(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記フーリエ数を求めるステップでは、前記フーリエ数が前記被加熱物の熱伝導についての有限要素解析によって求められるフーリエ数の基準値から乖離している場合には、前記フーリエ数を前記基準値に近似させる近似式を用いて前記フーリエ数を補正する、
請求項1〜3のいずれか1項に記載の被加熱物の厚さ推定方法。
前記フーリエ数を求めるステップでは、前記フーリエ数が、前記被加熱物の熱伝導についての有限要素解析によって求められるフーリエ数の基準値から乖離する範囲において、前記時間比率を用いて前記フーリエ数を前記基準値に近似させる近似式に対して当該時間比率を入力することにより前記フーリエ数を補正する、
請求項2に記載の被加熱物の厚さ推定方法。
前記フーリエ数を求めるステップでは、前記フーリエ数が、前記被加熱物の熱伝導についての有限要素解析によって求められるフーリエ数の基準値から乖離する範囲において、前記振幅比を用いて前記フーリエ数を前記基準値に近似させる近似式に対して当該振幅比を入力することにより前記フーリエ数を補正する、
請求項3に記載の被加熱物の厚さ推定方法。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照しながら本発明の被加熱物の厚さ推定方法の実施形態についてさらに詳細に説明する。
【0028】
図1には、厚さが推定される被加熱部の一例として、熱風炉10の耐火物11が取り上げられている。本実施形態では、耐火レンガなどの耐火物11の温度を周期的に変化させて耐火物11の厚さhを推定する。
【0029】
熱風炉10は、製鉄プラントにおいて高炉に送る高温の熱風を作り出すための炉であり、耐火物11によって炉壁が構成されている。耐火物11の内面11aは、炉内13で発生する1000度以上の高温の熱風Wに曝される。耐火物11の外面11bは、鉄皮12で覆われている。熱風Wは、一定の周期で発生し、耐火物11の内面11aを周期的に加熱する。
【0030】
図1に示されるように、耐火物11の内面11aの温度および外面11bの温度は、熱風炉10の外部に設置された赤外線カメラ14などの温度測定手段を用いて熱風炉10の外部から検出される。
【0031】
本実施形態の被加熱物の厚さ推定方法は、
図2のフローチャートに示されるように、
被加熱物(耐火物11)の一方の面(すなわち内面11a)から周期的に温度が変化するように加熱するステップS1と、
一方の面を周期的に温度が変化するように加熱した状態で、当該耐火物11の厚さ方向における一方の面(内面11a)に対して反対側の他方の面(すなわち外面11b)の温度を検出するステップS2と、
検出された温度の時系列データに基づいて他方の面(外面11b)における温度の変化を表す出力側波形を求めるステップS3と、
耐火物11を加熱したときの一方の面(内面11a)における温度変化を表す入力側波形と上記の出力側波形とを用いてフーリエ数F
0を求めるステップS4と、
前記フーリエ数F
0に基づいて被加熱物(耐火物11)の厚さを推定するステップS5とを含む。
【0032】
ここで、フーリエ数F
0は、熱伝導に関する無次元数であり、
【0034】
ここで、λ:耐火物の熱伝導率(W/m・K)、T
p:入力側波形の周期(sec)、C:耐火物の比熱(J/kg・K)、ρ:耐火物の密度(kg/m
3)、h:耐火物の厚さ(m)である。
【0035】
耐火物11の外面11bにおける出力側の温度φ(h、t)の波形は、理論的には以下のようにして考えられる。
【0036】
まず、耐火物11の内面11a(距離x=0の位置)は、以下のような周期的に変化する温度φ(0、t)、すなわち、
【0037】
【数2】
で加熱されるとする。ここで、A
0:振幅、f:周波数(Hz)である。なお、f=1/T
p の関係が有る。
【0038】
このとき、耐火物11の内面11aから距離xを離れた位置の温度φ(x、t)は、
【0039】
【数3】
で表される(上記式(3)の導出については、後述の式(3)〜(30)を参照)。ここで、係数cは、
【0040】
【数4】
で表される。ここで、kの二乗(k
2)は、温度伝導率を示す係数であり、
【0042】
上記の式(3)によれば、耐火物11の内面11aから厚さhだけ離間した外面11b(距離x=hの位置)における温度φ(h、t)は、
【0043】
【数6】
として求められる(なお、外面11bにおける境界条件は考慮しないで、距離xは0〜∞の半無限固体のモデルで考えるものとする)。
【0044】
上記の内面11aにおける入力側の温度φ(0、t)の波形を示す式(2)と、外面11bにおける出力側の温度φ(h、t)の波形を示す式(6)とを用いれば、フーリエ数F
0を求めることが可能である。
【0045】
具体的には、入力側波形φ(0、t)と出力側波形φ(h、t)とを用いてフーリエ数F
0を求める方法として、入力側波形φ(0、t)と出力側波形φ(h、t)との位相差から得られる時間遅れΔtの入力側波形の周期T
p(=1/f)に対する比(すなわち時間比率Δt/T
p)を用いる方法と、入力側波形φ(0、t)と出力側波形φ(h、t)との振幅比Rを用いる方法とがある。
【0046】
(時間比率Δt/T
pを用いてフーリエ数F
0を求める方法)
まず、時間比率Δt/T
pを用いてフーリエ数F
0を求める方法を
図3のフローチャートを用いて説明する。
【0047】
まず、
図3に示されるように、フーリエ数F
0を求める上記のステップS4(
図2参照)では、以下のステップS11〜S14が行われる。
【0048】
まず、ステップS11では、入力側波形φ(0、t)と出力側波形φ(h、t)との位相差を求める。位相差は、入力側波形φ(0、t)の波形を示す式(2)と、出力側の温度φ(h、t)の波形を示す式(6)とを比較することにより求められ、これにより、当該位相差は、chとして求められる。
【0049】
ついで、ステップS12では、ステップS11で求めた位相差chから耐火物11の内面11a(距離x=0)の温度変化を表す入力側波形に対する外面11b(x=h)の温度変化を表す出力側波形の時間遅れΔtを求める。具体的には、時間遅れΔtは以下のようにして求められる。
【0050】
位相差chは、時間遅れΔtの2πf倍の関係にあるので、式(4)のkを用いて、時間遅れΔtは、以下の式(7)のように
【0052】
ついで、ステップS13として、時間遅れΔtを入力側波形の周期Tpで除すことにより、入力側波形の周期Tpに対する時間遅れΔtの比率である時間比率Δt/T
pを求める。
【0053】
その後、ステップS14として、時間比率Δt/T
pに基づいてフーリエ数F
0を求める。具体的には、上記のフーリエ数F
0の式(1)を、熱伝導率k
2の式(5)、時間遅れΔtの式(7)ならびに、T
p=1/fを用いて、フーリエ数F
0がΔt/T
pの関数になるように変形する。これにより、
【0054】
【数8】
の関係式が得られる。この式(8)を用いて、時間比率Δt/T
pからフーリエ数F
0を求めることが可能である。
【0055】
上記のように、ステップS14において式(8)を用いて時間比率Δt/T
pからフーリエ数F
0を求めた後、
図2のステップS5へ進む。ステップS5では、上記ステップS14において時間比率Δt/T
pから得られたフーリエ数F
0をフーリエ数F
0の式(1)に代入して、厚さhについて整理すれば、以下の式(9)のようにフーリエ数F
0を用いて厚さhを求めることが可能である。
【0056】
【数9】
このように、周期的に変化する入力側波形と出力側波形とを用いてフーリエ数F
0を求め、当該フーリエ数F
0に基づいて耐火物11などの被加熱物の厚さhを推定することにより、境界要素解析や有限要素解析などの数値解析を用いることなく被加熱物の厚さを迅速に推定することが可能である。
【0057】
とくに、上記のように、時間比率Δt/T
pを用いてフーリエ数F
0を求める場合には、入力側波形と出力側波形との位相差chおよび入力側波形の周期T
pを用いてフーリエ数F
0を容易に求めることができるので、当該フーリエ数F
0を用いて耐火物11などの被加熱物の厚さを迅速に推定することが可能である。
【0058】
(振幅比Rを用いてフーリエ数F
0を求める方法)
つぎに、振幅比Rを用いてフーリエ数F
0を求める方法を
図4のフローチャートを用いて説明する。
【0059】
まず、
図4に示されるように、フーリエ数F
0を求める上記のステップS4では、以下のステップS21〜S22が行われる。
【0060】
まず、ステップS21として、入力側波形φ(0、t)と出力側波形φ(h、t)との振幅比Rを求める。
【0061】
具体的には、振幅比Rは、耐火物11の内面11aにおける入力側の温度波形φ(0、t)と外面11bにおける出力側の温度波形φ(h、t)との比の絶対値として、
【0063】
上記の式(10)のφ(0、t)、φ(h、t)に含まれるsinの部分がそれぞれ1になるときの振幅比Rは、
【0065】
この上記の式(11)では、位相差chから振幅比Rを容易に求めることができる。なお、位相差chを用いずに他の手法によって振幅比Rを求めてもよい。
【0066】
その後、ステップS22として、振幅比Rに基づいてフーリエ数F
0を求める。具体的には、上記のフーリエ数F
0の式(1)を、係数cの式(4)、熱伝導率k
2の式(5)、振幅比Rの式(11)を用いて、フーリエ数F
0が振幅比Rの関数になるように変形する。これにより、
【0067】
【数12】
の関係式が得られる。この式(12)を用いて、振幅比Rからフーリエ数F
0を求めることが可能である。上記と同様に、ステップS5へ進んだ後は、ステップS22において振幅比Rから得られたフーリエ数F
0を用いて上記の式(9)のように厚さhを求めることが可能である。
【0068】
このように振幅比Rを用いてフーリエ数F
0を求める場合には、上記の時間比率Δt/T
pを用いる場合と同様に、周期的に変化する入力側波形と出力側波形とを用いてフーリエ数F
0を求め、当該フーリエ数F
0に基づいて耐火物11などの被加熱物の厚さhを推定することにより、境界要素解析や有限要素解析などの数値解析を用いることなく被加熱物の厚さを迅速に推定することが可能である。
【0069】
しかも、振幅比Rを用いてフーリエ数F
0を求める場合には、入力側波形と出力側波形との振幅比Rを用いてフーリ数F
0を容易に求めることができるので、当該フーリエ数F
0を用いて被加熱物の厚さを迅速に推定することが可能である。
【0070】
(フーリエ数F
0の補正についての説明)
上記の実施形態では、温度を用いて厚さが推定される耐火物11などの被加熱物は有限の厚さを有するにもかかわらず、仮想的に無限の厚さ(x=0〜∞)の半無限固体の被加熱物を想定して理論的に上記の式(3)で示される温度φ(x、t)のモデルを用いて入力側波形と出力側波形とを用いてフーリエ数F
0を計算によって導き出している。
【0071】
しかし、このように計算により導き出されたフーリエ数F
0は有限要素解析で求められるフーリエ数F
0の基準値とずれが生じることがある。そこで、このずれを抑えるために、フーリエ数F
0が基準値から乖離している場合には、フーリエ数F
0を求めるステップにおいて、フーリエ数F
0を基準値に近似させる近似式に基づいて、有限要素解析で求められる基準値に近似させればよい。これにより、より正確なフーリエ数F
0を求めることが可能になる。
【0072】
例えば、時間比率Δt/T
pを用いてフーリエ数F
0を求める場合について考えると、フーリエ数F
0を求めるステップにおいて、フーリエ数F
0が、被加熱物の熱伝導についての有限要素解析によって求められるフーリエ数F
0の基準値から乖離する範囲(具体的には、後述の
図10のフーリエ数F
0と時間比率Δt/T
pとの関係を示すグラフにおいて、F
0とΔt/T
pとの関係式である後述の式(36)を用いた数理解析の結果(
図10の線Lm1上の点I〜III)が、有限要素解析の結果(
図10の点IV〜VI)と乖離している範囲)では、時間比率Δt/T
pを用いてフーリエ数F
0を基準値に近似させる近似式(具体的には、最小二乗法によって求めた後述の近似式(39)F
0=0.4282(Δt/T
p)
−1.025)に対して当該時間比率Δt/T
pを入力することによりフーリエ数F
0を補正してもよい(近似式(39)の導出については後段で詳述する)。これにより、フーリエ数F
0が有限要素解析による基準値から乖離している範囲において、時間比率Δt/T
pを用いてフーリエ数F
0を基準値に近似させるように補正することにより、より正確なフーリエ数F
0を求めることが可能になる。
【0073】
その場合、フーリエ数F
0が前記基準値から乖離している範囲は、当該フーリエ数F
0が2.5〜1000の範囲であるのが好ましい。この乖離範囲で近似式を用いて近似させることにより、時間比率Δt/T
pを用いてより正確なフーリエ数F
0を求めることが可能になる(数値範囲の導出については後段で詳述する)。
【0074】
または、振幅比Rを用いてフーリエ数F
0を求める場合について考えると、フーリエ数F
0を求めるステップにおいて、フーリエ数F
0が、被加熱物の熱伝導についての有限要素解析によって求められるフーリエ数F
0の基準値から乖離する範囲(具体的には、
図12に示されるF
0とRの関係式である後述の式(40)を用いた数理解析の結果(
図12の線Lm2上の点I〜III)が、有限要素解析により求めた結果(
図12の点IV〜VI)と乖離している範囲)では、上記の振幅比Rを用いてフーリエ数F
0を基準値に近似させる近似式(具体的には、最小二乗法によって求めた後述の式(42)F
0=0.35e
2.91R)に対して当該振幅比Rを入力することによりフーリエ数F
0を補正するようにしてもよい(近似式(42)の導出については後段で詳述する)。これにより、フーリエ数F
0が有限要素解析による基準値から乖離している範囲において、振幅比Rを用いてフーリエ数F
0を基準値に近似させるように補正することにより、より正確なフーリエ数F
0を求めることが可能になる。
【0075】
その場合、フーリエ数F
0が基準値から乖離している範囲は、当該フーリエ数F
0が0.5〜5.5の範囲であるのが好ましい。この乖離範囲で近似式を用いて近似させることにより、より正確なフーリエ数を求めることが可能になる(数値範囲の導出については後段で詳述する)。
【0076】
(逆フーリエ変換によるノイズ除去についての説明)
上記の
図2のフローチャートのステップS2において検出された温度の時系列データには、入力側波形以外の種々の要因によるノイズが含まれている場合がある。そこで、このデータに含まれるノイズを除去するために、ステップS3の出力側波形を求めるステップは、
図5のフローチャートに示されるように、
検出された温度の時系列データをフーリエ変換して複数の周波数成分に変換するステップS31と、
複数の周波数成分のうち前記入力側波形の周波数に対応する周波数成分を抽出するステップS32と、
前記抽出された周波数成分について逆フーリエ変換することにより、前記出力側波形を求めるステップS33と
を含むのが好ましい。
【0077】
上記のような
図5に示されるように、検出された温度の時系列データをいったんフーリエ変換して複数の周波数成分に変換し、その複数の周波数成分のうち入力側波形の周波数に対応する周波数成分を抽出することによりノイズを除去し、その後、抽出された周波数成分について逆フーリエ変換することにより、ノイズが除去された出力側波形を得ることが可能になる。したがって、このノイズが除去された出力側波形を入力側波形とともに用いることにより、フーリエ数を正確に求めることが可能になり、その結果、フーリエ数から推定される厚さの精度も向上する。
【0078】
なお、上記実施形態では、厚さが推定される被加熱物として、耐火レンガなどの耐火物を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、温度を用いて厚さを推定できるものであれば種々の被加熱物の厚さを推定することが可能である。例えば、厚さが推定される被加熱物としては、金属やCFRPなどの樹脂などの種々の材料の構造物であり、一体構造物および多層構造物のいずれでもよい。
【0079】
(被加熱物の厚さ推定方法の基礎となった研究についての説明)
以下、本発明の被加熱物の厚さ推定方法を得るための基礎となった研究の過程について説明する。
【0080】
<1.観測面の時系列温度変化から平板の厚さを推定する逆問題の数理解析>
図6に示されるように試験体1の一方の面Γ
0から温度波を試験体内部に伝搬させると、その物性値の違いによって観測面Γ
1の温度変化の振幅や熱伝導の遅れ時間が変化する。この物理現象を利用した熱伝導率の測定法として周期加熱法がある(大村高弘, 坪井幹憲共著, 周期加熱法による熱伝導率測定、熱物性、Vol.13、No.4(1999)、pp.264−270より)。周期加熱法における熱拡散率を求める問題は一つの逆問題として考えられる。周期加熱法は試験体の一方の面Γ
0に温度波(周期T、振幅A
0)を与え、試験体内部の面Γ
1での位相差、あるいは振幅の減衰比を測定することで熱拡散率を求める手法である。このとき、反対の面Γ
2は一定温度に保たれている。未知の物性値である試験体の熱拡散率は微分方程式を解くことによってΓ
0とΓ
1の位相差もしくは減衰率から求めることができる。
【0081】
ここでΓ
0とΓ
1の距離hが未知で熱拡散率が与えられている場合について考える。実際の耐火物の場合にはΓ
1は内部の面ではなく一枚の板の両境界面(Γ
0、Γ
1)の温度変化が規定され、その位相差あるいは振幅の減衰比から厚さhを求める問題となる。振幅の減衰比から、厚さhを求める方法を熱伝導振幅減衰法、また、位相遅れから求める方法を熱伝導位相差法と定義する。
【0082】
[1・1 熱伝導位相差法と熱伝導振幅減衰法の定式化]
単層の板の厚さ測定の問題として試験体内部を温度波が伝搬して測定境界条件が正弦波で表される場合の半無限固体の定常周期熱伝導について逆問題解析の定式化を行う。しかし、容易には解析的に微分方程式を解くことはできないため、試験体を半無限固体と仮定して、Γ
1を半無限固体内部に存在する面と考える。
【0083】
観測面が断熱状態で、その反対面である内面が流体による温度変動を受ける場合について耐火物外面の温度変動と内面の温度変動
【0084】
【数13】
ここで、温度伝導率k
2は密度ρ[kg/m
3]、比熱C[J/kg・K]および熱伝導率λ[W/m・K]とすると次式で定義できる。ここで、k
2は式(14)の関係がある。
【0085】
【数14】
時間tに依存する内面における温度変動は、正弦関数の無限項の重ね合わせによって表現できる。そこで、内面x=0の温度変動が周期的に変動する場合を考える。境界条件として、内面の温度が周波数f[Hz]で正弦波状に変動している場合を考える。この正弦波の周期T
pは、
【0086】
【数15】
と表される。このとき、X=0における境界条件となる温度変化は次式で与えられる。
【0087】
【数16】
ただし、A:半無限固体の表面における温度変動の振幅[K]、t:時間[sec]である。式(16)のもとで次の特解を考える。
【0088】
【数17】
式(17)を微分して、式(13)に代入する。
【0090】
【数19】
式(18)には右辺のみに、sin関数が存在するため、
【0091】
【数20】
式(19)を解くと、一般解である式(20)が得られる。
【0092】
【数21】
このとき、境界条件として、x=0のときA(0)=A
0、とx=∞のときA(∞)=0が与えられるため、C
1=0、C
2=A
0となる。その結果、次の式(21)が得られる。
【0093】
【数22】
さて、式(18)と式(19)から、式(22)が得られる。
【0094】
【数23】
式(22)の両辺をcos(cx−2πft)で除すると式(23)が得られる。
【0095】
【数24】
このとき、式(21)より、
【0096】
【数25】
であるため、式(23)に代入すると、式(24)が得られる。
【0097】
【数26】
cに着目すると、式(25)が得られる。
【0099】
【数28】
が得られる。ここで、振幅比Rを
【0100】
【数29】
と定義する。このとき、φ(x、t) のsinの部分は−1と1の間で変化する。sinの値がそれぞれ1となるときの振幅比を求めると、振幅比Rは式(28)で表すことができる。
【0101】
【数30】
したがって、内面x=0の温度変化は、
【0102】
【数31】
となり、観察面x=hの温度変化は、式(17)、(21)から導き出される以下の一般解の式(30)より、
【0103】
【数32】
となる。内面(x=0)の温度変化に対する外面(x=h)の温度の時間遅れΔtは、
【0104】
【数33】
となる。式(28)と式(31)を厚さhについて整理すると、次の2式が得られる。
【0106】
【数35】
熱伝導振幅減衰法は式(32)、熱伝導位相差法では式(33)を基本として用いることにより、厚さhを推定することが可能である。
【0107】
<2.FEMによる順解析と逆解析の比較>
数理解析では現実と異なる境界条件を仮定している。そのため、FEM(有限要素解析)による一次元の熱伝導解析(順解析)を行い、熱伝導位相差法および振幅減衰法による逆解析結果と比較した。解析モデルの形状は
図7に示すようにA‐B軸を中心とする円柱2とし、軸対象モデルとして扱った。円柱2の直径dは0.05[m]、厚さhは0.02、0.04、0.06、0.08[m]の4種類の値を用いた。FEM解析における境界条件を表1に示す。入力側の面2aであるA‐B面を燃焼ガスが接触する壁面とした。また、側面2bであるB-C面と温度変化を観察する出力側の面2cとなるC‐D面は断熱とした。A‐B面の温度は式(34)で与えた。
【0109】
【数36】
周期T
pの値を256、 512、1024、2048、4096、8192、16384、32768[sec]に変えて解析し、C-D面の温度を求めた。解析の際に温度の初期値として300[℃]を与えた。解析に使用した材料定数を表2に示す。
【0110】
【表2】
耐火物以外にも熱拡散率の異なる材料として構造用鋼、SUS304について同様の解析を実施した。有限要素解析には汎用の解析コードであるANSYSYS/ED10.0を用いた。
【0111】
厚さhを求める際の逆解析のフローチャートを
図8に示す。ステップS41、S42でA‐B、C‐D面の温度変化を読み込み、FEMによる解析結果が均等な時間間隔で与えられていない場合に、線形補完によって一秒間隔のデータに修正する。ステップS43でC‐D面の温度変化4周期分のデータをフーリエ変換し、周期と振幅の関係を求める。ただし、C‐D面の温度変化の振幅がおよそ5℃以下となる条件では実際の測定誤差を考慮すると、実用上適用が困難と考えて以降の処理は行わなかった。ステップS44でA‐B面で与えた周期の振幅のみ抽出して、ステップS45で逆フーリエ変換し、時間と振幅の関係に戻す。ステップS46では、ステップS45で得られた波形からレーベンバーグ・マーカーカート法(Levenberg−Marguadt法)によって式(30)にフィッティングし、振幅と遅れ時間を求める。ステップS47では熱伝導振幅減衰法は式(32)、熱伝導位相差法は式(33)を使用してhを求める。
【0112】
逆解析での誤差を明らかにするため、熱伝導振幅減衰法は振幅比R、熱伝導位相差法は遅れ時間Δtについて、FEMで順解析して得られる結果に対して、式(28)、式(31)によってそれぞれ得られる数理解析の結果を比較した。
【0113】
[2・1 熱伝導位相差法]
有限要素解析で得られた時間遅れΔtを式(31)から求めた値とともに
図9に示す。図から、周波数fの逆数である周期T
pが比較的小さい範囲では式(31)を用いた数理解析の結果は、有限要素解析の結果と良好な一致を示す。しかし、T
pが大きくなると有限要素解析の結果と一致しなくなる傾向がある。また、耐火物、SUS304および構造用鋼の熱伝導率が小さい物質の順に有限要素解析の結果と一致しなくなるT
pが大きくなる傾向もみられる。そこで、式(31)のΔtの誤差の傾向を一般化して把握するため、Δtを周期T
pで除して無次元化することを考えた。また、周期T
pを式(35)に示すフーリエ数F
0に置き換えて無次元化した。
【0114】
【数37】
ここで、λ;熱伝導率、T
p:周期、C:比熱、ρ:密度、h:厚さとする。
図10に耐火物、SUS304、 構造用鋼の無次元化時間遅れΔt/T
pとF
0数の関係を有限要素解析の結果(
図10のIV〜V1参照)と数理解析の結果(
図10のI〜III参照)を合わせて示す。このときΔt/T
pとF
0数の関係は式(31)から次式で表される。
【0115】
【数38】
図10に式(36)から求めたΔt/T
pを線Lm1で示した。F
0がおよそ2.5以下の範囲では有限要素解析の結果(
図10のIV〜V1参照)と式(36)を用いた数理解析の結果(
図10のI〜III参照)とはよく一致する(すなわち、線Lm1上に点I〜IIIおよび点IV〜V1が載っている)傾向を有しているが、それ以上では有限要素解析から得られるΔt/T
pより大きくなる傾向が見られる。この原因は、有限要素解析の際にC -D面を断熱の境界条件としたことによると考えられる。
【0116】
そこで、C -D面において断熱の条件を満足する次の解を考えることにする。「棚澤泰著、週期的熱傳導問題における、波と温度波の二三の性質に就て、機械学會論文集、Vol.2、No.6(1936)、pp.129−137」の解析結果によれば、厚さ2hの平面板の両面にT
msinωtの温度変動を与えたとき、平面板の中心の温度をRT
msin(ωt−φ
0)とすれば、遅れ時間φ
0は次式で与えられる。
【0117】
【数39】
このときΔt/T
pは次式となる。
【0118】
【数40】
図10に式(38)から求めたΔt/T
pを線Ln1で示した。線Ln1上のΔt/T
pは、F
0が2.5以上でも有限要素解析から得られる結果(
図10のIV〜V1参照)のΔt/T
pとよく一致している。
【0119】
さて、厚さhを推定する際には観測値として与えられたΔt/T
pに対して、式(38)をF
0について解くことが要求される。材料定数が既知でF
0が与えられ、式(35)をhについて予め解いておけばhを求めることができる。しかし、式(38)をF
0について簡便に計算できる形に解くことは容易ではない。そのため、逆解析の際にはF
0が2.5以下では式(36)と式(38)がよく一致していることを利用して、式(36)をF
0について解いた式を使用し、F
0が2.5から1000の範囲では式(38)の解を最小二乗近似した式(39)を用いた。
【0120】
【数41】
これにより、F
0が2.5から1000の範囲では式(39)の近似式を用いることにより、Δt/T
pを用いてF
0をより正確に求めることが可能である。
【0121】
[2・2 熱伝導振幅減衰法]
有限要素解析から得られた振幅比Rを式(28)から得られた解と一緒に
図11に示す。図から、有限要素解析結果から得られたR、式(28)の解のいずれにおいても、周期T
pが大きくなるとともにRは1に近づく傾向がある。しかし、有限要素解析から得られたRと式(28)の解を比較すると、耐火物、SUS304、構造用鋼のいずれの場合も式(28)の解の方が小さい傾向がある。そこで、熱伝導位相差法の場合と同様にRの傾向を把握するため、周期T
pを式(35)のフーリエ数F
0に置き換えて整理した。
図12に耐火物、SUS304、構造用鋼の振幅比RとF
0数の関係を示す。
図12には、有限要素解析の結果(
図12のIV〜V1参照)と数理解析の結果(
図10のI〜III参照)を合わせて示す。
【0122】
このときRとF
0の関係は式(40)で表される。
【0123】
【数42】
図12に式(40)から求めたRを線Lm2で示した。横軸をF
0数として対数軸で整理すると、有限要素解析の結果(
図12のIV〜V1参照)、および式(40)を用いた数理解析の結果(
図12のI〜III参照)の解のいずれもF
0が0.1まではRはほぼ0であるが、F
0が0.1を超えるとRは1に向かって大きく増加を始める傾向が見られる。しかし、Rがほぼ1に収束するするF
0の値は異なっている。この誤差が生じた原因は、熱伝導位相差法の場合と同様に有限要素解析の際にC -D面を断熱の境界条件としたことによると考えられる。
【0124】
ここで、熱伝導位相差法の場合と同様にC‐D面において断熱の条件を満足する次の解を考えることにする。上記の棚澤(1936)の論文における解析結果によれば、厚さ2hの平面板の両面にT
msinωtの温度変動を与えたとき、平面板の中心の温度をRT
msin(ωt−φ
0)とすれば、減衰率Rは次式で与えられる。
【0125】
【数43】
図12に式(41)から求めたRを線Ln2で示す。有限要素解析の結果(
図12のIV〜V1)から得られるRとよく一致している。
【0126】
さて、厚さhを求める際の逆解析ではRが観測値として与えられ、式(41)を熱伝導位相差法の時と同様にF
0について解くことが要求される。しかし、式(41)をF
0について容易に計算できる形に解くことは困難である。また、Rが0および1に近いときF
0数が大きく変化して誤差が大きく拡大される可能性もある。そのため、逆解析における適切化として解の範囲をF
0が0.5〜5.5の範囲に限定して最小二乗法によって求めた近似式である式(42)を用いてF
0数を推定することにした。
【0127】
【数44】
これにより、F
0が0.5〜5.5の範囲では式(42)の近似式を用いることにより、Rを用いてF
0をより正確に求めることが可能である。
【0128】
<3.熱伝導位相差法と熱伝導振幅減衰法による厚さ推定の検証>
上記の第2章「2.FEMによる順解析と逆解析の比較」の
図7の解析モデルにおいてA‐B面に正弦波を与える最も単純な条件でFEM解析した結果として得られるC‐D面の温度変化を測定値として与える場合について、熱伝導位相差法と熱伝導振幅減衰法のそれぞれの手法を用いて厚さhを逆解析して、原理そのものに起因する手法の特徴やその適用性を評価した。
【0129】
[3・1 熱伝導位相差法]
構造用鋼、SUS304および耐火物について、hは0.02、 0.04、 0.06、 0.08[m]の4種類、周期T
pの値は256、 512、1024、2048、4096、8192、16384、32768[sec]の8種類のそれぞれの条件について逆解析した。材料定数は表2を用いた。逆解析処理は、
図8のフローチャートにおおよそ従ったが、ステップS47だけ上記第2章の検討結果に従って式(36)をF
0について解いた式と式(39)を用いてF
0を算出し、式(35)をhについて解いた式からhを推定するように変更した。熱伝導位相差法によって得られた推定値を
図13に示す。
図13より、構造用鋼(
図13(a))、SUS304(
図13(b))および耐火物(
図13(c))の場合について求めたそれぞれの条件において近似式と数理解析が切り替わる条件近傍で若干推定値が実際より小さくなるが、それを除けば正解である0.02、0.04、0.06、0.08[m]に近い値が推定できている。また、耐火物において解析モデルのC‐D面の温度振幅がおよそ5℃以下で逆解析しなかった場合を除き、FEMによって熱伝導解析したすべてのT
pで0.02から0.08[m]の間の厚さhを推定できており、比較的広範な条件で適用できる手法であるといえる。
【0130】
[3・2 熱伝導振幅減衰法]
熱伝導位相差法と同様の条件で逆解析してhを推定した。熱伝導振幅減衰法によって得られた推定値を
図14に示す。このとき、
図8のフローチャートにおおよそ従ってhを推定したが、ステップS47のみ第2章の検討結果に従って式(42)からF
0を算出し、式(35)をhについて解いた式からhを推定するように処理を変更した。
図14では構造用鋼(
図14(a))、SUS304(
図14(b))および耐火物(
図14(c))の場合のすべての物質で同じ周期T
pで0.02から0.08[m]の間に解が存在する条件はなく、熱伝導位相差法と比べて適用できる条件が狭い傾向が見られる。これは逆解析における適切化として解の範囲をF
0が0.5〜5.5の場合に限定した影響である。そのため、周期T
pを一定にしてhを推定する場合には、その推定したいhの範囲が広くなると解の範囲から外れて本手法を適用できない可能性が生じる。熱風炉では燃焼と送風の周期的に変化する操業のサイクルを熱負荷として用いて、鉄皮を保護する最外層の耐火物の損傷を評価するが、この場合、少なくとも約0.1[m]のhの変化を推定できなければならない。そのため、本手法では解の範囲が狭く適用が困難であることがわかった。しかし、一次元の熱伝導の仮定が成立する場合でT
pを自由に選定でき、推定したいhの範囲が狭い条件であれば適用可能である。
【0131】
<4.結言>
耐火物を使用した設備における耐火物の余寿命を把握することを目的として、物質の熱伝導によって生じる遅れや減衰から厚さを同定する逆問題解析法として熱伝導位相差法および熱伝導振幅減衰法を提案した。無次元数でのF
0数を導入することで耐火物以外の材料や数値解析によって検討した試験条件以外に対しても適用の可否が容易に確認できる。
【0132】
最も簡単な適用例として一次元の厚さ測定に関する数値実験を行った。その結果、熱伝導位相差法および熱伝導振幅減衰法の、二つの逆解析手法によって厚さを同定することができ、提案した手法が原理的に可能であることがわかった。また、二つの逆解析手法のうち、測定対象を熱風炉の耐火物とする場合には熱伝導位相差法の適用が適切であることがわかった。