【実施例1】
【0017】
実施例1に係るメカニカルシール装置につき、
図1から
図4を参照して説明する。以下、
図1の紙面左、右、上、下側をメカニカルシール装置の左、右、上、下側として説明する。
【0018】
図1、2に示すように、メカニカルシール装置3は、コンプレッサ(機器)のハウジング1(機器)と、ハウジング1の軸孔11を貫通してコンプレッサの内部(機内側)と外部(大気側)に連通するように配置されるシャフト2との間に装着される。シャフト2(機器、回転シャフト)は、大気側においてエンジンのクランク軸からの駆動力が図示せぬ電磁クラッチ等の機構を介して伝達され、これにより回転し、コンプレッサ内部(機内側)の機構を駆動する。
【0019】
メカニカルシール装置3は、ハウジング1に非回転状態に装着される静止側摺動環であるメイティングリング30、シャフト2側に装着されてこのシャフト2と一体的に回転する回転側摺動環であるシールリング40を有する。また、メカニカルシール装置3は、シールリング40をシャフト2に嵌着するための構成として、ケース60、コイルドウェーブスプリング70(弾発部材)、スプリングホルダ71及びOリング80を有する。
【0020】
メイティングリング30とシールリング40とは、シャフト2の軸方向に沿って互いに対向するように配置されており、その対向した端面である摺動面30a、41a同士が密接することにより、被密封流体をシールする。すなわち、機内側の被密封流体が大気側に漏洩、流出しないようにシールされる。
ここで、ハウジング1の右側の摺動面30a、41aの外周側の空間が、被密封流体たる炭酸ガス(CO2)が充満する機内側空間Pであり、摺動面30a、41aの内周側からハウジング1の左側に至る空間が大気側(機外)空間Aである(
図2)。
【0021】
メイティングリング30のシールリング40側の端面は、シールリング40の摺動面たる環状の摺動突起41の摺動面41aが摺動可能に密接される摺動面30aとして形成されている。メイティングリング30のシールリング40側の端部には、径方向外側に延び周方向に等間隔に3カ所の切欠32が設けられた3カ所のフランジ31が設けられている(
図3)。
【0022】
シールリング40のメイティングリング30側の端面には、メイティングリング30方向に突出した環状の摺動突起41が形成されており、摺動突起41の摺動面41aがメイティングリング30の摺動面30aに摺動可能に密接される。シールリング40は、例えばカーボン摺動材により形成され、メイティングリング30は、カーボン摺動材よりもヤング率の大きい硬質摺動材(例えばSiC等のセラミックス)により形成される。
【0023】
Oリング80は、シールリング40の背面側(メイティングリング30とは反対側の面)の端部の内周面に形成されたOリング装着凹部43に収容された状態で、シールリング40に装着される。シールリング40の背面には、金属板であるスプリングホルダ71が当接配置され、その内径部はシールリング40のOリング装着凹部43の背後を塞ぐように延びている。スプリングホルダ71の背面側には三脚台状の金属板(例えばステンレス鋼板)からなるケース60が配置されている。
【0024】
図4を参照し、ケース60は、中央に嵌合孔62を有する鍔状の底板61、底板61から軸方向に僅かに(コイルドウェーブスプリング70よりも短い。)延びるリブ63、リブ63から軸方向に延びる3本のガイド片64(ガイド部材)、ガイド片64の先端の係合突起66(保持手段としての係合片)から形成されている。ガイド片64の先端の係合突起66は、ガイド片64を径方向内側にプレスすることにより形成されている。プレスにより係合突起66の突出方向とは反対側に凹部65が形成される。ガイド片64は周方向に均等間隔で形成されており、シールリング40の外周面に同じく均等間隔に形成された切欠42(
図1)と係合している。これにより、シールリング40は、シャフト2の軸方向には移動可能な状態となり、周方向(回転方向)には移動不能な状態(一体的に回転する状態)とされる。
【0025】
図1に示されるメカニカルシール装置3を組み立てるには、ケース60内に、コイルドウェーブスプリング70、スプリングホルダ71、Oリング80が装着されたシールリング40を順に収容する。この状態で、ケース60のガイド片64を、メイティングリング30の切欠32の位置に合わせ、コイルドウェーブスプリング70の弾発力に抗しながら軸方向(ケース60の底板61とメイティングリング30とが近づく方向)に押し込み、係合突起66がフランジ31を超えた位置(係合突起66とフランジ31が径方向に見て重複しない位置)でケース60を周方向に60度回転させることにより、係合突起66の係合面66a(右側の面)とフランジ31の被係合面31a(左側)の面が当接させられることにより組み立てられる。
図1に示されるメカニカルシール装置3が機器に取り付けられる前の状態を保持状態(又は使用前状態)と言う。
【0026】
保持状態では、係合突起66の係合面66aとフランジ31の被係合面31aの面が当接し、コイルドウェーブスプリング70が軸方向に保持長に圧縮された状態で介在されており、これによりシールリング40はスプリングホルダ71を介してメイティングリング30に保持圧力で付勢される。すなわち、シールリング40とメイティングリング30とが、コイルドウェーブスプリング70と係合突起66との間に弾発保持されてなる。ここで、保持長はコイルドウェーブスプリング70の自然長よりも短く、
図2に示されるメカニカルシール装置3の使用長よりも長い長さである。
【0027】
ついで、
図2に示されるメカニカルシール装置3が機器に取り付けられた使用状態について説明する。メイティングリング30は、ガスケット50を介在させてハウジング1の軸孔11の機内側開口部に拡径形成された環状凹部12に嵌入されている。ガスケット50は内部の金属環51がインサート成形によりゴム部材52により覆われている。シールリング40は、メイティングリング30よりも機内側に配置され、シャフト2の外周面にOリング80を介在させて軸方向移動可能に嵌合されている。
【0028】
ケース60は底板61の外側面(右面)が、シャフト2の第1の段差部21に当接されることにより、ケース60はシャフト2の軸方向に係止されている。また、ケース60は嵌合孔62の平坦部62aがシャフト2の第1の段差部21の一部に形成された切欠部26と係合するように構成されている(
図4)。これによりシャフト2に対して周方向に移動不能に、すなわち、シャフト2の回転に伴ってシャフト2と一体的に回転するように、シャフト2に嵌合されている。
【0029】
ここで、シャフト2は、ケース60の平坦部62aが係合される位置に切欠部26が形成された第1の段差部21が形成されており、また、シールリング40の内周に対応する位置に第2の段差部22が形成されている。これら第1の段差部21及び第2の段差部22を境として、シャフト2は、第1の段差部21よりも大気側の部分であってハウジング1の軸孔11及びメイティングリング30の内周部へ挿通している小径部23、第1の段差部21と第2の段差部22の間のシールリング40がOリング80を介在させて軸方向移動可能に嵌着されている中径部24、及び第2の段差部22よりも機内側の大径部25により形成されている。これにより、流体圧力がかかるシールリング40の最内径よりもメイティングリング30とシールリング40との摺動面30a、41aの最内径を内径側に配置することができ、バランス形メカニカルシールとして用いることができる。ここで、バランス形とは、摺動面に流体圧力の作用しない面積の部分を持っていて、流体圧力による摺動面への負荷を低減できるシール形式のことを指す。(他に関連するものとして、アンバランス形が挙げられ、これは摺動面に流体圧力が全て作用し、流体圧力による摺動面への負荷を低減できないシール形式のことを指す。)
【0030】
メカニカルシール装置3の軸方向の長さは、
図2に示される使用状態が
図1に示される保持状態よりもLだけ短い長さである。ここで、メカニカルシール装置3の軸方向の長さは、ガスケット50の外側端面(
図1、2における左側の端面)とケース60の外側端面(
図1、2における右側の端面)の間の長さである。このため、メカニカルシール装置3を機器に取り付けた使用状態では、シールリング40はコイルドウェーブスプリング70からメイティングリング30に
図1に示される保持圧力よりも高い使用圧力で付勢される。
図2に示される状態では、メイティングリング30とケース60とは係合しておらず、シャフト2の回転を妨げることがない。
【0031】
このような構成により、シールリング40にはコイルドウェーブスプリング70による付勢力がシャフト2の軸方向に与えられ、摺動突起41先端の摺動面41aはメイティングリング30の摺動面30aに適切な使用圧力で押し付けられる。また、シールリング40は、シャフト2からの回転トルクをケース60を介して与えられることとなり、シャフト2と一体的に回転する。この結果、シャフト2の回転に伴って、メイティングリング30の摺動面30aとシールリング40の摺動面41aとは密接した状態で摺動することとなり、メイティングリング30の摺動面30aとシールリング40の摺動面41aとの接合により被密封流体をシールする。
【0032】
また、両リング30、40の軸に垂直な摺動面30a、41aが、メカニカルシール装置3が機器に取り付けられる使用状態(
図1)に加え、機器に取り付けられる前の使用前状態(
図2)においても両リング30、40の軸に垂直な摺動面30a、41aがコイルドウェーブスプリング70の弾発力に基づく圧力で互いに接触しているため、メイティングリング30の摺動面30aとシールリング40の摺動面41aとの間に入る塵埃を極力抑制できる。
【0033】
また、使用状態で使用されるコイルドウェーブスプリング70を、機器に取り付けられる前の使用前状態において両リング30、40の軸に垂直な摺動面30a、41aが互いに接触する状態に保持する弾発部材として用いるため、部品の共通化が可能となる。
【0034】
また、係合突起66によりコイルドウェーブスプリング70の弾発力を受けたメイティングリング30の移動を阻止できるようになっている。このため、機器に組み込む際に、ケース60が回転シャフト2の軸方向からの接続を受けて移動するのみで、メイティングリング30と係合突起66との接触を容易に解くことができる。
【0035】
また、ガスケット50とフランジ31との間に、径方向内向きの係合突起66の好適な待機場所を確保できる。
【0036】
また、フランジ31と係合突起66はいわゆるバヨネット係合により着脱可能となり、簡単な手順によりメイティングリング30とシールリング40とを弾発状態(保持状態)に組み立てることができる。
【0037】
また、メカニカルシール装置3は、各要素それぞれが一体化(ユニット化)されるため、取り扱いが簡素化されるばかりか、取り付け取り外し時の作業の煩雑さが解消される。
【0038】
また、回転不能に固定されるメイティングリング30にフランジ31が設けられるため、軸方向に移動可能かつ回転軸に回転不能に固定されるように構成されたシールリング40の構成を更に複雑にすることがない。
【0039】
また、ガイド片64が回転するシールリング40側に設けられるとともに当該ガイド片64はメイティングリング30とシールリング40との摺動面30a、41aの径方向外側に位置する。このため、使用時に、当該摺動面30a、41aの外側にガイド片64の回転に伴う周方向の流れが生じ、当該周方向の流れが所謂流体カーテンとなって急激な被密封流体の圧力変動等が摺動面30a、41aに作用することを抑制できる。
【0040】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0041】
例えば、上述した実施例では、メカニカルシール装置3として回転型のものについて説明したが、静止型のものであってもよい。例えば、回転軸に回転不能に固定されるメイティングリング側にフランジ等の被係合部を設け、スプリングを介してハウジングに固定されるシールリング側に被係合部に係合する係合部を設ければよい。この場合には、回転側のガイド片を短くできるから、回転側を小型化できる。
【0042】
また、シールリング40とメイティングリング30とを弾発保持する保持部材として、ケース60のガイド片64に設けた係合突起66を例について説明したが、必ずしもケース60に設ける必要はない。要は、シールリング40とメイティングリング30とを弾発保持するものであればよく、例えば外部から着脱可能なクリップであってもよい。この場合には、機器に組み込む途中又は組み込み時にクリップを取り外せばよい。
【0043】
また、軸に垂直な摺動面を有するメイティングリングと、軸方向に移動可能に設けられ、メイティングリングの摺動面と接触する軸に垂直な摺動面を有するシールリングと、前記シールリングを軸方向にガイドするガイド部材と、前記シールリングを前記メイティングリング側に押圧する弾発部材とを備え、前記シールリングと前記メイティングリングとが、前記弾発部材と保持手段との間に弾発保持されるものとしてもよい。両リングの軸に垂直な摺動面が、メカニカルシール装置が機器に取り付けられる使用状態に加え、機器に取り付けられる前の使用前状態においても両リングの軸に垂直な摺動面が弾発部材の弾発力に基づく圧力で互いに接触しているため、メイティングリングの摺動面とシールリングの摺動面との間に入る塵埃を極力抑制できる。
【0044】
また、メカニカルシール装置3が使用される機器として自動車空調用コンプレッサである場合について説明したが、使用される機器は問わない。