(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、減圧下において基材の表面に皮膜を形成する技術として、イオンプレーティング、AIP法、スパッタ法などの物理的蒸着法(PVD法)やプラズマCVD法などの化学的蒸着法(CVD法)などの種々の技術がある。
【0003】
これらの技術では、真空ポンプにより真空に近い気圧まで減圧された真空チャンバの内部において、基材ホルダに保持された基材の表面に皮膜が形成される。
【0004】
例えば、特許文献1には、真空中で公転軸回りに公転する基材ホルダに固定された基材にスパッタリング法により皮膜を形成する真空成膜装置が開示されている。この基材ホルダは、円筒状や多角形形状を有している。基材の外周面には、多数の基材が装着される。また、特許文献2には、真空中で遊星回転(すなわち、自転しながら公転軸回りに公転)する基材テーブル上に搭載した基材にプラズマCVD(PECVD)法によって皮膜を形成する真空成膜装置が開示されている。
【0005】
これらの真空成膜装置を用いて基材の成膜を行う場合、基材温度は、良好な皮膜の特性が得られる温度に制御(一般的には加熱)される必要がある。基材間において基材温度にばらつきが生じれば、皮膜の特性にばらつきが生じる。そのため、成膜中の基材温度は高い均一性で制御する必要がある。
【0006】
従来、基材の温度制御を行うために、真空チャンバ内部に設置された加熱源からのプラズマ加熱や輻射加熱を行うことによって、基材ホルダに取り付けられた基材を加熱する技術がある。しかし、これらの加熱方法では、加熱源から放射される熱が基材ホルダに取り付けられた多数の基材に均一に伝わりにくいので、基材間で基材温度のばらつきが生じるおそれがある。
【0007】
また、他の加熱方法として、真空チャンバ外部のヒータで加熱された水や油などの温度制御媒体を基材ホルダ内部に循環させることにより、当該温度制御媒体の熱を基材ホルダを介して基材ホルダに取り付けられた基材へ伝達することによって基材を加熱する技術がある。しかし、この技術では、基材ホルダ内部を循環する経路において上流側と下流側とでは温度制御媒体の温度にばらつきがあるので、基材ホルダの温度を均一に保つことが難しい。そのため、この技術も、基材ホルダに取り付けられた基材間に基材温度のばらつきがある。
【0008】
そこで、基材温度を均一に制御するために、特許文献3に記載されているように、ヒートパイプと、当該ヒートパイプの下部に接続された加熱部とを備えた成膜装置が提案されている。この成膜装置では、基材ホルダの代わりにヒートパイプが真空チャンバ内部に設置されている。基材は、ヒートパイプの外周面に装着される。ヒートパイプは、筒体と、筒体の内部に封入された作動流体とを有する。加熱部がヒートパイプの筒体を下方から加熱することにより、筒体内部の作動流体が加熱される。これにより、ヒートパイプ全体が均一な温度を維持することが可能であり、ヒートパイプに装着された基材間において基材温度を均一に制御する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献3記載の成膜装置では、ヒートパイプがその下部に設置された加熱部によって加熱される。真空チャンバ内部の真空状態では、熱を媒介する気体が存在しないので、加熱部からヒートパイプへの熱伝達は、加熱部とヒートパイプの筒体との接触部でのみ行われる。そのため、加熱部からヒートパイプへの熱伝達を効率よく行うことができないという問題がある。また、ヒートパイプにおいては、加熱部からの熱は、筒体を介して作動流体に伝達されるので、作動流体を効率よく昇温することが難しいという問題がある。そのため、この成膜装置では、ヒートパイプの加熱を効率よく行って基材温度を速やかに均一に制御することは難しい。
【0011】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、基材温度を効率よく均一に制御することが可能な成膜装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するためのものとして、本発明の成膜装置は、減圧下で基材の成膜を行う成膜装置であって、真空チャンバと、前記真空チャンバの内部に取り付けられ、前記基材を保持する保持部を有する収容容器であって、その内部に収容空間を有する収容容器と、液体と気体との間で相変化する温度制御媒体であって、前記収容空間の底部に前記液体が存在するとともに当該液体の上に前記気体が存在する状態で当該収容空間の内部に収容された温度制御媒体と、前記収容空間の内部において前記液体と接触する位置に設置され、前記温度制御媒体を気化可能な温度に加熱する加熱源と、
前記収容容器の収容空間の内部の底部に配置され、前記温度制御媒体における液体状態の部分を冷却する液体冷却部と、を備えていることを特徴とするものである。
【0013】
本発明では、基材に熱を伝達する温度制御媒体を加熱源によって直接加熱することにより、基材温度を効率よく均一に制御することを可能にする。すなわち、上記の構成によれば、加熱源は、収容容器の収容空間において、液体と気体との間で相変化する温度制御媒体の液体と接触する位置に設置されているので、当該加熱源は、従来技術のように筒体などを介さずに温度制御媒体を直接加熱し、速やかに当該媒体を気化可能な温度まで加熱することが可能である。このため、温度制御媒体の液体が気化して発生した気体、すなわち蒸気は、収容空間に速やかに拡散され、当該蒸気の潜熱によって収容容器を均一に加熱する。その結果、収容容器に取り付けられた基材を速やかに均一に加熱することが可能である。よって、基材温度を効率よく均一に制御することが可能である。
また、上記の構成によれば、収容空間の内部の底部において、温度制御媒体における液体状態の部分を液体冷却部によって冷却することによって、蒸気を含む温度制御媒体全体の温度を下げることが可能になり、成膜時において収容容器の温度上昇を抑えることが可能である。
【0014】
前記収容容器の前記収容空間は、真空状態まで減圧された状態で前記温度制御媒体が封入された空間であるのが好ましい。
【0015】
かかる構成によれば、収容空間の内部に不純物成分が無く温度制御媒体のみで満たされることにより、収容容器の高い温度均一性を得ることが可能である。
【0016】
保持部は、前記液体の表面の最大高さ以上の高い位置に配置されているのが好ましい。
【0017】
かかる構成によれば、保持部によって、収容容器を温度制御媒体の液体が存在する位置以上の高い位置、すなわち、温度制御媒体の蒸気が存在する位置に配置することが可能になる。そのため、当該蒸気の潜熱によって基材の均一な加熱を確実に達成することが可能である。
【0018】
前記保持部は、前記基材の外形形状に対応する形状を有し、当該基材の表面に密着する接触面を有するのが好ましい。
【0019】
かかる構成によれば、温度制御媒体の蒸気の潜熱を保持部の接触面を介して基材へ効率よく伝達することが可能である。
【0020】
前記温度制御媒体は、前記基材の成膜時における前記収容容器の温度に対応する当該温度制御媒体の蒸気圧が1〜100kPaになる材料であるであるのが好ましい。
【0021】
かかる構成によれば、成膜処理を行っている状態および行っていない状態のいずれの場合も、収容容器の内外の圧力差が大気圧以下に維持することができるので、収容容器の壁を薄くすることが可能である。すなわち、成膜処理を行っている状態では、真空チャンバ内部は真空に近い圧力まで減圧され、その一方で、収容容器内部は温度制御媒体が加熱源によって加熱されることによって蒸気が発生して圧力が上昇する。しかし、温度制御媒体は成膜時における収容容器の温度に対応する蒸気圧が大気圧(ほぼ100kPa)以下の1〜100kPaであるので、収容容器の内外の圧力差を大気圧以下に保つことが可能である。一方、成膜処理を行わない状態では、収容容器の外部は大気圧であるが、収容容器の内部は温度制御媒体が加熱されていないので圧力が大気圧より低い状態になる。この場合も、収容容器の内外の圧力差を大気圧以下(1〜100kPa)に保つことが可能である。よって、成膜時およびそれ以外の時のいずれの場合も、収容容器の内外の圧力差が大気圧以下に維持されるので、収容容器の耐圧性を維持するために必要な収容容器の壁を薄くすることが可能になる。これにより、当該壁における熱伝達の抵抗を下げることが可能になり、基材の温度制御がさらに容易になる。また、収容容器の軽量化も達成することが可能である。
【0022】
前記温度制御媒体は、水、アルキルベンゼン、パラフィン系炭化水素およびメチルナフタレンからなる群から選択された少なくとも1つを含むのが好ましい。
【0023】
この場合、温度制御媒体として選択される上記の材料はいずれも安価で入手しやすく、しかも、成膜時およびそれ以外の時のいずれの場合も、収容容器内外の圧力差を大気圧以下に維持することが可能である。
【0024】
前記加熱源は、前記液体に浸漬された位置に配置されたシースヒータであり、当該シースヒータは、通電時に発熱する電熱線と、当該電熱線の外周を覆って、当該電熱線を前記液体から保護するシースとを有するのが好ましい。
【0025】
かかる構成によれば、加熱源として用いられるシースヒータは、温度制御媒体の液体に浸漬されて当該シースヒータの外表面全体で温度制御媒体に接触する。これにより、温度制御媒体をシースヒータによって直接加熱して速やかに加熱することが可能である。しかも、シースヒータの電熱線はシースによって液体から保護されているので、液体が電熱線に接触して短絡が発生するおそれがない。
【0026】
前記前記加熱源は、前記収容空間の底部を形成し、前記液体と接触している底部形成部と、当該底部形成部を誘導加熱することにより前記温度制御媒体を加熱する誘導加熱部とを有してもよい。
【0027】
かかる構成によれば、温度制御媒体の液体と接触している底部形成部を誘導加熱部によって誘導加熱することにより、当該底部形成部に接触する温度制御媒体を直接加熱して当該媒体を速やかに加熱することが可能である。
【0028】
前記収容容器の収容空間の内部の上部に配置され、前記温度制御媒体における気体状態の部分を冷却する気体冷却部をさらに備えているのが好ましい。
【0029】
かかる構成によれば、収容空間の内部の上部において、温度制御媒体における気体状態の部分、すなわち蒸気を気体冷却部によって冷却して液化する。液化した温度制御媒体は、収容空間の内壁に沿って流れ落ちるときに収容容器を冷却する。その結果、成膜時において収容容器の温度上昇を抑えることが可能である。
【0032】
前記収容空間の内部に存在する気体を当該収容空間から排気する排気部をさらに備えているのが好ましい。
【0033】
かかる構成によれば、温度制御媒体の気体以外の成分を含むガスが収容空間内部に混入または発生した場合には、排気部によって当該収容空間から排気することが可能である。そのため、温度制御媒体の相変化を長期に安定して行うことが可能である。
【0034】
前記収容容器は、前記収容空間を有する収容容器本体と、前記収容容器本体の外面に取り付けられ、前記保持部を有するホルダとを有するのが好ましい。
【0035】
かかる構成によれば、ホルダを介して基材を収容容器本体の外面に確実に固定することが可能である。また、基材の形状に対応してホルダの形状を変更すればよいので、収容容器本体の形状の変更は少なくても済む。
【発明の効果】
【0036】
以上説明したように、本発明の成膜装置によれば、基材温度を効率よく均一に制御することができる。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、図面を参照しながら本発明の成膜装置の実施形態についてさらに詳細に説明する。
【0039】
図1〜2に示される成膜装置1は、真空に近い減圧下(例えば、0.1〜10Pa程度)でスパッタリングやAIPなどの成膜技術によって基材Wの成膜を行う構成を有する。具体的には、成膜装置1は、真空チャンバ2と、多数の基材Wを保持する保持部3eを有する収容容器3と、収容容器3の内部に収容された温度制御媒体4と、当該温度制御媒体4を気化可能な温度に加熱する加熱源5と、収容容器3が載置される回転テーブル6と、成膜源7と、電源8と、温度検出部9と、制御部10とを備えている。
【0040】
真空チャンバ2は、密閉された筐体である。真空チャンバ2の内部空間には、収容容器3、回転テーブル6および成膜源7が収容される。この内部空間は、図示されない真空ポンプによって成膜時には真空またはそれに近い圧力まで減圧される。また、真空チャンバ2には、図示されていないが、処理プロセスに必要なガス(例えばアルゴンなどのスパッタリングガス)を内部空間に導入するための導入部、および処理プロセス後のガスを内部空間から外部へ排出する排出部が設けられている。
【0041】
収容容器3は、収容空間3aを有する中空の筒体である。当該収容容器3の外周面には、成膜対象である基材Wが取り付けられる。具体的には、収容容器3は、円筒または多角形の角形筒状の形状を有する。収容容器3は、例えば、円筒状の周壁3bと、周壁3bの上部を閉じる天壁3cと、周壁3bの下部を閉じる底壁3dとを有する。これら周壁3bと、天壁3cと、底壁3dとによって収容空間3aが形成される。収容空間3aは、密閉空間であり、当該収容空間3aの外部から遮断されている。
【0042】
収容容器3は、基材Wが処理中に受ける熱を収容容器3内部に伝達しやすい材料で製造されるのが好ましく、ステンレス鋼などで製造される。収容容器3には、当該収容容器3の温度を測定するための温度センサなどの温度検出部9が取り付けられている。 なお、基材Wの温度を検出するための温度検出部を上記の温度検出部9とは別に設けてもよい。
【0043】
収容容器3は、
図2に示されるように、基材Wを保持する複数の保持部3eを有する。複数の保持部3eは、周壁3bにおいて円周方向に沿って等間隔に形成されている。
【0044】
各保持部3eは、基材Wの外形形状に対応する形状を有する。保持部3eは、例えば、周壁3bに形成された凹部、溝、または面取り部などによって構成される。保持部3eは、当該基材Wの表面に密着する接触面3fを有する。保持部3eの形状は、基材Wの外形形状に対応していればよく、上記の溝に限定されるものではなく、他の形状でもよい。
【0045】
本実施形態では、保持部3eは、
図1に示されるように、温度制御媒体4の後述の液体4aの表面4a1の最大高さh以上の高い位置に配置されている。
【0046】
温度制御媒体4は、基材Wの温度(基材温度)を制御するための媒体であり、液体4aと気体(すなわち蒸気4b)との間で相変化する媒体である。温度制御媒体4は、収容空間3aの底部に液体4aが存在するとともに当該液体4aの上に蒸気4bが存在する状態で当該収容空間3aの内部に収容されている。
【0047】
具体的には、収容容器3の密閉された収容空間3aの内部は、不純物が排除されて真空近くまで減圧された状態で、温度制御媒体4が封入されている。
【0048】
収容空間3aの内部では、その底部には温度制御媒体4の液体4aが存在し、当該液体4aの上のその残りの領域では蒸気4bで満たされている。すなわち、収容空間3aに充填される温度制御媒体4の量は、液体4aが収容空間3aの底部に常時存在するような(すなわち成膜処理時にすべて蒸発しないような)量に設定されている。
【0049】
このように、本実施形態では、収容空間3aは、真空状態まで減圧された状態で温度制御媒体4が封入された空間である。収容空間3aの内部が不純物成分が無く温度制御媒体4のみで満たされることにより、収容容器の高い温度均一性を得ることが可能であること、特に、温度制御媒体の蒸気圧が低い温度域での温度均一性が良くなることが発明者の実験で確認されている。
【0050】
温度制御媒体4としては、基材Wの成膜時における収容容器3の温度に対応する当該温度制御媒体4の蒸気圧が1〜100kPaになる材料が用いられる。このような材料を用いれば、成膜処理を行っている状態および行っていない状態のいずれの場合も、収容容器3の内外の圧力差が大気圧以下に維持することができるので、収容容器3の壁(例えば周壁3b)を薄くすることが可能である。すなわち、成膜処理を行っている状態では、真空チャンバ内部は真空に近い圧力まで減圧され、その一方で、収容容器3内部は温度制御媒体4が加熱源5によって加熱されることによって蒸気が発生して圧力が上昇する。しかし、温度制御媒体4は成膜時における収容容器3の温度に対応する蒸気圧が大気圧(ほぼ100kPa)以下の1〜100kPaであるので、収容容器3の内外の圧力差を大気圧以下に保つことが可能である。一方、成膜処理を行わない状態では、収容容器3の外部は大気圧であるが、収容容器3の内部は温度制御媒体4が加熱されていないので圧力が大気圧より低い状態になる。この場合も、収容容器3の内外の圧力差を大気圧以下(1〜100kPa)に保つことが可能である。よって、成膜時およびそれ以外の時のいずれの場合も、収容容器3の内外の圧力差がほぼ1〜100kPaの大気圧以下に維持されるので、収容容器3の耐圧性を維持するために必要な収容容器3の壁を薄くすることが可能になる。これにより、当該壁における熱伝達の抵抗を下げることが可能になり、基材Wの温度制御がさらに容易になる。また、収容容器3の軽量化も達成することが可能である。
【0051】
ここで、成膜時における収容容器3の温度に対応する温度制御媒体4の蒸気圧が極端に低ければ、温度制御媒体4による収容容器3の加熱能力および均熱化の能力が低下する。このため、成膜時における収容容器3の最高温度に対応する温度制御媒体4の蒸気圧は1kPa以上であることが望ましい。
【0052】
温度制御媒体4は、上記の選択条件(基材Wの成膜時における収容容器3の温度に対応する当該温度制御媒体4の蒸気圧が1〜100kPaになる)を満たす材料として、水、アルキルベンゼン、メチルナフタレン、パラフィン系炭化水素(東ソー製商品名、HC370)からなる群から選択された少なくとも1つを含むのが好ましい。これらの材料はいずれも安価で入手しやすく、しかも、成膜時およびそれ以外の時のいずれの場合も、収容容器3内外の圧力差を大気圧以下に維持することが可能である。
【0053】
例えば、成膜時の収容容器3の加熱最高温度が100℃未満、例えば80℃の場合は水を温度制御媒体4として選ぶとよい。この場合、100℃未満の温度では水の蒸気圧は1〜100kPaの範囲内(具体的には、3〜100kPa程度)になる。また、収容容器3の加熱最高温度が110℃を超え176℃未満、例えば140℃の場合はアルキルベンゼンを温度制御媒体4として選ぶとよい。この場合も、176℃未満の温度では、アルキルベンゼンの蒸気圧は上記の1〜100kPaの範囲内になる。また、収容容器3の加熱最高温度が80℃を超え196℃未満、例えば180℃の場合はパラフィン系炭化水素(例えば、HC370など)を温度制御媒体4として選ぶとよい。この場合も、196℃未満の温度では、パラフィン系炭化水素HC370の蒸気圧は上記の1〜100kPaの範囲内になる。さらに、収容容器3の加熱最高温度が高い場合は、244℃を超えない範囲であればメチルナフタレンを選ぶとよい。この場合も、244℃未満の温度では、メチルナフタレンの蒸気圧は上記の1〜100kPaの範囲内になる。
【0054】
加熱源5は、収容空間3aの内部において液体4aと接触する位置に設置される。加熱源5は、温度制御媒体4の気化が可能な温度に当該温度制御媒体4を加熱する。加熱源5は、真空チャンバ2の外部に設置された電源8から電力の供給を受けて発熱する。
図1に示される加熱源5は、例えばシースヒータであり、温度制御媒体4の液体4aに浸漬された位置に配置される。加熱源5として用いられるシースヒータは、
図3に示されるように、通電時に発熱する電熱線5aと、当該電熱線5aの外周を覆って、当該電熱線5aを前記液体から保護する筒状のシース(すなわち、さやの部分)5bと、シース5bの両端を閉じる端末部5cとを有する。加熱源5として用いられるシースヒータは、温度制御媒体4の液体に浸漬されて当該シースヒータの外表面全体で温度制御媒体4に接触する。これにより、温度制御媒体4をシースヒータによって11直接加熱して速やかに加熱することが可能である。しかも、シースヒータの電熱線5aはシース5bによって温度制御媒体4の液体から保護されているので、液体が電熱線5aに接触して短絡が発生するおそれがない。
【0055】
本実施形態では、加熱源5の形状および大きさ、ならびに温度制御媒体4の量は、加熱源5が温度制御媒体4の液体4aに常時浸漬されるように設定される。
【0056】
なお、加熱源5は、その少なくとも一部が液体4aに接触(上記実施形態では浸漬)していれば当該液体4aを直接加熱することができる。加熱源5の全体が液体4aに完全に浸漬している場合には、最も効率よく液体4aを加熱することが可能である。
【0057】
また、液体4aに浸漬された状態で当該液体4aを直接加熱可能な加熱源としては、シースヒータの他にもセラミックヒータなど他の加熱機構を採用することも可能である。
【0058】
回転テーブル6は、基材Wの成膜中、収容容器3が載置された状態で垂直軸を回転中心として回転する。これにより、収容容器3に装着された多数の基材Wを成膜源7に順次対向させながらスパッタリングなどによって基材Wの表面に皮膜を形成することが可能である。
【0059】
成膜源7は、基材Wに対して成膜処理を行うための蒸発源である。成膜源7としては、例えば、円筒状または平板状のマグネトロンスパッタ蒸発源などの蒸発源が用いられる。この成膜源7には、皮膜材料となるクロム(Cr)などの金属ターゲットが取り付けられている。成膜中は、成膜源7で発生するプラズマから基材Wおよび収容容器3へ向けて熱エネルギーが放出されるので、当該熱エネルギーを受けて基材Wおよび収容容器3は加熱される。
【0060】
以上のように構成された成膜装置1を用いて、基材Wの成膜が以下の手順で行われる。まず、
図1〜2に示されるように、収容容器3の保持部3eに多数の基材Wを固定した状態で、真空チャンバ2の内部空間の空気を排気して真空に近い減圧状態にする。次に、成膜源7を動作させて成膜材料の粒子を放出しつつ、回転テーブル6を回転させる。これにより、収容容器3の周面の保持部3eに取り付けられた基材Wの表面には、収容容器3の円周方向において均一な分布であって、収容容器3の軸方向については成膜源7の寸法や性能等によって決まる分布で皮膜が形成される。
【0061】
本実施形態の成膜装置1では、成膜中において、収容容器3に保持された多数の基材Wの温度を成膜にとって好ましい目標の温度に制御するために、制御部10は、加熱源5の加熱能力を制御して、収容容器3の全体の温度が当該目標の温度になるように均一な温度制御をする。具体的には、収容容器3の内部の収容空間3aにおいて、制御部10は、温度制御媒体4の液体4aに浸漬されたシースヒータからなる加熱源5を作動させる。加熱源5は、温度制御媒体4を直接加熱する。加熱源5によって直接加熱された温度制御媒体4の液体4aは気化可能な温度(例えば温度制御媒体4が水の場合は100℃)まで加熱され、そのときに発生した蒸気4bが収容空間3a内部に放出される。収容空間3aに放出された蒸気4bは、収容容器3の周壁3b等(すなわち、周壁3bおよび天壁3cなど)の内面で凝縮する。このときの蒸気4bの潜熱により周壁3b等が加熱される。収容容器3の内部は、温度制御媒体4の液体4aと蒸気4bで満たされたヒートパイプと同じ状態であり、収容容器3の温度は潜熱による温度移動により非常に高い均一性が得られる。これにより、収容容器3を非常に均一な温度で加熱することが可能になり、その結果、収容容器3に保持された多数の基材Wを均一に加熱することが可能になる。
【0062】
収容容器3あるいは基材Wが所定の温度になったときには、制御部10は、電源8から加熱源5へ入力される電力を停止あるいは抑制するように制御する。これにより、制御部10は、温度制御媒体4(液体4aおよび蒸気4b)、さらには収容容器3の温度を所定の温度で安定するように加熱源5を制御することが可能である。
【0063】
本実施形態の成膜装置1では、上記のように、基材Wに熱を伝達する温度制御媒体4を加熱源5によって直接加熱することにより、基材温度を効率よく均一に制御することを可能にする。すなわち、上記の成膜装置1の構成によれば、加熱源5は、収容容器3の収容空間3aにおいて、液体4aと蒸気4b(気体)との間で相変化する温度制御媒体4の液体4aと接触する位置に設置されている。そのため、当該加熱源5は、従来技術のように筒体などを介さずに温度制御媒体4を直接加熱し、速やかに当該媒体4を気化可能な温度まで加熱することが可能である。このため、温度制御媒体4の液体4aが気化して発生した蒸気4b、すなわち蒸気4bは、収容空間3aに速やかに拡散され、当該蒸気4bの潜熱によって収容容器3を均一に加熱する。その結果、収容容器3に取り付けられた基材Wを速やかに均一に加熱することが可能である。よって、基材温度を効率よく均一に制御することが可能である。
【0064】
しかも、本実施形態の成膜装置1では、収容容器3の保持部3eは、温度制御媒体4の液体4aの表面4a1の最大高さh以上の高い位置に配置されている。この構成では、保持部3eによって、収容容器3を温度制御媒体4の液体4aが存在する位置以上の高い位置、すなわち、温度制御媒体4の蒸気4bが存在する位置に配置することが可能になる。そのため、当該蒸気4bの潜熱によって基材Wの均一な加熱を確実に達成することが可能である。
【0065】
さらに、本実施形態の成膜装置1では、収容容器3の保持部3eは、基材Wの外形形状に対応する形状を有し、当該基材Wの表面に密着する接触面3fを有する。そのため、温度制御媒体4の蒸気4bの潜熱を保持部3eの接触面3fを介して基材Wへ効率よく伝達することが可能である。
【0066】
(変形例)
(A)
以上の実施形態の成膜装置1では、加熱源5によって温度制御媒体4を加熱することによって収容容器3の温度制御を行っているが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明の変形例として、加熱源5とともに、温度制御媒体4を冷却する機構をさらに備えてもよい。
【0067】
例えば、
図4に示される本発明の変形例に係る成膜装置1のように、収容容器3の内部に気体冷却部11をさらに備えていてもよい。この構成では、気体冷却部11は、収容容器3の収容空間3aの内部の上部に配置され、温度制御媒体4における気体状態、すなわち蒸気4bの部分を冷却する。
【0068】
気体冷却部11は、例えば、水などの冷媒が通る円環状のパイプを備えている。冷媒は、真空チャンバ2の外部から気体冷却部11へ冷媒配管12を通って供給され、当該冷媒配管12を通って気体冷却部11から排出される。冷媒配管12において回転テーブル6とともに回転する部分は、ロータリージョイントなどの流体継手を介して接続される。
【0069】
なお、気体冷却部11で用いられる冷媒は、水などの液体の他にもガスでもよい。
【0070】
図4に示される気体冷却部11を備えた成膜装置1では、収容空間3aの内部の上部において、温度制御媒体4における気体状態の部分、すなわち蒸気4bを気体冷却部によって冷却して液化する。液化した温度制御媒体4は、収容空間3aの内壁に沿って流れ落ちるときに収容容器3を冷却する。その結果、成膜時において収容容器3の温度上昇を抑えることが可能である。
【0071】
例えば、収容容器3を加熱源5で加熱するときには、気体冷却部11は停止している。成膜中は、収容容器3の温度が成膜源7から発生するプラズマから放出される熱により上昇する。成膜中に収容容器3の温度上昇を抑制する必要が生じた場合には、加熱源5を停止させ、冷却水が冷媒配管12を通して気体冷却部11へ供給される。これにより、気体冷却部11の周辺の温度制御媒体4の蒸気4bは冷却水により冷却されて凝縮する。温度制御媒体4の蒸気4bが凝縮して生成された液体4aは、収容容器3の周壁3bの内面に沿って流れ落ちる。収容容器3の温度は、気体冷却部11から離れるにつれて高くなる。そのため、落下する液体4aは、気体冷却部11から離れた位置で収容容器3から熱を受けて再び蒸発し、そのときの潜熱によって収容容器3の周壁3bから熱を奪う。これによって収容容器3の全体が冷却され、収容容器3の温度上昇が抑制される。このように、気体冷却部11の冷却能力によって収容容器3全体を効率よく冷却することが可能である。
【0072】
(B)
また、本発明の他の変形例として、
図5に示される成膜装置1のように、収容容器3の収容空間3aの内部の底部に配置され、温度制御媒体4における液体4a状態の部分を冷却する液体冷却部13をさらに備えた構成を有してもよい。この液体冷却部13も、上記の気体冷却部11と同様に、冷媒配管14を介して水などの冷媒の供給および排出を行うようにすればよい。
図5に示される液体冷却部13を備えた成膜装置1では、収容空間3aの内部の底部において、温度制御媒体4における液体4a状態の部分を液体冷却部によって冷却することによって、蒸気4bを含む温度制御媒体4全体の温度を下げることが可能になる。これにより、成膜時において収容容器3の温度上昇を抑えることが可能である。
【0073】
このように、液体冷却部13によって温度制御媒体4の液体4aを冷却する場合には、温度制御媒体4全体の温度を下げながら収容容器3を冷却する。そのため、上記変形例(A)のように気体冷却部11によって温度制御媒体4の蒸気4bを冷却して液体4aを生成し、当該液体4aの再蒸発時の潜熱を利用して収容容器3を冷却する場合と比較して、収容容器3を緩やかに冷却することが可能である。したがって、収容容器3の温度の均一性を維持しやすい。
【0074】
(C)
また、本発明のさらに他の変形例として、
図6に示される成膜装置1のように、収容空間3aの内部に存在する蒸気4bを当該収容空間3aから排気する排気部15をさらに備えていてもよい。排気部15は、例えば、収容容器3の収容空間3a内部と真空チャンバ2の外部の空間とを連通する連通路と、当該連通路を開閉する開閉機構とを備えている。この構成では、温度制御媒体4の蒸気4b以外の成分を含むガスが収容空間3a内部に混入または発生した場合には、排気部15によって当該収容空間3aから排気することが可能である。そのため、温度制御媒体4の相変化を長期に安定して行うことが可能である。
【0075】
すなわち、収容容器3の収容空間3aは、温度制御媒体4が封入される前に、真空排気されて異物は無い状態になっている。しかし、温度制御媒体4の熱分解等によって、温度制御蒸気4b以外の成分が当該収容空間3a内部に混入される場合がある。このような場合には、収容容器3の温度が低下して温度制御媒体4がほぼ液体4aの状態になっているときに、排気部15によって、温度制御蒸気4b以外の高蒸気圧成分を収容空間3aから除去する。これによって、温度制御媒体4の長期の動作安定を確保することが可能である。
【0076】
(D)
上記の実施形態の成膜装置1では、加熱源5としてシースヒータを例に挙げて説明しているが、本発明はこれに限定されるものではない。温度制御媒体4と接触する位置に配置され、当該温度制御媒体4を直接加熱することが可能であれば、本発明の加熱源として種々の形態を採用することが可能である。
【0077】
すなわち、本発明のさらに他の変形例として、
図6に示される成膜装置1のように、加熱源16は、収容空間3aの底部を形成し、温度制御媒体4の液体4aと接触している底部形成部16aと、当該底部形成部16aを誘導加熱することにより温度制御媒体4を加熱する誘導加熱部16bとを備えていてもよい。
【0078】
底部形成部16aは、ステンレスなどの金属製の材料で製造される。底部形成部16aは、収容容器3の底壁を構成する。底部形成部16aは、収容容器3の周壁3bおよび天壁3cとともに一体形成される。なお、底部形成部16aは、周壁3bおよび天壁3cと別部材でもよい。底部形成部16aの上面は、収容空間3aの底部を形成しているので、温度制御媒体4の液体4aに接触している。
【0079】
誘導加熱部16bは、底部形成部16aを誘導加熱する構成を有し、例えば、誘導コイルを備えている。誘導加熱部16bは、電源8から交流電流が供給されることにより、温度制御媒体4の液体4aと接触している底部形成部16aを誘導加熱により加熱する。これにより、当該底部形成部16aに接触する温度制御媒体4を直接加熱して当該媒体4を速やかに加熱することが可能である。
【0080】
また、加熱源のさらに他の例として、例えば、上記の底部形成部16aと、当該底部形成部16aの内部に鋳込まれたヒータとを備えた加熱源でもよい。この場合も、当該底部形成部16aと接触する温度制御媒体4を直接加熱して当該媒体4を速やかに加熱することが可能である。
【0081】
(E)
上記の実施形態の成膜装置1では、収容容器3が温度制御媒体4を収容する収容空間3aを有する部分と保持部3eを有する部分とを一体にした構成を有しているが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明のさらに他の変形例として、
図7〜8に示される成膜装置のように、収容容器21が、収容空間22aを有する収容容器本体22と、ホルダ23とをそれぞれ有する構成でもよい。ホルダ23は、基材Wを保持する保持部23aを有しており、収容容器本体22の外面に取り付けられている。この構成では、ホルダ23を介して基材Wを収容容器本体22の外面に確実に固定することが可能である。また、基材Wの形状に対応してホルダ23の形状を変更すればよいので、収容容器本体22の形状の変更は少なくても済む。また、収容容器本体22の外径を円筒形状のままとして、ホルダ23の形状を収容容器本体22に密着可能な形状とすると、収容容器をより安価に製作できる。
【0082】
図7〜8の収容容器本体22は、具体的には、
図1の収容容器1と同様に、収容空間22aを有する中空の筒体であり、周壁22bと、天壁22cと、底壁22dとによって収容空間22aが形成される。収容空間22aは、密閉空間であり、前記温度制御媒体4が収容されている。
【0083】
ホルダ23は、具体的には、収容容器本体22の外面に形成された凹部などの取付部分22eに取り付けられている。ホルダ23は、収容容器本体22とは別個の部材であるので、当該収容容器本体22と異なる材料(例えば、収容容器本体22の材料よりも熱伝導性の良い材料)で製造することが可能である。ホルダ23は、収容容器本体22の外周面から突出した状態で当該収容容器本体22に取り付けることが可能である。
【0084】
基材Wを保持する保持部23aは、具体的には、上記の保持部3e(
図1参照)と同様に、基材Wの外形形状に対応する形状を有する。保持部23aは、例えば、ホルダ23の外面に形成された凹部や溝などによって構成される。保持部23aは、当該基材Wの表面に密着する接触面23bを有するので、ホルダ23を介して基材Wへ温度制御媒体4の熱が伝達しやすい。