(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6573837
(24)【登録日】2019年8月23日
(45)【発行日】2019年9月11日
(54)【発明の名称】コークス炉の燃焼室の補修方法
(51)【国際特許分類】
C10B 29/06 20060101AFI20190902BHJP
【FI】
C10B29/06
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-20356(P2016-20356)
(22)【出願日】2016年2月5日
(65)【公開番号】特開2017-137447(P2017-137447A)
(43)【公開日】2017年8月10日
【審査請求日】2018年1月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】599090615
【氏名又は名称】株式会社メガテック
(74)【代理人】
【識別番号】100105968
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】高野 要
(72)【発明者】
【氏名】高野 武
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 徳夫
(72)【発明者】
【氏名】松井 淳
(72)【発明者】
【氏名】李 崇基
【審査官】
森 健一
(56)【参考文献】
【文献】
特開平04−213388(JP,A)
【文献】
特開平05−230466(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0169578(US,A1)
【文献】
特開2005−307003(JP,A)
【文献】
実開昭56−138854(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10B 29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コークス炉の燃焼室を補修する補修方法において、前記燃焼室を形成する壁体を複数個のブロックに分割して、溶融シリカ:96.0質量%、リン酸塩および/または酸化カルシウム:2.5〜3.5質量%を含有し、残部が不可避的不純物からなる耐熱材で一体的に成形した一体成形ブロックを予め製作しておき、前記壁体を解体して炉外へ搬出した後、前記一体成形ブロックを搬入して、既存の前記壁体の端部に直角をなすように設けた2つの面に前記一体成形ブロックの端部を当接させて配置していき、前記壁体を新たに構築することを特徴とするコークス炉の燃焼室の補修方法。
【請求項2】
前記壁体の端部に設けた直角をなす2つの面のうちの1面に凹型嵌合溝を設け、該凹型嵌合溝に対向する前記一体成形ブロックの端部に凸型嵌合突起を設けて、前記凹型嵌合溝と前記凸型嵌合突起を嵌め合わせて、前記壁体を新たに構築することを特徴とする請求項1に記載のコークス炉の燃焼室の補修方法。
【請求項3】
前記壁体の端部に設けた直角をなす2つの面のうちの1面に凸型嵌合突起を設け、該凸型嵌合突起に対向する前記一体成形ブロックの端部に凹型嵌合溝を設けて、前記凸型嵌合突起と前記凹型嵌合溝を嵌め合わせて、前記壁体を新たに構築することを特徴とする請求項1に記載のコークス炉の燃焼室の補修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コークス炉の燃焼室を補修するにあたって、燃焼室を解体した後、新たに構築する補修方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図1はコークス炉の要部を模式的に示す垂直断面図である。一般にコークス炉は、
図1に示すように、石炭を乾留する炭化室2、燃料ガスを燃焼させる燃焼室を内部に備えた壁体3、燃焼排ガスの余熱を利用して燃料ガスや燃焼用空気を予め加熱する蓄熱室4で構成され、燃焼室の壁体3と炭化室2は交互に配置される。なお、
図1に示す壁体3は
図4に示すような構造になっており、耐火煉瓦を積み上げた壁体3の内側に燃焼室1が形成される。
【0003】
そしてコークス炉の操業中に、炭化室2へ石炭を装入し、さらに燃焼室1で発生する燃焼熱によって乾留した後、得られたコークスを炭化室2から排出する作業が繰り返し行なわれる。その結果、耐火煉瓦で形成される壁体3が損耗し、燃焼室1から燃焼排ガスや未燃焼の燃料ガスが炭化室2内に漏出するという問題が生じる。
【0004】
そこで、燃焼室1を適宜補修しなければならないが、コークス炉の燃焼室1と炭化室2を全て停止して補修を行なうのはコークスの生産に支障を来たす。したがって、コークス炉を操業しながら、補修の対象となる燃焼室1のみ燃焼を停止して、補修を行なう。その補修工事の手順は、
(A)補修すべき燃焼室1を解体して炉外へ搬出し、
その後、
(B)新たに燃焼室1を構築する
という2段階の工程に大別される。
【0005】
従来から上記(B)の工程では、作業員が炉内で耐火煉瓦を1個ずつ積み上げて燃焼室1を構築している。しかし、耐火煉瓦の積み上げを手作業で行なうので、極めて長時間を要する。しかも作業環境が高温であるから、作業員の安全を確保するための装備が必要となり、施工コストの上昇を招く。
【0006】
そこで、燃焼室1の補修においては、耐火煉瓦を積み上げて所定の形状(たとえば
図4参照)に成形した耐火煉瓦集合体(以下、煉瓦集合体ブロックという)を、炉外の地組場で予め製作しておき、上記(B)の工程でその煉瓦集合体ブロックを炉内に搬入して、燃焼室1を構築する補修工事が普及し始めている(特許文献1、2参照)。煉瓦集合体ブロックを用いることによって、補修工事を効率良く行なうことが可能となり、工期の短縮を図ることができる。しかも、作業員の負荷が軽減され、安全性が向上するという効果も得られる。
【0007】
ところが、煉瓦集合体ブロックは耐火煉瓦を積み上げて、さらに固着材(たとえばモルタル等)で耐火煉瓦を接合し固着させたものである。そのため、補修時に煉瓦集合体ブロックを搬送し組み付ける間に、煉瓦集合体ブロックの破損や煉瓦の脱落を起こし易い。また、補修が終了して操業を開始した後、耐火煉瓦と固着材の熱膨張量の差に起因して、耐火煉瓦の接合部(いわゆる目地)や耐火煉瓦に亀裂が生じる、あるいは煉瓦集合体ブロックが変形する等の問題が生じ易い。
【0008】
そこで、固着材からなる目地を減らすために、耐火煉瓦よりも大きい型枠に混練耐火物を流し込んで小型ブロック(高さ300mm程度)を成形する技術が検討されている。しかし、その小型ブロックを用いて補修工事を行なう場合には、寸法が小さい故に目地を減らす効果は十分に得られない。さらに、混練耐火物として使用するシリカ(SiO
2)は、アモルファスが90質量%程度、結晶化成分が10質量%程度であるから、コークス炉の操業中に発生する熱膨張を抑制できず、0.2〜0.4%程度の熱膨脹が生じる。したがって、目地や小型ブロックに亀裂が生じる、あるいは小型ブロックが変形する等の問題が生じ易い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001-19968号公報
【特許文献2】特開2001-19969号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、従来の技術の問題点を解消し、コークス炉の燃焼室の補修工事を効率良く行なうことが可能であり、ひいては工期の短縮、作業負荷の軽減、安全性の向上を図り、しかも、補修した後の耐用性を高めることができる補修方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、補修工事を効率良く行ない、工期の短縮、作業負荷の軽減、安全性の向上を図るためには煉瓦集合体ブロックが有効であることから、その煉瓦集合体ブロックに生じる亀裂、変形、破損を防止する技術について検討した。そして、煉瓦集合体ブロックが2種類の材料(すなわち耐火煉瓦、固着材)からなることが、亀裂、変形、破損が生じる原因であることに着目して研究した結果、従来の煉瓦集合体ブロックと同様の形状のブロックを単一の材料で成形すれば、耐火煉瓦の接合部(いわゆる目地)を減らすことができ、ひいては亀裂、変形、破損を防止できることを見出した。つまり、単一の材料で一体的に成形したブロック(以下、一体成形ブロックという)は、目地での亀裂、変形、破損を防止できる。
【0012】
本発明は、このような知見に基づいてなされたものである。
すなわち本発明は、コークス炉の燃焼室を補修する補修方法において、燃焼室を形成する壁体を複数個のブロックに分割して、溶融シリカ:
96.0質量%、リン酸塩および/または酸化カルシウム:2.5〜3.5質量%を含有し、残部が不可避的不純物からなる耐熱材で一体的に成形した一体成形ブロックを予め製作しておき、壁体を解体して炉外へ搬出した後、一体成形ブロックを搬入して、既存の壁体の端部に直角をなすように設けた2つの面に一体成形ブロックの端部を当接させて配置していき、壁体を新たに構築するコークス炉の燃焼室の補修方法である。
【0013】
本発明の補修方法においては、壁体の端部に設けた直角をなす2つの面のうちの1面に凹型嵌合溝を設け、その凹型嵌合溝に対向する一体成形ブロックの端部に凸型嵌合突起を設けて、凹型嵌合溝と前記凸型嵌合突起を嵌め合わせることが好ましい。あるいは、壁体の端部に設けた直角をなす2つの面のうちの1面に凸型嵌合突起を設け、その凸型嵌合突起に対向する一体成形ブロックの端部に凹型嵌合溝を設けて、凸型嵌合突起と凹型嵌合溝を嵌め合わせることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、コークス炉の燃焼室の補修工事を効率良く行なうことが可能であり、ひいては工期の短縮、作業負荷の軽減、安全性の向上を図り、しかも、補修した後の耐用性を高めることができるので、産業上格段の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】コークス炉の要部を模式的に示す垂直断面図である。
【
図2】
図1中の壁体を解体して炉外へ搬出した例を模式的に示す垂直断面図である。
【
図3】一体成形ブロックを用いて燃焼室の壁体を構築した例を模式的に示す垂直断面図である。
【
図4】煉瓦集合体ブロックの例を模式的に示す平面図である。
【
図5】一体成形ブロックの例を模式的に示す平面図である。
【
図6】
図5の一体成形ブロックを組み合わせた例を模式的に示す平面図である。
【
図7】
図6の組み合わせを千鳥配列にして積み上げた壁体の例を示す側面図である。
【
図8】一体成形ブロックの他の例を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図2は、
図1の壁体3を解体して炉外へ搬出した例を模式的に示す垂直断面図、
図3は、一体成形ブロック5を用いて燃焼室の壁体を構築した例を模式的に示す垂直断面図である。
【0017】
壁体3用の一体成形ブロック5は、耐熱材として溶融シリカ(純度99質量%以上)を
96.0質量%、バインダー(リン酸塩および/または酸化カルシウム)を2.5〜3.5質量%含有し、残部が不可避的に混入する不純物(以下、不可避的不純物という)からなる混合物を型枠に流し込んで、自然乾燥、強制乾燥を経て、昇温速度10〜25℃/時で900〜1100℃の温度範囲まで昇温し、さらに24時間以上保持した後、室温まで自然冷却することによって、一体的に成形したものである。なお以下では、溶融シリカは、アモルファスが95質量%以上のシリカ(SiO
2)を指すものとする。また、自然乾燥は常温の大気中で乾燥させること、強制乾燥は加熱しながら乾燥させることを意味する。
【0018】
このようにして製作した壁体3用の一体成形ブロック5は、熱膨張率が0.01〜0.20%と極めて小さく、かつ冷間圧縮強度が30MPa以上かつ荷重軟化点が1400℃以上(通常は1500〜1600℃)と十分な強度を備えているので、亀裂や変形が発生せず、優れた耐用性を有する。しかも、高さが300mmを超えるような大型の一体成形ブロック5を製作できる。
【0019】
また、壁体3用の一体成形ブロック5の1個分の重量が小さすぎると、炉内へ搬入する回数が増えるので、燃焼室の補修工事の効率が低下する。一方で、重量が大きすぎると、炉内への搬入に長時間を要するので、燃焼室の補修工事の効率が低下する。したがって、壁体用の一体成形ブロック5の1個分の重量は300〜3000kg/個の範囲内が好ましい。
【0020】
そして一体成形ブロック5を炉内に搬入し、高さ方向に複数個の一体成形ブロック5を積み上げて(
図3参照)、奥行き方向にも複数個の一体成形ブロック5を配列する。一体成形ブロック5の端部には直角をなすように2つの面6(以下、ブロック接合面という)が設けられており、奥行き方向に一体成形ブロック5を配列する際には、一体成形ブロック5の他方の端部をそのブロック接合面6に当接させて、順次、配置していく。
【0021】
このようにして既存の壁体3のブロック接合面6に一体成形ブロック5の端部を当接させて配置していくことによって、一体成形ブロック5を強固に接合して壁体3を構築することが可能となる。一体成形ブロック5は、元々亀裂や変形が発生し難いので、ブロック接合面6を活用して壁体3を構築すれば、稼動を再開した後の壁体3の耐用性を一層向上する効果が得られる。
【0022】
ここで既存の壁体の端部は、上記(A)の工程にて、壁体の補修すべき範囲を解体した後に解体せず炉内に残置する部位の端部、および、上記(B)の工程にて、一体成形ブロックを用いて新たに構築した部位の端部を意味する。
【0023】
一体成形ブロック5の端部に設けられる2つのブロック接合面6のうちの片方に凸状の突起7(以下、凸型嵌合突起という)を設け、一体成形ブロック5の他方の端部に凹状の溝8(以下、凹型嵌合溝という)を設けて(
図5参照)、凸型嵌合突起7と凹型嵌合溝8を互いに嵌め合わせて一体成形ブロック5を配列(
図6参照)すれば、強固に接合する効果がさらに向上するので好ましい。
【0024】
あるいは、図示は省略するが、一体成形ブロック5のブロック接合面6のうちの片方に凹型嵌合溝8を設け、一体成形ブロック5の他方の端部に凸型嵌合突起7を設けても、同様の効果が得られる。
【0025】
ブロック接合面6、および凸型嵌合突起7、凹型嵌合溝8は、炉内で既存の壁体の端部を削る、または、耐火煉瓦を手積みすることによって形成することができる。あるいは、一体成形ブロック5の材料を型枠に流し込んで一体成形ブロック5を製作するときに、ブロック接合面6を形成しても良い。
【0026】
また、一体成形ブロック5を長手方向に積み上げる際には、
図7に示すように上段と下段の一体成形ブロック5の接合面6の位置をずらして千鳥配列にすることによって、壁体3全体の強度を向上することができる。
【0027】
図7では、一体成形ブロック5を積み上げて構築した壁体3の上方に形成される水平焔道9および装炭孔10を併せて示す。これらの水平焔道9や装炭孔10も、それぞれ一体成形ブロック(
図8参照)を用いて形成することができる。その組成や焼成条件は、上記した壁体3用の一体成形ブロック5と同じであるから説明を省略する。なお、
図8(a)は水平焔道9用の一体成形ブロックの例、
図8(b)は装炭孔10用の一体成形ブロックの例である。
【実施例】
【0028】
図2に示すように、コークス炉(炉高6m、炉長34フリュー)の1燃焼室の壁体を解体して炉外へ搬出(上記(A)の工程)した後、
図3に示すように、体成形ブロックを積み上げ、奥行き方向にも配列して壁体を構築した。
【0029】
使用した一体成形ブロック(重量2200kg/個)は、純度99.5質量%の溶融シリカ:96.0質量%、リン酸塩と酸化カルシウムからなるバインダー:3.0質量%を含有し、残部が不可避的不純物である混合物を型枠に流し込んで、72時間自然乾燥し、150℃で72時間強制乾燥させた後、昇温速度20.0℃/時で1020℃まで昇温し、さらに48時間保持した後、室温まで自然冷却することによって、一体的に成形したものである。これを発明例とする。
【0030】
一方、従来は、壁体を全て解体して炉外へ搬出(上記(A)の工程)した後、作業員が耐火煉瓦を積み上げて、壁体を再構築(上記(B)の工程)していた。これを従来例とする。
【0031】
発明例と従来例について、上記(B)の工程に要した日数を比較したところ、発明例の所要日数Mは、従来例の所要日数Nに対してM/Nが約1/2であった。
【0032】
さらに、発明例では、補修工事が終了した後、再び稼動を開始して6ケ月が経過した時に点検孔から炉内を点検したところ、一体成形ブロックの亀裂、変形、破損は認められなかった。
【符号の説明】
【0033】
1 燃焼室
2 炭化室
3 壁体
4 蓄熱室
5 一体成形ブロック
6 ブロック接合面
7 凸型嵌合突起
8 凹型嵌合溝
9 水平焔道
10 装炭孔