(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付した図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。なお、以下の記載は特許請求の範囲に記載される技術的範囲や用語の意義を限定するものではない。また、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0012】
本発明の実施形態に係る止血器具1は、
図6に示すように、治療・検査などを行うカテーテル等を血管内に挿入する目的で手首200(肢体に相当)の橈骨動脈210に形成された穿刺部位220(止血すべき部位に相当)に留置していたイントロデューサーシースを抜去した後、その穿刺部位220を止血するために使用するものである。止血器具1は、
図1および
図2に示すように、手首200に巻き付けるための帯体2と、帯体2を手首200に巻き付けた状態で固定する面ファスナー3(固定部に相当)と、湾曲板4と、拡張部5と、容器部6と、流体調整部7と、マーカー8と、注入部9と、を有する。
【0013】
なお、本明細書中では、帯体2を手首200に巻き付けた状態のとき、帯体2において手首200の体表面に向かい合う側(装着面側)を「内面側」と称し、その反対側を「外面側」と称する。
【0014】
帯体2は、可撓性および透光性を有する帯状の部材である。帯体2は、手首200の外周を略一周するように巻き付けられる。帯体2の中央部には、湾曲板4を保持する湾曲板保持部21が形成されている。湾曲板保持部21は、外面側(または内面側)に別個の帯状の部材が融着(熱融着、高周波融着、超音波融着等)または接着(接着剤や溶媒による接着)等の方法によって接合されることにより、二重になっており、これらの隙間に挿入された湾曲板4を保持する。
【0015】
帯体2の
図1中の左端付近の部分の外面側には、一般にマジックテープ(登録商標)などと呼ばれる面ファスナー3の雄側(または雌側)31が配置されており、帯体2の
図1中の右端付近の部分の内面側には、面ファスナー3の雌側(または雄側)32が配置されている。帯体2を手首200に巻き付け、雄側31および雌側32を接合することにより、帯体2が手首200に装着される。なお、帯体2を手首200に巻き付けた状態で固定する手段は、面ファスナー3に限らず、例えば、スナップ、ボタン、クリップ、または帯体2の端部を通す枠部材であってもよい。
【0016】
帯体2の構成材料は、可撓性および透光性を備える材料であれば特に限定されず、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)のようなポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)のようなポリエステル、ポリ塩化ビニリデン、シリコーン、ポリウレタン、ポリアミドエラストマー、ポリウレタンエラストマー、ポリエステルエラストマー等の各種熱可塑性エラストマー、あるいはこれらを任意に組み合わせたもの(ブレンド樹脂、ポリマーアロイ、積層体等)が挙げられる。
【0017】
帯体2は、実質的に透明であることが好ましいが、透光性を備えていれば透明に限定されず、半透明または有色透明であってもよい。これにより、穿刺部位220を外面側から視認することができ、マーカー8を穿刺部位220に容易に位置合わせすることができる。
【0018】
なお、本明細書において「透光性を備える」とは、光を透過することにより、物体を隔てた内面側を外面側から視認が可能であることを意味する。
【0019】
湾曲板(硬質板)4は、
図2に示すように、帯体2の二重に形成された湾曲板保持部21の間に挿入されることにより帯体2に保持されている。湾曲板4は、その少なくとも一部が内面側(装着面側)に向かって湾曲した形状をなしている。この湾曲板4は、帯体2よりも硬質な材料で構成されており、ほぼ一定の形状を保つようになっている。
【0020】
湾曲板4は、帯体2の長手方向に長い形状をなしている。この湾曲板4の長手方向の中央部41は、ほとんど湾曲せずに平板状になっており、この中央部41の両側には、それぞれ、内周側に向かって、かつ、帯体2の長手方向(手首200の周方向)に沿って湾曲した湾曲部42が形成されている。
【0021】
湾曲板4の構成材料は、透光性を備える材料であれば特に限定されず、例えば、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル(特に硬質ポリ塩化ビニル)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエンのようなポリオレフィン、ポリスチレン、ポリ−(4−メチルペンテン−1)、ポリカーボネート、ABS樹脂、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリアセタール、ポリアクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、アイオノマー、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)のようなポリエステル、ブタジエン−スチレン共重合体、芳香族または脂肪族ポリアミド、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂等が挙げられる。
【0022】
湾曲板4は、帯体2と同様に、実質的に透明であることが好ましいが、透光性を備えていれば透明に限定されず、半透明または有色透明であってもよい。これにより、穿刺部位220を外面側から確実に視認することができ、マーカー8を穿刺部位220に容易に位置合わせすることができる。なお、湾曲板4は、中央部41のような湾曲していない部分を有さないもの、すなわち、その全長にわたり湾曲しているものであってもよい。
【0023】
帯体2には、拡張部5が連結されている。拡張部5は、流体を注入することにより拡張し、手首200の穿刺部位220を圧迫する。
【0024】
拡張部5は、
図2に示すように、帯体2に保持されている湾曲板4の長手方向の一端側に片寄って重なるように位置している。すなわち、図示の構成では、拡張部5は、湾曲板4の
図2中の左端側の湾曲部42および中央部41の間の近辺と重なるように位置している。
【0025】
なお、拡張部5が湾曲板4の長手方向の一端側に片寄って重なるように位置している場合、湾曲板4の両側に位置する湾曲部42は、拡張部5が位置する側(湾曲板4の一端側)の湾曲部42の方がその反対側(湾曲板4の他端側)よりも長手方向に長くなっている。これにより、止血器具1を手首200に装着して拡張部5を拡張した際、湾曲板4の他端側の湾曲部42が手首に接触し、疼痛等の痛みが生じるリスクを抑制することができる。
【0026】
拡張部5は、例えば、可撓性および透光性を備える材料で構成することができ、例えば、前述した帯体2の構成材料と同様のものを用いることができる。また、拡張部5は、帯体2と同質または同種の材料で構成されるのが好ましい。これにより、融着による帯体2との接合を容易に行うことができ、容易に製造することができる。
【0027】
拡張部5は、帯体2および湾曲板4と同様に、実質的に透明であることが好ましいが、例えば、半透明または有色透明であってもよい。これにより、穿刺部位220を外面側から視認することができ、後述するマーカー8を穿刺部位220に容易に位置合わせすることができる。
【0028】
拡張部5の構造は、例えば、前述したような材料からなる2枚のシート材を重ね、縁部を融着または接着等の方法により接合して袋状に形成したものとすることができる。拡張部5の外形は、
図1に示すように、拡張していない状態では、四角形である。
【0029】
拡張部5は、可撓性を有する保持部51を介して、帯体2に連結されている。なお、保持部51は、拡張部5と同材質で構成されていることが好ましい。
【0030】
マーカー8は、拡張部5の中心部52、すなわち拡張部5の外形をなす四角形の対角線の交点に設けている。これにより、止血器具1の使用時に、拡張部5の中心部52を穿刺部位220に位置合わせすることが可能となり、拡張部5を拡張させた際に、拡張部5の押圧力を穿刺部位220に対して作用させることができる。
【0031】
マーカー8の形状は、特に限定されず、例えば、円、三角形、四角形等が挙げられ、本実施形態では、四角形をなしている。
【0032】
マーカー8の大きさは、特に限定されないが、例えば、マーカー8の形状が四角形をなしている場合、その一辺の長さが1〜4mmの範囲であることが好ましい。一辺の長さが5mm以上であると、穿刺部位220の大きさに対してマーカー8の大きさが大きくなるため、拡張部5の中心部52を穿刺部位220に位置合わせし難くなる。
【0033】
マーカー8の材質は、特に限定されず、例えば、インキ等の油性着色料、色素を混練した樹脂等が挙げられる。
【0034】
マーカー8の色は、拡張部5を穿刺部位220に位置合わせすることができる色であれば特に限定されないが、緑色系が好ましい。緑色系にすることにより、マーカー8を血液や皮膚上で容易に視認することができるため、拡張部5を穿刺部位220に位置合わせすることがより容易となる。
【0035】
また、マーカー8は半透明または有色透明であることが好ましい。これにより、穿刺部位220をマーカー8の外面側から視認することができる。
【0036】
拡張部5にマーカー8を設ける方法は特に限定されないが、例えば、マーカー8を拡張部5に印刷する方法、マーカー8を拡張部5に融着する方法、マーカー8の片面に接着剤を塗布して拡張部5に貼り付ける方法等が挙げられる。
【0037】
なお、マーカー8は拡張部5の内面側に設けてもよい。この際、マーカー8は、穿刺部位220と直接接触しないように拡張部5内の内表面等に設けられることが好ましい。
【0038】
注入部9は、拡張部5内に流体を注入するための部位であり、
図1に示すように、拡張部5に接続されている。注入部9は、その基端部が拡張部5に接続され、その内腔が拡張部5の内部に連通する可撓性を有するチューブ91と、チューブ91の内腔と連通するようにチューブ91の先端部に配置された袋体92と、袋体92に接続された管状のコネクタ93とを備えている。コネクタ93には、逆止弁(図示せず)が内蔵されている。
【0039】
拡張部5を拡張(膨張)させる際には、コネクタ93にシリンジ(図示せず)の先筒部を挿入して逆止弁を開き、このシリンジの押し子を押して、シリンジ内の流体を注入部9を介して拡張部5内に注入する。拡張部5が膨張すると、チューブ91を介して拡張部5と連通している袋体92も膨張し、流体が漏れずに、拡張部5を加圧できていることを目視で確認できる。拡張部5内に流体を注入した後、コネクタ93からシリンジの先筒部を抜去すると、コネクタ93に内蔵された逆止弁が閉じて流体の漏出が防止され、拡張部5が膨張した状態が維持される。
【0040】
容器部6は、拡張部5から流出させた流体が流入される部位であり、
図1、
図3に示すように、チューブ61および流体調整部7を介して拡張部5と連通している。チューブ61の基端部は、拡張部5に接続されおり、チューブ61の先端部は流体調整部7が備えるハウジング70に接続されている。
【0041】
容器部6の内部は、外部(周囲環境)との連通が遮断されており、拡張部5から流入した流体を外部へ漏洩することなく密封した状態で保持する。容器部6は、略矩形の袋状に構成している。容器部6の内部には、所定の容積の密封空間62が形成されている。なお、「容器部の内部は、外部との連通が遮断されている」とは、容器部の内部と周囲環境とが弁体等の機械的な手段で直接的に連通可能に構成されていないことをいう。
【0042】
容器部6は、流体の流入に伴い拡張変形可能な材料で構成している。容器部6の構成材料としては、例えば、帯体2や拡張部5の構成材料と同様のものを用いることができる。
【0043】
拡張部5の拡張に用いられる流体は、気体でも液体でもよく、例えば、CO
2ガス、O
2ガス等、生理食塩水が挙げられる。
【0044】
容器部6の容積(密封空間62の容積)は、特に限定されることはないが、拡張部5の容積よりも大きく形成することが好ましい。本実施形態においては、容器部6の容積は、拡張部5の容積よりも大きく形成している。容器部6の容積は、特に限定されることはないが、例えば、20cc〜30ccに形成することができる。また、拡張部5の容積は、特に限定されることはないが、例えば、10cc〜20ccに形成することができる。
【0045】
流体調整部7は、拡張部5に注入した流体が容器部6へ経時的に流入するように流体の流れを調整可能である。
図3に示すように、流体調整部7は、ハウジング70と、弁体75を備えている。
【0046】
ハウジング70は、チューブ61の先端部が液密・気密に接続された第1ケース体71と、容器部6に接続された第2ケース体72とにより構成している。弁体75は、第1ケース体71と、第2ケース体72との間に挟み込まれるようにして、ハウジング70内に収容されている。
【0047】
第1ケース体71には、チューブ61から流入する流体が流通する流路71aを形成している。また、第2ケース体72には、容器部6の密封空間62に連通する流路72aを形成している。拡張部5に注入した流体は、チューブ61、流路71a、弁体75が備える開通部78、流路72aを経由して容器部6の密封空間62内へ流入する。
【0048】
弁体75は、
図4に示すように、その全体形状(外形形状)が円柱状をなしている。弁体75には、微量の流体が通過し得る流路をなす開通部78を形成している。開通部78は、弁体75の一方の端面(先端面)76側に形成した第1スリット76aと、弁体75の他方の端面(基端面)77側に形成した第2スリット77aとにより構成している。
【0049】
第1スリット76aは、弁体75の内部から先端面76のみに到達するように形成している。第2スリット77aは、弁体75の内部から基端面77のみに到達するように形成している。各スリット76a、77aは、その形状が平面視で一文字状をなしており、側面視で円弧状をなしている。
【0050】
第1スリット76aと第2スリット77aは、弁体75の内部において部分的に交差している。図示する構成では、第1スリット76aと第2スリット77aは、十文字状に交差している。つまり、第1スリット76aと第2スリット77aとの交差角度は、90°となっている。ただし、この交差角度は90°に限定されない。また、2つのスリット76a、77aで開通部78を構成しているが、これに限定されず、例えば、1つまたは3つ以上のスリットで開通部78を構成してもよい。また、各スリット76a、77aの平面視での形状は、一文字状であるが、これに限定されず、例えば、Y字状、ト字状、V字状、U字状等であってもよい。
【0051】
弁体75の構成材料は、特に限定されないが、例えば、弾性部材であるシリコーンゴム、ラテックスゴム、ブチルゴム、イソプレンゴム等を用いることができる。
【0052】
拡張部5から容器部6内へ流入する流体の流入量は、弁体75に形成した開通部78により調整される。開通部78は、弁体75に形成した切れ目状の第1スリット76aおよび第2スリット77aにより構成しているため、当該開通部78が通過を許容する流体の流量は微量なものとなる。したがって、拡張部5内に注入した流体が、止血器具1の使用を開始した直後に容器部6に大量に流れ込んで拡張部5の圧力が急激に減少するといったことが発生するのを未然に防止することができる。
【0053】
なお、単位時間当たりの流体の流入量(容器部6へ流れ込む量)は、使用する拡張部5の容積、止血処置を行う時間等により適宜に定めることができ、特に限定されることはない。
【0054】
弁体75が許容する流体の流入量は、弁体75の圧縮量を変化させて調整することも可能である。例えば、弁体75の形状を考慮して、弁体75に押圧力を付与し得るような形状にハウジング70の内部を構成することで、弁体75を圧縮させて、流体の流入量を調整してもよい。
【0055】
流体調整部7は、拡張部5と容器部6の連通を遮断した非連通状態を、拡張部5と容器部6が連通した連通状態へ切り替えることが可能に構成されている。本実施形態では、止血器具1の使用を開始した初期段階においては、流体調整部7が備える弁体75の第1スリット76aを閉鎖し、時間の経過に応じて第1スリット76aを開放することにより、拡張部5と容器部6の連通状態を切り替える構成を設けている。具体的には、弁体75の第1スリット76aをなす部分に拡張部5との差圧によって切れ目を生じさせる脆弱部を形成している。止血開始後、所定の時間が経過した後に、脆弱部が破断すると、拡張部5と容器部6との連通がなされる。
【0056】
脆弱部は、例えば、破線状に物理的な切れ目が形成されたシート材や、熱等が付加されて破断が生じ易くなった部分を備えるシート材などを弁体75に取り付けることで構成してもよいし、弁体75自体に破断の起点となる部分(薄肉部等)を形成して構成してもよい。また、弁体75は、時間の経過に伴って脆弱部の破断が徐々に進行し、その結果、流体の流入量が調整されるように構成してもよい。また、弁体75は、手指などによる外部からの操作により、脆弱部を破断させて連通状態への切り替えを行うように構成してもよい。
【0057】
ハウジング70は、弁体75の一部を覆って保護する保護カバー部としての機能を有している。流体の流入量を調整する弁体75が外部から不用意に触れられて押圧等されると、流入量が増減し、拡張部5の減圧が予定通りに進行しない可能性がある。また弁体75とともに容器部6が押圧されると、容器部6から拡張部5へ向けて流体を逆流させる誤操作が行われてしまう可能性もある。このため、ハウジング70で弁体75を保護している。
【0058】
ハウジング70には、弁体75の側面79の一部を外部に露出させる窓部74を設けている。例えば、窓部74を介して、弁体75を手指で押圧等することにより、意図的に弁体75の開閉度を調整することが可能になる。また、窓部74を介して、弁体75を手指で押圧等することにより、前述した脆弱部を破断させて連通状態への切り替えを行うことも可能である。
【0059】
ハウジング70の構成材料は、特に限定されないが、例えば、硬質樹脂のような硬質材料が好適である。硬質樹脂の具体例としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリスチレン等が挙げられる。
【0060】
チューブ61および容器部6は、例えば、ハウジング70に対して溶着等により固着させることができる。弁体75も同様に、溶着等によりハウジング70に固着させることが可能である。
【0061】
次に、本実施形態に係る止血器具1の使用方法について説明する。
【0062】
止血器具1を手首200に装着する前では、拡張部5および容器部6は、拡張していない状態となっている。また、拡張部5および容器部6は、弁体75により、非連通状態となっている。
【0063】
手首200に穿刺を行う場合、通常、橈骨動脈210への穿刺部位220は、右手の手首200の親指側へ片寄った位置にある。また、穿刺部位220にはイントロデューサーシースが留置されている。このイントロデューサーシースが留置されたままの状態の手首200に帯体2を巻き付け、拡張部5に設けられたマーカー8が穿刺部位220上に重なるように拡張部5および帯体2を位置合わせして、面ファスナー3の雄側31および雌側32を接触させて接合し、帯体2を手首200に装着する。
図6に示すように、この際、止血器具1は、拡張部5に連結される注入部9が、橈骨動脈210の血流の下流側に向くように、手首200に対して装着される。これにより、手首よりも上流側での手技や、上流側に位置する器具(例えば、血圧計等)に干渉することなしに、注入部9の操作が可能である。また、止血器具1を、注入部9が下流側に向くように右の手首200に装着することで、湾曲板4の一方側に片寄って重なるように配置される拡張部5は、手首200の親指側へ片寄って位置する橈骨動脈210に位置する。なお、動脈の場合、血管の上流側とは、血管の心臓に近づく方向をいう。また、血管の下流側とは、血管の心臓から遠ざかる方向をいう。
【0064】
止血器具1を手首200に装着した後、注入部9のコネクタ93にシリンジ(図示せず)を接続し、前述したようにして流体を拡張部5内に注入し、
図5に示すように、拡張部5を拡張させて、穿刺部位220を圧迫する。このときの流体の注入量により、症例に応じて、拡張部5の拡張度合い、すなわち、穿刺部位220への圧迫力を容易に調整することができ、止血器具1の操作性が高い。
【0065】
拡張部5を拡張させた後、コネクタ93からシリンジを離脱させる。そして穿刺部位220からイントロデューサーシースを抜去する。これにより、拡張部5は、拡張状態を維持し、穿刺部位220への圧迫状態が維持される。
【0066】
拡張部5が拡張すると、湾曲板4は、手首200の体表面から離間して、手首200に接触し難くなる。また、止血器具1は、止血器具1を装着した後に拡張部5を拡張させると、湾曲板4により、拡張部5の手首200の体表面から離れる方向への拡張が抑制され、拡張部5の圧迫力が止血する血管に集中する。これにより、拡張部5からの圧迫力が、穿刺部位220の周辺に集中して作用するため、止血効果が向上するとともに、止血を必要としない他の血管や神経等を圧迫するのを回避することができ、手のしびれや血行不良などを生じるのを有効に防止することができる。
【0067】
止血器具1を使用して所定の時間が経過すると、弁体75に形成した脆弱部が破断し、拡張部5と容器部6が連通する。拡張部5に注入した流体は、チューブ61および流体調整部7を経由して容器部6へ流入する。拡張部5から流体が経時的に流出することにより、穿刺部位220に付与される圧迫力が経時的に減少する。
【0068】
容器部6は、密封空間62内に流入した流体を外部に漏洩させることなく保持する。容器部6は、流体の流入に伴い、流入量に応じて拡張変形する。このため、使用している最中に容器部6の拡張変形量を目視で確認することにより、減圧がどの程度進行しているかを把握することが可能になる。また、減圧が滞りなく進行しているか否かも併せて確認することが可能になる。容器部6は流体が流入する前の状態においては、収縮したコンパクトな状態となっているため、使用開始時の取り扱いは容易なものとなる。
【0069】
拡張部5が穿刺部位220に付与する圧迫力は、時間の経過に応じて減少する。同様に、使用時間の経過に応じて止血も進行する。止血を開始した初期には、比較的大きな圧迫力を付与して止血を強める一方で、止血の完了が近付くのにしたがって圧迫力が減少するため、効率的な止血を行いつつ、患者に掛かる負担を軽減することが可能になる。
【0070】
止血を継続し、拡張部5の圧力と容器部6の圧力とが略同一になると、容器部6への流体の流入が終了する。止血が完了していない場合には、拡張部5を再度拡張させることにより、穿刺部位220に対して圧迫力を再度付与してもよい。この際、容器部6および弁体75等を押圧するなどして、容器部6内に流入させた流体を拡張部5へ戻すことによって拡張部5を拡張させてもよいし、シリンジを使用して注入部9のコネクタ93から流体を注入して拡張部5を拡張させてもよい。容器部6は、拡張部5よりも大きな容積で形成しているため、シリンジを使用して拡張部5へ流体を追加する場合においても、追加した分の流体は、容器部6で保持することができる。
【0071】
本実施形態に係る止血器具1の作用を説明する。
【0072】
本実施形態に係る止血器具1は、手首200の穿刺部位220に巻き付けることが可能な可撓性を備える帯体2と、帯体2を手首200に巻き付けた状態で固定する固定部3と、帯体2に連結され、流体を注入することにより拡張する拡張部5と、外部との連通が遮断されるとともに、拡張部5と連通可能に構成された容器部6と、拡張部5から容器部6へ流体を経時的に流入させることが可能な流体調整部7と、を有している。
【0073】
このように構成した止血器具1によれば、拡張部5に注入した流体を容器部6へ経時的に流入させることにより、拡張部5の圧力が徐々に減少するため、穿刺部位220が長時間にわたって過剰に圧迫されるのを防止できる。また、容器部6は、流入した流体を内部に保持することにより、流体が外部へ漏洩するのを防止する。したがって、患者の身体に掛かる負担を軽減することができ、かつ、拡張部5から流出される流体の処理に要する手間を省くことが可能な安全性及び利便性に優れる止血器具1を提供することが可能になる。
【0074】
また、容器部6の容積は、拡張部5よりも大きく形成している。このため、拡張部5内の流体を容器部6へ流入した後に、拡張部5内へ流体を再度供給するような場合においても、拡張部5から容器部6へ再び流体を流入させることができ、拡張部5の拡張−減圧を複数回にわたって繰り返し行うことができる。さらに、容器部6の容積が拡張部5よりも大きいことにより、拡張部5が減圧されている最中に容器部6の圧力が過剰に高まるのを防止することができ、容器部6へ流体を円滑に流入させることが可能になる。
【0075】
また、流体調整部7は、拡張部5と容器部6の連通を遮断した非連通状態を拡張部5と容器部6が連通した連通状態へ切り替え可能に構成されている。また、流体調整部7は、拡張部5と容器部6が連通した連通状態の際、拡張部5から容器部6へ流体を経時的に流入させるように構成されている。そのため、術者は、流体調整部7を連通状態に切り替えるタイミングで拡張部5の減圧を開始させることができる。よって、意図しないタイミングで拡張部5の減圧が開始されるのを防止することができる。
【0076】
また、流体調整部7が、容器部6へ流入する流体の流入量を調整可能な弁体75を有しており、弁体75の少なくとも一部を覆って保護するハウジング70をさらに有するため、弁体75による流体の流入量の調整が可能となる一方で、弁体75が不用意に触れられて拡張部5の減圧が予定通り進行しないなどのリスクが発生するのを好適に防止することができる。
【0077】
また、容器部6が、流体の流入に伴い拡張変形可能に構成されているため、使用している最中に容器部6の拡張変形量を目視で確認することにより、減圧がどの程度進行しているかを把握することができる。さらに、減圧が滞りなく進行しているか否かも確認することが可能になる。
【0078】
<流体調整部の変形例>
次に、前述した流体調整部7の変形例を説明する。
図7には、第1変形例に係る流体調整部370の要部断面を示し、
図8には、第2変形例に係る流体調整部470の要部断面を示し、
図9には、第3変形例に係る流体調整部570の要部断面を示す。既に説明した部材と同一の部材や同一の機能を備える構成等については説明を適宜省略する。
【0079】
まず、第1変形例に係る流体調整部370を説明する。
【0080】
図7に示すように、第1変形例に係る流体調整部370は、弁体375の構成が前述した流体調整部7と相違する。
【0081】
弁体375は、厚み方向に貫通する通孔375aを有する円柱状の弾性部材により構成している。弁体375の構成材料としては、前述した弁体75と同様のものを用いることができる。
【0082】
弁体375は、厚み方向(軸方向)および周方向(中心軸に向かう方向)に押圧力が付与された状態でハウジング70内に収容している。弁体375は圧縮変形することで、通孔375aの径が狭められた状態となっている。通孔375aの径が狭められることにより、容器部6への流体の流入量が微量に調整される。したがって、前述した弁体75を使用する場合と同様に、止血器具1の使用時に、拡張部5内の圧力を経時的に少量ずつ減少させることができる。
【0083】
なお、流体調整部370は、弁体375に対して厚み方向および周方向のいずれかの方向のみに圧縮力を付与することにより、通孔375aの径を調整するように構成してもよい。
【0084】
また、流体調整部370は、弁体375に対して圧縮力を付与した状態で維持するために、第1ケース体71と第2ケース体72との相対的な位置関係を固定可能なロック−アンロック機構を有していてもよい。
【0085】
次に、第2変形例に係る流体調整部470を説明する。
【0086】
図8に示すように、第2変形例に係る流体調整部470は、弁体475の構成およびハウジング470’の構成が前述した流体調整部7と相違する。
【0087】
ハウジング470’が備える第1ケース体471には、流路471aと、弁体475の一方の端面(先端面)475aを押圧する押圧部471bとが形成されている。また、ハウジング470’が備える第2ケース体472には、流路472aと、弁体475の他方の端面(基端面)475bに当接するように配置された凸部472bとが形成されている。
【0088】
ハウジング470’は、弁体475の周囲との間に流路となる隙間をその内部に形成するように、弁体475を覆って配置される。なお、図示省略するが、押圧部471bが形成された位置には、流体が流通可能となるように、周方向に沿って隙間を設けている。
【0089】
弁体475は、先端面475aが平坦状に形成され、基端面475bがテーパー形状に形成されている。また、頂部となる部分475cが先端面475aと略平行に延びた形状を有する。弁体475は、弾性変形可能な材料で構成している。弁体475の構成材料としては、前述した弁体75と同様のものを用いることができる。
【0090】
弁体475は、ハウジング470’に収容された状態において、一方の端面475aが押圧部471bにより押圧されることにより、他方の端面475bに凸部472bが喰い込む。他方の端面475bに凸部472bが喰い込んだ部分の周辺には、シール部478が形成される。このシール部478におけるシール性は、流体の流通を完全に遮蔽せず、流体の微量な流通を許容する程度に設定することができる。
【0091】
チューブ61を経由してハウジング470’内に流れ込んだ流体は、弁体475の外周とハウジング470’の内面との間に区画された隙間を通って、容器部6内へ流入する。容器部6内へ流入する流入量は、凸部472bにより絞られるため、前述した弁体75を使用する場合と同様に、拡張部5内の圧力を経時的に少量ずつ減少させることが可能になる。
【0092】
次に、第3変形例に係る流体調整部570について説明する。
【0093】
図9に示すように、第3変形例に係る流体調整部570は、弁体375の構成およびハウジング570’の構成が前述した流体調整部7と相違する。
【0094】
ハウジング570’は、第1ケース体571と第2ケース体572に加えて、チューブ61が固定される支持部材573を備えている。支持部材573の外表面には、雄ネジ部573bが形成されている。また、第1ケース体571の内表面には、雄ネジ部573bに噛み合い自在な雌ネジ部571bが形成されている。
【0095】
支持部材573には、流体が流通可能な流路571aが形成されている。第2ケース体572にも流路572aが形成されている。チューブ61から流入する流体は、流路571a、弁体375の通孔375a、流路572aを経由して容器部6へ流入する。
【0096】
弁体375は、
図7に示すものと同様のものを使用している。
【0097】
ハウジング570’内に弁体375を収容した状態で、第1ケース体571を回転させて締め込むと、弁体375が軸方向に圧縮される。弁体375に形成された通孔375aの径が狭められることにより、容器部6に流れ込む流体の流入量が微量に調整される。したがって、前述した弁体75を使用する場合と同様に、拡張部5内の圧力を経時的に少量ずつ減少させることが可能となる。また、第1ケース体571を回転させることにより、締め込みを緩めると、弁体375の通孔375aの径が広がる。
【0098】
このように、本変形例に係る流体調整部570は、第1ケース体571の締め込み量を調整することにより、通孔375aを通る流体の流量を可逆的に調整することができる。なお、締め込みにより、通孔375aの閉塞−開放を操作して、拡張部5と容器部6の連通−非連通状態を可逆的に切り替えることも可能である。
【0099】
<改変例>
次に、前述した止血器具1の改変例を説明する。
図10には、改変例に係る止血器具600の要部を示す。既に説明した部材と同一の部材や同一の機能を備える構成等については説明を適宜省略する。
【0100】
改変例に係る止血器具600は、容器部6の容積を可変可能に調整する容積調整部610をさらに有する。他の構成は前述した実施形態と実質的に同様である。
【0101】
容積調整部610は、円柱状の回転ローラ611と、回転ローラ611と協働して容器部6を液密・気密に封止する長尺状の押え板612と、を有する。
【0102】
容積調整部610は、回転ローラ611を回動させることによって容器部6を液密・気密に封止した状態を保ったまま、容器部6の長手方向(
図10の左右方向)に移動可能に構成されている。容積調整部610はこの移動に伴って、容器部6の密封空間62の容積を可変可能に調整する。なお、押え板612が容器部6に対して摺動できるようにするために、回転ローラ611および押え板612による容器部6の把持力は適宜調整することができる。
【0103】
例えば、使用者は、止血器具600を使用している最中に容器部6の容積を小さく調整することにより、容器部6へ流入する流体の許容量(拡張部5から排出される流体の限界量)を調整することができ、拡張部5が過度に減圧されるのを防止できる。
【0104】
また、拡張部5を減圧させた後、容積調整部610を
図10の右方向へ移動させることによって流体を押し出して拡張部5を再び拡張(加圧)させる操作を行うことも可能である。これによって、拡張部5による穿刺部位220への圧迫力を再調整することができる。
【0105】
なお、回転ローラ611は、外表面に回転方向に沿ってほぼ均等な間隔によって配置された複数の突起部を備えるように構成することが好ましい。使用者が回転ローラ611を操作する際に、使用者の手指等に接触する可能性のある表面部位に突起部を設けることによって、すべり止め機能としての役割を果たすので、回動操作が容易になる。また、突起部の移動量を基準として回転量を調整することが可能となるため、より正確に密封空間62の容量を調整できるようになる。
【0106】
また、容積調整部610の構成は、上述したものに限定されず、例えば、一対の円柱状の回転ローラによって容器部6を液密・気密に封止する構成としてもよい。
【0107】
以上、実施形態および各変形例を通じて本発明に係る止血器具を説明したが、本発明は説明した各構成のみに限定されるものでなく、特許請求の範囲の記載に基づいて適宜変更することが可能である。例えば、止血器具を構成する各部は、同様の機能を発揮し得る任意の構成のものと置換することができる。また、任意の構成物が付加されていてもよい。
【0108】
例えば、複数の変形例等を通じて流体調整部の一例を説明したが、流体調整部は、拡張部から容器部へ流体を経時的に流入させる機能を備え得る限りにおいてその構成は特に限定されない。例えば、拡張部から容器部への流体の流入は許容する一方で、容器部から拡張部への流体の流入を遮断する一方弁、流体の流入量を調整することができない構成のもの(流入量が一定に規定されたもの)、拡張部と容器部を常時連通した状態に維持するもの、弾性変形可能な弁体を使用しないもので流体調整部を構成することも可能である。また、弾性変形可能な弁体を使用する場合においても、弁体の形状や弁体に対して圧縮力を付与する構成などは、図示等により説明したもののみに限定されることはない。また、例えば、ガス透過性フィルムや多孔質部材などを用いて容器部内への流体の流入量を調整するようにしてもよい。
【0109】
例えば、容器部として流体の流入により拡張変形可能に構成されたものを示したが、容器部は、当該容器部の内部が外部と遮断された構成のものであればよく、拡張変形可能に構成されたものでなくてもよい。また、容器部の容積は、拡張部の容積と同一に形成してもよいし、拡張部よりも小さく形成してもよい。また、容器部は、拡張部から流体流入し得る部位に配置されていればよく、例えば、チューブなどを介さずに拡張部に直接的に連結してもよいし、注入部と拡張部とを連結するチューブから分岐させて、当該チューブを介して拡張部と連結させてもよい。また、一つの止血器具に対して複数の容器部を設けることも可能である。このように構成する場合、容器ごとに容積を異ならせてもよい。
【0110】
例えば、拡張部と帯体との間に、拡張部による手首への圧迫方向を調整可能にする補助圧迫部を設けることも可能である。補助圧迫部は、例えば、拡張部に連結され、拡張部とともに流体により拡張する可撓性部材、スポンジ状の物質、弾性材料、綿(わた)のような繊維の集合体、またはこれらの組み合わせなどによって形成された部材で構成することができる。
【0111】
また、拡張部の外形は、拡張していない状態において四角形に限定されず、例えば、円形、楕円形、五角形等の多角形であってもよい。この場合、拡張部の中心部は、拡張部の外形をなす形状の中心である。
【0112】
また、マーカーは、拡張部に設けるのではなく、帯体、湾曲板、補助圧迫部に設けてもよい。この場合、マーカーは、拡張部の中心部に重なるように設けることが好ましい。
【0113】
また、容器部は、略矩形の袋状に限定されず、拡張部から流出させた流体が流入可能であればよい。例えば、容器部は、円形、楕円形、多角形の袋状であってもよい。
【0114】
また、本発明の止血器具は、手首に装着して使用するものに限らず、腕または脚(本明細書では、これらを総称して「肢体」という)のいかなる部分に装着して使用する止血器具にも適用することができる。