特許第6573653号(P6573653)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6573653ペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6573653
(24)【登録日】2019年8月23日
(45)【発行日】2019年9月11日
(54)【発明の名称】ペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 23/00 20060101AFI20190902BHJP
【FI】
   C01G23/00 C
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-235032(P2017-235032)
(22)【出願日】2017年12月7日
(65)【公開番号】特開2019-99440(P2019-99440A)
(43)【公開日】2019年6月24日
【審査請求日】2019年1月10日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000230593
【氏名又は名称】日本化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】特許業務法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】国枝 武久
(72)【発明者】
【氏名】松下 晃
【審査官】 佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−116728(JP,A)
【文献】 特開2017−071537(JP,A)
【文献】 特開2009−209002(JP,A)
【文献】 米国特許第06066581(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 23/00 − 23/08
C04B 35/468
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
DWPI(Derwent Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼成炉内に、露点が45℃以上100℃未満の加湿空気を導入しながら、該焼成炉内で、Ba原子とTi原子を含む複合有機酸塩を焼成して、焼成物を得る焼成工程と、
該焼成物を粉砕して、X線回折分析におけるc軸とa軸の比(c/a)が1.004以上である正方晶のペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末を得る粉砕工程と、
を有すること、
を特徴とするペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末の製造方法。
【請求項2】
前記加湿空気の露点が、50〜90℃であることを特徴とする請求項1記載のペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末の製造方法。
【請求項3】
温度を調整した水に空気を通して、該空気を加湿することにより、前記加湿空気を調製することを特徴とする請求項1又は2記載のペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末の製造方法。
【請求項4】
前記複合有機酸塩を、500〜1200℃で焼成することを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載のペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末の製造方法。
【請求項5】
前記複合有機酸塩がカルボン酸塩であることを特徴とする請求項1〜4いずれか1項記載のペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末の製造方法。
【請求項6】
前記複合有機酸塩がシュウ酸塩又はクエン酸塩であることを特徴とする請求項1〜5いずれか1項記載のペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末の製造方法に関するものであり、特に、圧電体、オプトエレクトロニクス材、誘電体、半導体、センサー等の機能性セラミックの原料として有用なペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末は、従来、圧電体、積層セラミックコンデンサ等の機能性セラミックの原料として用いられてきた。ところが、近年、積層セラミックコンデンサは、高容量化のために積層数の増加や高誘電率化が求められており、このため、原料であるペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末には、微細で、高い正方晶性を持つことが要望されている。
【0003】
ペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末を製造する1つの方法として、Ba原子とTi原子を含む複合有機酸塩を仮焼する方法がある。例えば、塩化バリウムと塩化チタンを含む溶液と、シュウ酸水溶液とを接触させ反応を行ってシュウ酸バリウムチタニルを得た後、該シュウ酸バリウムチタニルを仮焼し脱シュウ酸処理するシュウ酸塩法が代表的である。このシュウ酸塩法で得られるペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末は、組成が均一であることが特徴であるものの、その他の特性の改良検討として、より微細で正方晶性の高いものを得るための試みが行われている。
【0004】
例えば、下記特許文献1には、水溶性バリウム塩と水溶性チタニウム塩及びシュウ酸の水溶液を同時に混合し、得られたゲルを短時間に強力攪拌解砕することにより得られた微細なシュウ酸バリウムチタニル(BaTiO(C)・4HO)の結晶を700〜900℃で仮焼する方法が提案されている。
【0005】
また、下記特許文献2及び3には、シュウ酸バリウムチタニルを湿式粉砕処理して、微細なシュウ酸バリウムチタニルを得た後、得られたシュウ酸バリウムチタニルを仮焼する方法が提案されている。
【0006】
また、下記特許文献4には塩化バリウム水溶液と塩化チタン水溶液との混合水溶液をシュウ酸水溶液に添加してバリウムチタン酸オキサラートを沈澱させた後、エージングし、洗浄、濾過、乾燥させてバリウムチタン酸オキサラートを製造する段階;製造したバリウムチタン酸オキサラートを1次仮焼後、1次粉砕して微粒のチタン酸バリウム粉末を製造する段階;および前記微粒のチタン酸バリウム粉末を2次仮焼後、2次粉砕する段階、を含む方法が提案されている。
【0007】
ところが、上記の方法では、ある程度微細であり、且つ、ある程度正方晶性が高いペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末が得られるものの、更に、工業的に有利な方法で、微細且つ正方晶性が高いペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末を製造する方法が要望されている。
【0008】
そこで、特許文献5には、Ba原子とTi原子を含む複合有機酸塩を焼成炉中で仮焼してペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末を製造する方法において、前記仮焼を、温度を調整した水に空気を通して加湿した加湿空気を焼成炉中に導入しながら行うことを特徴とするペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末の製造方法が開示されている。特許文献5では、平均粒径が小さく且つ正方晶性の高いペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末が得られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭61−146710号公報
【特許文献2】特開2004−123431号公報
【特許文献3】特開2002−53320号公報
【特許文献4】特開2003−212543号公報
【特許文献5】特許第5119008号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献5の方法では、平均粒径が小さく且つ正方晶性が高い特性を有するペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末が得られる。しかし、積層セラミックコンデンサのさらなる高容量化や高誘電率化を検討する上で、原料となるペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末の特性を検討する余地があった。具体的には、平均粒径が小さいだけでなく、粒度分布幅の狭い、粒径の揃ったペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末を得る必要があった。
【0011】
従って、本発明の目的は、複合有機酸塩を用い、工業的に有利な方法で、微細且つ正方晶性が高いだけでなく、粒径の揃ったペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題は、以下の本発明により解決される。
すなわち、本発明(1)は、焼成炉内に、露点が45℃以上100℃未満の加湿空気を導入しながら、該焼成炉内で、Ba原子とTi原子を含む複合有機酸塩を焼成して、焼成物を得る焼成工程と、
該焼成物を粉砕して、X線回折分析におけるc軸とa軸の比(c/a)が1.004以上である正方晶のペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末を得る粉砕工程と、
を有すること、
を特徴とするペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末の製造方法を提供するものである。
【0013】
また、本発明(2)は、前記加湿空気の露点が、50〜90℃であることを特徴とする(1)のペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末の製造方法を提供するものである。
【0014】
また、本発明(3)は、温度を調整した水に空気を通して、該空気を加湿することにより、前記加湿空気を調製することを特徴とする(1)又は(2)のペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末の製造方法を提供するものである。
【0015】
また、本発明(4)は、前記複合有機酸塩を、500〜1200℃で焼成することを特徴とする(1)〜(3)いずれかのペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末の製造方法を提供するものである。
【0016】
また、本発明(5)は、前記複合有機酸塩がカルボン酸塩であることを特徴とする(1)〜(4)いずれかのペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末の製造方法を提供するものである。
【0017】
また、本発明(6)は、前記複合有機酸塩がシュウ酸塩又はクエン酸塩であることを特徴とする(1)〜(5)いずれかのペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、複合有機酸塩を用い、工業的に有利な方法で、微細且つ正方晶性が高いだけでなく、粒径の揃ったペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】焼成炉の形態例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末の製造方法は、焼成炉内に、露点が45℃以上100℃未満の加湿空気を導入しながら、該焼成炉内で、Ba原子とTi原子を含む複合有機酸塩を焼成して、焼成物を得る焼成工程と、
該焼成物を粉砕して、ペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末を得る粉砕工程と、
を有すること、
を特徴とするペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末の製造方法である。
【0021】
本発明のペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末の製造方法は、焼成炉内で、Ba原子とTi原子を含む複合有機酸塩を焼成して、焼成物を得る焼成工程と、焼成工程を行い得られる焼成物を粉砕して、ペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末を得る粉砕工程と、を有する。
【0022】
本発明のペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末の製造方法に係る焼成工程おいて、焼成原料であるBa原子とTi原子を含む複合有機酸塩(以下、単に「複合有機酸塩」とも記載する。)としては、BaとTiの複塩が形成されているものであれば、特に制限されず、例えば、ギ酸塩、シュウ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、コハク酸塩、リンゴ酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、乳酸塩等のカルボン酸塩、あるいは、これらカルボン酸を2種以上含む複合塩、例えば、シュウ酸と乳酸の両方を含むカルボン酸の複合塩(例えば、特願2007−40018号参照)等が挙げられる。複合有機酸塩としては、例えば、シュウ酸バリウムチタニル、クエン酸バリウムチタニル、コハク酸バリウムチタニル等が挙げられる。これらのうち、複合有機酸塩としては、シュウ酸塩、クエン酸塩が、Ba/Tiの原子比が1近傍の複合有機酸塩を容易に製造でき、且つ、製造コストが低くなる点で好ましい。
【0023】
複合有機酸塩中のBa原子とTi原子の含有割合は、Ba原子とTi原子のモル比(Ba/Ti)で、0.99〜1.01、好ましくは0.995〜1.005である。Ba原子とTi原子のモル比(Ba/Ti)が、上記範囲にあることにより、微細で正方晶性の高いペロブスカイト型チタン酸バリウムが得られる。
【0024】
なお、複合有機酸塩は、製造されるペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末のAサイト元素のBa原子の一部代替として、Ca原子又は/及びSr原子を含有していてもよく、また、Bサイト元素のTi原子の一部代替として、Zr原子を含有していてもよい。この場合、Ba原子の一部代替とするCa原子又は/及びSr原子の代替量は、特に制限されないが、Ba原子に対して50モル%未満が好ましい。また、Ti原子の一部代替とするZr原子の代替量は、特に制限されないが、Ti原子に対して50モル%未満が好ましい。BaとCa及び/又はSr(Aサイト元素)に対するTiとZr(Bサイト元素)の混合割合はモル比(Aサイト元素/Bサイト元素)で0.99〜1.01、好ましくは0.995〜1.005とすることが好ましい。
【0025】
複合有機酸塩の平均粒径は、特に制限されないが、レーザー回折散乱法により求められる平均粒径が、好ましくは200μm以下、特に好ましくは100μm以下であることが、微細で正方晶性の高いペロブスカイト型チタン酸バリウムが得られる点で好ましい。
【0026】
複合有機酸塩は、公知の方法で製造される。シュウ酸塩は、例えば、塩化チタン及び塩化バリウムを含む水溶液と、シュウ酸水溶液を接触させてシュウ酸塩を析出させ、必要により熟成反応を行い、次いで、常法により固液分離して回収し、必要により洗浄、乾燥、粉砕等を行うことにより、製造される。シュウ酸塩としては、例えば、特開2006−321722号公報、特開2006−321723号公報、特開2006−348026号公報、特開2004−123431号公報等に記載されている方法により製造される複合有機酸塩が挙げられる。
【0027】
また、クエン酸塩は、例えば、チタンのクエン酸溶液に塩化バリウムの溶液を添加し、クエン塩を析出させ、必要により熟成反応を行い、次いで常法により固液分離して回収し、必要により洗浄、乾燥、粉砕等を行うことにより製造される。クエン酸塩としては、例えば、米国特許第3,231,328号公報等に記載されている方法により製造される複合有機酸塩が挙げられる。
【0028】
また、シュウ酸と乳酸の両方を含むカルボン酸の複合塩は、例えば、チタン成分、バリウム成分及び乳酸成分を含む溶液と、シュウ酸成分を含む溶液とをアルコールを含む溶媒中で接触して反応することにより製造される(国際公開WO2008/102785号パンフレット参照)。
【0029】
複合有機酸塩の粉砕を行う場合は、特に制限はなく、湿式法又は乾式法で行うことができる。例えば、湿式法で行う場合は、複合有機酸塩を含むスラリーを、湿式粉砕装置に装入して粉砕処理する方法が挙げられる。湿式粉砕装置としては、例えば、ボールミル、ビーズミル等が挙げられる。スラリーの調製に用いられる溶媒としては、複合有機酸塩に対して不活性であるものが用いられ、例えば、水、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、トルエン、キシレン、アセトン、塩化メチレン、酢酸エチル、ジメチルホルムアミド及びジエチルエーテル等が挙げられる。これらのうち、スラリーの調製に用いられる溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、トルエン、キシレン、アセトン、塩化メチレン、酢酸エチル、ジメチルホルムアミド及びジエチルエーテルが好ましい。スラリーの調製に用いられる溶媒は、1種単独であっても、2種以上の組み合わせであってもよい。なお、湿式処理後、噴霧乾燥機によりスラリーごと乾燥を行ってもよい。また、乾式法で行う場合は、複合有機酸塩をジェットミル、ピンミル、ロールミル、ハンマーミル、パルベライザー等の乾式粉砕装置を用いて粉砕処理する方法が挙げられる。
【0030】
複合有機酸塩は、高純度なペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末を得るために、高純度なものが好ましい。
【0031】
そして、本発明のペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末の製造方法に係る焼成工程では、焼成炉内に、露点が45℃以上100℃未満の加湿空気を導入しながら、焼成炉内で複合有機酸塩を焼成する。
【0032】
焼成工程において、焼成炉内に導入する加湿空気の露点は、45℃以上100℃未満、好ましくは50〜90℃である。加湿空気の露点が上記範囲にあることにより、正方晶性が高く微細であり且つ粒径の揃ったペロブスカイト型チタン酸バリウムが得られる。
【0033】
加湿空気の調製方法は、加湿空気の露点が上記範囲となる方法であれば、特に制限されないが、例えば、温度を調整した水に空気を通すことにより、加湿空気を調製することができ、また、空気に水蒸気を混合することにより、加湿空気を調製することができる。
【0034】
表1に、露点(℃)と乾燥空気1mに含まれる飽和水蒸気量(湿度100%)(g)の関係を示す。
【0035】
【表1】
【0036】
焼成炉内への加湿空気の導入量は、焼成炉の容量により異なり、焼成炉により適宜選択されるが、焼成炉の単位容量当たりの、焼成炉内への加湿空気の導入量は、好ましくは0.3L/(分・L(焼成炉の容量))以上、特に好ましくは0.5〜3L/(分・L(焼成炉の容量))である。なお、焼成炉の単位容量当たりの、焼成炉内への加湿空気の導入量とは、焼成炉内への単位時間当たりの加湿空気導入量(L/分)を、焼成炉の容量(L)で除して算出される。例えば、容量が10Lの焼成炉を使用する場合には、焼成炉の単位容量当たりの、焼成炉内への加湿空気の導入量は、好ましくは0.3L/(分・L(焼成炉の容量))以上、特に好ましくは0.5〜3L/(分・L(焼成炉の容量))であるから、焼成炉内への単位時間当たりの加湿空気の導入量は、好ましくは3L/分以上、特に好ましくは5〜30L/分となる。焼成炉の単位容量当たりの、焼成炉内への加湿空気の導入量が、上記範囲にあることが、ペロブスカイト型チタン酸バリウムへの生成反応において焼成炉内で発生した炭酸ガスを効率よく吸収させ、且つ、加湿空気により炉内温度が低下することを防ぐことができる点で好ましい。
【0037】
焼成工程における複合有機酸塩の焼成温度は、500〜1200℃、好ましくは600〜1000℃である。焼成工程における複合有機酸塩の焼成温度が、上記範囲未満だと、ペロブスカイト型チタン酸バリウムへの生成反応が進まず、未反応のままになり易く、また、上記範囲を超えると、生成したペロブスカイト型チタン酸バリウムが粒成長を起こす傾向がある。
【0038】
焼成工程における複合有機酸塩の焼成時間は、好ましくは4時間以上、特に好ましくは6〜30時間である。焼成工程における複合有機酸塩の焼成雰囲気は、加湿空気を含む大気下、加湿空気を含む酸素ガス雰囲気下等の加湿空気を含む酸化性ガス雰囲気である。焼成工程における複合有機酸塩の焼成圧力は、大気圧下である。
【0039】
焼成工程において、複合有機酸塩を焼成するための焼成炉は、バッチ式又は連続式の電気炉、ガス炉が挙げられ、例えば、ローラーハースキルン、ロータリーキルン、プッシャー炉等が挙げられる。
【0040】
焼成工程では、粉体特性を均質とするため、一度焼成したものを粉砕し、再焼成を行ってもよい。
【0041】
このようにして、焼成工程を行うことにより、複合有機炭酸塩の焼成物を得る。焼成工程を行い得られる焼成物では、ペロブスカイト型チタン酸バリウムの一次粒子が凝集して、二次粒子を形成している。つまり、焼成工程を行い得られる焼成物は、ペロブスカイト型チタン酸バリウムの一次粒子が凝集した二次粒子である。
【0042】
ペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末の製造方法に係る粉砕工程では、焼成を行い得られた焼成物を粉砕し、ペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末を得る。
【0043】
粉砕工程において、焼成を行い得られた焼成物を粉砕する方法としては、特に制限されず、湿式粉砕であっても、乾式粉砕であってもよい。湿式粉砕装置としては、例えば、ボールミル、ビーズミル等が挙げられ、乾式粉砕装置としては、例えば、ジェットミル、ピンミル、ロールミル等が挙げられる。
【0044】
粉砕工程を行った後、必要に応じて、ペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末の酸溶液による洗浄、水洗、乾燥、分級等を行うことができる。乾燥方法は、常法が用いられるが、湿式粉砕処理を行った場合には、例えば、噴霧乾燥機を用いる方法を適用することできる。
【0045】
本発明のペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末の製造方法を行い得られるペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末の平均粒径(D50)は、0.330μm以下、特に0.010〜0.328μmであることが好ましい。加えて、本発明のペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末の製造方法を行い得られるペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末のD90は、0.930μm以下、特に0.650〜0.900μmであることが好ましい。よって、本発明のペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末の製造方法を行い得られるペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末は、微細でありつつ、大粒子の生成が抑えられることから、粒度分布幅の狭い、粒径の揃ったペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末となる。なお、本発明において、ペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末の粒子径は、レーザー回折散乱法により求められるものである。また、本発明において平均粒径(D50)は、体積基準の累積分布が50%となる粒径を意味するもので、メジアン径を意味し、また、D90は、体積基準の累積分布が90%となる粒径を意味する。
【0046】
本発明のペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末の製造方法を行い得られるペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末の粒度分布指数((D90−D10)/D50)は、2.410以下、特に2.405以下であることが好ましい。つまり、本発明のペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末の製造方法を行い得られるペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末は、粒度分布が狭い。
【0047】
本発明のペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末の製造方法を行い得られるペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末の比表面積は、2m/g以上、好ましくは3〜50m/gである。
【0048】
本発明のペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末の製造方法を行い得られるペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末のX線回折分析において、正方晶の指標となるc軸とa軸の比(c/a)は、好ましくは1.004以上、好ましくは1.005〜1.010である。よって、本発明のペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末の製造方法を行い得られるペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末は、高い正方晶性を有する。
【0049】
本発明のペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末の製造方法を行い得られるペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末は、極めて高純度であり、圧電体、オプトエレクトロニクス材、誘電体、半導体、センサー等の電子部品用機能性セラミックの原料として有用なペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末である。
【0050】
本発明のペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末の製造方法では、焼成工程で、加湿空気を反応炉内に導入しながら、複合有機酸塩の焼成を行うことにより、ペロブスカイト型チタン酸バリウムへの生成反応において焼成炉内で発生した炭酸ガスを効率的に、加湿空気に吸収させることができるため、正方晶性が高いペロブスカイト型チタン酸バリウムが得られることに加え、加湿空気の露点を特定範囲とすることにより、粉砕工程において粉砕され易い焼成物、すなわち、粉砕工程において粉砕され易いペロブスカイト型チタン酸バリウムの二次粒子が得られる。そのため、本発明のペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末の製造方法では、焼成工程の後、粉砕工程を得て、正方晶性が高く、微細であり且つ粒径の揃ったペロブスカイト型チタン酸バリウムの二次粒子が得られる。
【0051】
本発明のペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末の製造方法では、必要に応じて、焼成工程の焼成原料である複合有機酸塩に、副成分元素含有化合物を添加することにより、副成分元素の酸化物を含むペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末を得ることができる。また、本発明のペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末の製造方法では、焼成工程を行い得られる焼成物に、副成分元素含有化合物を添加し、焼成することによっても、副成分元素を含有する本発明のペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末を得ることができる。このような副成分元素としては、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu等の希土類元素、Li、Bi、Zn、Mn、Al、Si、Sr、Co、V、Nb、Ni、Cr、B、Fe及びMgから選ばれる少なくとも1種の元素が挙げられる。なお、副成分元素含有化合物は、無機物又は有機物のいずれであってもよい。副成分元素含有化合物としては、例えば、副成分元素を有する酸化物、水酸化物、塩化物、硝酸塩、蓚酸塩、カルボン酸塩、アルコキシド等が挙げられる。副成分元素含有化合物がSi元素を含有する化合物である場合は、副成分元素含有化合物としては、副生分元素を有する酸化物、水酸化物、塩化物、硝酸塩、蓚酸塩、カルボン酸塩、アルコキシドに加え、シリカゾルや珪酸ナトリウム等も挙げられる。
【0052】
なお、これらの副成分元素の組み合わせや添加量は、生成するペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末が用いられるセラミックスに必要な誘電特性に合わせて、任意に設定される。例えば、副成分元素の添加量は、ペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末100質量部に対して、副成分元素が、原子換算で0.1〜5質量部である。
【0053】
本発明のペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末の製造方法を行い得られるペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末は、積層コンデンサの製造原料として用いられる。例えば、先ず、本発明のペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末の製造方法を行い得られるペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末と、添加剤、有機系バインダ、可塑剤、分散剤等の従来公知の配合剤とを混合し分散させてスラリー化し、スラリー中の固形物を成形してセラミックシートを得る。次にこのセラミックシートの一面に内部電極形成用導電ペーストを印刷し、乾燥後、複数枚のセラミックシートを積層し、次に厚み方向に圧着することにより積層体を形成する。さらに、この積層体を加熱処理して脱バインダ処理を行い、仮焼して仮焼体を得る。その後、この焼成体にIn−Gaペースト、Niペースト、Agペースト、ニッケル合金ペースト、銅ペースト、銅合金ペースト等を塗布して焼き付けることにより積層コンデンサを得ることができる。
【0054】
また、本発明のペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末の製造方法を行い得られるペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末は、例えば、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂等の樹脂に配合し、樹脂シート、樹脂フィルム、接着剤等として、プリント配線板や多層プリント配線板等の材料に好適に用いられる。また、本発明のペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末の製造方法を行い得られるペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末は、EL素子の誘電体材料、内部電極と誘電体層との収縮差を抑制するための共材、電極セラミックス回路基板やガラスセラミックス回路基板の基材及び回路周辺材料の原料、排ガス除去や化学合成等の反応時に使用される触媒、帯電防止効果やクリーニング効果を付与する印刷トナーの表面改質材等として好適に用いられる。
【実施例】
【0055】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<シュウ酸バリウムチタニルの調製>
塩化バリウム2水塩600g(2.456モル)及び四塩化チタン444g(2.342モル)を水4100mlに溶解した混合溶液を調製し、これをA液とした。次にシュウ酸620gを70℃の温水1500mlに溶解しシュウ酸水溶液を調製し、これをB液とした。A液にB液を70℃に保持しながら攪拌下に120分かけて添加し、更に70℃で1時間攪拌下に熟成した。冷却後、ろ過してシュウ酸バリウムチタニルを回収した。次いで回収したシュウ酸バリウムチタニルを蒸留水4.5Lで3回リパルプして洗浄した。次いで、105℃で乾燥し、粉砕してシュウ酸バリウムチタニル(BaTiO(C)・4HO)1000gを得た。得られたシュウ酸バリウムチタニルのBa/Tiモル比は1.00であった。
【0056】
なお、Ba/Tiモル比については、蛍光X線分析した値に基づいてBa/Tiモル比を算出した。
【0057】
(実施例1及び2、比較例1及び2)
図1に示す電気式バッチ炉からなる焼成炉(容量10L)にて、上記で得たシュウ酸バリウムチタニル試料1kgを、大気下で、表2に示す露点の加湿空気を、20L/分の割合で焼成炉内に導入しながら、2.5℃/分の昇温速度で表2に示す温度まで昇温し、6時間保持して焼成した。焼成終了後、冷却し、粉砕を行ってチタン酸バリウム粉末を得た。
得られたチタン酸バリウム粉末の平均粒径(D50)、D90、粒度分布指数((D90−D10)/D50)、比表面積、c軸とa軸の比(c/a)を求めた。その結果を表2に示す。
【0058】
図1に示す焼成炉の炉1の内部の四面は、アルミナファイバーボードで覆われ、炉内にアルミナからなる試料容器2の中に試料3が収容されており、導入管4の導入口5から加湿空気6を炉内へ導入し、排出管7の排出口8から加湿空気を炉外へ排出した。
【0059】
<粒子径D50、D90、D10の測定方法>
マイクロトラックベル社製のMT3000を使用してレーザー回折散乱法により測定した。
<c/a値>
線源としてCu−Kα線を用いてX線回折装置(日本フィリップス株式会社製、形式X’PartMPD)により、c軸とa軸の比c/aを測定した。
【0060】
【表2】
【0061】
実施例1及び2では、正方晶性が高く、D90が0.9μm以下と小さく、且つ、粒度分布が狭いものが得られた。
【0062】
一方、比較例1及び2では、正方晶性が高いものの、D90が0.9μmを超えており、粒度分布が広いものが得られた。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、微細で、粒度分布が狭く、且つ、高い正方晶性を有するペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末を製造することができるので、製造されたペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末は、圧電体、オプトエレクトロニクス材、誘電体、半導体、センサー等の電子部品用機能性セラミックの原料として、好適に利用される。
【符号の説明】
【0064】
1 炉
2 試料容器
3 試料
4 導入管
5 導入口
6 加湿空気
7 排出管
8 排出口
9 ふた
図1