特許第6573381号(P6573381)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6573381
(24)【登録日】2019年8月23日
(45)【発行日】2019年9月11日
(54)【発明の名称】研磨装置
(51)【国際特許分類】
   B24B 21/04 20060101AFI20190902BHJP
【FI】
   B24B21/04
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-156686(P2015-156686)
(22)【出願日】2015年8月7日
(65)【公開番号】特開2017-35742(P2017-35742A)
(43)【公開日】2017年2月16日
【審査請求日】2018年4月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】396019631
【氏名又は名称】株式会社チップトン
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】特許業務法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 修二
【審査官】 稲葉 大紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−003766(JP,A)
【文献】 特開平08−216000(JP,A)
【文献】 特開2001−009698(JP,A)
【文献】 特開2000−094316(JP,A)
【文献】 特表平11−505181(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3161598(JP,U)
【文献】 米国特許出願公開第2001/0024880(US,A1)
【文献】 特開昭59−182057(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 7/24,21/04,37/10,
47/02,47/16
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面が研磨面となっているテープ状の研磨部材と、
前記研磨面に対しワークを押し付けた状態に保持する可動保持部材と、
前記研磨面と前記可動保持部材を一方向又は往復方向へ直線的に相対変位させることで、前記ワークに研磨処理を施す研磨用駆動機構と、
前記可動保持部材と前記ワークを、前記ワークに対して偏心した揺動軸を支点として前記研磨面に沿って揺動させる揺動用駆動機構とを備え、
前記可動保持部材の揺動方向が、前記研磨部材の長さ方向と交差する方向であり、
前記可動保持部材が揺動するときには、前記研磨部材がストッパによって固定され、
前記揺動用駆動機構によって前記ワークが揺動することで、前記ワークに対する前記研磨面の研磨処理方向が、互いに異なる2方向に切り替わることを特徴とする研磨装置。
【請求項2】
前記可動保持部材には、前記ワークを前記研磨面に弾性的に押圧する弾性部材が設けられていることを特徴とする請求項1記載の研磨装置。
【請求項3】
前記弾性部材が合成樹脂製であり、
前記弾性部材と前記ワークとの間に金属板材を介在させていることを特徴とする請求項2記載の研磨装置。
【請求項4】
前記ワークに対する研磨工程では、前記可動保持部材が、前記研磨部材の長さ方向と略平行に移動するようになっていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の研磨装置。
【請求項5】
前記ワークに対する研磨工程で前記研磨部材の移動を規制するストッパを備えていることを特徴とする請求項4記載の研磨装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、直線移動する研磨ベルトと、円形のワークを研磨ベルトの研磨面に押し付けるための保持部材とを備えた研磨装置が開示されている。この研磨装置の研磨工程では、保持部材によってワークを研磨面上で固定し、その状態で、研磨ベルトを移動させることにより、ワークに対して研磨面を一方向に摺接させるようになっている。また、一定時間毎にワークの向きを90°ずつ変えることにより、ワークに対して研磨面を略直角な2方向に摺接させるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−094316号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の研磨装置では、ワークの向きを変える際に、保持部材が、ワークを研磨面に押し付けたままで、ワークの中心と同心状に90°自転するようになっている。そのため、ワークと研磨面との間の摩擦抵抗によって、保持部材とワークとが相対的に回転する虞がある。このようになった場合、ワークの転向角度が90°に至らないため、ワークに対する研磨方向が鋭角となり、研磨不良を来すことになる。
【0005】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、ワークに対し所定の角度をなす2方向の研磨処理を確実に施すことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の研磨装置は、
表面が研磨面となっているテープ状の研磨部材と、
前記研磨面に対しワークを押し付けた状態に保持する可動保持部材と、
前記研磨面と前記可動保持部材を一方向又は往復方向へ直線的に相対変位させることで、前記ワークに研磨処理を施す研磨用駆動機構と、
前記可動保持部材と前記ワークを、前記ワークに対して偏心した揺動軸を支点として前記研磨面に沿って揺動させる揺動用駆動機構とを備え、
前記可動保持部材の揺動方向が、前記研磨部材の長さ方向と交差する方向であり、
前記可動保持部材が揺動するときには、前記研磨部材がストッパによって固定され、
前記揺動用駆動機構によって前記ワークが揺動することで、前記ワークに対する前記研磨面の研磨処理方向が、互いに異なる2方向に切り替わるところに特徴を有する。
【発明の効果】
【0007】
可動保持部材を揺動させない状態で、研磨面と可動保持部材を相対変位させることにより、ワークが特定の方向に擦られて研磨される。この後、可動保持部材を、ワークから偏心した揺動軸を支点として揺動させると、ワークは、殆ど自転することなく揺動軸を支点として旋回する。ワークを旋回した後に、研磨面と可動保持部材を相対変位させると、ワークは、先の研磨工程で擦られた向きに対し所定の角度をなす向きに擦られて研磨される。したがって、ワークに対し所定の角度をなす2方向の研磨処理を確実に施すことができる。また、研磨面と可動保持部材の相対変位方向が、可動保持部材の揺動方向と交差する方向である場合には、可動保持部材を揺動してワークを旋回させたときに、そのワークを、研磨面における未使用の領域に摺接させることができる。また、研磨部材はテープ状をなしているため、可動保持部材が揺動する際には、ワークと研磨面との間の摩擦抵抗によって研磨部材がその長さ方向と交差する幅方向へ位置ずれすることが懸念される。しかし、上記構成によれば、研磨部材は、ストッパによって固定されているので、幅方向に位置ずれする虞はない。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例1の研磨装置の平面図
図2】揺動用駆動機構において可動保持部材がワークを右方へ向けている状態をあらわす平面図
図3】揺動用駆動機構において可動保持部材がワークを左方へ向けている状態をあらわす平面図
図4】保持機構の正面図
図5】可動保持部材においてワークを研磨面に押し付けて保持するためのワーク保持部をあらわした拡大断面図
図6】ストッパの構造をあらわす正面図
図7】ワークの研磨工程において、ワークが研磨面上にセットされた状態をあらわす概略平面図
図8】ワークの研磨工程において、研磨面上にセットされたワークを可動保持部材で保持した状態をあらわす概略平面図
図9】ワークの研磨工程において、可動保持部材がワークを保持した状態で移動している様子をあらわす概略平面図
図10】ワークの研磨工程において、可動保持部材がワークを保持したまま左方へ揺動した状態をあらわす概略平面図
図11】ワークの研磨工程において、左方へ揺動した可動保持部材がワークを保持した状態で移動している様子をあらわす概略平面図
図12】ワークの片面に対する研磨工程が終了し、可動保持部材が研磨済みのワークを研磨面上に残して退避した状態をあらわす概略平面図
【発明を実施するための形態】
【0009】
(a)本発明の研磨装置は、前記可動保持部材には、前記ワークを前記研磨面に弾性的に押圧する弾性部材が設けられていてもよい。
この構成によれば、弾性部材により研磨面に対するワークの傾きを矯正して、良好な研磨処理を行うことができる。
【0010】
(b)本発明の研磨装置は、(a)において、前記弾性部材が合成樹脂製であり、前記弾性部材と前記ワークとの間に金属板材を介在させてもよい。
この構成によれば、弾性部材とワークとの間に金属板材が介在しているので、ワークに液体が付着していても、ワークが弾性部材に貼り付く虞がない。また、合成樹脂の弾性部材に貼り付き防止加工を直接施すよりも、金属板材の方が製作が容易である。
【0012】
(c)本発明の研磨装置は、前記ワークに対する研磨工程では、前記可動保持部材が、前記研磨部材の長さ方向と略平行に移動するようになっていてもよい。
研磨部材はテープ状をなしているため、研磨工程で可動保持部材が研磨部材の幅方向に移動した場合は、ワークと研磨面との間の摩擦抵抗によって研磨部材の側縁部が捲れ上がることが懸念される。しかし、上記構成によれば、研磨工程では、可動保持部材は研磨部材の長さ方向と略平行に移動するようになっているので、研磨部材の側縁部が捲れ上がる虞はない。
(d)本発明の研磨装置は、(c)において、前記ワークに対する研磨工程で前記研磨部材の移動を規制するストッパを備えていてもよい。
この構成によれば、研磨工程ではストッパによって研磨面のずれを防止できるので、良好な研磨を行うことができる。
【0013】
<実施例1>
以下、本発明を具体化した実施例1を図1図12を参照して説明する。以下の説明において、前後の方向については、図1〜3,7〜12における上方を、前方と定義する。左右の方向については、図1〜3,7〜12にあらわれる向きを、そのまま左方、右方と定義する。上下方向については、図4〜6にあらわれる向きを、そのまま上方、下方と定義する。
【0014】
<研磨装置Aの概要>
本実施例の研磨装置Aは、円形のリング状をなす薄板からなる金属製のワークWの表裏両面に対し、夫々、略直角な2方向に研磨面11を摺接させて研磨を行うためのものである。図1及び図7に示すように、研磨装置Aは、上面(表面)が研磨面11となっている左右2本の研磨テープ10(請求項に記載の研磨部材)と、2面の研磨面11に対し、夫々、一度に2つのワークWを押し付けた状態に保持する2つの保持機構20とを備えている。
【0015】
各保持機構20は、夫々、左右一対の可動保持部材27と、左右一対の可動保持部材27を一体的に揺動させるための揺動用駆動機構37とを備えている。2つの保持機構20は、同じ構成、同じ構造である。また、研磨装置Aは、研磨工程において左右2つの保持機構20(可動保持部材27)を個別に移動させるための左右2つの研磨用駆動機構43を備えている。また、左右2つの保持機構20(研磨テープ10)の間には、ワークWを表裏反転させるための反転機構48が設けられている。
【0016】
<研磨テープ10>
研磨テープ10は、予め繰出側プーリ(図示省略)に巻き付けられており、研磨テープ10の繰出し方向先端部は、巻取側プーリ(図示省略)に巻き付けられている。両プーリの間では、研磨テープ10が、その研磨面11を水平上向きとし、且つ長さ方向を前後方向に向けた状態でテーブル12(図4を参照)の上面に載置されている。研磨テープ10は、常には、固定されているが、ワークWに対する研磨が所定回数行われた後、所定長さだけ繰出側プーリから繰り出されるとともに巻取側プーリに巻き取られるようになっている。ワークWに対する研磨処理は、研磨テープ10のうちテーブル12に載置されている研磨領域で行われる。
【0017】
<ストッパ13>
研磨領域の前方近傍位置と後方近傍位置には、夫々、ストッパ13が設けられている。尚、図7〜12には、便宜上、後方に位置するストッパ13のみを図示し、前方に位置するストッパ13については、(図示省略)を省略している。ストッパ13は、図6に示すように、軸線を左右方向に向けて研磨テープ10を下から支えるテーブル12と、研磨テープ10を挟んでテーブル12の上方に位置する押さえバー15と、エアシリンダからなるストッパ用駆動部材16とを備えている。押さえバー15の左端部は、昇降支持軸17に連結され、押さえバー15の右端部は、ストッパ用駆動部材16のストッパ用ロッド18の上端部に連結されている。
【0018】
研磨テープ10をテーブル12上で移動させる際には、ストッパ用ロッド18が上昇して押さえバー15が研磨テープ10に対し非接触となる上方位置へ退避する。また、ワークWに対する研磨を行う工程では、常に、ストッパ用ロッド18が下降し、押さえバー15が、研磨テープ10を全幅に亘りテーブル12との間で強固に挟み付ける。この挟み付けにより、研磨テープ10の研磨領域は、前後方向及び左右方向への移動を規制される。
【0019】
<保持機構20>
図1に示すように、保持機構20は、研磨領域の左右両側方に配された前後方向に長い左右一対のガイドレール21を備えている。ガイドレール21には、図示しない駆動手段により前後方向へ移動するベース部材22が取り付けられている。ベース部材22には、研磨領域の左右両側方に配されて軸線を前後方向(研磨領域における研磨面11と平行)に向けた一対のガイドバー23が設けられている。一対のガイドバー23には、保持機構20を構成する水平な基板24が、前後方向のスライド可能に取り付けられている。基板24には、図4に示すように、左右一対の軸受部材25が固定され、各軸受部材25には、夫々、軸線を上下方向にむけた揺動軸26が水平方向への揺動(回動)を可能に、且つ上下方向への相対変位を規制された状態で取り付けられている。揺動軸26も保持機構20を構成する。
【0020】
<可動保持部材27>
各揺動軸26の下端部(揺動軸26のうち基板24よりも下方の位置)には、夫々、可動保持部材27が、揺動軸26と一体に揺動し得るように取り付けられている。図4に示すように、可動保持部材27は、揺動部材28と、ワーク保持部29とを備えている。揺動部材28は、揺動軸26に対し一体的に揺動し得るように固着されている。ワーク保持部29は、揺動部材28のうち揺動軸26に対して水平方向後方へ偏心した位置に取り付けられている。ワーク保持部29は、揺動部材28から下方へ突出するように設けられ、揺動部材28及び揺動軸26と一体に揺動し得るようになっている。
【0021】
ワーク保持部29は、図5に拡大して示すように、下面に開放された収容空間30を有している。収容空間30の天井面には、ウレタン樹脂かりなる円盤状の弾性部材31が固着されている。弾性部材31は、上下方向へ縮むような形態で弾性変形することができる。弾性部材31の下面には、弾性部材31と同心の円形をなすスチール製の金属板材32が固着されている。弾性部材31が弾性変形すると、金属板材32は弾性部材31に追従して上下の位置や姿勢を変化させるようになっている。
【0022】
収容空間30のうち金属板材32よりも下方の空間は、ワークWの上端部を収容するための円形の保持空間33となっている。保持空間33の内径は、ワークWの外径よりも少し大きい寸法に設定されている。保持空間33の下面の開口は、研磨面11に対し近接して対向するように位置する。
【0023】
図4に示すように、各揺動軸26のうち基板24よりも上方の領域には、夫々、上下一対の揺動板34が、揺動軸26と一体的に揺動し得るように、且つ基板24に対する上下方向への相対変位を規制された状態で取り付けられている。上側の揺動板34には、軸線を上下方向に向けたエアシリンダからなる昇降部材35が設けられている。揺動軸26の上端部は、昇降部材35を構成するエアシリンダの昇降ロッド36の下端部に、一体的に昇降し得るように連結されている。昇降部材35は、揺動軸26を介してワーク保持部29を上下方向へ移動させる機能と、ワーク保持部29で保持されているワークWを下方へ付勢して研磨面11に対し弾性的に押し付ける機能とを兼ね備えている。
【0024】
<揺動用駆動機構37>
図1〜3に示すように、揺動用駆動機構37は、エアシリンダからなる揺動用アクチュエータ38を備えており、揺動板34の前方に配されている。揺動用アクチュエータ38を構成する揺動用ロッド39は、軸線を左右方向に向けて配されており、揺動用ロッド39の左端部(先端部)には、揺動用ロッド39と略平行をなす揺動アーム40の左端部が水平方向への相対変位を可能に連結されている。
【0025】
左側に配された上下一対の揺動板34の前端部同士と、右側に配された上下一対の揺動板34の前端部同士は、夫々、軸線を上下に向けた連結軸41によって連結されている。左側の連結軸41と右側の連結軸41は、いずれも、揺動アーム40に対し水平方向へ相対変位し得るように連結されている。平面視において、連結軸41は、揺動軸26を挟んでワーク保持部29とは反対側に位置している。揺動用アクチュエータ38を駆動して揺動用ロッド39を伸縮させると、左右の可動保持部材27が、揺動軸26を支点として左右方向へ一体となって揺動する。そして、左右の可動保持部材27が揺動するのに伴い、左右のワーク保持部29も、揺動軸26を中心として水平方向へ旋回する。
【0026】
左右両連結軸41の軸間寸法は、左右両揺動軸26の軸間寸法と同じ寸法に設定されている。左右両保持空間33の中心同士の間隔も、左右両揺動軸26の軸間寸法と同じ寸法となっている。また、揺動軸26と連結軸41との間の軸間寸法は、左側と右側で同じ寸法に設定されている。また、揺動軸26と保持空間33の中心との間隔も、左側と右側で同じ寸法に設定されている。したがって、左側と右側の可動保持部材27が揺動する際には、左右両連結軸41と左右両ワーク保持部29(保持空間33)とが、平行四辺形の頂点を構成するような位置関係を保つ。
【0027】
また、図1〜3に示すように、基板24の上面には、左右両可動保持部材27の揺動範囲を規定するための手段として、左右一対の揺動規制部材42が設けられている。左方向への揺動範囲は、左側の揺動板34が左側の揺動規制部材42に当接することによって規定される。右方向への揺動範囲は、右側の揺動板34が右側の揺動規制部材42に当接することによって規定される。これにより、可動保持部材27の最大揺動角度は、90°に設定されている。
【0028】
<研磨用駆動機構43>
図1に示すように、研磨用駆動機構43は、ベース部材22に取り付けられて基板24の前方に配されたサーボモータ44を備えている。サーボモータ44の駆動軸45は、軸線を左右方向に向けて配されている。一方、基板24の前端部には、研磨用駆動機構43を構成する連結部46が設けられている。駆動軸45と連結部46は、クランク機構47を介して連結されている。これにより、駆動軸45の回転運動が、クランク機構47を介して基板24(保持機構20)に伝達され、保持機構20がガイドバー23に沿って前後方向へ往復移動するようになっている。この保持機構20の往復移動方向は、研磨面11の研磨領域と平行である。
【0029】
<反転機構48>
図7〜12に示すように、反転機構48は、前後一対の反転部材49を備えている。前後両反転部材49が前後に並んだ状態における各反転部材49の上面は、2つのワークWを左右に並べて保持することが可能なワーク保持面50となっている。前側の反転部材49は、後側の反転部材49に対し上から重なるように反転可能であり、後側の反転部材49も、前側の反転部材49に対し上から重なるように反転可能である。一方の反転部材49の反転動作により前後の反転部材49が重なった状態では、双方のワーク保持面50同士が、対向してワークWを挟む状態となる。また、双方の反転部材49が重なってワークWを保持した状態では、双方の反転部材49が一体となって前方又は後方へ反転することが可能となっている。
【0030】
<ワークWの研磨工程>
次に、ワークWを研磨する工程を図7〜12を参照して説明する。尚、図7〜12では、可動保持部材27の形状を簡略化しており、図における斜め下方の端部がワーク保持部29となる。研磨工程に先立ち、図7〜12の右方において、予めワークWが洗浄される。そして、洗浄されたワークWは、エアブローにより簡易的に乾燥される。その後、図示しないチャックにより、左右に並んだ状態で右側の研磨面11(研磨面11)上に載置される。このとき、可動保持部材27は、研磨工程における往復移動経路よりも前方の待機位置で待機している。また、全ての可動保持部材27は、平面視において、ワーク保持部29が揺動軸26に対し斜め右後方に位置する向きとなっている。
【0031】
尚、図7において、後側の反転部材49に保持されている2つのワークWは、右側の研磨面11において片面の研磨が済んだワークWである。右側の研磨面11から反転部材49への移載も、図示しないチャックによって行われる。また、図7において、左側の研磨面11に載置されている2つのワークWは、図示しないチャックにより反転機構48から移載されたものである。また、研磨テープ10の研磨領域は、ストッパ13で固定されることにより、前後方向及び左右方向への移動を規制されている。
【0032】
左右両研磨面11に2つのワークWが移載された後、図8に示すように、左右の可動保持部材27(保持機構20)が後方へ移動して、各ワーク保持部29の保持空間33内にワークWが1つずつ個別に収容される。可動保持部材27が後方へ移動するとき、ワーク保持部29がワークWと干渉しないように、可動保持部材27は、昇降部材35によって上方へ退避している。そして、保持空間33がワークWの真上に到達したところで、可動保持部材27が下降することにより、保持空間33内にワークWの上端部が同心状に収容される。
【0033】
この後、研磨用駆動機構43が起動し、左右の可動保持部材27(保持機構20)が図8に示す位置と図9に示す位置との間で前後方向に往復移動して、ワークWの下面が研磨面11に擦り付けられる。これにより、ワークWの下面に対し研磨面11が相対的に前後方向に摺接し、研磨処理が施される。この間、反転機構48では、前側の反転部材49が後側の反転部材49の上に重なるように反転し、ワークWが前後両反転部材49の間で挟まれた状態に保持される。
【0034】
可動保持部材27の往復移動回数が所定回数に達すると、研磨用駆動機構43が停止し、可動保持部材27が図9に示す位置で停止する。次いで、揺動用駆動機構37が起動し、図10に示すように、可動保持部材27が90°揺動する。これに伴い、斜め右後方を向いていたワーク保持部29が、揺動軸26を中心として左方へ90°旋回し、斜め左後方を向いた状態となる。この旋回動作では、ワークWがその中心と同心に自転するのではなく、ワークW全体が、保持空間33の内面に当接してワーク保持部29と一体となって公転するように左方へ移動する。したがって、ワークWにおける研磨面11の研磨方向は、旋回前には前後方向であったのに対し、旋回後は左右方向となる。
【0035】
この後、研磨用駆動機構43が起動し、可動保持部材27が、図11に実線で示す位置と、図11に想像線で示す位置との間で前後方向に往復移動し、ワークWの下面が研磨面11に擦り付けられる。これにより、ワークWの下面に対し研磨面11が相対的に前後方向に摺接し、研磨処理が施される。このワーク保持部29が斜め左後方を向いた状態の研磨工程では、ワークWが研磨面11に対して前後方向に擦り付けられる。このとき、ワーク保持部29が斜め右後方を向いた状態でワークWに施された研磨の方向は、左右方向に転向している。したがって、ワークWには、前後方向と左右方向の両方向の研磨が施されることになる。
【0036】
また、ワーク保持部29が左方へ旋回してから、旋回後の研磨が完了するまでの間、反転機構48では、図10に示すように、前後両反転部材49が、上下に重なってワークWを保持した状態のまま、一体的に前方へ反転する。その後、図11に示すように、後側の反転部材49が後方へ反転する。これにより、ワークWが、前側の反転部材49のワーク保持面50上に露出した状態となる。
【0037】
可動保持部材27の往復移動回数が所定回数に達すると、研磨用駆動機構43が停止し、可動保持部材27が図11に実線で示す位置で停止する。この後、可動保持部材27がワークWよりも上方の位置まで上昇し、次いで、可動保持部材27が前方へ移動し、図12に示すように待機位置に戻る。この後、左側の研磨面11において研磨された2つのワークWは、左側の研磨テープ10よりも左方へ移載される。この間に、前側の反転部材49の2つのワークWが、左側の研磨面11上に移載されるとともに、右側の研磨面11で研磨された2つのワークWが、後側の反転部材49に移載され、図7に示す状態に戻る。この後、上述の工程が繰り返されることにより、ワークWの表裏両面には、互いに略直角な2方向に擦られることによる研磨処理が施される。
【0038】
<実施例1の作用及び効果>
上述のように本実施例1の研磨装置Aは、表面が研磨面11となっている研磨テープ10と、研磨面11に対しワークWを押し付けた状態に保持する可動保持部材27と、研磨面11と可動保持部材27を往復方向へ相対変位させる研磨用駆動機構43と、可動保持部材27を、ワークW(ワーク保持部29)に対して偏心した揺動軸26を支点として研磨面11に沿って概ね90°の範囲で揺動させる揺動用駆動機構37とを備えている。
【0039】
可動保持部材27を揺動させない状態で、研磨面11と可動保持部材27を相対変位させることにより、ワークWが特定の方向(前後方向)に擦られて研磨される。この後、可動保持部材27を、ワークWから偏心した揺動軸26を支点として約90°揺動させると、ワークWは、殆ど自転することなく揺動軸26を支点として旋回する。ワークWを旋回した後に、研磨面11と可動保持部材27を相対変位させると、ワークWは、先の研磨工程で擦られた向きに対し略直交する向き(所定の角度をなす向き)に擦られて研磨される。したがって、本実施例1の研磨装置Aによれば、ワークWに対し略直角な2方向(所定の角度をなす2方向)の研磨処理を確実に施すことができる。また、研磨面11と可動保持部材27の相対変位方向が、可動保持部材27の揺動方向と交差する方向である。したがって、可動保持部材27を揺動してワークWを旋回させたときに、そのワークWを、研磨面11における未使用の領域に摺接させることができる。
【0040】
また、可動保持部材27には、ワークWを研磨面11に弾性的に押圧する弾性部材31が設けられている。この構成によれば、ワーク保持部29や金属板材32が研磨面11に対して傾いていても、弾性部材31によって研磨面11に対するワークWの傾きが矯正される。これにより、良好な研磨処理を行うことができる。また、弾性部材31とワークWとの間には金属板材32を介在させているので、エアブローによる乾燥が不十分でワークWに液体(洗浄液)が付着していても、ワークWが弾性部材31に貼り付く虞がない。また、合成樹脂の弾性部材31に貼り付き防止加工を直接施すよりも、金属板材32の方が製作が容易である。
【0041】
また、研磨面11の形成母体である研磨部材は、研磨テープ10からなる。そして、可動保持部材27の揺動方向は、研磨テープ10の長さ方向と交差する向き(概ね左右方向)である。そのため、可動保持部材27が揺動する際には、ワークWと研磨面11との間の摩擦抵抗によって研磨テープ10がその長さ方向と交差する幅方向へ位置ずれすることが懸念される。しかし、可動保持部材27が揺動するときには、研磨テープ10がストッパ13によって固定されるようになっているので、研磨テープ10が幅方向に位置ずれする虞はない。また、左右のワーク保持部29(保持空間33)の間隔がワークWの外径以上であれば、ワークWを旋回させた後、研磨面11のうち未使用の領域を新たな研磨面11として使用することができる。つまり、ワークWを旋回する前と後で、研磨面11の状態に大きな相違が生じない。したがって、ワークWに対して良好な研磨を施すことができる。
【0042】
また、研磨面11の形成母体である研磨部材は、研磨テープ10からなる。そのため、ワークWに対する研磨工程で可動保持部材27が研磨テープ10の幅方向に移動した場合は、ワークWと研磨面11との間の摩擦抵抗によって研磨テープ10の側縁部が捲れ上がることが懸念される。しかし、研磨工程では、可動保持部材27が、研磨テープ10の長さ方向と略平行に移動するようになっているので、研磨テープ10の側縁部が捲れ上がる虞はない。
【0043】
また、研磨工程では、ワークWと研磨面11との間の摩擦抵抗により、研磨テープ10が前後方向に位置ずれし、ワークWに対する研磨が良好に行われなくなることが懸念される。しかし、ストッパ13は、研磨工程においても、研磨テープ10の前後方向への移動を規制するので、研磨面11のずれを防止して良好な研磨を行うことができる。
【0044】
<他の実施例>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施例に限定されるものではなく、例えば次のような実施例も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)上記実施例では、弾性部材としてウレタン樹脂を用いたが、弾性部材は、ウレタン以外の合成樹脂や、他の材料であってもよい。
(2)上記実施例では、金属板材としてスチールを用いたが、金属板材の材料は、スチール以外の金属であってもよい。
(3)上記実施例では、可動保持部材に弾性部材を設けたが、このような弾性部材を設けない形態としてもよい。
(4)上記実施例では、1つの保持機構が2つのワークを同時に保持するようになっているが、1つの保持機構が一度に保持するワークの数は、1つだけでもよく、3つ以上でもよい。
(5)上記実施例では、研磨工程において、研磨部材(研磨面)を固定し、可動保持部材を往復移動させているが、可動保持部材を固定し、研磨部材を往復移動又は一方向へ移動させてもよい。
(6)上記実施例では、研磨工程の際に、可動保持部材を研磨部材(研磨テープ)の長さ方向と平行に移動させているが、可動保持部材は研磨部材の長さ方向と交差する方向へ移動させてもよい。
(7)上記実施例では、研磨部材(研磨テープ)が長さ方向に移動するようになっているが、研磨部材は、シート状やテーブル状の固定されたものであってもよい。
(8)上記実施例では、可動保持部材を揺動させるための揺動用駆動機構の駆動源としてエアシリンダを用いたが、揺動用駆動機構の駆動源は、油圧シリンダやモータ等であってもよい。
(9)上記実施例では、ワークが円形のリング状をなしているが、本発明は、ワークが円形のリング状以外の形状である場合にも適用できる。
(10)上記実施例では、可動保持部材の揺動角度を概ね90°としたが、本発明によれば、可動保持部材の揺動角度は、90°より小さくてもよく、90°より大きくてもよい。即ち、揺動角度は、0°〜180°の範囲で適宜に設定することができる。
<参考例>
(1)上記実施例では、可動保持部材の揺動方向が、研磨部材の長さ方向と交差する向きであるが、可動保持部材の揺動方向を、研磨部材の長さ方向に概ね沿う方向にする形態も考えられる。
【符号の説明】
【0045】
A…研磨装置
W…ワーク
10…研磨テープ(研磨部材)
11…研磨面
13…ストッパ
26…揺動軸
27…可動保持部材
31…弾性部材
32…金属板材
37…揺動用駆動機構
43…研磨用駆動機構
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