(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6573801
(24)【登録日】2019年8月23日
(45)【発行日】2019年9月11日
(54)【発明の名称】ガラス管の製造法及びその使用
(51)【国際特許分類】
C03B 17/04 20060101AFI20190902BHJP
C03C 3/091 20060101ALI20190902BHJP
C03C 3/093 20060101ALI20190902BHJP
【FI】
C03B17/04 C
C03C3/091
C03C3/093
【請求項の数】10
【外国語出願】
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-160107(P2015-160107)
(22)【出願日】2015年8月14日
(65)【公開番号】特開2016-41650(P2016-41650A)
(43)【公開日】2016年3月31日
【審査請求日】2018年7月11日
(31)【優先権主張番号】10 2014 111 646.1
(32)【優先日】2014年8月14日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】504299782
【氏名又は名称】ショット アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Schott AG
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ カス
【審査官】
井上 政志
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−015365(JP,A)
【文献】
特開2008−266082(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2001/0055930(US,A1)
【文献】
特開平04−074731(JP,A)
【文献】
特開平07−242444(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B17/04
C03C1/00−14/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス管の製造法であって、
溶融ガラス(25)を、回転する円筒形の成形体(10)の外側表面上に施与して、当該表面上に溶融ガラスの中空体(28)を形成すること、及び
ガラス管(27)の形成のために、前記溶融ガラスの中空体(28)を前記成形体(10)に沿って所定の方向で前端部に向けて引き抜くこと、
を有し、ここで、前記成形体は、前記溶融ガラスと接触する領域で白金又は白金合金により被覆されている前記製造法において、
前記溶融ガラスは、以下の組成:
SiO2 71.0〜73.60;B2O3 9.0〜12.0;Na2O 5.5〜8.0;K2O 0.7〜2.0;Al2O3 6.5〜8.0;CaO 0.0〜1.5;BaO 0.0〜2.0;Li2O 0.0〜0.5;ZrO2 0.0〜5.0
を質量%単位で有する、前記ガラス管の製造法。
【請求項2】
組成物が6.7質量%超のK2O及びAl2O3の量の総和を有する、請求項1記載のガラス管の製造法。
【請求項3】
組成物が10.0質量%以下のK2O及びAl2O3の量の総和を有する、請求項2記載のガラス管の製造法。
【請求項4】
組成物が1.0質量%から2.0質量%の間の範囲の量でK2Oを有する、請求項1から3までのいずれか1項記載のガラス管の製造法。
【請求項5】
組成物が0.7質量%未満の量でCaOを有する、請求項1から4までのいずれか1項記載のガラス管の製造法。
【請求項6】
組成物がCaO不含である、請求項5に記載のガラス管の製造法。
【請求項7】
前記溶融ガラスが、清澄剤として0.0質量%から0.3質量%の間の量でFを有し、0.0質量%から0.3質量%の間の量でCl-を有し、かつ/又は0.0質量%から1質量%の間の量でCeO2を有する、請求項1から6までのいずれか1項記載のガラス管の製造法。
【請求項8】
溶融ガラス(25)を、回転する円筒形の成形体(10)の外側表面上に施与して、当該表面上に溶融ガラスの中空体(28)を形成し、ガラス管(27)の形成のために、当該溶融ガラスの中空体(28)を前記成形体(10)に沿って所定の方向で前端部に向けて引き抜き、ここで、前記成形体は、前記溶融ガラスと接触する領域で白金又は白金合金により被覆されている方法においてガラス管を製造するために、SiO2 71.0質量%〜73.60質量%;B2O3 9.0質量%〜12.0質量%;Na2O 5.5質量%〜8.0質量%;K2O 0.7質量%〜2.0質量%;Al2O3 6.5質量%〜8.0質量%;CaO 0.0質量%〜1.5質量%;BaO 0.0質量%〜2.0質量%;Li2O 0.0質量%〜0.5質量%;ZrO2 0.0質量%〜5.0質量%の組成を有するガラスの使用。
【請求項9】
前記溶融ガラスが、清澄剤として0.0質量%から0.3質量%の間の量でFを有し、0.0質量%から0.3質量%の間の量でCl-を有し、かつ/又は0.0質量%から1.0質量%の間の量でCeO2を有する、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
医薬品用途用の物質を保管するための容器を製造するための、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法によって製造されたガラス管の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2014年8月14日付けで提出された独国特許出願番号102014111646.1“ガラス管の製造法及びその使用”の優先権を主張するものであって、その開示内容全体を参照によって組み込んだものとする。
【0002】
本発明は、いわゆるダンナー法によるガラス管の製造に関し、とりわけ、高い均一性及び耐化学薬品性を有するホウケイ酸ガラスから成り、特に医薬品用途用の物質を保管するための容器、例えばアンプル、バイアル又はシリンジ本体を製造するための用途用のガラス管の製造に関する。本発明の更なる観点は、前述の用途用のホウケイ酸ガラスのガラス組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
高い均一性及び寸法安定性を有するガラス管、特に医薬品用途用の物質を保管するための容器、例えばアンプル、バイアル又はシリンジ本体を製造するためのガラス管の製造には、いわゆるダンナー法がコストの理由からよく用いられ、この方法の場合、溶融トラフから出てくる溶融ガラスが、回転する円筒形の管体(いわゆるダンナーブローパイプ、これ以降、ダンナーマンドレルとする)の外側表面上に流れ、そこで溶融ガラスの中空体が形成される。溶融ガラスは、成形用部材として作用するこの筒状体によって、所定の方向で前端部に引かれ、そこで溶融ガラスは、自由な成形加工に移る。ガラス管の内側プロファイルは、前端部付近の筒状体の外側輪郭によって実質的に規定される。
【0004】
医薬品用途用の物質を保管する容器用のガラス管を製造するために、高い耐化学薬品性及び低いイオン放出性によって特に特徴付けられるホウケイ酸ガラスが一般に用いられる。かかる用途用のホウケイ酸ガラスの組成の例が、米国特許US4,386,164及びUS3,054,686に開示されている。
【0005】
しかしながら、成形用ボディとして作用する筒状体が、Al
2O
3含有材料、例えば、典型的にはシャモット、ムライト又はシリマナイトから成る場合、ガラス管の内側表面の特性は、医薬品用途には不利に変質させられる。とりわけ、ガラス管の内側表面からのアルカリ金属イオンの放出が高められ、なぜなら、化学元素が筒状体の材料からガラス管の内側表面内に拡散するからである。
【0006】
成形用ボディとして作用する筒状体が、他の慣用の材料、例えばケイ酸ジルコニウムから成る場合、成形プロセス中に筒状体の領域で失透傾向が強まり、その結果、ガラス管及びその後に当該ガラス管から製造された医薬品包装容器の品質の不所望な低下が生じる。
【0007】
ガラス内へのイオンの放出及び失透傾向を低減させるために、先行技術においては、成形用ボディに層又は被覆を設けることが提案されている。
【0008】
例えば、DE10141586C1は、ガラス管を引くいわゆるベロ法を開示しており、この方法において用いられる、固定されて取り付けられている管引き用ニードルが、好ましくは貴金属から成る耐熱材料から成るシェルにより被覆されている。
【0009】
ベロ法における失透傾向を低減させるために、DE102004024767B4は、管引き用ニードルの前端部に備えられたテーパー部の任意の点での熱放射の放出係数が、管引き用ニードルの他の領域中でより大きいことを開示している。管引き用ニードルの前端部での材料として、とりわけ卑金属、特には適切な高温耐熱鋼が用いられ、これは、とりわけ一般のプロセス条件下で酸化物層を形成することができ、この領域中での熱放射の放出係数に好ましい影響を及ぼす。
【0010】
先行技術からは、ダンナー法において用いられ、かつ成形用筒体(いわゆるダンナーマンドレル)として作用する筒状体に白金被覆を備えることも知られている。かかるダンナーマンドレルの例が、US2007/0087194A1に開示されており、かつ、これが白金又は白金族金属(PGM)の被覆に基づき、セラミック材料の慣用のダンナーマンドレルと比べて、化学的負荷及び物理的負荷に対するダンナーマンドレルの改善された耐性ひいてはずっと高い製造温度を可能にする。
【0011】
本出願人のDE10027699A1は、ジルコニア及び酸化リチウムを含み、かつ、かなり高い量のK
2Oを含有する、高い耐化学薬品性のホウケイ酸ガラスを開示している。このホウケイ酸ガラスは、SiO
2 71.5〜74.5、B
2O
3 8.0〜11.0、Al
2O
3 5.0〜7.0、Li
2O 0.1〜<0.5、Na
2O 5.0〜6.5、K
2O 1.8〜3.0、MgO 0.0〜1.0、CaO 0.0〜2.0、MgO+CaO 0.0〜2.0、 ZrO
2 0.5〜2.0、CeO
2 0.0〜1.0、F 0.0〜0.3の組成(質量%記載、酸化物ベース)及び任意に慣用の清澄剤を通常の量で有する。それに、ガラスはAl
2O
3を少なくとも5.0質量%、かつ7.0質量%以下、好ましくは最大でも6.5質量%の量で含み、それによってガラスは比較的結晶化安定性であるべきことが開示されている
【0012】
しかしながら、本発明者による入念な調査により、特にある一定のホウケイ酸ガラスを用いたガラス管の製造において、これらを白金被覆が備えられているダンナーマンドレル上で引いた場合に、不所望にも強い失透傾向が現れることが明らかになった。とりわけ、白金又は白金族金属の被覆が、あらゆる種類のガラスの許容できる低さの失透速度を常にもたらすというわけではなく、そして上で記載したような白金又は白金族金属(PGM)の被覆を有する改善されたダンナーマンドレルによって、一般に用いられるガラス組成物から、とりわけホウケイ酸ガラスの慣用の組成物から、ガラス管を十分な品質をともなって引くことは往々にしてできないことがわかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許US4,386,164
【特許文献2】US3,054,686
【特許文献3】DE10141586C1
【特許文献4】DE102004024767B4
【特許文献5】US2007/0087194A1
【特許文献6】DE10027699A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の概要
本発明の課題は、ガラス管、とりわけ医薬品用途用のガラス管を製造するための改善されたダンナー法を提供することであり、この方法によって、ガラス管をホウケイ酸ガラスから、高い寸法精度及び高い耐化学薬品性をともなって低い失透傾向で製造することができる。本発明の更なる観点によれば、かかる製造法におけるガラス組成物の改善された使用を提供するものとする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
これらの課題は、請求項1記載のガラス管の製造法によって、並びに請求項11及び14のそれぞれに記載の使用によって解決される。更なる好ましい実施形態は、従属請求項の主題である。
【0016】
本発明によれば、溶融ガラスを、回転する円筒形の成形体(shaping body)の外側表面上に施与して、その表面上に溶融ガラスの中空体を形成すること;及びガラス管の形成のために、溶融ガラスの中空体を成形体に沿って所定の方向で前端部に向けて引き抜く(withdrawing)ことを有する、ガラス管の製造法が提供され、ここで、成形体は、溶融ガラスと接触する領域(部分)で白金又は白金合金により被覆されている。本発明によれば、溶融ガラスは、以下の組成を質量パーセント(質量%)で有する:SiO
2 71.0〜77.0;B
2O
3 9.0〜12.0;Na
2O 5.5〜8.0;K
2O 0.0〜2.0;Al
2O
3 6.5〜8.0;CaO 0.0〜1.5;BaO 0.0〜2.0;Li
2O 0.0〜0.5;ZrO
2 0.0〜5.0。
【0017】
本発明者による入念な一連の実験により、酸化アルミニウム及び酸化カリウムが、特に酸化カリウムはゼロ以外の数値の量で同時に存在することで、該当する溶融ガラスを、白金又は白金合金により被覆されているいわゆるダンナーマンドレルによって高品質のガラス管へと引くことができるように失透特性の改善が促進され得ることが明らかになった。したがって、本発明によれば、医薬品一次包装用の使用のために非常に重要であるガラス管の高い寸法精度及び均質性を達成することができる。溶融ガラスの組成物における酸化アルミニウムの量は、上限値を有している必要があり、なぜなら、酸化アルミニウムは、一般的に溶融温度を上昇させるからである。本発明によれば、上記の混合比が、特に好ましいものであることが判明した。
【0018】
たいていの中性ガラスは、ナトリウムを含有し、かつ熱力学的な観点からクリストバライト(SiO
2)の安定領域にある。本発明者による一連の実験により、酸化アルミニウムを溶融ガラスに加えた場合、失透を遅らせ、かつ失透温度を低下させることが可能であることが明らかになった。酸化アルミニウムの添加によって、別の結晶相、すなわち曹長石(ソーダ長石)の形成が熱力学的に可能である。結晶相の曹長石は、比較的低い温度で失透し、かつ、それによってクリストバライトの形成を遅らせることができることを確かめた。
【0019】
さらに、用いられる成形体の比較的長い耐用寿命及び耐久性を、本発明により白金又は白金合金の被覆に基づき達成することができる。
【0020】
有利には、成形体は、少なくとも溶融ガラスと接触する領域(部分)で白金又は白金合金により被覆されている。基本的に、白金を含有する合金は、白金合金、例えばPt/Rh合金、Pt/Ir合金、Pt/Au合金又は適切な白金族金属(PGM)と見なしてよい。このように、前述のガラス組成において、内側のガラス表面の一貫して低いイオン放出を本発明により達成することができる。このために、白金又は白金合金は、有利には薄板として準備され、これは回転する円筒形の成形体を被覆又は被着するために使用される。代替案として、白金又は白金合金の適切な溶射被覆を準備してもよい。この場合、円筒形の成形体は、セラミック支持体として又は金属製の支持体として、とりわけ金属製の中空骨格として準備してもよい。
【0021】
白金又は白金合金の更なる実施形態によれば、必ずしも円筒形の成形体全体をおおっている必要はない。むしろ、非常に高温の溶融ガラスと直接接触する円筒形の成形体の部分のみを被覆又は被着することで十分であり得る。したがって、成形体は、回転する円筒形の成形体の外側表面上に溶融ガラスが流下する部分を出発点として、ある一定の軸方向長さまで白金又は白金合金により被覆されており、かつ成形体の前端部−通常、そこには金属製のヘッドが配置されている−の手前で白金又は白金合金の被覆が中断していることで十分であり得る。例えば、成形体の軸方向長さの約50%まで、有利には成形体の軸方向長さの約75%まで、そのつど、回転する円筒形の成形体の外側表面上に溶融ガラスが流下する部分を出発点として、白金又は白金合金により被覆すれば十分であり得る。これは、更なるプロセスパラメーター、とりわけガラスチューブ(glass tubing)の引き抜き速度、ガラスチューブの肉厚、円筒形の成形体の勾配、用いられる溶融ガラスの粘度、円筒形の成形体のその前端部での面取りに依存することになる。
【0022】
更なる実施形態によれば、組成物は6.7質量%超のK
2O及びAl
2O
3の量の総和を有する。カリウムを前述のガラス組成物に添加することによって、本発明によれば、失透及び結晶化の傾向をさらに遅らせることができる。すなわち、カリウム及びナトリウムのいずれも、長石、すなわち、正長石(カリ長石)及び曹長石(ソーダ長石)のそれぞれを形成し得る。しかしながら、混和性ギャップが正長石と曹長石との間に存在し、すなわち、ナトリウムイオンとカリウムイオンとの非常に異なる大きさのために混晶又は固溶体の形成は可能ではない。結晶構造がこれを可能にしない。したがって、カリウムを、すでにナトリウム及びアルミニウムを含有する中性の溶融ガラスに添加した場合、本発明によれば、別の結晶の形成、すなわち正長石の形成が可能である。意想外にも、本発明者は、多くの結晶相が可能であればあるほど、それだけ一層、これらの結晶が結晶化する蓋然性は低くなることに気付いた。本発明によれば、前述のガラス組成物は、相図におけるいわゆる三重点又はその近傍にある。三重点で又はその近傍において、3つの結晶相は、結晶化を直接競り合う。したがって、結晶相は互いに干渉し合い、それゆえ本発明によれば結晶化及び失透を最大限に遅らせることができる。
【0023】
更なる実施形態によれば、組成物は10.0質量%以下のK
2O及びAl
2O
3の量の総和を有する。この組成により、酸化アルミニウムの量は、許容できる溶融温度となるように制限される。本発明によれば、カリウムが同時に存在することで、上記の通り、失透及び結晶化の傾向が低減させられる。
【0024】
更なる実施形態によれば、組成物は0.0質量%より高い量でK
2Oを有し、そうして溶融ガラス中である一定のカリウムの量がいずれの場合においても実現され、かつ失透及び結晶化の傾向を効果的に低減させることができる。
【0025】
更なる実施形態によれば、組成物は少なくとも0.7質量%の量でK
2Oを有し、そうしてガラス組成物の相図における上記の位置が実現される。本発明者による入念な一連の実験により、失透及び結晶化は、プロセス条件下でK
2Oを選択的に添加するだけで、許容できる基準に低減させることができることが明らかになった。有利にはこれは、Al
2O
3の量が6.5質量%から8.0質量%の間の範囲にあり、特にK
2O及びAl
2O
3の量の総和が6.7質量%超の場合に当てはまる。
【0026】
更なる実施形態によれば、組成物は0.7質量%から2.0質量%(すなわち、この量は上限値を有する)の間の量でK
2Oを有する。本発明者による入念な一連の実験により、失透及び結晶化は、プロセス条件下でK
2Oをこれらのパラメーター限界値内で選択的に添加するだけで、許容できる基準に低減させることができることが明らかになった。有利にはこれは、Al
2O
3の量が6.5質量%から8.0質量%の間の範囲にあり、特にK
2O及びAl
2O
3の量の総和が6.7質量%超の場合に当てはまる。
【0027】
更なる実施形態によれば、組成物は1.0質量%から2.0質量%(すなわち、この量は上限値を有する)の間の量でK
2Oを有する。本発明者による入念な一連の実験により、失透及び結晶化は、プロセス条件下でK
2Oをこれらのパラメーター限界値内で選択的に添加するだけで、許容できる基準に低減させることができることが明らかになった。有利にはこれは、Al
2O
3の量が6.5質量%から8.0質量%の間の範囲にあり、有利にはK
2O及びAl
2O
3の量の総和が6.7質量%超の場合に当てはまる。
【0028】
更なる実施形態によれば、組成物は0.7質量%未満の量でCaOを有する。本発明者による入念な一連の実験により、カルシウムが失透特性の更なる改善をもたらさないことが明らかになり、なぜなら、カルシウムは、ナトリウムと−これら2つの元素のイオンの大きさが類似していることから−混晶又は固溶体を形成し得るからである。
【0029】
それゆえ、更なる実施形態によれば、組成物はCaO不含であり、すなわち、CaOの量は、原料の混合比において標準検出精度及び標準公差内では無視できる。
【0030】
本発明の更なる観点によれば、溶融ガラスは、清澄剤として0.0質量%から0.3質量%の間の量でFを有し、0.0質量%から0.3質量%の間の量でCl
-を有し、かつ/又は0.0質量%から1質量%の間の量でCeO
2を含有する。しかしながら、基本的には、任意の他の適した清澄剤も同様に使用してよい。
【0031】
本発明の更なる観点は、溶融ガラスを、回転する円筒形の成形体の外側表面上に施与して、その表面上に溶融ガラスの中空体を形成し、溶融ガラスの中空体を、ガラス管の形成のために、成形体に沿って所定の方向で前端部に向けて引き抜くダンナー法によりガラス管を製造するための上記の組成のガラスの使用に関し、ここで、成形体は、溶融ガラスと接触する領域で白金又は白金合金により被覆されている。
【0032】
本発明の更なる観点によれば、上記の通り、本発明による方法によって製造されたガラス管は、医薬品用途用の物質を保管するための容器、とりわけアンプル、バイアル又はシリンジ本体を製造するために用いられる。
【0033】
本発明によるガラス管は、製造プロセスを通じて一貫している特に好ましい加水分解安定性を有する。
【0034】
これ以降、本発明を、添付の図面及び実施例に応じて説明していく。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】ダンナー法に従ってガラス管を製造するための本発明による方法の概略を示す図
【
図2】本発明によるガラス組成物及び比較例の失透速度の測定値を示す図
【発明を実施するための形態】
【0036】
図1は、十分な厚みのシリカガラス被覆により被覆されている、中実体(solid body)として設計された円筒形の石英ガラス体10を有するか又は円筒形のボディ(非図示)を有する、本発明により構成されたダンナーマンドレルを示す。このボディ10は、白金又は白金合金の被覆11により被されており、特に白金又は白金合金の薄板により覆われており、そうしてこれは公知のダンナー法によりガラス管を引くための成形体として作用し得る。このボディ10は、任意の他の適したセラミック材料又は金属支持体から成っていてもよく、当該金属は、特に金属製の中空骨格として形成されていてよい。ボディ10は、軸方向の内部穿孔3を有するシャフト2に支持されており、かつガラス管の製造のために一定の回転速度で回転させられる。必要に応じて、空気又はガスを内部穿孔3を介して、ボディ10の前端部に形成されている引き抜き用バルブ(drawing bulb)26(溶融ガラスのホース)内に吹き込んでよい。
【0037】
図1によれば、適切に調整されており、かつ以下でより詳しく述べる組成を有する粘性の溶融ガラス25が、管状の溶融ガラス体28を成形するための、ゆっくりと回転する管状のダンナーマンドレルの表面上に流れる(溶融ガラス28は、ダンナーマンドレルからゆっくりと引き抜かれる)。
図1によれば、ダンナーマンドレルの前端部は、円錐形に先細になっている。
【0038】
図1には示されていないが、ボディの後端部及び前端部は、引き抜き方向に見て、分離した金属ボディとして形成されていてよく、その間に実際のボディ10が締め付けられているか又は挟持されている。この場合、引き抜き方向に見て前方の金属ボディは、
図1に略記されているように、引き抜き方向で面取りされていてよい。
【0039】
プロセス条件に依存して、ボディ10は、必ずしもその軸方向長さ全体にわたって白金又は白金合金により被されている必要はない。むしろ、非常に高温の溶融ガラスと直接接触している円筒形の成形体10の部分のみが被覆又は被着されているだけで十分であり得る。したがって、成形体10は、回転する成形体10の外側表面上に溶融ガラス25が流下する部分を出発点として、ある一定の軸方向長さまで白金又は白金合金により被覆されており、かつ、引き抜き方向に見て、成形体10の前端部の手前で白金又は白金合金の被覆が中断していることで十分であり得る。例えば、成形体10の軸方向長さの約50%まで、より好ましくは成形体10の軸方向長さの約75%まで、そのつど、回転する円筒形の成形体10の外側表面上に溶融ガラス25が流下する部分を出発点として、白金又は白金合金により被覆すれば十分であり得る。これは、更なるプロセスパラメーター、とりわけガラスチューブの引き抜き速度、ガラスチューブの肉厚、円筒形の成形体10の勾配、用いられる溶融ガラスの粘度、円筒形の成形体10のその前端部での面取りに依存することになる。本発明によれば、被覆は、非常に高温の溶融ガラスが、成形体10の材料、典型的にはセラミック材料と反応することを妨げる。
【0040】
下記の表には、本発明による実施形態及び比較例のガラス組成、並びに転移温度及び溶融温度を記している。さらに、本発明者によって白金表面について測定した失透速度を示している。失透速度は、白金被覆により被覆されているダンナーマンドレル上でガラス管を引いた代表値である。下に載せた表及び追加の例の結晶化挙動を測定するために、ホウケイ酸ガラスの結晶化挙動を、ASTM C829−81によって測定した。より厳密に言えば、結晶化挙動は、この方法によって目視観察する。白金ホルダーに設けられたガラスサンプルを、特定の一定温度勾配を維持する炉内で加熱処理する。処理後、ガラス中の結晶成長を顕微鏡によって観察し、かつ結晶成長の液相線温度及び温度依存性を測定する。2種類のサンプルホルダーを用いる。一方は、細かく篩い分けされたテストガラスの粒子で満たされているトラフ式の白金容器であり、他方は、多数の孔が一列になって穿孔されている白金トレイである。比較的大きい篩い分けされたテストガラスの粒子は、プレートの孔1個につき1つある。これらの観察に基づき、本発明者によって失透速度が測定された。
【0042】
例1、2及び4によるガラス組成については、許容できる低さの失透速度を検出することができた。これらのガラスは、白金被覆が備わったダンナーマンドレルを用いてガラス管へと引くことができ、なぜなら、結晶成長が過度になりすぎることがないからである。
【0044】
比較例V1及びV2によるガラス組成については、許容できない高さの失透速度が検出された。これらのガラスは、白金被覆が備わったダンナーマンドレルを用いてガラス管へと引くことができず、なぜなら、結晶成長が過度になりすぎるからである。
【0045】
追加の例
図2は、本発明によるガラス組成物及び比較例の失透速度の測定値を、それぞれK
2Oの量を関数として示すグラフである。ここで、水平線は、ホウケイ酸ガラスより成るガラス管の引き抜き(とりわけ、溶融ガラスの標準温度、溶融ガラスの標準流速、ガラス管の標準引き抜き速度、ダンナーマンドレル及び製造されるべきガラス管の標準直径及びガラス管の肉厚)の標準プロセス条件下での許容できる失透速度の上限値を示す。
【0046】
慣用のホウケイ酸ガラス(例えば本出願人のDE10027699A1に開示されたホウケイ酸ガラス)及び0.5質量%のK
2Oの量の測定値は、プロセス条件下での過度に高い失透速度を指し示すものである。約0.7質量%より高いK
2Oの量では、許容できる低さの失透速度を測定することができた。2.0質量%より高いK
2Oの量では、プロセス条件下で過度に高い失透速度も検出された。この測定は、K
2Oの量が、好ましくは上限値と下限値の両方を有しているべきであることを示している。とりわけ、ガラス組成物は、好ましくは0.7質量%から2.0質量%の間の範囲の量で、より好ましくは1.0質量%から2.0質量%の間の範囲の量でK
2Oを有する。
【0047】
図2に示される許容できる失透速度の上限値は、異なるプロセス条件、殊にガラス管の引き抜きの異なる速度では異なる可能性があること、しかし、上記の失透速度の挙動は−K
2Oの量の下限値及び/又は上限値がわずかにシフトすることはおそらくあり得るにせよ−かかる異なるプロセス条件に相応して当てはまることに留意されたい。これは、溶融ガラスの組成、とりわけAl
2O
3の量の下限値及び/又は上限値の他のパラメーター範囲にも言える。
【0048】
本発明によるガラス組成物でもって、良好な耐加水分解性を有するガラス管を製造することが可能であり、そうして当該ガラス管は、基本的には医薬品用途用の一次包装の製造に適している。本発明による方法によって製造されたガラス管は、際立った光学特性及び高均質性によっても特徴付けられる。
【0049】
上記記載を検討することで当業者であればすぐにわかるように、当然のことながら、本発明の方法は、連続的及び不連続的なガラス管の製造のいずれにも適している。
【符号の説明】
【0050】
2 ガラス管、 3 軸方向の内部穿孔、 10 成形体、 11 白金の被覆、 25 溶融ガラス、 26 引き抜き用バルブ、 27 ガラス管、 28 溶融ガラスの層