(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1プラトー領域と前記第2プラトー領域との間の変曲点が、前記有効水素吸蔵量の0.35〜0.50倍に相当する位置に存在している、請求項1に記載の水素吸蔵合金。
【背景技術】
【0002】
ニッケル水素二次電池は、ニッケルカドミウム二次電池に比べて高容量で、且つ、環境安全性にも優れているという点から、各種の電子機器、電気機器、ハイブリッド電気自動車等、さまざまな用途に使用されるようになっている。
【0003】
このニッケル水素二次電池の負極に用いられる水素吸蔵合金は、水素を吸蔵及び放出する材料であり、ニッケル水素二次電池における重要な構成材料の一つである。このような水素吸蔵合金としては、例えば、CaCu
5型の結晶を主相とする希土類−Ni系水素吸蔵合金であるLaNi
5系水素吸蔵合金や、Ti、Zr、V及びNiを含むラーベス相系の結晶を主相とする水素吸蔵合金等が一般的に使用されている。また、近年では、水素吸蔵合金の水素吸蔵能力を向上させるために、希土類−Ni系水素吸蔵合金の希土類元素の一部をMgで置換した組成を有する希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金が提案されている。この希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金は、従来の希土類−Ni系水素吸蔵合金に比べ、多量の水素ガスを吸蔵することが可能である(特許文献1参照)。
【0004】
一般的に、二次電池を電源として用いる電子機器等においては、使用者の利便性を考慮して電池の残存容量を表示することが行われている。
【0005】
電池の残存容量を検知する方法としては、例えば、以下のようなものがある。すなわち、電池においては、残存容量が少なくなると電圧が低下するので、この電圧の変化を検知することにより電池の残存容量を検知する方法が一般的である。詳しくは、電池の残容量である放電深度(Depth of Discharge:以下、DODという。)と電池電圧との関係から電池の残存容量を検知する。ここで、DODは、電池の公称容量に対する放電量の比を百分率で表したものであり、電池電圧は、電流が流れていない時の電圧が一般的に使用されているが、充放電時の電圧を使用する場合もある。例えば、DODが25%のときの電池電圧の基準値V1及びDODが75%のときの電池電圧の基準値V2を予め設定しておく。そして、電池電圧の実測値と、これら基準値V1及びV2とを比較する。電池電圧の実測値が基準値V1程度であれば、容量はまだ十分残っていると判断でき、電池電圧の実測値が基準値V2程度であれば、容量は残り少ないと判断することができる。この方法の場合、基準値V1と基準値V2との差が大きいほど電池の残存容量の検知が容易となる。
【0006】
ところで、従来の水素吸蔵合金を含む負極を備えたニッケル水素二次電池は、機器に使用されている際、その電圧は残存容量が無くなる直前まで安定している。つまり、基準値V1と基準値V2との差が比較的小さい。このため、実測した電池電圧に基づいて電池の残存容量を検知することが、他の鉛電池やリチウムイオン電池に比べて困難であるという問題がある。これは、水素吸蔵合金と水素との平衡反応を示した水素圧力−水素吸蔵量−等温特性線図(PCT特性線図)において、水素固溶領域及び水素化物領域との間に挟まれたいわゆるプラトー領域が、従来の水素吸蔵合金では、ほぼ水平となっている、つまり、ほぼ一定の平衡水素圧を示すことに起因している。このようにプラトー領域がほぼ水平であると、DODに対する電池電圧の変化を示す放電曲線の傾きも小さくなり、それにともない基準値V1と基準値V2との差も小さくなるので、残存容量の検知は困難となる。
【0007】
このような残存容量の検知の困難性を改善する対策として、徐々に電圧変化が起きるように、PCT特性線図が、放電の初期から末期にかけて大きな傾きで推移しプラトー領域がほとんど存在しないようなプラトー性が極めて低い水素吸蔵合金を使用することが考えられている。この場合、放電初期から末期にかけて電圧変化が起こり、放電電圧差(V1とV2との差)が大きくなるので電池の残存容量の検知は容易となる。
【0008】
ところで、このようなプラトー性の低い水素吸蔵合金は、平衡圧力の異なる複数種類の水素吸蔵合金が集められて形成された合金である。つまり、合金内にそれぞれ異なる組成の水素吸蔵合金が複数種類包含されている。このような水素吸蔵合金は、水素吸蔵時の体積膨張が平衡圧に応じて各組成ごとにバラバラに起こるため、応力の局部的な集中が起こり、水素吸蔵合金全体として割れが生じ易い。このように割れが生じると、水素吸蔵合金は微粉化し合金の新生面が多数生じる。そして、この新生面と電解液とが反応することにより電解液が必要以上に消費される。その結果、電池は充放電が不可能となるため、斯かる水素吸蔵合金を用いた電池は短寿命である。
【0009】
このようなプラトー性の低い水素吸蔵合金の不具合を解決するために、それぞれプラトー性が高く、しかも、互いに水素平衡圧の異なる第1の水素吸蔵合金及び第2の水素吸蔵合金の2種類の水素吸蔵合金を含む負極を備えたアルカリ二次電池が提案されている(特許文献2参照)。この特許文献2の場合、2種類の水素吸蔵合金が負極内で別々に存在するので、上記のプラトー性の低い水素吸蔵合金のような割れは起こり辛い。しかも、それぞれの合金の水素平衡圧に応じた電圧が発生するので、第1の水素吸蔵合金及び第2の水素吸蔵合金の水素平衡圧の値に大きな差を設けることにより残存容量の検知は容易となる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係るニッケル水素二次電池(以下、単に電池と称する。)2を、図面を参照して説明する。
【0026】
本発明が適用される電池2としては特に限定されないが、例えば、
図1に示すAAサイズの円筒型の電池2に本発明を適用した場合を例に説明する。
【0027】
図1に示すように、電池2は、上端が開口した有底円筒形状をなす外装缶10を備えている。外装缶10は導電性を有し、その底壁35は負極端子として機能する。外装缶10の開口には、封口体11が固定されている。この封口体11は、蓋板14及び正極端子20を含み、外装缶10を封口するとともに正極端子20を提供する。蓋板14は、導電性を有する円板形状の部材である。外装缶10の開口内には、蓋板14及びこの蓋板14を囲むリング形状の絶縁パッキン12が配置され、絶縁パッキン12は外装缶10の開口縁37をかしめ加工することにより外装缶10の開口縁37に固定されている。即ち、蓋板14及び絶縁パッキン12は互いに協働して外装缶10の開口を気密に閉塞している。
【0028】
ここで、蓋板14は中央に中央貫通孔16を有し、そして、蓋板14の外面上には中央貫通孔16を塞ぐゴム製の弁体18が配置されている。更に、蓋板14の外面上には、弁体18を覆うようにしてフランジ付き円筒形状をなす金属製の正極端子20が電気的に接続されている。この正極端子20は弁体18を蓋板14に向けて押圧している。なお、正極端子20には、図示しないガス抜き孔が開口されている。
【0029】
通常時、中央貫通孔16は弁体18によって気密に閉じられている。一方、外装缶10内にガスが発生し、その内圧が高まれば、弁体18は内圧によって圧縮され、中央貫通孔16を開き、この結果、外装缶10内から中央貫通孔16及び正極端子20のガス抜き孔(図示せず)を介して外部にガスが放出される。つまり、中央貫通孔16、弁体18及び正極端子20は電池のための安全弁を形成している。
【0030】
外装缶10には、電極群22が収容されている。この電極群22は、それぞれ帯状の正極24、負極26及びセパレータ28からなり、これらは正極24と負極26との間にセパレータ28が挟み込まれた状態で渦巻状に巻回されている。即ち、セパレータ28を介して正極24及び負極26が互いに重ね合わされている。電極群22の最外周は負極26の一部(最外周部)により形成され、外装缶10の内周壁と接触している。即ち、負極26と外装缶10とは互いに電気的に接続されている。
【0031】
そして、外装缶10内には、電極群22の一端と蓋板14との間に正極リード30が配置されている。詳しくは、正極リード30は、その一端が正極24に接続され、その他端が蓋板14に接続されている。従って、正極端子20と正極24とは、正極リード30及び蓋板14を介して互いに電気的に接続されている。なお、蓋板14と電極群22との間には円形の上部絶縁部材32が配置され、正極リード30は
上部絶縁部材32に設けられたスリット39を通して延びている。また、電極群22と外装缶10の底部との間にも円形の下部絶縁部材34が配置されている。
【0032】
更に、外装缶10内には、所定量のアルカリ電解液(図示せず)が注入されている。このアルカリ電解液は、電極群22に含浸され、正極24と負極26との間での充放電反応を進行させる。このアルカリ電解液としては、KOH、NaOH、LiOHを溶質として含むアルカリ電解液を用いることが好ましい。
【0033】
セパレータ28の材料としては、例えば、ポリアミド繊維製不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン繊維製不織布に親水性官能基を付与したものを用いることができる。具体的には、スルホン化処理が施されてスルホン基が付与されたポリオレフィン繊維を主体とする不織布を用いることが好ましい。ここで、スルホン基は、硫酸又は発煙硫酸等の硫酸基を含む酸を用いて不織布を処理することにより付与される。このようなスルホン基を有する繊維を含むセパレータを用いた電池は、優れた自己放電特性を発揮する。
【0034】
正極24は、多孔質構造を有する導電性の正極基体と、この正極基体の空孔内に保持された正極合剤とからなる。
【0035】
このような正極基体としては、例えば、ニッケルめっきが施された網状、スポンジ状若しくは繊維状の金属体、あるいは、発泡ニッケル(ニッケルフォーム)を用いることができる。
【0036】
正極合剤は、正極活物質粒子、導電材、正極添加剤及び結着剤を含む。この結着剤は、正極活物質粒子、導電材及び正極添加剤を結着させると同時に正極合剤を正極基体に結着させる働きをなす。ここで、結着剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)ディスパージョン、HPC(ヒドロキシプロピルセルロース)ディスパージョンなどを用いることができる。
【0037】
正極活物質粒子は、水酸化ニッケル粒子又は高次水酸化ニッケル粒子である。なお、これら水酸化ニッケル粒子には、亜鉛、マグネシウム及びコバルトのうちの少なくとも一種を固溶させることが好ましい。
【0038】
導電材としては、例えば、コバルト酸化物(CoO)やコバルト水酸化物(Co(OH)
2)などのコバルト化合物及びコバルト(Co)から選択された1種又は2種以上を用いることができる。この導電材は、必要に応じて正極合剤に添加されるものであり、添加される形態としては、粉末の形態のほか、正極活物質の表面を覆う被覆の形態で正極合剤に含まれていてもよい。
【0039】
正極添加剤は、正極の特性を改善するために添加されるものであり、例えば、酸化イットリウム、酸化亜鉛等を用いることができる。
【0040】
正極活物質粒子は、例えば、以下のようにして製造することができる。
まず、硫酸ニッケルの水溶液を調製する。この硫酸ニッケル水溶液に水酸化ナトリウム水溶液を徐々に添加して反応させることにより水酸化ニッケル粒子を析出させる。ここで、水酸化ニッケル粒子に亜鉛、マグネシウム及びコバルトを固溶させる場合は、所定組成となるよう硫酸ニッケル、硫酸亜鉛、硫酸マグネシウム及び硫酸コバルトを計量し、これらの混合水溶液を調製する。得られた混合水溶液を攪拌しながら、この混合水溶液に水酸化ナトリウム水溶液を徐々に添加して反応させることにより水酸化ニッケルを主体とし、亜鉛、マグネシウム及びコバルトを固溶した正極活物質粒子を析出させる。
【0041】
正極24は、例えば、以下のようにして製造することができる。
まず、上記したようにして得られた正極活物質粒子からなる正極活物質粉末、導電材、正極添加剤、水及び結着剤を含む正極合剤ペーストを調製する。得られた正極合剤ペーストは、例えば発泡ニッケル(ニッケルフォーム)に充填され、乾燥させられる。乾燥後、水酸化ニッケル粒子等が充填された発泡ニッケル(ニッケルフォーム)は、ロール圧延されてから裁断される。これにより、正極合剤を担持した正極24が作製される。
【0042】
次に、負極26について説明する。
負極26は、帯状をなす導電性の負極基板(芯体)を有し、この負極基板に負極合剤が保持されている。
負極基板は、貫通孔が分布されたシート状の金属材からなり、例えば、パンチングメタルシートや、金属粉末を型成形して焼結した焼結基板を用いることができる。負極合剤は、負極基板の貫通孔内に充填されるばかりでなく、負極基板の両面上にも層状にして保持されている。
【0043】
負極合剤は、負極活物質としての水素を吸蔵及び放出可能な水素吸蔵合金粒子、導電材及び結着剤を含む。この結着剤は水素吸蔵合金粒子、負極添加剤及び導電材を互いに結着させると同時に負極合剤を負極基板に結着させる働きをなす。ここで、結着剤としては親水性若しくは疎水性のポリマー等を用いることができ、導電材としては、カーボンブラックや黒鉛を用いることができる。また、必要に応じて負極添加剤を添加しても構わない。
【0044】
水素吸蔵合金粒子における水素吸蔵合金としては、以下のようなものが用いられる。
まず、本発明の水素吸蔵合金は、AB
2型ユニットとAB
5型ユニットとが積層してなる結晶構造を有している。詳しくは、AB
2型ユニット及びAB
5型ユニットが積層されてなるA
2B
7型構造又はA
5B
19型構造をとる、いわゆる超格子構造をなしている。本発明の水素吸蔵合金は、結晶構造がこのような超格子構造からなる1種類の水素吸蔵合金である。
【0045】
そして、本発明の水素吸蔵合金は、80℃における水素吸蔵量と水素圧力との関係を示した水素圧力−水素吸蔵量−等温線図(以下、PCT特性線図という。)が、水素吸蔵量の変化に対して第1の傾きで水素圧力が変化する水素固溶領域と、水素吸蔵量の変化に対して第2の傾きで水素圧力が変化する水素化物領域と、水素固溶領域及び水素化物領域の間に位置付けられており、水素吸蔵量の変化に対して、上記した第1の傾き及び上記した第2の傾きよりも小さい傾きで水素圧力が変化するプラトー領域とを含んでおり、このプラトー領域は少なくとも2段存在している。
【0046】
ここで、プラトー領域について、後述する実施例4の水素吸蔵合金のPCT特性線図を示す
図2を参照して説明する。水素吸蔵合金を一定の温度雰囲気下に置き、水素圧力を徐々に上げていき水素吸蔵量との関係を求めてPCT特性線図を描いていくと、水素圧力の上昇にともない水素吸蔵量は、徐々に高くなる。つまり、
図2中Aで示される部分のように、水素吸蔵量の変化に対して第1の傾きで水素圧力が変化していく。このとき、水素吸蔵合金内では水素の固溶が進行している。この領域が水素固溶領域Aである。更に水素圧力を上げていくと、ある圧力のところで、水素吸蔵量が急激に高くなる。つまり、水素吸蔵量の変化に対して、第1の傾きよりも小さい傾き、つまり、PCT特性線図はほぼ水平な状態で水素圧力が推移していく。この領域がプラトー領域Bであり、水素化物の形成が進行している。このプラトー領域Bでは、水素固溶体と水素化物とが共存した状態である。その後、水素化物の形成が完了すると再度水素圧力が上昇していき、水素化物領域に移行していく。この水素化物領域は、
図2中においてCで示される部分である。この水素化物領域では、水素吸蔵量の変化に対して、プラトー領域Bでの傾きよりも大きい第2の傾きで水素圧力が変化していく。そして、本発明においては、水素圧力が1MPaのときの水素吸蔵量を有効水素吸蔵量とする(
図2中では、Fで示される点である。)。ここで、水素圧力が1MPaを超えるような高圧の領域は、通常のニッケル水素二次電池の使用に適さないので、ニッケル水素二次電池においては、水素圧力が1MPaでの水素吸蔵量が、有効に使える水素の最大の水素吸蔵量となる。つまり、有効水素吸蔵量とは、ニッケル水素二次電池における水素が有効に使える範囲内での最大の水素吸蔵量を意味する。
【0047】
一方、水素を放出する場合、PCT特性線図は、多少のヒステリシス(水素吸蔵時と放出時の圧力差)があるものの、水素を吸蔵する際のPCT特性線図とほぼ同じ形態で逆方向に推移していく。つまり、有効水素吸蔵量から第2の傾きとほぼ同じ傾きで水素吸蔵量が減るとともに平衡水素圧が低下していき、その後、プラトー領域Bに入る。このプラトー領域Bでは、PCT特性線図は、第2の傾きよりも小さな傾きで推移し、水素が放出され水素吸蔵量が減っていく。そして、水素化物がなくなると、水素固溶領域Aに入り、第1の傾きとほぼ同じ傾きで、水素が放出されていく。
【0048】
本発明においては、上記したプラトー領域Bが水素固溶領域Aと水素化物領域Cとの間で少なくとも2段存在している。つまり、プラトー領域Bは、第1プラトー領域b1及び第2プラトー領域b2を含んでいる。このようにプラトー領域Bが複数ある水素吸蔵合金を用いた電池においては、各プラトー領域の水素圧力に対応した電池電圧が発生する。つまり、放電の初期と末期でそれぞれ異なる電池電圧を発生させることができる。
【0049】
更に、本発明の水素吸蔵合金においては、水素を放出する際のPCT特性線図における有効水素吸蔵量Fの0.25倍(D点)の量の水素が吸蔵されている時の水素圧力をPd1とし、有効水素吸蔵量Fの0.70倍(E点)の量の水素が吸蔵されている時の水素圧力をPd2とした場合、Pd1は第1プラトー領域に含まれ、Pd2は第2プラトー領域に含まれている。そして、Pd1及びPd2は、0.6≦log
10(Pd2/Pd1)の関係を満たしている態様とする。
【0050】
上記したlog
10(Pd2/Pd1)は、Pd1とPd2との差を示している。このPd1とPd2との差であるlog
10(Pd2/Pd1)の値が大きいほど、Pd1における電池電圧とPd2における電池電圧との差は大きくなり、電池の残存容量の検知が容易となる。一方、log
10(Pd2/Pd1)が0.6未満では、電池の電池電圧の差が小さく、電池の残存容量の検知が困難となる。なお、一般に水素圧力が1桁上昇すると電池電圧は30mV程度上昇することが知られている(「水素吸蔵合金−基礎から最先端まで−」NTS社版)。
【0051】
ここで、ニッケル水素二次電池においては、水素圧力が低すぎて0.01MPaを下回る場合は、放電が困難となり、水素圧力が高すぎて1MPaを超える場合は、充電が困難となる。このため、ニッケル水素二次電池として成立させるためには、Pd1の下限は0.01MPaであり、Pd2の上限は、1MPaである。したがって、実質的にlog
10(Pd2/Pd1)≦2を満たすことが好ましい。また、水素圧力は、温度により変化するため、広い温度範囲でニッケル水素二次電池を使用するためには、水素圧力を0.03〜0.3MPaとすること好ましい。よって、log
10(Pd2/Pd1)≦1を満たすことが好ましい。
【0052】
ここで、Pd1を含む第1プラトー領域は、低圧側に位置付けられており、Pd2を含む第2プラトー領域は、高圧側に位置付けられていることが好ましい。
【0053】
また、プラトー領域は、2段であることが好ましい。2段のプラトー領域を有する水素吸蔵合金を用いることで、電池の放電初期から放電末期にかけて電池電圧の変化をもたらすことができ、電池の残存容量の検知が容易となる。
【0054】
更に、放電の全域で電池電圧の変化を大きくするためには、1段目の第1プラトー領域(
図2中のb1)と2段目の第2プラトー領域(
図2中のb2)との中間部分、つまり変曲点(
図2中のG点)が有効水素吸蔵量(
図2中のF点)のほぼ中間に存在することが好ましい。具体的には、有効水素吸蔵量の0.35〜0.50倍である。
【0055】
2段のプラトー領域を有する水素吸蔵合金は、上記したような放電過程における電池電圧の差の幅を拡大する効果の他に、微粉化を抑制する効果も発揮する。微粉化を抑制する効果については、以下に詳しく説明する。
【0056】
まず、2段のプラトー領域を有する水素吸蔵合金は、その結晶構造内において、1段目の第1プラトー領域に関係する水素吸蔵サイトと、2段目の第2プラトー領域に関係する水素吸蔵サイトとを有している。ここで、水素吸蔵サイトとは、水素が吸蔵される結晶構造内の隙間であり、水素吸蔵サイトに水素が吸蔵されることにより、電池は充電されていき、水素吸蔵サイトから水素が放出されることにより、電池は放電されていく。
【0057】
充電に際しては、第1プラトー領域に関係する水素吸蔵サイトが満たされ、第1プラトー領域に係る充電が完了するまで第2プラトー領域は充電に関与しない。つまり、充電初期は第2プラトー領域に関係する水素吸蔵サイトに水素は吸蔵されず、第1プラトー領域に係る充電が完了してから第2プラトー領域に関係する水素吸蔵サイトに水素が吸蔵され第2プラトー領域に係る充電が開始される。
【0058】
一方、放電に際しても、同様に、第2プラトー領域に関係する水素
吸蔵サイトの水素の放出が完了し、第2プラトー領域に係る放電が完了するまで第1プラトー領域は放電に関与しない。つまり、放電初期は第1プラトー領域に関係する水素吸蔵サイトから水素は放出されず、第2プラトー領域に係る放電が完了してから第1プラトー領域に関係する水素吸蔵サイトから水素が放出され第1プラトー領域に係る放電が開始される。
【0059】
このため、水素化、脱水素化による膨張収縮などの体積変化が急激に進み難く、水素吸蔵合金の割れは起こり難いので、水素吸蔵合金の微粉化は抑えられる。このように、水素吸蔵合金の微粉化が抑えられると、水素吸蔵合金の新生面が多数発生すことは抑えられる。水素吸蔵合金の新生面が多数発生しなければ、水素吸蔵合金と電解液との反応は適切な状態に保たれるので、電解液が過剰に消費されることにより起こる、いわゆるドライアウトの発生は抑制される。その結果、本発明の水素吸蔵合金を用いたニッケル水素二次電池は長寿命となる。
【0060】
通常、水素吸蔵合金内に部分的に水素が満たされた部分と満たされない部分が同時に生じた場合、水素吸蔵合金内の膨張率差による応力は大きくなると考えられ、微粉化や結晶構造に歪が生じやすいと推測される。しかし、本発明のAB
2ユニットとAB
5ユニットが積層されてなるA
2B
7型構造又はA
5B
19型の結晶構造の水素吸蔵合金では、水素圧力の変化に応じて水素化しやすい部分と水素化し難い部分がユニット単位で明確に分かれており、水素化・脱水素化による膨張収縮の影響を受け難い。このため、上記のように微粉化が抑えられた耐久性に優れる特性を備えた水素吸蔵合金が得られる。
【0061】
また、本発明における水素吸蔵合金としては、希土類元素、Mg、Niを含む希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金を用いることが好ましい。この希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金は、具体的には、以下に示す一般式(I)で表される組成を有している。
【0062】
Ln
1−xMg
xNi
y−z−αAl
zM
α・・・(I)
【0063】
ただし、一般式(I)中、Lnは、Zr及び希土類元素から選ばれる少なくとも一つの元素を表し、Mは、V、Nb、Ta、Cr、Mo、Fe、Ga、Zn、Sn、In、Cu、Si、PおよびBから選ばれる少なくとも一つの元素を表し、添字x、y、z及びαは、それぞれ、0≦x<0.03、3.3≦y≦3.6、0.2≦z≦0.4、0≦α≦0.1の関係を満たしている。なお、上記した希土類元素は、具体的に、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luを示す。
【0064】
このような組成を選ぶことにより、2段のプラトー領域を有する水素吸蔵合金を得ることができるので好ましい。
【0065】
ここで、Mg量を示すxは、0.03以上では高圧側のプラ卜ー領域及び低圧側のプラ卜ー領域の圧力差が小さくなり適さない。yの値が上記の範囲から外れるとプラトー領域が明確でなくなるため適さない。Al量を示すzは、0.2未満では電池が短寿命となり、0.4を超えると合金の水素吸蔵量が不足する。また、添加元素のMはAB
2ユニットとAB
5ユニットが積層してなる結晶構造を崩さない範囲で選択することができる。具体的には、M量を示すαが、0.1を超えるとAB
2ユニットとAB
5ユニットが積層してなる結晶構造が崩れるおそれがある。
【0066】
なお、一般式(I)に係る水素吸蔵合金においては、Ln及びMgがA成分となり、Ni、Al及びMがB成分となる。
【0067】
AB
2型ユニット及びAB
5型ユニットが積層されてなるA
2B
7型構造又はA
5B
19型構造をとる、いわゆる超格子構造をなす水素吸蔵合金は、AB
5型合金の特徴である水素の吸蔵放出が安定しているという長所と、AB
2型合金の特徴である水素の吸蔵量が大きいという長所とを併せ持っている。このため、本発明に係る水素吸蔵合金は、水素吸蔵能力に優れるので、得られる電池2の高容量化にも貢献する。
【0068】
次に、上記した水素吸蔵合金粒子は、例えば、以下のようにして得られる。
まず、所定の組成となるよう金属原材料を計量して混合し、この混合物を例えば誘導溶解炉で溶解した後、冷却してインゴットにする。得られたインゴットに、不活性ガス雰囲気下にて900〜1200℃で5〜24時間保持する熱処理を施す。この後、室温まで冷却したインゴットを粉砕し、篩分けすることにより所望粒径の水素吸蔵合金粒子が得られる。
【0069】
また、負極26は、例えば、以下のようにして製造することができる。
まず、水素吸蔵合金粒子からなる水素吸蔵合金粉末、導電材、結着剤及び水を混練して負極合剤ペーストを調製する。得られた負極合剤ペーストを負極基板に塗着し、乾燥させる。乾燥後、水素吸蔵合金粒子等が付着した負極基板にロール圧延及び裁断を施す。これにより負極26が作製される。
【0070】
以上のようにして作製された正極24及び負極26は、セパレータ28を介在させた状態で、渦巻き状に巻回され、これにより電極群22が形成される。
【0071】
このようにして得られた電極群22は、外装缶10内に収容される。引き続き、当該外装缶10内にはアルカリ電解液が所定量注入される。その後、電極群22及びアルカリ電解液を収容した外装缶10は、正極端子20を備えた蓋板14により封口され、本発明に係る電池2が得られる。得られた電池2は、初期活性化処理が施され、使用可能状態とされる。
【0072】
[実施例]
1.電池の製造
(実施例1)
【0073】
(1)水素吸蔵合金及び負極の作製
まず、20質量%のLa、80質量%のSmを含む希土類成分を調製した。得られた希土類成分、Mg、Ni、Alを計量して、これらがモル比で0.99:0.01:3.25:0.25の割合となる混合物を調製した。得られた混合物は、誘導溶解炉で溶解され、その溶湯が鋳型に流し込まれた後、室温まで冷却され水素吸蔵合金のインゴットとされた。このインゴットより採取したサンプルにつき、高周波プラズマ分光分析法(ICP)によって組成分析を行った。その結果、水素吸蔵合金の組成は、(La
0.20Sm
0.80)
0.99Mg
0.01Ni
3.25Al
0.25であった。
【0074】
次いで、このインゴットに対し、アルゴンガス雰囲気下にて温度1000℃で10時間保持する熱処理を施した。そして、この熱処理後、室温まで冷却された水素吸蔵合金のインゴットをアルゴンガス雰囲気中で機械的に粉砕し、水素吸蔵合金粒子からなる粉末を得た。ここで、得られた水素吸蔵合金粉末につき、レーザー回折・散乱式粒径分布測定装置を用いて粒子の粒径を測定した結果、かかる水素吸蔵合金粒子の体積平均粒径(MV)は60μmであった。
【0075】
更に、得られた水素吸蔵合金粉末につき、以下に示す手順で水素吸蔵量と水素圧力との関係を求め、水素化特性評価を行った。
【0076】
まず、得られた水素吸蔵合金粉末から水素化特性評価用の試料を採取した。斯かる試料をPCT水素化特性評価装置にセットした。そして、この試料を、80℃の温度条件で最大水素圧1MPaまで水素化した後、脱水素化して試料を活性化した。その後、斯かる試料を80℃の温度条件で最大水素圧を1MPaに設定し、PCT特性線図を得るべく、水素圧力及び水素吸蔵量の値をプロットした。
【0077】
その結果、2段のプラトー領域を持つPCT特性線図が得られた。なお、プラトー領域の段の数を「PCT特性線図の形状」として表2に記載した。得られたPCT特性線図において、1段目のプラトー領域(第1プラトー領域)と2段目のプラトー領域(第2プラトー領域)との境界である変曲点は有効水素吸蔵量の0.45倍の部分に現れていた。また、1段目のプラトー領域(第1プラトー領域)に位置する有効水素吸蔵量の0.25倍での水素圧力Pd1と、2段目のプラトー領域(第2プラトー領域)に位置する有効水素吸蔵量の0.70倍における水素圧力Pd2を求めた結果、Pd1は0.048MPa、Pd2は0.220MPaであった。そして、これらPd1及びPd2の結果から求めたlog
10(Pd2/Pd1)は0.66であった。なお、これらPd1、Pd2及びlog
10(Pd2/Pd1)の値は表2示した。
【0078】
得られた水素吸蔵合金の粉末100質量部に対し、ポリアクリル酸ナトリウム0.4質量部、カルボキシメチルセルロース0.1質量部、スチレンブタジエンゴム(SBR)のディスバージョン1.0質量部、カーボンブラック1.0質量部、及び水30質量部を添加して混練し、負極合剤のペーストを調製した。
【0079】
この負極合剤のペーストを負極基板としての鉄製の孔あき板の両面に均等、且つ、厚さが一定となるように塗布した。なお、この孔あき板は60μmの厚みを有し、その表面にはニッケルめっきが施されている。
【0080】
ペーストの乾燥後、水素吸蔵合金の粉末が付着した孔あき板を更にロール圧延して体積当たりの合金量を高めた後、裁断し、AAサイズ用の負極26を得た。
【0081】
(2)正極の作製
ニッケルに対して亜鉛3質量%、マグネシウム0.4質量%、コバルト1質量%となるように、硫酸ニッケル、硫酸亜鉛、硫酸マグネシウム及び硫酸コバルトを計量し、これらを、アンモニウムイオンを含む1Nの水酸化ナトリウム水溶液に加え、混合水溶液を調整した。得られた混合水溶液を攪拌しながら、この混合水溶液に10Nの水酸化ナトリウム水溶液を徐々に添加して反応させ、ここでの反応中のpHを13〜14に安定させて、水酸化ニッケルを主体とし、亜鉛、マグネシウム及びコバルトを固溶した水酸化ニッケル粒子を生成させた。
【0082】
得られた水酸化ニッケル粒子を10倍の量の純水で3回洗浄した後、脱水、乾燥した。なお、得られた水酸化ニッケル粒子は、平均粒径が10μmの球状をなしている。
【0083】
次に、上記したように作製した水酸化ニッケル粒子からなる正極活物質粉末100質量部に、水酸化コバルトの粉末10質量部を混合し、更に、0.5質量部の酸化イットリウム、0.3質量部の酸化亜鉛、40質量部のHPCディスバージョン液を混合して正極合剤ペーストを調製し、この正極合剤ペーストを正極基体としてのシート状の発泡ニッケル(ニッケルフォーム)に充填した。正極合剤のペーストが充填された発泡ニッケルを乾燥後、正極合剤が充填された発泡ニッケルをロール圧延した後、所定形状に裁断し、AAサイズ用の正極24を得た。
【0084】
(3)ニッケル水素二次電池の組み立て
得られた正極24及び負極26をこれらの間にセパレータ28を挟んだ状態で渦巻状に巻回し、電極群22を作製した。ここでの電極群22の作製に使用したセパレータ28はスルホン化処理が施されたポリプロピレン繊維製不織布から成り、その厚みは0.1mm(目付量53g/m
2)であった。
【0085】
一方、KOH、NaOH及びLiOHを含む水溶液からなるアルカリ電解液を準備した。ここで、アルカリ電解液には、KOH、NaOH及びLiOHが、KOH:NaOH:LiOH=0.8:7.0:0.02の比で含まれている。
【0086】
次いで、有底円筒形状の外装缶10内に上記した電極群22を収納するとともに、準備したアルカリ電解液を所定量注液した。この後、封口体11で外装缶10の開口を塞ぎ、公称容量2000mAhのAAサイズのニッケル水素二次電池2を組み立てた。ここで、公称容量は、温度25℃の環境下にて、0.2Aで16時間充電後、0.4Aで電池電圧が1.0Vになるまで放電した際の電池の放電容量とした。
【0087】
(4)初期活性化処理
電池2に対し、温度25℃の環境下にて、0.2Aの充電電流で16時間の充電を行った後に、0.4Aの放電電流で電池電圧が1.0Vになるまで放電させる充放電作業を5回繰り返すことにより初期活性化処理を行った。このようにして、電池2を使用可能状態とした。
【0088】
(5)放電時の電圧差の測定
上記した初期活性化処理における5回目の放電において、公称容量に対する放電容量の比が25%(DOD25%)の時の電池電圧と、公称容量に対する放電容量の比が75%(DOD75%)の時の電池電圧とを測定し、DOD25%の時の電池電圧とDOD75%の時の電池電圧の差を求め、その結果を放電電圧差DOD25%−DOD75%として表2に示した。この放電時の電圧差が大きいほど電池の残存容量の検知が容易となる。
【0089】
(実施例2)
水素吸蔵合金の組成をSm
0.99Mg
0.01Ni
3.25Al
0.25としたこと以外は、実施例1と同様にしてニッケル水素二次電池を作製した。
【0090】
(実施例3)
水素吸蔵合金の組成をSm
1.00Ni
3.23Al
0.27としたこと以外は、実施例1と同様にしてニッケル水素二次電池を作製した。
【0091】
(実施例4)
水素吸蔵合金の組成を(La
0.20Sm
0.80)
0.98Mg
0.02Ni
3.24Al
0.25Cr
0.01としたこと以外は、実施例1と同様にしてニッケル水素二次電池を作製した。
【0092】
ここで、本発明における水素吸蔵合金の代表的なPCT特性線図として、この実施例4の水素吸蔵合金の80℃におけるPCT特性線図を
図2に示した。ここで、
図2中において、Aは水素固溶領域、Bはプラトー領域、b1は第1プラトー領域、b2は第2プラトー領域、Cは水素化物領域、Dは水素圧力Pd1(有効水素吸蔵量の0.25倍(H/M=0.21)の水素吸蔵量での圧力であって0.044MPa)、Eは水素圧力Pd2(有効水素吸蔵量の0.70倍(H/M=0.58)の水素吸蔵量での圧力であって0.210MPa)、Fは有効水素吸蔵量(H/M=0.83)、Gは変曲点(有効水素吸蔵量の0.42倍(H/M=0.36)をそれぞれ示している。
【0093】
(比較例1)
水素吸蔵合金の組成を(La
0.20Sm
0.80)
0.97Mg
0.03Ni
3.33Al
0.17としたこと以外は、実施例1と同様にしてニッケル水素二次電池を作製した。
【0094】
(比較例2)
水素吸蔵合金の組成を(La
0.20Sm
0.80)
0.85Mg
0.15Ni
3.10Al
0.20としたこと以外は、実施例1と同様にしてニッケル水素二次電池を作製した。
【0095】
(比較例3)
水素吸蔵合金の組成を(La
0.20Nd
0.40Sm
0.40)
0.90Mg
0.10Ni
3.33Al
0.17としたこと以外は、実施例1と同様にしてニッケル水素二次電池を作製した。
【0096】
2.ニッケル水素二次電池の評価
(1)サイクル寿命特性
実施例1〜4、比較例1〜3の初期活性化処理済みの電池に対し、25℃の環境下にて、1.0Itで電池電圧が最大値に達した後、10mV低下するまで充電するいわゆる−ΔV制御での充電を行い、その後、1時間放置した。
【0097】
同一の環境下にて1.0Itで電池電圧が1.0Vになるまで放電した後、1時間放置した。
【0098】
上記した充放電のサイクルを1サイクルとする。ここで、第1回目のサイクルのときの放電容量を求め、このときの放電容量を初期容量とした。そして、各電池につき上記した充放電のサイクルを繰り返し、各サイクルにおける容量も求めた。そして、初期容量を100%としたとき、各サイクルにおける容量が初期容量に対して60%を下回るまでのサイクルの回数を数え、その回数をサイクル寿命とした。ここで、実施例1の電池がサイクル寿命に至ったときのサイクル数を100として、各電池のサイクル寿命との比を求め、その結果をサイクル寿命特性として表2に示した。このサイクル寿命特性の値が大きいほどサイクル寿命特性に優れていることを示す。
【0101】
(2)考察
(i)実施例1〜4の電池は、サイクル寿命特性が100〜113%であり、サイクル寿命特性に優れていることがわかる。また、実施例1〜4の電池は、放電電圧差が0.046〜0.048Vであり、電池の残存容量の検知が容易なレベルとなっている。つまり、実施例1〜4の電池では、電池の残存容量の検知を容易に行える程度の十分な放電電圧差を発生させることができ、寿命特性も良好であることを確認できた。
【0102】
(ii)これに対し、比較例1の電池は、PCT特性線図の形状において2段のプラトー領域を有する水素吸蔵合金を用いているものの、Pd1とPd2との圧力差が小さく、それに対応して放電電圧差も0.035Vと小さくなっている。このため、電池の残存容量の検知は難しい。また、サイクル寿命特性も92%と低く、実施例1〜4の電池よりもサイクル寿命特性が劣っている。
【0103】
(iii)比較例2の電池は、PCT特性線図の形状において1段のプラトー領域を有する水素吸蔵合金を用いているため、Pd1とPd2との圧力差が小さく、それに対応して放電電圧差も0.037Vと小さくなっている。このため、電池の残存容量の検知は難しい。また、サイクル寿命特性も78%と低く、実施例1〜4の電池よりもサイクル寿命特性が大幅に劣っている。
【0104】
(iv)比較例3の電池は、サイクル寿命特性が、112%と高く、実施例1〜4の電池と同等の優れたサイクル寿命特性を示している。しかしながら、PCT特性線図の形状において1段のプラトー領域を有する水素吸蔵合金を用いているため、Pd1とPd2との圧力差が小さく、それに対応して放電電圧差も0.028Vと極めて小さくなっている。このため、電池の残存容量の検知は難しい。つまり、電池の残存容量の検知を容易にすることとサイクル寿命を長くすることとの両立は図られていない。
【0105】
(v)以上より、本発明によれば、電池の残存容量の検知が容易に行え、且つ、サイクル寿命特性の向上を図ることに貢献するニッケル水素二次電池用の水素吸蔵合金及びこの水素吸蔵合金を用いた負極を得ることができると言える。そして、本発明に係る水素吸蔵合金を含む負極を用いたニッケル水素二次電池は、サイクル寿命を長くすることと電池の残存容量の検知を容易にすることとが両立された優れた電池となる。
【0106】
なお、本発明は、上記した実施形態及び実施例に限定されるものではなく、種々の変形が可能であり、例えば、ニッケル水素二次電池は、角形電池であってもよく、機械的な構造は格別限定されることはない。