(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について説明する。本実施形態に係る光学ガラスは、高屈折率低分散でありながら、液相温度(Tl)が低い。また、Ta
2O
5の含有量が少ないため、低コストでの生産が可能な光学ガラスである。
【0013】
本明細書中において、特に断りがない場合は、各成分の含有量は全て酸化物換算組成のガラス全重量に対する質量%であるものとする。なお、ここでいう酸化物換算組成とは、本発明のガラス構成成分の原料として使用される酸化物、複合塩等が溶融時に全て分解されて酸化物に変化すると仮定し、当該酸化物の総質量を100質量%として、ガラス中に含有される各成分を表記した組成である。
【0014】
本実施形態における光学ガラスは、SiO
2、B
2O
3、La
2O
3およびZrO
2を必須成分として含有する。また、各成分の組成範囲の具体例としては、質量%で、SiO
2:2.0〜9.0%、B
2O
3:21.0〜31.0%、La
2O
3:50.0〜56.0%、ZrO
2:5.0〜9.0%を含有するものが挙げられる。以下に、各成分の含有量を上記のように限定した理由を説明する。
【0015】
SiO
2は、ガラス骨格を形成し、液相温度(Tl)を低下させ、化学的耐久性を向上させる成分である。SiO
2の含有量は好ましくは2.0〜9.0%、より好ましくは3.2〜7.0%である。この範囲とすることで、失透安定性を高め、成形性を良好にしながら高屈折率化を図ることができる。なお、SiO
2の含有量が少なすぎると、失透が生じ易くなる傾向がある。SiO
2の含有量が多すぎると、屈折率が低下する傾向にある。
【0016】
B
2O
3は、SiO
2と同様にガラス骨格を形成し、液相温度(Tl)を低下させ、化学的耐久性を向上させる成分である。B
2O
3の含有量は好ましくは21.0〜31.0%、より好ましくは25.0〜29.0%である。この範囲とすることで、失透安定性を高め、成形性を良好にしながら高屈折率化を図ることができる。なお、B
2O
3の含有量が少なすぎると、溶融性が悪化するとともに、失透が生じ易くなる傾向がある。また、高いアッベ数を実現出来なくなる。B
2O
3の含有量が多すぎると、屈折率が低下する。また、溶融時の粘性が低下して成形が容易でなくなる。
【0017】
La
2O
3は、アッベ数を大きく変化させることなく屈折率を高める成分である。La
2O
3の含有量は好ましくは50.0〜56.0%、より好ましくは50.2〜52.0%である。この範囲とすることで、失透安定性を低下させずに高屈折率化、低分散化を実現することができる。なお、La
2O
3の含有量が少なすぎると、屈折率が低下する。La
2O
3の含有量が多すぎると、ガラスが不安定化して溶融性が低下し、失透が生じやすくなる。なお、ガラスの溶融性は、例えば白金ツボにバッチを約50g入れて1380℃で10分間加熱した時に、バッチに溶け残りがあるかないかで目視判定することができる。
【0018】
ZrO
2は、高屈折率化及び高分散化、及び部分分散比を低下させる効果を有する成分である。ZrO
2の含有量は好ましくは5.0〜9.0%、より好ましくは7.0〜8.3%である。この範囲とすることで、透過率を悪化させずに高屈折率化を実現することができる。ZrO
2の含有量が少なすぎると、高屈折率化が困難となる。ZrO
2の含有量が多すぎると、溶融性が低下して液相温度(Tl)が上昇する。また、失透安定性が低下してガラス化が困難となる傾向がある。
【0019】
また、本実施形態における光学ガラスは、前記必須成分に加え、任意成分として、Gd
2O
3:0〜10.0%、Y
2O
3:0〜10.0%、Nb
2O
5:0〜3.0%、TiO
2:0〜1.0%、WO
3:0〜1.0%、ZnO:0〜1.0%、CaO:0〜1.0%、BaO:0〜1.0%、Al
2O
3:0〜2.0%、Li
2O:0〜1.0%、Na
2O:0〜1.0%、K
2O:0〜1.0%、Sb
2O
3:0〜1.0%、Ta
2O
5:0〜0.5%のうち1または2以上を含有していてもよい。
【0020】
Gd
2O
3、Y
2O
3は、透過率を悪化させることなく屈折率を高める効果を有する。Nb
2O
5、TiO
2、WO
3、ZnO、CaO、BaO、Al
2O
3、Li
2O、Na
2O、K
2O、Ta
2O
5は、ガラスの光学恒数値の調整に有用である。Sb
2O
3はガラスの脱泡を促進する。
【0021】
Gd
2O
3の含有量は好ましくは0〜10.0%、より好ましくは0〜5.0%である。
【0022】
Y
2O
3の含有量は好ましくは0〜10.0%、より好ましくは0〜8.0%である。
【0023】
Nb
2O
5の含有量は好ましくは0〜3.0%、より好ましくは0〜2.5%である。
【0024】
TiO
2の含有量は好ましくは0〜1.0%、より好ましくは0〜0.5%である。
【0025】
WO
3は、高価な原料であるため、実質的に含有しないことが望ましいが、好ましくは0〜1.0%である。
【0026】
ZnOの含有量は好ましくは0〜1.0%、より好ましくは0〜0.2%である。
【0027】
CaOの含有量は好ましくは0〜1.0%、より好ましくは0〜0.25%である。
【0028】
BaOの含有量は好ましくは0〜1.0%、より好ましくは0〜0.25%である。
【0029】
Al
2O
3の含有量は好ましくは0〜2.0%、より好ましくは0〜1.0%である。
【0030】
Li
2Oの含有量は好ましくは0〜1.0%、より好ましくは0〜0.1%である。
【0031】
Na
2Oの含有量は好ましくは0〜1.0%、より好ましくは0〜0.15%である。
【0032】
K
2Oの含有量は好ましくは0〜1.0%、より好ましくは0〜0.18%である。
【0033】
Sb
2O
3の含有量は好ましくは0〜1.0%、より好ましくは0〜0.1%である。
【0034】
Ta
2O
5は高価な原料であるため、実質的に含有しないことが望ましいが、好ましくは0〜0.5%である
【0035】
なお、ここで含有しないとは、不純物として不可避的に含有される濃度を越えてガラス組成物の特性に影響する実質的な構成成分として実質的に含有されないことを意味する。例えば、製造過程における数ppm〜数十ppm程度のコンタミネーションについては、実質的に含有されていないものとする。
【0036】
なお、その他必要に応じて清澄、着色、消色や光学恒数値の微調整などの目的で、公知の清澄剤や着色剤、脱泡剤、フッ素化合物、P
2O
5などの成分を前記ガラス組成に適量添加することが出来る。また、上記成分に限らず、本実施形態の光学ガラスの効果が得られる範囲でその他成分を添加することもできる。
【0037】
上記原料は、不純物の含有量が少ない高純度品を使用するのが好ましい。例えば、SiO
2原料、B
2O
3原料、TiO
2原料のうち1または2以上に高純度品を使用することが好ましい。高純度品とは、当該成分を99.85質量%以上含むものである。高純度品の使用によって、不純物量が少なくなる結果、例えば波長410nm以下の光の内部透過率をより高くできる傾向がある。
【0038】
次に、本実施形態の光学ガラスの物性値について説明する。
【0039】
レンズの薄型化の観点からは、本実施形態に係る光学ガラスは、高屈折率を有している(屈折率(nd)が大きい)ことが望ましい。しかしながら、一般的に、屈折率(nd)が高いほどアッベ数(νd)が低下する傾向にある。従って本実施形態に係る光学ガラスの屈折率(nd)は、1.77を下限、1.80を上限とした、1.77〜1.80の範囲であって良い。
【0040】
レンズの収差補正の観点からは、本実施形態に係る光学ガラスは、低分散性を有している(アッベ数(νd)が大きい)ことが望ましい。しかしながら、一般的に、アッベ数が大きいほど屈折率が低下する傾向にある。従って本実施形態に係る光学ガラスのアッベ数(νd)は、47を下限、50を上限とした、47〜50の範囲であって良い。
【0041】
溶融成形時の脈理抑制の観点から、本実施形態のガラスとしては、液相温度(Tl)は低いことが望ましい。液相温度(Tl)が高いとガラスに脈理が入りやすくなる。また、低い液相温度(Tl)は、熔融ガラスを急冷してガラス化する際に失透を生じづらくさせ、成形性を向上させる。従って本実施形態のガラスでは、液相温度(Tl)は、1200℃以下である。
【0042】
プレス成形の観点から、ガラス転移温度(Tg)は、本実施形態のガラスとしては、ガラス転移温度(Tg)は低いことが望ましい。低いガラス転移温度(Tg)は、プレス成形を容易にする効果をもたらす。よって本実施形態のガラスでは、ガラス転移温度(Tg)は、690℃以下であって良い。
【0043】
光学系の可視光透過率の観点からは、本実施形態に係る光学ガラスは、内部透過率の80%表示値(光路長10mmにおける内部透過率が80%となる波長;λ
80)が360nm以下であっても良い。
【0044】
レンズの軽量化の観点から、本実施形態のガラスとしては、比重が小さいことが望ましい。従って、本実施形態のガラスでは、比重は4.5以下に設定される。
【0045】
なお本実施形態における光学ガラスは、Ta
2O
5の含有量が少ないにもかかわらず低い液相温度を保っており、高い屈折率を有している。また、高価なTa
2O
5の含有量が少ないため原料コストの面でも優れている。
【0046】
このような本実施形態におけるガラスは、カメラや顕微鏡等の光学装置の備えるレンズ等の光学素子として好適である。
【0047】
なお、本実施形態の光学ガラスは例えば、光学機器が備える光学素子として用いることができる。
図1に、本実施形態に係る光学ガラスを母材とするレンズ4(光学素子)を備えた撮像装置1(光学機器)を示す。
【0048】
この撮像装置1はいわゆるデジタル一眼レフカメラであり、カメラボディ2のレンズマウント(不図示)にレンズ鏡筒3が着脱自在に取り付けられる。そして該レンズ鏡筒3のレンズ4を通した光がカメラボディ2の背面側に配置されたマルチチップモジュール7のセンサチップ(固体撮像素子)5上に結像される。このセンサチップ5は、いわゆるCMOSイメージセンサー等のベアチップであり、マルチチップモジュール7は、例えばセンサチップ5がガラス基板6上にベアチップ実装されたCOG(Chip On Glass)タイプのモジュールである。
【0049】
なお、光学機器はこのような撮像装置に限らず、例えばプロジェクタ等を挙げることができる。光学素子についてもレンズに限らず、例えばプリズム等を挙げることができる。
【実施例】
【0050】
次に、本発明の実施例及び比較例について説明する。表1〜2は、本発明の実施例に係る光学ガラスについての各成分の酸化物基準の質量%による化学組成を、表3は、本発明の比較例に係る光学ガラスについての各成分の酸化物基準の質量%による組成を、屈折率(nd)、アッベ数(νd)、液相温度(Tl)、内部透過率(λ
80)及び、ガラス転移温度(Tg)の測定結果、耐失透性の評価とともに示したものである。なお、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
<光学ガラスの作製>
本発明の実施例及び比較例に係る光学ガラスは、以下の手順で作製した。まず、表1〜3に記載の化学組成(質量%)となるよう、酸化物、水酸化物、リン酸化合物(リン酸塩、正リン酸等)、炭酸塩、及び硝酸塩等のガラス原料を秤量した。次に、秤量した原料を混合して白金ルツボに投入し、1380℃の温度で溶融させて攪拌均一化した。泡切れを行った後、適当な温度に下げてから金型等に鋳込んで徐冷し、成形することで各サンプルを得た。
【0051】
(1)屈折率(nd)とアッベ数(νd)
表1〜2に記載の各サンプルの屈折率(nd)及びアッベ数(νd)は、通常の屈折率測定器を用いて測定及び算出した。なお、屈折率の値は、小数点以下第6位までとした。
【0052】
(2)液相温度(Tl)
表1〜2に記載の各サンプルの液相温度(Tl)は、ガラス約0.1gを穴の空いた白金板に載せ、10℃刻みの温度勾配がついた試験炉内で18分間保持した後、炉から出して自然急冷し、倍率100倍の顕微鏡で失透の有無を観察することにより測定した。このときの高温側から見て失透が生じない最低の温度を液相温度(Tl)とした。
【0053】
(3)内部透過率(λ
80)
表1〜2に記載の各サンプルの内部透過率(λ
80)は、まず、12mm厚と2mm厚の光学研磨された互いに平行なガラス試料を用意し、厚み方向と平行に光が入射した際の波長200〜700nmの範囲における内部透過率を測定し、80%となる波長をλ
80として表記した。
【0054】
(4)ガラス転移温度(Tg)
表1〜2に記載の各サンプルのガラス転移温度(Tg)は、4℃/分の昇温速度で測定したDTA曲線から決定した。
【0055】
(5)比重(Sg)
表1〜2に記載の各サンプルの比重(Sg)は、4℃における同体積の純水に対する質量比から求めた。
【0056】
(6)耐失透性の評価
表1〜3に記載の各サンプルの耐失透性は、作製したガラスを研磨加工し、失透の有無を顕微鏡を用いて目視で確認した。表1〜3において失透有とは、試料中に失透部分が観察される状態を意味する。
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【0059】
【表3】
【0060】
表1〜2から、本発明の実施例1〜12はいずれも、1.77〜1.80の屈折率(nd)、47〜50のアッベ数(νd)、1200℃以下の液相温度(Tl)、690℃以下のガラス転移温度(Tg)、360nm以下の内部透過率(λ
80)を有していることがわかった。さらに、耐失透性評価の結果、いずれの組成においても失透は認められなかった。
【0061】
表3から、本発明の組成範囲とは異なる組成の比較例にはいずれも、作製したサンプル中に失透が認められた。このため各種物性値を測定することは困難であった。
【0062】
以上、本実施例の光学ガラスは、屈折率(nd)が1.77〜1.80の範囲、アッベ数(νd)が47〜50の範囲であることに加え、高価なTa
2O
5やWO
3成分の含有量が少なく、脈理を抑制する1200℃以下の低い液相温度を有し、耐失透性にも優れていた。これは、ガラス製造時、特に溶融成形時の脈理の抑制において、極めて有用であることを示す。また、内部透過率(λ
80)が360nm以下で、着色が抑制され、透過性にも優れていた。