(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記スチレンブタジエンゴム及び前記スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体の総量は、前記水素吸蔵合金粉末100質量部に対し、0.75質量部以上1.5質量部以下である、請求項1に記載のアルカリ二次電池用の負極。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る負極を組み込んだニッケル水素二次電池(以下、単に電池と称する)を、図面を参照して説明する。
【0016】
本発明が適用される電池としては特に限定されないが、例えば、
図1に示すAAサイズの円筒型の電池2に本発明を適用した場合を例に説明する。
【0017】
図1に示すように、電池2は、容器として、上端が開口した有底円筒形状をなす外装缶10を備えている。外装缶10は導電性を有し、その底壁35は負極端子として機能する。外装缶10の開口には、封口体11が固定されている。この封口体11は、蓋板14及び正極端子20を含み、外装缶10を封口するとともに正極端子20を提供する。蓋板14は、導電性を有する円板形状の部材である。外装缶10の開口内には、蓋板14及びこの蓋板14を囲むリング形状の絶縁パッキン12が配置され、絶縁パッキン12は外装缶10の開口縁37をかしめ加工することにより外装缶10の開口縁37に固定されている。即ち、蓋板14及び絶縁パッキン12は互いに協働して外装缶10の開口を気密に閉塞している。
【0018】
ここで、蓋板14は中央に中央貫通孔16を有し、そして、蓋板14の外面上には中央貫通孔16を塞ぐゴム製の弁体18が配置されている。更に、蓋板14の外面上には、弁体18を覆うようにしてフランジ付き円筒形状をなす金属製の正極端子20が電気的に接続されている。この正極端子20は弁体18を蓋板14に向けて押圧している。なお、正極端子20には、図示しないガス抜き孔が開口されている。
【0019】
通常時、中央貫通孔16は弁体18によって気密に閉じられている。一方、外装缶10内にガスが発生し、その内圧が高まれば、弁体18は内圧によって圧縮され、中央貫通孔16を開き、その結果、外装缶10内から中央貫通孔16及び正極端子20のガス抜き孔を介して外部にガスが放出される。つまり、中央貫通孔16、弁体18及び正極端子20は電池2のための安全弁を形成している。
【0020】
外装缶10には、アルカリ電解液(図示せず)とともに電極群22が収容されている。この電極群22は、それぞれ帯状の正極24、負極26及びセパレータ28からなり、これらは正極24と負極26との間にセパレータ28が挟み込まれた状態で渦巻状に巻回されている。即ち、セパレータ28を介して正極24及び負極26が互いに重ね合わされている。電極群22の最外周は負極26の一部(最外周部)により形成され、外装缶10の内周壁と接触している。即ち、負極26と外装缶10とは互いに電気的に接続されている。
【0021】
そして、外装缶10内には、電極群22と蓋板14との間に正極リード30が配置されている。詳しくは、正極リード30は、その一端が正極24に接続され、その他端が蓋板14に接続されている。従って、正極端子20と正極24とは、正極リード30及び蓋板14を介して互いに電気的に接続されている。なお、蓋板14と電極群22との間には円形の上部絶縁部材32が配置され、正極リード30は上部絶縁部材32に設けられたスリット39を通して延びている。また、電極群22と外装缶10の底部との間にも円形の下部絶縁部材34が配置されている。
【0022】
更に、外装缶10内には、所定量のアルカリ電解液(図示せず)が注入されている。注入されたアルカリ電解液は電極群22に保持されており、その大部分はセパレータ28に保持されている。そして、このアルカリ電解液は、正極24と負極26との間での充放電の際の化学反応に関与する。なお、アルカリ電解液の種類としては、特に限定されないが、例えば、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化リチウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、及びこれらのうち2つ以上を混合した水溶液等をあげることができる。また、アルカリ電解液の濃度についても特には限定されず、通常のニッケル水素二次電池に用いられているアルカリ電解液の濃度が採用される。
【0023】
セパレータ28の材料としては、例えば、ポリアミド繊維製不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン繊維製不織布に親水性官能基を付与したものを用いることができる。
【0024】
正極24は、多孔質構造をなし多数の空孔を有する導電性の正極基材と、前記した空孔内及び正極基材の表面に保持された正極合剤とからなる。
【0025】
このような正極基材としては、例えば、ニッケルめっきが施された網状、スポンジ状若しくは繊維状の金属体、あるいは、発泡ニッケル(ニッケルフォーム)を用いることができる。
【0026】
正極合剤は、正極活物質粒子、導電材、正極添加剤及び結着剤を含む。この結着剤は、正極活物質粒子、導電材及び正極添加剤を結着させると同時に正極合剤を正極基材に結着させる働きをなす。ここで、結着剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)ディスパージョン、HPC(ヒドロキシプロピルセルロース)ディスパージョンなどを用いることができる。
【0027】
正極活物質粒子は、水酸化ニッケル粒子又は高次水酸化ニッケル粒子である。なお、これら水酸化ニッケル粒子には、亜鉛、マグネシウム及びコバルトのうちの少なくとも一種を固溶させることが好ましい。
【0028】
導電材としては、例えば、コバルト酸化物(CoO)やコバルト水酸化物(Co(OH)
2)などのコバルト化合物及びコバルト(Co)から選択された1種又は2種以上を用いることができる。この導電材は、必要に応じて正極合剤に添加されるものであり、添加される形態としては、粉末の形態のほか、正極活物質の表面を覆う被覆の形態で正極合剤に含まれていてもよい。
【0029】
正極添加剤は、正極の特性を改善するために、必要に応じ適宜選択されたものが添加される。主な正極添加剤としては、例えば、酸化イットリウムや酸化亜鉛が挙げられる。
【0030】
正極24は、例えば、以下のようにして作製することができる。
まず、正極活物質粒子からなる正極活物質粉末、導電材、正極添加剤、水及び結着剤を含む正極合剤スラリーを調製する。得られた正極合剤スラリーは、例えばニッケルフォームに充填され、乾燥させられる。乾燥後、水酸化ニッケル粒子等が充填されたニッケルフォームは、ロール圧延されてから裁断される。これにより、正極合剤を保持した正極24が作製される。
【0031】
負極26は、帯状をなす導電性の負極基板(芯体)を有し、この負極基板に負極合剤が保持されている。
【0032】
負極基板は、貫通孔が分布されたシート状の金属材からなるパンチングメタルシートや金属粉末を型成形して焼結した焼結基板を用いることができる。負極合剤は、負極基板の貫通孔内に充填されるばかりでなく、負極基板の両面上にも層状にして保持されている。
【0033】
負極合剤は、負極活物質としての水素を吸蔵及び放出可能な水素吸蔵合金粒子からなる水素吸蔵合金粉末、導電剤及び結着剤を含む。ここで、導電剤としては、黒鉛、カーボンブラック、ケッチェンブラック等を用いることができる。
【0034】
水素吸蔵合金粒子における水素吸蔵合金としては、特に限定されるものではないが、希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金が用いられる。この希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金の組成は自由に選択できるが、例えば、一般式:
Ln
1-xMg
xNi
y-a-bAl
aM
b・・・(1)
で表されるものを用いるのが好ましい。
【0035】
ただし、一般式(1)中、Lnは、La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu,Sc,Y,Zr及びTiよりなる群から選ばれた少なくとも1種の元素を表し、Mは、V,Nb,Ta,Cr,Mo,Mn,Fe,Co,Ga,Zn,Sn,In,Cu,Si,P及びBよりなる群から選ばれた少なくとも1種の元素を表し、添字a、b、x、yは、それぞれ0.05≦a≦0.30、0≦b≦0.50、0.05≦x≦0.30、2.8≦y≦3.9を満たす数を表す。
【0036】
ここで、本発明に係る水素吸蔵合金は、一般式(1)におけるLn及びMgをA成分とし、Ni、Al及びMをB成分としたき、AB
2型サブユニット及びAB
5型サブユニットが積層されてなるA
2B
7型構造又はA
5B
19型構造をとる、いわゆる超格子構造をなしている。このような超格子構造をなす希土類−Mg−Ni系の水素吸蔵合金は、AB
5型合金の特徴である水素の吸蔵放出が安定しているという長所と、AB
2型合金の特徴である水素の吸蔵量が大きいという長所とを併せ持っている。このため、一般式(1)に係る水素吸蔵合金は、水素吸蔵能力に優れるので、得られる電池2の高容量化に貢献する。
【0037】
ここで、水素吸蔵合金粒子は、例えば以下のようにして得られる。
まず、所定の組成となるように金属原材料を秤量して混合し、この混合物を例えば誘導溶解炉で溶解してインゴットにする。得られたインゴットに、900〜1200℃の不活性ガス雰囲気下にて5〜24時間加熱する熱処理を施し均質化する。この後、インゴットを粉砕し、篩分けを行うことにより所望粒径の水素吸蔵合金粒子からなる水素吸蔵合金粉末を得る。
【0038】
次に、結着剤としては、スチレンブタジエンゴム及びスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体の両方が用いられる。
【0039】
スチレンブタジエンゴムの添加量は、水素吸蔵合金粉末100質量部に対し、0.5質量部以上1.0質量部以下とする。
【0040】
スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体の添加量は、スチレンブタジエンゴムの添加量の20質量%以上50質量%以下とする。
【0041】
そして、これらスチレンブタジエンゴム及びスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体の総量は、水素吸蔵合金粉末100質量部に対し、0.75質量部以上1.5質量部以下とすることが好ましい。
【0042】
ここで、スチレンブタジエンゴムの添加量が水素吸蔵合金粉末100質量部に対して0.5質量部未満になると電極強度が低下し負極基板からの負極合剤の脱落が多くなるため歩留まりが低下し、水素吸蔵合金粉末100質量部に対し1.0質量部を超えると、水素吸蔵合金粒子の表面が過剰に覆われ、ガス吸収反応を阻害するため、サイクル寿命が低下する。
【0043】
スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体の添加量がスチレンブタジエンゴムの添加量に対して20質量%未満となると電極強度が十分でなく、50質量%を超えると水素吸蔵合金粒子の表面が過剰に覆われ、ガス吸収反応を阻害するため、サイク/レ寿命が低下する。
【0044】
また、スチレンブタジエンゴム及びスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体の総量についても、水素吸蔵合金粉末100質量部に対して0.75質量部未満では電極強度が十分でなく、1.5質量部を超えるとサイクル寿命が低下する。
【0045】
なお、スチレンブタジエンゴムとしては、ガラス転移点が−10℃以下であるものを用いることが好ましい。
【0046】
ここで、スチレンブタジエンゴム及びスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体について、これらを単独で結着剤として用いた場合の作用について以下に説明する。
【0047】
一般に、負極合剤中のスチレンブタジエンゴムの添加量を増やしていくと、電極強度が高くなっていく。電極強度の向上にともない、充放電による水素吸蔵合金粒子の膨張、収縮による水素吸蔵合金粒子の割れが抑えられ、電池のサイクル寿命が向上していく。添加されるスチレンブタジエンゴムの量がある程度までは、電池のサイクル寿命が向上していくが、電極強度が十分な値となった時点でサイクル寿命の長さは飽和する。更にスチレンブタジエンゴムの添加量を増やしていくと、スチレンブタジエンゴムは水素吸蔵合金粒子の表面を膜状に覆い易い性質があるため、ガスの吸収反応を阻害し、電池の内圧を上昇させてしまう。その結果、封口体11の安全弁が作動することによって、電解液が電池の系外へ排出され、電解液の枯渇によるサイクル寿命の低下が起こる。また、スチレンブタジエンゴムは、伸縮性に優れているため、負極の圧延、電極群の巻き取りを行う際の負極の変形に十分に追従することができ、負極合剤の脱落を発生させ難い。このため、電池内での短絡の発生を抑制することができる。
【0048】
スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、水素吸蔵合金との結着性は極めて高いが、伸縮性が低いことから、充放電による水素吸蔵合金の膨張、収縮にともなう負極の変形に追従することができず、負極合剤の脱落が発生し易い。スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体を結着剤として用いた負極では、等量のスチレンブタジエンゴムを結着剤として添加した場合に比べ、負極合剤の脱落による電池の内部短絡の発生頻度が高い。また、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、水素吸蔵合金粒子の表面と点接触し易い性質を持っているため、電池反応やガスの吸収反応を阻害し難いので、電池のサイクル寿命の向上に貢献する。但し、添加量が多くなると、やはり水素吸蔵合金粒子の表面を広い範囲で覆ってしまうので、電池反応やガスの吸収反応の反応性は低下してしまう。その結果、電池のサイクル寿命は低下する。
【0049】
ここで、具体的に、結着剤の添加量が水素吸蔵合金粉末100質量部に対し1.5質量部まで増加されると、結着剤としてスチレンブタジエンゴムのみを用いたニッケル水素二次電池及び結着剤としてスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体のみを用いたニッケル水素二次電池はともにサイクル寿命が低下する。
【0050】
これに対し、本発明のように、結着剤としてスチレンブタジエンゴム及びスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体の両方を用い、水素吸蔵合金粉末100質量部に対し、スチレンブタジエンゴムを0.5質量部以上1.0質量部以下とし、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体をスチレンブタジエンゴムの添加量の20質量%以上50質量%以下とすると、スチレンブタジエンゴムの高伸縮性に加え、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体の高結着性及び電池反応やガスの吸収反応を阻害し難い効果を得ることができる。また、結着剤の総量を水素吸蔵合金粉末100質量部に対して0.75質量部以上1.5質量部以下とすると、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体の高結着性がより発揮される。特に、本発明の場合、結着剤の総量を水素吸蔵合金粉末100質量部に対して1.5質量部としても、スチレンブタジエンゴム又はスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体を単独で水素吸蔵合金粉末100質量部に対して1.5質量部用いた場合に比べ、電池のサイクル寿命は低下しない。このことから、負極内の水素吸蔵合金における結着剤で覆われていない部分の表面積は、結着剤としてスチレンブタジエンゴムを単独で水素吸蔵合金粉末100質量部に対して1.0質量部添加した場合と、本発明のように結着剤としてスチレンブタジエンゴム及びスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体の両方を用いこれらの総量を水素吸蔵合金粉末100質量部に対して1.5質量部とした場合とで、同程度であると考えられる。すなわち、1種類の結着剤の添加では得られない結着状態が、本発明のようにスチレンブタジエンゴム及びスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体の両方を適切に配合することで得られると考えられる。また、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体の短所、すなわち、伸縮性が低く、負極の変形に追従できないという点を、スチレンブタジエンゴムの高い伸縮性が補うことで、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体の極めて高い結着力を有効に利用できるため、単純な結着剤の足し合わせで見積もられる電極強度よりも高い電極強度が得られる。
【0051】
なお、結着剤としては、更に、必要に応じて、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)ディスパージョン、HPC(ヒドロキシプロピルセルロース)ディスパージョン、ポリアクリル酸ナトリウムなどを添加しても構わない。
【0052】
ここで、負極26は、例えば以下のようにして作製することができる。
まず、水素吸蔵合金粒子からなる水素吸蔵合金粉末、導電剤、結着剤及び水を混練して負極合剤ペーストを調製する。得られた負極合剤ペーストは負極基板に塗着され、乾燥させられる。乾燥後、水素吸蔵合金粒子等が付着した負極基板はロール圧延及び裁断がなされ、これにより負極26が作製される。
[実施例]
【0053】
1.電池の作製
(実施例1)
(1)正極の作製
2.5質量%の亜鉛と1.0質量%のコバルトを含有する水酸化ニッケル粉末を硫酸コバルト水溶液に投入した。ついで、この硫酸コバルト水溶液を攪拌しながら1mol/lの水酸化ナトリウム水溶液を徐々に滴下して反応させ、ここでの反応中、pHが11に維持されるようにしながら、沈殿物を生成させた。ついで、生成した沈殿物を濾別して、水洗したのち真空乾燥することにより、水酸化ニッケル粒子の表面が5質量%の水酸化コバルトで被覆された水酸化ニッケル粉末を得た。
【0054】
更に、得られた水酸化コバルトで被覆された水酸化ニッケル粉末を、25質量%の水酸化ナトリウム水溶液中に投入した。ここで、水酸化コバルトで被覆された水酸化ニッケル粉末の質量をPとし、水酸化ナトリウム水溶液の質量をQとしたとき、これらの質量比がP:Q=1:10となるようにした。そして、この水酸化ニッケル粉末が加えられた水酸化ナトリウム水溶液を温度が85℃になるように保持した状態で8時間撹拌しながら加熱処理した。
【0055】
その後、上記した加熱処理を経た水酸化ニッケル粉末を水洗し、65℃で乾燥して、水酸化ニッケル粒子の表面が高次コバルト酸化物で被覆されたニッケル正極活物質粉末を得た。
【0056】
得られたニッケル正極活物質粉末95質量部に、酸化亜鉛の粉末3質量部と、水酸化コバルトの粉末2質量部と、結着剤としてのヒドロキシプロピルセルロースの粉末を0.2質量%含む水溶液50質量部とを添加して混練し、正極合剤スラリーを作製した。
【0057】
ついで、正極合剤スラリーを面密度(目付)が約600g/m
2、多孔度が95%、厚みが約2mmのニッケル発泡体に充填し、これを乾燥させ、正極合剤質量[g]÷(電極高さ[cm]×電極長さ[cm]×電極厚み[cm]−ニッケル発泡体の質量[g]÷ニッケルの比重[g/cm
3])で計算される正極活物質の充填密度が2.9g/cm
3となるように調整して圧延した後、所定の寸法に切断して非焼結式ニッケル極からなる正極24を得た。
【0058】
(2)負極の作製
Nd、Sm、Mg、Ni、Alの各金属材料を所定のモル比となるように混合した後、誘導溶解炉に投入して溶解させ、これを冷却してインゴットを作製した。
【0059】
ついで、このインゴットに対し、温度1000℃のアルゴンガス雰囲気下にて10時間加熱する熱処理を施して均質化した後、アルゴンガス雰囲気下で機械的に粉砕して、希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金粉末を得た。得られた希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金粉末について、レーザー回折・散乱式粒径分布測定装置(装置名:Microtrac社製SRA−150)により粒径分布を測定した。その結果、質量基準による積算が50%にあたる平均粒径は65μmであった。
【0060】
この水素吸蔵合金粉末の組成を高周波プラズマ分光分析法(ICP)によって分析したところ、組成は、Nd
0.36Sm
0.54Mg
0.10Ni
3.33Al
0.17であった。また、この水素吸蔵合金粉末についてX線回折測定(XRD測定)を行ったところ、結晶構造は、いわゆる超格子構造のCe
2Ni
7型であった。
【0061】
得られた水素吸蔵合金の粉末100質量部に対し、スチレンブタジエンゴムの粉末1.0質量部、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体の粉末0.5質量部、ポリアクリル酸ナトリウムの粉末0.25質量部、カルボキシメチルセルロースの粉末0.05質量部、ケッチェンブラックの粉末0.5質量部、水20質量部を添加して25℃の環境下において混練し、負極合剤ペーストを調製した。
【0062】
この負極合剤ペーストを負極基板としてのパンチングメタルシートの両面に均等、且つ、厚さが一定となるように塗布した。また、貫通孔内にも負極合剤ペーストは充填されている。なお、このパンチングメタルシートは、貫通孔が多数あけられた鉄製の帯状体であり、厚さが60μmであり、その表面にはニッケルめっきが施されている。
【0063】
負極合剤ペーストの乾燥後、水素吸蔵合金質量[g]÷(電極高さ[cm]×電極長さ[cm]×電極厚み[cm]−パンチングメタルシートの質量[g]÷鉄の比重[g/cm
3])で計算される水素吸蔵合金の充填密度(以下、水素吸蔵合金充填密度という)が5.2g/cm
3となるように調整して圧延した後、所定の寸法に切断して負極26を得た。
【0064】
(3)ニッケル水素二次電池の作製
得られた正極24及び負極26をこれらの間にセパレータ28を挟んだ状態で渦巻状に巻回し、電極群22を作製した。ここでの電極群22の作製に使用したセパレータ28はスルホン基を有するポリプロピレン繊維製不織布から成り、その厚みは0.1mm(目付量40g/m
2)であった。
【0065】
有底円筒形状の外装缶10内に上記した電極群22を収納するとともに、アルカリ電解液(質量混合比が、KOH:NaOH:LiOH=15:2:1であり、比重が1.30である。)を2.4g注入した。この後、蓋板14等で外装缶10の開口を塞ぎ、公称容量が1500mAhのAAサイズの密閉型ニッケル水素二次電池を組み立てた。
【0066】
得られた密閉型ニッケル水素二次電池に対し、温度25℃の環境下にて、1.0Itの充電電流で16時間の充電を行った後に、1.0Itの放電電流で電池電圧が1.0Vになるまで放電させる操作を1サイクルとする充放電サイクルを合計3サイクル行うことにより初期活性化処理を行った。
このようにして、使用可能状態の電池2を得た。
【0067】
(実施例2)
スチレンブタジエンゴムの添加量を0.5質量部とし、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体の添加量を0.1質量部とし、水素吸蔵合金充填密度が6.2g/cm
3となるように調整して圧延したこと、公称容量が2000mAhとなるようにしたこと以外は実施例1の電池と同様なニッケル水素二次電池を作製した。
【0068】
(実施例3)
スチレンブタジエンゴムの添加量を0.5質量部とし、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体の添加量を0.175質量部とし、水素吸蔵合金充填密度が6.2g/cm
3となるように調整して圧延したこと、公称容量が2000mAhとなるようにしたこと以外は実施例1の電池と同様なニッケル水素二次電池を作製した。
【0069】
(実施例4)
スチレンブタジエンゴムの添加量を0.5質量部とし、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体の添加量を0.25質量部とし、水素吸蔵合金充填密度が6.2g/cm
3となるように調整して圧延したこと、公称容量が2000mAhとなるようにしたこと以外は実施例1の電池と同様なニッケル水素二次電池を作製した。
【0070】
(比較例1)
スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体を添加しなかったこと以外は実施例1の電池と同様なニッケル水素二次電池を作製した。
【0071】
(比較例2)
スチレンブタジエンゴムの添加量を1.25質量部とし、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体を添加しなかったこと以外は実施例1の電池と同様なニッケル水素二次電池を作製した。
【0072】
(比較例3)
スチレンブタジエンゴムの添加量を1.5質量部とし、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体を添加しなかったこと以外は実施例1の電池と同様なニッケル水素二次電池を作製した。
【0073】
(比較例4)
スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体の添加量を1.0質量部とし、スチレンブタジエンゴムを添加しなかったこと以外は実施例1の電池と同様なニッケル水素二次電池を作製した。
【0074】
(比較例5)
スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体の添加量を1.25質量部とし、スチレンブタジエンゴムを添加しなかったこと以外は実施例1の電池と同様なニッケル水素二次電池を作製した。
【0075】
(比較例6)
スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体の添加量を1.5質量部とし、スチレンブタジエンゴムを添加しなかったこと以外は実施例1の電池と同様なニッケル水素二次電池を作製した。
【0076】
(比較例7)
スチレンブタジエンゴムの添加量を0.5質量部とし、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体を添加しなかったこと、水素吸蔵合金充填密度が6.2g/cm
3となるように調整して圧延したこと、公称容量が2000mAhとなるようにしたこと以外は実施例1の電池と同様なニッケル水素二次電池を作製した。
【0077】
(比較例8)
スチレンブタジエンゴムの添加量を0.75質量部とし、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体を添加しなかったこと、水素吸蔵合金充填密度が6.2g/cm
3となるように調整して圧延したこと、公称容量が2000mAhとなるようにしたこと以外は実施例1の電池と同様なニッケル水素二次電池を作製した。
【0078】
2.ニッケル水素二次電池及び電極の評価
(1)サイクル寿命特性試験
実施例1〜4、比較例1〜8の初期活性化処理済みの電池2に対し、25℃の環境下にて、1.0Itの充電電流で電池電圧が最大値に達した後、10mV低下するまで充電し、その後、30分間放置した。
ついで、30分間放置した後の電池に対し、同一の環境下にて、1.0Itの放電電流で電池電圧が1.0Vになるまで放電した後、30分間放置した。
【0079】
上記した充放電のサイクルを1サイクルとする。ここで、第1回目のサイクルのときの放電容量を求め、このときの放電容量を初期容量とした。そして、各電池につき上記した充放電のサイクルを繰り返し、各サイクルにおける容量も求めた。そして、初期容量を100%としたとき、各サイクルにおける容量が初期容量に対して60%を下回るまでのサイクルの回数を数え、その回数をサイクル寿命とした。
【0080】
ここで、比較例1の電池がサイクル寿命に至ったときのサイクル数を100として、実施例1、比較例1〜6の各電池のサイクル寿命との比を求め、その結果をサイクル寿命特性比として表1に示した。
【0081】
また、実施例2〜4、比較例7、8についても、比較例7の電池がサイクル寿命に至ったときのサイクル数を100として、実施例2〜4、比較例7、8の各電池のサイクル寿命との比を求め、その結果をサイクル寿命特性比として表2に示した。
【0082】
なお、このサイクル寿命特性比の値が大きいほどサイクル寿命特性に優れていることを示している。
【0083】
(2)電極強度試験
上記した実施例1〜4、比較例1〜8において、負極を作製する際に、予め電極強度試験用の負極も同条件で併せて作製しておいた。そして、斯かる電極強度試験用の負極を切断機で切断し、その際に脱落する負極合剤の量を測定した。
【0084】
ここで、比較例1の負極における脱落した負極合剤の量を100として、実施例1、比較例1〜6の各負極における脱落した負極合剤の量との比を求め、その結果を負極合剤の脱落量比として表1に示した。
【0085】
また、実施例2〜4、比較例7、8についても、比較例7の負極における脱落した負極合剤の量を100として、実施例2〜4、比較例7、8の各負極における脱落した負極合剤の量との比を求め、その結果を負極合剤の脱落量比として表2に示した。
【0086】
なお、この負極合剤の脱落量比の値が小さいほど負極合剤が強固に結着しており、電極強度が高いことを示している。
【0089】
3.考察
表1及び表2から次のことが明らかである。
【0090】
(1)結着剤としてスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体を1.0質量部含み、スチレンブタジエンゴムを含んでいない比較例4は、結着剤としてスチレンブタジエンゴムを1.0質量部含み、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体を含んでいない比較例1に比べ、サイクル寿命特性は優れているが、負極合剤の脱落量が多く、電極強度が低いことがわかる。これは、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、スチレンブタジエンゴムに比べ電池反応を阻害しないが、伸縮性が低く電極の変形に追従できないことを示している。
【0091】
(2)負極に結着剤としてスチレンブタジエンゴムを1.25質量部含み、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体を含んでいない比較例2の電池、負極に結着剤としてスチレンブタジエンゴムを1.5質量部含み、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体を含んでいない比較例3の電池及び負極に結着剤としてスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体を1.5質量部含み、スチレンブタジエンゴムを含んでいない比較例6の電池は、負極に結着剤としてスチレンブタジエンゴムを1.0質量部含み、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体を含んでいない比較例1の電池に比べ、サイクル寿命特性が低下している。しかしながら、負極に結着剤としてスチレンブタジエンゴムを1.0質量部及びスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体を0.5質量部含む実施例1の電池は、比較例1の電池に比べ、サイクル寿命特性が低下していない。
【0092】
これは、比較例2、3、6については、結着剤の添加量の増加によって、水素吸蔵合金粒子の表面が過剰に覆われ、ガス吸収反応が起こり難くなり、電池の内圧が上昇し、封口体の安全弁が作動し、これによりアルカリ電解液が電池の系外に排出されたことによりサイクル寿命が低下したものと考えられる。これに対し、実施例1の電池については、負極内の水素吸蔵合金粒子における結着剤で覆われていない部分の表面積が、比較例1の負極内の水素吸蔵合金粒子における結着剤で覆われていない部分の表面積と同程度であり、ガス吸収反応の反応性が、比較例2、3、6ほどは低下していないため、比較例1の電池と同程度のサイクル寿命特性が得られたものと考えられる。つまり、1種類の結着剤の添加では得られない結着状態が、スチレンブタジエンゴム及びスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体を併用することで得られると考えられる。
【0093】
(3)負極合剤の脱落量比は、スチレンブタジエンゴム及びスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体のどちらについても、添加量を増やしていくと減少していくことがわかる。つまり、結着剤の添加量が多いほど電極強度が増加していくことがわかる。スチレンブタジエンゴム及びスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体のどちらかを結着剤に用いる場合、スチレンブタジエンゴムは、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体に比べ負極合剤の脱落量が少ないことがわかる(比較例1〜3と比較例4〜6参照)。また、スチレンブタジエンゴム及びスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体の両方を用いた実施例1の負極合剤の脱落量比は、スチレンブタジエンゴムを用い、結着剤の総量が実施例1と等しい比較例3の負極合剤の脱落量比と同等であることがわかる。
【0094】
これは、結着剤の単純な足し合わせから見積もられる効果よりも大きい。スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体の短所である伸縮性が低く電極の変形に追従できない点をスチレンブタジエンゴムの高い伸縮性が補うことで、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体の極めて高い結着力を有効に利用できるため、高い電極強度が得られたものと考えられる。
【0095】
(4)比較例1〜3、7、8の結果から明らかなように、結着剤としてスチレンブタジエンゴムを含み、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体を含んでいない場合、スチレンブタジエンゴムの添加量を増やしていくと、負極合剤の脱落量は減っていき電極強度が高まる。しかしながら、サイクル寿命特性が低下していき、単にスチレンブタジエンゴムの添加量を増やしてもサイクル寿命特性の向上及び歩留まりの向上の両立を図ることはできないことがわかる。
【0096】
(5)比較例4〜6の結果から明らかなように、結着剤としてスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体を含み、スチレンブタジエンゴムを含んでいない場合、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体の添加量を増やしていっても、負極合剤の脱落量は大幅には改善されず、単にスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体の添加量を増やしても電極強度の向上を期待することができないことがわかる。
【0097】
(6)これに対し、結着剤としてスチレンブタジエンゴム及びスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体を両方添加したニッケル水素二次電池は、実施例1〜4の結果から明らかなように、スチレンブタジエンゴムを含み、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体を含んでいない場合のサイクル寿命と同等かそれ以上のサイクル寿命を示し、しかも、負極合剤の脱落量は大幅に改善されることがわかる。このことから、サイクル寿命特性の向上及び歩留まりの向上の両立を図る上で、スチレンブタジエンゴム及びスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体の両方を結着剤に含ませることの有効性が確認できる。特に、スチレンブタジエンゴム及び前記スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体の総量を、水素吸蔵合金粉末100質量部に対し、0.75質量部以上1.5質量部以下の範囲とすると、負極合剤の脱落量比が53(実施例1)や55(実施例4)となる。これは、スチレンブタジエンゴムを含み、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体を含んでいない場合(比較例1)の負極合剤の脱落量比の約半分の値であり、スチレンブタジエンゴム及びスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体の総量をこの範囲とすることにより、電極強度が大幅に改善できることを示している。これは、スチレンブタジエンゴム単独の性質及びスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体単独の性質から想定される効果を遙かに超えている。
【0098】
(7)以上より、ニッケル水素二次電池の負極に結着剤としてスチレンブタジエンゴム及びスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体を両方添加した場合、得られるニッケル水素二次電池は、サイクル寿命を低下させることなく、電極強度の向上を図ることができるといえる。よって、本発明に係るアルカリ二次電池用の負極を用いたアルカリ二次電池は、サイクル寿命特性の向上及び歩留まりの向上の両立を図ることができる。