(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6573440
(24)【登録日】2019年8月23日
(45)【発行日】2019年9月11日
(54)【発明の名称】木製構造体
(51)【国際特許分類】
E04C 2/12 20060101AFI20190902BHJP
【FI】
E04C2/12 E
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-258780(P2013-258780)
(22)【出願日】2013年12月16日
(65)【公開番号】特開2015-113687(P2015-113687A)
(43)【公開日】2015年6月22日
【審査請求日】2016年11月7日
【審判番号】不服2018-10688(P2018-10688/J1)
【審判請求日】2018年8月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】513317116
【氏名又は名称】花井 洋二
(74)【代理人】
【識別番号】110001977
【氏名又は名称】特許業務法人なじま特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】花井 洋二
【合議体】
【審判長】
森次 顕
【審判官】
富士 春奈
【審判官】
西田 秀彦
(56)【参考文献】
【文献】
実開平6−56465(JP,U)
【文献】
特開2001−82045(JP,A)
【文献】
実開昭50−69007(JP,U)
【文献】
特許第4791657(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B27K1/00-9/00
E04B1/62-1/99
E04B2/00,2/56,5/02,7/20,9/04
E04C2/00-2/54
E04F13/08
E06B3/54-3/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数枚のスライス単板を木目の方向をクロスさせて積層し、樹脂を含浸させて圧密化した圧密化積層板の周囲に、断面が流線形の框を配置し、この断面が流線形の框を介して、空気流路方向に隣接する圧密化積層板どうしを接続し、その外面または内面を所定幅の空気流路としたことを特徴とする木製構造体。
【請求項2】
前記圧密化積層板を相互に間隔を設けて平行に配置し、この空間に断熱材または吸音材を充填したことを特徴とする請求項1に記載の木製構造体。
【請求項3】
構造体が平板状のパネルであり、その外面を空気流路としたことを特徴とする請求項1に記載の木製構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、住宅や自動車をはじめ様々な用途に用いることができる軽量で強度に優れた木製構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
木製構造体の代表例である木製パネルは、住宅の壁面、間仕切り、玄関ドア、床面、天井などのほか、トラックの荷台やアオリ、バスのフロアなどの様々な用途に用いられている。例えば特許文献1には、木材の平板の周囲に木質のパネル枠を取付けた間仕切りパネルが記載されている。また特許文献2には、木製の矩形板材を密着させて2段の平板状に組み立てた遮熱用木製パネルが記載されている。
【0003】
しかしこれらのパネルは何れもサイズの大きい木材板によって構成されているため、重量が重く、材料コストも高くつくという問題があった。特に住宅の壁面やトラックの荷台のように強度が要求される場合には、板厚を厚くしなければならないため、重量もコストも嵩みがちであった。このほかベニヤ板を木製パネルとして用いることもあるが、強度が低いうえ、外観が良くないという問題があった。
【0004】
また、木製パネルを住宅その他の内壁として外壁との間に所定幅の空間を形成し、この空間に空気流を形成することによって結露を防止するとともに、冷暖房効果を得ることも行われているが、従来の木製パネル表面は空気の流動抵抗が大きいために空気流が減衰し易く、安定した空気流を維持するためには大型のファンやブロワを必要とするという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−73839号公報
【特許文献2】特開2008−57271号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って本発明の目的は上記した従来の問題点を解決し、原材料として大型サイズの木材を必要とせず、軽量で強度に優れ、しかも安価に製作することができる木製構造体を提供することである。また本発明の他の目的は、外面または内面に形成される空気流の流動抵抗を小さくし、空気流の減衰を抑制することができる木製構造体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するためになされた本発明の木製構造体は、複数枚のスライス単板を木目の方向をクロスさせて積層し、樹脂を含浸させて圧密化した圧密化積層板の周囲に、断面が流線形の框を配置し、この断面が流線形の框を介して、
空気流路方向に隣接する圧密化積層板どうしを接続し、その外面または内面を所定幅の空気流路としたことを特徴とするものである。
【0008】
なお請求項2のように、
前記圧密化積層板を相互に間隔を設けて平行に配置し、この空間に断熱材または吸音材を充填した構造とすることが
できる。
【0009】
また
請求項3のように、構造体が平板状のパネルであり、その外面を空気流路とすることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の木製構造体は、スライス単板を原材料とし、樹脂を含浸させて圧密化することによって強度と軽量性を両立させている。このためスライス可能なサイズがあればほとんどの樹木を原材料とすることができ、例えば国内の公園の樹、鎮守の森、藪や里山の雑木林から切り出された檜、杉、松等の間伐材などの、従来は有効利用することが困難であった樹木から容易に製造することができる。従ってこれまでは用途がないために放置されていた国産木材の有効利用を図ることができ、原料コストを引き下げることができるうえ、自然環境の保護に貢献することができる。しかも大木を切り出す必要もなく軽量であるから、運賃も従来の数分の一となる。
【0011】
また本発明の木製構造体は、複数枚のスライス単板を木目の方向をクロスさせて積層し、樹脂を含浸させて圧密化した圧密化積層板の周囲に、断面が流線形の框を配置し、この断面が流線形の框を介して、
空気流路方向に接する圧密化積層板どうしを接続した構造であるから、軽量であるにもかかわらず剛性が大きく、強度と剛性が必要な住宅の壁面や、車両の荷台などにも使用することができる。しかも複数枚のスライス単板を、相互間に空間を設けて積層し、この空間に断熱材または吸音材を充填した構造としたものは、住宅や自動車の内装材に用いれば断熱性を高めることができ、冷暖房費の節減、電力使用量の節減に寄与することができる。また本発明の木製構造体は、表層を木目化粧板とすることにより外観を高めることができ、住宅や自動車の壁や床などの内装材として利用することができる。
【0012】
さらに本発明の木製構造体は、圧密化積層板により構成されておりその表面が平滑であるうえ、
空気流路方向に隣接する圧密化積層板との間を断面が流線形の框を介して接続することができるので、その外面を所定幅の空気流路として使用すれば、空気流の減衰が少ない利点がある。特に木製構造体を複数枚接続して使用する場合にも断面が流線形の框によって滑らかな流線が形成され、接続部における空気流の減衰が抑制される。このため平板状の構造体として住宅の内壁面に使用すれば、外壁との間にさわやかな上昇風を形成することができる利点がある。またパイプ状の構造体としてその内部を空気流路とすれば、流動抵抗が小さいため圧力損失をきわめて少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】実施形態の木製構造体の一部切欠斜視図である。
【
図4】スライス単板の配置を示す斜視図である。(1層)
【
図6】スライス単板の配置を示す斜視図である。(2層)
【
図7】本発明の木製構造体を住宅に使用した状態の説明図である。
【
図8】本発明の木製構造体をトラックの荷台に使用した状態の説明図である。
【
図9】パイプ状の木製構造体の成形法を示す断面図である。
【
図11】スパイラル状の框を用いたパイプ状の木製構造体の断面図である。
【
図12】スパイラル状の框を用いたパイプ状の木製構造体の製造工程の説明図である。
【
図13】スパイラル状の框を用いた他のパイプ状の木製構造体の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の実施形態を説明する。
図1は本発明の実施形態である平板状の構造体を示す図である。図示のように、本発明の木製構造体は圧密化積層板1の周囲に断面が流線型の框2を配置した構造のものである。そのサイズは任意であり、長方形でも正方形でもよいが、例えば住宅の床材として使用する場合には、畳と同一サイズとすることもできる。
【0015】
図2、
図3に示すように、本実施形態では2枚の圧密化積層板1が相互間に空間を設けて平行に配置されており、外周部を框2により固定している。各圧密化積層板1は、木目の方向をクロスさせて積層されたスライス単板3に樹脂を含浸させて圧密化したものである。この実施形態の場合には3枚のスライス単板3を積層しており、外側のスライス単板3aは木目が縦方向であり、内側のスライス単板3bは木目が横方向である。このように木目の方向をクロスさせて積層することにより、強度と剛性を高めている。また反り等の変形を防止している。なお縦横は入れ替えても差し支えなく、外側のスライス単板3aの木目を横方向としても差し支えない。
【0016】
図4〜
図6に圧密化積層板1の積層構造を示す。
図4はスライス単板3を1層のみ張り合わせた状態を図示している。
図5に拡大して示すように、各スライス単板3は長手方向にも幅方向にも端部をラップさせたラップジョイント構造とすることが好ましく、
図6に示すように木目の方向を交互にクロスさせて積層する。
図6は2層に積層した状態であるが、実際には
図2に示したように3層以上の積層構造とすることが好ましい。このような構造とすれば縦方向強度も横方向強度も変わらなくなる。
【0017】
前記したように、スライス単板3の原料となる樹木の種類は特に限定されるものではなく、スライス可能なサイズであれば身近な公園や雑木林に生えているような任意の樹木を用いることができる。このため本発明によれば、従来は有効な用途がなかったために放置されていた藪や雑木林の国産木材を経済価値のあるものとして活用することが可能となり、輸入木材よりも低コストとなる。また藪や雑木林の国産木材を原料とすれば、それに伴って林にも人手が入ることとなるため、自然環境の保護にもつながることとなる。
【0018】
なお、国産木材として代表的な松を使用した場合には、木質中に樹脂成分が含有されているため、強度向上に特に有利である。また半永久的に脂が滲み出し表面が滑らかになり、その表面に沿って流れる空気の流動抵抗が小さくなる。これは住宅に使用する場合にも自動車に使用する場合にも有利である。自動車や住宅のフロアに使用すれば摩耗に強く、トラックのフロアにもバスのフロアにも適する。
【0019】
積層前のスライス単板3の板厚は例えば0.3mm〜1.5mm程度であり、積層し圧密化した状態では0.9〜9mm程度であることが好ましい。
図2では積層枚数は3枚であるが、これに限定されるものではない。なお美観を重視する場合には、スライス単板3の外側層を木目化粧版とすることもできる。
【0020】
圧密化の際に含浸させる樹脂は特に限定されるものではないが、例えばフェノール系樹脂を用いることができる。圧密化は例えばホットプレス機を用いて行うことができ、その場合の圧力は2〜3MPa、温度は100〜250℃程度が適当である。この圧密化処理によってスライス単板3は内部に樹脂が含浸された状態となり、相互に密着して一体化され、強固な圧密化積層板1となる。また全体が樹脂化することにより、屋外で用いるに十分な防水性を得ることができる。
【0021】
なお、圧密化の前工程において原木またはスライス単板3に蒸気処理を施すことも可能である。蒸気処理はオートクレーブの内部で例えば200℃に加熱する方法で行うことができる。これにより自己接着性を高めることができるが、本発明においては、蒸気処理は必須ではない。また圧密化積層板1に防腐剤を含浸させておくこともできる。
【0022】
図2、
図3に示したように、本実施形態では上記した2枚の圧密化積層板1、1を相互間に空間4を設けて平行に配置し、その外周部を枠材である框2により固定する。これにより軽量でありながら強度や剛性に優れた平板状の木製構造体となる。この空間4は中空のままとし、空気断熱層として利用することができる。しかし
図3に示すように、この空間4にセラミックファイバー、ガラスファイバーのような断熱材5を封入して更に断熱性を高めることができる。またこの空間4にセラミックファイバー等の吸音材を封入して、防音効果を高めることができる。いずれの場合にも、周囲が框2により囲まれているため、封入物が外部に漏れ出すおそれはない。このほか、この空間4にパイプを収納し、電話線その他の通信線を通すこともできるなど、様々な利用法を採用することができる。
【0023】
框2も、パネルと同じツキ板から作る木製とすることができるが、必ずしも木製のみに限定されるものではなく、例えば表裏の金属板をボルト/ナットで固定した金属製のものを使用することもできる。框2を金属製とすれば、更に強度や剛性を高めることができる。またコーナー部材を用いて各コーナーを保護することもできる。框2の断面形状は、
図3に示すような流線型とする。
【0024】
本発明の木製構造体を住宅の内壁とし、
図3に示すように外壁6との間に空気流路7を形成して使用する場合には、複数枚の木製構造体を上下方向に接続することとなるが、
図3に示すように上下の框2の外側を幅広として凹凸部8を形成し、相互に係合させればよい。また内側には凹部9を形成し、2枚の圧密化積層板1、1の端部を差し込んで固定する。これにより強固な構造とすることができる。
【0025】
框2の断面形状をこのような流線型とすれば、空気流路7を流れる空気流の減衰が抑制される。すなわち、単に2枚のパネルを並べた場合にはパネル間の接続部で空気流の減衰が大きくなるが、
図3のような構造としておけば減衰が少ない。しかも圧密化積層板1の表面は平滑であるから空気流の減衰がなく、外壁6との間7に安定した上昇気流を形成することができる。
【0026】
このような構造を備えた平板状の木製構造体は、例えば
図7に示すように住宅用の壁材として使用することができる。本発明の木製構造体は軽量で強度があるため、耐震壁としての機能を発揮することができる。また既設の木造住宅の補強材として用いることもできる。またコンクリート柱の耐震壁とし、既設の木造住宅の内装を残すこともできる。このほか、床材や、強度を生かして玄関ドアとして使用することもできる。さらに防水性を生かして、屋根材としても使用することができる。
【0027】
このほか本発明の木製構造体は、自動車の分野にも使用することができる。
図8は本発明の木製構造体をトラックの荷台に適用した事例を示すものである。
【0028】
上記した実施形態では、本発明の木製構造体は平板状のものであったが、必ずしも平板状に限定されるものではなく、パイプ状とすることもできる。前記したように、本発明の木製構造体は複数枚のスライス単板を木目の方向をクロスさせて積層し、樹脂を含浸させて圧密化した圧密化積層板からなるものであり、この圧密化は例えば2〜3MPa、100〜250℃の高温高圧で行われる。
図9に示すように、芯金となる金属パイプ10の外周面に積層板11を配置し、外側から金型12により加圧すればパイプ状に成形される。
図9では積層板11及び金型12を周方向に3分割したが、2分割としても4分割としてもよい。
【0029】
図10は、パイプ状に成形された本発明の木製構造体をリング状の框13により接続した状態を示している。このリング状の框13は内面14が流線型の断面形状となっており、両側面の凹部15にパイプ状の木製構造体の端面が挿入され、接着固定されている。パイプの内部を空気流路16とした場合、接続部が流線型の断面となっているために空気流が減衰しにくい利点がある。
【0030】
また
図11に示すように、スパイラル状の框17を用いることもできる。この框も内面18を流線型の断面形状としており、空気はその内部をスパイラルを描きながら流れることとなる。このような構造体を製造するには、
図12に示すように框17で接続した積層板11を斜め方向に切断して長方形とし、これを破線で示すように複数枚に分割する。これらの分割片を
図9に示したようにパイプに巻きつけて円形に成形する方法を取ることができる。なお、框17を積層板11と別部材とせず、
図13に示したように積層板11と一体成形することも考えられる。
【0031】
このようなパイプ状の木製構造体は、軽量で強度があり耐食性にも優れるうえ、空気流が減衰しにくいため、温風や冷風の流路を構成するために住宅分野や自動車などの様々な分野に適用することができる。また小型の風力発電用の導風体、エンジン冷却風の流路など、その用途は無限である。
【符号の説明】
【0032】
1 圧密化積層板
2 框
3 スライス単板
4 空間
5 断熱材
6 外壁
7 空気流通用空間
8 凹凸部
9 凹部
10 金属パイプ
11 積層板
12 金型
13 リング状の框
14 内面
15 凹部
16 空気流路
17 スパイラル状の框