(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6573661
(24)【登録日】2019年8月23日
(45)【発行日】2019年9月11日
(54)【発明の名称】滑り軸受け又はその部品、それらの製造方法及び滑り軸受け材料としてのCuCrZr合金の使用
(51)【国際特許分類】
C22C 9/00 20060101AFI20190902BHJP
C22C 9/02 20060101ALI20190902BHJP
B22F 5/00 20060101ALI20190902BHJP
C22F 1/08 20060101ALI20190902BHJP
F16C 33/12 20060101ALI20190902BHJP
F16C 33/14 20060101ALI20190902BHJP
F16C 33/10 20060101ALI20190902BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20190902BHJP
【FI】
C22C9/00
C22C9/02
B22F5/00 C
C22F1/08 A
F16C33/12 B
F16C33/14 A
F16C33/10 D
!C22F1/00 602
!C22F1/00 613
!C22F1/00 627
!C22F1/00 628
!C22F1/00 630A
!C22F1/00 630C
!C22F1/00 630D
!C22F1/00 631A
!C22F1/00 640A
!C22F1/00 650F
【請求項の数】19
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-512014(P2017-512014)
(86)(22)【出願日】2015年8月27日
(65)【公表番号】特表2018-505955(P2018-505955A)
(43)【公表日】2018年3月1日
(86)【国際出願番号】EP2015069636
(87)【国際公開番号】WO2016034484
(87)【国際公開日】20160310
【審査請求日】2018年4月16日
(31)【優先権主張番号】102014217570.4
(32)【優先日】2014年9月3日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】510010436
【氏名又は名称】フェデラル−モーグル ヴィースバーデン ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】FEDERAL−MOGUL WIESBADEN GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100091214
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 進介
(72)【発明者】
【氏名】シュミット,ホルガー
(72)【発明者】
【氏名】マイスター,ダニエル
【審査官】
静野 朋季
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭63−303020(JP,A)
【文献】
特開2008−144253(JP,A)
【文献】
特開2004−018941(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 9/00−9/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも部分的にCuCrZr合金の焼結層から成り、前記CuCrZr合金は、<0.3体積パーセントの多孔性を有し、
前記CuCrZr合金は、0.01〜0.5重量%のZr、0.01〜4.9重量%のCr及び残部銅、並びに最大で0.5重量%の不可避的不純物から成る、滑り軸受けの部品。
【請求項2】
前記CuCrZr合金は、0.01〜15.0重量%のSnを追加的に含有する、請求項1に記載の滑り軸受けの部品。
【請求項3】
前記CuCrZr合金は、Al,Mg,Ti及び/又はMnをそれぞれ0.05〜0.25重量%の濃度範囲で追加的に含有する、請求項1又は2に記載の滑り軸受けの部品。
【請求項4】
前記CuCrZr合金は、h−BN及び/又はグラファイトを含む固体潤滑剤、酸化物、炭化物、窒化物及び/又は燐化物を含む硬質粒子、テルル、ビスマス、鉛及び/又は硫黄を含むチップブレーカ、及び/又は腐食防止剤を含む、更なる機能添加剤を有する、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の滑り軸受けの部品。
【請求項5】
前記CuCrZr合金は、基板バッキングに適用される、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の滑り軸受けの部品。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の滑り軸受けの部品を製造する方法であって、
前記滑り軸受けは、少なくとも部分的にCuCrZr合金から作られ、
前記CuCrZr合金は、熱処理、溶体化焼鈍、高温時効硬化及び/又は軟化焼鈍を受ける、
滑り軸受けの部品の製造方法。
【請求項7】
h−BN及び/又はCを含む固体潤滑剤、酸化物、炭化物、窒化物及び/又は燐化物を含む硬質粒子、テルル、ビスマス、鉛及び/又は硫黄を含むチップブレーカ、及び/又は腐食防止剤を含む更なる機能添加剤が取り入れられる、請求項6に記載の滑り軸受けの部品の製造方法。
【請求項8】
前記CuCrZr合金は、基板バッキングに適用される、請求項6又は請求項7に記載の滑り軸受けの部品の製造方法。
【請求項9】
前記CuCrZr合金は、少なくとも一回の焼結操業から成る焼結プロセスによって形成される、請求項6乃至8のいずれか一項に記載の滑り軸受けの部品の製造方法。
【請求項10】
少なくとも一回の焼結操業には、少なくとも一回のロールパスが続く、請求項9に記載の滑り軸受けの部品の製造方法。
【請求項11】
焼結は、950℃〜1000℃の温度で行われる、請求項9又は請求項10に記載の滑り軸受けの部品の製造方法。
【請求項12】
h−BN及び/又はCを含む固体潤滑剤、酸化物、炭化物、窒化物及び/又は燐化物を含む硬質粒子、テルリウム、ビスマス、鉛及び/又は硫黄を含むチップブレーカ、及び/又は腐食防止剤などの機能添加剤が、粉砕及び混合プロセスを通して取り入れられる、請求項9乃至11のいずれか一項に記載の滑り軸受けの部品の製造方法。
【請求項13】
焼結用粉末は、純元素及び/又はそのプレアロイの、アトマイゼーションプロセスによって製造される、請求項9乃至12のいずれか一項に記載の滑り軸受けの部品の製造方法。
【請求項14】
鋳造CuCrZrの製造において生じるチップが、焼結用粉末の製造のために使用される、請求項9乃至13のいずれか一項に記載の滑り軸受けの部品の製造方法。
【請求項15】
焼結用粉末は、5重量%を超える、<5μm細粒分を有する、請求項9乃至14のいずれか一項に記載の滑り軸受けの部品の製造方法。
【請求項16】
前記CuCrZr合金は、機械的に加工される、請求項6乃至15のいずれか一項に記載の滑り軸受けの部品の製造方法。
【請求項17】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の滑り軸受けの部品を含む滑り軸受け。
【請求項18】
請求項6乃至16のいずれか一項に記載の滑り軸受けの部品の製造方法を含む滑り軸受けの製造方法。
【請求項19】
滑り軸受けの少なくとも一部を作るための滑り軸受け材料の使用であって、前記滑り軸受け材料は、請求項1乃至4のいずれか一項に記載のCuCrZr合金から成る、滑り軸受け材料の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、滑り軸受け(若しくは平軸受)(Gleitlager)又はその部品、例えば滑り軸受け半割り又は滑り軸受けブッシング等に関する。以下、簡潔さのみのために、滑り軸受け、及びその製造方法、並びに滑り軸受け材料としてのCuCrZr合金の使用に対して、言及が行われる。そのような滑り軸受けは、高い熱伝導性及び良好な機械的特性、腐食耐性によって区別され、また加工性によっても区別される。
【背景技術】
【0002】
滑り軸受け材料としての銅基合金の使用は、背景技術から知られている。
【0003】
例えば、英国特許出願公開第2281078号明細書は、軸受け表面としての焼結体の使用を開示し、焼結体は、銅基合金、5〜20重量%の遷移金属及び0.5〜10重量%の半金属から成る。加えて、好ましくは0.1〜0.8重量%の、Zr,Mo,Nb及びAlの群からの少なくとも一つの金属は、合金の構成物質である。
【0004】
さらに、銅/クロミウム/ジルコニウム合金は、背景技術に数えられ得る。
【0005】
0.5〜1.2重量%のクロミウム、0.03〜0.3重量%のジルコニウム及び残部銅を含む銅/クロミウム/ジルコニウム合金は、例えば材料番号CW106Cで記載されている。ドイツ銅協会(DKI)の対応する材料データシートから、この合金は、電気工学及び機械工学において接触材料及び電流を流すバネとして、溶接及びはんだ付け(電極、電極ホルダ及び電極シャフト、ノズル)及び設備製作で使用されることを推測することができる。
【0006】
米国特許出願公開第2006/0086437A1号明細書は、0.1〜1.5重量%のクロミウム、0.01〜0.25重量%のジルコニウム及び残部銅を含む銅/クロミウム/ジルコニウム合金の製造方法を開示し、方法は、連続的な鋳造、延伸及び析出硬化工程を含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国特許出願公開第2281078A号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2006/0086437A1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の一つの目的は、長寿命な滑り軸受けを利用可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的は、請求項1に記載される滑り軸受け、請求項8に記載される滑り軸受けの製造方法及び請求項23に記載される滑り軸受け材料としてのCuCrZr合金の使用によって達成される。
【0010】
滑り軸受けのための材料としてのCuCrZr合金の少なくとも部分的な使用は、この場合、本発明による滑り軸受けの耐久性を相当に上げる。
【0011】
たとえば、200℃において320W/(mK)の、CuCrZr合金の高い熱伝導性のおかげで、摩擦熱の急速な消散と材料内の均一な熱分布の両方が作り出され、それは、温度安定性の微細構造を確かにする。加えて、滑り軸受けの摩耗耐性を増大させるCrZr
3化合物が、CuCrZr合金内に形を成す。最後に、本発明による合金組成物は、高い腐食耐性を有する。初期の研究(Erste Untersuchungen)は、有利なことに、本発明による材料の処理のために既存の製造施設への高価な修正が必要とされないことを示している。好ましくは、CuCrZr合金は、0.01〜0.5重量%のZr、0.01〜4.9重量%のCr、好ましくは最大で4.4重量%のCr、任意的に最大で15重量%のSn、任意的に0.05〜0.25重量%のAl,Mg,Ti及び/又はMn、及び残部銅、から成る。
【0012】
好ましい発展は、更なる請求項に記載される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
たとえば、0.01〜0.5重量%のZr、0.01〜4.9重量%のCr、好ましくは最大で4.4重量%のCrの濃度範囲が、元素クロミウム及び元素ジルコニウムについて有利であると証明されている。この濃度範囲において、銅基の母材(マトリクス)の熱伝導性が大きく低下することなく、十分なCrZr
3化合物が形成され、腐食耐性は十分に上がる。
【0014】
有利には、CuCrZr合金は、0.01〜15.0重量%のSnを追加的に含有する。なぜなら、これは、更に合金の強度及び硬度を上げることを可能にするが、より高いスズ含有量においては、熱伝導性が大きく低下し過ぎるからである。
【0015】
好ましくは、元素Al,Mg,Ti及び/又はMnの少なくとも一つが、いずれの場合も0.05〜0.25重量%の濃度範囲で合金に加えられる。上述の元素は、腐食防止剤として有利に働き、特に先述の元素の母材内で分布が可能な限り均一であることが確かにされるならば、それに応じて銅母材が腐食する感受性を低下させる。
【0016】
有利には、CuCrZr合金は、<0.3体積パーセントの多孔性を有し、それは、十分な強度を保証する。
【0017】
本発明によって製造される滑り軸受け材料の滑り特性及び機械加工性は、酸化物、炭化物、窒化物及び燐化物などの硬質粒子、及び/又は、h−BN及び炭素、具体的にはグラファイト、などの固体潤滑剤が加えられることにより、有利に改善されることができる。さらに、チップを破砕する元素(spanbrechenden Elemente)テルリウム、ビスマス、鉛及び硫黄のうちの少なくとも一つが、いわゆるチップブレーカと称されるものとして供給されてもよい。好ましい硬質粒子は、例えばAl
2O
3,c‐BN,MoSi
2,ZrO
2,SiO
2及び上述の腐食防止金属の全ての炭化物である。
【0018】
CuCrZr合金は、基板バッキング(Substratruecken,)、好ましくはスチールバッキング(Stahlruecken)に有利に適用される。そのような構造は、それらが必要とされる滑り軸受けのそれらの位置において、CuCrZr合金の有益な特性を利用することを可能にし、その一方で、比較的重要ではない部分はより安価な材料から作られることができる。
【0019】
好ましくは、CuCrZr合金は、好ましくはブッシング及び軸受けを形成するために、固体材料として処理される。なぜなら、これは、基板とCuCrZr合金との間の接着の弱点を回避するからである。
【0020】
ロール圧接クラッディング(Walzplattieren)を用いた基板バッキングへのCuCrZr合金の適用のおかげで、大きな層厚さが極めて安価に基板上に作り出されることができる一方で、ガルバニックプロセス及び/又はスパッタリングプロセスを用いて、CuCrZr合金の化学的特性及び物理的特性が極めて明確に設定されることができる。
【0021】
好ましくは、CuCrZr合金は、少なくとも一回の、好ましくは二回の焼結操業から成る焼結プロセスによって形成される。なぜなら、これは、有利には構造を設定するための後続のローリング及び/又は加熱処理ステップが省略することができることを意味するからである。
【0022】
有利には、少なくとも一回の、好ましくはそれぞれの焼結操業には、少なくとも一回のロールパスが続く。なぜなら、これは、多孔性を低減するからである。
【0023】
さらに、新規な滑り軸受けは、有利には950℃〜1000℃、好ましくは950℃〜980℃の焼結温度で、既存の焼結プラントにおいて処理が行われ得ることが判明した。
【0024】
本発明の一つの有益な構成によれば、添加剤の均一な分布を確かにするように、機能添加剤が、先行する粉砕及び/又は混合プロセス(Mahl- und/oder Mischprozess)を通して取り入れられる。
【0025】
焼結用粉末(Sinterpulver)は、アトマイゼーションプロセス、好ましくは純元素のアトマイゼーションプロセスによって、有利に製造される。特に好ましくは、純元素は、その後にこの合金をアトマイズするために、最初に溶解させられてプレアロイを形成する。具体的には、Zr及びCrは、CuCr及びCuZrとして有利にアトマイズされる。なぜなら、このようにして純元素Cr及びZrの高い反応性が避けられ得るからである。アトマイゼーションプロセスのおかげで、所望の粒径分布及び化学的組成が、狭い許容範囲内で制御されることができる。
【0026】
有利には、鋳造(gegossenem)CuCrZrの製造において生じるチップが、焼結用粉末の製造のために使用され、それは、結果として、費用効率が高く且つ資源効率が高い方法で製造されることができる。
【0027】
細粒含有量、すなわち<5μmの粒子の、少なくとも5%までの、好ましい意図的な増加によって、有利に焼結温度を下げることが可能である。これは、技術的な理由のためである細かい粉末の高い比率が、流動特性に悪影響を与えることなく、発明の文脈において利用されることができるという利点を更にもたらす。
【0028】
他方では、CuCrZr合金を鋳造するときに、有利に粉末製造のための処理ステップが省略されることができる。
【0029】
本発明の一つの好ましい構成によれば、滑り軸受けの少なくとも一部、好ましくはCuCrZr合金は、使用要件に対応するように構造を設定可能にするために、熱処理、好ましくは溶体化焼鈍(Loesungsgluehen,)、高温時効硬化(Warmaushaertung)及び/又は軟化焼鈍(Weichgluehen)を受ける。
【0030】
好ましくは、更に、滑り軸受けの少なくとも一部、好ましくはCuCrZr合金は、例えば必要な表面品質又は構成要素の寸法を得るために、機械的に加工される。
【0031】
滑り軸受けと関連して先に及び続いて述べられる全ての特徴はまた、本発明による方法及び新規な使用において適用されてもよく、その逆も同様である。
【0032】
[好ましい実施形態]
一つの好ましい実施形態によれば、スチールバッキング及びその上に適用されたCuCrZr合金の焼結層から成る滑り軸受けが、提供される。それを製造するために、最初に、1.0重量%のCr及び0.1重量%のZr並びに残部銅の重量百分率を有する焼結用粉末混合物が、製造される。この目的のために、合金を形成する元素の純物質がアトマイゼーション設備を使用してアトマイズされて、結果として10重量%の<5μm細粒分が生じる。焼結用粉末は、混合され、スチールバッキング上に固められ、そして950℃の温度で焼結させられる。第一回の焼結操業(Sintergang)の後に、ロールパス(Walzstich)及びまた950℃での第二回の焼結操業が続き、それには再び第二回のロールパスが続き、結果として均一な構造及び0.3体積パーセント未満の多孔性を有する材料が生じる。