(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2には、金属基体の代わりにセラミック基体を円柱状の成形体の凹み部に差し込む点は記載されていない。また、セラミック基体を成形体の凹み部に差し込む場合、セラミック基体は金属基体と異なり寸法のバラツキや反りが大きいため、セラミック基体が差し込まれた成形体を焼成する際にクラックが発生したり成形体がセラミック基体にしっかり固定されなかったりするおそれがある。また、最終的に得られる膜の厚みが一定にならないおそれがある。
【0006】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、ゲル化剤を含むスラリーを成形・固化して得られた未焼成体の凹み部又は貫通孔にセラミック基体を挿入したあと焼成して膜接合構造体を得る製法において、焼成前の段階で未焼成体をクラックのない状態でセラミック基体に固定すると共に、最終的に得られる膜の厚みを一定にすることを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0008】
本発明の膜接合構造体の製法は、
(a)セラミック基体を用意する工程と、
(b)成形型の内部に原料粉、重合可能な少なくとも2種類の有機化合物を含むゲル化剤及び分散媒として有機溶媒を含むスラリーを入れ、前記ゲル化剤の重合反応によって前記スラリーを成形・固化することにより、凹み部又は貫通孔を有する未焼成体を作製する工程と、
(c)前記未焼成体の凹み部又は貫通孔に前記セラミック基体を挿入したあと乾燥することによりグリーン構造体を得る工程と、
(d)前記グリーン構造体を焼成することにより、前記未焼成体が焼成されて膜となった膜接合構造体を得る工程と、
を含み、
前記工程(c)では、乾燥前の時点で、前記未焼成体の凹み部又は貫通孔に前記セラミック基体を挿入したときのクリアランス量をx[μm]、前記スラリーにおける前記分散媒の体積割合をy[vol%]としたとき、下記式を満たすようにx,yを設定するものである。
0≦x≦250
y≧0.067x+30
y≦0.1x+60
y≦70
【0009】
この膜接合構造体の製法によれば、工程(c)でx,yを上記式を満たすように設定することにより乾燥時に乾燥収縮量が適正な量となるため、未焼成体をクラックのない状態でセラミック基体に固定することができる。また、工程(d)の焼成後においては、焼き嵌めにより膜をクラックのない状態でセラミック基体に固定することができる。更に、予め成形型などを用いて膜前駆体を成形した上で一体化して膜を形成するため、特許文献1のようなディップ法に比べて、最終的に得られる膜の厚みを一定にすることができる。
【0010】
なお、「クリアランス量」とは、セラミック基体の外壁と未焼成体の凹み部又は貫通孔の内壁との隙間の幅である。クリアランス量は、セラミック基体の全周にわたって一様の幅となるように形成される。「固化」とは、ゲル化剤が反応して形状保持され、更に分散媒除去の工程まで含む。
【0011】
本発明の膜接合構造体の製法において、前記工程(b)では、中子を用いて前記未焼成体の前記凹み部又は貫通孔を形成してもよい。こうすれば、中子のサイズを調整することで、工程(c)の乾燥前の時点でのクリアランス量xを任意の値に設置することができる。中子は、成形型と別体になっていてもよいし、成形型と一体になっていてもよい。なお、中子を用いず、できあがった成形体に凹み部や貫通孔を形成してもよい。
【0012】
本発明の膜接合構造体の製法において、前記膜接合構造体の膜厚が100〜1000μmとなるようにしてもよい。本発明の製法は、このような厚膜をセラミック基体に形成するのに適している。「膜厚」とは膜単体の厚みのことを指す。例えば、セラミック基体を挟んで両側に膜が形成されていた場合は、片側の膜自体のみの厚みを膜厚という。
【0013】
本発明の膜接合構造体の製法において、前記原料粉は、セラミック粉末であり、前記スラリーは、前記セラミック粉末の焼結助剤を含むものとしてもよい。こうすれば、工程(d)において比較的低温でセラミック粉末を焼成することができるため、未焼成体を容易に焼成することができる。ここで、焼結助剤としては、特に限定するものではないが、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化珪素、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、窒化珪素、窒化アルミニウム、チタニア、スピネルの中から選ばれた1つとしてもよいし、これらの中から選ばれた2つ以上の材料を含む複合酸化物や複合窒化物としてもよい。焼結助剤の具体的な材料は、セラミック粉末の材料に応じて適宜選択すればよい。例えば、焼成温度が低温(セラミック粉末を助剤なしで焼結させる温度よりも低い温度)であってもセラミック粉末間の結合を保つ助けとなるものを選択すればよい。低温で未焼成膜中のセラミック粉末を焼成体にすることで、基体への熱によるダメージを低減することができる。また、焼結助剤としては、ガラス層を形成する成分が含まれるものや比表面積が大きくセラミック粉末の焼結を低温でも進行させるものが好ましい。
【0014】
本発明の膜接合構造体の製法において、前記スラリーに樹脂を添加してもよい。樹脂の種類は特に限定されない。樹脂の選定によっては、未焼成
体に弾性や可塑性を付与することができる。それにより、基体に寸法ばらつきや反りのようなものがあった場合でも、欠陥なく容易に追従させることができる。また、乾燥時や離型時の体積収縮によるクラックの発生やセラミック基体を未焼成体へ挿入する際のセラミック基体との接触によるクラックの発生を抑制することができる。
【0015】
本発明の膜接合構造体の製法において、前記成形型は、該成形型を複数個に分割したものを隙間なく密着させたものとしてもよい。こうすれば、未焼成体を成形型から離型する際、成形型を分割すれば離型作業を容易に行うことができる。また、成形型の形状は特に限定しないが、一つの流入口から枝分かれし多個取りするようなランナーやゲート、ベントが備えられていてもよい。また、離型が容易となるようにテーパがついていてもよい。
【0016】
本発明の膜接合構造体の製法において、前記セラミック基体は、ジルコニアを主成分とする固体電解質層を備えたセンサ素子としてもよい。こうすれば、センサ素子を膜で容易に被覆することができる。また、センサ素子は表面に金属部分(例えば電極)が露出しているが、スラリーの分散媒として水ではなく有機溶媒を使用しているため、その金属部分が酸によって腐食するおそれがない。
【0017】
本発明の膜接合構造体は、上述した本発明の製法によって製造されたものである。本発明の膜接合構造体の膜部分は、上述のスラリーを用いて成形型により成形されるため、膜厚が一定になる。
【0018】
また、未焼成体の凹み部又は貫通孔にペーストを予め注入してから、セラミック基体を未焼成体の凹み部又は貫通孔に挿入してもよい。ペーストはフィラーが添加されたものでもよいし、有機成分からなるものでも構わない。ペーストの注入方法は特に限定されるものではない。また、ペーストはセラミック基体に塗布されてから未焼成体の凹み部又は貫通孔に挿入されてもよい。
【0019】
本発明の膜接合構造体は、セラミック基体の少なくとも一部の表面に膜が形成された膜接合構造体であって、前記セラミック基体は、直方体で、長手方向の両端の端面が長方形であり、該長方形の互いに向かい合う長辺の中点を結んだ線に沿って前記膜接合構造体を切断したときの切断面において、前記膜の長手方向の長さをXとし、前記膜の表面の両端からX/6だけ内側に入った点とその2つの点を結んだ線分を4等分する3つの点の合計5点を測定位置とし、各測定位置で前記膜の表面と直交する垂線を引き、前記膜の表面から前記基体の表面までの垂線の長さを膜厚dとしたとき、膜厚dの標準偏差σが10以下である。つまり、膜は一様な膜厚を有している。こうした膜接合構造体は、上述した本発明の製法によって製造することができる。
【0020】
本発明のガスセンサは、上述した膜接合構造体を備えたものである。このガスセンサも上述した膜接合構造体と同様、膜厚が一定になる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、本発明の実施の形態の一例であるセンサ素子101を備えたガスセンサ100の概略構成について説明する。
図1は、ガスセンサ100の構成の一例を概略的に示した斜視図である。
図2は、
図1のA−A断面図である。なお、ガスセンサ100は、例えば自動車の排気ガスなどの被測定ガスにおけるNOxなどの所定のガスの濃度を、センサ素子101により検出するものである。また、センサ素子101は長尺な直方体形状をしており、このセンサ素子101の長手方向(
図1の左右方向)を前後方向とし、センサ素子101の厚み方向(
図1の上下方向)を上下方向とする。また、センサ素子101の幅方向(前後方向及び上下方向に垂直な方向)を左右方向とする。なお、
図1は、センサ素子101を右上前方からみた様子を示している。また、
図2は、センサ素子101の
前後方向の中心に沿った断面図である。
【0023】
図2に示すように、センサ素子101は、それぞれが酸素イオン伝導性を有するジルコニア(ZrO
2)を主成分とする固体電解質層からなる第1基板層1と、第2基板層2と、第3基板層3と、第1固体電解質層4と、スペーサ層5と、第2固体電解質層6との6つの層が、図面視で下側からこの順に積層された構造を有する素子である。また、これら6つの層を形成する固体電解質は緻密な気密のものである。係るセンサ素子101は、例えば、各層に対応するセラミックスグリーンシートに所定の加工および回路パターンの印刷などを行った後にそれらを積層し、さらに、焼成して一体化させることによって製造される。
【0024】
センサ素子101の一先端部(前方向の端部)であって、第2固体電解質層6の下面と第1固体電解質層4の上面との間には、ガス導入口10と、第1拡散律速部11と、緩衝空間12と、第2拡散律速部13と、第1内部空所20と、第3拡散律速部30と、第2内部空所40とが、この順に連通する態様にて隣接形成されてなる。
【0025】
ガス導入口10と、緩衝空間12と、第1内部空所20と、第2内部空所40とは、スペーサ層5をくり抜いた態様にて設けられた上部を第2固体電解質層6の下面で、下部を第1固体電解質層4の上面で、側部をスペーサ層5の側面で区画されたセンサ素子101内部の空間である。
【0026】
第1拡散律速部11と、第2拡散律速部13と、第3拡散律速部30とはいずれも、2本の横長の(図面に垂直な方向に開口が長手方向を有する)スリットとして設けられる。なお、ガス導入口10から第2内部空所40に至る部位をガス流通部とも称する。
【0027】
また、ガス流通部よりも先端側から遠い位置には、第3基板層3の上面と、スペーサ層5の下面との間であって、側部を第1固体電解質層4の側面で区画される位置に基準ガス導入空間43が設けられている。基準ガス導入空間43には、NOx濃度の測定を行う際の基準ガスとして、例えば大気が導入される。
【0028】
大気導入層48は、多孔質セラミックスからなる層であって、大気導入層48には基準ガス導入空間43を通じて基準ガスが導入されるようになっている。また、大気導入層48は、基準電極42を被覆するように形成されている。
【0029】
基準電極42は、第3基板層3の上面と第1固体電解質層4とに挟まれる態様にて形成される電極であり、上述のように、その周囲には、基準ガス導入空間43につながる大気導入層48が設けられている。また、後述するように、基準電極42を用いて第1内部空所20内や第2内部空所40内の酸素濃度(酸素分圧)を測定することが可能となっている。
【0030】
ガス流通部において、ガス導入口10は、外部空間に対して開口してなる部位であり、該ガス導入口10を通じて外部空間からセンサ素子101内に被測定ガスが取り込まれるようになっている。第1拡散律速部11は、ガス導入口10から取り込まれた被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する部位である。緩衝空間12は、第1拡散律速部11より導入された被測定ガスを第2拡散律速部13へと導くために設けられた空間である。第2拡散律速部13は、緩衝空間12から第1内部空所20に導入される被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する部位である。被測定ガスが、センサ素子101外部から第1内部空所20内まで導入されるにあたって、外部空間における被測定ガスの圧力変動(被測定ガスが自動車の排気ガスの場合であれば排気圧の脈動)によってガス導入口10からセンサ素子101内部に急激に取り込まれた被測定ガスは、直接第1内部空所20へ導入されるのではなく、第1拡散律速部11、緩衝空間12、第2拡散律速部13を通じて被測定ガスの濃度変動が打ち消された後、第1内部空所20へ導入されるようになっている。これによって、第1内部空所20へ導入される被測定ガスの濃度変動はほとんど無視できる程度のものとなる。第1内部空所20は、第2拡散律速部13を通じて導入された被測定ガス中の酸素分圧を調整するための空間として設けられている。係る酸素分圧は、主ポンプセル21が作動することによって調整される。
【0031】
主ポンプセル21は、第1内部空所20に面する第2固体電解質層6の下面のほぼ全面に設けられた天井電極部22aを有する内側ポンプ電極22と、第2固体電解質層6の上面の天井電極部22aと対応する領域に外部空間に露出する態様にて設けられた外側ポンプ電極23と、これらの電極に挟まれた第2固体電解質層6とによって構成されてなる電気化学的ポンプセルである。
【0032】
内側ポンプ電極22は、第1内部空所20を区画する上下の固体電解質層(第2固体電解質層6および第1固体電解質層4)、および、側壁を与えるスペーサ層5にまたがって形成されている。具体的には、第1内部空所20の天井面を与える第2固体電解質層6の下面には天井電極部22aが形成され、また、底面を与える第1固体電解質層4の上面には底部電極部22bが形成され、そして、それら天井電極部22aと底部電極部22bとを接続するように、側部電極部(図示省略)が第1内部空所20の両側壁部を構成するスペーサ層5の側壁面(内面)に形成されて、該側部電極部の配設部位においてトンネル形態とされた構造において配設されている。
【0033】
内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23とは、多孔質サーメット電極(例えば、Auを1%含むPtとZrO
2とのサーメット電極)として形成される。なお、被測定ガスに接触する内側ポンプ電極22は、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を弱めた材料を用いて形成される。
【0034】
主ポンプセル21においては、内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間に所望のポンプ電圧Vp0を印加して、内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間に正方向あるいは負方向にポンプ電流Ip0を流すことにより、第1内部空所20内の酸素を外部空間に汲み出し、あるいは、外部空間の酸素を第1内部空所20に汲み入れることが可能となっている。
【0035】
また、第1内部空所20における雰囲気中の酸素濃度(酸素分圧)を検出するために、内側ポンプ電極22と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、基準電極42によって、電気化学的なセンサセル、すなわち、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80が構成されている。
【0036】
主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80における起電力V0を測定することで第1内部空所20内の酸素濃度(酸素分圧)がわかるようになっている。さらに、起電力V0が一定となるように可変電源25のポンプ電圧Vp0をフィードバック制御することでポンプ電流Ip0が制御されている。これによって、第1内部空所内20内の酸素濃度は所定の一定値に保つことができる。
【0037】
第3拡散律速部30は、第1内部空所20で主ポンプセル21の動作により酸素濃度(酸素分圧)が制御された被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与して、該被測定ガスを第2内部空所40に導く部位である。
【0038】
第2内部空所40は、第3拡散律速部30を通じて導入された被測定ガス中の窒素酸化物(NOx)濃度の測定に係る処理を行うための空間として設けられている。NOx濃度の測定は、主として、補助ポンプセル50により酸素濃度が調整された第2内部空所40において、さらに、測定用ポンプセル41の動作によりNOx濃度が測定される。
【0039】
第2内部空所40では、あらかじめ第1内部空所20において酸素濃度(酸素分圧)が調整された後、第3拡散律速部を通じて導入された被測定ガスに対して、さらに補助ポンプセル50による酸素分圧の調整が行われるようになっている。これにより、第2内部空所40内の酸素濃度を高精度に一定に保つことができるため、係るガスセンサ100においては精度の高いNOx濃度測定が可能となる。
【0040】
補助ポンプセル50は、第2内部空所40に面する第2固体電解質層6の下面の略全体に設けられた天井電極部51aを有する補助ポンプ電極51と、外側ポンプ電極23(外側ポンプ電極23に限られるものではなく、センサ素子101と外側の適当な電極であれば足りる)と、第2固体電解質層6とによって構成される、補助的な電気化学的ポンプセルである。
【0041】
係る補助ポンプ電極51は、先の第1内部空所20内に設けられた内側ポンプ電極22と同様なトンネル形態とされた構造において、第2内部空所40内に配設されている。つまり、第2内部空所40の天井面を与える第2固体電解質層6に対して天井電極部51aが形成され、また、第2内部空所40の底面を与える第1固体電解質層4には、底部電極部51bが形成され、そして、それらの天井電極部51aと底部電極部51bとを連結する側部電極部(図示省略)が、第2内部空所40の側壁を与えるスペーサ層5の両壁面にそれぞれ形成されたトンネル形態の構造となっている。なお、補助ポンプ電極51についても、内側ポンプ電極22と同様に、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を弱めた材料を用いて形成される。
【0042】
補助ポンプセル50においては、補助ポンプ電極51と外側ポンプ電極23との間に所望の電圧Vp1を印加することにより、第2内部空所40内の雰囲気中の酸素を外部空間に汲み出し、あるいは、外部空間から第2内部空所40内に汲み入れることが可能となっている。
【0043】
また、第2内部空所40内における雰囲気中の酸素分圧を制御するために、補助ポンプ電極51と、基準電極42と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3とによって電気化学的なセンサセル、すなわち、補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル81が構成されている。
【0044】
なお、この補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル81にて検出される起電力V1に基づいて電圧制御される可変電源52にて、補助ポンプセル50がポンピングを行う。これにより第2内部空所40内の雰囲気中の酸素分圧は、NOxの測定に実質的に影響がない低い分圧にまで制御されるようになっている。
【0045】
また、これとともに、そのポンプ電流Ip1が、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80の起電力の制御に用いられるようになっている。具体的には、ポンプ電流Ip1は、制御信号として主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80に入力され、その起電力V0が制御されることにより、第3拡散律速部30から第2内部空所40内に導入される被測定ガス中の酸素分圧の勾配が常に一定となるように制御されている。NOxセンサとして使用する際は、主ポンプセル21と補助ポンプセル50との働きによって、第2内部空所40内での酸素濃度は約0.001ppm程度の一定の値に保たれる。
【0046】
測定用ポンプセル41は、第2内部空所40内において、被測定ガス中のNOx濃度の測定を行う。測定用ポンプセル41は、第2内部空所40に面する第1固体電解質層4の上面であって第3拡散律速部30から離間した位置に設けられた測定電極44と、外側ポンプ電極23と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4とによって構成された電気化学的ポンプセルである。
【0047】
測定電極44は、多孔質サーメット電極である。測定電極44は、第2内部空所40内の雰囲気中に存在するNOxを還元するNOx還元触媒としても機能する。さらに、測定電極44は、第4拡散律速部45によって被覆されてなる。
【0048】
第4拡散律速部45は、セラミックス多孔体にて構成される膜である。第4拡散律速部45は、測定電極44に流入するNOxの量を制限する役割を担うとともに、測定電極44の保護層としても機能する。測定用ポンプセル41においては、測定電極44の周囲の雰囲気中における窒素酸化物の分解によって生じた酸素を汲み出して、その発生量をポンプ電流Ip2として検出することができる。
【0049】
また、測定電極44の周囲の酸素分圧を検出するために、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、測定電極44と、基準電極42とによって電気化学的なセンサセル、すなわち、測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82が構成されている。測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82にて検出された起電力V2に基づいて可変電源46が制御される。
【0050】
第2内部空所40内に導かれた被測定ガスは、酸素分圧が制御された状況下で第4拡散律速部45を通じて測定電極44に到達することとなる。測定電極44の周囲の被測定ガス中の窒素酸化物は還元されて(2NO→N
2+O
2)酸素を発生する。そして、この発生した酸素は測定用ポンプセル41によってポンピングされることとなるが、その際、測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82にて検出された制御電圧V2が一定となるように可変電源46の電圧Vp2が制御される。測定電極44の周囲において発生する酸素の量は、被測定ガス中の窒素酸化物の濃度に比例するものであるから、測定用ポンプセル41におけるポンプ電流Ip2を用いて被測定ガス中の窒素酸化物濃度が算出されることとなる。
【0051】
また、測定電極44と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と基準電極42を組み合わせて、電気化学的センサセルとして酸素分圧検出手段を構成するようにすれば、測定電極44の周りの雰囲気中のNOx成分の還元によって発生した酸素の量と基準大気に含まれる酸素の量との差に応じた起電力を検出することができ、これによって被測定ガス中のNOx成分の濃度を求めることも可能である。
【0052】
また、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、外側ポンプ電極23と、基準電極42とから電気化学的なセンサセル83が構成されており、このセンサセル83によって得られる起電力Vrefによりセンサ外部の被測定ガス中の酸素分圧を検出可能となっている。
【0053】
このような構成を有するガスセンサ100においては、主ポンプセル21と補助ポンプセル50とを作動させることによって酸素分圧が常に一定の低い値(NOxの測定に実質的に影響がない値)に保たれた被測定ガスが測定用ポンプセル41に与えられる。したがって、被測定ガス中のNOxの濃度に略比例して、NOxの還元によって発生する酸素が測定用ポンプセル41より汲み出されることによって流れるポンプ電流Ip2に基づいて、被測定ガス中のNOx濃度を知ることができるようになっている。
【0054】
さらに、センサ素子101は、固体電解質の酸素イオン伝導性を高めるために、センサ素子101を加熱して保温する温度調整の役割を担うヒータ部70を備えている。ヒータ部70は、ヒータコネクタ電極71と、ヒータ72と、スルーホール73と、ヒータ絶縁層74と、圧力放散孔75と、を備えている。
【0055】
ヒータコネクタ電極71は、第1基板層1の下面に接する態様にて形成されてなる電極である。ヒータコネクタ電極71を外部電源と接続することによって、外部からヒータ部70へ給電することができるようになっている。
【0056】
ヒータ72は、第2基板層2と第3基板層3とに上下から挟まれた態様にて形成される電気抵抗体である。ヒータ72は、スルーホール73を介してヒータコネクタ電極71と接続されており、該ヒータコネクタ電極71を通して外部より給電されることにより発熱し、センサ素子101を形成する固体電解質の加熱と保温を行う。
【0057】
また、ヒータ72は、第1内部空所20から第2内部空所40の全域に渡って埋設されており、センサ素子101全体を上記固体電解質が活性化する温度に調整することが可能となっている。
【0058】
ヒータ絶縁層74は、ヒータ72の上下面に、アルミナ等の絶縁体によって形成されてなる絶縁層である。ヒータ絶縁層74は、第2基板層2とヒータ72との間の電気的絶縁性、および、第3基板層3とヒータ72との間の電気的絶縁性を得る目的で形成されている。
【0059】
圧力放散孔75は、第3基板層3を貫通し、基準ガス導入空間43に連通するように設けられてなる部位であり、ヒータ絶縁層74内の温度上昇に伴う内圧上昇を緩和する目的で形成されてなる。
【0060】
また、センサ素子101は、
図1,2に示すように、一部が多孔質保護膜91により被覆されている。多孔質保護膜91は、センサ素子101の6個の表面のうち5面にそれぞれ形成された多孔質保護膜91a〜91eを備えている。多孔質保護膜91aは、センサ素子101の上面の一部を被覆している。多孔質保護膜91bは、センサ素子101の下面の一部を被覆している。多孔質保護膜91cは、センサ素子101の左面の一部を被覆している。多孔質保護膜91dは、センサ素子101の右面の一部を被覆している。多孔質保護膜91eは、センサ素子101の前端面の全面を被覆している。なお、多孔質保護膜91a〜91dの各々は、自身が形成されているセンサ素子101の表面のうち、センサ素子101の前端面から後方に向かって距離L(
図2参照)までの領域を全て覆っている。また、多孔質保護膜91aは、外側ポンプ電極23が形成された部分も被覆している。多孔質保護膜91eは、ガス導入口10も覆っているが、多孔質保護膜91eが多孔質体であるため、被測定ガスは多孔質保護膜91eの内部を流通してガス導入口に到達可能である。多孔質保護膜91は、センサ素子101の一部(センサ素子101の前端面から距離Lまでの部分)を被覆して、その部分を保護するものである。多孔質保護膜91は、例えば被測定ガス中の水分等が付着することによる熱衝撃でセンサ素子101にクラックが生じるのを抑制する役割を果たす。また、多孔質保護膜91aは、被測定ガスに含まれるオイル成分等が外側ポンプ電極23に付着するのを抑制して、外側ポンプ電極23の劣化を抑制する役割を果たす。なお、距離Lは、ガスセンサ100においてセンサ素子101が被測定ガスに晒される範囲や、外側ポンプ電極23の位置などに基づいて、(0<距離L<センサ素子の長手方向の長さ)の範囲で定められている。
【0061】
なお、本実施形態では、
図1に示すように、センサ素子101は前後方向の長さと、左右方向の幅と、上下方向の厚さとがそれぞれ異なっており、長さ>幅>厚さとなっている。また、距離Lはセンサ素子101の幅及び厚さよりも大きい値であるものとした。そのため、多孔質保護膜91a〜91eのうち、多孔質保護膜91a,91bの形成面積(=距離L×センサ素子101の幅)が最も広く、次に多孔質保護膜91c,91dの形成面積(=距離L×センサ素子101の厚さ)が広く、多孔質保護膜91eの形成面積(=センサ素子101の幅×厚さ)が最も狭い。
【0062】
多孔質保護膜91は、アルミナを主成分とする多孔質焼結体からなるものである。また、多孔質保護膜91には、ジルコニア成分を含んでいてもよい。特に限定するものではないが、多孔質保護膜91の気孔率は例えば10%〜60%である。また、多孔質保護膜91の膜厚t(
図2参照)は例えば300μm〜700μmとすることが好ましい。なお、多孔質保護膜91a〜91eの膜厚tはそれぞれ異なっていてもよいが、いずれの膜厚tも300μm〜700μmの範囲内にあることが好ましい。
【0063】
次に、こうしたガスセンサ100の製造方法について、
図3を用いて以下に説明する。
図3は、ガスセンサ100の製造工程図である。ガスセンサ100の製造方法は、(a)センサ素子101を用意する工程と、(b)ゲルキャスト法で未焼成キャップ191を作製する工程と、(c)センサ素子101の外側ポンプ電極23を含む先端部位を未焼成キャップ191の凹み部に挿入したあと乾燥することによりグリーン構造体102を得る工程と、(d)グリーン構造体102を焼成することによりガスセンサ100を得る工程と、を含む。
【0064】
工程(a)では、
図3(a)に示すセンサ素子101を製造する。まず、6枚の未焼成のセラミックスグリーンシートを用意する。セラミックスグリーンシートは、ジルコニアを含むセラミックス粒子と有機バインダーと有機溶剤とを混合し、テープ成形により作製することができる。セラミックス粒子としては、安定化剤のイットリアを4mol%添加したジルコニア粒子(安定化ジルコニア粒子とも称する)を用いることができる。そして、第1基板層1と、第2基板層2と、第3基板層3と、第1固体電解質層4と、スペーサ層5と、第2固体電解質層6のそれぞれに対応して、各セラミックスグリーンシートに電極や絶縁層、抵抗発熱体等のパターンを印刷する。各種のパターンを形成したあと、各グリーンシートを乾燥する。その後、それらを積層して積層体とする。こうして得られた積層体は、複数個のセンサ素子101を包含したものである。その積層体を切断してセンサ素子101の大きさに切り分け、所定の焼成温度で焼成して、センサ素子101を得る。複数のグリーンシートを積層してセンサ素子101を製造する方法は公知であり、例えば特開2009−175099号公報,特開2012−201776号公報などに記載されている。なお、工程(a)では、センサ素子101を製造する代わりに、製造済みのセンサ素子101を用意してもよい。また、工程(a)では、焼成後のセンサ素子101のうち層1〜6の表面をサンドブラストなどで荒らすことで、センサ素子101の表面の算術平均粗さRaを2.0μm〜5.0μmとしてもよい。センサ素子101の表面のうち少なくとも工程(c)で多孔質保護膜91を形成する領域の算術平均粗さRaを2.0〜5.0μmとしておくことで、多孔質保護膜91とセンサ素子101の表面とが密着しやすくなる。
【0065】
工程(b)では、まず、所定の成形型110の矩形凹部112の予め定められた位置にセンサ素子101を模した中子201の先端部位を位置決めする(
図3(b)参照)。成形型110は、コップ状の型であり、成形型110を縦割りした形状の2つの半割体110a,110bを隙間なく密着させたものである。この成形型110の矩形凹部112に中子201の先端部位を配置する。その際、中子201の面積の広い2つの面が矩形凹部112を囲う面積の広い2つの面とそれぞれ平行に、かつ、中子201の面積の狭い2つの面が矩形凹部を囲う面積の狭い2つの面とそれぞれ平行になるように配置する。中子201の固定は、中子201を図示しないクランプで挟んだり図示しない粘着性のテープで貼り付けることにより行う。クランプは、金属製でもよいし、弾性素材(例えばシリコーンゴムなど)で行ってもよい。また、ゲルキャストに用いるスラリーSを用意し、このスラリーSを中子201が位置決めされた矩形凹部112へ投入し、矩形凹部112内でスラリーSをゲル化させて中子201の先端部位に未焼成キャップ191を形成する(
図3(c)参照)。その後、未焼成キャップ191が形成された中子201を成形型110から離型し、未焼成キャップ191から中子201を抜き去る(
図3(d)参照)。なお、この順番を入れ替えてもよい。このとき、成形型110は2つに割ることができるため、容易に離型作業を行うことができる。この工程(b)は、通常、大気圧、常温下で行う。成形型110や中子201の材質は、スラリーを成形型110の矩形凹部112へ注入する際に圧力を加えることがないため耐圧を考慮する必要がなく、金属(例えばアルミ、SUS等)や樹脂(例えばPP、POM等)、ガラスなどが使用可能である。離型のタイミングは、特に限定されず、ゲル化反応が十分に進行し、離型作業のハンドリングが可能な程度となっていればよい。未焼成キャップ191の乾燥方法は、特に限定されるものではなく、例えば加熱乾燥、送風乾燥などが使用可能である。なお、離型後に乾燥してもよいし、乾燥後に離型してもよいし、乾燥しながら離型を行ってもよい。また、離型性や成形治具の洗浄性の向上を考慮して、スラリーが接触する部分(例えば矩形凹部112の内面や中子201の外面、成形型110など)に潤滑剤(例えばフッ素系離型剤など)を塗布してもよい。
【0066】
ここで、スラリーについて詳説する。ゲルキャストに用いるスラリーは、セラミック粉末、焼結助剤、有機溶剤、分散剤及びゲル化剤を含むものである。
【0067】
セラミック粉末としては、ここではアルミナにジルコニア(例えばイットリア安定化ジルコニア)を添加したものを使用する。但し、セラミック粉末の材料は、センサ素子101の材料に応じて、適宜選定すればよい。例えば、センサ素子101の材料と熱膨張係数差が小さいものを選定すればよい。
【0068】
焼結助剤としては、セラミック粉末の種類に応じて適宜決めればよいが、例えば、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化珪素、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、窒化珪素、窒化アルミニウム、チタニア、スピネルの中から選ばれた1つとしてもよいし、これらの中から選ばれた2つ以上の材料を含む複合酸化物や複合窒化物としてもよい。焼結助剤の具体的な材料は、例えば、焼成温度が低温(セラミック粉末を助剤なしで焼結させる温度よりも低い温度)であってもセラミック粉末間の結合を保つ助けとなるものを選択すればよい。低温で未焼成膜中のセラミック粉末を焼成体にすることで、基体への熱によるダメージを低減することができる。また、焼結助剤としては、ガラス層を形成する成分が含まれるものや比表面積が大きくセラミック粉末の焼結を低温でも進行させるものが好ましい。
【0069】
有機溶剤としては、分散剤及びゲル化剤を溶解するものであれば特に限定されないが、例えば炭化水素系溶媒(トルエン、キシレン、ソルベントナフサ等)、エーテル系溶媒(エチレングリコールモノエチルエーテル、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート等)、アルコール系溶媒(イソプロパノール、1−ブタノール、エタノール、2−エチルヘキサノール、テルピネオール、エチレングリコール、グリセリン等)、ケトン系溶媒(アセトン、メチルエチルケトン等)、エステル系溶媒(酢酸ブチル、グルタル酸ジメチル、トリアセチン等)、多塩基酸系溶媒(グルタル酸等)などが挙げられる。このうちエステル系溶媒、特に、多塩基酸エステル(グルタル酸ジメチル等)や多価アルコールの酸エステル(トリアセチン等)等の2以上のエステル結合を有する溶媒を使用することが好ましい。
【0070】
分散剤としては、セラミック粉末を有機溶剤中に均一に分散するものであれば、特に限定されないが、例えば、ポリカルボン酸系共重合体、ポリカルボン酸塩、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、リン酸エステル塩系共重合体、スルホン酸塩系共重合体、3級アミンを有するポリウレタンポリエステル系共重合体などが挙げられる。このうち、特に、ポリカルボン酸系共重合体、ポリカルボン酸塩等を使用することが好ましい。こうした分散剤を添加することで、成形前のスラリーを、低粘度とし、且つ高い流動性を有するものとすることができる。
【0071】
ゲル化剤としては、重合可能な少なくとも2種類の有機化合物を含むものであれば、特に限定されないが、例えば、ウレタン反応が可能な2種類の有機化合物を含むものなどが挙げられる。このような2種類の有機化合物としては、イソシアネート類とポリオール類が挙げられる。イソシアネート類としては、イソシアネート基を官能基として有する物質であれば特に限定されないが、例えばイソホロンジイソシアネート(IPDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)又はこれらの変性体などが挙げられる。なお、分子内にイソシアネート基以外の反応性官能基を有していてもよく、更には、ポリイソシアネートのようにイソシアネート基を複数有していてもよい。ポリオール類としては、イソシアネート基と反応し得る水酸基を2以上有する物質であれば特に限定されないが、例えば、エチレングリコール(EG)、ポリエチレングリコール(PEG)、プロピレングリコール(PG)、ポリプロピレングリコール(PPG)、ポリテトラメチレングリコール(PTMG)、ポリヘキサメチレングリコール(PHMG)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルアセタールなどが挙げられる。分子量の大きい樹脂は、成形時のクラック発生を抑制する作用を有する。これにより、膜強度が向上する。また、弾性や可塑性が得られる。その結果、乾燥時や離型時の体積収縮によるクラックの発生を一層抑制することができる。このような樹脂をポリオール類又はイソシアネート類として一種類のみ用いてもよいし、複数種類併用してもよい。または、ウレタン反応に関与しない樹脂を添加してもよい。ゲル化剤は、重合を促進する触媒を含んでいてもよい。例えば、イソシアネート類とポリオール類とのウレタン反応を促進させる触媒としては、トリエチレンジアミン、ヘキサンジアミン、6−ジメチルアミノ−1−ヘキサノール等が挙げられる。
【0072】
スラリーを調製するに当たっては、まず、セラミック粉末、焼結助剤、有機溶剤及び分散剤を所定の割合で添加して所定時間に亘ってこれらを混合することによりスラリー前駆体を調製する。そして、スラリーを使用する直前に、そのスラリー前駆体にゲル化剤を添加して混合することによりスラリーとする。このスラリーは、数分〜数時間でゲル化する。なお、スラリー前駆体に、ゲル化剤を構成するイソシアネート類、ポリオール類、樹脂、可塑剤及び触媒のいずれか1つか2つを添加しておき、その後、スラリーを調製する際に、残りの成分を添加してもよい。スラリー前駆体を調製するときの混合方法は、特に限定されるものではなく、例えばボールミルなどが使用可能である。また、スラリーを調製するときの混合方法も、特に限定されるものではなく、例えば自公転攪拌、プロペラ式攪拌、スタティックミキサーなどが使用可能である。スラリー前駆体にゲル化剤を添加したあとのスラリーは、時間経過に伴いゲル化剤の化学反応(ウレタン反応)が進行し始めるため、速やかに成形型110内に流し込むことが好ましい。
【0073】
工程(c)では、未焼成キャップ191の凹み部191aにセンサ素子101の外側ポンプ電極23を含む先端部位を挿入し(
図3(e)参照)、そのあと乾燥することによりグリーン構造体102を得る(
図3(f)参照)。乾燥条件は、特に限定するものではないが、例えば温度60〜200℃、時間0.5〜24時間で行えばよい。これにより、未焼成キャップ191は乾燥収縮してセンサ素子101に固定される。このとき、未焼成キャップ191とセンサ素子101とのクリアランス量及びゲルキャスト法で用いたスラリーにおける分散媒(有機溶媒)の体積割合を予め調整しておけば、乾燥収縮量を適正な量に調整することができる。そのため、乾燥後に乾燥収縮量不足で未焼成キャップ191がセンサ素子101に固定できないとか、乾燥後に乾燥収縮量が大きすぎて未焼成キャップ191にクラックが発生するといった不具合を回避できる。具体的には、乾燥前の時点で、未焼成キャップ191の凹み部191aにセンサ素子101を挿入したときのクリアランス量をx[μm]、ゲルキャスト法で用いたスラリーにおける分散媒の体積割合をy[vol%]としたとき、下記式を満たすようにx,yを設定する。こうすることにより、乾燥収縮量が適正となり、未焼成キャップ191にクラックを発生させることなく未焼成キャップ191をセンサ素子101に固定することができる。
図4は、
図3(e)の平面図である。クリアランス量xは、センサ素子101の外壁と未焼成キャップ191の凹み部191aの内壁との隙間の幅である。クリアランスは、センサ素子101の全周にわたって一様の幅となるように形成される。
【0074】
0≦x≦250
y≦70
y≧0.067x+30
y≦0.1x+60
【0075】
工程(d)では、グリーン構造体102を焼成することによりガスセンサ100を得る(
図3(g)参照)。これにより、未焼成キャップ191を多孔質保護膜91にすると共に該多孔質保護膜91をセンサ素子101に焼き嵌めにより固定し、ガスセンサ100を得る。焼成温度は、焼結助剤を用いずにセラミック粉末を焼結させる温度よりも低い温度に設定する。例えば、アルミナのセラミック粉末を焼結助剤を用いずに焼結させるには約1500〜1700℃で焼成するが、ここでは焼結助剤としてジルコニアと酸化珪素を用いているため900〜1300℃で焼成する。焼成収縮や添加されている焼結助剤(例えばガラス層を形成する酸化珪素)の溶融により、センサ素子101と未焼成キャップ191中のセラミック粉末とが接着したり未焼成キャップ191中のセラミック粉末同士が接着したりして、未焼成キャップ191は多孔質保護膜91になる。焼成温度は、未焼成キャップ191に含まれる材料のほか、センサ素子101と多孔質保護膜91との焼成収縮量の差などを考慮して、最適焼成温度を設定することが好ましい。焼成温度が高すぎると、焼成収縮量が大きくなりクラックが発生しやすくなるため好ましくない。また、焼成温度が低すぎると、センサ素子101とセラミック粉末との接着やセラミック粉末同士の接着が不十分になるため好ましくない。
【0076】
ここで、本実施形態の構成要素と本発明の構成要素との対応関係を明らかにする。本実施形態のガスセンサ100が本発明の膜接合構造体に相当し、センサ素子101がセラミック基体に相当し、未焼成キャップ191が未焼成体に相当し、多孔質保護膜91が膜に相当する。
【0077】
以上詳述した本実施形態のガスセンサ100の製法によれば、工程(c)でx,yを上記式を満たすように設定することにより乾燥時に未焼成キャップ191の乾燥収縮量が適正な量となるため、未焼成キャップ191をクラックのない状態でセンサ素子101に固定することができる。また、工程(d)の焼成後においては、焼き嵌めにより多孔質保護膜91をクラックのない状態でセンサ素子101に固定することができる。この工程(d)では、助剤の作用により比較的低温で未焼成キャップ191を焼成して多孔質保護膜91にすることができ、この点でも多孔質保護膜91にクラックが生じにくい。更に、予め成形型などを用いて膜前駆体を成形した上で一体化して膜を形成するため、特許文献1のようなディップ法に比べて、最終的に得られる多孔質保護膜91の厚みを一定にすることができる。多孔質保護膜91は、厚みが100〜1000μmの厚膜にすることができる。
【0078】
また、中子201のサイズを調整することで、工程(c)の乾燥前の時点でのクリアランス量xを任意の値に設置することができる。
【0079】
更に、成形型110は成形型110を2つに分割した半割体110a,110bを隙間なく密着させたものとしたため、未焼成キャップ191を成形型110から離型する際、成形型110を分割すれば離型作業を容易に行うことができる。
【0080】
更にまた、センサ素子101は表面に金属部分である外側ポンプ電極23が露出しているが、スラリーの分散媒として水ではなく有機溶媒を使用しているため、その金属部分が酸によって腐食するおそれがない。
【0081】
そしてまた、ガスセンサ100は上述した製法によって製造されたものであるため、多孔質保護膜91の最表面部分の気孔率は断面内部に比べて気孔率が高いものの、断面内部の気孔率は概ね同じになる。
【0082】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0083】
例えば、上述した実施形態では、
図3(b)〜(c)に示すように、空の状態の矩形凹部112に中子201の先端部位を配置したあと矩形凹部112にスラリーSを加えたが、矩形凹部112にスラリーSを入れたあとそのスラリーS内に中子201の先端部位を配置してもよい。
【0084】
上述した実施形態では、距離Lはセンサ素子101の幅及び厚さよりも大きい値であるものとしたが、これに限られない。例えば距離Lがセンサ素子101の幅と厚さとの少なくとも一方より小さくてもよい。
【0085】
上述した実施形態では、中子201は成形型110と別体としたが、成形型110と一体化されていてもよい。
【0086】
上述した実施形態では、成形型110は成形型110を2つに縦割りした形状の半割体110a,110bを隙間なく密着させたものとしたが、成形型110を3つ以上に縦割りした形状の分割体を隙間なく密着させたものとしてもよい。また、分割方向や分割位置も特に限定されるものではなく、欠損なく離型できる方向や位置であればよい。
【0087】
上述した実施形態では、成形型110は矩形凹部112を有するものとしたが、特にこの形状に限定するものではない。例えば、成形型110には、一つの流入口から枝分かれし多個取りするようなランナーやゲート、ベントが備えられていてもよい。また、離型が容易となるようにテーパがついていてもよい。
【0088】
上述した実施形態では、未焼成キャップ191は凹み部191aを有するものとしたが、凹み部191aの代わりに、凹み部191aの底面を貫通させた貫通孔を有するものとしてもよい。この場合、貫通孔にセンサ素子101が差し込まれることになる。
【0089】
上述した実施形態の矩形凹部112や中子201の形状を変更すれば、膜厚や表面状態(例えば粗さ、うねり)、内部形状を制御した多孔質保護膜を形成することも可能である。例えば、多孔質保護膜91の角に丸みを持たせたり境界部分(
図1で多孔質保護膜91の後部端面)の角度を自由に設定したりすることができる。
【0090】
上述した実施形態では、ガスセンサ100のセンサ素子101は第1内部空所20,第2内部空所40を備えるものとしたが、これに限られない。例えば、さらに第3内部空所を備えていてもよい。この場合の変形例のガスセンサ100の断面図を
図5に示す。
図5では、
図2と同じ構成要素については同じ符号を付した。
図5に示すように、この変形例のガスセンサ100では、測定電極44が第4拡散律速部45で被覆されていない。代わりに、補助ポンプ電極51と測定電極44との間には、第3拡散律速部30と同様の第4拡散律速部60が形成されている。これにより、第2内部空所40と、第4拡散律速部60と、第3内部空所61とが、この順に連通する態様にて隣接形成されており、ガス流通部の一部を構成している。そして、補助ポンプ電極51は第2内部空所40内に配設されており、測定電極44は第3内部空所61に面する第1固体電解質層4の上面に配設されている。この変形例のガスセンサ100は、第4拡散律速部60が
図2の第4拡散律速部45と同様の働きをするため、上述した実施形態と同様に被測定ガス中のNOx濃度を検出することができる。また、この変形例のガスセンサ100も、上述した実施形態と同様の構成や製造方法を採用することで、上述した実施形態と同様の効果が得られる。
【実施例】
【0091】
以下には、ガスセンサ100を具体的に作製した例を説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0092】
[実施例1]
実施例1として、上述した実施形態の製法により、ガスセンサ100を作製した。まず、工程(a)では、前後方向(長手方向)の長さが70mm、左右方向の幅が4mm、上下方向の厚さが1.5mmのセンサ素子101を作製した。このセンサ素子101の長手方向の両端の端面は1.5mm×4mmの長方形である。なお、センサ素子101を作製するにあたり、セラミックスグリーンシートは、安定化剤のイットリアを4mol%添加したジルコニア粒子と有機バインダーと有機溶剤とを混合し、テープ成形により成形した。
【0093】
次に、工程(b)では、分散媒として有機溶剤を用いるゲルキャスト法で未焼成キャップ191を形成した。ここでは、成形型110として、矩形凹部112に中子201を配置したときに未焼成キャップ191の前後方向の長さが12mm、厚みが450μmとなるように設計したものを用いた。センサ素子101の固定は、金属ではなくシリコーンゴムを介して把持することにより行った。中子201としては、未焼成キャップ191をセンサ素子101に被せたときに未焼成キャップ191の内周面とセンサ素子101の外周面との間に50μm程度の隙間が空くようなサイズのものを用いた。スラリーSは、以下のようにして調製した。アルミナ粉末(平均粒径2μm,純度99.9%)71質量部とジルコニア(平均粒径0.3μm,純度90%)16質量部との混合粉末に、焼結助剤(ガラス層を形成する成分)として酸化珪素を2質量部添加した。これらを、有機溶剤として多塩基酸エステルを32質量部、分散剤としてポリカルボン酸系共重合体を4質量部、ポリオール類としてエチレングリコールを0.9質量部混合した混合液へ投入した。その混合液を玉石と共にポットに入れ、12時間混合し、スラリー前駆体とした。このスラリー前駆体に、イソシアネート類としてポリメチレンポリフェニルポリイソシアネートをスラリー前駆体に対して5体積%添加し、更に、触媒として6−ジメチルアミノ−1−ヘキサノールを0.1質量部を添加し、自公転式撹拌機で90秒混合し、スラリーSを得た。このスラリーSを矩形凹部112に注入し、1時間経過後、離型可能な程度まで硬化し、未焼成キャップ191とした。
図6は、成形型110と未焼成キャップ191との境界付近の様子を示した模式図である。
図6では、粒径の大きなアルミナ粒子の間に粒径の小さなジルコニア粒子が入り込み、更にこれらの粒子の隙間にはゲル化剤の硬化物が充填されていた。この
図6から、成形型110によって未焼成キャップ191の表面形状が制御できていることがわかる。その後、成形型110を2つに分割して未焼成キャップ191の離型作業を行うと共に未焼成キャップ191から中子201を引き抜いた。
【0094】
次に、工程(c)では、未焼成キャップ191の凹み部191aにセンサ素子101の外側ポンプ電極23を含む先端部位を挿入したあと、80℃で12時間乾燥することによりグリーン構造体102を得た。これにより、未焼成キャップ191は乾燥収縮してセンサ素子101に固定された。このとき、未焼成キャップ191とセンサ素子101とのクリアランス量は中子201で規定されたクリアランス量と同じ50μm、ゲルキャスト法で用いたスラリーにおける有機溶媒の体積割合は55vol%であった。
【0095】
次に、工程(d)では、グリーン構造体102を焼成することによりガスセンサ100を得た。具体的には、グリーン構造体102をセッターに並べ、100℃/hrで所定温度(1100℃)まで昇温し、その温度で2時間保持したあと室温まで自然冷却した。これにより、未焼成キャップ191は多孔質保護膜91になり、多孔質保護膜91は焼き嵌めによりセンサ素子101に固定された。多孔質保護膜91は前後方向の長さが12mm、厚みが450μmであった。
【0096】
[比較例1]
最初に、ディップ用のスラリーを作成した。このスラリーは焼成後に多孔質保護膜となるものである。まず、アルミナ粉末(平均粒径2μm、純度99.9%)44質量部とジルコニア(平均粒径0.3μm、純度90%)49質量部との混合粉末に、焼結助剤(ガラス層を形成する成分)として酸化珪素を7質量部添加した。これらに、有機溶媒としてキシレン/ブタノール混合液を24質量部、分散剤としてポリカルボン酸系重合体を4質量部添加した。更に、レオロジーコントロール剤を添加し、せん断速度0.1sec
-1の時の粘度が30〜50万cPとなるように調整した。次に、ディップ用のスラリーに実施例1と同様のセンサ素子をディッピングすることにより、センサ素子表面に未焼成膜を形成した。未焼成膜の前後方向(長手方向)の長さは、実施例1と同様、12mmとした。また、センサ素子をスラリーから引き抜くときの引き抜き速度は1mm/secとし、引き抜き方向は鉛直方向とした 次に、未焼成膜を形成したセンサ素子を乾燥炉を用いて80〜90℃で15分×2回乾燥し、未焼成膜を乾燥させた。乾燥時には、センサ素子のうち未焼成膜が形成された部分を鉛直下向きになるようにした。次に、未焼成膜を焼成した。焼成条件は、実施例1と同じであるため、説明を省略する。このようにして、比較例1のガスセンサを得た。比較例1のガスセンサの多孔質保護膜は、前後方向の長さが12mm、厚みが450μmであった。
【0097】
[多孔質保護膜の厚みのバラツキ]
実施例1のガスセンサ100につき、多孔質保護膜91の膜厚を調べた。
図7はガスセンサ100の説明図であり、(a)は
前面図、(b)は
上面図である。
図7に示すように、センサ素子101の長手方向の両端面(長方形)の互いに向かい合う長辺の中点を結んだ線CLに沿ってガスセンサ100を切断した。
図8はその断面図である。切断面において、多孔質保護膜91の長手方向の長さをX(=12mm)とし、多孔質保護膜91の両端からX/6(=2mm)だけ内側に入った点とその2つの点を結んだ線分(基準線)を4等分する3つの点の合計5点を測定位置MPとした。ここでは、隣合う測定位置MPの間隔は2mmであった。
図9は一つの測定位置MPの周辺の断面拡大図である。
図9に示すように、測定位置MPで基準線と直交する垂線を引き、多孔質保護膜91の表面からセンサ素子101の表面までの垂線の長さを膜厚dとした。各測定位置MPにおける膜厚dの値を表1に示す。表1では、前端(
図8で左側)から後端に向かって2mmおきに並んだ5つの測定位置MPをその順にMP1,MP2,……,MP5と表記した。また、daveは算術平均膜厚を表し、σは標準偏差を表すものとした。比較例1のガスセンサについても、同様にして多孔質保護膜の膜厚を調べた。その結果を表1に併せて示した。表1から明らかなように、実施例1では各測定位置MP(MP1〜MP5)の膜厚dは430〜450μm、標準偏差σは7であり、膜厚dのバラツキは非常に小さかった。これに対して、比較例1では膜厚dは330〜550μm、標準偏差σは85であり、膜厚dのバラツキは大きかった。
図10は、実施例1及び比較例1のガスセンサを5本ずつ作製し、それらの膜厚dを測定してグラフ化したものである。
図10から明らかなように、実施例1では比較例1に比べて平均膜厚dave(
図10で菱形マーク)は同等であったが、ガスセンサの個体間のバラツキ(
図10で上下に延びる線分の長さ)は非常に小さかった。
【0098】
【表1】
【0099】
[工程(c)の乾燥前の時点でのクリアランス量と分散媒濃度との関係]
実施例1と同様にして多数のガスセンサ100を製造した。但し、工程(c)では、乾燥前の時点で、未焼成キャップ191の凹み部191aにセンサ素子101を挿入したときのクリアランス量をx[μm]、ゲルキャスト法で用いたスラリーにおける分散媒(有機溶媒)の体積割合をy[vol%]とし、x,yが表2に示す関係となるようにした。そして、80℃で12時間乾燥した後の未焼成キャップ191の様子を観察した。その結果を表2に示す。また、
図11は、表2をグラフ化したものである。
【0100】
【表2】
【0101】
図11から明らかなように、x,yが下記式を満たす場合に、乾燥収縮量が適切であり、未焼成キャップ191をクラックのない状態でセンサ素子101にしっかりと固定することができた。
【0102】
0≦x≦250
y≧0.067x+30
y≦0.1x+60
y≦70