【実施例】
【0019】
以下本発明の一実施例による車両走行制御装置について説明する。
図1は本実施例による車両走行制御装置を示す概略構成図である。
本実施例による車両走行制御装置は、自車両計測手段1、障害物計測手段2、自車両情報入力手段3、制御手段4、経路情報記憶手段5、運転行動記憶手段6、および自車両走行手段7を備えている。
自車両計測手段1は、自車両に搭載したセンサーを用いて、例えば自車両の速度、ステアリング角、および道路の白線位置等を計測する。
障害物計測手段2には、例えば複数個のレーザーを内蔵して水平全方位と垂直視野が30度程度の三次元イメージングが可能なレーザー送受信センサーを用いることができる。レーザー送受信センサーは、三次元の点群データを取得するもので、観測点の距離と方向を計測でき障害物の位置を計測する。
自車両情報入力手段3は、自車両の全長および全幅に関するデータを入力することができる。
制御手段4は、自車両計測手段1、障害物計測手段2、および自車両情報入力手段3からのデータに基づいて自車両の走行を制御する。
経路情報記憶手段5は、目的地の位置等に関する情報である目的地情報51、交差点等に設けられた一時停止箇所に関する情報である一時停止情報52、各経路に規定されている制限速度に関する情報である制限速度情報53、および走行車線の幅長に関する情報である経路幅情報54が記憶されている。
運転行動記憶手段6は、優先車両等の障害物の位置や向き等を判断して自車両の車線変更を許可する車線変更許可情報61、および交差点進入許可情報62が記憶されている。
自車両走行手段7は、例えば駆動機構、減速機構、および操舵機構などの車両走行に必要な機構である。
【0020】
ここで、
図2は、階層型軌道生成手法の説明図である。階層型軌道修正手法とは、複雑な軌道生成をハイレベル、ミドルレベル、ローレベルの三つの階層に分け、それぞれの階層に役割分担させることで軌道生成を単純化するものである。
図2(a)に示すように、ハイレベルの階層81では、目的地情報51、一時停止情報52、制限速度情報53、および経路幅情報54を取得して経路情報を作成し、下の階層であるミドルレベルの階層82に渡す。
図2(b)に示すように、ミドルレベルの階層82では、ハイレベルの階層81から受け取った経路情報を用いて、車線変更許可情報61、および交差点進入許可情報62を判断して運転行動を作成し、下の階層であるローレベルの階層83に指示する。
図2(c)に示すように、ローレベルの階層83では、ハイレベルの階層81が作成した経路情報と、ミドルレベルの階層82から指示された運転行動とに基づいて、制御手段4が、実際に自車両Aを誘導するための車線変更軌道、障害物Cの回避軌道または停止軌道といった複数パターンの軌道を生成し、その複数パターンの軌道の中から衝突を回避しつつ乗り心地のよい軌道を選択して自車両走行手段7を制御する。
【0021】
図1において、制御手段4は、自車両データ読み込み部401、自車両位置判断部402、距離判断部403、センターライン設定部404、障害物データ読み込み部405、障害物判断部406、走行許可寸法算出部407、センターライン変更部408、自車両走行制御部409、衝突判定枠設定部410、枠幅変更部411、および速度設定部412を有している。
自車両位置判断部402では、自車両データ読み込み部401で読み込まれた自車両Aに関する計測データから自車両Aの位置を判断する。自車両位置判断部402で判断された自車両Aの位置に関するデータは、距離判断部403およびセンターライン設定部404に送出される。
障害物判断部406では、障害物データ読み込み部405で読み込まれた障害物Cに関する計測データから障害物Cの位置および大きさを判断する。障害物判断部406で判断された障害物Cの位置および大きさに関するデータは、距離判断部403および走行許可寸法算出部407に送出される。
距離判断部403では、自車両Aの走行位置から障害物Cまでの距離を判断する。距離判断部403が判断した距離に関するデータは、センターライン変更部408に送出される。
センターライン設定部404では、自車両Aの走行位置の経路の幅に関する情報を経路幅情報54から取得し、取得した経路幅内に、自車両Aが走行する基準となるセンターラインを設定する。センターライン設定部404が設定したセンターラインに関するデータは、走行許可寸法算出部407、センターライン変更部408、および自車両走行制御部409に送出される。
走行許可寸法算出部407では、センターライン設定部404が設定したセンターラインから障害物Cまでの走行許可寸法を算出する。走行許可寸法算出部407が算出した走行許可寸法に関するデータは、センターライン変更部408および枠幅変更部411に送出される。
衝突判定枠設定部410では、自車両Aの車両幅両側方に最小マージンを付加して最小枠幅を設定する。衝突判定枠設定部410が設定した最小枠幅に関するデータは、センターライン変更部408および枠幅変更部411に送出される。
センターライン変更部408では、衝突判定枠設定部410で設定した最小枠幅の片側最小枠幅が、走行許可寸法算出部407で算出した走行許可寸法より大きい場合に、走行許可寸法が片側最小枠幅以上となるようにセンターライン設定部404が設定したセンターラインを変更する。
枠幅変更部411では、自車両Aの走行位置の経路の幅に関する情報を経路幅情報54から取得し、その経路幅に応じて衝突判定枠設定部410が設定した枠幅を変更する。また、走行許可寸法算出部407で算出した走行許可寸法に応じて衝突判定枠設定部410が設定した枠幅を変更する。
速度設定部412では、枠幅変更部411が変更した枠幅に応じて、自車両Aの走行速度を設定する。
自車両走行制御部409では、センターライン設定部404が設定したセンターラインまたはセンターライン変更部408により変更されたセンターラインと、速度設定部412が設定した走行速度に応じて自車両Aの走行制御を行う。自車両走行制御部409における走行制御データは自車両走行手段7に送出される。
【0022】
図3は本実施例による車両走行制御装置の制御方法を示すフローチャートである。
本実施例による車両走行制御装置は、衝突判定枠設定部410が自車両情報入力手段3で入力された自車両Aの全長および全幅に関するデータに基づいて、衝突判定枠を設定する(ステップ1)。衝突判定枠は、自車両Aのサイズに少なくとも車両幅両側方に最小マージンを付加したサイズを最小枠幅とする。
経路情報記憶手段5に記憶された経路幅情報54を取得して、ステップ1で設定された衝突判定枠の幅を経路幅に応じて変更する(ステップ2)。
ステップ2で変更した衝突判定枠の幅に基づいて自車両Aの走行速度を設定する(ステップ3)。
自車両走行制御部409では、ステップ3で設定した走行速度に関するデータを参照して自車両Aの走行制御を行う(ステップ4)。
一方、自車両データ読み込み部401では、自車両計測手段1が定期的に取得する自車両Aの速度、ステアリング角、および道路の白線位置等のデータを取り込む(ステップ5)。
ステップ5で取り込んだデータから、自車両位置判断部402が自車両Aの走行位置を判断する(ステップ6)。
ステップ6で判断した自車両Aの走行位置と経路幅情報54とに基づいて、自車両Aが走行する基準となるセンターラインを経路幅内に設定する(ステップ7)。その後にステップ4に移行する。
また一方、障害物データ読み込み部405では、障害物計測手段2が定期的に取得する三次元の点群データを取り込む(ステップ8)。
ステップ8で取り込んだデータから、障害物判断部406は自車両Aの走行経路中に障害物Cが存在するか否かを判断する(ステップ9)。
ステップ9において障害物Cが存在しないと判断した場合には、ステップ4に移行する。
ステップ9において障害物Cが存在すると判断した場合には、障害物Cの位置と大きさを判断する(ステップ10)。
ステップ10で判断した障害物Cの位置と大きさに基づいて、障害物Cがセンターラインより一方の側方にのみ位置するか否かを判断する(ステップ11)。
ステップ11において障害物Cがセンターラインより一方の側方にのみ位置すると判断した場合には、ステップ7で設定したセンターラインに関するデータと、ステップ10で判断した障害物Cの位置と大きさに関するデータとに基づいて、センターラインから障害物Cまでの走行許可寸法を算出する(ステップ12)。
ステップ11において障害物Cがセンターラインより一方の側方だけでなく他方の側方にも位置すると判断した場合、つまり障害物Cとして、センターラインの一方に位置する第1障害物と、第1障害物より遠方にあってセンターラインの他方に位置する第2障害物を判断した場合には、距離判断部403では、自車両Aの走行位置から第1障害物までの第1距離と、自車両Aの走行位置から第2障害物までの第2距離とを判断し、第2距離から第1距離を減じた障害物間距離が、閾値以上か否かを判定する(ステップ13)。
ステップ13において障害物間距離が閾値以上と判断された場合は、ステップ12となる。
ステップ12で算出した走行許可寸法が、衝突判定枠設定部410が設定した衝突判定枠の最小枠幅の片側最小枠幅よりも大きいか否かを判断する(ステップ14)。
ステップ14において走行許可寸法が片側最小枠幅よりも大きいと判断した場合は、ステップ2に移行し、走行許可寸法に応じて、衝突判定枠の幅を変更する。
ステップ14において走行許可寸法が片側最小枠幅よりも小さいと判断した場合は、走行許可寸法が片側最小枠幅以上となるようにセンターラインを変更する(ステップ15)。その後にステップ4に移行する。
ステップ13において障害物間距離が閾値未満と判断された場合は、複数のオフセットパターンを生成し、衝突判定枠Xを用いて各オフセットパターンに対して最初に衝突する障害物Cを判断する。そして最初に衝突すると判断した障害物Cを先行車として決定する(ステップ16)。なお、ここで用いる衝突判定枠Xの枠幅は最小枠幅とする。
ステップ16で決定した先行車と生成した複数のオフセットパターンとに基づいて、安全かつ滑らかに障害物Cの手前で停止する軌道となるオフセットを決定する(ステップ17)。その後にステップ4に移行する。
【0023】
ここで、
図4および
図5を用いて、本発明の車両走行制御装置による衝突判定枠と走行速度の設定について説明する。
図4(a)に示すように本実施例においては、自車両Aに設定する衝突判定枠Xは矩形とする。衝突判定枠Xは、車両幅両側方と車両長前後方にそれぞれ最小マージン(本実施例では0.3m)を付加したものを最小枠幅としている。
図4(b)に示すように、衝突判定枠Xは他車両等の障害物Cと衝突する可能性を判断するために用いられる。時刻t
1またはt
2後に衝突判定枠Xが他車両Cと少なくとも一部が重なると予測される場合、つまり同時刻に同位置に自車両Aと他車両Cが存在する場合は衝突可能性ありと判断される。
衝突判定枠Xの枠幅は、走行位置における経路幅や、障害物Cの横を通り抜ける際の自車両Aの側面から障害物Cまでの距離(許容横幅)に応じて、車両幅両側方のみマージンの更なる付加が許可され、本実施例では両側方それぞれの枠幅の最大マージンは0.3m+δ
maxとなる。
図5(a)に示すように本実施例においては、衝突判定枠Xの枠幅が小さいほど障害物Cの横を通る際の自車両Aの走行速度を遅く、衝突判定枠Xの枠幅が大きいほど障害物Xの横を通る際の自車両Aの走行速度を速く設定する。
図5(b)のように経路(走行車線)内のセンターラインYを自車両Aが通る場合は、車両幅両側方にマージンを付加して広げた衝突判定枠Xの枠幅を経路幅W以下としている。センターラインYは、自車両Aが走行する際に基準とするライン(走行ライン)であり、本実施例においては経路幅Wの中心をセンターラインYとしている。衝突判定枠Xの枠幅を広げることで走行速度を上げて走行できるとともに、衝突判定枠Xを経路幅Wに収まる大きさとするようにδ
maxを設定することで、経路外の物体を障害物Cと誤検知して自車両Aが減速や回避行動をとることを防止できる。
図5(c)のように障害物Cを右回避するためにセンターラインYを外れて自車両Aが走行する場合は、車両幅両側方にマージンを付加して広げた衝突判定枠Xの枠幅が、障害物Cの右横を通る際において左右それぞれ経路幅Wの半分となるようにδ
maxの大きさを設定している。ここで
図5(d)は、経路幅Wが特に狭い経路において障害物Cを右回避する状態を示している。衝突判定枠Xの枠幅を経路幅W以下とする設定では、この狭い経路では衝突判定枠Xの枠幅も狭くなるので、もしこの枠幅のまま右回避した場合には障害物Cの横を通り抜ける際の自車両Aの側面から障害物Cまでの距離(許容横幅)が近いにもかかわらず減速しないという結果になってしまう。そこで
図5(c)のように障害物Cを回避する場合には、衝突判定枠Xの枠幅が左右それぞれ経路幅Wの半分となるようにδ
maxの大きさを変更することで、経路幅Wが狭い経路で障害物Cの横を通る際の走行速度の出し過ぎを防ぐことができる。
なお、
図5(c)に示す右回避において、自車両Aの右側の衝突判定枠Xは経路からはみ出す大きさとしているが、自車両Aの左側の衝突判定枠Xは経路からはみ出さないように制限している。これは経路外の物体を障害物Cと誤検知して自車両Aが減速や回避行動をとるのを防止するためである。
このように衝突判定枠Xの枠幅を状況に応じて変更し、その枠幅に応じて自車両Aの走行速度を設定することで、
図5(b)のように許容横幅が小さい場合にはゆっくりと、
図5(c)のように許容横幅が大きい場合には速度を緩めることなく障害物Cの横を通り抜けることができるので、状況に応じた安全かつ滑らかな走行を実現できる。
【0024】
図6を用いて、本発明の車両走行制御装置によるセンターラインYの変更(センターラインYの補正)について説明する。
図6はセンターラインYの変更方法の説明図である。
図6(a)において、自車両Aは二車線のうちの左側の走行車線を走行している。自車両の現在の走行位置はA1であり、t秒後の走行予測位置はA2である。経路内の前方には障害物C1、障害物C2、障害物C3が存在する。この状態においては自車両Aの衝突判定枠Xの枠幅は経路幅W以下に設定している。
時刻t以内(例えば6秒以内)の経路内に障害物C1、C2またはC3が存在するか否かを、衝突判定枠Xを用いて障害物判断部406で判断する。
障害物判断部406において時刻t以内の経路内に障害物C1、C2またはC3が存在しないと判断した場合には、自車両AはセンターラインYに沿ってそのまま走行する。
障害物判断部406において、時刻t以内の経路内に障害物C1、C2またはC3が存在すると判断した場合には、複数のオフセットパターンを生成し、衝突判定枠Xを用いて各オフセットパターンに対して最初に衝突する障害物C1、C2またはC3を判断する。そして最初に衝突すると判断した障害物C1、C2またはC3を先行車として決定する。なお、ここで用いる衝突判定枠Xの枠幅は最小枠幅とする。
先行車を決定すると、センターラインY(オフセットパターン83)の先行車C2を基準として、その先行車C2よりも前に存在する障害物C3との距離Dが閾値D
thr以上か否かを判断する。
図6(b)に示すように、先行車C2とその前の障害物C3との距離Dが閾値D
thr以上の場合は、先行車C2とその前の障害物C3との間を自車両Aが縫って行くように、センターラインYが変更される。例えば、オフセットパターン81および82の平均値として第1の変更センターラインY1を設定する。第1の変更センターラインY1はセンターラインYよりも右側に位置するので、自車両Aを第1の変更センターラインY1に沿って走行させることでまず先行車C2を回避することができる。先行車C2を回避した後は、新たな変更センターラインを障害物C3の左側に設定することによって、左に回避して障害物C3の左側を通り抜けることができる。
図6(c)および
図6(d)は、先行車C2とその前の障害物C3との距離Dが閾値D
thr未満の場合を示している。
図6(c)に示すように、距離Dが閾値D
thr未満かつ0以上の場合は、先行車C2とその前の障害物C3との間を自車両Aがすり抜けることは不可と判断され、障害物C1、C2、またはC3の手前で止まるようにオフセットが変更される。例えば、障害物C2が先行車となるオフセットパターン83(センターラインYを直進)および84(左回避)のときには、障害物C2の手前で停止させ、障害物C1が先行車となるオフセットパターン85(オフセットパターン84よりも大きく左回避)のときには、障害物C1の手前で停止させる。また、障害物C3が先行車となるオフセットパターン81(右回避)および82(オフセットパターン81よりも大きく右回避)のときには、オフセットパターン82、83、84および85の平均値として第2の変更センターラインY2を設定し、自車両Aを第2の変更センターラインY2に沿って走行させることでまず障害物C2を回避して、その後に障害物C3の手前で停止することができる。
また、
図6(d)に示すように、先行車C2とその前の障害物C3との距離Dが0未満の場合は、センターラインの補正値は0、つまり変更センターラインを設定しない。この場合において、障害物C2が先行車となるオフセットパターン83および84のときには障害物C2の手前で停止させ、障害物C1が先行車となるオフセットパターン85のときには障害物C1の手前で停止させ、障害物C3が先行車となるオフセットパターン81および82のときには障害物C3の手前で停止させる。
【0025】
図7を用いてオフセットパターンの生成について説明する。
軌道の定義は次式(1)で表される。
【数1】
ここで、tは媒介変数である。
ハイレベルの階層81から、センターラインYの位置情報と方位の情報をミドルレベルの階層82を経由してローレベルの階層83に送る。ローレベルの階層83では、ミドルレベルの階層82から送られてきた経路情報に基づいて、例えば
図7(a)に示すように、時刻t
1、t
2、t
3、t
4後の位置s(t
1)、s(t
2)、s(t
3)、s(t
4)を目標とする走行距離パターンs(t)を生成する。また、生成した走行距離パターンの各位置点から経路の法線方向にどれだけのオフセットをもって自車両Aを走行させるかという、オフセット指示を与えるオフセットパターンd(t
1)、d(t
2)、d(t
3)、d(t
4)を生成する。この二つのパターンの組み合わせによって一本の軌道が生成される。
例えば、
図7(b)に示すように、ハイレベルの階層81からのs(t
4)までの走行指示に対し、それよりも所定距離手前かつオフセットをもたせて自車両Aを走行させることができる。
また、
図7(c)に示すように、左回避ではなく、右回避を行うようにオフセットパターンd(t
1)、d(t
2)、d(t
3)、d(t
4)を生成することもできる。
走行距離パターンとオフセットパターンは、
図7(d)に示すように、それぞれ25パターン生成することで、合計625パターンの軌道を生成する。この625パターンの軌道の中から障害物Cとの衝突が発生しない軌道を選択し、その衝突が発生しない軌道の中から自車両Aの乗員が最も乗り心地のよい滑らかな軌道を選択する。
【0026】
図8は、オフセットパターンの生成を説明する図である。横軸は時間t[sec]、縦軸はオフセット量d[m]である。
オフセットパターンは、次式(2)の5次多項式で表される。
【数2】
式(2)は六つのパラメータから生成する。境界条件が二つあり、初期状態の境界条件は前時刻のパターンにおける最近傍点の二階微分値まで取得する。目標状態の境界条件は任意に定め二階微分値まで取得する。この二つの境界条件を結ぶことによって連続的な軌道を生成できる。この目標状態のオフセットパターンを、右または左に回避するパターンなど5パターン生成し、オフセットを終了する時刻も5パターン生成することによって、障害物Cを早めに避ける軌道や滑らかに避ける軌道を生成できる。また、目標状態の一階微分値と二階微分値は0とすることによって、オフセットを終了するときには経路に対して自車両Aが平行になるようにすることができる。
【0027】
また、
図9は自車両Aが低速時のオフセットパターンを示す図であり、
図9(a)は横軸を時間t[sec]とした図、
図9(b)は横軸を走行距離s[m]とした図である。
図9(b)に示すように、自車両Aが低速のときには走行距離は短くなるので、オフセットをもたせる場合にオフセット軌道の曲率が大きくなり、自車両Aの走行が不安定になってしまう。
そこで、最小距離S
Tjminを設定することによって、自車両Aが低速のときであってもオフセット軌道の曲率を小さくでき、自車両Aの走行が不安定になるのを防ぐことができる。
【0028】
また、
図10は目的地接近時のオフセットパターンを示す図である。
ここでは10mでオフセットを変更するオフセットパターン(破線)と、30mでオフセットを変更するパターン(長破線)を示している。この二つのオフセットパターンの途中に目的地または一時停止位置Zがあった場合は、基本的には滑らかな軌道である30mでオフセットを変更するパターンが選ばれる。しかしながら、この30mでオフセットを変更するパターンに沿うと目的地または一時停止位置Zに自車両Aが到達したときは、まだオフセットの途中なので、自車両Aが経路に対して平行でなく角度をもった状態で停止してしまう。
そこで、目的地または一時停止位置Zまでの距離で制限D
goalを設け、もう一つのオフセットパターン(実線)を生成することで、自車両Aを経路に対して平行な状態で停止させることができる。
【0029】
図11は軌道選択の評価関数を説明する図である。
生成した625パターン軌道の一つ一つに対し、次式(3)の評価関数を適用し、最終的にコストが一番小さい軌道が選択される。
E=C
r+C
d+C
s ・・・(3)
ここで、C
rは経路の優先順位、C
dはオフセットパターンのコスト、C
sは走行距離パターンのコストである。
経路の優先順位C
rは例えば二車線道路の場合に、どちらの道路(経路)が優先されるかという優先順位を反映したものであり、ハイレベルの階層81からミドルレベルの階層82を経由してローレベルの階層83へ送られる。
オフセットパターンのコストC
dは次式(4)で与えられ、走行距離パターンのコストC
sは次式(5)で与えられる。
【数4】
【数5】
ここで、k
1、k
2、k
3、k
4、k
5、k
6は正定数である。
式(4)および式(5)の1項目は、オフセットパターンの三階微分値つまり加速度の微分値(ジャーク)の2乗をとり、総ジャーク量を求める。この総ジャーク量が小さいほど滑らかなオフセットパターンとなる。
式(4)および式(5)の2項目は、時間の評価関数であり、目標オフセット量に収束する時間的な速さに関する。
式(4)および式(5)の3項目は、距離の評価関数であり、例えばオフセット量に関するものであり、オフセット量が少ない場合は偏差が小さいことになる。ここで、Δdはセンターラインからの偏差、Δsは目標位置からの偏差を表す。
この評価関数に従うことで軌道の滑らかさを加味し、希望のセンターライン上を走行する軌道を選択することができる。
【0030】
次に本発明の他の実施例による車両走行制御装置について説明する。
図12は本実施例による車両走行制御装置を示す概略構成図である。なお、上述の実施例と同一機能手段および同一機能部には同一符号を付して説明を省略する。
本実施例による車両走行制御装置は、自車両計測手段1、障害物計測手段2、自車両情報入力手段3、自車両走行手段7、自車両位置推定部100、障害物認識部200、および制御手段400を備える。
自車両位置推定部100は、自車両データ読み込み部101および自車両位置判断部102を備え、自車両計測手段1より得られた情報より自車両位置を推定する。自車両位置判断部102では、自車両データ読み込み部101で読み込まれた自車両Aに関する計測データから自車両Aの位置を判断する。自車両位置推定部100で推定された自車両Aの位置に関するデータは、軌道生成手段300に送出される。
障害物認識部200は、障害物データ読み込み部201および障害物判断部202を備え、障害物計測手段2より得られた情報より障害物Cを認識する。障害物判断部202では、障害物データ読み込み部201で読み込まれた障害物Cに関する計測データから障害物Cの位置および大きさを判断する。障害物認識部200で認識された障害物Cに関するデータは、軌道生成手段300に送出される。
制御手段400は、自車両情報入力手段3、自車両位置推定部100、障害物認識部200からのデータに基づいて自車両Aの走行を制御する。
【0031】
制御手段400は、軌道生成手段300、衝突判定部303Ba、距離判断部303Fa、センターライン設定部404、自車両走行制御部409、衝突判定枠設定部410、および枠幅変更部411を備えている。
衝突判定部303Baは、衝突判定枠設定部410で設定した衝突枠を用いて自車両Aと障害物Cとの衝突判定を行う。距離判断部303Faは、障害物間距離を判断する。
軌道生成手段300は、経路情報生成部301、運転行動生成部302および最適軌道生成部303を備える。経路情報生成部301では、経路上の任意の位置に設定される経路点に関する情報である経路点情報301A、目的地の位置等に関する情報である目的地情報301B、交差点等に設けられた一時停止箇所に関する情報である一時停止情報301C、各経路に規定されている制限速度に関する情報である制限速度情報301D、および走行車線の幅長に関する情報である経路幅情報301Eを生成する。また、運転行動生成部302では、優先車両等の障害物の位置や向き等を判断して自車両の車線変更を許可する車線変更許可情報302A、および交差点進入許可情報302Bを生成する。
最適軌道生成部303は、センターラインからのオフセットパターンを複数生成するオフセットパターン生成部303A、自車両Aが追従対象とする障害物Cを設定する追従対象設定部303B、自車両Aが目標とする走行速度を設定する目標速度設定部303C、目標速度設定部303Cで設定した走行速度に基づいて所定時刻後の自車両Aの位置を示す走行距離パターンを複数生成する走行距離パターン生成部303D、オフセットパターンおよび走行距離パターンに基づいて自車両Aが走行すべき軌道を複数生成する軌道生成部303E、自車両Aが走行する基準となるセンターラインを変更(補正)するセンターライン変更部303F、および軌道生成部303Eで生成した軌道の中から最適な軌道を選択する最適軌道選択部303Gを備えている。
最適軌道生成部303では複数の生成軌道から最適軌道を選択し、選択した最適軌道を自車両走行制御部409に送信する。オフセットパターン303Aにおいてオフセットパターンは複数生成し、各オフセットパターンについて、追従対象設定部303Bから軌道生成部303Eまでの処理を行う(各オフセットパターンにつき、追従対象、目標速度、走行距離パターンが設定され、軌道が生成される)。オフセットパターンの数の軌道が生成され、それらを用いて、センターラインを変更する。変更後のセンターラインは、自車両Aが走行すべき(上位レベル81、82の設定した経路からの)オフセットである。センターラインを補正するための補正値d
crrctを計算し、後のオフセットパターンのコストに用いる。オフセットパターンのコストC
dは次式(6)で表される。
【数6】
次式(7)によりΔdが計算され、新たに生成したセンターラインの軌道のコストが小さくなることにより、その軌道が選択されやすくなる。
【数7】
コスト最小となる軌道が最適軌道となり、自車両走行制御部409に送信される。
【0032】
図13は最適軌道生成部303における目標速度設定部303Cの設定方法を示すフローチャートである。
まず仮目標速度を設定する(ステップ101)。例えば、1ループ目は上位レベル81、82の設定した制限速度v
0、2ループ目以降はv
i+1<v
i(i=0、1、・・・)のように前回ループより小さくなるように設定する。
次に、仮目標速度を目標速度とする仮走行距離パターンを生成する(ステップ102)。
次に、この走行距離パターンとオフセットパターンを用いて仮軌道を生成する(ステップ103)。
軌道はT[s]分生成され,τ[s]おきに軌道点を取得し、この軌道点の速度に応じて衝突判定枠を拡縮し衝突判定を行う(ステップ104〜ステップ107)。なお、速度が速いほど衝突判定枠は大きくなる。
衝突する場合は、全パターンの衝突判定が終了したかを確認し(ステップ109)、終了していない場合は初めに戻り次のループとなる。
ステップ109においてNループになったらループを終了し、最低速度v
minを走行速度に設定し(ステップ110)、終了する(ステップ111)。
T[s]分すべてにおいて衝突が発生しないなら、先に定めた仮目標速度を走行速度に設定し(ステップ108)、終了する(ステップ111)。
【0033】
図14は最適軌道生成部303におけるセンターライン変更部303Fの設定方法を示すフローチャートである。
まず、T秒以内の経路内に障害物Cが存在するかを判断する(ステップ201)。
ステップ201において、T[s]以内の経路内に障害物Cが存在すると判断した場合にはセンターラインの補正値を計算する(ステップ205〜210)。障害物Cの有無の判断は、T[s]分の軌道を生成し衝突判定枠幅を経路幅に設定し衝突判定により行う。
障害物Cが存在しない場合は、指定時間センターラインを維持したかを確認し(ステップ202)、指定時間維持していない場合は補正値を前時刻の値に設定し(ステップ203)、指定時間維持した場合は補正値を0に設定する(ステップ204)。
補正値の計算は以下の通りである。まず、中央軌道(オフセットパターンの終点オフセットが0の軌道つまり上位レベル81、82の設定した経路上を走行する軌道)の追従対象の有無を確認する(ステップ205)。なお、追従対象とは、上述した先行車のことであり、各軌道において衝突判定を行ったときに最初に衝突する障害物Cのことを指す。このときの衝突判定は自車両Aの各時刻の軌道点と周辺物体(障害物C)の現時刻の位置との矩形の衝突判定枠の重ね合わせにより行う。追従対象が存在する場合は障害物間距離を比較し、仮補正値を計算する(ステップ206〜ステップ208)。追従対象が存在しない場合は、仮補正値を追従対象の存在しない軌道の終点オフセットの平均値に設定する(ステップ209)。
最後に、前時刻の値を考慮して補正値を設定する(ステップ210)。なお、仮補正値と前時刻の補正値が同符号なら絶対値が最大の方を補正値とする。これにより、補正値が時刻間で絶対値が増減するのを防ぐことができる。
【0034】
図15は障害物間距離を判断する距離判断部303Faの設定方法を示すフローチャートである。
障害物間距離とは中央軌道(センターライン)の追従対象とその他の軌道の追従対象の距離のことである。追従対象が存在しない軌道との障害物間距離は無限大となる。
閾値1D
1(0<D
1)は自車両Aがその間を縫って走行可能か否か判断するための閾値である。閾値2D
2(D
2<0)は中央軌道の追従対象の手前かつ近傍にある追従対象を回避しないようにするための閾値である。
まず、軌道の先行車を取得する(ステップ301)。
次に、障害物距離≧閾値1の軌道が存在するかを判断する(ステップ302)。
ステップ302において存在すると判断した場合は、仮補正値を障害物距離≧閾値1の軌道の終点オフセットの平均値に設定する(ステップ304)。
ステップ302において存在しないと判断した場合は、障害物距離≧閾値2の軌道が存在するかを判断する(ステップ303)。
ステップ303において存在すると判断した場合は、仮補正値を障害物距離≧閾値2の軌道の終点オフセットの平均値に設定する(ステップ305)。
ステップ303において存在しないと判断した場合は、仮補正値を0に設定する(ステップ306)。
その後、仮補正値を決定し(ステップ307)、終了する(ステップ308)。
【0035】
以上のように本実施例によれば、経路の経路幅や障害物に応じて、適正な速度および軌道で自車両を走行させることができる。