特許第6573849号(P6573849)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6573849
(24)【登録日】2019年8月23日
(45)【発行日】2019年9月11日
(54)【発明の名称】農業用ハウス内環境制御装置
(51)【国際特許分類】
   A01G 9/24 20060101AFI20190902BHJP
   A01G 7/00 20060101ALI20190902BHJP
【FI】
   A01G9/24 A
   A01G7/00 601Z
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-146287(P2016-146287)
(22)【出願日】2016年7月26日
(65)【公開番号】特開2018-14904(P2018-14904A)
(43)【公開日】2018年2月1日
【審査請求日】2018年3月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】513088294
【氏名又は名称】株式会社オーガニックnico
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100087745
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 善廣
(74)【代理人】
【識別番号】100106611
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 幸史
(74)【代理人】
【識別番号】100189717
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 貴章
(72)【発明者】
【氏名】中村 新
【審査官】 川野 汐音
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭62−014729(JP,A)
【文献】 特開2014−150759(JP,A)
【文献】 特開昭53−092229(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第00195373(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 7/00−7/02
A01G 9/14−9/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
日射量とCO2濃度に基づいて、農業用ハウス内の目標温度を算出する農業用ハウス内環境制御装置であって、
少なくとも、前記日射量を測定する日射量測定手段と、前記CO2濃度を測定するCO2濃度測定手段と、十分な前記日射量が有る場合の日中最高温度を決める目標最高温度、夜間最低温度を決める目標最低温度、および日射量感度係数を入力する入力手段とを有し、
目標温度算出手段は、
前記目標最高温度以下とし、
前記日射量測定手段で測定される前記日射量に前記日射量感度係数をかけた温度を、前記目標最低温度に加え、
前記日射量感度係数は、前記CO2濃度測定手段で測定される前記CO2濃度が高いほど大きな数値とした
ことを特徴とする農業用ハウス内環境制御装置。
【請求項2】
前記目標温度算出手段は、前記CO2濃度測定手段で測定される前記CO2濃度が高いほど前記目標最高温度を高くする
ことを特徴とする請求項1に記載の農業用ハウス内環境制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農業用ハウスにおける、農業用ハウス内の環境制御に関する。
【背景技術】
【0002】
農業用ハウス内の環境の温度・湿度等の目標値をユーザーが設定でき、設定された目標値になるように換気窓を開閉したり、加温機や冷房機を動かすことで作物にとって最適な環境制御をする農業用ハウス内環境制御装置が存在する。
このような装置においては、これまで一般的であったのは時間帯毎に目標値を設定して、時間帯ごとにハウス内の温度を所望の値に制御するものである。
これらは言い換えると時刻に応じて目標温度を制御しようというものである。
一方、作物の栽培においては作物の生育適温に制御することが重要である。この作物の生育適温というのは、昼間の日射がある状況においては光合成量が最大になる温度であり、夜間においては呼吸量を抑えつつ、生理的に障害がでず、病害が発生しにくい温度ということになる。
光合成量が最大になる温度というのは日射量とCO2濃度によって異なる。したがって、従来の時刻に応じて目標温度を制御する方式においては、同じ時刻であっても天候や季節によって異なる日射量、さらにCO2を人為的に添加するか自然任せにするかを問わず実際のCO2濃度が異なるにもかかわらず、時刻に応じて一定の目標温度を与えているので、作物の生育適温から離れてしまうことがあり、その結果生育が遅れたり収穫量が減少する、という問題点があった。
一方、これらを解決するために、時刻のみならず、日射量とCO2濃度に応じてIF〜THENルールを設定しプログラミング的に目標温度を決定する方式の設定方式が存在するが、これらは農業生産者に非常に複雑な設定を強いるものであり、一般の農業生産者が対応できるものではなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そこで本発明は、ユーザーの目標温度を設定する労力を低減し、植物生育知識およびプログラミングの素養の少ないユーザーでも適正な農業ハウス内温度設定を可能にする農業用ハウス内環境制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の農業用ハウス内環境制御装置は、ユーザーが設定したハウス内目標最低温度と目標最高温度および日射量係数、CO2係数の4つのパラメータからハウス内の日射量とCO2濃度に応じてハウス内の目標温度を自動的に演算する手段を有する。
【発明の効果】
【0005】
ユーザーは、作物生理に関する知識およびプログラミングの素養の少ないユーザーでも、短時間の簡単な設定操作で、植物生育に最適なハウス内の目標温度を設定できる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】本発明の実施例1の農業用ハウス内環境制御装置における日射量と目標温度との関係を示す図
図2】本発明の実施例2の農業用ハウス内環境制御装置における日射量と目標温度との関係を示す図
図3】本発明の実施例3の農業用ハウス内環境制御装置における換算表を示す図
図4】本発明の実施例3の農業用ハウス内環境制御装置における日射量と目標温度との関係を示す図
図5】本発明の実施例4の農業用ハウス内環境制御装置における日射量と目標温度の関係を示す図
図6】実施例1から実施例4のいずれかの農業用ハウス内環境制御装置の設置例を示す図
図7】実施例1から実施例4のいずれかの農業用ハウス内環境制御装置の他の設置例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0007】
植物の光合成量というのは、そもそも光の強さとCO2濃度と温度によって大幅に変化する。
「齋藤章((株)誠和)、平均反収70tのオランダの栽培システムと統合環境制御」の169ページ第27図に示すように、日射量が高いほど、またCO2濃度が高いほど光合成量が最大になる温度は高温側にシフトする。
同様に、「和田義春・添野隆史・稲葉幸雄、促成,半促成栽培におけるイチゴ品種‘とちおとめ’の高CO2濃度下の葉光合成速度促進に及ぼす光と温度の影響、日本作物学会紀事、2010年4月、79巻2号」の196ページ第9図、「日高功太、太陽光利用型植物工場でのイチゴ栽培、第18回日本イチゴフォーラム、農業・食品産業技術総合研究機構」8ページ右下の図においても、CO2濃度が高い場合は光合成が最大になる温度は高温側にシフトすることが示されている。
一方、植物の呼吸作用による炭水化物の消耗は温度が上昇するに伴って指数関数的に増大するので、光が弱いとき、特に完全に光が無い夜間はできるだけ低温にしておくことによって光合成で作り出した炭水化物の消耗を減らすことができる。(「青木宏史(千葉県農業試験場)、光合成と一日の温度管理(変温管理)の考え方」409ページ第1図)
ただし、植物はある一定温度よりも低くなると低温障害を生じたり、病害が生じやすくなったりするので、作物ごとに夜間の最適温度も異なる。
そこで本発明においては、作物ごとに夜間温度、および日射量に対する目標温度の係数、および十分な日射量がある場合の最高温度、およびCO2濃度に応じた目標温度の係数を入力することによって、常に作物の光合成量を最大化するとともに、呼吸による消耗量を最小化し、季節や変化する気象条件においても作物の生育と収穫量を最大化する制御手段を提供するものである。
【実施例】
【0008】
<実施例1>
本実施例による農業用ハウス内環境制御装置は、少なくとも、日射量を測定する日射量測定手段と、CO2濃度を測定するCO2濃度測定手段と、目標最高温度と目標最低温度と1つないしは複数の目標温度算出係数を入力する入力手段を有し、目標温度算出手段は目標最高温度と目標最低温度と日射量値とCO2濃度値に応じた目標温度算出係数に基づく日射量値とCO2濃度値と目標温度間の相関を用いて農業用ハウス内の目標温度を算出する。
下記式(1)、(2)は、CO2の濃度によって、日射量係数および十分な日射量がある場合の最高温度を変化させる、という演算式である。
T=a×L+T1 T<T2の場合 ・・・(1)
T=T2 T≧T2の場合 ・・・(2)
ここで、Lは日射量(kLx)、その他の係数は以下の表1のとおりであり、その計算結果を図1に示す。
【0009】
【表1】
【0010】
環境制御装置のユーザーは、CO2濃度をいくつかに区分したうえで、これらa、T1、T2という3つのパラメータを入力することで、日射量に応じて常に最適な目標温度が自動的に計算され、それに向けてハウスの換気窓の開閉や、加温機、冷房機の制御が行われる。CO2濃度ごとのa,T1,T2というパラメータは作物ごとの生理特性に応じて決まるものであり、該当作物の日射量とCO2濃度と光合成最適温度の関係および生育ゼロ温度を把握することによって定めることができる値である。
なお、これらのaやT1,T2の値自体はこの値に限らず、またこの数式は一例であり、日射量とCO2濃度に応じて目標温度を変化させる数式は全て本発明の対象となる。
【0011】
このように、本実施例による農業用ハウス内環境制御装置は、日射量を測定する日射量測定手段と、CO2濃度を測定するCO2濃度測定手段と、目標最高温度(日中最高温度)、目標最低温度(夜間最低温度)、及び1つないしは複数の目標温度算出係数を入力する入力手段と、目標温度算出手段とを有し、目標温度算出手段は、目標最高温度と、目標最低温度と、日射量値と、CO2濃度値に応じた目標温度算出係数(日射量感度)とに基づき、日射量値とCO2濃度値と目標最高温度と目標最低温度との相関を用いて農業用ハウス内の目標温度を算出することができる。
【0012】
<実施例2>
本実施例による農業用ハウス内環境制御装置は、CO2濃度測定手段およびCO2濃度測定値に応じた目標温度算出係数を持たず、日射量測定手段と日射量値に基づく目標温度算出手段のみを有する。
下記式(3)、(4)は、基本的な計算式を、夜間温度をy切片として日射量係数をかけ算した値に従って目標温度を高めていき、十分な日射量がある場合の最高温度に達したらそこで目標温度を固定する、という演算式である。
T=a×L+T1 T<T2の場合 ・・・(3)
T=T2 T≧T2の場合 ・・・(4)
ここで、Lは日射量(kLx)、その他の係数は以下の表2のとおりであり、その計算結果を図2に示す。
【0013】
【表2】
【0014】
環境制御装置のユーザーは、これらa、T1、T2という3つのパラメータを入力することで、日射量に応じて常に最適な目標温度が自動的に計算され、それに向けてハウスの換気窓の開閉や、加温機、冷房機の制御が行われる。a,T1,T2というパラメータは作物ごとの生理特性に応じて決まるものであり、該当作物の日射量と光合成最適温度の関係および生育ゼロ温度を把握することによって定めることができる値である。
なお、これらのaやT1,T2の値自体はこの値に限らず、またこの数式は一例であり、日射量に応じて目標温度を変化させる数式は全て本発明の対象となる。
【0015】
このように、本実施例による農業用ハウス内環境制御装置は、日射量を測定する日射量測定手段と、目標最高温度(日中最高温度)、目標最低温度(夜間最低温度)、及び1つないしは複数の目標温度算出係数を入力する入力手段と、目標温度算出手段とを有し、目標温度算出手段は、目標最高温度と、目標最低温度と、目標温度算出係数(日射量感度)とに基づき、日射量値と目標最高温度と目標最低温度との相関を用いて農業用ハウス内の目標温度を算出することができる。
【0016】
<実施例3>
本実施例による農業用ハウス内環境制御装置は、目標温度算出手段は、日射量値あるいはCO2濃度値ごとの目標温度の換算表を用いて目標温度を決定する。
予め、システム設計者側にて日射量とCO2濃度に対する換算表(パラメータテーブルX)を作っておき(図3)、そのテーブルに対して、以下の式(5)によって目標温度Tを算出する。
T=a×X+T1 ・・・(5)
ここで、aは任意の係数であり本実施例においては2.5、T1は夜間最低温度であり本実施例においては15℃である。その計算結果を図4に示す。
【0017】
環境制御装置のユーザーは、これらa、T1という2つのパラメータを入力することで、日射量に応じて常に最適な目標温度が自動的に計算され、それに向けてハウスの換気窓の開閉や、加温機、冷房機の制御が行われる。パラメータテーブルXは概ね作物をいくつかに分類したうえで、その分類内においてはほぼ普遍的なテーブルを作っておき、a,T1というパラメータはその分類内の作物ごとの生理特性に応じて決まるものであり、該当作物の日射量とCO2濃度と光合成最適温度の関係および生育ゼロ温度を把握することによって定めることができる値である。
【0018】
<実施例4>
本実施例による農業用ハウス内環境制御装置は、目標温度算出手段は、CO2濃度値ごとの日射量値と目標温度の関数を用いて目標温度を決定する。
下記式(6)、(7)は、CO2濃度値によって、日射量係数自体および最高温度自体を演算して算出するという演算式である。
T= a×L+T1 =(a0+b×(CO2濃度−基準CO2濃度))×L+T1 T<T2の場合 ・・・(6)
T=T2= T20+c×(CO2濃度−基準CO2濃度) T≧T2の場合 ・・・(7)
ここで、Lは日射量(kLx)、その他の係数は以下の表3のとおりであり、その計算結果を図5に示す。
【0019】
【表3】
【0020】
環境制御装置のユーザーは、これらa0、b、c、T1、T20という5つのパラメータを入力することで、日射量に応じて常に最適な目標温度が自動的に計算され、それに向けてハウスの換気窓の開閉や、加温機、冷房機の制御が行われる。CO2濃度ごとのa,T1,T2というパラメータは作物ごとの生理特性に応じて決まるものであり、該当作物の日射量とCO2濃度と光合成最適温度の関係および生育ゼロ温度を把握することによって定めることができる値である。
なお、これらのa、a0、b、c、T1,T20の値自体はこの値に限らず、またこの数式は一例であり、日射量とCO2濃度に応じて目標温度を変化させる数式は全て本発明の対象となる。
【0021】
このように、本実施例による農業用ハウス内環境制御装置の目標温度算出手段は、CO2濃度値ごとの日射量値と目標最高温度と目標最低温度との関数を用いて目標温度を算出する。
【0022】
図6は実施例1から実施例4のいずれかの農業用ハウス内環境制御装置の設置例を示す図であり、図6(a)は概略構成図、図6(b)は表示画面の概略構成図である。
図6(a)に示すように、日射量センサ等の日射量測定手段10は連棟ハウスA外に設置され、CO2センサ等のCO2濃度測定手段20は連棟ハウスA内に設置される。また、釦、つまみ、キーボード、又はタッチパネル等の入力手段(図示無し)は、連棟ハウスAの内又は外に配置される。また、パソコンや演算装置等の目標温度算出手段(図示無し)は、連棟ハウスAの内又は外に配置される。
農業用ハウス内環境制御装置は、算出した連棟ハウスA内の目標温度に基づいて、天窓換気制御、循環扇制御、裾巻き上げ換気制御、潅水制御、加温機制御、及び内張りカーテンの開閉制御等を行う。
【0023】
図7は実施例1から実施例4のいずれかの農業用ハウス内環境制御装置の他の設置例を示す図であり、図7(a)は概略構成図、図7(b)は操作盤の概略構成図である。
図7(a)に示すように、日射量センサ等の日射量測定手段10はパイプハウスB外に設置される。また、図7(b)に示すように、つまみ等の入力手段30は、パイプハウスBの内又は外に配置される。また、パソコンや演算装置等の目標温度算出手段(図示無し)は、パイプハウスBの内又は外に配置される。
農業用ハウス内環境制御装置は、算出したパイプハウスB内の目標温度に基づいて、肩(天)窓換気制御、側窓換気制御、遮光カーテン制御、空調機制御、循環扇制御、潅水装置制御、CO2発生装置制御等を行う。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は、農業用ハウス内の環境制御に適用できる。
【符号の説明】
【0025】
10 日射量測定手段
20 CO2濃度測定手段
30 入力手段
A 連棟ハウス
B パイプハウス
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7