(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【0007】
国際公開第2013/146500号パンフレット記載のセラミックパッケージ用の素地は、高強度であるが、Mo(モリブデン)、W(タングステン)の導体と同時焼成で、還元雰囲気で焼成するため、Ti
4+からTi
3+への形成過程でホール(正孔)が形成され、誘電正接が大きくなる。振動子等が実装されるパッケージ用途では、絶縁体の誘電正接が大きくなることによる電気信号損失は問題とならないが、高周波用回路基板では問題となる。また、硬度の高いMnTiO
3結晶相が粒界に存在するため、押圧ローラーを使用してのチップ分割の際に、チッピングが生じ易くなり、品質上の不具合率(NG率)が高くなる。
【0008】
特許第4413223号公報記載のセラミックパッケージ並びに特許第4413224号公報記載のアルミナ素地は、硬度の高いMnAl
2O
4結晶相を含むため、国際公開第2013/146500号パンフレットと同様に、押圧ローラーを使用してのチップ分割の際に、チッピングが生じ易くなり、品質上の不具合率(NG率)が高くなる。
【0009】
特許第4578076号公報及び特許第4413224号公報記載のアルミナ素地は、国際公開第2013/146500号パンフレットと同様にTiを含むため、Mo導体、W導体との同時焼成で、アルミナ磁器の誘電正接が増大し、高周波用回路基板では問題になる。
【0010】
特許第4220869号公報記載の製造方法は、特許第4413223号公報の記載内容から推定し、MnAl
2O
4結晶相が形成されるものと想定されるため、特許第4413223号公報に記載の技術と同様の問題がある。
【0011】
本発明はこのような課題を考慮してなされたものであり、曲げ強度が高く、しかも、誘電正接が小さく、高周波用回路基板にも好適であり、また、チップ分割時のチッピング発生率も小さく、歩留りを向上させることができ、セラミック素地を用いた製品(セラミックパッケージ等)の小型化を低コストで実現することができるセラミック素地を提供することを目的とする。
【0012】
また、本発明の他の目的は、曲げ強度が高く、セラミックパッケージ等の小型化を実現することができるセラミック素地を、低い焼成温度にて作製することができ、セラミック素地並びにセラミック素地を用いた製品のコストを低減することができるセラミック素地の製造方法を提供することにある。
【0013】
[1] 第1の本発明に係るセラミック素地は、結晶相が、Al
2O
3を主結晶相とし、その他、BaAl
2Si
2O
8結晶相のみを含むことを特徴とする。
【0014】
[2] この場合、曲げ強度が600MPa以上であることが好ましい。
【0015】
[3] また、温度1200〜1400℃にて焼結されていることが好ましい。
【0016】
[4] 第1の本発明において、AlをAl
2O
3換算で89.0〜92.0質量%、SiをSiO
2換算で2.0〜5.0質量%、MnをMnO換算で2.0〜5.0質量%、MgをMgO換算で0〜2.0質量%、BaをBaO換算で0.05〜2.0質量%含むことが好ましい。
【0017】
[5] 第2の本発明に係るセラミック素地の製造方法は、
結晶相が、Al2O3を主結晶相とし、その他、BaAl2Si2O8結晶相のみを含むセラミック素地の製造方法であって、Al
2O
3粉末を89.0〜92.0質量%、SiO
2粉末を2.0〜5.0質量%、MnCO
3粉末を3.2〜8.1質量%(MnO換算2.0〜5.0質量%)、MgO粉末を0〜2.0質量%、BaCO
3粉末を0.06〜2.6質量%(BaO換算0.05〜2.0質量%)含有する成形体を作製する成形体作製工程と、成形体を1200〜1400℃にて焼成する焼成工程とを有することを特徴とする。
【0018】
[6] 第2の本発明において、成形体に、金属を含む導体層を形成する工程をさらに有し、焼成工程は、導体層が形成された成形体を焼成してもよい。
【0019】
[7] 第2の本発明において、焼成工程は、水素を5%以上含む、水素と窒素のフォーミングガス中で行ってもよい。
【0020】
本発明に係るセラミック素地によれば、曲げ強度が高く、しかも、誘電正接が小さく、高周波用回路基板にも好適であり、また、チップ分割時のチッピング発生率も小さく、歩留りを向上させることができ、セラミック素地を用いた製品(セラミックパッケージ等)の小型化を低コストで実現することができる。
【0021】
また、本発明に係るセラミック素地の製造方法によれば、曲げ強度が高く、セラミックパッケージ等の小型化を実現することができるセラミック素地を、低い焼成温度にて作製することができ、セラミック素地並びにセラミック素地を用いた製品のコストを低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係るセラミック素地及びその製造方法の実施の形態例を
図1〜
図5Cを参照しながら説明する。なお、本明細書において数値範囲を示す「〜」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味として使用される。
【0024】
本実施の形態に係るセラミック素地は、Al
2O
3を主結晶相とし、その他、BaAl
2Si
2O
8結晶相のみを含む。
【0025】
具体的には、AlをAl
2O
3換算で89.0〜92.0質量%、SiをSiO
2換算で2.0〜5.0質量%、MnをMnO換算で2.0〜5.0質量%、MgをMgO換算で0〜2.0質量%、BaをBaO
換算で0.05〜2.0質量%含むことが好ましい。
【0026】
具体的には、セラミック素地は、Al
2O
3粉末を89.0〜92.0質量%、SiO
2粉末を2.0〜5.0質量%、MnCO
3粉末を3.2〜8.1質量%(MnO換算で2.0〜5.0質量%)、MgO粉末を0〜2.0質量%、BaCO
3粉末を0.06〜2.6質量%(BaO換算で0.05〜2.0質量%)含有する成形体を作製した後、成形体を1200〜1400℃にて焼成することにより作製される。
【0027】
MgO粉末は、Al
2O
3の焼結助剤として添加され、SiO
2粉末は、Al
2O
3の焼結助剤として、また、Mn
2SiO
4ガラス相を生成させて焼結温度の低下を図るために添加される。BaCO
3粉末は、硬度が高くなるMnAl
2O
4の生成を抑制するために添加される。
【0028】
従来では、TiO
2粉末、C
r2O
3粉末、Fe
3O
4粉末のいずれか1以上を含むようにしているが、誘電正接が大きくなるため、できるだけ含まないことが好ましい。含めるとしても、0.1質量%以下である。誘電正接は、1MHz〜10GHzにおいて、30×10
−4以下が好ましい。さらに好ましくは、15×10
−4以下、より好ましくは10×10
−4以下である。これにより、セラミック素地を高周波用回路基板にも適用することができ、好ましい。
【0029】
なお、必要に応じて、着色剤としてMo酸化物やW酸化物を1.0質量%以下含めるようにしてもよい。
【0030】
これにより、温度1200〜1400℃という低温にて焼結することができ、曲げ強度が600MPa以上のセラミック素地を実現することができる。
【0031】
そして、AlがAl
2O
3換算で89.0質量%未満だと、生成されるAl
2O
3の量が低下し、曲げ強度の低下をもたらす。92.0質量%を超えると、生成されるMn
2SiO
4ガラス相の量が低下し、1200〜1400℃での緻密化が達成されず、また、曲げ強度の低下をもたらす。
【0032】
MgがMgO換算で2.0質量%を超えると、生成されるMn
2SiO
4ガラス相の量が低下し、1200〜1400℃での緻密化が達成されず、また、曲げ強度の低下をもたらす。
【0033】
SiがSiO
2換算で2.0質量%未満だと、生成されるMn
2SiO
4ガラス相の量が低下し、1200〜1400℃での緻密化が達成されず、また、曲げ強度の低下をもたらす。5.0質量%を超えると、生成されるAl
2O
3の量が低下し、曲げ強度の低下をもたらす。
【0034】
MnがMnO換算で2.0質量%未満だと、生成されるMn
2SiO
4ガラス相の量が低下し、1200〜1400℃での緻密化が達成されず、また、曲げ強度の低下をもたらす。5.0質量%を超えると、生成されるAl
2O
3の量の低下による曲げ強度の低下をもたらす。また、MnAl
2O
4結晶相が生成されることから、緻密化が阻害され強度低下をもたらす。
【0035】
BaがBaO換算で0.05質量%未満だと、MnAl
2O
4の生成を抑制することができなくなり、例えば押圧ローラーによるチップ分割の際のチッピング発生率を0.1%以下に抑えることができなくなる。2.0質量%を超えると、軟化が進行し、押圧ローラーによるチップ分割が実現できにくくなる。また、誘電正接が大きくなる傾向にある。
【0036】
従って、Al、Si、Mn、Mg及びBaを上述した比率で含有させることで、生成されるガラス相の強度を高めることができ、その結果、曲げ強度が高くなり、セラミック素地を用いた製品(セラミックパッケージ等)の小型化を促進させることができる。しかも、低い焼成温度にて作製することができ、コストの低廉化に有利になる。さらに、生成されるBaAl
2Si
2O
8結晶相によって、硬度が極度に高くなることが抑制され、押圧ローラーによるチップ分割でのチッピング発生率を低下させることができ、生産性を向上させることができる。
【0037】
ここで、本実施の形態に係るセラミック素地を用いたセラミックパッケージの2つの構成例について
図1〜
図4を参照しながら説明する。
【0038】
第1の構成例に係るセラミックパッケージ(以下、第1パッケージ10Aと記す)は、
図1に示すように、本実施の形態に係るセラミック素地にて構成された積層基板12と、同じく本実施の形態に係るセラミック素地にて蓋体14とを有する。
【0039】
積層基板12は、少なくとも板状の第1基板16aと、板状の第2基板16bと、枠体18とがこの順番で積層されて構成されている。また、この積層基板12は、第2基板16bの上面に形成された上面電極20と、第1基板16aの下面に形成された下面電極22と、内部に形成された内層電極24と、該内層電極24と下面電極22とを電気的に接続する第1ビアホール26aと、内層電極24と上面電極20とを電気的に接続する第2ビアホール26bとを有する。
【0040】
また、この第1パッケージ10Aは、第2基板16bの上面と枠体18とで囲まれた収容空間28に、水晶振動子30が導体層32を介して上面電極20に電気的に接続されている。さらに、水晶振動子30を保護するため、枠体18の上面に、蓋体14がガラス層34を介して気密に封止されている。
【0041】
上述した第1パッケージ10Aでは、収容空間28内に、水晶振動子30を実装した例を示したが、その他、抵抗体、フィルタ、コンデンサ、半導体素子のうち、少なくとも1種以上を実装してもよい。本実施の形態では、誘電正接が1MHz〜10GHzにおいて、30×10
-4以下であるため、高周波用回路基板としても好適である。
【0042】
そして、第1パッケージ10Aを構成する積層基板12及び蓋体14は、本実施の形態に係るセラミック素地にて構成しているため、曲げ強度が600MPa以上である。曲げ強度が600MPaよりも低くなると、蓋体14の封止の際や2次実装の際に熱応力が加わって破壊するおそれがある。あるいは、ハンドリングの際や使用の際の衝撃等により破壊するおそれがある。曲げ強度が600MPa以上であれば、このような破壊のリスクを回避することができる。また、セラミック素地を表面研磨せずに、第1パッケージ10Aの積層基板12及び蓋体14として使用しても、蓋体14を気密封止する際の破壊を防止することができ、第1パッケージ10Aの製造コスト及び信頼性を改善することができる。なお、「曲げ強度」とは、4点曲げ強度をいい、JISR1601(ファインセラミックスの曲げ試験方法)に基づいて室温にて測定した値をいう。
【0043】
そして、本実施の形態に係るセラミック素地が、上述した組成を有することから、温度1200〜1400℃という低温にて焼結させることができる。そのため、セラミック素地の前駆体(焼成前の成形体)と、電極(上面電極20、下面電極22、内層電極24)及びビアホール26(第1ビアホール26a、第2ビアホール26b)とを同時焼成することで、積層基板12を作製することができ、製造工程を簡略化することができる。
【0044】
次に、セラミック素地の製造方法を、例えば第1パッケージ10Aの製造方法に沿って
図2を参照しながら説明する。
【0045】
先ず、
図2のステップS1aにおいて、Al
2O
3粉末を89.0〜92.0質量%、SiO
2粉末を2.0〜5.0質量%、MnCO
3粉末を3.2〜8.1質量%、MgO粉末を0〜2.0質量%、BaCO
3粉末を0.06〜2.6質量%含有する混合粉末を準備し、ステップS1bにおいて、有機成分(バインダー)を準備し、ステップS1cにおいて、溶剤を準備する。
【0046】
Al
2O
3粉末の平均粒径は、0.7〜2.5μmが好ましい。0.7μm未満だと、MnAl
2O
4結晶相が生成されることから、緻密化が阻害され強度低下をもたらす。2.5μmを超えると、Al
2O
3自身の焼結性の低下により、強度低下をもたらす。
【0047】
SiO
2粉末の平均粒径は、0.1〜2.5μmが好ましい。MnCO
3粉末の平均粒径は、0.5〜4.0μmが好ましい。MgO粉末の平均粒径は0.1〜1.0μmが好ましい。BaCO
3粉末の平均粒径は、0.5〜4.0μmが好ましい。
【0048】
これらSiO
2粉末、MnCO
3粉末、MgO粉末、BaCO
3粉末において、好ましい範囲の下限値未満だと、粒子の凝集の発生により、分散性が低下し、組成の不均一化、強度低下をもたらす。好ましい範囲の上限値を超えると、粒子自体のサイズが大きくなってしまうため、粒子を均一に分散させることが困難となり、組成の不均一化、強度低下をもたらす。
【0049】
ステップS1bにおいて準備される有機成分(バインダー)は、樹脂、界面活性剤、可塑剤等が挙げられる。樹脂としては、例えばポリビニルブチラールが挙げられ、界面活性剤としては、例えば3級アミンが挙げられ、可塑剤としては、例えばフタル酸エステル(例えばフタル酸ジイソノニル:DINP)が挙げられる。
【0050】
ステップS1cにおいて準備される溶剤は、アルコール系溶剤、芳香族系溶剤等が挙げられる。アルコール系溶剤としては、例えばIPA(イソプロピルアルコール)が挙げられ、芳香族系溶剤としては、例えばトルエンが挙げられる。
【0051】
そして、次のステップS2において、上述の混合粉末に、有機成分及び溶剤を混合、分散させた後、ステップS3において、プレス法、ドクターブレード法、圧延法、射出法等の周知の成形方法によって、セラミック素地の前駆体であるセラミック成形体(セラミックテープとも記す)を作製する。例えば混合粉末に有機成分や溶剤を添加してスラリーを調製した後、ドクターブレード法によって所定の厚みのセラミックテープを形成する。あるいは、混合粉末に有機成分を加え、プレス成形、圧延成形等により所定の厚みのセラミックテープを作製する。
【0052】
ステップS4において、セラミックテープを所望の形状に切断、加工して、第1基板用の広い面積の第1テープと、第2基板用の広い面積の第2テープと、枠体用の第3テープと、蓋体用の第4テープを作製し、さらに、マイクロドリル加工、レーザー加工等により、第1ビアホール26a及び第2ビアホール26bを形成するための貫通孔を形成する。
【0053】
次に、ステップS5において、上述のように作製した第1テープ及び第2テープに対して、上面電極20、下面電極22、内層電極24を形成するための導体ペーストをスクリーン印刷、グラビア印刷等の方法により印刷塗布し、さらに、所望により、導体ペーストを貫通孔内に充填する。
【0054】
導体ペーストは、導体成分として、例えばW(タングステン)、Mo(モリブデン)等の高融点金属のうち少なくとも1種を用い、これにAl
2O
3粉末、又はSiO
2粉末、又はセラミック素地と同等の粉末を例えば1〜20質量%、特に8質量%以下の割合で添加したものが好ましい。これにより、導体層の導通抵抗を低く維持したままアルミナ焼結体と導体層の密着性を高め、めっき欠け等の不良の発生を防止することができる。
【0055】
その後、ステップS6において、導体ペーストを印刷塗布した第1テープ及び第2テープ並びに枠体用の第3テープを位置合わせし、積層圧着して、積層体を作製する。
【0056】
その後、ステップS7において、積層体の両面にチップ分割のための分割溝を例えばナイフカットにて形成する。
【0057】
次のステップS8において、積層体及び第4テープを、水素を5%以上含む、水素と窒素のフォーミングガス雰囲気、例えばH
2/N
2=30%/70%のフォーミングガス雰囲気(ウェッター温度25〜47℃)で、1200〜1400℃の温度範囲で焼成する。これによって、積層体及び導体ペーストが同時焼成された積層原板(多数個取り基板)が作製される。この焼成によって、上述したように、結晶相が、Al
2O
3を主結晶相とし、その他、BaAl
2Si
2O
8結晶相のみを含むセラミック素地、すなわち、多数個取り基板を作製することができる。
【0058】
焼成雰囲気を、上述のようなフォーミングガス雰囲気で行うことで、導体ペースト中の金属の酸化を防止することができる。焼成温度は、上述した温度範囲が好ましい。焼成温度が1200℃よりも低いと、緻密化が不十分で曲げ強度が600MPaに達せず、また、1400℃よりも高くなると、積層体を構成する第1テープ、第2テープ及び第3テープの収縮率のばらつきが大きくなり、寸法精度が低下する。これは歩留りの低下につながり、コストの高価格化を招く。もちろん、焼成温度が高くなれば、それだけ設備にコストがかかるという問題もある。
【0059】
次に、ステップS9において、上述の多数個取り基板にめっき処理を行って、該多数個取り基板の表面に形成されている導体層に、Ni、Co、Cr、Au、Pd及びCuのうち、少なくとも1種からなるめっき層を形成し、多数個取り基板の表面に多数の上面電極20及び多数の下面電極22を形成する。
【0060】
その後、ステップS10において、多数個取り基板を、押圧ローラー等で押し当てて複数に分割し(チップ分割)、収容空間28を有する複数の積層基板12を作製する。ステップS11において、複数の積層基板12の各収容空間28にそれぞれ水晶振動子30を上面電極20に導体層32を介して実装する。
【0061】
そして、ステップS12において、各積層基板12の上面に、封止用のガラス層34が形成されたセラミック製の蓋体14により気密に封止することによって、内部に水晶振動子30が実装された複数の第1パッケージ10Aが完成する。
【0062】
この第1パッケージ10Aの製造方法(セラミック素地の製造方法)においては、上述したように、結晶相が、Al
2O
3を主結晶相とし、その他、BaAl
2Si
2O
8結晶相のみを含み、曲げ強度が600MPa以上のセラミック素地を作製することができる。すなわち、セラミックパッケージ等の小型化及び薄型化、並びに曲げ強度の向上を図ることができるセラミック素地を、低い焼成温度にて作製することができ、セラミック素地並びにセラミック素地を用いた製品のコストを低減することができる。
【0063】
次に、第2の構成例に係るセラミックパッケージ(以下、第2パッケージ10Bと記す)について、
図3及び
図4を参照しながら説明する。
【0064】
この第2パッケージ10Bは、
図3に示すように、上述した第1パッケージ10Aとほぼ同様の構成を有するが、以下の点で異なる。
【0065】
すなわち、金属蓋体40を、積層基板12の枠体18上に、銀ろう等の高温封止材42を用いて気密封止している。
【0066】
また、積層基板12の枠体18の上面と高温封止材42との間に接合層44が介在されている。この接合層44は、枠体18の上面に、上面電極20と同じ材料で形成されたメタライズ層46と、該メタライズ層46上に形成された例えばニッケル(Ni)の電解めっき層48と、該Niの電解めっき層48上に形成された例えば金(Au)の無電解めっき層50とを有する。
【0067】
金属蓋体40は、厚みが0.05〜0.20mmの平板状に形成され、鉄−ニッケル合金板あるいは鉄−ニッケル−コバルト合金板にて構成されている。この金属蓋体40の下面(全面あるいは枠体18に対応した部分)には、高温封止材42である銀−銅共晶ろう等のろう材が形成されている。厚みは5〜20μm程度である。
【0068】
具体的には、金属蓋体40は、鉄−ニッケル合金板あるいは鉄−ニッケル−コバルト合金板の下面に銀−銅ろう等のろう材箔を重ねて圧延して構成される複合板を打ち抜き金型で所定の形状に打ち抜くことによって作製される。
【0069】
高温封止材42としては、具体的には、下記表1に示すろう材1(85Ag−15Cu)、ろう材2(72Ag−28Cu)、ろう材3(67Ag−29Cu−4Sn)のいずれかを使用することができる。
【0071】
Niの電解めっき層48及びAuの無電解めっき層50は、高温封止材42のメタライズ層46に対する濡れ性を向上させる層として機能する。
【0072】
次に、第2パッケージ10Bの製造方法を
図4を参照しながら説明する。なお、
図2と重複する工程については説明を省略する。
【0073】
先ず、
図4のステップS101において、セラミックテープを作製するための混合粉末、有機成分及び溶剤を準備する。準備する混合粉末、有機成分及び溶剤は、上述したステップS1a、ステップS1b及びステップS1cと同じであるため、その重複説明を省略する。
【0074】
そして、ステップS102において、上述の混合粉末に、有機成分及び溶剤を混合、分散させた後、ステップS103において、プレス法、ドクターブレード法、圧延法、射出法等の周知の成形方法によって、セラミック素地の前駆体であるセラミック成形体(セラミックテープ)を作製する。
【0075】
ステップS104において、セラミックテープを所望の形状に切断、加工して、第1基板16a用の広い面積の第1テープと、第2基板16b用の広い面積の第2テープと、枠体18用の第3テープとを作製し、さらに、マイクロドリル加工、レーザー加工等により、第1ビアホール26a及び第2ビアホール26bを形成するための貫通孔を形成する。
【0076】
一方、ステップS105において、導体ペースト用の原料粉末、有機成分及び溶剤を準備する。準備する原料粉末は、上述したように、W(タングステン)、Mo(モリブデン)、ニッケル(Ni)等の金属粉末のうち少なくとも1種と、これに適宜Al
2O
3粉末、又はSiO
2粉末、又はセラミック素地と同等の粉末を例えば1〜20質量%、特に8質量%以下の割合で添加した混合粉末が挙げられる。準備する有機成分は、樹脂(例えばエチルセルロース)、界面活性剤等が挙げられる。準備する溶剤は、ターペノール等が挙げられる。
【0077】
そして、ステップS106において、上述の混合粉末に、有機成分及び溶剤を混合、分散させて導体ペーストを調製する。
【0078】
次に、ステップS107において、上述のように作製した第1テープ〜第3テープに対して、導体ペーストをスクリーン印刷、グラビア印刷等の方法により印刷塗布する。
【0079】
その後、ステップS108において、導体ペーストを印刷塗布した第1テープ〜第3テープを位置合わせし、積層圧着して、積層体を作製する。
【0080】
その後、ステップS109において、積層体の両面にチップ分割のための分割溝を例えばナイフカットにて形成する。
【0081】
次のステップS110において、積層体を、H
2/N
2=30%/70%のフォーミングガス雰囲気(ウェッター温度25〜47℃)で、1200〜1400℃の温度範囲で焼成する。これによって、積層体及び導体ペーストが同時焼成された積層原板(多数個取り基板)が作製される。この多数個取り基板は、多数の枠体18の形状が一体に配列された形状を有する。また、この焼成によって、導体ペーストが電極(上面電極20等)やメタライズ層46となる。
【0082】
次のステップS111において、アルカリ、酸等で少なくともメタライズ層46の表面を洗浄する(前処理)。すなわち、アルカリ洗浄を行った後、酸洗浄を行う。前処理では、アルカリ及び酸は適当な濃度に希釈されて使用されてもよい。また、前処理は、20℃から70℃程度の温度と、数分から数十分の間で実施される。
【0083】
ステップS112において、Niの電解めっき処理を行って、メタライズ層46上にNiの電解めっき層48(膜厚:1.0〜5.0μm)を形成する。
【0084】
ステップS113において、パラジウム(Pd)の無電解めっき処理を行った後、Auの無電解めっき処理を行って、Niの電解めっき層48上にAuの無電解めっき層50(膜厚:0.05〜0.3μm)を形成する。
【0085】
その後、ステップS114において、多数個取り基板を、押圧ローラー等で押し当てて複数に分割し(チップ分割)、それぞれ収容空間28を有する複数の積層基板12を作製する。その後、ステップS115において、複数の積層基板12の各収容空間28にそれぞれ水晶振動子30を上面電極20に導体層32を介して実装する。
【0086】
そして、ステップS116において、裏面に高温封止材42が形成された金属蓋体40を、高温封止材42と枠体18の上面(接合層44)側とを対向させて、枠体18上に被せる。その後、金属蓋体40の相対向する外周縁にシーム溶接機の一対のローラー電極を接触させながら転動させると共に、このローラー電極間に電流を流すことで、高温封止材42の一部を溶融させることにより、枠体18上に金属蓋体40を気密封止する。封止時の雰囲気は、N
2ガス又は真空中で行われる。これにより、内部に水晶振動子30が実装された複数の第2パッケージ10Bが完成する。
【実施例】
【0087】
実施例1〜4、比較例1
及び2について、セラミック素地のAl
2O
3以外の結晶相、曲げ強度(抗折強度)、誘電正接、チッピング発生率を確認した。
【0088】
(実施例1)
原料粉末を準備した。原料粉末は、平均粒径1.5μmのAl
2O
3粉末、平均粒径0.5μmのMgO粉末、平均粒径1.0μmのSiO
2粉末、平均粒径1.0μmのMnCO
3粉末及び平均粒径1.0μmのBaCO
3粉末、平均粒径3.0μmのMoO
3粉末である。
【0089】
原料粉末を下記表2に示す割合(Al
2O
3粉末:91.8質量%、SiO
2粉末:4.5質量%、MnCO
3粉末:4.4質量%(MnO換算2.7質量%)、MgO粉末:0.3質量%、MoO
3粉末:0.5質量%、BaCO
3粉末:0.3質量%(BaO換算0.2質量%))で混合して混合粉末を得た。得られた混合粉末に、有機成分として、ポリビニルブチラール、3級アミン及びフタル酸エステル(フタル酸ジイソノニル:DINP)を混合し、溶剤として、IPA(イソプロピルアルコール)及びトルエンを混合、拡散してスラリーを調製し、その後、ドクターブレード法にて厚さ60〜270μmのセラミックテープを作製した。得られたセラミックテープを焼成温度(最高温度)が1380℃、H
2+N
2のフォーミングガス雰囲気にて焼成して実施例1に係るセラミック素地を作製した。導体は同時焼成にて形成した。セラミック素地は、結晶相を確認するための第1セラミック素地と、曲げ強度を確認するための第2セラミック素地を作製した。以下に説明する実施例2〜4並びに比較例1
及び2についても同様である。
【0090】
(実施例2)
原料粉末のうち、SiO
2粉末を4.0質量%、MnCO
3粉末を4.7質量%(MnO換算2.9質量%)、MgO粉末を0.0質量%(添加せず)、BaCO
3粉末を1.2質量%(BaO換算0.9質量%)とし、焼成温度(最高温度)を1360℃とした点以外は、上述した実施例1と同様にして実施例2に係るセラミック素地を作製した。
【0091】
(実施例3)
焼成温度(最高温度)を1320℃とした点以外は、上述した実施例2と同様にして実施例3に係るセラミック素地を作製した。
【0092】
(実施例4)
原料粉末のうち、Al
2O
3粉末を90.5質量%、SiO
2粉末を4.4質量%、MnCO
3粉末を5.7質量%(MnO換算3.5質量%)、MgO粉末を0.0質量%(添加せず)、BaCO
3粉末を1.3質量%(BaO換算1.0質量%)とし、焼成温度(最高温度)を1320℃とした点以外は、上述した実施例1と同様にして実施例4に係るセラミック素地を作製した。
【0093】
(比較例1)
原料粉末のうち、SiO
2粉末を3.8質量%、MnCO
3粉末を6.0質量%(MnO換算3.7質量%)、BaCO
3粉末を0.0質量%(添加せず)とし、焼成温度(最高温度)を1360℃とした点以外は、上述した実施例1と同様にして比較例1に係るセラミック素地を作製した。
【0096】
(比較例
2)
原料粉末のうち、Al
2O
3粉末を90.5質量%、SiO
2粉末を5.0質量%、MnCO
3粉末を1.9質量%(MnO換算1.2質量%)、MgO粉末を0.8質量%、MoO
3粉末を0.0質量%(添加せず)、BaCO
3粉末を1.0質量%(BaO換算0.8質量%)、TiO
2粉末を1.7質量%とし、焼成温度(最高温度)を1300℃とした点以外は、上述した実施例1と同様にして比較例
2に係るセラミック素地を作製した。
【0100】
(評価)
<結晶相の確認>
実施例1〜4並びに比較例1
及び2の各第1セラミック素地を粉砕し、X線回折により同定した。
【0101】
<曲げ強度>
実施例1〜4並びに比較例1
及び2の各第2セラミック素地を、JISR1601の4点曲げ強度試験に基づいて室温にて測定した。
【0102】
<誘電正接>
JISC2565に基づく、空洞共振法により、室温での周波数2GHzで測定した。
【0103】
<チッピング発生率>
図5Aに示すように、多数個取り基板60を作製する。多数個取り基板60は、横方向に23個の積層基板12をチップ分割でき、縦方向に23個の積層基板12をチップ分割できるサイズを有する。つまり、この多数個取り基板60は、
図5Bに示すように、横Lxが2.0mm、縦Lyが1.6mm、厚みtが0.4mm(ベース部分16の厚みtb:0.2mm)の積層基板12を23×23=529個取ることができるサイズを有する。
【0104】
多数個取り基板60は、焼成前の積層体の段階で、
図5Cに示すように、ベース部分16の上面及び下面にチップ分割のための分割溝62(深さ:2μm)が形成されている。
【0105】
そして、分割溝62が形成された多数個取り基板60を、押圧ローラーで押し当ててチップ分割して、529個の積層基板12に分割した後、各積層基板12の分割端面を観察する。1つの積層基板12の4つの分割端面のうち、少なくとも1つの分割端面に、径が100μm以上で深さが10μm以上の窪み、あるいは、径が100μm以上で高さが10μm以上の突起が形成されていた場合に、当該積層基板12にチッピングが発生したとして評価する。
【0106】
チッピング発生率は、多数個取り基板60のチップ分割数である529個に対するチッピングが発生していた積層基板12の個数の割合とした。1つの多数個取り基板60に対して1個の積層基板12についてチッピングが発生していた場合は、1/529=0.19%となる。
【0107】
この実施例では、5つの多数個取り基板60にて評価したため、チッピング発生率は、(チッピングが発生していた積層基板12の個数)/(529×5)となる。
【0108】
実施例1〜4並びに比較例1
及び2の内訳を表2に示し、評価結果を表3に示す。
【0109】
【表2】
【0110】
【表3】
【0111】
実施例1〜4については、いずれも結晶相としてAl
2O
3相以外では、BaAl
2Si
2O
8相のみが観察された。また、曲げ強度は600MPa以上であり、誘電正接は12×10
−4以下であった。チッピング発生率は0.10%以下であった。
【0112】
一方、比較例1
及び2については、いずれもチッピング発生率が0.15%以上であった。また、結晶相としてMnTiO
3相が観察された比較例
2は誘電正接が大きかっ
た。
【0113】
なお、本発明に係るセラミック素地及びその製造方法は、上述の実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得ることはもちろんである。