特許第6573557号(P6573557)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6573557
(24)【登録日】2019年8月23日
(45)【発行日】2019年9月11日
(54)【発明の名称】紙の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D21H 17/63 20060101AFI20190902BHJP
   D21H 11/14 20060101ALI20190902BHJP
   D21H 21/02 20060101ALI20190902BHJP
【FI】
   D21H17/63
   D21H11/14
   D21H21/02
【請求項の数】3
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2016-10287(P2016-10287)
(22)【出願日】2016年1月22日
(65)【公開番号】特開2017-128834(P2017-128834A)
(43)【公開日】2017年7月27日
【審査請求日】2018年8月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100126985
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 充利
(74)【代理人】
【識別番号】100141265
【弁理士】
【氏名又は名称】小笠原 有紀
(74)【代理人】
【識別番号】100129311
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 規之
(72)【発明者】
【氏名】乙幡 隆範
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 浩由
【審査官】 堀内 建吾
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−057667(JP,A)
【文献】 特開平11−128989(JP,A)
【文献】 特開2000−234295(JP,A)
【文献】 特開平09−209299(JP,A)
【文献】 特開2009−057645(JP,A)
【文献】 特開2012−097371(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B1/00−D21J7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
古紙を含む製紙原料の固形分100重量部に対し0.1〜20重量部の古紙原料由来でない硫酸カルシウムを添加し、前記原料を離解して紙料を得る工程、および
前記紙料を抄紙する抄紙工程を含む、
紙の製造方法。
【請求項2】
前記硫酸カルシウムがCaSO・2HOまたはCaSO・0.5HOである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記抄紙工程におけるヘッドボックス内の前記紙料の硫酸カルシウムの20℃における以下に定義される過飽和度が0.1〜2.0である、
過飽和度=(硫酸イオン濃度)×(カルシウムイオン濃度)/(硫酸カルシウムの飽和濃度)
請求項1に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は紙の製造方法に関し、より詳しくは古紙を含む製紙原料の離解工程において特定量の硫酸カルシウムを添加することを含む、紙の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の環境問題等を考慮して古紙の再利用が実施されている。例えば特許文献1には、廃石膏ボードから石膏残渣等を除去して古紙パルプを回収する方法が提案されている。
【0003】
ところで紙の製造においては種々の薬品が使用されるので、各工程において薬品の反応等に起因して不溶性または難溶性の物質が生成して装置等に付着するという、いわゆるスケールがしばしば発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4299354号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
古紙原料を用いると硫酸カルシウムスケールの問題が特に顕著になる。これは添加される硫酸バンド由来の硫酸イオンと古紙原料に含まれる炭酸カルシウム由来のカルシウムイオンとの反応によって硫酸カルシウムが生成し、装置の壁等の表面で結晶化することが一因である。特に、硫酸カルシウムは強固で固いスケールを発生させるので除去が困難であり操業性を著しく低下させる。以上を鑑み、本発明は硫酸カルシウムスケールを低減した紙の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者らは、離解工程において特定量の硫酸カルシウムを添加することで前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。すなわち、前記課題は以下の本発明により解決される。
(1)古紙を含む製紙原料の固形分100重量部に対し0.1〜20重量部の硫酸カルシウムを添加し、前記原料を離解して紙料を得る工程、および前記紙料を抄紙する抄紙工程を含む、紙の製造方法。

(2)前記硫酸カルシウムがCaSO・2HOまたはCaSO・0.5HOである、(1)に記載の製造方法。
(3)前記硫酸カルシウムを添加する工程が、石膏ボード由来の古紙原料であって硫酸カルシウムを含有する古紙原料を添加する工程である、(1)に記載の製造方法。
(4)前記抄紙工程において、ヘッドボックス内の前記紙料の硫酸カルシウムの20℃における過飽和度が0.1〜2.0である、請求項1に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明により硫酸カルシウムスケールを低減した紙の製造方法が提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明において「〜」はその両端の値を含む。すなわち「X〜Y」との範囲は両端の値XおよびYを含む。
【0009】
1.紙の製造方法
古紙を含む製紙原料の固形分100重量部に対し0.1〜20重量部の硫酸カルシウムを添加し、前記原料を離解して紙料を得る工程、および前記紙料を抄紙する抄紙工程を含む。
【0010】
(1)古紙を含む製紙原料
古紙を含む製紙原料とは、一度製造された紙から回収した古紙を含む製紙用の原料である。したがって当該原料から得られる紙料は、パルプ繊維以外に填料や塗工層由来の顔料等を含む。本発明においては、例えば、印刷用紙、板紙等の通常の紙由来の古紙を含む製紙原料を使用できる。以下、本発明で用いる古紙を含む製紙原料を「原料A」ともいう。後述するとおり、本発明は原料Aに硫酸カルシウムを添加するために、原料Aに石膏ボード由来の古紙を添加する態様を含む。石膏ボード由来の古紙は通常、原料の全固形分中10〜50重量%程度の石膏(硫酸カルシウム)を含む。よって、本発明で使用する原料Aは硫酸カルシウムを含まないか、前記濃度未満の硫酸カルシウムを含むことが好ましい。
【0011】
(2)硫酸カルシウム
本工程では前記原料(原料A)に硫酸カルシウムを添加する。硫酸カルシウムとはカルシウムの硫酸塩であり、無水物(CaSO)、0.5水和物(CaSO・0.5HO)、および2水和物(CaSO・2HO)が存在する。本発明においては入手が容易であることから、2水和物または0.5水和物が好ましく、2水和物がより好ましい。粒状の硫酸カルシウムを添加することが好ましい。
【0012】
硫酸カルシウムを添加することでスケールが回避できるメカニズムは後述するが、硫酸カルシウムの添加量が少なすぎるとこの効果が十分でなく、多すぎると製品に含まれる硫酸カルシウムの含有量が増加し、製品強度の低下を引き起こす恐れがある。よって、硫酸カルシウムの添加量は原料の固形分の合計100重量部に対して0.1〜20重量部であり、好ましくは0.3〜15重量部である。原料の固形分とは、原料Aに含まれるすべての固形成分であり、パルプ、填料、および顔料等である。
【0013】
硫酸カルシウムの添加は、石膏ボード由来の古紙原料であって硫酸カルシウムを含有する古紙原料を添加することによって行ってもよい。石膏ボード由来の古紙原料であって硫酸カルシウムを含有する古紙原料とは、廃石膏ボードから得られる材料であり、石膏(硫酸カルシウム)の他にパルプ繊維等を含んでいてもよい。当該古紙原料(以下「原料B」ともいう)の配合割合は、前記硫酸カルシウムの濃度を達成できるように適宜調整されるが、100重量部の原料Aに対して、50重量部未満であることが好ましく、40重量部以下であることがより好ましく、30重量部以下であることがさらに好ましい。原料Bの前記添加量が多いと抄紙した際の紙の灰分が高くなり、強度の低下などを引き起こす恐れがあるので好ましくない。したがって、原料Bと、これとは別の硫酸カルシウムを併用して、前記濃度を達成してもよい。
【0014】
(3)パルプの離解
本工程では、硫酸カルシウムが添加された原料Aを離解する。離解はパルパー等の当該分野で通常使用される装置を用いて実施できる。離解条件等も当該分野で公知のとおりとしてよい。当該工程で得られる紙料中の硫酸カルシウム濃度は紙料中0.1〜20重量%であることが好ましい。
【0015】
(4)パルプ処理、調成
上記離解後、異物を除去するために、当該分野で公知のクリーナーや丸穴スクリーン、スリットスクリーンなどの装置を用いて離解されたパルプを処理することができる。必要に応じて洗浄や濃縮処理を行ってもよい。ただしこれらの処理は必ずしも石膏分の除去を目的とはしない。また、必要に応じて歩留剤、紙力増強剤、凝集剤など、当該分野で公知の薬品を添加してもよい。
【0016】
(5)抄紙
本工程においては、前記(1)〜(4)の工程を含む方法で製造した紙料を抄紙する。抄紙工程は当該分野で公知の装置および条件を適用して実施してよい。例えば、抄紙機としては、長網型湿式抄紙機、ツインワイヤー抄紙機、ヤンキー抄紙機、円網抄紙機、円網短網コンビネーション抄紙機が挙げられる。
【0017】
2.メカニズム等
本発明によって硫酸カルシウムのスケールが低減できるメカニズムは限定されないが、添加した硫酸カルシウムが種晶のような機能を発現することによると考えられる。すなわち、添加した硫酸カルシウム表面に、紙料中や白水中(以下まとめて「系中」ともいう)に存在する硫酸イオンおよびカルシウムイオンが硫酸カルシウムを生成しながら析出する。つまり系中に存在する当該イオンを添加した硫酸カルシウムがトラップするので、装置の壁等へのスケールが妨げられると考えられる。
【0018】
一方、添加した硫酸カルシウムが存在しないと、系中では硫酸イオンおよびカルシウムイオンの濃度が高くなって過飽和の状態となり、装置の壁等に核となる箇所があればそこを起点にスケールが発生する。したがって、系中の硫酸カルシウムの過飽和度により、製造工程におけるスケールの発生しやすさをモニターすることができる。過飽和度は20℃において具体的に(硫酸イオン濃度)×(カルシウムイオン濃度)/(硫酸カルシウムの飽和濃度)として求めることができる。本発明においては紙料中の過飽和度が0.1〜2.0であることが好ましく、0.1〜1.9であることがより好ましく、0.1〜1.8であることがさらに好ましく0.1〜1.3であることが特に好ましい。また、硫酸や硫酸バンドなどの薬品を試料に添加することで過飽和度を調整することができる。本発明においてはヘッドボックス中の紙料の過飽和度が前記範囲にあることが好ましい。ヘッドボックスとは紙料を貯留し、抄紙網に紙料を供給するための装置である。
【0019】
3.本発明で得られる紙
添加した硫酸カルシウムおよび系中の前記イオンをトラップした硫酸カルシウムは最終的に製造される紙の中に取り込まれ、取り込まれない分は製造工程中を循環する。このため、本発明によって製造された紙中の硫酸カルシウム濃度は比較的高い。硫酸カルシウムは、紙の全固形成分100重量部中、0.1〜20重量部含まれることが好ましい。
【実施例】
【0020】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。
古紙を含む製紙原料として、段ボール古紙および雑誌古紙を50/50(重量比)で混合したものを用い、長網抄紙機を用いて紙を製造した。
【0021】
[実施例1]
古紙を含む製原料の固形成分100重量部に対し0.5重量部の硫酸カルシウムを添加し、パルパーを用いてパルプを離解した。その後、クリーナーを用いて重量異物を除去した後、スリットスクリーン(0.25mm巾)を用いて異物を除去した。このようにして得た紙料をヘッドボックスから長網抄紙機に吐出して抄紙速度300m/分で抄紙して、坪量が120g/mの紙を製造した。製造開始時点でヘッドボックス内の紙料を採取して、20℃の雰囲気下に静置した。次いで紙料中の硫酸イオン濃度およびカルシウムイオン濃度を測定した。前述の式に基づいて硫酸カルシウム過飽和度を算出したところ、1.3であった。本例ではいずれの工程においてもスケールは発生しなかった。
【0022】
[比較例1]
硫酸カルシウムを添加しなかった以外は実施例1と同様にして紙を製造した。製造開始時の硫酸カルシウム過飽和度は2.5であった。本例で、このまま製造を継続するとスケールが発生した。
【0023】
[実施例2]
古紙を含む製紙原料の固形成分100重量部に対し3.2重量部の硫酸カルシウムを添加した以外は、実施例1と同様にして紙を製造した。製造開始時点における紙料中の硫酸カルシウム過飽和度は2.0であった。本例ではいずれの工程においてもスケールは発生しなかった。
【0024】
[比較例2]
硫酸カルシウムを添加しなかった以外は実施例1と同様にして紙を製造した。製造開始時の硫酸カルシウム過飽和度は2.1であった。本例で製造を継続するとスケールが発生した。
【0025】
本発明により、スケールを発生させることなく紙を製造することが可能となる。