(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、以下で説明する全ての図面において、同一の構成要素には同一の符号を付加し、適宜説明を省略する。
【0010】
図1に本発明に係るキビソ織物壁紙の製造工程を示す。
【0011】
キビソとは、蚕が繭を作る際に吐き出す糸のうち、最初に出す太さの一定となってない糸である。絹糸と同一成分であって、危険有害性物質は一切含んでおらず、火災時にも特に消火剤を制限しない。但し、燃焼時は二酸化炭素、一酸化炭素が発生する。急性毒性は特に存在しない。
【0012】
設計工程として、ステップS2で示される材料設計工程と、色彩設計工程(ステップS4)と、経糸緯糸密度設計工程(ステップS6)と、組織、開口の設計工程(ステップS8)の各工程が実施される。
【0013】
材料設計工程(ステップS2)は、糸や裏打ち紙や接着剤を決定する工程である。
【0014】
色彩設計工程(ステップS4)は、糸の色彩を決定する工程である。糸の色彩は、蚕の種類や糸そのものの素材の色の他に、染色する色の決定も行う。
【0015】
経糸緯糸密度設計工程(ステップS6)は、緯糸の程度を綜絖の割合や程度を明確にし、どの程度の開口とするかを予め決定する。
【0016】
組織、開口の設計工程(ステップS8)は、壁紙の意匠となるキビソ織の意匠を決定する工程である。紋意匠や紋紙を確定するものである。
【0017】
パターン設計(ステップS10)は、色を除く各意匠の配置に良さそうな配置を決定するものである
【0018】
撚糸工程(ステップS12)は、撚糸とは、糸に撚りをかける、すなわちねじり合わせることを意味する。蚕が繭を作成する際に最初に吐く繭外側部分の繭糸は足場糸となり、鳥や害虫から蛹を、守るための上部の太い糸から構成される。この最初の太い繭糸が毛羽と称せられる。毛羽に続いて吐き出される糸がキビソである。
【0019】
例えば、繭(
図2(a))からほぐしだした糸は、極めて細く糸として使用が困難である。そこで、何本かの糸を束にし、この束に軽く撚りをかけることで丈夫な一本の糸として使用できる。甘撚であれば、500T/m以下であり、中撚であれば、500〜1000T/mであり、強撚であれば1000〜2500T/mであり、極強撚は2500T/m以上である。
【0020】
染色工程(ステップS14)は、束ねた状態でテーチ木染めと泥染めを行う。
【0021】
または、染色工程(ステップS14)は、顔料による染色と染材との二通りが可能であるが、好適には酸性染料を用いる。酸性染料には、レべリング型、ハーフミリング型、ミーリング型を適用することができる。詳細には、酢酸アンモニウム2〜3%、酢酸1〜2%、染料の均一な分布を促進し、均染を得るために染浴に添加する均染剤0.2%を含む酸性染料によって、初めは30〜60分40℃で染め、その後80〜90℃で30〜45分染める。
【0022】
続いて、経糸を製造する経糸工程(ステップS16)と緯糸を製造する緯糸工程(ステップS38)とに分かれる。
【0023】
糸繰工程(ステップS18)は、策緒装置で剥ぎ取られたキビソを枠から外して、乾燥させるキビソ糸を巻き取る工程である(
図2(b))。経糸は、キビソを用いることもできるが、繊維の太さが均一でありテンション斑の生じない綿糸16番から50番を用いる。特に40番手を用いることが望ましい。また、絹紡糸を使用することもできる。なお、襖材として40番を用いることが好ましく、壁紙用であれば、経糸にキビソを用いることも可能である。
【0024】
整経工程(ステップS20)は、原糸から経糸を作る工程であり、原糸は生地によって撚糸され、染色された後、糸繰される。この糸繰されたその糸の本数・幅を決め、所定の長さに整える工程である。引き続いて経糸の本数を引き揃えて、経巻で織り幅に均一に千切りに経糸を巻く(
図2(c))。
【0025】
キビソの形状を保持するために糸形状を均一とする撚りを掛けないことが好ましい。
【0026】
経継工程(ステップS22)は、整経工程(ステップS20)で作られた千切りを織機に架け、既に掛けてあった経糸と紬合わせて、経を綜絖に通し、整形できるように機掛けする工程である。
【0027】
織付工程(ステップS24)は、織機を作動させるために機掛け終了後、正常運転に入るまでの操作を行う工程である。
【0028】
製織工程(ステップS26)は、経糸に緯糸を織り込む工程である。レピア織機を使って、緯糸を織り込むマシンとエアで緯糸を飛ばすマシンの2種類を作る。織物の特性に合わせて使い分けされる。キビソによる織物が製織される。なお、ここでは平織りが採用される(
図3(a))。平織りとすることでテンション斑を防ぐことができ、またキビソ独特の風合いを十分に引き出すことができるからである。
【0029】
検査工程(ステップS28)は、製織工程が完了してから織物の織り傷や織りむらを検査装置によって検査する工程である。例えば、織物に光を照射し、その反射像から織りむら、織り傷を検出する。
【0030】
補修工程(ステップS30)は、検査工程で発見された織物の織り傷や織りむらを補修する工程である。
【0031】
裏打加工工程(ステップS32)は、キビソによる織物と接着剤を介して裏打紙に接着される(
図3(b))。
【0032】
裏打紙は、古紙70%以上のパルプから構成されるものが望ましい。
【0033】
接着剤は、JIS規格A6922の品質に合格したものあるいは、準じたものが望ましい。
【0034】
仕上加工工程(ステップS34)は、キビソによる織物と裏打紙とを接着後に乾燥させる工程である(
図3(c))。
【0035】
その後、光触媒加工工程(ステップS35)は、裏打ち後の、キビソに可視光型光触媒コーティング液(丸昌産業株式会社製オリジナル複合機能性セラミックコーティング剤)を乾燥後の重量が30gから35g/m
2となるように塗工して光触媒加工型天然素材壁紙を得た。可視光型光触媒コーティング液は、酸化チタンと複合機能性セラミックとバインダーとから構成される。この時、キビソ側に複合機能性セラミックとバインダーとが接触し、その上に酸化チタンが配置されていることが望ましい。
【0037】
複合機能性セラミックは、セラミックの内部や表面にアセトアルデヒトやホルムアルデヒト、アンモニアなどの官能基に反応してイオン交換を行う物質をつけたものである。各種有機ガスの官能基の一部とイオン交換物質が接触すると、化学的な結合状態となり物質を取り込んでしまう状態となる。
各種有機ガスの官能基の結合部分とイオン交換が可能な状態の機能性セラミックスを調整する事によって、さまざまな有機ガスを取り込む事が可能となる。
【0038】
可視光型光触媒コーティング液は、有機ガスをこの機能性セラミックスに取り込まという機能と、取り込んだ有機ガスを光触媒機能によって分解する機能とを有し、結果としてこの二つの機能により長期的な効果が出せる仕組みになっている。
【0039】
バインダーは、結合性を高める素材である。
【0040】
また、本願発明では、シルクの風合いや艶、質感を重視するため、光触媒機能を優先すると白濁する課題から光触媒の添加を少なくした為、本来の光触媒機能を抑え、機能性セラミックスで効果を発現させる方法をとっている。
【0041】
製品工程(ステップS36)は、ステップS36で完成した製品を包装して出荷できるように梱包する工程である(
図3(b))。
【0042】
緯糸工程(ステップS38)は、緯糸を製造する工程である。
【0043】
糸繰工程(ステップS40)は、策緒装置で剥ぎ取られたキビソを枠から外して、乾燥させるキビソ糸を巻き取る工程である。
【0044】
一方、経糸緯糸密度設計では、綜絖工程(ステップS42)と筬工程(ステップS43)からなる。
【0045】
綜絖工程(ステップS42)は、経糸を上下に動かして緯糸を打ち込むのに便利な開口部を設ける。
【0046】
続いて、筬工程(ステップS44)は、経糸の配列や密度を定めの杼が杼口を通過する役割とともに経糸と緯糸、とを密着させる打ち込み役を行う。その後織り付け工程となる。
【0047】
また、紋意匠図工程(ステップS46)が策定なさる。紋意匠図は、織物の表面に設けられる意匠図を設計する工程である。
【0048】
さらに、紋紙は、織機を制御するための用紙であり、紋意匠図に合わせて穴が設けられたものである。本紋紙を織機に組み合わせることで織物の製織が可能である。
【0049】
図5に、製織時の織り方について図面で示す。指示番号19が平織りであり、指示番号26があや織りであり、指示番号30がしゅず織りである。あや織りは、経糸と緯糸を交互に浮き沈みさせて織る、最も単純な織物組織である。経糸が緯糸の上を2本、緯糸の下を1本、交差させて織られる織物組織である。糸の交錯する点が正面から見て斜め方向に並ぶのが特徴である。平織りよりもしなやかな風合いがあり、伸縮性に優れ、シワがよりにくい等の利点がある。しゅず織りは、経糸・緯糸五本以上から構成される、織物組織の一つである。経糸・緯糸どちらかの糸の浮きが非常に少なく、経糸または緯糸のみが表に表れているように見えるように構成される。織物の密度が高く地は厚いが、斜文織よりも柔軟性に長け、光沢が強い特徴を有する。ただし、摩擦や引っかかりには弱い性質である。
【0050】
図6は、本発明に係るキビソ織物壁紙の製造時の側面図である。
図6(a)に示されるのがキビソ糸を平織りしたキビソ織り34である。次に
図6(b)に示されるのが裏打ち紙36である。
図6(c)では、裏打ち紙36に接着剤32が塗布される。
図6(d)でこの接着剤32の上にキビソ織り34が接着される。
【0051】
<実施例1>
次に本発明に係るキビソ織物壁紙の実施例を示す。蚕の五令幼虫による繭を、2000粒程、沸騰したお湯で煮繭して、乾燥させてから繰糸して、900gのキビソを巻き取る。巻き取ったキビソを撚糸する。撚糸されたキビソを整経し、織機により緯糸をキビソとし、経糸は綿糸40番手で平織りでキビソ織を製織する。続いて、予め、形成された裏打ち紙に、接着剤を塗布する。この上から、製織されたキビソ織を、接着させて
、裏打ち後のキビソに可視光型光触媒コーティング液(丸昌産業株式会社製オリジナル複合機能性セラミックコーティング剤)を乾燥後の重量が30gから35g/m2となるように塗工して光触媒加工型壁紙を得て完成した。
【0052】
完成したキビソ織物壁紙について、ポリエチレン板上に、キビソ織物壁紙を乾燥した。次いで、得られたキビソ織物壁紙の一定重量(A)を採取し、その一端に着火して燃焼させ、一定時間後のキビソ織物壁紙の残存重量(B)を測定した後、次式によりキビソ織物壁紙残存率(%)を求めた。数値が100%に近いほど難燃性に優れていると言える。
キビソ織物壁紙残存率(%)=(B/A)×100又、燃焼時の発煙状態を目視で観察し、下記判定基準で発煙性を評価した。
【0053】
判定基準
○として発煙が殆ど認められなかった場合と、△として中程度の発煙が認められた×として多量の発煙が認められたとものに分類して判定したところ、キビソ織物壁紙は発煙がほとんど認められない状態であった。
【0054】
<実施例2>
5Lのバッグに試料100cm
2を入れ、所定濃度に調整した測定対象ガスを3L注入し、紫外線(1.0mW/cm
2)を2時間照射したもの(紫外線照射有と定義する)のガス濃度を検知管((株)ガステック社製)により測定する。試料の前処理として、試料の表面に紫外線(1.0mW/cm
2)を3時間照射した。使用バッグは、ジーエルサイエンス社製のスマートバッグPAを用い、希釈ガスには窒素を用いた。紫外線照射には、東芝製ブラックライトFL20SBLB2本を用いた。また、紫外線強度計は、浜松ホトニクス製のC9536-01を用いた。使用ガスは、ホルムアルデヒドNo.91L、スチレンNo.124L,トルエンNo.122L,キシレンNo.122L,エチルベンゼンNo.122Lを用いて試験した。減少率(%)は以下のように定義する。
【数1】
【0055】
測定範囲と測定時の吸引するガスの量の関係について表1に示す。
【表1】
【0056】
試験結果について表2から表6を用いて説明する。表2にホルムアルデヒドガスの除去性能評価試験について示す。
【表2】
【0057】
以上の通り、ホルムアルデヒドガスの除去性能は95%の減少率であった。
【0058】
表3でスチレンガスの除去性能評価試験について示す。
【表3】
【0059】
以上の通り、スチレンガスの除去性能は20%の減少率であった。
【0060】
表4でトルエンガスの除去性能評価試験について示す。
【表4】
【0061】
以上の通り、トルエンガスの除去性能は14%の減少率であった。
【0062】
表5でキシレンガスの除去性能評価試験について示す。
【表5】
【0063】
以上の通り、キシレンガスの除去性能は18%の減少率であった。
【0064】
表6でエチレンガスの除去性能評価試験について示す。
【表6】
【0065】
以上の通り、エチレンガスの除去性能は5%の減少率であった。
【0066】
<実施例3>
さらに、アンモニアガス及びアセトアルデヒドガスの除去性能評価試験において、可視光の明条件と暗条件に分けて評価した。すなわち、可視光がある状態で紫外線を照射するのが明条件であり、可視光が無い状態で紫外線を照射するのが暗条件である。
【0067】
表7で、アンモニアガスについて明条件と暗条件の減少率の差について試験を行った。
【表7】
【0068】
表7では、明条件の減少率が暗条件の減少率より1ポイント低い。
【0069】
表8で、アンモニアガスについて明条件と暗条件の減少率の差について2回目の試験を行った。
【表8】
【0070】
表8では、明条件の減少率が暗条件の減少率より3ポイント低い。
【0071】
表9で、アセトアルデヒドガスについて明条件と暗条件の減少率の差について試験を行った。
【表9】
【0072】
表9では、明条件の減少率と暗条件の減少率の差はない。
【0073】
表10で、アセトアルデヒドガスについて明条件と暗条件の減少率の差について試験を行った。
【表10】
表10では、明条件の減少率が暗条件の減少率より4ポイント低い。