特許第6573878号(P6573878)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6573878
(24)【登録日】2019年8月23日
(45)【発行日】2019年9月11日
(54)【発明の名称】医療用インペラポンプを監視する方法
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/10 20060101AFI20190902BHJP
   F04D 15/02 20060101ALI20190902BHJP
   F04D 29/42 20060101ALI20190902BHJP
   F04B 49/10 20060101ALI20190902BHJP
   F04B 51/00 20060101ALI20190902BHJP
   G01H 3/00 20060101ALI20190902BHJP
【FI】
   A61M1/10 121
   F04D15/02
   F04D29/42 B
   F04D29/42 E
   F04B49/10
   F04B51/00
   G01H3/00 A
【請求項の数】18
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-525852(P2016-525852)
(86)(22)【出願日】2014年10月13日
(65)【公表番号】特表2017-500903(P2017-500903A)
(43)【公表日】2017年1月12日
(86)【国際出願番号】EP2014002758
(87)【国際公開番号】WO2015058841
(87)【国際公開日】20150430
【審査請求日】2017年10月12日
(31)【優先権主張番号】102013017828.2
(32)【優先日】2013年10月24日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】597075904
【氏名又は名称】フレゼニウス メディカル ケア ドイッチェランド ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100095898
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 満
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(72)【発明者】
【氏名】ハイデ アレクザンダー
(72)【発明者】
【氏名】ヴィクトル クリストフ
【審査官】 松浦 陽
(56)【参考文献】
【文献】 特表2013−515523(JP,A)
【文献】 特表2010−534791(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0090795(US,A1)
【文献】 特表2004−522529(JP,A)
【文献】 特表2006−527608(JP,A)
【文献】 特表2012−527563(JP,A)
【文献】 特表平11−511219(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/10
A61M 1/14 − 1/16
A61M 1/34
A61M 1/36
F04B 49/10
F04B 51/00
F04D 15/02
F04D 29/42
G01H 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体伝播音の解析により血液処理装置で使用されるインペラポンプを監視する方法であって、前記血液処理装置の制御処理ユニットによって実施される工程である、
前記インペラポンプ内に発生する固体伝播音を測定する工程と、
前記インペラポンプの固体伝播音の測定値を、第1の基準曲線および/または第1の制限値と比較する工程と、
前記インペラポンプの前記固体伝播音の測定値が前記第1の基準曲線と異なる場合、および/または、前記測定値が制限値を超過している場合に、前記インペラポンプの動作に障害が生じていると判定する工程と、
前記インペラポンプの動作に障害が生じていることを示す指標として信号を出力する工程と、を備えている、
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
ンペラポンプ室内の空気量を、前記固体伝搬音に基づいて検出する、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記検出された空気量と、前記インペラポンプの前記固体伝播音の測定値とのうち少なくとも一つが前記第1の基準曲線と異なる場合、および/または、前記空気量と、前記測定値とのうち少なくとも一つが前記制限値を超過する場合に、前記インペラポンプ室の通気が実行される、
請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記インペラポンプ室の通気の目的のために、溜まった空気が、前記インペラポンプ室の通気口を介して排出される、
請求項3に記載の方法。
【請求項5】
インペラが前記インペラポンプの筐体と衝突したことが前記インペラポンプ内で検出される、
請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記インペラポンプの動作中に前記固体伝播音の測定が実行される、
請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記インペラポンプは、透析器内に配置され、前記インペラポンプは、前記透析器の体外血液回路または透析液回路内に配置される、
請求項1に記載の方法。
【請求項8】
固体伝播音の解析により、血液透析、血液濾過、および血液透析濾過のいずれか一つを実行する体外血液回路内に配置された第1のインペラポンプを監視し、および/または、血液透析、血液濾過、血液透析濾過、および腹膜透析のいずれか一つを実行する透析液回路内に配置された第2のインペラポンプを監視するための、請求項1に記載の方法であって、
前記第1のインペラポンプを制御することにより前記体外血液回路を動作させ、および/または、前記第2のインペラポンプを制御することにより前記透析液回路を動作させる、工程と、
前記第1のインペラポンプ内に発生する前記固体伝播音を測定し、および/または、前記第2のインペラポンプ内に発生する前記固体伝播音を測定する、工程と、
前記第1のインペラポンプの前記固体伝播音の測定値を第1の基準曲線および/または第1の制限値と比較し、および/または、前記第2のインペラポンプの前記固体伝播音の測定値を第2の基準曲線および/または第2の制限値と比較する、工程と、
前記第1のインペラポンプの前記固体伝播音の測定値が前記第1の基準曲線と異なる場合、および/または、前記測定値が前記第1の制限値を超過している場合に、前記第1のインペラポンプの動作に障害が生じていると判定し、および/または、前記第2のインペラポンプの前記固体伝播音の測定値が前記第2の基準曲線と異なる場合、および/または、前記測定値が前記第2の制限値を超過している場合に、前記第2のインペラポンプの動作に障害が生じていると判定する、工程と、
前記第1のインペラポンプの動作に障害が生じていることを示す指標として信号を出力し、および/または、前記第2のインペラポンプの動作に障害が生じていることを示す指標として信号を出力する、工程と、
を備えている、
ことを特徴とする方法。
【請求項9】
固体伝播音の解析により前記インペラポンプの少なくとも一つを監視する、請求項1〜8のいずれか一つに記載の方法を実施するためにプログラムされ且つ構成された制御処理部を備える血液処理装置。
【請求項10】
前記制御処理部は、プログラムコードを有するコンピュータプログラムが格納されたデータメモリを備え、前記プログラムコードは、前記固体伝播音の測定値の評価および/または格納を行い得るようにプログラムされる、
請求項9に記載の血液処理装置。
【請求項11】
前記血液処理装置は、前記インペラポンプの少なくとも一つを駆動するための少なくとも一つの駆動装置を有することを特徴とする、
請求項9または10に記載の血液処理装置。
【請求項12】
固体伝播音センサを備え、
前記固体伝播音センサは、信号線を用いて前記制御処理部に接続される、
請求項9に記載の血液処理装置。
【請求項13】
前記血液処理装置は、血液透析、血液濾過、血液透析濾過、および腹膜透析の少なくとも一つを実行するように構成された透析器であることを特徴とする、
請求項9に記載の血液処理装置。
【請求項14】
インペラポンプ室を備えた血液処理装置用のインペラポンプにおいて、
前記インペラポンプ室が通気口を有し、
前記インペラポンプが固体伝播音センサまたは前記固体伝播音センサ用の接続点を有する、
ことを特徴とする血液処理装置用のインペラポンプ。
【請求項15】
前記通気口を介した前記インペラポンプ室の通気制御を可能にする弁を備えている、
請求項14に記載のインペラポンプ。
【請求項16】
前記弁は、前記インペラポンプが組み込まれるカセットの結合領域に配置される、
請求項15に記載のインペラポンプ。
【請求項17】
請求項14〜16のいずれか一つに記載のインペラポンプを備える、
セット。
【請求項18】
請求項9〜13のいずれか一つに記載の血液処理装置の前記制御処理部内のコンピュータプログラムであって、前記制御処理部内で当該コンピュータプログラムが動作するときに請求項1〜8のいずれか一つに記載の方法を実施するプログラムコードを有する、
コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用インペラポンプを監視する方法および装置に関し、特に、そのようなインペラポンプの機能障害の検出に関する。ここで、インペラポンプは、具体的には、体外血液回路および/または透析液回路内に配置され得る。
【背景技術】
【0002】
インペラポンプは、使い捨て用品または血液ホースキット(すなわち、血液カセット)の構成機器になり得ることが既に知られている。このようなインペラポンプのインペラは、通例、磁気的に支持され、障害のない動作時には、移送された血液に摩擦を伴って接触するに過ぎない。このような動作は、「非接触」とも呼ばれる。しかしながら、障害のない動作から逸脱することもあり得る。磁石は、インペラ内の中央に位置するように支持され、例えば、射出成形プロセスにおいてプラスチックによりモールドされる。装置側にある駆動装置の磁界における磁石の位置は、極めて正確であり、動作中に監視可能である。しかしながら、このことは、製造ばらつきに依存するので、インペラ内の磁石の射出成形カバーに常に適用される必要があるわけではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従って、インペラポンプの動作に生じ得る障害としては、まず、回転中のインペラが、例えばバランスが悪いことが原因で、制御されていない動作を行い得ることが挙げられる。そのような状況では、最悪の場合、インペラがインペラポンプの筐体の壁と衝突することにもなり得る。この場合、インペラポンプのインペラとインペラポンプの筐体の壁との間で、移送された血液の機械的損傷(いわゆる溶血)が発生する恐れがある。しかしながら、透析液回路中のこのようなインペラポンプの動作時においても、インペラが筐体の壁と衝突することは望ましくない。なぜなら、衝突することにより摩耗が生じ、そのため、透析液が汚染することになり得るからである。
【0004】
また、別の障害としては、インペラポンプ内に気泡が過度に溜まることも挙げられる。インペラの回転に起因して、密度がより高い媒体も径方向外側に移動するので、軽い気泡は、径方向内側に移動し、そこに溜まることになる。従って、インペラポンプは、一時的にバブルトラップとして働く。特定の気泡のサイズ以上のサイズの気泡は、もはやインペラポンプから容易に排出され得なくなる。溜まっている空気の量がごくわずかである限り、血液の流れとともに小さな気泡が排出されることもあるがそれは、超高速時に観察されるに過ぎない。インペラポンプの連続動作時には、吸気容量を超えると、血液の流れとともに、溜まった空気が排出される。この排出を防止するためには、特定の時間間隔でインペラポンプから直接空気を出すようにしなければならない。この目的のために、溜まった空気の量を把握することが望ましいと思われる。
【0005】
従って、本発明は、インペラポンプの動作を監視して障害がないかを確認する方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的は、独立請求項1,8,13,15,および16により、本発明により達成される。従属請求項は、本発明の好適な実施形態を包含する。
【0007】
ここで、本発明は、固体伝播音の解析により医療用インペラポンプを監視する方法であって、上記インペラポンプ内に発生する固体伝播音を測定する工程と、上記インペラポンプの固体伝播音の測定値を、第1の基準曲線および/または第1の制限値と比較する工程と、上記インペラポンプの上記固体伝播音の測定値が上記基準曲線と異なる場合、および/または、上記測定値が上記制限値を超過している場合に、上記インペラポンプの動作に障害が生じていると判定する工程と、上記インペラポンプの動作に障害が生じていることを示す指標として信号を出力する工程と、を備える方法を包含する。
【0008】
本発明による解決方法では、上記インペラポンプ内の上記インペラが、動作中、ポンプヘッドと時折衝突することにより、または、気泡によって移動させられることにより、評価対象の固体伝播信号を生成するという事実を利用する。
【0009】
本発明の具体的な実施の形態は、主請求項に従属する従属請求項から得られる。
【0010】
本発明のある可能な実施形態では、上記方法を用いて、上記インペラポンプ内の空気量を検出してもよい。
【0011】
ここで、検出された空気量と、上記インペラポンプの固体伝播音の測定値とのうち少なくとも一つが上記基準曲線と異なる場合、および/または、上記空気量と上記測定値とのうち少なくとも一つが上記制限値を超過している場合に、上記インペラポンプの通気が実行されてもよい。
【0012】
ある可能な実施の形態では、この目的のために、溜まった空気は、上記インペラポンプ室の通気口を介して排出される。
【0013】
上記インペラポンプのインペラが上記インペラポンプの筐体と衝突したことを別の障害として検出してもよい。
【0014】
本発明によれば、上記インペラポンプの動作中に上記固体伝播音の測定が実行され得る。従って、具体的には、上記医療用途での動作の進行中に上記インペラポンプを監視することが可能である。
【0015】
ここで、上記インペラポンプは、医療装置、具体的には透析器に配置されてもよく、特に好ましくは血液透析、血液濾過、血液透析濾過、および腹膜透析のいずれか一つを実行するための透析器内に配置されてもよい。
【0016】
上記インペラポンプは、さらに、上記透析器の体外血液回路または透析液回路内に配置されてもよい。
【0017】
ここで、本発明による方法は、具体的には、固体伝播音の解析に基づいて、血液透析、血液濾過、および血液透析濾過のいずれか一つを実行する体外血液回路内に配置された第1のインペラポンプを監視し、および/または、血液透析、血液透析濾過、および腹膜透析のいずれか一つを実行する透析液回路内に配置された第2のインペラポンプを監視するために使用可能であり、この方法は、上記第1のインペラポンプを制御することにより上記体外血液回路を動作させ、および/または、上記第2のインペラポンプを制御することにより上記透析液回路を動作させる、工程と、上記第1のインペラポンプ内に発生する上記固体伝播音を測定し、および/または、上記第2のインペラポンプ内に発生する上記固体伝播音を測定する、工程と、上記第1のインペラポンプの固体伝播音の測定値を第1の基準曲線および/または第1の制限値と比較し、および/または、上記第2のインペラポンプの固体伝播音の測定値を第2の基準曲線および/または第2の制限値と比較する、工程と、上記第1のインペラポンプの固体伝播音の測定値が上記第1の基準曲線と異なる場合、および/または、上記測定値が上記第1の制限値を超過している場合に、上記第1のインペラポンプの動作に障害が生じていると判定し、および/または、上記第2のインペラポンプの固体伝播音の測定値が上記第2の基準曲線と異なる場合、および/または、上記測定値が上記第2の制限値を超過している場合に、上記第2のインペラポンプの動作に障害が生じていると判定する、工程と、上記第1のインペラポンプの動作に障害が生じていることを示す指標として信号を出力し、および/または、上記第2のインペラポンプの動作に障害が生じていることを示す指標として信号を出力する、工程と、を備える。
【0018】
本発明によれば、上記方法を用いて、上記インペラポンプ内の空気量を検出し得る。
【0019】
上記インペラポンプの上記インペラが上記インペラポンプの筐体と衝突したことを別の障害として検出してもよい。
【0020】
本発明によれば、上記第1のインペラポンプには第1の固体伝播音センサを、上記第2のインペラポンプには第2の固体伝播音センサを設け、上記固体伝播音を電気信号に変換する。各インペラポンプの駆動装置は、例えば、上記固体伝播音センサを有してもよい。上記第1の固体伝播音センサおよび/または上記第2の固体伝播音センサは、上記電気信号を制御処理部に転送するための信号線を有する。
【0021】
本発明は、本発明による方法を実施する医療装置をさらに包含する。ここで、その医療装置は、具体的には、血液処理装置であってもよい。
【0022】
本発明によれば、上記医療装置、具体的には、血液透析、血液濾過、および血液透析濾過の少なくとも一つ、または腹膜透析を実行するための血液処理装置は、固体伝播音の解析により前記インペラポンプの少なくとも一つを監視する、本発明による方法を実施するためにプログラムされ且つ構成された制御処理部を備える。この目的のために、上記制御処理部は、信号線を用いて、上記少なくとも一つのインペラポンプの上記少なくとも一つの固体伝播音センサに接続される。さらに、上記制御処理部は、信号線を用いて、上記少なくとも一つのインペラポンプの駆動装置に接続され、上記少なくとも一つのインペラポンプを制御してもよい。
【0023】
上記血液処理装置が体外血液処理用の血液処理装置である場合、上記インペラポンプは、例えば、上記体外血液回路内の血液および/または上記透析液回路内の透析液を送り出すために使用され得る。
【0024】
上記血液処理装置が腹膜透析器である場合、上記インペラポンプは、上記透析液回路内の透析液を送り出すために使用され得る。ここで、上記透析液は、患者の腹腔内に送り込まれる。腹腔内では、患者の腹膜が半透膜として作用する。血液から除去されるべき物質は、この半透膜を経由して上記透析液中に移動する。消費された透析液は、滞留時間の後、その分だけ上記腹腔からさらに送り出される。
【0025】
上記インペラポンプの具体的な用途とは別に、空気の取り込みに関して上記インペラポンプの特性を利用してもよい。
【0026】
上記インペラポンプ内の空気量が増加するにつれて、測定された固体伝播音の振幅が大きくなる。インペラポンプ室の容積中の空気量に依存する、測定された固体伝播音の振幅の対応する指標を、上記血液処理装置の上記制御処理部に格納することにより、上記インペラポンプ内に溜まった空気の量を、上記固体伝播音の振幅の最新の測定値から算出してもよい。制限値は固定してもよい。制限値を超過すると、警報信号が発令され得る。上記指標および/または制限値は、特定の血液ホースキットおよび/または透析液ホースキットと組み合わされた基礎を成すインペラポンプに適用される。
【0027】
上記血液処理装置の上記制御処理部は、好適には、コンピュータプログラムが格納されるデータメモリを有する。上記コンピュータプログラムのプログラムコードは、上記少なくとも一つの固体伝播音センサの信号を評価するようにプログラムされる。障害のない動作時の上記少なくとも一つのインペラポンプの固体伝播音の基準曲線が上記データメモリに格納されてもよい。これにより上記固体伝播音の測定値がこの基準曲線とは異なる場合に、上記インペラポンプの動作に障害が生じていると判定し得る。上記少なくとも一つのインペラポンプの固体伝播音の制限値を上記データメモリに格納してもよい。上記制限値を超過すると、上記インペラポンプの動作に障害が生じていると判定される。
【0028】
インペラポンプ室の容積中の空気量に依存する、測定された固体伝播音の振幅の指標を、障害のない動作における血液処理の開始時に取得し、制限値を算出してもよい。しかしながら、上記指標として実験により求められたデータを使用し、および/または、実験結果に基づいて制限値を固定するともに、上記制御処理部のメモリに対して上記指標および上記制限値を固定的に格納することも可能である。
【0029】
本発明により体外血液回路内で作動するインペラポンプ内の空気を検出すれば、送り出された血液の流れの中への空気の混入に対する一つの防護策が得られる。
【0030】
本発明に係る、上記インペラポンプ内の空気の検出は、具体的には、上記インペラポンプを直接的にバブルトラップとして使用している最中にインペラポンプを監視するために使用され得る。その後、一時的に滞留した空気は、血流と共に送出される前に、通気口を介して上記インペラポンプ室から適切なタイミングで排出され得る。このような通気は、具体的には、上記インペラポンプの空気量と、固体伝播音の測定値とのうち少なくとも一つが基準曲線とは異なる場合、および/または、上記空気量と、上記測定値とのうち少なくとも一つが制限値を超過している場合に、上記制御処理部により自動的に開始され得る。具体的には、弁アクチュエータをこのために作動させてもよい。
【0031】
検出された空気量は、上記インペラポンプのポンプ速度にさらに影響を及ぼす。そのため、送り出された液体の量のバランスを取る際に、本発明により検出された空気量を考慮に入れてもよい。好適には、対応する機能は上記制御処理部内で実現される。
【0032】
本発明に係る医療装置、具体的には、本発明に係る血液処理装置は、制御処理部と、インペラポンプ用の装置側駆動装置とを備える。
【0033】
本発明は、インペラポンプ室を有する医療用インペラポンプをさらに包含する。上記インペラポンプ室は通気口を有する。上記通気口は、好ましくは、上記インペラポンプ室の中央領域に設けられる。
【0034】
ここで、インペラは中央領域を有してもよく、この中央領域から外側に羽根が延在し、これらの羽根を介して流体が送り出されてもよい。上記通気口は、好ましくは、上記インペラポンプ室における、上記インペラの上記中央領域に軸方向に隣接して位置する領域に配置される。
【0035】
ここで、上記インペラポンプは、上記通気口を介して上記インペラポンプ室の通気を制御可能にする弁を有してもよい。
【0036】
ある可能な実施の形態では、上記弁は、上記インペラポンプが組み込まれるカセットの結合領域に配置される。
【0037】
本発明は、インペラポンプ室を有する医療用インペラポンプをさらに包含する。上記インペラポンプは、固体伝播音センサまたは上記固体伝播音センサ用の結合点を有する。
【0038】
上記インペラポンプの上記インペラは、好ましくは磁気的に支持され、障害のない動作においては、移送された流体(具体的には血液または透析液)に摩擦を伴って接触するに過ぎない。このような動作は、「非接触」とも呼ばれる。磁石は、好ましくは、上記インペラ内の中央に配置され、および/または、射出成形プロセスにおいてプラスチックにより被覆成形される。
【0039】
上記インペラポンプは、上述したように、具体的には、本発明に係る方法を実施するため、または、本発明に係る医療装置と組み合わせて使用するためのものである。
【0040】
上記インペラポンプは、好ましくは、インペラを有する筐体を備え、体外血液ホースキットまたは透析液ホースキットの構成機器である。このようなホースキットは、具体的には、使い捨てカセット(より具体的には、使い捨て血液カセットまたは使い捨て透析液カセット)として設計される。上記体外血液ホースキットまたは透析液ホースキットは、本発明に係る医療装置(具体的には、血液処理装置)に結合されるように構成される。
【0041】
本発明は、上述のように、本発明に係るインペラポンプを有する使い捨てカセットをさらに包含する。上記使い捨てカセットは、好ましくは、本発明に係る医療装置(具体的には、血液処理装置)の結合領域に結合するための結合領域を有する。ここで、上記使い捨てカセットに組み込まれた上記インペラポンプは、具体的には、上記インペラポンプ用の装置側駆動装置に結合されてもよい。ここで、上記駆動装置は、好ましくは、上記医療装置の結合領域の一領域に配置される。さらに、少なくとも一つの弁アクチュエータが、上記結合領域の一領域に設けられてもよい。上記使い捨てカセットの弁が上記弁アクチュエータに結合され、上記弁アクチュエータによって弁が作動されてもよい。ここで、上記弁は、上記インペラポンプ室を通気するために使用可能であってもよい。
【0042】
上記制御処理部は、好適には、コンピュータプログラムが格納されたデータメモリを備える。上記コンピュータプログラムのプログラムコードは、血液用インペラポンプを制御し、対応する固体伝播音信号を評価し格納するようにプログラムされる。
【0043】
ここで、上に述べた本発明の着想は、血液回路や透析液回路内のインペラポンプだけでなく、医療装置内のインペラポンプのいかなる用途においても実現可能である。しかしながら、血液回路または透析液回路内のインペラポンプとともに使用されることが特に好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】インペラポンプの回転数に依存する、測定された固体伝播音の振幅増加を示す図である。
図2】インペラポンプの動作中の固体伝播音の測定値を示す図である。
図3】インペラポンプの動作時の固体伝播音の振幅および移送体積流量の測定値を示す図である。
図4】吸気量が向上したインペラポンプの動作中の固体伝播音の振幅および気泡の分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、本発明のその他の特徴、詳細、および効果を、図面に示される実施形態を参照してより詳細に説明する。
【0046】
図1は、インペラポンプの実験結果として、選択された複数の速度範囲のインペラポンプの速度に依存する、測定された固体伝播音の振幅増加を示す図である。これらの回転数範囲は、4500rpmの回転数での無衝突動作中の固体伝播音の振幅(一番下の直線)を基準にした、インペラが筐体と異なる強さで衝突する場合のインペラポンプの動作時の回転数範囲である。下側の曲線は軽微な衝突、中段の曲線は中程度の衝突、上側の曲線は激しい衝突を示す。これにより、インペラの軽微な衝突時においても、固体伝播音の振幅の大幅な増加が既に測定可能であるので、障害発生と判定可能なことが分かる。従って、このような実験によって求めたデータを制限値として血液処理装置の制御処理部のメモリに格納し、測定された固体伝播音の振幅の最新の測定データを測定済の値と比較し、制限値を超過している場合に、インペラの衝突が原因でインペラポンプの動作に障害が生じていると判定し得る。
【0047】
図2は、実験構造内のインペラポンプの動作中における固体伝播音の振幅測定値の経時変化を示す図である。図示するように、インペラポンプ内に溜まる空気の量は、時間の経過とともに大きくなる。このテスト装置は、規定量の空気をインペラポンプに導入することにより、気泡が血液または透析液の流れとともにインペラポンプの下流で排出されていることを光学的に検出可能である。インペラポンプのインペラポンプ室の容積は3mlである。インペラポンプの回転数は、8000rpmに達する。測定済の固体伝播音の評価周波数帯域は、15Hz〜150Hzになる。図2は、このポンプに対する実験の時間範囲を示す図である。ここでは、30秒間隔で0.1mlの量の空気がインペラポンプに追加導入される。第1の期間(0秒から30秒まで)は、第1回目の空気の導入以前の固体伝播音の振幅を示す。90秒から120秒までの期間では、0.3mlの量の空気が溜まる。これにより、測定された固体伝播音の振幅は急峻に上昇する。時間t=180秒において、吸気容量を超過すると、溜まった空気は、血液または透析液の流れとともにさらに排出されるが、この排出は、インペラポンプの下流で光学的に検出される。
【0048】
インペラポンプ室の容積内の空気量に依存する、測定された固体伝播音の振幅の対応する指標が、血液処理装置の制御処理部に格納されることにより、インペラポンプ内に溜まった空気の量を固体伝播音の振幅の最新測定値から算出し得る。制限値は固定し得る。制限値を超過すると、警報信号が発令され得る。この指標および/または制限値は、基礎を成すインペラポンプに適用される。
【0049】
図3は、容積が3mlのインペラポンプ室を有するインペラポンプが8000rpmの回転数で動作する場合の、固体伝播音の振幅および移送体積流量の測定値の経時変化を示す図である。ここでは、30秒の時間間隔で0.1mlの空気をインペラポンプ室に繰返し導入する。体積流量の測定値を表す曲線は、図3では時間の関数として示される。この曲線の示す範囲を見れば、インペラポンプ室中の空気の体積が増加するにつれて血液または透析液の流量が減少するので、本発明によれば、インペラポンプ中の血液または透析液の流れを監視することが可能になることが分かる。
【0050】
図4には、インペラポンプ室内で空気が溜まって認識されるプロセスが改めてより詳細に示される。ここで、このプロセスは、図4の上側の領域に、時間tに対する固体伝播音信号Sの変化として示される。固体伝播音信号Sは、具体的には、信号の振幅であってもよい。評価は、好ましくは、固体伝播音の特定の周波数帯域(例えば、15Hzと150Hzとの間の周波数帯域)について実行される。
【0051】
第1の動作区域Aでは、信号1が制限値2を下回る。すなわち、障害が生じていない。領域Bでは、インペラポンプ室内での空気量の増加が確認できる。その結果、信号1の値が大きくなり、制限値2を超過する。領域Cでは、インペラポンプ室内の空気量は、インペラポンプ室の吸気容量を超過し、障害の問題が発生する。この障害の発生は、高い信号レベルによって認識され得る。
【0052】
図4の下側の領域では、インペラポンプ室内部の気泡の分布が、段階AおよびCについてそれぞれ模式的に示される。ここで、それぞれに対応するインペラ3が、対応する気泡分布とともに図示されている。ここでは、インペラ3は、中央領域4を有するインペラ羽根として構成される。この中央領域4から、羽根5が外側に延在している。
【0053】
ここで、空気が溜まって認識されるプロセスは、以下のようにして行われる。
【0054】
段階Aでは、中型の気泡6が、流体の流れによってインペラポンプ室に進入し、インペラ羽根3の中央領域4に引き寄せられる。圧力が最も低いゾーンが中央領域4内にある。ここで、遠心力が外に向かって作用するので、密度の高い粒子を外側に勢いよく飛ばすことになる。一方、密度が低めの粒子は内側に移動する。気泡は、送り出された流体よりも密度が低いので、中央領域4の中に移動する。ここで、溜まった気泡6が特定の制限値を超過しない限り、低い値の測定信号1しか検出されない。
【0055】
中型の気泡6は、原理上、必然的にインペラ羽根からは排出不可能になるので、段階Bでは中央に蓄積する。他に気泡があれば、これら気泡が凝集して、ますます大きな気泡が形成される。こうして、測定された信号の値が大きくなることにより、インペラポンプ室内での空気量の増加が検出され得る。ここで、極端な場合には、図の右側に示されるように、1つの大きな気泡7が個々の気泡から形成される。
【0056】
蓄積された気泡のサイズまたは中型の気泡の数次第では、インペラポンプ室またはインペラ羽根は、これ以上の気泡を受け入れできなくなる。このことは、段階Cに示される。この状態のときには、ポンプは、当然継続して流体を移送し、必要な場合には、継続して中型の気泡の吸引も行う。しかしながら、これらの気泡は、遠心力に逆らってロータの外に押し出され、このプロセスにおいて、分割されて非常に小さい微小気泡8になる。ここで、ロータの捕集特性は、インペラ羽根の回転数またはロータの直径(すなわち、遠心力)と、気泡の直径とに依存する。ここで、相当微細化された気泡だけが一定の速度でインペラポンプから排出され得る。この段階における信号レベルは高い。
【0057】
従って、これら3つの段階A〜Cは、固体伝播音解析により非常に容易に区別できる。
【0058】
ここで、好ましくは、信号の値が制限値2を超過するとすぐに、インペラポンプ室の通気を行う。段階Cのような状態を検出すれば、警報をさらに発令し、および/または、機械を安全な状態へと切り替えればよい。
【0059】
上に述べた実施の形態では、血液処理装置の血液回路または透析液回路内に配置されたインペラポンプに適用されるものとして本発明を説明したが、本発明は、他の医療用インペラポンプも同様に包含する。
図1
図2
図3
図4