(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6573732
(24)【登録日】2019年8月23日
(45)【発行日】2019年9月11日
(54)【発明の名称】近赤外分光法及びフォトニックミキサ装置での断層撮影法を用いる腫瘍低酸素症の継続的モニタリング
(51)【国際特許分類】
A61B 10/00 20060101AFI20190902BHJP
A61B 5/1455 20060101ALI20190902BHJP
【FI】
A61B10/00 E
A61B10/00 T
A61B5/1455ZDM
【請求項の数】16
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2018-550537(P2018-550537)
(86)(22)【出願日】2017年3月30日
(65)【公表番号】特表2019-513439(P2019-513439A)
(43)【公表日】2019年5月30日
(86)【国際出願番号】US2017025080
(87)【国際公開番号】WO2017180332
(87)【国際公開日】20171019
【審査請求日】2018年11月22日
(31)【優先権主張番号】15/098,686
(32)【優先日】2016年4月14日
(33)【優先権主張国】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】516035068
【氏名又は名称】ヴェリリー ライフ サイエンシズ エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100126480
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 睦
(72)【発明者】
【氏名】ベルサンガディー,チンメイ
(72)【発明者】
【氏名】カシーフ,ファイサル
(72)【発明者】
【氏名】リー,スン ア
(72)【発明者】
【氏名】トロイ,タマラ
(72)【発明者】
【氏名】ペロー,ジョン ディー.
(72)【発明者】
【氏名】アッラ,サレシュ
【審査官】
遠藤 直恵
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2006/0015021(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0118572(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2014/0339438(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0040217(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/02−5/03
A61B 5/06−5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組織領域における腫瘍の連続的モニタリングのための装置であって、
PMDカメラチップと、
前記PMDカメラチップ及び少なくとも2つの近赤外光源が反射配置にあるように前記PMDカメラチップから水平方向に離間される少なくとも2つの振幅変調された近赤外光源:
を具備し、
第1の振幅変調された近赤外光源が第1の波長で近赤外光を放出し、前記第1の波長がヘモグロビンの等吸収点未満であり、かつ
第2の振幅変調された近赤外光源が第2の波長で近赤外光を放出し、前記第2の波長がヘモグロビンの等吸収点を超える、装置。
いる前記装置。
【請求項2】
前記PMDカメラチップが、マルチ画素PMDカメラチップである、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記少なくとも2つの変調された近赤外光源が、前記PMDカメラチップの周りに配置される変調された近赤外光源のアレイに含まれる、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記少なくとも2つの変調された近赤外光源の各々が、異なる周波数で変調される、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記PMDカメラチップの周りで前記少なくとも2つの変調された近赤外光源を移動させるためのモータを更に具備する、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
遠隔処理ユニットまたはクラウドサーバへと記録されたデータを送信する無線通信システムを更に具備する、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
無線電力システムを更に具備する、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記少なくとも2つの変調された近赤外光源と前記PMDカメラチップとの間の距離が、前記組織領域の表面からの腫瘍の深さの約2倍である、請求項1に記載の装置。
【請求項9】
腫瘍低酸素症の連続的モニタリングのための方法であって、
a)前記腫瘍に近接して設けられる振幅変調された近赤外光源で腫瘍を有する組織領域を照射することと、
b)前記腫瘍に近接して設けられるマルチ画素PMDカメラチップを使用して前記組織領域からの反射光を記録することであって、前記近赤外光源が前記PMDカメラチップから水平方向に離間されることと、
c)前記反射光の振幅及び位相シフトを測定することと、
d)前記反射光の振幅及び位相シフトを使用して吸収及び低減された散乱係数を計算することと、
e)少なくとも2つの異なる波長の光について工程a〜dを繰り返すことと、
f)前記少なくとも2つの異なる波長の光について計算された前記吸収及び低減された散乱係数を使用して前記組織領域における酸素化されたヘモグロビン濃度及び脱酸素化されたヘモグロビンの濃度を計算すること:
を含む、方法。
【請求項10】
前記組織領域が、前記PMDカメラチップの周囲に配置される複数の近赤外光源で照射される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記複数の近赤外光源が、各光源について振幅及び位相シフトが別々に記録されるように多重化方式で動作される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記少なくとも2つの波長の光の第1の波長が、ヘモグロビンの等吸収点を超え、かつ前記少なくとも2つの波長の光の第2の波長が、ヘモグロビンの等吸収点未満である、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記第1の波長が、約780nmであり、かつ前記第2の波長が、約830nmである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記近赤外光源が、10〜1000MHz範囲の周波数で変調される、請求項9に記載の方法。
【請求項15】
前記近赤外光源が、30MHzの周波数で変調される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記近赤外光源が、200MHzの周波数で変調される、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0001] 本開示は一般に、組織の酸素化、特に腫瘍低酸素症の酸素化の連続的モニタリングに関し、より詳細には、腫瘍を取り囲む組織中の酸素化されたヘモグロビン濃度及び脱酸素化されたヘモグロビン濃度を計算する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
[0002] 固形腫瘍周辺の微小環境は一般に低酸素状態である。腫瘍を取り囲む組織における酸素化されたヘモグロビン濃度に対する脱酸素化されたヘモグロビン濃度の比は、健常組織における比よりも高い。組織の酸素化を測定することにより、腫瘍の機能的挙動を評価することができる。組織の酸素化状態はまた、従来の化学療法または術前化学療法の有効性を評価するため、及び疾患の進行を決定し予後を助けるために使用され得る。
【0003】
[0003] 近赤外(NIR)吸収分光法は、組織中の酸素化されたヘモグロビンと脱酸素化されたヘモグロビンの相対量を測定するために用いられてきた技術である。600〜1000nmのNIRスペクトル窓において、組織中の光子伝播は吸収よりむしろ散乱に支配される。標的組織中のヘモグロビン濃度を正確に測定するためには、光子の吸収画分と散乱画分を分離しなければならない。しかしながら、定常状態の照明を用いる連続波NIR吸収分光法では通常、光子の吸収画分と散乱画分を分離することは困難である。従って、NIR吸収分光法の従来の方法は、腫瘍を取り囲む組織中の酸素化ヘモグロビン濃度及び脱酸素化ヘモグロビン濃度の正確な測定を可能にしない。この問題を改善するために、研究者らは、光子の散乱画分及び吸収画分を独立して測定するために、時間及び周波数領域の様々な技術を開発し、それによってより正確な絶対ヘモグロビン濃度の値を計算している。吸収及び散乱を別々に測定できるこれらの測定技術は、ひと纏めに拡散光学分光法(DOS)と称される。光子の散乱画分及び吸収画分が組織の空間的再構成のために使用されるとき、その技術は拡散光学断層撮影法(Diffuse Optical Tomography:DOT)と称される。
【0004】
[0004] 市販の連続波NIR・DOS装置(例えば、Medro−CovidienのINVOS[商標]酸素飽和度測定システム、HamamatsuのNIRO−200NX近赤外線酸素化モニタなど)が存在するが、周波数ドメインNIR・DOS装置は、周波数ドメイン技術の複雑さが加わるため、研究から実際の使用には移行していない。研究のために現在使用されている周波数ドメインのDOS装置は、一般に嵩高くて高価であるため、現実の病院施設や臨床現場で使用するための医療機器へと簡単には移行できない。
【0005】
[0005] 従って、連続的な組織酸素化測定に適用できる、小型で低コストの周波数ドメイン分光法及び断層撮影装置を開発する必要性が未だ残されている。
【発明の概要】
【0006】
[0006] 本開示は、腫瘍低酸素症をモニタリングするための装置及び方法に関する。本開示の装置及び方法は、化学療法を受けている患者における腫瘍の機能状態を継続的にモニタリングするために使用できる。この装置は、腫瘍近傍の患者の体内に埋め込むことができるように、または着用可能な装置の形態で腫瘍部位近傍の患者の身体に取り付けることができるように小型化できる。幾つかの実施態様において、上記装置は、腫瘍の機能的状態を評価するために、臨床現場で(例えば、患者の病院のベッドサイド、医師のオフィス、または患者の家庭で)使用できるように手持ち式にできる。
【0007】
[0007] 本開示の1つの態様は、組織領域において腫瘍を連続的にモニタリングするための装置である。この装置は、PMDカメラチップと、このPMDカメラチップから水平方向に離間される少なくとも1つの振幅変調された近赤外光源とを含んでよく、上記PMDカメラチップ及び上記近赤外光源は反射配置にある。
【0008】
[0008] 本開示の別の態様は、腫瘍低酸素症を連続的にモニタリングするための方法である。この方法は、a)腫瘍を有する組織領域を、上記腫瘍に近接して設けられる振幅変調された近赤外光源を用いて照射することと、b)上記腫瘍に近接して設けられるマルチ画素PMDカメラチップを使用して上記組織領域からの反射光を記録することであって、上記近赤外光源が上記PMDカメラチップから水平方向に離間される、記録することと、c)上記反射光の振幅及び位相シフトを測定することと、d)上記反射光の振幅及び位相シフトを使用して吸収及び低減された散乱係数を計算することと、e)少なくとも2つの異なる波長の光に対して工程a〜dを繰り返すことと、f)上記少なくとも2つの異なる波長の光について計算された上記吸収及び低減された散乱係数を使用して上記組織領域における酸素化されたヘモグロビン濃度及び脱酸素化されたヘモグロビンの濃度を計算すること、を含む。
【0009】
[0009] 添付の図面、説明、及び特許請求の範囲には、本開示の他の実施形態が含まれる。従って、この概要は単なる例示であり、限定的であるとみなされるべきではない。
【0010】
[0010] 本明細書に組み込まれ本明細書の一部を構成する添付の図面は、開示される実施形態を説明するものであり、また上記説明と共に、開示される実施形態の様々な態様の原理を説明するのに役立つものである。添付の図面は概略図であり、必ずしも縮尺通りに描かれていない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図面において、
【
図1】[0011]例示的実施形態に従う、NIR分光装置の概略側面図である。
【
図2】[0012]例示的実施形態に従う、組織領域のサンプリングされた体積中の腫瘍の結果としての、反射光の時間遅延及び位相シフトを示す。
【
図3】[0013]例示的実施形態に従う、NIR分光装置の概略頂面図である。
【
図4】[0014]例示的実施形態に従い、異なる変調周波数及び異なる光源−検出器離間で計算された位相シフトを示すチャートである。
【
図5】[0015]例示的実施形態による、NIR分光装置の概略図である。
【0012】
[0016] 前述の一般的な説明及び以下の詳細な説明は、例示的で説明的なものに過ぎず、特許請求の範囲に記載の通り、開示された実施形態を限定するものでないことが理解されるべきである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[0017] 次に、本開示と一致する特定の実施形態を参照するが、その例は添付の図面に示される。同じ参照番号は、可能な限り、図面全体に亘って同一または類似の部分を指称するために使用される。
【0014】
[0018] 本開示は、周波数領域NIR分光法及びフォトニックミキサ装置(PMD)を用いる断層撮影法を介して、固形腫瘍周囲の組織における酸素化状態を測定する技術を記載する。PMDは、CCDまたはCMOS技術に基づく半導体構造であり、ここで各画素は2つの電荷蓄積位置(即ち、サブ画素)を含む。PMD中の光電子は、無線周波数(RF)制御電圧によって決定されるように、2つのサブ画素に交互に割り当てられる。上記RF電圧信号は、同じ周波数で変調されるシーン照明用光源に位相ロックされる。上記シーンからの反射光は光電子を生成し、これは上記2つのサブ画素において電荷を蓄積させる。上記2つのサブ画素において収集される電荷は、上記反射された光信号の同位相の成分及び180度位相のずれた異位相成分を与える。この情報を使用して、上記反射光の位相シフトが下記の式(1)を使用して計算される。
【0016】
[0020] ここでVi及びVQは、反射光信号の同位相成分及び異位相成分である。位相シフトは、カメラと照明されている物体との間の距離を推定するために使用できる。距離検知のために使用される場合、PMD装置は飛行時間型(ToF)カメラと呼ばれることが多い。本開示の例示的実施形態では、反射光信号の振幅及び位相シフトを測定するためにPMDに基づくToFカメラを使用でき、生体組織の光学特性を測定するために上記振幅及び位相シフト値を次いで使用できる(照明されている物体からの距離の代わりに)。
【0017】
[0021] 例示的実施形態において、振幅と、反射光及び入射光の間の位相シフトを使用して、組織吸収及び減少した散乱係数(μa及びμa’)を測定でき、これを次いで酸素化ヘモグロビン及び脱酸素化ヘモグロビンの濃度を測定するために使用できる。これは、組織中の光の吸収が組織発色団(即ち、酸素化ヘモグロビン、脱酸素化ヘモグロビン、水、脂質など)の濃度に直線的に依存するため、可能である。この波長依存性の吸収係数は、以下の式(2)で与えられる。
【0019】
[0023] ここでε
1(λ)は波長依存性吸光係数(通常は典型的な組織発色団について知られている)であり、C
iはi番目の発色団の濃度である。複数の光学波長でμ
1を測定することによって、連立方程式(式(2))の系が形成され、これを次いで解くことによって未知の発色団濃度を得ることができる。一般に、N個の発色団の濃度を推定するためには、N個以上の波長でμ
aを決定しなければならない。従って、例示的実施形態では、酸素化ヘモグロビン及び脱酸素化ヘモグロビンの濃度を測定するために、2以上の波長においてμ
aが決定される。
【0020】
[0024]
図1は、生物学的組織30の光学特性を決定するために使用できる、PMDに基づく例示的NIR分光装置の側面図を示す。装置10は、腫瘍部位に近接して配置されるNIR光源20を含む。例示的実施形態において、NIR光源20は、LED、ファイバ結合レーザ、または適切な波長で光を放出する調整可能なレーザであってよい。例示的実施形態において、NIR光源20は、約600nm〜約1000nmの波長の光を放出できる。幾つかの実施形態では、2以上のNIR光源20を使用して、異なる波長で光を放出できる。前述したように、酸素化ヘモグロビン及び脱酸素化ヘモグロビンの濃度を測定するためには、2つの波長での位相測定及び振幅測定が必要とされる。従って、幾つかの実施形態では、2つの異なる波長で光を放出するために2つのNIR光源20を使用できる。別の実施形態では、異なるNIR光源20を使用して、異なる波長の光を放出できる。より多くの波長の使用は、測定の冗長性を可能にし、それにより今度はヘモグロビン濃度測定の精度を向上させることができる。
【0021】
[0025] ヘモグロビン濃度の測定は、2以上の光学波長において、組織散乱から組織吸収を分離することが必要である。例示的実施形態では、酸素化ヘモグロビンと脱酸素化ヘモグロビンとの間のクロストークを最小にする波長を選択できる。例えば、幾つかの実施形態において、NIR窓内の少なくとも1つの波長は、ヘモグロビンの等吸収点(即ち、800nm)未満であってよく、1つの波長は等吸収点を超えてよい。例えば、2つの波長のみを使用して、約780nm及び約830nmの対を使用できる。幾つかの実施形態では、位相及び振幅の測定のために、約660nm及び約940nmの対を使用できる。
【0022】
[0026] 例示的実施形態において、NIR光源20は、10〜1000MHz範囲の周波数で振幅変調できる。例えば、幾つかの実施形態において、NIR光源20は、200MHzで振幅変調できる。別の実施形態において、NIR光源は30MHzで振幅変調できる。
【0023】
[0027]
図1を再度参照すると、NIR分光装置10は、腫瘍部位に近接して配置される検出器40を備える。検出器40は、入射光に対して、受信された変調光の位相および振幅の両方を測定する。例示的実施形態では、
図1に示すように、装置10は、NIR光源20及び検出器40が水平に離間されかつ組織の同じ側に配置されるように、反射モードで動作されてよい。組織から反射された光は、検出器40によって捕捉される。
図1に示す三日月形状の領域は、反射ジオメトリーでサンプリングされる体積である。透過モードで動作されるとき、NIR光源20及び検出器40は組織領域の反対側に配置され、組織を透過した光が検出器40によって捕捉される。反射ジオメトリーにおいて、NIR光源20から組織に注入された光は、距離ρにおいて検出器40により検出できる。例示的実施形態において、NIR光源20と検出器40の間の離間距離ρは、組織表面からの腫瘍の深さの約2倍であってよい。
【0024】
[0028] 例示的実施形態において、検出器40は、PMDに基づくToFカメラであってよい。幾つかの実施形態において、検出器40は、マルチ画素PMDカメラチップであってよい。このような実施形態では、NIR光源20及び検出器40の異なる変調周波数について、振幅及び位相シフト情報を各ピクセルで記録できる。この振幅及び位相シフト情報を次いで使用して、媒体中の拡散光子密度波に関連した複素波数因子(complex wavefactor)(k)の実部及び虚部を推計できる。無限の均一な混濁媒質を含む例示的実施形態において、拡散光子密度波のフルエンス率(U(r))は、下記のように書くことができる:
【0026】
[0030] 複素波数因子kは、
【数4】
および
【数5】
のように定義され、
【数6】
は媒体中の光の速度であり、Dは光子拡散係数であり、また
【数7】
である。光源からの距離rにおける振幅反射率はk
r*rに等しく、一方、光源からの距離rにおける位相シフトはk
i*rに等しい。
’複素波数ベクトル(complex wavevector)(k)から、吸収係数μ及び低下した散乱係数μ
s’を、式(3)を用いて計算できる。
【0027】
[0031] 例示的実施形態において、複数の波長で記録された吸収及び散乱係数(それぞれμaおよびμs’)を、酸素化ヘモグロビン及び脱酸素化ヘモグロビンの濃度を計算するために使用できる。例えば、幾つかの実施形態では、式(2)を使用して、ヘモグロビンまたは任意の他の発色団濃度を計算できる。
【0028】
[0032]
図2は、組織領域のサンプリングされた体積における腫瘍の影響を図示する。固形腫瘍の存在は、より多くの光の散乱および検出器40に到達する光の遅延を生じさせることができ、これは次いで、入射光と反射光との間で位相シフトを引き起こす可能性がある。2つのサブ画素で収集された電荷は、
図2においてQ1、Q’1及びQ2、Q’2として示される。位相シフトは、第2の電荷蓄積位置(即ち、位相外画素)における電荷の増加(Q2)として記録される。位相シフトの量は、2つの充電場所において収集された電荷から計算できる。振幅及び位相シフトは、異なる変調周波数について、PMDに基づく検出器40の各画素において記録できる。
【0029】
[0033] 検出器としてマルチ画素PMDカメラチップを含む例示的実施形態では、腫瘍の粗い構造及び位置情報もまた、
図40に示すように、断層撮影再構成アルゴリズムを使用することによって決定できる。幾つかの実施形態では、
図3に示すように、複数のNIR光源20を、PMDに基づく検出器40の周りでアレイ状に配置できる。別の実施形態において、1以上の近赤外光源20は、光源をPMDベース検出器40の周りで移動させるためにモータと共に取り付けられる。例示的実施形態において、複数のNIR光源20は、各光源の振幅及び位相信号が別々に記録されるように、多重化された様式(時間分割または周波数分割)で動作され得る。記録された情報を次いで用いて、組織媒体内における吸収体及び散乱体の空間的分布を断層的に再構築し、それによって腫瘍のサイズ、構造及び位置に関する情報を得ることができる。
【0030】
[0034]
図5は、例示的実施形態による、NIR分光装置10’の概略図を示す。PMD・ToFカメラのスモールフォームファクタのため、装置10’は手持ち型装置、着用型装置、または埋め込み型装置として実施できる。装置10’は、NIR光源20及び検出器40に加えて、プロセッサ50、通信システム60、及び電力システム80を含んでよい。プロセッサ50は、装置10’の全体的な動作を制御できる。プロセッサ50はまた、記録された位相及び振幅データを処理及び/または分析し、標的組織の酸素化状態を決定することもできる。通信システム60は、アンテナ、トランシーバ、エンコーダ、デコーダ等を含む、有線または無線の通信機能を含んでよい。幾つかの実施形態において、通信システム60は上記処理されたデータを遠隔記憶装置または遠隔表示装置へと送信でき、そこで上記酸素化状態を表示できる。幾つかの実施形態において、通信システム60は、生データを遠隔処理装置またはクラウドサーバへ送信でき、そこで計算を実行でき、かつその結果を患者または医療従事者へ送信できる。幾つかの実施形態において、装置10’は、プロセッサ50による処理の前に、または遠隔処理装置またはクラウドサーバへの送信の前に、記録されたデータを前処理するオンチップエレクトロニクスを含んでよい。そのような実施形態において、装置10’は、取得したデータを前処理するための増幅器、アナログ/デジタル変換器、マルチプレクサ、及び他の電子回路を含んでよい。電力システム80は、処理システム50、通信システム60、NIR光源20及び検出器40に電力を供給できる。幾つかの実施形態において、装置10’は、無線で電力供給されてよい。このような実施形態において、電力システム80は、遠隔装置により無線で充電できるスーパーキャパシター、バッテリー、または他のタイプの充電システムを含んでよい。幾つかの実施形態では、光電池のアレイを用いる光学的電力供給を使用して、装置10’の内蔵電子機器に電力を供給し、またはその電池を再充電できる。
【0031】
[0035] 例:位相シフト測定のためのPMD−ToFカメラの応用
【0032】
[0036] PMD・ToFカメラを使用して代表的な位相シフトが測定可能であることを検証するために、半無限媒体(組織に類似した光学特性を備える)において多くの異なる変調周波数について入射光と反射光の間の位相シフトを計算した。
図4は、異なる光源−検出器間距離ρでの、異なる変調周波数(f)についての位相シフトを示す。この結果は、光源−検出器間距離が増加するにつれて、位相シフトが増加することを示す。一例として、ρ=5cm及びf=30MHzのとき、位相シフトは35°であり、これは〜3nsの時間遅延に対応する。距離検出に使用される場合、〜3nsの時間遅延はカメラから対象までの距離45cmに対応し、これはPMD・ToFカメラで検出でき、従って35°の対応する位相シフトもまたPMD・ToFカメラにより検出できることを示唆している。
【0033】
[0037] 前述の説明は、例証のために提示されたものである。それは網羅的ではなく、従って開示された精密な形態または実施形態に限定されることはない。当業者には、本明細書の考察及び開示された実施形態の実施から、修飾及び適合が明らかであろう。更に、例示的実施形態を本明細書で説明したが、本開示は、当業者が本開示に基づいて理解するように、均等な要素、修正、省略、組み合わせ(例えば様々な実施形態に亘る態様の)、適合及び/または変更を有する任意の及び全ての実施形態の範囲を含むものである。特許請求の範囲における限定は、特許請求の範囲で使用される言語に基づいて広く解釈されるべきものであり、本願または出願遂行中の明細書に記載された実施例に限定されないように解釈されるべきである。実施例は、非排他的なものと解釈されるべきである。更に、開示された方法の工程は、工程の並べ替え及び/または工程の挿入もしくは削除を含めて変更できる。従って、本明細書及び例は単なる例示に過ぎず、真の範囲及び精神は、添付の特許請求の範囲及びそれらの均等の全範囲によって示されるものである。