(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
[1]負極用炭素質材料
本発明の非水電解質二次電池負極用炭素質材料は、粉砕され、且つ揮発成分13〜80重量%を含む難黒鉛化性炭素前駆体を加熱処理することによって得ることができる。
【0011】
《難黒鉛化性炭素前駆体》
本発明の非水電解質二次電池負極用炭素質材料に用いる難黒鉛化性炭素前駆体は、焼成によって難黒鉛化する限り、限定されるものではないが、具体的には焼成によって、X線回折法により求められる(002)面の平均面間隔d
002が0.360〜0.400nm、及び真密度が1.40〜1.60g/cm
3の難黒鉛化性炭素質材料となる炭素前駆体が好ましい。前記の物性を得るための、焼成温度も800〜1600℃の範囲であれば特に限定されるものではないが、例えば「1200℃で焼成した場合に、X線回折法により求められる(002)面の平均面間隔d
002が0.375〜0.395nm、及び真密度が1.40〜1.60g/cm
3となる炭素前駆体」を、「難黒鉛化性炭素前駆体」と定義してもよい。平均面間隔d
002、及び真密度は、後述の測定方法により、測定することができる。
難黒鉛化性炭素前駆体の具体的な例としては、不融化した石油ピッチ又はタール、不融化した石炭ピッチ又はタール、不融化した熱可塑性樹脂(例えば、ポリビニルアルコール、ポリエチレンテレフタレート、ポリアセタール、ポリアクリロニトリル、スチレン/ジビニルベンゼン共重合体、ポリイミド、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂、ポリアミドイミド、又はポリエーテルエーテルケトン)熱硬化性樹脂(例えば、フェノール樹脂、フラン樹脂、アミノ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、又はケイ素樹脂)、及び植物由来の有機物(例えば、椰子殻、珈琲豆、茶葉、サトウキビ、果実(みかん、又はバナナ)、藁、広葉樹、針葉樹、竹及び籾殻)を挙げることができる。なお、易黒鉛化性炭素前駆体としては、例えば不融化していないピッチ又はタールを挙げることができる。
本明細書に記載の易黒鉛化性炭素前駆体において、「不融化していないピッチ又はタール」等は、本焼成により易黒鉛化性炭素質材料になるものを意味する。すなわち、酸化により軽度の不融化処理が行われている炭素前駆体を含む。
【0012】
《揮発成分》
焼成される前の粉砕された難黒鉛化性炭素前駆体は、揮発成分を13〜80重量%含むが、下限は好ましくは15重量%であり、より好ましくは17重量%である。また揮発成分の上限は80重量%以下である限り限定されるものではなく、例えば揮発成分の含量の高いものとして、植物由来の有機物である珈琲豆を用いることができるが、揮発成分の上限としては好ましくは70重量%であり、より好ましくは50重量%である。本発明の負極用炭素質材料は、焼成の過程で揮発する揮発成分(例えば、揮発性タール)が炭素質材料の表面に被覆することによって、本発明の効果を得ることができると考えられる。従って、揮発成分が13重量%よりも少ないと、負極用炭素質材料の被覆が十分でないことがある。また、揮発成分が80重量%よりも多いと、負極用炭素質材料の収率が低くなることがある。
【0013】
揮発成分としては、CO
2、CO、CH
4、H
2及びタール分を挙げることができる。揮発成分は、熱重量測定(Thermogravity;TG)によって測定することができ、本明細書においては、室温から1000℃まで温度を上昇させた場合の、重量減少分を揮発成分とする。揮発成分量は、昇温速度10℃/minで、TG及びDTAが測定できる市販の装置を用いることによって測定することができる。具体的には、測定サンプル(例えば、粉砕した炭素前駆体)を20mg正確に量り取り、白金製パンに載せて装置(例えば、島津製作所社製DTG−50)にセットする。窒素ガスを200mL/minで流し、昇温速度10℃/minで室温から1000℃まで昇温して、重量の減少を測定する。リファレンスとして、例えば島津製作所社製のαアルミナを用いることができる。
なお、石油タール又は石炭タールは、重質化(高分子量化)することにより揮発しないようになるが、重質化されなかった揮発性タール分が、本発明において揮発成分として作用する。
【0014】
《粉砕》
本発明に用いる難黒鉛化性炭素前駆体は、加熱処理前に粉砕されたものである。粉砕のタイミングは、難黒鉛化性炭素前駆体が揮発成分13〜80重量%を含み、且つ加熱処理前であれば特に限定されるものではない。すなわち、不融化のための加熱、又は仮焼成の加熱などを行った後で、揮発成分がある程度気化した難黒鉛化性炭素前駆体であっても、揮発成分13〜80重量%含んでいる難黒鉛化性炭素前駆体を粉砕することができる。
また、加熱処理は後述の予備焼成又は本焼成と別に行ってもよく、予備焼成又は本焼成と同時に行ってもよい。予備焼成又は本焼成と同時に行う場合は、粉砕は予備焼成の前でよく、予備焼成を行わない場合は、本焼成の前に行えばよい。また、難黒鉛化性炭素前駆体として、不融化したピッチ又はタールを用いる場合は、加熱処理を不融化と同時に行ってもよく、その場合粉砕は、不融化の前に粉砕してもよく、不融化の後に粉砕してもよい。
なお、後述のように、本発明の効果は加熱処理によって揮発成分が、得られた炭素質材料の表面に被覆されていることにより得られるものと考えられる。従って、加熱処理及び本焼成によって得られた、揮発成分の被覆された炭素質材料を更に粉砕することは、本発明の効果の観点から、好ましくない。しかしながら、本発明の効果が得られる限り、本焼成の後の粉砕を除外するものではない。
粉砕に用いる粉砕機も、特に限定されるものではないが、例えばジェットミル、ロッドミル、ボールミル、又はハンマーミルを用いることができる。
【0015】
粉砕された難黒鉛化性炭素前駆体の平均粒子径は、本発明の効果が得られる限り、特に限定されるものではないが、得られる非水電解質二次電池負極用炭素質材料の平均粒子径に近いものである。実際には、難黒鉛化性炭素前駆体は、焼成によって粒子径が97%〜85%程度に収縮するため、目的とする平均粒子径よりも、大きな平均粒子径とすることが好ましい。具体的には、平均粒子径は3〜50μmが好ましく、3〜40μmがより好ましく、4〜30μmが更に好ましい。なお、平均粒子径が50μm以上であると、揮発成分の被覆が十分でなく、本発明の効果が得られない場合がある。
【0016】
《加熱処理》
本発明における加熱処理は、難黒鉛化性炭素前駆体に含まれる揮発成分が気化し、前駆体に付着する限りにおいて、限定されるものではないが、250〜800℃の温度での1分以上の保持が好ましい。
加熱温度は、限定されるものではないが、加熱温度の下限は250℃以上が好ましく、300℃以上がより好ましく、350℃以上が更に好ましい。加熱温度の上限は、800℃以下が好ましく、700℃以下がより好ましく、600℃以下が更に好ましい。250℃〜800℃で揮発する揮発成分が、前駆体に被覆(付着)されることによって、特に本発明の効果を得ることができるからである。
また、加熱時間も限定されるものではないが、下限は1分以上が好ましく、2分以上がより好ましく、4分以上が更に好ましい。また、加熱時間の上限は、限定されない。これは加熱時間が長いことによって、前駆体に付着した揮発成分の消失などが起こらず、本発明の効果が維持されるからであるが、製造工程上、48時間以内が好ましく、24時間以内がより好ましい。
本明細書において、「250〜800℃の温度での1分以上の保持」とは、250〜800℃の任意の温度において1分以上維持されることを意味する。すなわち、250〜800℃の温度範囲であれば、一定の温度で1分以上維持されてもよく、又は昇温又は降温されながら1分以上維持されてもよい。
また、加熱処理は、不融化、仮焼成又は本焼成における加熱と別に行ってもよいが、本発明の効果が得られる限りにおいて、不融化、仮焼成又は本焼成と同時に行ってもよい。すなわち、不融化の150℃〜400℃での処理において、250〜800℃の温度での1分以上の保持が行われてもよい。また、仮焼成又は本焼成における到達温度に達するまでに、250〜800℃の温度での1分以上の保持が行われてもよい。
加熱処理における雰囲気は、特に限定されるものではないが、不活性ガス、例えば窒素、ヘリウム、若しくはアルゴン、クリプトン、又はそれらの混合ガスが好ましく、窒素がより好ましい。
【0017】
《焼成》
焼成は、難黒鉛化性炭素前駆体を非水電解質二次電池負極用炭素質材料とするものである。例えば、焼成は到達温度が800〜1600℃の温度での本焼成によって行うことができ、又は到達温度が350℃以上800℃未満の温度での予備焼成、及び到達温度が800〜1600℃の温度での本焼成によって行うことができる。予備焼成及び本焼成を行う場合は、予備焼成の後に一旦温度を低下させて本焼成を行ってもよく、予備焼成に続いてそのまま本焼成の温度に上昇させて本焼成を行ってもよい。また、前記のように予備焼成及び本焼成は加熱処理と別に行ってもよく、予備焼成及び本焼成によって、前記加熱処理の効果が得られるならば、加熱処理として予備焼成及び/又は本焼成を行ってもよい。
予備焼成及び本焼成は、本発明の分野において、公知の方法によって行うことができる。例えば、後述の「非水電解質二次電池負極用炭素質材料の製造方法」に記載された、本焼成の手順、又は予備焼成及び本焼成の手順に従って行うことができる。
【0018】
《不融化(酸化)》
難黒鉛化性炭素前駆体として、ピッチ又はタールを用いる場合は、難黒鉛化性炭素前駆体とするため、不融化処理を行う。不融化処理は、本発明の分野において、公知の方法によって行うことができる。例えば、後述の「非水電解質二次電池負極用炭素質材料の製造方法」に記載された、不融化(酸化)の手順に従って、炭素質前駆体を架橋することにより、行うことができる。また、前記のように不融化は加熱処理と別に行ってもよく、不融化によって、前記加熱処理の効果が得られるならば、加熱処理として不融化を行ってもよい。
なお、難黒鉛化性炭素前駆体として、熱硬化性樹脂及び植物由来の有機物を用いる場合は、不融化処理を行わなくてもよい。
【0019】
《物性》
得られた非水電解質二次電池負極用炭素質材料の物性は、難黒鉛性炭素質材料である限り、特に限定されるものではないが、例えば、X線回折法により求められる(002)面の平均面間隔d
002が0.360〜0.400nm、真密度が1.40〜1.60g/cm
3であってもよい。
本発明の炭素質材料においては、平均層面間隔は0.360nm以上0.400以下が好ましく、更に好ましくは0.375nm以上0.390以下である。小さな平均層面間隔を有する炭素質材料ではリチウムのドープ、脱ドープに伴う膨張収縮が大きく、粒子間に空隙を生じてしまい、導電ネットワークが遮断されるため繰り返し特性に劣るため、自動車用途では好ましくない。
本発明の炭素質材料においては、真密度は好ましくは1.40〜1.60g/cm
3の範囲にあり、更に好ましくは1.45〜1.55g/cm
3の範囲にある。
炭素材の結晶構造においては易黒鉛化性炭素と難黒鉛化性炭素とを平均層面間隔だけで特定することは難しいが、真密度との組み合わせで、難黒鉛化性炭素であることを規定することができる。
【0020】
本発明の炭素質材料の比表面積は、特に限定されるものではないが、好ましくはBET比表面積が1〜7m
2/gである。BET比表面積が、7m
2/gを超えると、非水電解質二次電池の負極として用いた場合に、電解液との分解反応が増加し、不可逆容量の増加に繋がり、従って電池性能が低下することがある。一方、BET比表面積が1m
2/g未満であると、非水電解質二次電池の負極として用いた場合に、電解液との反応面積が低下することにより入出力特性が低下する可能性がある。
【0021】
本発明の非水電解質二次電池負極用炭素質材料の硫黄含有量は、特に限定されるものでない。しかしながら、本発明者らは、後述の実施例以外に、少なくとも700ppmの硫黄を含む本発明の非水電解質二次電池負極用炭素質材料によって、本発明の効果が得られることを確認している。また、約2000ppmの硫黄を含む本発明の非水電解質二次電池負極用炭素質材料によっても、若干の効率の低下はあるが、本発明の効果が得られた。従って、硫黄含有量は、好ましくは4000ppm以下であり、より好ましくは3000ppm以下であり、更に好ましくは2000ppm以下であり、更に好ましくは1000ppm以下であり、更に好ましくは500ppm以下である。硫黄含有量が少ないことにより、炭素質材料を用いて製造された非水電解質二次電池は、優れた効率を示すものである。すなわち、硫黄含有量が多い炭素質材料を用いた非水電解質二次電池は、初期効率が悪くなることがある。
【0022】
本発明の非水電解質二次電池負極用炭素質材料の比表面積比は限定されるものではないが、好ましくは4.5以上であり、より好ましくは5.0以上であり、更に好ましくは5.5以上であり、更に好ましくは5.5を超えるものであり、更に好ましくは5.6以上であり、最も好ましくは6.0以上である。高い比表面積比を有する炭素質材料を用いて製造された非水電解質二次電池は、優れた出力特性を示す。また、比表面積比の上限は、限定されるものではないが、好ましくは15.0以下であり、より好ましくは13.0以下であり、更に好ましくは11.0以下である。比表面積比が高すぎると、出力特性が低下することがあるからである。
本明細書において、「比表面積比」とは、BET法により求めた比表面積(BET)と、平均粒子径D
V50及びブタノール真密度ρ
Btを用いて式:6/(D
V50×ρ
Bt)によって得られる比表面積(CALC)との比(BET/CALC)を意味するものである。
【0023】
《非水電解質二次電池》
本発明の炭素質材料は、非水電解質二次電池用負極に用いることができる。また、本発明の炭素質材料を使用した非水電解質二次電池用負極を用いた非水電解質二次電池は、大きな充放電容量を有し、且つレート特性に優れている。
本発明の非水電解質二次電池用負極及びそれを用いた非水電解質二次電池は、本発明の分野における公知の方法によって製造することができ、例えば、後述の「非水電解質二次電池負極用炭素質材料の製造方法」に記載された、非水電解質二次電池の製造の手順に従って行うことができる。
【0024】
《作用》
従来の非水電解質二次電池負極用炭素質材料は、特許文献1及び2に記載のように、予備焼成(仮焼成)後に粉砕され、本焼成されていた。従って、予備焼成後の粉砕された炭素前駆体は、予備焼成により揮発成分が蒸発しており、揮発成分13〜80重量%を含んだ炭素前駆体ではなかった。本発明の非水電解質二次電池負極用炭素質材料においては、粉砕された炭素前駆体が、揮発成分13〜80重量%を含んでいる。そのため、加熱処理によって揮発成分(例えば、タール)が炭素質材料の表面に被覆することによって、本発明の効果を得ることができると考えられる。本発明の効果を得ることのできる揮発成分は、特に限定されるものではないが、250℃〜800℃程度で揮発する成分が重要な役割を果たしていると考えられる。
また、本発明の非水電解質二次電池負極用炭素質材料を電子顕微鏡で観察した場合、従来の非水電解質二次電池負極用炭素質材料は、表面の凸凹が多いのに対して、本発明の炭素質材料は表面が滑らかである。
【0025】
[2]非水電解質二次電池負極用炭素質材料の製造方法
本発明の非水電解質二次電池負極用炭素質材料の製造方法は、(1)揮発成分13〜80重量%を含む難黒鉛化性炭素前駆体を粉砕する工程、及び(2)前記粉砕された難黒鉛化性炭素前駆体を250〜800℃の温度で1分以上保持する加熱処理工程、及び(3)到達温度が800〜1600℃で本焼成する焼成工程を含む。前記粉砕工程(1)は、加熱処理工程(2)前に行う。
また、前記加熱処理工程(2)及び焼成工程(3)を同時に行うこともできる。加熱処理及び焼成を同時に行う場合、粉砕された難黒鉛化性炭素前駆体を、到達温度が800〜1600℃で本焼成するすことによって行うことができる。更に、到達温度が350℃以上800℃未満で予備焼成し、そして到達温度が800〜1600℃で本焼成することによっても行うことができる。
本発明の製造方法は、難黒鉛化性炭素材料を得るための製造方法であり、例えば炭素源として、石油ピッチ又は石炭ピッチを用いる場合、前記焼成工程(2)の前に、石油ピッチ又は石炭ピッチを、150〜400℃で酸化する不融化工程を含む。なお、アルデヒド樹脂、セルロース、椰子殻チャー、木炭、コーヒー豆又は熱硬化性樹脂を炭素源として用いる場合は、不融化工程は必須の工程ではない。
また、炭素源として石油ピッチ又は石炭ピッチを用いる場合、硫黄含有量の少ないものを用いることが好ましい。一般的に石炭ピッチは、硫黄を含むものが多い。従って、硫黄含有量の観点からは、石油ピッチを炭素源として用いることが好ましい。
【0026】
本発明の非水電解質二次電池負極用炭素質材料の製造方法によって、本発明の非水電解質二次電池負極用炭素質材料を製造することができる。しかしながら、本発明の非水電解質二次電池負極用炭素質材料は、本発明の製造方法のみによって製造されるものではなく、前記製造方法以外の製造方法によっても、製造することのできるものである。
【0027】
《粉砕工程》
粉砕工程は、難黒鉛化性炭素前駆体の粒径を、均一にするために行うものである。本発明の製造方法においては、難黒鉛化性炭素前駆体は、揮発成分13〜80重量%を含む。従って、一般的には、予備焼成を行うと揮発成分が13重量%未満になることが多いため、粉砕工程は予備焼成の前に行う。一方、前記の石油ピッチ又は石炭ピッチを150〜400℃で酸化する不融化工程では、揮発成分が13重量%未満になることはほとんどないため、粉砕工程は、不融化工程の前に行っても、不融化工程の後に行ってもよい。しかしながら、加熱処理工程(2)を不融化工程と同時に行うことも可能であり、その場合は不融化工程の前に粉砕工程を行う。
粉砕に用いる粉砕機は特に限定されるものではないが、例えばジェットミル、ロッドミル、ボールミル、又はハンマーミルを用いることができる。
【0028】
《焼成工程》
本発明の製造方法における焼成工程は、粉砕された難黒鉛化性炭素前駆体を到達温度が800〜1600℃で焼成する本焼成のみの焼成工程でもよく、粉砕された難黒鉛化性炭素前駆体を到達温度が350℃以上800℃未満で予備焼成し、更に到達温度が800〜1600℃で本焼成を行う焼成工程でもよい。また、予備焼成及び/又は本焼成と、加熱処理工程とを別に行ってもよく、予備焼成及び/又は本焼成と、加熱処理工程とを同時に行ってもよい。以下に、予備焼成及び本焼成の手順の一例を順番に説明する。
【0029】
《予備焼成(仮焼成)》
本発明の製造方法における予備焼成工程は、例えば炭素源を350℃以上800℃未満で焼成することによって行うことができる。予備焼成は、揮発分、例えばCO
2、CO、CH
4、及びH
2などと、タール分とを除去し、本焼成において、それらの発生を軽減し、焼成器の負担を軽減することができる。
炭素源の予備焼成温度の下限は、特に限定されるものではないが、好ましくは350℃以上であり、より好ましくは400℃以上である。予備焼成は、通常の予備焼成の手順にしたがって行うことができる。具体的には、予備焼成は、不活性ガス雰囲気中で行い、不活性ガスとしては、窒素、又はアルゴンなどを挙げることができる。また、予備焼成は、減圧下で行うこともでき、例えば、10KPa以下で行うことができる。予備焼成の時間も特に限定されるものではないが、例えば0.5〜10時間で行うことができ、1〜5時間がより好ましい。
【0030】
《本焼成》
本発明の製造方法における本焼成工程は、通常の本焼成の手順にしたがって行うことができ、本焼成を行うことにより、非水電解質二次電池負極用炭素質材料を得ることができる。
具体的な粉砕炭素前駆体の本焼成の温度は、800〜1600℃であり、好ましくは1000〜1500℃であり、より好ましくは1100〜1400℃である。本焼成は、不活性ガス雰囲気中で行い、不活性ガスとしては、窒素又はアルゴンなどを挙げることができ、更にはハロゲンガスを含有する不活性ガス中で本焼成を行うことも可能である。また、本焼成は、減圧下で行うこともでき、例えば、10KPa以下で行うことも可能である。本焼成の時間も特に限定されるものではないが、例えば0.05〜10時間で行うことができ、0.05〜3時間が好ましく、0.05〜1時間がより好ましい。
【0031】
《タール又はピッチからの難黒鉛化性炭素前駆体の製造》
本発明の製造方法において、タール又はピッチを難黒鉛化性炭素前駆体として用いることができるが、その場合の難黒鉛化性炭素前駆体の製造の一例について以下に説明する。
ピッチ系炭素材料としては、例えば以下のようにして得られたものを用いることができる。すなわち、石油系又は石炭系のタールもしくはピッチに対し、添加剤として沸点200℃以上の2乃至3環の芳香族化合物又はその混合物を加えて加熱して溶融混合した後、成形しピッチ成形体を得る。次にピッチに対し低溶解度を有しかつ添加剤に対して高溶解度を有する溶剤で、ピッチ成形体から添加剤を抽出除去して多孔性ピッチを得る。
【0032】
ピッチと添加剤の混合は、均一な混合を達成するため、加熱し溶融状態で行う。ピッチと添加剤の混合物は、添加剤を混合物から容易に抽出できるようにするため、粒径1mm以下の粒子に成形することが好ましい。成形は溶融状態で行ってもよく、また混合物を冷却後粉砕する等の方法をとってもよい。ピッチと添加剤の混合物から添加剤を抽出除去するための溶剤としては、ブタン、ペンタン、ヘキサン、又はヘプタン等の脂肪族炭化水素、ナフサ、又はケロシン等の脂肪族炭化水素主体の混合物、メタノール、エタノール、プロパノール、又はブタノール等の脂肪族アルコール類が好適である。このような溶剤でピッチと添加剤の混合物成形体から添加剤を抽出することによって、成形体の形状を維持したまま添加剤を成形体から除去することができる。この際に成形体中に添加剤の抜け穴が形成され、均一な多孔性を有するピッチ成形体が得られるものと推定される。
【0033】
本発明の製造方法において用いる難黒鉛化性炭素前駆体は、限定されるものではないが、硫黄含有量が少ないものが好ましい。難黒鉛化性炭素前駆体の硫黄含有量は、好ましくは4000ppm以下であり、より好ましくは3000ppm以下であり、更に好ましくは2000ppm以下であり、更に好ましくは1000ppm以下であり、更に好ましくは500ppm以下である。硫黄含有量が少ないことにより、得られた炭素質材料を用いて製造された非水電解質二次電池は、優れた効率を示すものである。すなわち、硫黄含有量が多い炭素質材料を用いた非水電解質二次電池は、初期効率が悪くなることがある。
また、本発明の製造方法によって得られた難黒鉛化性炭素質材料は、限定されるものではないが、好ましくはBET法により求めた比表面積(BET)と、平均粒子径D
V50及びブタノール真密度ρ
Btを用いて式:6/(D
V50×ρ
Bt)によって得られる比表面積(CALC)との比表面積比(BET/CALC)が4.5以上であり、より好ましくは5.0以上であり、更に好ましくは5.5以上であり、更に好ましくは5.5を超えるものであり、更に好ましくは5.6以上であり、最も好ましくは6.0以上である。高い比表面積比を有する炭素質材料を用いて製造された非水電解質二次電池は、優れた出力特性を示す。また、比表面積比の上限は、限定されるものではないが、好ましくは15.0以下であり、より好ましくは13.0以下であり、更に好ましくは11.0以下である。比表面積比が高すぎると、出力特性が低下することがあるからである。
【0034】
《不融化(酸化)》
前記石油系ピッチ、又は石炭系ピッチの不融化工程は、石油系ピッチ、又は石炭系ピッチなどの多孔性ピッチが架橋されるものであれば、特に限定されるものではないが、例えば、酸化剤を用いて行うことができる。酸化剤も特に限定されるものではないが、気体としては、O
2、O
3、若しくはNO
2を、空気若しくは窒素等で希釈したガス、又はそれらの混合ガス、あるいは空気等の酸化性気体を用いることができる。また、液体としては、硫酸、硝酸、若しくは過酸化水素等の酸化性液体、又はそれらの混合物を用いることができる。
酸化温度も、特に限定されるものではないが、好ましくは、150〜400℃であり、より好ましくは、180〜350℃であり、最も好ましくは200〜300℃である。なお、例えば低温及び/又は短時間で軽度の酸化では、充分な不融化が起こらないため、易黒鉛化性炭素前駆体となることがある。
【0035】
《非水電解質二次電池の製造》
本発明の製造方法によって得られる炭素質材料は、そのまま、あるいは例えば0.5〜15重量%のアセチレンブラックや導電性カーボンブラック等の導電助剤と共に用いられ、更に結合剤(バインダー)を添加し適当な溶媒を適量添加、混練し、電極合剤ペーストとした後に、例えば、円形あるいは矩形の金属板等からなる導電性の集電材に塗布・乾燥後、加圧成形することにより、厚さが10〜500μm、好ましくは10〜200μmの層を形成するなどの方法により、電極製造に用いられる。結合剤としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、及びSBR等、電解液と反応しないものであれば特に限定されない。ポリフッ化ビニリデンの場合、N−メチルピロリドン(NMP)などの極性溶媒が好ましく用いられるが、SBRなどの水性エマルジョンを用いることもできる。結合剤の好ましい添加量は、本発明の負極材料100重量部に対して、0.5〜15重量部である。結合剤の添加量が多すぎると、得られる電極の抵抗が大きくなるため、電池の内部抵抗が大きくなり電池特性を低下させるので好ましくない。また、結合剤の添加量が少なすぎると、負極材料粒子相互及び集電材との結合が不十分となり好ましくない。
【0036】
本発明の負極材料を用いて、非水電解質二次電池の負極を形成した場合、正極材料、セパレータ、電解液など電池を構成する他の材料は特に限定されることなく、非水溶媒二次電池として従来使用され、あるいは提案されている種々の材料を使用することが可能である。
例えば、正極材料としては、層状酸化物系(LiMO
2と表されるもので、Mは金属:例えば、LiCoO
2、LiNiO
2、LiMnO
2、又はLiNi
xCo
yMo
zO
2(ここでx、y、zは組成比を表す)、オリビン系(LiMPO
4で表され、Mは金属:例えばLiFePO
4など)、スピネル系(LiM
2O
4で表され、Mは金属:例えばLiMn
2O
4など)の複合金属カルコゲン化合物が好ましく、これらのカルコゲン化合物を必要に応じて混合してもよい。これらの正極材料を適当なバインダーと電極に導電性を付与するための炭素材料とともに成形して、導電性の集電材上に層形成することにより正極が形成される。
【0037】
これら正極と負極との組み合わせで用いられる非水溶媒型電解液は、一般に非水溶媒に電解質を溶解することにより形成される。非水溶媒としては、例えばプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、γ−ブチルラクトン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、スルホラン、1,3−ジオキソラン等の有機溶媒の一種又は二種以上を組み合わせて用いることができる。また、電解質としては、LiClO
4、LiPF
6、LiBF
4、LiCF
3SO
3、LiAsF
6、LiCl、LiBr、LiB(C
6H
5)
4、又はLiN(SO
3CF
3)
2等が用いられる。二次電池は、一般に上記のようにして形成した正極層と負極層とを必要に応じて不織布、その他の多孔質材料等からなる透液性セパレータを介して対向させ電解液中に浸漬させることにより形成される。セパレータとしては、二次電池に通常用いられる不織布、その他の多孔質材料からなる透過性セパレータを用いることができる。あるいはセパレータの代わりに、もしくはセパレータと一緒に、電解液を含浸させたポリマーゲルからなる固体電解質を用いることもできる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
なお、以下に本発明の非水電解質二次電池負極用炭素質材料の物性値の測定法を記載するが、実施例を含めて、本明細書中に記載する物性値は、以下の方法により求めた値に基づくものである。
【0039】
《評価試験項目》
(XRD測定)
「炭素材料のd
002」:炭素質材料粉末を試料ホルダーに充填し、Niフィルターにより単色化したCuKα線を線源とし、X線回折図形を得る。回折図形のピーク位置は重心法(回折線の重心位置を求め、これに対応する2θ値でピーク位置を求める方法)により求め、標準物質用高純度シリコン粉末の(111)面の回折ピークを用いて補正する。CuKα線の波長を0.15428nmとし、Braggの公式によりd
002を計算する。
d
002=λ/(2sinθ)
【0040】
(比表面積)
「窒素吸着による比表面積」:B.E.T.の式から誘導された近似式Vm=1/(v(1−x))を用いて、液体窒素温度における窒素吸着による1点法(相対圧力x=0.3)によりVmを求め、次式から試料の比表面積を計算した。
比表面積=4.35×Vm(m
2/g)
ここで、Vmは試料表面に単分子層を形成するのに必要な吸着量(cm
3/g)、vは実測される吸着量(cm
3/g)、xは相対圧力である。具体的には、MICROMERITICS社製「Flow Sorb II2300」を用いて、以下のようにして液体窒素温度における炭素質物質への窒素の吸着量を測定した。
炭素材料を試料管に充填し、窒素ガスを30mol%濃度で含有するヘリウムガスを流しながら、試料管を−196℃に冷却し、炭素質材料に窒素を吸着させる。次に、試験管を室温に戻すことで試料から脱離する窒素量を熱伝導度型検出器で測定し、吸着ガス量vとした。
【0041】
(粒径分布の測定)
試料に分散剤(界面活性剤SNウェット366(サンノプコ社製))を加え馴染ませる。次に純水を加えて、超音波により分散させた後、粒径分布測定器(島津製作所社製「SALD−3000S」)で、屈折率を2.0−0.1iとし、粒径0.5〜3000μmの範囲の粒径分布を求めた。
平均粒径D
V50(μm):粒径分布から、累積容積が50%となる粒径をもって平均粒径D
V50とした。
【0042】
(ブタノール真密度)
JIS R7212に定められた方法に準拠し、ブタノールを用いて測定した。内容積約40mLの側管付比重びんの質量(m
1)を正確に量る。次に、この底部に試料を約10mmの厚さになるように平らに入れた後、その質量(m
2)を正確に量る。これに1−ブタノールを静かに加えて、底から20mm程度の深さにする。次に比重びんに軽い振動を加えて、大きな気泡の発生がなくなったのを確かめた後、真空デシケーター中に入れ、徐々に排気して2.0〜2.7kPaとする。その圧力に20分間以上保ち、気泡の発生が止まったのち取り出して、更に1−ブタノールで満たし、栓をして恒温水槽(30±0.03℃に調節してあるもの)に15分間以上浸し、1−ブタノールの液面を標線に合わせる。次に、これを取り出して外部をよくぬぐって室温まで冷却した後、質量(m
4)を正確に量る。次に同じ比重びんに1−ブタノールで満たし、前記と同じようにして恒温水槽に浸し、標線を合わせた後、質量(m
3)を量る。また、使用直前に沸騰させて溶解した期待を除いた蒸留水を比重びんにとり、前と同様に恒温水槽に浸し、標線を合わせた後質量(m
5)を量る。真密度(ρ
Bt)は次の式により計算する。
【数1】
(ここでdは水の30℃における比重(0.9946)である。)
【0043】
(水素/炭素(H/C)の原子比)
JIS M8819に定められた方法に準拠し測定した。すなわち、CHNアナライザー(Perkin−elmer社製2400II)による元素分析により得られる試料中の水素及び炭素の重量割合をそれぞれの元素の質量数で除し、水素/炭素の原子数の比を求めた。
【0044】
(揮発成分の測定)
揮発成分の量は、以下のように行った。測定サンプル(粉砕した炭素前駆体)を20mg正確に量り取り、白金製パンに載せて装置(島津製作所社製DTG−50)にセットした。窒素ガスを200mL/minで流し、昇温速度10℃/minで室温から1000℃まで昇温して、重量の減少を測定した。リファレンスとして島津製作所社製のαアルミナを用いた。
【0045】
(硫黄含有量の測定)
JIS K0103に定められた方法に準拠し、硫黄含有量を測定した。
30%過酸化水素水10mLを990mLの蒸留水で希釈し、吸収液とした。250mLの容積の二つの吸収瓶に50mLの吸収液をそれぞれ入れ、二つを連結した。吸引ポンプを作動させ、試料の燃焼ガスを吸収瓶に通した。このとき、流量を1L/minに調節した。
吸収瓶の内容液をビーカーに移し、更に吸収瓶を蒸留水で洗浄し、洗浄液もビーカーに加えた。この内容液を定量範囲内になるように希釈し、分析用試料溶液とした。分析用試料溶液中の硫黄濃度を、イオンクロマトグラフ法を用いて測定した。イオンクロマトグラフはサプレッサー型、電気伝導度検出器付きのものを用い、また、カラムはダイオネックス社製AS−4A SCを用いた。溶離液として、炭酸水素ナトリウム(1.7mM)と炭酸ナトリウム(1.8mM)の混合水溶液を調製した。イオンクロマトグラムを測定可能な状態にし、分離カラムに溶離液を一定の流量で流した。分析用試料溶液の一定量をイオンクロマトグラムに導入し、クロマトグラムを記録した。あらかじめ作成しておいた検量線から硫酸イオン濃度(a)(mg/mL)を求めた。同様の操作を吸収液に対しても繰り返し行い、硫酸イオンの空試験値(b)(mg/mL)を求めた。試料ガス中の硫黄酸化物の体積分率(Cv)(vol ppm)を、フラスコ全量vと試料ガス採取量Vsを用いて、以下の式より求めた。
Cv=0.233×(a−b)×v×1000/Vs
更に、試料ガス中の硫黄酸化物を二酸化硫黄として表した時の質量濃度(Cw)(mg/m
3)を以下の式より求めた。
Cw=Cv×2.86
【0046】
《実施例1》
軟化点205℃、H/C原子比0.65の石油系ピッチ70kgと、ナフタレン30kgとを、撹拌翼及び出口ノズルのついた内容積300リットルの耐圧容器に仕込み、190℃で加熱溶融混合を行った後、80〜90℃に冷却し、耐圧容器内を窒素ガスにより加圧して、内容物を出口ノズルから押し出し、直径約500μmの紐状成型体を得た。ついで、この紐状成型体を直径(D)と長さ(L)の比(L/D)が約1.5になるように粉砕し、得られた粉砕物を93℃に加熱した0.53質量%のポリビニルアルコール(ケン化度88%)を溶解した水溶液中に投入し、攪拌分散し、冷却して球状ピッチ成型体スラリーを得た。大部分の水をろ過により取り除いた後に、球状ピッチ成型体の約6倍量の重量のn−ヘキサンでピッチ成型体中のナフタレンを抽出除去した。このようにして得た多孔性球状ピッチを、流動床を用いて、加熱空気を通じながら、270℃まで昇温し、270℃で1時間保持して酸化し、熱に対して不融性の多孔性球状酸化ピッチ(炭素前駆体(不融化))を得た。
次に酸化ピッチ100gをジェットミル(ホソカワミクロン社AIR JET MILL;MODEL 100AFG)により、回転数7000rpmで粉砕し、平均粒径約10μmの粉砕炭素前駆体とした。次に、内径50mm、高さ900mmの縦型管状炉に入れて、装置下部から常圧の窒素ガスを0.3NL/minの流量で流しながら650℃まで昇温し、650℃で一時間保持して予備炭素化(仮焼成)を実施し、仮焼成粉砕炭素前駆体を得た。本実施例における加熱処理は、予備炭素化と同時に行われた。次に、仮焼成粉砕炭素前駆体10gを直径100mmの横型管状炉に入れ、250℃/hの昇温速度で1200℃まで昇温し、1200℃で一時間保持して、本焼成を行い、炭素質材料1を調製した。なお、本焼成は、流量10L/minの窒素雰囲気下で行った。
【0047】
《実施例2》
ジェットミルの回転数を6300rpmにした以外は、実施例1と同様にして炭素質材料2を調製した。本実施例における加熱処理は、予備炭素化と同時に行われた。
【0048】
《実施例3》
ジェットミルの回転数を12000rpmにした以外は、実施例1と同様にして炭素質材料3を調製した。本実施例における加熱処理は、予備炭素化と同時に行われた。
【0049】
《実施例4》
多孔性球状ピッチを酸化する前に粉砕した以外は、実施例1と同様にして炭素質材料4を調製した。
粉砕及び酸化は、具体的には以下のとおり行った。多孔性球状ピッチ(前炭素前駆体(不融化前))100gをジェットミルにより、回転数6500rpmで粉砕し、平均粒径約10μmの粉砕炭素前駆体(不融化前)とした。粉砕炭素前駆体(不融化前)をマッフル炉(株式会社デンケン KDF−100)で加熱空気を通じながら、260℃まで昇温し、260℃で1時間保持して酸化し、熱に対して不融性の粉砕炭素前駆体を得た。本実施例におけるほとんどの加熱処理は、予備炭素化と同時に行われた。
【0050】
《実施例5》
実施例1の酸化条件を245℃にした以外は、実施例1と同様にして炭素質材料5を調製した。本実施例における加熱処理は、予備炭素化と同時に行われた。
【0051】
《比較例1》
予備焼成後に粉砕した以外は、実施例1と同様にして比較炭素質材料1を調製した。
予備焼成、粉砕は、具体的には以下のとおり行った。炭素前駆体を内径50mmの縦型管状炉に入れて、装置下部から常圧の窒素ガスを5NL/minの流量で流しながら650℃まで昇温し、650℃で一時間保持して予備炭素化(仮焼成)を実施し、予備焼成炭素前駆体を得た。次に予備焼成炭素前駆体をジェットミルにより、回転数6500rpmで粉砕し、平均粒径約10μmの予備焼成粉砕炭素前駆体とした。
【0052】
《比較例2》
予備焼成後に粉砕した以外は、実施例2と同様にして比較炭素質材料2を調製した。
予備焼成、粉砕は、具体的には以下のとおり行った。炭素前駆体を内径50mmの縦型管状炉に入れて、装置下部から常圧の窒素ガスを5NL/minの流量で流しながら650℃まで昇温し、650℃で一時間保持して予備炭素化(仮焼成)を実施し、予備焼成炭素前駆体を得た。次に予備焼成炭素前駆体をジェットミルにより、回転数12000rpmで粉砕し、平均粒径約5μmの予備焼成粉砕炭素前駆体とした。
【0053】
《比較例3》
予備焼成後に粉砕した以外は、実施例5と同様にして比較炭素質材料3を調製した。
【0054】
《比較例4》
本実施例では、硫黄含有量の多い石炭ピッチを用いて、比較炭素質材料4を調製した。
軟化点212℃の石炭ピッチを用いたこと以外は実施例4と同様にして比較炭素質材料4を調製した。
【0055】
《測定セルの作成方法》
前記各実施例及び比較例で製造した負極材料(炭素質材料1〜4及び比較炭素質材料1〜2)を用いて、以下のようにして非水電解液二次電池を作成し、その特性を評価した。本発明の負極材料は非水電解質二次電池の負極として適しているが、電池活物質の放電容量及び不可逆容量を、対極性能のバラツキに影響されることなく精度良く評価するために、特性の安定したリチウム金属を対極として、前記で得られた電極を用いてリチウム二次電池を構成し、その特性を評価した。
正極(炭素極)は次のようにして製造した。各例で製造した負極材料(炭素質材料)を90重量部、ポリフッ化ビニリデン10重量部に、N−メチル−2−ピロリドンを加えてペースト状とし、ペーストを銅箔上に均一に塗布し、乾燥させた後、シート状の電極を直径15mmの円盤状に打ち抜き、これをプレスして電極とした。電極中の炭素質材料(負極材料)の重量は10mgになるように調整し、炭素材料の充填率が約67%となるようにプレスした。
負極(リチウム極)の調製は、Arガス雰囲気中のグローブボックス内で行った。予め2016サイズのコイン型電池用缶の外蓋に直径16mmのステンレススチール網円盤をスポット溶接した後、厚さ0.8mmの金属リチウム薄板を直径15mmの円盤状に打ち抜いたものをステンレススチール網円盤に圧着し、電極とした。
このようにして製造した正極及び負極を用い、電解液としてはエチレンカーボネートとジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートを容量比1:2:2で混合した混合溶媒に1.5mol/Lの割合でLiPF
6を加えたものを使用し、直径19mmの硼珪酸塩ガラス繊維製微細孔膜をセパレータとして、ポリエチレン製のガスケットを用いて、Ar雰囲気のグローブボックス内で2016サイズのコイン型非水電解質リチウム二次電池を組み立てた。
【0056】
《電池容量の測定》
上記構成のリチウム二次電池について、充放電試験装置(東洋システム製「TOSCAT」)を用いて充放電試験を行い、充放電は定電流定電圧法により行った。ここで、「充電」は試験電池では放電反応であるが、この場合は炭素材へのリチウム挿入反応であるので、便宜上「充電」と記述する。逆に「放電」とは試験電池では充電反応であるが、炭素材からのリチウムの脱離反応であるため、便宜上「放電」と記述することにする。ここで採用した定電流定電圧法は、電池電圧が0Vになるまで一定の電流密度0.5mA/cm
2で充電を行い、その後、電圧を0Vに保持するように(定電圧を保持しながら)電流値を連続的に変化させて電流値が20μAに達するまで充電を継続する。このとき供給した電気量を電極の炭素材の重量で除した値を炭素材の単位重量あたりの充電容量(mAh/g)と定義した。充電終了後、30分間電池回路を開放し、その後放電を行った。放電は電池電圧が1.5Vに達するまで一定の電流密度0.5mA/cm
2で行い、このとき放電した電気量を電極の炭素材の重量で除した値を炭素材の単位重量あたりの放電容量(mAh/g)と定義する。不可逆容量は、充電量−放電量として計算される。
同一試料を用いて作製した試験電池についてのn=3の測定値を平均して充放電容量及び不可逆容量を決定した。
【0057】
《急速放電試験》
上記の電池を用いて急速放電試験を以下の方法で行った。(電池容量の測定)に従い充放電を行った後に、充電電流密度は2.5mA/cm
2一定の低電圧定電流法でドーピングを行い、放電電流密度は5mA/cm
2、10mA/cm
2、15mA/cm
2、20mA/cm
2、25mA/cm
2と変化させて脱ドーピングを行った。各電流密度で放電したときの放電容量を放電電流密度が0.5mA/cm
2の時の放電容量で除した値を各放電電流での放電容量維持率とした。
各実施例及び比較例の炭素質材料を用いて製造した電池の、25mA/cm
2での容量維持率を表1に、実施例1及び比較例1の炭素質材料1及び比較炭素質材料1を用いて製造した電池の、5mA/cm
2〜25mA/cm
2の電流密度での容量維持率を
図1に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】