【実施例1】
【0023】
図3は、実施例1に係るフィルタの回路図である。
図3に示すように、圧電薄膜共振器を用いたキャパシタCsの代わりにMIM(Metal Insulator Metal)キャパシタCを用いる。その他の構成は比較例1と同じであり説明を省略する。
【0024】
図4は、実施例1に係る弾性波デバイスの断面図である。
図4に示すように、基板10上に圧電薄膜共振器62およびキャパシタ64が設けられている。圧電薄膜共振器62およびキャパシタ64は、それぞれ共振領域50およびキャパシタ領域60を有している。共振領域50は、圧電薄膜共振器62において、圧電膜14aを挟み下部電極12aと上部電極16aとが対向する領域であり、縦振動モードの弾性波が励振する領域である。キャパシタ領域60は、キャパシタ64において、誘電体膜18bを挟み下部電極12bと上部電極20bとが対向する領域である。キャパシタンスはキャパシタ領域60の面積に比例する。
【0025】
基板10上に下部電極12aおよび12bが設けられている。共振領域50内の下部電極12aは基板10上に空隙30を介し設けられている。共振領域50内の下部電極12a上に圧電膜14aが形成されている。共振領域50内の圧電膜14a上に上部電極16aが設けられている。共振領域50内の上部電極16a上に誘電体膜18aが設けられている。誘電体膜18aは、膜厚を調整することで共振周波数を調整する周波数調整膜として機能する。また、誘電体膜18aは共振領域50における保護膜として機能する。キャパシタ領域60の下部電極12b上に誘電体膜18bが設けられている。共振領域50外の下部電極12および上部電極16上にそれぞれ配線
20cおよび
20aが設けられている。キャパシタ領域60内の誘電体膜18b上に配線20が上部電極20bとして設けられている。
【0026】
基板10は、シリコン基板である。基板10としては、サファイア基板、アルミナ基板またはスピネル基板等を用いることができる。圧電膜14は(002)配向した窒化アルミニウムである。圧電膜14として、ZnO(酸化亜鉛)、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)またはPbTiO
3(チタン酸鉛)を用いることができる。圧電膜14は、窒化アルミニウムを主成分とし、共振特性の向上または圧電性の向上のため他の元素を含んでもよい。下部電極12は、例えばCr(クロム)膜とCr膜上のRu(ルテニウム)膜である。上部電極16は、Ru膜とRu膜上のCr膜である。下部電極12および上部電極16として、Al(アルミニウム)、Ti(チタン)、Cu(銅)、Mo(モリブデン)、W(タングステン)、Ta(タンタル)、Pt(白金)、Rh(ロジウム)またはIr(イリジウム)等の単層膜またはこれらの積層膜を用いることができる。誘電体膜18は、酸化シリコン膜(例えばSiO
2膜)である。誘電体膜18としては、窒化シリコン膜、酸化窒化シリコン膜等を用いることができる。配線20は、例えばTi膜とTi膜上のAu(金)膜である。
【0027】
図5は、実施例1に係る弾性波デバイスの平面図である。
図6(a)から
図6(d)は、それぞれ下部電極12、上部電極16、配線20および誘電体膜18の平面図である。
図5において、圧電膜14の平面パターンは上部電極16の平面パターンとほぼ同じである。
図5から
図6(d)に示すように、共振領域50は、上部電極16の引き出し領域では下部電極12の輪郭により規定され、下部電極12の引き出し領域では上部電極16の輪郭により規定される。キャパシタ領域60は、上部電極20bの引き出し領域では誘電体膜18bの輪郭で規定され、他の領域では上部電極20bの輪郭で規定される。キャパシタ領域60における誘電体膜18b上に上部電極20bとして配線20が設けられている。上部電極20bは配線20aと一体に設けられ、配線20cとは分離されている。下部電極12aおよび12bは一体に設けられている。共振領域50の長軸方向の外側において、下部電極12に犠牲層を除去するエッチング液を導入する孔部が設けられえているが、詳細の説明は省略する。
【0028】
図7(a)から
図8(c)は、実施例1における弾性波デバイスの製造方法を示す断面図である。
図7(a)に示すように、平坦主面を有する基板10上に空隙を形成するための犠牲層38を形成する。犠牲層38の膜厚は、例えば10〜100nmであり、MgO(酸化マグネシウム)、ZnO、Ge(ゲルマニウム)またはSiO
2(酸化シリコン)等のエッチング液またはエッチングガスに容易に溶解できる材料から選択される。その後、犠牲層38を、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用い所望の形状にパターニングする。犠牲層38の形状は、空隙30の平面形状に相当する形状であり、例えば共振領域50となる領域を含む。次に、犠牲層38および基板10上に下部電極12を形成する。犠牲層38および下部電極12は、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法またはCVD(Chemical Vapor Deposition)法を用い成膜される。その後、下部電極12を、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用い所望の形状にパターニングする。下部電極12は、リフトオフ法により形成してもよい。
【0029】
図7(b)に示すように、下部電極12および基板10上に圧電膜14を、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法またはCVD法を用い成膜する。圧電膜14上に上部電極16をスパッタリング法、真空蒸着法またはCVD法を用い成膜する。
【0030】
図7(c)に示すように、上部電極16を、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用い所望の形状にパターニングする。上部電極16は、リフトオフ法により形成してもよい。圧電膜14を所望の形状にパターニングする。このとき、圧電膜14は上部電極16をマスクにエッチングしてもよい。これにより、圧電膜14は上部電極16と同じ形状にパターニングされる。
【0031】
図8(a)に示すように、下部電極12および上部電極16上に誘電体膜18を、例えば、スパッタリング法またはCVD法を用い成膜する。誘電体膜18を、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用い所望の形状にパターニングする。これにより、共振領域における上部電極16上に誘電体膜18aが形成され、キャパシタ領域における下部電極12b上に誘電体膜18bが形成される。
【0032】
図8(b)に示すように、配線20を形成する。配線20は例えばメッキ法、スパッタリング法または蒸着法を用い形成する。配線を、フォトリソグラフィ技術および/またはエッチング技術を用い所望の形状にパターニングする。
【0033】
図8(c)に示すように、犠牲層38のエッチング液を下部電極12の下の犠牲層38に導入する。これにより、犠牲層38が除去される。犠牲層38をエッチングする媒体としては、犠牲層38以外の共振器を構成する材料をエッチングしない媒体であることが好ましい。特に、エッチング媒体は、エッチング媒体が接触する下部電極12がエッチングされない媒体であることが好ましい。下部電極12から誘電体膜18までの積層膜の応力を圧縮応力となるように設定しておく。これにより、犠牲層38が除去されると、積層膜が基板10の反対側に基板10から離れるように膨れる。下部電極12と基板10との間にドーム状の膨らみを有する空隙30が形成される。以上により、実施例1に係る圧電薄膜共振器62およびキャパシタ64が作製される。
【0034】
図3の実施例1に係るフィルタの通過特性を測定した。各共振器は、圧電薄膜共振器である。下部電極12を膜厚が70nmのCr膜および膜厚が178nmのRu膜、圧電膜14を膜厚が999nmの(002)配向した窒化アルミニウム膜、上部電極16を膜厚が154nmのRu膜および膜厚が55nmのCr膜、誘電体膜18を膜厚が70nmの酸化シリコン膜とした。キャパシタCのキャパシタンスを0.7pFとした。キャパシタCが設けられていない比較例2に係るフィルタについても通過特性を測定した。
【0035】
図9は、実施例1および比較例2に係るフィルタの通過特性を示す図である。
図9に示すように、実施例1では比較例2より通過帯域の高周波側のスカート特性が急峻となっている。減衰量が−2dBから−30dBの変遷移幅は、比較例2で15.6MHzに対し、実施例1で12.9MHzである。このように、直列共振器S2にキャパシタCを並列に接続することにより、高周波側の遷移幅を小さくできる。
【0036】
実施例1によれば、
図7(a)から
図7(c)のように、圧電膜14aを挟み下部電極12a(第1下部電極)と上部電極16a(第1上部電極)とが対向する共振領域50を有する圧電薄膜共振器62と、共振領域50外において上に圧電膜14および上部電極16が形成されていない下部電極12b(第2下部電極)と、を基板10上に形成する。
図8(a)のように、共振領域50内と、共振領域50外の下部電極12b上と、にそれぞれ誘電体膜18aと18bとを同時に形成する。
図8(b)のように、誘電体膜18b上に下部電極12bと対向するように上部電極20bを形成する。
【0037】
これにより、圧電薄膜共振器62の共振領域50内の誘電体膜18aとキャパシタ領域60の誘電体膜18bとを同時に形成できるため、製造工数を削減できる。また、圧電膜14の膜厚は1000nm程度であるのに対し誘電体膜18bの膜厚は50nm程度にできる。窒化アルミニウムの比誘電率は8.5程度であり、酸化シリコンの比誘電率は3.8程度である。よって、実施例1のキャパシタ領域60の容量密度は比較例1の約10倍である。よって、同じキャパシタンスを得るために、キャパシタ領域60の面積を約1/10とすることができる。このように、誘電体膜18bの膜厚を圧電膜14の膜厚より小さくできる。誘電体膜18bの膜厚は圧電膜14の膜厚の1/2以下が好ましく、1/5以下がより好ましく、1/10いかがさらに好ましい。また、誘電体膜18bの膜厚は、200n以下が好ましく、100nm以下がより好ましい。誘電体膜18bの膜厚は、10nm以上が好ましく、25nm以上がより好ましい。
【0038】
このようにして製造した弾性波デバイスにおいては、
図4のように、圧電薄膜共振器62は、基板10上に設けられた圧電膜14aと、圧電膜14aを挟む下部電極12aおよび上部電極16aと、共振領域50内に設けられた誘電体膜18aと、を備えている。キャパシタ64は、基板10に設けられた誘電体膜18aと同じ材料かつ略同じ膜厚を有する誘電体膜18bと、圧電膜14を挟まず誘電体膜18bを挟む下部電極
12bおよび上部電極
20bと、を備える。
【0039】
誘電体膜18aを周波数調整膜として用いる場合、誘電体膜18aは共振領域50内に形成されていればよい。例えば、誘電体膜18aは下部電極12a下、下部電極12a内、下部電極12aと圧電膜14aの間、圧電膜14a内、圧電膜14aと上部電極16aの間または上部電極16a内に形成されていればよい。
図8(a)のように、誘電体膜18aを共振領域50内の上部電極16a上に形成することにより、誘電体膜18aを保護膜として用いることができる。
【0040】
さらに、
図7(a)のように、下部電極12aと12bは同時に形成されることが好ましい。これにより製造工数を削減できる。この場合、下部電極12aと12bの材料は同じとなり、下部電極12aと12bの膜厚は略同じとなる。
【0041】
さらに、
図8(b)のように、上部電極20bは、上部電極16aと接続される配線20aと同時に形成されることが好ましい。この場合、配線20aと上部電極20bの材料は同じとなり、配線20aと上部電極20bの膜厚は略同じとなる。
【0042】
図5および
図6(c)のように、配線20aと上部電極20bとは一体として設けられている。
図5および
図6(a)のように、下部電極12aと下部電極12bとは一体として設けられている。これにより、圧電薄膜共振器62にキャパシタ64を並列に接続することができる。
【実施例3】
【0045】
実施例3は圧電膜14aが挿入膜28または温度補償膜を含む例である。
図13(a)から
図14(c)は、実施例3に係る弾性波デバイスの断面図である。
図13(a)に示すように、圧電膜14a内に挿入膜28が挿入されている。
図13(b)に示すように、圧電膜14aと上部電極16aとの間に挿入膜28が挿入されている。
図13(c)に示すように、下部電極12aと圧電膜14aとの間に挿入膜28が挿入されている。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。
【0046】
挿入膜28は、共振領域50内の外周領域52に設けられ中央領域54に設けられていない。外周領域52は、共振領域50内の領域であって、共振領域50の外周を含み外周に沿った領域である。中央領域54は、共振領域50内の領域であって、共振領域50の中央を含む領域である。中央は幾何学的な中心でなくてもよい。
【0047】
挿入膜28を圧電膜
14aよりヤング率の小さい材料または音響インピーダンスの小さい材料とする。これにより、共振領域50から横方向に漏洩する弾性波を抑制できる。よって、圧電薄膜共振器62のQ値を向上できる。挿入膜28としては、例えば酸化シリコン膜またはアルミニウム膜を用いることができる。
【0048】
図14(a)に示すように、圧電膜14a内に温度補償膜29が挿入されている。
図14(b)に示すように、圧電膜14aと上部電極16aとの間に温度補償膜29が挿入されている。
図14(c)に示すように、下部電極12aと圧電膜14aとの間に温度補償膜29が挿入されている。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。
【0049】
温度補償膜29は、共振領域50の少なくとも一部に設けられ、好ましくは共振領域50の全面に設けられている。温度補償膜29は、圧電膜14aの弾性定数の温度係数とは逆符号の弾性定数の温度係数を有する。これにより、圧電薄膜共振器62の周波数温度依存性を抑制できる。温度補償膜29としては、例えば酸化シリコン膜を用いる。
【0050】
実施例3のように、圧電薄膜共振器62は挿入膜28または温度補償膜29を有していてもよい。挿入膜28または温度補償膜29が誘電体膜のとき、誘電体膜18bは挿入膜28または温度補償膜29と同時に形成されてもよい。すなわち、誘電体膜18bの材料および膜厚は、挿入膜28または温度補償膜29の材料および膜厚と実質的に同じでもよい。また、実施例2に係る弾性波デバイスの圧電薄膜共振器62が挿入膜28または温度補償膜29を有してもよい。
【実施例4】
【0051】
実施例4は、空隙の構成を変えた例である。
図15(a)および
図15(b)は、実施例4およびその変形例1に係る弾性波デバイスの断面図である。
図15(a)に示すように、基板10の上面に窪みが形成されている。下部電極12は、基板10上に平坦に形成されている。これにより、空隙30が、基板10の窪みに形成されている。空隙30は共振領域50を含むように形成されている。その他の構成は、実施例1と同じであり説明を省略する。空隙30は、基板10を貫通するように形成されていてもよい。なお、下部電極12の下面に絶縁膜が接して形成されていてもよい。すなわち、空隙30は、基板10と下部電極12に接する絶縁膜との間に形成されていてもよい。絶縁膜としては、例えば窒化アルミニウム膜を用いることができる。
【0052】
図15(b)に示すように、共振領域50の下部電極12下に音響反射膜31が形成されている。音響反射膜31は、音響インピーダンスの低い膜31aと音響インピーダンスの高い膜31bとが交互に設けられている。膜31aおよび31bの膜厚は例えばそれぞれ略λ/4(λは弾性波の波長)である。膜31aと膜31bの積層数は任意に設定できる。例えば、音響反射膜31は、基板10中に音響インピーダンスの異なる膜が一層設けられている構成でもよい。その他の構成は、実施例1と同じであり説明を省略する。
【0053】
実施例1から3において、実施例4と同様に空隙30を形成してもよく、実施例4の変形例1と同様に空隙30の代わりに音響反射膜31を形成してもよい。
【0054】
実施例1から4のように、圧電薄膜共振器は、共振領域50において空隙30が基板10と下部電極12との間に形成されているFBAR(Film Bulk Acoustic Resonator)でもよい。また、実施例4の変形例1のように、圧電薄膜共振器は、共振領域50において下部電極12下に圧電膜14を伝搬する弾性波を反射する音響反射膜31を備えるSMR(Solidly Mounted Resonator)でもよい。このように、基板10内または上に設けられる音響反射層は、空隙30、または音響特性の異なる少なくとも2種類の層が積層された音響反射膜31を含めばよい。
【0055】
実施例1から4において、共振領域50は楕円形状を例に説明したが、共振領域50は四角形または五角形等の多角形でもよい。