(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6573540
(24)【登録日】2019年8月23日
(45)【発行日】2019年9月11日
(54)【発明の名称】耳掛け紐付きカバー
(51)【国際特許分類】
A61F 9/04 20060101AFI20190902BHJP
A62B 18/02 20060101ALI20190902BHJP
A41D 13/11 20060101ALI20190902BHJP
【FI】
A61F9/04 305
A62B18/02 C
A41D13/11 H
【請求項の数】3
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2015-243463(P2015-243463)
(22)【出願日】2015年12月14日
(65)【公開番号】特開2017-108788(P2017-108788A)
(43)【公開日】2017年6月22日
【審査請求日】2018年10月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】390020019
【氏名又は名称】レック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075948
【弁理士】
【氏名又は名称】日比谷 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100181928
【弁理士】
【氏名又は名称】日比谷 洋平
(72)【発明者】
【氏名】青木 光男
(72)【発明者】
【氏名】北村 秀一
【審査官】
近藤 利充
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−007179(JP,A)
【文献】
特表2002−537009(JP,A)
【文献】
登録実用新案第3133632(JP,U)
【文献】
特表2001−505070(JP,A)
【文献】
特開2014−030584(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 9/04
A41D 13/11
A62B 18/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
覆部と、該覆部に繋げられて一対の環状を形成する耳掛け用紐体とから構成し、
前記紐体は常温では弾性の寄与が粘性よりも高く、装着することにより熱が加わることで弾性よりも粘性の寄与が高くなる熱可塑性エラストマ材から成ることを特徴とする耳掛け紐付きカバー。
【請求項2】
前記紐体は前記熱可塑性エラストマ材から形成された芯糸と、該芯糸に螺旋状に巻き付けられた巻糸とから成ることを特徴とする請求項1に記載の耳掛け紐付きカバー。
【請求項3】
前記熱可塑性エラストマ材は4−メチル−1−ペンテン共重合体を含む組成物から成ることを特徴とする請求項1又は2に記載の耳掛け紐付きカバー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば眼帯等の頭部の一部を覆い、紐体により耳に掛ける耳掛け紐付きカバーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
目、口、鼻その他の人体の一部を保護するため、織物、編物、不織布等から成る覆部に、弾性を有するゴム紐等の紐体が環状をなすように繋げられた眼帯、マスク等の紐付きカバーが、医療用の他に、衛生用、安全用等の様々な用途で使用されている。
【0003】
このような紐付きカバーを人体に装着するためには、覆部に繋げられた紐体の弾性を利用する。例えば、特許文献1、2には、覆部本体と、この覆部に繋げられ、耳に掛けるために環状にした一対のゴム紐等の伸縮性のある紐体と、この紐体に取り付けられ、長さを調整可能な寸法調整部とを備えたカバーが開示されている。この寸法調整部は、一対の紐体を紐孔に挿通させ、紐体に沿って移動させることにより紐体の環状の径を調整可能としている。
【0004】
この紐付きカバーを装着する場合には、指で紐体に応力を加えて環を拡径し、拡径した環状の紐体を耳の付け根に掛ける。そして、耳に掛けた後に指で紐を放して、紐体の元の状態に縮径しようとする復元力により耳の付け根に係止することで装着は完了する。
【0005】
このとき、使用者の感じる装着感は、装着した直後においては紐からの絞め付けをやや強く感じる方がフィット感があるが、時間経過と共に絞め付け力が強いために痛みを感じ始めることがある。
【0006】
また、特許文献3には4−メチル−1−ペンテン共重合体組成物を押出成形、射出成形によって成形し、振動、衝撃吸収部材等として様々な用途で利用することができることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2014−30584号公報
【特許文献2】実用新案登録第3088501号公報
【特許文献3】特開2015−7179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように、紐付きカバーの装着直後の快適であった装着感が、時間経過と共に痛みに代る。このため、従来の眼帯においては、痛みを感じ始めた頃に一度紐体を耳から外し、寸法調整具により環状の紐体の径を多少大きくなるように調整して再度、装着し直すことが多い。この寸法調整具の再調整は使用者にとって煩わしいという問題がある。
【0009】
また、寸法調整具を設けずに紐体を指で結ぶことで環状の紐体の径を調整する紐付きカバーにおいては、更に再調整の手間が煩わしいという問題もある。
【0010】
本発明の目的は、上述の課題を解消し、使用中に常時快適な装着感が得られる耳掛け紐付きカバーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するための本発明に係る耳掛け紐付きカバーは、覆部と、該覆部に繋げられて一対の環状を形成する耳掛け用紐体とから構成し、前記紐体は常温では弾性の寄与が粘性よりも高く、熱が加わり常温より温度が高くなると弾性よりも粘性の寄与が高くなる熱可塑性エラストマ材から成ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る耳掛け紐付きカバーによれば、熱が加わると特性が変化する熱可塑性エラストマ材を紐体に使用することで、体温が紐体に伝達すると紐体から受ける締め付けが次第に緩和されてゆき、継続して快適な装着感を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明を図示の実施例に基づいて詳細に説明する。
図1は耳掛け紐付きカバーの説明図であり、耳掛け紐付きカバーとして、例えば片眼を覆う眼帯1が挙げられ、眼帯1は覆部2と、1本の紐体3とから構成されている。
【0015】
覆部2は合成樹脂等の矩形状の板材から成り、覆部2の表面には多数の孔部2aが設けられている。この眼帯1を使用する際には、これらの孔部2aと眼との間にガーゼやコットン等の衛生材料を挟み込んで使用することになる。
【0016】
覆部2の上辺部2bと下辺部2cには、辺に沿ってそれぞれ複数個の紐孔2d、2eが形成されている。そして、1本の紐体3の一端3aが、上辺部2bの紐孔2dに縫うように挿通され、更に他端3bを折り返すように下辺部2cの紐孔2eに縫うように挿通されている。
【0017】
紐体3の一端3aと他端3bとを結ぶことにより、使用者の目と耳との長さに応じて左右の耳掛環3c及び耳掛環3dを装着時に絞め付けをやや強くなる程度の大きさに調整されている。なお、指で結ぶ以外に、上述の寸法調整部を紐体3に取り付けるようにしてもよい。
【0018】
耳掛け紐付きカバーで使用する紐体3は、
図2で示すように熱可塑性エラストマ材から成る紐状又は帯状の芯糸3eに、巻糸3fが螺旋状に巻き付けられている。なお、巻糸3fを巻き付けずに、芯糸3eのみから成る紐体3としてもよい。なお、熱可塑性エラストマ材は常温でゴム弾性体の性能を示す高分子物質であって、熱を加えることで可塑化する特性を有するものである。
【0019】
芯糸3eとしては、熱可塑性エラストマ材のうち、tanδピーク温度が15〜55℃、好ましくは30〜45℃の範囲にあるもの、更にはtanδピーク値が1.0以上であって、好ましくは1.5〜4.0の範囲にあるものを用いる。
【0020】
具体的には、特許文献3に記載された4−メチル−1−ペンテン含量が72mol%、プロピレン含量が28mol%で構成される4−メチル−1−ペンテン共重合体Aを用いることができる。
【0021】
この共重合体Aは特許文献3の表1に示すように密度が839Kg/m
3、極限粘度[η]が1.5dl/g、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との割合(分子量分布;Mw/Mn)が2.1、重量平均分子量(Mw)がポリスチレン換算で337000、tanδピーク温度が31℃となっている。
【0022】
また、表1及び
図1に示すようにtanδピーク値が2.8となっており、共重合体Aにおける温度ごとの損失正接tanδの値は、特許文献3の
図1に示すように、24℃前後で1.0未満〜1.0超に転じている。
【0023】
なお、tanδピーク値とは、−40〜150℃の温度範囲で10rad/sの周波数で動的粘弾性測定を行って得られる損失正接tanδの最大値のことである。また、tanδピーク温度とは−40〜150℃の温度範囲で10rad/sの周波数で動的粘弾性測定して得られる損失正接tanδの値が最大となる際の温度のことである。更に、動的粘弾性測定には、厚さ3mmのプレスシートを45mm×10mmに切り取った測定試料について、ANTONPaar社製MCR301を用いることにより行うことが望まれる。
【0024】
損失正接tanδの値は、熱可塑性エラストマ材が備える粘性と弾性のうち、1未満であれば弾性の寄与が高いことを、1であれば弾性と粘性の寄与が等しいことを、1超であれば粘性の寄与が高いことをそれぞれ示している。
【0025】
また、芯糸3eとして、特許文献3に記載された4−メチル−1−ペンテン重合体A100重量部に対して、芳香族炭化水素から得られる樹脂であるイーストマンケミカル株式会社製Regalrez1126を60重量部、耐熱安定剤としてのn−オクタデシル−3−(4’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)プロピネートを0.2重量部を配合した4−メチル−1−ペンテン共重合体組成物Bを用いることもできる。
【0026】
この共重合体組成物Bは、tanδピーク温度が特許文献3の表3に示すように49.3℃、表3及び
図1に示すようにtanδピーク値が2.14となっている。また、共重合体組成物Bにおける温度ごとの損失正接tanδの値は、特許文献3の
図1に示すように、37.5℃前後で1.0未満〜1.0超に転じている。
【0027】
糸状又は帯状に成形した紐体3の芯糸3eとして、tanδピーク値が1.0以上であり、tanδピーク温度が常温の15〜25℃程度よりも高い温度範囲であって、損失正接tanδの値が1.0未満から1.0超に転ずる温度が25℃〜35℃前後の温度範囲となる4−メチル−1−ペンテン共重合体を含む組成物である熱可塑性エラストマ材を用いることが好適である。
【0028】
巻糸3fは芯糸3eと皮膚とが直接触れないように、これらの間にあって、皮膚を保護するためのものであり、糸又は織物又は編物から成っている。また、巻糸3fを介在させることにより、芯糸3eへの熱伝達を調整することもできる。
【0029】
眼帯1を装着する際には、20℃程度の常温とした眼帯1の耳掛環3c及び耳掛環3dに指で応力を加えて、耳掛環3c及び耳掛環3dを拡径し、両耳の付け根に耳掛環3c及び耳掛環3dを掛ける。
【0030】
次に、耳掛環3c及び耳掛環3dに加えていた指による応力を解放し、紐体3が元の状態に縮径しようとする復元力により、耳の付け根を締め付けることで装着が完了する。
【0031】
紐体3は伸縮性に優れているため、装着時に装着を円滑に行うことができ、かつ装着直後は絞付け力が稍々強いためフィット感があり快適である。そのまま、眼帯1を装着した状態を維持すると、体温が紐体3に伝達し、紐体3から受ける締め付けが次第に緩和されてゆく。このため、耳の付け根が痛くなるようなことはなく、継続して快適な装着感が得ることができる。
【0032】
なお、本実施例は眼帯を用いて説明したが、例えば、口鼻を覆うマスク等の耳掛け紐付きカバーに適用することができる。
【0033】
覆部2に繋げられて環状をなす紐体3として、少なくともtanδピーク温度が常温よりも高い温度範囲にあって、損失正接tanδの値が1.0未満から1.0超に転ずる温度が25℃〜35℃前後の体温近くの温度範囲の熱可塑性エラストマ材を採用することで、装着する前後にあっては、引っ張り易くすると共に紐体3からの適度な締め付け力を得るために弾性力が強く、装着することによって熱が加わり常温より温度が高くなると弾性よりも粘性の寄与が高くなり、紐体3からの締め付け力を軽減することになる。
【符号の説明】
【0034】
1 眼帯
2 覆部
3 紐体
3c、3d 耳掛環
3e 芯糸
3f 巻糸