(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(i)肝不全を有する遺伝子組換えラットに候補薬を投与するステップであって、前記肝不全がフマリルアセトアセテート加水分解酵素の機能、活性、又は発現の低下を含み、前記ラットが、ゲノムが、フマリルアセトアセテート加水分解酵素をコードする遺伝子においてホモ接合破壊を含む遺伝子組換えラットであり、前記ラットが増殖したヒト肝細胞を含むステップと、
(ii)候補薬の肝臓疾患に対する効果を評価するステップであって、1つ又は2つ以上の肝臓疾患の兆候又は症候における改善が、前記候補薬が前記肝臓疾患の治療に有効であることを示すステップと、
を含む、ヒトの肝臓疾患の治療に有効な薬剤を選択する方法。
前記ヒトの肝臓疾患が、肝細胞癌(HCC)であり、前記ラットが、ラットにおいてHCCの発生を誘発する化合物を投与されていた、又は悪性ヒト肝細胞を移植されていたかであり、前記方法が、
ラットにおけるHCCに対する候補薬の効果を評価するステップであって、ラットにおける腫瘍の成長又は腫瘍の大きさが、候補薬の投与前のマウスに対して減少することが、当該候補薬がHCCの治療に対して有効であることを示すステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
(i)肝不全を含む遺伝子組換えラットに生体異物を投与するステップであって、前記肝不全が、フマリルアセトアセテート加水分解酵素の機能、活性、又は発現の低下を含み、前記ラットが、ゲノムが、フマリルアセトアセテート加水分解酵素をコードする遺伝子においてホモ接合破壊を含む遺伝子組換えラットであり、前記ラットが、増殖したヒト肝細胞を含むステップと、
(ii)ラットにおける、少なくとも1つの肝機能のマーカーを測定するステップであって、前記少なくとも1つの肝機能の診断マーカーが、AST、ALT、ビリルビン、アルカリホスファターゼ及びアルブミンから選択され、前記外来の試剤の投与前のラットに対して、ラットにおいてAST、ALT、ビリルビン若しくはアルカリホスファターゼが増加する、又はアルブミンが減少することが、当該外来の試剤が、毒性を有することを示すステップと、
をさらに含む、生体内での、ヒト肝細胞に対する生体異物の影響の評価方法。
【発明を実施するための形態】
【0018】
I. 用語及び方法
特に明記しない限り、専門用語は、従来の使用法によって用いられる。分子生物学中の通常の用語の定義は、オックスフォード大学出版部から出版のBenjamin Lewin著、「遺伝子V」1994 (ISBN 0−19−854287−9)、Kendrewら編纂、Blackwell Science Ltd.より出版のThe Encyclopedia of Molecular Biology、1994 (ISBN 0−632−02182−9)、及びVCH Publishers, Incより出版のRobert A. Meyers編纂のMolecular Biology
and Biotechnology, a Comprehensive Desk
Reference, 1995 (ISBN 1−56081−569−8)に見出すことができる。開示の各種実施形態のレビューを容易にするため、特定の用語の説明を、以下に提供する。
【0019】
AAV−DJベクター:AAV2、AAV5及びAAV8カプシドタンパク質及びAAV2レプタンパクを含むハイブリッドカプシッドを発現するアデノ随伴ウイルス(AAV)実装ヘルパーである(Grimm et al., J Virol 82:5887, 2008;米国特許第7,588,772号;米国特許出願公開第2010/0047174号)。
【0020】
投与:治療薬等の試剤を、あらゆる有効なルートによって、被験者に提供又は与えることをいう。非限定的かつ例示的な投与のルートは、注射(皮下、筋肉内、皮内、腹膜内の及び静脈等)、経口、導管内、舌下の、直腸、経皮、鼻腔内、膣及び吸入のルートを含む。
【0021】
肝臓疾患の発達を抑制、防止又は回避する試剤:Fah欠損ラットに投与した場合に、動物中の肝臓疾患の発達を防止、回避、遅延又は抑制する化合物又は組成物をいう。肝臓疾患又は肝臓機能不全は、肝臓組織中の変質作用(例えばネクローシス、炎症、線維症、形成異常又は肝癌)や、肝臓−特定の酵素及び別のタンパク(例えばアスパルテートアミノトランスフェラーゼ、Aアミノトランスフェラーゼ、ビリルビン)アルカリホスファタ
ーゼ及びアルブミン)、血漿又は尿のスクシニルアセトン(SA)、又は広範囲な肝不全等のレベルの変質作用を非限定的に含む、多数の徴候又は症状により特徴づけられる。特定の実施形態においては、肝臓疾患を抑制する試剤は、例えば2−(2−ニトロ−4−トリフルオロ−メチルベンゾイル)−1,3シクロヘキサンジオン(NTBC)(2−[2−ニトロ−4−(トリフルオロメチル)ベンゾイル]シクロヘキサン−1,3−ジオン)又はメチルNTBC等の4−OH−フェニルピルビン酸ジオキシゲナーゼの薬理学の阻害剤を用いている。1つの非限定的な実施例では、肝臓疾患を抑制する試剤は、NTBCである。
【0022】
アナキンラ:インターロイキン−1(IL−1)のレセプターアンタゴニストである。アナキンラは、多くの組織及び器官の中に発現されるIL−1とIL−1レセプターとの結合を競争的に抑制することにより、自然に生じるIL−1の生物学的活動度をブロックする。IL−1は、炎症性の刺激に反応して生成され、炎症反応及び免疫反応を含む各種生理学上の応答の媒介となる。アナキンラは、遺伝子組み替え大腸菌の培養から調製されるヒトIL−1RA(IL−1レセプターアンタゴニスト)の、組換え型非グリコシル化バージョンである。アナキンラタンパクは、153個のアミノ酸であり、約17.3 kDの分子量を有し、それがそのアミノ末端に単一のメチオニン残基を有するという点で、天然のヒトIL−1RAとは異なっている(アナキンラのアミノ酸配列は、ここでは配列番号29と記す)。また、アナキンラは、KINERETTMとしても知られている。
【0023】
アザチオプリン:細胞増殖、特に白血球の増殖を抑制するプリン合成阻害剤である免疫抑制剤である。この免疫抑制剤は、自己免疫性疾患や器官移植拒絶反応の治療にしばしば使用される。これは、体内で、活性なメタボライト6−メルカプトプリン(6−MP)及び6−チオイノシン酸に変換されるプロドラッグである。アザチオプリンは、多数の製造業者により以下のブランド名で生産されている(SalixからAzasan(商標)、Glaxo Smith KlineからImuran(商標)、Azamun(商標)及びImurel(商標))。
【0024】
生体サンプル:被験者の細胞、組織又は体液から得られるサンプル、例えば末しょう血液、血清、血漿、脳脊髄液、骨髄、尿、唾液、組織生検、外科の検査材料及び死体解剖材料などである。ここでは、単に「サンプル」とも言う。
【0025】
肝硬変:正常な微細な小葉の構成を損失させ、壊死した実質の組織を、結合組織の繊維状バンドで再生式に置換し、ついには器官を収縮させて不規則な小結節に分割するという特徴を有する一群の慢性の肝臓疾患をいう。肝硬変は、長期間の潜伏期があり、通常はその後、突然の腹部の痛覚及び吐血、それに伴う水腫又は黄疸による腫脹が生じる。進行した段階では、腹水、顕著な黄疸、門脈圧高進、静脈瘤が生じることもあり、中心神経系が障害を起こして、肝性昏睡となる場合もある。
【0026】
収集:ここで用いられる例では、増殖した異種の肝細胞を「収集する」こととは、単離された異種の肝細胞を注入又は移植したラット(レシピエントラットとも言う)から、増殖された肝細胞を除去するプロセスをいう。この収集には、肝細胞を別の細胞型から分離することを、随意含む。一具体例では、増殖された異種の肝細胞は、ラットの肝臓から収集される。
【0027】
インターロイキンレセプター(Il2rg)の共通γ鎖:インターロイキンレセプターの共通のガンマ鎖をコード化する遺伝子のことを言う。Il2rgは、IL−2、IL−4、IL−7及びIL−15を含む多数のインターロイキンレセプターの成分である(Di Santoら、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 92:377−381, 1995)。Il2rg欠損動物は、B細胞及びT細胞が低減し
、ナチュラルキラー細胞が欠損している。また、既知のインターロイキン2レセプターガンマ鎖としても知られている。
【0028】
低温保存:ここでの用例では、「低温保存した」とは、零下よりも低い温度、例えば77Kないし−196℃(液体窒素の沸点)に冷却することにより保存又は維持される細胞(肝細胞等)又は組織のことを言う。この低い温度では、細胞を死に導く生化学反応を含むあらゆる生物学的活性度が、効果的に停止される。
【0029】
シクロスポリンA:土壌真菌ボーベリアニベア(Beauveria nivea)により生成される11のアミノ酸の非リボソーム環状ペプチドである免疫抑制剤化合物をいう。シクロスポリンAは、器官・組織移植における移植片拒絶の予防に用いられる。また、シクロスポリンAは、サイクロスポリンないしシクロスポリンとして知られている。
【0030】
肝機能低下:肝臓の健康状態又は機能を測定する多数のパラメータのいずれかにおける異常な変化をいう。また、肝機能低下はここでは、「肝臓機能不全」ともいう。肝機能は、従来技術で周知の多数の手段のいずれかにより評価でき、非限定的な例としては、肝臓組織学的検査、肝酵素その他のタンパクの計測を挙げることができる。例えば、肝臓機能不全は、ネクローシス、炎症、線維症、酸化による損傷又は肝臓の形成異常によって示すことができる。場合により、肝臓機能不全は、肝細胞癌等の肝性癌により示される。肝臓機能不全の評価用の試験が可能な肝酵素及びタンパクの実施例には、非限定的に、Aアミノトランスフェラーゼ(ALT)、アスパルテートアミノトランスフェラーゼ(AST)、ビリルビン、アルカリホスファターゼ及びアルブミンが含まれる。また、肝臓機能不全は、一般的な肝不全に至ることもある。肝機能試験の手順は、従来技術において周知であり、例えば、Grompeら(Genes Dev. 7: 2298−2307, 1993)及びManningら(Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 96:11928−11933, 1999)により教示されている。
【0031】
欠損:ここで用いられる例では、「Fah欠損」又は「Fahの欠損」とは、FAH酵素産生又は活性が著しく小さいか不在の動物、例えばラット等をいい、例えば、Fah遺伝子(例えば組込み、欠失又は1つ以上のポイントミューテーション)に分裂部分を有する動物をいい、これにより、FahmRNAの発現及び/又は機能性FAH酵素の活性が著しく小さいか不在の状態になる。ここで用いられる例では、機能性FAHタンパクの用語「発現の損失」は、発現の完全な損失のみにとどまらず、機能性FAHタンパクの発現が著しく低減すること、例えば約80%、約90%、約95%又は約99%の減少等を指す。特定の実施形態では、Fah欠損ラットは、Fah遺伝子(インフレーム終止コドンを含む組込み等)中にヘテロ接合性又はホモ接合性の組込みを備え、この中でもホモ接合性組込みが特に好適である。特定の実施形態では、組込みは、Fahの情報配列3の中にある。特定の実施形態では、Fah欠損ラットは、Fah遺伝子中にヘテロ接合性又はホモ接合性欠失を備え、この中でもホモ接合性欠失が特に好適である。一例では、欠失は、Fahの情報配列3の中にある。別の実施形態では、Fah欠損ラットは、Fah遺伝子中に1つ以上のポイントミューテーションを備える。適切なFahポイントミューテーションの例は、従来技術において既知である(例えば、Aponteら、 Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 98(2): 641−645, 2001を参照)。
【0032】
枯渇:低減又は除去することをいう。例えば、「マクロファージ枯渇」は動物中のマクロファージを排除し、除去し、低減し、又は殺すプロセスをいう。マクロファージの枯渇した動物は、必ずしも完全にマクロファージがないというわけではなく、少なくともマクロファージの数又は活性が低減しているだけである。特定の実施形態では、マクロファージの枯渇により、機能性マクロファージが少なくとも10%、少なくとも25%、少なく
とも50%、少なくとも75%、少なくとも90%あるいは100%低減される。
【0033】
破壊:ここで用いられる例では、遺伝子の「破壊」は、組込み、欠失又は先端突然変異のいずれか、又はこれらの組合せのことをいう。特定の実施形態では、破壊は、mRNA及び/又は機能性タンパクの発現の一部又は全部の損失になる。
【0034】
生着:動物中に細胞又は組織を組み込むことをいう。ここで用いられる例では、レシピエントラットにおける異種肝細胞の生着とは、異種肝細胞が注入によりレシピエントラットに移植されるプロセスのことをいう。生着された異種の肝細胞は、レシピエントラット中で増殖できる。
【0035】
増殖:数が増加することをいう。ここで用いられる例では、異種の肝細胞を「増殖する」とは、細胞分割を可能にして、肝細胞が生体内に活発に増殖し、異種の肝細胞数が、レシピエントラットに移植した異種肝細胞の最初の数と比較して増加するようにするプロセスのことをいう。
【0036】
胚:後胚期間中にある、生まれていない動物の子孫をいう。
【0037】
FK506:FK506は、タクロリムス又はフジマイシンとしても知られており、免疫抑制剤薬剤である。FK506 23員のマクロライドラクトンが、バクテリアストレプトマイセスツクバエンシスを含む日本の土試料の培養液中で最初に発見された。この化合物は、同種異系臓器移植の後、患者の免疫系の活性を低減して器官拒絶反応のリスクを下げるために、しばしば使用される。FK506は、T細胞及びインターロイキン2活性を低減する。また、骨髄移植を行った後のひどいアトピー性皮膚炎(湿疹)、ひどい抗療性のブドウ膜炎及び皮膚状態白斑の治療における局所用製剤にも使用される。
【0038】
フルダラビン:DNA合成を抑制するプリン類似体である。フルダラビンは、各種血液学的悪性腫瘍の治療化学療法薬にしばしば使用される。
【0039】
FRGKOマウス:フマリルアセト酢酸加水分解酵素(Fah)のホモ接合性欠失、遺伝子組換活性化遺伝子2(Rag2)、及びインターロイキンレセプター(Il2rg)X結合遺伝子の共通γ鎖の半接合性又はホモ接合性欠失を有する突然変異株マウスをいう。また、Fah
−/−/Rag2
−/−/Il2rg
−/−又はFah
−/−/Rag2
−/−/Il2rg
−/yとも表記する。ここで用いられる例では、Fah、Rag2及びIl2rg遺伝子中のホモ接合性欠失とは、突然変異を有するマウスに機能性FAH、RAG−2及びIL−2Rγタンパク質の発現が無いことを示す。
【0040】
フマリルアセト酢酸加水分解酵素(FAH):チロシン異化作用の最終のステップにおいて触媒作用を及ぼす代謝性酵素をいう。Fah遺伝子のホモ接合性欠失を有するマウスは、肝臓mRNAの発現が変化し重篤な肝機能不全を示す(Grompeら、 Genes Dev. 7: 2298−2307, 1993)。また、Fah遺伝子の中に点突然変異が、肝機能不全及び出生後致死率を引き起こすことが示された(Aponteら、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 98(2): 641−645, 2001)。ヒトのFah欠損は、肝疾患遺伝性のチロシン血症型1(HT1)を発達させ、また、肝機能不全を発達させる。Fah欠損症により、有力な酸化薬であるフマリルアセト酢酸が蓄積し、これは、Fah肝実質細胞欠損の細胞死を最終的に生じさせる。したがって、Fah欠損ラットは、ヒトを含む別の生物種からの肝実質細胞で再び占められることができる。多数の異なる生物種のFahゲノム、mRNA及びタンパク質の配列は、例えばGenBankデータベース中に公然と利用可能となっている(例えば、遺伝子ID 29383(ラットFah);遺伝子ID 14085(マウスF
ah);遺伝子ID 610140(イヌFAH);遺伝子ID 415482(ニワトリFAH);遺伝子ID 100049804(ウマFAH);遺伝子ID 712716(アカゲザルマカクFAH);遺伝子ID 100408895(キヌゲザルFAH);遺伝子ID 100589446(テナガザルFAH);遺伝子ID 467738(チンパンジーFAH);及び遺伝子ID 508721(ウシFAH))。
【0041】
肝病原体:例えば細菌性、ウイルス、又は寄生病原体等、肝臓細胞を感染させるあらゆる病原体のことをいう。特定の実施形態では、肝病原体は、「肝臓指向性ウイルス」(肝臓を目標とするウイルス)(例えばHBV又はHCV)である。
【0042】
肝細胞癌(HCC):HCCとは、通常、ウイルス性肝炎、肝臓毒素又は肝硬変症により炎症性肝臓として患者に生じる肝臓の初代悪性腫瘍である。
【0043】
肝実質細胞:肝臓の細胞質の集団の70〜80%を産生する細胞をいう。肝実質細胞は、蛋白合成、タンパク質貯蔵及び炭水化物の変換、コレステロール、胆汁酸塩及びリン脂質の合成、並びに外部性及び内因性物質の解毒、修飾、及び排泄に関与する。また、肝実質細胞は、胆汁の形成及び分泌を開始させる。肝実質細胞は、血清アルブミン、フィブリノーゲン及び凝血因子のプロトロンビン群を産生し、リポ蛋白質、セルロプラスミン、トランスフェリン、補体及び糖蛋白質の合成の主部位でもある。その他、肝実質細胞は、例えば薬剤及び殺虫剤等の外部性化合物やステロイド等の内因性化合物を新陳代謝し、解毒し、不活化する能力を有する。
【0044】
肝細胞前駆体:肝細胞を引き起こすことでできるあらゆる細胞型をいう。肝細胞前駆体の非限定的な例としては、胎生期幹細胞(ESC)、人工多能性幹細胞(IPSC)、成人肝内幹細胞、間葉幹細胞及び羊膜幹細胞を挙げることができる。本開示の文脈において、生体内で異形の肝細胞を増殖する方法は、異形の肝細胞又は肝細胞前駆体の移植を含む。
【0045】
遺伝性のチロシン血症型1(HT1):チロシン血症は、通常生来の、物質代謝の障害であり、効果的にアミノ酸チロシンを遮断することができない。HT1は、この障害の最も重篤な形態であり、ヒト染色体数15上に見いだされる遺伝子Fahによってコード化される酵素フマリルアセト酢酸加水分解酵素(FAH)の欠乏によって引き起こされる。FAHは、ダウンチロシンの遮断に必要な一連の5つの酵素の最終のものである。HT1の徴候は、生後最初の数ヶ月に通常現れ、体重増加及び期待される割合の生育の障害(成長障害)、下痢、おう吐物、皮膚の黄変、白眼(黄疸)、キャベツ類似臭、及びブリード(特に鼻血)が増大する傾向等の障害を含む。HT1は、肝臓及び腎不全、神経系に影響を及ぼす問題、及び肝癌リスクの増大といった問題を引き起こす。
【0046】
異種:その生物種由来材料、その生物種と自然結合する材料、又はその生物種生来の材料ではなく、その生物種以外の供給源から由来する(すなわち異なる)ことをいう。ここでのラットモデルの場合、ラットは、レシピエントラット以外の生物種、例えばヒト、イヌ、ブタ、その他からの肝細胞が移植できかつ生着できる。
【0047】
ヘテロ:対応する染色体の遺伝子座で異種の対立遺伝子を有することをいう。例えば、特定の遺伝子突然変異ヘテロのラットは、遺伝子の対立遺伝子の一方には突然変異を有するが、他方には有さない。
【0048】
ホモ接合性:一般に、1つ以上の遺伝子座で同一の対立遺伝子を有していることをいう。ここで用いられる例では、破壊「ホモ接合性」又は欠損症「ホモ接合性」とは、遺伝子の対立遺伝子の両方ともに破壊(例えば欠失、組込み又は点突然変異)を有する生体をい
い、また、「複方異型接合性」とは、生体は2つの無関係な対立遺伝子上に破壊を有しているが、類似ホモ接合性破壊として振る舞い、得られた機能性遺伝子生成物が損失することをいう。
【0049】
ヒト化:ここで用いられる例では、「ヒト化」動物(ラット)又は肝臓とは、ヒト肝細胞を移植した動物又は肝臓のことをいい、その際、ヒト肝細胞が生体内で増殖し、ヒト肝細胞でほぼ動物の肝臓を再び占めることをいう。
【0050】
免疫不全:免疫系の必須の機能の少なくとも1つが不足することをいう。ここで用いられる例では、「免疫不全」ラットとは、免疫系の特定の成分が不足したラット又は免疫系の特定の成分の機能が不足したラットをいう(例えばB細胞、T細胞又はNK細胞)。一例としては、免疫不全ラットは、マクロファージが不足する。特定の実施形態では、免疫不全ラットは、機能性免疫細胞(例えばB細胞、T細胞又はNK細胞)の発達を防止して又は抑制する遺伝の変質作用を1つ以上備える。特定の実施形態では、遺伝の変質作用は、組換活性化遺伝子1(Rag1)欠損症、組換活性化遺伝子2(Rag2)欠損症、インターロイキン2レセプターガンマ鎖(Il2rg)欠損症、Dnapk
−/−(SCID)突然変異、ヒト化/ヒト化SIRPアルファ遺伝子型、ヌードラット突然変異、パーフォリンノックアウト(perforin
−/−)、及びこれらの組合せからなる群より選択される。例えば、ヒト配列によるラットSirp−α遺伝子の置換、すなわちヒト化(hum)Sirp−α
hum/humでは、ヒト細胞によってラットマクロファージの活性化をブロックする。特定の実施形態では、「免疫不全ラット」は、Rag1
−/−、Rag2
−/−、Il2rg
−/−、Il2rg
−/y、SCID、SIRP−アルファ遺伝子型、パーフォリン
−/−及び/又はヌード、の遺伝の変質作用の1つ以上を有する。免疫不全動物株は、従来技術において周知であり、The Jackson Laboratory社(米国メイン州バーハーバー)やTaconic社(米国ニューヨーク州ハドソン)より入手可能である。特定の実施形態では、ラットは、Fah
−/−/Rag2
−/−/Il2rg
−/−/Il1r1
−/−ラット、Fah
−/−/Rag1
−/−/Il2rg
−/−/Il1r1
−/−ラット、Fah
−/−/Rag2
−/−/Il2rg
−/−/Il1r1
−/−ラット、又はFah
−/−/Rag1
−/−/Il2rg
−/−/Il1r1
−/−ラットである。特定の実施形態では、免疫不全ラットは、1以上の免疫抑制薬を投与された動物である。
【0051】
免疫抑制薬:体液又は細胞免疫系の成分又は補体系等の免疫系の1つ以上の態様の機能又は活性を低減する化合物をいう。免疫抑制薬は、「免疫抑制剤」ともいう。
例示的な免疫抑制薬は、限定するものではないが、(1)例えばプリン合成阻害剤(例えばアザチオプリン及びミコフェノール酸)、ピリミジン合成阻害剤(例えばレフルノミド及びテリフルノミド)及び抗葉酸剤(例えばメトトレキセート)等の代謝拮抗剤;(2)例えばFK506、サイクロスポリンA及びピメクロリムス等のマクロライド;(3)例えばサリドマイド及びレナリドマイド等のTNF−α阻害剤;(4)例えばアナキンラ等のIL−1レセプター拮抗薬;(5)例えばラパマイシン(シロリムス)、デフォロリムス、エベロリムス、テムシロリムス、ゾタロリムス及びバイオリムスA9等の、ラパマイシン(mTOR)阻害剤の哺乳動物ターゲット;(6)例えばプレドニゾン等のコルチコステロイド;及び(7)多数の細胞又は血清ターゲットのいずれかに対する抗体。特定の開示の実施形態では、免疫抑制薬は、FK506、サイクロスポリンA、フルダラビン、ミコフェノール酸、プレドニゾン、ラパマイシン又はアザチオプリン又はこれらの組合せ、を含む。
【0052】
例示的な細胞のターゲット及びそれらのそれぞれの阻害剤化合物の非限定的な例としては、補体成分5(例えばエクリズマブ);腫瘍壊死因子(TNF)(例えば、インフリキシマブ、アダリムマブ、セルトリズマブペゴール、アフェリモマブ及びゴリムマブ等);
IL−5(例えばメポリズマブ);免疫グロブリンE(例えばオマリズマブ);BAYX(例えばネレリモマブ);インターフェロン(例えばファラリモマブ);IL−6(例えばエルシリモマブ);IL−12及びIL−13(例えばレブリキズマブ及びウステキヌマブ);CD3(例えばムロモナブCD3、オテリキシズマブ、テプリズマブ、ビシリズマブ);CD4(例えばクレノリキシマブ、ケルキシマブ及びザノリムマブ);CD11a(例えばエファリズマブ);CD18(例えばエルリズマブ);CD20(例えばアフツズマブ、オクレリツマブ、パスコリズマブ);CD23(例えばルミリキシマブ);CD40(例えばテネリキシマブ、トラリズマブ);CD62L/L−セレクチン(例えばアセリズマブ);CD80(例えばガリキシマブ);CD147/ベイシジン(例えばガビリモマブ);CD154(例えばルプリズマブ);BLyS(例えばベリムマブ);CTLA−4(例えばイピリムマブ、トレメリムマブ);CAT(例えばベルチリムマブ、レルデリムマブ、メテリムマブ);インテグリン(例えばナタリズマブ);IL−6レセプター(例えばトシリズマブ);LFA−1(例えばオデュリモマブ);及びIL−2レセプター/CD25(例えばバシリキシマブ、ダクリズマブ、イノリモマブ)等を挙げることができる。
【0053】
別の免疫抑制剤としては、ゾリモマブアリトックス、アトロリムマブ、セデリズマブ、ドリキシズマブ、フォントリズマブ、ガンテネルマブ、ゴミリキシマブ、マスリモマブ、モロリムマブ、ペキセリズマブ、レスリズマブ、ロベリズマブ、シプリズマブ、タリズマブ、テリモマブアリトクス、バパリキシマブ、ベパリモマブ、抗胸腺細胞グロブリン、抗リンパ球グロブリン;CTLA−4の阻害剤(例えばアバタセプト、ベラタセプト);アフリバーセプト;アレファセプト;リロナセプト;及びTNF阻害剤(例えばエタネルセプト)等を挙げることができる。
【0054】
免疫抑制:免疫系の活性又は機能を低減させることをいう。免疫抑制は、免疫抑制化合物の投与によって達成でき、又は、疾患ないし障害(例えば、HIV感染の結果又は遺伝子欠陥に起因する免疫抑制)の作用として得ることができる。一例としては、免疫抑制は、機能的免疫細胞の発生を妨害又は阻害する遺伝子変異の結果として生じる。
【0055】
人工多能性幹細胞(iPSC):特定の遺伝子の発現の誘発により、非多能性細胞、代表的には成体の体細胞から人工的に誘導される多能性肝細胞の一種をいう。iPSCは、哺乳類等の生物から誘導できる。特定の実施形態では、iPSCは、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ヤギ、ブタ、ウシ、非ヒト霊長類又はヒトから生成される。ここではヒトから誘導されたiPSCを例示することができる。iPSCは、幹細胞の特定の遺伝子やタンパク質の発現、クロマチンのメチル化のパターン、倍化時間、胚葉体の形成、奇形腫の形成、生存能のキメラの形成、並びに、潜在能力及び分化能のような多くの場合でES細胞と類似している。iPSCを産生するための方法は、従来技術において既知である。例えば、iPSCは、典型的には、成体の線維芽細胞等の非多能性細胞への特定の幹細胞関連遺伝子(例えば、Oct−3/4(Pouf51)及びSox2)の移入によって導かれる。トランスフェクションは、レトロウイルス、レンチウイルス又はアデノウイルス等のウイルスベクターにより得ることができる。例えば、細胞のトランスフェクションにより、レトロウイルス系を用いてOct3/4、Sox2、Klf4及びc−Mycを、又は、レンチウイルス系を用いてOCT4、SOX2、NANOG及びLIN28を得ることができる。3〜4週間後、少数のトランスフェクト細胞が、形態的及び生化学的に多能性幹細胞との類似化を開始し、典型的には、形態学な選択、倍化時間によって、又は、レポーター遺伝子及び抗生物質による選択により単離される。一例では、成人ヒト細胞からのiPSCsは、Yuら(Science 318(5854): 1224, 2007)又はTakahashiら(Cell 131(5): 861−72, 2007)の方法により発生する。また、iPSCsは、iPS細胞として知られている。
【0056】
感染負荷:被験者、又は被験者由来のサンプル中の特定の病原体の量をいう。感染負荷量は当該分野で公知の多数の方法のうちのいずれか1つを用いて測定することができる。検出される病原体の型及び病原体の検出に利用可能な試薬に応じて、適当な方法を選択する。また、感染負荷量は、例えば、病原体の力価を測ることにより測定することができ、そのための方法は、検出される病原体に依存して変化する。例えば、ウイルスの力価は、プラークアッセイを行うことにより定量することができる。ある例では、感染負荷量は、サンプル中の病原体特異的抗原の量を定量することにより測定される。他の例では、感染負荷量は、サンプル中の病原体特異的核酸分子の量を定量することにより測定される。定量操作は、数値の決定を含み、あるいは、相対値で示してもよい。
【0057】
単離:「単離された」生体成分、例えば核酸、タンパク質(抗体を含む)又は細胞小器官、は、その成分が天然に存在する環境(細胞等)における他の生体成分、すなわち、他の染色体及び染色体外DNA及びRNA、タンパク質、並びに細胞小器官、から実質的に分離又は抽出されている。「単離された」核酸及びタンパク質としては、標準的な精製法で純化された核酸及びタンパク質が挙げられる。また、この語は、宿主細胞における組換え発現により調製された核酸及びタンパク質並びに化学合成された核酸を包含する。いずれの場合も、核酸及び/又はタンパク質を「単離」することにより、自然界では見いだされない新しい化学物質を与える。
【0058】
ラパマイシン(mTOR)阻害剤の哺乳動物ターゲット:mTORの発現又は活性を阻害する分子のことをいう。mTOR阻害剤としては、低分子、抗体、ペプチド及び核酸の阻害剤が挙げられるがこれらに限定されない。例えば、mTOR阻害剤は、mTORのキナーゼ活性を阻害するか、又は、リガンドに対するmTORの結合を阻害する分子であり得る。また、mTORの阻害剤は、mTORの発現をダウンレギュレートする分子を含む。多数のmTOR阻害剤は、ラパマイシン(シロリムス)を含めて従来技術において既知である。
【0059】
ミコフェノール酸:同種同系移植の拒絶を予防するために代表的に使用される免疫抑制薬のことである。この薬物は一般に、経口又は静脈内投与される。ミコフェノレートは、真菌ペニキリウムストレンニフェラム由来である。そのプロドラッグの態様であるミコフェノレートモフェチルは、肝臓で、活性部分ミコフェノール酸に代謝される。これは、Bリンパ球及びTリンパ球の増殖で用いられるプリン合成のデノボ経路において、グアニン一リン酸の合成速度を制御する酵素であるイノシン一リン酸デヒドロゲナーゼを阻害する。ミコフェノール酸は、商品名CellCept(登録商標)(ミコフェノール酸モフェチル;Roche社)及びMyforti(登録商標)(ミコフェノール酸ナトリウム;Novartis社)で市販されている。
【0060】
NTBC((2−ニトロ−4−トリフルオロ−メチル−ベンゾイル)−1,3シクロヘキサンジオン):4−ヒドロキシ−フェニルピルビン酸デヒドロゲナーゼ(HPPD)の阻害剤である。HPPDは、チロシン異化の第2段階である4−ヒドロキシフェニルピルビン酸のホモゲンチシン酸への転換反応を触媒する。NTBCでの処理は、チロシン異化経路をこの段階でブロックし、そして、Fah欠損のヒト及び動物において蓄積される疾病特有症候の代謝産物であるスクシニルアセトンの蓄積を予防する。
【0061】
ヌードラット:胸腺で悪化又は不在を引き起こす遺伝子突然変異を有するラット株をいい、その際、T細胞の数が著しく低減することにより免疫系が抑制される。
【0062】
プレドニゾン:有効な免疫抑制薬である合成コルチコステロイドのことをいう。特定の炎症性疾患、自己免疫疾患及び癌の処置、並びに、臓器移植拒絶の処置又は予防に、よく用いられる。プレドニゾンは通常、経口摂取されるが、筋肉注射又は静脈注射によっても
供給が可能である。プレドニゾンは、肝臓でプレドニゾロンに変換されるプロドラッグであり、そのプレドニゾロンは、活性な薬剤であり、さらにはステロイドである。
【0063】
ラパマイシン:免疫抑制性かつ抗増殖性特性を有する既知の化合物である。シロリムスとしても知られるラパマイシンは、細菌Streptomyces hygroscopicusの生成物として最初に発見されたマクロライドである。ラパマイシンは、mTORに結合し、mTORの活性を阻害する。
【0064】
レシピエント:ここで用いられる例では、「レシピエントラット」は、ここに記載するように、異種の肝細胞を注入されたラットである。典型的には、異種の肝細胞の一部(パーセンテージは変更することができる)が、レシピエントラット中に生着する。実施形態では、レシピエントラットは、免疫抑制又は免疫不全状態である。特定の実施形態では、レシピエントラットは、Fah欠損である。
【0065】
リコンビナーゼ活性化遺伝子1(Rag1):免疫グロブリンV(D)J組換えの活性化に関与する遺伝子のことをいう。RAG1タンパク質は、DNA基質の認識に関与するが、安定な結合及び切断の活性のためには、RAG2を必要とする。RAG−1−欠損ラットは、成熟Bリンパ球及びTリンパ球を有さない。
【0066】
組換活性化遺伝子2(Rag2):免疫グロブリン遺伝子座とT細胞受容体遺伝子座の組換えに関与する遺伝子である。Rag2遺伝子を欠損する動物は、V(D)J組換えを行うことができず、機能性T細胞及びB細胞の完全な欠如を引き起こす(Shinkaiら、Cell 68:855−867, 1992)。
【0067】
継代移植:最初の動物において増殖させた肝細胞が収集され、そして、さらなる増殖のために二次動物へと注入などによって移植される、ヒト肝細胞を生体内で増殖するためのプロセスである。継代移植は、三次、又は四次、又は追加次のマウスをさらに含むことができる。
【0068】
体細胞核移植(SCNT):ドナーの核を有する卵を用いてクローン性の胚を作製するための実験技術のことをいう。SCNTでは、体細胞の核が取り出され、細胞の残余が破棄される。それと同時に、卵細胞の核が取り出される。体細胞の核が、その後、除核された卵細胞へと挿入される。卵へと挿入された後、体細胞の核は宿主細胞によってリプログラミングされる。この時点で体細胞の核を含んでいる卵は、ショックにより刺激されて、分裂を開始する。培養において多数の有糸分裂が生じた後、この単一細胞は、元の生物とほぼ同一のDNAを持つ胚盤胞を形成する。
【0069】
幹細胞:不変の娘細胞を生成する(自己再増殖;親細胞と同一である娘細胞を少なくとも1つ生成する細胞分裂)、及び特殊化細胞型を産生するための特異な能力(潜在能力)を有する細胞のことをいう。幹細胞の非限定的な例としては、胚性幹(ES)細胞、胚性生殖(EG)細胞、生殖系列幹(GS)細胞、ヒト間葉系幹細胞(hMSC)、脂肪組織由来幹細胞(ADSC)、多能性成体前駆細胞(MAPC)、多能性成体生殖系列幹細胞(maGSC)、及び非制限体性幹細胞(USSC)が挙げられる。生体内における幹細胞の役割は、動物の正常な寿命の間に破壊される細胞を置換することにある。通常、幹細胞は、無制限に分裂することが可能である。幹細胞は、分裂後に幹細胞のままでいてもよいし、前駆細胞になっても良いし、末端分化に進行しても良い。前駆細胞は、所与の細胞型に十分に分化した機能的細胞を少なくとも1つ生成することができる細胞である。一般に、前駆細胞は分裂することが可能である。前駆細胞は、分裂後に前駆細胞のままであってもよいし、末端分化に進行しても良い。一実施形態において、幹細胞は、肝細胞を産生する。
【0070】
治療薬:被験体に対して適切に投与された際に、所望の治療効果又は予防効果を誘導することができる、アンチセンス化合物、抗体、プロテアーゼ阻害剤、ホルモン、ケモカインもしくはサイトカイン等、化合物、低分子又はその他の組成物のことをいう。ここで用いられる例では、「候補薬剤」は、特定の疾患又は障害のための治療剤として機能出来るか否かを決定するためのスクリーニング用に選択される化合物である。
【0071】
力価:本開示の文脈においては、力価は、サンプル中の特定の病原体の量のことをいう。
【0072】
耐性:被験体(例えばヒトや動物)が通常は応答する特定の抗原又は抗原の群に対して応答しない状態をいう。免疫耐性は、免疫反応を抑制するが、単に免疫応答が存在しない状態ではない条件下で実現される。免疫耐性は、免疫系がまだ成熟していない、胎児の生命又は新生の期間における同じ抗原との事前接触;極めて高いもしくは低い用量の抗原との事前接触;免疫系を損ねる放射線、化学療法薬もしくは他の薬剤に対する曝露;免疫系の遺伝性の疾患;免疫系の後天性疾患、を含む、多数の原因から生じうる。
【0073】
毒素:本開示の文脈では、「毒素」とは、全ての化学的毒素又は生物学的毒素を含むあらゆる有毒物質をいう。
【0074】
遺伝子導入:細胞に導入される外因核酸一次構造又は生体のゲノムのことをいう。
【0075】
移植又は移植操作:ある被験体由来の臓器、組織もしくは細胞を、別の被験体又は同じ被験体の別の領域に移植するプロセスをいう。
【0076】
ウロキナーゼ:ウロキナーゼ型プラスミノーゲンアクチベーター(uPA)とも呼ばれ、ウロキナーゼは、セリンプロテアーゼである。ウロキナーゼは、元々人尿から単離したものであるが、別の生理学的場所、例えば血流及び細胞間マトリックス中にも存在する。原始の生理学的な基質は、プラスミノーゲンであり、それは、セリンプロテアーゼプラスミンの不活性チモーゲン形態である。プラスミンの活性化は、タンパク質分解カスケードを起動させ、これは、生理学的な生育環境に従い、血小板崩壊又は細胞間マトリックス劣化へと至る。ここで提供される方法の実施形態においては、ウロキナーゼは、肝細胞注入の前にレシピエントラットに投与される。特定の実施形態では、ウロキナーゼは、ヒトウロキナーゼである。別の実施形態では、ヒトウロキナーゼは、ウロキナーゼの分泌された形態である。別の実施形態では、ヒトウロキナーゼを改変し、ウロキナーゼの非分泌型である(米国特許第5,980,886号参照)。
【0077】
ベクター:宿主細胞において複製及び/又は組み込みを行うベクターの能力を破壊することなく、外来核酸の挿入を可能にする核酸分子のことをいう。ベクターは、複製起点等宿主細胞における複製を可能にする核酸配列を含み得る。また、ベクターは、1つ以上の選択可能な標識遺伝子及び別の遺伝の成分を含むことができる。組み込みベクターは、宿主の核酸に自分自身を組み込むことが可能である。発現ベクターは、挿入された遺伝子(単数又は複数)の転写及び翻訳を可能にするために必須の調節配列を含むベクターである。
【0078】
注記しない限りにおいて、本明細書中で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本開示が属する分野の当業者によって通常理解されるものと同じ意味を有する。単数形のように記載していても、文脈から明確に単数であると示さない限り、複数の対象物をも含む。同様に、語「又は(もしくは、あるいは)」は、文脈から明確にそうでないと示さない限り、「及び(並びに)」を含むことが意図される。したがって、化合物が、成分A、B
及び/又はCを含むとした場合、化合物は:A単独を含むか排除;B単独を含むか排除;C単独を含むか排除;A及びBの組合せ;A及びCの組合せ;B及びCの組合せ;又はA、B及びCの組合せ、である。さらに、所与の核酸又はポリペプチドに対して、全ての塩基サイズ又はアミノ酸サイズ、及び全ての分子量又は分子質量値は全て近似値であり、説明のために提供されることが理解されるべきである。本明細書中に記載されるものと類似もしくは等価の方法及び材料が本開示の実施又は試験に使用され得るが、適切な方法及び材料は以下に記載される。本明細書中で言及される全ての刊行物、特許出願、特許及び他の引用文献は、その全体が参照により援用される。矛盾が生じる場合には、用語の説明を含めて、本明細書が支配する。さらに、材料、方法及び実施例は説明的なものに過ぎず、限定的であることは意図されない。
【0079】
II.実施形態の概要
遺伝子が組み替えられたラット(Rattus sp)が、ここで記載され、別の生物種(特にヒト)からの肝細胞の増殖を含む様々な目的効用を有し、肝硬変、肝細胞癌、肝の感染症、肝の毒性、遺伝子療法、肝再生、アルコール性肝疾患、脂肪肝疾患、代謝の肝疾患等に加えて、中間代謝、胆汁酸生成、小分子輸送体、生物製剤の事前評価、薬物代謝、薬物動力学を含む肝疾患及び正常肝病理学の動物モデルとして用いられる。用語「ラット」(ここで用いられる例では)は、ラット属に特定され、明白にマウス種(Mus sp)を含まない。
【0080】
1以上の実施形態では、ラットは、Fah欠損であり、好ましくは、Fah遺伝子中の破壊に対するホモ接合性を有するゲノムを備えることで、その破壊が、機能性FAHタンパク質の発現の損失を引き起こし、ひいては肝機能低下を生じさせる。Fah遺伝子破壊は必ずしも、機能性FAHタンパク質の発現の完全な損失を引き起こすものではない。いくつかの例では、機能性FAHタンパク質の発現、活性又は、機能の損失又は減少は、約80%、約90%、約95%又は約99%の機能性タンパク質の発現の損失のことである。Fah遺伝子破壊は、機能性FAHタンパク質の発現を著しく減少(低減)させ又は完全にゼロにする全ての修飾とすることができる。特定の実施形態では、破壊は、Fah遺伝子の中の組込み、欠失、もしくは1つ以上の点変異、又はこれらのあらゆる組合せである。例えば、破壊は、インフレーム終止コドンを含む組込みであってもよい。また、組込みは、選択可能な標識をコード化する核酸等、付加的な核酸一次構造を含むことができる。特定の例の中に、Fah欠損ラットは、Fah遺伝子の情報配列3中の破壊に対するホモ接合性である。さらに、Fah遺伝子中に破壊を有する単離ラット胎生期茎(ES)細胞が提供される。
【0081】
また、AAV−DJターゲッティングベクターでラット細胞を導入することによりFah欠損ラット細胞(胎生期幹細胞等)を産生する方法が提供され、ターゲッティングベクターは、5f及び3f相同性アームを備えるターゲッティングカセットを備え、これら相同性アームは、ラットFah遺伝子(Fah遺伝子の情報配列3等)の部分をターゲットにし、核酸一次構造(抗生物質抵抗性遺伝子をコード化する核酸一次構造等)の側面に位置することにより、ターゲッティングベクターによる細胞の移入に続いて同種遺伝子組換えが生じ、ラットFah遺伝子のターゲットの部分をターゲッティングカセットで置換することでFah欠損ラット細胞を産生する。
【0082】
一部の実施形態では、免疫不全ラットが提供される。マウスの免疫不全症は、遺伝の変質作用、免疫学的抑制又はこれらの組合せにより生じる。1以上の実施形態では、ラットは、機能性T細胞、B細胞及び/又はNK細胞が不足する。
【0083】
一部の実施形態では、ラットは免疫抑制症である。いくつかの例では、免疫学的抑制は、1つ以上の免疫抑制剤の投与の結果である。ラットの免疫学的抑制を実現するのに有効
な全ての適切な免疫抑制剤又は試剤を用いることができる。免疫抑制剤の非限定的な例としては、FK506、サイクロスポリンA、フルダラビン、ミコフェノール酸、プレドニゾン、ラパマイシン及びアザチオプリンを挙げることができる。また、免疫抑制剤を組合せて投与することができる。
【0084】
別の実施形態では、免疫不全症は、1つ以上の遺伝の変質作用の結果であり、免疫系の特定の成分の欠如や、免疫系の特定の成分の機能の欠如(機能性B、T及び/又はNK細胞の欠如等)を引き起こす。いくつかの例では、1つ以上の遺伝の変質作用は、Rag2遺伝子の遺伝子変質作用又はIl2rg遺伝子の遺伝子変質作用を含み、これら遺伝子の変質作用の結果、機能性RAG−2タンパク質又はIL−2Rγタンパク質の発現の損失が生じる。一例では、1つ以上の遺伝の変質作用は、Rag2遺伝子の遺伝子の変質作用及びIl2rg遺伝子の遺伝子の変質作用を含む。いくつかの例では、遺伝子の変質作用は、Rag2遺伝子又はIl2rg遺伝子の中にホモ接合性欠失を備える。この欠失は、Fah欠損症と組み合わされて、FRGKOラットを産生する。別の例では、遺伝子の変質作用は、SCID、NOD、又はヌードである。また、免疫系の特定の細胞(例えばマクロファージ又はNK細胞)は、枯渇することができる。特定の細胞型を枯渇させる方法は、従来技術で既知である。
【0085】
1以上の実施形態では、ラットはヒト肝細胞等の異種の肝細胞を備える。本発明の重要な利点は、異種の肝細胞のラットへの移植/生着が行われただけでなく、ラット中で増殖した(すなわち、活発に増殖した)ということが理解されよう。言い換えると、本発明の各種実施形態は、ヒト化肝臓を有するラットに関する。
【0086】
また、生体内で異種の肝細胞を増殖する方法が提供される。特定の実施形態では、本方法では、異種の肝細胞(又は肝細胞前駆体)をFah欠損ラットに移植して、異種の肝細胞の増殖を可能にする。別の実施形態では、方法は、異種の肝細胞を免疫不全ラットに移植することを含み、異種の肝細胞の増殖を可能にする。また別の実施形態では、方法は、異種の肝細胞をFah欠損及び免疫不全ラットに移植することを含み、異種の肝細胞の増殖を可能にする。別の実施形態では、方法は、例えばチロシン異化代謝経路中の酵素の発現、活性、又は機能の低下等、肝欠損症のラットに異種の肝細胞を移植することを含み、異種の肝細胞の増殖を可能にする。
【0087】
一部の実施形態一部の実施形態では、異種の肝細胞は、ラットの肝動脈、脾臓、門静脈、腹膜腔、肝組織集団又はリンパ系への注入によって移植される。一部の実施形態一部の実施形態では、ラットに移植される異種の肝細胞(又は肝細胞前駆体)は、単離するヒト肝細胞(又は肝細胞前駆体)である。一部の実施形態一部の実施形態では、異種の肝細胞は、肝臓組織移植の一部として移植される。単離する異種の肝細胞は、異なる供給源と同様に多数の異なる哺乳動物のいずれかのから得られることができる。哺乳動物肝細胞は、イヌ、ブタ、ウマ、ウサギ、マウス、キヌゲザル、ウッドチャック、非ヒト霊長目動物及びヒトから得られることができる。特定の実施形態では、異種の肝細胞は、ヒト又は非ヒト器官ドナーの肝臓から単離する。別の実施形態では、異種の肝細胞は、外科の切除から単離する。別の実施形態では、異種の肝細胞は、幹細胞に由来し、幹細胞としては例えば、胎生期幹細胞、人工多能性幹細胞、間葉−由来する幹細胞、脂肪組織−由来する幹細胞、強力な成人の前駆細胞、無制限の身体の幹細胞又は組織特定の肝臓幹細胞を挙げることができ、それらは、肝臓、胆嚢、小腸、膵臓又は唾液腺に見いだすことができる。別の実施形態では、異種の肝細胞は、単球又は羊膜細胞に由来し、したがって、幹細胞又は前駆細胞は、インビトロに得られ、肝細胞を産生する。別の実施形態では、異種の肝細胞は、皮膚線維芽細胞、ケラチノサイト又はリンパ球等の異なった細胞系統を再プログラムすることによって得られる。別の実施形態では、異種の肝細胞は、注入の前低温保存された(すなわち解凍され低温保存ロットから得られる)。特定の実施形態では、ここでさらに詳
細に記載するように、ヒト肝細胞は、ヒト化マウス、ブタ又は別のラットから単離することができる。
【0088】
一部の実施形態では、1つ以上の免疫抑制剤(上述)は、少なくとも異種の肝細胞移植術の約2日前に、ラットに投与される。免疫学的抑制は、移植術の後所定の期間、例えばラットのライフの一部又は全体に対して、継続されてもよい。
【0089】
肝損傷の多機種は、肝細胞生着及び増殖を容易にするためにラットの中に使用されてもよいことが理解され、この肝細胞生着及び増殖の非限定的な例としては例えば、誘導性の外傷及び/又は遺伝子の修飾(例えばFah破壊、uPA、TK−NOG(Washburnら、Gastroenterology, 140(4): 1334−44, 2011)、アルブミンAFC8、アルブミンジフテリア毒素、ウィルソンfs疾患など)が挙げられる。また、肝損傷技術の組合せを使ってもよい。特定の実施形態では、ラットは、異種の肝細胞の注入の前に、ウロキナーゼ遺伝子をコード化するベクターを投与される。一実施形態では、ウロキナーゼ遺伝子は、ヒトウロキナーゼである。野生型ウロキナーゼは、分泌されたタンパク質である。したがって、実施形態では、ヒトウロキナーゼは、ウロキナーゼの分泌された形態である(Nagaiら、Gene 36:183−188, 1985)。特定の実施形態では、ヒトウロキナーゼは、ウロキナーゼの修飾非分泌型である。例えば、Lieberら(Proc. Natl. Acad. Sci.
92: 6210−6214, 1995)によれば、ウロキナーゼのカルボキシル末端に、小胞体保持信号をコード化する配列を挿入することにより、あるいは又はアミノ末端RR−保持信号でpre−uPAシグナルペプチドを置換することにより(Strubinら, Cell 47:619−625, 1986; Schutzeら, EMBO J. 13:1696−1705, 1994)、生成されるウロキナーゼの非分泌型を記載し、また、膜内外錘が、膜IIタンパクIip33からのスペーサーペプチドによって分離される(Strubinら、 Cell 47:619−625, 1986)。また、ウロキナーゼの非分泌型は、米国特許第5,980,886号に記載される。
【0090】
ウロキナーゼをコード化するベクターは、ラットへの供給に適し、かつウロキナーゼ遺伝子を発現できるあらゆる型のベクターとすることができる。このベクターは、ウイルス性ベクター又はプラスミドベクトルを含む。一実施形態では、ベクターはアデノウイルスベクターである。別の実施形態では、ベクターは、AAVベクターである。ウロキナーゼをコード化するベクターは、従来技術で既知のあらゆる適切な手段によって投与することができる。一実施形態では、ベクターは静脈内に投与される。1つの態様では、ベクターは、眼窩後注入によって投与される。ウロキナーゼをコード化するベクターは、異種の肝細胞の注入の前のいつでも、投与されることができる。通常、ベクターを投与することで、発現されるべきウロキナーゼに十分な時間を確保する。一実施形態では、ベクターは、肝細胞注入の24〜48時間前に投与される。
【0091】
肝細胞増殖時間の長さは、変更することができ、また、元々移植される肝細胞の数、異種の肝細胞所望の次の増殖の数、及び/又は異種の肝細胞による肝臓再増殖の所望の程度を含む様々な因子に依存する。いくつかの例では、これらの因子は、肝細胞の所望の使用又は異種の肝細胞で生着されるラットの所望の使用によって指図される。特定の実施形態では、異種の肝細胞は、ラットの中増殖され、その期間は、少なくとも約3日、少なくとも約5日、少なくとも約7日、少なくとも約2週、少なくとも約4週又は少なくとも約5週、少なくとも約6週、少なくとも約2月、少なくとも約3月、少なくとも約4月、少なくとも約5月、少なくとも約6月、少なくとも約7月、少なくとも約8月、少なくとも約9月、少なくとも約10月又は少なくとも約11月である。特定の例では、異種の肝細胞は、少なくとも7日間、ラット中で増殖される。別の例では、異種の肝細胞は、少なくと
も6月間、ラット中で増殖される。いくつかの例では、異種の肝細胞は、12月を超えない期間、ラット中で増殖される。
【0092】
一部の実施形態では、肝の欠損症によるラットは、ラット中の肝疾患の発達を抑制し、遅らせ、回避し、又は防止する試剤を投与することができる。この試剤の投与は、健康な(例えば、FAH発現している)肝細胞によるラットの再増殖の前に、肝機能不全及び/又はラットの死を回避する。この試剤は、従来技術で既知の肝疾患を抑制するあらゆる化合物又は組成物であってよい。この試剤は、2−(2−ニトロ−4−トリフルオロ−メチルベンゾイル)−1、3シクロヘキサンジオン(NTBC)であるが、フェニルピルビン酸ジオキシゲナーゼの別の薬理学的阻害剤、例えば、メチルNTBCを用いてもよい。NTBC(又は肝臓防護効果による別の化合物)肝疾患の発達を調整するために、Fah欠損ラットに投与される。ドーズ、投薬スケジュール及び投与の方法はFah欠損ラットの中に、肝機能不全を回避する必要であるように、調整されることができる。特定の実施形態では、Fah欠損ラットは、肝細胞移植術の後、少なくとも2日、少なくとも3日、少なくとも4日、少なくとも5日又は少なくとも6日、さらにNTBCを投与される。特定の実施形態では、Fah欠損ラットは、少なくとも約1週、少なくとも約2週、少なくとも約3週、少なくとも約4週、少なくとも約1月、少なくとも約2月、少なくとも約3月、少なくとも約4月、少なくとも約5月、又は少なくとも約6月、さらにNTBCを投与される。特定の実施形態では、肝細胞移植術の約2日後、約3日後、約4日後、約5日後、約6日後又は約7日後、NTBC(又は肝臓防護効果による別の化合物)は回収される。
【0093】
Fah欠損ラットに投与されるNTBCのドーズ量は、変更することができる。特定の実施形態では、ドーズ量は、1日当たり、約0.5mg/kg〜約30mg/kgであり、好ましくは約1mg/kg〜約25mg/kg、より好ましくは1日当たり約10mg/kg〜1日当たり約20mg/kg、さらに好ましくは1日当たり約20mg/kgである。NTBCは、あらゆる適切な手段によって投与されることができるが、非限定的な例としては、飲料水中、食品中に又は注入を挙げることができる。一実施形態では、飲料水中に投与されるNTBCの濃度は、約1〜約30mg/l、好ましくは約10〜約25mg/l、より好ましくは約15〜約20mg/l、さらに好ましくは約20mg/lである。
【0094】
一部の実施形態では、本方法は、ラットから増殖された異種の肝細胞を収集することをさらに含む。ラットの肝臓から単離された増殖異種肝細胞が、さらに提供される。
【0095】
レシピエントラット中の異種の肝細胞(又は別の生物種からの肝細胞)の継代移植の方法が、さらに提供される。本方法は、第1のレシピエントラットから増殖された異種の肝細胞を収集するステップと、第2の、第3の、第4の又は付加的なレシピエントラットにおいて、肝細胞をさらに増殖するステップとを有している。増殖された肝細胞は、多数の技術のいずれかを用いて、ラットから収集することができる。例えば、肝細胞は、ラット肝臓の酵素消化に続いて、穏やかにミンチし、濾過及び遠心分離を経て収集することができる。さらに、肝細胞は、周知の方法、例えば特異的に生着された肝細胞生物種の細胞型を認識する抗体を使う方法により、別の細胞型、組織及び/又はデブリから分離されることができる。この抗体の非限定的な例としては、抗ヒトHLA−A,B,C(Markus et al.,Cell Transplantation 6:455−462,1997)等の、特異的に型式I主要組織適合抗原に結合する抗体を挙げることができる。抗体結合された肝細胞は、次いで、(固形のマトリックスに固定される単クローン抗体を利用した)パニング、蛍光活性化された細胞の選別(FAC)、磁石ビーズ分離等により、分離することができる。肝細胞を収集するその他の方法は、従来技術においても知られている。
【0096】
ヒト肝細胞等の肝細胞に対する外因の試剤(生体異物)の効果を、例えば生体内で評価する方法がさらに提供される。特定の実施形態では、本方法は、ここに記載するラットモデルに外因試剤を投与し、異種の肝細胞が移植されたラットの肝機能の少なくとも1つの標識を測定することを含む。特定の実施形態では、肝機能の少なくとも1つの標識は、AST、ALT、ビリルビン、アルカリ性ホスファターゼ及びアルブミンから選択され、ラットのアルブミンの中のAST、ALT、ビリルビン又はアルカリ性ホスファターゼの、外因試剤の投与の前のラットと比較した増加又は減少があれば、その外因試剤が毒性を有することを示す。特定の実施形態では、外因の試剤は、毒性が知られているか、あるいは疑われている。
【0097】
III.動物モデル及びその使用
ここに記載する一実施形態では、ラット胎生期茎(ES)細胞中にAAVターゲッティング構築を用いた同種遺伝子組換えによるFah欠損ラットの産生方法が示される。実施例では、ネオマイシン−耐性カセットと、ラットFah遺伝子の情報配列3中の組込み構築をターゲットにする5OE及び3OE相同性アームとを含む、AAVターゲッティング構築の産生を説明する。ラットES細胞は、AAVターゲッティングベクターに感染し、ネオマイシン耐性を選択し、一体型のベクターで個々の細胞クローンを単離させる。FAHノックアウト(KO)ES細胞を、ラット胚盤胞に注入して、疑似妊娠したSDラットをE3.5へ移すことができる。これらのラットからの子孫は、遺伝子型を決めることができ、キメララットが産まれて、同型接合体FAHKOラットを発生させるように生育することができるヘテロ接合体男性及び女性を発生させることが可能である。この開示は、Fah欠損ラットを発生させる1つの特定の方法に限定されず、Fah欠損ラットを産生するための従来技術に既知の全ての方法を含み、例えば非限定的な例としては、TALEN、亜鉛指ヌクレアーゼ、メガヌクレアーゼ、SCNT、などを挙げることができる。
【0098】
1以上の実施形態では、Fahに加えて、又はFahの代わりに、チロシン異化代謝経路中の付加的な代謝性酵素をターゲットにして、重篤な肝機能不全(「肝の欠損症」)の動物モデルを発生させることができる。例えば、ここに記載されると同様の方法を用いる破壊に対して、チロシンアミノトランスフェラーゼ、4−ヒドロキシフェニルピルビン酸ジオキシゲナーゼ、ホモゲンチジン酸1,2−ジオキシゲナーゼ及び/又はマレイルアセト酢酸イソメラーゼをエンコードする遺伝子をターゲットにすることができる。治療がない場合、上記の酵素の1つ以上が欠損(すなわち、発現、活性又は機能が低減した)したラットは、最終的に内因性肝細胞の死に至らしめる、例えばチロシン血症(I、II、III)、ホーキンシン尿症、アルカプトン尿症など、肝機能不全が発達される。したがって、Fah欠損モデル(このラット)と同様に、ヒトを含む別の生物種から肝細胞で再び占めることができる。
【0099】
また、免疫不全ラットの肝臓中に異種の肝細胞を生着させることが、ここに開示される。従って、異種の肝細胞の増殖に対して、免疫不全ラット(Fah欠損症がない)の使用がここで意図される。また、ヒト化ラット(すなわちヒト肝細胞で再構成される肝臓を有しているラット)は、下述される薬理学、中毒学及び遺伝子療法研究の他に、例えば、ヒト肝臓再構成肝細胞の供給源として用いることができる。
【0100】
いくつかの事例では、異種の肝細胞による移植術の前に、uPa、Tk、選択的塞栓症、過渡虚血、レトロルシン、モノクロタリン、γ線による照射、四塩化炭素などを含む肝損傷のあらゆる適切なモデルを使い急性の肝損傷がラット中に誘発される。一部の実施形態では、肝損傷は、発現組換え型アデノウイルスにウロキナーゼプラスミノーゲン類似酵素を投与することによって誘発される。ウロキナーゼの投与の後(24時間後等)、脾臓内注入を介して異種の肝細胞を届けることができ、肝細胞は、肝臓に到達するために脈管
構造中を移動する。その他、任意に、移植前、移植中及び移植後に免疫抑制薬剤を、ラットに与えて、異種移植された異種の肝細胞からラット中の移植応答対宿主を排除することができる。定められた期間NTBCを離れてラットを循環させることによって、ラット細胞は、静止状態になり、生着された細胞は増殖に有利となり、異種の肝細胞で内因性ラット肝細胞を置換できる。ヒト肝細胞の場合、これは、高レベルでヒト化肝臓を有するラットを発生させる。異種の肝細胞再増殖レベルは、移植されたラットからの肝臓切片の免疫組織化学に関するヒト血清アルブミンレベルの計量により決定されることができる。
【0101】
A.肝細胞及びその医療用増殖
本開示は、この療法が必要な被検者における肝臓再構成のための肝細胞の供給源として、レシピエントラットにおいて増殖されそのレシピエントラットから収集される異種の肝細胞の使用を意図する。患者への肝細胞の導入による肝臓組織の再構成は、急性の肝機能不全を有する患者にとって、肝臓移植を見据えた一時的な治療として、又は単離する代謝欠損を有する患者の結末的な治療として、潜在的な治療のオプションである(Bumgardnerら、Transplantation 65: 53−61, 1998)。例えば、肝細胞再構成を用いて、遺伝子療法遺伝子が組み替えられた肝細胞を導入したり、疾患、身体的な又は化学傷害又は悪性腫瘍の結果失われた肝細胞を置換したりすることができる(米国特許第6,995,299号)。例えば、家族性高コレステロール血症を起こしている患者の遺伝子療法中に導入された肝細胞の使用が報告されている(Grossmanら、Nat. Genet. 6: 335, 1994)。その他に、増殖されたヒト肝細胞を用いて、人工肝臓援助装置内に生息させることができる。ラットに移植して異種の肝細胞を増殖する特定の方法が、増殖異種の肝細胞の医療での使用と共に、さらに詳細に下に記載される。
【0102】
1.免疫前の胎児への肝細胞の移植
ここで開示されるラットの中に異種の肝細胞を増殖する一方法には、異種の肝細胞及び/又は肝細胞前駆体を胎児に移植することが含まれる。1以上の実施形態では、ここに開示する、ラット中に免疫前の肝細胞を移植する方法は、Fah欠損ラット同士を交配させて、ホモ接合性Fah−ノックアウト子孫のみを発生させることを含む。妊娠語約9〜15日(例えば12日)で、Fah欠損ラット胎児は、外科的に外に取り出され、臍帯静脈を介して又は直接に胎児の肝臓に、異種の肝細胞を注入した。また、この方法は、遺伝子が組み替えられた免疫不全ラット胎児又は別の肝欠損症を有するラット胎児で行われる。
【0103】
ラットに注入される異種の肝細胞の数は、変更することができ、これは所望の使用、供給の経路及び別の因子に依存する。特定の実施形態では、約50,000個〜約1x10
8個、例えば約500,000個〜約1×10
7個の異種の肝細胞が、胎児に注入される。いくつかの例では、約1×10
6個〜約1×10
8個、例えば約1×10
7個の異種の肝細胞が、胎児に注入される。1つの非限定的な例では、胎児の肝臓に直接に、約1×10
7個の異種の肝細胞が胎児に注入される。別の例では、注入される異種の肝細胞の数は、約100,000〜約500,000、例えば約300,000である。胎児の発達中は免疫系が未熟であるため、胎児は、異種の肝細胞に免疫トレランスを発達させる。したがって、免疫抑制剤による胎児発達中に異種の肝細胞が移植されたラットを治療することは必要でない。
【0104】
1以上の実施形態では、妊娠したラットは、例えばNTBCその他の化合物等、フェニルピルビン酸ジオキシゲナーゼの薬理学的阻害剤の有効な量が維持され、妊娠を通してFah欠損胎児の中に肝機能不全又は障害が回避される。フェニルピルビン酸ジオキシゲナーゼの薬理学的阻害剤のドーズ量は、変更することができる。例示的な投薬量は、上で検討される。Fah欠損ラット中の肝機能不全を回避するに必要となるよう、NTBCのドーズを修正することができる。出生後は、異種の肝細胞が生着されたFah欠損ラットに
はNTBCの投与はされず、異種の肝細胞の増殖ができるようになる。いくつかの例では、Fah欠損ラットは、出生の直後にからNTBCをもはや投与されない。別の例では、NTBCのドーズは、例えば生後から約1〜6日、例えば1〜6日等、時間と共に徐々に低減される。
【0105】
2.肝細胞の出生後移植
ここに記載されるラットモデルに異種の肝細胞を増殖する第2の方法は、異種の肝細胞の出生後移植及び/又はラットへの肝細胞前駆体を含む。特定の実施形態では、ラットは、出生の後すぐ、例えば2日内に又は出生の1週内に、移植がされる。別の実施形態では、例えば成人ラットを含むより古いラットに移植される。異種の肝細胞は、肝動脈注入、脾臓内注入又は門静脈注入を介して一般に移植される。特定の実施形態では、Fah欠損ラットには、例えばNTBC又はメチルNTBC等の、フェニルピルビン酸ジオキシゲナーゼの薬理学的阻害剤が維持され、肝機能不全が抑制又は回避される。異種の肝細胞の移植の前に、ラットは、異種の肝細胞の拒絶反応を防止するために1つ以上の免疫抑制剤で治療することができる。典型的には、1つ以上の免疫抑制剤が、異種の肝細胞移植の約2日前に投与される。しかしながら、最適の結果を実現するために必要なら、免疫抑制剤で治療を開始するタイミングは変更することができる。免疫抑制剤の投与は、典型的には、有効量で無期限に継続し、異種の肝細胞の拒絶反応を回避する。
【0106】
異種の肝細胞の移植が完了した後、Fah欠損ラットは、NTBCをもはや投与されず、異種の肝細胞の増殖が可能になる。異種の肝細胞(Fah欠損ではない)の存在により、NTBCがない場合でも、ラットが健康なままでいることを可能にする。いくつかの事例では、NTBCによる治療は、肝細胞移植の直後に停止される。別の場合、例えば約1〜約6日にわたり、NTBCは時間と共に徐々に低減される。特定の実施形態では、Fah欠損ラットに投与する場合のNTBCのドーズは、1日当たり約0.2mg/kg〜約2.0mg/kgである。いくつかの例では、NTBCのドーズは、1日当たり約1.0mg/kgである。NTBCのドーズは、必要に応じて修正して、Fah欠損ラットの肝機能不全を回避することができる。
【0107】
B.異種の肝細胞の供給源
異種の肝細胞又は前駆体/祖先肝細胞のあらゆる適切な供給源は、ラットへの移植についてここに開示された方法で使用することができる。例えば、ヒト肝細胞は、哺乳類の各種生物種からの献体のドナー又は肝切除術から得ることができ、又は市販の供給源から得られることができる。ヒト肝細胞は、また、あらかじめ生着された動物から得られることができる(すなわち、肝臓がヒト肝細胞であらかじめ再び占められたヒト化動物、国際公開第2008/151283号及び国際公開第2010/127275号に開示されるヒト化FRG KOマウス等)。ヒト肝細胞をこの動物から単離させる方法が、ここに記載される。あらゆる年齢のドナーからの異種の肝細胞、又は低温保存された肝細胞を、ラットに移植することが可能であることが予測される。ヒト肝細胞の隔離と移植との間に、遅延(典型的には1〜2日)がしばしばあり、肝細胞の生存力の低下が引き起こされる。しかしながら、肝細胞の数が総計で限定される場合においても、ここに記載するラットシステムは、ヒト肝細胞を増殖する手段としての役目を果たすことができる。
【0108】
肝細胞を単離させる方法は、従来技術で周知である。例えば、肝細胞を器官ドナー又は肝切除術から単離させる方法は、国際公開第2004/009766号及び国際公開第2005/028640号、米国特許第6,995,299号及び同第6,509,514号に記載されている。肝細胞は、経皮的に又は腹部外科処置を介して取得される肝生検から得ることができる。レシピエントラットに移植用の異種の肝細胞は、従来技術で既知のあらゆる便利な方法により、哺乳類の肝臓組織から単離することができる。肝臓組織を機械的に又は酵素で分離して単一の細胞の懸濁液を提供しても、あるいは、損なわれていな
い肝組織の破片を用いてもよい。例えば、肝細胞は、ルーチンコラゲナーゼ灌流を行い(Ryanら、 Meth. Cell Biol. 13:29, 1976)、その後、低速の遠心分離を行うことにより、移植用提供組織から単離することができる。肝細胞は、ステンレス鋼メッシュで濾過を行った後、密度勾配遠心法を行うことにより、さらに精製される。あるいは、肝細胞を濃縮する別の方法、例えば、例えば、蛍光活性化された細胞の選別、パン、磁石ビーズ分離、遠心力場内の水ひ法等、従来技術で周知の全ての別の方法を用いることができる。同様の肝細胞単離法は、レシピエントラットの肝臓から増殖された異種の肝細胞を収集するために用いることができる。
【0109】
あるいは、Guguen−Guillouzoらにより記載される技術を用いて、異種の肝細胞を調製することができる(Cell Biol. Int. Rep. 6: 625−628,1982)。肝臓又はその一部は簡単に単離し、カニューレは門静脈又は門脈の分岐に導入される。次いで、肝臓組織は、カニューレを介して、カルシウムフリーな緩衝液で灌流された後、HEPES緩衝液中、塩化カルシウム溶液(約0.075%の塩化カルシウム等)中にコラゲナーゼ(約0.025%のコラゲナーゼ等)を含む酵素の溶液により、毎分30〜70ミリリットルの流速で37℃で灌流される。灌流された肝臓組織は、小さい(約1立方ミリメートル等)部分に細かく切り刻まれる。上記と同じ緩衝液中で、穏やかに攪拌をしながら10〜20分間37℃で酵素消化を継続して、細胞懸濁液を産生し、60〜80マイクロメートルのナイロンメッシュを用いて細胞懸濁液をろ過して、リリースされた肝細胞を収集する。次いで、pH7.0で緩やかな遠心分離を用いて常温のHEPES緩衝液中で、収集した肝細胞を洗浄し、コラゲナーゼ及び細胞デブリを除去する。非実質細胞を、メトリザミド勾配遠心分離によって除去してもよい(米国特許第6,995,299号参照)。
【0110】
肝細胞は、新鮮な組織(死亡から数時間以内に得た組織など)又は新鮮な状態で凍結された組織(約0℃以下で凍結及び保持された新鮮な組織など)から得ることができる。一部の用途に対しては、異種組織は、検出可能な病原体を有さないこと、形態学上及び組織学上正常であること、及び本質的に罹患がないことが好ましい。移植に用いる肝細胞は、例えば数時間以内といった直近に分離されたものであることができ、あるいは、その細胞が適切な保存媒体中に保持される場合には、より長期間を経た後で移植することができる。かかる媒体の1つが、VIASPAN(商標)(一般的な大動脈フラッシング用及び腹腔内臓器保存のための冷時保存用の溶液、ウィスコンシン大学溶液又はUWとも呼ばれる。)である。また肝細胞は、移植に先立ち冷凍保存することもできる。肝細胞の冷凍保存方法は本技術分野において周知であり、例えば米国特許第6,136,525号に記載される。
【0111】
臓器ドナー又は肝臓切除からの異種肝細胞の入手に加えて、移植に用いる細胞は、ヒト肝細胞などの哺乳動物の幹細胞、又は、被移植ラット中への移植の後に、増殖可能な肝細胞を発生させる、又はかかる肝細胞に分化する肝前駆細胞とすることができる。ES細胞特性を有するヒト細胞は、胚盤胞内部細胞塊(Thomsonら、 Science 282:1145〜1147、1998)及び発生する胚細胞(Shamblottら、 Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95:13726〜13731、1998)から分離されており、ヒト胚幹細胞が作製されている(米国特許第6,200,806号を参照のこと。)。米国特許第6,200,806号に開示されるように、ES細胞は、ヒト及び非ヒト霊長動物から作製することができる。また、ヒト及び非ヒト霊長動物細胞から誘導された人工多能性幹(iPS)細胞も得られる(例えば、Yuら、 Science 318(5858):1917〜1920、2007、Takahashiら、 Cell 131(5):861〜872、2007、Liuら、 Cell Stem Cell 3(6):587〜590、2008を参照のこと。)。一般的に、霊長動物のES細胞は、ES細胞培地の存在下で、マウスの胚線維芽細胞の集密
層上に分離される。ES細胞培地は、一般的に、20%のウシ胎児血清(FBS、Hyclone)、0.1mM β−メルカプトエタノール(Sigma)、及び1%の非必須アミノ酸ストック(Gibco BRL)を含む80%のダルベッコ改変イーグル培地(DMEM、ピルビン酸塩なし、高グルコース処方、Gibco BRL)から構成される。成体中に存在するコミテッド(committed)「多分化能」幹細胞と比較すると、ES細胞の際立った特徴としては、培養において無期限に未分化状態を保持するES細胞の能力、及びES細胞が有する、全ての異なる細胞の種類へと発生する潜在能力が挙げられる。ヒトES(hES)細胞は、特定のモノクローナル抗体により認識される糖脂質細胞表面抗原であるSSEA−4を発現する(例えば、Amitら、 Devel. Biol. 227:271〜278、2000を参照のこと。)。1つの、あるいは2つ以上の実施形態において、前記肝細胞は、ESC以外の供給源由来であることもできる。
【0112】
ヒト間葉系幹細胞(hMSC)由来のヒト肝細胞もまた、本願に記載される方法において使用することができる。骨髄由来のhMSCを連続して肝由来の因子に曝露することにより、当該幹細胞が肝細胞の特性を備える細胞へと分化することとなる(Snykersら、 BMC Dev Biol. 7:24、2007、Aurichら、 Gut.
56(3):405〜15、2007を参照のこと。)。骨髄由来の間葉系幹細胞及び脂肪組織由来の幹細胞(ADSC)の肝細胞への分化も報告されている(Talens−Viscontiら、 World J Gastroenterol. 12(36):5834〜45、2006を参照のこと。)。ヒト肝細胞は、単球からも作成することができる。Ruhnkeら(Transplantation 79(9):1097〜103、2005)は、最終的に分化した末梢血単球からの肝細胞様(NeoHep)細胞の作成を報告する。NeoHep細胞は、組織形態、肝細胞マーカーの発現、種々の分泌及び代謝機能並びに薬物の解毒活性の点で、一次ヒト肝細胞に類似する。加えて、羊膜細胞由来のヒト肝細胞も、本願記載の方法において用いることができる。
【0113】
肝細胞は、皮膚線維芽細胞などの別な細胞の種類の再プログラムによって誘導することもできる(Huangら、 Nature 475(7356):386〜389、2011)。
【0114】
ヒトES細胞株が存在し、これを本願に開示する方法において用いることができる。ヒトES細胞は、生体外受精した(IVF)胚由来の未着床胚から誘導することもできる。胚が日齢14日未満であれば、未使用の、IVFで作製したヒト胚に対する実験が、シンガポール及び英国などの多くの国で認可されている。高品位の胚のみが、ES細胞の分離に適する。ヒト胚の1つの細胞を、増殖した胚盤胞にまで培養するための培養条件が報告されている(Bongsoら、 Hum Reprod. 4:706〜713、1989を参照のこと。)。ヒト胚を卵管細胞と共培養すると、高い品位の胚盤胞が作製されることとなる。細胞共培養において、又は改良され明確化された培地中で生育されたIVF由来の増殖したヒト胚盤胞は、ヒトES細胞の分離を可能とする(米国特許第6,200,806号を参照のこと。)。
【0115】
C.移植されたラットからの異種肝細胞の集取
増殖した肝細胞は、本技術分野において公知の数多くの手法の任意の手法により、被移植ラットから集取することができる。例えば、ラットに麻酔をかけ、門脈又は下大静脈にカテーテルを挿入することができる。次に、肝臓を適当な緩衝液(0.5mM EGTA及び10mM HEPESを追加した、カルシウム及びマグネシウムを含まないEBSSなど)により灌流し、続いてコラーゲン分解酵素処理することができる(例えば、カルシウム及びマグネシウムを含み、1mg/mL コラーゲン分解酵素を追加したEBSS溶液を用いて)。消化された肝臓は動物から取り出され、細かく刻まれて、細胞の凝集体を分離し、均一な懸濁液を生成する。肝細胞を濃縮するために、細胞懸濁液はナイロンメッ
シュを通され(順に100μm、70μm及び40μmのナイロンメッシュを通すなどして)、次に低速度での遠心分離及び細胞の洗浄が行われる。
【0116】
本技術分野において周知の任意の手法を用いて、被移植ラットから集取された異種肝細胞を、ラットの細胞及び他の混入物(組織又は細胞の細片など)から分離することができる。例えば、かかる手法としては、異種肝細胞種に対して選択的に結合する抗体の使用が挙げられる。ヒト肝細胞に関する、かかる抗体としては、それらに限定されないが、抵ヒトHLA−A、B、C(Markusら、 Cell Transplantation
6:455〜462、1997)又はCD46抗体などの、特異的にクラスIの主要組織適合性抗原に結合する抗体が挙げられる。ヒト細胞又はヒト肝細胞に対して特異性を有する抗体は、蛍光標識細胞分取(FACS)法、パニング法又は磁気ビーズ分離法などの、様々な異なる手法において用いることができる。あるいは、ラット細胞に選択的に結合する抗体を用いて、混入する動物細胞を除去し、それによりヒト肝細胞を濃縮することもできる。FACS法は、より洗練された検出レベルの中でも、複数の色の経路、低角及び低感度光散乱検出経路、及びインピーダンス経路を用い、抗体が結合した細胞を分離すなわち選別する(米国特許第5,061,620号を参照のこと。)。磁気分離は、1)ヒト特異性抗体に接合した、2)ヒト特異性抗体に結合可能な検出用抗体に接合した、3)ビオチン標識された抗体に結合可能なアビジンに接合した、常磁性粒子の使用を伴う。パニング法は、アガロースビーズ、ポリスチレンビーズ、中空繊維膜又はプラスチックペトリ皿などの固体マトリックスに連結されたモノクローナル抗体を伴う。抗体が結合した細胞は、試料から単純に物理的に固体担体を分離することにより、試料から分離できる。
【0117】
ラットから集取された肝細胞は、例えば、後の使用のために凍結保存することができ、あるいは、輸送及び将来の使用のために、組織培養にプレーティングすることができる。
【0118】
D.肝臓再構成
本願に記載されるラットは、ヒト又は非ヒト哺乳動物における肝移植の代替手段又はこれを補助するものとして、肝臓を再構成するために用いることができる肝細胞を増殖させるためのシステムを提供する。現在、肝疾患を病む患者は、恐らく、移植に適した臓器が利用可能になるまで、長期間待たざるを得ないこととなる。移植後には、患者は、ドナーの肝臓の拒絶反応を避けてその生命を存続させるために、免疫抑制剤による治療を受ける必要がある。患者自身の存続している健康な肝細胞を増殖させる方法は、生存し続けるための免疫抑制を必要としない、機能し得る肝臓組織の供給源を提供することができることとなる。従って、本願に開示するラットは、肝疾患及び/又は肝不全を有するヒト及び非ヒト哺乳動物の両方の肝細胞を、ラット中で増殖させた、患者特異的幹細胞から作製される肝細胞を含む、彼ら自身の肝細胞を用いて、あるいはドナーからの肝細胞を用いて、再構成するために用いることができる。
【0119】
肝細胞の導入による、患者における肝臓組織の再構成(「肝細胞移植」とも呼ばれる)は、将来の肝臓移植を期待した上での一時的な治療、あるいは、孤立性代謝不全(isolated methabolic deficiencies)を有する患者に対する最終的な治療のいずれかとして、急性肝不全の患者に対する可能性のある治療の選択肢である(Bumgardnerら、 Transplantation 65: 53〜61、1998)。肝臓再構成治療を達成する上での主たる障害は、ホストによる移植された肝細胞の免疫的拒絶であり、(ホストとドナーの細胞が、遺伝的及び表現型的に異なる場合)「同種移植片拒絶」と呼ばれる現象である。免疫抑制剤は、同種移植片拒絶の防止に対して部分的に功を奏するのみである(Javreguiら、 Cell Transplantation 5: 353〜367、1996、Makowkaら、 Transplantation 42: 537−541、1986)。
【0120】
ラット中で増殖した肝細胞は、遺伝子治療用途にも使用することができる。広義には、かかる肝細胞は、ホストに移植されて遺伝子の欠陥を修正する。継代肝細胞は、必ずしもその必要はないが、元々は、被移植者となる同一の個人又は対象に由来することができる。
【0121】
一部の実施形態において、ラット中で増殖した異種肝細胞は、肝臓移植の前段階又は代替手段として、対象において肝臓組織を再構成するために用いられてもよい。1つの限定されない例として、例えばアルコール依存症の結果として、肝臓の進行性変性を病む対象は、肝細胞のドナーを務めることができ、その肝細胞をその後ラット中で増殖させる。肝細胞の数は、初めに対象から得られ、ラットに移植された数に比較して拡大する。増殖に続き、増殖した肝細胞はラットから分離され、対象の肝機能を再構成するために用いることができる。ラット中での肝細胞の増殖は、肝細胞の数を増加させるためだけでなく、感染性又は悪性疾患に罹患した肝細胞を選択的に除去するためにも用いられる。詳細には、対象が肝炎に罹患しており、肝細胞は全てではなくその一部が感染し、感染した肝細胞は、細胞中又はその表面上のウイルス抗原の有無によって識別することができるといったことが考えられる。かかる例においては、肝細胞は対象から集取することができ、1頭又は2頭以上のラット中での増殖に向けて、例えばFACS法によって、非感染の細胞を選別することができる。その間、患者における感染症を排除するために積極的な処置をとることも可能である。治療に続いて、対象の肝臓組織は、1頭又は2頭以上のラット中で増殖した肝細胞によって再構成することができる。類似の方法を、HCCなどの肝臓の悪性腫瘍に罹患した患者から非悪性細胞を選択的に継代するために用いることもできる。
【0122】
E.HT1のモデル
遺伝性チロシン血症1型(HT1)は、肝臓及び腎臓に影響を与える重症の常染色体劣性代謝疾患である。HT1は、ヒトにおいては染色体15のq23〜q25、マウスにおいては染色体7の位置におけるFah遺伝子中の欠陥から起こる。HT1の患者は、肝硬変に進展する幼少時からの肝臓障害、凝固因子の減少、低血糖症、血清プラズマの中のメチオニン、フェニルアラニン及びアミノレブリン酸の高濃度化、肝細胞癌の高い危険性、並びに尿細管及び糸球体の腎臓機能不全などの様々な臨床的な症状を示す。その重症の形態においては、ある種の進行性肝臓不全が早期の幼少時から始まる。その軽症の形態においては、肝細胞癌の高い発生率を伴う慢性肝臓不全が特徴である。
【0123】
Fah遺伝子破壊に対してホモ接合である動物は、肝機能不全によって起こる新生児期の致死性表現型を有する。Fah欠損マウスのNTBCによる治療により、肝機能が修復され新生児期の致死性が消滅することが、以前より論証されている。(Grompeら、
Nat Genet 10:453〜460、1995)。これらの動物における生存期間の延長は、肝細胞癌及び線維症の発生などの、ヒトにおけるHT1に対する表現型と類似する結果となる。従って、本願において開示されるFah欠損ラットは、また、ヒト疾患HT1の動物モデルでもあることを意味する。
【0124】
F.肝臓疾患モデル
上記に議論したように、ラットにおけるFah欠損は、ヒト疾患HT1に類似する疾患表現型に繋がる。死に至ることを防止するために、Fah欠損ラットは、NTBC又は肝機能不全を忌避する他の化合物を継続使用されるが、NTBCの用量滴定を用いて、HCC、線維症及び肝硬変などのHT1型の表現型の発生を促進することもできる。従って、本願に開示の種々の肝不全を有するラットは、HCC及び肝硬変などの種々の肝臓疾患を研究するために使用することができる。
【0125】
一部の実施形態において、ヒト化された肝臓を有するラットが、ヒト肝臓疾患の動物モデルとして用いられる。前記ラットは、例えば、毒性物質への曝露、感染性疾患又は悪性
腫瘍若しくは遺伝的欠陥(すなわち、HT1へ繋がるFah欠損)から起こる肝臓疾患のモデルとして用いることができる。前記ラットが、そのモデルとして役立つことができるヒトの遺伝性肝臓疾患の例としては、それらに限定されないが、高コレステロール血症、高トリグリセリド血症、高シュウ酸尿症、フェニルケトン尿症、楓糖尿症、グリコーゲン貯蔵疾患、リソソーム貯蔵疾患(ゴーシェ病など)、及び任意の先天性代謝異常が挙げられる。開示するモデル系は、個々の肝臓疾患のよりよい理解を得るために、及び、疾患の過程を防止する、遅延させる又は逆戻しすることができる薬剤を識別するために用いることができる。
【0126】
前記ラットが、毒性物質によって起こる肝臓疾患のモデルとして用いられる場合、Fah欠損ラットは、肝機能障害又は肝不全に対して効果のあるNTBC(又はNTBCと同様の肝臓保護効果を有する薬剤)を継続投与される。相当するヒトにおける状態に最も近い結果をもたらす毒性物質の必要量は、毒性物質の投与量を増加させながら、多くのラットをこれに曝露することによって決定することができる。毒性物質の例としては、それらに限定されないが、エタノール、アセトアミノフェン、フェニトイン、メチルドーパ、イソニアジド、四塩化炭素、黄リン及びファロイジンが挙げられる。いくつかの場合、毒性物質の効果を評価するためのモデルとして、ヒト肝細胞をもたないラットが用いられる。その他の例においては、ヒト肝細胞に対する毒性物質の影響を評価するために、ヒト肝細胞がラットに移植される。これらの例においては、肝機能を維持するために、Fah欠損ラットに、NTBCなどの肝臓保護のための薬剤を継続投与する必要はない。一般的には、ヒト肝細胞の増殖を、ヒト肝細胞集団の大きさが十分となる(例えば、最大値に近付く)時点まで進行させ、その後、ラットは毒性物質に曝露される。
【0127】
ラットが、悪性肝疾患(HCC又は肝細胞癌など)のモデルとして用いられることになる実施形態においては、Fah欠損ラットは、肝機能不全による致死を防止するために、NTBCなどの肝臓保護薬剤を十分に高い用量で投与されるが、HCC又は他の肝臓の悪性腫瘍を発生させる場合には、十分に低い用量で投与される。あるいは、Fah欠損ラットに肝機能を保持する薬剤を継続投与し、形質転換剤への曝露又は悪性腫瘍細胞の導入により悪性腫瘍を生成させることができる。いくつかの例においては、異種肝細胞を含まないラットが、悪性肝臓疾患のモデルとして用いられる。その他の例においては、ラットは、ヒト肝細胞を移植され、ヒト細胞の悪性肝臓疾患を評価する。これらの例においては、Fah欠損ラットにNTBCなどの肝臓保護薬剤継続投与する必要はない。形質転換剤又は悪性腫瘍細胞は、初期のヒト肝細胞の移植導入と共に導入されてもよいし、又は、ヒト肝細胞がホストラット中で増殖し始めた後に導入されてもよい。形質転換剤の場合、異種肝細胞が活発に増殖しているときに、形質転換剤を投与することが好ましいと思われる。形質転換剤の例としては、アフラトキシン、ジメチルニトロソアミン、及び0.05〜0.1%w/wのDL−エチオニンを含むコリン欠乏食(Farber及びSarma、1987、Concepts and Theories in Carcinogenesis中、Maskensら編、Elsevier、Amsterdam、pp. 185〜220)が挙げられる。かかる形質転換剤は、ラットに対して全身的に投与されるか、又は肝臓そのものに投与されるかのいずれかであってよい。悪性腫瘍細胞は、直接肝臓に接種することができる。
【0128】
G.肝臓感染症のためのモデル
被移植ラット中で増殖し、該ラットから集取された肝細胞は、様々な微生物学的研究にも使用することができる。多数の病原体(例えば、細菌、ウイルス及び寄生生物)は、ヒトホスト中すなわち一次ヒト肝細胞中のみで増殖することとなる。従って、十分な一次ヒト肝細胞の供給源を有することは、これらの病原体の研究にとって重要である。増殖したヒト肝細胞は、ウイルス性感染症及びウイルスの増殖の研究又は肝炎ウイルスの感染を変調する化合物を識別するための研究に用いることができる。一次ヒト肝細胞を肝炎ウイル
スの研究に用いる方法が、例えば、欧州特許出願公開第1552740号、米国特許第6,509,514号及び国際公開第00/17338号に記載される。肝炎ウイルスの例としては、A型肝炎ウイルス、B型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)及びサイトメガロウイルス(CMV)が挙げられる。肝臓に入る寄生生物の例としては、例えば、マラリアの病原体(Plasmodium falciparum、Plasmodium vivax、Plasmodium ovale、Plasmodium
malariae及びPlasmodium knowlesiなどのPlasmodium種)及びリーシュマニア症の病原体(L. donovani、L. infantum、L. chagasi、L. mexicana、L. amazonensis、L. venezuelensis、L. tropica、L. major、L. aethiopica、L. (V.) braziliensis、L. (V.) guyanensis、L. (V.) panamensis、及びL. (V.) peruvianaなどのLeishmania種)が挙げられる。
【0129】
ラット中で増殖したヒト肝細胞を微生物学的研究に用いることに加えて、ラットそのものが肝炎病原体感染の動物モデルとして役立つことができる。例えば、ヒト肝細胞を再増殖されたラットは、肝炎病原体に感染させることができ、当該感染症の治療のための候補薬を選抜するために用いることができる。候補薬としては、有機低分子化合物などの、多数の化学上の分類の任意の1種の中の任意の化合物が挙げられる。また、候補薬としては、例えば核酸分子(アンチセンスオリゴヌクレオチド、小さい干渉RNA、マイクロRNA、リボザイム、低分子ヘアピン型RNA、発現ベクター及びその他など)、ペプチド及び抗体、糖類、脂肪酸、ステロイド、プリン、ピリミジン、それらの誘導体、構造的類似体又はそれらの組み合わせも挙げられる。
【0130】
候補薬は、合成化合物又は天然化合物のライブラリなどの多様な供給源から得ることができる。例えば、広範な有機化合物及び生物分子の無作為な合成又は目的合成に対して、無作為化されたオリゴヌクレオチド及びオリゴペプチドの発現などの、多数の手段が利用可能である。あるいは、細菌、真菌、植物及び動物の抽出物の形態での天然化合物のライブラリが利用可能又は容易に製造される。加えて、天然の又は合成的に製造されたライブラリ及び化合物は、従来の化学的、物理的及び生物学的手段を通して容易に改変され、それらを用いて、組み合わせのライブラリをつくることができる。公知の薬理的物質は、アシル化、アルキル化、エステル化、アミド化などの、目的的な又は無作為の化学的改変に供され、構造的類似体を製造することができる。
【0131】
HCV及びHBV感染症を研究するために、並びにこれらの感染症の治療のための候補薬を評価するためのラットの使用を以下に議論する。しかし、これらの方法は、任意の、対象とする肝疾患の病原体に対して適用することができる。1つの実施形態において、ラットは、ウイルス感染を抑制する薬剤、ウイルスの増殖を低減する薬剤、及び/又は、1つ又は2つ以上のHBV又はHCV感染により生じる症状を改善する薬剤を識別するために用いられる。一般的に、候補薬はラットに投与され、候補薬の効果が対照実験との比較において評価される。例えば、候補薬がHCV感染ラットモデルに投与され、治療を受けたラットのウイルス力価(例えば、血清試料のRT−PCRによって測定される)が、治療前のラットのウイルス力価、及び/又は治療を受けないHCV感染ラットのウイルス力価と比較され得る。感染し、その後候補薬を用いた治療を受けたラットのウイルス力価における検出可能な低下によって、当該薬剤の抗ウイルス活性が示される。
【0132】
候補薬は、当該薬剤の送達に適した任意の好適な方法で投与し得る。例えば、候補薬は、注射により(静脈内に、筋内に、皮下に、又は目標組織へ直接注射することによるなど)、経口投与により、又は任意のその他の望ましい手段で投与することができる。いくつかの場合において、生体内での選抜は、候補薬の量及び濃度を変化させ(薬剤なしから、
動物に安全に送達可能な量の上限に近づく薬剤の量まで)、それを受け入れる多数のラットを必要とすることとなり、また、異なる処方及び経路での薬剤の送達を伴ってもよい。候補薬は、単独で投与することができ、又は、特に組み合わせによる薬剤の投与が相乗的な効果をもたらし得る場合には、2種又は3種以上を組み合わせて投与することもできる。
【0133】
候補薬の活性は、本技術分野で公知の多様な手段の任意の1つを用いて評価することができる。例えば、ラットが肝臓指向性病原体(例えば、HBV又はHCV)に感染している場合、薬剤の効果は、病原体の有無について(例えば、ウイルス力価を測定する)、又は病原体の有無に関係するマーカーについて(例えば、病原体特異性のタンパク質又はそれをコードする核酸)、血清試料を検査することによって評価することができる。ウイルス感染の有無及び重篤度の検出及び評価のための定性的及び定量的方法は、本技術分野で周知である。ひとつの実施形態において、HBV感染症に対する薬剤の活性は、血清試料及び/又は組織切片を、ウイルス抗原(HBV表面抗原(HBsAg)又はHBV核心抗原(HBcAg)など)の有無について検査することにより評価することができる。他の実施形態において、ウイルス感染症に対する薬剤の活性は、ウイルスの核酸(HCV RNAなど)の有無について、血清試料を検査することにより評価することができる。例えば、HCV RNAは、例えば、逆転写酵素重合酵素連鎖反応(RT−PCR)、競争的RT−PCR又は分岐DNA(bDNA)アッセイ、RT−PCRによるネガティブ鎖RNA(HCVの増殖中間体)の検出、又は、治療によるウイルスゲノムにおける変異/シフト(「疑似種進化」)を検出するためのウイルスRNAの配列決定を用いて検出することができる。上記に代えてあるいは上記に加えて、ホストの肝臓を生検し、in situ RT−PCR ハイブリダイゼーションを実施し、組織切片におけるウイルス粒子の量の定性的又は定量的変化を直接証明してもよい。上記に代えてあるいは上記に加えて、ホストを安楽死させ、その肝臓を組織学的に、感染及び/又は当該薬剤によって引き起こされる毒性の痕跡について検査することができる。
【0134】
本願に記載されるラットモデルは、候補ワクチンを、その肝臓指向性病原体による感染症を予防する又は改善する能力について選別するために用いることもできる。一般的に、ワクチンは、投与に続いて、ホストが標的病原体に対する免疫応答を開始することを促進する薬剤である。誘発された液性、細胞性、又は液性/細胞性免疫応答は、ワクチンの開発対象である病原体による感染症の抑制を促進することができる。本開示において特に対象とするのは、肝臓指向性病原体(例えば、細菌、ウイルス、又は寄生病原体)、特にHBV及び/又はHCVなどのウイルス病原体による感染、及び/又は前記病原体の肝臓内での増殖を抑制する免疫応答を誘発するワクチンである。
【0135】
候補ワクチンを評価するために、ラットはヒト肝細胞を移植され、ラットの肝臓をヒト肝細胞により再増殖させる。有効なワクチンの選抜は、前述の選抜方法と同様である。一部の実施形態において、肝臓指向性病原体の植菌に先立って、候補ワクチンがラットに投与される。いくつかの場合において、候補ワクチンは、一回の急速投与(例えば、腹腔内又は筋内注射、局所投与、又は経口投与)を施すことにより投与され、その後、任意に1種又は2種以上の追加免疫化処置を行う。免疫応答の誘発は、当技術分野において周知の方法に従って、抗原/ワクチンに特異的なB又はT細胞応答を検査することにより評価することができる。次に、免疫化されたラットは、肝臓指向性病原体を負荷される。一般的には、病原体力価を増加させながら数頭のラットが負荷される。次に、ラットは、感染症の発症を観察され、感染症の重篤度が評価される(存在する病原体の力価を評価する、又は、ヒト肝細胞の機能パラメータを検査することによるなど)。負荷後に起こる、当該病原体による感染の顕著な低下、及び/又は疾患の重篤度の顕著な低下を与えるワクチン候補が、ウイルスワクチンとして識別される。
【0136】
H.薬理、毒性及び遺伝治療の研究
上記のラットモデル、及び/又は当該ラット中で増殖し及びそこから集取された異種肝細胞は、低分子、生物学的製剤、環境上の若しくは生物学上の毒物又は遺伝子導入系などの、任意の薬理化合物による遺伝発現の変質を、かかる肝細胞中で評価するために用いることができる。
【0137】
例えば、ラット中で増殖し及びそこから集取されたヒト肝細胞は、ヒト細胞中で個々の物質の毒性を評価するために用いることができる。分離された肝細胞における化合物の毒性の試験方法は本技術分野において周知であり、例えば、国際公開第2007/022419号に記載される。同様に、ヒト肝細胞を移植されたラットは、外因性の物質の毒性を評価するために用いることができる。一部の実施形態において、外因性の物質は、公知の毒物又は毒性が疑われる物質である。
【0138】
一部の実施形態において、ヒト肝細胞を移植されたラット(又は、ラット中で増殖し及びそこから集取されたヒト肝細胞)は、多数の薬物代謝及び薬物動態パラメータの任意の1つを評価するために用いられる。例えば、薬物代謝、生体内における薬物/薬物相互作用、薬物半減期、排出/除去の経路、尿、便、胆汁、血液又は他の体液中の代謝物、チトクロームp450誘発、腸肝再循環、及び酵素/輸送体誘発を評価するための研究を行うことができる。
【0139】
一部の実施形態において、ヒト肝細胞を移植されたラット(又は、ラット中で増殖し及びそこから集取されたヒト肝細胞)は、治療のための薬剤若しくは候補薬(低分子、生物学的製剤など)、環境上の若しくは生物学上の毒物、又は遺伝子導入系などの化合物の毒性及び安全性を評価するために用いられる。例えば、増殖したヒト肝細胞における細胞周期増殖を評価し、前記化合物への曝露の後に癌の危険性を特定することなどができる。組織診、枯死指数、肝機能試験、遺伝発現分析、代謝分析他によるなどして、肝細胞に対する毒性も評価することができる。安定な同位体前駆体を感染させた後の代謝分析などの肝細胞代謝の分析も行うことができる。
【0140】
個々の薬剤の効能も、ヒト肝細胞を移植されたラット中で評価することができる。かかる薬剤としては、例えば、高脂血症/アテローム性動脈硬化症、肝炎及びマラリアの治療薬が挙げられる。
【0141】
一部の実施形態において、ヒト肝細胞を移植されたラット(又は、ラット中で増殖し及びそこから集取されたヒト肝細胞)は、遺伝子治療計画及びベクターを研究するために用いられる。例えば、ウイルス及び非ウイルスベクターなどの遺伝子送達ビヒクルの形質導入効率、組込み頻度及び搭載遺伝子の位置(組込み部位分析)、搭載遺伝子の機能性(遺伝子発現レベル、遺伝子ノックダウン効率)、並びに搭載遺伝子の副作用(遺伝子発現の分析すなわち生体内でのヒト肝細胞におけるプロテオミクス)、のパラメータを評価することができる。
【0142】
IV.ウロキナーゼをコードするベクター
本願記載の方法の一部の実施形態において、ラットは、異種肝細胞の移植に先立って、ウロキナーゼをコードするベクターを投与される。ウロキナーゼの異所的発現は、肝細胞の死を誘発して、それに続く肝臓の再生を促進し、そのために、肝細胞の生着効率を補助することができる(Lieberら、 Proc Natl Acad Sci USA
92:6210〜6214、1995)。
【0143】
1つの実施形態において、前記ウロキナーゼ(ウロキナーゼプラスミノーゲン活性化剤(uPA)としても知られる)は、ヒトウロキナーゼの分泌された形態である。他の実施
形態において、ウロキナーゼは、改変された、分泌されたものではないウロキナーゼの形態である(米国特許第5,980,886号を参照のこと。)。動物中でのウロキナーゼの発現に好適な任意の型のベクターが考えられる。かかるベクターとしては、プラスミドベクター又はウイルスベクターが挙げられる。好適なベクターとしては、それらに限定されないが、DNAベクター、アデノウイルスベクター、レトロウイルスベクター、疑似型レトロウイルスベクター、AAVベクター、テナガザル類人猿白血病ベクター、VSV−Gベクター、VL30ベクター、リポソーム媒介ベクター、及びその他が挙げられる。1つの実施形態において、ウイルスベクターは、アデノウイルスベクターである。アデノウイルスベクターは、任意のアデノウイルス血清型(それらに限定されないが、Ad2及びAd5など)などの、任意の適当なアデノウイルスに由来することができる。アデノウイルスベクターは、第1世代、第2世代、第3世代及び/又は第4世代のアデノウイルスベクター又は情弱なアデノウイルスベクターとすることができる。非ウイルスベクターは、種々の構造の、プラスミド、リン脂質又はリポソーム(カチオン系及びアニオン系)によって構成されることができる。他の実施形態において、ウイルスベクターはAAVベクターである。AAVベクターは、本技術分野において公知の任意の好適なAAVベクターとすることができる。
【0144】
ウロキナーゼをコードするウイルスベクター及び非ウイルスベクターは、本技術分野において周知である。例えば、ヒトウロキナーゼをコードするアデノウイルスベクターが、米国特許第5,980,886号に、及びLieberら(Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 92(13):6210〜4、1995)によって記載される。米国特許出願公開第2005−176129号及び米国特許第5,585,362号は、組換え型アデノウイルスベクターを記載し、米国特許第6,025,195号は、肝臓特異的な発現のためのアデノウイルスベクターを開示する。米国特許出願公開第2003−0166284号は、対象とする、ウロキナーゼなどの肝臓特異的な遺伝子発現のためのアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを記載する。米国特許第6,521,225号及び第5,589,377号は、組換え型AAVベクターを記載する。国際公開第02/44393号は、ヒトウロキナーゼプラスミノーゲン活性化剤遺伝子を含むウイルス及び非ウイルスベクターを記載する。ヒトウロキナーゼ遺伝子の高いレベルの発現が可能な発現ベクターが、国際公開第03/087393号に開示される。前述の特許及び公開のそれぞれは、参照により本願に援用される。
【0145】
ウロキナーゼをコードするベクターは、任意に、適当なプロモータ、エンハンサ、転写終結因子、タンパク質コード化遺伝子の前の開始コドン(すなわちATG)、イントロン及びmRNAの適正な翻訳を可能にするその遺伝子の正しい読み枠の保持のためのスプライシング信号、及び終止コドンなどの発現制御配列を含むことができる。一般的に、発現制御配列は、転写を指示するために十分な最小限の配列であるプロモータを含む。
【0146】
発現ベクターは、複製起点、プロモータ、並びに形質転換細胞の表現型の選択を可能にする特定の遺伝子(抗生物質抵抗性カセットなど)を含むことができる。一般的には、発現ベクターはプロモータを含むこととなる。プロモータは、誘導性又は構成的であることができる。プロモータは組織特異的であることができる。好適なプロモータとしては、チミジンキナーゼプロモータ(TK)、メタロチオネインI、多面体、ニューロン特異性エノラーゼ、チロシンヒドロキシラーゼ、ベータ−アクチン、又は他のプロモータが挙げられる。1つの実施形態において、プロモータは、異種プロモータである。
【0147】
一例において、ウロキナーゼをコードする配列は、所望のプロモータの下流に位置する。任意に、エンハンサ要素も含まれ、エンハンサ要素は、一般的にベクター上のいずれにも位置でき、それでも転写促進効果を有する。しかし、活性の増加量は、一般的に距離と共に減じられる。
【0148】
ウロキナーゼをコードするベクターは、それらに限定されないが、静脈内投与、腹腔内投与又は門脈を介した血管内注入などの様々な経路により投与することができる。投与されるベクターの量は一様ではなく、通例の実験法を用いることにより決定することができる。1つの実施形態において、ラットは、ウロキナーゼをコードするアデノウイルスベクターを約1×10
8〜約1×10
10プラーク形成単位、例えば約5×10
9プラーク形成単位の用量で投与される。
【0149】
1つの実施形態において、ラットは、ヒトウロキナーゼをコードするアデノウイルスベクターを投与される。アデノウイルスベクターは、非常に高い感染性粒子の力価のものまで作成することができる、多種多様な細胞に感染する、分裂していない細胞に対して効率的に遺伝子を移入する、及びゲストのゲノム内に殆ど組み込まれず、これにより、挿入変異による細胞の形質転換の危険性を回避する(Douglas及びCuriel、Science and Medicine、3月/4月 1997、44〜53ページ、Zern及びKresinam、Hepatology:25(2)、484〜491、1997)などの、他の型のウイルスベクターに対するいくつかの利点を有する。ウロキナーゼをコードするために用いることができる代表的なアデノウイルスベクターは、Stratford−Perricaudetら(J. Clin. Invest. 90: 626〜630、1992)、Graham及びPrevec(In Methods in Molecular Biology: Gene Transfer and Expression Protocols 7: 109〜128、1991)、及びBarrら(Gene Therapy、2:151〜155、1995)によって報告される。
【0150】
記載される実施形態の更なる利点は、実施例に基づいて、当業者に対して明らかにされることとなる。
【実施例】
【0151】
以下の実施例は、ある特定の特徴及び/又は実施形態を例証するために提示される。これらの実施例は、本開示を、記載された特定の特徴又は実施形態に限定すると解されるべきではない。
【0152】
実施例1
AAV−rFAH:PGK−NEOヌルターゲッティングベクターの作成及びFAH KOラットES細胞の作製
ラットFAH KO構築物は、FAH遺伝子のエキソン3を標的とする。ラットES細胞ゲノムDNAを、ターゲティング構築物のための5’及び3’FAH相同性領域を作成するために用いた。エキソン3の上流1.5kbのフォワードプライマー(イントロン1〜2、表1)、及びFAH遺伝子のエキソン3内54bpで終える終止コドンを含むリバースプライマー(配列番号1、
図1)を用いて、5’FAH相動性領域を作成した。エキソン3内の90bpで開始し、イントロン4〜5内で終えるフォワードプライマー(1.5kb、表1)を用いて3’FAH相同性領域を作成した。2つの1.5kbのPCR産物をクローン化し、配列決定し、PGK:NEOセレクションカセットに結合し、合計4.7kbとなった(
図2)。ターゲッティングカセットのヌクレオチド配列を配列番号2として、本願に示す。
【0153】
前記4.7kbの断片を、pcDNA3.1ベクターに結合し、これを直線化し、ラット208D線維芽細胞に遺伝子導入して、NEO耐性を試験した。500μg/mL G418、1週間により、細胞を選択した。耐性の208Dクローンを得た。次に、前記4.7kbカセットをpAAV2シャトルベクターに結合し、完全なFAHカッセトを含む
クローンを選択し、組換えAAVを作成した。AAV−rFAH:PGK−NEO構築物を内部反復配列が未変化であることについて確認し、配列決定した後、AAVの作製に用いた。
【0154】
【表1】
【0155】
精製された高力価ワイルスを増殖させ、ラット胚幹細胞を形質導入するために用いた。組換えFAH KOクローンは、100μg/mLのG418を用いて選択した。選択下で生育可能なES細胞クローンをさらに増幅し、ゲノムDNAを分離した。95 G418選択クローン由来のES細胞クローンを、組み込み部位の5’末端又は3’末端に対するFAH特異的プライマーを用いたPCRによって決定された適正なラットゲノムの座位に組み込んだ。10個のESクローンをさらにサザンブロット解析により検証して、FAH KOカセットの適正なゲノム組み込みを確認した(
図3)。始めにEAクローンを解凍し、24ウェルプレートの同等のウェル中で増殖させた。それぞれのクローン毎に1つのウェルを回収し、ペレット化し、液体窒素中で凍結し、その後、使用の準備ができるまで−80℃で貯蔵した。細胞ペレットをSDSにより溶解し、タンパク質を消化させ、ゲノムDNA(gDNA)を飽和塩化ナトリウム水溶液及びイソプロパノールにより沈殿させることにより、試料からゲノムDNAを分離した。各クローン由来の約20μgのgDNAを、制限エンドヌクレアーゼBgl IIにより消化させ、その試料を、0.7%アガロース:トリス−ボレート−EDTAゲル上で45ボルトにおいて6時間電気泳動した。DNAを脱プリン化に供し、その後アルカリ性転写緩衝液によるキャピラリー転写に供した。組換えFRG KOクローンを、
32P標識したプローブを用いたナイロン膜のハイブリダイゼーションにより同定し、これにより、迅速にFRG KO:PGK−ネオマイシンカセットの3’末端と位置付けられた。
図4は、組込まれたターゲッティングカセットを有するrFah遺伝子の概略図である。ノックアウト組換えクローンは、7.9Kbの特有な断片によって識別された。結果を
図5〜6に示す。
【0156】
図5(a)により、相同的組換えによる組込みが確認される。5’FAH+NEO(リバース)及び3’FAH+NEO(フォワード)プライマーを用いることにより、両隣接部は、相同的組換えによるエキソン3への組込みに対して予見されたように、未変化であることが確認された。
図5(b)は、試料中にDNAが存在することを確認する、対照のゲルである。
図6は、rFah遺伝子の野生型及び標的領域のKOゲノムの概略図を、F
ahプローブを用いたサザンブロットと併せて示す。標的としない及び標的とした対立遺伝子の両方が視覚化され、予想されたバンドの大きさを有する。これにより、クローン11、15、及び18中のラットFah座位の適切なターゲッティングが行われたことが確認される。
【0157】
標的としたFAHノックアウトES細胞は、Tongら(Nature 467(7312):211〜213、2010)によって報告される操作法を用いて、Fah KOラットを作成するために用いることができる。
【0158】
実施例2
FAH KOラットの作成及びヒト肝細胞の移植
FAH KO ES細胞をラット胚盤胞に注射し、次にこれをE3.5偽妊娠SDラットに移植することによって、FAH KOラットを作成した。これらのラットからのキメラの後代を繁殖させて、ジャームライントランスミッションによりヘテロ接合性のFAH
KOラットを作成する。次に、ヘテロ接合体の雄と雌をさらに繁殖させてFAHノックアウトラットを作成する。FAH遺伝子の欠失により、肝臓障害の誘発が可能になり、移植されたヒト肝細胞による、高いレベルでの肝臓の生着及び再増殖を促進する。
【0159】
ヒト肝細胞の移植に先立ち、プラスミノーゲン様ウロキナーゼ酵素を発現する組換えアデノウイルスの投与により、ラットに急性肝臓障害を誘発させる。24時間後に、脾臓内注射を介してヒト肝細胞を送達し、肝細胞は血管系を通して移動して肝臓に到達する。加えて、移植の前、最中及び後に、ラットに免疫用抑制剤を与え、ラットにおいて、異種移植されたヒト肝細胞からの対移植片宿主応答を排除する。限定した期間、ラットへのNTBCの投与を停止することにより、ラット細胞は活動を止めた状態となって、ヒト細胞は増殖の面で有利となり、これがラット肝細胞のヒト肝細胞による置換を引き起こし、肝臓における高いレベルのヒトキメラ性を有するラットを生み出す。ヒト肝細胞の再増殖レベルは、ヒト血清のアルブミン濃度及びその他のヒト特異性マーカーの定量によって決定され、また、移植を受けたラット由来の肝臓切片の免疫組織化学と関係付けられる。
【0160】
実施例3
Il2rg構築物の作成
ラットIl2rg構築物は、Il2rg遺伝子のエキソン3を標的とする。ラットES細胞ゲノムDNAを、ターゲティング構築物のための5’及び3’Il2rg相同性領域を作成するために用いた。エキソン3の上流1.46kbのフォワードプライマー(表2)、及びIl2rg遺伝子のエキソン3内側40bpで終える終止コドンを含むリバースプライマーを用いて、5’Il2rg相同性領域を作成した。エキソン3の40bpを含み、エキソン6内で終えるフォワードプライマー(1.5kb、表2)を用いて3’Il2rg相同性領域を作成した。2つの1.5kbのPCR産物をクローン化し、配列決定し、PGK:NEOセレクションカセットに結合し、実施例1において述べたFAH構築物と類似の合計4.7kbとなった。構築物を配列決定し、ウイルス作製に用いた。
【0161】
【表2】
【0162】
実施例4
ヒト化マウス由来の肝細胞の灌流及び分離
この実施例においては、ヒト肝細胞を、ヒト肝細胞を再増殖された遺伝子組換えマウス(FRG KOマウス)から分離した。マウスから分離したヒト肝細胞は、実施例5に記載される研究に用いた。
【0163】
高度に再増殖されたマウス(FRG ノックアウトマウスモデル、Yecuris Corporation、国際公開第2008/151283号及び国際公開第2010/127275号参照、アルブミン濃度=4.37mg/mL、NTBC状況:0mg/L)の原位置肝臓から、コラーゲン分解酵素灌流法を用いて肝細胞を分離した。まず、マウスに麻酔し、次に水分を吸収する表面上に固定した。開腹し、門脈にカニューレを挿入した。次に、肝臓を脱色し、血液凝固を一切排除するために、肝臓をカルシウム又はマグネシウムを含まないEBSS、10mM pH7.4ヘペス及び0.5mM EDTAにより灌流した。次に、カルシウム及びマグネシウムを含むEBSS中1mg/mL コラーゲン分解酵素II型溶液及び10mM pH7.4ヘペスを用いて8分間、肝臓が完全に消化されるまで肝臓を灌流した。次に肝臓をペトリ皿に取り出し、ピンセット及び鋏を用いて均一な懸濁液へと解離させた。次に、5mLの灌流媒体(DMEM+10% ウシ胎児血清)を用いてコラーゲン分解酵素を失活させた。
【0164】
25mLの無菌ピペットを用いて、肝臓懸濁液を100ミクロンのフィルタを通して50mLの管に移した。次に、ペトリ皿を灌流媒体によって洗浄し、その洗液を、フィルタを通して前記の50mLの管に移した。灌流媒体により管内の容量を45mLに調整し、均一な溶液を確保するために、2〜3回転倒した。次に、この細胞懸濁液を70ミクロンのフィルタを通して、新しい50mLの管に移した。細胞を、4℃、140×gで5分間遠心分離した。上清を注意深く吸い出し、細胞ペレットを10mLの灌流媒体中に再懸濁させた。いずれの細胞凝集をも解離させるために、細胞懸濁液を合計5回、10mLピペットに通した。懸濁液の容量を灌流媒体によって45mLに調整した。細胞を、4℃、140×gで5分間遠心分離して、ペレット化した。これを細胞ペレットの第1回目の洗浄と見なす。このステップをもう一度繰り返す。最後の細胞の遠心分離の後、細胞を10mLの灌流媒体中に再懸濁させ、ピペットを5回通し、灌流媒体により容量を45mLに調整した。次に、細胞懸濁液を1:2で灌流媒体中で希釈し、血球計算器チャンバ中で、トリパン青を用いて計数した。結果を以下に一覧として示す。
【0165】
【表3】
【0166】
FACS分析に使用する細胞(2.25×10
6)を無菌の15mL管に移し、灌流媒体により容量を10mLに調整した。
【0167】
【表4】
次の細胞数をラットへの移植のために取り除いた。
【0168】
【表5】
2つの管の間で容量を等量とした。4℃、140×gで5分間により細胞をペレット化した。上清を吸い出し、ペレットを、示した容量の明示した媒体中に再懸濁させた。
【0169】
【表6】
【0170】
%ヒト肝細胞を測定するためのFACS分析
4×200μLの、FACS分析に用いる細胞懸濁液を1.5mLのミクロ管に分注した(各管は約400,000個の細胞を含んでいた。)。次に、以下の一次抗体を各管に添加した:#1=なし、負の対照;#2=2μLのHLA ABC;#3=2μLのOC2−2F8及び2μLのOC2−2G9;及び#4=2μLのHLA ABC、2μLのOC2−2F8及び2μLのOC2−2G9。
【0171】
管を指で弾いて溶液を混合し、続いて氷上で30〜60分間、細胞を懸濁状態に保つために5〜10分毎に指で弾きながら培養した。1mLの灌流媒体を各管に添加し、数回転倒することにより混合して、一次抗体を洗い流した。4℃、100×gで3分間の遠心分離により細胞をペレット化した。上清を吸い出し、次に各細胞ペレットを、850μLの灌流媒体、8.5μLのストレプトAPC、及び8.5μLの抗ラットPEからなる200μLの二次抗体溶液中に再懸濁させた。管を指で弾いてこの溶液を混合し、続いて氷上で30〜60分間、細胞を懸濁状態に保つために5〜10分毎に指で弾きながら培養した。
【0172】
1mLの灌流媒体を各管に添加し、転倒することにより混合して、二次抗体を洗い流した。次に管を4℃、100×gで3分間遠心分離して細胞をペレット化し、続いて上清を吸い出し、各細胞ペレットを、5μLのPI、4μLの0.5M EDTA、及び1mLの灌流媒体からなる200μLのPI溶液中に再懸濁させた。FACS分析により、マウスの肝臓中でのヒト肝細胞による再増殖のパーセンテージは91%と測定された。
【0173】
実施例5
ヒト肝細胞の免疫不全ラットへの生着
ラットにおいて、部分的肝切除を用いずに肝臓のヒト化が成功裡に試みられた例はない。この実施例においては、ヌード(RNU)ラットにAd:uPaを注射し、アナキンラを含むヒト肝細胞を移植し、FK506による治療を行うことにより、部分的肝切除を行わずに、ヒト肝細胞の再増殖を行った。
【0174】
40頭のヌードラットの子(2週齢)をCharles Riverより入手し、研究を開始するまでに1週間順化させた。ラットを、+又は−免疫抑制群に、それぞれの群に対する対照と共に割り当てた(下記の表3参照)。+免疫抑制群に割り当てられたラットは、2mg/kg/日のFK506(タクロリムス)の皮下投与による治療を研究の間を
通して受け、初期の用量は、研究開始の時点における平均の初期の動物の体重である50gに基づいて、1日当たり20μLの5mg/mL FK506(腹腔内注射)であった。−免疫抑制群のラットには、FK506による治療を行わず、研究期間を通して同量の生理食塩水を皮下注射した。その後、肝細胞の注射の48〜96時間前に、全てのラットに、uPAアデノウイルス(ラット50g当たり2.5×10
9プラーク形成単位(PFU))の静脈内注射(後眼窩)を行った。
【0175】
FK506の最初の投与が行われた21日後に、今度は、ラットに、プラセボ(PBS)又はヒト肝細胞の細胞懸濁液を、下記の表3に従ってアナキンラと共に脾臓内注射し、その後に、1μg/mL(5μL/g)のブプレネックスストック及び1.25mg/mL(200μL)のセフチオファの術後投与を行った。ヒト肝細胞は、実施例4において説明したように、ヒト化されたマウスから灌流された。
【0176】
【表7】
【0177】
肝細胞の注射の24時間後に、全てのラットに、アナキンラ(10μL/2510μL/25g)、ブプレネックス(5μL/g)及び1.25mg/mL(200μL)のセフチオファを注射し、次に、48時間後に再度術後投与を行った。手術の3日後に、各ラットから2μLの血液を採取した(伏在静脈血)。前記血液を1mLのELISA緩衝試料希釈液中で希釈した。その後、試料を、定量的ヒトアルブミンELISAによりヒト血清アルブミン(hSA)について試験した。この過程を研究期間中毎週繰り返した。最初のELISAからの分析は、実験試料の平均光学密度の示度(450nm)はPBSを注射した対照のそれの2倍であることを示した。−FK506、1×10
6細胞注射と、+FK506、3×10
6細胞注射との両方で、最高の光学密度の示度0.027であった。ヒトアルブミン濃度の範囲がELISA標準曲線の直線範囲を下回ったにも拘わらず、試料はなおヒトアルブミンに対する検出可能な光学密度の示度を示した。
【0178】
研究開始2週間後に、動物の体重増加のために、FK506の用量を5mg/mLの30μLにまで増加させた。研究開始4週間後に、ラットの成長に合わせるために、FK506の用量を再度10mg/mLの25μLにまで増加させた。
【0179】
肝細胞の注射の4週間後(研究開始後約5週間)に、少なくとも50μLの全血をラットから採取し、室温で1時間凝固させた。その全血を1,500rpm×15分間で遠心分離して、血清を採取した。その後、血清を1:25及び1:50で希釈して、ELISAを介したhSA試験に用いた。また、+FK506治療群中の無作為に選んだラット6頭から5μLの全血も採取した。5頭の動物の試験が、ヒトアルブミンについて、血清において12と70ng/mLの間の範囲の陽性であった。1つの全血試料(#33)の試験が、ヒトアルブミンについて220ng/mLで陽性であった。ラットの体重を再測定し、+免疫抑制のラットは、それに相対するラットに比較して著しく小さいことが判明し、そのために、FK506の投与を1日おきに変更した。
【0180】
肝細胞の注射の8週間後に、各動物から5μLの全血をELISA用に採取した。前記血液をすぐに1mLの試料緩衝液中、1:200の希釈となるように希釈した。ラット#29(3×10
6、+FK506群)の試験が、hSAに対して全ての複製試料について陽性であった。結果は、独立したブラインドでの繰り返しにおいても確認された。
【0181】
肝細胞の注射のほぼ9週間後に、全ての動物を屠殺した。心臓穿刺及び全採血を行い、全血及び血清をELISA用に得た。心臓穿刺の前に、動物にまず500μLのケタミンカクテルを投与した。脾臓及び肝臓の一部(第6葉)をゲノムDNAの分離及びヒト遺伝子の検出のために急速冷凍した。次に、残余の肝臓及び脾臓の部分を、10%通常緩衝ホルマリン中で48時間固定化し、その時間に70%エタノールに移し、その後パラフィン包埋した。肝臓切片をFAH抗体により染色し、ヒト肝細胞の同定を行った。ヒト化されたFRG KOマウスの肝臓を対照として用いた。組織を組織学的評価及び染色について分析した。結果を
図7に示す。対照試料の肝臓及び脾臓並びにラット#29由来の肝臓及び脾臓から切片を作成した。ヒト特異的FAH抗体を用いた染色により、画像は、ラット#29由来の肝臓が明確なヒト肝細胞を含むことを示している。これらの切片は、同様の抗体を用いて、確立されたFAHマウスモデル中で観察される生着と類似する。
【0182】
初期のELISAのデータは、移植されたヌードラット中のヒト血清アルブミンの存在を示した。その後のELISA分析から得られたデータ並びに陽性のIHCは、ヒト細胞の集団が、uPA、アナキンラ、及びFK506によって治療されたヌードラット中に生着することができることを示している。このヒトアルブミンの濃度(約1.5μg/mL)は、肝臓中の、ヒト肝細胞である10,000個の肝細胞と相関する。
【0183】
実施例6
Fah欠損ラット
高度に保護されたFah遺伝子における変異を有するラット(Sprague Dawley系)を、内在性のRattus norvegicus Fah遺伝子エキソン3配列(配列番号21、
図8)を標的とするために設計された転写活性化因子様エフェクタヌクレアーゼ(TALEN)を用いて作成した。
図8の配列の下線部は、逆DNA鎖上の、TALENヘテロ二量体に媒介される開裂が起こる小文字の配列によって分離された、2つのTALEN単量体の標的結合配列である。Dahl SS(SS、SS/JrHsdMcwi)及びSprague Dawley(SD、SD/Crl)由来の雄のラット胚の前核を、最終濃度が10ng/μLの、2種の、生体外で転写された、それぞれのTALEN単量体をコードするmRNAの等モル混合物と共に、標準的な方法で微量注入することにより、以前に報告されたような(Geurts, A.M.ら、Generation of gene−speshifwic mutated rats using zinc−finger nucleases. Methods Mol Biol 597、211〜25 (2010))、Surveyor Nuclease Mutation Detectionキット(Transgenomic, Inc)を用いた、Fahゲノムにおける推定上の破壊的変異を有する3種のファウンダの同定に至った。
【0184】
サンガー配列決定法を用いてラットFah標的遺伝子の破壊を確認し、全ての3種の変異動物対立遺伝子を、エキソン3内のコード配列の微小欠失(1〜20対)により証明した(
図8(b))。3種の変異対立遺伝子を同定した(Fah−m1、Fah−m2及びFah−m3)。Fah−m1(6bp欠失)及びFah−m2(20bp欠失)はSSにおいて発生し、一方、Fah−m3(1bp欠失)は、SDラット系遺伝的背景において同定された。2種の変異(Fah−m1及びFah−m2)は、遺伝子転写物中において、それぞれセリン69又はグリシン73の後の天然の読み取り枠をシフトするフレームシフト、及び、それぞれアミノ酸91及び120の後の読み取り枠中への終止コドンの挿
入を介するタンパク質生成物のトランケーションを起こす。Fah−m1変異は、3つのアミノ酸の喪失(メチオニン71−グリシン72−リジン73)及びイソロイシン残基の挿入(
図9、配列番号22〜25)を引き起こす。これらのファウンダから、ヘテロ接合保有体の戻し交配及び相互交配により、3つのコロニ(SS−Fah−m1、SS−Fah−m2及びSS−Fah−m3)が形成される。
【0185】
Il2rg及びRag2遺伝子における変異は、両遺伝的背景において類似の形態で発生した。標的配列及び対立遺伝子を
図10に示す(配列番号26〜27)。全ての変異は、標的遺伝子のフレームシフトトランケーションと予測された。SS遺伝的背景上での両遺伝子のノックアウトは、両方の系において、T−及びC−細胞集団の深刻な免疫不全を引き起こし、SS−Il2rg−m1において、NK細胞集団は縮小する(
図11〜12)。
【0186】
如何なる治療もなしには、ヘテロ接合動物の相互交配において、ヘテロ接合の子孫は観察されないので、ラットにおける3種の全ての対立遺伝子に対するFahの破壊は、胚致死を引き起こす。しかしながら、ヘテロ接合体の飼育の飲料水にNTBCを投与すると(8mg/mL)、対立遺伝子に応じて、メンデル比又は近似メンデル比において、これらの変異の致死的な影響からラットを救うことができ(
図13)、このことは、この薬剤が、変異ラット胚を胚致死から保護することができることを実証している。飲料水中のNTBCの継続投与を行うSS−Fah−m1ヌル動物は健康であり、且つ再現性をもって適正な大きさである。
図13中の表は、ヘテロ接合交配由来の生産児ラットの遺伝子型を示す。各遺伝型を有する子ラットのメンデル比から予想される数を、赤で示す実際に測定した数(観測:observed)と共に示す。妊娠中にNTBCによる治療を行わない場合、ホモ接合変異子ラットは誕生しない。母親の飲料水へのNTBCの添加により、Fah−m1及びFah−m2種畜の両方を有する変異胚の誕生との結果となった。
【0187】
成体SS−Fah−m1動物へのNTBCの投与の停止(但し、それ以外の食餌及び水の摂取は自由とする)は、体重の急激な減少(7〜8日で20%を超える減少)を引き起こす。切片及び三重染色による定着した肝臓組織の検査(
図14)から、著しい肝細胞の空胞化及び膨大が明らかとなった。加えて、壊死肝細胞が多数見られる一方で、NTBC治療を行った同腹子の対照には全く見られない。同様に、NTBC投与停止後に、腎臓に広範な損傷、特に尿細管の嚢状拡張が見られた(
図15)。これらの組織上の所見は、げっ歯動物におけるFah欠損に典型的である。
【0188】
開示した発明の本質が適用され得る多くの可能な実施形態に鑑みて、説明した実施形態は本発明の好ましい例に過ぎず、本発明の範囲を限定するものと理解されるべきではないことが認識されるべきである。むしろ、本発明の範囲は、下記の特許請求の範囲により規定される。従って、本発明者らは、これらの特許請求の範囲の範囲及び趣旨に含まれる全てを、本発明者らの発明として権利請求する。