特許第6573351号(P6573351)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6573351検出対象の分析用センサ作製用基材、検出対象の分析用センサ、及び検出対象の分析法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6573351
(24)【登録日】2019年8月23日
(45)【発行日】2019年9月11日
(54)【発明の名称】検出対象の分析用センサ作製用基材、検出対象の分析用センサ、及び検出対象の分析法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/544 20060101AFI20190902BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20190902BHJP
   G01N 33/566 20060101ALI20190902BHJP
   G01N 33/552 20060101ALI20190902BHJP
【FI】
   G01N33/544 Z
   G01N33/53 D
   G01N33/566
   G01N33/552
【請求項の数】15
【全頁数】33
(21)【出願番号】特願2019-514336(P2019-514336)
(86)(22)【出願日】2018年5月18日
(86)【国際出願番号】JP2018019292
(87)【国際公開番号】WO2018221271
(87)【国際公開日】20181206
【審査請求日】2019年3月14日
(31)【優先権主張番号】特願2017-105588(P2017-105588)
(32)【優先日】2017年5月29日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】竹内 俊文
(72)【発明者】
【氏名】北山 雄己哉
【審査官】 海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−197041(JP,A)
【文献】 特開2017−019992(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48−33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材の表面上に設けられたポリマー膜と、を含み、
前記ポリマー膜が、検出対象を受け入れる凹部を有し、
前記凹部内に、抗体物質結合用基とシグナル物質結合用基とを有する、検出対象の分析用センサ作製用基材。
【請求項2】
前記ポリマー膜が、前記検出対象又は前記検出対象よりサイズが大きい対象を鋳型とする分子インプリントポリマーで構成され、前記凹部が前記鋳型の表面形状の一部に対応する、請求項1に記載の検出対象の分析用センサ作製用基材。
【請求項3】
前記抗体物質結合用基がキレート結合性基である、請求項1又は2に記載の検出対象の分析用センサ作製用基材。
【請求項4】
前記シグナル物質結合用基がチオール基である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の検出対象の分析用センサ作製用基材。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の検出対象の分析用センサ作製用基材と、
前記抗体物質結合用基に結合した、前記検出対象に特異的な抗体物質と、
前記シグナル物質結合用基に結合したシグナル物質と、
を含む、検出対象の分析用センサ。
【請求項6】
前記検出対象が膜構造を有する微小粒体である、請求項5に記載の検出対象の分析用センサ。
【請求項7】
前記膜構造を有する微小粒体がエクソソームである、請求項6に記載の検出対象の分析用センサ。
【請求項8】
前記検出対象に特異的な抗体物質が、膜構造を有する微小粒体の表面に発現している特異的抗原に対する特異的結合能を有する、請求項5から7のいずれか1項に記載の検出対象の分析用センサ。
【請求項9】
請求項5から8のいずれか1項に記載の検出対象の分析用センサに、検出対象を含む試料を接触させ、前記抗体物質に前記検出対象を結合する工程と、
前記シグナル物質に由来するシグナルの変化を検出する工程と、
を含む、検出対象の分析法。
【請求項10】
基材に、結合性官能基と重合開始性基とを表面に有する分子膜を形成する分子膜形成工程と、
前記結合性官能基に対し、第1の可逆的連結基を介して、人工粒子を鋳型として導入する鋳型導入工程と、
前記鋳型の表面を、第2の可逆的連結基を介して重合性官能基で修飾する表面修飾工程と、
重合性モノマーを加え、前記重合性モノマーを基質とし、前記重合開始性基を重合性開始剤として、前記鋳型の前記表面の一部に対する分子インプリントポリマーを合成することで前記基材表面にポリマー膜を形成する重合工程と、
前記第1の可逆的連結基及び第2の可逆的連結基を開裂させてそれぞれ抗体物質結合用基及びシグナル物質結合用基へ変換するとともに前記鋳型を除去する除去工程と、
を含む、検出対象の分析用センサ作製用基材の製造方法。
【請求項11】
前記人工粒子が、表面に、前記抗体物質結合用基と結合することで前記第1の可逆的連結基の形成が可能な基と、前記シグナル物質結合用基と結合することで前記第2の可逆的連結基の形成が可能な可逆的結合基とを有する、請求項10に記載の検出対象の分析用センサ作製用基材の製造方法。
【請求項12】
前記人工粒子がシリカ粒子である、請求項10又は11に記載の検出対象の分析用センサ作製用基材の製造方法。
【請求項13】
前記抗体物質結合用基がキレート結合性基であり、前記抗体物質結合用基と結合することで前記第1の可逆的連結基の形成が可能な基がヒスチジンタグである、請求項10から12のいずれか1項に記載の検出対象の分析用センサ作製用基材の製造方法。
【請求項14】
前記シグナル物質結合用基がチオール基であり、前記シグナル物質結合用基と結合することで前記第2の可逆的連結基の形成が可能な可逆的結合基がチオール基である、請求項10から13のいずれか1項に記載の検出対象の分析用センサ作製用基材の製造方法。
【請求項15】
請求項10から14のいずれか1項に記載の検出対象の分析用センサ作製用基材の製造方法を行う工程と、
前記抗体物質結合用基に、検出対象に特異的な抗体物質を結合する工程と、
前記シグナル物質結合用基にシグナル物質を結合する工程と、
を含む、検出対象の分析用センサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検出対象を基材上で迅速に検出する技術に関する。より具体的には、本発明は、検出対象の分析用センサ作製用基材及びその製造方法、検出対象の分析用センサ及びその製造方法、並びに検出対象の分析法に関する。
【背景技術】
【0002】
エクソソームは細胞から放出される小胞体の一つであり、直径20〜150nmの脂質二重膜小胞である。エクソソームは、その内部にタンパク質、及びmiRNA、mRNAなどの核酸を内包するとともに、その表面にもタンパク質を有している。エクソソームはこのような物質に特徴づけられているため、エクソソームの特徴を解析することで、分泌した細胞がどのような細胞であるかを推測できると考えられている。また、エクソソームは様々な体液中で存在が確認されており、比較的容易に採取することができる。
【0003】
癌細胞から分泌されるエクソソームは腫瘍由来の物質を含んでいる。したがって、体液中のエクソソームに含まれる物質を解析することで癌の診断を行うことができる可能性が期待されている。さらに、エクソソームは細胞によって能動的に分泌されるものであることから、がんの早期段階であっても何らかの特徴を呈していることが予想されている。
【0004】
エクソソームの検出方法は種々報告されている。例えば特許文献1では、BAM(Biocompatible anchor for membrane)と呼ばれるアンカー物質で表面修飾された基板でエクソソームを捕捉し、エクソソーム上の抗原分子に対する抗体を用いてエクソソームを検出する方法が開示されている。特許文献2では、互いに流路で繋げられたエクソソーム精製部と生体分子精製部と生体分子検出部とを含む流体デバイスにおいて、BAMで修飾されたエクソソーム精製部でエクソソームの捕捉及びエクソソームの破砕を行い、エクソソーム内部の生体分子を生体分子精製部及び生体分子検出部でそれぞれ精製及び検出する方法が開示されている。特許文献3では、エクソソームの表面抗原に対する捕捉用抗体が固定された96穴プレートでエクソソームを捕捉し、その後、別の表面抗原に対する検出用抗体を作用させ、さらに検出用抗体に対する酵素標識二次抗体を用いることでエクソソームを検出する方法が開示されている。特許文献4では、エクソソームの表面抗原に対する抗体を固定した凹部を有するデバイスにおいて、凹部でエクソソームを捕捉した後に、エクソソームの別の表面抗原に対する抗体を結合させたビーズを作用させた後に、ビーズを計数することでエクソソームを検出する方法が開示されている。特許文献5では、エクソソームの表面抗原に対する抗体であって励起標識に結合可能な抗体と、当該エクソソームの別の表面抗原に対する抗体であってシグナル発生標識が結合した抗体との2種の抗体を用い、それらが励起標識存在下でエクソソームに結合し互いに近接した時に、エネルギ−移動により励起光を発生させることによって、エクソソームを検出する方法が開示されている。特許文献6では、照明時に表面プラズモン共鳴を生成する検出領域を生成するための所定パターンのナノ開口を複数有する金属膜が表面に設けられた透明平面基板と、金属膜に設けられたエクソソームマーカー特異的な捕捉剤と、を含むナノプラズモンセンサを用い、表面プラズモン共鳴を用いてエクソソームを検出する方法が開示されている。非特許文献1では、金の基板上に設けられたビオチン化自己組織化単分子膜に、エクソソーム表面抗原であるCD63に対する抗体を結合したアビジンを結合させ、CD63を介して結合したエクソソームを表面プラズモン共鳴を用いて測定する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2015/029979号
【特許文献2】国際公開第2015/045666号
【特許文献3】特表2011−510309号公報
【特許文献4】特開2014−219384号公報
【特許文献5】国際公開第2013/094307号
【特許文献6】米国特許出願公開第2016/0334398号明細書
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Anal.Chem.(2014)86,5929−5936
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
エクソソームは、免疫制御、神経変性疾患の発症、癌の臓器特異的転移などに深く関与する、細胞間コミュニケーションツールの1つとして重要な役割を果たすことが報告されている。したがって、細胞から分泌されたエクソソームを迅速に検出すること、及び検出されたものが何であるかを特異的に捉えることを、簡便な手法で実現することは、細胞間コミュニケーションツールを検出する上で重要である。
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示されるエクソソーム検出法は、エクソソームを捕捉した後に抗体を結合させる工程が別途必要となることから不可避的にタイムラグが生じ、迅速な検出を行うことはできない。特許文献2に開示されるエクソソーム検出法は、エクソソーム破砕により生じさせた内部分子を精製した後に、内部分子に特異的な物質を用いて検出するという複雑な系が必要となるため、簡便性に欠ける。特許文献3に開示されるエクソソーム検出法は、エクソソームをサンドイッチELISAで検出するものであるため、エクソソームを捕捉した後に抗体を結合させる工程が別途必要となることから不可避的にタイムラグが生じ、迅速な検出を行うことはできない。特許文献4に開示されるエクソソーム検出法も、エクソソームを捕捉した後に抗体ビーズを結合させる工程が別途必要となることから不可避的にタイムラグが生じ、同様に迅速な検出を行うことはできない。特許文献5に開示されるエクソソーム検出法は、蛍光共鳴エネルギー移動法を用いることから、複雑にデザインされた抗体の組み合わせが必要となるため、簡便性に欠ける。特許文献6及び非特許文献1に開示されるエクソソーム検出法は、金属表面の状態を検出する表面プラズモン共鳴を用いることから、表面に非特異的に吸着した対象も不可避的に検出されるため、特異的に認識された対象のみを検出する特異性に欠ける。
【0009】
そこで本発明の目的は、上記の問題に鑑み、検出すべき対象を迅速に且つ特異性高く捉えることができる、簡便な測定系を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は鋭意検討の結果、検出対象を受け入れる凹部を有するポリマー膜を表面に形成し、当該凹部内において検出対象に対する結合特異性を確保する抗体を配置できるようにするとともに、当該凹部内にのみシグナル物質を配置することができるように基材を構成することで、上記本発明の目的を達成できることを見出した。本発明は、この知見に基づき、さらに検討を重ねることにより完成された。
【0011】
本発明は、検出対象の分析用センサ作製用基材及びその製造方法、検出対象の分析用センサ及びその製造方法、並びに検出対象の分析法を含む。すなわち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
【0012】
項1. 基材と、前記基材の表面上に設けられたポリマー膜と、を含み、
前記ポリマー膜が、検出対象を受け入れる凹部を有し、
前記凹部内に、抗体物質結合用基とシグナル物質結合用基とを有する、検出対象の分析用センサ作製用基材。
項2. 前記ポリマー膜が、前記検出対象又は前記検出対象よりサイズが大きい対象を鋳型とする分子インプリントポリマーで構成され、前記凹部が前記鋳型の表面形状の一部に対応する、項1に記載の検出対象の分析用センサ作製用基材。
項3. 前記抗体物質結合用基がキレート結合性基である、項1又は2に記載の検出対象の分析用センサ作製用基材。
項4. 前記シグナル物質結合用基がチオール基である、項1〜3のいずれかに記載の検出対象の分析用センサ作製用基材。
項5. 項1から4のいずれかに記載の検出対象の分析用センサ作製用基材と、
前記抗体物質結合用基に結合した、前記検出対象に特異的な抗体物質と、
前記シグナル物質結合用基に結合したシグナル物質と、
を含む、検出対象の分析用センサ。
項6. 前記検出対象が膜構造を有する微小粒体である、項5に記載の検出対象の分析用センサ。
項7. 前記膜構造を有する微小粒体がエクソソームである、項6に記載の検出対象の分析用センサ。
項8. 前記検出対象に特異的な抗体物質が、前記膜構造を有する微小粒体の表面に発現している特異的抗原に対する特異的結合能を有する、項5から7のいずれかに記載の検出対象の分析用センサ。
項9. 項5から8のいずれかに記載の検出対象の分析用センサに、検出対象を含む試料を接触させ、前記抗体物質に前記検出対象を結合する工程と、
前記シグナル物質に由来するシグナルの変化を検出する工程と、
を含む、検出対象の分析法。
項10. 基材に、結合性官能基と重合開始性基とを表面に有する分子膜を形成する分子膜形成工程と、
前記結合性官能基に対し、第1の可逆的連結基を介して、人工粒子を鋳型として導入する鋳型導入工程と、
前記鋳型の表面を、第2の可逆的連結基を介して重合性官能基で修飾する表面修飾工程と、
重合性モノマーを加え、前記重合性モノマーを基質とし、前記重合開始性基を重合性開始剤として、前記鋳型の前記表面の一部に対する分子インプリントポリマーを合成することで前記基材表面にポリマー膜を形成する重合工程と、
前記第1の可逆的連結基及び第2の可逆的連結基を開裂させてそれぞれ抗体物質結合用基及びシグナル物質結合用基へ変換するとともに前記鋳型を除去する除去工程と、
を含む、検出対象の分析用センサ作製用基材の製造方法。
項11. 前記人工粒子が、表面に、前記抗体物質結合用基と結合することで前記第1の可逆的連結基の形成が可能な基と、前記シグナル物質結合用基と結合することで前記第2の可逆的連結基の形成が可能な可逆的結合基とを有する、項10に記載の検出対象の分析用センサ作製用基材の製造方法。
項12. 前記人工粒子がシリカ粒子である、項10又は11に記載の検出対象の分析用センサ作製用基材の製造方法。
項13. 前記抗体物質結合用基がキレート結合性基であり、前記抗体物質結合用基と結合することで前記第1の可逆的連結基の形成が可能な基がヒスチジンタグである、項10から12のいずれかに記載の検出対象の分析用センサ作製用基材の製造方法。
項14. 前記シグナル物質結合用基がチオール基であり、前記シグナル物質結合用基と結合することで前記第2の可逆的連結基の形成が可能な可逆的結合基がチオール基である、項10から13のいずれかに記載の検出対象の分析用センサ作製用基材の製造方法。
項15. 項10から14のいずれかに記載の検出対象の分析用センサ作製用基材の製造方法を行う工程と、
前記抗体物質結合用基に、検出対象に特異的な抗体物質を結合する工程と、
前記シグナル物質結合用基にシグナル物質を結合する工程と、
を含む、検出対象の分析用センサの製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、検出すべき対象を迅速に且つ特異性高く捉えることができる、簡便な測定系が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の検出対象の分析用センサ作製用基材の一例を示す模式図である。
図2】本発明の検出対象の分析用センサの一例を示す模式図である。
図3】本発明の検出対象の分析用センサ作製用基材を製造する方法における分子膜形成工程を説明する模式図である。
図4図3に引き続く、鋳型導入工程を説明する模式図である(鋳型にエクソソームを用いる場合)。
図5図4に引き続く、表面修飾工程を説明する模式図である(鋳型にエクソソームを用いる場合)。
図6図5に引き続く、重合工程を説明する模式図である(鋳型にエクソソームを用いる場合)。
図7図6に引き続く、除去工程を説明する模式図である(鋳型にエクソソームを用いる場合)。
図8】本発明の検出対象の分析用センサ作製用基材を製造する方法における鋳型導入工程を説明する模式図である(鋳型に人工粒子を用いる場合)。
図9図8に引き続く、表面修飾工程を説明する模式図である(鋳型に人工粒子を用いる場合)。
図10図9に引き続く、重合工程を説明する模式図である(鋳型に人工粒子を用いる場合)。
図11図10に引き続く、除去工程を説明する模式図である(鋳型に人工粒子を用いる場合)。
図12】本発明の検出対象の分析法の一例を説明する模式図である。
図13】実施例3の、本発明の分析用センサ(鋳型にエクソソームを用いて作製)を用いた蛍光分析によるエクソソーム検出において得られた、エクソソーム濃度に対する蛍光強度変化を対数表示したグラフとそのカーブフィッティング結果である。
図14】参考例の、本発明の分析用センサ(鋳型にエクソソームを用いて作製)を用いたSPRによるエクソソーム検出において得られた、エクソソーム濃度に対するSPRシグナル変化を示すグラフとそのカーブフィッティング結果である。
図15】実施例5の、本発明の分析用センサ(鋳型にエクソソームを用いて作製)作成の再現性試験において得られた、エクソソーム濃度に対する蛍光強度変化を示したグラフである。
図16】実施例6の、本発明の分析用センサ(鋳型にエクソソームを用いて作製)を用いたFRETによるエクソソーム検出において得られた、エクソソームの濃度に対する蛍光強度変化を示したグラフである。
図17】実施例7の、フリーの抗CD9抗体添加によるエクソソームの結合阻害試験において得られた、本発明の分析用センサ(鋳型にエクソソームを用いて作製)に対し試料と共にフリーの抗CD9抗体を添加した場合と添加しなかった場合における試料中エクソソームの濃度に対する蛍光強度変化を示したグラフである。
図18】実施例10の、本発明の分析用センサ(鋳型にシリカナノ粒子を用いて作製;抗体あり)を用いた蛍光分析によるエクソソーム検出において得られた、エクソソームの濃度に対する蛍光強度変化を示したグラフである。
図19】実施例11の、本発明の分析用センサ(鋳型にシリカナノ粒子を用いて作製)を、誘導放出制御(STED)顕微鏡を用いて観察して得られたイメージ像である。
図20】実施例12で、本発明の分析用センサ(鋳型にシリカナノ粒子を用いて作製)を用いて涙液中のエクソソームを検出した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[1.検出対象の分析用センサ作製用基材]
本発明の検出対象の分析用センサ作製用基材は、後述の発明の分析用センサを作製するための材料となる基材である。この分析用センサ作製用基材は、エクソソームなどの検出対象を迅速に検出可能なセンサへユーザが簡便にカスタマイズできるように構成されている。
【0016】
本発明の検出対象の分析センサ作製用基材は、基材と、前記基材の表面上に設けられたポリマー膜と、を含み;前記ポリマー膜が、検出対象を受け入れる凹部を有し;前記凹部内に、抗体物質結合用基とシグナル物質結合用基とを有する。図1に、本発明の検出対象の分析用センサ作製用基材の一例を模式的に示す。図1に示すように、分析用センサ作製用基材10は、基材20とポリマー膜30とを含む。ポリマー膜30は基材20の表面に設けられており、凹部31を有する。凹部31は検出対象(後述の検出対象60)を受け入れ可能な大きさに形成された穴である。分析用センサ作製用基材10は、凹部31内に、抗体物質結合用基22と、シグナル物質結合用基32とを有する。シグナル物質結合用基32は、抗体物質結合用基22の近傍に設けられている。以下、それぞれの要素について詳述する。
【0017】
[1−1.基材]
基材20の材料は、例えば、金属、ガラス、及び樹脂からなる群から選択される材料であってよい。金属としては、金、銀、銅、アルミニウム、タングステン、モリブデン等が挙げられる。樹脂としては、ポリ(メタ)アクリレート、ポリスチレン、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体)、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリウレタン、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、メチルペンテン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、塩化ビニル樹脂等が挙げられる。
【0018】
基材20は、上述の材料から選ばれる複数の材料が組み合わされて形成されたものであってもよい。例えば、基材20は、ガラスまたは樹脂の表面に、金属膜が設けられたものであってもよい。また、基材20の形状としては、板状及び粒子状を問わない。好ましい例としては、金基板、ガラス基板、金ナノ粒子、ガラスビーズ等が挙げられる。
【0019】
[1−2.ポリマー膜]
ポリマー膜30は、基材20に層状に設けられており、複数の凹部31を有する。凹部31は、本発明の検出対象の分析用センサにおけるセンサ場となる部分である。凹部31は、検出対象を受け入れ可能に形成されていれば限定されるものではないが、たとえば、後述のように分子インプリント重合法を用いることによって形成された、分子インプリントポリマー(MIP;molecularly imprinted polymer)であってよい。この場合、凹部31は、分子インプリント重合法において用いられる鋳型(後述の鋳型40)によって型取られたものであり、当該鋳型の表面形状の一部に対応する形状を有する。凹部31は、検出対象を受け入れ可能な大きさで形成されていればよいため、凹部31の鋳型は、検出対象と同じものであってもよいし、検出対象よりもサイズが大きい対象であってもよい。なお、凹部31が検出対象を受け入れ可能な大きさであるとは、抗体物質(後述の抗体物質52)及びシグナル物質(後述のシグナル物質53)が結合して分析用センサ(後述の分析用センサ50)となった場合に、検出対象の少なくとも一部が凹部31内に進入し抗体物質にアプローチして結合可能となる程度に凹部31が基材20表面に十分な大きさで開口していることをいう。凹部31の開口径は、検出対象により異なり得るため特に限定されないが、たとえば1nm〜10μmであってよい。ポリマー膜30の厚みも検出対象により異なり得るため特に限定されないが、たとえば1nm〜1μmであってよい。
【0020】
ポリマー膜30を構成するポリマーは、たとえば、生体適合性モノマー由来成分を含む生体適合性ポリマーであってよい。生体適合性とは、生体物質の接着を誘起しない性質をいう。生体適合性モノマーに由来する成分を含むことにより、ポリマー膜30において非特異的吸着を良好に抑制することができる。上記の生体適合性モノマーは、好ましくは親水性モノマーであり、より好ましくは双性イオンモノマーである。
【0021】
双性イオンモノマーは、酸性官能基(たとえば、リン酸基、硫酸基、およびカルボキシル基など)に由来するアニオン基と、塩基性官能基(たとえば、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基および4級アンモニウム基など)に由来するカチオン基との両方を1分子中に含む。たとえば、ホスホベタイン、スルホベタイン、およびカルボキシベタインなどが挙げられる。
【0022】
より具体的には、ホスホベタインとしては、ホスホリルコリン基を側鎖に有する分子が挙げられ、好ましくは、2−メタクリロイロキシエチルホスホリルコリン(MPC)などが挙げられる。
スルホベタインとしては、N,N−ジメチル−N−(3−スルホプロピル)−3’−メタクリロイルアミノプロパンアミニウムインナーソルト(SPB)、N,N−ジメチル−N−(4−スルホブチル)−3’−メタクリロイルアミノプロパンアミニウムインナーソルト(SBB)などが挙げられる。
カルボキシベタインとしては、N,N−ジメチル−N−(1−カルボキシメチル)−2’−メタクリロイロキシエタンアミニウムインナーソルト(CMB)、N,N−ジメチル−N−(2−カルボキシエチル)−2’−メタクリロイロキシエタンアミニウムインナーソルト(CEB)などが挙げられる。
【0023】
ポリマー膜30における生体適合性モノマー由来成分の割合は、たとえば5モル%以上100モル%以下であってよい。生体適合性モノマー由来成分の含有量が上記下限以上であることは、ポリマー膜30表面における非特異性吸着を抑制する点で好ましい。ポリマー膜30における生体適合性モノマー由来成分の割合は、好ましくは10モル%以上80モル%以下、さらに好ましくは20モル%以上60モル%以下であってよい。
【0024】
[1−3.抗体物質結合用基]
抗体物質結合用基22は、抗体物質(後述の抗体物質52)を直接的又は間接的に結合させることで分析用センサ作製用基材10に抗体物質を導入可能とする基である。ユーザは、検出対象を自由にターゲティングすることができ、ターゲットとする検出対象に特異的な抗体物質を自由に選択し、抗体物質結合用基22へ導入することができる。また、1個の基材20において、一の凹部31に対し一の種類の抗体物質を導入し、他の凹部31に対し他の種類の抗体物質を導入することによって、1個の基材20において複数種の抗体物質を用いた検出対象の分析が可能となるようにカスタマイズすることもできる。このようなカスタマイズの具体例としては、一の凹部31に対しエキソソームに結合する抗体物質を導入し、他の凹部31に対しタンパク質に結合する抗体物質を導入することによって、1個の基材20において、エキソソームとタンパク質との両方の分析が可能となる。
【0025】
本発明においては、1個の凹部31につき1個の抗体物質結合用基22が設けられていればよいが、1個の凹部31につき複数個の抗体物質結合用基22が設けられていても構わない。なお、基材20表面において、凹部31以外の部分には抗体物質結合用基22は設けられない。
【0026】
抗体物質結合用基22は、不可逆的結合性基であってもよいし可逆的結合性基であってもよく、共有結合性基であってもよいし非共有結合性基であってもよい。好ましくは、抗体物質結合用基22は可逆的結合性基であり、より好ましくは非共有結合性基である。このような基としては、キレート結合性基が挙げられる。キレート結合性基は、例えばプロテインG等の、抗体物質のFc領域に結合する物質を介して間接的に抗体物質を結合することができる。
【0027】
キレート結合性基としては、複数の配位座をもつ配位子(多座配位子)を有することにより、金属イオンに結合(配位)する基であれば特に限定されず、例えば、アミノポリカルボン酸系キレート剤由来基、ヒドロキシカルボン酸系キレート剤由来基、デフェロキサミン由来基、デフェラシクロス由来基、デフェリプロン由来基、及びヒスチジンタグ等が挙げられ、好ましくは、アミノポリカルボン酸系キレート剤由来基が挙げられる。
【0028】
上述のアミノポリカルボン酸としては、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、エチレンジアミンジ酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、ジヒドロキシエチルエチレンジアミン四酢酸(DHEDDA)、ニトリロ三酢酸(NTA)、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸(HIDA)、N−(2−ヒドロキシエチル)イミノ二酢酸、β−アラニンジ酢酸、シクロヘキサンジアミンテトラ酢酸、イミノジ酢酸、N−(2−ヒドロキシエチル)イミノジ酢酸、ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)、N−(2−ヒドロキシエチル)エチレンジアミントリ酢酸、グリコールエーテルジアミンテトラ酢酸、グルタミン酸ジ酢酸、アスパラギン酸ジ酢酸、メチルグリシンジ酢酸、イミノジコハク酸、セリンジ酢酸、ヒドロキシイミノジコハク酸、ジヒドロキシエチルグリシン、アスパラギン酸、グルタミン酸、および、トリエチレンテトラミン−N,N,N’,N’’,N’’’,N’’’−六酢酸等が挙げられる、好ましくはニトリロ三酢酸(NTA)が挙げられる。
【0029】
なお、可逆的結合性基とは、他の可逆的結合性基と結合(共有結合及び非共有結合を問わない)することにより可逆的連結基を構成可能な基であり、可逆的とは、可逆的結合性基から可逆的連結基への変換(結合)及び可逆的連結基から可逆的結合性基への変換(開裂)とが双方向に可能であることをいう(以下において同様)。
【0030】
[1−4.シグナル物質結合用基]
シグナル物質結合用基32は、シグナル物質(後述のシグナル物質53)を結合させることで分析用センサ作製用基材10にシグナル物質を導入可能とする基である。ユーザは、シグナル物質を自由に選択し、シグナル物質結合用基32へ導入することができる。また、1個の基材20において、一の凹部31と他の凹部31とで異なる種類の抗体物質を設ける場合は、抗体物質の種類ごとに異なるシグナル物質を設けるようにカスタマイズすることもできる。
【0031】
本発明においては、1個の凹部31につき、通常複数個のシグナル物質結合用基32が設けられている。シグナル物質結合用基32は、本発明の分析センサの凹部31内でのセンシング時(検出対象を凹部31内に受け入れた時)に、シグナル強度の変化を検出可能となるように十分な量が用意されていればよい。従って、1個の凹部31に設けられるシグナル物質結合用基32の量は特に限定されるものではなく、凹部31の大きさ及び検出すべき対象物質の大きさにもよるが、1個の凹部31につき例えば約100個〜約1000個程度であってよい。なお、基材20表面において、凹部31以外の部分にはシグナル物質結合用基32は設けられない。
【0032】
シグナル物質結合用基32は、不可逆的結合性基であってもよいし可逆的結合性基であってもよく、共有結合性基であってもよいし非共有結合性基であってもよい。好ましくは、シグナル物質結合用基32は、可逆的結合性基であり、より好ましくは共有結合性基である、このような基としては、チオール基(対応する可逆的連結基はジスルフィド基)、アミノオキシ基又はカルボニル基(対応する可逆的連結基はオキシム基)、ボロン酸基とジオール基(対応する可逆的連結基は環状ジエステル基)、アミノ基とカルボニル基(対応する可逆的連結基はシッフ塩基)、アルデヒド基もしくはケトン基とアルコール(対応する可逆的連結基はアセタール基)等が挙げられる。
【0033】
[1−5.他の態様]
本発明の検出対象の分析用センサ作製用基材は、抗体物質及びシグナル物質の少なくともいずれかがユーザによってカスタマイズされるように構成されていればよい。したがって、他の態様として、抗体物質結合用基の方に、検出対象に特異的な抗体物質がすでに結合していてもよい。この場合、ユーザはシグナル物質を自由に選択して導入することができる。
【0034】
なお、更に他の態様として、シグナル物質結合用基の方に、すでにシグナル物質が結合していてもよい。この場合、ユーザは検出対象を自由にターゲティングすることができ、ターゲットとする検出対象に特異的な抗体物質を自由に選択し、当該抗体物質を導入することができる。
【0035】
[2.検出対象の分析用センサ]
本発明の分析用センサは、上述の検出対象の分析用センサ作製用基材と;前記抗体物質結合用基に結合した、前記検出対象に特異的な抗体物質と;前記シグナル物質結合用基に結合したシグナル物質と;を含む。図2に、本発明の検出対象の分析用センサの一例を模式的に示す。図2に示すように、分析用センサ50は、上述の分析用センサ作製用基材10の抗体物質結合用基22に抗体物質52が結合し、シグナル物質結合用基32にシグナル物質53が結合している。
【0036】
[2−1.検出対象]
本発明の分析用センサの検出対象(後述の検出対象60)は、抗体物質52への特異性結合能を有するものであれば原理上特に限定されるものではない。具体例としては、低分子物質、タンパク質、及び膜構造を有する微小粒体が挙げられる。低分子物質としては、ホルモン・薬剤・除草剤・農薬・糖・コレステロール・脂質・尿酸・環境ホルモン・ペプチド等の任意の物質が挙げられる。タンパク質としては、HSA, IgG,フィブリノーゲン,トランスフェリン、AST, ALT, LDH, ALP, LAP,γ-GTP, CRP, AFP, PSA等の任意のタンパク質が挙げられる。膜構造を有する微小粒体としては、細胞外微粒子、細胞内小胞、オルガネラ及び細胞が挙げられる。膜構造としては、脂質二重膜構造が挙げられる。細胞外微粒子としては、エクソソーム、マイクロベシクル、アポトーシス小体等が挙げられる。細胞内小胞としては、リソソーム、エンドソーム等が挙げられる。オルガネラとしてはミトコンドリア等が挙げられる。細胞としては、循環腫瘍細胞(CTC)等の癌細胞、その他の疾患関連細胞等が挙げられる。
【0037】
また、後述のように、シグナル物質53を、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)を引き起こす蛍光色素ペアの一方として構成する場合は、検出対象60は、予め当該蛍光色素ペアの他方を結合させておく。
【0038】
[2−2.抗体物質(検出対象に特異的な抗体物質)]
抗体物質52は、検出対象への特異的結合能を有していればよい。抗体物質52とは、抗体と抗体様物質とを含む意である。抗体とは、免疫グロブリンの完全な基本構造を有するタンパク質をいい、抗体様物質とは、免疫グロブリンの断片(抗体フラグメント)をいう。抗体としては、例えば、免疫グロブリン(Ig)、キメラ抗体等が挙げられ、より具体的には、IgG、IgA、IgM、IgE、IgD等が挙げられる。前記キメラ抗体は、例えば、ヒト化抗体等が挙げられる。前記抗体は、例えば、マウス、ウサギ、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、ヤギ等の哺乳動物、ニワトリ等の鳥類、ヒト等の動物種由来のものでもよく、特に制限されない。前記抗体は、例えば、前記動物種由来の血清から、従来公知の方法により調製してもよいし、市販の抗体を使用してもよい。前記抗体は、例えば、ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体のいずれでもよく、モノクローナル抗体が好ましい。抗体様物質としては、例えば、Fab、Fab’、F(ab’)2、ScFv等が挙げられる。
【0039】
抗体物質52は、検出対象に応じて当業者が適宜選択することができる。検出対象が表面に特異的抗原を有するものであれば、抗体物質52は、特異的抗原に対する特異的結合能を有するものを用いることができる。例えば検出対象がエクソソームである場合、エクソソームは膜タンパク質(エクソソーム特異的抗原)として、例えば、CD63、CD9、CD81、CD37、CD53、CD82、CD13、CD11、CD86、ICAM-1、Rab5、Annexin V、LAMP1等を有しているため、エクソソーム特異的抗原に対する抗体を抗体物質52として用いることができる。検出対象が癌細胞であれば、癌細胞は癌細胞特異的抗原として、例えば、Caveolin-1、EpCAM、FasL、TRAIL、Galectine3、CD151、Tetraspanin 8、EGFR、HER2、RPN2、CD44、TGF-β等を有しているため、癌細胞特異的抗原に対する抗体を抗体物質52として用いることができる。検出対象が上記以外の疾患細胞である場合も同様に、疾患細胞特異的抗原に対する抗体を抗体物質52として用いることができる。
【0040】
なお、抗体物質52としては、簡便性及び検出対象に対する抗体物質のアフィニティを良好に確保する観点、並びに分析用センサ50の作製容易性又は汎用性等の観点から、修飾基を有していないものを用いることができる。この場合における修飾基とは、シグナル物質等、アフィニティとは異なる目的で設けられる修飾基をいう。一方、修飾基には、抗体物質結合用基22との結合に寄与する基(例えばヒスチジンタグ等)は含まない。
【0041】
[2−3.シグナル物質]
シグナル物質53は、検出対象に特異的な抗体物質52と抗体物質結合用基22との結合情報を読み出すものとして機能する。シグナル物質53としては、凹部31への検出対象の結合により検知されるシグナル強度が変化したり、スペクトルが変化(例えばピークがシフト)したりするものであれば特に限定されない。たとえば、蛍光物質、放射性元素含有物質、磁性物質等が挙げられる。検出容易性等の観点から、シグナル物質としては蛍光物質であることが好ましい。蛍光物質としては、フルオレセイン系色素、インドシアニン色素などのシアニン系色素、ローダミン系色素などの蛍光色素;GFPなどの蛍光タンパク質;金コロイド、量子ドットなどのナノ粒子などが挙げられる。放射性元素含有物質としては、18Fなどの放射性同位体でラベルした、糖、アミノ酸、核酸などが挙げられる。磁性物質としては、フェリクロームなどの磁性体を有するもの、フェライトナノ粒子、ナノ磁性粒子などにみられるものが挙げられる。
【0042】
また、シグナル物質53は、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)を引き起こす蛍光色素ペアの一方として構成することができる。FRETを引き起こす蛍光色素ペアとしては特に限定されず、シグナル物質53としてドナー色素及びアクセプター色素のいずれを選択するかも限定されない。好ましくは、シグナル物質53としてドナー色素を選択することができる。FRETを引き起こす蛍光色素のペアを構成するドナー色素/アクセプター色素の具体例としては、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)/テトラメチルローダミンイソチオシアネート(TRITC)、Alexa Fluor647/Cy5.5、HiLyte Fluor647/Cy5.5、R−フィコエリトリン(R−PE)/アロフィコシアニン(APC)等が挙げられる。
【0043】
[3.検出対象の分析用センサ作製用基材の製造方法]
本発明の検出対象の分析用センサ作製用基材の製造方法は、以下の工程を含む。
基材に、結合性官能基と重合開始性基とを表面に有する分子膜を形成する分子膜形成工程;
前記結合性官能基に対し、第1の可逆的連結基を介して、鋳型を導入する鋳型導入工程;
重合性モノマーを加え、前記重合性モノマーを基質とし、前記重合開始性基を重合性開始剤として、前記鋳型の前記表面の一部に対する分子インプリントポリマーを合成することで前記基材表面にポリマー膜を形成する重合工程;及び
前記鋳型を除去する除去工程。
【0044】
[3−1.鋳型にエキソソームを用いる場合]
鋳型には、エキソソームを用いることができる。図3図7に、鋳型としてエキソソームを用いる場合の本発明の検出対象の分析用センサ作製用基材を製造する方法を模式的に示す。この場合における分析用センサ作製用基材を製造する方法は、以下の工程を含む。
基材20に、結合性官能基22aと重合開始性基23aとを表面に有する分子膜21を形成する分子膜形成工程(図3);
結合性官能基22aに対し、第1の可逆的連結基22b及び抗体物質24を介して、抗体物質24に特異的に結合する鋳型40を導入する鋳型導入工程(図4);
鋳型40の表面を、第2の可逆的連結基32bを介して重合性官能基33で修飾する表面修飾工程(図5);
重合性モノマー35を加え、重合性官能基33及び重合性モノマー35を基質とし、重合開始性基23aを重合性開始剤として、鋳型40の表面の一部に対する分子インプリントポリマーを合成することで基材20表面にポリマー膜30を形成する重合工程(図6);及び
第1の可逆的連結基22b及び第2の可逆的連結基32bを開裂させて、それぞれ抗体物質結合用基22及びシグナル物質結合用基32へ変換するとともに、抗体物質24及び鋳型40を除去する除去工程(図7)。
以下、各工程について図を参照しながら詳述する。
【0045】
[3−1−1.分子膜形成工程]
図3に示すように、分子膜形成工程では、基材20に、結合性官能基22aと重合開始性基23aとを表面に有する分子膜21を形成する。
【0046】
結合性官能基22aは、重合開始性基23aと異なる基であって、後述の鋳型導入工程で鋳型40まで分子鎖を伸長するために用いられる試薬に応じた基が当業者によって適宜決定される。図示された態様では、結合性官能基22aがアミノ基である場合を例示している。
【0047】
重合開始性基23aとしては、重合開始剤として機能しうる構造を有していれば特に限定されず、後述の重合工程において用いる重合反応に応じて当業者が適宜決定することができる。例えば、重合開始性基23aとしては、重合反応時にラジカルを発生する構造を有する基、具体的には有機ハロゲンに由来する炭素−ハロゲン結合基(−CX基;Xはハロゲン原子を示す。)が挙げられる。図示された態様では、重合開始性基23aが−CBr基である場合を例示している。
【0048】
分子膜21は、結合性官能基22aを末端に有する分子及び重合開始性基23aを末端に有する分子を用いた混成自己組織化による単分子膜として従来公知の方法で形成することができる。これによって、分子膜21は、混成自己組織化単分子膜(mixed SAMs)として形成することができる。
【0049】
[3−1−2.鋳型導入工程]
図4に示すように、鋳型導入工程では、結合性官能基22aに対し、第1の可逆的連結基22b及び抗体物質24を介して、抗体物質24に特異的に結合する鋳型40を導入する。
【0050】
より具体的には、鋳型導入工程は以下の工程を含むことができる。
結合性官能基22aに、第1の可逆的連結基22bを介して抗体物質結合性基22cを導入する工程;
抗体物質結合性基22cに抗体物質24を結合する工程;及び
抗体物質24に、鋳型40を結合する工程。
【0051】
第1の可逆的連結基22bは、第1の可逆的連結基22bから可逆的結合性基(すなわち前述の抗体物質結合用基22)への開裂と、可逆的結合性基(すなわち前述の抗体物質結合用基22)から第1の可逆的連結基22bへの結合と、が双方向に可能である基であれば特に限定されない。好ましくは、第1の可逆的連結基22bは、キレート結合性基同士が金属の配位を介して結合したキレート結合基であってよい。図示された態様では、第1の可逆的連結基22bとして、アミノポリカルボン酸系キレート剤由来基であるNTA基(抗体物質結合用基22の一種)と、当該抗体物質結合用基22と結合して第1の可逆的連結基22bを形成可能な基25であるヒスチジンタグ(図中のヒスチジンタグは模式的に示したものであるため、正確な分子構造を示しているわけではなく、ヒスチジンタグの一部のイミダゾイル基を強調表示したものである。)とが、ニッケルイオンを介してキレート結合された構造を例示している。
【0052】
抗体物質結合性基22cは、抗体物質24へ結合可能な基であれば特に限定されないが、抗体物質24を配向結合する(つまり抗体物質24の鋳型40結合部位が外側に向く方向で結合する)観点で、抗体物質24のFc領域に対する特異的結合能を有する基であることが好ましい。図示された態様では、このような基としてプロテインGを例示している。
【0053】
抗体物質24は、鋳型40に応じて決定することができる。具体的には、鋳型40への特異的結合能を有する抗体物質が抗体物質24として選択される。また、鋳型40は、検出対象を考慮することにより決定される。具体的には、検出対象(後述の検出対象60)と同じものか、又は、当該検出対象よりもサイズが大きい対象が鋳型として選択される。検出対象よりもサイズが大きい対象としては、後述重合工程におけるポリマー膜30の合成で形成される凹部31を、検出対象を受け入れ可能な程度に十分な大きさで基材20表面に開口させられる形状および大きさのものであれば特に限定されず、例えば、タンパク質等の生体分子及び膜構造を有する微小粒体が挙げられる。
【0054】
鋳型40は抗体物質24を介して結合させられるため、抗体物質24が特異的に結合する抗原を表面に有するものを用いることが好ましい。たとえば、抗体物質24としてエクソソーム表面の特異的抗原(表面タンパク質)に対する抗体を用い、鋳型40としてエクソソームを用いることができる。
【0055】
図示された態様では、鋳型導入工程の手順として、結合性官能基22aとしてのアミノ基に、アミノポリカルボン酸系キレート剤由来基であるNTA基を有する分子を結合し、ニッケルイオン存在下でヒスタグを有するリコンビナントプロテインGを反応させることで第1の可逆的連結基22b(キレート基)を介して抗体物質結合性基22cとしてのプロテインGを導入した後、さらに、抗体物質24としてエクソソームの表面タンパク質に特異的な抗体を結合し、最後に鋳型40としてのエクソソームを結合させた態様を例示している。
【0056】
[3−1−3.表面修飾工程]
図5に示すように、表面修飾工程では、鋳型40の表面を、第2の可逆的連結基32bを介して重合性官能基33で修飾する。
【0057】
より具体的には、表面修飾工程は、以下の工程を含むことができる。
アンカー基43と可逆的結合性基42とを有するアンカー物質41を鋳型40にアンカリングさせる工程;及び
可逆的結合性基42を第2の可逆的連結基32bに変換するとともに重合性官能基33を導入する工程。
【0058】
アンカー物質41は、アンカー基43と可逆的結合性基42とを含む物質である。アンカー基43は、鋳型40にアンカリング可能な基であり、特に鋳型40が脂質二重膜を有する膜体である場合は、脂質二重膜へのアンカリングが可能な疎水性鎖基であることが好ましい。疎水性鎖としては、単鎖であっても複鎖であってもよく、飽和炭化水素であっても不飽和炭化水素であってもよく、置換基を有していても有していなくてもよい。具体的には、炭素原子数6〜24の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基が好ましく、より具体的には、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、ステアリル基(オクタデシル基)、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基、トリコシル基、テトラコシル基、ミリストレイル基、パルミトレイル基、オレイル基、リノイル基、リノレイル基、リシノレイル基、イソステアリル基等が挙げられる。これらの中でも、ミリストレイル基、パルミトレイル基、オレイル基、リノイル基、リノレイル基が好ましく、オレイル基がより好ましい。
【0059】
アンカー物質41は、アンカー基43及び可逆的結合性基42に加え、親水性鎖基を含んでいてよい。当該親水性鎖基は、アンカー基43と可逆的結合性基42との間に位置する連結基であってよい。具体的には、タンパク質、オリゴペプチド、ポリペプチド、ポリアクリルアミド、ポリエチレングリコール(PEG)、デキストラン等が挙げられ、より好ましくは、PEGが挙げられる。
【0060】
可逆的結合性基42は、他の可逆的結合性基(具体的には前述のシグナル物質結合用基32が相当する)と結合することで第2の可逆的連結基32bに変換される基であればよく、たとえば、チオール基(対応する第2の可逆的連結基32bはジスルフィド基)、アミノオキシ基又はカルボニル基(対応する第2の可逆的連結基32bはオキシム基)、ボロン酸基とジオール基(対応する第2の可逆的連結基32bは環状ジエステル基)、アミノ基とカルボニル基(対応する第2の可逆的連結基32bはシッフ塩基)、アルデヒド基もしくはケトン基とアルコール(対応する第2の可逆的連結基32bはアセタール基)等が挙げられる。
【0061】
好ましいアンカー物質41の具体的な例として、下記式で示される物質(BAM−SH)が挙げられる。式中、nは例えば0〜182の整数を表す。
【化1】
【0062】
重合性官能基33は、重合性不飽和結合を有していればよく、代表的なものとして(メタ)アクリル基が挙げられる。
【0063】
図示された態様では、表面修飾工程の手順として、上記式で示されるアンカー物質41を、鋳型40としてのエクソソームの脂質二重膜にアンカリングさせ、その後、アンカー物質41の第2の可逆的結合性基42であるチオール基に、重合性官能基33としての(メタ)アクリル基とジスルフィド結合とを含む分子34をジスルフィド交換することにより、チオール基を第2の可逆的連結基32bであるジスルフィド基に変換するとともに鋳型40の表面を重合性官能基33で修飾する態様を例示している。
【0064】
このように表面修飾工程では、シグナル物質結合用基32を生成可能な第2の可逆的連結基32bを、鋳型40の表面修飾という方法で導入することで、鋳型40の表面のみに第2の可逆的連結基32bをデリバリすることができる。
【0065】
[3−1−4.重合工程]
図6に示すように、重合工程では、重合性モノマー35を加え、重合性官能基33及び重合性モノマー35を基質とし、重合開始性基23aを重合性開始剤として、鋳型40の表面の一部に対する分子インプリントポリマーを合成する。これによって、基材20表面に、凹部31を有するポリマー膜30を形成する。なお、本明細書においては、鋳型を用いたインプリンティング重合によって合成されるポリマーを、便宜上、分子インプリントポリマーと記載するものとし、分子インプリントポリマーには、鋳型として分子ではないもの(たとえば細胞)を用いたインプリンティング重合によって合成されるポリマーも含まれるものとする。
【0066】
重合性モノマー35は、上述のポリマー膜30において述べたように、生体適合性モノマーは、好ましくは親水性モノマーであり、より好ましくは双性イオンモノマーである。
【0067】
双性イオンモノマーは、酸性官能基(たとえば、リン酸基、硫酸基、およびカルボキシル基など)に由来するアニオン基と、塩基性官能基(たとえば、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基および4級アンモニウム基など)に由来するカチオン基との両方を1分子中に含む。たとえば、ホスホベタイン、スルホベタイン、およびカルボキシベタインなどが挙げられる。
【0068】
より具体的には、ホスホベタインとしては、ホスホリルコリン基を側鎖に有する分子が挙げられ、好ましくは、2−メタクリロイロキシエチルホスホリルコリン(MPC)などが挙げられる。
スルホベタインとしては、N,N−ジメチル−N−(3−スルホプロピル)−3’−メタクリロイルアミノプロパンアミニウムインナーソルト(SPB)、N,N−ジメチル−N−(4−スルホブチル)−3’−メタクリロイルアミノプロパンアミニウムインナーソルト(SBB)などが挙げられる。
カルボキシベタインとしては、N,N−ジメチル−N−(1−カルボキシメチル)−2’−メタクリロイロキシエタンアミニウムインナーソルト(CMB)、N,N−ジメチル−N−(2−カルボキシエチル)−2’−メタクリロイロキシエタンアミニウムインナーソルト(CEB)などが挙げられる。
【0069】
基材20表面上で、重合性官能基33、重合性モノマー35、重合開始性基23aおよび鋳型40が共存する重合反応系が構築されることにより、表面開始制御/リビングラジカル重合が進行する。当該重合反応系には、さらに、重合触媒として、遷移金属または遷移金属化合物と配位子とから形成される遷移金属錯体を含むことが好ましく、さらに還元剤を用いることがより好ましい。遷移金属または遷移金属化合物としては、金属銅又は銅化合物が挙げられ、銅化合物としては塩化物、臭素化物、ヨウ素化物、シアン化物、酸化物、水酸化物、酢酸化物、硫酸化物、硝酸化物、好ましくは臭素化物が挙げられる。配位子としては、多座アミンが好ましく、具体的には二座〜六座配位子が挙げられる。これらの中でも、好ましくは二座配位子が挙げられ、より好ましくは2,2−ビピリジル、4,4’−ジ−(5−ノニル)−2,2’−ビピリジル、N−(n−プロピル)ピリジルメタンイミン、N−(n−オクチル)ピリジルメタンイミン等が挙げられ、より好ましくは2,2−ビピリジルが挙げられる。還元剤としては、アルコール、アルデヒド、フェノール類及び有機酸化合物等が挙げられ、好ましくは有機酸化合物が挙げられる。有機化合物としては、クエン酸、シュウ酸、アスコルビン酸、アスコルビン酸塩、アスコルビン酸エステル等が挙げられ、好ましくはアスコルビン酸、アスコルビン酸塩、アスコルビン酸エステル等が挙げられ、より好ましくはアスコルビン酸が挙げられる。具体的には、ラジカル発生源である重合開始性基23aから重合性モノマー35を基質としてポリマー鎖が伸長し、ポリマー膜の厚みを増すと共に、伸長ポリマー鎖が鋳型40表面に達すると、当該表面に修飾された重合性官能基33も基質として取り込むことで、鋳型40の表面形状に沿った形状の凹部31が形成されるようにポリマーが合成される。ポリマー膜は、基材20に導入された鋳型40の上下径(図面の上方を上とした場合)の1/2程度、好ましくは1/3程度に相当する厚みまで成長させることができる。これによって、ポリマー膜30が得られる。なお、重合反応系における反応溶媒としては、鋳型40の変性抑制等の観点から、緩衝液等の水系の溶媒が好ましく用いられる。
【0070】
[3−1−5.除去工程]
図7に示すように、除去工程では、第1の可逆的連結基22b及び第2の可逆的連結基32bを開裂させて、それぞれ抗体物質結合用基22及びシグナル物質結合用基32へ変換するとともに、抗体物質24及び鋳型40を除去する。上述の表面修飾工程で第2の可逆的連結基32bが鋳型40の表面のみにデリバリされているため、鋳型40が除去された跡であるポリマー膜30の凹部31には、その内部に抗体物質結合用基22が残るとともに、凹部31内にのみ、第2の可逆的連結基32bから生じたシグナル物質結合用基32が配置される。これによって、分析用センサ作製用基材10が得られる。
【0071】
[3−2.鋳型に人工粒子を用いる場合]
鋳型には、上述のエクソソームの他に、人工粒子を用いることができる。人工粒子を用いる場合は、上述の鋳型にエクソソームを用いる場合に準じて検出対象の分析用センサ作製用基材の製造が可能であるが、鋳型を基板に固定するための抗体を用いる必要がないため安価に製造可能であり、工業的生産に好適である。また、鋳型に用いる人工粒子自体が工業生産品であり粒径制御されていることから、分析用センサ作製用基材に形成する凹部のサイズの制御及び均質化も容易であるため、得られる分析用センサ作製用基材からは、より分析特性に優れた分析用センサを作製することができる。
【0072】
鋳型に人工粒子を用いる場合の検出対象の分析用センサ作製用基材の製造方法は、基材に、結合性官能基と重合開始性基とを表面に有する分子膜を形成する分子膜形成工程と;前記結合性官能基に対し、第1の可逆的連結基を介して、人工粒子を鋳型として導入する鋳型導入工程と;前記鋳型の表面を、第2の可逆的連結基を介して重合性官能基で修飾する表面修飾工程と;重合性モノマーを加え、前記重合性モノマーを基質とし、前記重合開始性基を重合性開始剤として、前記鋳型の前記表面の一部に対する分子インプリントポリマーを合成することで前記基材表面にポリマー膜を形成する重合工程と;前記第1の可逆的連結基及び第2の可逆的連結基を開裂させてそれぞれ抗体物質結合用基及びシグナル物質結合用基へ変換するとともに前記鋳型を除去する除去工程と、を含むことができる。
【0073】
図8図11に、鋳型として人工粒子を用いる場合の本発明の検出対象の分析用センサ作製用基材を製造する方法を模式的に示す。図8は鋳型導入工程、図9は表面修飾工程、図10は重合工程、図11は除去工程を示す。
【0074】
[3−2−1.分子膜形成工程]
分子膜形成工程は、鋳型としてエクソソームを用いる場合と同様であり、具体的には、上記の「3−1−1.分子膜形成工程」及び図3に記載の通りである。
【0075】
[3−2−2.鋳型導入工程]
図8に示すように、鋳型導入工程では、結合性官能基22aに対し、第1の可逆的連結基22bを介して、人工粒子を鋳型40として導入する。結合性官能基22及び第1の可逆的連結基22bについては、それぞれ、上述の「3−1−1.分子膜形成工程」及び「3−1−2.鋳型導入工程」に記載の通りである。図示された態様では、結合性官能基22aはアミノ基であり、第1の可逆的連結基22bはニトリロ三酢酸(NTA)基(抗体物質結合用基22の一種)とヒスチジンタグ(抗体物質結合用基22と結合して第1の可逆的連結基22bを形成可能な基25の一種)との結合により形成される基である。
【0076】
鋳型40として用いられる人工粒子としては、鋳型として用いることができる限度において特に限定されず、人工的に製造された無機粒子及び有機粒子が挙げられる。無機粒子としては、金属、金属の酸化物、窒化物、フッ化物、硫化物、ホウ化物、及びそれらの複合化合物、並びに、ハイドロキシアパタイト等が挙げられ、好ましくは、二酸化珪素(シリカ)が挙げられる。また、有機粒子としては、ラテックス硬化物、デキストラン、キトサン、ポリ乳酸、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリスチレン、ポリエチレンイミン等が挙げられる。凹部31(図1等参照)の大きさが鋳型40の大きさに依存するため、人工粒子の大きさは検出対象の大きさによって適宜決定することができる。目的の検出対象を受け入れるための凹部31を形成するためには、当該検出対象と同程度か又はそれ以上の大きさを有する人工粒子を用いればよい。例えば、人工粒子の大きさとしては、1nm〜10μmのものから選択することができる。
【0077】
人工粒子としての鋳型40は、表面に、上述の抗体物質結合用基22と結合することで上述の第1の可逆的連結基22bの形成が可能な基25と、上述のシグナル物質結合用基32と結合することで上述の第2の可逆的連結基32bの形成が可能な可逆的結合基42とを有する。抗体物質結合用基22、第1の可逆的連結基22b、抗体物質結合用基22と結合して第1の可逆的連結基22bを形成可能な基25、第2の可逆的連結基32b、及び可逆的連結基42はすでに述べたとおりであり、図示された態様においては、抗体物質結合用基22はニトリロ三酢酸(NTA)基、抗体物質結合用基22と結合して第1の可逆的連結基22bを形成可能な基25はヒスチジンタグ、可逆的連結基42はチオール基である。チオール基として示される可逆的連結基42は、シグナル物質結合用基32と結合して第2の可逆的連結基32bを形成する。このように人工粒子の表面を特定の基で修飾する方法は広く知られているため、当業者は、導入すべき基25及び可逆的結合基42を、それら基の種類及び人工粒子の構成材料を考慮し、公知の表面修飾法に基づいて適宜導入することができる。
【0078】
このように、基25としてヒスチジンタグと可逆的結合基42としてチオール基とを人工粒子表面に有する鋳型40を結合させることによって、基材20上の結合性官能基22aであるアミノ基に対し、第1の可逆的連結基22bを介して、人工粒子の鋳型40が導入される。
【0079】
[3−2−3.表面修飾工程]
図9に示すように、表面修飾工程では、鋳型40の表面を、第2の可逆的連結基32bを介して重合性官能基33で修飾する。より具体的には、鋳型40表面の可逆的結合性基42を第2の可逆的連結基32bに変換するとともに重合性官能基33を導入される。重合性官能基33としては、上述の「3−1−3.表面修飾工程」で述べたとおりである。図示された態様では、鋳型40表面における第2の可逆的結合性基42であるチオール基に、重合性官能基33としての(メタ)アクリル基とジスルフィド結合とを含む分子34をジスルフィド交換することにより、チオール基を第2の可逆的連結基32bであるジスルフィド基に変換するとともに鋳型40の表面を重合性官能基33で修飾する態様を例示している。人工粒子を鋳型40として用いる場合においては、予め表面に第2の可逆的結合性基42であるチオール基を有している鋳型40を用いることで、第2の可逆的連結基32bを鋳型40の表面のみに形成することができる。
【0080】
[3−2−4.重合工程]
図10に示すように、重合工程では、重合性モノマー35を加え、重合性官能基33及び重合性モノマー35を基質とし、重合開始性基23aを重合性開始剤として、鋳型40の表面の一部に対する分子インプリントポリマーを合成する。これによって、基材20表面に、凹部31を有するポリマー膜30を形成する。重合性モノマー35及びポリマー膜30については、上述の「3−1−4.重合工程」で記載した通りである。
【0081】
[3−2−5.除去工程]
図11に示すように、除去工程では、第1の可逆的連結基22b及び第2の可逆的連結基32bを開裂させて、それぞれ抗体物質結合用基22及びシグナル物質結合用基32へ変換するとともに、鋳型40を除去する。上述の表面修飾工程で第2の可逆的連結基32bが鋳型40の表面のみに形成されるため、鋳型40が除去された跡であるポリマー膜30の凹部31には、その内部に抗体物質結合用基22が残るとともに、凹部31内にのみ、第2の可逆的連結基32bから生じたシグナル物質結合用基32が配置される。これによって、分析用センサ作製用基材10が得られる。
【0082】
[4.検出対象の分析用センサの製造]
検出対象の分析用センサ50は、分析用センサ作製用基材10において、抗体物質結合用基22に、検出対象に特異的な抗体物質52を結合し、シグナル物質結合用基32にシグナル物質53を結合すればよい。
【0083】
抗体様物質52は、検出対象に特異的であれば特に限定されず、分析用センサ作製用基材10の製造で用いた抗体様物質24と同じ抗体様物質であってもよいし、当該抗体様物質24とは異なる抗体様物質であってもよい。
【0084】
分析用センサ作製用基材10は、基板20表面においてセンサ場となる凹部31のみにシグナル物質結合用基32を有するため、シグナル物質53は凹部31のみに配置されることができる。
【0085】
1個の分析用センサ作製用基材10に対しては、全ての凹部31に1種類の抗体様物質52と1種類のシグナル物質53とを導入してもよいし、一の凹部31に対し一の種類の抗体様物質を導入し、他の凹部31に対し他の種類の抗体様物質を導入するとともに、それぞれ抗体様物質の種類に対応して異なる種類のシグナル物質53を導入してもよい。
【0086】
[5.対象物質の分析法]
図12に、本発明の検出対象の分析法の一例を説明する模式図を示す。図12に示すように、本発明の検出対象の分析法では、分析用センサ50の基材20表面上に、検出対象60を含む分析試料液を接触させる。
【0087】
検出対象60としては、抗体物質52と特異的に結合する物質であれば原理上特に限定させるものではなく、前述したように、低分子物質、タンパク質、及び膜構造を有する微小粒体が挙げられる。低分子物質としては、ホルモン・薬剤・除草剤・農薬・糖・コレステロール・脂質・尿酸・環境ホルモン・ペプチド等任意の物質が挙げられる。タンパク質としては、HSA, IgG,フィブリノーゲン,トランスフェリン、AST, ALT, LDH, ALP, LAP,γ-GTP, CRP, AFP, PSA等の任意のタンパク質が挙げられる。膜構造を有する微小粒体としては、細胞外微粒子、細胞内小胞、オルガネラ及び細胞が挙げられる。膜構造としては、脂質二重膜構造が挙げられる。細胞外微粒子としては、エクソソーム、マイクロベシクル、アポトーシス小体等が挙げられる。細胞内小胞としては、リソソーム、エンドソーム等が挙げられる。オルガネラとしてはミトコンドリア等が挙げられる。細胞としては、循環腫瘍細胞(CTC)等の癌細胞、その他の疾患関連細胞等が挙げられる。
【0088】
検出対象60を含む分析試料液の態様としては特に限定されないが、分析の迅速性の観点から、検出対象60を分離する処理を経ていないものであることが好ましい。検出対象60を分離する処理としては、超遠心分離、限外ろ過、連続フロー電気泳動、サイズフィルターを用いたろ過、ゲルろ過クロマトグラフィー等が挙げられる。
【0089】
検出対象60を含む分析試料液としては、(検出対象60が細胞または細胞外微粒子である場合は)検出対象60が存在している環境から得られる試料、又は、(検出対象60が細胞外微粒子であって、細胞からの産生物である場合は)検出対象60が生じうる環境から得られる試料であってよい。具体的には、細胞を含む生体試料であってよい。検出対象60がエクソソームなどの細胞外微粒子である場合、検出対象60を産生する細胞としては、がん細胞、肥満細胞、樹状細胞、網赤血球、上皮細胞、B細胞、神経細胞等が挙げられる。より具体的には、検出対象60を含む分析試料液としては、血液、乳汁、尿、唾液、リンパ液、髄液、羊水、涙液、汗、鼻漏等の体液が挙げられ、さらに、これらの体液を、不要成分を除去する等の前処理を行った処理液、及びこれらの体液に含まれる細胞を培養して得られた培養液も挙げられる。これらの分析試料液のうち、尿、唾液、涙液、汗、鼻漏等の体液は、非侵襲性及び採取容易性の点で特に好ましい。
【0090】
分析用センサ50の基材20表面上に検出対象60を含む分析試料液を接触させると、検出対象60が凹部31内の抗体物質52に特異的に捕捉される。例えば検出対象60がエクソソームである場合、エクソソームは膜タンパク質(エクソソーム特異的抗原)としての、例えば、CD63、CD9、CD81、CD37、CD53、CD82、CD13、CD11、CD86、ICAM-1、Rab5、Annexin V、LAMP1等を介して抗体物質52に特異的に結合することによって捕捉される。検出対象60が癌細胞である場合、癌細胞は癌細胞特異的抗原としての、例えば、Caveolin-1、EpCAM、FasL、TRAIL、Galectine3、CD151、Tetraspanin 8、EGFR、HER2、RPN2、CD44、TGF-β等を介して抗体物質52に特異的に結合することによって捕捉される。
【0091】
検出対象60が凹部31内の抗体物質52に特異的に捕捉されると、その瞬間、シグナル物質53が検出対象60によって遮蔽されるため、シグナル物質53から検知されるシグナル強度が低減する。このシグナル強度の変化によって検出対象60が検出される。検出対象60の捕捉とシグナル強度の変化とがほぼ同時に起こるため、検出対象60の検出のために試薬を加える必要もなく、検出を迅速に行うことができる。
【0092】
また、分析用センサ50を、シグナル物質53が蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)を引き起こす蛍光色素ペアの一方となるように構成し、且つ、検出対象60に予め当該蛍光色素ペアの一方を結合させておく場合、検出対象60が凹部31内の抗体物質52に特異的に捕捉されると、その瞬間、シグナル物質53における蛍光色素と検出対象60における蛍光色素とが近接するため、FRETにより蛍光が放射される。このFRETによる蛍光放射によって検出対象60が検出される。検出対象60の捕捉とFRETによる蛍光放射とがほぼ同時に起こるため、検出対象60の検出のために試薬を加える必要もなく、検出を迅速に行うことができる。FRETを引き起こす蛍光色素ペアとしては特に限定されず、シグナル物質53としてドナー色素及びアクセプター色素のいずれを選択するかも限定されない。好ましくは、シグナル物質53としてドナー色素を選択することができる。FRETを引き起こす蛍光色素のペアを構成するドナー色素/アクセプター色素の具体例としては、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)/テトラメチルローダミンイソチオシアネート(TRITC)、Alexa Fluor647/Cy5.5、HiLyte Fluor647/Cy5.5、R−フィコエリトリン(R−PE)/アロフィコシアニン(APC)等が挙げられる。
【0093】
さらに、本発明の分析用センサ50は、基材20表面において、凹部31以外にシグナル物質53が設けられていないため、凹部31外の基材20表面に非特異吸着があったとしても不所望のバックグラウンドに影響されることがない。したがって、検出対象60を感度良く検出することができる。
【実施例】
【0094】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0095】
[実施例1:エクソソームを鋳型に用いた検出対象の分析用センサ作製用基材]
本実施例では、金薄膜蒸着ガラス基板上にアミノ基及びブロモ基が末端となる混成自己組織化単分子膜(mixed SAMs)を作製し(分子膜形成工程)、アミノ基末端へNTA基を導入し、NTA-Ni錯体を形成した後、キレート結合により抗体結合タンパク質ProteinGを結合させ、Anti-CD9抗体を固定化し、さらに抗CD9抗体を介してエクソソームを固定化した(鋳型導入工程)。その後、BAMを用いてエクソソーム膜にメタクリル基修飾を施し(表面修飾工程)、表面開始制御/リビングラジカル重合によりポリマー薄膜を合成した(重合工程)。最後にエクソソームを除去し(除去工程)、検出対象の分析用センサ作製用基材を得た。
【0096】
1.mixed SAMsの作製(分子膜形成工程)
濃硫酸及び30w/v%過酸化水素水を3:1(体積基準)で混合し、ピラニア溶液を作製した。金薄膜蒸着ガラス基板(SPR測定に供する場合はGE Healthcare社のSIA Kit Auを用い、蛍光測定に供する場合はジャスコエンジニアリング社の金蒸着ミラーを用いた。)をピラニア溶液に室温で15分間浸漬させ有機残滓を除去した。基板を純水で洗浄後、0.5 mM Amino-EG6-undecanthiol hydrochloride(同仁化学研究所)、0.5mM Bis [2-(2-bromoisobutyryloxy) undecyl] disulfide(Sigma-Aldrich)のEtOH溶液に基板を浸漬させ、25℃で24時間静置した。
【0097】
2.Protein G及びAnti-CD9抗体を介したエクソソームの固定化(鋳型導入工程)
20 mM Isothiocyanobenzyl-NTA(同仁化学研究所)DMSO溶液80 μLを基板に滴下し、25℃で2時間静置した。基板をDMSO及び純水で洗浄後、4 mM NiCl2水溶液100 μLを基板に滴下し、室温で15分間静置した。基板を純水で洗浄後、100 μM Recombinant His-tagged Protein G(Bio Vision)PBS(10 mM posphate, 140 mM NaCl, pH7.4)溶液100 μLを基板に滴下して、25℃で30分間静置した。基板をPBSで洗浄後、0.3 μM Anti-CD9(Human)mAb(MBLライフサイエンス)PBS(10 mM posphate, 140 mM NaCl, pH7.4)溶液100 μLを基板に滴下して、25℃で30分間静置した。これによって、Protein G及びAnti-CD9抗体を固定化した。なお、Protein G及びAnti-CD9抗体が固定化されたことは、表面プラズモン共鳴分析(測定条件は、sample 1:100 μM Protein G、sample 2:0.3 μM Anti-CD9、flow rate:30 μL/min、injection volume:30 μL、running buffer:PBS (10 mM posphate,140 mM NaCl, pH7.4)、temperature:25℃)を用い、SPRシグナル(応答ユニットRU)の増大(ΔRuは、Protein Gで4500、Anti-CD9で5919であった。)により確認した。表面プラズモン共鳴分析には、表面プラズモン共鳴分子間相互作用解析装置Biacore Q(GE Healthecare)を用いた(以下、SPR分析を行う場合において同様)。
【0098】
さらに、基板をPBSで洗浄後、20 μg/mL エクソソーム(Exosomes from PC3 cell, HansaBioMed)PBS(10 mM posphate, 140 mM NaCl, pH7.4)溶液100 μLを基板に滴下し、25℃で30分間静置した。これによって、エクソソームを固定化した。なお、エクソソームが固定化されたことは、Anti-CD9抗体を固定化していないことを除いて同じ基板を別途作製し、両者で、SPR(測定条件は、sample:exosome、concentration:25, 50, 100, 250, 500, 1000, 2500, 5000, 10000 ng/mL、flow rate:10 μL/min、injection volume:30 μL、running buffer:PBS (10 mM posphate,140 mM NaCl, pH7.4)、temperature:25℃)を用いたエクソソームの結合挙動比較において、Anti-CD9抗体を固定化した基板の方でエクソソームの吸着量が多いことを確認することにより行った。
【0099】
3.エクソソームへのメタクリル基修飾(表面修飾工程)
3−1.アンカー物質BAM-SH(図5中アンカー物質41に相当)の合成
BAM(Biocompatible Anchor for cell Membrane(Mw=2000);SUNBRIGHT OE-020CS、油化産業株式会社)10.3 mg (5.65 μmol)及び2-Aminoethanethiol hydrochloride(東京化成工業)31.9 mg (280 μmol, 49.7 eq)を、PB(10 mM posphate, pH7.0) 50 μLに溶解させて25°Cで4時間反応させ、アンカー物質BAM-SHを得た。ここでpH7.0の緩衝液を用いたのは、BAMのNHS基の加水分解速度を下げてアミノ基との反応性を上げるためである。
【0100】
【化2】
【0101】
3−2.2-(2-Pyridyl)dithioethyl methacrylate(図5中分子34に相当)の合成
2,2-Dipyridyl disulfide (1.545 g, 7.01 mmol)をmethanol (15 mL)に溶解させ、acetic acid 180 μL を加えて攪拌した。methanolに溶解させた2-Mercaptoethanol (600 μL, 8.45 mmol)を室温で少量ずつ加え、一晩反応させた。シリカゲルクロマトグラフィー(EtOAc:hexane = 50:50(体積基準))によりRf=0.33のフラクションを回収して減圧留去することで,うすい黄色で透明な油状の精製物(2-hydroxyethyl 2-pyridyl disulfide)を得た。
【0102】
2-hydroxyethyl 2-pyridyl disulfide (1.028 g, 5.49 mmol)、Methacrylic Acid (0.70 mL, 8.23 mmol, 1.5 eq)、WSC-HCl(1.5825 g, 8.23 mmol, 1.5 eq)、及びDIEA(0.956 mL8.23 mmol, 1.5 eq)を適量の methanol に溶解させ、室温で攪拌して3日反応させた。飽和食塩水及び純水で洗浄後、回収した有機相をNa2SO4で脱水した。溶媒除去後,シリカゲルクロマトグラフィー(EtOAc : hexane = 20:80(体積基準))によりRf=0.37のフラクションを回収して減圧留去することで,褐色で透明な油状の精製物(2-(2-Pyridyl)dithioethyl methacrylate)を得た。(1H-NMR (CDCl3, 300 MHz), δ (ppm): 8.48 (m, 1H, aromatic proton ortho-N), 7.60-7.71 (m, 2H, 9 aromatic proton meta-N and para-N), 7.11 (m, 1H, aromatic proton, orthodisulfide linkage), 6.22 (d, 1H, vinylic proton, cis-ester), 5.59(d, 1H, vinylic proton, trans-ester) 4.41 (t, 2H, -S-S-CH2CH2O-), 3.12 (t, 2H, -S-S-CH2CH2O-), 1.92(s, 3H, methyl proton of the methacryloyl group))
【0103】
【化3】
【0104】
BAM-SHをPBで希釈して100 μM BAM-SHの PB(10 mM posphate, pH7.0)溶液とし、エクソソーム固定化基板を浸漬させて25℃で1時間静置し、基板をPBS(10 mM posphate, 140 mM NaCl, pH7.4)で洗浄した。その後、2-(2-Pyridyl)dithioethylmethacrylateを50 μLのDMSOで溶解させた後にPBS(10 mM posphate, 140 mM NaCl, pH7.4)で100 μMに希釈し(DMSOは全体の0.9 wt%程度)、100 μM 2-(2-Pyridyl)dithioethylmethacrylateのPBS(pH 7.4)溶液を調製した。調製した溶液基板を浸して25℃で一晩反応させた。
【0105】
4. MIP薄膜の作製(重合工程)
下記表に示したレシピ(Recipe of SI-ATRP for synthesis of Exosome-MIP)に従い、表面開始原子移動ラジカル重合(SI-ATRP;Surface-initiated atom transfer radical polymerization)によってポリマー薄膜を合成した。
【0106】
【表1】
【0107】
25 mLのシュレンクフラスコに、2−メタクリロイロキシエチルホスホリルコリン(MPC)、2,2'-Bipyridyl(ナカライテスク)、CuBr2(ナカライテスク)及びPBS (10 mM posphate,140 NaCl, pH7.4)からなる溶液を調製し、脱気を行った後に基板を浸漬させた。再度脱気を行った後、L-Ascorbic Acid(L(+)-Ascorbic Acid、ナカライテスク)をシリンジで注入し、重合を開始した。重合条件は、40℃のウォーターバス中で1時間とし、重合反応の間、低速で振とうし続けた。
【0108】
5.エクソソーム及び抗体の除去(除去工程)
1 M EDTA-4Na 水溶液に基板を15分間浸してCu2+を取り除いた。50 mM TCEP水溶液に基板を25℃で3時間浸漬させ、ジスルフィド結合を還元した。純水で基板を洗浄後、0.5wt% SDSを含む50 mM酢酸バッファー(pH 4.0)に基板を浸して低速で1時間振とうし、ポリマー薄膜からProtein G、Anti-CD9及びエクソソームを切り出した。なお、エクソソームが実際に切り出されたことは、SPR(測定条件は、sample1:50 mM TCEP水溶液 x3、sample2:酢酸buffer(10 mM, pH4.0), 0.5wt% SDS solutions x2、flow rate:30 μL/min、injection volume:30 μL、running buffer:PBS (10 mM posphate,140 mM NaCl, pH7.4)、temperature:25℃)を用い、SPRシグナル(応答ユニットRu)の減少により確認した。これによって、検出対象の分析用センサ作製用基材(MIP基板)が得られた。
【0109】
[実施例2:エクソソームを鋳型に用いた検出対象の分析用センサ]
実施例1で得られた分析用センサ作製用基材(MIP基板)に、4 mM NiCl2水溶液100μL、100μM Protein G PBS(10 mM posphate,140 mM NaCl, pH7.4)溶液100μL、及び抗CD9抗体の0.3μM PBS(10 mM posphate, 140 mM NaCl, pH7.4)溶液100μLを滴下し、抗CD9抗体を固定した。さらに、500 μM POLARIC-MLI(五稜化薬)DMSO溶液100μLを基板に滴下して25℃で1時間静置し、その後洗浄した。これによって、検出対象の分析用センサが得られた。
【0110】
[実施例3:検出対象の分析用センサを用いた蛍光分析によるエクソソーム検出]
実施例2で得られた分析用センサを用い、エクソソームの結合挙動を観察した。具体的には、作製した基板に濃度が異なるエクソソーム(推定平均分子量:1.92×108Da)溶液を10μLずつ滴下し、18x18mmのカバーガラスをかぶせ、室温で10分間静置した。静置は遮光下で行った。反応後の基板について蛍光強度の測定を行った。蛍光強度の測定には、蛍光顕微鏡(倒立型リサーチ顕微鏡IX 73(OLYMPUS))を用い、測定条件は、濃度:2.5, 5, 10, 50, 100, 250, 500, 1000, 2500, 5000 ng/mL、フィルター:BW、対物レンズ:x10、露光時間:0.50 sec、光量:100%とし、測定値は5点の平均値とした。分光学ソフトウェアとしては、Andor SOLISを用いた。エクソソーム濃度に対する蛍光強度変化((Io-I)/Io)を測定してグラフを作成し、それをカーブフィッティング(回帰分析)して結合定数を算出した結果を図13に示す。グラフの作成とカーブフィッティングにはグラフ作製ソフトDeltaGraphを用い、結合定数は下記式で算出式した。その結果、結合定数Kaは1.50×1014[M-1]と算出された。
【0111】
【数1】
【0112】
[参考例:検出対象の分析用センサを用いたSPRによるエクソソーム検出]
実施例2で得られた分析用センサを用い、表面プラズモン共鳴(SPR)分析により結合定数を求めた。SPR測定条件は、sample:Exosome、concentration:25, 50, 100, 250, 500, 1000, 2500, 5000 ng/mL、flow rate:10 μL/min、injection volume:30 μL、running buffer:PBS (10 mM posphate, 140 mM NaCl, pH7.4)、temperature:25℃とした。エクソソーム濃度に対する、SPRシグナル(応答ユニットRU)を示すグラフから、実施例3と同様にしてカーブフィッティングを行い、結合定数を算出した結果を図14に示す。結果、結合定数Kaは2.03×1012[M-1]と算出された。上述の実施例3よりも大きい結合定数が算出されたのは、上記実施例3がセンサ場となる凹部のみにおける蛍光変化を特異的に検出しており、センサ場以外で非特異吸着があっても当該非特異吸着が検出結果に影響しなかったことに対し、本参考例ではSPR分析の原理上、センサ場だけでなくセンサ場以外における非特異吸着をも検出したことによる。このように、本発明によると特異的に認識された対象のみを検出することができる。
【0113】
[実施例5:検出対象の分析用センサ作成の再現性]
実施例2と同じ方法によって検出対象の分析用センサを3枚作成した。作成した3枚の検出対象の分析用センサに対し、実施例3と同じ方法によって、濃度が異なるエキソソーム溶液を滴下して反応させ、反応後の蛍光強度の測定を行った。蛍光強度の測定は、分析用センサそれぞれにおいて3点ずつ、合計9点について行った。9点の測定点における蛍光強度変化を図15に示す。図15中、横軸はエクソソーム濃度(ng/ml)、縦軸は蛍光強度変化((I-I0)/I0)を示す。図15に示されるように、分析用センサ間の測定誤差は小さく、センサを再現性よく作成できたことが示された。
【0114】
[実施例6:検出対象の分析用センサを用いたFRETによるエクソソーム検出]
1.エクソソームのローダミン標識
(1)チオール化BAM(BAM-SH)の合成
BAM (SUNBRIGHT OE-020CS, Mw=2000) 10 mg (5.6 μmol)及び2-aminoethanethiol hydrochloride 32 mg (280μmol, 50 eq)をPBS(pH 7.0) 50μLに溶解させ、25℃で一晩反応させた。
(2)チオール化BAMによるエクソソーム表面のチオール化
得られたチオール化BAM溶液を10 mM PBS (pH 7.4)で100倍希釈した溶液400μLとエクソソーム溶液2μg/100 μLとを混合し、4℃で3時間反応させた。
(3)チオール反応性ローダミンによるエクソソームのローダミン標識
得られた反応液について限外ろ過(Amicon Ultra 0.5 ; 100 kDa)を三回行い、回収液27μLに1 mMのチオール反応性ローダミンマレイミド溶液(10 mM PBS pH 7.4)を450μL加え、暗所、4℃で3時間反応させた。
(4)透析によるローダミン標識エクソソームの精製
孔径10kDaの透析膜を用いて4℃、24時間透析を行い、ローダミン標識エクソソームを精製した。
【0115】
2.フルオレセインで標識した検出対象の分析用センサの作製
500μM POLARIC-MLI(五稜化薬)DMSO溶液100μLを滴下して25℃で1時間静置した代わりに100μMのチオール反応性フルオレセインマレイミド溶液を滴下して室温で3時間静置したことを除き、実施例2と同様にして検出対象の分析用センサを作製した。
3.フルオレセイン標識センサを用いたFRETによるローダミン標識エクソソームの測定
0, 5, 10, 50, 100, 500 ng/mLのエクソソーム溶液をセンサ上に滴下し、3分反応させ、純水及びPBSで十分に洗浄した。洗浄後、PBSを滴下し、カバーガラスを装着して、以下の測定条件で蛍光強度の測定を行った。
測定条件:フィルタ
励起:Fluiorescein用フィルタ
蛍光:Rhodamine用フィルタ
対物レンズ:40倍
露光時間: 0.1 sec;
【0116】
測定結果を図16に示す。図16中、横軸はエクソソームの濃度を示し、縦軸は蛍光強度の変化量(ΔI)を示す。図16に示すように、フルオレセインの励起波長でローダミンの蛍光が観察された(つまりFRETが確認された)。FRETはフルオレセインとローダミンとが互いに近傍に配置されない限り起こらないことから、確かにエクソソームが分析用センサのフルオレセイン標識された凹部に結合したことが示された。
【0117】
[実施例7:フリーの抗CD9抗体添加によるエクソソームの結合阻害試験]
本実施例では、エクソソームが分析用センサの凹部に抗体を介して結合することを確かめるため、エクソソームの滴下時にフリー(遊離)の抗体を共存させることによるエクソソームの結合挙動の変化を調べた。
【0118】
まず、POLARIC-MLIの代わりにAlexa FluorTM 647を用いたことを除いて、実施例2と同様にして検出対象の分析用センサを作製した。次に、フリーの抗体を共存させない試料として、0.01, 0.05, 0.1, 0.5, 1, 5, 10 ng/mlのエクソソームのPBS (10 mM phosphate, 140 mM NaCl, pH7.4)溶液を調製し、フリーの抗体を共存させた試料として、20 ng/mlのエクソソームのPBS(10 mM phosphate, 140 mM NaCl, pH7.4)溶液100μlに0.3μM抗CD9抗体のPBS(10 mM phosphate,140 mM NaCl, pH7.4)溶液100μlを加えて4℃で1時間インキュベートし、得られた溶液をPBSで希釈することで、フリーの抗体が共存する0.01, 0.05, 0.1, 0.5, 1, 5, 10 ng/mlのエクソソームのPBS(10 mM phosphate, 140 mM NaCl, pH7.4) 溶液を調製した。
【0119】
フリーの抗体を共存させない試料と、フリーの抗体を共存させた試料それぞれについて、実施例3と同様にして蛍光強度変化の測定を行った。その結果を図17に示す。図17に示すように、フリーの抗体が共存する場合は、エクソソームの結合が阻害されることが分かった。エクソソームの結合が結合空間内の抗体を介して起こっていることを強く示唆している。従って、分析用センサの凹部に抗体と蛍光色素とが設けられ、エクソソームの結合情報を読み出せることがわかった。
【0120】
[実施例8:シリカナノ粒子を鋳型に用いた検出対象の分析用センサ作製用基材]
1.鋳型の合成−チオール基およびヒスチジンタグ(His-tag)を導入したシリカナノ粒子の合成
FITC標識シリカナノ粒子200μl(200μlあたり表面に-COOH 5 nmolを有するもの、粒子径200nm)をジクロロメタン(DCM)に分散させた(シリカナノ粒子分散液)。エチル(ジメチルアミノプロピル) カルボジイミド(EDC: 50 nmol, 10 eq)、N-ヒドロキシコハク酸イミド(NHS: 50 nmol, 10 eq)、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIEA: 50 nmol, 10 eq) をdry DCMに溶解させ、シリカナノ粒子分散液と混合した。一晩反応させることでシリカナノ粒子表面をNHSで修飾した。表面修飾したシリカナノ粒子に対して、ヒスチジンが6個ペプチド結合で連結されたHis-tag (末端はリジン残基でありフリーのεアミノ基を有する:0.10μmol, 40eq)及び2-アミノエタンチオール塩酸塩(0.1μmol, 40eq)を加えて、室温で反応させた。反応終了後、遠心分離およびろ過によりチオール基およびHis-tagを導入したシリカナノ粒子(SH・His-tag化シリカナノ粒子)を精製した。
【0121】
2.予備実験−Ni-NTAを介したSH・His-tag化シリカナノ粒子の固定と脱離
実施例1の項目1で得られたmixed SAMsに、20 mM Isothiocyanobenzyl-NTA(同仁化学研究所)DMSO溶液80μLを基板に滴下し、25℃で2時間静置した。基板をDMSO及び純水で洗浄後、4 mM NiCl2水溶液100μLを基板に滴下し、室温で15分間静置した。基板を純水で洗浄後、10 mM posphate,140 mM NaCl, pH7.4に分散したSH・His-tag化シリカナノ粒子を滴下することにより、SH・His-tag化シリカナノ粒子が固定化された基板を得た。また、比較用に、His-tag修飾を行わなかったシリカナノ粒子の分散液も同様に滴下した基板も得た。これらの基板に対し、シリカナノ粒子の滴下前と滴下1時間後における、シリカナノ粒子に導入されている蛍光分子フルオレセイン(励起480 nm/ 蛍光 510 nm)由来の蛍光強度を測定することにより、シリカナノ粒子の固定化を確認した。また、結合したシリカナノ粒子が脱離するかどうか確かめるため、酸性緩衝液(0.5 wt% SDS 50 mM 酢酸buffer (pH4.0))で処理し、その後、再び基板表面の蛍光強度を測定した。
【0122】
【表2】
【0123】
上記表に示すように、His-tag修飾なしのシリカナノ粒子とHis-tag修飾したシリカナノ粒子のうち、His-tag修飾したシリカナノ粒子を基板に滴下した後に蛍光強度が上昇していることから、シリカナノ粒子の固定化が確認された。さらに、His-tag修飾したシリカナノ粒子においては、酸性緩衝液(0.5 wt% SDS 50 mM 酢酸buffer(pH4.0))で処理した後に蛍光強度が滴下前と同じレベルまで減少したことから、Ni-NTAを介して結合したシリカナノ粒子が、酸性かつ界面活性剤存在下で脱離されたことが分かった。
【0124】
3.シリカナノ粒子を鋳型に用いた検出対象の分析用センサ作製用基材の作製
以下のようにして、金薄膜蒸着ガラス基板上にアミノ基及びブロモ基が末端となる混成自己組織化単分子膜(mixed SAMs)を作製し(分子膜形成工程)、アミノ基末端へNTA基を導入し、NTA-Ni錯体を形成した後、キレート結合によりシリカナノ粒子を固定化した(鋳型導入工程)。その後、シリカナノ粒子にメタクリル基修飾を施し(表面修飾工程)、表面開始制御/リビングラジカル重合によりポリマー薄膜を合成した(重合工程)。最後にシリカナノ粒子を除去し(除去工程)、検出対象の分析用センサ作製用基材を得た。
【0125】
(1)ブロモ基およびアミノ基をもつ混合自己組織化単分子膜形成(分子膜形成工程)
実施例1の項目1と同様に金薄膜蒸着ガラス基板の有機残滓の除去及び洗浄を行い、0.5 mM amino-EG6-undecanthiol hydrochloride及び0.5mM 2-(2-bromoisobutyryloxy) undecyl thiolのエタノール溶液に基板を浸漬させ、25℃で24時間静置することにより、ブロモ基およびアミノ基をもつ混合自己組織化単分子膜を形成させた。
【0126】
(2)SH・His-tag化シリカナノ粒子のNi-NTAを介した固定化(鋳型導入工程)
5 mM isothiocyanobenzyl-nitrilotriacetic acid (ITC-NTA)のDMSO溶液80 μLを基板に滴下し、25℃で2時間静置してアミノ基をNTAで修飾した。基板をDMSO及び純水で洗浄後、4 mM NiCl2水溶液100 μLを基板に滴下し、室温で15分間静置することで、Ni-NTA錯体を形成した。その後、SH・His-tag化シリカナノ粒子(固形分濃度5.1 mg/ml)含有水溶液100 μlを基板に滴下し、25°Cで1時間静置した。
【0127】
(3)固定されたSH・His-tag化シリカナノ粒子のメタクリロイル化(表面修飾工程)
100 μM 2-(2-Pyridyl)dithioethyl methacrylateの PBS (pH 7.4)溶液に基板を浸して一晩静置させることで、ジスルフィド交換反応によってシリカナノ粒子表面のSH基にジスルフィドを介してメタクリロイル基の導入を行った。
【0128】
(4)MIP薄膜の作製(重合工程)
重合時間を3時間としたことを除いて、実施例1の項目4と同様にして、基板上にポリマー薄膜を合成した。これによって、基板上に、表1のモノマーと共にシリカナノ粒子のメタクリロイル基も共重合されたポリマー薄膜を得た。重合終了後、1 M エチレンジアミン四酢酸-4Na 水溶液に基板を15分間浸し、ATRPに用いたCu2+を取り除いた。
【0129】
(5)シリカナノ粒子の除去(除去工程)
50 mM トリス(2-カルボキシエチル)フォスフィン・HCl(TCEP)水溶液に25℃で3時間浸漬させ、ポリマーとシリカナノ粒子とを結合させているジスルフィド結合を還元・切断した。ポリマー側にはフリーのSH基が残るが、このSH基は、SH・His-tag化シリカナノ粒子由来であることから、ポリマー薄膜のうち鋳型に対応した凹部以外の部分には存在せず、鋳型に対応した凹部内のみに存在する。前述のEDTA-4Na処理で、NI-NTAのニッケルも除去されてHis-tagがこの時点でフリーとなる可能性が高いが、念のため以下の操作も行った。純水で洗浄後、0.5 wt% SDSを含む50 mM酢酸バッファー (pH 4.0)に基板を浸して、Ni-NTA及びHis-tagを介して結合していたシリカナノ粒子をポリマー薄膜から洗い出した。
【0130】
[実施例9:シリカナノ粒子を鋳型に用いた検出対象の分析用センサ]
実施例8で得られた分析用センサ作製用基材(MIP基板)に再度Ni-NTAを形成させるため、4 mM NiCl2水溶液でMIP基板を処理した。その後、PBSに溶解した100 μM His-tag Protein Gを基板に添加することで、His-tagを介して抗体を結合可能なProtein Gを固定化した。最後に、PBSに溶解した0.3 μM 抗CD9抗体を基板に添加し、抗CD9抗体をProtein Gを介して固定化した。Protein Gは、抗体のFc領域に結合することから、固定化された抗体の配向は一様となる。
【0131】
さらに、蛍光分子としてチオール反応性のAlexa Fluor(R) 647 C2 Maleimide を用いて分析用センサの凹部への蛍光分子の選択的導入を行った。導入前の蛍光強度は113±0.6 (n-3)であったのに対し、導入後は151±2.1 (n-3)であったことから、蛍光の導入が確認された。これによって、検出対象の分析用センサが得られた。
【0132】
[実施例10:検出対象の分析用センサを用いた蛍光分析によるエクソソーム検出]
実施例9で得られた分析用センサ(抗体あり)を用い、エクソソームの結合挙動を観察した。また、比較用として、当該分析用センサの抗CD9抗体が固定されていない基板(抗体なし)についても同様にエクソソームの結合挙動を観察した。試料としては、エクソソームのPBS (10 mM posphate,140 mM NaCl, pH7.4)溶液(濃度はそれぞれ、0.01, 0.05, 0.1, 0.5, 1, 5, 10 ng/mL)を用い、エクソソームの蛍光検出は顕微鏡下で行った。蛍光顕微鏡測定条件は以下の通りである。
フィルタ:Cy5
対物レンズ:×5
露光時間:0.1秒
光源:水銀ランプ
【0133】
結果を図18に示す。図18中、横軸はエクソソームの濃度を示し、縦軸は蛍光強度変化を示す。図18の結果に基づき吸着等温線から算出された解離定数は、Kd=3.8x10-15 [M]であった。エクソソームの推定Mwが2.33x108 Daであることから、エクソソームを鋳型にした場合に比べても遜色ない優れた感度でエクソソームを検出することができた。
【0134】
[実施例11:分析用センサ表面のSTED超解像イメージ像]
蛍光分子として(下記式に示すP=O-Rhodolを用いたことを除いて、実施例9と同様にして分析用センサを作製した。得られた分析用センサを、誘導放出制御(STED)顕微鏡(Leica社製SP8-STED3X)を用いて観察した。得られたSTED超解像イメージ像を図19に示す。図19に示すように、約200 nmサイズのドット状の蛍光が観察され、当該蛍光のサイズは、鋳型に用いたシリカナノ粒子と同等であり、鋳型効果により形成された凹部であることが確認できた。また、当該凹部以外にバックグラウンド蛍光がほとんど観察されなかったことから、蛍光レポーター分子が当該凹部に選択的に導入されたことも示された。
【0135】
【化4】
【0136】
[実施例12:涙液中のエクソソームの測定]
シルマー試験紙を用いて涙液を採取した後、試験紙を、500 μlの140 mMNaClを含む10 mM リン酸バッファー(PBS)に4℃,6時間浸漬し、涙に含まれるエクソソームを涙液試料として回収した。涙液試料を、実施例9の分析用センサを用いた蛍光測定に供することで、涙液中のエクソソームを測定した。比較用に、コントロールとして、実施例9の検出対象の分析用センサを用いたPBSの測定、及び、分析用センサの抗体への涙液エクソソームの結合性を確認するため、実施例9の分析用センサの抗体が固定されていない基板を用いた涙液試料の測定も行った。
【0137】
結果を図20に示す。図20において、「PBS」は、実施例9の分析用センサにPBSを供した結果、「涙(抗体あり)」は、実施例9の分析用センサに涙液試料を供した結果、及び、「涙(抗体なし)」は、実施例9の分析用センサの抗体が固定されていない基板に涙液試料を供した結果を示す。図20に示されるように、抗体が固定されている実施例9の分析用センサに涙液試料を供した場合に蛍光消光の度合いが最も大きいことから、涙液中のエクソソームが測定されたことが示された。
【0138】
本発明の好ましい実施形態は上記の通りであるが、本発明はそれらのみに限定されるものではなく、本発明の趣旨から逸脱することのない様々な実施形態が他になされる。
【符号の説明】
【0139】
10…分析用センサ作製用基材
20…基材
21…分子膜
22…抗体物質結合用基(可逆的結合性基)
22a…結合性官能基
22b…第1の可逆的連結基
22c…抗体物質結合性基
23a…重合開始性基
24…抗体物質
25…抗体物質結合用基と結合することで第1の可逆的連結基の形成が可能な基
30…ポリマー膜
31…凹部
32…シグナル物質結合用基(可逆的結合性基)
32b…第2の可逆的連結基
33…重合性官能基
35…重合性モノマー
40…鋳型
41…アンカー物質
42…可逆的結合性基(シグナル物質結合用基と結合することで第2の可逆的連結基の形成が可能な可逆的結合基)
43…アンカー基
50…分析用センサ
52…検出対象に特異的な抗体物質
53…シグナル物質
60…検出対象
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20