(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
気管内の肺側に配置される先端部、前記先端部と反対側に設けられる基端部、および、前記基端部から前記先端部にかけて貫通する気道確保用ルーメンを有する管腔体を備える、気管に挿入可能な気管用チューブにおいて、
前記管腔体の前記気道確保用ルーメンを形成する内面の少なくとも一部に微細構造領域が配置され、
前記微細構造領域は、平均一次粒子径が数十μmの疎水性のマイクロ粒子により形成された粒子層を含むことを特徴とする、気管に挿入可能な気管用チューブ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[用語の定義]
本発明における「痰」および「撥痰性」の定義について説明する。
痰とは、粘液の一種で、気管等の粘膜から分泌されるスライミーな性質を示す粘性流体であって、程度の差はあるものの、曳糸性(突っ込んだ棒を引き上げたときに、糸を引く性質)および粘弾性(ゴムのように、一部をつかんで持ち上げると伸びて、離すと元の形状に戻り、一定以上伸ばすと切れる性質)を有するものである。痰の主成分としては、水とムチン等の糖タンパク質とが挙げられる。
撥痰性とは、痰を撥ねる性質をいう。痰を撥ねる結果、気管用チューブ内部(管腔体の内周面)に痰が付着しにくくなる。また、痰の糸曳き性を抑制することができる。また、撥痰性表面とは、傾斜角を30°とし、そこに痰を100μLずつ滴下した際に、痰が移動する表面をいう。
【0013】
[第1の実施形態]
まず、本発明の気管用チューブの第1の実施形態について、
図1および
図2を参照して説明する。
図1および
図2に示す気管用チューブは、いわゆる気管切開チューブである。
図1に示す気管切開チューブ101は、患者の呼吸管理を行うための器具であり、気管を切開して形成された切開孔から気管7に直接挿入された状態で使用される。気管切開チューブ101は、気管切開チューブ101の主要部を構成する管腔体102と、管腔体102を患者に対して固定するための固定部127とから構成される。
図2(A)および
図2(B)に示すように、管腔体102の気道確保用ルーメンを形成する内面(内周面)上には微細構造領域150が配置されている。
図2(C)に示すように微細構造領域150は、管腔体102の内周面上に配置される。また、
図2(E)に示すように微細構造領域150は、粒子層154および接着層152を含む被膜250であってもよい。
以下、気管切開チューブ101を構成する各部材について詳述する。
【0014】
管腔体102は、両端が開口し、かつ、長さ方向に沿って均一な外径および内径を有する筒形状に形成される。管腔体102の内部には、管腔体102の長さ方向に沿って呼気が通る空間である気道確保用ルーメン102aが形成されている。
管腔体102は、先端部122と、先端部122と反対側に配置される基端部121と、基端部121と先端部122との間に位置する湾曲部123を有する。湾曲部123は先端部122の中心軸と基端部121の中心軸が角度θで交差するように湾曲しており、この第1の実施形態では、管腔体102は略L字状に形成される。つまり、角度θは約90°である。
なお、管腔体102は、患者の体位の変化等に合わせて上記θが約90°から約120°までの範囲で変化しうる程度の可撓性を有する。上記θがこの範囲内で変化しても、微細構造領域150は、管腔体102から剥離したり、脱落したりはしない。
管腔体102の材質としては、例えば、シリコーン、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル等の合成樹脂を挙げることができる。
【0015】
図2(A)に示されるように、仰向けに寝ている(仰臥位)の患者に対して、気管7の管壁と気管7の上部の皮膚5を切開することで形成された気管切開孔から管腔体102の先端部122が気管7内に挿入される。このとき、管腔体102の先端部122は、気管7の管壁を構成する粘膜(皮膚側気管粘膜7a、体内側気管粘膜7b)から所定の間隔を隔てるように、肺側に向けて気管7内に配置される。
【0016】
また、管腔体102の基端部121は、気管切開孔から体外に露出しており、この基端部121に、人工呼吸器(図示せず)が取り付けられている。人工呼吸器が作動することで、気道確保用ルーメン102a内に呼気が通る。これにより、患者の呼吸を持続させ、呼吸管理を行っている。その結果、呼吸に必要な酸素の通り道である気道が閉塞することを防止することができ、患者の呼吸管理を行うことができる。
【0017】
固定部127は、管腔体102の基端部121に取り付けられている。固定部127は、管腔体102を患者に装着した際に、皮膚5に当接することで、先端部122を気管7内の適切な位置に固定するものであり、固定板128と、接着部129とを有している。
固定板128は、平板状の部材で、中央部に、固定板128を貫通する収納孔131が形成されている。そして、固定板128の表面には、接着部129が取り付けられ、固定板128の裏面は、患者の皮膚5に当接される。
接着部129は、管腔体102を固定部127に接着するもので、中央に略円形の貫通孔130が形成されたリング形状を有している。接着部129の貫通孔130は、固定板128の収納孔131と連通しており、貫通孔130の大きさは、管腔体102の外径に合わせて設定される。
このような固定板128の収納孔131および接着部129の貫通孔130に、管腔体102が貫通され、例えば、接着剤により固定される。
【0018】
本実施形態では、管腔体102を接着部129に固定する方法として、接着剤による固定を例に挙げたが、例えば、溶着による固定など各種の固定方法を採用することができる。
【0019】
微細構造領域150は、粒子層154からなり、管腔体102の気道確保用ルーメンを形成する内面全体に配置されている。
【0020】
粒子層154は、管腔体102の気道確保用ルーメン102aを形成する内面に配置される微細構造領域150の表面側(最内側)に位置し、その表面24が気道確保用ルーメン102aに面する(露出する)層であり、管腔体102内部に痰が堆積するのを防止する。つまり、気道確保用ルーメン102aが閉塞しないように機能する。
【0021】
粒子層154は、
図2(C)に示すように、マイクロ粒子21を含み、数十μmサイズの凹凸が形成された表面を有する層である。言い換えれば、マイクロ粒子21が管腔体102に付着して、数十μmサイズの凹凸が形成された表面を有する層である。後述する接着層152が粒子層154と管腔体102との間に介在する場合には、粒子層154は、マイクロ粒子21が接着層152に付着して、数十μmサイズの凹凸が形成された表面を有する層である。
【0022】
マイクロ粒子21は、平均一次粒子径が数十μmであれば特に限定されないが、10〜70μmが好ましく、10〜40μmがより好ましい。
【0023】
なお、本発明において、マイクロ粒子の平均一次粒子径の測定は、透過型電子顕微鏡または走査型電子顕微鏡を用いて実施することができる。具体的には、粒子形状が球状の場合はその直径、非球状の場合はその最長径と最短径との平均値を直径とみなし、走査型電子顕微鏡等による観察により任意に選んだ20個分の粒子の直径の平均を平均一次粒子径とする。
【0024】
マイクロ粒子21は、特に限定されないが、疎水性微粒子が好ましく、例えば、疎水性酸化物微粒子、金属酸化物複合粒子、フッ素樹脂微粒子等を使用することができる。
【0025】
疎水性酸化物粒子に用いる疎水性酸化物としては、疎水性を有する酸化物であれば特に限定されず、例えば、シリカ(二酸化ケイ素)、アルミナ、チタニア等の少なくとも1種を用いることができる。また、疎水性は表面処理により付与されたものであってもよく、例えば、親水性酸化物微粒子をシランカップリング剤等で表面処理を施し、表面状態を疎水性とした微粒子を用いることもできる。これらは公知または市販のものを採用することができる。
【0026】
金属酸化物複合粒子は、コアとなる金属酸化物粒子とその表面に形成された被覆層を含むものである。コアとなる金属酸化物粒子は、複数の金属酸化物粒子(一次粒子)が三次元的に連なる凝集体構造(凝集体多孔質構造)を形成している。被覆層はその凝集体構造の内部および外殻に形成される。金属酸化物複合粒子としては、フッ素含有金属酸化物複合粒子が好ましい。フッ素含有金属酸化物複合粒子は、金属酸化物粒子と、その表面に形成されたポリフルオロアルキルメタアクリレート樹脂を含む被覆層とを含むものであれば特に限定されない。金属酸化物粒子は、金属酸化物複合粒子のコアとなり得るものであれば限定的でなく、例えば酸化ケイ素、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛等の粒子(粉末)の少なくとも1種を用いることができる。ポリフルオロアルキルメタアクリレート樹脂としては、例えば、ポリフルオロオクチルメタクリレート、2−N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2,2’−エチレンジオキシジエチルジメタクリレートが共重合したコポリマー等を好適に用いることができる。
【0027】
フッ素樹脂微粒子はフッ素樹脂を主成分とするものであれば特に限定されない。フッ素樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE、CTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、エチレン・四フッ化エチレン共重合体(ETFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)等を用いることができる。
【0028】
疎水性微粒子としては、疎水性酸化金属微粒子が好ましく、疎水性シリカ微粒子がより好ましい。とりわけ、痰の付着防止効果がより優れることから、表面にシリル基、好ましくはトリメチルシリル基を有する疎水性シリカ微粒子、または表面にポリフルオロアルキルメタアクリレート樹脂の被覆を形成した金属酸化物粒子が好ましい。
【0029】
マイクロ粒子21の合計付着量(乾燥後重量)は限定的ではないが、通常0.01〜10g/m
2とするのが好ましく、0.2〜1.5g/m
2とするのがより好ましく、0.3〜1g/m
2とするのがさらに好ましく、0.5〜1g/m
2とするのが特に好ましい。上記範囲内に設定することによって、より優れた撥痰性が長期にわたって得ることができる上、マイクロ粒子21の脱落抑制、コスト等の点でもいっそう有利となる。
【0030】
なお、第1の実施形態では、粒子層154は、管腔体102の気道確保用ルーメン102aを形成する内面全体に配置されているが、この態様に限定されず、少なくとも一部の領域に配置されていればよい。
【0031】
また、微細構造領域150は、
図2(E)に示すように、管腔体102と粒子層154との間に介在し、両者の密着性を向上させる接着層152を含んでもよい。接着層152と粒子層154とは被膜250を構成する。
【0032】
また、粒子層154は、管腔体102の気道確保用ルーメン102aの内面全体に配置される接着層152の全面に配置されているが、この態様には限定されず、粒子層154の配置領域は、接着層152の少なくとも一部の領域に配置されていてもよい。
【0033】
接着層152の厚みは特に限定されないが、密着性、生産性、製造コスト等の観点から、2〜150μm程度とすることが好ましい。
【0034】
接着層152としては、公知の材料を採用することができる。例えば、公知のシーラントフィルムのほか、ラッカータイプ接着剤、イージーピール接着剤、ホットメルト接着剤等の接着剤により形成される層を採用することができる。本発明では、この中でも、ラッカータイプ接着剤またはシーラントフィルムを採用するのが好ましく、特にラッカータイプ接着剤により形成される接着層を好適に採用することができる。なお、ラッカータイプ接着剤とは、溶剤が揮発することによって乾燥・硬化するタイプの接着剤をいう。
【0035】
本実施形態の気管切開チューブ101の微細構造領域150の作製方法は特に制限されないが、例えば、管腔体102の気道確保用ルーメン102aを形成する内面に、マイクロ粒子21を付着させて粒子層154を配置する方法、あるいは、管腔体102の気道確保用ルーメン102aを形成する内面に、接着層152を配置し、接着層152の表面(気道確保用ルーメン102aに露出している面)にマイクロ粒子21を付着させて接着層152の上に粒子層154を配置する方法が挙げられる。
【0036】
接着層152を配置する方法としては、例えば、ドライラミネート法、押し出しラミネート法、ウエットラミネート法、ヒートラミネート法等の公知の方法が挙げられる。
【0037】
粒子層154を配置する方法としては、例えば、ロールコーティング、グラビアコーティング、バーコート、ドクターブレードコーティング、刷毛塗り、粉体静電法等の公知の方法を採用することができる。ロールコーティング等を採用する場合は、マイクロ粒子21を溶媒に分散させてなる分散体を用いて接着層152上に塗膜を形成した後に乾燥する方法により実施することができる。この場合の溶媒は限定されず、水のほか、例えばアルコール(エタノール)、シクロヘキサン、トルエン、アセトン、IPA、プロピレングリコール、ヘキシレングリコール、ブチルジグリコール、ペンタメチレングリコール、ノルマルペンタン、ノルマルヘキサン、ヘキシルアルコール等の有機溶剤を適宜選択することができる。この際、微量の分散剤、着色剤、沈降防止剤、粘度調整剤等を併用することもできる。溶媒に対するマイクロ粒子21の分散量は通常、合計で、10〜100g/L程度とすればよい。乾燥温度は、管腔体基材に影響を与えない範囲であれば制限されないが、通常は150℃以下、特に80〜120℃とすることが好ましい。
【0038】
さらに、接着層152上に粒子層154を配置する際、または配置した後に、加熱処理を施す(管腔体102を加熱する)こともできる。加熱処理を実施することにより接着層152に対するマイクロ粒子21の付着力(固定力)をより高めることができる。この場合の加熱温度は、接着層152の種類等に応じて適宜設定することができ、通常は用いる接着層152の融点Tm(溶融開始温度)℃に対して(Tm−50)℃から(Tm+50)℃の範囲内とすることが好ましい。
【0039】
気管切開チューブ101内の痰を、吸引カテーテルを用いて吸引する場合について、
図2(D)を参照して説明する。
図1で示すように、気管切開チューブ101を装着される患者は通常仰向きで寝ているため、痰などの異物は重力方向である背側に溜まりやすい。つまり、
図2(D)中の下側に痰が溜まりやすい。
そこで、管腔体102の基端部121側から吸引カテーテル601を管腔体102に挿入し、吸引カテーテル601の先端を管腔体102の内面上に沿わせながら先端部122付近まで進めて、痰Zを吸引する。
【0040】
また、管腔体102の気道確保用ルーメン102aの内面に微細構造領域150を配置する方法としては、上述した方法のほか、管腔体102の気道確保用ルーメン102aを形成する内面に数十μmサイズの凹凸を形成する方法などが挙げられる。
ここで、数十μmサイズの凹凸を形成する方法としては、押出成型、射出成型、切削加工、レーザー加工、芯棒を用いた表面加工などを挙げることができる。
また、数十μmサイズの凹凸は、新たに形成してもよいが、そのような凹凸を表面に有する市販品を使用してもよい。
【0041】
〈変形例〉
上述した
図1および
図2の気管切開チューブ101の形態では、微細構造領域150は管腔体102の内周面の全周にわたって存在しているが、この形態には限定されず、例えば、
図3(A)〜(C)に示すように、管腔体102の内周面上の一部のみに配置されていてもよい。
図3(A)〜(C)は第1の実施形態の変形例にかかる気管切開チューブ201を示し、上述した
図1に示す第1の実施形態の気管切開チューブ101との相違点は、微細構造領域150の存在する位置が挙げられる。なお、
図3(B)および(C)は、
図3(A)に示すB−B線に沿って切断した断面図である。
気管切開チューブ201では、管腔体102の中心軸に直交する断面図において、基端部121と先端部122と湾曲部123におけるそれぞれの管腔体102の中心Jを通る平面Pが管腔体102の湾曲部123の湾曲の外側に位置するチューブ壁の内面と交差する交点Kと、平面Pが管腔体102の湾曲部123の湾曲の内側に位置するチューブ壁の内面と交差する交点Lと、交点Kにおいて平面Pに直交する基準線Sと、管腔体102の内周面に接する接線Tと、接線Tと内周面との接点Mとを想定した場合に、接線Tが基準線Sとなす角φが30°以上となる管腔体102の内周面上の位置に微細構造領域150が存在している。ただし、角φは、接点Mが交点Lまたは交点Kと一致するとき、すなわち接線Tが基準線Sに一致するときまたは平行であるとき、φ=0°とし、接点Mが交点Kおよび交点Lのいずれとも一致しないとき、すなわち基準線Sと接線Tとが一致せず、平行でもないときは、基準線Sと接線Tとがなす鋭角または直角を意図する。
上記のような位置に微細構造領域150を有する気管切開チューブ201を、
図1で示すように仰向けに寝ている患者に挿入した場合、微細構造領域150上に付着した痰は、の作用(撥痰性)によって管腔体102内の患者の背中側(
図3(B)および(C)中の下側)に移動して、溜まりやすい。一般的に、
図2(D)で述べた吸引カテーテルの先端部は、管腔体102の内周面のうち
図3(B)および(C)での下側の位置には到達しやすいが、
図3(B)および(C)中の左右側の位置(微細構造領域150が配置される位置)には到達しにくい。そのため、上記のような位置に微細構造領域150が配置されていれば、その上に痰が付着しても吸引カテーテルで吸引できる位置まで痰が移動しやすく、結果として管腔体内部の痰の堆積が抑制される。
【0042】
[第2の実施形態]
本発明の気管用チューブの第2の実施形態について、
図4を参照して説明する。
図4に示す気管用チューブは、いわゆる気管切開チューブである。
図4に示す第2の実施形態の気管切開チューブ301と、上述した
図2に示す第1の実施形態の気管切開チューブ101との相違点は、主に、気管切開チューブ301がカフ106およびカフ調整部108を有する点が挙げられる。そこで、以下では、主にカフ106およびカフ調整部108など気管切開チューブ101と異なる点について説明し、気管切開チューブ101と共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【0043】
管腔体102の先端部122には、カフ106が取り付けられている。カフ106は、管腔体102における先端部122近傍の外周面を覆うように固定されている。カフ106は、カフ調整部108と接続している。カフ調整部108は、パイロットバルーン126と、カフ106およびパイロットバルーン126を接続する空気注入用チューブ125とにより構成される。
【0044】
パイロットバルーン126は、略扁平の六角形状の断面を有するように形成される。本例では、パイロットバルーン126の断面形状を六角形として説明するが、これに限定されない。例えば、パイロットバルーン126の断面形状を略四角形や円形などに形成することができ、その他様々な形状に形成してもよい。
【0045】
パイロットバルーン126の一端部には空気注入孔126aが設けられ、パイロットバルーン126の他端部には、排出口126bが設けられている。空気注入孔126aには、逆止弁が取り付けられている。そして、空気注入孔126aから空気がパイロットバルーン126および空気注入用チューブ125を介してカフ106に送り込まれる。送り込まれた空気は、逆止弁により、空気注入孔126aから漏れ出なくなる。また、パイロットバルーン126を指で押圧することで、カフ106にかかる圧を触感的に感知することができる。
【0046】
空気注入用チューブ125は、その一端がパイロットバルーン126に接続され、その他端がカフ106に接続されている。この空気注入用チューブ125はその一旦に形成されたカフ側開口部111を介して、カフ106の内部空間と連通している。
なお、固定板128の中央部には、収納孔231が形成されている。また、接着部129は、略円形の貫通孔130と、外周から貫通孔130に向かって形成された溝部を有している。この貫通孔130は、収納孔231と連通している。収納孔231には、管腔体102と、空気注入用チューブ125とが貫通する。つまり、空気注入用チューブ125は、接着部129の溝部と固定板128の収納孔131を貫通する。そして、
図4(B)に示すように、空気注入用チューブ125は、管腔体102の湾曲部123における湾曲の内側に沿って配置され、管腔体102の外周面102cに固定される。
【0047】
空気注入孔126aからパイロットバルーン126および空気注入用チューブ125を介して送り込まれた空気がカフ106に入ることで、カフ106は膨らみ、気管7の粘膜(皮膚側気管粘膜7a、体内側気管粘膜7b)に密着する。これにより、管腔体102と気管7との間に形成される隙間を塞ぐことができる。
カフ106が管腔体102と気管7との間に形成される隙間を塞ぐことで、人工呼吸器から送られた酸素が喉頭側に漏れることを防止するとともに、喉頭側から流れてきた唾液等が肺側に入りこむことを防止することができる。
【0048】
〈変形例〉
上記
図4(B)においては、空気注入用チューブ125が管腔体102の外周面102cに固定される形態について述べたが、この形態には限定されず、例えば、
図4(C)に示すように、空気注入用チューブ125の代わりに、管腔体302のチューブ壁内に空気注入用ルーメン125aを設けて、パイロットバルーン126からカフ106に空気を送り込んでもよい。
【0049】
[第3の実施形態]
本発明の気管用チューブの第3の実施形態について、
図5を参照して、説明する。
図5に示す気管用チューブは、いわゆる気管切開チューブである。
図5に示す第3の実施形態の気管切開チューブ401と、上述した
図4に示す第2の実施形態の気管切開チューブ301との相違点は、主に、気管切開チューブ401がカフ側吸引部138を有する点が挙げられる。そこで、以下では、主にカフ側吸引部138など気管切開チューブ301と異なる点について説明し、気管切開チューブ301と共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【0050】
管腔体102を挟んで、カフ調整部108と反対側には、カフ側吸引部138が配置されている。カフ側吸引部138は、カフ側吸引コネクタ139と、カフ側吸引チューブ140とから構成される。
なお、固定板128の中央部には、収納孔331が形成されている。カフ側吸引チューブ140は、空気注入用チューブ125と同様に、接着部129の溝部および固定板128の収納孔331を貫通する。そして、
図5(B)に示すように、カフ側吸引チューブ140は、管腔体102の湾曲部123における湾曲の外側に沿って配置され、管腔体102の外周面102cに固定される。
【0051】
カフ側吸引チューブ140の一端は、カフ106の近傍にまで延びて開口しており、この開口によりカフ側吸引口140aが形成されている。カフ側吸引チューブ140の他端部には、カフ側吸引コネクタ139が取り付けられている。カフ側吸引コネクタ139には、吸引器(図示せず)が装着される。
【0052】
喉頭側から流れてきた唾液等は、気管7の粘膜(皮膚側気管粘膜7a、体内側気管粘膜7b)を伝い、肺側に流れる。この唾液等は、膨張状態にあるカフ106によって堰き止められ、粘膜(皮膚側気管粘膜7a、体内側気管粘膜7b)とカフ106により形成される空間に溜まる。そして、カフ106によって堰き止められた唾液等は、吸引器が作動することで、カフ側吸引部138により、カフ側吸引口140aから吸引される。
【0053】
なお、カフ側吸引チューブ140の内周面には、上述した微細構造領域150が配置されていてもよい。撥痰性層154を含む微細構造領域150をカフ側吸引チューブ140の内周面上に配置することにより、カフ側吸引チューブ140の内周面に痰が付着するのを防止し、カフ側吸引チューブ140の閉塞の発生を抑制できる。
また、カフ106よりも肺側に付着した痰などの異物を吸引するために、さらに吸引ラインおよび関連する構成を付加してもよい。
【0054】
〈変形例〉
上記
図5(B)においては、空気注入用チューブ125およびカフ側吸引チューブ140が管腔体102の外周面102cに固定される形態について述べたが、この形態には限定されず、例えば、
図5(C)に示すように、空気注入用チューブ125の代わりに管腔体402のチューブ壁内に空気注入用ルーメン125bを設けると共に、カフ側吸引チューブ140の代わりに管腔体402のチューブ壁内にカフ側吸引用ルーメン140bを設けてもよい。
【0055】
[第4の実施形態]
本発明の第4の実施形態について、
図6を参照して説明する。
図6に示す気管用チューブは、いわゆる気管切開チューブであるが、複管式気管切開チューブまたは内筒付き気管切開チューブと呼ばれ、気管切開術後の気道確保目的に使用する気管切開チューブ本体と、チューブ内の分泌物除去および内腔の開存性を高めるために使用するインナーカニューラを組み合わせたものであり、インナーカニューラ(以下「内筒」という場合がある。)を気管切開チューブ本体(以下「外筒」という場合がある。)に挿入して使用する。
以下、複管式気管切開チューブ701を構成する各部材について詳述する。
【0056】
内筒701aを構成する管腔体102は、両端が開口し、かつ、長さ方向に沿って均一な外径および内径を有する筒形状に形成される。管腔体102の内部には、管腔体102の長さ方向に沿って呼気が通る空間である気道確保用ルーメン102aが形成されている。
管腔体102は、先端部122と、先端部122と反対側に配置される基端部121とを有し、所望により、基端部121と先端部122との間に位置する湾曲部123を有していてもよい。
管腔体102は可撓性を有する材料で構成され、管腔体702に沿って変形することが好ましい。
管腔体102が湾曲部123を有する場合は、先端部122の中心軸と基端部121の中心軸が角度θで交差するように湾曲し、管腔体102は略L字状に形成されてもよい。
図6(A)に示す管腔体102においては、角度θは約90°である。
管腔体102の材質としては、例えば、シリコーン、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル等の合成樹脂を挙げることができる。
【0057】
外筒701bを構成する管腔体702は、両端が開口し、かつ、長さ方向に沿って均一な外径および内径を有する筒形状に形成される。管腔体702の内部には、管腔体702の長さ方向に沿ってインナーカニューラ(内筒)を挿入するための空間である内筒挿入用ルーメン702aが形成されている。
管腔体702は、先端部722と、先端部722と反対側に配置される基端部721と、基端部721と先端部722との間に位置する湾曲部723を有する。湾曲部723は先端部722の中心軸と基端部721の中心軸が角度θで交差するように湾曲しており、この第4の実施形態では、管腔体702は略L字状に形成される。つまり、角度θは約90°である。
なお、管腔体702は、患者の体位の変化等に合わせて上記θが約90°から約120°までの範囲で変化しうる程度の可撓性を有する。
管腔体702の材質としては、例えば、シリコーン、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル等の合成樹脂を挙げることができる。
なお、管腔体702の内管挿入用ルーメンを形成する内面には微細構造領域150と同様の構成を備える微細構造領域が配置されていてもよい。
【0058】
また、管腔体702の基端部721は、気管切開孔から体外に露出しており、この基端部721に、人工呼吸器(図示せず)が取り付けられている。人工呼吸器が作動することで、内筒の気道確保用ルーメン102a内に呼気が通る。これにより、患者の呼吸を持続させ、呼吸管理を行っている。その結果、呼吸に必要な酸素の通り道である気道が閉塞することを防止することができ、患者の呼吸管理を行うことができる。
【0059】
固定部727は、管腔体702の基端部721に取り付けられている。固定部727は、管腔体702を患者に装着した際に、皮膚5に当接することで、先端部722を気管7内の適切な位置に固定するものであり、固定板728と、接着部729とを有している。
固定板728は、平板状の部材で、中央部に、固定板728を貫通する収納孔731が形成されている。そして、固定板728の表面には、接着部729が取り付けられ、固定板728の裏面は、患者の皮膚5に当接される。
接着部729は、管腔体702を固定部727に接着するもので、中央に略円形の貫通孔730が形成されたリング形状を有している。接着部729の貫通孔730は、固定板728の収納孔731と連通しており、貫通孔730の大きさは、管腔体702の外径に合わせて設定される。
このような固定板728の収納孔731および接着部729の貫通孔730に、管腔体702が貫通され、例えば、接着剤により固定される。
【0060】
本実施形態では、管腔体702を接着部729に固定する方法として、接着剤による固定を例に挙げたが、例えば、溶着による固定など各種の固定方法を採用することができる。
【0061】
内筒を構成する管腔体102の気道確保用ルーメン102aを構成する内面に設置された微細構造領域150については、本発明の第1の実施形態において説明したとおりである。
【0062】
以上では、本発明の複管式気管切開チューブの一形態について説明したが、本発明の第2の実施態様、第3の実施態様と同様に、カフおよびカフ調整部、吸引ラインならびに関連する構成を付加する等の変形が可能である。
【0063】
[第5の実施形態]
本発明の気管用チューブの第5の実施形態について、
図7および
図8を参照して、説明する。
図7および
図8に示す気管用チューブは、いわゆる気管内チューブである。
図7および
図8に示す気管内チューブ501は、患者の呼吸管理を行うための器具であり、患者の口から気管7に挿入される。気管内チューブ501は、管腔体202と、カフ206と、空気注入用チューブ225とから構成される。
【0064】
図8(B)に示すように、管腔体202の内周面には、全周にわたって上述した微細構造領域150が配置されている。微細構造領域150の形態は上述の通りであり、説明を省略する。
【0065】
気管内チューブ501は、管腔体202と、この管腔体202の長手方向に沿って設けられ、管腔体202の少なくとも先端部222付近まで延長された空気注入用ルーメン225bと、管腔体202の先端部付近に、管腔体202の外周面を囲むように設けられ、空気注入用ルーメン225bの一端と連通する膨張収縮可能なカフ206と、空気注入用ルーメン225bの他端と連通し、カフ206が膨張しているかどうかを確認するパイロットバルーン226とを有している。
【0066】
管腔体202は、両端が開口した筒状に形成される。管腔体202は、先端部222と、先端部222と反対側に設けられる基端部221と、基端部221と先端部222との間に位置する湾曲部223を有する。
管腔体202は、可撓性を有する材料で構成されており、麻酔ガス、酸素ガス等を導入するための先端部222から基端部221まで貫通した気道確保用ルーメン202aを有している。管腔体202の先端部222は、体内への挿入を容易なものとするために、滑らかなベベル状に形成されている。また、基端部221には、呼吸回路に接続するためのコネクタ212が取り付けられている。
【0067】
管腔体202を形成するチューブ壁には、
図8(B)に示すように、気道確保用ルーメン202aより細い空気注入用ルーメン225bが、管腔体202の長手方向に沿って設けられている。この空気注入用ルーメン225bは、後述するカフ206内に空気を送り込むためのインフレーション用のルーメンである。
また、この空気注入用ルーメン225bは、カフ206内の管腔体202のチューブ壁の外面に形成されたカフ側開口部225aを介して、カフ206の内部空間と連通している。
【0068】
また、空気注入用ルーメン225bは、
図8(A)に示すように、基端部221付近の位置において、管腔体202のチューブ壁外面に形成された切欠部207を介して空気注入用チューブ225と連通している。
【0069】
空気注入用チューブ225と空気注入用ルーメン225bとの接続は、例えば、予め加熱したマンドレルを空気注入用ルーメン225b内に挿入し、このマンドレルの抜去と同時に空気注入用チューブ225を空気注入用ルーメン225b内に挿入し、溶剤または接着剤を用いて固着する方法などにより行なわれる。
【0070】
管腔体202の先端部付近には、その外周面を環状に囲むようにして、膨張収縮可能なカフ206が設けられている。
このカフ206は、予め管腔体202の外径よりも大きな内径を有する筒形状に成形された膜を空気注入用ルーメン225bのカフ側開口部225aを覆うようにして管腔体202の外周にかぶせ、その両端を管腔体202の外周面に対し、接着剤、溶剤により接着するか、または熱、高周波等により融着することにより、気密的に固着して取り付けられる。
【0071】
また、空気注入用チューブ225の後端部には、カフ206の膨張・収縮の程度を認識するための膨張収縮可能なパイロットバルーン226が、空気注入用チューブ225と連通するように設置されている。
【0072】
さらに、パイロットバルーン226の後端側には、パイロットバルーン226内への気体の流入は許容するが、膨張したパイロットバルーン226からの気体の流出は阻止する機能を有する逆止弁226aが設置されている。この逆止弁226aにシリンジ等を接続して空気のような気体を圧入すると、その気体は、パイロットバルーン226、空気注入用チューブ225内、空気注入用ルーメン225bおよびカフ側開口部225aを介してカフ206内に送り込まれ、カフ206が膨張する。
【0073】
以上では、本発明の気管内チューブの一形態について説明したが、本発明の気管切開チューブと同様に、吸引ラインおよび関連する構成を付加する等の変形が可能である。
【0074】
[第6の実施形態]
本発明の気管用チューブの第6の実施形態について、
図9を参照して、説明する。
図9に示す気管用チューブは、小気管切開チューブ、経皮的気管穿刺チューブ、輪状甲状膜穿刺用気管カニューレ、輪状甲状膜切開用気管カニューレなどとも呼ばれるものである。
図9に示す気管カニューレ801は、緊急に呼吸管理を必要とする患者の呼吸管理を行うための器具であり、患者の輪状甲状膜に穿刺して気管7に挿入される。気管カニューレ801は、管腔体102と、固定部127とから構成される。気管カニューレ801の管腔体102は、挿入した内針とセットにして輪状甲状膜を穿刺することから、外針ともいわれる。
【0075】
気管カニューレ801の管腔体102の気道確保用ルーメンを形成する内面(内周面)には、全周にわたって上述した微細構造領域150(図示せず)が配置されている。微細構造領域150(図示せず)の形態は上述のとおりであり、説明を省略する。
【0076】
気管カニューレ801は、内針(図示せず)が挿入される管腔体102と、管腔体102の基端部に備えられ、管腔体102を皮膚に固定する固定部127とを備えている。管腔体102は合成樹脂製であり、先端部に内針の軸方向に対して15°以下の角度をなすように湾曲している湾曲部を備えている。
【0077】
気管カニューレ801を使用するときには、管腔体102に金属製の内針(図示せず)を挿入した状態で、輪状軟骨と甲状軟骨との間の輪状甲状膜(輪状甲状靭帯部)に穿刺する。次いで、内針(図示せず)を抜去して、管腔体102のみを気管内に留置する。そして、固定部127に設けられた紐通し孔(図示せず)に挿通した綿テープ等(図示せず)を頸部に固縛することにより、気管カニューレ801を固定する。
【0078】
以上では、本発明の気管カニューレの一形態について説明したが、本発明の気管切開チューブと同様に、種々の変形が可能である。
【0079】
[第7の実施形態]
本発明の気管用チューブの第7の実施形態について、
図10を参照して説明する。
図10に示す気管用チューブは、輪状甲状膜穿刺用気管カニューレ、輪状甲状膜切開用気管カニューレなどとも呼ばれるものである。
図10に示す気管カニューレ901は、気管もしくは気管支の内部に貯留した分泌液の吸引除去を目的として、首部前面から気管の内部へ通じる吸引通路を確保するために使用する気管分泌物吸引、または緊急時の救急蘇生を目的として、首部前面から気管の内部へ通じる呼吸気道を確保するために使用する緊急気道確保のために使用する器具であり、患者の輪状甲状膜の穿刺孔または切開孔を通じて気管7に挿入される。気管カニューレ901は、管腔体102と固定部127(特に、フランジ部ともいう。)とから構成される。
【0080】
気管カニューレ901の管腔体102の気道確保用ルーメンを形成する内面(内周面)には、全周にわたって上述した微細構造領域150(図示せず)が配置されている。微細構造領域150(図示せず)の形態は上述のとおりであり、説明を省略する。
【0081】
気管カニューレ901は、イントロデューサ(図示せず)が挿入される管腔体102と、管腔体102の基部に備えられ、管腔体102を皮膚に固定する固定部127(フランジ)とを備えている。管腔体102は合成樹脂製であり、基端部から先端部にかけて湾曲する湾曲部を備えている。
【0082】
気管カニューレ901は、例えば、セルジンガー法を用いて気管7に導入したガイドワイヤ(図示せず))を介してダイレータ(図示せず)による拡張操作で輪状甲状膜の穿刺孔を拡張し、輪状甲状膜の拡張した穿刺孔から、イントロデューサ(図示せず)を挿入した管腔体102を気管7に挿入し、イントロデューサを抜去して気管カニューレ901を気管内に留置することができる。また、輪状甲状膜を切開して、切開孔からイントロデューサを挿入した管腔体102を気管7に挿入し、イントロデューサを抜去して気管カニューレ901を気管内に留置してもよい。気管カニューレ901の留置後は、気管カニューレ901を介して、サクションカテーテル(図示せず)を使用した通常の気管内の吸引や酸素または空気の送気を行うことができる。
【0083】
以上では、本発明の気管カニューレの一形態について説明したが、本発明の気管切開チューブと同様に、種々の変形が可能である。
【実施例】
【0084】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。
【0085】
[実施例1]
(1)試験片の作製
幅20μm、高さ60μm、ライン間の幅40μmのライン&スペースのパターン構造を有するシリコンゴム(サイズ50mm×50mm、厚み3mm、Hoowaki社製)を試験片1とした。
【0086】
(2)各種試験
ヒトまたはブタから痰を採取し、痰1〜5に付番し、それぞれの粘度を、E型粘度測定器を用いて測定した。痰の粘度の測定結果を、表1の「粘度」の欄に記載した。
【0087】
2.1)撥痰性(痰付着抑制能)
試験片1を必要数用意し、30°の傾斜台の上に乗せ、そこに痰サンプル1〜5を100μLずつ滴下した。その際の痰の動きを観察し、次の基準により撥痰性があるかないかの評価をした。結果を表1の「撥痰性」の欄に示す。
滴下した痰が転がった・・・あり
滴下した痰が転がらずに付着した、または濡れ広がって垂れていった・・・なし
【0088】
2.2)移動距離
痰を滴下してから30秒間の痰の移動距離を測定した。30秒間で痰がサンプル表面から移動して落下した場合は、落下するまでの移動距離と時間から、30秒間の移動距離を算出した。結果を表1の「移動距離」の欄に示す。なお、「>2250」は移動距離が測定限界の2250mmに達したことを意味する。
【0089】
2.3)痰残渣量
試験片のコーティング面に各痰サンプルを100μLずつ滴下した後、その痰を吸引した後の痰の残渣を肉眼で観察し、残渣量の多少を「無し」、「少ない」、「中程度」および「多い」のいずれかで評価した。結果を表1の「痰残渣量」の欄に示す。
【0090】
[実施例2]
(1)試験片の作製
スライドガラス(サイズ26mm×76mm、厚み1mm;白縁磨フロストスライドグラス、松浪硝子工業社製)に、疎水性微粒子(平均一次粒子径20μmのトリメチルシリル基で表面処理されたシリカ微粒子5g〕を溶媒(エタノール)100mLに分散させたコート液を浸漬コートで塗布した後、100℃、15秒で乾燥させて溶媒を蒸発させることにより、試験片2を作製する。
【0091】
(2)各種試験
試験片2を用いて、実施例1と同様にして各種試験を行った。各種試験の結果は、表1の該当欄に示す。
【0092】
[比較例1]
(1)試験片の作製
PVCシート(サイズ26mm×76mm、厚み1.5mm;PVCペレットをヒートプレスすることで作製)に、MX−301(フッ素系コート材、サーフ工業社製)をコーティングして試験片C1を作製した。
【0093】
(2)各種試験
試験片C1を用いて、実施例1と同様にして各種試験を行った。各種試験の結果は、表1の該当欄に示す。
【0094】
[比較例2]
(1)試験片の作製
比較例1と同様のPVCシートにより、試験片C2を作製した。
【0095】
(2)各種試験
試験片C2を用いて、実施例1と同様にして各種試験を行った。各種試験の結果は、表1の該当欄に示す。
【0096】
[比較例3]
(1)試験片の作製
シリコンゴムシート(厚み1.5mm)を、サイズ26mm×76mmのサイズにカットすることで、試験片C3を作製した。
【0097】
(2)各種試験
試験片C3を用いて、実施例1と同様にして各種試験を行った。各種試験の結果は、表1の該当欄に示す。ただし、「−」は試験を行っていないことを表す。
【0098】
【表1】
【0099】
実施例1および実施例2が、試験を行ったすべての痰サンプルに対して優れた撥痰性および付着抑制性を示した。また、実施例1および実施例2では痰が移動した後に、痰の糸曳きは認められなかった。