(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1または特許文献2の軌道短絡装置を使用することで、表示またはランプの点灯によって、軌道短絡装置を正常に設置できたか確認できるので、接続不良等により短絡が不十分のまま路線内での作業が行われてしまうといった不都合を避けることができる。
しかしながら、このような照査機能を有する軌道短絡装置を使用していても、路線内での作業中、軌道短絡装置によるレール間の短絡が解除されてしまうと、多くの場合、保守員がこの変化に気付かないまま、路線内の作業が続けられてしまうと考えられた。保守員は軌道短絡装置から離れた箇所でも作業を行うので、遠くから軌道短絡装置の表示またはランプの点灯を確認することが難しい。
【0006】
本発明は、路線内での作業中に軌道短絡装置によるレール間の短絡が解除された場合でも、このことを速やかに保守員に気付かせることができ、これにより速やかな軌道の短絡状態の修正を図ることのできる軌道短絡装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するため、鉄道の軌道を構成する一対のレール間を短絡させる軌道短絡装置であって、
前記レール間の短絡電流を流すケーブル部と、
前記レール間の短絡状態を検出する検出部と、
前記ケーブル部に前記ケーブル部の長手方向に連なるように設けられた複数の発光素子と、
前記複数の発光素子の発光を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記検出部の検出結果に基づき前記発光素子の発光態様を切り替え、且つ、少なくとも前記検出部が短絡不良を検出している場合に前記発光素子を発光させることを特徴としている。
【0008】
この構成によれば、複数の発光素子がケーブル部に設けられているので、軌道短絡装置の発光の視認性が向上する。例えば、路線内で作業を行っている保守員は、離れた箇所からでも、軌道短絡装置の発光を容易に認識できる。また、制御部は、検出部が検出した短絡状態によって発光素子の発光態様を切り替え、且つ、短絡不良と検出されている場合でも発光素子を発光させる。よって、保守員が路線内で作業を行っている間に軌道の短絡状態が不良となった場合でも、短絡不良に対応した発光素子の発光態様により、保守員に短絡不良になったことを気付かせやすい。これにより、保守員が軌道短絡装置を設置し直すなど、速やかな軌道の短絡状態の修正が図られる。
【0009】
好ましくは、前記複数の発光素子は、前記ケーブル部の第1区間に配置された第1発光素子群と、前記第1区間と異なる前記ケーブル部の第2区間に配置された第2発光素子群とを含み、
前記制御部は、少なくとも前記検出部が短絡不良を検出している場合に、前記第1発光素子群と前記第2発光素子群とを交互に点滅させるように構成するとよい。
この構成によれば、少なくとも検出部が短絡不良を検出している場合に、ケーブル部の第1区間と第2区間とで交互に発光の点滅が行われるので、路線内で作業を行っている保守員に、より確実に短絡不良になったことを気付かせることができる。
【0010】
また好ましくは、前記一対のレールにそれぞれ固定されて電気的に接続する一対の接続部と、前記制御部を収容するベース体と、をさらに備え、前記ベース体には、前記一対の接続部を磁力により保持可能な一対の保持ベースが設けられているとよい。
この構成によれば、例えば装置の収納時または移動時など、接続部の周囲にケーブル部を巻くようにして、接続部を保持ベース保持させることで、ケーブル部を含めて装置全体をコンパクトにまとめることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、路線内での作業中に軌道短絡装置によるレール間の短絡が解除されてしまっても、路線内の保守員に短絡不良になったことを気付かせることができ、これにより正常な短絡状態へ速やかな修正を図ることができるという効果が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の各実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る軌道短絡装置を示すもので、(a)は全体図、(b)は領域Aの部分の拡大図である。
本実施の形態の軌道短絡装置1は、鉄道の軌道を構成する一対のレール間を短絡させる装置であり、
図1(a)に示すように、一対のレールにそれぞれ接続する2つの接続部12、13と、レール間の短絡電流を流すケーブル部10、11と、制御基盤等を含むベース体2とを備えている。
【0014】
接続部12、13は、例えば磁石によりレールに固定され、電流を流す電極端子をレールに電気的に接続する。なお、接続部12、13による接続構造は、特に制限されるものでなく、例えばレールを把持するクリップ形式の構造を採用してもよい。
ケーブル部10、11は、レール間の短絡電流を流すためのもので、一端が接続部12、13にそれぞれ接続され、他端がベース体2の左部分と右部分とにそれぞれ接続されている。ケーブル部10、11の所定の区間20、21には、複数の発光素子105が連なるように設けられている。
詳細には、
図1(b)に示すように、ケーブル部10、11は、短絡電流を流す導線を被覆してなる導線コード102と、導線コード102の側面に導線コード102に沿って配置される発光素子テープ103と、導線コード102と発光素子テープ103とを覆う透明被覆101とを有している。発光素子テープ103は、幅が狭くて長い帯状の形態であり、複数の発光素子105が連なるように設けられている。
【0015】
複数の発光素子105が設けられる区間20、21は、ケーブル部10、11のベース体2に近い端部と、接続部12、13に近い端部とを避けた残りの区間である。ベース体2に近い端部と接続部12、13に近い端部では、ケーブル部10、11が急峻に曲げられる場合があるが、中央の区間20、21では、このような急峻な曲りが生じにくい。よって、この区間20、21に発光素子105を設けることで、発光素子テープ103の疲労破壊を生じにくくすることができる。
ここで、区間20、21は、本発明に係る第1区間と第2区間との一例に相当する。また、区間20に設けられている複数の発光素子105と区間21に設けられている複数の発光素子105とが、本発明に係る第1発光素子群および第2発光素子群にそれぞれ相当する。
【0016】
発光素子テープ103は、導線コード102の一側面に沿うように配置されている。この構成では、路線内にケーブル部10、11を設置したときに、発光素子105の列が地面に向いてしまう場合が生じる。しかしながら、この場合でも、地面で散乱した発光素子105の光が離れた箇所まで届くので、発光の視認性が低下することがない。短絡装置1は通常夜間に使用される。
なお、発光素子テープ103は、導線コード102の周囲をらせん状に巻くように配置されてもよい。また、複数の発光素子テープ103が、導線コード102の向きの異なる複数の側面に沿うように配置されてもよい。これらの構成によれは、路線内にケーブル部10、11を設置したときに、ケーブル部10、11の向きによらずに、複数の発光素子105を色々な方向に向けることができる。
【0017】
ベース体2は、制御基盤と、制御基盤を収容した収容部16と、制御基盤の電源を供給するための電池を収容した電池収容部15と、装置を持ち運ぶ際に利用される取手14と、装置の保管または装置を持ち運ぶ際に接続部12、13を保持できる保持ベース17、18とを備えている。接続部12、13の周囲にケーブル部10、11を巻くようにして、接続部12、13を保持ベース17、18に例えば磁力により保持させることで、ケーブル部10、11を含めて装置全体をコンパクトにまとめることができる。
【0018】
図2は、本発明の実施の形態に係る軌道短絡装置の回路構成を示す図である。
図2中、発光素子テープ103(
図1(b)を参照)について、左のケーブル部10に設けられたものを符号103Lで表わし、右のケーブル部11に設けられたものを符号103Rで表わしている。また、
図2中、左の発光素子テープ103Lに設けられた複数の発光素子105を代表して1つのみ記載し、右の発光素子テープ103Rに設けられた複数の発光素子105を代表して1つのみ記載している。左の発光素子テープ103Lに含まれる複数の発光素子105は互いに並列に接続されており、右の発光素子テープ103Rに含まれる複数の発光素子105は互いに並列に接続されている。
【0019】
軌道短絡装置1には、
図2に示すように、レール間の交流電圧を計測する電圧計測回路41と、交流の短絡電流を計測する電流計測回路42と、安定化電源59と、ベース体2に設けられた発光素子E1、E2と、発光の制御を行う制御部(CPU:中央処理演算装置)58と、制御部58により切り替えられるスイッチR1〜R8と、電源投入用のスイッチSW1と、ケーブル部10、11に設けられた発光素子テープ103L、103Rとが設けられている。スイッチSW1はベース体2の外周部に設けられ、電圧計測回路41、電流計測回路42、安定化電源59、発光素子E1、E2、および制御部58等は制御基盤に搭載されて収容部16に収容されている。
これらのうち、電圧計測回路41と電流計測回路42とが、本発明に係る検出部の一例に相当する。
【0020】
ケーブル部10、11に設けられた発光素子105は、発光色の異なる2つの素子E3、E4が一体的に設けられた構成であり、2つの素子E3、E4のうち一方を選択的に駆動できるように構成されている。特に制限されないが、この実施の形態では、電圧の印加方向を変えることで、発光させる素子E3、E4を選択できるように構成されている。
【0021】
電圧計測回路41は、特に制限されるものではないが、接続部12、13の電極端子間の電圧を入力して増幅する増幅部52と、レール間に出力されている交流電圧の周波数を通過帯域に含んだバンドパスフィルタ54と、交流電圧を直流の実効値電圧に変換する実効値変換回路56とを有している。直流の実効値電圧は、制御部58によりA/D変換されて入力される。電圧計測回路41に入力される電圧は、一対の接続部12、13の電極端子のうち、接触面積が小さくレールへの強い接触が可能な電極部位の電圧とするとよい。また、電圧計測回路41に電圧を送る信号線は、ケーブル部10、11の短絡電流を流す導線と独立して設けるとよい。これにより、接続部12、13とレールとの接触が弱くて正常な短絡電流が流れない場合でも、電圧計測回路41には電圧降下の少ない正しいレール間の電圧が入力されて、これを計測することができる。
【0022】
電流計測回路42は、特に制限されるものではないが、短絡電流の経路が中央部に通される検出コイル51と、検出コイル51の出力を増幅する増幅部53と、レール間に出力されている交流電圧の周波数を通過帯域に含んだバンドパスフィルタ55と、検出コイル51の交流の検出電圧を直流の実効値電圧に変換する実効値変換回路57とを有している。直流の実効値電圧は、制御部58によりA/D変換されて、交流の短絡電流の実効値を表わす値として入力される。
【0023】
安定化電源59は、電池60の電圧VCCから、発光素子E1、E2、105を発光させる駆動電圧VDDを生成する。駆動電圧VDDは、制御部58の出力端子OUT+、OUT−から発光素子105へ出力される。
制御部58は、短絡電流とレール間電圧との計測値を入力し、後述する制御処理を行って、選択信号SELのオン(ハイレベル)/オフ(ローレベル)を選択する。選択信号SELのオン/オフによって、スイッチR1〜R4が切り替えられる。
また、制御部58は、発光素子105の点滅周期でオン/オフする周期信号CLKを出力する。この点滅周期は、人が点滅を十分に視認できる程度に遅い周期である。その他、制御部58は、電池電圧VCCを監視して電池60の残量低下の検出も行う。
【0024】
上記のような回路構成によれば、制御部58が、選択信号SELをオン、その反転信号SEL ̄をオフにすることで、スイッチR1が閉、スイッチR2が開、スイッチR3、R4が順方向に切り替えられる。これにより、正常短絡を表わす発光素子E1が発光し、短絡不良を表わす発光素子E2が消灯する。また、ケーブル部10、11の発光素子105、105のうち正常短絡を表わす緑色発光の素子E4に駆動電圧VDDが出力可能になる。そして、周期信号CLKがオンのときに右の発光素子テープ103Rの素子E4が発光し、その反転信号CLK ̄がオンのときに左の発光素子テープ103Lの素子E4が発光する。これにより、左右の発光素子テープ103L、103Rで、緑色の発光による点滅が交互に行われる。
【0025】
逆に、制御部58が、選択信号SELをオフ、その反転信号SEL ̄をオンにすることで、スイッチR1が開、スイッチR2が閉、スイッチR3、R4が逆方向に切り替えられる。これにより、正常短絡を表わす発光素子E1が消灯し、短絡不良を表わす発光素子E2が発光する。また、ケーブル部10、11の発光素子105、105のうち短絡不良を表わす黄色発光の素子E3に駆動電圧VDDが出力可能になる。そして、周期信号CLKがオンのときに右の発光素子テープ103Rの素子E3が発光し、その反転信号CLK ̄がオンのときに左の発光素子テープ103Lの素子E3が発光する。これにより、左右の発光素子テープ103L、103Rで、黄色の発光による点滅が交互に行われる。
【0026】
次に、制御部58が、選択信号SELのオン/オフを切り替える制御処理について説明する。
図3は、本発明の実施の形態に係る軌道短絡装置の制御処理を示すフローチャートである。
電源投入のスイッチSW1が投入されると、制御部58は、ステップS1〜S9のループ処理を繰り返し実行する。
ステップS1では、短絡電流を測定するため、制御部58は電流計測回路42の検出結果を読み込む。
【0027】
ステップS2では、制御部58は測定した短絡電流の値を三段階に判定する。判定の結果、制御部58は、短絡電流の値が短絡不良を表わす第1閾値電流未満であれば、処理をステップS7へ移行し、正常短絡を表わす第2閾値電流超過であれば、処理をステップS8へ移行する。また、短絡電流の値が短絡の正常異常の判断がしにくい第1閾値電流から第2閾値電流との間であれば、制御部58は処理をステップS3へ移行する。
ステップS3では、レール間の電圧が示される接続部12、13の電極端子間の電圧を測定するため、制御部58は電圧計測回路41の検出結果を読み込む。
【0028】
ステップS4では、制御部58は測定した電圧が閾値電圧以下か判定する。この閾値電圧は、現ステップS4に移行する短絡電流の条件の中で最も小さい短絡電流(第1閾値電流)が流れている場合でも、鉄道の保安装置が短絡を検出できる短絡インピーダンスとなる電圧値に設定されている。制御部58は、判定の結果、閾値電圧以下であればステップS8へ処理を移行し、そうでなければステップS5へ処理を移行する。
ステップS5では、制御部58は、ステップS1,S3で計測した短絡電流値と電圧とから、軌道短絡装置1の短絡インピーダンスを計算する。
【0029】
ステップS6では、制御部58は計算した短絡インピーダンスが閾値インピーダンスを超過しているか判別する。閾値インピーダンスは、鉄道の保安装置が短絡を検出できる短絡インピーダンスに設定されている。判定の結果、超過であれば、制御部58は処理をステップS7へ移行し、超過していなければ、制御部58は処理をステップS8へ移行する。
ステップS7では、制御部58は、選択信号SELをオフにする。一方、ステップS8では、制御部58は、選択信号SELをオンにする。
【0030】
ステップS9では、制御部58は、短い所定時間を待機して、処理をステップS1に戻す。
このような制御処理により、制御部58は、軌道短絡装置1によるレール間の正常短絡と短絡不良との判別を繰り返し、接続部12、13の接続が弱くなって正常短絡から短絡不良に変化した場合でも、この変化を判別することができる。
【0031】
続いて、軌道短絡装置1の全体の動作について説明する。
図2に示した回路構成および
図3の制御処理によれば、接続部12、13がレールに正常に接続してレール間が正常に短絡していれば、制御部58がこれを判別し、選択信号SELをオンにする。これにより、左のケーブル部10の複数の発光素子105と、右のケーブル部11の複数発光素子105とが緑色に発光し、且つ、この発光が交互に点滅する。
一方、接続部12、13のレールへの接続が弱くなるなどしてレール間の短絡が不良になると、制御部58がこれを判別し、選択信号SELをオフにする。これにより、左のケーブル部10の複数の発光素子105と、右のケーブル部11の複数発光素子105とが黄色に発光し、且つ、この発光が交互に点滅する。
【0032】
以上のように、この実施の形態の軌道短絡装置1によれば、複数の発光素子105がケーブル部10、11に設けられているので、軌道短絡装置1の発光の視認性が向上する。例えば、発光素子をベース体2の周囲に設けた場合と比較すると、発光領域が広いため高い視認性が得られる。よって、路線内で作業を行っている保守員は、離れた箇所からでも、軌道短絡装置1の発光を容易に認識できる。また、制御部58は、レール間の短絡状態が正常であるときと不良であるときとで、発光素子の発光態様を緑色発光と黄色発光とに切り替える。よって、保守員が路線内で作業を行っている間に軌道の短絡状態が不良となった場合でも、ケーブル部10、11の発光素子105が黄色発光に変わることで、保守員に短絡不良になったことを認識させやすい。よって、保守員により軌道短絡装置1の設置がやり直されるなど、速やかな軌道の短絡状態の修正を図ることができる。
【0033】
また、この実施の形態の軌道短絡装置1によれば、発光素子105はケーブル部10、11に設けられているので、発光の視認性を向上できるとともに、発光素子105が破損しにくくなるという効果も得られる。仮に、発光の視認性を向上するため、発光素子105をベース体2の周囲に設けると、装置の移動または収納の際などにベース体と他のものとの間に発光素子を挟んで、発光素子を破損しやすい。一方、鉄道路線の保守または工事の際、ケーブルを踏みつけたりケーブルの上に物を置いたりしないことが共通認識となっている。このため、発光素子105はケーブル部10、11に設けたほうが破損しにくい。
また、本実施の形態の軌道短絡装置1によれば、軌道短絡装置1を電源投入した後、ケーブル部10、11の発光素子105は常に発光しているので、路線での作業終了時に、軌道短絡装置1の回収忘れを防止できるという効果も得られる。
【0034】
以上、本発明の各実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に限られない。例えば、上記実施の形態では、短絡状態に基づく発光態様の切り替えとして、発光色を切り替える構成を一例として説明したが、例えば、発光パターンを切り替える構成を採用してもよい。例えば、正常短絡の場合に、緑色の発光を点滅なし、或いは、長い点滅周期で行い、短絡不良が検出された場合に、黄色の発光を早い点滅で行ってもよい。また、左右のケーブル部10、11の発光素子105で交互に点滅を行う構成も、正常短絡のときに行わずに、短絡不良のときに行うようにしてもよい。また、電池寿命を延ばすために、正常短絡のまま一定時間経過したら、緑色の発光を小さいデューティ比で行わせるように発光態様を変えてもよい。その他、実施の形態で示した細部は発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。