特許第6573719号(P6573719)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本特殊陶業株式会社の特許一覧

特許6573719電気化学反応単位、電気化学反応セルスタック、および、電気化学反応単位の製造方法
<>
  • 特許6573719-電気化学反応単位、電気化学反応セルスタック、および、電気化学反応単位の製造方法 図000002
  • 特許6573719-電気化学反応単位、電気化学反応セルスタック、および、電気化学反応単位の製造方法 図000003
  • 特許6573719-電気化学反応単位、電気化学反応セルスタック、および、電気化学反応単位の製造方法 図000004
  • 特許6573719-電気化学反応単位、電気化学反応セルスタック、および、電気化学反応単位の製造方法 図000005
  • 特許6573719-電気化学反応単位、電気化学反応セルスタック、および、電気化学反応単位の製造方法 図000006
  • 特許6573719-電気化学反応単位、電気化学反応セルスタック、および、電気化学反応単位の製造方法 図000007
  • 特許6573719-電気化学反応単位、電気化学反応セルスタック、および、電気化学反応単位の製造方法 図000008
  • 特許6573719-電気化学反応単位、電気化学反応セルスタック、および、電気化学反応単位の製造方法 図000009
  • 特許6573719-電気化学反応単位、電気化学反応セルスタック、および、電気化学反応単位の製造方法 図000010
  • 特許6573719-電気化学反応単位、電気化学反応セルスタック、および、電気化学反応単位の製造方法 図000011
  • 特許6573719-電気化学反応単位、電気化学反応セルスタック、および、電気化学反応単位の製造方法 図000012
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6573719
(24)【登録日】2019年8月23日
(45)【発行日】2019年9月11日
(54)【発明の名称】電気化学反応単位、電気化学反応セルスタック、および、電気化学反応単位の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/02 20160101AFI20190902BHJP
   H01M 8/0202 20160101ALI20190902BHJP
   H01M 8/0273 20160101ALI20190902BHJP
   H01M 8/0258 20160101ALI20190902BHJP
   H01M 8/12 20160101ALI20190902BHJP
【FI】
   H01M8/02
   H01M8/0202
   H01M8/0273
   H01M8/0258
   H01M8/12 101
   H01M8/12 102A
【請求項の数】6
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2018-517910(P2018-517910)
(86)(22)【出願日】2018年1月31日
(86)【国際出願番号】JP2018003129
(87)【国際公開番号】WO2018155111
(87)【国際公開日】20180830
【審査請求日】2018年4月6日
(31)【優先権主張番号】特願2017-34322(P2017-34322)
(32)【優先日】2017年2月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001911
【氏名又は名称】特許業務法人アルファ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石田 暁
(72)【発明者】
【氏名】小野 達也
【審査官】 渡部 朋也
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−036783(JP,A)
【文献】 特開平02−242564(JP,A)
【文献】 特開平06−223849(JP,A)
【文献】 特開平5−101836(JP,A)
【文献】 特開2007−141765(JP,A)
【文献】 特開2009−43550(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/02
H01M 8/0202
H01M 8/0258
H01M 8/0273
H01M 8/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質層と前記電解質層を挟んで第1の方向に互いに対向する空気極および燃料極とを含む単セルと、
セラミックスまたは金属とシリカ成分とを含むフェルト部材と、
を備える電気化学反応単位において、
前記フェルト部材は、前記空気極と前記燃料極との少なくとも一方である特定電極に面するガス室における、ガスの主たる流れ方向に直交する方向の両端の位置に配置されており、
前記フェルト部材は、前記フェルト部材が含有するセラミックスまたは金属に応じた第1の結晶構造を有しており、かつ、SiOの結晶構造である第2の結晶構造を有していることを特徴とする、電気化学反応単位。
【請求項2】
請求項に記載の電気化学反応単位において、さらに、
前記特定電極に面する前記ガス室を構成する孔が形成されたフレーム部材と、
前記特定電極に電気的に接続された集電部材と、
を備え、
前記フェルト部材は、前記第1の方向に直交する方向において、前記集電部材における外側表面と前記フレーム部材における前記孔の表面との間に配置されていることを特徴とする、電気化学反応単位。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の電気化学反応単位において、
前記フェルト部材は、前記セラミックスとしてのアルミナを含むことを特徴とする、電気化学反応単位。
【請求項4】
請求項1から請求項までのいずれか一項に記載の電気化学反応単位において、
前記電気化学反応単位は、燃料電池発電単位であることを特徴とする、電気化学反応単位。
【請求項5】
前記第1の方向に並べて配置された複数の電気化学反応単位を備える電気化学反応セルスタックにおいて、
前記複数の電気化学反応単位の少なくとも1つは、請求項1から請求項までのいずれか一項に記載の電気化学反応単位であることを特徴とする、電気化学反応セルスタック。
【請求項6】
電解質層と前記電解質層を挟んで第1の方向に互いに対向する空気極および燃料極とを含む単セルと、セラミックスまたは金属とシリカ成分とを含むフェルト部材であって、前記空気極と前記燃料極との少なくとも一方である特定電極に面するガス室における、ガスの主たる流れ方向に直交する方向の両端の位置に配置されたフェルト部材と、を備える電気化学反応単位の製造方法において、
セラミックスまたは金属とシリカ成分とを含むフェルト原材料を準備する工程と、
前記フェルト原材料を1000℃以上で熱処理することにより、前記フェルト部材を作成する工程と、
を備えることを特徴とする、電気化学反応単位の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書によって開示される技術は、電気化学反応単位に関する。
【背景技術】
【0002】
水素と酸素との電気化学反応を利用して発電を行う燃料電池の1つとして、固体酸化物形の燃料電池(以下、「SOFC」という)が知られている。SOFCの構成単位である燃料電池発電単位(以下、「発電単位」という)は、燃料電池単セル(以下、「単セル」という)を備える。単セルは、電解質層と、電解質層を挟んで所定の方向(以下、「第1の方向」という)に互いに対向する空気極および燃料極とを含む。
【0003】
発電単位には、単セル周辺の空間を埋めて発電効率を向上させる等の目的で、フェルト部材が充填されることがある。このようなフェルト部材には、柔軟性および耐熱性が要求される。そのため、フェルト部材は、例えば、金属を含むフェルト材料(例えば、ニッケルフェルト)やセラミックスを含むフェルト材料(例えば、アルミナフェルト)により構成される(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−166529号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
セラミックスを含むフェルト材料や金属を含むフェルト材料は、Si等の汚染物質を含むことがある。そのため、上記従来の構成では、フェルト部材からSi等の汚染物質が飛散し、該汚染物質による被毒を原因とした単セルの性能低下が発生するおそれがある。
【0006】
なお、このような課題は、水の電気分解反応を利用して水素の生成を行う固体酸化物形の電解セル(以下、「SOEC」という)の構成単位である電解セル単位にも共通の問題である。なお、本明細書では、燃料電池発電単位と電解セル単位とをまとめて、電気化学反応単位と呼ぶ。また、このような課題は、SOFCやSOECに限らず、他のタイプの電気化学反応単位にも共通の課題である。
【0007】
本明細書では、上述した課題を解決することが可能な技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書に開示される技術は、例えば、以下の形態として実現することが可能である。
【0009】
(1)本明細書に開示される電気化学反応単位は、電解質層と前記電解質層を挟んで第1の方向に互いに対向する空気極および燃料極とを含む単セルと、セラミックスまたは金属とシリカ成分とを含むフェルト部材と、を備える電気化学反応単位において、前記フェルト部材は、第1の結晶構造を有しており、かつ、SiOの結晶構造である第2の結晶構造を有している。本電気化学反応単位によれば、フェルト部材が、第1の結晶構造を有しており、かつ、SiOの結晶構造である第2の結晶構造を有しているため、フェルト部材からのSiや他の汚染物質の飛散を抑制することができ、Siや他の汚染物質による被毒を原因とした単セルの性能低下の発生を抑制することができる。
【0010】
(2)上記電気化学反応単位において、前記フェルト部材は、前記空気極と前記燃料極との少なくとも一方である特定電極に面するガス室に配置されている構成としてもよい。本電気化学反応単位によれば、特定電極に面するガス室にフェルト部材が配置されているために、フェルト部材から飛散したSiや他の汚染物質による被毒を原因とした単セルの性能低下が発生しやすい構成において、フェルト部材からのSiや他の汚染物質の飛散を抑制することができ、Siや他の汚染物質による被毒を原因とした単セルの性能低下の発生を抑制することができる。
【0011】
(3)上記電気化学反応単位において、前記フェルト部材は、前記特定電極に面する前記ガス室における、ガスの主たる流れ方向に直交する方向の両端の位置に配置されている構成としてもよい。本電気化学反応単位によれば、フェルト部材の存在により、特定電極に面するガス室に供給されたガスが反応にあまり寄与しない領域を通過してガス室から排出されることを抑制することによって反応効率を向上させつつ、フェルト部材からのSiや他の汚染物質の飛散を抑制することができ、Siや他の汚染物質による被毒を原因とした単セルの性能低下の発生を抑制することができる。
【0012】
(4)上記電気化学反応単位において、さらに、前記特定電極に面する前記ガス室を構成する孔が形成されたフレーム部材と、前記特定電極に電気的に接続された集電部材と、を備え、前記フェルト部材は、前記第1の方向に直交する方向において、前記集電部材における外側表面と前記フレーム部材における前記孔の表面との間に配置されている構成としてもよい。本電気化学反応単位によれば、フェルト部材の存在により、特定電極に面するガス室に供給されたガスが反応にあまり寄与しない領域を通過してガス室から排出されることを抑制することによって反応効率を向上させつつ、フェルト部材からのSiや他の汚染物質の飛散を抑制することができ、Siや他の汚染物質による被毒を原因とした単セルの性能低下の発生を抑制することができる。
【0013】
(5)上記電気化学反応単位において、前記フェルト部材は、前記セラミックスとしてのアルミナを含む構成としてもよい。本電気化学反応単位によれば、フェルト部材からのSiや他の汚染物質の飛散を抑制しつつ、フェルト部材の耐熱性や柔軟性を向上させることができる。
【0014】
(6)上記電気化学反応単位において、前記電気化学反応単位は、燃料電池発電単位である構成としてもよい。本電気化学反応単位によれば、Siや他の汚染物質による被毒を原因とした単セルの発電性能低下の発生を抑制することができる。
【0015】
(7)また、本明細書に開示される電気化学反応単位の製造方法は、電解質層と前記電解質層を挟んで第1の方向に互いに対向する空気極および燃料極とを含む単セルと、セラミックスまたは金属とシリカ成分とを含むフェルト部材と、を備える電気化学反応単位の製造方法において、セラミックスまたは金属とシリカ成分とを含むフェルト原材料を準備する工程と、前記フェルト原材料を1000℃以上で熱処理することにより、前記フェルト部材を作成する工程と、を備えることを特徴とする。本電気化学反応単位の製造方法によれば、フェルト原材料を1000℃以上で熱処理することによってフェルト部材を作成することにより、フェルト部材に、第1の結晶構造を持たせ、かつ、SiOの結晶構造である第2の結晶構造を持たせることができ、Siや他の汚染物質の飛散の少ないフェルト部材を得ることができ、Siや他の汚染物質による被毒を原因とした単セルの性能低下が発生しにくい電気化学反応単位を得ることができる。
【0016】
なお、本明細書に開示される技術は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、電気化学反応単位(燃料電池発電単位または電解セル単位)、複数の電気化学反応単位を備える電気化学反応セルスタック(燃料電池スタックまたは電解セルスタック)、それらの製造方法等の形態で実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本実施形態における燃料電池スタック100の外観構成を示す斜視図である。
図2図1のII−IIの位置における燃料電池スタック100のXZ断面構成を示す説明図である。
図3図1のIII−IIIの位置における燃料電池スタック100のYZ断面構成を示す説明図である。
図4図2に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のXZ断面構成を示す説明図である。
図5図3に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のYZ断面構成を示す説明図である。
図6図4および図5のVI−VIの位置における発電単位102のXY断面構成を示す説明図である。
図7図4および図5のVII−VIIの位置における発電単位102のXY断面構成を示す説明図である。
図8】燃料電池スタック100の製造方法を示すフローチャートである。
図9】性能評価結果を示す説明図である。
図10】性能評価に用いた各サンプルのXRD分析の結果を示す説明図である。
図11】性能評価に用いた各サンプルのXRD分析の結果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
A.実施形態:
A−1.装置構成:
(燃料電池スタック100の構成)
図1は、本実施形態における燃料電池スタック100の外観構成を示す斜視図であり、図2は、図1のII−IIの位置における燃料電池スタック100のXZ断面構成を示す説明図であり、図3は、図1のIII−IIIの位置における燃料電池スタック100のYZ断面構成を示す説明図である。各図には、方向を特定するための互いに直交するXYZ軸が示されている。本明細書では、便宜的に、Z軸正方向を上方向と呼び、Z軸負方向を下方向と呼ぶものとするが、燃料電池スタック100は実際にはそのような向きとは異なる向きで設置されてもよい。図4以降についても同様である。
【0019】
燃料電池スタック100は、複数の(本実施形態では7つの)燃料電池発電単位(以下、単に「発電単位」という)102と、一対のエンドプレート104,106とを備える。7つの発電単位102は、所定の配列方向(本実施形態では上下方向)に並べて配置されている。一対のエンドプレート104,106は、7つの発電単位102から構成される集合体を上下から挟むように配置されている。なお、上記配列方向(上下方向)は、特許請求の範囲における第1の方向に相当する。
【0020】
燃料電池スタック100を構成する各層(発電単位102、エンドプレート104,106)のZ方向回りの周縁部には、上下方向に貫通する複数の(本実施形態では8つの)孔が形成されており、各層に形成され互いに対応する孔同士が上下方向に連通して、一方のエンドプレート104から他方のエンドプレート106にわたって上下方向に延びる連通孔108を構成している。以下の説明では、連通孔108を構成するために燃料電池スタック100の各層に形成された孔も、連通孔108と呼ぶ場合がある。
【0021】
各連通孔108には上下方向に延びるボルト22が挿通されており、ボルト22とボルト22の両側に嵌められたナット24とによって、燃料電池スタック100は締結されている。なお、図2および図3に示すように、ボルト22の一方の側(上側)に嵌められたナット24と燃料電池スタック100の上端を構成するエンドプレート104の上側表面との間、および、ボルト22の他方の側(下側)に嵌められたナット24と燃料電池スタック100の下端を構成するエンドプレート106の下側表面との間には、絶縁シート26が介在している。ただし、後述のガス通路部材27が設けられた箇所では、ナット24とエンドプレート106の表面との間に、ガス通路部材27とガス通路部材27の上側および下側のそれぞれに配置された絶縁シート26とが介在している。絶縁シート26は、例えばマイカシートや、セラミック繊維シート、セラミック圧粉シート、ガラスシート、ガラスセラミック複合剤等により構成される。
【0022】
各ボルト22の軸部の外径は各連通孔108の内径より小さい。そのため、各ボルト22の軸部の外周面と各連通孔108の内周面との間には、空間が確保されている。図1および図2に示すように、燃料電池スタック100のZ方向回りの外周における1つの辺(Y軸に平行な2つの辺の内のX軸正方向側の辺)の中点付近に位置するボルト22(ボルト22A)と、そのボルト22Aが挿通された連通孔108とにより形成された空間は、燃料電池スタック100の外部から酸化剤ガスOGが導入され、その酸化剤ガスOGを各発電単位102に供給するガス流路である酸化剤ガス導入マニホールド161として機能し、該辺の反対側の辺(Y軸に平行な2つの辺の内のX軸負方向側の辺)の中点付近に位置するボルト22(ボルト22B)と、そのボルト22Bが挿通された連通孔108とにより形成された空間は、各発電単位102の空気室166から排出されたガスである酸化剤オフガスOOGを燃料電池スタック100の外部へと排出する酸化剤ガス排出マニホールド162として機能する。なお、本実施形態では、酸化剤ガスOGとして、例えば空気が使用される。
【0023】
また、図1および図3に示すように、燃料電池スタック100のZ方向回りの外周における1つの辺(X軸に平行な2つの辺の内のY軸正方向側の辺)の中点付近に位置するボルト22(ボルト22D)と、そのボルト22Dが挿通された連通孔108とにより形成された空間は、燃料電池スタック100の外部から燃料ガスFGが導入され、その燃料ガスFGを各発電単位102に供給する燃料ガス導入マニホールド171として機能し、該辺の反対側の辺(X軸に平行な2つの辺の内のY軸負方向側の辺)の中点付近に位置するボルト22(ボルト22E)と、そのボルト22Eが挿通された連通孔108とにより形成された空間は、各発電単位102の燃料室176から排出されたガスである燃料オフガスFOGを燃料電池スタック100の外部へと排出する燃料ガス排出マニホールド172として機能する。なお、本実施形態では、燃料ガスFGとして、例えば都市ガスを改質した水素リッチなガスが使用される。
【0024】
燃料電池スタック100には、4つのガス通路部材27が設けられている。各ガス通路部材27は、中空筒状の本体部28と、本体部28の側面から分岐した中空筒状の分岐部29とを有している。分岐部29の孔は本体部28の孔と連通している。各ガス通路部材27の分岐部29には、ガス配管(図示せず)が接続される。また、図2に示すように、酸化剤ガス導入マニホールド161を形成するボルト22Aの位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は、酸化剤ガス導入マニホールド161に連通しており、酸化剤ガス排出マニホールド162を形成するボルト22Bの位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は、酸化剤ガス排出マニホールド162に連通している。また、図3に示すように、燃料ガス導入マニホールド171を形成するボルト22Dの位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は、燃料ガス導入マニホールド171に連通しており、燃料ガス排出マニホールド172を形成するボルト22Eの位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は、燃料ガス排出マニホールド172に連通している。
【0025】
(エンドプレート104,106の構成)
一対のエンドプレート104,106は、略矩形の平板形状の導電性部材であり、例えばステンレスにより形成されている。一方のエンドプレート104は、最も上に位置する発電単位102の上側に配置され、他方のエンドプレート106は、最も下に位置する発電単位102の下側に配置されている。一対のエンドプレート104,106によって複数の発電単位102が押圧された状態で挟持されている。上側のエンドプレート104は、燃料電池スタック100のプラス側の出力端子として機能し、下側のエンドプレート106は、燃料電池スタック100のマイナス側の出力端子として機能する。
【0026】
(発電単位102の構成)
図4は、図2に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のXZ断面構成を示す説明図であり、図5は、図3に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のYZ断面構成を示す説明図である。また、図6は、図4および図5のVI−VIの位置における発電単位102のXY断面構成を示す説明図であり、図7は、図4および図5のVII−VIIの位置における発電単位102のXY断面構成を示す説明図である。
【0027】
図4および図5に示すように、発電単位102は、単セル110と、セパレータ120と、空気極側フレーム130と、空気極側集電体134と、燃料極側フレーム140と、燃料極側集電体144と、発電単位102の最上層および最下層を構成する一対のインターコネクタ150とを備えている。セパレータ120、空気極側フレーム130、燃料極側フレーム140、インターコネクタ150におけるZ方向回りの周縁部には、上述したボルト22が挿通される連通孔108に対応する孔が形成されている。
【0028】
インターコネクタ150は、略矩形の平板形状の導電性部材であり、例えばフェライト系ステンレスにより形成されている。インターコネクタ150は、発電単位102間の電気的導通を確保すると共に、発電単位102間での反応ガスの混合を防止する。なお、本実施形態では、2つの発電単位102が隣接して配置されている場合、1つのインターコネクタ150は、隣接する2つの発電単位102に共有されている。すなわち、ある発電単位102における上側のインターコネクタ150は、その発電単位102の上側に隣接する他の発電単位102における下側のインターコネクタ150と同一部材である。また、燃料電池スタック100は一対のエンドプレート104,106を備えているため、燃料電池スタック100において最も上に位置する発電単位102は上側のインターコネクタ150を備えておらず、最も下に位置する発電単位102は下側のインターコネクタ150を備えていない(図2および図3参照)。
【0029】
単セル110は、電解質層112と、電解質層112を挟んで上下方向(発電単位102が並ぶ配列方向)に互いに対向する空気極(カソード)114および燃料極(アノード)116とを備える。なお、本実施形態の単セル110は、燃料極116で電解質層112および空気極114を支持する燃料極支持形の単セルである。
【0030】
電解質層112は、Z方向視で略矩形の平板形状部材であり、緻密な(気孔率が低い)層である。電解質層112は、例えば、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)、ScSZ(スカンジア安定化ジルコニア)、SDC(サマリウムドープセリア)、GDC(ガドリニウムドープセリア)、ペロブスカイト型酸化物等の固体酸化物により形成されている。空気極114は、Z方向視で電解質層112より小さい略矩形の平板形状部材であり、多孔質な(電解質層112より気孔率が高い)層である。空気極114は、例えば、ペロブスカイト型酸化物(例えばLSCF(ランタンストロンチウムコバルト鉄酸化物)、LSM(ランタンストロンチウムマンガン酸化物)、LNF(ランタンニッケル鉄))により形成されている。燃料極116は、Z方向視で電解質層112と略同一の大きさの略矩形の平板形状部材であり、多孔質な(電解質層112より気孔率が高い)層である。燃料極116は、例えば、Ni(ニッケル)、Niとセラミック粒子からなるサーメット、Ni基合金等により形成されている。このように、本実施形態の単セル110(発電単位102)は、電解質として固体酸化物を用いる固体酸化物形燃料電池(SOFC)である。
【0031】
セパレータ120は、中央付近に上下方向に貫通する略矩形の孔121が形成されたフレーム状の部材であり、例えば、金属により形成されている。セパレータ120における孔121の周囲部分は、電解質層112における空気極114の側の表面の周縁部に対向している。セパレータ120は、その対向した部分に配置されたロウ材(例えばAgロウ)により形成された接合部124により、電解質層112(単セル110)と接合されている。セパレータ120により、空気極114に面する空気室166と燃料極116に面する燃料室176とが区画され、単セル110の周縁部における一方の電極側から他方の電極側へのガスのリークが抑制される。
【0032】
図6に示すように、空気極側フレーム130は、中央付近に上下方向に貫通する略矩形の孔131が形成されたフレーム状の部材であり、例えば、マイカ等の絶縁体により形成されている。空気極側フレーム130の孔131は、空気極114に面する空気室166を構成する。空気極側フレーム130は、セパレータ120における電解質層112に対向する側とは反対側の表面の周縁部と、インターコネクタ150における空気極114に対向する側の表面の周縁部とに接触している。また、空気極側フレーム130によって、発電単位102に含まれる一対のインターコネクタ150間が電気的に絶縁される。また、空気極側フレーム130には、酸化剤ガス導入マニホールド161と空気室166とを連通する酸化剤ガス供給連通孔132と、空気室166と酸化剤ガス排出マニホールド162とを連通する酸化剤ガス排出連通孔133とが形成されている。
【0033】
図7に示すように、燃料極側フレーム140は、中央付近に上下方向に貫通する略矩形の孔141が形成されたフレーム状の部材であり、例えば、金属により形成されている。燃料極側フレーム140の孔141は、燃料極116に面する燃料室176を構成する。燃料極側フレーム140は、セパレータ120における電解質層112に対向する側の表面の周縁部と、インターコネクタ150における燃料極116に対向する側の表面の周縁部とに接触している。また、燃料極側フレーム140には、燃料ガス導入マニホールド171と燃料室176とを連通する燃料ガス供給連通孔142と、燃料室176と燃料ガス排出マニホールド172とを連通する燃料ガス排出連通孔143とが形成されている。
【0034】
空気極側集電体134は、空気室166内に配置されている。空気極側集電体134は、複数の略四角柱状の集電体要素135から構成されており、例えば、フェライト系ステンレスにより形成されている。空気極側集電体134は、空気極114における電解質層112に対向する側とは反対側の表面と、インターコネクタ150における空気極114に対向する側の表面とに接触している。ただし、上述したように、燃料電池スタック100において最も上に位置する発電単位102は上側のインターコネクタ150を備えていないため、当該発電単位102における空気極側集電体134は、上側のエンドプレート104に接触している。空気極側集電体134は、このような構成であるため、空気極114とインターコネクタ150(またはエンドプレート104)とを電気的に接続する。なお、本実施形態では、空気極側集電体134とインターコネクタ150とは一体の部材として形成されている。すなわち、該一体の部材の内の、上下方向(Z軸方向)に直交する平板形の部分がインターコネクタ150として機能し、該平板形の部分から空気極114に向けて突出するように形成された複数の凸部である集電体要素135が空気極側集電体134として機能する。また、空気極側集電体134とインターコネクタ150との一体部材は、導電性のコートによって覆われていてもよく、空気極114と空気極側集電体134との間には、両者を接合する導電性の接合層が介在していてもよい。
【0035】
燃料極側集電体144は、燃料室176内に配置されている。燃料極側集電体144は、インターコネクタ対向部146と、電極対向部145と、電極対向部145とインターコネクタ対向部146とをつなぐ連接部147とを備えており、例えば、ニッケルやニッケル合金、ステンレス等により形成されている。電極対向部145は、燃料極116における電解質層112に対向する側とは反対側の表面に接触しており、インターコネクタ対向部146は、インターコネクタ150における燃料極116に対向する側の表面に接触している。ただし、上述したように、燃料電池スタック100において最も下に位置する発電単位102は下側のインターコネクタ150を備えていないため、当該発電単位102におけるインターコネクタ対向部146は、下側のエンドプレート106に接触している。燃料極側集電体144は、このような構成であるため、燃料極116とインターコネクタ150(またはエンドプレート106)とを電気的に接続する。なお、電極対向部145とインターコネクタ対向部146との間には、例えばマイカにより形成されたスペーサー149が配置されている。そのため、燃料極側集電体144が温度サイクルや反応ガス圧力変動による発電単位102の変形に追随し、燃料極側集電体144を介した燃料極116とインターコネクタ150(またはエンドプレート106)との電気的接続が良好に維持される。
【0036】
また、本実施形態の発電単位102は、さらに、フェルト部材41を備える。図4および図6に示すように、フェルト部材41は、空気室166において、酸化剤ガスOGの主たる流れ方向(X軸方向)に直交する方向(Y軸方向)の両端の位置(Z軸方向において単セル110の空気極114と重ならない位置)に充填されている。すなわち、フェルト部材41は、Z軸方向に直交する方向(Y軸方向)において、空気極側集電体134における外側表面と空気極側フレーム130における孔131の表面との間に配置されている。また、図5および図7に示すように、フェルト部材41は、燃料室176において、燃料ガスFGの主たる流れ方向(Y軸方向)に直交する方向(X軸方向)の両端の位置(Z軸方向において単セル110の空気極114と重ならない位置)にも充填されている。すなわち、フェルト部材41は、Z軸方向に直交する方向(X軸方向)において、燃料極側集電体144における外側表面と燃料極側フレーム140における孔141の表面との間に配置されている。フェルト部材41の存在により、空気室166に供給された酸化剤ガスOGまたは燃料室176に供給された燃料ガスFGが、発電にあまり寄与しない領域を通過して空気室166または燃料室176から排出されることを抑制することができ、発電効率を向上させることができる。なお、本実施形態における空気極114および燃料極116は、特許請求の範囲における特定電極に相当する。また、本実施形態における空気極側フレーム130および燃料極側フレーム140は、特許請求の範囲におけるフレーム部材に相当し、本実施形態における空気極側集電体134および燃料極側集電体144は、特許請求の範囲における集電部材に相当する。
【0037】
フェルト部材41は、アルミナ−シリカ(二酸化ケイ素)系のフェルト材料により構成されている。すなわち、フェルト部材41は、セラミックスであるアルミナと、シリカ成分とを含んでいる。フェルト部材41がアルミナを含むことにより、フェルト部材41の耐熱性や柔軟性を向上させることができる。本実施形態で使用されるフェルト部材41は、Alの結晶構造を有すると共に、SiOの結晶構造も有している。Alの結晶構造は、特許請求の範囲における第1の結晶構造に相当し、SiOの結晶構造は、特許請求の範囲における第2の結晶構造に相当する。
【0038】
A−2.燃料電池スタック100の動作:
図2図4および図6に示すように、酸化剤ガス導入マニホールド161の位置に設けられたガス通路部材27の分岐部29に接続されたガス配管(図示せず)を介して酸化剤ガスOGが供給されると、酸化剤ガスOGは、ガス通路部材27の分岐部29および本体部28の孔を介して酸化剤ガス導入マニホールド161に供給され、酸化剤ガス導入マニホールド161から各発電単位102の酸化剤ガス供給連通孔132を介して、空気室166に供給される。また、図3図5および図7に示すように、燃料ガス導入マニホールド171の位置に設けられたガス通路部材27の分岐部29に接続されたガス配管(図示せず)を介して燃料ガスFGが供給されると、燃料ガスFGは、ガス通路部材27の分岐部29および本体部28の孔を介して燃料ガス導入マニホールド171に供給され、燃料ガス導入マニホールド171から各発電単位102の燃料ガス供給連通孔142を介して、燃料室176に供給される。
【0039】
各発電単位102の空気室166に酸化剤ガスOGが供給され、燃料室176に燃料ガスFGが供給されると、単セル110において酸化剤ガスOGに含まれる酸素と燃料ガスFGに含まれる水素との電気化学反応による発電が行われる。この発電反応は発熱反応である。各発電単位102において、単セル110の空気極114は空気極側集電体134を介して一方のインターコネクタ150に電気的に接続され、燃料極116は燃料極側集電体144を介して他方のインターコネクタ150に電気的に接続されている。また、燃料電池スタック100に含まれる複数の発電単位102は、電気的に直列に接続されている。そのため、燃料電池スタック100の出力端子として機能するエンドプレート104,106から、各発電単位102において生成された電気エネルギーが取り出される。なお、SOFCは、比較的高温(例えば700℃から1000℃)で発電が行われることから、起動後、発電により発生する熱で高温が維持できる状態になるまで、燃料電池スタック100が加熱器(図示せず)により加熱されてもよい。
【0040】
各発電単位102の空気室166から排出された酸化剤オフガスOOGは、図2図4および図6に示すように、酸化剤ガス排出連通孔133を介して酸化剤ガス排出マニホールド162に排出され、さらに酸化剤ガス排出マニホールド162の位置に設けられたガス通路部材27の本体部28および分岐部29の孔を経て、当該分岐部29に接続されたガス配管(図示せず)を介して燃料電池スタック100の外部に排出される。また、各発電単位102の燃料室176から排出された燃料オフガスFOGは、図3図5および図7に示すように、燃料ガス排出連通孔143を介して燃料ガス排出マニホールド172に排出され、さらに燃料ガス排出マニホールド172の位置に設けられたガス通路部材27の本体部28および分岐部29の孔を経て、当該分岐部29に接続されたガス配管(図示しない)を介して燃料電池スタック100の外部に排出される。
【0041】
A−3.燃料電池スタック100の製造方法:
次に、燃料電池スタック100の製造方法について説明する。図8は、燃料電池スタック100の製造方法を示すフローチャートである。はじめに、フェルト原材料を準備する(S110)。フェルト原材料としては、Alの結晶構造を有する市販のアルミナ−シリカ系のフェルト原材料が使用される。アルミナ−シリカ系のフェルト原材料は、アルミナを含むと共に、シリカ成分として非晶質のシリカを含んでいる。
【0042】
次に、フェルト原材料を1000℃以上で熱処理し、その後、成形することにより、フェルト部材41を作製する(S120)。なお、熱処理の温度は、例えば、1300℃以下とすることができる。また、熱処理の時間は、例えば、8〜12時間とすることができる。フェルト原材料を1000℃以上で熱処理することにより、フェルト原材料に含まれるシリカ成分としての非晶質のシリカが、結晶性のシリカとなる。そのため、作製されたフェルト部材41は、Alの結晶構造を有すると共に、SiOの結晶構造を有することとなる。
【0043】
次に、公知の方法により発電単位102を作製する(S130)。このとき、上述したように、S120で作製したフェルト部材41を、空気室166および燃料室176の所定の位置に充填する。
【0044】
最後に、作製された発電単位102を所定の配列方向(上下方向)に複数並べて配置し、各部材を組み立てることにより、燃料電池スタック100を作製する(S140)。以上の工程により、上述した構成の燃料電池スタック100の製造が完了する。
【0045】
A−4.性能評価:
上述したフェルト部材41を構成するフェルト材料について行った性能評価について、以下説明する。図9は、性能評価結果を示す説明図である。また、図10および図11は、性能評価に用いた各サンプルのXRD分析(X−Ray Diffraction Analysis)の結果を示す説明図である。
【0046】
(各サンプルについて)
図9に示すように、性能評価では、アルミナ−シリカ系のフェルト材料の4つのサンプル(サンプルS1〜S4)を用いた。サンプルS1およびS2は、Alの結晶構造を有する材料である。一方、サンプルS3およびS4は、Alの結晶構造を有しない材料である。図10には、各サンプルを代表して、サンプルS2およびS4についてのXRD分析結果が示されている。サンプルS2については、Alの結晶構造に由来する33度付近でのピークが観察されたのに対し、サンプルS4については、そのようなピークは観察されなかった。なお、図示しないが、サンプルS1については、サンプルS2と同様に、Alの結晶構造に由来するピークが観察され、サンプルS3については、サンプルS4と同様に、そのようなピークは観察されなかった。
【0047】
また、図9に示すように、サンプルS1およびS3は、1000℃で熱処理(10時間)が行われたものである。一方、サンプルS2およびS4に対しては、そのような熱処理は行われていない。上述したように、アルミナ−シリカ系のフェルト材料に対して1000℃以上で熱処理を行うと、フェルト材料に含まれるシリカ成分としての非晶質のシリカが、結晶性のシリカとなる。そのため、サンプルS1およびS3は、SiOの結晶構造を有しており、サンプルS2およびS4は、SiOの結晶構造を有していない。図11には、各サンプルを代表して、サンプルS1およびS2についてのXRD分析結果が示されている。サンプルS1については、SiOの結晶構造に由来する22度付近でのピークが観察されたのに対し、サンプルS2については、そのようなピークは観察されなかった。なお、図示しないが、サンプルS3については、サンプルS1と同様に、SiOの結晶構造に由来するピークが観察され、サンプルS4については、サンプルS2と同様に、そのようなピークは観察されなかった。
【0048】
各サンプルについて、XRD分析におけるAlの結晶構造に由来するピークの強度に対する、SiOの結晶構造に由来するピークの強度の比(結晶ピーク強度比)を算出した。なお、各結晶構造に由来するピークが存在しない場合には、強度はゼロであるとした。サンプルS1では、結晶ピーク強度比は0.61であった。一方、サンプルS2およびS4では、SiOの結晶構造に由来するピークが存在しないため、結晶ピーク強度比はゼロであった。また、サンプルS3では、Alの結晶構造に由来するピークが存在しないため、結晶ピーク強度比は無限大であった。このように、サンプルS1のフェルト材料では、熱処理によって結晶性のシリカを含むようになったことが確認された。
【0049】
(評価項目および評価方法について)
本性能評価では、Si飛散試験と、耐久特性試験との2つの項目について評価を行った。Si飛散試験では、各サンプルについて、るつぼの中にサンプルおよび単セル110を所定の間隔をあけて設置し、湿度40%の水素雰囲気で、850℃、100時間の熱処理を行い、その後、XRF分析(X−Ray Fluorescence Analysis)にて、単セル110の表面のSi量(ppm)を定量化した。Si量が100ppm未満である場合に合格(〇)と判定し、Si量が100ppm以上である場合に不合格(×)と判定した。
【0050】
また、耐久特性試験では、サンプルS1およびS4を対象に、サンプルのフェルト材料により構成されたフェルト部材41を備える燃料電池スタック100について、850℃で100時間の定格発電運転を行った後、温度700℃、電流密度0.55A/cmでの電圧を測定し、初期電圧との差分からη抵抗の増加量(Δη(Ω))を算出した。Δηが0.1Ω未満である場合に合格(〇)と判定し、Δηが0.1Ω以上である場合に不合格(×)と判定した。なお、耐久特性試験後に、D−SIMS分析(Dynamic−Secondary Ion Mass Spectrometry Analysis)により、燃料極116における電解質層112側の部分(電極活性のある部分)のSi被毒量(ppm)を求めた。
【0051】
(評価結果)
Si飛散試験において、サンプルS1では、Si量が100ppm未満(検出限界以下)であったため、合格(〇)と判定された。サンプルS1のフェルト材料は、Alの結晶構造を有すると共にSiOの結晶構造も有しているため、Siの飛散を抑制することができたものと考えられる。一方、サンプルS2,S3,S4では、Si量が100ppm以上であったため、不合格(×)と判定された。サンプルS2のフェルト材料は、Alの結晶構造を有しているが、SiOの結晶構造を有していないため、Siの飛散を抑制することができなかったものと考えられる。また、サンプルS3のフェルト材料は、サンプルS1と同様にSiOの結晶構造を有しているが、Alの結晶構造を有していないため、Siの飛散を抑制することはできなかった。これは、フェルト材料が、SiOの結晶構造を有していても、Alの結晶構造を有していないと、フェルト材料の形状を保持することができず、かつ、耐熱性も劣るため、試験中に粒状となったフェルト材料が飛散したためであると考えられる。また、サンプルS4のフェルト材料は、Alの結晶構造もSiOの結晶構造も有していないため、Siの飛散を抑制することができなかったものと考えられる。以上のように、Si飛散試験の結果から、Alの結晶構造を有すると共にSiOの結晶構造も有するフェルト材料を用いてフェルト部材41を構成すれば、フェルト部材41からのSiの飛散を抑制できることが確認された。
【0052】
また、耐久特性試験において、サンプルS1では、Δηが0.1Ω未満(0.06Ω)であったため、合格(〇)と判定された。サンプルS1のフェルト材料は、Si飛散試験においてSi量が僅かであったため、汚染物質としてのSiによる単セル110の被毒が抑制され、η抵抗(η抵抗の内の活性化分極)の増加が抑制されたものと考えられる。なお、サンプルS1では、燃料極116のSi被毒量が200ppmと少なかった。一方、サンプルS4では、Δηが0.1Ω以上(0.12Ω)であったため、不合格(×)と判定された。サンプルS4のフェルト材料は、Si飛散試験においてSi量が多かったため、汚染物質としてのSiによって単セル110が被毒し、η抵抗が増加したものと考えられる。なお、サンプルS4では、燃料極116のSi被毒量が850ppmと多かった。サンプルS2については、形状を保持することができず、組み付けができなかったため、耐久特性試験を実施することができなかった。また、サンプルS3については、熱処理によってフェルト材料が収縮したため、耐久特性試験を実施することができなかった。
【0053】
以上説明した性能評価の結果から、フェルト部材41が、セラミックス(アルミナ)とシリカ成分とを含むと共に、Alの結晶構造を有しており、かつ、SiOの結晶構造を有していれば、フェルト部材41からのSi等の汚染物質の飛散を抑制することができ、Si等の汚染物質による被毒を原因とした単セル110の性能低下の発生を抑制することができることが確認された。なお、Si等の汚染物質の飛散を抑制するためには、フェルト材料におけるSiの含有量を少なくすることが好ましい。しかしながら、Siの含有量が少ないフェルト材料は、ハンドリング性が低下し、組み付け時に割れたり粉々になったりする等の問題が発生するおそれがある。
【0054】
B.変形例:
本明細書で開示される技術は、上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
【0055】
上記実施形態における燃料電池スタック100の構成は、あくまで一例であり、種々変形可能である。例えば、上記実施形態におけるフェルト部材41の充填位置は、あくまで一例であり、フェルト部材41を燃料電池スタック100の他の位置に充填してもよい。
【0056】
また、上記実施形態では、フェルト部材41は、アルミナ−シリカ系のフェルト材料により構成されているが、他のアルミナ以外のセラミックス−シリカ系のフェルト材料により構成されていてもよい。あるいは、フェルト部材41は、金属−シリカ系のフェルト材料(例えば、ニッケルフェルト)により構成されていてもよい。このような構成においても、フェルト部材41が、セラミックスまたは金属とシリカ成分とを含むと共に、含有するセラミックスまたは金属に応じた結晶構造(第1の結晶構造)を有しており、かつ、SiOの結晶構造(第2の結晶構造)を有していれば、フェルト部材41からのSi等の汚染物質の飛散を抑制することができ、Si等の汚染物質による被毒を原因とした単セル110の性能低下の発生を抑制することができる。
【0057】
また、本明細書において、部材(または部材のある部分、以下同様)Aを挟んで部材Bと部材Cとが互いに対向するとは、部材Aと部材Bまたは部材Cとが隣接する形態に限定されず、部材Aと部材Bまたは部材Cとの間に他の構成要素が介在する形態を含む。例えば、電解質層112と空気極114との間に他の層が設けられていてもよい。このような構成であっても、空気極114と燃料極116とは電解質層112を挟んで互いに対向すると言える。
【0058】
また、上記実施形態では、燃料電池スタック100は複数の平板形の発電単位102が積層された構成であるが、本発明は、他の構成、例えば国際公開第2012/165409号に記載されているように、複数の略円筒形の燃料電池単セルが直列に接続された構成にも同様に適用可能である。
【0059】
また、上記実施形態では、燃料ガスに含まれる水素と酸化剤ガスに含まれる酸素との電気化学反応を利用して発電を行うSOFCを対象としているが、本発明は、水の電気分解反応を利用して水素の生成を行う固体酸化物形電解セル(SOEC)の構成単位である電解セル単位や、複数の電解セル単位を備える電解セルスタックにも同様に適用可能である。なお、電解セルスタックの構成は、例えば特開2016−81813号公報に記載されているように公知であるためここでは詳述しないが、概略的には上述した実施形態における燃料電池スタック100と同様の構成である。すなわち、上述した実施形態における燃料電池スタック100を電解セルスタックと読み替え、発電単位102を電解セル単位と読み替え、単セル110を電解単セルと読み替えればよい。ただし、電解セルスタックの運転の際には、空気極114がプラス(陽極)で燃料極116がマイナス(陰極)となるように両電極間に電圧が印加されると共に、連通孔108を介して原料ガスとしての水蒸気が供給される。これにより、各電解セル単位において水の電気分解反応が起こり、燃料室176で水素ガスが発生し、連通孔108を介して電解セルスタックの外部に水素が取り出される。このような構成の電解セル単位においても、上述した構成のフェルト部材41が採用されれば、フェルト部材41からのSi等の汚染物質の飛散を抑制することができ、Si等の汚染物質による被毒を原因とした単セル110の性能低下の発生を抑制することができる。
【0060】
また、上記実施形態では、固体酸化物形燃料電池(SOFC)を例に説明したが、本発明は、溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)といった他のタイプの燃料電池(または電解セル)にも適用可能である。
【符号の説明】
【0061】
22:ボルト 24:ナット 26:絶縁シート 27:ガス通路部材 28:本体部 29:分岐部 41:フェルト部材 100:燃料電池スタック 102:燃料電池発電単位 104:エンドプレート 106:エンドプレート 108:連通孔 110:単セル 112:電解質層 114:空気極 116:燃料極 120:セパレータ 121:孔 124:接合部 130:空気極側フレーム 131:孔 132:酸化剤ガス供給連通孔 133:酸化剤ガス排出連通孔 134:空気極側集電体 135:集電体要素 140:燃料極側フレーム 141:孔 142:燃料ガス供給連通孔 143:燃料ガス排出連通孔 144:燃料極側集電体 145:電極対向部 146:インターコネクタ対向部 147:連接部 149:スペーサー 150:インターコネクタ 161:酸化剤ガス導入マニホールド 162:酸化剤ガス排出マニホールド 166:空気室 171:燃料ガス導入マニホールド 172:燃料ガス排出マニホールド 176:燃料室
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11