(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(A)小麦粉、(B)DE4〜40の澱粉分解物、D−プシコース、D−キシロース、及びD−タガトースよりなる群から選択される少なくとも1種の糖類と、(C)α化澱粉とを含有し、
前記(A)成分100質量部当たり、前記(B)成分が0.5〜10質量部であり、かつ前記(C)成分が0.5〜10質量部である、ことを特徴とする、
小麦粉100質量部に対して油脂添加量が5質量部以下である低含油タイプパン。
(A)小麦粉、(B)DE4〜40の澱粉分解物、D−プシコース、D−キシロース、及びD−タガトースよりなる群から選択される少なくとも1種の糖類と、(C)α化澱粉とを含有し、
前記(A)成分100質量部当たり、前記(B)成分が0.5〜10質量部であり、かつ前記(C)成分が0.5〜10質量部である、ことを特徴とする、
小麦粉100質量部に対して油脂添加量が5質量部以下である低含油タイプパン用ミックス。
(A)小麦粉、(B)DE4〜40の澱粉分解物、D−プシコース、D−キシロース、及びD−タガトースよりなる群から選択される少なくとも1種の糖類と、(C)α化澱粉とを含有し、且つ前記(A)成分100質量部当たり、前記(B)成分が0.5〜10質量部であり、かつ前記(C)成分が0.5〜10質量部であるベーカリー生地を、加熱処理する工程を含む、小麦粉100質量部に対して油脂添加量が5質量部以下である低含油タイプパンの製造方法。
【背景技術】
【0002】
近年、様々なタイプのパンが開発されているが、油脂が無添加又は少量しか添加されていないパン(本明細書では、「低含油タイプパン」と称する)がある。低含油タイプのパンには、フランスパンやチャバタ等のハードロールと称されるパンや、ベーグル等がある。低含油タイプパンは、パン表面の外皮(クラスト)が硬く、噛みごたえのあることが特徴の1つである。一方、近年、嗜好の多様化や噛む力の弱い人でも食べられるように、通常の低含油タイプパンに比べ、パンを噛み千切る際に大きな力を必要としない(ひきの弱い)低含油タイプパンが求められている。そこで、従来、食感を改善した低含油タイプパンについて種々検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、フランスパン用小麦粉100重量部に対し、そば粉6重量部と食塩0.12重量部と40℃の温水6重量部を撹拌し、その後70℃の温水24重量部を加え、湯種法によって、クラフトのひきが弱く噛みやすいフランスパン風ハースブレッドが得られることを開示している。しかしながら、特許文献1の技術では、そば粉を添加しているため、パン本来の風味が損なわれるだけでなく、そば粉はアレルゲン物質でもあるため製造ラインが汚染される可能性がある等の問題がある。
【0004】
また、特許文献2には、小麦粉100重量部に対し水15〜80重量部及び可塑性油脂組成物3〜22重量部(該可塑性油脂組成物中に食用油脂70〜97重量%及び醗酵乳3〜30重量%)を含有させることにより、小麦粉本来の風味と歯切れのよい食感の低含油タイプパン類が得られることを開示している。しかしながら、特許文献2の技術では、従来の低含油タイプパン類に比べ、可塑性油脂を多く含ませる必要があり、脂質が少ないという低含油タイプパンの特徴の1つが損なわれ、得られるパンの食感も本来の低含油タイプパンとかけ離れているという欠点がある。
【0005】
特許文献3には、天然及び/又は化工ワキシーコーンスターチとα化澱粉とを組み合わせたベーカリー製品用ミックスを利用することによって、イーストによる発酵を必要とせず、ソフトなタイプのフランスパン様の外観と内相を持ち、やわらかいモチモチ感を有するベーカリー製品が得られることを開示している。しかしながら、特許文献3の技術では、多量のα化澱粉を使用する必要があり、フランスパン特有の風味が損なわれるという問題があった。更に、特許文献3の技術では、得られるベーカリーは、内部だけでなく外皮も柔らかさを有するため、その食感は本来のフランスパンとかけ離れているという欠点もある。
【0006】
また、特許文献4には、小麦粉100重量部に対し、澱粉50−150重量部及びα化澱粉又はα化穀粉50〜150重量部を配合したベーカリー製品用ミックスを利用することによって、フランスパンのようなカリッとした外皮をもち、膨らんだ形がよく、内相がモチっぽくなく網目構造をもったパン様の製品が得られることを開示している。しかしながら、特許文献4の技術では、α化澱粉またはα化穀粉を多量に使用する必要があり、得られるパン様の製品では、フランスパン特有の風味を備えることができないという欠点がある。
【0007】
このように、従来の低含油タイプパンの改良技術では、食感の点で十分に満足できるものはなく、更なる改善が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、クラストが薄く、且つパン内部はしっとりと柔らかでひきの弱く良好な食感を備える低含油タイプパン及びその製造方法を提供することである。更に、本発明の目的は、当該低含油タイプパンの製造に利用される低含油タイプ用ミックスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは前記課題を解決すべく、クラストが薄く、食感が良好な低含油タイプパンの製造について、該パンの製造に用いる原料や、その配合等について鋭意検討する中で、特定の澱粉分解物及び/又は特定の糖類と特定の澱粉とを低含油タイプのパン製造用の原料に、所定量配合することにより、前記課題を解決できることを見出した。具体的には、(A)小麦粉、(B)DE4〜40の澱粉分解物、D−プシコース、D−キシロース、及びD−タガトースよりなる群から選択される少なくとも1種の糖類と、(C)α化澱粉とを含有させ、前記(A)成分100質量部当たり、前記(B)成分が0.5〜10質量部であり、かつ前記(C)成分が0.5〜10質量部となるように含有させた低含油タイプパンは、クラストが薄く、しかもパン内部はしっとりと柔らかでひきの弱く良好な食感を備え得ることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて更に検討を重ねることにより完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. (A)小麦粉、(B)DE4〜40の澱粉分解物、D−プシコース、D−キシロース、及びD−タガトースよりなる群から選択される少なくとも1種の糖類と、(C)α化澱粉とを含有し、
前記(A)成分100質量部当たり、前記(B)成分が0.5〜10質量部であり、かつ前記(C)成分が0.5〜10質量部である、ことを特徴とする、
低含油タイプパン。
項2. 前記(B)成分がDE4〜40の澱粉分解物である、項1に記載の低含油タイプパン。
項3. 前記(B)成分がDE11〜25の澱粉分解物である、項1に記載の低含油タイプパン。
項4. 前記(B)成分がD−プシコースである、項1に記載の低含油タイプパン。
項5. 前記(C)成分が、α化ヒドロキシプロピル化澱粉である、項1〜4のいずれかに記載の低含油タイプパン。
項6. 前記(C)成分が、α化ヒドロキシプロピル化架橋澱粉である、項1〜5のいずれかに記載の低含油タイプパン。
項7. ソフトフランスパンである、項1〜6のいずれかに記載の低含油タイプパン。
項8. (A)小麦粉、(B)DE4〜40の澱粉分解物、D−プシコース、D−キシロース、及びD−タガトースよりなる群から選択される少なくとも1種の糖類と、(C)α化澱粉とを含有し、
前記(A)成分100質量部当たり、前記(B)成分が0.5〜10質量部であり、かつ前記(C)成分が0.5〜10質量部である、ことを特徴とする、
低含油タイプパン用ミックス。
項9. (A)小麦粉、(B)DE4〜40の澱粉分解物、D−プシコース、D−キシロース、及びD−タガトースよりなる群から選択される少なくとも1種の糖類と、(C)α化澱粉とを含有し、且つ前記(A)成分100質量部当たり、前記(B)成分が0.5〜10質量部であり、かつ前記(C)成分が0.5〜10質量部であるベーカリー生地を、加熱処理する工程を含む、低含油タイプパンの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、パン内部はしっとりと柔らかでひきの弱く良好な食感を備える低含油タイプのパンを提供できるので、噛む力の弱い人でも本発明の低含油タイプパンを美味しく食べることが可能になり、更には近年多様化する嗜好性に追従することもできる。
また、本発明の低含油タイプパンは、クラストが硬いままでありながら、従来の低含油タイプパンに比較してクラストが薄いので、喫食簡易性の点でも利点がある。例えば、本発明の低含油タイプパンがソフトフランスパンの場合であれば、クラフト厚が0.42mm以下程度にまで薄くなり、且つパン内部はひきが弱いので、従来のソフトフランスパンに比べて喫食し易さを格段に向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.低含油タイプパン及びその製造方法
本発明の低含油タイプパンは、小麦粉(単に「(A)成分」と表記することもある)、DE4〜40の澱粉分解物、D−プシコース、D−キシロース、及びD−タガトースよりなる群から選択される少なくとも1種の糖類(単に「(B)成分」と表記することもある)と、α化澱粉(単に「(C)成分」と表記することもある)とを含有し、前記(A)成分100質量部当たり、前記(B)成分が0.5〜10質量部であり、かつ前記(C)成分が0.5〜10質量部であることを特徴とする。本発明の低含油タイプパンは、小麦粉と共に、特定の糖類((B)成分)とα化澱粉((C)成分)を組み合わせて含有することによって、クラストが薄く、しかもパン内部はしっとりと柔らかでひきの弱く良好な食感を備えることが可能になる。以下、本発明の低含油タイプパンについて、詳述する。
【0014】
本発明において、「低含油タイプパン」とは、原料小麦粉100質量部に対し、原料油脂添加量が5重量%以下である、低油脂量又は油脂無添加のパンを指す。低含油タイプパンとしては、例えば、フランスパン、ソフトフランスパン、ベーグル、チャバタパン等が挙げられる。これらの中でも、本発明の低含油タイプパンとしてソフトフランスパンは好適である。
【0015】
本発明の低含油タイプパンでは、(A)成分として小麦粉を含有する。本発明で使用される小麦粉の種類については、パンの製造に使用できることを限度として特に制限されず、強力粉、中力粉、薄力粉、フランスパン用粉等のいずれであってもよい。これらの小麦粉は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの中でも、優れた風味を付与するという観点から、好ましくは強力粉、フランスパン用粉が挙げられる。
【0016】
本発明の低含油タイプパンでは、(B)成分として、DE4〜40の澱粉分解物、D−プシコース、D−キシロース、及びD−タガトースよりなる群から選択される少なくとも1種の糖類を含有する。
【0017】
前記(B)成分の内、D−プシコースとは、希少糖の1種であり、六単糖のケトースに分類される糖類である。本発明で使用するD−プシコースは、自然界から抽出されたものであってもよく、また化学合成、酵素反応、又は生物学的な方法により得られたものであってもよい。D−プシコースを酵素反応によって得る手法としては、特開平06−125776号公報等に報告されており、例えば、D-フラクトース(果糖)をエピメリ化する方法、D-グルコース(ぶどう糖)をD-フラクトース(果糖)に変換した後にエピメリ化する方法等が挙げられる。また、D−プシコースを化学合成によって得る手法としては、J.Am.Chem.Soc.1995,77,3323−3325等に報告されている。
【0018】
また、本発明で使用するD−プシコースは、除蛋白、脱色、脱塩、カラムクロマトグラフィー等の精製処理に供された99%以上の高純度品であってもよいが、本発明の効果を妨げないことを限度として、粗精製品又は未精製品であってもよい。更に、本発明で使用するD−プシコースは、本発明の効果を妨げないことを限度として、異性化糖を含んでいるものであってもよい。
【0019】
前記(B)成分の内、DE4〜40の澱粉分解物とは、澱粉を酸又は酵素により、或はその両者により加水分解することにより得られる分解物である。澱粉分解物の中でも、DE値が4〜40のものを選択することによって、クラストが薄く且つパン内部がしっとりとして柔らかく良好な食感の低含油タイプパンを得ることが可能になる。クラフトをより一層薄くし、パン内部のしっとりと柔らかさ及びひきの弱さをより一層向上させるという観点から、澱粉分解物のDE値として、好ましくは11〜25、更に好ましくは18〜25があげられる。なお、本発明において、「DE」とは、Dextrose Equivalent(グルコース当量)の略であり、固形分中の直接還元糖の比率を表した物性値である。DE値は、澱粉加水分解物の加水分解の程度を表す指標として広く用いられている。本発明において、澱粉分解物のDE値は、ウィルシュテッター・シューデル法により分析された値である。
【0020】
本発明で使用するDE4〜40の澱粉分解物の由来原料(加水分解処理に供される原料澱粉)については、特に制限されないが、例えば、小麦澱粉、コーン澱粉、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、米澱粉、サゴ澱粉、甘藷澱粉、えんどう豆澱粉、緑豆澱粉や各種もち種澱粉、ハイアミロースコーン澱粉等が挙げられる。これらの由来原料は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を与わせて使用してもよい。これらの中でも、好ましくはコーンでん粉、タピオカ澱粉、甘藷澱粉が挙げられる。
【0021】
前記(B)成分の内、D−キシロースとは、五単糖のアルドースに分類される糖類である。本発明で使用するD−キシロースは、自然界から抽出されたものであってもよく、また化学合成、酵素反応、又は生物学的な方法により得られたものであってもよい。また、本発明で使用するD−キシロースは、精製品であってもよいが、本発明の効果を妨げないことを限度として、粗精製品又は未精製品であってもよい。
【0022】
前記(B)成分の内、D−タガトースとは、希少糖の1種であり、六単糖のケトースに分類される糖類である。本発明で使用するD−タガトースは、自然界から抽出されたものであってもよく、また化学合成、酵素反応、又は生物学的な方法により得られたものであってもよい。D−タガトースを酵素反応によって得る手法としては、例えば、D-ガラストースをエピメリ化する方法、ラクトースからガラクトースを切り出した後にエピメリ化する方法等が挙げられる。
【0023】
また、本発明で使用するD−タガトースは、除蛋白、脱色、脱塩、カラムクロマトグラフィー等の精製処理に供された99%以上の高純度品であってもよいが、本発明の効果を妨げないことを限度として、粗精製品又は未精製品であってもよい。
【0024】
これらの(B)成分は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0025】
これらの(B)成分の中でも、クラフトをより一層薄くし、パン内部のしっとりと柔らかさ及びひきの弱さをより一層向上させるという観点から、好ましくはDE4〜40の澱粉分解物、D−プシコースが挙げられる。
【0026】
本発明の低含油タイプパンにおいて、(A)成分と(B)成分の比率は、(A)成分100質量部当たり(B)成分が0.5〜10重量部を満たすように設定される。このような比率を充足することによって、クラストが薄く、しかもパン内部はしっとりと柔らかでひきの弱く良好な食感を備えることが可能になる。このような本発明の効果をより一層向上させるという観点から、(A)成分と(B)成分の比率として、(A)成分100質量部当たり(B)成分が好ましくは2〜8質量部が挙げられる。
【0027】
また、本発明の低含油タイプパンでは、(C)成分としてα化澱粉を含有する。α化澱粉とは、糊化(α化)した澱粉を、乾燥し、必要に応じて粉砕した粉末状の澱粉を指す。澱粉をα化する手法は公知であり、例えば、澱粉を水分存在下でドラムドライヤー、エクストルーダー、スプレードライヤー等を用いて加熱する方法が挙げられる。
【0028】
本発明で使用するα化澱粉の由来原料(α化処理に供される原料澱粉)の種類については、特に制限されないが、例えば、小麦澱粉、コーン澱粉、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、米澱粉、サゴ澱粉、甘藷澱粉、えんどう豆澱粉、緑豆澱粉や各種もち種澱粉、ハイアミロースコーン澱粉等が挙げられる。これらの由来原料は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を与わせて使用してもよい。これらの中でも、パン内部がしっとりと柔らかくするという観点から、好ましくはタピオカ澱粉が挙げられる。
【0029】
また、本発明で使用するα化澱粉は、必要に応じて、ヒドロキシプロピル化、アセチル化、架橋、酸化及び酸浸漬から選ばれる1種以上の加工処理が施されたα化加工澱粉であってもよい。α化加工澱粉は、原料澱粉に対して前記加工処理を行った後にα化することによって得ることができる。ここで、ヒドロキシプロピル化とは、原料澱粉にプロピレンオキサイドを反応させる処理を指す。アセチル化とは、原料澱粉に無水酢酸又は酢酸ビニールモノマー等を反応させる処理を指す。また、架橋とは、原料澱粉にメタリン酸塩、オキシ塩化リン等の架橋剤を加え反応させる等の処理を指す。酸化とは、原料澱粉に次亜塩素酸Naを作用させる処理を指す。酸浸漬とは原料澱粉に硫酸を作用させる処理を指す。これらの澱粉の加工処理は、食品分野において公知であり、いずれも常法に従って実施できる。
【0030】
α化澱粉としてα化ヒドロキシプロピル化澱粉又はα化アセチル化澱粉を使用する場合、α化澱粉におけるヒドロキシプロピル基又はアセチル基の置換度については、特に制限されないが、例えば0.01〜0.15、好ましくは0.03〜0.135、更に好ましくは0.05〜0.125が挙げられる。本発明において、ヒドロキシプロピル基又はアセチル基の置換度は、厚生労働省告示第485号(平成20年10月1日官報号外216号)に記載の方法に準じて測定される値を指す。
【0031】
これらの(C)成分は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0032】
これらの(C)成分の中でも、クラフトをより一層薄くし、パン内部のしっとりと柔らかさ及びひきの弱さをより一層向上させるという観点から、好ましくはα化ヒドロキシプロピル化澱粉、更に好ましくはα化ヒドロキシプロピル化架橋澱粉が挙げられる。
【0033】
本発明の低含油タイプパンにおいて、(A)成分と(C)成分の比率は、(A)成分100質量部当たり(C)成分が0.5〜10重量部を満たすように設定される。このような比率を充足することによって、クラストが薄く、しかもパン内部はしっとりと柔らかでひきの弱く良好な食感を備えることが可能になる。このような本発明の効果をより一層向上させるという観点から、(A)成分と(C)成分の比率として、(A)成分100質量部当たり(C)成分が好ましくは2〜8質量部が挙げられる。
【0034】
本発明の低含油タイプパンは、前記(A)〜(C)成分を含むベーカリー生地を作製し、加熱処理を行うことにより製造することができる。本発明の低含油タイプのパンには、前記(A)〜(C)成分の他に、必要に応じて、副材料をベーカリー生地に配合してもよい。
【0035】
本発明の低含油タイプパンに含有できる副材料としては、一般にベーカリーの製造に使用されている食品素材や添加剤の中から、低含油タイプパンの種類、付与すべき品質等に応じて適宜設定すればよい。当該副材料としては、具体的には、イースト、ベーキングパウダー、食塩、イーストフード、砂糖、乳製品(脱脂粉乳、全脂粉乳、牛乳等)、チーズ類(ナチュラルチーズ、プロセスチーズ等)、油脂類(ショートニング、マーガリン、バター、粉末油脂、ファットスプレッド、ラード、サラダ油、オリーブオイル、乳化油脂等)、乳化剤(グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム等)、香辛料(シナモン、バジリコ等)、洋酒類(ブランデー、ラム酒等)、ドライフルーツ(レーズン、ドライチェリー等)、ナッツ類(アーモンド、ピーナッツ等)、酵素(αアミラーゼ、βアミラーゼ、グルコオキシターゼ、プロテアーゼ、リパーゼ、キシラナーゼ、ヘミセルラーゼ、グルコースオキシターゼ等)、香料(バニラエッセンス等)、人工甘味料(アスパルテーム等)、食物繊維(ペクチン、グアガム分解物、アガロース、グルコマンナン、ポリデキストロース、アルギン酸ナトリウム、セルロース、ヘミセルロース、リグニン、キチン、キトサン、難消化性デキストリン、シトラスファイバー等)、ココアパウダー、カカオ、膨張剤、生地改良剤、酸化防止剤、pH調整剤、保存料、日持ち向上剤、酸味料、醗酵風味液等が挙げられる。これらの副材料は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0036】
本発明の低含油タイプパンの製造において、前記(A)〜(C)成分を含むベーカリー生地は、一般的なベーカリー生地の製造法に従って、前記(A)〜(C)成分、水、及び必要に応じて副材料を混合することにより作製することができる。また、ベーカリー生地の加熱処理についても、一般的な低含油タイプパンの場合と同様、焼成、フライ、蒸し等によって行うことができる。即ち、本発明の低含油タイプパンは、原料として前記(A)〜(C)成分を使用すること以外は、公知の低含油タイプパンと同様の製造方法で製造することができる。
【0037】
2.低含油タイプパン用ミックス
本発明の低含油タイプパン用ミックスは、(A)小麦粉、(B)DE4〜40の澱粉分解物、D−プシコース、D−キシロース及びD−タガトースよりなる群から選択される少なくとも1種の糖類と、(C)α化澱粉とを含有し、前記(A)成分100質量部当たり、前記(B)成分が0.5〜10質量部であり、かつ前記(C)成分が0.5〜10質量部であることを特徴とする。
【0038】
本発明の低含油タイプパン用ミックスは、前記低含油タイプパンの製造に使用される調製粉であり、含有する(A)〜(C)成分、及びこれらの比率等については、前記「1.低含油タイプパン及びその製造方法」の欄に記載の通りである。
【0039】
本発明の低含油タイプパン用ミックスには、必要に応じて、前述する副材料が含まれていてもよい。
【0040】
本発明の低含油タイプパン用ミックスにおいて、前記(A)〜(C)成分の含有量としては、例えば、低含油タイプパン用ミックスの総量に対して、前記(A)〜(C)成分の合計量が50〜100質量%、好ましくは70〜100質量%、更に好ましくは80〜100質量%が挙げられる。
【実施例】
【0041】
以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されて解釈されるものではない。
【0042】
1.評価方法
(クラスト厚の測定)
低含油タイプパンのクラスト厚は、社団法人日本パン技術研究所の「画像解析を用いたパンのクラストの厚さの測定法(No.748)」により測定した。測定サンプルは、焼成1日後、スライサー(ALFA100N、ハクラ精機(株))を用いて中心付近を2cm厚にカットしたものを用いた。クラスト厚の具体的な測定方法は以下の通りである。先ず、スキャナ(DocuCentre−III C550, 富士ゼロックス(株)製)を用いて、パン断面の画像データ(2340×3310ピクセル)を取得した。次いで、得られた画像データを基に、画像解析ソフト(Image J 1.44 米国国立衛生研究所 N.I.H USA, フリーソフト)を用いて、パン切断面の画像の2値化(白と黒の画像)、2値化画像を元にスライス面のクラスト部の面積及びスライス面外周部の長さの計測、並びに式[(クラスト部の面積)÷(スライス面外周部の長さ)]によるクラスト厚の算出を行った。なお、クラスト厚は、2cm厚にカットした低含油タイプパン5個を計測し、その平均値を求めた。算出されたクラスト厚を以下の判定基準に従って分類し、クラスト厚を評価した。
<判定基準>
◎:基準の45%以下の厚み
○:基準の45%超え〜60%以下の厚み
×:基準の60%超えの厚み
前記判定基準において、基準とは、通常の配合(原料に小麦以外の澱粉質を使用せず、砂糖以外の糖類を使用しない配合)で作製した低含油タイプパンのクラスト厚を指す。
【0043】
(食感評価)
低含油タイプパンの官能試験をよく訓練された10人のパネラーで行った。パネラーは製造1日後の低含油タイプパンを、クラストのひき及びクラム(パン内部)の食感を表1に示す判定基準に従って段階評価で数値化した。10人のパネラーの評点の平均値を食感点数とし、食感点数をもとに以下のように分類して食感評価をした。
<食感評価の分類基準>
◎4.5点以上
○3.5点以上〜4.5点未満
×3.5点未満
【0044】
【表1】
【0045】
(総合評価)
前記クラスト厚の測定結果、及び食感の評価結果に基づいて、以下に示す分類基準に従って、総合評価を行った。
<総合評価の分類基準>
◎:クラスト厚及び食感の評価結果が共に◎
○:クラスト厚及び食感の評価結果が共に○、又は一方が○で他方が◎
×:クラスト厚又は食感の評価結果の少なくとも一方が×
【0046】
2.低含油タイプパン(ソフトフランスパン)の製造及び評価
2−1.低含油タイプパン(ソフトフランスパン)の製造
表2に示す配合で、表3に示す製造工程によりソフトフランスパンを製造した。なお、パンの焼色値を10段階パン標準カラーチャート(日本パン技術研究所製)の7〜9に合わすために焼成時間を微調整した。
【0047】
【表2】
【0048】
【表3】
【0049】
表2に示す配合のうち、「A.糖類」及び「B.澱粉」として表4に示す成分を利用し、表3に示す製造工程によりソフトフランスパンを製造した。
【0050】
【表4】
※1:タピオカ澱粉由来
※2:タピオカ澱粉由来
※3:コーン澱粉由来
【0051】
2−2.低含油タイプパン(ソフトフランスパン)の評価結果
得られたソフトフランスパンのクラフト厚及び食感を評価した結果を表5に示す。この結果、糖類、澱粉分解物又は澱粉を単独で添加した場合、クラストが薄く食感の良好なソフトフランスパンは得られなかった(比較例1〜3及び10)。また、D−グルコース、D−フラクトース、トレハロース、又はマルトースと、α化澱粉を組み合わせて配合しても、クラフト厚及び食感は不十分であった(比較例4〜8)。これに対して、D−キシロース、D−プシコース、D−タガトース又はDE40の澱粉分解物と、α化澱粉とを組み合わせた場合には、クラストが薄く食感が良好なソフトフランスパンが得られた(実施例1〜4)。
【0052】
【表5】
【0053】
3.低含油タイプパン(ソフトフランスパン)の製造及び評価(配合量の検討1)
3−1.低含油タイプパン(ソフトフランスパン)の製造
表2に示す配合のうち、「A.糖類」及び「B.澱粉」として表6に示す成分を利用し、表3に示す製造工程によりソフトフランスパンを製造した。
【0054】
【表6】
※1:タピオカ澱粉由来
【0055】
3−2.低含油タイプパン(ソフトフランスパン)の評価結果
得られたソフトフランスパンのクラフト厚及び食感を評価した結果を表7に示す。この結果、D−プシコースとα化澱粉を組み合わせたソフトフランスパンにおいて、小麦粉100質量部に対して、D−プシコースを0.5〜10質量部とα化澱粉を0.5〜10質量部とを配合した場合には、クラストが薄く食感が良好なソフトフランスパンが得られることが確認された。
【0056】
【表7】
【0057】
4.低含油タイプパン(ソフトフランスパン)の製造及び評価(配合量の検討2)
4−1.低含油タイプパン(ソフトフランスパン)の製造
表2に示す配合のうち、「A.糖類」及び「B.澱粉」として表8に示す成分を利用し、表3に示す製造工程によりソフトフランスパンを製造した。
【0058】
【表8】
※1:タピオカ澱粉由来
※2:タピオカ澱粉由来
【0059】
4−2.低含油タイプパン(ソフトフランスパン)の評価結果
得られたソフトフランスパンのクラフト厚及び食感を評価した結果を表9に示す。この結果、DE18のデキストリンとα化澱粉を組み合わせたソフトフランスパンにおいて、小麦粉100質量部に対して、DE18のデキストリンを0.5〜10質量部とα化澱粉を0.5〜10質量部とを配合した場合、クラストが薄く食感が良好なソフトフランスパンが得られることが確認された。
【表9】
【0060】
5.低含油タイプパン(ソフトフランスパン)の製造及び評価(澱粉分解物DEの検討)
5−1.低含油タイプパン(ソフトフランスパン)の製造
表2に示す配合のうち、「A.糖類」及び「B.澱粉」として表10に示す成分を利用し、表3に示す製造工程によりソフトフランスパンを製造した。
【0061】
【表10】
※1:コーン澱粉由来
※2:コーン澱粉由来
※3:コーン澱粉由来
※4:タピオカ澱粉由来
※5:タピオカ澱粉由来
※6:ワキシーコーン澱粉由来
※7:タピオカ澱粉由来
【0062】
5−2.低含油タイプパン(ソフトフランスパン)の評価結果
得られたソフトフランスパンのクラフト厚及び食感を評価した結果を表11に示す。この結果、DE4〜DE40の澱粉分解物とα化澱粉を組み合わせた場合、クラストが薄く食感が良好なソフトフランスパンが得られることが確認された。また、DE11〜DE25の澱粉分解物とα化澱粉とを組み合わせた場合には、食感が特に優れたソフトフランスパンが得られることが確認された。更に、DE18〜DE25の澱粉分解物とα化澱粉とを組み合わせた場合では、クラストがより薄いソフトフランスパンが得られることも明らかとなった。
【0063】
【表11】
【0064】
6.低含油タイプパン(ソフトフランスパン)の製造及び評価(α化澱粉の種類の検討)
6−1.低含油タイプパン(ソフトフランスパン)の製造
表2に示す配合のうち、「A.糖類」及び「B.澱粉」として表12に示す成分を利用し、表3に示す製造工程によりソフトフランスパンを製造した。
【0065】
【表12】
※1:タピオカ澱粉由来(加工処理なし)
※2:タピオカ澱粉由来(ヒドロキシプロピル基 置換度0.12)
※3:タピオカ澱粉由来(ヒドロキシプロピル基 置換度0.09)
※4:馬鈴薯澱粉由来 (アセチル基 置換度0.055)
※5:タピオカ澱粉由来
【0066】
6−2.低含油タイプパン(ソフトフランスパン)の評価結果
得られたソフトフランスパンのクラスト厚及び食感を評価した結果を表13に示す。この結果、種々のα化澱粉を用いてプシコースと組み合わせた場合、クラストが薄く、且つパン内部がしっとりとした柔らかいソフトフランスパンが製造できることが確認された。特に、α化澱粉としてα化ヒドロキシプロピル化架橋澱粉を用いた場合では、クラストがより薄く、且つパン内部がしっとりと柔らかく、クラフト及び食感が極めて良好なソフトフランスパンが製造できることが明らかとなった。
【0067】
【表13】
【0068】
7.低含油タイプパン(ソフトフランスパン)の製造及び評価(α化澱粉の種類の検討)
7−1.低含油タイプパン(ソフトフランスパン)の製造
表2に示す配合のうち、「A.糖類」及び「B.澱粉」として表14に示す成分を利用し、表3に示す製造工程によりソフトフランスパンを製造した。
【0069】
【表14】
※1:タピオカ澱粉由来(加工処理なし)
※2:タピオカ澱粉由来(ヒドロキシプロピル基 置換度0.12)
※3:タピオカ澱粉由来(ヒドロキシプロピル基 置換度0.09)
※4:馬鈴薯澱粉由来(アセチル基 置換度0.055)
※5:タピオカ澱粉由来
【0070】
7−2.低含油タイプパン(ソフトフランスパン)の評価結果
得られたソフトフランスパンのクラフト厚及び食感を評価した結果を表15に示す。この結果、種々のα化澱粉を用い澱粉分解物と組み合わせた場合、クラストが薄く、且つパン内部がしっとりとした柔らかいソフトフランスパンが製造できることが確認された。また、糖類としてプシコースを用いた場合と同様、α化澱粉としてα化ヒドロキシプロピル化架橋澱粉を用いた場合に、クラフト及び食感が特に優れたソフトフランスパンが得られることも確認された。
【0071】
【表15】
【0072】
8.低含油タイプパン(チャバッタ)の製造及び評価
表16に示す配合で、表17に示す製造工程によりチャバッタを製造した。
【0073】
【表16】
※1:タピオカ澱粉由来
【0074】
【表17】
【0075】
8−2.低含油タイプパン(チャバッタ)の評価結果
得られたチャバッタについて、クラフト厚及び食感を評価したところ、D−プシコースとα化澱粉を含む原料で製造したチャバッタでは、クラストが薄く食感も良好であった。