特許第6573394号(P6573394)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6573394
(24)【登録日】2019年8月23日
(45)【発行日】2019年9月11日
(54)【発明の名称】パーキンソン病診断指標
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/92 20060101AFI20190902BHJP
【FI】
   G01N33/92 Z
【請求項の数】4
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-17794(P2016-17794)
(22)【出願日】2016年2月2日
(65)【公開番号】特開2017-138141(P2017-138141A)
(43)【公開日】2017年8月10日
【審査請求日】2018年10月12日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「革新的先端研究開発支援事業」「パーキンソン病の代謝産物バイオマーカー創出およびその分子標的機構に基づく創薬シーズ同定」委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】502285457
【氏名又は名称】学校法人順天堂
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077562
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 登志雄
(74)【代理人】
【識別番号】100096736
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100117156
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100111028
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 博人
(72)【発明者】
【氏名】服部 信孝
(72)【発明者】
【氏名】斉木 臣二
(72)【発明者】
【氏名】波田野 琢
(72)【発明者】
【氏名】山城 一雄
(72)【発明者】
【氏名】石川 景一
(72)【発明者】
【氏名】王子 悠
(72)【発明者】
【氏名】森 聡生
(72)【発明者】
【氏名】奥住 文美
【審査官】 海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2014/0024677(US,A1)
【文献】 特開2013−181823(JP,A)
【文献】 Clinical and Molecular Characterisation of a Parkinson Family with a Novel PINK1 Mutation,Journal of Neurology,2008年,Vol.255,643-648
【文献】 Serum Metabolomics of Slow vs. Rapid Motor Progression Parkinson's Disease: a Pilot Study,PLos One,2013年10月,Vol.8, No.10,e77629
【文献】 The Mitochondrial Carnitine/Acylcarnitine Carrier: Function, Structure and Physiopathology,Molecular Aspects of Medicine,2011年,Vol.32,223-233
【文献】 アシルカルニチン・アミノ酸多項目同時測定キット,株式会社パーキンエルマージャパン,2010年 7月
【文献】 Biocrates Bile Acids Kit,キコーテック株式会社,2014年10月
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48−33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パーキンソン病を診断する目的で、生体由来試料中の中鎖〜長鎖アシルカルニチン及び2次胆汁酸から選ばれる成分の濃度を測定する方法。
【請求項2】
中鎖〜長鎖アシルカルニチンが炭素数12〜20の脂肪族アシルカルニチンである請求項1記載の方法。
【請求項3】
さらに前記成分の濃度と、健常者の当該成分の濃度とを対比する工程を含む請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
中鎖〜長鎖アシルカルニチン及び2次胆汁酸から選ばれる成分の測定用試薬を含有するパーキンソン病診断薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パーキンソン病を早期に診断する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パーキンソン病(Parkinson’s disease:以下PD)は我が国で2番目に多い神経変性疾患で、進行性の運動障害に加え、非運動症状(認知機能低下、精神症状、自律神経症状)などが経年的に進行し、多大な医療・介護負担のため深刻な社会的資産の毀損を招来する。本疾患では、80%程度の症例が明確な遺伝学的背景を持たない「孤発性」症例であるため、ゲノムDNAを用いた遺伝子診断は全症例で有用とはいえない。また頭部MRI検査では病初期から末期まで疾患特異的で鑑別診断価値の高い変化は同定・確立されておらず、他の核医学検査でも心筋MIBGシンチグラフィー(PDに生じる交感神経脱落をノルエピネフリン類似物質MIBGの取り込み低下により評価する方法で中期以降のPD診断に有効とされる)、DAT(ドパミントランスポーター)スキャン(黒質−線条体路の神経変性によるドパミン神経終末低下をモニタリングするため、類縁神経変性疾患鑑別に有用性は明確に確立されていない)など、6万円以上の費用を要する高価な検査が一定の診断効率上昇の効果を認めるのみである。
さらに、パーキンソン病診断手段として、αアドレナリン受容体作動薬含有点眼剤と、ノルアドレナリン再取り込み阻害薬及び/又はノルアドレナリン放出薬含有点眼剤とを用いた診断薬(特許文献1)、神経栄養因子である血液中のNRG1タイプIIIの濃度を測定する方法(特許文献2)、脳脊髄液サンプル中の可溶性α−シヌクレインオリゴマー量を測定する方法(特許文献3)、皮膚ガス又は汗中のベンジルアルコール等の量を測定する方法(特許文献4)が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−162693号公報
【特許文献2】特開2013−181823号公報
【特許文献3】特表2013−504766号公報
【特許文献4】特開2015−55620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の手段では、症状が進行した後でなければ診断できない、高価な検査が必要である、脳脊髄液をサンプルとする等の問題があり、超早期、早期から鑑別診断可能な簡易診断マーカー(以下、BM)が望まれていた。
従って、本発明の課題は、早期から鑑別診断可能な簡易診断マーカーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで本発明者は、測定が容易な血中成分に着目し、血漿代謝産物の網羅的解析を行ったところ、中鎖〜長鎖アシルカルニチン及び2次胆汁酸から選ばれる成分の濃度が、PD発症の初期から健常者やアルツハイマー病の患者に比べて大きく変化することから、これらの成分を測定すれば、PDが早期に診断可能となることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、次の〔1〕〜〔4〕を提供するものである。
【0007】
〔1〕パーキンソン病を診断する目的で、生体由来試料中の中鎖〜長鎖アシルカルニチン及び2次胆汁酸から選ばれる成分の濃度を測定する方法。
〔2〕中鎖〜長鎖アシルカルニチンが炭素数12〜20の脂肪族アシルカルニチンである〔1〕記載の方法。
〔3〕さらに前記成分の濃度と、健常者の当該成分の濃度とを対比する工程を含む〔1〕又は〔2〕記載の方法。
〔4〕中鎖〜長鎖アシルカルニチン及び2次胆汁酸から選ばれる成分の測定用試薬を含有するパーキンソン病診断薬。
【発明の効果】
【0008】
本発明方法によれば、血液等の容易に採取できる試料を用いて、前記マーカー濃度を測定するだけで、早期にパーキンソン病をアルツハイマー病等の他の神経変性疾患と区別して診断することができる。病状が進行する前に診断し、的確な治療を行えば、パーキンソン病進行をくいとめることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】代謝化合物群のクラスター解析結果を示す図である。
図2】アシルカルニチン(AC)主成分の解析結果を示す。
図3】アシルカルニチン(AC)と遊離脂肪酸(FA)の代謝概要を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、パーキンソン病を診断する目的で、生体試料中の中鎖〜長鎖アシルカルニチン及び2次胆汁酸から選ばれる成分の濃度を測定する方法である。
【0011】
本発明に用いられる生体由来試料としては、前記成分が含まれている試料であればよいが、前記成分は、血液中に存在することが知られている成分であるから、血液が好ましく、血漿がより好ましい。
【0012】
中鎖〜長鎖アシルカルニチンとしては、炭素数12〜20の脂肪族アシルカルニチンが挙げられる。ここで、脂肪族アシル基には、飽和又は不飽和脂肪族アシル基が含まれる。具体的には、炭素数12〜20の飽和又は不飽和脂肪酸由来のアシル基により、ヒドロキシ基がアシル化されたカルニチンが挙げられる。
【0013】
2次胆汁酸としては、デオキシコール酸が挙げられる。
【0014】
中鎖〜長鎖アシルカルニチン及び2次胆汁酸の濃度は、例えばキャピラリー電気泳動・質量分析器、液体クロマトグラフィー・質量分析器、質量分析器・質量分析器(タンデム質量分析器)等により測定することができる。
【0015】
後記実施例に示すように、PD患者の中鎖〜長鎖アシルカルニチン濃度は、健常者及びアルツハイマー病患者のそれと比較して有意に低下していた。一方、PD患者の短鎖アシル(炭素数4)カルニチン濃度は、健常者のそれに比べて有意に上昇していた。
【0016】
中鎖〜長鎖アシルカルニチン濃度は、骨格筋でのミトコンドリア代謝を反映するとされる(UK:CABI;2014:157−170)。肥満度の指標となるBody mass indexは、後記実施例に示すように対照群に比し低値を示したため、PD患者では痩身傾向が強いことが示唆されるが、骨格筋量を正確に反映する骨格筋由来代謝産物の各群間での検討では、クレアチニン、カルニチン、クレアチン、3−メチルヒスチジンについて有意な変化を認めなかった。以上からPD群における中鎖〜長鎖アシルカルニチン濃度の低下は骨格筋量変化によるとは考えられないと判断した。
さらに、PD群でのみ脂肪酸β酸化活性指標がいずれも高値を示した。カルニチン/アシルカルニチン(16:0)比はミトコンドリア外でアシルCoAをアシルカルニチンに変換するcarnitine palmitoyltransferase I(CPT−I)の活性と逆相関し(Diabetes care 2012:35(3):605−611)、同指標が高い場合はCPT−I活性が低下していることを示す。またアシルカルニチン(8:0)/アシルカルニチン(16:0)比は後期脂肪酸・酸化の活性と逆相関し、アシルカルニチン(14:1)/アシルカルニチン(16:0)比は初期脂肪酸・酸化活性(特にインプットの活性)と逆相関する(Obesity 2010:18(9):1695−1700)。上記3比率がいずれもPD群においてのみ高値を示すことから、PDでは同活性が低下していることを示す。また中鎖〜長鎖アシルカルニチン群の一貫した低下傾向が脂肪酸・酸化にて費消される中間材料の減少を示しているにもかかわらず脂肪酸・酸化最終代謝産物に近いアシルカルニチン(4:0)は上昇している所見は、脂肪酸・酸化活性低下と一致する。また、ミトコンドリア脂肪酸・酸化の原材料は血中遊離脂肪酸(fatty acid、以下FA)である。ミトコンドリア脂肪酸・酸化にて分解される炭素数22以下の遊離脂肪酸は概ね上昇傾向にあった。これらからミトコンドリア脂肪酸・酸化機能の低下により、ミトコンドリアにおいて分解されるべき遊離脂肪酸が貯留しているという論理的な解釈が成立すると考えられる。
続いて中鎖〜長鎖アシルカルニチンとPD疾患重症度との相関について検討した。一般的にPD重症度の評価には生活機能評価より構成されるHoehn and Yahr分類が利用される。PD群109例の症例群はI度26名、II度52名、III度21名、IV度9名、V度1名であった。最も重要な点は、H&Y I−III度についてはアシルカルニチン(12:0)、アシルカルニチン(13:1)、アシルカルニチン(14:0)、アシルカルニチン(16:0)、アシルカルニチン(16:1)、アシルカルニチン(18:0)、アシルカルニチン(18:1)、アシルカルニチン(18:2)、アシルカルニチン(20:1)が全て対照群に比し有意差を持って低値を示し、かつ、H&Y I−IV度においてアシルカルニチン(16:0)、アシルカルニチン(18:0)が有意な低値を示したことである。即ち中鎖〜長鎖アシルカルニチン群は疾患重症度との相関は認められないものの、病初期から低下することが明らかとなった。
【0017】
また、PD群で2次胆汁酸であるデオキシコール酸(以下DCA)が上昇(PDD群でも上昇)し、2次胆汁酸にタウリン・グリシン等による結合修飾を受けた4化合物(タウロコール酸(以下TCA)、グリコウルソデオキシコール酸(以下GUDCA)、タウロケノデオキシコール酸(以下TCDCA)、グリコケノデオキシコール酸(以下GCDCA))の低下を認めた。DCAは2次胆汁酸であり、TCDCAやGCDCAの原料となる。TCDCA、GCDCAは腸内細菌Clostridium perfrigensおよびLactobacillus johnsoniiによって産生されることから、PDにおけるDCAおよびTCDCA、GCDCA濃度の変化は腸内細菌巣の変化を示唆しており、2015年に報告されたPD患者の腸内フローラ変化に一致する。同変化はアルツハイマー病群では認められておらず、アルツハイマー病との鑑別診断BMとしての有用性が示唆された。
【0018】
以上のように、被検者の生体試料中の中鎖〜長鎖アシルカルニチン濃度及び/又は2次胆汁酸濃度を、健常者及び/又はアルツハイマー病患者のそれと対比することにより、PDが早期に診断できる。
【0019】
本発明においては、中鎖〜長鎖アシルカルニチン又は2次胆汁酸濃度は、液体クロマトグラフィー・質量分析器によって測定できることから、これを測定するための試薬は、パーキンソン病診断薬として有用である。
【実施例】
【0020】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。
【0021】
実施例1
表1に示す患者群(対照群をcontrol、認知症を伴うPD群をPDD、アルツハイマー型認知症群をADと表記する)において、キャピラリー電気泳動・質量分析器、および液体クロマトグラフィー・質量分析器の両装置を用いて、血漿代謝産物の網羅的解析を行い、PD早期診断に資するバイオマーカー同定を試みた。血漿代謝産物は食餌・運動に影響を受けやすいことから、採血前日の21時より絶食(飲水・内服は可能)とし、採血当日は9〜12時に血液採取・血漿抽出を行い、液体窒素中に保存し、抽出後3ヶ月以内に本解析を行った。
【0022】
〔サンプル調整について〕
1)キャピラリー電気泳動・質量分析器用
内部標準物質の濃度が10μMになるように調製した450mLのメタノール溶液に、50μLのヒト血漿を添加して撹拌した。これに500μLのクロロホルムおよび200μLのMilli−Q水を加えて撹拌し、遠心分離(2,300×g,4℃,5分)を行った。遠心分離後、水層を限外ろ過チューブ(ウルトラフリーMC PLHCC,HMT,遠心式フィルターユニット 5kDa)に400μL×1本移し取った。これを遠心(9,100×g,4℃,120分)し、限外ろ過処理を行った。ろ液を乾固させ、再び25μLのMilli−Q水に溶解して測定に供した。
【0023】
2)液体クロマトグラフィー質量分析器用
内部標準物質の濃度が6mMとなるように調製した1,500mLの1%ギ酸−アセトニトリル溶液に、500mLのヒト血漿を添加して撹拌した。その後、遠心分離(2,300×g,4℃,5分)を行い、上清を回収し、固相抽出を用いてリン脂質を除去後、ろ液を回収した。これを乾固させ、200mLの50%イソプロパノール溶液(v/v)に溶解して測定に供した。
〔測定について〕
1)CE−TOFMS 測定
本試験ではカチオンモード、アニオンモードのCE−TOFMS測定を以下に示す条件1−3)で行った。得られたピーク強度、形状から判断して、カチオンモードでの測定には2倍(PD69のみ5倍)、アニオンモードでの測定には5倍に希釈した試料を用いた。
・陽イオン性代謝物質(カチオンモード)
装置
Agilent CE-TOFMS system(Agilent Technologies 社) 6 号機
Capillary : Fused silica capillary i.d. 50 μm × 80 cm
測定条件
Run buffer : Cation Buffer Solution (p/n : H3301-1001)
Rinse buffer : Cation Buffer Solution (p/n : H3301-1001)
Sample injection : Pressure injection 50 mbar, 10 sec
CE voltage : Positive, 27 kV
MS ionization : ESI Positive
MS capillary voltage : 4,000 V
MS scan range : m/z 50-1,000
Sheath liquid : HMT Sheath Liquid (p/n : H3301-1020)
【0024】
・陰イオン性代謝物質(アニオンモード)
装置
Agilent CE-TOFMS system(Agilent Technologies 社) 5 号機
Capillary : Fused silica capillary i.d. 50 μm × 80 cm
測定条件
Run buffer : Anion Buffer Solution (p/n : I3302-1023)
Rinse buffer : Anion Buffer Solution (p/n : I3302-1023)
Sample injection : Pressure injection 50 mbar, 25 sec
CE voltage : Positive, 30 kV
MS ionization : ESI Negative
MS capillary voltage : 3,500 V
MS scan range : m/z 50-1,000
Sheath liquid : HMT Sheath Liquid (p/n : H3301-1020)
【0025】
2)LC−TOFMS 測定
本試験では、ポジティブモード、ネガティブモードのLC−TOFMS測定を以下に示す条件で行った。得られたピーク強度から判断して、注入量を1μLとした。
陽イオン性代謝物質(ポジティブモード)
装置
LC system : Agilent 1200 series RRLC system SL(Agilent Technologies 社)
Column : ODS column, 2×50 mm, 2μm
MS system : Agilent LC/MSD TOF(Agilent Technologies 社)4 号機
測定条件
Column temp. : 40℃
Mobile phase : A : H2O / 0.1% HCOOH
Mobile phase : B : Isopropanol: Acetonitrile: H2O (65:30:5) / 0.1% HCOOH, 2mM HCOONH4
Flow rate : 0.3 mL / min
Run time : 20 min
Post time : 6 min
Gradient condition : 0-0.5 min : B 1%, 0.5-13.5 min : B 1-100%, 13.5-20 min : B 100%
MS ionization mode : ESI Positive
MS Nebulizer pressure : 40 psi
MS dry gas flow : 10 L / min
MS dry gas temp : 350℃
MS capillary voltage : 4,000 V
MS scan range : m/z 100-1,700
陰イオン性代謝物質(ネガティブモード)
装置
LC system : Agilent 1200 series RRLC system SL(Agilent Technologies 社)
Column : ODS column, 2×50 mm, 2 μm
MS system : Agilent LC/MSD TOF(Agilent Technologies 社)4 号機
測定条件
Column temp. : 40℃
Mobile phase : A : H2O / 0.1% HCOOH
Mobile phase : B : Isopropanol: Acetonitrile: H2O (65:30:5) / 0.1% HCOOH, 2 mM HCOONH4
Flow rate : 0.3 mL / min
Run time : 20 min
Post time : 6 min
Gradient condition : 0-0.5 min : B 1%, 0.5-13.5 min : B 1-100%, 13.5-20 min : B 100%
MS ionization mode : ESI Negative
MS Nebulizer pressure : 40 psi
MS dry gas flow : 10 L / min
MS dry gas temp : 350℃
MS capillary voltage : 4,000 V
MS scan range : m/z 100-1,700
【0026】
【表1】
【0027】
図1は、各疾患群を横軸に、縦軸に代謝産物を配置し、疾患特異的な代謝化合物群の検索を行う「クラスター解析」結果を示す。黒点線で示す領域はPD群で低下傾向を示しており、同領域に含まれるのは図右端に示すように中鎖〜長鎖アシルカルニチン(acylcarnitine、以下AC)が16化合物中15化合物を占めた。本結果を多面的に検証すべく、主成分解析(principle component analysis)を行ったところ、PD群と対照群を効果的に区別できる軸(PC3)を同定し、同軸への貢献度の高い化合物は図右端に示すように15化合物中14化合物を中鎖〜長鎖ACが占めた(図2)。同14化合物全てが先述のクラスター解析で同定されたACに含まれていた。それぞれのAC濃度についてPDと対照群との有意差を検討したところ、表2のように14個のACがPD群で有意に低下し、短鎖のAC(4:0)はコントロール群に比しPD群で有意に上昇していた。
【0028】
【表2】
【0029】
アシルカルニチン群以外に本網羅的解析により、PD群で2次胆汁酸であるdeoxycholic acid(以下DCA)が上昇(PDD群でも上昇)し、2次胆汁酸にタウリン・グリシン等による結合修飾を受けた4化合物(taurocholic acid(以下TCA)、glycoursodeoxycholic acid(以下GUDCA)、taurochenodeoxycholic acid(以下TCDCA)、glycochenodeoxycholic acid(以下GCDCA))の低下を認めた(表3)。DCAは2次胆汁酸であり、TCDCAやGCDCAの原料となる。TCDCA、GCDCAは腸内細菌Clostridium perfrigensおよびLactobacillus johnsoniiによって産生されることから、PDにおけるDCAおよびTCDCA、GCDCA濃度の変化は腸内細菌巣の変化を示唆しており、2015年に報告されたPD患者の腸内フローラ変化に一致する。同変化はAD群では認められておらず、ADとの鑑別診断バイオマーカーとしての有用性が示唆された。
【0030】
【表3】
【0031】
中鎖〜長鎖アシルカルニチン群についてのさらなる検討について述べる。中鎖〜長鎖アシルカルニチン群は骨格筋でのミトコンドリア代謝を反映するとされる。肥満度の指標となるBody mass indexは、表1に示すように対照群に比しPD/PDD/ADでも対照群に比し低値を示したため、PD患者では痩身傾向が強いことが示唆されるが、骨格筋量を正確に反映する骨格筋由来代謝産物の各群間での検討では、表4に示すようにクレアチン、カルニチン、クレアチン、3−メチルヒスチジンについて有意な変化を認めなかった。以上からPD群における中鎖〜長鎖アシルカルニチン群の低下は骨格筋量変化によるとは考えられないと判断した。
【0032】
【表4】
【0033】
さらに、表5に示すようにPD群でのみ脂肪酸・酸化活性指標がいずれも高値を示した。同変化を理解する上で、図3に示すミトコンドリア脂肪酸・酸化の知識が不可欠となる。
【0034】
【表5】
【0035】
カルニチン/アシルカルニチン(16:0)比はミトコンドリア外でアシルCoAをアシルカルニチンに変換するcarnitine palmitoyltransferase I (CPT−I)の活性と逆相関し、同指標が高い場合はCPT−I活性が低下していることを示す。またアシルカルニチン(8:0)/アシルカルニチン(16:0)比は後期脂肪酸・酸化の活性と逆相関し、アシルカルニチン(14:1)/アシルカルニチン(16:0)比は初期脂肪酸・酸化活性(特にインプットの活性)と逆相関する。上記3比率がいずれもPD群においてのみ高値を示すことから、PDでは同活性が低下していることを示す。また中鎖〜長鎖アシルカルニチン群の一貫した低下傾向が脂肪酸・酸化にて費消される中間材料の減少を示しているにもかかわらず脂肪酸・酸化最終代謝産物に近いアシルカルニチン(4:0)は上昇している所見は、脂肪酸・酸化活性低下と一致する。また、図3概略図に示すようにミトコンドリア脂肪酸・酸化の原材料は血中遊離脂肪酸(fatty acid、以下遊離脂肪酸)である。本網羅的解析では表6のように、ミトコンドリア脂肪酸・酸化にて分解される炭素数22以下の遊離脂肪酸(表6における着色したセル)は概ね上昇傾向にあった。
【0036】
【表6】
【0037】
これらからミトコンドリア脂肪酸・酸化機能の低下により、ミトコンドリアにおいて分解されるべき遊離脂肪酸が貯留しているという論理的な解釈が成立すると考えられる。
【0038】
続いて中鎖〜長鎖アシルカルニチンとPD疾患重症度との相関について検討した。表7に示すように、一般的にPD重症度の評価には生活機能評価より構成されるHoehn and Yahr分類が利用される。
【0039】
【表7】
【0040】
PD群109例の症例群に示すようにI度26名、II度52名、III度21名、IV度9名、V度1名であった。最も重要な点は、H&Y I−III度についてはアシルカルニチン(12:0)、アシルカルニチン(13:1)、アシルカルニチン(14:0)、アシルカルニチン(16:0)、アシルカルニチン(16:1)、アシルカルニチン(18:0)、アシルカルニチン(18:1)、アシルカルニチン(18:2)、アシルカルニチン(20:1)が全て対照群に比し有意差を持って低値を示し、かつ、H&Y I−IV度においてアシルカルニチン(16:0)、アシルカルニチン(18:0)が有意な低値を示したことである。即ち中鎖〜長鎖アシルカルニチン群は疾患重症度との相関は認められないものの、病初期から低下することが明らかとなった(表8)。コントロール群に比しPD群にて有意に減少していた上記のアシルカルニチンを判別分析(統計ソフトウェアJMP11, SAS Institute Inc, 2014を使用)にて検討すると、AUC=0.9728,R2=0.5897であり、表8(判別分析)に示すような優れた診断的意義を持つことが示された(表9)。
【0041】
【表8】
【0042】
【表9】
図1
図2
図3