【実施例】
【0075】
次に、実施例および比較例を説明するが、実施態様は実施例に限定されるものではない。
[A.薬剤溶出バルーンの作成または準備、あるいは薬剤無塗布バルーンの準備]
<実施例1>
(1)コーティング溶液1の調製
【0076】
L−セリンエチルエステル塩酸塩(CAS No.26348−61−8)(56mg)およびパクリタキセル(CAS No.33069−62−4)(134.4mg)を量りとった。これに無水エタノール(1.2mL)、テトラヒドロフラン(1.6mL)、および逆浸透(RO:Reverse Osmosis)膜処理水(以下、RO水とする)(0.4mL)をそれぞれ加えて溶解して、コーティング溶液1を調製した。
(2)バルーンへの薬剤コーティング
【0077】
拡張時サイズが直径3.0mm×長さ20mm(拡張部)のバルーンカテーテル(テルモ社製、バルーン(拡張部)の素材はナイロンエラストマー)を準備した。コーティング溶液1を拡張したバルーンに、コーティング溶液の溶媒がゆっくりと揮発してパクリタキセル量が約3μg/mm
2となるように、コートした。すなわち、最先端に開口部を有するディスペンシングチューブを横断方向に水平に移動させ、バルーンの表面上に配置した。ディスペンシングチューブの側方側の少なくとも一部を、バルーンの表面に沿って接触配置した。ディスペンシングチューブの側方側の少なくとも一部をバルーンの表面に接触させたまま、コーティング溶液をディスペンシングチューブの最先端の開口部から吐出した。この状態で、先端開口部からのコーティング溶液の吐出方向に対して反対方向(逆方向)に、バルーンを長手方向軸の回りに回転させた。長手方向軸に沿うディスペンシングチューブの平行移動とバルーンの回転移動を調整し、回転開始とともに、コーティング溶液をバルーンの表面上に0.053μL/秒で吐出して、バルーンのコーティングを行った。
【0078】
その後、コーティングを乾燥させて、薬剤溶出バルーンを作製した。
<実施例2>
(1)コーティング溶液2の調製
【0079】
L−セリンエチルエステル塩酸塩(70mg)およびパクリタキセル(180mg)を量りとった。これに無水エタノール(1.5mL)、アセトン(2.0mL)、テトラヒドロフラン(0.5mL)、およびRO水(1mL)をそれぞれ加えて溶解し、コーティング溶液2を調製した。
(2)バルーンへの薬剤コーティング
【0080】
拡張時のサイズが直径3.0mm×長さ20mm(拡張部)のバルーンカテーテル(テルモ社製、バルーン(拡張部)の素材はナイロンエラストマー)を準備した。コーティング溶液2を拡張したバルーンに、コーティング溶液の溶媒がゆっくりと揮発してパクリタキセル量が約3μg/mm
2となるように、コートした。
【0081】
すなわち、コーティング溶液をバルーンの表面上に0.088μL/秒で吐出した以外は、実施例1のようにしてコーティングを行った。
【0082】
その後、コーティングを乾燥させて、薬剤溶出バルーンを作製した。
<実施例3>
(1)コーティング溶液3の調製
【0083】
L−セリンエチルエステル塩酸塩(70mg)およびパクリタキセル(168mg)を量りとった。これに無水エタノール(1.5mL)、テトラヒドロフラン(1.5mL)、およびRO水(1mL)をそれぞれ加えて溶解し、コーティング溶液3を調製した。
(2)バルーンへの薬剤コーティング
【0084】
拡張時のサイズが直径3.0mm×長さ20mm(拡張部)のバルーンカテーテル(テルモ社製、バルーン(拡張部)の素材はナイロンエラストマー)を準備した。コーティング溶液3を拡張したバルーンに、コーティング溶液の溶媒がゆっくりと揮発してパクリタキセル量が約3μg/mm
2となるように、コートした。
【0085】
すなわち、コーティング溶液をバルーンの表面上に0.101μL/秒で吐出した以外は、実施例1のようにしてコーティングを行った。
【0086】
その後、コーティングを乾燥させて、薬剤溶出バルーンを作製した。
<実施例4>
(1)コーティング溶液4の調製
【0087】
L−セリンエチルエステル塩酸塩(70mg)およびパクリタキセル(180mg)を量りとった。これに無水エタノール(1.75mL)、テトラヒドロフラン(1.5mL)、およびRO水(0.75mL)をそれぞれ加えて溶解し、コーティング溶液4を調製した。
(2)バルーンへの薬剤コーティング
【0088】
拡張時のサイズが直径3.0mm×長さ20mm(拡張部)のバルーンカテーテル(テルモ社製、バルーン(拡張部)の素材はナイロンエラストマー)を準備した。コーティング溶液4を拡張したバルーンに、コーティング溶液の溶媒がゆっくりと揮発してパクリタキセル量が約3μg/mm
2となるように、コートした。
【0089】
すなわち、コーティング溶液をバルーンの表面上に0.092μL/秒で吐出した以外は、実施例1のようにしてコーティングを行った。
【0090】
その後、コーティングを乾燥させて、薬剤溶出バルーンを作製した。
<実施例5>
(1)コーティング溶液5の調製
【0091】
L−アスパラギン酸ジメチルエステル塩酸塩(CAS No.32213−95−9)(37.8mg)およびパクリタキセル(81mg)を量りとった。これに無水エタノール(0.75mL)、テトラヒドロフラン(0.96mL)、およびRO水(0.27mL)をそれぞれ加えて溶解して、コーティング溶液5を調製した。
(2)バルーンへの薬剤コーティング
【0092】
拡張時のサイズが直径3.0mm×長さ20mm(拡張部)のバルーンカテーテル(テルモ社製、バルーン(拡張部)の素材はナイロンエラストマー)を準備した。コーティング溶液5を拡張したバルーンに、コーティング溶液の溶媒がゆっくりと揮発してパクリタキセル量が約3μg/mm
2となるように、コートした。
【0093】
すなわち、コーティング溶液をバルーンの表面上に0.055μL/秒で吐出した以外は、実施例1のようにしてコーティングを行った。
【0094】
その後、コーティングを乾燥させて、薬剤溶出バルーンを作製した。
<実施例6>
(1)コーティング溶液6の調製
【0095】
L−セリンエチルエステル塩酸塩(56mg)およびパクリタキセル(134.4mg)を量りとった。これに無水エタノール(0.4mL)、テトラヒドロフラン(2.4mL)、およびRO水(0.4mL)をそれぞれ加えて溶解し、コーティング溶液6を調製した。
(2)バルーンへの薬剤コーティング
【0096】
拡張時のサイズが直径3.0mm×長さ20mm(拡張部)のバルーンカテーテル(テルモ社製、バルーン(拡張部)の素材はナイロンエラストマー)を準備した。コーティング溶液6を拡張したバルーンに、コーティング溶液の溶媒がゆっくりと揮発してパクリタキセル量が約3μg/mm
2となるように、コートした。
【0097】
すなわち、コーティング溶液をバルーンの表面上に0.053μL/秒で吐出した以外は、実施例1のようにしてコーティングを行った。
【0098】
その後、コーティングを乾燥させて、薬剤溶出バルーンを作製した。
<比較例1>
【0099】
パクリタキセルおよび尿素の賦形剤を含む市販の薬剤溶出バルーンカテーテルであるIN.PACT(登録商標)(INVAtec JAPAN社製、Interventional Cardiology,58(11),2011,1105−1109)を準備した。比較例1のバルーンは表面にパクリタキセルをコートした薬剤溶出バルーンである。
<比較例2>
【0100】
拡張時のサイズが直径3.0mm×長さ20mm(拡張部)のバルーンカテーテル(テルモ社製、バルーン(拡張部)の素材はナイロンエラストマー)を準備した。比較例2のバルーンは表面に薬剤をコートしていない薬剤無塗布バルーンである。
[B.バルーンにコートしたパクリタキセル量の測定]
【0101】
実施例1〜実施例6の薬剤溶出バルーンについて、バルーン上にコートしたパクリタキセルの量を以下の手順にしたがって測定した。
1.方法
【0102】
調製した薬剤溶出バルーンをメタノール溶液に浸漬した後、振とう機で10分間振とうし、次いでバルーン上にコートしたパクリタキセルを抽出した。パクリタキセルを抽出したメタノール溶液の227nmにおける吸光度を、紫外−可視分光光度計を用いた高速液体クロマトグラフィーで測定し、バルーンあたりのパクリタキセル量([μg/バルーン])を求めた。また、得られたパクリタキセルの量とバルーン表面積から、バルーン単位面積あたりのパクリタキセル量([μg/mm
2])を算出した。
2.結果
【0103】
表1に得られた結果を示す。また、表1中、「バルーン表面積」はバルーン拡張時の表面積(単位:mm
2)を、「バルーン上のPTX量」における「バルーンあたり」はバルーン1個あたりのパクリタキセルの量(単位:μg/バルーン)を、そして「バルーン上のPTX量」における「単位面積あたり」はバルーンの表面積1mm
2あたりのパクリタキセルの量(単位:μg/mm
2)をそれぞれ示す。
【0104】
表1に示すように、実施例1〜実施例6の全てにおいて、バルーン上にコートしたパクリタキセルの量は約3μg/mm
2であり、バルーン表面上に目標量のパクリタキセルをコートすることが可能であった。
【表1】
[C.薬剤溶出バルーンの薬剤コート層の走査電子顕微鏡(SEM)による観察]
1.方法
【0105】
実施例1〜実施例5および実施例6の薬剤溶出バルーンを乾燥し、それら乾燥した薬剤溶出バルーンを適当なサイズに切断した後、それらを支持台に載せ、その上に白金を蒸着した。また、同様に、比較例1のINVAtec JAPAN社製の市販の薬剤溶出バルーン(IN.PACT(登録商標))も適当なサイズに切断した後、支持台に載せ、その上に白金を蒸着した。白金蒸着した試料の薬剤コート層の表面および内部を、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。
2.結果
【0106】
実施例の薬剤コート層の中には、中空長尺体の形態型、平坦毛状の形態型、および平坦毛状結晶の表面にアモルファス膜が存在する形態型を有する結晶層が観察された。
【0107】
図1〜
図6に示すSEM像が得られた。実施例1〜実施例5のSEM像である
図1〜
図5は、中空長尺体の形態型を含む層を示しており、約10μmの長さを有する中空長尺体の均一なパクリタキセル結晶がバルーン表面上に均一に形成されることが明らかとなった。これら中空長尺体のパクリタキセル結晶は長軸を有し、長軸を有する長尺体(約10μm)はバルーン表面に対してほぼ垂直な方向となるように形成された。長尺体の直径は約2μmであった。また、長軸に対して垂直な表面における長尺体の断面は多角形であった。この多角形は、例えば、四角形の多角形であった。さらに、これらパクリタキセルのほぼ均一な中空長尺体は、同一の形態型(構造および形状)でバルーン表面全体に均一かつ濃密に(同一密度で)形成されていた。
【0108】
一方、実施例6の
図6Aおよび
図6BのSEM像は、平坦毛状の形態型および平坦毛状結晶の表面上にアモルファス膜が存在する形態型を含む層を示しており、この平坦毛状結晶は平坦長尺毛状のパクリタキセル結晶であった。これら結晶の多くは20μm以上の比較的大きなサイズを有し、長軸はバルーン表面に沿って横たわった状態で存在している(
図6A)。また、
図6Bに示すように、平坦毛状の形態型を含む層の上部がアモルファス膜で覆われた領域が存在した。この領域では、アモルファス膜の層が平坦結晶構造の上に存在する形態型を含む層、すなわち2つの層が結晶およびアモルファス膜から構成され、非晶質皮膜は平坦毛状結晶の表面上に存在している。
【0109】
比較例1の
図7は、INVAtec JAPAN社製の市販の薬剤溶出バルーン(IN.PACT(登録商標))の薬剤コート層のSEM像である。これにおいて、アモルファスおよび結晶が同一平面内に混在していた。それらのほとんどはほぼアモルファスであり、針状結晶が同一平面内に部分的に混在する様子が観察された。
[D.ブタ冠動脈における血管内狭窄抑制効果、および血管リモデリングに対する影響]
【0110】
実施例1〜実施例6、比較例1(C1:市販のバルーン)、および比較例2(C2:薬剤無塗布バルーン)について、ブタ冠動脈における血管内狭窄抑制効果および血管リモデリングに対する影響を、以下の手順にしたがって評価した。
1.方法
【0111】
(1)ガイドワイヤを備えたガイディングカテーテルを8Frシースによって挿入し、X線透視下で左右の冠動脈開口部に遊動した。
【0112】
(2)各冠動脈の血管造影を行い(冠動脈:左冠動脈前下行枝(LAD:Left Anterior Descending coronary artery)、右冠動脈(RCA:Right Coronary Artery)、および左冠動脈回旋枝(LCX:Left CircumfleX coronary artery))、血管造影で得られた冠動脈の直径をQCA(Qualitative Coronary Angiography)ソフトウェアで測定した。
【0113】
(3)血管の直径に対してステントの直径が1.2倍、薬剤溶出バルーンの直径が1.3倍である部位を選択し、ステント留置以降の作業を行った。
【0114】
(4)選択した冠動脈における金属ステント(BMS)(ステント直径3mm×長さ15mm)が1.2倍となるように30秒間伸長した後、ステント留置用バルーンカテーテルを除去した。ステント留置部位において、実施例1および実施例6ならびに比較例1および比較例2で準備した薬剤コート層を有する薬剤溶出バルーン(バルーン直径3mm×長さ20mm)を血管の直径に対して1.3倍となるように1分間拡張した後、バルーンカテーテルを除去した。
【0115】
(5)薬剤溶出バルーンを拡張した後、ガイディングカテーテルおよびシースを除去した。頸動脈の中央側を結紮した後、頸部の切開開口部の筋肉の間隙を縫合糸で縫合し、皮膚を外科用縫合ステープラーによって縫合した。
【0116】
(6)バルーン拡張の28日後、剖検を行った。
<血管内狭窄率の算出方法>
【0117】
血管内狭窄率を以下の手順に従って算出した。
【0118】
ライカ顕微鏡および病理画像システムによって血管像を撮像した。これらの像を用いて、外弾性板領域の内面積、内弾性板領域、管腔の内面積、ステントの内面積を測定した。
【0119】
「面積狭窄率=(新生内膜領域/内弾性板領域)×100」から、面積狭窄率(%)を算出した。
【0120】
<フィブリン沈着度の算出方法、Fibrin Content Score>
【0121】
フィブリン沈着度の評価は、鈴木らの方法(Suzuki Y.,et al. Stent−based delivery of sirolimus reduces neointimal formation in a porcine coronary model,Circulation 2001;1188−93)に従って、血管の全周において行った。
【0122】
Fibrin Content Scoreのスコアの内容は以下のとおりである。
【0123】
スコア1:血管内に局在化したフィブリンが観察されたか、または、ステントの支柱付近の観察可能な血管の全周の25%未満の領域にフィブリンが中程度に堆積している。
【0124】
スコア2:観察可能な血管の全周の25%超の領域にフィブリンが中程度に堆積していたか、または、支柱の間および支柱近傍の観察可能な血管の全周の25%未満の領域にフィブリンが著しく堆積している。
【0125】
スコア点3:観察可能な血管の全周の25%超の領域にフィブリンが多量に堆積している。
【0126】
また、スコアはいずれも、各血管についてステント留置部位の3つの位置、すなわち基端位置、中間位置、および先端位置の平均値として算出された。
<内皮化スコア算出方法、Endothelialization Score>
【0127】
Endothelialization Scoreの内容は以下のとおりである。
【0128】
スコア1:観察可能な血管管腔の全周の25%以下が内皮細胞に覆われている。
【0129】
スコア2:観察可能な血管管腔の全周の25%〜75%が内皮細胞に覆われている。
【0130】
スコア3:観察可能な血管管腔の全周の75%以上が内皮細胞に覆われている。
【0131】
また、スコアはいずれも、各血管についてステント留置部位の3つの位置、すなわち基端位置、中間位置、および先端位置の平均値として算出された。
2.ブタ冠動脈における血管内狭窄抑制効果についての結果
【0132】
血管内狭窄率は、前記の手順に従って算出した。表2に得られた結果を示す。表2中、実施例/比較例の欄の1および6は実施例であり、C1およびC2は比較例である。
【0133】
また、
図8は、ブタ冠動脈における血管内狭窄抑制効果についての実施例1および実施例6ならびに比較例C1および比較例C2の血管狭窄率を示すグラフである。
図8中、横軸は実施例または比較例を表し、数字1および6は実施例1および実施例6を、アルファベット付き数字、すなわちC1およびC2は比較例1(C1)および比較例2(C2)をそれぞれ意味する。また、縦軸は血管の面積狭窄率(単位:%)を表す。
【0134】
比較例2(C2)においては、薬剤無処置対照としての薬剤無塗布バルーンで治療した血管の面積狭窄率は38.9%であった。実施例6の薬剤溶出バルーンで治療した血管の面積狭窄率は20.6%であり、薬剤無処置対照と比較してかなりの狭窄抑制効果が確認された。一方、比較例1の市販の薬剤溶出バルーン(IN.PACT(登録商標))で治療した血管の面積狭窄率は30.4%であり、薬剤無塗布バルーンと比較して面積狭窄率が減少する傾向のあることが分かった。しかし、この効果を改善する十分な余地があると推定された。
【0135】
これに対して、実施例1による薬剤溶出バルーンで治療した血管の面積狭窄率は16.8%であり、薬剤無処置対照および比較例1(C1)のIN.PACT(登録商標)と比較してかなりの狭窄抑制効果が観察された。また、これは実施例6におけるよりも強い効果を示しており、最も優れた狭窄抑制効果が得られた。
【0136】
以上のことから、実施例1および実施例6によるパクリタキセル結晶形態型を有する薬剤コート層の薬剤溶出バルーンは、市販の薬剤溶出バルーンと比較してかなり強い狭窄抑制効果を示すことが明らかとなった。
【表2】
3.ブタ冠動脈におけるステント留置後の血管リモデリングについての結果(毒性)
【0137】
ブタ冠動脈におけるステント留置後の血管リモデリングに対する影響(毒性)として、Fibrin Content ScoreおよびEndothelialization Scoreを観察した。結果を表3に示す。また、Fibrin Content Scoreの数字が大きいほど、フィブリン沈着度は大きく、それは好ましくないことである。一方、Endothelialization Scoreの数字が小さいほど、血管が内皮細胞に覆われることが少なく、それは好ましくないことである。表3中、実施例/比較例の欄の1および6は実施例であり、C1およびC6は比較例である。
【0138】
比較例2(C2)において薬剤無処置対照としての薬剤無塗布バルーンで治療した血管のFibrin Content ScoreおよびEndothelialization Scoreは、薬剤による影響(毒性)が無いので、血管再造形には影響せず、それらスコアはそれぞれ1.00±0.00および3.00±0.00であった。
【0139】
比較例1(C1)におけるFibrin Content ScoreおよびEndothelialization Scoreはそれぞれ1.27±0.15および2.80±0.11であり、それらスコアは薬剤無塗布バルーンの場合とほぼ同じであった。薬剤による狭窄抑制効果が小さいため血管再造形に対する影響(毒性)も小さいものと推定される。
【0140】
一方、実施例6による薬剤溶出バルーンで治療した血管のFibrin Content ScoreおよびEndothelialization Scoreは、それぞれ2.61±0.16および1.78±0.17であり、血管リモデリングに対する影響は比較例1(C1)および比較例2(C2)の場合と比較して大きいことが示唆された。これは、狭窄抑制効果が比較例1(C1)および比較例2(C2)の場合よりも強いためであると考えられる。
【0141】
これに対して、実施例1による薬剤溶出バルーンで治療した血管のFibrin Content ScoreおよびEndothelialization Scoreは、それぞれ1.53±0.17および2.87±0.09であり、血管リモデリングに対する影響(毒性)は比較例1(C1)における市販品の場合と同じであり、高い狭窄抑制効果が得られるにもかかわらず毒性が非常に低いことが明らかとなった。
【0142】
以上のことから、実施例6によるパクリタキセル結晶形態型を有する薬剤コート層の薬剤溶出バルーンは、かなり強い狭窄抑制効果を有する。また、実施例1によるパクリタキセル結晶形態型を有する薬剤コート層の薬剤溶出バルーンは、かなり強い狭窄抑制効果を有しながら、血管リモデリングに対してほとんど影響(毒性)を示さず、したがって、有効性と副作用(毒性)との面で優れた薬剤溶出バルーンであることが明らかとなった。
【表3】
[E.薬剤溶出バルーンから生じる粒度]
【0143】
実施例7および比較例3(C3)の薬剤溶出バルーンについて、模擬末梢血管モデルの中を薬剤溶出バルーンを通過させて微粒子を発生させて懸濁液として回収した。
<実施例7>
<薬剤溶出バルーンの準備>
【0144】
拡張時のサイズが直径7.0mm×長さ200mm(拡張部)のバルーンカテーテル(テルモ社製、バルーン(拡張部)の素材はナイロンエラストマー)を準備した。
【0145】
コーティング溶液2を調製した。コーティング溶液2を拡張したバルーンに、コーティング溶液の溶媒がゆっくりと揮発してパクリタキセル量が約3μg/mm
2となるように、コートした。
【0146】
すなわち、実施例2のようにしてコーティングを行った。
<比較例3>
【0147】
拡張時のサイズが直径7.0mm×120mm(拡張部)の市販のバルーンカテーテルIN.PACT(登録商標)(INVAtec/Medtronic社製、上記比較例1で述べたものと同じ)を準備した。比較例3のバルーンは、表面にパクリタキセルをコートした薬剤溶出バルーンである。
1.方法
【0148】
以下の手順にしたがって微粒子を発生させた。ガイディングシースに生理食塩水を満たし、約45度の角度となるように配置した。次いで、ガイドワイヤをガイディングシースの内腔に通した。この試験の間、ガイディングシース内の生理食塩水を37度に保持した。薬剤溶出バルーンを、バルーンがモデル(ガイディングシース)を出てガイディングシースを入れたシリコーンゴム管でできた模倣血管に入るまで、1分間、ガイドワイヤの上をたどらせた。バルーンを11気圧まで拡張し、1分間保持し、収縮させ、モデル内を後退させた。ガイディングシース内を生理的食塩水で置換した。模倣血管内を生理食塩水で置換した。置換用溶液は全てガラス製バイアルに貯留した。微粒子の数およびサイズの測定は、液体粒子カウンターHIAC8000A(Hach社)および顕微鏡VH−5500(KEYENCE社)によって行った。
2.結果
【0149】
シリコーンゴム模倣血管内でバルーン拡張を行うようにして模擬末梢血管モデルの中を薬剤溶出バルーンを通過させて発生させた微粒子(バルーンカテーテルあたりの平均総数)を測定した。結果を
図9Aおよび
図9Bに示す。
図9Aおよび
図9B中、7は実施例であり、C3は比較例3である。
【0150】
実施例7の薬剤溶出バルーンは、直径10μm〜25μmの微粒子(微細な微粒子)を、バルーンカテーテルあたり、比較例C3の薬剤溶出バルーン(IN.PACT(登録商標))のおよそ10倍の数だけ発生させることが示された。さらに、また、実施例7の薬剤溶出バルーンは、100μm〜900μmの大きな微粒子を、比較例C3のIN.PACT(登録商標)よりも少なく発生させた。この実施態様において、
図9Aおよび
図9Bに示すように、実施例7の薬剤溶出バルーンから発生した微粒子総体の90%超は直径が10μm〜25μmであり、残り(10%以下)の微粒子は直径が100μm〜900μmであった。
[F.下流の血管および骨格筋の組織学的評価]
【0151】
実施例7および比較例4(C4)の薬剤溶出バルーンについて、(下肢の末梢動脈における)下流の血管および骨格筋の組織学的評価を、以下の手順にしたがって行った。
【0152】
<比較例4(C4)>
表4中の比較例4(C4)は、文献(Catheterization and Cardiovascular Interventions 83, 2014,132−140)を参照すべきものであって、パクリタキセルならびにポリソルベートおよびソルビトールからなる担体を含む、Bard社製の市販の薬剤溶出バルーン(Lutonix(登録商標))のデータである。
1.方法
【0153】
実施例7のようにして模擬末梢血管モデルを用いて微粒子懸濁を発生させた。5匹のブタを下流の血管および骨格筋の組織学的評価に指定した。薬剤溶出バルーン治療手技を終えた後、ブタを回収し、所定の29±1日生存時点に達するようにした。1匹のブタについて、1×臨床的ドーズ(3μg/mm
2パクリタキセル)ないしは3×ドーズ(9μg/mm
2パクリタキセルに相当)微粒子懸濁液または対照懸濁液を左右の腸骨大腿動脈に動脈内注射で投与した。各注射おいて、ガイディングカテーテルを大腿浅動脈および大腿深動脈の分岐の遠位端に位置付け、パクリタキセル粒子懸濁液または対照懸濁液を約5秒間かけて注射した。注射の後すぐに、カテーテル内に約20mLの生理食塩水を流して、懸濁液全体の目標部位への到達を確実にした。血管の開存を査定するために血管造影を行った。半腱様筋、半膜様筋、大腿二頭筋、大腿腓腹筋、ヒラメ筋、深指屈筋、および浅指屈筋を1cm〜2cm間隔の平行切傷で切開することによって、29±1日後に、下肢筋肉中の塞栓子の存在を評価した。ミクロトームを用いて3〜4ミクロンで組織学的切片を作成し、ヘマトキシリン−エオジン(H&E:Hematoxylin and Eosin)で染色した。組織学的切片を抗フォンヴィルブランド因子抗体(Abcam)で免疫染色して、内皮細胞を検出した。組織学的切片を検査して、塞栓性微粒子および関連する虚血性壊死/炎症領域を確認および定量した。所見を伴う小動脈の数を、組織学的切片の小動脈の総数の百分率で表した。
【0154】
下流骨格筋の組織学的分析を行って、下流塞栓による虚血の証拠があるかどうか調べた。
2.結果
【0155】
塞栓や壊死などの何らかの下流の病理学的所見を伴う小動脈の百分率を評価した。表4に得られた結果を示す。表4中、実施例/比較例の欄の「7」は実施例を示し、「C4」は比較例を示す。
【0156】
実施例7においては、3×ドーズで治療した動脈のうち何らかの下流の病理学的所見を伴う小動脈の百分率は、最大28日で0.012%であった。骨格筋における変化は概して非常に低いことが示された。また、実施例7で観察された下流の塞栓および/または壊死の百分率は、比較例4(C4)によるLutonix(登録商標)(Catheterization and Cardiovascular Interventions,83,2014,132−140)よりも小さかった。実施例7は良好な下流安全性を示した。本明細書中に記述する薬剤溶出バルーンは末梢動脈における壊死のレベルが低くなるという効果をもつことが示された。
【表4】
[G.下流筋肉中の薬剤濃度]
【0157】
実施例8および比較例5(C5)の薬剤溶出バルーンについて、下流筋肉中に分散されるパクリタキセルの濃度を、以下の手順にしたがって評価した。
<実施例8>
<薬剤溶出バルーンの準備>
【0158】
拡張時のサイズが直径6.0mm×長さ40mm(拡張部)のバルーンカテーテル(テルモ社製、バルーン(拡張部)の素材はナイロンエラストマー)を準備した。
【0159】
コーティング溶液2を調製した。コーティング溶液2を拡張したバルーンに、コーティング溶液の溶媒がゆっくりと揮発してパクリタキセル量が約3μg/mm
2となるように、コートした。
【0160】
すなわち、実施例2のようにコーティングを行った。
<比較例5(C5)>
【0161】
表5中、「C5」はIN.PACT(登録商標)のデータによるが、実施例8の投与量に対して正規化したものである。IN.PACT(登録商標)のデータは、科学博士R.J.MelderによってLINC2013(IN.PACT DEB technology and Pre−clinical Science)に発表された。
1.方法
【0162】
下流筋肉(下肢の末梢動脈における)に分散されるパクリタキセルの量を評価するため、3匹のブタを指定した。治療手技において、血管造影を利用して腸骨大腿動脈および大腿浅動脈内の目標治療部位を確認した。ブタごとに、一つの薬剤溶出バルーンによる治療を行った。薬剤溶出バルーン治療手技を終えた後、ブタを回収し、所定の1日(24±0.5時間)生存時点に達するようにした。(拡張したセグメント[被治療部位]の直下および下流の)筋肉を、薬剤溶出バルーンでの治療の1日(24±0.5時間)後に周囲の組織から注意深く剥離した。筋肉中のパクリタキセル濃度の測定は、液体クロマトグラフィー−タンデム質量分析法(LC−MS/MS:Liquid Chromatography−tandem Mass Spectrometry)分析によって行った。
2.結果
【0163】
薬剤暴露の結果に相関する、下流筋肉中へ分散されたパクリタキセルの量を評価した。表5に、下流筋肉中のパクリタキセル濃度を示す。表5中、実施例/比較例の欄の「8」は実施例を示し、「C5」は比較例を示す。
【0164】
実施例8で観察された下流筋肉中のパクリタキセル濃度は、比較例5(C5)のIN.PACT(登録商標)よりも低かった。
【0165】
以上のことから、本明細書中に記載する薬剤溶出バルーンは、他社製の薬剤溶出バルーンと比較して、下流筋肉中への(大きな)微小粒子の分散が少ないため、末梢塞栓形成の危険性を減少させることができることが明らかとなった。
【表5】
[H.ブタ腸骨大腿動脈における薬物動態]
【0166】
実施例9ならびに比較例6−a(C6−a)〜比較例8−a(C8−a)および比較例9(C9)の薬剤溶出バルーンについて、ブタ腸骨大腿動脈における薬物動態を、以下の手順によって評価した。
<実施例9>
<薬剤溶出バルーンの準備>
【0167】
拡張時のサイズが直径6.0mm×長さ40mm(拡張部)のバルーンカテーテル(テルモ社製、バルーン(拡張部)の素材はナイロンエラストマー)を準備した。
【0168】
コーティング溶液2を調製した。コーティング溶液2を拡張したバルーンに、コーティング溶液の溶媒がゆっくりと揮発してパクリタキセル量が約3μg/mm
2となるように、コートした。
【0169】
すなわち、実施例2のようにコーティングを行った。
<比較例6−a(C6−a)>
【0170】
図10および
図11中の比較例6−a(C6−a)はIN.PACT(登録商標)のデータによる。IN.PACT(登録商標)のデータは科学博士R.J.MelderによってLINC 2013にて発表されたものである(IN.PACT DEB technology and Pre−clinical Science)。
<比較例7−a(C7−a)>
【0171】
図10および
図11中の比較例7−a(C7−a)はLutonix(登録商標)のデータによる。Lutonix(登録商標)のデータは医学博士R.VirmaniによってLINC 2014にて発表されたものである(Pre−clinical safety data and technology review)。
<比較例8−a(C8−a)>
【0172】
図10および
図11中の比較例8−a(C8−a)はCotavance(登録商標)のデータによる。Cotavance(登録商標)のデータは文献(Cardiovascular Interventions,6,8,2013,883−890)を参照したものであり、医学博士R.Virmaniによって発表されたものである(Pros and Cons of Different Technologies in Peripheral Arteries: Insights from A Pathologist)。
<比較例9(C9)>
【0173】
図10および
図11中の比較例9(C9)はFreeway(登録商標)のデータによる。Freeway(登録商標)のデータはR.P.Strandmannによってeuro PCR 2013にて発表されたものである(Effect of drug−coated balloon on porcine peripheral arteries: physiologic vascular function, safety and efficacy experiments)。
1.方法
【0174】
24匹のブタを薬物動態の検討に指定した。治療手技において、血管造影を利用して腸骨大腿動脈および大腿浅動脈内の目標治療部位を確認した。
【0175】
この検討においては、各ブタの2つの動脈(左右の腸骨大腿動脈)を使用した。血管造影は治療の前、最中および後に行って、治療および血流を評価した。薬剤溶出バルーン治療手技を終えた後、ブタを回収し、所定の1時間ならびに1日、7日および28日生存時点に達するようにした。頸動脈切開を行い、血管への接近のためシースを配置した。薬剤溶出バルーンを用いた治療の1時間後ならびに1日後、7日後および28日後に、目標組織を周囲の組織から注意深く剥離した。組織中のパクリタキセル濃度の測定は、LC−MS/MS分析によって行った。
2.結果
【0176】
ブタ大腿動脈における薬物動態を評価した。
図10は、ブタ大腿動脈組織における移行について実施例9および比較例C6〜比較例C9の0.02日後〜0.04日後(0.5時間〜1時間)〜7日後の薬剤の曲線下面積(AUC:Area Under the Curve)を示すグラフである。
図10中、横軸は実施例または比較例を表し、数字「9」は実施例9を意味し、アルファベット付き数字、すなわち「C6−a」〜「C9」は比較例6−a(C6−a)、比較例7−a(C7−a)、比較例8−a(C8−a)および比較例9(C9)を意味する。また、縦軸は目標動脈組織中の0.04日後〜7日後の薬剤のAUC(ng day/mg)を表す。
【0177】
実施例9で観察されたバルーン拡張の0.04日後(1時間後)から7日後までの目標動脈組織中の薬剤のAUCは254ng day/mgであったが、それは比較例6−a(C6−a)、比較例7−a(C7−a)、比較例8−a(C8−a)および比較例9(C9)よりも高い。また、
図11はブタ大腿動脈組織における移行についての実施例9および比較例C6〜C9の27±1日後までの薬物動態プロファイルを示すグラフである。
図11中、9は実施例であり、C6〜C9は比較例である。横軸は薬剤溶出バルーンの拡張後の日数を表す。また、縦軸は目標動脈組織中の薬剤濃度を表す。
【0178】
実施例9で得られた0.04日後から7日後までの薬剤のAUCは文献を参照すべき他社製の薬剤溶出バルーンと比較して最も高く、また、0.04日後(1時間後)から1日後までの薬剤の減少率は多くとも50%であった。7日後以降、組織中薬剤濃度は28日後までに2ng/mg組織まで減少した。
【0179】
実施例9において観察された薬物動態プロファイルは、バルーン拡張の7日後まで高い組織中薬剤濃度を示したが、それ以後、速やかに消え去り、28日後まで低い濃度を維持した。7日後までの高い組織中薬剤濃度は平滑筋細胞増殖に影響し、それ以後は、速やかに組織から消え去るため内皮細胞の増殖を抑制することはない。したがって、本明細書中に記載する薬剤溶出バルーンは効能と安全性の両方において優れた成果をもたらす。
[I.ブタ冠動脈における血管内狭窄抑制効果]
【0180】
実施例10ならびに比較例6−b(C6−b)〜比較例8−b(C8−b)および比較例10(C10)〜比較例11(C11)の薬剤溶出バルーンについて、ブタ冠動脈における血管内狭窄抑制効果を以下の手順にしたがって評価した。
<実施例10>
<薬剤溶出バルーンの準備>
【0181】
拡張時のサイズが直径3.0mm×長さ20mm(拡張部)のバルーンカテーテル(テルモ社製、バルーン(拡張部)の素材はナイロンエラストマー)を準備した。
コーティング溶液2を調製した。コーティング溶液2を拡張したバルーンに、コーティング溶液の溶媒がゆっくりと揮発してパクリタキセル量が約3μg/mm
2となるように、コートした。
【0182】
すなわち、実施例2のようにコーティングを行った。
<比較例6−b(C6−b)>
【0183】
図12の比較例6−b(C6−b)の薬剤溶出バルーンとして、IN.PACT(登録商標)(INVAtec/Medtronic社製)を準備した。拡張時のサイズが直径3.0mm×長さ20mm(拡張部)のバルーンカテーテルを準備した。
<比較例7−b(C7−b)>
【0184】
図12中の比較例7−b(C7−b)はLutonix(登録商標)のデータによる。Lutonix(登録商標)のデータは医学博士R.Virmaniによって発表されたものである(Pro and Cons of Different Technologies in Peripheral Arteries: Insights from A Pathologist)。
<比較例8−b(C8−b)>
【0185】
図12中の比較例8−b(C8−b)はSeQuent Please(登録商標)のデータによる。SeQuent Please(登録商標)のデータは文献を参照したものである(Thrombosis and Haemostasis,105,5,2011,864−872)。
<比較例10(C10)>
【0186】
図12中の比較例10(C10)はPantera Lux(登録商標)のデータによる。Pantera Lux(登録商標)のデータは文献を参照したものである(Thrombosis and Haemostasis,105,5,2011,864−872)。
<比較例11(C11)>
【0187】
図12中の比較例11(C11)は表面に薬剤をコートしていない薬剤無塗布バルーンである。拡張時のサイズが直径3.0mm×長さ20mm(拡張部)のバルーンカテーテル(テルモ社製、バルーン(拡張部)の素材はナイロンエラストマー)を準備した。
1.方法
【0188】
(1)ガイドワイヤを備えたガイディングカテーテルを8Frシースによって挿入し、X線透視法のもとで左右の冠動脈開口部に案内した。
【0189】
(2)各冠動脈の血管造影を行い(冠動脈:左冠動脈前下行枝(LAD)、右冠動脈(RCA)、および左冠動脈回旋枝(LCX))、血管造影で得られた冠動脈の直径をQCAソフトウェアで測定した。
【0190】
(3)血管の直径に対してステントの直径が1.2倍、薬剤溶出バルーンの直径が1.3倍である部位を選択し、ステント留置後の作業を行った。
【0191】
(4)直径3mm、長さ15mmの金属ステント(BMS)を選択した冠動脈内で30秒間拡張(ステントの直径を元の値の1.2倍にするためである)した後、ステント留置用バルーンカテーテルを除去した。ステント留置部位において、実施例10および比較例6−b(C6−b)で準備した薬剤コート層を有する薬剤溶出バルーン(バルーン直径3mm×長さ20mm)ならびに比較例11(C11)の薬剤無塗布バルーンを血管の直径に対して1.3倍となるように1分間拡張した後、バルーンカテーテルを除去した。
【0192】
(5)薬剤溶出バルーンを拡張した後、ガイディングカテーテルおよびシースを除去した。頸動脈の中央側を結紮した後、頸部の切開開口部の筋肉の間隙を縫合糸で縫合し、皮膚を外科用ステープラーによって縫合した。
【0193】
(6)バルーン拡張の28日後、剖検を行った。
<血管内狭窄率の算出方法>
【0194】
血管内狭窄率を以下の手順にしたがって算出した。
【0195】
ライカ顕微鏡および病理学撮像装置によって血管像を撮像した。これらの像を用いて、外弾性板領域の内面積、内弾性板領域、管腔の内面積、ステントの内面積を測定した。
≪面積狭窄率(%)算出方法≫
【0196】
「面積狭窄率=(新生内膜領域/内弾性板領域)×100」から、面積狭窄率(%)を算出した。
2.結果
【0197】
図12は、ブタ冠動脈における血管内狭窄抑制効果についての実施例10ならびに比較例C6−b〜比較例C8−b、比較例10および比較例11の28日後の面積狭窄百分率を示すグラフである。
図12中、横軸は、実施例または比較例を表し、数字「10」は実施例10を意味し、アルファベット付き数字、すなわち「C6−b」〜「C8−b」、「C10」および「C11」は比較例6−b(C6−b)、比較例7−b(C7−b)、比較例8−b(C8−b)、比較例10(C10)および比較例11(C11)を意味する。また、縦軸は28日後の面積狭窄百分率を表す。
【0198】
比較例11(C11)において、薬剤無処置対照としての薬剤無塗布バルーンで治療した血管の面積狭窄率は38.4%であった。実施例10の薬剤溶出バルーンで治療した血管の面積狭窄率は16.8%であり、薬剤無処置対照と比較してかなりの狭窄抑制効果が観察された。一方、比較例6−b(C6−b)における市販の薬剤溶出バルーン(IN.PACT(登録商標))で治療した血管の面積狭窄率は30%であった。すなわち、実施例10による薬剤溶出バルーンで治療した血管の面積狭窄率は、比較例6−b(C6−b)のIN.PACT(登録商標)および文献を参照した他のいかなる薬剤溶出バルーンよりも強い効果を示しており、最も優れた狭窄抑制効果が得られた。
[J.ブタ冠動脈における形態評価(局所毒性の評価)]
【0199】
実施例10の薬剤溶出バルーンおよび比較例11(C11)の薬剤無塗布バルーンについて、ブタ冠動脈における被治療切片の形態分析を、血管についての局所毒性の評価のように、以下の手順にしたがって行った。
1.方法
【0200】
(1)ガイドワイヤを備えたガイディングカテーテルを8Frシースによって挿入し、X線透視法のもとで左右の冠動脈開口部に案内した。
【0201】
(2)各冠動脈の血管造影を行い(冠動脈:左冠動脈前下行枝(LAD)、右冠動脈(RCA)、および左冠動脈回旋枝(LCX))、血管造影で得られた冠動脈の直径をQCAソフトウェアで測定した。
【0202】
(3)血管の直径に対して薬剤溶出バルーンの直径が1.3倍である部位を選択し、手技を行った。
【0203】
(4)実施例10で作成した薬剤コート層を有する薬剤溶出バルーン(バルーン直径3mm×長さ20mm)および比較例11(C11)の薬剤無塗布バルーンを血管の直径に対して1.3倍となるように1分間拡張した後、バルーンカテーテルを除去した。
【0204】
(5)薬剤溶出バルーンを拡張した後、ガイディングカテーテルおよびシースを除去した。頸動脈の中央側を結紮した後、頸部の切開開口部の筋肉の間隙を縫合糸で縫合し、皮膚を外科用ステープラーによって縫合した。
【0205】
(6)バルーン拡張の28日後、剖検を行った。
≪Injuly Score算出方法、Injuly Score≫
【0206】
血管の全周におけるInjuly Scoreの評価を、Schwartz RS.らの方法(Schwartz RS.,et al. Restenosis and the proportional neointimal response to coronary artery injury: results in a porcine model.J Am Coll Cardiol.1992,267−74)にしたがって行った。
【0207】
Injuly Scoreの内容は以下のとおりである。
【0208】
スコア0:内弾性板は無傷、内皮は典型的にはがれている、中膜は圧縮されているが裂けてはいない。
【0209】
スコア1:内弾性板が裂けている、中膜は典型的に圧縮されているが裂けてはいない。
【0210】
スコア2:内弾性板が裂けている、中膜が目に見えて裂けている、外弾性板は無傷だが圧縮されている。
【0211】
スコア3:外弾性板が裂けている、中膜の典型的に大きな裂傷が外弾性板を通って延びている、コイルワイヤが外膜中に存在することがある。
【0212】
また、スコアはいずれも、各血管についてステント留置部位の3つの位置、すなわち基端位置、中間位置、および先端位置の平均値を算出することによって得られた。
≪Inflammatory Score算出方法、Inflammatory Score≫
【0213】
血管の全周におけるInflammatory Scoreの評価を、Kornowski R.らの方法(Kornowski R., et al. In−stent restenosis: contributions of inflammatory responses and arterial injury to neointimal hyperplasia.J Am Coll Cardiol.1998,224−230)にしたがって行った。
【0214】
Inflammatory Scoreの内容は以下のとおりである。
【0215】
スコア0:支柱の周りに炎症細胞無し。
【0216】
スコア1:支柱の周りに軽く非円周状にリンパ組織球性浸潤あり。
【0217】
スコア2:支柱の周りに局在化した中程度から密な細胞凝集が非円周状に存在。
【0218】
スコア3:支柱の周囲を囲むような密なリンパ組織球性細胞浸潤。
【0219】
また、スコアはいずれも、各血管についてステント留置部位の3つの位置、すなわち基端位置(基端部)、中間位置(中間部)、および先端位置(先端部)の平均値を算出することによって得られた。
≪Fibrin Content Score算出方法、Fibrin Content Score評点≫
【0220】
血管の全周におけるFibrin Content Scoreの評価をRadke,P.W.らの方法(Radke,P.W. et al. Vascular effects of paclitaxel followig drug−eluting balloon angioplasty in a porcine coronary model: the importance of excipients. Euro Intervention,2011:7,730−737)にしたがって行った。
【0221】
Fibrin Content Scoreのスコアの内容は以下のとおりである。
【0222】
スコア0:血管内に局在化されたフィブリンは観察されなかった。
【0223】
スコア1:血管内に局在化されたフィブリンが観察されたか、または、ステントの支柱付近で観察可能な血管全周の25%未満の領域にフィブリンが中程度に堆積していた。
【0224】
スコア2:観察可能な血管全周の25%超の領域にフィブリンが中程度に堆積していたか、または、支柱の間および支柱近傍で観察可能な血管全周の25%未満の領域にフィブリンが多量に堆積していた。
【0225】
スコア3:観察可能な血管全周の25%超の領域にフィブリンが著しく堆積していた。
【0226】
また、スコアはいずれも、各血管についてステント留置部位の3つの位置、すなわち基端位置、中間位置、および先端位置の平均値を算出することによって得られた。
≪Endothelialization Score算出方法、Endothelialization Score≫
【0227】
Endothelialization Scoreの内容は以下のとおりである。
【0228】
スコア1:観察可能な血管内腔の全周の25%以下が内皮細胞で覆われている。
【0229】
スコア2:観察可能な血管内腔の全周の25%〜75%が内皮細胞で覆われている。
【0230】
スコア3:観察可能な血管内腔の全周の75%以上が内皮細胞で覆われている。
【0231】
また、スコアはいずれも、各血管についてステント留置部位に対する3つの位置、すなわち基端位置、中間位置、および先端位置の平均値として算出した。
2.結果
【0232】
ブタ冠動脈における被治療切片の局所的毒性、Injuly Score、Inflammatory Score、Fibrin Content ScoreおよびEndothelialization Scoreを観察した。結果を表6に示す。また、Injuly Scoreの数字が大きいほど、損傷が大きく、それは好ましくない。Inflammatory Scoreの数字が大きいほど、炎症が大きく、それは好ましくない。Fibrin Content Scoreの数字が大きいほど、フィブリン含有量が大きく、それは好ましくない。一方、Endothelialization Scoreの数字が小さいほど、血管が内皮細胞で覆われることが少なく、それは好ましくない。表6中、実施例/比較例の欄の10は実施例であり、C11は比較例である。
【0233】
比較例11(C11)における薬剤無処置対照としての薬剤無塗布バルーンで治療した血管のInjuly Score、Inflammatory Score、Fibrin Content ScoreおよびEndothelialization Scoreは、薬剤による影響(毒性)が無いため血管再造形に対して影響が無く、それらのスコアはそれぞれ0.00±0.00、0.00±0.00、1.00±0.00、3.00±0.00であった。
【0234】
実施例10による薬剤溶出バルーンで治療した血管のInjuly Score、Inflammatory Score、Fibrin Content ScoreおよびEndothelialization Scoreは、それぞれ0.22±0.43、0.29±0.48、0.23±0.24および2.89±0.28であり、被治療切片の局所的毒性は比較例11(C11)の薬剤無塗布バルーンの場合と同じであることが明らかとなった。すなわち、高い狭窄抑制効果が得られたにもかかわらず、局所的毒性は非常に低かった。これらの結果は、実施例10によるDEBが血管再造形に対して影響が無く、したがって遅発性血栓症の危険性を減少させることを示した。狭窄を強く抑制するが、抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)は4週間、薬剤無塗布バルーンの場合と同程度に限定されると思われる。
【表6】
[K.ブタ冠動脈における均一な狭窄抑制効果]
【0235】
実施例10、比較例6−b(C6−b)および比較例11(C11)の薬剤溶出バルーンについて、ブタ冠動脈における血管内狭窄抑制効果の均一性を以下の手順にしたがって評価した。
1.方法
【0236】
ブタ冠動脈における血管内狭窄抑制効果の評価を、実施例1の評価のようにして行った。全てのセグメントを3つの片、すなわち基端部、中間部および先端部に横切し、セグメントごとの面積狭窄率(%)を組織形態計測的分析によって算出した。
2.結果
【0237】
図13は、ブタ冠動脈における血管内狭窄抑制効果について、実施例10、比較例C6−bおよび比較例C11の28日後の面積狭窄率(%)の均一性を示すグラフである。
図13中、横軸は実施例または比較例を表し、数字「10」は実施例10を意味し、アルファベット付き数字、すなわち「C6−b」および「C11」は比較例6−b(C6−b)および比較例11(C11)を意味する。また、縦軸は28日後のセグメントごとの面積狭窄百分率(%)を表す。
【0238】
実施例10による薬剤溶出バルーンは、被治療病変部における血管内膜肥厚に対する均一な抑制効果をもたらした。一方、比較例6−b(C6−b)による市販の薬剤溶出バルーン(IN.PACT(登録商標))で治療した病変部におけるセグメントごとの効果は、均一ではなかった。
[L.バルーン表面上の薬剤コート層の均一性]
【0239】
実施例10〜実施例13ならびに比較例6−b(C6−b)および比較例12(C12)の薬剤溶出バルーンについて、バルーン表面上の薬剤コート層の均一性を以下の手順にしたがって算出した。
<実施例11>
<薬剤溶出バルーンの準備>
【0240】
拡張時のサイズが直径6.0mm×長さ100mm(拡張部)のバルーンカテーテル(テルモ社製、バルーン(拡張部)の素材はナイロンエラストマー)を準備した。
【0241】
コーティング溶液2を調製した。コーティング溶液2を拡張したバルーンに、コーティング溶液の溶媒がゆっくりと揮発してパクリタキセル量が約3μg/mm
2となるように、コートした。
【0242】
すなわち、実施例2のようにコーティングを行った。
<実施例12>
<薬剤溶出バルーンの準備>
【0243】
拡張時のサイズが直径6.0mm×長さ200mm(拡張部)のバルーンカテーテル(テルモ社製、バルーン(拡張部)の素材はナイロンエラストマー)を準備した。
【0244】
コーティング溶液2を調製した。コーティング溶液2を拡張したバルーンに、コーティング溶液の溶媒がゆっくりと揮発してパクリタキセル量が約3μg/mm
2となるように、コートした。
【0245】
すなわち、実施例2のようにコーティングを行った。
<実施例13>
<薬剤溶出バルーンの準備>
【0246】
拡張時のサイズが直径7.0mm×長さ200mm(拡張部)のバルーンカテーテル(テルモ社製、バルーン(拡張部)の素材はナイロンエラストマー)を準備した。
【0247】
コーティング溶液2を調製した。コーティング溶液2を拡張したバルーンに、コーティング溶液の溶媒がゆっくりと揮発してパクリタキセル量が約3μg/mm
2となるように、コートした。
【0248】
すなわち、実施例2のようにコーティングを行った。
<比較例12(C12)>
【0249】
IN.PACT(登録商標)(INVAtec/Medtronic社製)を準備した。拡張時のサイズが直径7.0mm×長さ120mm(拡張部)のバルーンを準備した。
1.方法
【0250】
長さ100mm〜200mmのサイズの、実施例11〜実施例13および比較例12(C12)の薬剤溶出バルーンについて、20mmのセグメントに切断して、バルーン表面上の薬剤コート層の均一性分析を行った。一方、長さ20mmのサイズの、実施例10および比較例6−b(C6−b)の薬剤溶出バルーンを6mmまたは7mmのセグメントに切断した。バルーン表面上のセグメントごとのパクリタキセル含有量を、高速液体クロマトグラフィーで測定した。
2.結果
【0251】
薬剤コート層の均一な評価として、バルーン表面上のセグメントごとのパクリタキセル含有量を分析した。結果を表7に示す。表7中、実施例/比較例の欄の「10」〜「13」は実施例であり、「C6−b」および「C12」は比較例である。
【0252】
実施例10の長さ20mmのサイズの薬剤溶出バルーンを6mmまたは7mmのセグメントに切断したところ、セグメントごとのパクリタキセル含有量の相対標準偏差(RSD%)が13.0%であることが示された。一方、比較例6−b(C6−b)の長さ20mmのサイズの薬剤溶出バルーンを同様に6mmまたは7mmのセグメントに切断したところ、パクリタキセル含有量の相対標準偏差(RSD%)が22.8%であることが示された。すなわち、本明細書中に記載する薬剤溶出バルーンは、比較例C6−bのものよりも均一な薬剤コート層を有する。
【0253】
また、実施例11〜実施例13の長さ100mm〜200mmのサイズの薬剤溶出バルーンを20mmのセグメントに切断したところ、セグメントごとのパクリタキセル含有量の相対標準偏差(RSD%)は1.0%〜3.4%であった。一方、比較例12(C12)の長さ120mmのサイズの薬剤溶出バルーンを同様に20mmのセグメントに切断したところ、パクリタキセル含有量の相対標準偏差(RSD%)は25.3%であった。すなわち、本明細書中に記載する薬剤溶出バルーンは、バルーンの長さにかかわらず均一な薬剤コート層を有することが示された。また、その薬剤コート層はIN.PACT(登録商標)と比較してかなり均一であることが示された。
【表7】
[M.薬剤溶出バルーンの薬剤コート層均一性の走査電子顕微鏡(SEM)による観察]
【0254】
実施例10および比較例6−b(C6−b)の薬剤溶出バルーンの薬剤コート層均一性について、薬剤コート層のパクリタキセル結晶を走査電子顕微鏡(SEM)により観察した。
1.方法
【0255】
薬剤溶出バルーンの薬剤コート層均一性の走査電子顕微鏡(SEM)による観察は、実施例1〜実施例6(
図1〜
図6)における薬剤溶出バルーンのSEM像のように行った。
2.結果
【0256】
薬剤コート層の均一性として、薬剤コート層のパクリタキセル結晶を観察した。
図14および
図15に示すSEM像が得られた。
図14は実施例10のSEM像であり、
図15は比較例6−b(C6−b)のSEM像である。
【0257】
実施例10のSEM像である
図14は、均一なパクリタキセル微小結晶を示した。また、パクリタキセル微小結晶がバルーン表面上に均一に配置され一様なサイズであることが示された。一方、比較例6−b(C6−b)のSEM像である
図15は、均一でない薬剤コート層を示した。また、比較例6−b(C6−b)のIN.PACT(登録商標)である
図15のSEM像は、薬剤コート層が結晶およびアモルファスで構成されていることを示した。
[N.バルーン表面上の薬剤コート層の耐久性の評価]
【0258】
実施例13および実施例14ならびに比較例12(C12)の薬剤溶出バルーンについて、バルーン表面上の薬剤コート層の耐久性を以下の手順にしたがって評価した。
<実施例14>
<薬剤溶出バルーンの準備>
【0259】
拡張時のサイズが直径6.0mm×長さ40mm(拡張部)のバルーンカテーテル(テルモ社製、バルーン(拡張部)の素材はナイロンエラストマー)を準備した。
【0260】
コーティング溶液2を調製した。コーティング溶液2を拡張したバルーンに、コーティング溶液の溶媒がゆっくりと揮発してパクリタキセル量が約3μg/mm
2となるように、コートした。
【0261】
すなわち、実施例2のようにコーティングを行った。
1.方法
【0262】
被治療病変部へ送達される過程での薬剤コート層の耐久性を測定するため、模擬末梢血管モデルを用いて試験を行った。ガイディングシースに生理食塩水を満たし、約45度の角度となるように配置した。次いで、ガイドワイヤをガイディングシースの中に通した。この試験の間、ガイディングシース内の生理食塩水を37度に保持した。薬剤溶出バルーンを、バルーンが出るまで、1分間、ガイドワイヤの上をたどらせた。その後、バルーン表面上の残存パクリタキセル含有量を、高速液体クロマトグラフィーで測定した。
2.結果
【0263】
薬剤コート層の耐久性評価として、模擬末梢血管モデルの中を通過後のバルーン表面上の残存パクリタキセル含有量を測定した。結果を表8に示す。表8中、実施例/比較例の欄の「13」および「14」は実施例であり、「C12」は比較例である。
【0264】
湿潤血管モデル内での模擬使用の後、実施例14の長さ40mmのサイズの薬剤溶出バルーンのバルーン表面上の残存パクリタキセル含有量は、84%(拡張前)であった。さらに、実施例13の長さ200mmのサイズの薬剤溶出バルーンのバルーン表面上の残存パクリタキセル含有量は、84%であった。一方、比較例12(C12)の長さ120mmのサイズのIN.PACT(登録商標)の残存パクリタキセル含有量は、63%であった。本明細書中に記載する薬剤溶出バルーンは、被治療病変部全体へ均一な微小結晶を付与しながらパクリタキセルを送達することができることが示された。また、長さの長い薬剤溶出バルーンは、目標病変部への送達の間、均一な微結晶薬剤を保持することもできる。言い換えれば、薬剤溶出バルーンの先端部、中間部、および基端部は、被治療病変部への送達の後、バルーン上の複数の規則的に配置された結晶の均一構造を、周囲を囲むように保持することができた。特に、拡張可能部材(バルーン)の先端(先端部)はカテーテルなどの医療機器の内腔を含む他の表面に対して摺動することが多く、バルーン上の均一な結晶粒子の構造は脱落しやすい。したがって、本明細書中に記載する拡張可能部材の先端は、血管内膜肥厚抑制効果を示す薬剤コート層を有する。
【0265】
以上のことから、本明細書中に記載する薬剤溶出バルーンは、被治療病変部への送達の過程でバルーン表面から脱落(離脱または落下)することなしに、均一なパクリタキセル微小結晶を送達することができることが明らかとなった。すなわち、本明細書中に記載する薬剤溶出バルーンは、拡張時まで薬剤コート層の均一性を保ちつつ、被治療病変部において拡張することができる。
【表8】
[O.ブタ腸骨大腿動脈における薬物動態2]
【0266】
実施例9、比較例6−a(C6−a)、比較例7−a(C7−a)および比較例13(C13)の薬剤溶出バルーンについて、ブタ腸骨大腿動脈における薬物動態を、以下の手順にしたがって評価した。
<比較例13(C13)>
【0267】
図16および
図17における比較例13(C13)は、パクリタキセル塗布バルーンカテーテルRanger(登録商標)(Boston Scientific社製)である。Ranger(登録商標)の結果はBoston Scientific社によってウェブサイトに開示されたものである。
1.方法
【0268】
薬物動態を、「H」の方法のようにして行った。
【0269】
薬剤溶出バルーンでの治療の後、目標組織を周囲の組織から注意深く剥離した。組織中のパクリタキセル濃度測定は、LC−MS/MS分析によって行った。
2.結果
【0270】
ブタ大腿動脈における薬物動態を評価した。
図16は、ブタ大腿動脈組織における移行について、実施例9、比較例6−a(C6−a)、比較例7−a(C7−a)および比較例13(C−13)の薬物動態プロファイルを示すグラフである。横軸は薬剤溶出バルーンの拡張後の日数を表す。また、縦軸は目標動脈組織における薬剤濃度を表す。
図17中、横軸は実施例または比較例を表し、数字「9」は実施例9を意味し、アルファベット付き数字、すなわち「C6−a」、「C7−a」、および「C13」は比較例6−a(C6−a)、比較例7−a(C7−a)および比較例13(C13)をそれぞれ意味する。また、縦軸は目標動脈組織における0.02日後〜7日後の薬剤のAUC(ng day/mg)を表す。
【0271】
図16に示すように、実施例9で観察された目標動脈組織における薬剤濃度は、0.04日後、1日後、7日後、21日後、および28日後でそれぞれ69.8ng/mgtissue、53.4ng/mgtissue、11.7ng/mgtissue、4.0ng/mgtissue、および2.3ng/mgtissueであった。一方、比較例6−a(C6−a)で観察された目標動脈組織における薬剤濃度は、0.02日後、1日後、2日後、7日後、および26日後でそれぞれ35ng/mgtissue、7.7ng/mgtissue、5.3ng/mgtissue、11.1ng/mgtissue、および1.5ng/mgtissueであった。比較例7−a(C7−a)で観察された目標動脈組織における薬剤濃度は、0.02日後、1日後、7日後、および28日後でそれぞれ58.9ng/mgtissue、4.4ng/mgtissue、2.2ng/mgtissue、および1.6ng/mgtissueであった。比較例13(C13)で観察された目標動脈組織における薬剤濃度は、0.02日後、1日後、7日後、および21日後でそれぞれ48.8ng/mgtissue、19.8ng/mgtissue、5.3ng/mgtissue、1.9ng/mgtissue、および0.4ng/mgtissueであった。すなわち、実施例9についての0.04日後(1時間後)から1日後までの薬剤減少率は多くとも50%であった。一方、比較例6−a(C6−a)、比較例7−a(C7−a)および比較例13(C13)についての0.02日後〜0.04日後(0.5〜1時間後)から1日後までの薬剤減少率は50%超であった。
【0272】
図17はブタ大腿動脈組織における移行について、実施例9、比較例6−a(C6−a)、比較例7−a(C7−a)および比較例13(C13)の0.02〜0.04日後(0.5〜1時間後)から7日後までの薬剤のAUCを示すグラフである。また、縦軸は目標動脈組織における0.02〜0.04日後から7日後までの薬剤のAUC(ng day/mg)を表す。
【0273】
実施例9で観察されたバルーン拡張の0.04日後(1時間後)から7日後までの目標動脈組織における薬剤のAUCは254ng day/mgであった。一方、比較例6−a(C6−a)、比較例7−a(C7−a)および比較例13(C13)で観察されたバルーン拡張の0.02〜0.04日後(0.5〜1時間後)から7日後までの目標動脈組織における薬剤のAUCは、それぞれ69ng day/mg、51ng day/mg、および109ng day/mgであった。すなわち、実施例9で得られたAUCは200ng day/mgよりも高かった。一方、比較例6−a(C6−a)、比較例7−a(C7−a)および比較例13(C13)で得られたAUCは200ng day/mgよりも低かった。実施例9で得られたAUCは最も高い。
【0274】
本明細書中に記載したように、バルーン拡張の7日後までの高い組織中薬剤濃度は、平滑筋細胞の増殖に影響がある。その後は、組織から素早く消え去るため、内皮細胞の増殖を抑制することはない。
【0275】
以上の詳細な説明は、一例として開示される薬剤コート層を説明するものである。しかしながら、本発明は説明した正確な実施態様や変更に限定されるものではない。当業者は、添付の請求の範囲で規定する本発明の精神および範囲から逸脱することなく、様々な変更、修正および同等物を用いることができる。請求の範囲内のそのような変更、修正および同等物は全て請求の範囲に包含されることは、はっきりと意図される。