特許第6573587号(P6573587)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6573587
(24)【登録日】2019年8月23日
(45)【発行日】2019年9月11日
(54)【発明の名称】PCB処理方法
(51)【国際特許分類】
   B09B 3/00 20060101AFI20190902BHJP
   B09B 5/00 20060101ALI20190902BHJP
   A62D 3/19 20070101ALI20190902BHJP
   B03C 1/00 20060101ALI20190902BHJP
   B03C 1/30 20060101ALI20190902BHJP
   A62D 101/22 20070101ALN20190902BHJP
【FI】
   B09B3/00 304Z
   B09B5/00 ZZAB
   B09B3/00 Z
   B09B3/00 303Z
   A62D3/19
   B03C1/00 B
   B03C1/30 Z
   A62D101:22
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-170026(P2016-170026)
(22)【出願日】2016年8月31日
(65)【公開番号】特開2017-209659(P2017-209659A)
(43)【公開日】2017年11月30日
【審査請求日】2019年2月27日
(31)【優先権主張番号】特願2016-100538(P2016-100538)
(32)【優先日】2016年5月19日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000192590
【氏名又は名称】株式会社神鋼環境ソリューション
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】清水 由章
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 政憲
(72)【発明者】
【氏名】梶原 康司
(72)【発明者】
【氏名】早川 宗久
【審査官】 柴田 啓二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−139669(JP,A)
【文献】 特開2014−151308(JP,A)
【文献】 特開2014−004500(JP,A)
【文献】 特開2002−248455(JP,A)
【文献】 米国特許第05319176(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B 3/00
B09B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
PCB汚染物である安定器を、アスファルトが付着した変圧部が含まれる変圧部領域とコンデンサが含まれるコンデンサ領域とに分別する分別工程と、
前記コンデンサ領域をプラズマ処理するプラズマ工程と、
前記変圧部領域を加温された炭化水素系の溶媒に浸漬し、前記アスファルトを除去する除去工程と、
前記除去工程の後に、前記変圧部領域を破砕する破砕工程と、
前記破砕工程で破砕された前記変圧部領域を、洗浄溶剤で洗浄する洗浄工程と、を備えたPCB処理方法。
【請求項2】
前記破砕工程で破砕された破砕物を、磁性物と非磁性物とに選別する磁選工程をさらに備えた請求項1に記載のPCB処理方法。
【請求項3】
PCB汚染物である安定器を、アスファルトが付着した変圧部が含まれる変圧部領域とコンデンサが含まれるコンデンサ領域とに分別する分別工程と、
前記コンデンサ領域をプラズマ処理するプラズマ工程と、
前記変圧部領域を加温された炭化水素系の溶媒に浸漬し、前記アスファルトを除去する除去工程と、
前記除去工程の後に前記変圧部領域を焼却する焼却工程と、を備えたPCB処理方法。
【請求項4】
前記除去工程は、前記炭化水素系の溶媒に超音波を作用させて、前記アスファルトを除去する請求項1〜3のいずれか一項に記載のPCB処理方法。
【請求項5】
前記除去工程は、前記変圧部領域に遠心力を作用させて、前記変圧部領域に含まれる部材を外径ごとに分離する分離工程を有する請求項1〜4のいずれか一項に記載のPCB処理方法。
【請求項6】
前記除去工程で除去された前記アスファルトは、前記プラズマ工程における熱源として使用される請求項1〜5のいずれか一項に記載のPCB処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PCB汚染物である安定器をプラズマ処理するPCB処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、不燃性の絶縁体であるPCB(ポリ塩化ビフェニル)の処理方法として、プラズマ溶融炉にPCB汚染物を投入し、PCB汚染物を溶融分解する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1のPCB処理方法は、保管容器に収容されている安定器を、プラズマ溶融炉の供給単位重量以下に切断する工程と、切断された安定器が詰替えられた破砕用容器を破砕機によって破砕する工程と、破砕された安定器等をプラズマ溶融炉に投入してPCBを溶融処理する工程とを備えている([0054]〜[0055]段落参照)。また、PCB濃度が比較的低い破砕対象物を、破砕機で破砕するとの記載がある([0074]段落参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−139669号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のPCB処理方法は、プラズマ溶融炉に投入される安定器の投入量が、容器に詰替えられたり、破砕されたりする前の安定器の総量と同等である。つまり、プラズマ溶融炉において単位時間当たりに処理できる安定器の処理量は、容器に詰替える前と変わらず、処理効率の観点から改善の余地がある。
【0006】
また、安定器のうち比較的PCB濃度の低い変圧部にはアスファルトが付着していることがある。この変圧部を破砕機で破砕した際、摩擦熱によって軟化したアスファルトが破砕機に付着して破砕効率が低下してしまう。つまり、破砕効率を向上させるには、変圧部からアスファルトを除去する必要がある。一方、アスファルトが付着した変圧部を破砕せずに焼却処理することも考えられるが、アスファルトを除去して焼却処理が可能なPCB濃度に低減する必要がある。
【0007】
そこで、プラズマ処理効率を高めながら安定器に付着したアスファルトを確実に除去することのできるPCB処理方法が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るPCB処理方法の特徴構成は、PCB汚染物である安定器を、アスファルトが付着した変圧部が含まれる変圧部領域とコンデンサが含まれるコンデンサ領域とに分別する分別工程と、前記コンデンサ領域をプラズマ処理するプラズマ工程と、前記変圧部領域を加温された炭化水素系の溶媒に浸漬し、前記アスファルトを除去する除去工程と、前記除去工程の後に、前記変圧部領域を破砕する破砕工程と、前記破砕工程で破砕された前記変圧部領域を、洗浄溶剤で洗浄する洗浄工程と、を備えている点にある。
【0009】
本構成では、安定器を、PCB濃度が高いコンデンサ領域と、PCB濃度が低い変圧部領域とに分別している。そして、PCB濃度の高いコンデンサ領域はプラズマ処理によって無害化され、破砕されたPCB濃度の低い変圧部領域は洗浄処理によって無害化される。その結果、プラズマ処理する安定器の処理量として、少なくとも変圧部の重量が低減される。
【0010】
安定器の場合、全体に対して変圧部の容量比が半分以上であるので、1回のプラズマ処理で無害化される安定器の処理量が約2倍となる。よって、プラズマ処理の処理効率を高めることができる。しかも、無害化された変圧部領域を破砕、洗浄することで、変圧部に含まれる磁性物などを再利用することが可能となる。
【0011】
上述したように、変圧部領域を破砕する際、変圧部に付着したアスファルトが摩擦熱によって軟化し、このアスファルトが破砕機に付着して破砕効率を低下させてしまう。そこで、本構成のように、破砕工程の前に、変圧部に付着したアスファルトを除去すれば、破砕機にアスファルトが付着することが抑制され、破砕効率を向上させることができる。
【0012】
さらに、本発明の発明者らは、変圧部に付着したアスファルトを加温された炭化水素系の溶媒に浸漬すると、アスファルトが効果的に溶解または分散されるとの知見を得た。これは、冷温の変圧部領域を加温された溶媒に浸漬しているので、急激な温度差によってアスファルト表面が熱膨張してアスファルトと変圧部との界面に引張応力が作用し、アスファルトが変圧部から剥離し易くなるためであると推測される。その結果、少ない熱量でアスファルトを確実に除去しつつ処理時間を短縮することができる。
【0013】
また、本発明に係るPCB処理方法の特徴構成は、PCB汚染物である安定器を、アスファルトが付着した変圧部が含まれる変圧部領域とコンデンサが含まれるコンデンサ領域とに分別する分別工程と、前記コンデンサ領域をプラズマ処理するプラズマ工程と、前記変圧部領域を加温された炭化水素系の溶媒に浸漬し、前記アスファルトを除去する除去工程と、前記除去工程の後に前記変圧部領域を焼却する焼却工程と、を備えている点にある。
【0014】
本構成では、安定器を、PCB濃度が高いコンデンサ領域と、PCB濃度が低い変圧部領域とに分別している。そして、PCB濃度の高いコンデンサ領域はプラズマ処理によって無害化される。一方、変圧部領域は、除去工程で炭化水素系の溶媒に浸漬されるので、PCB濃度が低減されて焼却処理することができる。その結果、プラズマ処理する安定器の処理量として、少なくとも変圧部の重量が低減される。
【0015】
安定器の場合、全体に対して変圧部の容量比が半分以上であるので、1回のプラズマ処理で無害化される安定器の処理量が約2倍となる。よって、プラズマ処理の処理効率を高めることができる。
【0016】
さらに、本発明の発明者らは、変圧部に付着したアスファルトを加温された炭化水素系の溶媒に浸漬すると、アスファルトが効果的に溶解または分散されるとの知見を得た。これは、冷温の変圧部領域を加温された溶媒に浸漬しているので、急激な温度差によってアスファルト表面が熱膨張してアスファルトと変圧部との界面に引張応力が作用し、アスファルトが変圧部から剥離し易くなるためであると推測される。その結果、少ない熱量でアスファルトを確実に除去しつつ処理時間を短縮することができる。しかも、変圧部からアスファルトを速やかに除去することで、変圧部の表面を炭化水素系の溶媒に接触させてPCB濃度を効果的に低減することができる。
【0017】
他の特徴構成は、前記除去工程は、前記炭化水素系の溶媒に超音波を作用させて、前記アスファルトを除去する点にある。
【0018】
本構成のように、変圧部領域が浸漬された炭化水素系の溶媒に超音波を作用させれば、発生した微細な泡による衝撃波がアスファルトに衝突するので、アスファルトの除去量や除去速度を効果的に高めることができる。
【0019】
他の特徴構成は、前記除去工程は、前記変圧部領域に遠心力を作用させて、前記変圧部領域に含まれる部材を外径ごとに分離する分離工程を有する点にある。
【0020】
変圧部領域には、コイルが巻回された鉄心、絶縁紙、リード線、アスファルトなど、外径が夫々異なる部材が含まれている。これらの部材のうち、絶縁紙やリード線を被覆する樹脂などは洗浄工程で無害化し難い。そこで、本構成では、除去工程において変圧部領域に遠心力を作用させて該部材を外径ごとに分離するので、変圧部に比べて外径の小さな絶縁紙やリード線が変圧部から分離される。その結果、アスファルトを効果的に除去しながら、絶縁紙やリード線を変圧部から別途除去する手間を省略することが可能となる。よって、変圧部を効率的に洗浄することができる。
【0021】
他の特徴構成は、前記破砕工程で破砕された破砕物を、磁性物と非磁性物とに選別する磁選工程をさらに備えている点にある。
【0022】
本構成のように、破砕物を、磁性物である鉄心と銅などの非磁性物に選別すれば、不純物を含まない鉄を確実に再利用することができる。
【0023】
他の特徴構成は、前記除去工程で除去された前記アスファルトは、前記プラズマ工程における熱源として使用される点にある。
【0024】
本構成のように、除去されたアスファルトをプラズマ工程における熱源として使用すれば、アスファルトを無害化しつつプラズマ溶融炉の消費電力を節約することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】PCB処理装置を示す概略図である。
図2】第一実施形態に係るPCB処理方法を示す図である。
図3】除去工程で使用される除去装置の概略図である。
図4】安定器を示す概略図である。
図5】第二実施形態に係るPCB処理方法を示す図である。
図6】第三実施形態に係るPCB処理方法を示す図である。
図7】超音波発生装置を用いてアスファルト除去した実施例1に係る写真である。
図8】超音波発生装置を用いてアスファルト除去した実施例2に係る写真である。
図9】超音波発生装置を用いてアスファルト除去した実施例3に係る写真である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、本発明に係るPCB処理方法の実施形態について、図面に基づいて説明する。
本実施形態では、PCB処理方法の一例として、プラズマ溶融炉1を用いて安定器2を溶融分解する例を説明する。ただし、以下の実施形態に限定されることなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の変形が可能である。
【0027】
[PCB処理装置の基本構成]
PCB処理装置Xは、PCB汚染物である電気機器(安定器等)、運転廃棄物(作業服、ゴム手袋、ウエス等)、感圧複写紙、汚泥、絶縁油などを、無害化する装置である。図1に示すように、PCB処理装置Xは、プラズマ溶融炉1を備え、プラズマ溶融炉1の下流側に設けられる排ガス処理設備として、恒温チャンバ3と、減温塔4と、バグフィルタ5と、触媒反応塔6と、活性炭槽7とを備えている。
【0028】
プラズマ溶融炉1は、PCB汚染物を収容した円筒状の容器C(例えば、ドラム缶やベール缶)を投入する投入口11と、PCB汚染物をプラズマ処理して溶融分解する処理部12と、を備えている。投入口11には、室11a内部に転動方向に横置きした容器Cを処理部12に移送する押圧部11b(プッシャー)が形成され、PCB汚染物が溶融分解される時間(例えば30分)が経過した後に、次の容器Cが処理部12に投入される。
【0029】
処理部12はプラズマトーチ12aを有しており、このプラズマトーチ12aに連続的に空気などを送り、電気エネルギーを加えることで、中心温度が15,000度以上であるプラズマアークを発生させる。このとき、炉内温度(処理部12の内部温度)は約1,400度に維持され、PCBが分解されると共に、金属等の不燃物が溶融してスラグSが生成される。このスラグSは、容器CやPCB汚染物が溶融分解された時点で、傾倒部12bによって処理部12の底部を傾倒させ、スラグ収容容器13に排出される。
【0030】
恒温チャンバ3は、約1,200度に維持され、プラズマ溶融炉1からの発生ガスにダイオキシン類が含まれていた場合に、このダイオキシン類を分解するものである。減温塔4は、恒温チャンバ3から供給される排気を、例えば水や空気により冷却し、ダイオキシン類の再合成を防止するものである。
【0031】
バグフィルタ5は、排気中のダストを除去すると共に、活性炭や消石灰を吹き込んで微量の有害有機物質や排気中に含まれるHCl等の酸性ガスを吸着または反応除去するものである。触媒反応塔6は、酸化チタン等の触媒によって排気中のダイオキシン類を分解すると共に、アンモニアガスを加えることでNOxを分解するものである。活性炭槽7は、万一、排気中に有害有機物質が残存していたとしても、充填された活性炭によって、この有害有機物質を吸着するセーフティネットとして機能するものである。以下、PCB処理装置Xを用いて、PCB汚染物である安定器2を無害化する実施形態について説明する。
【0032】
[第一実施形態]
以下、第一実施形態について説明する。図2に示すように、本実施形態に係るPCB処理方法は、PCB汚染物である安定器2を、アスファルト23が付着した変圧部21が含まれる変圧部領域とコンデンサ22が含まれるコンデンサ領域とに分別する分別工程と、コンデンサ領域をプラズマ処理するプラズマ工程と、変圧部領域を加温された炭化水素系の溶媒に浸漬し、アスファルトを除去する除去工程と、除去工程の後に、変圧部領域を破砕する破砕工程と、破砕工程で破砕された変圧部領域を、洗浄溶剤で洗浄する洗浄工程とを備えている。
【0033】
ここで、安定器2は、図4に示すように、磁性物であるコイルが巻回された鉄心や絶縁紙を含む変圧部21と、PCBを絶縁油として含むコンデンサ22とを有している。この安定器2は、変圧部21とコンデンサ22との間にアスファルト23が充填された状態で鉄等の材質であるケース24に収容されている。また、アスファルト23の内部には、塩化ビニル樹脂で被覆されたリード線などの部材が混在している。
【0034】
図2に示すように、まず受入れた安定器2をドライバーやハンマーなどの工具を用いてケース24を取り外し、アスファルト23を粗取りして、変圧部21やコンデンサ22などの部材ごとに解体する。そして、PCB濃度の比較的低い変圧部21が含まれる変圧部領域とPCB濃度の比較的高いコンデンサ22が含まれるコンデンサ領域とに分別する。
このとき、変圧部領域には、アスファルト23が付着した変圧部21、ケース24、アスファルト23の内部に混在するリード線や絶縁紙などが含まれている。また、コンデンサ領域には、コンデンサ22やコンデンサ22の周辺にあるアスファルト23などが含まれている。
【0035】
次いで、搬送されたコンデンサ領域は、珪砂(SiO)、生石灰(CaO)、炭酸カルシウム(CaCO)などの塩基度調整剤と共に容器Cに詰込まれ、プラズマ溶融炉1でプラズマ処理が実行される(図1参照)。
【0036】
一方、搬送された変圧部領域は、図3に示すアスファルト除去装置Yの第一収容空間43に投入され、アスファルト23が除去される。このアスファルト除去装置Yは、有底筒状の本体部41と本体部41を閉塞する蓋部42とを備えており、蓋部42は本体部41にヒンジ42aを介して開閉自在に支持されている。本体部41は、モータMの駆動力によって減速ギア(不図示)を介して回転する回転軸41aを有しており、回転軸41aに筒状の仕切部材43a,44aが固定されている。仕切部材43a,44aは、第一孔部43a1を有する格子状の第一仕切部材43aと、第一仕切部材43aの外側に配置されて第一孔部43a1より孔径の小さい第二孔部44a1を有する格子状の第二仕切部材44aとで構成されている。これによって、第一仕切部材43aの内側に第一収容空間43が形成され、第一仕切部材43aと第二仕切部材44aとの間に第二収容空間44が形成され、第二仕切部材44aと本体部41の内壁との間に第三収容空間45が形成されている。なお、仕切部材は2つに限定されず、1つ又は3つ以上設けても良い。また、仕切部材を3つ以上設ける場合は、外側に配置される仕切部材ほど孔径を小さく構成するのが好ましい。
【0037】
アスファルト除去装置Yの本体部41には、加温された炭化水素系の溶媒を投入する投入口46と、炭化水素系の溶媒によって除去されたアスファルト23などを排出する排出口47とが形成されている。投入口46から投入される炭化水素系の溶媒としては、パラフィン油、脂肪族炭化水素などの鎖式飽和炭化水素が好ましく、引火点の高いパラフィン油が特に好ましい。この炭化水素系の溶媒は、50℃以上(好ましくは70℃以上、さらに好ましくは80℃以上)かつ引火点未満で加温した状態で用いられる。また、除去工程で除去されて排出口47から回収されたアスファルト23は、プラズマ工程におけるプラズマ溶融炉1の熱源として使用されるのが好ましい。これによって、アスファルト23を無害化しつつプラズマ溶融炉1の消費電力を節約することができる。
【0038】
このように、本体部41の第一収容空間43に投入された変圧部領域が加温された炭化水素系の溶媒に浸漬されることによって、アスファルト23が溶解または分散されて、変圧部領域からアスファルト23が除去される。特に、本実施形態では、冷温の変圧部領域を加温された溶媒に浸漬しているので、急激な温度差によってアスファルト23の表面が熱膨張してアスファルト23と変圧部21との界面に引張応力が作用し、アスファルト23が変圧部21から剥離し易い。その結果、少ない熱量でアスファルトを除去しつつ処理時間を短縮することができる。
【0039】
また、変圧部領域を加温された炭化水素系の溶媒に浸漬してアスファルト23を除去する除去工程は、変圧部領域に遠心力を作用させて、変圧部領域に含まれる部材を外径ごとに分離する分離工程を有するのが好ましい。具体的には、アスファルト除去装置Yの仕切部材43a,44aを回転させることによって第一収容空間43に投入された変圧部領域に遠心力を作用させ、外側ほど孔径が小さく構成される仕切部材43a,44aを介して変圧部領域に含まれる部材を外径ごとに分離するものである。
【0040】
上述したように、変圧部領域には、コイルが巻回された鉄心(変圧部21)、ケース24、絶縁紙、リード線、アスファルト23など、外径が夫々異なる部材が含まれている。
分離工程では、第一収容空間43に変圧部21の鉄心及びコイルやケース24、第二収容空間44に絶縁紙やリード線、第三収容空間45にアスファルト23が収容されるように、変圧部領域に含まれる部材が分離される。このとき、第二収容空間44に分離された絶縁紙やリード線を被覆する樹脂は、後の洗浄工程で無害化し難いので、プラズマ溶融炉1でプラズマ処理するのが好ましい。その結果、アスファルト23を効果的に除去しながら、後の洗浄工程で無害化し難い絶縁紙やリード線を被覆する樹脂を別途除去する手間を省略することができる。しかも、変圧部21に含まれる磁性物を再利用する際、絶縁紙や樹脂といった不純物を除去する手間が少なくなるので効率的である。なお、本実施形態の分離工程では、変圧部領域に含まれる部材が完全に分離されることを意図するものではなく、変圧部21から除去されずに残留したアスファルト23や、第一孔部43a1を通過しなかった絶縁紙やリード線の一部が第一収容空間43に混在している場合も含まれるものである。この場合でも、後の洗浄工程における洗浄効率は向上し、不純物を除去する手間も大幅に軽減することができる。
【0041】
また、変圧部領域を加温された炭化水素系の溶媒に浸漬してアスファルト23を除去する除去工程は、超音波発生装置(不図示)を用いて炭化水素系の溶媒に超音波を作用させ、アスファルト23を除去することが好ましい。このように、変圧部領域が浸漬された炭化水素系の溶媒に超音波を作用させれば、発生した微細な泡による衝撃波がアスファルト23に衝突するので、アスファルト23の除去量や除去速度を効果的に高めることができる。なお、撹拌せずに超音波を用いた除去工程を実施しても良いし、撹拌しながら超音波を用いた除去工程を実施しても良いし、超音波を用いた除去工程を複数回繰り返しても良い。また、超音波を用いた除去工程を単独で実施しても良いし、超音波を用いた除去工程と分離工程とを組み合わせて実施しても良い。
【0042】
図7図9には、アスファルトが付着したアイボルトを超音波洗浄した実施例1〜3に係る写真が示されている。本実施例では、変圧部領域の代わりにアイボルトの螺子部に針金を巻回し、この螺子部にアスファルトを付着させたアイボルトを用いて、除去工程におけるアスファルトの除去量および除去速度について検証した。
【0043】
実施例1〜3では、炭化水素系の溶媒としてノルマルパラフィン油(製品名:NSクリーン230)を用いた。本実施例では、加温されたノルマルパラフィン油が入ったビーカーを超音波発生装置の内部に配置して、アスファルトが付着したアイボルトをノルマルパラフィン油に浸漬した。次いで、撹拌せずに周波数35kHzの超音波をビーカー内部のノルマルパラフィン油に15分間作用させて、アイボルトからアスファルトを除去した。
【0044】
実施例1では、約54℃に加温したノルマルパラフィン油(1L)に、アスファルトが付着したアイボルト(全体重量:約228g、アスファルト重量:約24g)を浸漬した。実施例2では、実施例1で使用したノルマルパラフィン油に、アスファルトが付着した別のアイボルト(全体重量:約242.5g、アスファルト重量:約33.5g)を浸漬した。実施例3では、実施例2で使用したノルマルパラフィン油に、アスファルトが付着した別のアイボルト(全体重量:約238g、アスファルト重量:約31g)を浸漬した。なお、実施例2,実施例3では、超音波発振子の熱を受けて加温された実施例1,実施例2のノルマルパラフィン油を継続して用いたため、運転開始時におけるノルマルパラフィン油の液温が夫々約66℃,約79℃となっている。
【0045】
図7図9に示すように、15分後にはアイボルトからほとんどのアスファルトが除去され、アスファルト残存量は1.0g以下となった。つまり、加温された炭化水素系の溶媒に超音波を作用させれば、アスファルトの除去量や除去速度が効果的に高まることが検証された。また、炭化水素系の溶媒を繰り返し使用しても、除去効果が持続することも検証された。一方、図7図8に示すように、実施例1〜2では、5分後に大半のアスファルトが除去されずに残存しているのに対し、図9に示すように、実施例3では、5分後に大半のアスファルトが除去されていることが分かる。つまり、実施例3のように70℃以上に加温された炭化水素系の溶媒は、実施例1〜2のように70℃未満に加温された炭化水素系の溶媒に比べてアスファルトの除去速度をさらに高めることが検証された。
【0046】
次いで、図2に示すように、変圧部領域のアスファルト23を除去した後に、変圧部領域を破砕する。具体的には、第一収容空間43に収容された変圧部21やケース24などをアスファルト除去装置Yから取出し、破砕機(不図示)を用いて破砕する。つまり、破砕工程の前に変圧部21やケース24に付着したアスファルト23を除去しているので、破砕機にアスファルト23が付着することが抑制され、破砕効率を向上させることができる。なお、破砕工程の前に、再度、炭化水素系の溶媒に変圧部21を浸漬して、変圧部21から完全に除去されずに残留したアスファルト23を除去しても良い。また、第一孔部43a1を通過しなかった絶縁紙やリード線の一部を、手作業、篩、風力選別などで除去しても良い。
【0047】
次いで、磁力によって磁性物を分離する磁選機(不図示)で、磁性物(鉄)と非磁性物(コイル、アルミ等)とを選別する(磁選工程)。選別された磁性物は、炭化水素系の溶剤等で洗浄処理される(洗浄工程)。磁性物はPCB濃度が比較的低いので、洗浄処理によって容易に無害化することができる。次いで、PCB濃度が基準値以下か否かの卒業判定が実行され、無害であると判定されたものは資源として再利用する。逆に、卒業判定でPCB濃度が基準値をクリアしていない場合は、再度洗浄処理が行われる。このとき、洗浄工程で用いた溶剤は、系内で蒸留等することで再利用される。なお、洗浄方法は、超音波洗浄、浸漬洗浄、撹拌洗浄、真空加熱分離などを単独または適宜組み合わせて実行する。また、磁性物を埋立処理などの適正処分を行っても良い。
【0048】
一方、選別された非磁性物も磁性物と同様の処理が実行されるが、非磁性物には、アルミや銅など様々な材料が含まれているため、無害であると判定されたものは埋立処理といった適正処分が行われる。このように、磁選工程を備えることで、不純物を含まない鉄を確実に再利用することができる。なお、非磁性物を材料ごとに選別して再利用しても良いし、洗浄工程に代えてプラズマ溶融炉1でプラズマ処理しても良い。
【0049】
ところで、容器Cに鉄分が含まれていたり、非磁性物に破砕および磁選によって完全に鉄分が除去されずに混入したりしているので、プラズマ溶融炉1でプラズマ処理した際、炉内温度より高い融点を持つ酸化第二鉄(Fe)が生成され、スラグSが炉内に固着するおそれがある。これを防止するため、本実施形態では、プラズマ工程が、非磁性物に混入している鉄分量に応じて、添加される塩基度調整剤の所定量を決定すると共に、スラグSに含まれる酸化第二鉄の量に応じて、塩基度調整剤の添加量を調整する調整工程を有しているのが好ましい。
【0050】
調整工程では、まず、容器Cに収容されているPCB汚染物の鉄分量を測定する。次いで、この鉄分量に応じて塩基度調整剤の添加量を決定する。この塩基度調整剤の添加量の決定に際し、鉄分量に対する塩基度調整剤の投入量をマップ化しても良いし、スラグSの全体重量を予測して、スラグSの全体重量に対する酸化第二鉄の重量が所定値(例えば、60%や60%以下の値)となるように演算しても良い。次いで、塩基度調整剤が添加されたPCB汚染物をプラズマ処理し、このときに発生するスラグSに含まれる酸化第二鉄の重量比を測定する。次いで、測定された酸化第二鉄の重量比が所定値となるように、塩基度調整剤の添加量を調整(フィードバック制御)する。
【0051】
この調整工程によって、塩基度調整剤の添加量を適正値に修正することができ、塩基度調整剤の過剰添加を防止することができる。よって、塩基度調整剤の減量分だけ、容器Cに収容するPCB汚染物を増大させることができるので、処理効率が向上する。また、上述したように、磁選工程で磁性物として選別された鉄分は、プラズマ処理しない。安定器2においては、ケース24や変圧部21に含まれる鉄分が重量比で6〜8割含まれているので、安定器2を磁選しない場合に比べて、鉄分を減量した分だけ塩基度調整剤を節約することができる。その結果、プラズマ溶融すべき総量(安定器+塩基度調整剤)が削減され、プラズマ処理の処理効率が大幅に向上する。
【0052】
[第二実施形態]
以下、第二実施形態について説明する。図4および図5に示すように、本実施形態に係るPCB処理方法は、変圧部領域とコンデンサ領域とに分別する分別工程において、安定器2を、コンデンサ22の全体が含まれるコンデンサ領域を残存させた状態で切断する切断工程を有していても良い。
【0053】
図4に示すように、安定器2は、変圧部21とコンデンサ22とが長手方向に沿った両側領域に配置され、変圧部21とコンデンサ22との隙間には、アスファルト23が充填されている。また、鉄心が含まれる変圧部21は、コンデンサ22に比べて大きな重量を有しており、コンデンサ22は、平面視における占有面積が、変圧部21に比べて小さく、長手方向に対する中央線Tより一方側に偏って配置されている。
【0054】
そこで、図5に示すように、受入れた安定器2の中央線Tを境界とした両側領域の重量差に基づいて、コンデンサ領域を判別する重量差判定を行う。具体的には、図4に示すように、安定器2の中央線Tに沿った支持部材31(例えば、棒状部材)を配置すれば、重力によって変圧部領域が下降し、これに伴いコンデンサ領域が上昇する。この上昇した領域(重量の小さい側)をコンデンサ領域として判定する。次いで、変圧部領域とコンデンサ領域とを所定の比率(例えば、1:1や3:2)に設定し、中央線Tまたは中央線Tとコンデンサ22との間の位置で、安定器2を切断する。そして、重量差判定でコンデンサ領域として判定された領域をプラズマ溶融炉1に搬送すると共に、変圧部領域を解体、搬送し、破砕工程に移行させる。これによって、コンデンサ領域をプラズマ溶融炉1へ確実に搬送することができる。また、切断位置を特定する工程を省略しているので、極めて簡便である。なお、重量差判定や切断工程は、手動で実施しても良いし、自動で実施しても良い。また、重量差判定は、中央線Tで切断した後に、変圧部領域とコンデンサ領域との重量を測定し、重量の軽い方をコンデンサ領域と特定しても良く、特に限定されない。
【0055】
図5に示すように、切断された変圧部領域をドライバーやハンマーなどの工具を用いてケース24を取り外し、アスファルト23を粗取りして変圧部21などの部材を解体した後、搬送する。次いで、解体された変圧部領域を、図3に示すアスファルト除去装置Yの第一収容空間43に投入、又は加温された炭化水素系の溶媒が入った超音波発生装置に投入して、変圧部21に付着したアスファルト23を除去する。以降、第一実施形態と同様の工程が実行される。なお、切断工程において切断位置を特定する際、ケース24を剥離した後に目視でコンデンサ領域を確認しても良いし、ケース24を剥離した状態の変圧部領域をそのまま第一収容空間43に投入してアスファルト23を除去しても良い。
【0056】
本実施形態によれば、切断工程によって少なくとも変圧部21の容量分だけプラズマ処理されるPCB汚染物が減量される。安定器2は、変圧部21の容量比が半分以上であるので、1回のプラズマ処理で無害化される安定器2の処理効率が約2倍となる。しかも、PCB濃度が高いコンデンサ領域を切断工程で予め取り除いているので、変圧部領域を解体する際、コンデンサ22に含まれる絶縁油が漏出することがない。
【0057】
[第三実施形態]
以下、第三実施形態について説明する。図6に示すように、本実施形態に係るPCB処理方法は、PCB汚染物である安定器2を、アスファルト23が付着した変圧部21が含まれる変圧部領域とコンデンサ22が含まれるコンデンサ領域とに分別する分別工程と、コンデンサ領域をプラズマ処理するプラズマ工程と、変圧部領域を加温された炭化水素系の溶媒に浸漬し、アスファルトを除去する除去工程と、除去工程の後に、変圧部領域を焼却する焼却工程とを備えている。
【0058】
つまり、本実施形態では、第一実施形態における除去工程までは同様であり、破砕工程以降を省略して、アスファルト23が除去された変圧部領域を焼却処理することとしている。これは、上述した除去工程において、変圧部領域が炭化水素系の溶媒に浸漬されるので、PCB濃度が低減されて焼却処理することが可能となるからである。しかも、上述した除去工程は、変圧部21に付着したアスファルト23が速やかに除去されるので、変圧部領域の洗浄効率も高まり、焼却処理が可能なPCB濃度まで確実に低減することができる。なお、第一実施形態における破砕工程までを同様にして、破砕工程で破砕された変圧部領域を洗浄処理せずに焼却処理しても良い。また、第一実施形態における磁選工程までを同様にして、磁性物又は非磁性物のいずれか一方を焼却処理、いずれか他方を洗浄処理しても良い。
【0059】
[その他の実施形態]
(1)上述した実施形態における分別作業や解体作業は、手作業でも良いし、機械を用いて自動で実行しても良い。また、除去工程において、変圧部領域に含まれる部材を外径ごとに分離する分離工程を省略して、単に変圧部領域からアスファルト23を撹拌分離しても良い。
(2)除去工程で除去されたアスファルト23は、小型容器に詰替えて容器Cの投入口11とは別の投入口からプラズマ溶融炉1に投入しても良い。この場合、熱源として用いられるアスファルト23の投入量を把握し易く、プラズマ溶融炉1の熱量管理が容易なものとなる。
(3)図1では、処理部12のプラズマトーチ12aが1つである例を示したが、複数のプラズマトーチ12aを設置しても良い。また、プラズマトーチ12aの位置を容器Cの位置に応じて変更する位置制御部を設けても良い。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、PCBが含まれる安定器をプラズマ処理するPCB処理方法に利用可能である。
【符号の説明】
【0061】
2 安定器
21 変圧部
22 コンデンサ
23 アスファルト
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9