(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。まず、本実施形態のライトオフ異常判定方法を行う対象となるセンサ素子及びこれを備えたガスセンサについて説明する。
図1は、センサ素子101を備えたガスセンサ100の構成の一例を概略的に示した断面模式図である。なお、センサ素子101は長尺な直方体形状をしており、このセンサ素子101の長手方向(
図1の左右方向)を前後方向とし、センサ素子101の厚み方向(
図1の上下方向)を上下方向とする。また、センサ素子101の幅方向(前後方向及び上下方向に垂直な方向)を左右方向とする。
【0022】
センサ素子101は、それぞれがジルコニア(ZrO
2)等の酸素イオン伝導性固体電解質層からなる第1基板層1と、第2基板層2と、第3基板層3と、第1固体電解質層4と、スペーサ層5と、第2固体電解質層6との6つの層が、図面視で下側からこの順に積層された構造を有する素子である。また、これら6つの層を形成する固体電解質は緻密な気密のものである。係るセンサ素子101は、例えば、各層に対応するセラミックスグリーンシートに所定の加工および回路パターンの印刷などを行った後にそれらを積層し、さらに、焼成して一体化させることによって製造される。
【0023】
センサ素子101の一先端部であって、第2固体電解質層6の下面と第1固体電解質層4の上面との間には、ガス導入口10と、第1拡散律速部11と、緩衝空間12と、第2拡散律速部13と、第1内部空所20と、第3拡散律速部30と、第2内部空所40と、第4拡散律速部60と、第3内部空所61とが、この順に連通する態様にて隣接形成されてなる。
【0024】
ガス導入口10と、緩衝空間12と、第1内部空所20と、第2内部空所40と、第3内部空所61とは、スペーサ層5をくり抜いた態様にて設けられた上部を第2固体電解質層6の下面で、下部を第1固体電解質層4の上面で、側部をスペーサ層5の側面で区画されたセンサ素子101内部の空間である。
【0025】
第1拡散律速部11と、第2拡散律速部13と、第3拡散律速部30とはいずれも、2本の横長の(図面に垂直な方向に開口が長手方向を有する)スリットとして設けられる。また、第4拡散律速部60は、第2固体電解質層6の下面との隙間として形成された1本の横長の(図面に垂直な方向に開口が長手方向を有する)スリットとして設けられる。なお、ガス導入口10から第3内部空所61に至る部位をガス流通部とも称する。
【0026】
また、ガス流通部よりも先端側から遠い位置には、第3基板層3の上面と、スペーサ層5の下面との間であって、側部を第1固体電解質層4の側面で区画される位置に基準ガス導入空間43が設けられている。基準ガス導入空間43には、NOx濃度の測定を行う際の基準ガスとして、例えば大気が導入される。
【0027】
大気導入層48は、多孔質セラミックスからなる層であって、大気導入層48には基準ガス導入空間43を通じて基準ガスが導入されるようになっている。また、大気導入層48は、基準電極42を被覆するように形成されている。
【0028】
基準電極42は、第3基板層3の上面と第1固体電解質層4とに挟まれる態様にて形成される電極であり、上述のように、その周囲には、基準ガス導入空間43につながる大気導入層48が設けられている。また、後述するように、基準電極42を用いて第1内部空所20内,第2内部空所40内,及び第3内部空所61内の酸素濃度(酸素分圧)を測定することが可能となっている。
【0029】
ガス流通部において、ガス導入口10は、外部空間に対して開口してなる部位であり、該ガス導入口10を通じて外部空間からセンサ素子101内に被測定ガスが取り込まれるようになっている。第1拡散律速部11は、ガス導入口10から取り込まれた被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する部位である。緩衝空間12は、第1拡散律速部11より導入された被測定ガスを第2拡散律速部13へと導くために設けられた空間である。第2拡散律速部13は、緩衝空間12から第1内部空所20に導入される被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する部位である。被測定ガスが、センサ素子101外部から第1内部空所20内まで導入されるにあたって、外部空間における被測定ガスの圧力変動(被測定ガスが自動車の排気ガスの場合であれば排気圧の脈動)によってガス導入口10からセンサ素子101内部に急激に取り込まれた被測定ガスは、直接第1内部空所20へ導入されるのではなく、第1拡散律速部11、緩衝空間12、第2拡散律速部13を通じて被測定ガスの濃度変動が打ち消された後、第1内部空所20へ導入されるようになっている。これによって、第1内部空所20へ導入される被測定ガスの濃度変動はほとんど無視できる程度のものとなる。第1内部空所20は、第2拡散律速部13を通じて導入された被測定ガス中の酸素分圧を調整するための空間として設けられている。係る酸素分圧は、主ポンプセル21が作動することによって調整される。
【0030】
主ポンプセル21は、第1内部空所20に面する第2固体電解質層6の下面のほぼ全面に設けられた天井電極部22aを有する内側ポンプ電極22と、第2固体電解質層6の上面の天井電極部22aと対応する領域に外部空間に露出する態様にて設けられた外側ポンプ電極23と、これらの電極に挟まれた第2固体電解質層6とによって構成されてなる電気化学的ポンプセルである。
【0031】
内側ポンプ電極22は、第1内部空所20を区画する上下の固体電解質層(第2固体電解質層6および第1固体電解質層4)、および、側壁を与えるスペーサ層5にまたがって形成されている。具体的には、第1内部空所20の天井面を与える第2固体電解質層6の下面には天井電極部22aが形成され、また、底面を与える第1固体電解質層4の上面には底部電極部22bが形成され、そして、それら天井電極部22aと底部電極部22bとを接続するように、側部電極部(図示省略)が第1内部空所20の両側壁部を構成するスペーサ層5の側壁面(内面)に形成されて、該側部電極部の配設部位においてトンネル形態とされた構造において配設されている。
【0032】
内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23とは、多孔質サーメット電極(例えば、Auを1%含むPtとZrO
2とのサーメット電極)として形成される。なお、被測定ガスに接触する内側ポンプ電極22は、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を弱めた材料を用いて形成される。
【0033】
主ポンプセル21においては、内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間に所望のポンプ電圧Vp0を印加して、内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間に正方向あるいは負方向にポンプ電流Ip0を流すことにより、第1内部空所20内の酸素を外部空間に汲み出し、あるいは、外部空間の酸素を第1内部空所20に汲み入れることが可能となっている。
【0034】
また、第1内部空所20における雰囲気中の酸素濃度(酸素分圧)を検出するために、内側ポンプ電極22と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、基準電極42によって、電気化学的なセンサセル、すなわち、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80が構成されている。
【0035】
主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80における起電力V0を測定することで第1内部空所20内の酸素濃度(酸素分圧)がわかるようになっている。さらに、起電力V0が所定の目標値V0*になるように(近付くように)可変電源24のポンプ電圧Vp0をフィードバック制御することでポンプ電流Ip0が制御されている。これによって、第1内部空所内20内の酸素濃度は所定の一定値に保つことができる。
【0036】
第3拡散律速部30は、第1内部空所20で主ポンプセル21の動作により酸素濃度(酸素分圧)が制御された被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与して、該被測定ガスを第2内部空所40に導く部位である。
【0037】
第2内部空所40は、あらかじめ第1内部空所20において酸素濃度(酸素分圧)が調整された後、第3拡散律速部30を通じて導入された被測定ガスに対して、さらに補助ポンプセル50による酸素分圧の調整を行うための空間として設けられている。これにより、第2内部空所40内の酸素濃度を高精度に一定に保つことができるため、係るガスセンサ100においては精度の高いNOx濃度測定が可能となる。
【0038】
補助ポンプセル50は、第2内部空所40に面する第2固体電解質層6の下面の略全体に設けられた天井電極部51aを有する補助ポンプ電極51と、外側ポンプ電極23(外側ポンプ電極23に限られるものではなく、センサ素子101の外側の適当な電極であれば足りる)と、第2固体電解質層6とによって構成される、補助的な電気化学的ポンプセルである。
【0039】
係る補助ポンプ電極51は、先の第1内部空所20内に設けられた内側ポンプ電極22と同様なトンネル形態とされた構造において、第2内部空所40内に配設されている。つまり、第2内部空所40の天井面を与える第2固体電解質層6に対して天井電極部51aが形成され、また、第2内部空所40の底面を与える第1固体電解質層4には、底部電極部51bが形成され、そして、それらの天井電極部51aと底部電極部51bとを連結する側部電極部(図示省略)が、第2内部空所40の側壁を与えるスペーサ層5の両壁面にそれぞれ形成されたトンネル形態の構造となっている。なお、補助ポンプ電極51についても、内側ポンプ電極22と同様に、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を弱めた材料を用いて形成される。
【0040】
補助ポンプセル50においては、補助ポンプ電極51と外側ポンプ電極23との間に所望の電圧Vp1を印加することにより、第2内部空所40内の雰囲気中の酸素を外部空間に汲み出し、あるいは、外部空間から第2内部空所40内に汲み入れることが可能となっている。
【0041】
また、第2内部空所40内における雰囲気中の酸素分圧を制御するために、補助ポンプ電極51と、基準電極42と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3とによって電気化学的なセンサセル、すなわち、補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル81が構成されている。
【0042】
なお、この補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル81にて検出される起電力V1に基づいて電圧制御される可変電源52にて、補助ポンプセル50がポンピングを行う。具体的には、起電力V1が所定の目標値V1*になるように(近付くように)可変電源52のポンプ電圧Vp1をフィードバック制御することで、補助ポンプセル50のポンプ電流Ip1が制御されている。これにより第2内部空所40内の雰囲気中の酸素分圧は、NOxの測定に実質的に影響がない低い分圧にまで制御されるようになっている。
【0043】
また、これとともに、そのポンプ電流Ip1が、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80の起電力の制御に用いられるようになっている。具体的には、ポンプ電流Ip1は、制御信号として主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80に入力され、その起電力V0が制御される。より具体的には、ポンプ電流Ip1の値に基づいて、上述した電圧Vp0をフィードバック制御する際の起電力V0の目標値V0*が決定される。これにより、第3拡散律速部30から第2内部空所40内に導入される被測定ガス中の酸素分圧の勾配が常に一定となるように制御されている。NOxセンサとして使用する際は、主ポンプセル21と補助ポンプセル50との働きによって、第2内部空所40内での酸素濃度は約0.001ppm程度の一定の値に保たれる。
【0044】
第4拡散律速部60は、第2内部空所40で補助ポンプセル50の動作により酸素濃度(酸素分圧)が制御された被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与して、該被測定ガスを第3内部空所61に導く部位である。第4拡散律速部60は、第3内部空所61に流入するNOxの量を制限する役割を担う。
【0045】
第3内部空所61は、あらかじめ第2内部空所40において酸素濃度(酸素分圧)が調整された後、第4拡散律速部60を通じて導入された被測定ガスに対して、被測定ガス中の窒素酸化物(NOx)濃度の測定に係る処理を行うための空間として設けられている。NOx濃度の測定は、主として、第3内部空所61において、測定用ポンプセル41の動作により行われる。
【0046】
測定用ポンプセル41は、第3内部空所61内において、被測定ガス中のNOx濃度の測定を行う。測定用ポンプセル41は、第3内部空所61に面する第1固体電解質層4の上面に設けられた測定電極44と、外側ポンプ電極23と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4とによって構成された電気化学的ポンプセルである。測定電極44は、多孔質サーメット電極である。測定電極44は、第3内部空所61内の雰囲気中に存在するNOxを還元するNOx還元触媒としても機能する。
【0047】
測定用ポンプセル41においては、測定電極44の周囲の雰囲気中における窒素酸化物の分解によって生じた酸素を汲み出して、その発生量をポンプ電流Ip2として検出することができる。
【0048】
また、測定電極44の周囲の酸素分圧を検出するために、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、測定電極44と、基準電極42とによって電気化学的なセンサセル、すなわち、測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82が構成されている。測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82にて検出された起電力V2に基づいて可変電源46が制御される。
【0049】
第2内部空所40内に導かれた被測定ガスは、酸素分圧が制御された状況下で第4拡散律速部60を通じて第3内部空所61内の測定電極44に到達することとなる。測定電極44の周囲の被測定ガス中の窒素酸化物は還元されて(2NO→N
2+O
2)酸素を発生する。そして、この発生した酸素は測定用ポンプセル41によってポンピングされることとなるが、その際、測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82にて検出された起電力V2が所定の目標値V2*になるように(近付くように)可変電源46の電圧Vp2がフィードバック制御される。測定電極44の周囲において発生する酸素の量は、被測定ガス中の窒素酸化物の濃度に比例するものであるから、測定用ポンプセル41におけるポンプ電流Ip2を用いて被測定ガス中の窒素酸化物濃度が算出されることとなる。
【0050】
また、測定電極44と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、基準電極42とを組み合わせて、電気化学的センサセルとして酸素分圧検出手段を構成するようにすれば、測定電極44の周りの雰囲気中のNOx成分の還元によって発生した酸素の量と基準大気に含まれる酸素の量との差に応じた起電力を検出することができ、これによって被測定ガス中のNOx成分の濃度を求めることも可能である。
【0051】
また、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、外側ポンプ電極23と、基準電極42とから電気化学的なセンサセル83が構成されており、このセンサセル83によって得られる起電力Vrefによりセンサ外部の被測定ガス中の酸素分圧を検出可能となっている。
【0052】
このような構成を有するガスセンサ100においては、主ポンプセル21と補助ポンプセル50とを作動させることによって酸素分圧が常に一定の低い値(NOxの測定に実質的に影響がない値)に保たれた被測定ガスが測定用ポンプセル41に与えられる。したがって、被測定ガス中のNOxの濃度に略比例して、NOxの還元によって発生する酸素が測定用ポンプセル41より汲み出されることによって流れるポンプ電流Ip2に基づいて、被測定ガス中のNOx濃度を知ることができるようになっている。
【0053】
さらに、センサ素子101は、固体電解質の酸素イオン伝導性を高めるために、センサ素子101を加熱して保温する温度調整の役割を担うヒータ部70を備えている。ヒータ部70は、ヒータコネクタ電極71と、ヒータ72と、スルーホール73と、ヒータ絶縁層74と、圧力放散孔75とを備えている。
【0054】
ヒータコネクタ電極71は、第1基板層1の下面に接する態様にて形成されてなる電極である。ヒータコネクタ電極71を外部電源と接続することによって、外部からヒータ部70へ給電することができるようになっている。
【0055】
ヒータ72は、第2基板層2と第3基板層3とに上下から挟まれた態様にて形成される電気抵抗体である。ヒータ72は、スルーホール73を介してヒータコネクタ電極71と接続されており、該ヒータコネクタ電極71を通して外部より給電されることにより発熱し、センサ素子101を形成する固体電解質の加熱と保温を行う。
【0056】
また、ヒータ72は、第1内部空所20から第3内部空所61の全域に渡って埋設されており、センサ素子101全体を上記固体電解質が活性化する温度に調整することが可能となっている。
【0057】
ヒータ絶縁層74は、ヒータ72の上下面に、アルミナ等の絶縁体によって形成されてなる絶縁層である。ヒータ絶縁層74は、第2基板層2とヒータ72との間の電気的絶縁性、および、第3基板層3とヒータ72との間の電気的絶縁性を得る目的で形成されている。
【0058】
圧力放散孔75は、第3基板層3を貫通し、基準ガス導入空間43に連通するように設けられてなる部位であり、ヒータ絶縁層74内の温度上昇に伴う内圧上昇を緩和する目的で形成されてなる。
【0059】
なお、センサ素子101には、各電極に接続された図示しないリード線と、センサ素子101の後端の上面及び下面に位置する図示しないコネクタ電極とが配設されている。これらのリード線及びコネクタ電極を介して、外部からセンサ素子101の各電極(内側ポンプ電極22,外側ポンプ電極23,基準電極42,測定電極44,補助ポンプ電極51)に電圧又は電流を印加したり各電極の電圧や電流を測定したりすることができるようになっている。上述した可変電源24,可変電源46,可変電源52による電圧の印加や、ポンプ電流Ip1,Ip2,起電力V0,V1,V2,Vrefの検出なども、実際はこれらのリード線やコネクタ電極を介して行われる。
【0060】
また、図示は省略するが、ガスセンサ100は、センサ素子101の前端側を保護する保護カバーと、センサ素子101の後端側に取り付けられてコネクタ電極と導通するコネクタと、センサ素子の後端側及びコネクタを覆う外筒と、センサ素子101を封入固定してセンサ素子101の先端側の空間(保護カバー内)と後端側の空間(外筒内)とを分離する素子封止体と、コネクタに接続されて外筒から外部に引き出されるリード線と、を備えている。なお、このようなガスセンサ100全体の構造は公知であり、例えば上述した特許文献1に記載されている。
【0061】
次に、こうして構成されたガスセンサ100のセンサ素子101に対して行う、本実施形態のライトオフ異常判定方法について説明する。
図2は、センサ素子101のライトオフ時間の異常判定の説明図である。
【0062】
本実施形態のライトオフ異常判定方法は、
(a)センサ素子101を酸素存在雰囲気に晒した状態とし、ヒータ72に通電し、外側ポンプ電極23と測定電極44との間に電圧Vp2を印加して測定電極44の周囲の酸素を汲み出させる制御を開始し、ヒータ72の昇温完了時刻T1と制御を開始した制御開始時刻T2とのうち遅い方を基準時刻Trefとして、基準時刻Trefからの経過時間が0秒超過65秒以下の所定の測定時刻Tmにおける、電圧Vp2に基づいて外側ポンプ電極23と測定電極44との間に流れるポンプ電流Ip2に基づく測定値Aを得るステップと、
(b)ステップ(a)で得た測定値Aと所定の閾値Arefとに基づいてセンサ素子101のライトオフ時間の異常を判定するステップと、
を含む。
【0063】
本実施形態では、ガスセンサ100として組み立てられていない状態のセンサ素子101、例えばセンサ素子101単体に対して、ライトオフ異常判定方法を行うものとした。まず、ステップ(a)の前の準備として、センサ素子101の各電極(内側ポンプ電極22,外側ポンプ電極23,基準電極42,測定電極44,補助ポンプ電極51)及びヒータ72に印加する電圧又は電流を制御したり各電極の電圧や電流を測定したりすることができるように、所定の制御回路を接続する。本実施形態では、ガスセンサ100として使用する場合と同様に、
図1に示したような制御回路を接続するものとした。より具体的には、可変電源24,46,52と、ポンプ電流Ip1,Ip2,起電力V0,V1,V2,Vrefの検出器と、上述した各フィードバック制御やヒータ72の制御を行う制御部と、を備えた制御回路を接続するものとした。なお、センサ素子101と制御回路との接続は、上述したセンサ素子101のコネクタ電極を介して行う。また、ガスセンサ100の一部として用いられるコネクタやリード線を用いて、コネクタ電極と制御回路とを接続してもよい。
【0064】
次に、上述したステップ(a)を行う。まず、センサ素子101を酸素存在雰囲気に晒した状態とする。ここで、酸素存在雰囲気とは、例えばO
2,CO,CO
2,NOx,H
2Oなど、化学式表記で酸素(O)を含む分子が存在する雰囲気である。本実施形態では、酸素雰囲気は大気雰囲気とした。なお、本実施形態では常温(例えば20℃)及び常圧の大気雰囲気とした。次に、制御回路からヒータ72に通電する処理と、制御回路によるセンサ素子101の制御を開始する処理とを行う。本実施形態では、ヒータ72への通電は、通電開始からヒータ72が各ポンプセル21,41,50及び各センサセル80〜83を活性化させるための所定の目標温度(例えば800℃)に到達する時間が85秒となるように予め定められた昇温パターンに従って行うものとした。すなわち、ヒータ72への通電開始から85秒経過した時刻が昇温完了時刻となるように、ヒータ72への通電を行うものとした。また、センサ素子101の制御を開始する処理は、外側ポンプ電極23と測定電極44との間に電圧Vp2を印加して測定電極44の周囲の酸素を汲み出させる制御を少なくとも含むものとした。本実施形態では、上述した各フィードバック制御を行って、ガスセンサ100として使用する場合と同様の制御を開始するものとした。
【0065】
図2では、ヒータ72に通電を開始する時刻Tを0秒として示し、ヒータ72に通電してから85秒経過した時刻Tを昇温完了時刻T1として示し、センサ素子101の制御を開始した時刻Tを制御開始時刻T2として示した。
図2に示すように、本実施形態では、制御開始時刻T2は昇温完了時刻T1と同じとした。ただし、これに限らず制御開始時刻T2は昇温完了時刻T1の前であってもよいし、後であってもよい。また、ヒータ72の通電前からセンサ素子101の制御を開始してもよい。また、センサ素子101を酸素存在雰囲気に晒すタイミングは、ヒータ72の通電開始のタイミングと前後してもよいが、少なくとも制御開始時刻T2において測定電極44の周囲まで酸素存在雰囲気が到達するようなタイミングとすることが好ましい。また、制御回路の接続など上述した準備作業の時からセンサ素子101を酸素存在雰囲気に晒した状態としておいてもよい。
【0066】
次に、昇温完了時刻T1と制御開始時刻T2とのうち遅い方を基準時刻Trefとして、基準時刻Trefからの経過時間が0秒超過65秒以下の所定の測定時刻Tmにおける、電圧Vp2に基づいて外側ポンプ電極23と測定電極44との間に流れるポンプ電流Ip2に基づく測定値Aを得る。なお、本実施形態では、昇温完了時刻T1と制御開始時刻T2とは同じ時刻としているため、T1=T2=Trefとなる。また、基準時刻Trefからの経過時間が0秒超過65秒以下の範囲は、ヒータ72に通電を開始した時刻を基準として時刻Tが85秒超過150秒以下の範囲となる。測定時刻Tmは、基準時刻Trefからの経過時間が5秒以上(本実施形態では時刻Tが90秒以上)のタイミングとすることが好ましい。また、測定時刻Tmは、基準時刻Trefからの経過時間が35秒以下(本実施形態では時刻Tが120秒以下)のタイミングとすることが好ましい。本実施形態では、測定時刻Tmは基準時刻Trefからの経過時間が15秒(時刻Tが100秒)のタイミングとした。また、本実施形態では、ポンプ電流Ip2の値を測定値Aとしてそのまま得るものとした。なお、
図2に示すように、基準時刻Trefから時間が経過するにつれて測定電極44の周囲の酸素は汲み出されていくから、基準時刻Trefから時間が経過するほどポンプ電流Ip2は低下していく。測定時刻Tmにおける測定値Aは、この低下していくポンプ電流Ip2に基づく値である。
【0067】
以上のようにステップ(a)を行うと、ステップ(b)では、得られた測定値Aと所定の閾値Arefとに基づいてセンサ素子101のライトオフ時間の異常を判定する。本実施形態では、測定値Aが閾値Aref以下であればライトオフ時間が正常と判定し、閾値Arefを超えていればライトオフ時間が異常と判定する。
【0068】
以上の方法でライトオフ時間の異常を判定できる理由について説明する。正常なセンサ素子(正常品)では、
図2に示すように、基準時刻Trefから時間が経過するにつれて測定電極44の周囲の酸素は汲み出されていくから、基準時刻Trefから時間が経過するほどポンプ電流Ip2は変化(低下)していく。しかし、ライトオフ時間に異常(長期化)があるセンサ素子101(異常品)では、測定電極44の周囲の酸素濃度の低下速度が遅いため、
図2に示すように、基準時刻Tref以降のポンプ電流Ip2の変化(低下)の傾きが正常品と比較して緩やかになる。これは、以下のような理由による。まず、ライトオフ時間の異常の原因としては、センサ素子101中の不要な空間(酸素だまり)など酸素の供給源の存在や、外側ポンプ電極23と測定電極44とその間の固体電解質(第1固体電解質層4,スペーサ層5及び第2固体電解質層6)とで構成される測定用ポンプセル41の酸素の汲み出し能力の異常(汲み出し能力が低い)が挙げられる。汲み出し能力の異常が生じるより具体的な理由としては、ヒータ72で昇温してもなお測定用ポンプセル41の活性が低い場合や、外側ポンプ電極23と測定電極44との少なくとも一方に付着物がある場合などが挙げられる。そして、例えば酸素の供給源が存在する場合には、測定用ポンプセル41が酸素を汲み出しても測定電極44周辺に酸素が供給されるため、基準時刻Tref以降のポンプ電流Ip2の変化(低下)の傾きが緩やかになる。また、測定用ポンプセル41の汲み出し能力が低い場合には、測定電極44周辺の酸素の単位時間あたりの汲み出し量が少なくなることで、基準時刻Tref以降のポンプ電流Ip2の変化(低下)の傾きが緩やかになる。以上のことから、ライトオフ時間に異常があるセンサ素子101は、正常なセンサ素子101と比べてポンプ電流Ip2の変化(低下)の傾きが緩やかになり、結果として測定時刻Tmにおけるポンプ電流Ip2の値が異なる(大きい)傾向にある。このように、ポンプ電流Ip2に基づく測定値Aはライトオフ時間の異常の有無と相関があるから、この測定値Aと閾値Arefとに基づいて、ライトオフ時間の異常を判定することができる。本実施形態では、
図2に示すように、正常品の測定値A1と異常品の測定値A2とを判別できる閾値Arefを予め実験により定めておくことで、測定値Aがこの閾値Arefを超えているか否かによって、ライトオフ時間の異常を判定することができる。
【0069】
そして、本実施形態のライトオフ異常判定方法では、基準時刻Trefからの経過時間が0秒超過65秒以下の測定時刻Tmでポンプ電流に基づく測定値Aを得ている。そのため、
図5で説明した従来のライトオフ時間の測定のようにポンプ電流Ip2が低下して十分安定するのを待つ(例えば30分など)必要がない。したがって、ライトオフ時間の異常を短時間で判定できる。なお、測定時刻Tmを基準時刻Trefより後(経過時間が0秒超過)とすることで、測定用ポンプセル41が活性化し且つ酸素を汲み出させる制御を行っている状態の適切な測定値Aを取得できる。また、測定電極44の周囲の酸素濃度が低下して十分安定すると、すなわちポンプ電流Ip2が低下して十分安定すると、ライトオフ時間の異常の有無によるポンプ電流Ip2の差が少なくなり異常判定の精度が低下する場合があるが、測定時刻Tmを基準時刻Trefからの経過時間が65秒以下とすることで、精度良く異常を判定できる。
【0070】
次に、ガスセンサ100の製造方法を以下に説明する。本実施形態のガスセンサ100の製造方法は、
上述したセンサ素子のライトオフ異常判定方法を行ってセンサ素子101のライトオフ時間の異常を判定する判定工程と、
判定工程で異常と判定されなかったセンサ素子101を用いてガスセンサ100を製造する製造工程と、
を含む。
【0071】
まず、判定工程前に、センサ素子101を用意する準備工程を行う。準備工程では、既に製造されたセンサ素子101を用意してもよいし、センサ素子101を製造することで用意してもよい。センサ素子101を製造する場合は例えば以下のように行う。
【0072】
まず、ジルコニアなどの酸素イオン伝導性固体電解質をセラミックス成分として含む6枚の未焼成のセラミックスグリーンシートを用意する。このグリーンシートには、印刷時や積層時の位置決めに用いるシート穴や必要なスルーホール等を予め複数形成しておく。また、スペーサ層5となるグリーンシートや第1固体電解質層4となるグリーンシートには、それぞれガス流通部となる空間や基準ガス導入空間43となる空間を予め打ち抜き処理などによって設けておく。そして、第1基板層1と、第2基板層2と、第3基板層3と、第1固体電解質層4と、スペーサ層5と、第2固体電解質層6のそれぞれに対応して、各セラミックスグリーンシートに種々のパターンを形成するパターン印刷処理・乾燥処理を行う。形成するパターンは、具体的には、例えば上述した各電極や各電極に接続されるリード線,コネクタ電極,大気導入層48,及びヒータ部70などのパターンである。パターン印刷は、それぞれの形成対象に要求される特性に応じて用意したパターン形成用ペーストを、公知のスクリーン印刷技術を利用してグリーンシート上に塗布することにより行う。乾燥処理についても、公知の乾燥手段を用いて行う。パターン印刷・乾燥が終わると、各層に対応するグリーンシート同士を積層・接着するための接着用ペーストの印刷・乾燥処理を行う。そして、接着用ペーストを形成したグリーンシートをシート穴により位置決めしつつ所定の順序に積層して、所定の温度・圧力条件を加えることで圧着させ、一つの積層体とする圧着処理を行う。こうして得られた積層体は、複数個のセンサ素子101を包含したものである。その積層体を切断してセンサ素子101の大きさに切り分ける。そして、切り分けた積層体を所定の焼成温度で焼成し、センサ素子101を得る。
【0073】
準備工程でセンサ素子101を用意すると、判定工程を行う。判定工程では、上述したライトオフ異常判定方法を行って測定値Aと閾値Arefとに基づいてセンサ素子101の異常の有無を判定する。そして、製造工程では、判定工程で異常と判定されなかったセンサ素子101を用いて、センサ素子101を組み込んだガスセンサ100を組み立てる。具体的には、センサ素子101に素子封止体を取り付けて封止固定し、コネクタ及びリード線を取り付ける。また、素子封止体のうちセンサ素子101の先端側に保護カバーを取り付ける。また。素子封止体のうちセンサ素子101の後端側に外筒を取り付けると共に、外筒からリード線を外部に引き出す。なお、このようなセンサ素子101を組み込んでガスセンサ100を組み立てる工程は公知であり、例えば特開2015−178988号公報に記載されている。
【0074】
ここで、本実施形態の構成要素と本発明の構成要素との対応関係を明らかにする。本実施形態の各層1〜6が本発明の基体に相当し、測定電極44が第1測定電極に相当し、外側ポンプ電極23が第2測定電極及び外側電極に相当し、ヒータ72がヒータに相当する。
【0075】
以上詳述した本実施形態のセンサ素子101のライトオフ異常判定方法では、酸素イオン伝導性の固体電解質からなり、被測定ガスを導入するガス流通部が内部に設けられた基体(各層1〜6)と、ガス流通部に面して配設された測定電極44と、ガス流通部以外(基体の外側)に配設された外側ポンプ電極23と、基体を加熱するヒータ72と、を備えたセンサ素子101のライトオフ時間の異常を判定する。具体的には、センサ素子101を酸素存在雰囲気に晒した状態とし、基準時刻Trefからの経過時間が0秒超過65秒以下の測定時刻Tmにおけるポンプ電流Ip2に基づく測定値Aを取得し、測定値Aと閾値Arefとに基づいてセンサ素子101のライトオフ時間の異常を判定する。これにより、センサ素子101のライトオフ時間の異常を短時間で判定できる。
【0076】
また、測定時刻Tmを、基準時刻Trefからの経過時間が5秒以上のタイミングとしている。経過時間が5秒以上では、ライトオフ時間の異常の有無による測定時刻Tmでの測定値A(ポンプ電流Ip2)の差がより大きくなるから、ライトオフ時間の異常をより精度良く判定できる。また、測定時刻Tmを、基準時刻Trefからの経過時間が35秒以下のタイミングとしている。経過時間が35秒以下では、変化(低下)して安定する前のポンプ電流Ip2に基づく測定値Aをより確実に得ることができるため、ライトオフ時間の異常をより精度良く判定できる。さらに、酸素存在雰囲気を大気雰囲気とすることで、より容易に測定値Aを取得できる。さらにまた、ステップ(a)を、ガスセンサ100として組み立てられていない状態のセンサ素子101に対して行っている。これにより、例えばガスセンサの組み立て作業(上述した製造工程など)を行う前に異常を判定できるため、異常と判定された場合に組み立て作業が無駄になったり、ガスセンサ100全体を廃棄する必要が生じたりすることを低減できる。
【0077】
また、本実施形態のガスセンサ100の製造方法によれば、本実施形態のセンサ素子101のライトオフ異常判定方法を行って異常と判定されなかったセンサ素子101を用いてガスセンサ100を製造するため、ガスセンサ100の歩留まりが向上する。また、従来のライトオフ時間の測定はガスセンサ100の組み立て後に行われていたため、測定されたライトオフ時間が異常の場合には組み立て作業が無駄になったりガスセンサ100全体を廃棄する必要が生じたりする場合があるが、そのようなことを低減できる。
【0078】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0079】
例えば、上述した実施形態では、ガスセンサ100として組み立てられていない状態のセンサ素子101に対してステップ(a)の測定値Aの取得を行うものとしたが、特にこれに限られない。ガスセンサ100として組み立てた後に測定値Aを取得してもよい。なお、「ガスセンサ100として組み立てられていない状態」とは、ガスセンサ100としての組み立てが完了する前の状態を意味し、例えば保護カバー,コネクタ,素子封止体,リード線,及び外筒のうち一部をセンサ素子101に取り付けた状態など組み立て中の状態を含む。また、「ガスセンサ100として組み立てられていない状態」は、ガスセンサ100の組み立て前の状態と、組み立て後にガスセンサ100を分解した状態とを含む。
【0080】
上述した実施形態では、昇温完了時刻T1は、ヒータ72への通電開始から85秒が経過した時刻としたが、これに限られない。昇温完了時刻T1は、ヒータ72への通電開始から所定時間が経過した時刻としてもよい。この所定時間は、85秒以下の所定の時間としてもよいし、40〜85秒の範囲で定められた時間としてもよいし、85秒を超える所定の時間としてもよい。ヒータ72への通電開始から所定時間が経過した時刻にヒータ72が所定の目標温度に到達するように予め定められた昇温パターンを用いる場合、この所定時間が経過した時刻が昇温完了時刻T1となる。また、昇温完了時刻T1は、ヒータ72への通電開始から所定時間が経過した時刻に限られない。昇温完了時刻T1は、第1測定電極(上述した実施形態では測定電極44)と、第2測定電極(上述した実施形態では外側ポンプ電極23)と、第1,第2測定電極の間の固体電解質層(上述した実施形態では層4〜6)とを備えたポンプセル(上述した実施形態では測定用ポンプセル41)が活性化した時刻(活性化したとみなせる時刻を含む)であればよい。すなわち、昇温完了時刻T1は、第1,第2測定電極間に電圧を印加して第1測定電極の周囲の酸素を汲み出すことが可能になった時刻(可能になったとみなせる時刻を含む)であればよい。例えば、ヒータ72の抵抗値が所定値に到達してから所定の待ち時間が経過した時刻を昇温完了時刻T1としてもよい。なお、この所定値は、ヒータ72の温度がポンプセルを活性化させるための所定の目標温度(例えば800℃)まで到達した時の抵抗値として予め定めておくことができる。また、この所定値は、抵抗値の値そのものとして表されてもよいし、所定温度(例えば25℃)におけるヒータ72の抵抗値との比(倍数)で表されてもよい。所定の待ち時間は、0秒としてもよいし、0秒より大きい所定の値としてもよい。また、センサ素子101に制御回路を接続してステップ(a)を行う場合、この制御回路は、ヒータ72の昇温が完了したか否かを判定(昇温の完了を検出)する昇温完了判定手段を備えていてもよい。この場合、昇温完了判定手段がヒータ72の昇温が完了したと判定した時刻を昇温完了時刻T1としてもよい。昇温完了判定手段は、ヒータ72への通電開始から所定時間が経過したときに昇温が完了したと判定する手段であってもよい。また、昇温完了判定手段は、ヒータ72の抵抗値が所定値に到達してから所定の待ち時間が経過したときに昇温が完了したと判定する手段であってもよい。この場合、昇温完了判定手段は、ヒータ72に印加する電圧とヒータ72を流れる電流とを取得し、取得した値に基づいてヒータ72の抵抗値を導出して前記判定を行ってもよい。また、制御回路は、昇温完了判定手段が昇温が完了したと判定した場合に第1測定電極の周囲の酸素を汲み出させる制御を開始する測定電極制御手段、を備えていてもよい。この場合は、制御開始時刻T2は昇温完了時刻T1以降の時刻となるため、常に制御開始時刻T2が基準時刻Trefとなる。
【0081】
上述した実施形態では、ステップ(a)で行う制御は、ガスセンサ100として使用する場合と同様の制御としたが、これに限られない。ステップ(a)でのセンサ素子101の制御は、外側ポンプ電極23と測定電極44との間に電圧Vp2を印加して測定電極44の周囲の酸素を汲み出させる制御を少なくとも含んでいればよく、例えば上述した各フィードバック制御の少なくとも1部を行わないものとしてもよい。例えば、起電力V2が所定の目標値V2*になるように可変電源46の電圧Vp2をフィードバック制御する処理を少なくとも行い、それ以外の上述したフィードバック制御については行わないものとしてもよい。また、可変電源46の電圧Vp2をフィードバック制御せずに電圧Vp2を一定とする制御を行って、測定時刻Tmにおけるポンプ電流Ip2に基づく測定値Aを取得してもよい。
【0082】
上述した実施形態では、ステップ(a)で測定電極44と外側ポンプ電極23との間に流れるポンプ電流Ip2に基づく測定値Aを得たが、これに限られない。測定値Aは、測定電極44の周辺の酸素濃度に基づく値であればよい。例えば、測定電極44の電位に基づく値を測定値Aとして得てもよい。測定電極44の電位を測定する場合、測定電極44とガス流通部以外に配設された電極との間の電圧を測定してもよい。例えば、測定電極44と基準電極42との間の電圧(起電力V2)に基づく値を測定値Aとして得てもよい。この場合、例えば、制御開始時刻T2においてポンプ電流Ip2が所定の目標値Ip2*になるように電圧Vp2のフィードバック制御を開始するか、又は電圧Vp2を一定とする制御を開始して、測定電極44周辺の酸素を汲み出し、測定時刻Tmにおける起電力V2に基づく測定値A(例えば起電力V2の値そのもの)を得てもよい。この場合も、基準時刻Trefから時間の経過と共に起電力V2が変化していき、この変化の傾きはセンサ素子101のライトオフ時間の異常の有無によって異なる傾向にある。そのため、起電力V2に基づく測定値Aを得ても、上述した実施形態と同様に測定値Aと所定の閾値とに基づいてライトオフ時間の異常を判定できる。
【0083】
上述した実施形態では、制御開始時刻T2において測定電極44と外側ポンプ電極23との間に電圧Vp2を印加する制御を開始した。すなわち、第1測定電極を測定電極44とし、第2測定電極を外側ポンプ電極23として、これらの間に電圧を印加する制御を行った。しかし、これに限らず、第1,第2測定電極間に電圧を印加して第1測定電極(測定電極44)の周辺から酸素を汲み出させる制御を行えばよい。そのため、第2測定電極は、ガス流通部以外に配設された電極であれば外側ポンプ電極23に限られない。例えば、第2測定電極は、ガス流通部と連通せず基準ガス(例えば大気や、所定の分圧の酸素を含む雰囲気など)が導入される基準ガス空間に面して配設された基準電極であってもよい。例えば、第2測定電極は、上述した実施形態における大気導入層48に面して配設された基準電極42であってもよい。この場合、制御開始時刻T2において測定電極44と基準電極42との間に電圧Vを印加する制御を開始して、測定電極44周辺の酸素を大気導入層48内に汲み出し、測定時刻Tmにおける測定電極44と基準電極42との間のポンプ電流Iに基づく測定値A(例えばポンプ電流Iの値そのもの)を得てもよい。なお、この場合の測定電極44と基準電極42との間に電圧Vを印加する制御は、例えば、測定電極44と外側ポンプ電極23との間の電圧V3が所定の目標値V3*になるように可変電源により電圧Vをフィードバック制御する処理としてもよいし、電圧Vを一定とする制御としてもよい。この場合も、基準時刻Trefから時間の経過と共にポンプ電流Iが変化していき、この変化の傾きはセンサ素子101のライトオフ時間の異常の有無によって異なる傾向にある。そのため、ポンプ電流Iに基づく測定値Aを得ても、上述した実施形態と同様に測定値Aと所定の閾値とに基づいてライトオフ時間の異常を判定できる。また、制御開始時刻T2において測定電極44と基準電極42との間に電圧Vを印加する制御を開始して、測定電極44周辺の酸素を大気導入層48内に汲み出し、測定時刻Tmにおける測定電極44の電位に基づく測定値Aを得てもよい。具体的には、例えば、測定電極44と外側ポンプ電極23との間の電圧V3に基づく値(例えば電圧V3の値そのもの)を測定値Aとして得てもよい。なお、この場合の測定電極44と基準電極42との間に電圧Vを印加する制御は、例えば、測定電極44と基準電極42との間のポンプ電流Iが所定の目標値I*になるように可変電源により電圧Vをフィードバック制御する処理としてもよいし、電圧Vを一定とする制御としてもよい。この場合も、基準時刻Trefから時間の経過と共に電圧V3が変化していき、この変化の傾きはセンサ素子101のライトオフ時間の異常の有無によって異なる傾向にある。そのため、電圧V3に基づく測定値Aを得ても、上述した実施形態と同様に測定値Aと所定の閾値とに基づいてライトオフ時間の異常を判定できる。
【0084】
上述した実施形態では、酸素存在雰囲気は大気雰囲気としたが、特にこれに限らず、上述したように化学式表記で酸素(O)を含む分子が存在する雰囲気であればよい。例えば、酸素存在雰囲気は、排ガスを模擬した雰囲気(例えば少なくともNOxを含む雰囲気)としてもよい。なお、例えば排ガスを模擬した雰囲気と比較すると、大気雰囲気の方が酸素濃度が高いため、
図2に示した基準時刻Trefからのポンプ電流Ip2の低下の傾きが正常品及び異常品のいずれについても緩やかになる傾向にある。そのため、大気雰囲気では正常品と異常品とで測定時刻Tmでのポンプ電流Ip2の差が大きくなりやすく、閾値Arefを用いた異常の判定がしやすくなる傾向にある。ポンプ電流Ip2以外の他の値(例えば上述した起電力V2,電流I,電圧V3)に基づく測定値Aを得る場合についても同様である。
【0085】
上述した実施形態では、ポンプ電流Ip2の値を測定値Aとしてそのまま得るものとしたが、測定値Aはポンプ電流Ip2に基づく値であればよい。例えば、ポンプ電流Ip2に基づいて導出されるNOx濃度[ppm]に相当する値を測定値Aとしてもよい。また、ポンプ電流Ip2に所定の係数を乗じた値、ポンプ電流Ip2を所定の式に代入して得られる値、ポンプ電流Ip2と測定値Aとの対応関係を表す所定のマップやテーブルに基づいて導出される値、又はポンプ電流Ip2の逆数に基づいて導出される値、などを測定値Aとしてもよい。ポンプ電流Ip2以外の他の値(例えば上述した起電力V2,電流I,電圧V3)に基づく測定値Aを得る場合についても同様である。
【0086】
上述した実施形態において、ガスセンサ100の製造工程後に、例えば
図5に示したような従来のライトオフ時間の測定を行ってもよいし、行わなくてもよい。なお、従来のライトオフ時間の測定を行わないようにすることで、その分の時間を短縮できる。また、複数のガスセンサ100を製造する場合に、一部のガスセンサ100についてライトオフ時間の測定を省略してもよい。
【0087】
上述した実施形態では、ガスセンサ100のセンサ素子101は第1内部空所20,第2内部空所40,第3内部空所61を備えるものとしたが、これに限られない。例えば、第3内部空所61を備えないものとしてもよい。
図3は、この場合の変形例のガスセンサ100のセンサ素子101の構成の一例を概略的に示した模式断面図である。図示するように、この変形例のガスセンサ100では、第2固体電解質層6の下面と第1固体電解質層4の上面との間には、ガス導入口10と、第1拡散律速部11と、緩衝空間12と、第2拡散律速部13と、第1内部空所20と、第3拡散律速部30と、第2内部空所40とが、この順に連通する態様にて隣接形成されてなる。測定電極44は、第2内部空所40内の第1固体電解質層4の上面に配設されている。測定電極44は、第4拡散律速部45によって被覆されてなる。第4拡散律速部45は、アルミナ(Al
2O
3)などのセラミックス多孔体にて構成される膜である。第4拡散律速部45は、上述した実施形態の第4拡散律速部60と同様に、測定電極44に流入するNOxの量を制限する役割を担う。また、第4拡散律速部45は、測定電極44の保護膜としても機能する。補助ポンプ電極51の天井電極部51aは、測定電極44の直上まで形成されている。このような構成のガスセンサ100であっても、上述した実施形態のライトオフ時間異常判定方法を用いて短時間で異常を判定できる。
【0088】
上述した実施形態において、センサ素子101は、基体の少なくとも一部(例えば先端側)を被覆する多孔質保護層を備えていてもよい。多孔質保護層は、例えば構成粒子として、アルミナ,ジルコニア,スピネル,コージェライト,チタニア,及びマグネシアの少なくともいずれかのセラミックス粒子を含んでいてもよい。多孔質保護層は、外側ポンプ電極23も被覆していてもよい。
【0089】
上述した実施形態では、センサ素子101は被測定ガス中のNOx濃度を検出するものとしたが、被測定ガス中の特定ガスの濃度を検出するものであれば、これに限られない。例えば、被測定ガス中の酸素濃度を検出するものとしてもよい。
【実施例】
【0090】
以下には、本発明のセンサ素子のライトオフ異常判定方法を行った例を実施例として説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0091】
[センサ素子の作製]
上述した実施形態のガスセンサ100の製造方法の準備工程に従って、
図1に示したセンサ素子101を複数作製した。センサ素子101の大きさは、前後方向の長さが67.5mm、左右方向の幅が4.25mm、上下方向の厚さが1.45mmとした。センサ素子101を作製するにあたり、セラミックスグリーンシートは、安定化剤のイットリアを4mol%添加したジルコニア粒子と有機バインダーと有機溶剤とを混合し、テープ成形により成形した。
【0092】
[測定値Aの取得]
上記で作製した複数のセンサ素子101の各々について、上述したセンサ素子101のライトオフ異常判定方法を行って、測定値Aを取得した。測定値Aはポンプ電流Ip2の値そのままとした。また、昇温完了時刻T1,制御開始時刻T2,基準時刻Trefは
図2と同じ時刻T=85秒とし、測定時刻Tmを90秒〜160秒(基準時刻Trefからの経過時間が5秒〜75秒)まで10秒単位で変化させて、1つのセンサ素子101においてそれぞれ10回ずつ測定値Aを取得した(1つのセンサ素子101について80回測定)。
【0093】
[ライトオフ時間の測定]
測定値Aを取得した後の複数のセンサ素子101の各々を用いてガスセンサ100を組み立て、組み立て後の複数のガスセンサ100の各々について
図5で説明した従来のライトオフ時間の測定を行った。なお、測定時の雰囲気は排ガスを模擬した雰囲気とした。酸素過剰で燃焼した排気ガスを模擬するために、具体的には、酸素濃度10%、NOx濃度100ppm、水分量9%、ガス温度125℃に調整した雰囲気とした。また、
図5とは異なりヒータ通電開始から15分(900秒)後のポンプ電流Ip2の値を飽和値Isとみなし、ポンプ電流がIs±30ppmの値となるときの時間をライトオフ時間として導出した。導出されたライトオフ時間が100秒以下のセンサ素子101を正常と判定し、100秒超過のセンサ素子101を異常と判定した。
【0094】
[ライトオフ時間の異常の有無と測定値Aとの関係の評価]
上記でライトオフ時間を測定した複数のガスセンサ100から、ライトオフ時間が正常(100秒以下)であった4本のガスセンサ100を抽出し、そのガスセンサ100のセンサ素子101をセンサ素子No.1〜No.4とした。そして、これらの4本のセンサ素子101のサンプルについて、上記のようにガスセンサ100の組み立て前に測定しておいた測定値Aの値を集計して、測定値Aの最大値,平均値,最小値を導出した。なお、測定時刻Tmを90秒〜160秒まで10秒単位で変化させた場合のそれぞれの結果を分けて集計し、測定時刻Tmの値毎に測定値Aの最大値,平均値,最小値を導出した。例えば、測定時間Tmが90秒の場合の最大値,平均値,最小値は、4本のセンサ素子101の各10回ずつの測定データ(計40個の測定値Aのデータ)を集計して導出した。同様に、ライトオフ時間が異常(100秒超過)であった8本のガスセンサ100を抽出し、そのガスセンサ100のセンサ素子101をセンサ素子No.5〜No.12とした。そして、これらの8本のセンサ素子101のサンプルについても、測定時刻Tmを90秒〜160秒まで10秒単位で変化させた場合のそれぞれの結果を分けて集計し、測定時刻Tmの値毎に測定値Aの最大値,平均値,最小値を導出した。
【0095】
センサ素子No.1〜No.12について組み立て後に測定したライトオフ時間と、正常及び異常の判定結果を表1に示す。ライトオフ時間が正常であったセンサ素子No.1〜No.4の測定時刻Tmの値と測定値Aの最大値,平均値,最小値との関係を表2に示す。ライトオフ時間が異常であったセンサ素子No.5〜No.12の測定時刻Tmの値と測定値Aの最大値,平均値,最小値との関係を表3に示す。なお、表2,3では、基準時刻Tref(=85秒)からの経過時間も測定時刻Tmに併せて示した。また、
図4は、測定時刻Tmと複数のセンサ素子101の測定値Aの分布との関係を示すグラフである。
図4は、表2に示した正常品の測定値Aの最大値,平均値,最小値との関係を示すグラフを実線で示し、表3に示した異常品の測定値Aの最大値,平均値,最小値との関係を示すグラフを破線で示した。
【0096】
【表1】
【0097】
【表2】
【0098】
【表3】
【0099】
表2,3及び
図4からわかるように、異常品は正常品と比べて測定値A(ポンプ電流Ip2)の値が大きい傾向にあることが確認できた。また、測定時刻Tmが160秒(基準時刻Trefからの経過時間が75秒)の場合には正常品の測定値Aの最大値が異常品の測定値Aの最小値を上回っており、正常品の測定値Aの範囲と異常品の測定値Aの範囲とが一部重複していたが、測定時刻Tmが90秒以上150秒以下(基準時刻Trefからの経過時間が5秒以上65秒以下)では、両者の範囲が重複していなかった。そのため、測定時刻Tmが150秒以下(基準時刻Trefからの経過時間が65秒以下)では、正常品の測定値Aと異常品の測定値Aとを判別する閾値Arefを両者の範囲の間に設定して、測定値Aと閾値Arefとに基づいて異常の有無を判定できることが確認できた。また、測定時刻Tmが小さいほど(基準時刻Trefからの経過時間が小さいほど)、正常品の測定値Aの最大値と異常品の測定値Aの最小値との差が大きくなる傾向が見られた。測定時刻Tmが120秒以下(基準時刻Trefからの経過時間が35秒以下)ではこの差が特に大きくなっており、測定時刻Tmを基準時刻Trefからの経過時間が35秒以下とすることで、ライトオフ時間の異常をより精度よく判定できると考えられる。