a,53bが回転するため、ステーロープ40の破断強度の限界近くまで強く押し潰してもステーロープ40が摺動不能に陥ることがない。
【0041】
<2.3>従来の緩衝装置との相違点
従来の摩擦摺動式の緩衝装置では、ロープ要素の張力がある一定値に達すると摺動を開始し、摺動中におけるロープ要素の拘束力は一定である。
ロープ要素の引張力は摺動開始時が最大値を示し、その直後に引張力が減少し、しばらく引張力が上下しながら減少していく。
ロープ要素が支柱頂部に連結してある場合は、受撃直後にロープ要素の最大引張力が支柱頂部に瞬間的に伝わるため、支柱頂部が破壊する危険がある。
【0042】
これに対し、本発明の張力制御装置30では、ステーロープ40の左右の吊部41,41に小さな張力差が生じるだけで摺動を開始し、摺動中におけるステーロープ40の拘束力はステーロープ40の発生張力の大きさに応じて変化する。
すなわち、従動拘束機構50に係留したステーロープ40を通じて右方の吊部41から左方の吊部41へ張力を伝達するに際し、最初は小さな張力として伝え、最大張力に達するまでに緩やかに漸増した張力を伝えるので、受撃スパンのダメージを軽減できる。
この受撃スパンの支柱10B(10A)に設けた張力制御装置30による引張力の減衰中に引張力の一部が隣接スパンへ伝達されるので、受撃スパンにおける支柱10B(10A)の荷重負担が軽減されて、支柱10B(10A)の頂部が破壊される危険がない。
【0043】
さらに従来の緩衝装置では複数の締付ボルトの締付力を管理する必要があるうえに、緩衝性能の異なる複数種類の緩衝装置を使い分けする必要があったが、本発明の張力制御装置30ではステーロープ40の拘束力の管理や張力制御装置30の使い分けが一切不要である。
【0044】
<2.4>ステーロープの張力差
従動拘束機構50に係留したステーロープ40の左右の吊部41,41の張力差は、一定ではなく、受撃スパンに生じる引張力の大きさに応じて変化する。
すなわち、張力制御装置30では、小さい張力に対しては小さい張力差が発生し、大きい張力に対しては大きい張力差が発生する。
【0045】
<2.5>張力制御装置の減衰性能
受撃時において、左右の吊部41,41に張力差(T−T)を生じ、この左右の吊部41,41の張力差分の引張力が減衰されたことになる。
このように張力制御装置30は、ステーロープ40の発生引張力の大きさに応じてステーロープ40の拘束力が変化する構造であるため、減衰性能を任意に制御できる。
一対の揺動リンク55a,55bのリンク長、制動面32aの曲率及び制動面32aの中心と中央索輪51の支軸52との鉛直方向へ向けた偏心距離等を調整することで、張力制御装置30の減衰性能を選択できる。
【0046】
<2.6>ステーロープの損傷について
ステーロープ40が摺動する際に、揺動索輪53a,53bが回転する。
そのため、揺動索輪53a,53bに係留したステーロープ40は制動面32aとの周面間では摺動を生じるが、揺動索輪53a,53bとの周面の間では摺動を生じない。
したがって、引張力の減衰作動中にステーロープ40の損傷を軽減できて、ステーロープ40の大きいスライド長にも対応が可能である。
【0047】
<3>ステーロープを通じた引張力の伝達
図1において、受撃スパンでステーロープ40の引張力を張力制御装置30で減衰し、減衰された引張力を隣接スパンのステーロープ40へ伝達する。
隣接スパンにおいても、同様に張力制御装置30が張力を減衰しつつ、さらに外方に隣り合うスパンのステーロープ40へ伝達する。
落石等の衝撃力が大きい場合は、ステーロープ40を通じ端末支柱10Aへ向けて減衰しながら連鎖的に伝達する。
【0048】
<4>支柱の負担荷重
受撃スパンの両側に減衰機能を具備した張力制御装置30,30が設置してあるので、受撃スパンの両側に位置する中間支柱10Bの荷重負担が小さくなる。
各隣接スパンにおいても、連鎖的に引張力を伝達する過程において、ステーロープ40に生じる引張力が減衰されて徐々に小さくなるので、張力制御装置30を取り付けた各支柱(中間支柱10B、端末支柱10A)の荷重負担が小さくなる。
そのため、要求される各支柱(中間支柱10Bまたは端末支柱10A)の断面性能を小さくできる。
ステーロープ40の控えロープ部43を側方アンカー45に接続した場合は、要求される側方アンカー45のアンカー耐力も小さくできる。
したがって、防護柵のコストを大幅に削減できる。
【0049】
<5>減衰機能の持続性
従来の緩衝装置では、ロープ要素が一度摺動して減衰機能を発揮すると交換する必要がある。
これに対して本発明の張力制御装置30では、減衰機能を発揮した後も何度でも同じ減衰性能を発揮できる。
【0050】
<6>ステーロープによる阻止面の高さ方向の変形抑制
ステーロープ40の吊部41が防護ネット20の上辺を吊り上げている。
そのため、防護ネット20が谷側へ張出変形する際に、防護ネット20の阻止面が高さ方向に縮小しようとしても、ステーロープ40の吊部41が阻止面の高さ方向の変形(阻止面の有効高さの減少)を効果的に抑制する。
【実施例2】
【0051】
以降に他の実施例について説明するが、その説明に際し、前記した実施例と同一の部位は同一の符号を付してその詳しい説明を省略する。
【0052】
図示を省略するが従動拘束機構50に、揺動リンク55a,55bの枢軸である支軸52の最上位置を規制するストッパを追加してもよい。
昇降可能な支軸52の上方に支軸52の最上位置を規制するストッパを設けることで、ステーロープ40の最大摺動力を調整することが可能となる。
ストッパはガイド孔に沿って上昇する支軸52の最上位置を規制し得る構造であればよい。
また調整ボルトと組み合わせて支軸52の最上位置を調整可能に構成してもよい。
本例にあっては、支軸52の上昇位置を規制できるので、ステーロープ40の過剰締め付けを防止できて、摺動時におけるステーロープ40の損傷を軽減できる。
【実施例3】
【0053】
<1>張力制御装置
図6は従動拘束機構50に、支軸52を真下へ向けて常時付勢するバネ56を追加配置した他の張力制御装置30を示している。
本例では支軸52の真下に設けた反力部材57と支軸52の間にバネ56を張設した形態を示しているが、支軸52の真上に設けた静止部材57と支軸52の間にバネ56を縮設してもよい。
要は、一対の揺動リンク55a,55bの揺動中心である支軸52に対して、常時バネ力が作用する構造であればよい。
中央索輪51はバネ56のバネ力に抗しながらガイド孔に沿って上昇することになり、左右一対の揺動索輪53a,53bはバネ56のバネ力を受けながらステーロープ40を拘束する。
【0054】
<2>本例の効果
本例の基本的な効果は先の実施例1と同様である。
本例では、バネ56のバネ力により、ステーロープ40と周壁32の制動面32aの周面間の摩擦力を変動させることができる。
すなわち、張力制御装置30の部材や構造を変えることなく、係留したステーロープ40の摺動開始時の摩擦力を小さくしたり、最大の摩擦力を制御したりすることができる、といった効果を奏する。
また、バネ56を設けることによって張力制御装置30が減衰機能を発揮した後も、揺動リンク55a,55bを定位置に復帰させて、張力制御装置30の補修をまったくすることなく何度でも繰り返し使用できる。
【実施例4】
【0055】
<1>張力制御装置
図7は従動拘束機構50に、支軸52の高さ位置を調整可能なボルト58を追加配置した他の張力制御装置30を示している。
本例では支軸52の真下に設けた反力部材57にボルト58を螺着し、ボルト58の先端を支軸52に連結した形態を示しているが、支軸52の真上側に静止部材57とボルト58を設けてもよい。
ボルト58を回転操作して支軸52の高さ位置を調整することで、ステーロープ40と周壁32の制動面32aの周面間の摩擦力を任意に調整することができる。
例えば、ボルト58で支軸52を真上へ押し上げれば、ステーロープ40と周壁32の制動面32aの周面間の摩擦力が増す。
【0056】
<2>本例の効果
本例の基本的な効果は先の実施例1と同様である。
本例では、張力制御装置30に係留したステーロープ40の張力発生時から摩擦力を発生させることができ、一定値の引張力に達するとステーロープ40が摺動を開始する。
さらに本例ではボルト58が支軸52の高さを一定位置に規制するので、張力発生時から摺動を開始し、摩擦力が一定値に達すると、その摩擦力を保持したまま摺動できる、といった効果を奏する。
本例では張力制御装置30を改造したり、一部の構成部材を交換したりすることなく、ステーロープ40の摺動開始張力及び最大摺動力を設定することが可能である。
【実施例5】
【0057】
既述した実施例2〜4を適宜組み合わせて張力制御装置30を構成してもよい。
例えば、支軸52の最上位置を特定位置に規制する実施例2と、支軸52を真下へ向けて付勢するバネ56を追加配置した実施例3を組み合わせることで、張力制御装置30による減衰性能をよりきめ細やかに制御できる。
【実施例6】
【0058】
以上の実施例1〜5は、中央索輪51が支軸52と共に上下動可能に構成した形態について説明したが、図8に示すように、中央索輪51の支軸52を移動不能な定位置に設けてもよい。
本例では、一対の揺動リンク55a,55bが定位置の支軸52を中心に揺動する。
張力制御装置30による作用は、中央索輪51が上昇しない点だけが実施例1と相違するだけで、他の減衰作用は実施例1と同様である。
【実施例7】
【0059】
実施例1では、各支柱10A,10Bの延出部11に張力制御装置30を配置し、ステーロープ40の左右の吊部41を隣り合うスパンの防護ネット20の上辺に連結した形態について説明したが、延出部11を省略した支柱10A,10Bの上部に張力制御装置30を配置し、張力制御装置30に係留したステーロープ40を水平に横架して防護柵を構成してもよい。
【実施例8】
【0060】
実施例1ではステーロープ40の端部に控えロープ部43を設け、控えロープ部43を側方アンカー45に連結した形態について説明したが、控えロープ部43と側方アンカー45を省略して、ステーロープ40の端部を端末支柱10Aに連結して防護柵を構成してもよい。
本例の場合、張力制御装置30は中間支柱10Bの上部に設置し、端末支柱10Aには設置しない。
ステーロープ40と張力制御装置30による作用効果は既述した実施例1と同様である。
【0061】
本例では、予想される落石等の衝撃力が小さく、側方アンカーを必要としない中小規模用の防護柵として好適である。
【符号の説明】
【0062】
10・・・・支柱
10A・・・端末支柱
10B・・・中間支柱
20・・・・防護ネット
21・・・・ロープ材
22・・・・連続輪要素
23・・・・閉鎖用緩衝具
24・・・・連結用緩衝具
30・・・・張力制御装置
31・・・・基板
32・・・・周壁
32a・・・周壁の制動面
33・・・・開口
34・・・・ガイド孔
40・・・・ステーロープ
41・・・・ステーロープの吊部
42・・・・ステーロープの水平部
43・・・・ステーロープの控えロープ部
50・・・・従動拘束機構
51・・・・中央索輪
52・・・・支軸
53a・・・揺動索輪
53b・・・揺動索輪
54・・・・支軸
55a・・・揺動リンク
55b・・・揺動リンク
【要約】
【課題】ステーロープにはたらく引張力の大きさに応じて減衰性能を制御できて、要求される支柱の断面性能を小さくできる、張力制御装置及び防護柵を提供すること。
【解決手段】支柱10の上部と防護ネット20の上辺間に配索されたステーロープ40と、ステーロープ40の張力制御装置30とを使用する。張力制御装置30は支柱10の上部に設けた周壁32と、周壁32の内側に配設した従動拘束機構50とを具備する。受撃時にステーロープ40に生じる引張力を張力制御装置30で減衰しつつ、ステーロープ40を通じて受撃スパンから隣接するスパンへ連鎖的に引張力を伝達するように、張力制御装置30の外部に延出したステーロープ40の両端を各支柱10の両側に位置する防護ネット20の上辺に連結する。
【選択図】図3
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8