【文献】
圓城寺隆治 et al.,誘電泳動インピーダンス計測法による細菌誘電特性と細胞膜活性状態及び流量依存性の相関検証,静電気学会誌,2011年,35, 3,PP. 139-144
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1の誘電泳動電極に交流電圧を印加するステップ及び前記第2の誘電泳動電極に交流電圧を印加するステップにおいて、周波数を徐々に高めながら交流電圧を印加する、請求項1に記載の誘電泳動法を用いた細胞の判別及び評価方法。
前記検出するステップでは、前記操作の後、生細胞を用いた所定の処理中に、前記第2の誘電泳動電極に交流電圧を印加したときの細胞の挙動を撮像した画像に基づいて誘電泳動による生細胞の前記第2の誘電泳動電極への捕捉状態を検出する、請求項1又は2に記載の誘電泳動法を用いた細胞の判別及び評価方法。
前記検出するステップでは、前記操作の後、生細胞を用いた所定の処理中に、複数回、前記第2の誘電泳動電極に交流電圧を印加したときの細胞の挙動を撮像した画像に基づいて誘電泳動による生細胞の前記第2の誘電泳動電極への捕捉状態を検出する、請求項1又は2に記載の誘電泳動法を用いた細胞の判別及び評価方法。
前記検出するステップでは、前記操作の後であり、かつ、生細胞を用いた所定の処理後に、前記第2の誘電泳動電極に交流電圧を印加したときの細胞の挙動を撮像した画像に基づいて誘電泳動による生細胞の前記第2の誘電泳動電極への捕捉状態を検出する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の誘電泳動法を用いた細胞の判別及び評価方法。
生細胞の前記第2の誘電泳動電極への捕捉状態が維持される周波数の時間的変化を観測するステップを含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の誘電泳動法を用いた細胞の判別及び評価方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[実施形態の要旨]
最初に実施形態の要旨を列記して説明する。なお、以下に記載する実施形態の少なくとも一部を任意に組み合わせてもよい。
【0014】
(1)実施形態に係る誘電泳動法を用いた細胞の判別方法は、
所定の周波数の交流電圧を誘電泳動電極に印加するステップ、及び
誘電泳動による生細胞の挙動に基づいて所定のダメージ度の生細胞を判別するステップを含むものである。
【0015】
本出願の発明者は、負荷を与えた生細胞の誘電泳動による挙動を分析することによって、当該負荷による生細胞のダメージ度と、生細胞が所定の挙動を行う交流電圧の周波数との間に関連性があることを知得した。そして、この関連性を考慮することによって所定のダメージ度の細胞を判別可能であることを見出し、上記の判別方法を創作するに到った。
そして、上記の判別方法においては、所定の周波数の交流電圧を誘電泳動電極に印加することによって、所定のダメージ度の生細胞を判別することができ、培養や融合等の処理を行う場合には、ダメージ度の低い細胞を判別して用いることが可能となる。したがって、当該処理の確実性を高めることができる。
【0016】
なお、生細胞の挙動としては、誘電泳動電極への捕捉や、複数の誘電泳動電極間への捕捉等を挙げることができる。また、生細胞にダメージを与える負荷としては、熱、光(電磁波)、磁界、超音波、又は薬品等を挙げることができる。また、所定の周波数とは、1つの特定の値であってもよいし、ある程度の幅を有する範囲であってもよい。所定のダメージ度とは、数値等によって絶対的に特定できるダメージ度であってもよいし、他の生細胞との関係で相対的に特定できるダメージ度(例えば、細胞群の中で最も小さいダメージ度)であってもよい。
【0017】
(2)誘電泳動電極に交流電圧を印加するステップにおいては、周波数を徐々に高めながら交流電圧を印加することが好ましい。
ダメージ度の低い生細胞は、より低い周波数で所定の挙動を起こすため、低い値から徐々に周波数を高めながら交流電圧を印加することによって、よりダメージ度の低い生細胞を判別することが可能となる。
【0018】
(3)実施形態に係る誘電泳動法を用いた細胞の判別装置は、
生細胞を含む溶液を収容する収容部と、
前記収容部内に配置された誘電泳動電極と、
前記誘電泳動電極に所定の周波数の交流電圧を印加する電源部と、
誘電泳動による生細胞の挙動に基づいて所定のダメージ度の生細胞を判別する判別部と、を備えている。
【0019】
この判別装置によれば、所定の周波数の交流電圧を誘電泳動電極に印加することによって、所定のダメージ度の生細胞を判別することができる。したがって、培養や融合等の処理を行う場合には、ダメージ度の低い生細胞を判別して用いることができ、当該処理の確実性を高めることができる。
【0020】
(4)上記の判別装置において、前記電源部は、交流電圧の周波数をスイープさせる調整部を備えていることが好ましい。
これにより、周波数を低い値から徐々に高めながら交流電圧を誘電泳動電極に印加することができ、よりダメージ度の低い生細胞を判別することが可能となる。
【0021】
(5)前記判別部は、
生細胞の挙動を撮像する撮像部と、
前記撮像部によって撮像された画像により生細胞の挙動を検出する検出部と、
を備えていることが好ましい。
これにより、実際の生細胞の画像を用いて正確に挙動を検出し、所定のダメージ度の細胞を適切に判別することができる。
【0022】
(6)上記の判別装置は、前記収容部内の溶液を加熱する加熱部をさらに備えており、
前記加熱部は、前記判別部により判別された生細胞のダメージ度に応じて加熱温度が制御されることが好ましい。
例えば、培養等の所定の処理を行うときに溶液の温度を加熱する場合、その熱によって負荷が加わると生細胞のダメージ度が高まる可能性がある。そのため、この構成では、生細胞に対するダメージ度が高まらないように加熱温度を制御することができる。
【0023】
(7)実施形態に係る誘電泳動法を用いた細胞の評価方法は、
周波数を変化させながら誘電泳動電極に交流電圧を印加するステップ、
誘電泳動による生細胞の挙動を検出するステップ、及び
生細胞が所定の挙動を行う周波数に基づいて生細胞のダメージ度を評価するステップ、
を含む。
【0024】
前述したように、負荷による生細胞のダメージ度と、細胞が所定の挙動を行う周波数との間には関連性があるため、当該周波数に基づいて生細胞のダメージ度を評価することができる。そのため、ダメージ度が低いと評価された生細胞を用いて培養や融合等の処理を行うことが可能となり、当該処理の確実性を高めることができる。
【0025】
(8)上記の評価方法は、生細胞に対する所定の操作後に、上記の各ステップが実行されることが好ましい。
生細胞に対して所定の操作を行った結果、細胞に負荷が与えられ、細胞がダメージを負ったり、逆に、当該操作によってダメージが回復したりすることもあり得る。この場合、生細胞に対する所定の操作後に、上記の各ステップを実行することによって、操作後の細胞のダメージ度を適切に評価することができる。したがって、操作後の生細胞を用いて所定の処理を行うべきか否かの判断を容易に行うことができる。なお、生細胞に対する操作としては、レーザーを用いた光トラップや電磁波の印加等が挙げられる。
【0026】
(9)また、上記の評価方法は、生細胞を用いた所定の処理中に、前記各ステップが実行されることが好ましい。
生細胞に対して培養や融合等の所定の処理を行っている最中に、当該細胞が負荷を受けることによってダメージ度が高まった場合、その処理に失敗する可能性が高くなる。したがって、生細胞を用いた所定の処理中に当該生細胞のダメージ度の評価を行うことで、そのまま処理を続けてよいか否かを容易に判断することができる。
【0027】
(10)また、上記の評価方法は、生細胞を用いた所定の処理中に、前記各ステップが複数回実行されることが好ましい。
これにより、処理の確実性をより高めることができる。
【0028】
(11)また、上記の評価方法は、生細胞を用いた所定の処理後に、前記各ステップが実行されることが好ましい。
これにより、処理後の細胞のダメージ度を把握することができる。
【0029】
(12)上記の評価方法は、生細胞の所定の挙動が維持される周波数の時間的変化を観測するステップを含むことが好ましい。
これにより、時間の経過によって生細胞のダメージ度が変化する場合にも、逐次そのダメージ度を評価することができる。
【0030】
(13)実施形態に係る誘電泳動法を用いた細胞の評価装置は、
生細胞を含む溶液を収容する収容部と、
前記収容部内に配置された誘電泳動電極と、
周波数を変化させながら前記誘電泳動電極に交流電圧を印加する電源部と、
生細胞が所定の挙動を行う周波数に基づいて生細胞のダメージ度を評価する評価部と、を備えている。
【0031】
この構成によれば、電源部が誘電泳動電極に印加した交流電圧の周波数によって生細胞のダメージ度を評価することができる。そのため、ダメージ度が低いと評価された生細胞を用いて培養や融合等の処理を行うことが可能となり、当該処理の確実性を高めることができる。
【0032】
(14)前記評価部は、
生細胞の挙動を撮像する撮像部と、
前記撮像部によって撮像された画像により生細胞の挙動を検出する検出部と、
前記検出部の検出結果に基づいて生細胞のダメージ度を取得する取得部と、
を備えていることが好ましい。
これにより、実際の生細胞の画像を用いて正確に挙動を検出し、生細胞のダメージ度を適切に評価することができる。
【0033】
[本発明の実施形態の詳細]
以下、細胞の判別装置及び評価装置についてのより詳細な実施形態を説明する。
図1に示すように、細胞の判別装置10は、所定のダメージ度の細胞を判別するためのものであり、誘電泳動チップ11と、供給部12と、排出部13と、電源部14,15と、撮像部16と、操作部17と、加熱部18と、制御部19とを備えている。
【0034】
誘電泳動チップ11は、溶液に含まれる細胞を電界の勾配によって泳動させるものであり、
図2〜
図5に示すように、基板21と、基板21に設けられた流路22、供給ポート23、排出ポート24、及び処理室25を備えている。
【0035】
基板21は、長方形状のスライドガラスから成り、後述する撮像部16の光源41の光を透過することができる。
流路22は、基板21の上面に設けられた枠部材27の内部に形成されている。この枠部材27は、シリコーンゴム等により形成され、基板21の上面の大部分を占める範囲で設けられている。流路22は、枠部材27の長手方向の一端部から他端部の範囲で枠部材27を長方形状にくり抜くことによって形成されている。流路22には、細胞を含む溶液が供給されるとともに、長手方向の一端側から他端側へ向けて溶液が流される。
図2及び
図3に溶液の流れ方向を矢印Xで示す。なお、流路22は、細胞を含む溶液が収容される収容部をも構成する。
【0036】
流路22の内部には、一対(2極)の誘電泳動電極31(以下、「第1の電極」ともいう)が設けられている。この第1の電極31は、溶液の流れ方向Xの下流側に配置されている。一対の第1の電極31は、基板21の上面に薄膜状に形成され、溶液の流れ方向Xに交差する方向に並べて配置されている。第1の電極31は、例えばイオンコーターによって基板21上に電極材料を蒸着することによって形成される。電極材料には、金又は銅等が用いられる。第1の電極31は、第1の電源部14(
図3参照)に接続されている。
【0037】
図2及び
図3に示すように、供給ポート23は、溶液の流れ方向Xの上流側における枠部材27の上面に設けられている。この供給ポート23は、直方体のブロック形状に形成され、流路22に連通する供給孔23aが上下方向に貫通して形成されている。供給ポート23は、供給管33を介して供給部12(
図1参照)に接続されている。
【0038】
排出ポート24は、溶液の流れ方向Xの下流側における枠部材27の上面に設けられている。この排出ポート24は、供給ポート23と同様に、直方体のブロック形状に形成され、流路22に連通する排出孔24aが上下方向に貫通して形成されている。排出ポート24は、
図1に示すように、排出管34を介して排出部13に接続されている。
【0039】
処理室25は、細胞に対して融合や培養等の所定の処理を行うための領域であり、流路22に隣接して枠部材27に形成されている。処理室25は、枠部材27を四角形状にくり抜くことにより形成され、流路22における溶液の流れ方向Xの上流側に配置されている。また、処理室25は、連通路28を介して流路22に接続されている。この連通路28は、流れ方向Xに対して傾斜して形成され、処理室25側の端部が流れ方向Xの上流側に、流路22側の端部が流れ方向Xの下流側に配置されている。
【0040】
処理室25の内部には、一対(2極)の誘電泳動電極32(以下、「第2の電極」ともいう)が設けられている。一対の第2の電極32は、基板21の上面に薄膜状に形成され、流れ方向Xに沿う方向に並べて配置されている。第2の電極32は、第1の電極31と同様に、基板21上に金や銅等の電極材料を蒸着することによって形成される。第2の電極32は、第2の電源部15に接続されている。
【0041】
図1に示すように、供給部12は、細胞を含む溶液を供給管33を介して供給するものである。供給部12には、例えばシリンジポンプを用いることができる。
一方、排出部13は、誘電泳動チップ11において細胞の判別等が行われた後の溶液を排出管34を介して排出するものである。この排出部13にも、シリンジポンプを用いることができる。
【0042】
第1の電源部14は、2極の第1の電極31に対して交流電圧を印加する。第1の電源部14は、第1の電極31に印加する電圧や交流の周波数を調整する調整部36を備えている。第1の電源部14は、
図3に示すように、2極の第1の電極31の一方が正極となり、他方が負極となるように交流電圧を印加する。したがって、2極の第1の電極31の間には電気力線が生じる。
【0043】
図1に示すように、第2の電源部15は、2極の第2の電極32に対して交流電圧を印加する。第2の電源部15は、第2の電極32に印加する電圧や交流の周波数を調整する調整部37を備えている。第2の電源部15は、
図3に示すように、2極の第1の電極31の一方が正極となり、他方が負極となるように交流電圧を印加する。したがって、2極の第2の電極32の間には電気力線が生じる。
【0044】
図1に示すように、撮像部16は、誘電泳動チップ11に存在する細胞を撮像するものであり、光源41と撮像器42と光学系43とを備えている。光学系43は、対物レンズ43a及びフィルタ43b等を含んでいる。撮像器42は、CMOS又はCCD等のイメージセンサを備えたものを用いることができる。光源41には、ハロゲン光源やLED光源を用いることができる。撮像部16によって撮像された画像情報は、制御部19に入力され、制御部19において各種の処理に用いられる。
【0045】
供給部12から誘電泳動チップ11の流路22内に細胞を含む溶液を供給し、第1の電源部14によって誘電泳動チップ11の第1の電極31に交流電圧を印加すると、その周波数に応じて誘電泳動が生じ、細胞を捕捉(トラップ)することができる。正の誘電泳動が生じると、細胞には第1の電極31による引力が働き、細胞は第1の電極31に張り付くことによってトラップされる。負の誘電泳動が生じると、細胞には第1の電極31からの斥力が働き、第1の電極31の間において、当該電極31に非接触の状態で細胞が捕捉される。
【0046】
図6は、誘電泳動電極に交流電圧を印加したときの細胞の挙動を撮像部によって撮影した画像である。第1の電極31に低周波数の交流電圧を印加したとき、
図6(a)に示すように細胞Pは負の誘電泳動によって第1の電極31間に捕捉され、第1の電極31に高周波数の交流電圧を印加したとき、
図6(b)に示すように細胞Pは正の誘電泳動によって第1の電極31に捕捉される。そして、このような細胞Pの挙動は、細胞の生死の状態によって異なる。
【0047】
したがって、溶液中に生細胞と死細胞とが含まれている場合、第1の電極31に所定の周波数の交流電圧を印加することによって、生細胞を第1の電極31に捕捉させ、かつ死細胞を第1の電極31間に捕捉させることができ、これにより生細胞と死細胞とを判別することが可能となる。また、死細胞が、第1の電極31又は第1の電極31間にまったく捕捉されず、溶液中に浮遊したままである場合には、細胞を第1の電極31に捕捉させ、かつ死細胞を溶液中に浮遊させることによって、生細胞と死細胞とを判別することが可能となる。
【0048】
また、ある周波数の交流電圧を印加したときの誘電泳動による生細胞の挙動は、生細胞のダメージ度によっても異なる。ダメージ度とは、例えば外部から負荷が与えられることによって細胞が受けたダメージの度合をいい、言い換えると細胞の健康(元気)の度合をいう。
したがって、第1の電極31に所定の周波数の交流電圧を印加することによって、溶液に含まれる生細胞のうち所定のダメージ度の生細胞を第1の電極31に捕捉させ、それ以外の生細胞を第1の電極31間に捕捉させ(又は溶液中に浮遊させ)、所定のダメージ度の生細胞とそれ以外の生細胞とを判別することができる。また、生細胞は、ダメージ度が小さい程、より低い周波数の交流電圧の印加で第1の電極31に捕捉される。したがって、第1の電源部14において、交流電圧の周波数を低い値から徐々に上げる(スイープさせる)ことによって、よりダメージ度の小さい生細胞を判別することが可能となる。
【0049】
なお、本発明者は、生細胞に負荷(熱及びレーザー光)を加えることによってダメージを与え、そのダメージ度によって誘電泳動電極に捕捉される周波数が異なること、及び、ダメージ度の小さい生細胞ほど低い周波数の交流電圧の印加で誘電泳動電極に捕捉されることを、後述する実施例2及び3において実証した。
【0050】
第2の電極32に低周波数の交流電圧を印加した場合も、
図6(a)(b)に示すように、細胞Pを電極32又は電極32間に捕捉することができる。したがって、処理室25内においても細胞の生死の状態や生細胞のダメージ度を判別することが可能となる。
また、処理室25内では、細胞を第2の電極32又は第2の電極32間に捕捉した状態で、所定の処理が行われる。例えば、処理室25内では細胞の培養や融合が行われる。
【0051】
操作部17は、集光したレーザー光により細胞をその焦点位置の近傍に捕捉し、移動させることができるものである。操作部17は、レーザー発振器45と、光ピンセット46と、マニピュレータ47とを備える。レーザー発振器45によって発生したレーザー光は、光ピンセット46から発射され、光ピンセット46の先端部で細胞を捕捉する。マニピュレータ47は、光ピンセット46を前後、左右、及び上下等に移動させることができる。なお、操作部17の構成としては、
図1に示すものに限られるものではなく、例えば、誘電泳動チップ11の下方からレーザー光を照射して細胞を捕捉し、その状態で誘電泳動チップを移動させる構成であってもよい。
【0052】
操作部17は、上記のように第1の電極31において捕捉された生細胞を、光ピンセット46によって捕捉し、処理室25に移動するために用いられる。このとき、操作部17は、流路22における流れに逆らって処理室25まで生細胞を移動することになる。そして、処理室25に移動した生細胞は、第2の電極32によって捕捉され、捕捉された状態のまま所定の処理が行われる。なお、第2の電極32で細胞を捕捉したまま培養等の処理が可能であることは、後述する実施例1において実証した。
【0053】
加熱部18は、処理室25内の溶液を加熱するためのものである。加熱部18は、基板21の裏面に取り付けられたペルチェ素子51と、ペルチェ素子51を駆動する熱源駆動部52とを有している。処理室25内で細胞に対して培養や融合等の処理を行うときに、加熱部18は、当該処理に最適な温度条件を満たすように溶液の温度を調整する。また、加熱部18における熱源駆動部52の動作は、制御部19によって制御される。
【0054】
制御部19は、パーソナルコンピュータ等によって構成され、撮像部16によって撮像された画像に基づいて生細胞の挙動、すなわち電極31,32又は電極31,32間における生細胞の挙動(捕捉状態)を検出する検出部54としての機能と、その検出部54による検出結果に基づいて生細胞のダメージ度を取得する取得部55としての機能とを有している。
【0055】
検出部54は、撮像部16によって撮像した画像を解析処理することによって、生細胞が電極31,32に捕捉されているか否か、あるいは電極31,32間に捕捉されているか否か等の、生細胞の挙動を検出する。
生細胞の画像を撮像する撮像部16や、当該画像から生細胞の挙動を検出する検出部54は、所定のダメージ度の細胞を判別する判別部を構成している。また、撮像部16、検出部54、及び取得部55は、生細胞のダメージ度を評価する評価部を構成している。
【0056】
また、制御部19は、取得部55によって取得されたダメージ度に基づいて、生細胞が第1及び第2の電極32に捕捉された状態を維持するように、第1及び第2の電源部14,15の調整部36,37を制御する電源制御部56としての機能を有する。
さらに、制御部19は、加熱部18による熱で生細胞がダメージを受け、第2の電極32から離れてしまわないように、加熱部18における熱源駆動部52の動作を制御することによって処理室25内の溶液の温度を調整する温度制御部57としての機能を有している。
【0057】
生細胞に対して培養や融合等の所定の処理を行う場合、よりダメージ度の小さい生細胞を用いることによって、当該処理の確実性を高めることができる。そのため、本実施形態においては、流路22内で第1の電極31を用いることによってダメージ度の小さい生細胞を判別・抽出し、その生細胞を処理室25に移動させて所定の処理を行うことができる。
【0058】
第1の電源部14は、第1の電極31に印加する交流電圧の周波数を調整する調整部36を備えているので、周波数を低い値から徐々に上げていき、より早期に第1の電極31に捕捉された生細胞、すなわちダメージ度の小さい生細胞を判別・抽出し、所定の処理に用いることができる。
【0059】
また、第1の電極31において抽出された生細胞を処理室25に移動させる過程において、操作部17の光ピンセット46(レーザー光)によって生細胞がダメージを受けた場合、あるいは、処理室25内において所定の処理中に生細胞が加熱部18の熱によってダメージを受けた場合、第2の電極32に対する生細胞の捕捉状態が変化する。
【0060】
例えば、第1の電極31においては、所定の周波数で捕捉されていた生細胞が、第2の電極32に移動した後、当該周波数では捕捉されない場合は、移動中に生細胞がレーザー光によってダメージを負ったと考えられる。このようにダメージを負った生細胞は、培養等の処理の対象として適していない。そのため、判別装置10は、操作部17による操作を行った後、所定の処理を行う前に第2の電極32おける生細胞の挙動を検出することによって、生細胞のダメージ度を評価し、当該処理に対する生細胞の適正を判断することができる。
【0061】
また、所定の処理を行っている最中にも、外部からの負荷によって生細胞がダメージを負うこともある。そのため、判別装置10は、所定の処理の最中にも第2の電極32における生細胞の挙動を検出することによって生細胞のダメージ度を評価する。したがって、本実施形態の判別装置10は、所定のダメージ度の生細胞を判別するという側面だけでなく、生細胞のダメージ度を評価(測定)する評価装置(ダメージセンサ)としての側面も有している。
【0062】
加熱部18は、処理室25の下面を加熱するものであるため、基板21の上面に設けられたに捕捉される細胞は、溶液の温度よりも高い温度で加熱される可能性があり、生細胞が受ける負荷も大きくなると考えられる。そのため、溶液の実際の温度ではなく、第2の電極32に対する生細胞の挙動に基づいて加熱部18を制御することで、生細胞に対する熱によるダメージを最小限に抑えることができる。
【0063】
具体的には、培養等の所定の処理中に第2の電極32から生細胞が離れたことが検出部54によって検出されると、制御部19の温度制御部57がペルチェ素子51の出力を下げるように熱源駆動部52を制御する。これにより、第2の電極32に印加する交流電圧の周波数を上げなくても生細胞を再び第2の電極32に捕捉させることができる。
【0064】
以上に説明した実施形態に係る判別装置10は、所定のダメージ度の生細胞を判別し、判別された生細胞を用いて所定の処理を行うことができる。したがって、培養等の処理に対して適正のある所定のダメージ度の生細胞を用いて当該処理を行うことができる。
また、実施形態に係る判別装置10は、第2の電極32に印加する交流電圧の周波数を変化させ、誘電泳動による生細胞の挙動を検出部54において検出し、その検出結果に基づいて、各生細胞のダメージ度を取得することができる。
【0065】
ダメージ度は、例えば、生細胞が捕捉された時点における周波数として取得することもできるし、その周波数に基づいた別の指標のかたちで取得することもできる。取得されたダメージ度は、例えば、制御部19を構成するパーソナルコンピュータの表示部に表示することができる。また、取得されたダメージ度によって生細胞のダメージ度を評価することができ、その評価の結果に基づいて第2の電源部15における調整部37や、加熱部18の制御を行うことができる。
【0066】
<実施例>
(実施例1)
実施例1においては、一対の誘電泳動電極に細胞を捕捉した状態で、培養が可能か否かを確認した。具体的には、エッペンを使用してYPD養液と水とを配合して10倍希釈した酵母菌を長時間誘電泳動電極で捕捉し、捕捉した状態で培養できるかを確認した。誘電泳動チップ内の溶液の温度はペルチェ素子によって28℃に制御した。そして、周波数8MHzの交流電圧1Vp−pを誘電泳動電極に印加し、酵母菌の生死判別を行い、生細胞を選別した。その後、同様の交流電圧及び周波数で細胞を誘電泳動電極に捕捉し続けた。その結果、約1時間20分後に、培養が確認された。
図7に培養に到るまでの細胞の状態を示す。
図7において、観察対象となる細胞が丸で囲って示されている。また、
図7(a)は、培養前の細胞を示し、
図7(b)は培養中の細胞を示し、
図7(c)は、培養後の細胞を示している。
【0067】
(実施例2)
実施例2においては、生細胞のダメージ度によって誘電泳動電極で捕捉することができる交流電圧の周波数に変化があることを確認する実験を行った。具体的には、酵母菌に熱を加えることによってダメージを与えたときの酵母菌の挙動を観察した。
実施例2では、
図9に示す誘電泳動チップ111を有する
図8の装置を用いた。
図9に示すように、誘電泳動チップ111は、基板121上に矩形状のプール(収容部)122を形成し、このプール122内における基板121の上面に一対の誘電泳動電極131を設け、電源部114によって交流電圧を印加した。細胞としての酵母菌を含む溶液(水)をプール122に収容した。熱源として、基板121の下面にペルチェ素子151aを設け、プール122の上面にITO透明電極151bを設け、それぞれ熱源駆動部152a、152bにより駆動した。このように2つの熱源を設けることで素早く水温を上昇させるようにした。また、プール122の上面をITO透明電極151bを取り付けたカバーガラス158で覆うことで溶液の蒸発を防いだ。プール122内の溶液の温度測定は、NTCサーミスタ159を用い、テスター(三和電気計器株式会社製、SANWA DIGITALA MULTIMETER CD721)により測定した。
図8中の符号117は誘電泳動チップ111を移動させるマニピュレータ(操作部)117であり、符号141、142、及び143は、ぞれぞれ光源、撮像器、及び対物レンズである。
【0068】
プール122内の溶液の温度を30℃、40℃、50℃、60℃、70℃に固定し、酵母菌を捕捉することができる交流電圧の周波数の変化を観察した。具体的には、酵母菌が誘電泳動電極131に捕捉された状態から、熱の影響によって誘電泳動電極131から離れたところで周波数を上昇させ、再び誘電泳動電極131に捕捉される周波数を測定した。また、熱による酵母菌の死滅を確認するため、溶液の温度が50℃、60℃、70℃の場合にメチレンブルー溶液を混入した。
【0069】
溶液の温度が30℃及び40℃の場合、1MHzの周波数の交流電圧を一定時間(30分)印加しても酵母菌の挙動に変化はなく、誘電泳動電極131に捕捉された状態が維持された。
溶液の温度が50℃の場合、1MHzの周波数の交流電圧を一定時間(30分)印加すると、18分後にメチレンブルーによって酵母菌が染色されたが、その後も酵母菌は誘電泳動電極131に捕捉された状態が維持された。
【0070】
溶液の温度が60℃及び70℃の場合、1MHzの周波数の交流電圧を印加すると、4分後、酵母菌が誘電泳動電極131から離れた。その後、周波数を2.3MHzに上昇させることで再び酵母菌を誘電泳動電極131に捕捉させた。6分後、酵母菌はメチレンブルーにより染色され、7分後に誘電泳動電極131に捕捉できなくなった。
【0071】
以上より、溶液の温度が30℃、40℃のときは、酵母菌を捕捉できる周波数に大きな変化はなく、熱が酵母菌に与えるダメージは少ないと考えられるが、50℃以上では当該周波数に変化があり、細胞が熱によるダメージを負ったと考えられる。特に、溶液の温度が60℃及び70℃のときには酵母菌を捕捉できる周波数が大きく上昇している。したがって、熱による酵母菌のダメージが大きいほど、誘電泳動電極131によって捕捉することができる交流電圧の周波数が大きくなることが実証された。
【0072】
また、以上の実験に加えて、溶液の温度を初期温度から80℃まで上昇させ、酵母菌の挙動を観察した。その結果、
図10に示すように溶液の温度と周波数の関係が得られた。酵母菌を捕捉することができる周波数は、溶液の温度上昇に伴って上昇した。溶液の温度が80℃に達すると、酵母菌は、電源部114の上限である15MHzの周波数でも捕捉することができなかった。したがって、温度が高くなるほど、熱が酵母菌に与えるダメージは大きくなり、酵母菌を捕捉できる周波数も上昇した。また、一般に酵母菌が死滅すると考えられる80℃では、酵母菌は誘電泳動電極に捕捉されることはなくなった。
【0073】
(実施例3)
実施例3においては、実施例2と同様に、生細胞のダメージ度によって誘電泳動電極で捕捉することができる交流電圧の周波数に変化があることを確認した。具体的には、細胞をレーザー光で光トラップすることによってダメージを与えたときの酵母菌の挙動を観察した。
【0074】
実施例3では、
図11に示す装置を用いた。誘電泳動チップ211は、基板221上に一対の誘電泳動電極231を設けたものを使用した。Ar(アルゴン)レーザ発振器257(レクセルレーザー社製、モデル95イオンレーザー)によって照射されたレーザー光で酵母菌を光トラップし、マニピュレータ(操作部)217により誘電泳動チップ211を操作することで、酵母菌を一対の誘電泳動電極231間に移動させ、電源部214によって誘電泳動電極231に交流電圧を印加した。Arレーザーには油浸対物レンズ243(オリンパス株式会社製、PlanApo 100x/1.40 Oil ∞/0.17)を用い、光源241には、ハロゲン光源(モリテックス株式会社製、MHF-D100LR)を用い、酵母菌の挙動を撮像器242により撮像した。
【0075】
レーザー光の照射パワーは、30mW、50mW、70mWとした。Arレーザの周波数は514.5nmとした。また、レーザー光の照射時間(光トラップする時間)を5分毎に設定した。そして、各照射時間毎に、誘電泳動電極231に酵母菌を捕捉することができる交流電圧の周波数を測定した。その結果を、
図12〜
図14に示す。これらの図において、周波数は、酵母菌を捕捉することができた周波数の平均値を示している。
【0076】
図12〜
図14に示すように、いずれの照射パワーにおいても、照射時間が長くなるほど、酵母菌を捕捉することができる交流電圧の周波数は高くなることが分かった。したがって、レーザーによる光トラップで酵母菌がダメージを受け、誘電泳動電極231によって捕捉することができる交流電圧の周波数も上昇することが実証された。
【0077】
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内において変更することができる。
上記実施形態では、2極の電極を用いたが、それ以上の多極の電極を用いることが可能である。
【0078】
細胞の捕捉のために誘電泳動電極に印加した交流電圧や周波数の具体的数値はあくまで一例であり、捕捉の対象となる細胞の特性や溶液の種類等に応じて適宜変更されるものである。