【実施例】
【0094】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0095】
[実施例1:エクソソームを鋳型に用いた検出対象の分析用センサ作製用基材]
本実施例では、金薄膜蒸着ガラス基板上にアミノ基及びブロモ基が末端となる混成自己組織化単分子膜(mixed SAMs)を作製し(分子膜形成工程)、アミノ基末端へNTA基を導入し、NTA-Ni錯体を形成した後、キレート結合により抗体結合タンパク質ProteinGを結合させ、Anti-CD9抗体を固定化し、さらに抗CD9抗体を介してエクソソームを固定化した(鋳型導入工程)。その後、BAMを用いてエクソソーム膜にメタクリル基修飾を施し(表面修飾工程)、表面開始制御/リビングラジカル重合によりポリマー薄膜を合成した(重合工程)。最後にエクソソームを除去し(除去工程)、検出対象の分析用センサ作製用基材を得た。
【0096】
1.mixed SAMsの作製(分子膜形成工程)
濃硫酸及び30w/v%過酸化水素水を3:1(体積基準)で混合し、ピラニア溶液を作製した。金薄膜蒸着ガラス基板(SPR測定に供する場合はGE Healthcare社のSIA Kit Auを用い、蛍光測定に供する場合はジャスコエンジニアリング社の金蒸着ミラーを用いた。)をピラニア溶液に室温で15分間浸漬させ有機残滓を除去した。基板を純水で洗浄後、0.5 mM Amino-EG6-undecanthiol hydrochloride(同仁化学研究所)、0.5mM Bis [2-(2-bromoisobutyryloxy) undecyl] disulfide(Sigma-Aldrich)のEtOH溶液に基板を浸漬させ、25℃で24時間静置した。
【0097】
2.Protein G及びAnti-CD9抗体を介したエクソソームの固定化(鋳型導入工程)
20 mM Isothiocyanobenzyl-NTA(同仁化学研究所)DMSO溶液80 μLを基板に滴下し、25℃で2時間静置した。基板をDMSO及び純水で洗浄後、4 mM NiCl
2水溶液100 μLを基板に滴下し、室温で15分間静置した。基板を純水で洗浄後、100 μM Recombinant His-tagged Protein G(Bio Vision)PBS(10 mM posphate, 140 mM NaCl, pH7.4)溶液100 μLを基板に滴下して、25℃で30分間静置した。基板をPBSで洗浄後、0.3 μM Anti-CD9(Human)mAb(MBLライフサイエンス)PBS(10 mM posphate, 140 mM NaCl, pH7.4)溶液100 μLを基板に滴下して、25℃で30分間静置した。これによって、Protein G及びAnti-CD9抗体を固定化した。なお、Protein G及びAnti-CD9抗体が固定化されたことは、表面プラズモン共鳴分析(測定条件は、sample 1:100 μM Protein G、sample 2:0.3 μM Anti-CD9、flow rate:30 μL/min、injection volume:30 μL、running buffer:PBS (10 mM posphate,140 mM NaCl, pH7.4)、temperature:25℃)を用い、SPRシグナル(応答ユニットRU)の増大(ΔRuは、Protein Gで4500、Anti-CD9で5919であった。)により確認した。表面プラズモン共鳴分析には、表面プラズモン共鳴分子間相互作用解析装置Biacore Q(GE Healthecare)を用いた(以下、SPR分析を行う場合において同様)。
【0098】
さらに、基板をPBSで洗浄後、20 μg/mL エクソソーム(Exosomes from PC3 cell, HansaBioMed)PBS(10 mM posphate, 140 mM NaCl, pH7.4)溶液100 μLを基板に滴下し、25℃で30分間静置した。これによって、エクソソームを固定化した。なお、エクソソームが固定化されたことは、Anti-CD9抗体を固定化していないことを除いて同じ基板を別途作製し、両者で、SPR(測定条件は、sample:exosome、concentration:25, 50, 100, 250, 500, 1000, 2500, 5000, 10000 ng/mL、flow rate:10 μL/min、injection volume:30 μL、running buffer:PBS (10 mM posphate,140 mM NaCl, pH7.4)、temperature:25℃)を用いたエクソソームの結合挙動比較において、Anti-CD9抗体を固定化した基板の方でエクソソームの吸着量が多いことを確認することにより行った。
【0099】
3.エクソソームへのメタクリル基修飾(表面修飾工程)
3−1.アンカー物質BAM-SH(
図5中アンカー物質41に相当)の合成
BAM(Biocompatible Anchor for cell Membrane(Mw=2000);SUNBRIGHT OE-020CS、油化産業株式会社)10.3 mg (5.65 μmol)及び2-Aminoethanethiol hydrochloride(東京化成工業)31.9 mg (280 μmol, 49.7 eq)を、PB(10 mM posphate, pH7.0) 50 μLに溶解させて25°Cで4時間反応させ、アンカー物質BAM-SHを得た。ここでpH7.0の緩衝液を用いたのは、BAMのNHS基の加水分解速度を下げてアミノ基との反応性を上げるためである。
【0100】
【化2】
【0101】
3−2.2-(2-Pyridyl)dithioethyl methacrylate(
図5中分子34に相当)の合成
2,2-Dipyridyl disulfide (1.545 g, 7.01 mmol)をmethanol (15 mL)に溶解させ、acetic acid 180 μL を加えて攪拌した。methanolに溶解させた2-Mercaptoethanol (600 μL, 8.45 mmol)を室温で少量ずつ加え、一晩反応させた。シリカゲルクロマトグラフィー(EtOAc:hexane = 50:50(体積基準))によりRf=0.33のフラクションを回収して減圧留去することで,うすい黄色で透明な油状の精製物(2-hydroxyethyl 2-pyridyl disulfide)を得た。
【0102】
2-hydroxyethyl 2-pyridyl disulfide (1.028 g, 5.49 mmol)、Methacrylic Acid (0.70 mL, 8.23 mmol, 1.5 eq)、WSC-HCl(1.5825 g, 8.23 mmol, 1.5 eq)、及びDIEA(0.956 mL8.23 mmol, 1.5 eq)を適量の methanol に溶解させ、室温で攪拌して3日反応させた。飽和食塩水及び純水で洗浄後、回収した有機相をNa
2SO
4で脱水した。溶媒除去後,シリカゲルクロマトグラフィー(EtOAc : hexane = 20:80(体積基準))によりRf=0.37のフラクションを回収して減圧留去することで,褐色で透明な油状の精製物(2-(2-Pyridyl)dithioethyl methacrylate)を得た。(
1H-NMR (CDCl
3, 300 MHz), δ (ppm): 8.48 (m, 1H, aromatic proton ortho-N), 7.60-7.71 (m, 2H, 9 aromatic proton meta-N and para-N), 7.11 (m, 1H, aromatic proton, orthodisulfide linkage), 6.22 (d, 1H, vinylic proton, cis-ester), 5.59(d, 1H, vinylic proton, trans-ester) 4.41 (t, 2H, -S-S-CH
2CH
2O-), 3.12 (t, 2H, -S-S-CH
2CH
2O-), 1.92(s, 3H, methyl proton of the methacryloyl group))
【0103】
【化3】
【0104】
BAM-SHをPBで希釈して100 μM BAM-SHの PB(10 mM posphate, pH7.0)溶液とし、エクソソーム固定化基板を浸漬させて25℃で1時間静置し、基板をPBS(10 mM posphate, 140 mM NaCl, pH7.4)で洗浄した。その後、2-(2-Pyridyl)dithioethylmethacrylateを50 μLのDMSOで溶解させた後にPBS(10 mM posphate, 140 mM NaCl, pH7.4)で100 μMに希釈し(DMSOは全体の0.9 wt%程度)、100 μM 2-(2-Pyridyl)dithioethylmethacrylateのPBS(pH 7.4)溶液を調製した。調製した溶液基板を浸して25℃で一晩反応させた。
【0105】
4. MIP薄膜の作製(重合工程)
下記表に示したレシピ(Recipe of SI-ATRP for synthesis of Exosome-MIP)に従い、表面開始原子移動ラジカル重合(SI-ATRP;Surface-initiated atom transfer radical polymerization)によってポリマー薄膜を合成した。
【0106】
【表1】
【0107】
25 mLのシュレンクフラスコに、2−メタクリロイロキシエチルホスホリルコリン(MPC)、2,2'-Bipyridyl(ナカライテスク)、CuBr
2(ナカライテスク)及びPBS (10 mM posphate,140 NaCl, pH7.4)からなる溶液を調製し、脱気を行った後に基板を浸漬させた。再度脱気を行った後、L-Ascorbic Acid(L(+)-Ascorbic Acid、ナカライテスク)をシリンジで注入し、重合を開始した。重合条件は、40℃のウォーターバス中で1時間とし、重合反応の間、低速で振とうし続けた。
【0108】
5.エクソソーム及び抗体の除去(除去工程)
1 M EDTA-4Na 水溶液に基板を15分間浸してCu
2+を取り除いた。50 mM TCEP水溶液に基板を25℃で3時間浸漬させ、ジスルフィド結合を還元した。純水で基板を洗浄後、0.5wt% SDSを含む50 mM酢酸バッファー(pH 4.0)に基板を浸して低速で1時間振とうし、ポリマー薄膜からProtein G、Anti-CD9及びエクソソームを切り出した。なお、エクソソームが実際に切り出されたことは、SPR(測定条件は、sample1:50 mM TCEP水溶液 x3、sample2:酢酸buffer(10 mM, pH4.0), 0.5wt% SDS solutions x2、flow rate:30 μL/min、injection volume:30 μL、running buffer:PBS (10 mM posphate,140 mM NaCl, pH7.4)、temperature:25℃)を用い、SPRシグナル(応答ユニットRu)の減少により確認した。これによって、検出対象の分析用センサ作製用基材(MIP基板)が得られた。
【0109】
[実施例2:エクソソームを鋳型に用いた検出対象の分析用センサ]
実施例1で得られた分析用センサ作製用基材(MIP基板)に、4 mM NiCl
2水溶液100μL、100μM Protein G PBS(10 mM posphate,140 mM NaCl, pH7.4)溶液100μL、及び抗CD9抗体の0.3μM PBS(10 mM posphate, 140 mM NaCl, pH7.4)溶液100μLを滴下し、抗CD9抗体を固定した。さらに、500 μM POLARIC-MLI(五稜化薬)DMSO溶液100μLを基板に滴下して25℃で1時間静置し、その後洗浄した。これによって、検出対象の分析用センサが得られた。
【0110】
[実施例3:検出対象の分析用センサを用いた蛍光分析によるエクソソーム検出]
実施例2で得られた分析用センサを用い、エクソソームの結合挙動を観察した。具体的には、作製した基板に濃度が異なるエクソソーム(推定平均分子量:1.92×10
8Da)溶液を10μLずつ滴下し、18x18mmのカバーガラスをかぶせ、室温で10分間静置した。静置は遮光下で行った。反応後の基板について蛍光強度の測定を行った。蛍光強度の測定には、蛍光顕微鏡(倒立型リサーチ顕微鏡IX 73(OLYMPUS))を用い、測定条件は、濃度:2.5, 5, 10, 50, 100, 250, 500, 1000, 2500, 5000 ng/mL、フィルター:BW、対物レンズ:x10、露光時間:0.50 sec、光量:100%とし、測定値は5点の平均値とした。分光学ソフトウェアとしては、Andor SOLISを用いた。エクソソーム濃度に対する蛍光強度変化((Io-I)/Io)を測定してグラフを作成し、それをカーブフィッティング(回帰分析)して結合定数を算出した結果を
図13に示す。グラフの作成とカーブフィッティングにはグラフ作製ソフトDeltaGraphを用い、結合定数は下記式で算出式した。その結果、結合定数Kaは1.50×10
14[M
-1]と算出された。
【0111】
【数1】
【0112】
[参考例:検出対象の分析用センサを用いたSPRによるエクソソーム検出]
実施例2で得られた分析用センサを用い、表面プラズモン共鳴(SPR)分析により結合定数を求めた。SPR測定条件は、sample:Exosome、concentration:25, 50, 100, 250, 500, 1000, 2500, 5000 ng/mL、flow rate:10 μL/min、injection volume:30 μL、running buffer:PBS (10 mM posphate, 140 mM NaCl, pH7.4)、temperature:25℃とした。エクソソーム濃度に対する、SPRシグナル(応答ユニットRU)を示すグラフから、実施例3と同様にしてカーブフィッティングを行い、結合定数を算出した結果を
図14に示す。結果、結合定数Kaは2.03×10
12[M
-1]と算出された。上述の実施例3よりも大きい結合定数が算出されたのは、上記実施例3がセンサ場となる凹部のみにおける蛍光変化を特異的に検出しており、センサ場以外で非特異吸着があっても当該非特異吸着が検出結果に影響しなかったことに対し、本参考例ではSPR分析の原理上、センサ場だけでなくセンサ場以外における非特異吸着をも検出したことによる。このように、本発明によると特異的に認識された対象のみを検出することができる。
【0113】
[実施例5:検出対象の分析用センサ作成の再現性]
実施例2と同じ方法によって検出対象の分析用センサを3枚作成した。作成した3枚の検出対象の分析用センサに対し、実施例3と同じ方法によって、濃度が異なるエキソソーム溶液を滴下して反応させ、反応後の蛍光強度の測定を行った。蛍光強度の測定は、分析用センサそれぞれにおいて3点ずつ、合計9点について行った。9点の測定点における蛍光強度変化を
図15に示す。
図15中、横軸はエクソソーム濃度(ng/ml)、縦軸は蛍光強度変化((I-I
0)/I
0)を示す。
図15に示されるように、分析用センサ間の測定誤差は小さく、センサを再現性よく作成できたことが示された。
【0114】
[実施例6:検出対象の分析用センサを用いたFRETによるエクソソーム検出]
1.エクソソームのローダミン標識
(1)チオール化BAM(BAM-SH)の合成
BAM (SUNBRIGHT OE-020CS, Mw=2000) 10 mg (5.6 μmol)及び2-aminoethanethiol hydrochloride 32 mg (280μmol, 50 eq)をPBS(pH 7.0) 50μLに溶解させ、25℃で一晩反応させた。
(2)チオール化BAMによるエクソソーム表面のチオール化
得られたチオール化BAM溶液を10 mM PBS (pH 7.4)で100倍希釈した溶液400μLとエクソソーム溶液2μg/100 μLとを混合し、4℃で3時間反応させた。
(3)チオール反応性ローダミンによるエクソソームのローダミン標識
得られた反応液について限外ろ過(Amicon Ultra 0.5 ; 100 kDa)を三回行い、回収液27μLに1 mMのチオール反応性ローダミンマレイミド溶液(10 mM PBS pH 7.4)を450μL加え、暗所、4℃で3時間反応させた。
(4)透析によるローダミン標識エクソソームの精製
孔径10kDaの透析膜を用いて4℃、24時間透析を行い、ローダミン標識エクソソームを精製した。
【0115】
2.フルオレセインで標識した検出対象の分析用センサの作製
500μM POLARIC-MLI(五稜化薬)DMSO溶液100μLを滴下して25℃で1時間静置した代わりに100μMのチオール反応性フルオレセインマレイミド溶液を滴下して室温で3時間静置したことを除き、実施例2と同様にして検出対象の分析用センサを作製した。
3.フルオレセイン標識センサを用いたFRETによるローダミン標識エクソソームの測定
0, 5, 10, 50, 100, 500 ng/mLのエクソソーム溶液をセンサ上に滴下し、3分反応させ、純水及びPBSで十分に洗浄した。洗浄後、PBSを滴下し、カバーガラスを装着して、以下の測定条件で蛍光強度の測定を行った。
測定条件:フィルタ
励起:Fluiorescein用フィルタ
蛍光:Rhodamine用フィルタ
対物レンズ:40倍
露光時間: 0.1 sec;
【0116】
測定結果を
図16に示す。
図16中、横軸はエクソソームの濃度を示し、縦軸は蛍光強度の変化量(ΔI)を示す。
図16に示すように、フルオレセインの励起波長でローダミンの蛍光が観察された(つまりFRETが確認された)。FRETはフルオレセインとローダミンとが互いに近傍に配置されない限り起こらないことから、確かにエクソソームが分析用センサのフルオレセイン標識された凹部に結合したことが示された。
【0117】
[実施例7:フリーの抗CD9抗体添加によるエクソソームの結合阻害試験]
本実施例では、エクソソームが分析用センサの凹部に抗体を介して結合することを確かめるため、エクソソームの滴下時にフリー(遊離)の抗体を共存させることによるエクソソームの結合挙動の変化を調べた。
【0118】
まず、POLARIC-MLIの代わりにAlexa FluorTM 647を用いたことを除いて、実施例2と同様にして検出対象の分析用センサを作製した。次に、フリーの抗体を共存させない試料として、0.01, 0.05, 0.1, 0.5, 1, 5, 10 ng/mlのエクソソームのPBS (10 mM phosphate, 140 mM NaCl, pH7.4)溶液を調製し、フリーの抗体を共存させた試料として、20 ng/mlのエクソソームのPBS(10 mM phosphate, 140 mM NaCl, pH7.4)溶液100μlに0.3μM抗CD9抗体のPBS(10 mM phosphate,140 mM NaCl, pH7.4)溶液100μlを加えて4℃で1時間インキュベートし、得られた溶液をPBSで希釈することで、フリーの抗体が共存する0.01, 0.05, 0.1, 0.5, 1, 5, 10 ng/mlのエクソソームのPBS(10 mM phosphate, 140 mM NaCl, pH7.4) 溶液を調製した。
【0119】
フリーの抗体を共存させない試料と、フリーの抗体を共存させた試料それぞれについて、実施例3と同様にして蛍光強度変化の測定を行った。その結果を
図17に示す。
図17に示すように、フリーの抗体が共存する場合は、エクソソームの結合が阻害されることが分かった。エクソソームの結合が結合空間内の抗体を介して起こっていることを強く示唆している。従って、分析用センサの凹部に抗体と蛍光色素とが設けられ、エクソソームの結合情報を読み出せることがわかった。
【0120】
[実施例8:シリカナノ粒子を鋳型に用いた検出対象の分析用センサ作製用基材]
1.鋳型の合成−チオール基およびヒスチジンタグ(His-tag)を導入したシリカナノ粒子の合成
FITC標識シリカナノ粒子200μl(200μlあたり表面に-COOH 5 nmolを有するもの、粒子径200nm)をジクロロメタン(DCM)に分散させた(シリカナノ粒子分散液)。エチル(ジメチルアミノプロピル) カルボジイミド(EDC: 50 nmol, 10 eq)、N-ヒドロキシコハク酸イミド(NHS: 50 nmol, 10 eq)、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIEA: 50 nmol, 10 eq) をdry DCMに溶解させ、シリカナノ粒子分散液と混合した。一晩反応させることでシリカナノ粒子表面をNHSで修飾した。表面修飾したシリカナノ粒子に対して、ヒスチジンが6個ペプチド結合で連結されたHis-tag (末端はリジン残基でありフリーのεアミノ基を有する:0.10μmol, 40eq)及び2-アミノエタンチオール塩酸塩(0.1μmol, 40eq)を加えて、室温で反応させた。反応終了後、遠心分離およびろ過によりチオール基およびHis-tagを導入したシリカナノ粒子(SH・His-tag化シリカナノ粒子)を精製した。
【0121】
2.予備実験−Ni-NTAを介したSH・His-tag化シリカナノ粒子の固定と脱離
実施例1の項目1で得られたmixed SAMsに、20 mM Isothiocyanobenzyl-NTA(同仁化学研究所)DMSO溶液80μLを基板に滴下し、25℃で2時間静置した。基板をDMSO及び純水で洗浄後、4 mM NiCl
2水溶液100μLを基板に滴下し、室温で15分間静置した。基板を純水で洗浄後、10 mM posphate,140 mM NaCl, pH7.4に分散したSH・His-tag化シリカナノ粒子を滴下することにより、SH・His-tag化シリカナノ粒子が固定化された基板を得た。また、比較用に、His-tag修飾を行わなかったシリカナノ粒子の分散液も同様に滴下した基板も得た。これらの基板に対し、シリカナノ粒子の滴下前と滴下1時間後における、シリカナノ粒子に導入されている蛍光分子フルオレセイン(励起480 nm/ 蛍光 510 nm)由来の蛍光強度を測定することにより、シリカナノ粒子の固定化を確認した。また、結合したシリカナノ粒子が脱離するかどうか確かめるため、酸性緩衝液(0.5 wt% SDS 50 mM 酢酸buffer (pH4.0))で処理し、その後、再び基板表面の蛍光強度を測定した。
【0122】
【表2】
【0123】
上記表に示すように、His-tag修飾なしのシリカナノ粒子とHis-tag修飾したシリカナノ粒子のうち、His-tag修飾したシリカナノ粒子を基板に滴下した後に蛍光強度が上昇していることから、シリカナノ粒子の固定化が確認された。さらに、His-tag修飾したシリカナノ粒子においては、酸性緩衝液(0.5 wt% SDS 50 mM 酢酸buffer(pH4.0))で処理した後に蛍光強度が滴下前と同じレベルまで減少したことから、Ni-NTAを介して結合したシリカナノ粒子が、酸性かつ界面活性剤存在下で脱離されたことが分かった。
【0124】
3.シリカナノ粒子を鋳型に用いた検出対象の分析用センサ作製用基材の作製
以下のようにして、金薄膜蒸着ガラス基板上にアミノ基及びブロモ基が末端となる混成自己組織化単分子膜(mixed SAMs)を作製し(分子膜形成工程)、アミノ基末端へNTA基を導入し、NTA-Ni錯体を形成した後、キレート結合によりシリカナノ粒子を固定化した(鋳型導入工程)。その後、シリカナノ粒子にメタクリル基修飾を施し(表面修飾工程)、表面開始制御/リビングラジカル重合によりポリマー薄膜を合成した(重合工程)。最後にシリカナノ粒子を除去し(除去工程)、検出対象の分析用センサ作製用基材を得た。
【0125】
(1)ブロモ基およびアミノ基をもつ混合自己組織化単分子膜形成(分子膜形成工程)
実施例1の項目1と同様に金薄膜蒸着ガラス基板の有機残滓の除去及び洗浄を行い、0.5 mM amino-EG6-undecanthiol hydrochloride及び0.5mM 2-(2-bromoisobutyryloxy) undecyl thiolのエタノール溶液に基板を浸漬させ、25℃で24時間静置することにより、ブロモ基およびアミノ基をもつ混合自己組織化単分子膜を形成させた。
【0126】
(2)SH・His-tag化シリカナノ粒子のNi-NTAを介した固定化(鋳型導入工程)
5 mM isothiocyanobenzyl-nitrilotriacetic acid (ITC-NTA)のDMSO溶液80 μLを基板に滴下し、25℃で2時間静置してアミノ基をNTAで修飾した。基板をDMSO及び純水で洗浄後、4 mM NiCl
2水溶液100 μLを基板に滴下し、室温で15分間静置することで、Ni-NTA錯体を形成した。その後、SH・His-tag化シリカナノ粒子(固形分濃度5.1 mg/ml)含有水溶液100 μlを基板に滴下し、25°Cで1時間静置した。
【0127】
(3)固定されたSH・His-tag化シリカナノ粒子のメタクリロイル化(表面修飾工程)
100 μM 2-(2-Pyridyl)dithioethyl methacrylateの PBS (pH 7.4)溶液に基板を浸して一晩静置させることで、ジスルフィド交換反応によってシリカナノ粒子表面のSH基にジスルフィドを介してメタクリロイル基の導入を行った。
【0128】
(4)MIP薄膜の作製(重合工程)
重合時間を3時間としたことを除いて、実施例1の項目4と同様にして、基板上にポリマー薄膜を合成した。これによって、基板上に、表1のモノマーと共にシリカナノ粒子のメタクリロイル基も共重合されたポリマー薄膜を得た。重合終了後、1 M エチレンジアミン四酢酸-4Na 水溶液に基板を15分間浸し、ATRPに用いたCu
2+を取り除いた。
【0129】
(5)シリカナノ粒子の除去(除去工程)
50 mM トリス(2-カルボキシエチル)フォスフィン・HCl(TCEP)水溶液に25℃で3時間浸漬させ、ポリマーとシリカナノ粒子とを結合させているジスルフィド結合を還元・切断した。ポリマー側にはフリーのSH基が残るが、このSH基は、SH・His-tag化シリカナノ粒子由来であることから、ポリマー薄膜のうち鋳型に対応した凹部以外の部分には存在せず、鋳型に対応した凹部内のみに存在する。前述のEDTA-4Na処理で、NI-NTAのニッケルも除去されてHis-tagがこの時点でフリーとなる可能性が高いが、念のため以下の操作も行った。純水で洗浄後、0.5 wt% SDSを含む50 mM酢酸バッファー (pH 4.0)に基板を浸して、Ni-NTA及びHis-tagを介して結合していたシリカナノ粒子をポリマー薄膜から洗い出した。
【0130】
[実施例9:シリカナノ粒子を鋳型に用いた検出対象の分析用センサ]
実施例8で得られた分析用センサ作製用基材(MIP基板)に再度Ni-NTAを形成させるため、4 mM NiCl
2水溶液でMIP基板を処理した。その後、PBSに溶解した100 μM His-tag Protein Gを基板に添加することで、His-tagを介して抗体を結合可能なProtein Gを固定化した。最後に、PBSに溶解した0.3 μM 抗CD9抗体を基板に添加し、抗CD9抗体をProtein Gを介して固定化した。Protein Gは、抗体のFc領域に結合することから、固定化された抗体の配向は一様となる。
【0131】
さらに、蛍光分子としてチオール反応性のAlexa Fluor
(R) 647 C
2 Maleimide を用いて分析用センサの凹部への蛍光分子の選択的導入を行った。導入前の蛍光強度は113±0.6 (n-3)であったのに対し、導入後は151±2.1 (n-3)であったことから、蛍光の導入が確認された。これによって、検出対象の分析用センサが得られた。
【0132】
[実施例10:検出対象の分析用センサを用いた蛍光分析によるエクソソーム検出]
実施例9で得られた分析用センサ(抗体あり)を用い、エクソソームの結合挙動を観察した。また、比較用として、当該分析用センサの抗CD9抗体が固定されていない基板(抗体なし)についても同様にエクソソームの結合挙動を観察した。試料としては、エクソソームのPBS (10 mM posphate,140 mM NaCl, pH7.4)溶液(濃度はそれぞれ、0.01, 0.05, 0.1, 0.5, 1, 5, 10 ng/mL)を用い、エクソソームの蛍光検出は顕微鏡下で行った。蛍光顕微鏡測定条件は以下の通りである。
フィルタ:Cy5
対物レンズ:×5
露光時間:0.1秒
光源:水銀ランプ
【0133】
結果を
図18に示す。
図18中、横軸はエクソソームの濃度を示し、縦軸は蛍光強度変化を示す。
図18の結果に基づき吸着等温線から算出された解離定数は、K
d=3.8x10
-15 [M]であった。エクソソームの推定M
wが2.33x10
8 Daであることから、エクソソームを鋳型にした場合に比べても遜色ない優れた感度でエクソソームを検出することができた。
【0134】
[実施例11:分析用センサ表面のSTED超解像イメージ像]
蛍光分子として(下記式に示すP=O-Rhodolを用いたことを除いて、実施例9と同様にして分析用センサを作製した。得られた分析用センサを、誘導放出制御(STED)顕微鏡(Leica社製SP8-STED3X)を用いて観察した。得られたSTED超解像イメージ像を
図19に示す。
図19に示すように、約200 nmサイズのドット状の蛍光が観察され、当該蛍光のサイズは、鋳型に用いたシリカナノ粒子と同等であり、鋳型効果により形成された凹部であることが確認できた。また、当該凹部以外にバックグラウンド蛍光がほとんど観察されなかったことから、蛍光レポーター分子が当該凹部に選択的に導入されたことも示された。
【0135】
【化4】
【0136】
[実施例12:涙液中のエクソソームの測定]
シルマー試験紙を用いて涙液を採取した後、試験紙を、500 μlの140 mMNaClを含む10 mM リン酸バッファー(PBS)に4℃,6時間浸漬し、涙に含まれるエクソソームを涙液試料として回収した。涙液試料を、実施例9の分析用センサを用いた蛍光測定に供することで、涙液中のエクソソームを測定した。比較用に、コントロールとして、実施例9の検出対象の分析用センサを用いたPBSの測定、及び、分析用センサの抗体への涙液エクソソームの結合性を確認するため、実施例9の分析用センサの抗体が固定されていない基板を用いた涙液試料の測定も行った。
【0137】
結果を
図20に示す。
図20において、「PBS」は、実施例9の分析用センサにPBSを供した結果、「涙(抗体あり)」は、実施例9の分析用センサに涙液試料を供した結果、及び、「涙(抗体なし)」は、実施例9の分析用センサの抗体が固定されていない基板に涙液試料を供した結果を示す。
図20に示されるように、抗体が固定されている実施例9の分析用センサに涙液試料を供した場合に蛍光消光の度合いが最も大きいことから、涙液中のエクソソームが測定されたことが示された。
【0138】
本発明の好ましい実施形態は上記の通りであるが、本発明はそれらのみに限定されるものではなく、本発明の趣旨から逸脱することのない様々な実施形態が他になされる。