特許第6573416号(P6573416)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ スキルアップジャパン株式会社の特許一覧

特許6573416血圧推定装置、血圧推定システム、および血圧推定プログラム
<>
  • 特許6573416-血圧推定装置、血圧推定システム、および血圧推定プログラム 図000011
  • 特許6573416-血圧推定装置、血圧推定システム、および血圧推定プログラム 図000012
  • 特許6573416-血圧推定装置、血圧推定システム、および血圧推定プログラム 図000013
  • 特許6573416-血圧推定装置、血圧推定システム、および血圧推定プログラム 図000014
  • 特許6573416-血圧推定装置、血圧推定システム、および血圧推定プログラム 図000015
  • 特許6573416-血圧推定装置、血圧推定システム、および血圧推定プログラム 図000016
  • 特許6573416-血圧推定装置、血圧推定システム、および血圧推定プログラム 図000017
  • 特許6573416-血圧推定装置、血圧推定システム、および血圧推定プログラム 図000018
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6573416
(24)【登録日】2019年8月23日
(45)【発行日】2019年9月11日
(54)【発明の名称】血圧推定装置、血圧推定システム、および血圧推定プログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/022 20060101AFI20190902BHJP
【FI】
   A61B5/022 400E
【請求項の数】9
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-230969(P2018-230969)
(22)【出願日】2018年12月10日
【審査請求日】2019年4月9日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】301049157
【氏名又は名称】株式会社アルム
(74)【代理人】
【識別番号】100168952
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 壮一郎
(72)【発明者】
【氏名】ベルサノ メンデス ニコラス イグナシオ
(72)【発明者】
【氏名】サンソン ヒラルド ホラシオ
【審査官】 佐藤 高之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−016295(JP,A)
【文献】 特開平10−295657(JP,A)
【文献】 特開2013−226189(JP,A)
【文献】 特開2010−187993(JP,A)
【文献】 特開2015−165886(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第02343008(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00−5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニューラルネットワークを用いて血圧の推定を行う血圧推定装置であって、
入力された脈波データを特徴表現に変換する特徴抽出ネットワークと、
前記特徴抽出ネットワークによって変換された前記特徴表現を収縮期血圧値および拡張期血圧値の確率を表す確率ベクトルに変換する血圧推定ネットワークと、
前記特徴抽出ネットワークおよび前記血圧推定ネットワークに、脈波データに応じた収縮期血圧値および拡張期血圧値を学習させるためのトレーニングステップを実行するトレーニングステップ実行手段と、
前記トレーニングステップによって学習が完了した前記特徴抽出ネットワークおよび前記血圧推定ネットワークに、測定対象者の脈波データを入力して、前記測定対象者の収縮期血圧値および拡張期血圧値を推定する推定ステップを実行する推定ステップ実行手段とを備え
前記推定ステップ実行手段は、前記測定対象者の収縮期血圧値および拡張期血圧値の確率を表す確率ベクトルを得て、最も高い確率となった値を前記測定対象者の収縮期血圧値および拡張期血圧値として推定することを特徴とする血圧推定装置。
【請求項2】
請求項に記載の血圧推定装置において、
前記推定ステップ実行手段によって推定された前記測定対象者の収縮期血圧値および拡張期血圧値を表示装置に表示する表示手段をさらに備えることを特徴とする血圧推定装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の血圧推定装置において、
前記トレーニングステップ実行手段は、損失関数が最小になるまで前記特徴抽出ネットワークと前記血圧推定ネットワークの重みを調整しながらトレーニングを繰り返すことを特徴とする血圧推定装置。
【請求項4】
ニューラルネットワークを用いて血圧の推定を行う血圧推定システムであって、
入力された脈波データを特徴表現に変換する特徴抽出ネットワークと、
前記特徴抽出ネットワークによって変換された前記特徴表現を収縮期血圧値および拡張期血圧値の確率を表す確率ベクトルに変換する血圧推定ネットワークと、
前記特徴抽出ネットワークおよび前記血圧推定ネットワークに、脈波データに応じた収縮期血圧値および拡張期血圧値を学習させるためのトレーニングステップを実行するトレーニングステップ実行手段と、
前記トレーニングステップによって学習が完了した前記特徴抽出ネットワークおよび前記血圧推定ネットワークに、測定対象者の脈波データを入力して、前記測定対象者の収縮期血圧値および拡張期血圧値を推定する推定ステップを実行する推定ステップ実行手段とを備え
前記推定ステップ実行手段は、前記測定対象者の収縮期血圧値および拡張期血圧値の確率を表す確率ベクトルを得て、最も高い確率となった値を前記測定対象者の収縮期血圧値および拡張期血圧値として推定することを特徴とする血圧推定システム。
【請求項5】
請求項に記載の血圧推定システムにおいて、
前記推定ステップ実行手段によって推定された前記測定対象者の収縮期血圧値および拡張期血圧値を表示装置に表示する表示手段をさらに備えることを特徴とする血圧推定システム。
【請求項6】
請求項4または5に記載の血圧推定システムにおいて、
前記トレーニングステップ実行手段は、損失関数が最小になるまで前記特徴抽出ネットワークと前記血圧推定ネットワークの重みを調整しながらトレーニングを繰り返すことを特徴とする血圧推定システム。
【請求項7】
入力された脈波データを特徴表現に変換する特徴抽出ネットワークと、前記特徴抽出ネットワークによって変換された前記特徴表現を収縮期血圧値および拡張期血圧値の確率を表す確率ベクトルに変換する血圧推定ネットワークとを有するニューラルネットワークを用いて血圧の推定を行う血圧推定プログラムであって、
前記特徴抽出ネットワークおよび前記血圧推定ネットワークに、脈波データに応じた収縮期血圧値および拡張期血圧値を学習させるためのトレーニングステップを実行するトレーニングステップ実行手順と、
前記トレーニングステップによって学習が完了した前記特徴抽出ネットワークおよび前記血圧推定ネットワークに、測定対象者の脈波データを入力して、前記測定対象者の収縮期血圧値および拡張期血圧値を推定する推定ステップを実行する推定ステップ実行手順とをコンピュータに実行させ
前記推定ステップ実行手順は、前記測定対象者の収縮期血圧値および拡張期血圧値の確率を表す確率ベクトルを得て、最も高い確率となった値を前記測定対象者の収縮期血圧値および拡張期血圧値として推定することを特徴とする血圧推定プログラム。
【請求項8】
請求項に記載の血圧推定プログラムにおいて、
前記推定ステップ実行手順で推定した前記測定対象者の収縮期血圧値および拡張期血圧値を表示装置に表示する表示手順をさらに有することを特徴とする血圧推定プログラム。
【請求項9】
請求項7または8に記載の血圧推定プログラムにおいて、
前記トレーニングステップ実行手順は、損失関数が最小になるまで前記特徴抽出ネットワークと前記血圧推定ネットワークの重みを調整しながらトレーニングを繰り返すことを特徴とする血圧推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血圧推定装置、血圧推定システム、および血圧推定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
次のような血圧推定装置が知られている。この血圧推定装置では、カフ血圧計の測定値と、脈波の特徴量とに基づいて学習されたニューラルネットを用いて、脈波の特徴量から被験者の血圧を推定する方法が提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016−16295号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、ユーザが手首などに身に着けるウェアラブル端末などで容易にユーザの脈波を取得することが可能になっている。このため、従来の血圧推定装置を用いて、ウェアラブル端末などで取得したユーザの脈波から血圧を推定する方法が考えられる。しかしながら、従来の技術では、測定対象者の脈波の特徴量を抽出し、抽出した特徴量を入力すると推定血圧を出力するように構成された、教師データに基づいてサポートベクター回帰分析により生成されたモデルを用いて、測定対象者の血圧を推定していた。測定対象者の脈波に基づいて血圧を推定する場合、脈波から画一的に血圧値を特定することは困難であり、人によって一定の幅で変動する可能性がある。このため、脈波に応じた血圧値をその確率を考慮して推定することによる推定精度の向上が見込まれるが、その点について従来は何ら検討されていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明による血圧推定装置は、ニューラルネットワークを用いて血圧の推定を行う血圧推定装置であって、入力された脈波データを特徴表現に変換する特徴抽出ネットワークと、特徴抽出ネットワークによって変換された特徴表現を収縮期血圧値および拡張期血圧値の確率を表す確率ベクトルに変換する血圧推定ネットワークと、特徴抽出ネットワークおよび血圧推定ネットワークに、脈波データに応じた収縮期血圧値および拡張期血圧値を学習させるためのトレーニングステップを実行するトレーニングステップ実行手段と、トレーニングステップによって学習が完了した特徴抽出ネットワークおよび血圧推定ネットワークに、測定対象者の脈波データを入力して、測定対象者の収縮期血圧値および拡張期血圧値を推定する推定ステップを実行する推定ステップ実行手段とを備え、推定ステップ実行手段は、測定対象者の収縮期血圧値および拡張期血圧値の確率を表す確率ベクトルを得て、最も高い確率となった値を測定対象者の収縮期血圧値および拡張期血圧値として推定することを特徴とする。
本発明による血圧推定システムは、ニューラルネットワークを用いて血圧の推定を行う血圧推定システムであって、入力された脈波データを特徴表現に変換する特徴抽出ネットワークと、特徴抽出ネットワークによって変換された特徴表現を収縮期血圧値および拡張期血圧値の確率を表す確率ベクトルに変換する血圧推定ネットワークと、特徴抽出ネットワークおよび血圧推定ネットワークに、脈波データに応じた収縮期血圧値および拡張期血圧値を学習させるためのトレーニングステップを実行するトレーニングステップ実行手段と、トレーニングステップによって学習が完了した特徴抽出ネットワークおよび前記血圧推定ネットワークに、測定対象者の脈波データを入力して、測定対象者の収縮期血圧値および拡張期血圧値を推定する推定ステップを実行する推定ステップ実行手段とを備え、推定ステップ実行手段は、測定対象者の収縮期血圧値および拡張期血圧値の確率を表す確率ベクトルを得て、最も高い確率となった値を測定対象者の収縮期血圧値および拡張期血圧値として推定することを特徴とする。
本発明による血圧推定プログラムは、入力された脈波データを特徴表現に変換する特徴抽出ネットワークと、特徴抽出ネットワークによって変換された特徴表現を収縮期血圧値および拡張期血圧値の確率を表す確率ベクトルに変換する血圧推定ネットワークとを有するニューラルネットワークを用いて血圧の推定を行う血圧推定プログラムであって、特徴抽出ネットワークおよび血圧推定ネットワークに、脈波データに応じた収縮期血圧値および拡張期血圧値を学習させるためのトレーニングステップを実行するトレーニングステップ実行手順と、トレーニングステップによって学習が完了した特徴抽出ネットワークおよび血圧推定ネットワークに、測定対象者の脈波データを入力して、測定対象者の収縮期血圧値および拡張期血圧値を推定する推定ステップを実行する推定ステップ実行手順とをコンピュータに実行させ、推定ステップ実行手順は、測定対象者の収縮期血圧値および拡張期血圧値の確率を表す確率ベクトルを得て、最も高い確率となった値を測定対象者の収縮期血圧値および拡張期血圧値として推定することを特徴とする
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、トレーニングステップでは、あらかじめトレーニングされた特徴抽出ネットワークおよび血圧推定ネットワークを用いるようにし、測定対象者の脈波データを収縮期血圧値および拡張期血圧値の確率を表す確率ベクトルに変換するようにしたため、変換された確率ベクトルに基づいて、精度高く測定対象者の血圧を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】血圧推定装置100の一実施の形態の構成を示すブロック図である。
図2】ウェアラブル端末から得られたセンサ信号の数が1であり、各信号セグメントの長さがnの場合の入力データUtを模式的に示した図である。
図3】ウェアラブル端末から得られたセンサ信号の数が3であり、各信号セグメントの長さがnの場合の入力データUtを模式的に示した図である。
図4】ウェアラブル端末から得られたセンサ信号の数が4であり、各信号セグメントの長さがnの場合の入力データUtを模式的に示した図である。
図5】トレーニングステップの流れを模式的に示した図である。
図6】推定ステップの流れを模式的に示した図である。
図7】トレーニングステップの流れを示すフローチャート図である。
図8】推定ステップの流れを示すフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1は、本実施の形態における血圧推定装置100の一実施の形態の構成を示すブロック図である。血圧推定装置100としては、例えばサーバ装置、パソコン、スマートフォン、タブレット端末などが用いられる。図1は、本実施の形態における血圧推定装置100として、パソコンを用いた場合の一実施の形態の構成を示すブロック図である。
【0009】
血圧推定装置100は、操作部材101と、制御装置102と、記憶媒体103と、表示装置104と、接続インターフェース105とを備えている。
【0010】
操作部材101は、血圧推定装置100の操作者によって操作される種々の装置、例えばキーボードやマウスを含む。
【0011】
制御装置102は、CPU、メモリ、およびその他の周辺回路によって構成され、血圧推定装置100の全体を制御する。なお、制御装置102を構成するメモリは、例えばSDRAM等の揮発性のメモリである。このメモリは、CPUがプログラム実行時にプログラムを展開するためのワークメモリや、データを一時的に記録するためのバッファメモリとして使用される。例えば、接続インターフェース102を介して読み込まれたデータは、バッファメモリに一時的に記録される。
【0012】
記憶媒体103は、血圧推定装置100が蓄える種々のデータや、制御装置102が実行するためのプログラムのデータ等を記録するための記憶媒体であり、例えばHDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)等が用いられる。なお、記憶媒体103に記録されるプログラムのデータは、CD−ROMやDVD−ROMなどの記録媒体に記録されて提供されたり、ネットワークを介して提供され、操作者が取得したプログラムのデータを記憶媒体103にインストールすることによって、制御装置102がプログラムを実行できるようになる。本実施の形態では、以下に説明する処理で用いるプログラムや種々のデータは、記憶媒体103に記録されている。
【0013】
表示装置104は、例えば液晶モニタであって、制御装置102から出力される種々の表示用データが表示される。
【0014】
接続インターフェース105は、血圧推定装置100が通信により他の装置や端末等の外部機器と通信するためのインターフェースである。例えば、通信用インターフェース105には、LANやインターネット等の通信回線に接続するためのインターフェースやBluetooth(登録商標)などの近距離無線通信用のインターフェースが含まれる。血圧推定装置100は、この通信用インターフェース105を介して後述するウェアラブル端末からデータを取得することができる。
【0015】
本実施の形態における血圧推定装置100は、ユーザの脈波を測定することができる機器から脈波データを取得し、取得した脈波データに基づいてユーザの血圧を推定するための処理を実行する。なお、本実施の形態では、ユーザの脈波を測定することができる機器は、例えば、ユーザの手首に装着され、ユーザの身体と密着する部分に脈波測定用のセンサが搭載されたウェアラブル端末を想定する。
【0016】
本実施の形態では、事前に、ウェアラブル端末からの出力データを取り込んで、ウェアラブル端末からの出力信号に応じた血圧値をニューラルネットワークに学習させるためのトレーニングステップが実行される。トレーニングステップで用いるウェアラブル端末からの出力データは、例えば、信号セグメントの大きなセットUtとして、次式(1)により表される。
【数1】
なお、式(1)において、wはウェアラブル端末から得られたセンサ信号の数であり、nは各信号セグメントの長さを表す。
【0017】
Utは、ニューラルネットワークに入力可能な構成となっており、ウェアラブル端末から得られたセグメントは、例えば、図2図4に示すようにUtのセグメントに構成される。
【0018】
図2は、ウェアラブル端末が1つのセンサを備えている場合、すなわちウェアラブル端末から得られたセンサ信号の数wが1の場合を示している。図2において、Xはウェアラブル端末が備えるSensor1から取り出したセグメントを表している。セグメントXの長さがnの場合、Utのセグメントは1×n×1のベクトルを構成する。
【0019】
図3は、ウェアラブル端末が3つのセンサを備えている場合、すなわちウェアラブル端末から得られたセンサ信号の数wが3の場合を示している。図3において、Xはウェアラブル端末が備えるSensor1から取り出したセグメントを表しており、Yはウェアラブル端末が備えるSensor2から取り出したセグメントを表しており、Zはウェアラブル端末が備えるSensor3から取り出したセグメントを表している。セグメントX、セグメントY、セグメントZの長さがそれぞれnの場合、Utのセグメントは1×n×3のベクトルを構成する。
【0020】
図4は、ウェアラブル端末が4つのセンサを備えている場合、すなわちウェアラブル端末から得られたセンサ信号の数wが4の場合を示している。図4において、Xはウェアラブル端末が備えるSensor1から取り出したセグメントを表しており、Yはウェアラブル端末が備えるSensor2から取り出したセグメントを表しており、Zはウェアラブル端末が備えるSensor3から取り出したセグメントを表しており、Gはウェアラブル端末が備えるSensor4から取り出したセグメントを表している。セグメントX、セグメントY、セグメントZ、セグメントGの長さがそれぞれnの場合、Utのセグメントは1×n×4のベクトルを構成する。
【0021】
本実施の形態では、制御装置102は、あらかじめ取得されているトレーニング用のデータUtが入力されると、図5に示す流れでトレーニングステップを実行する。図5では、Utは、図3に示したように、ウェアラブル端末から得られたセンサ信号の数が3であり、各信号セグメントの長さがnの場合を示している。図5に示すように、制御装置102は、データUtを入力データとし、あらかじめ用意された特徴抽出ネットワーク5aにデータUtを入力する。
【0022】
特徴抽出ネットワーク5aは、公知の畳み込みニューラルネットワーク(Convolutional Neural Network)におけるConvolutional Layersであり、入力信号Utをニューラルネットワークにおける特徴表現zにマッピングさせるための特徴マッピングF(z||Ut)を用いて、Utを特徴表現zに変換する。ここで特徴表現は潜在表現とも呼ばれ、特徴表現zは次式(2)で表される。次式(2)においてkは特徴表現zの長さである。
【数2】
【0023】
特徴抽出ネットワーク5aによって変換された特徴表現zは、血圧推定ネットワーク5bに入力される。血圧推定ネットワーク5bは、公知の畳み込みニューラルネットワーク(Fully Connected Neural Network)におけるFully Connected Layersであり、次式(3)を用いて完全に接続された層を用いて実装されている。
【数3】
【0024】
血圧推定ネットワーク5bは、特徴表現zを収縮期血圧値および拡張期血圧値をそれぞれの確率を表す1組の確率ベクトルqsおよびqdにマップするための推定マッピングQ((qs,qd)||z)を用いて、特徴表現zを1対の確率ベクトルqsおよびqdに変換することにより学習を行う。qsは収縮期血圧値を表す確率ベクトルであり、qdは拡張期血圧値を表す確率ベクトルである。例えば、血圧推定ネットワーク5bは、次式(4)により定義されたソフトマックス関数qiによって正規化されており、出力ベクトルqsおよびqdを、合計が1になる確率ベクトルに変換する。
【数4】
【0025】
特徴抽出ネットワーク5aと血圧推定ネットワーク5bは、損失関数L(ps,pd,qs,qd)が最小になるまでネットワークの重みを調整しながらトレーニングを繰り返す。なお、psおよびpdは、トレーニング用のデータUtに対する実際の収縮期血圧値および拡張期血圧値を示す確率ベクトルである。すなわち、トレーニング用のデータUtを取得した人物に対して、公知の血圧計を用いて実際の収縮期血圧値および拡張期血圧値を取得しておき、その値を示す確率ベクトルをpsおよびpdとして用いればよい。これによって、特徴抽出ネットワーク5aと血圧推定ネットワーク5bを用いて推定した血圧値と実際に計測した血圧値との差が最小になるまで特徴抽出ネットワーク5aと血圧推定ネットワーク5bを学習させることができるため、後述する推定ステップにおける血圧の推定精度を向上させることができる。
【0026】
また、ネットワークの重みは、例えば、勾配降下法、確率的勾配降下法、シミュレーテッドアニーリングなどの任意の学習方法を使用して調整することができる。例えば、本実施の形態では、損失関数L(ps,pd,qs,qd)を次式(5)のように定義する。
【数5】
【0027】
以上に説明したトレーニングステップが完了すると、ウェアラブル端末から入力された信号に基づいてユーザの血圧を推定するための推定ステップを実行することが可能となる。
【0028】
推定ステップにおいては、制御装置102は、ウェアラブル端末から入力された次式(6)に示す信号U´tを上述した特徴抽出ネットワーク5aと血圧推定ネットワーク5bとで構成されるネットワークに入力する。
【数6】
【0029】
その結果、入力信号信号U´tに対する新しいセグメントの特徴表現z´と確率ベクトルqs´およびqd´を得ることができる。なお、図6は、入力信号信号U´tが入力されて確率ベクトルqs´およびqd´が出力されるまでの流れを模式的に示した図である。
【0030】
血圧推定ネットワーク5bによって出力される出力ベクトルの各エントリは、入力セグメントが収縮期血圧値および拡張期血圧値にそれぞれ対応する確率を表している。このため、本実施の形態では、次式(7)、(8)を用いて、最も高い確率となった値を測定対象者の収縮期血圧および拡張期血圧として推定する。
【数7】
【数8】
【0031】
例えば、確率ベクトルに対して(〜49mmHG,50mmHG〜89mmHG,90mmHG〜)の血圧値が設定されており、qs=(0.3,0.8,0.0)である場合、収縮期血圧値は最も高い確率が算出された50mmHG〜89mmHGと推定される。また、qd=(0.0,0.44,0.56)である場合、拡張期血圧値は最も高い確率が算出された90mmHG以上と推定される。なお、式(7)、(8)において、確率ベクトルqsおよびqdは、セグメントが収縮期血圧値sbp´および拡張期血圧値dbp´をそれぞれ有する推定の確率を表す確率ベクトルである。
【0032】
本実施の形態では、血圧値(mmHG)をベクトルに変換するためには次式(9)を用いる。
【数9】
なお、式(9)において、確率ベクトルpsおよびpdは、セグメントが収縮期血圧値sbpおよび拡張期血圧値dbpをそれぞれ有する既知の確率を表す確率ベクトルである。
【0033】
以上の処理によって、ウェアラブル端末から入力された信号U´tに基づいて、ウェアラブル端末を装着しているユーザの血圧を精度高く推定することができる。
【0034】
図7は、本実施の形態におけるトレーニングステップの流れを示すフローチャートである。図7に示す処理は、あらかじめ取得されているトレーニング用のデータUtが入力されると、起動するプログラムとして、制御装置102によって実行される。
【0035】
ステップS10において、制御装置102は、入力データUtを特徴抽出ネットワーク5aに入力する。これによって、特徴抽出ネットワーク5aによって、上述した特徴マッピングF(z||Ut)を用いて、入力信号Utが特徴表現zに変換される。その後、ステップS20へ進む。
【0036】
ステップS20では、血圧推定ネットワーク5bによって、推定マッピングQ((qs,qd)||z)を用いて特徴表現zが1対の確率ベクトルqsおよびqdに変換される。その後、ステップS30へ進む。
【0037】
ステップS30では、制御装置102は、上述した損失関数L(ps,pd,qs,qd)を算出する。その後、ステップS40へ進む。
【0038】
ステップS40では、制御装置102は、上述した損失関数Lが最小になったか否かを判断する。ステップS40で肯定判断した場合には、そのときの重みを特徴抽出ネットワーク5aと血圧推定ネットワーク5bとして採用して処理を終了する。これに対して、ステップS40で否定判断した場合には、ステップS50へ進む。
【0039】
ステップS50では、制御装置102は、上述したように、特徴抽出ネットワーク5aと血圧推定ネットワーク5bの重みを調整して、ステップS10へ戻る。
【0040】
図8は、本実施の形態における推定ステップの流れを示すフローチャートである。図8に示す処理は、測定対象者のデータUt´が入力されると、起動するプログラムとして、制御装置102によって実行される。
【0041】
ステップS110において、制御装置102は、入力データUt´を特徴抽出ネットワーク5aに入力する。これによって、特徴抽出ネットワーク5aによって、上述した特徴マッピングF(z||Ut)を用いて、入力信号Ut´の各信号セグメントが特徴表現zに変換される。その後、ステップS120へ進む。
【0042】
ステップS120では、血圧推定ネットワーク5bによって、推定マッピングQ((qs,qd)||z)を用いて特徴表現zが1対の確率ベクトルqs´およびqd´に変換される。その後、ステップS130へ進む。
【0043】
ステップS130では、制御装置102は,上述したように、確率ベクトルqs´およびqdから、測定対象者の収縮期血圧値および拡張期血圧値を算出する。その後、ステップS140へ進む。
【0044】
ステップS140では、制御装置102は、算出された測定対象者の収縮期血圧値および拡張期血圧値を表示装置104に出力して表示する。その後、処理を終了する。
【0045】
以上説明した実施の形態によれば、以下のような作用効果を得ることができる。
(1)入力された脈波データを特徴表現に変換する特徴抽出ネットワークと、特徴抽出ネットワークによって変換された特徴表現を収縮期血圧値および拡張期血圧値の確率を表す確率ベクトルに変換する血圧推定ネットワークとを備え、制御装置102は、特徴抽出ネットワークおよび血圧推定ネットワークに、脈波データに応じた収縮期血圧値および拡張期血圧値を学習させるためのトレーニングステップを実行し、トレーニングステップによって学習が完了した特徴抽出ネットワークおよび血圧推定ネットワークに、測定対象者の脈波データを入力して、測定対象者の収縮期血圧値および拡張期血圧値を推定する推定ステップを実行するようにした。これによって、あらかじめトレーニングを行った特徴抽出ネットワークと血圧推定ネットワークを利用して、精度高く測定対象者の血圧を測定することができる。
【0046】
(2)制御装置102は、測定対象者の収縮期血圧値および拡張期血圧値の確率を表す確率ベクトルを得て、最も高い確率となった値を測定対象者の収縮期血圧値および拡張期血圧値として推定するようにした。これによって、血圧の測定精度を向上させることができる。
【0047】
(3)制御装置102は、推定した測定対象者の収縮期血圧値および拡張期血圧値を表示装置104に表示するようにした。これによって、これによって、医師等の操作者は、測定対象者の血圧値を表示装置104上で確認することができる。
【0048】
(4)トレーニングステップでは、特徴抽出ネットワーク5aと血圧推定ネットワーク5bは、損失関数L(ps,pd,qs,qd)が最小になるまでネットワークの重みを調整しながらトレーニングを繰り返すようにした。これによって、脈波データに基づく血圧の推定精度を向上させることができる。
【0049】
―変形例―
なお、上述した実施の形態の血圧推定システムは、以下のように変形することもできる。
(1)上述した実施の形態では、血圧推定装置100はパソコンであって、制御装置102が上述した処理を実行する例について説明した。しかしながら、操作者が操作する端末からインターネットなどの通信回線を介して血圧推定装置100へ接続できるようにし、ウェアラブル端末からの脈波データは、操作端末から血圧推定装置100へ送信されることにより入力されてもよい。また、その場合は、血圧の推定結果は、操作端末に送信して、操作端末上で表示されるようにしてもよい。これによって、操作端末と血圧推定装置100とを通信回線を介して接続することで、クライアントサーバー型やクラウド型の血圧推定システムを構築することができる一方で、血圧推定装置100を単体で用いることにより、スタンドアロン型の装置として利用することもできる。
【0050】
(2)上述した実施の形態では、トレーニングステップのための処理は、血圧推定装置100で制御装置102が実行する例について説明した。しかしながら、トレーニングステップのための処理は他の装置で実行するようにして、トレーニングステップによって得られたデータを記憶媒体103に記録しておくようにしてもよい。この場合は、血圧推定装置100でのトレーニングステップのための処理は不要となる。
【0051】
(3)上述した実施の形態では、特徴抽出ネットワーク5aと血圧推定ネットワーク5bは、損失関数L(ps,pd,qs,qd)が最小になるまでネットワークの重みを調整しながらトレーニングを繰り返す例について説明した。しかしながら、特徴抽出ネットワーク5aと血圧推定ネットワーク5bは、損失関数L(ps,pd,qs,qd)があらかじめ設定された閾値以下になるまでネットワークの重みを調整しながらトレーニングを繰り返すようにしてもよい。
【0052】
なお、本発明の特徴的な機能を損なわない限り、本発明は、上述した実施の形態における構成に何ら限定されない。また、上述の実施の形態と複数の変形例を組み合わせた構成としてもよい。
【符号の説明】
【0053】
100 血圧推定装置
101 操作部材
102 制御装置
103 記憶媒体
104 表示装置
105 接続インターフェース
【要約】
【課題】測定対象者の血圧を推定すること。
【解決手段】
血圧推定装置100は、入力された脈波データを特徴表現に変換する特徴抽出ネットワークと、特徴抽出ネットワークによって変換された特徴表現を収縮期血圧値および拡張期血圧値の確率を表す確率ベクトルに変換する血圧推定ネットワークと、特徴抽出ネットワークおよび血圧推定ネットワークに、脈波データに応じた収縮期血圧値および拡張期血圧値を学習させるためのトレーニングステップを実行するトレーニングステップ実行手段と、トレーニングステップによって学習が完了した特徴抽出ネットワークおよび血圧推定ネットワークに、測定対象者の脈波データを入力して、測定対象者の収縮期血圧値および拡張期血圧値を推定する推定ステップを実行する推定ステップ実行手段とを備える。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8