特許第6573934号(P6573934)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6573934湿式工程による硫化物系固体電解質の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6573934
(24)【登録日】2019年8月23日
(45)【発行日】2019年9月11日
(54)【発明の名称】湿式工程による硫化物系固体電解質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 32/02 20060101AFI20190902BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20190902BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20190902BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20190902BHJP
   C03C 10/02 20060101ALI20190902BHJP
【FI】
   C03B32/02
   H01B13/00 Z
   H01M10/0562
   H01M10/052
   C03C10/02
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-75725(P2017-75725)
(22)【出願日】2017年4月6日
(65)【公開番号】特開2018-80100(P2018-80100A)
(43)【公開日】2018年5月24日
【審査請求日】2018年4月23日
(31)【優先権主張番号】10-2016-0152477
(32)【優先日】2016年11月16日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】591251636
【氏名又は名称】現代自動車株式会社
【氏名又は名称原語表記】HYUNDAI MOTOR COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】特許業務法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】成 柱 詠
(72)【発明者】
【氏名】李 豪 澤
(72)【発明者】
【氏名】林 栽 敏
(72)【発明者】
【氏名】張 容 準
【審査官】 井上 政志
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/010169(WO,A1)
【文献】 特開2015−050042(JP,A)
【文献】 特開2011−054327(JP,A)
【文献】 特開2014−225425(JP,A)
【文献】 特開2015−232965(JP,A)
【文献】 NISHIO Y ET AL,All-solid-state lithium secondary batteries using nanocomposites of NiS electrode/Li2S-P2S5 electrolyte prepared via mechanochemical reaction,Journal of Power Sources,2008年 9月27日,189(2009),629-632
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B23/00−35/26
C03B40/00−40/04
C03B1/00−5/44
C03B8/00−8/04
C03B19/12−20/00
C03C1/00−14/00
H01M10/0562
H01B1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)リチウム硫化物と、第14族又は第15族元素の硫化物と、を含む混合物に溶媒を添加してスラリーを準備する段階と、
(2)前記スラリーをミリングして前記混合物を非晶質化(amorphization)する段階と、
(3)前記溶媒を除去するために前記スラリーを乾燥する段階と、
(4)乾燥された前記混合物を熱処理して結晶化(crystallization)する段階と、を含み、
前記(1)段階で、前記混合物にニッケル硫化物を更に混合し
前記ニッケル硫化物は、Ni、NiS、及びNiSのうち何れか1つ以上であり、
前記混合物は、リチウム硫化物60モル%乃至80モル%と、第14族又は第15族元素の硫化物10モル%乃至32モル%と、ニッケル硫化物4モル%乃至20モル%と、を含み、
前記(3)段階は、前記スラリーを25℃乃至60℃で10分乃至20時間真空状態で1次乾燥し、以下の(a)乃至(c)の条件、
(a)溶媒の沸点(℃)よりも高い温度と、
(b)非晶質化された混合物の結晶化温度(℃)よりも低い温度と、
(c)10分乃至4時間と、
で2次乾燥する段階であり、
前記2次乾燥は130℃乃至190℃の条件で行うことを特徴とする湿式工程による硫化物系固体電解質の製造方法。
【請求項2】
前記リチウム硫化物はLiSであり、
前記第14族又は第15族元素の硫化物はP、P、SiS、GeS、As、又はSbのうち何れか1つ以上であることを特徴とする請求項1に記載の湿式工程による硫化物系固体電解質の製造方法。
【請求項3】
前記混合物は、
リチウム硫化物60モル%乃至90モル%と、
第14族又は第15族元素の硫化物10モル%乃至40モル%と、を含むことを特徴とする請求項1に記載の湿式工程による硫化物系固体電解質の製造方法。
【請求項4】
前記溶媒は、
ペンタン(pentane)、ヘキサン(hexane)、2−エチルヘキサン(2−ehtylhexane)、ヘプタン(heptane)、オクタン(octane)、シクロヘキサン(cyclohexane)、及びメチルシクロヘキサン(methyl cylcohexane)のうち何れか1つ以上の炭化水素系溶媒と、
ベンゼン(benzene)、トルエン(toluene)、キシレン(xylene)、及びエチルベンゼン(ethylbenzene)のうち何れか1つ以上のBTX系溶媒と、
ジエチルエーテル(diethylether)、テトラヒドロフラン(tetrahydrofuran)、及び1、4−ジオキサン(1、4−dioxane)のうち何れか1つ以上のエーテル系溶媒と、
プロピオン酸エチル(ethyl propionate)及びプロピオン酸プロピル(propyl propionate)のうち何れか1つ以上のエステル系溶媒と、
で構成された群から選択された何れか1つ、又はこれらの2つ以上の混合溶媒であることを特徴とする請求項1に記載の湿式工程による硫化物系固体電解質の製造方法。
【請求項5】
前記(1)段階で、前記スラリーの固形分が10重量%乃至15重量%となるように前記混合物に溶媒を添加することを特徴とする請求項1に記載の湿式工程による硫化物系固体電解質の製造方法。
【請求項6】
前記(2)段階の非晶質化は、遊星ミル(planetery mill)を用いて300RPM乃至800RPMで4時間乃至40時間の条件で前記スラリーをミリングして行うことを特徴とする請求項1に記載の湿式工程による硫化物系固体電解質の製造方法。
【請求項7】
前記(3)段階で前記スラリーを乾燥して前記溶媒の残留量が0重量%を越え5重量%以下となるようにすることを特徴とする請求項1に記載の湿式工程による硫化物系固体電解質の製造方法。
【請求項8】
前記(4)段階は、前記混合物を200℃乃至500℃で30分乃至10時間の条件で熱処理して結晶化する段階であることを特徴とする請求項1に記載の湿式工程による硫化物系固体電解質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿式工程により硫化物系固体電解質を製造する方法に係り、より詳しくは、高イオン伝導相の硫化物系固体電解質を大量生産するのに好適な硫化物系固体電解質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二次電池は、自動車、電力貯蔵システムなどの大型機器から、携帯電話、ビデオカメラ、ラップトップなどの小型機器まで広く用いられている。
二次電池の適用分野が広くなるにつれて電池の安全性の向上及び高性能化に関する要求が高まっている。
【0003】
二次電池の1つであるリチウム二次電池は、ニッケル−マンガン電池やニッケル−カドミウム電池に比べてエネルギの密度が高く、単位体積当たり容量が大きいという長所がある。
しかし、従来のリチウム二次電池に用いられた電解質は、有機溶媒などの液体電解質が大部分であった。このため、電解質の漏液及びそれによる火災の危険などの安全性の問題が絶えず提起された。
【0004】
そのため、安全性を高めるために、電解質として液体電解質ではなく固体電解質を用いる全固体電池に対する関心が高まっている。
固体電解質は、不燃性又は難燃性を有するため、液体電解質に比べて安全性が高い。
このような固体電解質は、酸化物系と硫化物系とに分けることができる。硫化物系固体電解質としては、酸化物系固体電解質に比べて高いリチウムイオン伝導度を持ち、広い電圧範囲で安定しているため、硫化物系固体電解質が主に使用される。
【0005】
特許文献1は、硫化リチウム及び五硫化二リンをメカニカルミリング法により所定時間粉砕して硫化物ガラスを得てから熱処理することで硫化物系固体電解質を製造する方法を開示している。このような乾式工程による硫化物系固体電解質の製造方法には、次のような問題点がある。
【0006】
乾式状態でのメカニカルミリングには数時間かかるため、硫化リチウム及び五硫化二リンなどの酸素及び水分に敏感な材料が長時間外部に露出した状態となり、最終物質の硫化物系固体電解質の物性が低下する。
【0007】
また、メカニカルミリングの材料が、用いられる容器などの壁面に容易に固着されるため、この材料に物理的エネルギを等しく加えることができず、硫化物系固体電解質粒子(粉末)間の非晶質化のばらつきが誘発され、熱処理により結晶化した時の硫化物系固体電解質の物性が不均一になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】韓国公開特許第10−2008−69236号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、湿式工程による硫化物系固体電解質の製造方法を提供することをその目的とする。
また、本発明は、硫化物系固体電解質の大量生産に好適な方法を提供することをその目的とする。
【0010】
また、本発明は、高イオン伝導相の硫化物系固体電解質を製造できる方法を提供することをその目的とする。
本発明の目的は上述した目的に制限されることはない。本発明の目的は、以下の説明で更に明確になり、特許請求の範囲に記載された手段及びその組合せにより実現される。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、次のような構成を含むことができる。
本発明による湿式工程による硫化物系固体電解質の製造方法は、(1)リチウム硫化物と、第14族又は第15族元素の硫化物と、を含む混合物に溶媒を添加してスラリーを準備する段階と、(2)前記スラリーをミリングして前記混合物を非晶質化(amorphization)する段階と、(3)前記溶媒を除去するために前記スラリーを乾燥する段階と、(4)乾燥された前記混合物を熱処理して結晶化(crystallization)する段階と、を含むことができる。
【0012】
本発明による湿式工程による硫化物系固体電解質の製造方法において、前記リチウム硫化物はLiSであり、前記第14族又は第15族元素の硫化物はP、P、SiS、GeS、As、又はSbのうち何れか1つ以上であり得る。
本発明による湿式工程による硫化物系固体電解質の製造方法において、前記混合物は、リチウム硫化物60モル%〜90モル%、及び第14族又は第15族元素の硫化物10モル%〜40モル%を含むことであり得る。
【0013】
本発明による湿式工程による硫化物系固体電解質の製造方法は、前記(1)段階で、前記混合物にニッケル硫化物を更に混合することであり得る。
本発明による湿式工程による硫化物系固体電解質の製造方法において、前記ニッケル硫化物は、Ni、NiS、又はNiSのうちの何れか1つ以上であり得る。
本発明による湿式工程による硫化物系固体電解質の製造方法において、前記混合物は、リチウム硫化物60モル%〜80モル%、第14族又は第15族元素の硫化物10モル%〜32モル%、及びニッケル硫化物4モル%〜20モル%を含むことであり得る。
【0014】
本発明による湿式工程による硫化物系固体電解質の製造方法において、前記溶媒は、ペンタン(pentane)、ヘキサン(hexane)、2−エチルヘキサン(2−ehtylhexane)、ヘプタン(heptane)、オクタン(octane)、シクロヘキサン(cyclohexane)、及びメチルシクロヘキサン(methylcylcohexane)のうち何れか1つ以上の炭化水素系溶媒と、ベンゼン(benzene)、トルエン(toluene)、キシレン(xylene)及びエチルベンゼン(ethylbenzene)のうち何れか1つ以上のBTX系溶媒と、ジエチルエーテル(diethylether)、テトラヒドロフラン(tetrahydrofuran)、及び1、4−ジオキサン(1、4−dioxane)のうち何れか1つ以上のエーテル系溶媒と、プロピオン酸エチル(ethyl propionate)及びプロピオン酸プロピル(propyl propionate)のうち何れか1つ以上のエステル系溶媒と、で構成された群から選択された何れか1つ、又は2つ以上の混合溶媒であり得る。
【0015】
本発明による湿式工程による硫化物系固体電解質の製造方法は、前記(1)段階で前記スラリーの固形分が10重量%〜15重量%となるように前記混合物に溶媒を添加することであり得る。
本発明による湿式工程による硫化物系固体電解質の製造方法において、前記(2)段階の非晶質化は、遊星ミル(planetery mill)を用いて300RPM〜800RPM、4時間〜40時間の条件で前記スラリーをミリングして行うことができる。
【0016】
本発明による湿式工程による硫化物系固体電解質の製造方法において、前記(3)段階は、前記スラリーを25℃〜60℃で10分〜20時間真空状態で1次乾燥し、下記の(a)〜(c)の条件で2次乾燥する段階を含むことができる。(a)溶媒の沸点(℃)よりも高い温度(b)非晶質化された混合物の結晶化温度(℃)よりも低い温度(c)10分〜4時間
【0017】
本発明による湿式工程による硫化物系固体電解質の製造方法において、前記2次乾燥は130℃〜190℃の条件で行うことができる。
本発明による湿式工程による硫化物系固体電解質の製造方法は、前記(3)段階で前記スラリーを乾燥して前記溶媒の残留量が0重量%を超え5重量%以下となるようにすることであり得る。
【0018】
本発明による湿式工程による硫化物系固体電解質の製造方法において、前記(4)段階は、前記混合物を200℃〜500℃で30分〜10時間の条件で熱処理して結晶化する段階であり得る。
【発明の効果】
【0019】
本発明の硫化物系固体電解質の製造方法によれば、材料を外部との接触から保護することができ、ミリング段階でこの材料に物理的エネルギを等しく伝達することができる。従って、本発明によれば、優れた再現性をもって物性のばらつきの少ない硫化物系固体電解質を得ることができる。これによって、本発明が硫化物系固体電解質の大量生産に好適な製造方法であることがわかる。
【0020】
また、本発明によれば、従来と同等又はそれ以上のリチウムイオン伝導度を有する硫化物系固体電解質を製造することができる。
本発明の効果は、上述した効果に限定されることはない。本発明の効果は、以下の説明で推論可能な全ての効果を含むものであると理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施例で、非晶質化を終えたスラリーに含まれた混合物に対するX線回折分析(X−ray diffraction spectoscopy、XRD)の結果を示す。
図2】本発明の実施例で、乾燥を終えた混合物の熱処理前と熱処理後の質量の差を測定した結果であって、溶媒の残留量を評価するためのものである。
図3】本発明の比較例1で、乾燥を終えた混合物の熱処理前と熱処理後の質量の差を測定した結果であって、溶媒の残留量を評価するためのものである。
図4】本発明の実施例及び比較例1の硫化物系固体電解質の電気抵抗を測定した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。本発明の実施例は、発明の要旨を変更しない限り、様々な形態に変形されてもよい。しかし、本発明の権利範囲が以下の実施例に限定されることはない。
本発明の要旨をかえって不明確にすると判断される場合は、その公知構成及び機能に関する説明を省略する。本明細書で「含む」という記載は、特別な記載がない限り、他の構成要素を更に含む可能性があることを意味する。
【0023】
本発明による硫化物系固体電解質の製造方法は、(1)リチウム硫化物と、第14族又は第15族元素の硫化物と、を含む混合物に溶媒を添加してスラリーを準備する段階と、(2)スラリーをミリング(milling)して混合物を非晶質化(amorphization)する段階と、(3)溶媒を除去するためにスラリーを乾燥する段階と、(4)乾燥された混合物を熱処理して結晶化(crystallization)する段階と、を含むことができる。以下、本発明について具体的に説明する。
【0024】
リチウム硫化物にはLiSを使用することができる。第14族又は第15族元素の硫化物には、P、P、SiS、GeS、As、及びSbのうち何れか1つ以上を使用できる。好ましくはPを使用できる。Pは、非晶質系の形成に効果的で、リチウムイオン伝導性の高い硫化物系固体電解質が得られるからである。
リチウムの硫化物、及び第14族又は第15族元素の硫化物は、特に制限されることはなく、工業的に入手可能なもの、又は既存の方法で合成したものを使用してもよく、高純度のものを使用することが好ましい場合もある。
【0025】
(1)段階の混合物は、リチウム硫化物60モル%〜90モル%、及び第14族又は第15族元素の硫化物を10モル%〜40モル%を含むことができる。混合物の組成が上記の通りである場合は、硫化物系固体電解質の結晶構造が高イオン伝導性のTHIO−LISICONと類似な結晶相になることがある。
本発明の一実施例によれば、(1)段階でリチウム硫化物、第14族又は第15族元素の硫化物、及びニッケル硫化物を混合してニッケル(Ni)元素を含む硫化物系固体電解質を製造することができる。
【0026】
ニッケル硫化物には、Ni、NiS、又はNiSのうち何れか1つ以上を使用することができる。ニッケル硫化物は、特に制限されることはなく、工業的に入手可能なもの又は既存の方法で合成したものを使用してもよく、高純度のものを使用することが好ましい場合もある。
【0027】
ニッケル(Ni)元素を含む硫化物系固体電解質は、ニッケル(Ni)を含んで形成される結晶構造を持つため、リチウムイオン伝導度が高い。硫化物系固体電解質は、各元素の結合により特定の結晶構造を持つが、リチウムイオンは、結晶構造内の隙間を通じてホッピング(hopping)する方式で移動すると推定される。従って、結晶構造内の隙間を形成する元素のファン・デル・ワールス半径(van der Waals radius)が小さいほどリチウムイオンが移動するのに効果的である。従来の硫化物系固体電解質が含む主な元素のファン・デル・ワールス半径は次の通りである。
【0028】
リン(180pm)、硫黄(180pm)、スズ(217pm)、ケイ素(210pm)、ヒ素(185pm)
反面、ニッケルのファン・デル・ワールス半径は163pmで、上記元素と比較して非常に小さいため、結晶構造にニッケルが含まれていると、リチウムイオンが隙間を通過し易くなる。
【0029】
また、ニッケル(Ni)元素を含む硫化物系固体電解質は、安定性に優れている。これは、酸と塩基の硬さと軟らかさ(Hard and Soft Acids and Bases、HSAB)の原理により説明することができる。硫黄(S)は弱塩基で、リン(P)は強酸であるため、安定して結合することができない。そのため、リン(P)よりも弱い酸性を有する中間酸のニッケル(Ni)が結晶相に含まれた場合は、弱塩基の硫黄(S)との高い反応性が得られるようになり、結合時の安定性も高まる。
【0030】
本発明の一実施例は、リチウム硫化物60モル%〜80モル%、第14族又は第15族元素の硫化物10モル%〜32モル%、及びニッケル硫化物4モル%〜20モル%を含む混合物を出発物質として使用して、ニッケル(Ni)元素を含む硫化物系固体電解質を製造する方法であり得る。混合物の組成が上記の通りである場合は、ニッケル元素が前記硫化物系固体電解質の結晶構造内に含まれて前述した効果を期待することができる。
【0031】
前記溶媒は、ペンタン(pentane)、ヘキサン(hexane)、2−エチルヘキサン(2−ehtylhexane)、ヘプタン(heptane)、オクタン(octane)、シクロヘキサン(cyclohexane)、及びメチルシクロヘキサン(methylcylcohexane)のうち何れか1つ以上の炭化水素系溶媒と、ベンゼン(benzene)、トルエン(toluene)、キシレン(xylene)、及びエチルベンゼン(ethylbenzene)のうち何れか1つ以上のBTX系溶媒と、ジエチルエーテル(diethylether)、テトラヒドロフラン(tetrahydrofuran)、及び1、4−ジオキサン(1、4−dioxane)のうち何れか1つ以上のエーテル系溶媒と、プロピオン酸エチル(ethyl propionate)及びプロピオン酸プロピル(propyl propionate)のうち何れか1つ以上のエステル系溶媒と、で構成された群から選択された何れか1つ、又は2つ以上の混合溶媒であり得る。
【0032】
溶媒の添加量は、溶媒の種類によって異なり、投入した混合物に対して得られる硫化物系固体電解質の収率を考慮して、スラリーの製造時に固形分が5重量%〜15重量%、好ましくは7重量%〜15重量%、更に好ましくは10重量%〜15重量%となるように添加することができる。
【0033】
本明細書で「固形分(solid content)」とは、混合物と溶媒とを混合して得られたスラリーから、溶媒を除いた残り固体相の物質を意味する。固形分は、混合物の重量(g)と、前記溶媒の重量(g)と、によって調節することができる。
(2)段階は、上述した段階で得られたスラリーをミリング(milling)して非晶質化する段階である。より具体的には、非晶質化段階は、遊星ミル(planetery mill)を用いて300RPM〜800RPMで4時間〜40時間の条件で前記スラリーをミリングする段階であり得る。
【0034】
遊星ミルによるミリングは、ジルコニア(ZrO)ボールをスラリーに投入して行うことができる。ジルコニアボールは、大きさが単一のボール、又は異種の大きさのものが混ざったボールを使用することができるが、混合効果及び粉砕効果を極大化するためには、後者のボールを使用することが好ましい。
【0035】
ジルコニアボールは、混合物100重量部に対して100重量部〜10000重量部の割合で投入することが好ましい。ジルコニアボールの投入量が少なすぎると非晶質化に必要とする時間が長くなりすぎ、投入量が多すぎると容器内のミリングする空間が足りなくなって、むしろ非晶質化を邪魔することがある。
(2)段階は、溶媒を含むスラリーに対して行う、湿式状態でミリング(湿式ミリング)する段階である。従って、乾式状態(溶媒を含んでいない状態)でミリング(乾式ミリング)する場合に比較して次のような利点を持つ。
【0036】
湿式ミリングでは、水分や酸素などと反応するリチウム硫化物、リン硫化物などは溶媒内部に存在するため、水分や酸素などと反応することなく安定に存在する。また、非晶質化の終了後にも外部との接触が遮断されるため、保管が容易である。
更に、乾式ミリングでは、容器などの壁面に対する固着現象が発生するが、湿式ミリングでは、固着現象が生じることがないため、混合物に粉砕のための物理的エネルギが均等に加えられる。それによって、硫化物系固体電解質の物性のばらつきが少なくなる。
【0037】
また前記湿式ミリングでは、非晶質化の終了後の熱処理による結晶化時に、一部の溶媒が粒子間に残存するため、乾式ミリングを経た混合物に比較して凝集が少ない。但し、溶媒の残存量が多すぎると、熱処理による結晶化時に結晶構造の形成を邪魔して硫化物系固体電解質のリチウムイオン伝導度が低くなるという問題がある。そのため、本発明では、下記のように、溶媒を除去する乾燥段階を経て上述した湿式ミリングにより前記混合物を非晶質化することを技術的特徴とする。
【0038】
(3)段階は、非晶質化の終了後に残存する溶媒を除去するためにスラリーを乾燥する段階である。
非晶質化する段階で前記混合物の一部の元素が溶媒に溶出するため、溶媒と一緒に混合物を熱処理すると、溶出した一部の元素が不純物として残存するようになって、硫化物系固体電解質のリチウムイオン伝導度が低くなる。
【0039】
(3)段階は、スラリーを25℃〜60℃で10分〜20時間真空状態で1次乾燥し、以下の(a)〜(c)の条件で2次乾燥する段階であり得る。
(a)溶媒の沸点(℃)よりも高い温度
(b)非晶質化された混合物の結晶化温度(℃)よりも低い温度
(c)10分〜20時間
【0040】
1次乾燥は、非晶質化の終了後にスラリーを長時間放置した後、上澄み液を除去する段階である。前記上澄み液を除去するために、濾過装置などを使用する場合は、非晶質化された混合物と濾過装置のフィルタとが接触することがあり、また、ピペットなどを用いて除去する場合には、混合物も一緒に除去されることがあるため、混合物内部の溶媒は除去しにくいという問題がある。従って、1次乾燥は真空乾燥によって実施することが好ましい。
【0041】
2次乾燥は、1次乾燥を終えたスラリーの残存溶媒を除去する段階である。好ましくは、(a)〜(c)に示した条件の低温乾燥によって実施できるが、低温乾燥は、溶媒の沸点よりは高く、非晶質化された混合物の結晶化温度よりは低い温度で10分〜20時間乾燥することであり得る。
【0042】
溶媒の沸点を考慮して、それ以上の温度で加熱することによって固体電解質内部に残存する溶媒を除去する。これは、1次乾燥によって電解質の表面の粉末は乾燥されるが、電解質内部の粉末に残存する溶媒は十分に除去されないからである。2次乾燥は、130℃〜190℃の温度で実施することが好ましいが、温度が低すぎると乾燥時間が長くなり、溶媒の完全除去が難しくなり、190℃を超えると固体電解質が結晶化するという可能性がある。
【0043】
一般的に、LiS−P系の固体電解質は200℃〜270℃内外に、LiS−P−Ni系固体電解質は260℃内外にそれぞれの結晶化温度を持つ。溶媒を十分に除去できない状態で残存溶媒と共に非晶質化された固体電解質を結晶化した場合は、固体電解質の物性が大きく低下して所望のリチウムイオン伝導度を確保できないこともあるため、2次乾燥を上記(a)〜(c)の条件で行うことが好ましい。
【0044】
(3)段階は、1次乾燥及び2次乾燥でスラリーを乾燥して、溶媒の残留量を0重量%を超え5重量%以下とする段階である。溶媒の残留量が5重量%を超えると、溶媒に溶出された一部の元素によって不純物が形成されて硫化物系固体電解質のリチウムイオン伝導度が低下するようになる。
(3)段階は、乾燥工程に変化を与えて高温真空乾燥で行ってもよい。
【0045】
(4)段階は、乾燥を終えた混合物を熱処理して結晶化する段階である。具体的には、結晶化は、前記混合物を200℃〜500℃、30分〜100時間の条件で熱処理する。
(4)段階により硫化物系固体電解質を得ることができる。(4)段階の後に、硫化物系固体電解質の表面に微量残存する溶媒を真空乾燥により除去する段階を更に行うことができる。
【0046】
以下、本発明を具体的な実施例を挙げて詳細に説明する。しかし、これらの実施例は、本発明を例示するためのものであって、本発明の範囲がこれらによって限定されることはない。
【0047】
[実施例]
(1)リチウム硫化物としてLiSを、第14族又は第14族元素の硫化物としてPを、ニッケル硫化物としてNiを、及び溶媒としてキシレン(Xylene)を使用した。LiS:P:Niを、90モル:30モル:10モルの比率で称量して混合物(45g)を準備した。混合物にキシレンを添加してスラリーを製造した。この時、前記スラリーの固形分が10重量%となるようにキシレンを添加した。
(2)スラリーをジルコニアボール2300gと共に遊星型ボールミルの容器(1000cc)に投入した。スラリーを20時間ミリングして非晶質化した。
(3)スラリーを室温で約30分間真空乾燥(1次乾燥)し、続いて160℃で2時間低温乾燥(2次乾燥)して溶媒を除去した。
(4)乾燥された混合物を260℃で2時間熱処理して結晶化することによってニッケル(Ni)元素を含む硫化物系固体電解質を得た。
【0048】
[比較例1]
実施例の(3)段階で2次乾燥することなく、1次乾燥だけを行ったことを除いて、前記実施例と同じ方法でニッケル(Ni)元素を含む硫化物系固体電解質を製造した。
【0049】
[比較例2]
(1)LiS:P:Niを90モル:30モル:10モルの組成で称量して混合物(45g)を準備した。
(2)混合物をジルコニアボール2、300gと共に遊星型ボールミルの容器(1、000cc)に投入した。混合物を20時間ミリングして非晶質化した。
(3)非晶質化された混合物を260℃で2時間熱処理して結晶化することによってニッケル(Ni)元素を含む硫化物系固体電解質を得た。
【0050】
[物性評価]
(実施例の非晶質化評価)
実施例により硫化物系固体電解質を製造するにあたって、スラリーの固形分が10重量%となるように溶媒(キシレン)を添加した時、混合物が湿式ミリングにより非晶質化されるかを評価した。そのために非晶質化を終えたスラリーに含まれた混合物に対するX線回折分析(X−ray diffraction spectoscopy、XRD)を実施した。その結果は図1に示す通りである。
図1に示すように、出発物質のLiS、P、及びNiのピークが全く見えないことを確認することができる。従って、本発明によれば、湿式ミリングで前記混合物を効果的に非晶質化できることが分かった。
【0051】
(実施例及び比較例1の溶媒の残留量及び抵抗評価)
実施例及び比較例1により硫化物系固体電解質を製造するにあたって、乾燥段階を終えた後、溶媒の残留量及びそれによる硫化物系固体電解質の電気抵抗を評価した。溶媒の残留量は、混合物の熱処理前と熱処理後の質量の差で測定した。図2は、実施例の硫化物系固体電解質に対する結果であり、図3は、比較例1の硫化物系固体電解質に対する結果である。
図2に示すように、実施例の硫化物系固体電解質は、熱処理後、約3.3重量%の質量の減少が測定され、1次乾燥及び2次乾燥を経たスラリーの溶媒の残留量が3.3重量%であることが分かった。
【0052】
一方、図3に示すように、比較例1の硫化物系固体電解質では、熱処理後に約8.4重量%の質量の減少が測定され、1次乾燥だけを行った場合はスラリーの溶媒の残留量が約8.4重量%であることが分かる。
実施例及び比較例1の硫化物系固体電解質をそれぞれ圧縮成形して測定用成形体(直径13mm)を作った。成形体に10mVの交流電位を印加した後、1×10〜100Hzの周波数掃引(Frequency Sweep)を実施して電気抵抗を測定した。その結果は図4に示す通りである。
【0053】
図4に示すように、実施例の硫化物系固体電解質は電気抵抗が約76Ωで、比較例1の硫化物系固体電解質の電気抵抗の約120Ωに比べて顕著に低いことが確認できた。実施例では、溶媒の残留量が少ないので不純物が多量に生成することがなく、結晶構造がよく整って形成されたからである。結果的に実施例の硫化物系固体電解質で電池の固体電解質層を形成すると、リチウムイオンの拡散が容易になるため、電池の容量及び寿命特性を向上させることができる。
【0054】
(実施例、比較例1及び比較例2のリチウムイオン伝導度の測定)
実施例、比較例1及び比較例2による硫化物系固体電解質のリチウムイオン伝導度を測定した。各硫化物系固体電解質を圧縮成形して測定用成形体(直径13mm、厚さ0.6mm)を作った。成形体に10mVの交流電位を与えた後、1×106〜100Hzの周波数掃引を実施してインピーダンス値を測定することによってリチウムイオン伝導度を測定した。
【0055】
その結果は下記の表1に示す通りである。
【表1】
【0056】
表1に示すように、本発明による製造方法で得られた硫化物系固体電解質のリチウムイオン伝導度が最も高い測定値を示すことが分かる。
本発明に係る湿式工程による硫化物系固体電解質の製造方法によれば、材料を外部との接触から保護でき、ミリング段階で前記材料に物理的エネルギを等しく伝達することができる。従って、物性のばらつきが少ない硫化物系固体電解質を得ることができるので、大量生産に適した製造方法である。
【0057】
また、本発明に係る湿式工程による硫化物系固体電解質の製造方法は、連続的な1次乾燥及び2次乾燥により溶媒の残留量を低減して前記溶媒に溶出された一部の元素による不純物の生成を防ぐことができるので、それによって、結晶構造の形成が円滑になって、リチウムイオン伝導度が、従来法に比べて顕著に向上した硫化物系固体電解質を製造することができる。
【0058】
以上、本発明の実験例及び実施例について詳細に説明したが、本発明の権利範囲は上述した実験例及び実施例に限定されることはなく、以下の特許請求の範囲で定義する本発明の基本概念を用いた当業者の様々な変形及び改良形態も本発明の権利範囲に属する。

図1
図2
図3
図4